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荒垣参考人 私、
荒垣でございます。
消防審議会の
委員を仰せつかっておるのですけれども、全くのずぶの
しろうとでございまして、
皆さんの御
参考になるようなことを言えるかどうかたいへん疑問に思うのでございますが、
しろうとくさい
意見を四点ばかり申し上げてみたいと想います。
大震災のようなああいう問題の場合には非常に権威のある機関がございますから、そういうことには触れませんが、第一には
人命救助の問題ということなんです。火を消すことももちろん大切なことなんですけれども、最近の
火災というものが非常に
性格が変わってきておりまして、
死者が非常に多い。四十一年度の
火災における
死者が千百五人になって、
交通事故死の一万人の一割に達しておるのですが、その
火災のふえておる理由はいろいろあると思うのですけれども、たとえば
不法建築が多くなっておるとか、
モルタル家屋で何階
建て以上のものがあるとか、屋根裏みたいなところに
従業員を寝泊まりさせて
非常階段もないというようなことの、
建物の
不法建築の
関係もあると思うのですけれども、
家具調度とか衣類とかいうようなものが、
石油製品になったり、化繊というようなものが非常に多くなって、燃えると毒ガスを
発生する、そのために
中毒死を起こしたり、煙による
窒息死を起こす、そういうケースが非常に多くなっておるんじゃないかと思うのです。炎ですと、炎の速度というものはたいしたものじゃありませんので、炎から逃げることはできるのですけれども、煙の走る足というものは非常に早いものですから、その煙のほうにやられてしまうというように、
火災の
性格が最近だいぶ変わってきているところからして、
人命の
死傷、ことに死というもの――焼死、焼け死にということを言いますけれども、実はこれは不正確なことばであって、実際には
窒息死あるいは
中毒死をして、そうしてそのなきがらが
あとから焼けるというような実感のことが多いんじゃないかということを、私は
しろうと考えですが、そういうふうに思っております。したがって、火を消すことももちろん大事ですけれども、
人命救助をまず第一にするということ、そういう方針を全国の
消防関係の方に徹底さしていただきたいと思うのです。しかも、大量なる
死傷を出す
可能性が非常にふえてまいりまして、最近の
都市生活は、
経済発展やその他によって、
デパートであるとか
劇場、アパートその他
高層建築、
地下街といったような不特定多数の
人たちが非常にたくさん集まる
場所がたいへん多くなってまいりました。そういうところで
火災が
発生しますと、大量の死を招く。ついこの間のブラッセルの百貨店の
建物でも、わずか六階
建ての
建物ですけれども、三百十一人が死んで、
負傷者が百人。
日本でも古くは白木屋の
火事、
西部デパート、
東宝劇場の
火事、
京都国際ホテルの
火事というような
経験もあるのですけれども、そういう
大量死を招くような
場所が非常に多くなったということからして、
人命救助のほうも
大量救助の
方法を考えてもらいたいということ。それの
予防法としては、もちろん
建築そのものにあるわけですけれども、どうも
日本のああいう大きな
ビルには
逃げ場所がない。ほとんど廊下や
階段が
煙突そのものになって、かえってそこでばたばた倒れてしまうというような
実情なんで、これはやはりどうしても
建物、
ビルをつくる場合には、
外側に
非常階段をつくらなければならぬのじゃないか。これは
建築基準法のほうでそういったようなことをいろいろきめていただきたい。
外側で
階段をつくったりしますと、ど
ろぼうが入る、
盗難の
心配があるといったようなことの
心配もあると思うのですけれども、これはある程度、二階なら二階まで
外側の
非常階段をつくる。そして、それから
あとはレバーを押せば下まで届くとか、あるいはどうせ一階くらいのことですから、それは
救助網をやって飛びおりても、
近所の人がはしごをかけてもいいわけですから、そういうようなことをやる。それから、
西武デパート等の
火事にかんがみて、隣の
建物との間に、
ビルと
