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平野参考人 ただいま御紹介をいただきました
地方銀行協会の
平野でございます。
本日のお尋ねは、今後のあるべき
金融制度と
金融機関の
あり方についてというのでございますが、問題がたいへん大きく、かつ、むずかしい問題でございまして、はたして御要望に沿ったことが
お話し申し上げられるかどうか、たいへん危惧いたしておるのでありますが、
地方銀行といたしまして率直に
意見を申し述べたいと存じます。
ただいま
全国銀行協会の
田實会長さんから
都市銀行の
立場を中心に御
意見の御開陳がございましたので、私は、主として
地方銀行の
立場から
お話を申し上げたいと存じます。
私
ども地方銀行は、すでに御
承知のとおり、現在六十三行ございまして、
普通銀行としての
一般的な
性格を持ちながらも、
営業地盤が
地方的であるということと、規模的に、
中小の
普通銀行という点におきまして、そこにおのずから
都市銀行とは異なった
性格を持っておるわけであります。今後の
金融制度の問題を考えます場合にもこの点は非常に重要な点でありまして、このような意味合いから、まず、
地方銀行の
現状というか、その
特殊性について御説明申し上げたいと思います。
地方銀行と申しますのは、
明治の初めから半ばにかけまして、
全国各地に多数の
設立を見まして、その後のたび重なる
経済恐慌、あるいは、
戦時経済下の一県一行主義といった過程を通じまして整理統合され、今日の基礎を築いたのであります。また、戦後は
各地に
銀行設立の機運が高まり、十二の
銀行が新しく
設立されまして、現在の六十三行の姿となっているのであります。
このような歴史的な
発展を通じまして、常に一貫してとってまいりました
地方銀行の
経営の特徴と申すべきものは、
地方経済、
地方産業とともに生き、ともに育つということでありました。事実、今日までの
地方銀行は、
地方経済、
地方産業と、いわば
運命共同体として不即不離の
関係にあったのでありまして、この基本的な
関係は、今後も変わることのない
地方銀行の姿であろうと存じます。
今後の
日本経済を考えますと、
中央の
発展と並びまして、
地方の成長がきわめて重要であると存じます。
わが国には、伝統的に、何事によらず
中央偏重の
考え方が強く、
地方的なことは第二義的に考えられてきたことは否定できないのでございますが、これからの
日本経済は、
中央と
地方とが
バランスをとって成長することがきわめて重要であると存じます。
地方銀行は、
地方経済と密接な
関係にありまして、そこに
地方銀行が
都市銀行とは違う
特殊性を持っておる理由があると存じます。
地方銀行の
地域社会との
結びつきは、まず
都道府県の
指定金融機関として
機能を果たしておりますことによくあらわれておると思います。
地方公共団体の
指定金融機関制度は、遠く
明治三十三年に始まりました
県金庫制度に端を発するものでありますが、そのとき以来の深いつながりがございまして、現在、
全国四十六の
都道府県のうち、
地方銀行が四十一の府県におきまして、
県財政資金の保管と収納、あるいは調達の
役割りを果たしており、
地方財政の円滑な運営に御協力を申し上げておる次第であります。
このような
地方公共団体との緊密な
結びつきと同時に、
地方銀行は
地方産業に対しまして、その
需要に応じ、で奉る限りの
低利かつ
長期の
資金を
供給するように日夜
努力しております。
ちょっと
数字で申し上げますと、現在六
大都市所在県を除きます
地方四十県で、
民間金融機関から約十兆円の
融資がなされております。
地方産業向けの
融資は約十兆円だとお考えいただいてけっこうではないかと思いますが、このうち、
地方銀行の
融資額はその半分の五兆円でございます。半分と申しますと、何か少ないようなお感じをお持ちになるかと存じますが、
全国銀行はもとより、
相互銀行、
信用金庫、農協までを含めての話でございますから、五割というのはたいへんなウエートでありまして、
