○
川崎(寛)
議員 私は、提案者を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
最低賃金法案につきまして、
提案理由並びに
内容について御
説明申し上げます。
申すまでもなく
最低賃金制は、制度ができた初めのころは、欧米資本主義社会の中でも極度に窮乏化した一部の極貧層の
労働者救済のための社会政策として、資本家の側からは、
産業平和や社会緊張緩和のための手段として採用されてきたのであります。
しかるに、第二次大戦後においては、
最低賃金制は
労働者の
最低生活保障のための統一要求として掲げられるようになったのであります。
本来、
最低賃金制の目的は、
労働者の
最低生活水準を保障することであります。現在
労働者の
最低生活費はほぼ
全国同水準となっております。また学卒
労働者の初任給水準も
労働市場の需給状況を反映して格差は縮小しつつあります。
また
最低賃金水準については
産業別、規模別の格差も縮小しつつあり、このような現状のもとでは原則的には
全国全
産業一律の
最低賃金が設定されなければなりません。
今日わが国の経済情勢を見ますとき、工業生産においては、造船は世界第一位、自動車と化学繊維は第二位、鉄鋼とセメントは第三位であり、その経済成長率は実に世界第一位であり、鉱工業生産では世界第四位の
地位を占めるに至っています。
しかるに国民一人当たりの所得は、国連統計によれば、驚くべし、何と世界第二十一位で中南米のベネズエラ以下というみじめな
状態であります。すなわち、今日なお月二万円以下の低
賃金労働者が膨大に存在し、このほか低い工賃のまま放置されている家内
労働者は二百万世帯にも及んでいるのであります。
こうした著しい生産と所得の不均衡を是正し、健康で文化的な
労働者の
生活を維持するに足る
賃金を法的に保障することこそ
最低賃金制を必要とするゆえんであります。
すでに現行法実施以来八年になりますが、
適用労働者数は昨年六月現在で
中小企業労働者一千三百万人のうち、四百六十万人にすぎず、しかもそのうち第九条の
業者間協定方式による千九百九十七件の実に八八・一%は日額五百円以下なのであります。月額に換算すると一万三千円以下という
賃金なのであります。しかもこの膨大な低
賃金労働者の存在が、他の
労働者の
賃金にも
決定的な悪影響を与え、今日のわが国
労働者の
生活を常に不安におとしいれているのみならず、法的
最低賃金は、さらに米価の生産費に含まれる
労働力の費用の基礎ともなり、農民の所得水準をも規制しているのであります。さらに
生活保護基準、
失業保険の最低額、失対
賃金、国民年金とも関連、低い国民
生活水準のおもしとなっているのであります。まさに、鉱工業生産世界第四位を誇り、経済成長率第一位を呼号するわが国の見せかけの繁栄を物語っていると申せましょう。現行最賃法が、資本にとっていかに有効な役割を果たし、
労働者並びに国民各層にとっては、その
生活を圧迫する役割しか果たしていないのであります。
政府もようやくその非を認め、今回
改正に至ったわけでありますが、しかしこの
業者間協定の汚名はわが国
労働法規上悪法の最たるものとして永久に消えることはないでありましょう。
われわれが、現行法制定の際に鋭く指摘したように、現行制度によって、日本のあるべき
最低賃金構造は少くとも数年の立ちおくれを招いたと断ぜざるを得ません。
政府の責任はきわめて重大であります。
今日、
雇用情勢は逼迫の度を加え、人手不足の傾向は深まり、今後の企業の深刻な問題は
労働力不足にあるとさえいわれています。いまや低
賃金によって国際競争に立ち向かう時代は過ぎ去りました。東南アジアでは繊維、造花等に見られるごく低
賃金労働力に押しまくられているではありませんか。
したがって、今後の
わが国経済は、先進国の名にふさわしい高度の技術によってその発展を期すべきであり、それは
労働者の
最低生活水準を保障することによってのみ可能であります。
いまこそ真の
最低賃金制を
確立することは国家の急務であります。下請の上に大企業がそびえ立っている経済の二重構造を解消する方向はこれをおいてありません。
以下
法案の
内容について御
説明申し上げます。
まず第一に、
最低賃金の
適用方式は
全国一律制にいたしたのであります。このことは特にわが国のように、
産業別、業種別、地域別の
賃金格差がはなはだしく、低
賃金労働者が多数存在する
状態のもとでは、それぞれの
最低賃金を定めることは
最低賃金制度の効果を半減せしめるからであります。
なお、
全国一律の
最低賃金制の上に、労使の団体協約に基づいた
産業別あるいは地域別に拘束力を持つ
