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1967-07-14 第55回国会 衆議院 産業公害対策特別委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十二年七月十四日(金曜日)     午前十時二十四分開議  出席委員    委員長 八木 一男君    理事 天野 公義君 理事 奧野 誠亮君    理事 小山 省二君 理事 丹羽 兵助君    理事 和爾俊二郎君 理事 板川 正吾君    理事 島本 虎三君 理事 折小野良一君       塩川正十郎君    地崎宇三郎君       葉梨 信行君    藤波 孝生君       三原 朝雄君    加藤 万吉君       河上 民雄君    工藤 良平君       中井徳次郎君    吉田 之久君       岡本 富夫君  出席政府委員         厚生政務次官  田川 誠一君  出席公述人         経済団体連合会         専務理事    古藤利久三君         京都商工会議所         専務理事    島津 邦夫君         四日市市議会議         長       日比 義平君         全国漁業協同組         合連合会常務  池尻 文二君         大阪助役   大島  靖君         東京大学法学部         教授      加藤 一郎君  委員外出席者         議     員 角屋堅次郎君     ————————————— 本日の公聴会意見を聞いた案件  公害対策基本法案内閣提出第一二八号)  公害対策基本法案角屋堅次郎君外六名提出、  衆法第一一号)  公害の顕著な地域等における公害防止特別措置  法案角屋堅次郎君外七名提出衆法第一二  号)  公害対策基本法案折小野良一君外一名提出、  衆法第一六号)  公害対策基本法案岡本富夫君外一名提出、衆  法第二四号)      ————◇—————
  2. 八木一男

    八木委員長 これより会議を開きます。  内閣提出公害対策基本法案角屋堅次郎君外六名提出公害対策基本法案角屋堅次郎君外七名提出公害の顕著な地域等における公害防止特別措置法案折小野良一君外一名提出公害対策基本法案及び岡本富夫君外一名提出公害対策基本法案、以下五案について公聴会に入ります。  本日御出席を願いました公述人は、経済団体連合会専務理事古藤利久三君、京都商工会議所専務理事島津邦夫君、四日市市議会議長日比義平君、全国漁業協同組合連合会常務池尻文二君、大阪助役大島靖君、東京大学法学部教授加藤一郎君、以上六名の方でございます。  この際、御出席公述人各位にごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙中のところ御出席をいただきましてまことにありがとうございます。御承知のとおり、本委員会において審査中の公害対策基本法関係五案は、公害対策基本方針を定めんとする画期的な法律でありまして、当委員会といたしましても慎重審議を続けておるわけでありまするが、この機会公害問題について学識経験豊かな公述人各位より公害対策基本法案五案について御意見を承り、もって法案審査の参考に供したいと存じまするので、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べ願います。  なお、公述人各位には順次お一人約十五分程度お述べいただき、あとで委員質疑にお答えをいただきたいと存じます。なお、念のため申し上げますが、衆議院規則の定めるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、公述人委員に対しまして質疑をすることができないことになっておりまするので、この点あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。  なお、委員各位に申し上げますが、公述人各位に対し御質疑のある方はあらかじめ委員長にお申し出くださるようお願いいたします。  それでは、まず古藤公述人よりお願いをいたします。古藤公述人
  3. 古藤利久三

    古藤公述人 それでは、御指名がございましたので、私、経済団体連合会専務理事古藤でございますが、ただいま委員長がおっしゃいました公害対策基本法案五件の問題につきまして、私ども考え方意見を申し述べたいと存じます。  この問題につきましては、実は経団連といたしましても非常に深い関心を持っておりまして、ずっと研究をしてまいりましたのですが、内閣提出のこの基本法案につきましては、特に要綱段階から、いろいろな点について十分に検討さしていただきまして、ただいまここに御提出になっております法案内容につきましては、私ども立場といたしましては全面的に賛成でございます。いろいろな問題点が過去にございましたことは事実でございますが、私ども立場からいたしまして特に重要だと思いました問題は、公害基本法の問題につきましては特に公害政策の総合的な推進をはかる、そのための共通的な基準を定めるというふうなことが重要な問題でございます。そういう立場からいたしまして経済発展国民生活の確保、安定というふうなことの調和でございます。その健全な国民生活経済発展調和をはかるというふうな点に非常に重要なポイントがあるのだ、基本法というのはこういう点をよく定めていただいて、総合的に公害対策が進められるということを非常に重要なことと思いまして、法案要綱段階から私どもはこの点を非常に主張してまいったわけでございます。  それから、今日の産業界は、企業はそれぞれ社会的な責任を負っておりますので、事業者がこの公害の問題についてある程度責任を負うということは当然でございまして、私ども立場といたしましては、技術的にはっきりしておるものにつきまして、そうして経済的にわれわれが負担し得る現実可能性のある問題につきましては、できるだけ自分の責務を果たすというつもりで、この事業者責務ということにつきましても、この法案要綱段階からいろいろな御意見がございましたけれども、ただいまの法案にあらわれております表現というのは大体において妥当なところにきておると思うのでございます。  さらに事業者費用負担の問題がございますが、これにつきましては公共事業などにつきまして全部または一部というふうな表現がまだ残っておりまして、この全部というのが、全部企業負担すべきものであるかどうかにつきましては若干の意見がございますけれども、しかしながら、産業全体の立場からいたしまして、この問題は別の法律で詳しくきめられることになっておりますので、ただいまのこの法案規定のしかたで私どもは満足でございます。  所管の問題につきましても、いろいろ問題がございましたが、これまた紆余曲折がございましたけれども、結局ただいまの内閣提出法案で定められておるような形で、実際にうまく運営していただければけっこうだ、こういうことでございます。したがいまして、この内閣提出の原案がそのまま成立いたしますことを私どもとしては希望いたす次第でございます。  なお、との公害防止の問題につきましては、特に科学技術振興の面によほどの力を入れませんと、公害の原因につきましても非常にはっきりしないものがまだございます。これをはっきりさしていただくことは公害防止の適正な対策を打ち出す上に非常に重要なことじゃないかと思っておりますので、この法案が成立いたしまして、こうした公害防止のための科学技術振興政策に一段と力を入れていただくことを特に希望申し上げたいと思います。  最初に申し上げましたように、結論だけ申し上げましたが、長い検討のいきさつで私どもが問題といたしました点は、おおむね適正にこの法案の中に盛り込まれておりまして、政府提出公害対策基本法案は、その内容につきまして私どもは全面的に賛成でございます。  以上でございます。
  4. 八木一男

    八木委員長 次に島津公述人にお願いいたします。
  5. 島津邦夫

    島津公述人 京都商工会議所専務理事島津でございます。  議案となっておりまする五法案につきましての一般的な意見と、それからさらに京都実情、ことに中小企業立場に立ちましたところの意見を申し述べさしていただきたいと存じます。  まず一般的な問題といたしましては三点ございます。第一点は法律目的といいますか、法律案を通ずる考え方の問題でございます。第二は費用負担の問題でございます。第三は事業者に対する助成の問題でございます。  政府案におきまして、第一条法律目的でございますが、「公害対策総合的推進を図り、もって国民の健康を保護するとともに、経済の健全な発展との調和を図りつつ、生活環境を保全することを目的とする。」とございますが、この規定のしかたはこれでけっこうかと存ずるのでございます。国民の健康を保護するということは何ごとにもかえがたい大切なものでございますが、生活環境の保全ということにつきましては、場所により幾多の事情事情がありまして、その事情に応ずる要請があるわけでございます。このことと経済発展とを対立させて、画一的に、一方が上位であり一方が下位であるというようなことは一がいに申せないのではないかと思うのでございます。経済発展はむしろ積極的には国民の福祉の向上のための物的な基礎を与えているというふうに申せるのでございまして、この両者、つまり環境改善政策というものと経済政策という二つ、両方ともりっぱな政策でございますが、これを現実にどのようなふうに調和させていくか、両者のバランスをどういうふうにとるかが現実行政なり政治の要諦であると考えるのでございまして、この規定はここにこういうふうな形で明記することの十分な意味があると考えるのでございます。  第二点の費用負担の点でございますが、「公害防止するために国又は地方公共団体が実施する事業について、当該事業に要する費用の全部又は一部を負担するものとする。」、どのような事業があるか具体的に詳細には私存じませんけれども、一般的に、企業といたしましてはすでに国または地方公共団体に対しまして相当の租税負担等をしておるのでございます。さらにまた規制に関する法律によりましてそれぞれみずから公害防除施設整備する、これまたしていかなければならないというために少なからない支出があるわけでございます。その上に国または地方公共団体の行なう事業に対する負担ということになりますと、これは相当慎重に取り扱っていただきたいというふうに思うのでございます。そうしてどうしても負担をさせる場合におきましては、負担の範囲とか負担の方法というようなものをはっきり法律で定めていただきたいというように思っておったのでございますが、そのような規定が明記されておるわけでございます。ことにこの事業の中で、従来公害対策ということだけでなく、本来から実施しておる事業、たとえば下水道建設事業といったようなものにつきましては、その建設費、これは使用料金は別でございまして、当然使用者負担する。その使用料の高いかどうかという点は別に問題はございますけれども、しかし建設につきましては、これは国及び地方公共団体でやっていただきたいと思うのでございます。政府案のこれに関する規定を見ますると、第十一条におきまして、公害防止のために必要な事業と、それから下水道等公害防止に資する事業というように書き分けてございまして、費用負担に関する第二十一条につきましては前者だけに限るように、私正確なことはわかりませんが、そう読めるのでありますが、ほんとうにそうかどうか、そのようなたてまえであることを望むものでございます。要するに、わが国におきましていわゆる社会資本投資の立ちおくれということがいわれておるのでございますが、もっと国や地方団体がこれに力を入れていただきたいというように思うわけでございます。  それから第三点の事業者への助成でありますが、政府案では第二十三条に、「国又は地方公共団体は、事業者が行なう公害防止のための施設整備について、必要な金融上及び税制上の措置その他の措置を講ずるように努めなければならない。」こういうふうにございます。私どもといたしましては、また特に中小企業立場から申しますると、この規定はいささかもの足りないものを感ずるのでございます。この防除施設整備といいましても、もちろんこれは当然やらなければならないわけでございますが、容易なことではないのでございます。中小企業者が今日、なるほど景況も回復しておると申しますが、確かに売り上げなどはふえておる、ふえていないわけではございません。しかし、一方におきまして人件費あるいは材料費の非常な値上がりがございまして、経営は一向よくなっていないというのが現状ではなかろうかと思うのでございます。それに加えまして、今後起こってまいりまする資本自由化の影響だとか、あるいはまた南北問題からいたしまする後進国特恵関税の問題、あるいはまた後進国産業の追い上げの問題、そういった今後さらに経営を困難にするような条件が重なってきておるのでございます。現在無利子の融資の制度が共同施設についてはございます。しかし、私どもはむしろもう一歩これを進めまして、助成金交付というところまで考えていただきたいというように思うのでございます。たとえば、これはほんの私見でございますけれども公害防止組合というようなものをつくって、そうして組合がその補助を受けまして共同施設をつくるとか、あるいはまた共同施設ができにくいものにつきましては、組合が個々の組合員を指導しながら補助を受けたお金をもって組合員に支給いたしまして施設をつくらせる、そういったようなもう少し積極的な考え方をとっていただきたいというように思うのでございます。  その点につきまして、社会党さん、民主社会党さんあるいは公明党さんの御案を見ますると、助成金交付ということが明記されておるのでございます。また公明党さんの御案の場合におきましては、特に「中小企業者に対する特別の配慮がなされていなければならない」といったような行き届いた規定が付加されておるのでございます。私どもはこのような法律規定を強く望むものでございます。  そのほかの助成措置内容といたしましては、公害防除施設に対する特別償却、これは現在はごく一部の、たとえば脱硫装置といったようなものしかないそうでございますが、その特別償却の拡大あるいは不動産取得税免除措置といったような税制上の特別措置を一そう拡充していただきたい、かように存ずるわけでございます。  以上、一般論につきまして意見を申し述べたのでございますが、これは私ども京都会議所だけの意見ではございませんで、全国四百五十の会議所——その中には中小企業を主体といたしますところの会議所がたいへん多いのでございますが、このようなところの共通の意見といたしまして日本商工会議所が取りまとめた意見でもあることを申し添えたいと存じます。  次に、京都固有の問題につきまして申し述べたいと存じます。  御承知のように京都は千年にわたりました都として、あるいはまた国際観光文化都市として、そのよさを守るということに力を尽くしておるのでございますが、また一面におきまして、生きた近代都市発展ということをやはり望むのでございまして、従来からの織物でありますとか、友禅でございますとか、あるいは陶磁器でありますとかその他の伝統産業、あるいはまた近代産業——と申しましても、いわゆる臨海性重化学工業ではございませんが、精密機械その他の機械工業、こういうことに力を入れておるのでございます。  京都市の中の公害問題、これは市の衛生局を中心調査もなされておりまして、もちろんそう緊急に差し迫った問題というのはないわけでございますが、しかし、決して将来を楽観することなく調査を進めていっておるのでございます。ところが、ただ排水の問題があるわけでございます。工場排水関係のある業種といたしましては、染色業とか食品業あるいは化学工業というのがあるわけでございますが、その中で一番関係の深い業種といたしましては染色加工というのがあるのでございまして、いわゆる友禅というものを中心にやっておるのでございますが、この染色も、機械染色手捺染染色というのがあるわけでございまして、私ども工業生産の中で、大体半分近くは紡織工業でございますが、その紡織工業の中の一五%くらいはこの染色加工による生産額であるのでございます。機械染色の場合におきましても工場数は多いのでございますが、特に手捺染染色というようなことになりますと、組合員だけでも七百軒以上あるというようなことで、それがいずれも中小企業あるいは零細企業というような形態をしておるのでございます。昭和三十八年に淀川水質規制が行なわれまして、その当時、府、市、会議所それぞれこの規制のやり方を実情に即するようにというようなことで、中央方面といろいろと交渉をいたしまして、現在の規制があるわけでございますが、最近におきまして、いわゆる都市河川方式という方式によりまして、さらにきびしい規制淀川につきまして、さらにまたいままで規制のなかったところの宇治川につきまして受けようとしておるのでございます。そして従来規制されておりますのは、一日の使用量二百五十トン以上のものであったのでございますが、今度はそれ以下のものも規制をするというようなことになり、その規制押え方につきまして、BODの値などもはるかにきついものになっておりまして、増設するような場合におきましては二〇PPMというようなことで、これは技術的にはほとんど不可能に近いような値になっておるようなわけでございます。したがいまして、私ども商工会議所におきましても、この宇治用規制の問題が起こりましてから委員会を設けておりまするが、慎重に何回も審議をいたしまして、いろいろと中央方面に運動をしてきておるのでございます。  先ほど申しましたように、業態が中小企業及び零細企業でございまして、非常に資金的な余裕に乏しいばかりでなく、資金的な余裕がかりにありましても場所的な余裕がない。こういったような工業におきましては非常に水を使うわけでございまして、ちょっとしたところでも百トン、二百トン、少し大きくなりますと三百トン、五百トン、あるいは千トン、二千トン、あるいはそれ以上使うわけでございますが、この設備をする場合におきまして、たとえば一日二百トンの工場でございますと、その工場排水をろ過をいたしましたり、あるいはまたその中で沈でんをいたしましてスラッジをとる、ところがそれは非常にどろどろのものでございますので、やはり数日間にわたりまして天日で乾燥させまして固形の形にいたしませんと、運搬をして捨てるということもできない。そういうような関係で非常に敷地を必要とするのでございまして、たとえば二百トンの水量でございますと五百坪くらいの敷地はどうしてもかかるというようなわけでございます。ところが、現在の状況からいたしますと、そういうような敷地余裕がない。また近接しているところを確保しようといたしましても、もう住宅やアパートが隣接してきておるというような状況になっておるのでございます。ただいま府や市の協力を得まして、こういった点で十分に調査して、その上に立った、ほんとうに守れるためにはどうしたらいいかというようなことで調査を行なっておるようなわけでございます。  私どもは、その規制はもちろんやむを得ないと思いますけれども、一方におきまして下水道整備ということが行なわれておるのでございますが、これがなかなか計画どおりに進んでいかないというような実情があるわけでございます。京都市の水道計画におきまして、昭和三十六年から四十五年度までの間におきまして、下水道の布設をいたしまして、それによる排水をする面積が七千五十五ヘクタールというようなことで、市街地の八五%をやるというようなことになっておるのでございますが、四十一年度末の実績が二千九百九十ヘクタールというようなことで、現在のところまだ半分にもいっていないのでございます。やはりこれは財源の関係であろうかと思うのでございますが、京都市におきましても、乏しい財政の力を、できるだけ一般会計からも繰り入れてやっておるのでございますが、国庫補助の点につきまして、従来京都市の場合はほかの六大都市よりも高い補助率を受けておったのでございます。ほかの都市が四分の一という場合に三分の一というようなことになっておったのでございます。これはやはり京都下水道整備ということが、あれだけの大きな都会が上流にあるということで、下流の上水道との関係で緊要とされたと思うのでございますが、その率が今回は引き上げられて四〇%になったわけでございますが、他の都市と同率になっておるのでございます。しかもまた、この補助を受けます対象事業全体ではなくて、大体七〇%くらいの補助対象に対する四〇%でございますので、結局二八%程度になるというようなことで、私どもはこの国庫補助というものをもう少し引き上げて、そうして下水道整備をいたします場合に、こういう上流下水道整備ということを優先的に考えていただくという広域的な配慮をぜひお願いいたしたいというふうに思っておるのでございます。あるいはまた大阪上水道に関する関係があるわけでございますが、やはり大阪水道取水口というようなものも、現在大阪府からとっておるのでございますが、それをもっと上流部に持ってきてほしいというようなことがあるわけでございます。  このように一方私ども守るべき伝統産業があり、そういう中小企業をやはり維持発展させていかなければならないということがございますと同時に、また規制の問題がある。また一方におきましては、そういう下水道を一そう推歩していっていただきたい、あるいは上水道事業を円滑にする。いろいろな政策があるわけでございますが、それをやはり総合的に検討して、そして現在私どもはそう思うのでございますが、企業のみに、特に零細企業のみに一挙に強い規制を課するというのじゃなくて、もっと調和のとれた行政をやっていただきたいというようなことを希望しておるわけでございます。  以上をもちまして私の公述を終わらしていただきたいと存じます。(拍手)
  6. 八木一男