地方銀行の
地方産業との
結びつきの大きさを御認識いただけるかと存じます。
このような
地方銀行と
地方経済との
結びつきは、
一般に
金融制度上の分け方であります大
企業金融と
中小企業金融、あるいは
長期金融と
短期金融といった
考え方のほかに、ことばが熟しませんが、
大都市金融に対する
地方金融とでもいいますものを私
ども地方銀行が担当しているということではないかと存じます。
以上のように、
地方銀行の
地域社会との
結びつきが深いことから、その
経営方針や
営業活動の上に特別な行動とか、いろいろな
制約がありまして、必ずしも
経済の
合理性や
金融の
効率化のみで
経営を考えられない場合が多いのであります。これは私たちの主たる
営業地盤の
構造からくる当然の
要請であり、
制約でありますが、そこに
地方金融を担当する
地方銀行の
存在意義があるものと考えております。
地方の
企業、いわゆる
地場産業と申しますものは、そのほとんどが
中小企業であります。私
どもが
地方銀行で
金融を担当しております場合、好むと好まざるとにかかわらず、それは
中小企業が対象となってまいります。
地方銀行の総
貸し出し先数は現在百四十万件でありますが、その百四十万件のうち、九八%に当たる百三十七万件が
中小企業向けであります。
金額にいたしまして三兆六千億円でありますが、この
融資額は、
都市銀行ばかりでなく、
中小企業金融の
専門機関であります
相互銀行や
信用金庫をも上回っておりまして、
中小企業金融の二四・二%を占めているのであります。なお、
中小企業向けの一
貸し出し先当たり金額は二百六十万円となっておりまして、
地方銀行が
普通銀行でありながら、比較的小口の
融資を担当しておりますことも御理解いただけることと存じます。
地方銀行の
中小企業金融につきまして、もう
一つ申し上げておきたいのは、総
貸し出し中に占める
中小企業向け貸し出しの比率が五四・七%という
数字になっておるということであります。この
数字は、ここ数年来、むしろ幾ぶん
低下するような
傾向を示しております。このことは、
中小企業向け五四・七%以外のほとんどが大
企業向けの
貸し出しであるということではありません。これは統計上、
中小企業の区分からはみ出してしまった
企業に対する
貸し出しが大部分でありまして、いわば、
地方銀行が育て上げた地元の
中堅企業に対する
貸し出しなのであります。最近、
地方銀行の
貸し出し分野では
中堅企業の比重が大きくなりつつあります。
金融制度を論議いたします場合にも、以上のような実情を十分考えあわせますと、単に
中小企業金融は
専門機関にまかせればそれでうまくいくということではないと存じます。
以上申し上げましたように、
地方銀行は、一貫して
地方経済、
地方産業に全力を注いでまいったのでありますが、このところ、
地方経済は急速に変貌いたしております。一口に、
地域経済の
広域化とか、あるいは
広域経済とかいわれるのでありまして、これに件い、
地方銀行の
営業地盤にも大きな
変化が見られるのであります。一県一行といわれるこれまでの伝統的な
営業地盤は、いずれも
行政単位に合わせて考えられたものでありましたが、
行政圏すなわち
経済圏といった過去の姿は次第に
バランスをくずしてまいりまして、
各地に
広域経済圏が見られるのであります。これら
広域経済圏の
開発のための
社会資本の必要は、予想以上に膨大なものでありまして、このような
社会開発資金には、巨額で、しかも安い、
長期の
資金が必要とされるのであります。このような
地方経済の変貌と多額な
地方開発資金の
需要にどう対処していくかは、これからの
地方銀行にとってきわめて重要な課題となると存ずるのであります。
以上、
地方銀行の概況と
特殊性について申し上げたのでありますが、
わが国の
金融制度全般を考えますと、戦後すでに二十年余を経まして再検討の時期にあると存じます。
資本の
自由化など、新しい
時代に即応しまして、十分研究すべき問題だと存じております。現在の