最低賃金の拡張
適用の制度も積み上げることにいたしました。
第二は、
最低賃金の
決定については、
労働者の生計費(原則的には標準家族の必要生計費)と
一般賃金水準等を考慮してきめることといたしました。
第三に、
最低賃金の
決定及び
改正は行政
委員会の性格を持つ
最低賃金委員会に権限を持たせることとし、同
委員会は労使同数の
委員とその三分の一の公益
委員をもって構成することといたしました。
第四に、
最低賃金委員会は六カ月に一回必要生計費及び
一般賃金水準に関する調査を行ない、その結果を公表し、必要生計費が三%以上増減したときには
最低賃金の
改正を
決定することといたしました。
以上、この
法律案の
提案理由及びその
概要につきまして御
説明申し上げました。
今日までのにせ
最低賃金法に対する汚名をそそぐために何とぞ慎重に御
審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願いして提案
説明を終わります。
次に、
家内労働法案の
提案理由を
説明いたします。
私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
家内労働法案につきまして、
提案理由並びにその
概要を御
説明申し上げます。
さて、御承知のように、今日の日本経済のめざましい発展は、一方ではあらゆる分野に格差やひずみを生じ、特に家内
労働の性格にも大きな変化があらわれ、物価高に対する収入を
確保するため、
一般労働者の主婦が家内
労働に従事する傾向が強まってまいりました。また経営者にとりましても、電気器具、プラスチック製品、メリヤス、紙器などの分野では若年低
賃金労働力の不足に対処するため、家庭主婦の家内
労働への活用が増大しておるのであります。
政府の調査によりましても、現在家内
労働者は約八十四万人にものぼり、そのうち九〇%以上が女子で占められ、地域的には六大都市に集中し、
産業別には繊維工業並びに雑貨工業がその八〇%を占めているといわれております。しかし、これら家内
労働者の工賃は、驚くなかれ一時間当たり三十円程度といわれ、しかも
労働条件もきわめて劣悪で、作業環境が不備なため安全衛生上の問題が頻発していることは御存知のとおりであります。
政府も、こうした現状を放置しておくことができず、さきに臨時家内
労働調査会を設置し、今後の対策として最低工賃と標準工賃制度、
労働時間の適正化、安全衛生、
労働保険の
適用などについて、その
必要性を強調しているのであります。しかも今日の家内
労働の増大は、学卒
労働力の不足からくる
賃金上昇のために、
中小企業が家内
労働に依存する結果あらわれた現象でありまして、また家内
労働が増大すればするほど、
雇用労働者の
労働条件の向上を阻害する要因となっていくことは明らかであります。わが国低
賃金の温床的役割りを果たしている、これら家内
労働者を苦汗
労働から解放し、あわせて家内
労働に依存せざるをえない諸
産業の
近代化を促進する上からも、いまや抜本的な立法
措置を講ずることは国家の急務であると考えるのであります。これがこの
法律案を
提出する
理由であります。
以下、この
法律案の
概要について御
説明申上げます。
まず第一に、本
法案の
適用範囲は、同居の親族以外の者を使用しないで家内
労働に従事する者に限ることとし、事業主がこれら家内
労働者に物品の製造等を委託する業を営む場合は、行政当局に届け出なければならないことといたしました。
第二に、家内
労働者には家内
労働者手帳を交付し、
労働条件などを委託に際して明記させ、もって委託者の不正を規制することといたしました。
第三に、家内
労働者の最低工賃は、社会党
提出の
最低賃金法案による
一般労働者の
最低賃金額に見合う額で、
都道府県労働基準局長が、地方家内
労働審議会の議を経て
決定することといたしております。
第四に、家内
労働者の
労働時間、危険有害業務の委託等について若干の規制を加えるとともに、
労働基準法の
規定を大幅に準用することといたしまして、
一般労働者と同様にその
労働条件の
改善をはかることといたしました。
第五に、家内
労働者が団結して
労働条件等につき、委託者またはその団体と
労働協約の締結等の交渉をするため、家内
労働者組合を組織することができることとし、これに
労働組合法の
規定を準用するとともに、家内
労働関係の当事者間において争議行為が発生した場合における、あっせん、調停について
規定いたしました。
以上が、本
法律案の
提案理由とその主たる
内容であります。何とぞ
慎重審議の上、すみやかに御賛同あらんことをお願い申上げます。