    八木委員長 次に、日比公述人にお願いいたします。
  7. 日比義平

    日比公述人 私は、四日市市民を代表いたしまして、ここに陳述の機会を与えていただきましたことを深く感謝をいたすものであります。  御高承のとおり、わが四日市市は、先発の石油化学工業都市といたしまして、時代の脚光を浴び飛躍的な発展を遂げておりますけれども、反面、公害の町四日市という結果を招来しておるのでございます。  去る昭和三十五年塩浜地区に立地いたしました第一石油コンビナート並びに昭和三十八年午起地区に立地いたしましたところの第二石油コンビナート、この二つ中心といたしまするその当時予想だもしなかった大気の汚染、水質の汚濁、さらに悪臭というこの三つの産業公害に直面したのでございまして、四日市市民は非常に苦悩にあえいでおるというのが現況でございます。  私どもは、公害のあらわれました当初から重大な人道問題として、市当局とともに強力な発生源対策被害者救済対策につきまして、国あるいは県、また企業に対しまして陳情陳情を重ね、あるいは話し合いを進めてまいったのでございます。しかるに関係官庁があまりにも多岐にわたっており、また、官庁間の連絡等にも手間どり、かてて加えて公害に対する確固たる法規に乏しく、わずかに御当局によって部分的かつ応急的な対策が立てられまして今日に及んでおるのでございます。このたびようやく公害対策基本となるべき法案が上程されましたことは、四日市といたしましては待つこと久しいの一語に尽きるのでございまして、その成り行きいかんは、市民の非常に関心を寄せておるところでございます。こうしていろいろ論議されておる間にも公害に苦しむ住民のあることを御理解いただきまして、一日も早く本法案並びに関係法規が成立して、公害防止し、健康にして豊かな市民生活企業の繁栄とが共存し得るような御配慮を賜わりたいのでございます。以下、四日市実情を申し添えながら主要六項目にわたりまして申し述べさしていただきたいと存じます。  その第一点、法案目的について申し上げます。第一条の「国民の健康を保護する」ということは絶対的であり、何ものにも優先すべきものと考えるわけでございます。坊厚生大臣におかせられましても、本委員会においてしばしばそのような御答弁をなさっておることから見ても明らかだと考えるわけでございます。しからば「経済の健全な発展との調和を図りつつ」という字句は必要ではなかろう、かように考えるものでございます。もちろん、経済の健全な発展を度外視するというわけではございませんけれども、誤解されやすい字句の挿入のために本法案の第一目的たる健康の保護がせっかくの御努力にもかかわりませず薄められた感じを与えたり、あるいはこれに引き続いてすみやかに制定せらるべき諸法規に対して微妙な影響がありはせぬか、かように考えるからでございます。  その第二点、公害の定義について申し上げます。第二条に悪臭による被害が取り上げられましたことは、当市の公害苦情の六〇%強、約五百件強が悪臭に基因するものでございまして、これが強力な対策は緊急性を持っておりますものだけに、市民の期待は大きいのでございます。悪臭の発生源は、各装置からの漏洩ガスと廃水関係からかと考えますけれども、この科学的な解明及び防止につきまして、四日市といたしましては真剣に取り組んでおるのでございますけれども、微力な一地方自治体の手にはなかなか負えぬのでございまして、悪臭防止技術の開発等について国の積極的な対策をお願い申し上げる次第でございます。  その第三点、事業者責務について申し上げます。当市の公害は、前述した悪臭のほかに亜硫酸ガス等による大気の汚染と廃水等による水質の汚濁があり、特に亜硫酸ガスによる大気汚染が市民の健康を知らず知らずのうちにむしばみつつあるのでございます。亜硫酸ガスによる大気の汚染こそにくむべき市民の敵ではなかろうか、かように考えておるわけでございます。実に四日市公害の第一は亜硫酸ガスによる大気の汚染と、かように考えておる次第でございます。  したがいまして、前述の事情にかんがみまして、政府並びに企業に対し長年にわたって発生源対策に対して必死の陳情を続けてまいりました結果、政府の御指導と企業の自覚とにより防止対策がとられるようになりまして、漸次効果があがりつつありますけれども、いまだほんの序の口にすぎないのでございます。本年はチタンプラントより排出される白煙と硫酸ミストを回収する集塵装置が完成、また、既設の煙突を集合する高煙突の設置、排ガス燃焼プラント等の改良工事に十二億円、水質汚濁については五億円、騒音防止については三千五百万円で施工中であり、さらに五十億円で重油の直接脱硫計画も考えられておりますので、相当の効果を期待しているのでございます。  第二十三条にも明記してございますけれども企業責任はあくまできびしく追及すると同時に、企業防止対策を講じやすいような積極的な助成、たとえば融資金利の大幅な引き下げまたは税制上の優遇措置の強化等を並行せしめて公害防止の強力な推進をはかられたい、かように考えるわけでございます。  第四点、公害にかかる被害の救済について申し上げます。四日市におきましては、昭和三十九年二月、大気汚染のはなはだしかった地区住民でぜんそく発作の著しい十二名を緊急に入院せしめ、続いて四十年五月以来、市内汚染地区に三年以上居住する者のうち大気汚染によると考えられる健康障害者と認定した者に対しまして、医療費の自己負担分を市が公費で肩がわりする措置がとられてまいっておるのでございます。かかる経費を一地方自治体のみが負担すべきものかどうか疑問に考えまして、これが助成について再三国、県に対して陳情を重ねてまいっておるのでございます。昭和四十二年六月末現在の認定患者は三百八十一名であり、市の負担経費は、昭和四十年度が四百十万円、昭和四十一年度七百八十四万円であり、昭和四十二年度は実に一千万円が予算に計上されておる実情でございます。幸い本年度からは厚生省の御配慮によりまして国の助成百万円、県百万円、企業四百万円の協力をいただくことになったようでございますが、さらに地方自治体の負担軽減のための国の助成と、企業負担に対する強力な国の御指導が得られますように御検討をお願いしたいのでございます。  次に、四日市市において現在問題となりつつありますのは、公害認定患者が療養のための休業による生活費をどうするかということでございます。本委員会における政府委員の御答弁の中にも、「ただいま処置いたしておりますような医療費の一部を負担することが決して十分であるとは思いません。」云々、また別の機会に、「政府といたしましては、今後こういうような救済制度というものをもっと具体的に真剣に取り組んでいかなければならぬと考えておる。」云々とありますけれども、特にこの点につきましても新しい問題として御検討をわずらわしたいのでございます。  第五点、公害対策会議公害対策審議会等の規定について申し上げます。公害対策を総合的に、また強力に推進せしめるために、対策会議並びに審議会を設置されることに相なったと考えますが、各関係省庁の公害に対する御認識と行政責任区分の明確化の上に立らまして、文字どおり有効適切しかも敏速な処置がなされますよう御努力願いたいのでございます。さらに近い将来、強力な公害行政の一元化の実現を期待いたしたいのでございます。  第六点、公害と災害について申し上げます。四日市の場合、工場と民家が接近しあるいは介在しておるという立地条件から考えて、公害防止は必然的に災害防止につながるのでございます。しかしながら、本基本法案におきましては災害防止については触れられておりませんので、たとえば遮断緑地の設定、住宅の集団疎開等の都市改造方策あるいは防災堤の建設、地下埋設管に対する措置が緊急を要する問題でありますので、これらが容易に実施に移し得ますよう国の立法措置あるいは財政措置等につきましてもあわせて御検討をお願いいたしたいのでございます。  以上をもちまして私の意見の開陳を終わります。ありがとうございました。(拍手)
  8. 八木一男

    八木委員長 次に、池尻公述人にお願いいたします。
  9. 池尻文二

    池尻公述人 私は全漁連の常務理事池尻でございます。本委員会で目下御審議中の公害対策基本法案につきまして私見を申し述べる機会を得ましたことは、私の深く喜びとするだけでなく、多年にわたり水質の汚濁問題に苦しみながら生業にいそしんでいる全国の沿岸漁民がひとしく心から喜びとしているところであります。  最近の新聞紙上におきまして、佐藤総理の諮問機関たる国民生活審議会の会長をつとめておられる一企業家が、「公害が発生せずにわが国が世界第三の工業国にまで躍進したのであったならば、それこそ経済の高度成長以上の奇跡であったろう。」と述懐いたしております。そしてまた、「わが国経済社会が、その驚異的な成長率にもかかわらず、国民生活への低い歩どまりに甘んじ、成長政策から社会開発政策に移行せざるを得なかったのは、本質的には、わが国経済社会が案外に冷たいものであるという半面の事実に由来する。」とも述べているのでございます。  私ども漁民は、水質汚濁という古くして新しい公害の直接的な、また最も深刻な被害者として、多年にわたりまして公害防止を叫び、訴え続けてまいりましたが、水質保全法、工場排水規制法の制定後十年を経過した今日、その被害は激増の一途をたどるばかりでありまして、水産庁の調査結果を見ましても、昭和四十年度における被害発生件数は全国で二千二百七十九件、金額にして百二十七億円に達しておるのでございまして、水質二法制定当時に比較して、件数、金額とも約三倍半にまで増加している実情にございます。今日ようやくにして公害対策基本法案が提案をせられ熱心に御審議が進められております際、公害の加害者側に立つ一企業家が、われわれ漁民をはじめとする公害被害者を前にしてしみじみと述懐をし、反省の念を込めて告白したことは、まことにゆえなしとしないのでございます。  公害対策基本法案が国会に提案を見た今日ただいまこそ、まさにわれわれ漁民の宿年の悲願達成の糸口が見出されるものと心から期待しているものでありますが、しかしながら、政府御提案の公害対策基本法案は、提案に至るまで案を重ねるに従って後退を重ねてまいりまして、ここにその内容を見ますときに、遺憾ながら、私ども漁民の眼から見ますれば、その姿勢において低調であり、しかも水質の汚濁という一点にしぼってみました場合、きわめて微温的、消極的でありまして、われわれの悲願が達成されるところにはほど遠いものであると断ぜざるを得ないのでございます。ここに漁民を代表して公述人として意見を申し述べるにあたりまして、あらためて再度政府御提案の公害対策基本法案につきまして基本的事項の二、三につきその修正を強く要望いたすものでございます。  まず第一点は、法の目的を定めた法案第一条についてでございます。  政府原案は、「国民の健康を保護するとともに、経済の健全な発展との調和を図りつつ、生活環境を保全することを目的とする。」と規定しておりますが、「経済の健全な発展との調和を図りつつ、」との表現を削除いたしてもらいますとともに、生活環境の定義の中でより明確に「農林水産資源の保全を図る」という表現を加えていただきたいのでございます。これとともに、公害防止に関する基本的施策を定めた原案第二章中、環境基準に関する規定の第八条第二項が「生活環境に係る基準を定めるにあたっては、経済の健全な発展との調和を図るように考慮しなければならない。」となっておりますのを、「生活環境に係る基準を定めるにあたっては、農林水産資源の保全を図るように考慮しなければならない。」と改めていただきたいのでございます。  原案を読みます場合、この法律目的とするところが、国民の健康を保護することについては全く無条件に、そして生活環境を保全することにつきましては経済の健全な発展との調和をはかりつつ行ない、そのことによって公害防止対策推進するところにあるものと解されるのでございますが、しかしながら、生活環境の保全を経済の健全な発展との調和をはかりつつ行なうという場合、この調和とははたして何を意味するものでございましょうか。多年にわたって水質汚濁という公害のために苦しみ抜いてまいりました漁民といたしましては、どのような説明を承りましてもいまだに氷解し得ない点があり、釈然としないものが残るのでございます。水質汚濁を含めまして、産業公害の加害者の側に立つ、前にも述べました著名の一企業家すらもが、この点に関しまして、「調和の概念と妥協の概念とは同一ではないが、この政府原案では妥協という響きをかなり持っているように思うし、現実問題として、第八条の生活環境基準を定める場合には、この基準が調和ではなくて妥協に傾く可能性があるので、十分に警戒されなくてはならない。」と、あえて新聞紙上で一般国民の注意を喚起しているほどでございます。しかしながら、このような指摘にもかかわらず、われわれ公害被害者の側に立つ漁民から言わしむるならば、この政府原案にいう調和とは、その実は妥協ですらなく、公害防止を有名無実にするために企業を一方的に擁護する姿勢として受け取らざるを得ないということを率直に指摘したいのでございます。  われわれ漁民のかかる理解のしかたは、決して被害妄想のなせるわざではないのでございまして、それは十年前に制定を見ました水質保全法、工場排水規制法の施行後の現実の姿が明らかにそのことを物語っている生きた実証でありまして、われわれ漁民のかかる理解のしかたは全く当然なものであり、きわめてすなおなものであると言っても言い過ぎではございません。水質二法には、御承知のとおり「産業の相互協和」ないし「産業の健全な発展との調和」という意味の表現がうたわれております。しかしながら、その結果として、冒頭にも申し述べましたように、施行後十年でかえって水質汚濁の事例が激増し、全国百三十九河川のうち、いまだわずかに十河川しか指定水域としての指定を受けず、御承知のとおり最近におきまして、新潟県において阿賀野川中毒事件という痛ましい事件が発生したのでございます。このことはだれしも否定し得ない明白な事実であります。つまり、水質汚濁の要因の多発増大の速度と、これを防止する歯どめの機能の無力さを比べるとき、それはまさにウサギとカメの足の速さの差よりもはなはだしいと言っても過言ではないのであります。  産業の健全なる発展あるいは産業協和という立場に立った法制運用の帰結は、結果として現実にはきわめて甘い水質基準の設定にならざるを得ず、そして適用期日は延長され、その結果が先述しましたような水域指定の現状となっている次第でございまして、水質二法制定当時の私ども漁民の期待とは全くうらはらに、同法は骨抜き法の典型的なものというありがたくない汚名を受けているばかりか、逆に水質汚濁という公害問題を解決する場すら失ってしまったかっこうとなっているのでございます。  すでに御承知のとおり、公害による被害が長期間にわたって緩慢に人々の健康をむしばむものであることは、熊本、新潟両県下における水俣病ないし三重県四日市、神奈川県川崎市等における諸事例に徴してみても明らかであり、被害者が被害を自覚したときにはもはや手おくれの状態でありまして、再び健康を回復し得ず、社会生活への復帰の望みすらかなわないのであります。しかしながら、一般動植物は、水質汚濁、大気汚染、悪臭等々の人々の健康、生活環境にかかる公害に対しましては、人間より以上にきわめて敏感であると聞いております。この点、われわれ漁民といたしましては、公害の指標としてきわめて好適なものであると考えておる次第でございまして、人々の健康を守る環境基準の設定に際しましては、魚類は当然のことでございますが、動植物の生育基準を基準として設定すべきものであると思考いたし、農林水産資源を保全することが、とりも直さず人々の健康を守ることになるものと主張するものであります。  公害対策基本法の各条項は、それが基本法であるがゆえに、あくまでも厳正に規定されなければなりません。これぐらいの姿勢で取り組むとき初めて公害対策の実効が期せられるからでございます。われわれ全国漁民だけでなく、一般国民の生活を不当に侵害していた過去の実績をあたかも既得権益であるかのごとく理解して、今日の全国民的な公害問題に関する切実な要請を産業発展調和という隠れみのによって避けて通ろうとするような態度がもし加害者側にあるとすれば、それは近代社会の企業家としてとるべき態度でないことは自明の理であり、経済界において、よもやそのような態度、姿勢を今日とられるはずがないと考えるものであります。  第二に申し述べたいことは、公害対策基本法案事業者の無過失責任規定あるいは実質的にこの法理にかなう制度をこの際採用していただきたいと思うのであります。  昨年八月、厚生大臣の諮問機関であります公害審議会は、公害防止のための環境基準の設定とともに、企業など原因者に対しまして損害賠償の責任があることを明らかにしておりますが、審議会の指摘を待つまでもなく、人為的な原因のない公害というものはないのであり、特定の個人、企業、その他の行為主体に原因を持たない公害というものはおよそこの世には存在しないのでございます。われわれ漁民といたしましては、その苦い経験にかんがみまして、この際事業者の無過失責任規定を明確に入れていただきたいと思うのでございます。  われわれの経験によりますれば、水質汚濁をはじめとして、公害の原因の究明及び加害者側における故意、過失の有無の判定や、その間における因果関係の完全なる立証はきわめて困難であります。私法上の責任が原因者にあることは原則的に確立されておりまするが、損害賠償の場合においては、一定の受忍限度を越えているとの要件のほかに、加害者側における故意、過失の要件が必要とされておりまして、そのために過去の判例等を見ましても、この種の問題の解決がいかに困難であったかを物語っております。われわれ漁民も、かつて裁きの場に紛争の解決をゆだねようとしたことが幾多ございましたが、結局はその解決に長年月の時日を要するであろうということと、費用負担力、挙証の困難性という条件の前に、結局はわずかな額の見舞い金で結着させられることを常としてきたのでございます。  一部に、公害は社会的現象であると主張する向きがあり、発生者責任主義という考え方を社会的現象という発想によって埋没し去ろうとする動きもほの見えておりますが、そのような考え方は、企業の営利活動によって生み出される公害というものを、いわば企業に直接関係のない第三者に立てかえ払いさせるということでございまして、企業自体が本来負うべき原価の一部を一般国民に転嫁させることになるわけでございます。社会的に責任を持つべき企業責任を持たない社会というものは、成長繁栄の熱っぽい装いをこらしていたといたしましても、それは他人の犠牲の上に成り立ったきわめて冷たい社会と言わなければなりません。  第三に申し上げたいことは、被害者の保護救済を目的とした行政委員会の設置についてでございます。  われわれ漁民といたしましては、環境基準の設定をはじめとして、監視、取り締まり、被害の認定、損害賠償の裁定、差しとめ命令、原状回復命令、紛争の調停、あっせん等を処理する権限を持つ行政委員会を、国家行政組織法に基づいて設置されることを重ねてお願いするものであります。  公害対策の第一は、その予防であり、第二は、現に起こっている公害の排除であり、第三は、被害者の救済であり、これら三本の柱をその基本とするものであり、この中の一つを欠いても真の公害対策とはいえないからであります。  最後に私は、この際被害者の救済に関する制度を基本法と同時に確立されるよう希望するものでございます。私はその内容として、損害賠償保険制度並びに公害基金制度の二つの制度を提案し、前者は、この保険から人の被害のための医療費、生活費の給付、補償金、見舞い金等を公的機関の裁定で支出するものであり、事業者の加入によってその原資を造成し、国が後見的にその再保険を行なう制度であり、後者は、比較的に私害的要素を含んだ被害であって、原状回復や保険での処理が困難な被害の救済については、国、地方公共団体企業が原資を拠出し合って基金を設置し、基金の立てかえ払いによって救済を実施した後に、被害原因及びその間の因果関係を明らかにし、原因者が明らかになった場合に、基金に被害額と損害賠償相当額を払い込むこととする制度であります。心から一考をお願いする次第であります。  以上、漁民の立場から私見を申し述べましたが、われわれ漁民は、今日まであえてたよるべきところもなく、みずからの力で漁場を守り続けてまいりました。しかしながら、その自衛の力にはおのずから限りがあり、われわれの眼前で幾多の漁場がその生産力を喪失し、漁民にとっては死せる海、死せる川へとその姿を変えていきました。わが国経済社会がその繁栄を謳歌し、世界有数の工業国にまで成長した裏面に、われわれ漁民の犠牲があったことをあえて私は強調したいのであります。  終わりにあたりまして、日本社会党、民社党、公明党よりそれぞれ御提案の同法案には、いま私が指摘いたしました基本的事項が構想として取り上げられている次第でありまして、この点につきましては心から賛同いたす次第でございますが、この際、政府御提案の法案について、以上申し上げた趣旨による修正補強により、全国三百万漁民が熱望するりっぱな公害基本法が成立されるよう、全国漁民を代表いたしまして御要望申し上げる次第でございます。(拍手)
  10. 八木一男

