○若松
政府委員 いろいろ多方面の問題が提起されましたが、最初に築地のがんセンターができる場合に、すでに昔から存在し相当の権威を持っていた癌研究所の
施設を利用しないで、なぜ国立のものをわざわざつくったかという御趣旨の御質問でございましたが、御承知のように、癌研究所といわれておりますのは、財団
法人癌研究会の付属病院並びに研究
施設でございまして、それは、この
民間の
法人がすでに長い歴史を持ってやっておりまして、きわめてりっぱな診療能力を持ち、研究能力を持った、日本でも屈指のすぐれた団体でございます。したがって、そういうような団体を育成していくということは当然なことでございまして、戦後におきましても、癌研究会は、
民間施設としてかなり苦しい時代もございましたが、それを国の財政的援助並びに
民間のいろいろな資本融資、あるいはさらに
民間の寄付金等のあっせん等も行ないまして、この
助成をはかってまいったわけでございます。がんセンターを国が設置する場合に、癌研究所をさらに育成するという方法もございますが、なお国自体としても、専門の
施設をより多くつくる必要もございまして、多々ますます弁ずという状態でもございますし、また国が直接投資をいたしまして、国の意思で、国の政策に完全にマッチできるような研究医療機関をつくりたいという趣旨で、あえて癌研究会と並列的な
立場で、がんセンターを設置したわけでございまして、決して既存の研究
施設を無視したということではなしに、両々相まって、さらにこれを進展させていくという趣旨でございます。したがって、これを設置いたしましたときの
施設を、東京都の一部を使いましたが、これをどういうふうに契約しているかということでございます。これはこまかな内容については、実は私現在ここで承知しておりません。ただ、現在の国立がんセンターの敷地は国有地でございます。そうして病棟に使っております部分は、昔の東京市立病院のあとでございまして、したがって、これは東京都の所有でございます。これについては正確に資料がございませんが、これは
無償で貸与をしてもらって、これをそのまま使っているという状況でございますが、その後、がんセンター設置と同時に、相当部分を新たに国自体の
経費で設置をいたしておりますので、現在は病棟の一部、研究所の一部が東京都の建物になっておるかと思います。その他新しい部分は、ほとんど全部国自体がつくった
施設でございます。
次に、ガン研究の問題で、
民間あるいは大学その他にいろいろ閥があって、研究の円滑な実施が行なわれないのではないかというお話がございました。ガンの問題といいましても、やはりそれぞれ研究室あるいは大学の教室等に、それぞれの伝統がございまして、それぞれ長い間、研究者が多年の経験を積んで初めていろいろな研究ができるわけでございますので、それらの伝統によって、それぞれの研究
施設がいろいろ特徴を持ち、したがって研究
施設の間でそういうような意見の違いもあり、実施の方法等についても相当の差があるということもやむを得ないことではなかろうかと思います。しかしできるだけそのような食い違いを少なくして、共同の研究によって研究を推進していこう、というのが最近の研究推進の方針でございまして、
施設あるいは個人が単独で研究するというようなことは、現在の研究段階ではもう非能率的であり、またなかなか研究成果もあがりにくいということから、私ども
厚生省における研究費も、二億四千万今
年度はございますが、それらがほとんど全部、学者が大なり小なりの一つのチームをつくって、そこで一定の方針で一定の約束に従って研究をやっていって、そして共同で大きな成果をあげるというような方向に進んでおります。そういう意味で、いわゆる派閥的なものというようなものが、昔とは違って逐次
解消し、すべてが共同研究的な方向に進んでいることは間違いない事実だろうと思います。
なお、研究の成果がどこまで進んでいるかという点につきまして、私も専門の研究者でございませんので、詳細については申し上げることはできませんが、きわめて大づかみな私どもの感覚で申し上げますと、ガンの研究は、現在いわゆる基礎的な研究と臨床的な研究に大ざっぱに分けて実施しております。基礎的な研究と申しますのは、ガンの本体はどういうものか、ガンはどういうふうにして発生してくるか、したがって、そういうものを予防なり治療なりをするためにはどういう考え方でやるべきかという、一番基本的な問題を研究いたします。これは主として文部省の研究費をもって実施されておりまして、ほとんどが大学その他の特殊な研究所で行なわれております。なお
厚生省が分担しております部分は、治療研究と称する分野でございまして、研究成果を実際の診断治療に応用していく、また診断治療面を技術的に改革進歩させていく、という方面を
厚生省は担当いたしております。したがって、主として病院、大学その他を含めます医療従事者をもって、この研究にあたっております。診療面における研究というものは、御承知のように、ガンの治療というものは、現在、患部の切除あるいは放射線治療という二つの方法しかございません、それと、最近は新しい化学療法が、飲み薬によってある程度ガンの進行を押えよう、あるいは転移したある程度小さな芽を押えてしまおうというような方法が最も大きな部面でございまして、また将来期待できる新しい分野でございます。そういう意味で、化学療法という分野が最近きわめて急速に発達しつつあります。したがって、学者の個人的な見解にもよりますが、相当近い将来に、ガンの化学療法というものが相当の成果を得るのではないかという期待をいたしております。そういう化学療法の発展をなしますものは、どうしてもきわめて基礎的な学問でございまして、この分野は、御承知のように、いわゆる分子科学あるいは分子生物学というような、きわめて微細な生物科学的な分野が開拓されまして、そういう化学療法の基礎をなしているわけでございます。この方面の成果もきわめて顕著なものがあり、ガンの研究については、この一世紀の中できわめて活発な進展をいたしている時代であると言って過言でないと存じます。