○
小口参考人 総評、
繊維労連の
委員長の
小口でございます。
私
どもは、この
法案について以下申し述べますような若干批判的な条件をつけて、その条件がいれられることを前提として賛成したいと思います。
第一に、この
法案の何条何項ということについての批判を除きまして、私
どもは、この
法案が出てくる過程およびこの
法案全体を遂行しようという経済政策について
一つの批判を持っております。それは、
設備等の臨時
措置法ができたのが三十九年ですが、一年もたたない四十年の十二月にはまた通産大臣が
構造改善に関する諮問をした。もちろんその間においては、勧告操短等によって綿
スフ紡績が乗り切れない
情勢にきた。それから合成
繊維と天然
繊維との関係で、市場の競合がかなり激しくなってきた。全体の需給関係から
合繊紡に切りかえざるを得ないという
状態が綿紡、
スフ紡の中に生まれてきた。それから開発途上国からの追い上げの速度が予想よりかかなり早い。こういうようなことも理由の
一つにあることはありますけれ
ども、この
法案全体が
国会に出てくる過程での
一つの政治的な推進力は、
国際競争力の強化というものを名とするいまの独占の寡占化、そういうことにあるのではないか。そうしてこの
国際競争力の強化というのは、そのまま
生産力の強化、したがって一
生産もしくは
経営単位の適正
規模という考え方につながる。そのことによって現在の独占もさらに寡占化する。そのことによって従来のような勧告操短というような形式を排して、できるだけ市場安定をする、同時にコストも下げる、こういうことになっておるわけでございます。したがって、政策の中で適正
規模というものが非常に強く押し出されておるわけです。そうして、その結果生まれる過剰
生産力については、
中小企業の
スクラップによってこれを切り抜ける、こういう形が非常に強いわけです。それで私
どもは、先ほど
綿スフ織物協会の
方々が非常に
業界に困難がある、こういうことを言っておりましたけれ
ども、実際に
機屋さんあるいは日本の中小の加工業が
経営が困難なのは、実は大手独占対
系列生産という関係における加工賃の買いたたき、製品の不等価交換、こういうものが実際には
中小企業の正常な
経営努力だけでは拡大
生産の
経営条件が整えられないという本質的な条件を持っておるからです。
こういう
状況の中にあって、今回は
構造改善政策としてこの
法案が出てまいりました。私たちは、先ほど
紡績協会の
谷口さんあるいは化繊
協会の
宮崎さんがお話しになりましたような
内外の経済
情勢については、ひとしく同じ考え方を持っております。そういう
意味で、日本の
繊維産業が何らかの
構造改善をせざるを得ないであろうという
状況については一致した判断を持っておるわけですが、その場合に私たちは、独占の寡占化による市場の安定とコストの低下、こういう
生産力の強化説をとらないのです。私たちはむしろ、今後の
繊維産業の
構造改善については、付加価値
生産性の向上と製品
輸出に重点を置く必要があるのじゃないか。そのためには、むしろ原糸部門の寡占化ではなくて、加工業、撚糸、織布、染色仕上げ、メリヤス、縫製、こういうところの資本装備を高めて、むしろ多品種少量
生産の原理ということこそこれは貫かれなければならないのではないか。
構造改善の問題を、私たちはそのような政策原理というものをとるべきではないか、こう思うのです。
それから過剰過剰と言いますけれ
ども、必ずしもこれは国民の一人当たりの衣料が非常に過剰になっておるのではありません。現在でも国民の一人当たりの衣料は十キロ
程度のものでありまして、欧米から比べればかなり少ないのです。過剰というのは、むしろ労働者の
賃金が安いために、そのときの
生産量に対して消費購買力がないから過剰になる。あるいはまた天然
繊維の商品に対して合成
繊維の
生産率が高まって、一定の市場の内部に対して天然糸のほうへ合成
繊維が食い合いをしてくる、こういう相互の関係から過剰が出てくるのであって、そういう目で私たちは過剰の問題をとらえておるのです。
それから、今回初めて
繊維工業政策の中で織
布業が取り入れられました。これは画期的なことです。私たちはこれをたいへん歓迎いたします。といいますのは、いままでは
繊維工業何とか振興法とか
繊維工業設備法という考えで、多くこれは
紡績業のことだけでした。
機屋以下のことはあまり問題にさえされませんでした。そういう
意味で、ある面で今回特定という名が入って
紡績、織