    八木委員長 次に、大島公述人にお願いをいたします。
  11. 大島靖

    大島公述人 大阪助役大島でございます。  私はまず、国権の最高機関である国会が、特別委員会を設けられて公害対策に本格的に積極的に取り組んでいらっしゃることに敬意と感謝の意を表したいと思います。  公害問題は、その関連いたしますところまことに広範であります。かつ困難な問題であります。今日の政府が各省の意見を総合して基本法の原案をおまとめになるまでには相当の御苦労があったと思うのでありますが、基本法が成立いたしましても、むずかしい問題はむしろ今後にあるわけでありまして、国会が国民の意思を代表されて、単に法律の成立のみならず、今後も法律の施行運営に重大な関心と監視をお続けいただくことが最も肝要なことであろうと存ずる次第であります。  私の意見のまず第一は、現在御審議中の政府原案並びに各党の法案は、それぞれ十分な理由と根拠を持つりっぱなものだと思うのでありますが、もしそれぞれの長短をあげまして国会の会期切れということになりますとたいへんなことでありまして、この際小異を捨てて大同におつき願って、まず何よりも基本法を必ず成立せしめることが最も肝要であり、私ども基本的な要望でございます。基本法ができたからといって、具体的に問題が直ちに解決するものではない。それは主として今後に出てくる付属法令によって解決されるものである。基本法の使命は、事業者、政府、地方公共団体国民がこぞって公害防止の体制に強く前進を始めるという体制をつくることにあると思うのであります。この際大綱を誤らなければすみやかに基本法を成立せしめていただきまして、いろいろの問題の解決は今後の付属法令及び法律施行の過程において逐次具体的に解決していくことが必要であろうかと存じます。何をおいても基本法の成立、極端にいえばこれが私のただ一つの意見と申し上げてもよいのであります。基本法が成立いたしますれば、これを機会といたしまして、政府各省はこれが付属法令の整備に直ちに着手していただきたい。これは基本法をおまとめになる困難さ以上にいろいろな御意見の総合調整、非常にむずかしい作業であろうと思いますが、これを早急にやっていただくためにも、一日も早く基本法の成立を願う次第であります。  第二に、公害問題の処理の態度について必要だと思いますことは、一方において被害者たる国民市民の側で、もっとはっきりした公害の実態の認識、公害の科学的、技術的実態の認識というものがなされなくてはならない。これによって公害防止の世論がさらに盛り上がり、これによって公害発生源の側におきましても、もっと真剣に、追い詰められた気持ちで公害防除の努力が倍加されてくるものと思うのであります。と同時に、他方において被害者の側でもあまり個々的に被害の防除、救済を求めるに端的な急追は決して得策ではないという点であります。たとえば政府原案の第八条の環境基準の設定にいたしましても、公害を発生する側といたしましては、こういう環境基準が設定されますということは相当心配なことであろうと思うのでありますが、私は、いま申しましたような前提においては勇敢に環境基準の設定に踏み切っていくべきであろうと思うのであります。昨年大阪市におきましても、いろいろ意見はございましたのでありますが、ばい煙の問題等につきまして大阪市の公害審議会の意見に基づきまして環境基準の設定に踏み切ったわけなのであります。環境基準が設定されたからといって直ちにこれが実現するというものではない。技術開発、財政的な資金的な裏づけが総合的に整備されまして、これが逐次実現されていくのであります。ただしかし、その公害対策の進むべき目標というものは、常に科学的、技術的見地からはっきりと国民市民の前に示されるべきであると思うわけであります。  第三に重要なことは、公害防除技術の開発と公害の常時監視網の整備であります。先ほど経団連の古藤さんもちょっとお触れになったのでありますが、今日政府各省、地方公共団体産業界、それぞれ技術開発に努力をされておりますが、基本法の成立を機会といたしまして、公害防除技術の総合開発計画を樹立していただきまして、五カ年程度を目標にして各界の技術陣を総動員して、重複を排して最も重点的に最も効率的に研究の推進をはかるべきものと考える次第であります。これがために政府、産業界におかれましても巨額の研究投資を率直大胆に踏み切るべきであると確信いたします。また、そうすれば、今日宇宙開発に見られるような高度の技術陣容にとって公害防除のごときは決して不可能事ではないと信ずるのであります。同時に必要なことは、公害がどういうふうになっているかということを常時監視する組織の整備であります。大阪市におきましては、大正十一年から、降下ばいじん量の測定を現在に至るまで続けております。本年度は大阪市内におきまして降下ばいじん量とか、亜硫酸ガスの濃度の測定とか、そういうことをいたしますステーションを市内で十一カ所、市外、大阪府下におきまして約十カ所、合計二十一カ所程度のステーションを設置いたしました。さらに自動車の排気ガスの測定のために、市内に六カ所のステーションを置きまして、これを総合監視センターで全部データを集約する形にいたすのでありますが、こういったじみな公害の常時監視網の整備が非常に必要なことであろうと思うのであります。こういうじみな仕事に対する必要な経費は決して惜しむべきでないと思うのであります。こういった点におきましても、政府・国会におきまして十分御援助を賜わりたいと思うわけであります。  第四に、公害防止についての事業者の気持ちの盛り上がりが非常に大事だと思うのであります。公害防止について厳重な法的規制が一方において必要であると同時に、先ほど京都島津さんもちょっとお触れになったようでありますが、やはり産業界における事業者みずから公害防止に努力していく組織、機構、そういったものの整備が非常に有益な結果を招くのではないかと思うのであります。大阪市におきましては、二十の各区におきましてはい煙防止協会というものが設立されておりまして、これが各種の講演会をやりましたり、模範的な事業所の見学会をやるとかいうような活動をいたしております。これを今度公害防止会という、もっと広い意味の活動組織に切りかえることになっておるのでありますが、ボイラー協会でありますとか、熱管理士協会等とタイアップして、事業者側における公害防止の意欲の盛り上がりに非常に大きな貢献をなしておると思うのであります。先ほど島津さんもちょっとお触れになりましたように、こういった組織に対する助成補助、こういった点をお考え願えれば非常にしあわせだと思うのであります。  それから第五に、公害に関連いたしまして各種の紛争が起こっておりますし、また将来いろいろ起こってまいると思うのであります。こういった紛争が起こりました場合の調整につきまして、行政機関がこれに当たるのも一法でございましょうが、先ほど池尻さんもお述べになりましたように、第三者機関と申しますか、技術的な権威のある方々、あるいは法律家の方々、こういった委員会のような紛争処理機関を設置してこれが解決に当たるということが、私は実際問題として非常に大事なことではなかろうかと思うのであります。  最後に、公害防除の政策の実施、行政の実際の衝に当たりますのは地方自治体であります。現在の地方自治体の財政ははなまだ逼迫いたしておりますので、こうした場所でお金のことを申し上げるのははなはだ恐縮でありますが、政府とされましても、十分な財政上、資金上の援助を賜わりますように、私どものほうでも現在長期低利の災害防止のための融資制度を創設いたしておりますが、何ぶん限りある資金でございますので、将来は、やはり政府の相当巨額な長期低利の資金をこういった方面に導入していただければ、はなはだありがたいことだと思うのであります。また、大都市といたしましての行政の実際から、指定都市各市の市長から政府並びに国会に、この法案についての御要望を申し上げておりますが、これらの点についても、ひとつ十分御配意賜わりますようにお願い申し上げたいと思います。  以上、私の所見を申し上げまして、重ねてこの際、委員長のさらに一そうの御努力によりまして、各党の大局的な互譲の精神によって、この基本法が今国会において必ず成立いたしますように、ひとつ御尽力をお願いいたしまして、私の公述を終わりたいと思います。(拍手)
  12. 八木一男

    八木委員長 次に、加藤公述人にお願いをいたします。
  13. 加藤一郎

    加藤公述人 私の専門は民法で、特に損害賠償の問題を専門にいたしております。三年ばかり前から公害研究会というものをつくりまして、公害法律的な検討をいたしております。なお、そのほか厚生省の公害審議会の委員をいたしておりますが、きょうは私の個人的な立場からの見解を述べさしていただきます。  まず最初に総論と申しますか、全体についての意見でございますが、政府案について申しますと、もの足りない点がかなりございます。特に全体として政策の宣言、あるいはプログラム規定と申しますか、そういう規定が多くて、将来に問題を残しているという点は残念な点でございます。しかし、いまの時点におきましては、その整備を待つということは直ちにはできないことでございまして、ともかくも政府案中心にして、その制定を急ぐべき時点であるというように考えます。また、現在政府部内でも、各省の意見がこれで一致をしておりますし、産業界のほうでも、曲がりなりにもここまで意見が一致して盛り上がりを見せてきておるところでございますから、この際、この制定がおくれるということにでもなりますと、せっかくの好機を逸することになるのではないかというように考えるわけでございます。  次に、各論的にこの政府案につきまして、その長所及びその問題点を申し上げてみたいと思います。  まず政府案で長所と申しますか、私がプラスになると思います点を三つばかりあげますと、第一は事業者責務ということが明記されておることでございます。この点もいろいろいきさつがあったように聞いておりますが、事業者として公害防止のために必要な措置をとるということをうたっているわけでございまして、しかもそれがいろいろの責務が並べてある最初にあげてあるということは、プラスであるというように考えます。  第二のプラスの点は、環境基準を定めるということでございます。申すまでもなく、公害防止によって人間を守るということのためには、環境基準という考え方をしなければならないわけでございますが、御承知のように、いままでは排出基準しか定められていない。もちろん排出基準を定めます場合には、ばく然とした環境基準というものを前提にして考えなければ無意味なわけでございますが、その点が従来明確でなかったわけであります。環境基準につきましては、この法案によって直ちに環境基準本設けることができるように読めるわけでございまして、ほかの政策の宣言ということとは違って、直ちに現実化され得るものだと思います。  次にプラスの第三点といたしましては、特定地域における公害防止について計画を立てて推進するということがはっきりしていることでございます。この点も単なるプログラム規定ではなくて、この法律ができれば直ちに動いていくことが期待されるものでございまして、これによって、従来公害問題で非常に被害を受けております地域におきましては改善が期待されるわけでございます。  以上の利点に対しまして、この法案政府案におきまして問題になる点を三点ばかりおもな点を拾いますと、第一には目的の点でございまして、いままでの公述人も御指摘になりましたように、「経済の健全な発展との調和を図りつつ、」ということばが入っております。これについては法文上、国民の健康を守るということは絶対的であるということははっきりしておりまして、いまの調和という点も、国民の健康の問題にはかかわらない、生活環境の保全についてだけ調和をはかるということになっております。ただ、それを法文に書くことがいいのかどうかは一つ問題があるわけであります。基本的な考え方として、生活環境の保全ということもやはり絶対的だという考え方もございますが、私はそうは思いませんで、やはり実質的に考えれば、国民の健康を守ることは絶対的だけれども生活環境の保全ということはやはり経済産業の健全な発展との調和の中で考えていくべきだ、その実質はこの法文と同じで私はいいと思っております。ただ、それはむしろ当然のことでありまして、それを何もわざわざ法文にはっきり書く必要までもないのではないか、これを書くことによって逆にそれが公害防止対策を阻害する、それにブレーキをかける役割りを現実に果たすことになりはしないかということが危惧されるわけでございます。もっとも、この点は現在のばい煙規制法では、「生活環境の保全と産業の健全な発展との調和を図り」ということで二つ並べて書いておりまして、それに比べれば法文上も改善のあとが見られるように思います。  それからもう一つは、産業界のほうで、こういうことがないと、逆に生活環境の保全も絶対的であるということで強く規制をされることになりはしないかという危惧の念もあるようでございまして、この点はお互いに信頼感がないといいますか、疑心暗鬼の点があるように思うのでありますが、そういう点からすれば、この法文のようになったのも結論においてはやむを得ない点がある。私個人としては、これのないほうがすっきりとしていいように思うのでありますが、との法文だから反対だということまでは申さないつもりでございます。  次に、第二の点でございますが、二十条の被害の救済の規定、それから二十一条の費用負担の問題、これがいずれもこの法案では直接規定が出ておりませんで、将来の法律にゆだねられているわけでございます。これは本来ならばこの法案でそこまで用意をしていただきたかったように思いますけれども、まあ、これもやむを得ない点があるかとも思います。  私は、将来における被害の救済の問題について、私の希望を申し述べさせていただきたいと思います。この点につきましては、事業者について無過失責任を認めるかどうかが非常に世間では問題になっておりますが、私は、今日では無過失責任ということはむしろ当然のことであって、また、私の考えからいたしますと、規定がなくても実際の裁判所の判例では無過失責任が認められつつあるというように思うわけであります。むしろ問題は、どういう状況のもとで責任を認めるか、いわゆる受忍限度の範囲をどこに置くか。共同生活を営みます以上は、ある程度まで受忍をしなければならない限度というものは当然考えられるわけでありますが、それをどう考えていくかという、法律的にいえば違法性の有無をどこで判断するかということのほうが今日では重要な問題のように思われます。しかし、やはり無過失責任かどうかということも一つの問題でありまして、その点も条文の上で何か明確になればなお望ましいことである。私のほうでは、かりに無過失責任規定がなくても、企業公害によって住民に被害を与えれば、そこには当然故意あるいは過失があるという解釈が可能であるというように考えてはおります。つまり、住民に被害を与えることを知りながら公害を発生させているということであれば、そこには法律内にいって故意もあるといえるのではないか、少なくとも過失はあると言い得るのではないかというように思っているわけであります。  被害の救済について第二に問題になる点は、因果関係を明確にするという問題でございます。これは無過失責任だけでは救えない問題でございまして、たとえば最近の阿賀野川の水銀中毒問題につきましても、はたして因果関係がどこまで明確にされているかということで議論があるわけであります。この点については科学的な調査及び因果関係の判定ということを、政府あるいは政府にかわる機関においてやっていく必要があるのではないか。これは紛争処理機関の内部でもできることでございますが、つまり、因果関係の認定のための特別の制度、機関というものを考えていただきたいということであります。なお、その点で注意すべきことは、因果関係があるということが科学的にはっきり証明がつかない場合でありましても、社会的あるいは常識的に見て因果関係が一応あるのではないかと判断される場合には、法律上の損害賠償、補償の責任を認めてしかるべきであろうと私は考えております。と申しますのは、科学的に因果関係があるということを証明するのは非常にむずかしい場合が少なくないのでありまして、それがなければ賠償、補償の責任がないということでは被害者の救済が立ちおくれるおそれがあるわけであります。民事上の損害賠償の問題につきましては、因果関係が五〇%以上あるというように判断されるならば、責任を認めてもいいのではないかというように私は思っているわけであります。  次に、問題点の第三といたしましては、公害対策会議という問題がございます。これは行政の一元化という問題とからんでいるわけでありまして、これに対しては一種の行政委員会を設けるほうが適当であるという意見も強いわけであります。ただ、機構が公害対策会議であるか、公害対策委員会であるかという形の問題よりも、そこにおいて実質的にどれだけ各種の利害の統合がなされるかということが重要だと思います。つまり、公害については非常に各種の利害が錯綜しているわけでありまして、それを政策的あるいは政治的に統合し、指導力をもってそれを解決していくということが必要でありますのに、その点が従来欠けていたように思われます。形も大事でございますが、それよりも、そとで実質的に政策的な利害の統合、それから政治的な指導力の発揮をすることを強く希望したいわけでございます。  以上で私の各論の問題は終わりますが、初めに申しましたように、この機会にぜひとも法案を成立させていただき、一歩でも公害対策を前進させていただきたい。いま、これの成立がおくれるということになれば、せっかくの公害対策の盛り上がりを妨げるおそれもある。そういう意味でぜひこれを通していただくように、私としても希望する次第でございます。  どうもありがとうございました。(拍手)     —————————————
  14. 八木一男