ビルとの
ブリッジをつくったそうでありますけれども、こういったこともどんどん掲げて実行していただきたい。これもやはり
盗難の
心配を
当事者は非常にするだろうと思いますから、そこは
可動式にするとかいうようなことを考える。
それから私、ときどき峡谷に面しておる非常に
風景のいい
温泉地の旅館に泊まることがあるのですが、ほとんどが断崖絶壁に面しておりまして、
逃げようがない。そういうところをやはり
ビルと
ビル、
ホテルと
ホテルとの間に
ブリッジをつくるということで、大量の死を免れるようなそういう
施設が必要であろうかと思います。それから、
地下街の
火災というものが、まだ
日本では
経験がないのですけれども、これが起こったらたいへんなことになるのではないか。ことに先ほど申しましたように、現代の
火災というものが、
炎そのものよりも煙がこわいのだということから見ましても、
地下街の
火災というものは、
排煙の効果のある
機械力なり何なりがあるかどうかはなはだ疑わしいと思っておるのですが、そういう点で、大量の血を見ないうちに十分の
予防措置を講じていただきたいというふうに考えます。
それから第二点は、
飛行場の
防災対策なんでありますが、私、実は
消防審議会の
委員になり
たてのころに、
消防庁で今年度の
重点施策要綱というものの
説明がありまして、それを全部聞いておりましたところが、
空港関係のことが一言半句もないのですね。それで非常にふしぎに思いまして――去年の春は全日空の
飛行機が、これは海に落ちたのですけれども、百三十三人が死んだ。それから
カナダ航空が、これは
飛行場の
滑走路そのもので
事故を起こして、六十四人が死んだ。そういう
大量死を招いた
航空事故があるにもかかわらず、
消防庁の今年度の
重点施策の
要綱の中に全然触れていないということは一体何たることだと思いまして、私は、
しろうとの悲しさで知らぬものですから伺いましたところが、それは
運輸省の
管轄である、
空港消防はすべて
運輸省の
管轄なんである、
消防庁というものは直接の責任もなければ
関係もないのだという
説明があって、実は私、
しろうとでびっくりぎょうてんしたのであります。この
空港の
消防関係については、国連か何かの機構で国際的な
消防力の
基準を示す
協定があるそうでありますが、
羽田の
空港では、
運輸省管轄のもとにおいて、
空港消防というものがございまして、その
消防力は、
化学車三台、
給水車二台、
救急車一台、
破壊消防車一台、それに人員も
事務系統も含めて三十人ぐらいおられるそうであります。一応それは
民間空港の
国際協定の
基準の
最低限度は保っておるそうでして、別にその
協定に違反するものではないのだそうであります。しかしながら、実際には、大
事故が起きると、とてもそんな
消防力じゃ手に負えるものではない。たとえば
消火せんなんですけれども、
消火せんは、
羽田の
空港には
ビルの
消火せんはありますけれども、
滑走路にはないのだそうであります。で、御存じのように、
あわ消火剤、
化学消火剤ですが、これを
滑走路の中へまく。不時着がある、あるいは
胴体着陸をする、
強行着陸をやるというときには
消火剤をまいたりしますが、これをやるためには、非常に大量の水が要るわけなんですね。ところが
化学車には二トンの水しか入っていない。それに
給水車が二台あるということで、その
消火剤を放射するに十分の水がすぐ
そばにない。切れると、
空港ビルまで取って返して水を補給しなければならぬ。
飛行機のことですから、非常に
スピードを要する、しかも大量の
ガソリンを持っておる、旅客もたくさん乗っておる。そういうところで、そういう
化学消防をやるに十分な
給水施設もないということではたいへん心細い。
日本の
国際空港の信用にもかかわることでありますし、そんなことよりも、むしろ
人命救助、助かるべき命も助からぬということで、人道問題でもあるわけです。
スピードを要する
空港の
消火について、あまりにスローモーであり、あまりに弱体であるということを、そのときに初めて私、知ったわけなんです。現に
カナダ航空の
事故の場合は、これはあっちこっちに調べてもらったのですが、
空港の