布業の部分が入ったということについては、私たちはこれを多としますし、むしろ先ほど申しましたように、染色工業、メリヤス業、撚糸業、縫製業等についても、
格段の
配慮がされることが必要ではないかというふうに考えるわけです。しかし、歓迎しておりますところのこの織
布業の対策につきましても、実は次のような危倶を感じております。ここの場合でもやはり適正
規模という考え方がかなり露骨に出ております。これは一方では
スクラップ・アンド・ビルドという考え方が出ておりますけれ
ども、確かに
織機は老朽化していることも事実です。しかし結果的にこれが実は中堅
企業の育成に終わるのではないかという危惧を持ちます。たとえば石川県の織
布業の
生産構造を例にとってみますと、
工場が二千四百あるのですが、このうち法人が三百四十四です。専業が千七百二十五、兼業が六百七十五
工場でありますが、この六百七十五
工場のうちの六百三が農業の兼業になっております。そして
織機は五万六千八百十七でありますが、一
工場当たりの
規模は二十四であります。ここでいうところの百台以上というのは、会社の数にして七十五社しかありません。三・二%です。その
設備が二八・三%、五十台以上をとっても二百二社しかありません。しかも十台以下というところでいきますと、千百四十六社もあって、全体の会社の数の四七・八%、
織機の一五・六%を占めております。そして労働者三万七百十七人のうち五十台以下の
機屋さんに働いておるのが実は四七・四もおるわけです。しかも三万七百十七人のうち家内労働者は四千六十一人、三十六歳以上の女子が七千百五十八人、何と四分の一が三十六以上の労働者で占められておるわけです。しかも賃織りは、
生産の中の九〇・四%、こういう
状態。これが福井の場合についても、多少産地産地の
生産の違いはありますけれ
ども、大同小異でございます。こういうことになりますと、私たちは、特に
機屋さんのほうになりますと、実際三十台以上の
機屋の問題というものはたいへんな問題をかかえておるのではないか。まかり間違えれば、むしろこういうところの人たち自身を追い上げ、農業基
本法が貧農を農村から都会に追い出したと同様に、このような問題が発生するのじゃないかということを心配いたします。それからまた愛知あるいは福井等に行ってみますと、実はこれらの五十台、三十台の層はこういう問題が起きてくる。実際には、金は協同組合まではきても、私たちのところにはおりてこないのではないかということを
意見として言っておりました。
それからまた、私たち労働組合にとって心配いたしますのは、これらの層は
近代化のための
織機に対する
設備投資をしないで、自分たちの
織機を歩機として家内工業に貸して、そこで
生産を維持する、こういう部分に階層分解を起こす条件も実は持っておるわけです。そういうふうになりますと、百台以上の
規模に合わせる自動
織機化率を綿
スフについては九〇%以上、絹人絹については四十何%以上というふうに筋書きは書いてありますけれ
ども、これはなかなか問題がある、こう思っておるところです。
それから
賃金が上がったというふうにいろいろ各
経営者の
方々からお話がありましたけれ
ども、実際には、たとえばアメリカと日本とを比べましても、
綿糸のコストから見ましても、必ずしも日本はひけをとらないのですが、
賃金の点から考えますと、アメリカの
繊維労働者はいま一時間二ドルでございます。七百二十円。ところが日本の労働者は一時間百円です。二十セントくらいなんです。最低
賃金にしましても、アメリカは一時間一ドル四十セント、五百四円でございますが、日本はいまだに私たちが主張しておる一万五千円、一時間七十五円、十二セント
程度の最低
賃金がしかれていない、こういう
状態でありまして、
賃金が高いことが必ずしも
経営の困難ではない、こういうような事情がございます。
それで、今後私たちは
ほんとうに織
布業の
構造改善が
中小企業のモデルになってほしいということでは
機屋さんの
寺田さんの御
意見と全く同じ気持ちでございます。しかし、進める過程において、実際には、大臣が認可する過程で、たとえば適正
規模による条件だとか、融資の問題とか、担保とかというようなことをいろいろやかましく言われて、千二百八十八億円の予算が、ねらいとしては全部に融資することになったけれ
ども、実際には金がそれだけ使われるのかどうかということも心配しております。そういう点では従来の
中小企業というものはいろいろ政策を立てておりますけれ
ども、途中にとにかくみんな穴があいてしまって、末端まで
中小企業の政策が浸透しないという