    八木委員長 これより公述人に対する質疑に入ります。板川正吾君。
  15. 板川正吾

    ○板川委員 私は、まず経済団体連合会専務理事古藤さんに伺います。  古藤さんのお話によりますと、政府の原案には、当初から立法の段階でいろいろ希望も申し上げており、そしてこの政府の原案についてはほぼ満足である、こういう趣旨を申されました。その中で、財界、経団連としては、「経済の健全な発展との調和」、これが一番重要なポイントだ、こうおっしゃっていますが、もしかりにこの公害基本法経済との調和の事項がないとしたらば、一体どういうような現実的な被害といいましょうか、実害が起こるか、こういう予想されるものをひとつこの際伺っておきたいと思うのです。  それから、企業の社会的責任というものをどういうふうに御理解をされておるかということを第二点として伺いたい。  御承知のように、公害が発生するということは、企業が集中をされる、あるいは企業が大型化をするというところに公害発生の大きな原因があると思うのです。これはコンビナートの周辺に公害が一番きびしいということでも立証されておりますが、こういうように企業が集中をされ、大型化されるというのはなぜかといえば、それによって利益がもたらされるからだ。集中によって利益がもたらされる、大型化によって利益がもたらされる。そういうように集中と大型化によって主として産業公害というのが起こっておるのであります。したがって、この公害防止責任というのは当然私は企業側が負うべきである、こう思うのであります。この点に関してどういうお考えを持っておるか、なお詳しくお願いいたしたいと思います。  企業が集中をされ、大型化されるということは日本経済の一つの躍進になるじゃないか、日本経済が躍進することは国民の利益になるじゃないか、したがって、国民はその公害の被害を受けることもある程度やむを得ないじゃないか、こういうお考えもあるやに伺っておりますが、しかし、経済発展による恩典を受ける、国の富が増して恩典を受けるということは、国民全体の問題で、公害の被害を受けるのは、そのコンビナートなり、集中化、大型化した周辺の住民であろう。こういうことを考えれば、国民全体が利益を受けるからいいじゃないかという考え方は当たらない、私はこういうふうに考えます。したがって、公害責任防止責任は当然企業が第一義的に負うべきだ、こういうふうに考えておりますが、御意見はいかがでしょうか。  それから公害の救済の問題であります。漁協連の池尻公述人が、なかなかいい考え方を発表されておりますが、いま申し上げましたように、企業が大型化をし、集中をする、そういう地点に公害が起きる。この救済の責任は当然企業が負うべきじゃないか、そのために無過失賠償責任の法理というものを率直に受け入れるべきではないか、こう考えるのであります。そうして企業公害防止、救済の責任を負う。そのことによってコストが上がれば、それは製品の中に加えるということになると思います。そうすると企業が集中化し、大型化して受ける利益、つまりその製品を使う国民大衆全体が、いわば公害被害者、周辺の住民の被害というものを負担をするということになります。そういう意味で、私は、当然この公害の被害の救済の責任というものは企業負担すべきである、こういうふうに考えるわけですが、この考えについてお考えはいかがでしょうか。  それから、財界としましても、紛争の調停機関というのが必要だというふうに考えておったように伺っておりますが、先ほどの公述の中になかったかと思います。いままでこの公害が起こりますと、被害者が騒ぐ、そうして加害者と思われる工場に交渉する。工場側からいえば、その因果関係を証明してほしい、うちの工場ではそういうことはない。こういうことを普通主張をいたします。被害者に科学的な因果関係を証明するという能力はなかなかありません。裁判に訴えることにいたしましても、やはり因果関係の証明をしなくちゃならぬということもあって、あるいは必要ならば工場側は長期に裁判闘争を行なう、引き延ばしをする。こういうことになりますから、実際的には被害の救済というのはできない。そこで、結局被害を受ける大衆側としては、不本意でありますが、生命の危険をおかしても実力行使、不法行為、暴力行為、こういうものによって工場にあばれ込み、そうして自分の意思の貫徹をはかるということになる。工場にあばれ込まれて、そうされちゃ困るというので、これは賠償金じゃない、見舞い金だということで解決をする。片方も、いまの裁判の制度、司法の制度の中では十分な救済ができないから、やむを得ないでその辺で泣き寝入りをする、こういうことで紛争処理が行なわれておるわけであります。ですから、こうした紛争処理を公的な認定機関——加藤先生も言われましたが、そうした公的な認定機関を設けて、紛争を暴力的あるいは非合法的な行動によらず解決するような方法が必要なんじゃないか、これは財界自身も認めるんじゃないか、こう思うのでありますが、この点に対するお考えはどうか、伺っておきます。  一応このぐらいを伺っておきましよう。
  16. 古藤利久三

    古藤公述人 それでは、ただいまの質問は四つございましたので、四つの質問にお答え申し上げます。  最初の問題は、経済発展との調和をはかるということがもしなかったら、どれだけの実害があるというふうに考えるかという問題でございますが、これは実はこの法案がつくられる過程におきまして、関係各省の間でも非常な意見がありましたことを私ども承知しておりますが、この公害対策基本法というのは、要するに公害政策というものは、さっきも申し上げましたように、総合的な政策をやらないと適切な効果が出ない非常に複雑な内容を持った問題でございます。したがって、いろんな行政関係の機関もこれに関与するというような問題でございまして、したがいまして、ただ単に国民の健康の保持ということだけを専管しているお役所がこの問題を取り上げるだけではうまく政策推進されません。したがいまして、もし経済発展との調和というような総合的な見地というようなものが欠けますと、たとえば環境基準の設定につきましてもとかく行き過ぎになる問題が起こる危険性もございますし、また、産業界はそれに対して無用な不安を感じるということもございますので、お互いにこれを信頼しながら公害政策を進めていく、公害防止対策を進めていくという上からいきまして、経済発展との調和ということを冒頭にも入れていただき、さらに八条のほうにも、環境基準の設定の場合にもこの点を考慮するということを入れていただくことは、経済界がこの問題について真剣に協力していくという点からいきましても非常に有効なんじゃないか。それを削除されますと、そういった点はそれほど心配することがないのかもしれませんが、やはり産業界もいろいろな人がおりますので、心配をするということになりまして、かえってこの公害対策基本法案のねらう総合的な公害政策推進という点に欠けるところが出てくるんじゃないか、かように存じます。したがいまして、この経済発展との調和ということは非常に宣言的な文句でございますけれども、これはやはり基本法の性格としては非常に大事な文言だ、私どもはそう理解しておるわけでございます。  それから、第二の企業の社会的な責任ということでございますが、企業は、確かにおっしゃいますように集中・大型化というものは避けられない状態でございます。特に資本の自由化というようなものを前に控えまして、国際競争力をつけるためには企業の集中・大型化というものは当然やらなければなりません。したがって、集中・大型化によって企業にそれだけのメリットが出てくることは当然でございますけれども、それだからといって、公害の問題につきましてすべての責任企業にあるんだというお考えは少し妥当ではないじゃないだろうかと私どもは考えます。と申しますのは、社会開発投資あるいは公共投資と申しますか、下水道にしましても、道路にしましても、そういういろいろな社会開発が十分に進んでおりますれば起こらないであろう、あるいは軽減されるであろう公害が非常にたくさん起こっているわけでございます。そういうものの集積された公害というふうなものが現にあるわけでございまして、すべてが企業責任に帰せられるべき問題でもないんじゃないかと思います。企業は今日大型化してまいりまして、コンビナートというふうなことになりますと、もちろん非常に社会的な責任が重大化してきていることは自覚しておりますので、この公害対策基本法案にございますように、企業責任ということにつきまして書かれてありますことを十分に企業としては負担していく、その責任を感じていくという態度でおるわけでございます。ただ、すべてが企業責任に帰するべきものだというふうにお考えになることは少し行き過ぎじゃないか。やはり公害の問題は、具体的な問題になりますと、その原因、結果というものを科学的に分析いたしまして、そうしてほんとう企業の側に責任のあるというものにつきましては、これは当然企業責任を負うべきものだと私どもも思います。しかしながら、企業のほうはできるだけこの際防除施設その他について資金を投入し、そうして改善に努力しておりますので、そういった費用企業のほうが負担することは当然でございますが、また政府におかれましても、そういう企業の努力をやりやすいように、税制とか金融の面でいろいろな応援をしてくださるということが必要ではないかと考えます。  いずれにいたしましても、企業の社会的責任ということは十分企業として自覚しているわけでございますが、公害は必ずしも企業のみの責任に帰するべき問題でもない。もちろん関係している企業責任があることは私も認めますが、ただこの場合には、科学的にその原因というものが追及され、明白になるということがやはり必要なんじゃないか。何となくそうらしいというふうなことで事を処理されるにはあまりに問題は重大なんじゃないか、こう考えるわけでございます。  それから、第三の救済の問題でございます。責任企業が負えということでございますが、もちろん、ほんとうに科学的に見て企業責任があるという問題につきましては企業が負うのが当然だろうと存じます。しかし、そういうはっきりした科学的な根拠が析出されない事例が非常に現実には多いわけでございます。そこで、そういうふうに端的に片づけるわけにはいかない問題があるのではないか、そこに救済問題のむずかしさがあるのではないかと存じます。ことに大企業のことだけいまおっしゃいますけれども中小企業のほうの問題につきましても公害の問題はたくさんございますので、そういった面から考えますと、企業が救済の責任を全部負えということをおっしゃいましても、これはまた実情に合わない、実際にそういうことは不可能なんじゃないかというようなことも起こってまいりますので、この救済の問題は、やはりその公害の原因というものを科学的に分析する、それから防除施策というものについて科学的にはっきりした証明された施策が発見されるということが前提でございまして、それが発見されれば、企業のほうもそうした防除施設をやることにやぶさかではございませんし、その経費は、あるいはさっき御指摘のように一部製品のコストの中に入っていくという問題もございましょう。しかし、そういうことは企業自身の実際のコストの問題のほかにそういう負担がかかるわけでございますから、できるだけ政府のほうでそういったことについての救済、さらに援助資金あるいは税制の面あたりでこういう点を考慮していただくということが政策として非常に望ましいのではないか、こう考えます。  それから最後に、紛争の調停機関の問題でございますが、これは御指摘のように、ある適当な紛争調停機関ができれば、紛争調停機関があったほうがいいのではないかと考えるのでございますが、とかくこの紛争調停機関というものをつくりますと、そこへいろいろな問題が集中されて、そこで工場になだれ込むと同じような問題がさらに形を変えた姿であらわれてくるということであって、必ずしも冷静な第三者の判定というふうな形に問題がまいりません。これは経団連としても研究中の問題でございます。どういう形にしたら一番いいのかということを研究しておりますが、実際問題は、いま御指摘のようにケース・バイ・ケースで、工場被害者の間で話し合いをして問題を解決するというようなケースがいま多いようでございますが、この紛争調停機関は、変なものをつくりますと、かえって被害者と加害者との対立を社会的に大きくしまして、社会問題としてこれを処理しようというふうな傾向が出てまいりまして、実情に即した紛争の調停にどうもいかないのではないか。現状では裁判の方法もございますので、できるだけその裁判の方法で処理されていくということが現状としては望ましいのではないか。ただ適当な機関ができるということであれば、これは考えてもいいことじゃないかというふうに思っておりますが、行政委員会をつくってみるとか、あるいは何か第三者の調停機関をつくると申しましても、これは先ほど申し上げましたように、原因、結果が非常にはっきりしない問題を含んでおりますので、いたずらに新聞面をにぎわして大騒ぎするというようなことで、かえって公正な処理ができないという実情がございますので、この点はむしろもっとよく研究したい、こう考えておるわけでございます。  以上、四点についてお答え申し上げます。
  17. 板川正吾

    ○板川委員 救済なり責任を負うということについて、科学的な証明が得られれば企業責任を持つにやぶさかでないし、救済にも同様である、こういう趣旨である。しかし、この科学的証明というのは、いわゆる被害者側に出せとおっしゃるのでしょう。ところが、実際は被害者側にそれを出せといっても無理なんですね。だからそういう議論を主張されると、結局、科学的な証明ということは一番わかっているのは自分たちですが、自分の不利なことは言いませんから、したがって、いわば企業の暴力ということに私は通ずるのじゃないかと思うのです。そういうことであれば暴力には暴力ということで、好ましくない事態が起こるほかはない。私は、この科学的証明が現在においてなかなか不可能だから、そこで一つの方法がある。その方法としては、先ほどもちょっと池尻さんが言われたように企業集団として一どこの会社がどうやったかは別であります。それとの因果関係がどうだったかということは別として、しかし、企業集団としてその地域の住民に被害を与えたということだけは一つの客観的な事実だといえば、この企業集団として共同で責任を分担する、こういう制度、それが保険制度になるだろうし、あるいは基金制度になるかもしれません。それが全国的な組織になれば保険制度、基金制度ということになると思うのです。たとえば労災法では御承知のように無過失賠償の責任というものを是認した上に立って、労働者が死傷したという場合に、いずれに責任があるかは別として救済をする、それに対して補償をする、そしてその上に立って保険料を支払うということになっておりますが、この労災法的な思想、これを産業界全体が持つ。そしてある認定機関を置いて、その認定された者に対しては生活の保障もするし、損害の賠償もする。こういう産業全体として責任を負うということが私は必要ではないか、こう思うのです。これから日本経済がさらに発展を続けていきます。狭い国土の中で産業が大型化し集中化される。こういうことになりますと、いまの状態のままで推移すれば、それはいま言ったように暴力的な行動が所々方々に起こっていくほかはない。法治国家としての合理的な解決じゃないですね。ですから、そういう産業界全体で責任を負う、そのための保険制度、基金制度をつくることに対してお考えはどうか、この点だけひとつ伺います。
  18. 古藤利久三

    古藤公述人 ただいまの問題にお答えいたします。  私ども立場といたしましては、無過失責任ということを認めるのは、やはり現状としてはむずかしいのじゃないか。それはやはり原因、結果というものが一応問題として洗い出されなければならない問題でございまして、それでなくて、どうしてもわからないというふうな場合には、これは社会的にひとつ政府も加わって救済を考えるというふうなことであれば、そういうことに産業界も協力するということにやぶさかではございませんが、産業界だけがその無過失賠償の責任を負うべきだというふうにおっしゃることは少し一方的じゃないかというふうに私どもは思っております。この問題につきましては、いろいろ議論もいたしましたが、結局は原因、結果の問題というものが前提になるわけでございまして、その問題につきましては、経済界の責任になる問題だけではなく、政府自身の公共投資あるいは地方団体の公共投資の不備とか、あるいはまた立地政策というふうなものの欠除とか、いろいろな問題があるわけでございまして、そういう点につきましての総合的な判断をいたしませんと、ただ公害が起こった。これはもう全部そのコンビナートの責任だというふうに片づけられることは、少し片手落ちじゃないかというふうに私どもは考えておるわけでございます。したがいまして、こういう基本法が通りまして、総合的な見地からそういよ問題を処理される、企業責任もこれによって明確になってまいりますし、企業家もこの公害の問題については、自分たちの負うべき責任はちゃんと果たさなければならぬという観念になってまいりましょうし、また一方産業の、工業の立地調整というふうな政策もだんだん政府のほうでお考えになっておるようでございますので、立地のときからそういうふうな問題が将来発生しないような考慮を加えつつ、工業発展をはかるということも可能なんでございまして、そういういろいろな政策があわせ行なわれて初めてうまくいくんじゃないか、こう考えておるわけでございます。  以上、ちょっとお答え申し上げます。
  19. 板川正吾

    ○板川委員 御意見を承る会ですからその程度にいたします。  次に四日市の議長さんに伺いますが、四日市公害のデパートのようなことをいわれております。水質関係、ばい煙関係その他たくさんの公害が発生しておりますが、四日市の議長さんと全国漁協連の池尻さんに伺いたいのですが、現在ばい煙規制法あるいは水質保全法に和解の仲介制度があります。ばい煙によって紛争が生じた場合には、県で任命している仲介員によって和解をはかろうという制度であります。このばい煙規制法による和解の制度が、四日市でどういうように動いたか、活用されたのか。活用されないならば、どこにその活用されない原因があったんだろうか。要するにこれは加害者側も被害者側もそういう制度に信頼を置いてない。だからそこに持ち込まないのだ、こういう感じがするのですが、この和解の仲介制度というのが動き出さない原因というのをどういうふうにお考えになっておられますか。これは水質保全法における和解の仲介も同じでありまして、全国漁協連の池尻さん、それから四日市日比さんに、その点についてお答えを願いたいと思います。
  20. 日比義平

