○渡辺(惣)
委員 私は今日まで審議が続けられてきた
石炭鉱業再建整備臨時措置法案の
質疑の終了にあたって、
日本社会党を代表して、本案に対する反対の討論を行なうものであります。
本法案は
石炭鉱業審議会の第三次答申に基づいて、
昭和四十五年度を目途として、その抜本的確立をはかろうとする意図のもとに、いわば
政府としては、
石炭政策に対する最終的ともいうべき方向を打ち出したものであって、この特別国会に
提出されている
石炭特別会計法、
合理化法、離職者法、鉱害法、労働者年金法等々の一連の
関係法律案の骨格をなすものとされておりますので、私
どももまた前後十七回の長時間にわたって、あらゆる
角度から慎重なる
検討を加えてきたのであります。
石炭関係の
法律制定を歴史的に考察してみますと、
昭和三十年八月十日に施行された
石炭鉱業合理化臨時
措置法の制定以来、数次にわたる
合理化のあらしに対処するために、次々と
法律が制定され、鉱山保安法等の
関係法律を合すれば、本国会
提出の
関係法案とともにまさに二十なんなんとしているのであります。一産業に対する
関係法律の多いこと、その管掌の分野と施策が多岐にわたっていること、予算が大量に投入されていることは、私
企業に対する国の産業
政策上からも異例に属することであります。それにもかかわらず、今日まで数多く制定されてきたこれらの
法律のほとんどが、
石炭産業の
合理化と
再建を指向しながら常に現象の
あとを追いかけ回してアフターケアに終始し、前向きの
対策はいつも後手に回り、せっかくの
努力にもかかわらず焼け石に水のように、実効をあげることができぬままに
石炭産業を今日の危機的
段階に追い込んでしまったことを、この際
政府並びに
関係機関に対して深い反省を要求するものであります。
本案については四月二十八日の本
委員会において菅野
通産大臣はその提案理由の説明の中において、「その中でも最も重要かつ画期的な施策といたしまして、
石炭鉱業の過去数年にわたる急激かつ大規模な閉山
合理化過程において発生した過重な負担を軽減するため、約一千億円の借り入れ金を財政資金により肩がわりする
措置を講ずることとしております。この肩がわり
措置は、現在の
石炭鉱業の危機が特に資金経理面の悪化に集約的にあらわれており、過去の資金経理面における過重なる負担を取り除かない限り、
石炭鉱業の
経営基盤の回復は不可能であり、将来の
再建もあり得ないことに着目いたしまして、このような思い切った
措置をとることといたしたのであります。」と述べておられることによっても、
政府としては
本法案によって
石炭産業の
再建のために画期的な思い切った施策を打ち出したと
考え、これに
石炭産業の命運をかけている
姿勢をうかがえるのであります。
この
通産大臣の説明にも明確に示されているとおり、
本法の任務は
石炭資本に対する債務の肩がわりによる整理救済とその
指導監督に終始しているものであって、緊急やむを得ない処置であっても、それは明らかに
石炭企業に対するアフターケアであり、
再建整備法の名に値する前向きの積極
政策の姿は全く失われているのであります。ことにこの一千億に及ぶ財政資金による肩がわりの恩恵は、そのほとんどが大手
炭鉱会社に占められ、全国八十を数える中小
炭鉱の中でこの法の
適用を受け得るものは十五社
程度とされ、北海道では二、三社にすぎないだろうと言われているのであります。すなわちこの
再建整備法は
石炭産業における個別
企業の救済であって、いわゆる産業
政策とははるかに縁遠いものであります。言いかえますならば、
石炭産業の自立
経営の確立の名目のもとに、
炭鉱労働者に不当にして過重なる犠牲をしいながら、
石炭産業の将来を指向するよりも、当面する
石炭資本の金融難の打開を口実にして、実質的には借入金のこげつきによって金融を拘束しようとする、いわゆる金融資本の救済策に利用される危険を持っていることを見のがすことができません。これをもって
石炭産業に対する最終的な抜本的ないわゆる
再建整備と称することは断じて了解することができないのであります。
本
委員会においては、
本法並びに
関係法律案の審議の過程において、