消防では手に負えないものですから、応援の
電話をかけた。初め、一一〇番にかかったそうです。
あとから一一九番のほうにつなぎ直したそうです。そこであの
近所の
自治体消防がかけつけて、
最初の車が
現場に到達するまでに十七分かかったそうであります。これは普通の
火災でも、
初期消火というものは一分か二分で勝負がきまるというくらいなんですが、
空港で大量の
ガソリンが
爆発して燃える、そういう
現場に到達するのに、
最初の
消防車が十七分もかかったということでは、これはもう
仕事にならぬと思うのです。
あとの祭りであるということだと思うのです。
それで、どうしてそんなにおくれたかと申しますと、これもあっちこっちにちょっと調べてもらったのですが、まず第一に
直通電話がなかったのです。現在はついておるそうであります。それから、その晩は濃霧だった。非常に深い霧があったのです。大体
羽田というところは季節によっては霧だのスモッグが
発生しやすいところであるのですが、その晩は非常に霧が濃くて、なかなか
自動車が
スピードを出して走れないという事情もあったそうでありますし、それから外部から応援する
消防車というものはかってに
空港の中へ入れないわけなんです。これは当然のことでして、離陸、
着陸、たくさんの
飛行機が飛んだり着いたりするのですから、これはやはり
指令塔の
指令にまたなければ、かってに入れない。かってに入ったら、かえってまた別の大
事故を起こすということにもなりますから。したがって、
空港の入り口において
空港当事者の指示を受けて、その案内で誘導されなければ、その
滑走路や何かの
火災現場に入ることができないわけなんです。そういうようないろいろな
関係があって、
最初の車が着いたのが十七分。それから、
あとから続々と行ったのが一体何分かかったか知りませんが、相当かかったようでして、実際には、この
消火活動、
救助活動には間に合わなかったのが
実情であったようであります。
そこで、外国の例をいろいろ聞いてみますと、大体
空港の
消防というものは
自治体消防がやっておるところが非常に多いそうでありまして、ただ、ロンドンは
航空省がやっておる。ローマは
国家消防がやっておる。アメリカもたしか
自治体消防がやっておるそうであります。
現在、
羽田空港と
東京消防庁との間に話し合いが大体進んで、まあ
空港は
運輸省の
管轄でありますけれども、
自治体消防、
東京消防のほうの
出張消防で、
化学車二台と
救助車一台、そういうものをあそこに常置しようという話が進んでおるそうでありまして、たいへんけっこうなことだと思うのですが、
消火せん、水道なんかにしましても、そういう
空港ビルの火を消すだけのための
消火せんということでははなはだ心もとないのであって、やはり
滑走路の
そばに強力なる
消火せんが必要である。できるならば、そこに
地下貯水槽というものをつくることが非常に緊急なんじゃないかということを私、
しろうとなりに考えておるのでございます。
第三点は、
羽田空港から飛び立つ
飛行機が、すぐ
隣接の
川崎石油コンビナートの真上を、毎日大体三百機ぐらい飛んでおるということなんでありますが、もしも万一のことがあった場合には、これはもうたいへんなことになるので、
日本の
産業の根幹に大きな打撃を与えると同時に、
人命の
死傷というものもかなり大
規模なものになるのじゃないかということを考えるのですけれども、実際にはみんなのんきで、なれっこになっておって、案外平気で毎日そういうことを繰り返しておるのが
実情のように思います。いろいろ聞いてみましたところが、国際線は直接には
川崎コンビナートの
上空を飛ばないそうです。国内線、727なんかの
中型機以下の
国内旅客機その他の
飛行機が
川崎コンビナートの
上空を通るのだそうです。何もかも全部ひっくるめて、一年間に十二万機が
羽田を離
着陸するのですが、つまり月一万機の割合、そのうち
川崎石油コンビナートの
上空を通るものが月ざっと九千機、日に三百機、そしてその
飛行機が通る
真下にある
川崎には、
石油タンクが千四百本ございまして、付近の
工業地帯のも入れますと、二千木という
石油タンクが林立しているのです。その