    日比公述人 お答えいたします。  現在までにそういう実例が四日市の場合においては起こっておらないわけなので、ちょっとはっきり申し上げられないと思うのです。
  21. 板川正吾

    ○板川委員 ばい煙で四日市ぜんそくなり、あるいはばい煙によるいろいろの被害を受けておる人がありますね。こういう人たちがそういう制度にたよろうとしないというところに問題がある。だからそれはどこに原因があるのだろうか、こういうことを実は聞きたいと思ったのですが、わかりませんか。
  22. 日比義平

    日比公述人 事故がたびたび起こってございますので、実例がないと申し上げましたけれども、まあ双方に、そういう法案に対する信頼度といいますか、これが薄いために、それに現在までたよっておらないというのが実情である、こういうことでございます。
  23. 池尻文二

    池尻公述人 御承知のとおり水質保全法にも和解の仲介制度というものがございます。これは先ほどからいろいろ御議論になっておりますように、そもそも制度の発足当時に、因果関係の究明だとかなんとかいう問題を法廷に持ち出しましても、裁判処理上非常に困難な性格を基本的に含んでいるということで、仲介、あっせんの制度が設けられたと思っておるわけでございますが、現状はあまりこれが利用されてないようでございます。と申しますのは、水質基準の設定と違いまして、紛争の第三者的な解決でございますので、なかなかきめ手になるような説得力というようなものがないということが一つの原因だろうと思います。  それからもう一つは、漁業者側がこういう制度というものをわりあい信用したがりませんのは、たとえば県ごとにできましても、行政の姿勢といたしまして、最近は産業の誘致だとか、工場の誘致だとかいうものが府県によって非常に熱心にやられている。そういうようなときに、たとえば県庁がお世話するようなものに、しかも漁業者の利益代表というものも全体的には少ないというようなものには持ち込まれないというような、基本的にこれをあまり信用しないというようなことも作用しておるのじゃないだろうかというようなことと同時に、やはり本問題の解決というものがきわめてむずかしいというようなことで、第三者的な解決というものがそういう公的な場において取り扱われるということにはたして向くのかどうかというような、制度の基本的な問題もあろうかと存じます。  以上でございます。
  24. 板川正吾

    ○板川委員 次に大阪市の助役さんと四日市の議長さんに伺いますが、公害基本法がこの国会に提案をされまして、私どもこれについて審議を今日までやってまいったのでありますが、実は公害というものが国民の健康を守るということで非常に重要になっておるにかかわらず、公害問題に対する関心というのが何か国会の審議と結びついていない、こういう感じがしておるのであります。ある種の法案をやる場合に、利害関係者からそれぞれの意見なり陳情なりというものが十分集まるのですが、私は、この公害基本法審議に対して、公害行政の末端を担当する各市町村で、もっと政府案なり野党案なりに対して検討が加えられて、それに対する注文というものが自然発生的にきてもいいのじゃないかと実は思っておったのであります。ところが、公害審議をこうして始めましても、末端の地方自治体からの意見というのはわれわれに反射してきません。ただ、当初一つだけ陳情があったのは、公害都市連絡協議会の議長として川崎の金刺市長が代表いたしまして、政府の原案をすみやかに通してくれ、ほかのことは書いてありません。それだけの陳情が一つきただけであります。公害行政の末端を担当しておる自治体がこの公害基本法に対してわりに関心を持たないやに私どもうかがえるのですが、これは一体どこに原因があるのでしょうか。政府案で満足でけっこうだからというなら、私は、その意味で政府案を通せという意見もどんどん言ってきたらいいと思うのです。政府案なり社会党案なりにいいところがあるなら、こういう点を末端の行政を担当するわれわれとしては希望するということを率直に意見を反映することがいいことだろうと居っておったのでありますが、本日公述人意見を聞くまでに、実はそういう末端各市町村のところから意見がわれわれのほうに反映してこない。これは一体どこに原因があるのでしょうかという点をひとつ伺っておきたいと思います。
  25. 大島靖

    大島公述人 ただいま先生から御指摘のように、公害問題についての世論の盛り上がりと申しますか、まとまり方というものが非常に不十分であるという点、先生御指摘のとおりだと思うのであります。その点が私ども先ほど意見として申し上げましたように、もっと国民市民の側において公害の科学的、技術的な実態を認識すること、それによって公害防止の世論をもっと盛り上げることが必要だということを私先ほど申し上げたのでありますが、先生おっしゃるとおりのようなむずかしさはあると思います。それは何と申しましても公害の問題というのが、たとえばある工場から排出される公害の各種の要素が特定の被害者に及ぶという、個々の事業場と個々の被害者というものが直接に結びつくときは至って簡単なんでありますが、公害の現在の大半というものは、先ほど来お話のありましたように、どの煙突から出ているばい煙かわからないけれども、それが市民全体の被害となって出ておる。こういった問題で、被害の原因と被害の結果とが非常にばく然とした形で結びついておるというところに問題があるだろうと思うのであります。今後とも国民市民の側における公害に対する認識をさらに私ども行政の末端にあります者としてはPRしてまいりたいと思います。  先ほど法案についての意見が市のほうから出てこないというお話でございましたが、去る五月、横浜市長、名古屋市長、京都市長、大阪市長、神戸市長、北九州市長の六市長の連名で、指定都市公害対策基本法に関する要望として取りまとめて、政府並びに国会各方面に御提出申し上げておるのでありますが、まだお届けしてない方面がありますれば、早急にひとつお届けいたします。十分御配慮を賜わりたいと思います。
  26. 日比義平

    日比公述人 関係の国会議員の方々にそれぞれ事情を真中申し上げまして、御陳情は申し上げておるわけでございます。
  27. 板川正吾

    ○板川委員 けっこうです。  地方自治体として——特に政府案社会党案で大きく違っているのは、公害行政の一元化という点で違っておるのですね。そういう点で、末端の自治体としては、公害行政が現在非常に多元的なものですから、この一元化について強い要望でもあるかと思うのですが、この一元化について一体末端の自治体として——公害行政というのは、結局私は歴史的に見れば住民の生活防護の戦いなんですね。この戦いの窓口になるのは地方自治体であって、そして地方自治体がそういう住民の生活を守るということ、いろいろの援助をすることは、私は地方自治体の任務である福祉社会の実現ということにも通ずると思うのです。そういう意味では、私は、地方自治体はいまの公害行政が非常に多元的であることに対して非常に困っている点があると思うのです。こういう点に何か強い要望はございませんか。いかがですか。
  28. 日比義平

    日比公述人 先ほども公述の中で申し上げましたように、問題が非常にむずかしゅうございますけれども、われわれ地方におります者といたしましては、強力な一元化の方法をお願いいたしたいということを先ほどもお願いしておるようなわけでございます。それにつきまして、具体的にどれをどうせいということは、われわれはちょっとよくわかりませんので、それは国会なり政府御当局で十分御検討くださって、実情に合うような方法で、皆さん方こそ力を合わせてやっていただくべきではなかろうか、かように考えるわけでございます。
  29. 大島靖

    大島公述人 公害行政の一元化の問題につきましては、政府各省間においても問題がございますし、同時に、私どもで申しますと、大阪市役所の内部においてすら問題があるわけなんであります。私どものほうでは、現在総合計画局の中に公害対策部というものを設けまして、これが総合企画の策定に当たっております。現実公害規制を実施してまいりますのは、衛生局所属の各保健所の職員が参っております。といった形で、たとえばこれを衛生局に一元化する、あるいは総合計画局に一元化する、このように一元化したほうが一見すっきりするようなんでありますが、私は、現状において無理に一元化しようとしてもなかなかむずかしい抵抗が各方面にあろうかと思うのであります。ただ私は、将来の形、将来のあるべき姿としては、やはり公害問題の処理というものは非常に技術的なものでありますから、やはり一定の、相当高度の訓練を経た職員が長期的に専門的に公害行政に携わる、それが中央地方を通じて一本の形で処理されていくというような形に将来なるべきものじゃなかろうかと思います。ただ、現時点においては、各方面非常に関連の多いことでありますから、あまり理論にこだわらずに、将来におけるそういった一元化の展望を持ちつつ相互の連絡を緊密にはかっていくということが肝要であろうかと考えます。
  30. 板川正吾

    ○板川委員 もう一つ大島さんに伺いますが、政府案の十七条に、「地方公共団体は、法令に違反しない限り」、こういう規定がございますが、地方自治体としてこれに何か御意見ありますか。
  31. 大島靖

    大島公述人 実は申しわけないのでありますが、私もまだ十分な研究を積んでいないのですが、私も、この法案を読みまして、その条文に実はちょっと奇異な感じを持ったのであります。私も、政府原案作成者のほうへさらに十分立法の趣旨をただしまして、あれしたい。現在のところでは確たる意見を持っておりません。
  32. 板川正吾

    ○板川委員 以上で終わります。
  33. 八木一男

    八木委員長 島本虎三君。
  34. 島本虎三

    ○島本委員 公述人の皆さん、ほんとうに御苦労さんだと思います。いろいろ有意義な御意見の開陳を感謝いたします。その中から、私は、基本法制定にあたりまして、考え方基本的な問題で理解に苦しみました若干の問題についてだけ伺わしてもらいたいと思います。  島津公述人にお願いいたしますが、先ほどのいろいろな御意見の開陳の中に、経済発展は福祉の向上につながるりっぱな政策である、こういろふうなおことばがあったわけでございます。そのとおりであります。それは否定する何もございません。この基本法の中でいま問題になっているのは、その結果なのでございまして、国が、いわゆる政治と政策の面で取り上げました高度経済成長政策、所得倍増計画の名によって大いに喧伝されましたが、公害が発生した時期から見ますと、この高度経済成長政策、これが行なわれました三十六、七年あたりからのカーブのほうがぐっと上がってきている。こうなりますと、それによって受ける被害のほうは国民であります。経済国民のためにあるものでありますから、そうなりますと、経済だけが発展して、これが福祉につながるりっぱな政策であるというこの結論がすぐ出てこない。その間の調整、調和、この具体的なものが、すなわち今後必要であるものがこの基本法の中に盛られなければならない問題じゃないかと理解しておったのです。したがいまして、私がいまお聞きしたいのは、こういうような状態で福祉の向上につながらないところに公害の発生の一つの原因があり、公害対策基本法がどうしても必要だということに相なったのじゃないか、われわれはそういうふうに理解しておりまして、この点等につきましては、私どもはいま島津公述人のほうから御意見を賜わりましたけれども、その点をどのようにお考えでございましたか、ひとつお伺いしておきたいと思います。
  35. 島津邦夫

    島津公述人 経済政策それ自体につきまして、ただいまの先生の高度成長政策それ自体が問題ではないかというようなお話、その政策内容につきまして、私、ここでいいとか悪いとかいうようなことを申し上げることの知識はないわけでございますけれども、要するに、私が申し上げましたのは、企業企業活動といったものが、単なる私企業の利益追求だけではなくて、そういう企業活動を活発に行なっていって、その結果として、経済全体が国民の生活、福祉に物的な基礎を与えているのではないかということを申し上げたわけでございますが、この法文にもございますように、どんなように経済発展すればいいというのではなくて、やはり経済の健全な発展との調和でございますので、当然その経済政策が適切に運用される、そういう前提に立っての経済発展との調和であるというふうに考えるわけでございます。お答えになったかどうか知りませんが、私はそういうふうに考えております。
  36. 島本虎三

    ○島本委員 おそれ入りますが、もう一つ。  そうなりますと、その中で私ども公害基本法に臨みまして、経済発展島津公述人のおっしゃるとおりだ、こういうような前提の上で聞いているのです。そうでなければならないと思っている。この経済発展との調和が一条に盛られたのがいずれの場合にも問題になるわけでございます。健全なる発展との調和ということです。むしろ経済というものはうんと伸びてもよろしい。経済が伸びても、国民の健康に害を与えるような状態は好ましくないし、あってはならない。はっきり言うなら、私企業との調和をはかりながら経済を伸ばせ、こういうような意味ではないか、こう思ったこともあるのでございますけれども公述人はこの点はいかがお考えでございましたでしょうか。ちょっと唐突なことを申しまして理解できなかったかもしれませんが、経済発展そのものは望ましいことでございますから、それでいい。経済発展しても、福祉の向上につながるのならそれでいいし、そう望みたい。しかし、現在盛られておる経済発展というのは、そういうような意味じゃなくて、調和をはからなければならないのは、国民の健康と私企業発展調和をはからなければならないという意味じゃなかろうか。むしろ、公述人がおっしゃった意味はそういうようなところにあったのじゃなかろうか、こういうふうに思って聞いたところなんでございます。この点は無理であれば、お答え願わなくてもよろしゅうございます。
  37. 島津邦夫

    島津公述人 私、決して、単に私企業立場を保護するために公害対策が少しおくれてもいいといったような意味で申し上げたわけではないのでございまして、やはり私企業国民経済全体にとって、国民経済全体の目的のためにりっぱな活動をしておる。そういう前提に立って、そういう健全な発達をすべき産業界のことも十分に考えて、両方の政策調和点を求めていかなければならないのじゃないかということでございまして、決して私企業の利益との調和をはかるというような考えではないわけでございます。
  38. 島本虎三

    ○島本委員 次に、日比公述人にお願いいたしたいと思います。  先ほど公害のデパートという発言がございましたが、私はそのものずばりだと思っております。私もかつて市会議員をしておったことがあるのでございます。そして都市の視察に参った。その視察の目標の中に四日市が入ったのがございまして、参りました。その際、名前は忘れましたが、市長さんが出て説明なすったそのことばの中に、これは昭和二十四年のころでございましたけれども工場誘致そのほかこういうような他の企業を誘致することによって四日市発展を期さなければならないし、四日市はこれ以外に立つ方法がないのだという力強い宣言的な決意を承ったことがあるのでございます。その後、今度起きてきたのが四日市ぜんそくなるものであり、いわば公害でございまして、この点等を見ますと、自治体の企業誘致そのものと、この公害発生源というものは、これは考えながらやるのでなければ、一方的な企業に有利なような擁護になってしまう。そうでなければ、誘致しても、市民がおそらくは担税能力を失うほど今度はもう困ってしまうような状態におとしいれてしまう。私は、そういうふうに思って、いま昔のことを思い出しながら次の点をお聞きするわけでございますけれども四日市ほど経済の健全なる発展との調和ということで悩んでおられる市はないのじゃないか、こう思うのでございます。この点、第一条と八条にある経済とのいわゆる調和ということば、これをつけることの提非についての率直な御意見を、実感を持って承りたいと思うのでございます。
  39. 日比義平

    日比公述人 四日市のことをいろいろと御心配願っておりまして、非常にありがたく思う次第でございます。  先ほども公述申し上げましたように、一体公害対策基本法案というものはどこから出発したかということになりますと、市民が非常にそれがために苦しんでおるという時点がこれは出発になっておる。かように考えますので、企業との調和も大事ではございますけれども、まず健康保持が優先さるべきではなかろうか。かように考えまして、第一条はそういう誤解されやすい字句は必要ではないのではなかろうかということを先ほど御答弁申し上げたとおりでございます。
  40. 島本虎三

    ○島本委員 なるほど、その一点でよろしゅうございます。日比公述人に対しましての質問はこれで終わります。  池尻公述人にちょっとお伺いしたいと思います。それは、私は、簡単なことなんでございますけれども公害対策委員会またはその他の委員会で被害の状態をいろいろ報告を求めたことがあるのでございます。一番被害がありながらも解決がされないままに放置されておるのが、いわゆる水質的汚濁によるところの漁業被害であった。こういうように思っておるのでございます。この解決されない原因をいろいろ探求してみておるわけでございます。私なりに率直に申し上げますと、漁民そのものも、単位漁業協同組合の指導者のあり方も、だんだんこういうような一つの被害を累積さしてくるような傾向があるのじゃないかと思うのでございます。酒二升で示談に応じてみたり、あるいはまた単なる涙金ほどの見舞い金に応じてみたり、そしてあとになって声が大きくなるとまた再発してくる。こういうようなことになって、依然として被害は被害として解決のされないままに残っておるのじゃないか、こう思っております。ところが、それも解決された中に入って報告書が出ておるのでございます。これは完全に解決されたことになって、どのような解決かと思って調べましたところが、酒二升くらいの示談に応じているところもあると聞いておる。こういうような状態では、解決されたその中身も、ほとんど解決ではないという解決があるのじゃないか、こう思っておるのでございますけれども、こういうような方面の指導並びに今後の考え方等については、漁業の場合は水質汚濁の面等を考えてもまことに重大な問題があると思いますが、公述人はこの点はいかがお考えでございましょうか。
  41. 池尻文二

    池尻公述人 きわめて重大な問題の御質問がございましたが、確かに末端の漁業者の間には、この水質汚濁と取り組む一つの態度といたしまして、御指摘の事例等が多々あったことだろうと思います。そこはやはり漁民の貧しきからくる一つの帰結でもなかったのだろうかと考えますけれども、私どもも、やはり末端の指導の面には姿勢を正しまして、やはり単に騒いである程度金を得ればそれでいいのだというような漁業者というものは、自分の漁場というものの将来をどういうような立場からこれを見守っておるのだろうかという基本的な態勢がないのではないだろうか。そうでなくて、やはり構造改善だとか、あるいは現在の日本の国民の食生活の需給のバランスから、いかに畜産の振興を叫びましても、たん白給源というもののあれには限りがございまして、四面環海の日本は魚食というものが非常にとうとばれる。そういう立場から、鋭意国民の食生活に好まれるものを自分たちも自信を持って、沿岸漁業者というものは工業発展の前に、あるいは日本の近代化の前に消え去っていく、そういう運命論者的なものではなくて、私どもも十分に漁場を愛し、漁場を守り、そしてこの漁場を価値あらしめる努力をするならば胸を張って生きられるのだというような、一つのりっぱな主張というものを植えつけなければならないのではないか、かように考えております。と同時に、これもまた組織の悲しさと申しまするか、たとえば工場誘致というような県政の一つの至上命令があるということになりますれば、漁協を支配しておりまする幹部というものは、何らかの形であるいは市政へあるいは県政へというようなつながりという立場を非常に重視いたしまして、本問題を本質的な解決ではなくて、いま先生が御指摘のようなことであるいは手を打ったというような悲しい実例等もあるということを私も率直に認めざるを得ない。かように考えておりまして、今後私どもも十分なる指導——あまり無理なことを言うだけが能ではないのでございまして、やはり正しい解決のために十分なる指導をしていかなければならないのではないか、かように考えております。
  42. 島本虎三