石炭産業再建に関する
長期の
見通し、特に
昭和四十六年度以降における五千万トン
生産体制の
維持とエネルギー総合
計画における
石炭の位置づけ、その
長期展望の
見通しについて、各
委員からきわめて熱心にあらゆる
角度からの
質疑が行なわれましたが、それにもかかわらず、月余にわたる審議を通じて何らの具体的な
見通しについての責任ある答弁が得られなかったことは、おのずから
再建に対する
本法の限界を示すものであり、いわゆる
再建整備の過程と実施後の将来に対してぬぐい切れない多くの不安を残すに至ったことは、はなはだ遺憾とするところであります。
ことに
石炭答申においては、
昭和四十五年度を目途に五千万トン
体制を押しつけながら、一方総合
エネルギー答申においては何らの具体策も示さないままに、
昭和六十年度においても依然として五千万トンの自立
経営出炭規模を掲げておることであります。
国内
原料炭の不足を補うためにばく大なるドルを放出して、オーストラリアその他はるかなる海外からの千二百万トンに及ぶ大量の
原料炭の輸入を継続しておるのであります。そうしてその
対策としての国内粘結炭の増産は遅々として進まず、ようやくわずかに大夕張、有明開発にお茶を濁し、海外からの
原料炭輸入の
長期計画を不動の
体制として
再建整備計画の推進としておることは、われわれにとってどうしても納得しかねる問題であります。
一般炭においてはさらにはなはだしい現状に放置されております。現在の時点において六百万トンの貯炭をかえて苦悩する
石炭産業を目前にしながら、電発、
電力会社の引き取りや貯炭
対策を示さず、その異常貯炭の重圧は、千二百円引きさせている今日、さらにダンピングのおそれなしとしないのであります。しかもその流通
部面において、
石炭銘柄は今日なお二千余に
分類され、その輸送面においては北海道の
石炭が九州へ、九州の
石炭が東京へと、多額なる輸送費をかけて交錯し、市場の争奪戦を展開し、無秩序な
販売合戦が続けられておるのであります。これでは
再建整備計画はざるで水をすくうようなものになるのであります。
政府は
石炭鉱業に一千億円もの大量
投資を行なおうとしながら、何ゆえにこの明白なマイナスを処理しようとしないのか、何ゆえに流通機構整備に対する
抜本策を講じようとしないのか、全く理解に苦しむところであります。
この
政府の
石炭鉱業再建整備が推し進められておる過程において、
政府の熱心な施策にもかかわらず、各所に労務倒産の声が起こっております。一千億円の財政
投資をしながらその半面において労務倒産の声が聞かれるのは、この法案が金融資本の救済に力点が置かれて、
石炭産業のにない手である労働者の現実の生活や欲求を無視しているところにあるからであります。他産業労働者が一三、四%、四、五千円のベースアップが行なわれておる今日の世代に、ひとり
炭鉱労働者だけがわずかに七・四%
程度しかアップしないのであります。ウナギ登りに上がる物価高の渦中に、低賃金と重労働、過度の継続的な残業、相次ぐ災害に生命の危険さえ感ずる
炭鉱に働いて、その最低生活さえ保障されないで、どうして
炭鉱再建のエネルギーを期待することができましょうか。
石炭産業に従事する熱意を失なわせ、当初の予測に反して若年労働者の他産業への大量流出が行なわれ、現実の山は平均年齢四十二歳という中高年齢層のみとなって、その悪盾環が反復して、さらに
生産の低下と労働災害を誘発する結果となっているのであります。
かつて
合理化法制定直後の
昭和三十二年には一十九万八千人を数えた
炭鉱労働者が、現在では九万六千人に激減しているのであります。その反面、
石炭の
生産は当時の五千二百万トンから今日五千三十万トンの
体制にあり、まさに一人当たりの出炭率は一四・六トンから四三・九トンにはね上がっているのであります。この現実を見ても、
炭鉱労働者にいかに過酷な負担と犠牲が加えられているかを知ることができるのであります。
再建整備計画は、過去の
あと始末だけに追い回されてアフターケアだけに足踏みすることなく、積極的に前向きの
姿勢に切りかえて、
炭鉱労働者が安心して
石炭産業の
再建に挺身することができるような、せめても他産業レベルの賃金と、その労働