中小金融制度がほぼ形を整えましてからすでに十数年を経ておりまして、この間に、
わが国経済は著しい成長を遂げ、私
どもを含めました
中小金融機関の成長もまた目ざましいものがあったのであります。この結果、
金融制度におきまして、
制度と実態がかけ離れ、当初想定されました
金融機関の姿がだんだんと実態にそぐわなくなったことにつきましては、だれしも異論はなく、その限りにおいては、検討すべき時期に来ていると存ずるのであります。
しかし、
中小企業金融制度と申しましても、それは全体の
金融制度の中の一環であります。すなわち、
普通銀行制度、
長期金融制度、農林
金融制度、
政府金融制度等といったものが、
中小企業金融制度に深いかかわりを持っておるのでありまして、ひとり
中小企業金融制度を取り出して論じますときに、論議の錯綜がどうしても避けられないように感ずるのであります。また、
中小企業金融と申しましても、ウエートの置き方によりましては、その中に零細
企業金融、
中小企業金融、中堅
企業金融といった観点の相違が見られるのでありまして、しかも、それがお互いに関連を持っているのであります。したがって、
中小企業金融制度自体を、現在の検討段階において、根本的に大幅な変更を加えますことは得策とは申しがたいと思うのであります。当面必要とする改善事項にとどめまして、その他の問題につきましては、
金融制度全般の検討とあわせて、その位置づけをすることが適当であると存じます。
地方銀行について見ましても、新しい
時代に即応しまして、検討すべきところは少なくないと存じます。先ほ
ども申し上げましたように、すでに
地方経済は
広域経済となり、
経済圏は県という
行政単位では考えられなくなっております。
こういう点から
銀行間の強力な業務提携あるいは
銀行資力の
集中ということも考えられることでありまして、それぞれの
地方の事情に即しながら、かつ、将来の目標となるべき予想像により考えていくべきではないかと思います。
また一方では、多額の
地方開発資金需要に対処していくために、
資金の新しい調達手段として、あるいは
長期の預金
制度のごとき、あるいは安定した税源の
地方移譲等につきましても十分検討に値する問題があるだろうと存じます。
最近、各方面におきまして
金融の再
編成ということばを耳にするのでありますが、今後の
経済環境を考えますときに重要な問題でありまして、私
ども金融に携わる者といたしましては、謙虚に耳を傾ける必要があろうかと思います。産業の再
編成に即応して
金融界も再
編成すべきであるという大筋には、私も決して反対するものではありません。しかしながら、今日の
金融機関は、それぞれ歴史的な背景と、それぞれの営業基盤の上に
発展してまいったわけでありますから、それに急激な
変化を与えることは、かえって
金融の秩序を混乱におとしいれる
可能性なしとしないのであります。また、当事者の了解なくして、当事者の意思を無視した
銀行の
集中、
合併が、いかに長い間その禍根を残すかは、かつて多くの
地方銀行が体験したところであります。
金融制度の問題は、将来のビジョンと同時に、その緩急を考えて、しかも、当事者の意思を尊重しながら、前向きに検討してまいりたいと存じております。
次に、
金融機関の
あり方について述べたいと思います。
今般の
資本の
自由化に伴いまして、各業界とも再
編成、体質の
強化に真剣に取り組んでおりますが、
金融機関も例外ではございませんで、
経営基盤の
強化が一そうの急務となっております。
申し上げるまでもなく、
銀行経営の理念は、サウンド・バンキングということでありまして、その内容は
時代の
要請とともに変わってはまいりますが、
銀行の
経営が健全でなければならないということ、これは不変のプリンシプルであると確信しております。この不変のプリンシプルであります健全
経営と、
時代の
要請からくる
金融機関としての社会的責任との調和、これが私
ども地方銀行の志向しておりまする
経営の根本的態度であります。このたびの
資本の
自由化を迎えて、