欠陥を持っておりました。その点では先ほど
宮崎さんから御
意見がありましたように、今回の
法律については、かなり
長期に、そして担保についてもかなり有利な条件で手厚い保護を
紡績についても織布についても確かに立てております。そういう
意味では、実際に
中小企業の労働者が
ほんとうに一般
産業並みの労働者の
賃金がもらえるような
企業として
近代化することに役立つことを心から実は願っておるわけです。
それから、そういう問題に関連して、特に大手
企業の
立場で実は私
ども危惧いたしますのは、こういう織
布業がある面でグループ化をしよう、協業組合をつくろう、こういう地域の連帯を示して団結しようというのと、大手が大手の
系列生産を深めるということとは、政策的には私は矛盾すると思うのです。従来でも産地自身が崩壊していったのは、大手のほうが賃機
系列化することによって産地自身をゴボウ抜きにしていったからです。今回の政策も、従来の
立場から見て、
地域経済を全体としてセットとして開発するというのがねらいになっていますけれ
ども、よほど運営の妙を得ないと、実際には三十台以下のところは家内工業に逃げる、中堅のところだけ金を借りる、こういう形になる危険性というものを多分に持っているのではないという危惧をいたします。
それから
機屋につきましても、まだ実際には自動
織機自身について、これがよいという
織機が固まっていません。
紡績のほうは東洋紡その他
企業の研究においてかなりのものができておるようでございますけれ
ども、自動
織機自身についていいというものが固まっていません。実際には
中小企業になりますと、かなりいろいろなものに使えるという機がほしいのですけれ
ども、これがありません。したがって、これからムードでどんどん金を借りろ金を借りろといって金は借りた、据えつけて二、三年たったらまた本格的な
織機ができてきた、こういうことにならないように、この辺についても
繊維機械
メーカー等の御
努力や行政の
努力で、実は十分な御
配慮を
お願いしたいと思うわけです。たとえば福井県だけ例にとりましても、これは御承知のように県でもって特別の補助をすることになっています。福井県だけでことし一年
構造改革の予算が二十三億五千五百五十七万円かかるわけです。このうち一割といいますと二億三千五百五十五万円、これは県民七十五万だそうですから、一人当たりにしますと三百円というものが、
機屋さんの
近代化のために自分たちの税金から取られる。おぎゃあと生まれた子供から七十歳以上の高齢者も含めて三百円。したがいまして、このことが長い目で見て
ほんとうに地域の経済になるということにつきましては、織物協同組合の皆さんにお骨折りいただくと同時に、こういう国民の税金というものをむだにしないように
お願いしたいと思うわけです。
それからなお幾つかありますけれ
ども、それからのことにつきましては、時間の制約もありますので、質問の中でお答えしたいと思いますが、最後に自分たちの条件だけ申し上げてみたいと思います。
それは、私たちは第一に三
交代制
操業に反対したいと思います。その理由は、非常に
設備が変わってきたりすると、減価償却のためにも三
交代制はあたりまえだというふうなムードがすでにありますけれ
ども、何せ
紡績にいたしましても金利六分五厘七年返済、織
布業については三分五厘で十三年返済というたいへんな
長期低利の融資をされているわけです。そういう
意味で現在は男子だけによって深夜作業が試験的に行なわれていますけれ
ども、こういうことでは将来コストの問題を含めて、やがて婦人労働者の深夜業も出てくるだろう、そういう点で
長期低利の金を貸しているのに、償却との関係で三
交代による、これは反対したいと思います。
それから二番目は、
中小企業のことについて全繊同盟の方からも御
意見がありましたけれ
ども、私たちは適正
規模のことに関連して、一
企業三万錘未満の会社に対しては、ランクを分けて基礎控除についてかなり
配慮してほしいということでございます。それから性能の高まる自動連続装置というものが設置される
企業に対しては、
生産力も高まるので、一対一による
スクラップになっていますけれ
ども、別の面で
設備の代替率を考えていただきたいということです。
それから過剰
生産によって
スクラップしょうという一方の政策がありますので、三番目としましては、週休二日、週四十時間労働制を計画的に導入するように、これは
業界も私たちももちろん
努力していますけれ
ども、政府におきましても、また
国会におきましても、このことを