政策を同時並行的に打ち出すことこそ当面の最も緊急なる課題であります。
石炭産業がこれほどの危機に直面しながらも、いまだに
政府も
炭鉱経営者も目前の利害のみにとらわれて、これを文字どおり抜本的に解決しようとする危機意識に欠如していることは、私
どもの大きな不満とするところであります。
石炭産業が当面しているいま一つの最大の危機は、
鉱区が分散化されて思い切った整理総合がほとんど行なわれていないことであります。
鉱区が分散し、私物化されて統合
調整が行なわれないために、わずか直径十二キロくらいずつしか離れていないところに
各社がばらばらに何十億円もかけて
立て坑を随所に建設し、目前に豊富な鉱脈をながめながら手が出せずに、モグラのようにあちこちを迂回して採掘しているような
日本の
石炭鉱業の現状をそのままにしておいて、
再建整備計画を立てようとすることは、経済合理性の上からも木によって魚を求めるにひとしいものだと言わなければなりません。
この矛盾を取り除くためには、資本の不要にして不当なる競合を排除する以外にはありません。そのためには
鉱区の全面的
調整を強力に推し進める以外にはないのであります。
日本の国土の上に設定されている
石炭鉱区の中で、わずかに一八%だけが開発されて、残余の八二%の膨大な
鉱区はいたずらに
鉱区権の名のもとに地下に眠っているのであります。国の責任において
鉱区調整を行ない、未開発
鉱区の積極的開発を行なうことこそ国家
資源開発の上からも緊急の課題であると言わなければなりません。ことに、私
企業とはいいながら、この危機
段階にあって国家のばく大な財産資金を受けながら
再建能力を失いつつある
炭鉱企業が、いたずらに競合して共食い争いを続けている時代ではないのであります。また許すべきではないのであります。
過日の参考人の陳述の際においてさえ、
経営者代表みずから発言して、国有民営論が堂々と主張されているのであります。私
どもは
石炭鉱業の終局的な
再建方策は、イデオロギーの問題ではなくて、最も現実的な
政策としても国有、国営以外にはないと
考えるのでありますが、そこまで一挙に実施に踏み切れないとしても、この際
石炭企業の統合を促進して、北海道、九州、常磐等に各一社ずつの数社に統合することや、全国一社案さえ今日まじめな話題になってきているのであります。この際、
政府関係機関の勇断を切に希望するものであります。
たまたま
本法案、審議の最終
段階においてはしなくも中東戦争が勃発いたしました。国連安保
理事会の必死の
努力によって戦争の即時停止の決議が行なわれ、三次にわたって即時停止の
勧告が繰り返されてきました。この中東戦争の勃発にあたって、アラブ連合、イラン、イラク、ヨルダン、クウェートなどの石油多産
関係十一カ国は、すでにイスラエルを支持する米英諸国に加担する国家に対しては石油の輸出を禁止する、場合によっては輸送パイプラインを破壊するという強硬態度を示しております。けさの毎日新聞の報道によれば、ペルシヤ湾で
日本のタンカー二隻が立ち往生していると伝えられております。エネルギー
資源として重油の輸入を海外に九七・八%も依存している
日本経済にとって、万一のことを
考えますと、その国民経済への脅威ははかりしれざるものがあるのであります。エネルギー
資源に乏しい
日本においてこそ、その安全保障のためにもエネルギー
政策を強力なる国策として不動の
体制を確立することの急務を迫られていること、今日ほど切実なものはないのであります。特に
政府並びに
関係機関に対してさらに一段の熱意と勇断を
要望する次第であります。
本法案の討論を終わるにあたりまして、
本法案を策定し、きわめて誠意と善意をもって、あらゆる障害の中にありながら、
石炭政策をここまでよく推進してこられた
政府並びに
関係機関の方々に対しては深く敬意を表します。
それにもかかわらずあえて
日本社会党が
本法案に反対せざるを得ないのは、
本法案の持っている今日的な私
企業的
再建の限界を乗り越えて、国有化
政策を推進する以外に抜本的
対策の確立はでき得ないと判断しているからであります。
これをもって私の討論を終わります。(拍手)