    ○島本委員 ありがとうございました。大島公述人にちょっとお伺いしておきたいと思います。  先ほど、法制定を必要とし、早くこれを制定してくれ、こういうようなことがございました。大阪等につきましても、川崎、横浜等を通じましても、公害そのもののいろいろな害悪と申しますか、被害というものは十分おわかりだと思うのです。私どもがいま苦労しておりますのは、やはり法制定をわれわれも期待するわけでございます。しかしながら、早くこれを制定し、不完全なままにこれをやるということは、政策欠陥をそのまま認める隠れみのになるおそれがあるから、皆さんの御意見を承ったり、またこれをどのように修正したり、またどのようにして国民の健康を守るためにするか、第二次産業を守るための基本にするかということの考えがあるわけでございます。具体的な立法に対する考え方なしに、単に早く上げろということは、政策欠陥の隠れみのにされるおそれがある。こういうふうにわれわれは危惧しておるわけなんです。貴重な皆さんの御意見もいま承っているわけです。早く上げるということはこういう危険もあるのでございますけれども、多年行政の経験者として、あるいは労働省の中でも重きをなしておられました大島公述人のほうから、ただ単にそういうようなことが言われますと私も困惑するのでありますけれども、そういうようなことを考える必要はないとお考えですか。
  43. 大島靖

    大島公述人 もちろん十分な御検討の上の国会の意思決定でございますから、もちろん重要なことでございますが、ただ私ども末端の行政に従事いたしております者としては、何らかの形でこの機会をのがさず基本法の制定がもしできますれば、各方面こぞって公害防止の方向に出発、努力ができるのじゃないかと思って非常に期待をいたしております。どうか国会におきまして十分御議論の上、一日も早く基本法ができますように期待し、お願いを申し上げたいと思います。
  44. 島本虎三

    ○島本委員 最後に、加藤公述人のほうにお願い申し上げたいと思います。  加藤公述人には先ほどいろいろ御発表ございましたけれども公害審議会の委員もされておる、こういうようなことでございます。公害審議会の結論に基づいていろいろ厚生省が試案なるものを作成し、各省連絡会議のほうでまた原案なるものも作成し、産業界意見を取り入れたと思われますところの政府原案となって、いまこの公害基本法審議されておる最中なのでございます。その原案の原案が公害審議会の御意見、答申であったとわれわれ思っておるわけでございます。あの公等審議会の答申は満場一致じゃなかったか、こう思います。それと同時に、あるいは無過失責任をうたっておった。こういうふうに思うのですが、それでなくてもよろしいというような御意見があったように思いまして、そうだとすると、委員であるということを言ったのと何か私は矛盾するものを感ずるのでございますけれども、満場一致であったということ、それが厚生省原案の一つのもとになった、いま政府案が出ましたら加藤委員のほうからこれを載せなくてもいいという御意見があったこと、この三つを考えますと、その理解に私は苦しむのでございますけれども、この点を解明願いたいと思います。
  45. 加藤一郎

    加藤公述人 公害審議会では中間答申と第一次答申と二回出しておりますが、中間答申のほうでは無過失責任ということをはっきり書きました。第一次答申というあとの答申でございますが、こちらのほうでは無過失責任はむしろ一応当然のことであろう、それで受忍限度という考え方をはっきりさせるということを正面に出しまして、無過失責任ということは説明の中に入れたわけでございます。先ほども申し上げましたように、私は無過失責任ということも重要ではあるけれども、今日ではほかの違法性とか因果関係の問題のほうにむしろ公害の重点があるというように考えているわけです。私もその無過失責任ということがはっきりすることが望ましいと思いますけれども、ただ、立法技術としてはなかなかむずかしい点があるように聞いております。つまり民法で過失責任の原則をうたっておりまして、その特則として無過失責任ということを書くためには、無過失責任の範囲がどこまでかということを相当厳格に検討しなければならない。事業者だけに限るのか、事業者以外にも及ぶのか、あるいはどの程度の範囲に被害が及んだ場合に無過失責任になるのかというようなことで、最初公害審議会の議論のときから立法は相当困難である、やはり相当の検討をしなければ立法はむずかしいということは一応承知の上で、ああいうものをつくったわけでございます。  なお、公害審議会は御承知のように厚生省に付置されているものでございますが、厚生省の立場でものを言うということではなくて、やはり全体を見て意見を述べているつもりでございますが、これが各省の折衝その他のいきさつを経まして、厚生省の原案というものは必ずしも通らないということは、これはいまの機構の上からやむを得ないことだというように考えております。
  46. 島本虎三

    ○島本委員 重ねてお伺いしますが、もしそう書かなくてもよろしいということになりますと、現実の面といたしまして、被害者が発生した場合において、やはり加害者と思われるそういうような事業者、こういうような方面でいわゆる加害者といわれることをおそれて、当然科学的な原因であればあるほどに、それを深くきびしく追及するようになり、それに時間がかかり、いわば責任のなすり合いに終わってしまうおそれがある。そういう事例が現在あるわけであります。そういうふうになりますと、えてしてこういうようなことのために被害者の救済が行なわれないおそれがあるのじゃないか、ほんとう被害者の救済という立場に立って考えるならば、当然これは書かなくてもできる。しかし、その原則は認めるとするならば、それをうたっておくのが一番いいのじゃないか。私は簡単ですが、そう思うのでございますけれども、現在までの事例、そういうものからしてそういうおそれはございませんか。
  47. 加藤一郎

    加藤公述人 私も書かないほうがいいと言っているわけではございませんで、被害者の救済の問題は将来の立法に残されているということでございますので、その中で十分検討の上適切な立法がなされることを希望するわけでございます。  なお、現在の被害者の救済につきましては、私はもう少し訴訟を起こして救済を求めたらいいというように思うのですが、なかなか訴訟を起こされないわけです。これは金とか時間とかの問題もあると思うのですが、現在の裁判所では相当広く救済を認めるであろうということを私は考えているわけです。つまり、この場合は事業者に過失がなかったから賠償責任はないという判決は、私は戦後にはほとんど見ていないわけでございます。訴訟になります事案は騒音、振動関係が多くて、水や大気の場合には因果関係の問題があってなかなかむずかしいものですから、訴訟になるのが少ないわけですが、訴訟になれば、裁判所は事業者が無過失だから責任なしということは言わないであろうというように思うわけです。この点は、昔、大正五年に大阪アルカリ事件という事件の判決がございました。これは大阪府の大阪アルカリ会社というのの煙突の煙で農民が被害を受けた事件でございますが、大審院は、大阪控訴院で賠償責任を認めたのに対して、企業として相当の設備、注意をすれば責任がないという、過失責任の原則に立った考え方で破棄、差し戻しをした事件でございます。この事件でも、差し戻し後の大阪控訴院では、やはり相当の注意を尽くしたとはいえない、いまの程度の煙突の高さでは不十分であるといって、やはり責任を認めた判決をしております。これは、大審院の考え方は過失責任の原則に立っておりますが、それもしかし実際に適用してみれば、やはり責任あり、過失ありとされる場合が相当多いだろう。それから、その大正の初めの時代と今日とではやはりものの考え方、それから学説なども変わってきておりまして、公害の場合には、無過失責任を理論的にも、別に立法がなくても無過失責任と同様の結果は認め得るということを私たちも主張しているわけでございまして、その点で今回直ちに無過失責任の立法がなされなかったからといって、被害者の救済に欠けるところがあるというようには考えておりません。
  48. 島本虎三

    ○島本委員 あとは簡単に済ませますが、この点はぜひ聞いておきたいと思うのでございます。それは、環境基準が設定されることについて大いに称賛されておったわけです。この点は私どもも異議がないのでございます。これに対してちょっとお伺い申し上げたいのは、たとえば二〇PPM設定してこれに賛成だとすると、排出基準を一〇PPMにした。こういうふうにしますと、実験で一〇〇PPMになる場合、これは環境基準をきめてしまった場合には、それを称賛するに値するかどうかということは、今度は排水基準、全部集まった場合にそれを超過してしまった場合のこの排出基準を、今度は環境基準のほうをきめてしまった場合には自由にこれは操作できるかどうか、変えられるかどうか。問題は、たくさん集まれば、ほんの些少の排出であっても大をなすことになりますから、その被害が大きくなる。単に法律できめたことが称賛に値するのじゃなくて、実際はそこから大いに排出される汚水だとかばい煙、こういうようなもののための被害が重要になってくるわけでございます。この場合に、いかがでしょうか、この環境基準をきめるということ、これが排出する基準の制定に対しては自由に変えられるようにお考えでしょうか。それとも、きめてしまった場合には、やはりそれだけ出せばいいじゃないかということで、なかなかこの点排出まで及ぼすことは現在めんどうなんじゃないか。もしそうなった場合には、これはもう悩みの種になるおそれがあるということをわれわれは心配するのでございまするけれども、この点いかがなものでございましょう。加藤公述人に。
  49. 加藤一郎

    加藤公述人 環境基準と排出基準との関係でございますが、御承知のように環境基準はそのまま事業者規制する基準にはなり得ないわけでございまして、事業者規制するためには環境基準をいわば排出基準に翻訳をいたしまして、出口で測定をして押えなければならないわけでございます。  それで、いまの御質問の趣旨は、排出基準は一応きめてやってみたところが、それで環境基準をこえた。もっと排出基準をしぼらなければならないというような場合に、それが自由にできるかという御趣旨だと思ってお答えをいたしますが、この点は理論的に申しますと、環境基準に合わせるために排出基準をきびしくする、締めていくことについて別に障害はない。その点について事業者に既得権、これまで従来出していたからそれまでは排出が許されるんだという、そういう既得権はないというように考えていいと思います。これは外国の例を見ても大体そういうように考えておりまして、それを締める場合に別に補償とかそういう措置は要らないというように考えているようであります。私もそう思いますが、ただ実際問題として、ある排出基準がきめられまして、その程度までに押さえるような設備をしてやったところが、今度は排出基準が締められたために設備を更新しなければならないというような場合には、設備投資のむだ、損失ということが起こるわけであります。ですから、やはり実際問題としては、排出基準をきめる場合には相当慎重でなければならない。最初からやはり少し先を見越して排出基準をきめておく。それから、そう簡単に朝令暮改で排出基準を変えていくということはしないことが実際問題としてはやはり必要であろうというように考えております。
  50. 島本虎三

    ○島本委員 いまの意見はまだまだ理解できないのでございます。ただ、排出基準を先にきめてしまえば、これを既得権としないのだ、しかし、やはりきめられたら企業上の問題でございまするから、これを容易に変えるということもなかなか困難性がございます。こういうような点からして、環境基準と排出基準の関係、排出基準をきめたならば、環境基準をいかにそれによって法で締めようとしても、それは容易に動かせないじゃないか、こういうようなおそれを持っておるのです。それを明確に聞きたかったのです。希望的な意見だったように思いまするけれども、これ以上は時間がかかりますので、これでやめます。  皆さんの御答弁を心から感謝いたします。ありがとうございました。
  51. 八木一男

  52. 中井徳次郎

    ○中井委員 たいへんおそくなりまして皆さんに御迷惑でございますので、できるだけ簡略に、私質問をずっと申し上げますから、御答弁をお願いしたいと思います。なるべく同僚委員のお尋ねと重複しないように、またできるだけ具体的なことをお尋ねいたします。  経団連の古藤さんに。企業も十分責任をこれまで果たしてきておるというふうな御発言がありました。たとえば山口県の宇部におきましては、宇部興産が数年前市民と一緒になりまして積極的に公害問題に取り組まれて、敬意を表しておるのであります。ところが、こういう事態は日本じゅうには実はあまりたくさんないように思います。あなたは責任を果たすとおっしゃっておる。まあお立場もおありでしょうけれども、そこで承りたいのですが、東京付近でここ二、三年の間にそういうふうにみごとに企業責任をお果たしになって公害を排除をされたような事例がありましたら、東京付近で二、三点お伺いをいたしたい、かように思います。  それから京都商工会議所の島準さんにお尋ねをいたします。これはお尋ねというよりも私の意見も含めてでありますけれども経済発展が上位、下位という御表現がありまして、そうして経済発展が下位になっては困るというふうなお考えから、やはり経済の健全な発展との調和をはかるという文句が要ると、こういうふうな御説明であったと私は思うのですが、私どもが心配をいたしまするのは、何といいましても戦後今日まで日本は産業の復興に重点を置いてやってきました。したがって、住民の暮らしが、第二義的になってきた。それを戻すのが今度の基本法であるという基本的なかまえからいいますると、ああいう文句を入れなくても、現在においてすでにはなはだ企業者側、事業者側というものは、はっきり申しまするとやはり上位、保護されておる。それについて先ほども板川君から御発言がありましたが、公害被害者側の人は全国の消費者団体みたいなものでありまして、なかなかまとまりが実際問題としてできない。そこでその力関係を私どもが調整する、そのために基本法が要る。別に事業を排斥したり企業を敵視したり、そんなつもりは全然ございませんが、そういう意味から、ああいうものを入れることがやはり心配である、こういうことが四日市の議長さんの公述にもございましたし、また、漁業協同組合池尻さんの公述にもございました。あれに私ども賛成をしたいと思うのですが、その点におきましてそこまで御心配なのかどうか。京都の知事さんは革新だし、市長さんも今度革新だし、まあまあころばぬ先のつえで、慎重に考えて、そこまで入れておかぬと困るというふうな、これはざっくばらんな話ですが、お考えなのか。その辺のところは私どもとどうも判断が違うように思います。私どもはそういう文句を入れなくても十分そんなことはもう当然のこととして——諸外国の法令にはそういう文句はあまり入っておりません。したがいまして、その点でいささかこだわっておるのですが、島津さんの御見解を伺っておきたいと思います。  それから四日市日比さんに。御説明の中で、ある施設が五十億をかけて脱硫装置を計画しておるということ、たいへんけっこうだと思います。これはどういう会社がどういうふうな計画で、いつから始めていつ完成するのか。五十億とすれば、たいへんな金額だと思いますが、その具体的な事実を、御説明があったからには事実あると思いますが、どういう会社が、どういう計画か、いつごろまでにできるのか。これは実はこの委員会におきまして、先年出光興産がこういう計画をされて、姫路に石油コンビナートを持ってくるかこないかで非常に論争になりまして、出光さんはとうとう姫路に工場を置くことをあきらめられた事件があるのでございます。その中にも、この脱硫装置をやるからということで、それが効果があるかどうかという議論が大いにありましたので、きょうは議論を吹っかけるわけではございません。この具体的な計画について、議長さん御承知でございましたら、それを承っておきたいと思います。  それから大阪助役さん、大島さんですが、私はいつも隅田川の濁っておることをしょっちゅう国会で論争の対象にするのでございますけれども大阪の川とて、安治川なりなんなり、中之島を通りますとたいへんなことであります。川の都であります大阪市でございますが、この辺のところで淀川上流において、柱川なり、加茂川なり、木津川なり、そういうところで大いに浄化装置でも徹底的にやって、あの水の都の大阪をきれいにするというふうな意欲を市としてお持ちであるかないか。私はもう少し何か、陰気なことじゃなくて、公害基本法出発にあたって大いにやはり明るい面もひとつやってみたらどうだ。ロンドンでは、英国はテームズ川をひとつやろうじゃないかというので、聞いた話でありますけれども、支流に大きな装置をいたしまして、いまきれいになって白魚も昔のように大いになにするようになったということなんでございます。隅田川もそういう計画をするとかせぬとか言いながら、オリンピックのときに荒川から水を流して何かごまかしておる。公害を出しておりますそういう汚水の原因であります工場の数もみんなわかっております。幾つあってどうなっているか。これはわからぬ、わからぬとしょっちゅう言われますが、そんなの違うんで、みんなわかっております。四千何百というようなことまでちゃんとわかってます。それを押えていけばいいわけでありますが、もう少し明るいことを市として御計画になる御意思はあるかないか。大島さんお役人でございますから、一級河川ですから建設省でございますなどという返事をなさると、私も困るのですが、そういうことじゃなくて一そういうことなら、市は大いに運動でも起こしてやるというふうな意思がおありかどうか。この辺のところを、何もやらなかったからどうこうというわけではありませんが、積極的な明るい話も聞かしていただきたいと思って伺っておきます。  それから最後に加藤先生に、一昨年かも一度伺ったことがあるのですが、それと多少関係がありますが、先ほどの御説明の中で、社会通念上因果関係ありと判断されました場合には、まあ一応それを判断の材料としてそれを認めてやっていく。こまかいこと、あるいはきちっとした責任というよりも、そういう社会通念上の因果関係で押えていったらどうだ、こういうお話がございまして、私、全くその御意見のとおりでありまするし、傾聴いたしたのでございますが、その場合にさらに一歩を進めまして、ちょうど最近自動車事故なんかの場合には、まあ具体的にそこに事故があるわけでありますが、そういうものに対して損害賠償その他を取る場合に、まず損害をかけていく、それで自分のほうに責任がなかったら自動車の所有者なり運転者なり、そういう者から、責任のないという挙証責任をそちらのほうの側からあげていく。こういうことを——私、法的に正確な表現がちょっとしにくいのですが、近ごろ不勉強で申しわけないのですけれども、挙証責任といいますか、そういうものをいわゆる加害者側に与える。損害賠償幾らせい、それはする必要ない、する責任はないと言うのならば、責任のないという証拠をそういう加害者側にあげさす、そして裁判にしていく。こういう形ができれば非常に前進をするというふうにしろうと判断で考えるわけでございますが、この点についての加藤先生の御意見を承りたいと思います。  以上五つでございます。よろしくお願いいたします。
  53. 古藤利久三