お願いしたい。特に私はこのことを強調しますのは、日本ではすでに
紡績に関する限りその製造能力については国際的に強い競争力を持っている。たとえば一錘当たりの八時間当たり
生産量とか一人当たりの労働
生産につきましても、かなり高いあれを持っています。ところが一週間の労働時間についてはたいへんに長いのです。アメリカが四十時間、英、仏、西独等EECの諸国は四十四時間制が常態です。ソビエトはことしの十月から四十時間制に切りかえます。ところが日本は、
生産力の水準が高いにもかかわらず、労働時間については御承知のように全
産業中最も長いのです。一日七時間四十五分、週大体四十六時間半、残業を含めまして勤労統計を見ますと、ほぼ二百時間という
操業をしておるのであります。このことは
長期に見まして
設備の
廃棄に伴う相対的余剰人員の問題もありますので、私たちは特に関心を持っております。
それから四番目は、
産業別または業種別の最低
賃金制のすみやかな実施と、家内労働法の制定を
希望いたします。この点は先ほど
機屋さんのところで申し上げましたが、特に今後加工業についての
近代化が進めば進むほど、家内工業に逃げることによって、実は
近代化投資を避ける
企業と、一方
近代化投資をしたけれ
ども近代化投資によって資本の償却費、
生産能率の増強を相対的に考えたら、なおかつ低
賃金を利用したほうが得だ、俗に
近代化貧乏と言いますが、そういうことにならないためには、どうしてもこれらの措置が私は必要だと思うのです。
それからまた次に、今回の
構造改善実施計画はいろいろな
意味で労働組合の雇用あるいは労働条件に重要な関係がありますので、特に通産大臣の認可条件の中で、労働関係の問題について労働組合の承認及び関係労働組合とその上部団体の組合の承認を得る、こういうことを認可条件の必要事項と考慮していただきたいと思います。
それから次に適正
規模のことですが、適正
規模及びグルーピングの政策の推進にあたっては、政府はあくまで
企業の自主性を尊重して、過度な
調整にわたらぬようにしてほしい。このことは私は先ほど
構造改善の政策原理として付加価値
生産性の向上と製品
輸出ということを述べましたけれ
ども、こういう点から考えまして、とりわけ私
どもは、むしろ商品の需要別のグループ化ということが必要であって、一
生産単位、
経営単位だけの適正
規模という考え方については必ずしも支持をしません。そのような
意味からもっと弾力性を持って考えていただきたいということです。
それから、このことに関連して、従来の
近代化投資に対して市中銀行、地方銀行が、融資にあたって担保とか連帯責任、返済期限についてたいへんに金融ベースの取り扱いを固執いたします。したがってそのために
国会においていろいろな討議をいたしました結果、ある経済政策に関する
法律ができましても、金融団体においてそれらの
産業政策が金融ベースによってゆがめられてきたという例が、
中小企業にはたいへん多いのです。そういう
意味において私は、この体制金融の措置が、金融政策と
産業政策とが背離しないしは分裂をして、所期の効果をあげることができなかったということがないように、
格段の御
配慮を
お願いしたい。またそのことに関連して、
国会は
法律が通過した後におきましても、その実施過程を
国会に報告させるというような
努力を
お願いして、実際に所期の目的が達せられるような効果があったかどうかということを、引き続いてお世話を
お願いしたいと思います。
最後に、
構造改善の対象業種を、現在この
法律になっております特定の綿
スフ、合繊、人絹、繊織物に限定しておりますけれ
ども、引き続いてすみやかに染色整理業、メリヤス業、撚糸業、縫製業、及び毛糸
紡績業、毛織物業についても同様な措置を講じていただきたい。そしてその措置によって二次加工業の付加価値
生産性と当該業種の資本装備率を飛躍的に高めるように
お願いしたい。またこのことに関連して、私たちは製造原価を下げることについては熱心でありますけれ
ども、小売り価格は実際には製造原価の倍以上を示しております。流通がコストの問題について非常に多くの問題を持っています。そういう
意味で、製造原価の引き下げについて労働者もある面で
努力はいたしますけれ
ども、全体から見ましてむしろ、政府の流通機構の
近代化による消費者へのサービスということのほうが、通産行政から見ましてもより緊急な問題ではないか、こう感じておりますので、それらのことにつきまして、引き続いて、必要な施策と立法上の措置を
お願いしたいと思います。
以上です。