地方銀行といたしましても、従来にも増して体質の
強化、同時にまた、潤沢良質な
資金の
供給をはかってまいらなければならないと考えております。そのためには、
資金コストの引き下げが何よりも重要であり、目下、各
銀行におきまして、
経営の
合理化による
コスト引き下げに
努力を続けております。また、現在、
地方銀行の
全国的組織でありまする
全国地方銀行協会におきまして、
地方銀行六十三行の総力をあげまして、
銀行業務のすべての点にわたりまして
コスト低減の方策いかんを検討中であります。
御
参考までに申し上げますと、
地方銀行の預金
コストは、この五年間に六・四九%から六・二五%まで、すなわち〇・二四%の
低下を見ております。預金
コストの
低下は、申すまでもなく、良質な
資金供給の基礎であります。また、
貸し出し金利のほうも漸次
低下をいたし、四十年一月以降本年五月まで二十九カ月間にわたって日歩一厘四毛六糸
低下して、現在、
地方銀行の平均約定
金利は日歩二銭八毛四糸となっております。
銀行の
コストに関連いたしまして一言つけ加えておきたいと存じますのは、この十年間、いわゆる高度成長
経済下におきまして、
銀行業務の内容や仕組みが大きく変わってまいったことであります。端的に申しますと、
銀行の事務が多様化し、かつ、事務量が急増いたしたのであります。これは、広く
わが国の
経済構造と深いかかわりを持つものでありますが、一口に
銀行の大衆化
時代といわれ、
銀行取引の内容が実に多彩なものになってまいりました。たとえば、これまでは預金者といえば、その取引は預金の受け払いだけで済んだのであります。ところが昨今は、各種の自動振りかえ
制度、各種の消費者ローン
制度の普及によりまして、一人の預金者と何種類ものお取引をいたすわけであります。しかも、一口当たりの預金
金額は御想像以上に小口化しており、
個人預金総額三兆八千億円に対しまして、口数は三千九百万口、ちょうど一口当たり十万円にすぎないのであります。これに伴う事務量の増大はたいへんなものでありまして、今後ますますふえていく
傾向にあるこの種の
コスト増を、他の面での
コスト低減、たとえば、
生産性の向上、事務の
合理化、
経費の節減といったことで吸収してまいらなければ、とても
時代の
要請にこたえていくことはできないのであります。
御
承知のように、
金融機関の
コストの六割は預金者への利息支払いであります。したがいまして、残された
コストの四割をいかにして圧縮していくか、その上でいかに安い
資金を
供給していくか、これが今後の
金融機関に課せられた最も重要な課題であろうと思うのであります。私
どもは、
金融機関の体質
強化に今後も
経営努力を重ねてまいる所存でございますが、
金融機関の体質
強化のもう
一つのポイントである預金
環境の整備ということにつきましては、税制の面、物価の面等を通じまして、預金
環境づくりに特段の御配慮をお願い申し上げたいと存ずる次第であります。
終わりに、以上、日ごろ私が感じておりますことを率直に申し述べましたが、今後
金融機関の責務は一そう重要となり、また、その
経営環境は一そうきびしくなることが予想されております。その場合重要なことは、
金融機関の協調体制ではないかと存じます。
金融機関における自由
競争の場は、その業務の性質からいってもきわめて限られておるように思われます。よく適正な
競争ということばを耳にいたしますけれ
ども、適正な
競争と過当な
競争をどのように区別すべきかはきわめてむずかしい問題であります。
銀行がその内容の堅実さを競うということは、
経営努力として当然なことであります。
金融機関の
競争というものが過当
競争へとつながっていく性質を内存している以上、私は、自由なる
競争とともに、協調が重要なことではないかと思うのであります。
これをもって、私の申し上げることを終わりたいと思います。御清聴ありがとうございました。(拍手)
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