    古藤公述人 私に御質問ございましたのは企業責任に徹しておるかどうかということのようでございますが、私申しましたのは、その企業責任ということを企業は最近痛感しつつありまして、この公害基本法につきましても全面的に協力していこうということで固まっておるわけでございます。先ほどもおっしゃいましたように、宇部のあの公害の問題が非常にうまく解決されたのは、結局宇部興産が非常に公害防除技術の研究に投資をいたしまして、非常な投資をして、そして新しい防除技術を発見された。こういうことが前提になっておるわけでございまして、やはり前向きに問題を解決するには、企業側がそういうふうに自分のところの公害とおぼしきものについての防除対策を技術的に科学的に研究する。それが非常に役に立つわけでございまして、あの例が示しまするように、やはりその公害防除のための研究のための準備金だとか、あるいは税制上の優遇措置をとるとか、そういうことに力を入れていただくことが実際の公害問題を早くなくす原因になりやしないかと存じます。  東京の都内で、しからばそんなような例があるかというお尋ねでございますが、私、不勉強でしてよく知りませんですけれども、しかし、東京電力あたりは相当に資金を投じて煙突も高くしておりますし、集じん装置もつけておりますし、少なくともその煙突の煙からくる空気汚染の程度は格段によくなっているはずじゃないかと、私はそう思っております。同じようなことが、いろいろな工場でいま集じん装置なんかつけておりますので、それぞれ何十億という公害防止のための投資をやっておりますので、企業家の大部分はやはりこの問題については真剣に対処しておると、私はそう思っておるわけでございます。東京の具体的な例というのはこれしか私ちょっと存じませんので、お答えになったかどうかわかりませんが、一応これで……。
  54. 島津邦夫

    島津公述人 経済発展との調和の問題でございますが、私ども、両方の要求というものを現実に適切に調和させていくということがやはり必要だと思うわけでございます。先ほどの先生の御質問で、こういうふうなものがなくてもいいんではないかというようなお話でございますけれども、これはいきさつから申しまして、最初厚生省の原案が内閣の連絡会議に出たことがございますが、そのときには国民の健康と福祉の保持が、事業活動その他の経済活動における利益の追求に優先する。つまり、健康のほうは別といたしまして、福祉の保持が事業活動その他の経済活動における利益の追求に優先するというふうな表現になっていたと思うのですが、私ども産業界といたしましては、過去の経済活動というものが私益の追求だけをやっているというふうに、そういう認識がこういう原案をつくったところにあるのではないかというような感じがいたしまして、その点は率直に言いまして産業界としましては非常に頭にくると申しますか、そういうふうな感じがするわけでございます。そうじゃなくて、もちろん企業の運営のしかたにもよりますけれども、やはり企業の活動というものが健全に行なわれるならば、その生活環境の保持と同じように国民全体の福祉に寄与するわけなのでございますので、もしかそういう誤った企業観念というものがあるということは、これはやはりいけないんじゃないかというふうに思っているわけでございまして、そういう意味でこれを掲げておることが企業の健全な発達にも貢献することになるし、この公害規制措置も適切に行なわれるということにもなるのではないかと思うわけでございます。すでにばい煙の関係あるいは工場排水法でございますか、そういったような法律にも同様な趣旨が規定されておるわけでございまして、この際この基本法でそれが削除されますと、その考え方が変わったというようなことになるということをおそれるわけでございまして、やはりこれはここに規定することに十分な意味があるのではないかというふうに私どもは思うわけでございます。
  55. 日比義平

    日比公述人 お答えいたします。先ほどの五十億円で重油から直接の脱硫装置を現在考えておる会社は大協石油株式会社でございまして、昭和四十二年度、四十三年度の二カ年にわたってそういう改良をいたしたい、かように聞いておるわけでございます。これは先ほどお話のございました出光さんがアメリカから技術導入をされたのとよく似たような方法らしゅうございますけれども、大協さん自体の技術でおやりになっておる、かように聞いておるわけでございます。その結果、亜硫酸ガスの排出濃度が現在の少なくとも二分の一に減るのだ、こういうふうなことがいわれておるわけでございます。  先ほども基本法の根本は健康第一だということは申し上げましたけれども企業もこのように巨額の費用を投じて努力をいたしておるわけでございますので、先ほど公述申し上げましたように、何らかの方法によって国においてそういうことがやりやすいようにしてやっていただくということがうらはらでございますので、その点は十分お考えおき願いたい。健康第一だから何でもいいのだということでは決してないのだ、それにはこういう国としての裏づけとしてやる責任があると私はさように考えますので、私の申し上げましたことをふえんしてお願いする次第です。いろいろ議論しておる中にも公害に苦しんでおりますのが現状でございますので、どうぞひとつ一日も早く本案の成立に御努力をお願い申し上げたい、これが地元民の切なる願いでございます。
  56. 大島靖

    大島公述人 大阪は水の都と昔からいわれておるのでありますが、現在大阪の川の代表的な道頓堀川をごらんいただきますと、くさい、きたない、不衛生、まことにお恥ずかしい次第でございます。たとえば道頓堀川がよごれます原因は、一つは上流の寝屋川の汚濁からまいっております。もう一つは、沿岸のごみ及び下水の不法投棄であります。上流の寝屋川の問題につきましては、昭和四十年度から寝屋川流域一帯にわたります広域下水処理計画が進んでおります。ただ、下水処理の問題は相当な年月日がかかるわけでありまして、百年河清を待つということばがございますが、百年もかかりませんけれども相当年月がかかるわけであります。それの完成まで待つわけにまいりませんので、ことに万国博覧会等も控えておりますので、当面できるだけ道頓堀川を浄化することにいたしたいということで、一昨年来沿岸の下水、ごみの不法投棄を防ぐ意味におきまして道頓堀川の両岸の護岸工事に着手いたしまして、おそらくこの秋には完成するであろうと思います。グリーンベルトを持った護岸工事が完成いたします。と同時に、これができますと、私の考えとしましては、条例をもって不法投棄を厳重に規制する条例をつくりたいと思っております。川のごみとか、下水の流れ込みというのは、どの家が流したのか発見するのが非常にむずかしい問題でございますから、私どもの考えといたしましては、道頓堀川の川のある区間区間を網で仕切りまして、それによって一定時間おきますと、そこにごみが滞留いたしますから、それで大体不法投棄者の範囲がしぼられてくる。そういう方法をもって規制をいたしたいと思っております。と同時に、寝屋川が淀川に入ってまいりますところ、さらにこの両方の川が大阪市に入ります大川の二つの水門の操作によりまして、潮の満干潮の差を利用いたしまして道頓堀川のブラッシュアップをいたしたいと思っております。もし、これによってまだ浄化ができない場合は、酸素注入法という方法、これは京都大学の研究によるもののようでありますが、これを実施いたしまして汚濁を薄めてまいりたいと思っております。先般、先月でありましたか、私どもの道頓堀浄化計画を聞きまして、アメリカのほうからやはり同じような浄化手段の売り込みがまいっておりますが、京都大学の方法で十分であろうかと思っております。  以上のような方法を講じまして、先ほど来先生御指摘のような水の都としての大阪の河川浄化、もし道頓堀川で成功いたしますれば、引き続き市内の各種河川に及ぼしてまいりたいと思います。明るい話題ということでございましたが、アユが泳ぐほどの川にはまだなりませんが、せめてフナでも泳ぐような道頓堀川にいたしたいと努力いたしております。どうか御援助を賜わりたいと思います。
  57. 加藤一郎

    加藤公述人 ただいま挙証責任の転換についてお話がございました。自動車損害賠償保障法の例をお引きになったのでありますが、自賠法できめております挙証責任の転換は、過失の有無についての挙証責任の転換でございます。そこで、たとえばAの運転する車が事故を起こしたという場合に、Aに責任を負わせるかどうか、Aの車だということがはっきりわかっている場合に、Aに過失がないからといって責任を免れさせるわけにはいかないということで挙証責任の転換をいたしまして、事実上無過失責任に近づけたわけでございます。ところが、ひいた車がAの車かBの車かわからない。ひき逃げされてどうもAの車らしいというような場合に、はっきりわからないのに、因果関係の点でございますが、Aの車かどうかはっきりわからないのに、そこで因果関係について挙証責任の転換をするということまでも自賠法はいたしておらないわけでございます。それはやはり適当ではないだろう。つまり、ねらい撃ちをされた車が、自分がひいたのではないということを実証しなければ責任を負わされるというのはどうも穏当ではないのでありまして、諸外国の例を見ましても、因果関係の点まで挙証責任を転換しているという例はないように思います。これは自動車ばかりでなくて、公害の場合でもやはり同じことがいえると思うのでありまして、どの工場がやったかわからない、あるいは今度の阿賀野川事件のように、昭和電工の工場なのが、あるいは農薬が流れ出したのかよくわからないというような場合に、その因果関係の点で挙証責任を転換して事業者責任を負わせるということは、やはり穏当ではないように思われます。私が先ほど申しましたのは、そういう因果関係の点について、つまり因果関係がないということを立証しなければすべて責任を負わされるというのは困るのじゃないかということでございまして、さっきおっしゃいましたように、社会通念上これはどうも因果関係がある確率が大きいということであれば、その場合には責任を認めてもいいのではないかというのが私の考えでございます。つまり、刑事はちょっと別ですが、民事事件の損害賠償をとらせるかとらせないかという問題は、原告を勝たすか被告を勝たすかという問題であります。ですから、損害賠償を求める原告の側に歩があれば、そちらの確率が大きいということであれば、それで賠償を認めていいだろう。だから因果関係の点は挙証責任を転換しなくても、いまの社会通念上因果関係があるということで責任を認めていけば、それでいいのではないかというように思うわけであります。  これはたとえばアメリカの例を見ますと、アメリカではそういう事実関係がどうなっているかということについては陪審員がきめるわけですが、陪審員はしろうとの人が出ていきまして、結局常識的に見てこれは因果関係がありそうだということなら、陪審員が責任あり、というわけです。これは陪審でなくても、わが国のように普通の専門の裁判官がやっている場合でも、やはり考え方は同じで、つまり裁判官の、人間として常識的に見て、これは因果関係がある確率が大きいと思えば、法律的には、民事上では因果関係ありとして扱っているだろうというのが私の考えでございます。  なお、いまの阿賀野川の事件の問題と、それから四日市で、あるコンビナートがありまして、十ばかりの工場がある。その十のどこから煙が出たかわからないけれども、十の中のどれか一つに間違いないという場合は、ちょっと問題が違うと思うのですが、この場合、民法七百十九条に共同不法行為の規定がございまして、その十の工場の中のどれかがやった、しかしどれだかわからないという場合には、連帯して責任を負うということがございます。ですから、どこかここらしいというところをねらい撃ちすれば、それで賠償は全額取れるわけでございますが、ただ、公害問題の処理として、そういうねらい撃ちされた工場だけが全額払う、あとは求償はできるわけなんですけれども、そういうことがはたして合理的かどうかという点は、若干立法論としては問題があるわけでありまして、むしろ全体、そこにある十ばかりの工場が全部共同して分割して払う。それぞれ分に応じて、たとえば煙あるいは亜硫酸ガスの排出量に応じてそれぞれ分担して払うというような考え方のほうがいいのではないかと私思っておりますが、現行法では、そういう場合には連帯責任で全額取れるということになっているわけでございます。
  58. 八木一男

    八木委員長 工藤良平君。
  59. 工藤良平

    ○工藤委員 たいへん時間が迫りましたので、私一つだけ経団連の専務理事古藤さんにお伺いしたいのであります。それは企業の秘密主義ということについてどのようにお考えになっているかということであります。  このたびの基本法を見ましても、先ほどから再三議論がありますように、経済の健全な発展との調和ということが問題になっているわけでありますが、企業というものは組織を持ち資本を持っております。被害を受けるほうは全くの個人であり、裸であります。したがって、やはり基本法立場というものは、そういった被害者の健康を守るということがまず大前提であるということについては、皆さん方も変わりないと思うのであります。ただ問題は、企業の内部におけるたとえば労働災害あるいは事故、こういったものが大事故でありますれば表面に出ますけれども、小さな問題についてはほとんど表面に出てまいりません。ところが、一般的にいま科学の発達あるいは産業発展ということが全体的に大きな公害という問題を起こしているわけでありますけれども、そういう観点から考えてみまして、特に技術に対する考え方というものが、現在の産業界の中でどのように考えられているのだろうかということを非常に大きな疑問として見るわけであります。本来技術というものは、やはり人間の生活を豊かにするということが前提条件であろうと私は思うし、したがって安全性ということをまず第一義に考えなければならない。安全性を考えない技術というものは技術ではない。私はこういうような気がするわけで、したがって、先ほど専務理事さんのほうからお話がありましたが、公害が起こるその原因を追及するという過程の中において、やはり企業の秘密主義というものが原因究明をおくらせ、さらに被害を拡大するということになるのではないだろうか、こういう気がするわけなんで、その点について一つだけ御意見を聞かしていただきたい、こういうように思います。
  60. 古藤利久三

    古藤公述人 企業の秘密主義ということをおっしゃいましたのですが、新しい技術を生みまして、これをデベロップしていくということは産業発展の根本でありますし、ことに資本の自由化というふうなことになってまいりますと、どんどん外国の技術も入ってき、またそれと対抗して競争しなければならぬ。その場合に、やはり技術の発展を来たすためには、特許法もございますように、技術というものはある程度開発したものに独占性を持たせるということによって技術の発展ということがあるわけでございますから、したがって、ある程度開発した技術に対する秘密主義というものが企業にあることは事実でございます。またそれが一つの企業を、技術を発展させるためのプロモーターとしてそういうものが必要であると私どもは思うわけでございます。ただ問題は、公害なんかの問題に関係しましては、ある技術が社会一般にどういうような悪影響を及ぼすかどうかという問題につきましての究明のほうの技術が非常におくれておる。特に防除技術というものは、ごく最近になって各企業ともほんとうに真剣になって防除技術のための投資をし、内部で研究をしてやってきているわけでございまして、これはおっしゃるように並行して、新しい技術を開発をすると同時に、企業の社会的な責任からいっても、新しい技術によって社会にどういうふうな影響を及ぼすかというところまで考えて、もし悪影響があるとすれば、それを防除するところまで技術的な開発をやらなければならぬという問題があるわけでございますが、残念ながら、いままでのところは、その辺の新しい技術の及ぼす影響をあらかじめ防除して、そういう安全性のある技術として確立するというまでの努力が足らなかったことは、確かにそういう点が欠陥があると思います。これにつきましては、したがってやはり公害防除のための研究というふうなものにつきまして、特に国がその助成をしていただくとか、あるいはさっき申しましたような金融とか税の面で相当の考慮を払っていただく。というのは、このこと自身は企業の直接の利益、つまり能率に直接関係しない問題でございますから、したがって、どうしても企業者の責任としては第二義的に考えがちになるわけです。したがって、それに対してある程度の刺激を与えていただいて、これがやりやすいようにしていただくということが、やはり公害基本対策を進めていく上に重要なことではないかと思うのでございます。先ほども申し上げましたように、公害基本法はできましても、結局その防除技術の改善ということが行なわれませんと、ほんとうに的確な防止ということが困難なのでございます。ぜひそういう方面に大いに政府並びに国会のほうで政策推進されるように御考慮願いたい、こう思っております。
  61. 八木一男