石油の量は三百六十万キロリットルだそうであります。それで、すぐ
川向こうの
空港にごく近いところだけでも
石油タンクがざっと六百本、百六十万キロリットルのものがその
飛行機の
真下に立っておるわけでして、もちろんその
コンビナートの上を通るときにはなるべく早く高度を上げろ、そしてなるべく早くそこを避けてわき道に入れということが
一つの
不文律になっておるそうでございますが、それに違反するものが月に十機ないし十五機あるということを聞いております。しかし、これは多摩川の川幅
一つ隔てたすぐ
隣接地なんでありますから、
飛行機は、離陸してもあるいは
着陸するときでも、十分な
スピードが出ないので、無理に高度をとったり、無理に
方向転換をするとかえって失速して落ちるという
可能性もあるわけでして、一体これはどういうふうにしたらいいのか私も実はよくわからぬのですが、片方は
飛行場のほうが先にできたのだという、
川崎コンビナートのほうではもとからここはあるのだといって、これは水かけ論になると思うのですが、風向きの
関係もございますし、
横田基地の
米軍の
飛行機の発着する
方向との交錯というようなこともありましょうが、何か
埋め立て地をもう少し広げて、
コンビナートの
上空を飛ばなくてもいいような
滑走路、現在の
B滑走路以外のもう
一つの
滑走路をつくることによって、この
飛行機が
川崎コンビナートの
石油地帯に墜落するという、あってはならないような大惨事を
予防する
方法をいまから講じていただきたいというふうに考えます。
ちょっと長くなりまして失礼しましたが、第四点は、
大型タンカーが
日本の
湾内や
内海や狭い
運河の中にどんどん入ってくるということの危険についてなんでございます。これは殷鑑遠からず、英国ではこの間
大型タンカーが座礁して、その海岸がたいへん汚染されたり、大被害を受けたのです。あれは
外海でしたからまだよかったようなもので、
爆撃機で油を焼いたりなんかすることができたのですけれども、
日本で
瀬戸内海であるとか、
東京湾とか伊勢湾とかいった、水島や岩国や徳山や四日市や
川崎なんかの
石油コンビナートのあるような、そういう
内海や内湾に十万トンだの二十万トンだのというような
タンカーがどんどん入ってくるということはたいへん危険じゃないか。しかも
瀬戸内海にしましても、
京浜運河にしましても、非常に
交通が混雑しておりまして、いわば踏切や
横断道路が一ぱいある
平面交差の国鉄が走っていると同じように、そういう船が行き来する中をそういった
タンカーが通るわけですから、自分がどんなに注意してもぶっつけられないとも限らない。そういうことになったらこれはたいへんな
災害を起こして、もちろんこれに火がつくというようなことになりますれば、
工業地帯にも延焼したりして
災害をさらに大きくいたしますし、漁業は全滅する、あるいは
瀬戸内海の
国立公園の美しい
風景というものも失われてしまうというようなことになってはならないのであって、何か
大型タンカーの
安全水路を指定するとかあるいは航行を禁止する水域を設定するとか、あるいは
大型タンカーを
外海にだけとどめて、
コンビナート地帯にはパイプとかなんとか、そういうようなものによって輸送する、直接には
湾内には入れないというような
方法をいまから考えておかないと、いざというときになって悔いを残すことになるのじゃないかというふうに考えます。
いろいろ申し上げましたけれども、大体一年に
火災で五百億円も焼いて、毎日一億五千万円ぐらい灰にしておるわけですが、おまけに一年に千百人以上というものが死んでおるわけなんですが、どうも
日本では一文惜しみの銭失いで、
災害が起こってみないと、大量の血を流してからでないと
対策を講じないというくせがとかくあるように思いますので、どうか
国家のほうも相当な
補助金を出す、また各
自治体もそれに刺激されて、思い切って
自治体の予算を
消防、
予防や救済のほうにさく、官民そろってのそういったムードを、どうか国会の
皆さん方のほうからひとつ出していただきたいというふうに考えるわけでございます。
たいへん
しろうとっぽい
意見で恐縮でございましたが、大体そんな点でございます。どうも失礼いたしました。(拍手)