    八木委員長 吉田之久君。
  62. 吉田之久

    ○吉田(之)委員 先ほど来社会党の方々からずっと御質問があった、わけでございます。たいへん時間が長引いて恐縮でございますが、民社党のほうからも少し御質問したいと思います。  実は先ほど来各委員公述人の方々が、国民の健康を守ること、このことは絶対的なものであるという点では全部が同じ御意見をお述べいただいたように思います。ところが、生活環境の保全と経済の健全な発展、これはひとつ調和をはかりながら前進しなければならないのだというふうなことでいいのだ、事実そのことしかやむを得ないではないか、したがって今度の政府提出法案は妥当なものであるというふうなことをお聞かせいただいた公述人の方々に対して、少し私の考え方を申し上げたいと思います。  私は、国民の健康を守る、これはだれしもが絶対的なことと認めるのは当然でございますけれども、しかし、われわれがこの公害対策基本法をつくろうとして公害問題を論じながらいま問題をしぼって検討しなければならないことは、ただ単に個々の人間の健康をどうするかというふうな問題ではないと思います。それは医学の領域であり、また保健制度の検討すべき問題であります。われわれ公害対策委員会で論じなければならない問題は、国民生活環境、そのことがよってもたらすところの健康の侵害、それをどう防止していくか、問題はここにしぼられなければならないと思うのです。したがって、国民の健康を守る、その絶対的なこと、われわれが論ずる国民のその健康、不特定多数の人たちが公害ということによって生活環境が後退して、そのことによって健康がむしばまれておる、それを守るということ、この二つはイコールの問題である。生活環境をいかに保全するか、このことが絶対的な国民の健康を守る不可欠の要件でございますので、これを分離して、環境のほうは経済調和をはかりながら、しかし人命そのものは絶対的に保護するのだというふうな論理というものは、どうも私の考え方では少し納得がいきがたいのでございます。しかし、われわれも決して完全に澄み切った空気、そして全く静寂な環境、一点の汚濁もない河川あるいは海、そういう理想的な桃源境を求めるために一切の経済の実態を無視するのだというふうなことを申し上げているのではもとよりございません。そこには当然ある程度がまんでき得るところまではがまんしなければならない。しかし、この段階を越えれば健康というものは著しくおかされる、どこで線を引き、どこまでは受忍するか、がまんするか、ここには調和という問題はあると思います。しかしながら、調和できない一定の厳格な基準というものを設けなければ、絶対的な国民の健康は守れない。ならばこの基準というものはきわめて厳格なものでなければならない。決して流動的な、相対的なバランスによって、調和によって事をはかっていこうというふうなことでは守りおおせるものではないというふうに考えるわけなのでございます。あくまでも普遍的な、そしてきわめて科学的なシビアーなものでなければならない。そういうことを考えるならば、生活環境を保全するということは、経済調和をはかり、そしてそれとの見合いにおいて、そこをよろしくバランスをとっていこうじゃないかというふうなことであってはならないし、もしもそういうことであるならば、私は、公害対策を打ち立てる基本というものは根底からくずれてしまうのではないかというふうな気がいたします。そういう点で、特に京都島津公述人さんから比較的明確に環境基準の保全と経済発展とは調和をはかるべきであるというような御意見がございましたけれども、私ども考え方に対してどのようにお考えいただくか。それから加藤先生のほうから、いま申し上げましたようなところにこの基本法の意義がございますので、その一番重要な目的の中で、しかも国民の健康と不可分である環境の保全という問題が、調和ということばで、ここにそういう文言が入ることが私は妥当だと思わないのでございますけれども、専門家のお立場から、さらにひとつ御高見を拝したいというふうに考える次第でございます。
  63. 島津邦夫

    島津公述人 結局、いま先生のおっしゃいましたことを承っておりますと、私どもの考えておりますことと、あるいはあまり違っていないのではないかというような感じがするわけであります。つまり私ども心配いたしますのは、生活環境の保全ということだけを経済の健全な発達ということから切り離して考えますと、いま例が出ましたように、都会において全くいなかのような澄み切った空気を追求するとか、あるいは音のしない町をつくるとかということになることを心配するわけでございまして、それはやはりこの程度のがまんは必要ではないかというお話があったように、それはやはり限界というものがあるわけでございまして、そういうのをどこに求めるか、やはり片方の経済発展がもたらす国民へのいい影響というものとの調和点に求めることになるのではないか。ですから、それが健康の保持さえも危うくするというようなことではならないわけですが、健康の保持というところに問題がない場合におきましては、これは生活環境の保全を絶対的に追求するということはないのであって、これはやはり相対的な問題として解決すべき問題ではないかと思うわけでございまして、どうも私、そう実態の上では違わないように思うわけでございます。しかし、先ほど私申しましたように、企業活動というものは単に利益だけ追求しておって、社会にはあまり役に立っていないのだというような観念があったりいたしますと、これは私どもはやはりいけないことだと思いますし、それから、ここでいろいろ議論がありましたとの問題を、特にいままでの法律には書いてございますような趣旨の規定をここで削除するというのは不適当じゃないかというように考えるわけでございます。
  64. 加藤一郎

    加藤公述人 私は、国民の健康はこれは絶対的である、生活環境の場合には、国民の健康に直接ではなくて間接的に国民の健康と結びついているのだろうと思うわけです。直接に国民の健康を侵害する場合には、これは絶対的に押えなければなりませんが、間接的な場合には、まだ経済の健全な発展との調和ということを考える余裕があるように思われるわけです。  例をとってみますと、川の場合ですと、たとえば隅田川でアユがとれなければならないかというと、必ずしも隅田川でアユがとれなくても、どこかほかにアユのとれる川があればいいのではないか。日本のうちどこをさがしてもアユがとれなくなるのでは困ると思いますけれども、そこは工場のある都市と、そうでないところの河川とで、川の汚染度というのも違ってきていいのではないかというように思いますし、それから騒音というようなことを考えましても、工場地域と住居地域では現在でも騒音の限度が違っておりますし、これは将来もやはり違っていいのではないか。そういうところは、やはり経済の健全な発展との調和ということばは、私はあまりことばとして感心しないのですけれども、実態としてはいま言ったような考慮が働いていいだろうというように思うわけです。  それからまた、ここで申します生活環境というものは、二条の二項にございますが、「人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含むものとする。」ということで、相当広い範囲を含んでおります。そこで、たとえば漁業とか農業というような別の産業にも関係をしてくるわけでございまして、農業や漁業は絶対に守るということをほかの産業との関係で言えるかというと、この点もやはり問題があるように思うので、その場合には、やはり産業間の調和ということが性質上入ってくるのではないだろうか、そういうようなこともございまして、実態としてはやはり経済発展の中で問題を考えていくのがいい。ただ「経済の健全な発展との調和」と申しますと、何か経済の健全な発展をすると生活環境が阻害されるというように対立的にちょっと読めるわけで、その点はどうもことばとしてあまり適当でないような感じがするわけです。本来経済の健全な発展という中には、当然生活環境の保全ということが中に入りながら調和的な発展をしていかなければならないわけでございまして、ここで言っているのも、おそらく全体としての経済の健全な発展の中で生活環境を保全していくという意味だろうというように読みまして、私は一応これが入っていていいのではないかというように思うわけでございます。
  65. 吉田之久

    ○吉田(之)委員 いろいろ御意見を承りましたが、この第二条の読み方でございますけれども、いろいろ騒音や振動やその他汚濁によって、直接に、個々に、ある日突然ある人には影響を与え、ある人には影響を与えないというふうなことではあり得ないと思うのです。われわれが問題とするのは、そういうものがその一帯の生活環境というものを破壊していって、そのことによっておしなべて——多少の個人差はありますけれども、おしなべて、人たちが健康がそこなわれていく。ここに公害公害たるゆえんがあり、ここに公害をいかに防止しようかという問題があるはずなんです。だから、個々の個人個人の体質に伴うところの、たとえば非常に恵まれた静かな環境の理想的なところに住んでいる人でも結核になったりガンになったりする人があります。それも一つの健康の問題。しかし、そんなことはわれわれが公害問題でとらえようとする人間の健康の問題ではないわけなんです。要は、生活環境がおかされていく中でおかされていく人間の健康、これが絶対的なものであり、生活環境がおかされることと、人間の健康がおかされることが不可分でございますから、これを分離して非常に狭義な、何か限られた生活環境、隅田川のアユの問題等だけを生活環境と考えて、そのほうは適当にやりなさい、こちらは完全に守りましょうということ自身、どこかで論理が破綻をしてくる。また、問題の焦点がぼけてくる。また、現に企業というものもそれぞれあり余った条件でやっているわけではありません。ほんとうに生きるか死ぬかの限界状態でみんな事業を営んでおられるわけなんです。一方では、国民公害で健康がむしばまれて非常に苦しんでいる。両者が苦しんでいる中で、お互いにそこはよろしく調和をはかりながら、お互いにがまんしながらやりなさいというふうな意図にとられる基本法であるならば、これは仏つくって塊を入れないというふうな法案になってしまうことをわれわれは非常におそれますので、そういう点、どうかわれわれの、この調和という非常にあいまいな概念を挿入することによって全般的に非常に姿勢がくずれてくるということを懸念いたしております点をさらにひとつ皆さん方も御検討をいただければ幸いだと思います。  実は本会議が始まりますので、非常に時間に迫られておりますが、特に一点だけ島津さんにお伺いいたしたいと思います。中小企業が非常に苦しみながら、しかし、公害防止のためのいろいろな設備をしなければならない要請に立たされると思います。設備近代化資金のワクの中で、現在非常に限られたワクの中で借り受けておりますけれども、しかし、このようなことでは中小企業公害防止の設備を達成するには耐え得ないのではないかというふうな気がいたします。償還の年度とか、貸し付けのワクとか、あるいはいろいろな問題で中小企業のお立場から資金的にお気づきの点があれば簡単にお聞かせいただきたいと思います。
  66. 島津邦夫

    島津公述人 先生の御指摘のとおりだろうと思うわけでございまして、資金的にももう少し拡充した資金措置を講じていただきたいと思うわけでございますが、しかし貸し付けということになりますと、やはりこれは計画的に償還をしていかなければならないというような関係で、私の聞くところによりますると、設備近代化資金の融資のほうはあまり活発に行なわれていないように聞いておるわけでございます。やはりこれは国とか地方公共団体がそれぞれ三分の一ずつ負担していただくとかいうような形で、やはり補助金というところまで一歩進めてお考えをいただきたいというのが私どもの気持ちでございますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
  67. 八木一男

  68. 岡本富夫

    岡本(富)委員 たいへんにおそくなりましたが、国民のためにもうしばらくしんぼうしていただきたいと思います。私でおしまいでございます。  まず最初にお聞きしたいことは、法律の専門家の加藤先生に、それから古藤さんにお願いしたいと思うのですが、先ほどから経済発展についていろいろお話がありましたが、この経済発展というのは、先般も総理が、国民の健康を阻害するような経済発展というものはあり得ないのだ。したがってここに国民の健康あるいは生活環境を保全する、これがすでにもう経済発展ではないか。したがいまして、こういう経済の健全な発展との調和ということは、これはもう不必要ではないか、こういうように私は思うのです。それについての御意見をお二人から伺いたいと思います。  次に、大島さんにお願いしたいのは、現在地方公共団体の権限が、何と申しますか、非常に少ないと言えば語弊がありますが、たとえば大阪の堺の臨海工業地帯では相当な規制を設けまして、いま公害問題に取り組んでいる。熱心にやっているということを聞いておりますけれども、結局条例が非常にきびしくても、国の法律がやわらかくては、これはいままで取り締まることができなかった。横浜あたりあるいは神奈川県でもそういう話があるわけでありますが、それについての御意見を伺いたいと思います。  次に、京都島津さんに。私ども公明党は、特に中小企業に対する助成をしなければならない。大きな会社は、大体国民の世論、いろいろな世論によりまして、あちこちで施設もやっておりますけれども中小企業になりますと、ほんとうにそれだけの金もありませんし、それをやりますとつぶれてしまうということでありますから、特に中小企業に対しては強力な助成が必要ではないか、こう思うわけであります。  次に、日比さんと池尻さん、それから最後に加藤先生にお願いしたいのですが、先ほど四日市日比さん、四日市の被害にかかった人たちが困って、あちらの官庁、こちらの官庁と行ってもなかなかうまくいかなかった。要するに行政の一本化が必要ではないか。これは今度神戸あるいはまた尼崎におきまして大きな被害がありまして私行きましたが、地方でも民生局あるいはまた建設局ですか、そういうふうにそれぞれ行政が違いまして非常に困ったわけです。同じように被害者が窓口が一本でありませんので困っておるのではないか。したがいまして、私ども公明党のこの行政委員会、こういうものが必要ではないか、こういうように思うわけですが、この点について三人の方から御意見をお伺いしたいと思います。  以上です。
  69. 八木一男

    八木委員長 公述人に申し上げます。  時間が迫っておりまして非常に恐縮でございますが、明快に、簡潔に御答弁をお願いいたしたいと思います。
  70. 古藤利久三

    古藤公述人 お尋ねの国民の健康を保護することが何よりも必要であるということは、私どももそのとおりでございまして、ただ具体的な問題は、健康を保持する手段にいろいろな手段があるわけでございまして、ここにも書かれておりますように、公害対策の総合的な推進をはかるということでございまして、これは非常に行政機構も分かれておりますし、各行政機構の調和のとれた政策、総合政策がなければほんとうの効果を発揮しないという問題でございますので、「経済の健全な発展との調和を図りつつ、」という問題は、やはり総合調整をやる場合の一つの目安として、重要なファクターであると私どもは考えております。これをとりますと——国民の健康を保持する手段ということ、それから生活環境の保全ということにつきましてのいろんな手だてがあるわけでございまして、生活環境の保護ということにつきましても、そのグレードがいろいろあるわけでございます。そのときの社会情勢においていろいろグレードがありまして、何%というふうにはっきりと割り切れるものではございませんので、防除施設発展に伴ってまた変化もいたしますし、また技術的な進歩というような問題も関係してまいりますので、一定のきまった面というものが必ずしもないんじゃないか。したがいまして、経済の健全な発展ということをやはり目安にして総合的に考えて、最もいい政策推進していただくということが必要だと思います。また、この文句を入れていただいている点において、産業界のこの法案に対して協力をしようという空気も盛り上がってきているわけでございますから、との基本法を意義あらしめるためには、国も地方団体も、また事業者も一体になって、これを推進していかなければ実効があがらないわけでございます。そういう意味におきましても、「経済の健全な発展との調和を図りつつ、」という文言をこの中に入れていただいていることは、非常に大きな意義があるんじゃないかと思いますので、この点は繰り返しになりますのであまり詳しく申し上げませんが、私どもはそう考えておるわけでございます。
  71. 加藤一郎

    加藤公述人 生活環境の保全の問題でございますが、これは本来経済の健全な発展の中に含まれている、あるいは本来その両者調和すべきものなんで、それを対立的に書くことはちょっとおかしいという感じがするわけでございますが、しかし、それはあたりまえのことなんですが、あたりまえのことだから書いておくといわれれば、それにしいて反対をするという必要もないだろうというような気持ちでございまして、事柄自体は、やはり経済の広い意味での健全な発展の中で問題を考えていくべきだというように思っております。  それからもう一点、行政の一本化あるいは窓口の一元化というような問題でございますが、これは行政を一元化するという問題と、その窓口あるいは処理の責任を一元化するという問題と一応分けて考えていいんじゃないか。行政自体は、これは一元化しようと思ってもできないほど非常に複雑多岐なものを含んでいるわけでございますが、しかし窓口なり処理の責任というものはやはり一元化する必要があるのではないか。これは公害対策会議という形の一元化をこの法案はとっているわけでございますが、地方自治体などにおいては、やはり窓口なり責任者をきめて、あとは内部的な問題として調整をはかり、処理をはかるということが望ましいと思います。  これは、ついででございますが、企業についても同じようなことが考えられるのでありまして、ある工場に行けば、自分のところではないといって断わられる。どこへ行っても断わられるわけですが、これはむしろ問題とされる企業が一致して、どこか窓口をつくって、持ってこられれば、内部でどこの工場かさがして処理をするということになれば、非常に住民との信頼関係というものは確立されると思うのですが、いまのところは、どこへいっても、自分のところは関係ないといって逃げられるものですから、ますます不信感が高まる。それがまた公害問題を大きくしていくという悪循環の関係にある。そういう点は企業のほうでも考えていただくといいのではないかというように思っております。
  72. 大島靖

    大島公述人 公害防除、規制についての法律と条例の関係についての御質問でございますが、現在大阪では大阪府条例をもって公害防止条例が制定されております。これはばい煙規制法で規制されております対象以外の事業場に及ぶ条例による規制、あるいは法律のまだ規制していない事項についての規制を条例によってやることに相なっております。その意味では、条例は法律に対する補完的な作用を持つわけなんでありますが、同時に、私どもといたしましては、たとえばばい煙規制について、大阪地域で、神戸から尼崎を経て、大阪を経て堺に至る一帯についての一定の排出基準を定めて、法的規制を行なうという場合につきましても、ばい煙の拡散というものは風向きとか気流によって非常に違うわけでございます。したがって、法律だけの規制ではたしていけるのか、法律である程度規制をいたしまして、それに基づいて堺は堺、尼崎は尼崎というふうな、これは条例で規制するのがいいか、その辺、同じばい煙の規制にいたしましても、法律と条例が同じ事項についても、また地域的に重複してといいますか、相補って規制し得るんじゃなかろうかというような感じがいたしておりますが、これはまた今後の研究問題であろうかと思っております。
  73. 島津邦夫

    島津公述人 助成の問題でございますが、中小企業者の現在当面しておる事情、また今後経営を非常に困難にするような事情が幾多ございます。こういった時期におきまして、公害対策推進する上におきまして、この助成につきましては、公明党さんの御案にございますように、助成金交付ということと、それからさらに「前項の施策には、中小企業者に対する特別の配慮がなされていなければならない。」、これは私どもの非常に望むところでございまして、どうかひとつこのような規定が実現されますようにお願い申し上げたいと思います。
  74. 日比義平

    日比公述人 公害防止のための行政の一元化について、公明党の案について意見はどうかというお尋ねにお答えをいたします。  私どもは 関係官庁が多岐にわたっておりますので、非常に困っておることは事実でございますけれども、皆さんがその気になっていただければよいのでありまして、とりあえず政府案でやっていただくことにして、悪ければ訂正していただいてけっこうだと思う。会期も残り少のうございますので、われわれ本案のすみやかな成立をお願い申し上げる次第でございます。
  75. 池尻文二

    池尻公述人 行政組織の一元化の問題は、非常に理想でございますけれども、日本の行政組織の現状からして、きわめて不可能であろうと思いますので、公明党の御提案のように、たとえば私的独占の禁止あるいは公正な取引の維持のために公取委員会がありまするように、その一元的な行政委員会というものの設置にはきわめて賛成でございます。
  76. 岡本富夫

    岡本(富)委員 終わります。どうもありがとうございました。
  77. 八木一男

    八木委員長 以上をもちまして公述人に対する質疑は終了いたしました。  公述人各位には、御多忙中のところ、長時間にわたり貴重な御意見をお述べをいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  以上をもちまして公聴会は終了いたしました。    午後二時九分解散