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参考人(
平田宗男君)
労働省の今回の労災
療養打ち切りは、
三池医療委員会
勝木先生の
意見書に基づいているというように思います。私は、まずこの
意見書が出されるまでの手続きについて、これが民主的に、組織的に討議されたかどうかについて
異議がございます。私自身、熊大立津
教授、東家講師に尋ねましたところ、
勝木教授の
意見書が出る約一カ月前、
患者の病状の重さ軽さのランクづけでは討議はしたが、今回の
意見書のことは知らないと言っております。しかも、東家講師は、あの
意見書は遺憾であるとさえ言っております。立津
教授は、
労働省がきめたCO中毒
研究班のうち、後遺症担当という最も重要な役割りを引き受けていられるのでございます。
次に、
勝木意見書の第五項の中に、「本年八月、各
医療機関において二十数
項目にわたる詳細綿密な
検診を
実施したものである」とあります。本年八月、大牟田労働
基準監督署は、
患者の現在の病状の
報告を、
精神症状をよく把握できないと——失礼でごさいますが、考えられます内科医を含む各
主治医に求めましたので、私
たちの同僚、大牟田地評診療所の吉田所長は内科でございますが、監督署にこの
報告書が労災打ち切りの資料にはならないことを確かめた上で提出したわけでございます。しかも、その内容は、今回の労災打ち切りの医学的な土台となった
勝木意見書と全く逆な病状
報告であったわけです。
第三点は、
勝木意見書は、内村、沖中両
先生のお墨付きを得ておると書いておりますが、私は両
先生を尊敬していますが、
先生方が、もしじっくり
患者を診察しておられたなら、おそらくこんな
意見書は出されなかったんじゃなかろうかというふうに私は推察しております。
次に、従来
労働省、厚生省は
患者の集団
検診、いろいろの
研究を主宰してこられましたが、今日まで全くその内容を公表されませんでした。が医師の診察を受けたならば、自分の病状がどんなにあるのか、当然知る権利があるはずです。当局側だけが医学的なデータをつかんでいて、しかも、そのデータの一部の
意見だけを根拠にして、今回の労災打ち切りを強行されていますが、これは人権上からも問題があるのではないかというふうに考えます。
次に、従来CO中毒は、死ぬ人は死ぬが、助かれば後遺症を残さずになおるものとされていました。なるほど一般民間人のこたつ中毒とかガス中毒はそうでした。日本でも過去に炭鉱の集団ガス中毒がありましたが、被災者の
症状の変化の
長期的追求は行なわれていません。したがって、この種の医学的データはないわけです。本年七月発行のこの本ですが、科学技術庁
研究調整局の
報告書、これを見ますと、三池、山野、伊王島、夕張の被災者の
症状、
経過の比較を行なって、三池以外では
長期間の後遺症を示すものは圧倒的に少ない、これにはいろいろの条件もあるが、また、いろいろの社会的な背景があるというふうに述べております。しかし、この
報告書には疫学的な
調査がございません。CO中毒の重さ、軽さを
決定的に支配しますのは、ガスの濃度と吸入時間でございます。三池爆発のときに救出に要したのは、早い人で三時間半、おそい人で二十時間、平均七、八時間という長時間でございます。ここに三池の特異性があるというふうにわれわれは考えます。
爆発当時、九大、久留米大、熊大の医局、看護婦さんの皆さんの献身的な
努力によって多くの生命を救ったことは、私は大いに敬意を表するものでございますが、
入院させられなかった在宅
患者は当時ほとんど放置されていました。私
たちの集検の結果でも、初期に安静を保った人の予後はよく、そうでない人は予後が悪いという成績が出ています。爆発当時、
労働省、
会社が在宅
患者全員の綿密な集団
検診をやっていたならば、もっと多くの
患者を
入院させるべきだということがわかったであろうというように思います。しかも、昨年十二月行なわれた三大学の集検によりまして、十二名が要
入院と
判定されたにもかかわらず、それがそのまま放置されて、本年八月には大牟田労災
療養所長は
入院を断わっております。また、初期の十分な薬物療法が予後に相当影響することが熊大の
入院患者の経験として
発表されていますが、まして在宅
患者はなおさらのことだというふうに思います。リハビリテーションもそうです。これは被災数カ月後には始めねばならないのに、荒尾訓練所が開設されましたのは一年たった翌年の十二月でございます。しかも、訓練内容を見ますと、
患者を年齢別に十ぱ一からげに分けて、スポーツ、運動療法を主体としてやっています。いわゆる
災害神経症説をとりますとこんな訓練になるのかと思いますが、器質的脳
障害があるのだし、
症状も多彩ですから、もっとこまかい
配慮、やり方が必要だと考えます。
次に、
勝木意見書の第四項に、「現在の
患者の状態は、多彩かつ重篤な大脳病理学的
症候を示す一部の
入院重症者を除いて、大多数のものは他覚的
所見がほとんど認められないし、また、認められてもごく軽い
障害を残すにすぎない。そのほかに、全く正常と見られるものも少なくない。しかし、それにもかかわらず、現在なお種々な自覚症を訴える多くの
患者があり、退院勧告、
職場復帰などの
措置のつど、それが著明に増加する
傾向が見られ、身体的、医学的要因以外の社会的要因の複雑な影響を示唆しているものと思われる」とあります。このことと、第五項、「その大多数は一般的
作業能力が回復しておると考えられた」とあわせて考えますと、こういうことになります。すなわち、三池の
患者の大部分はすでにCO中毒とは無関係で、
災害神経症である、つまり働かないでも八〇%の休業
補償、それでも三・五人平均家族で月収約三万円でございますが、もらっているのだから、疾病利得という考えが
患者にある。極言いたしますと、これは詐病だということになるわけです。また、こんなことから「組合原性疾患」という新しい医学用語が生まれました。はたしてそうなのか、以下、私
たちの集検で得た
所見を述べたいと思います。
私
たちは、
昭和三十九年八月から本年七月まで、四回にわたり、三池労組所属の約百五十名の在宅
患者について、
精神神経科的、労働医学的な集検を行ないました。本年五月と六月には内科医集団による臨床及び精密検査を行なっております。
患者の既往症、
会社就職以来の
会社側の検査した
所見、
坑内のどこで被災し、当時どんな
症状があったか、綿密に
調査しました。また、集検時には家族を同伴させて、また、家族とだけ直接に面接して
患者の
症状の把握につとめてまいりました。本年七月の第四回集検時には、現在の病状の正確な把握とともに、いままでの
経過を一人一人総括いたしました。
まず、自覚症の変化でございますが、頭痛、頭重を訴える人の数ば減っておりませんが、
程度が軽くなり、また、持続的なものでなくなってきております。目まい、視力減退、動悸、四肢のしびれなどの神経的な自覚症と、意欲減退、不安、いらいら、集中困難、抑うつなどの
精神的自覚症は第二次集検以後次第に減っています。今後もこれらの
症状はさらに軽快の可能性があると考えられております。しかし、本年六月の性
生活の
調査では、百八十二名中、ほとんど不能が一〇%、高度におかされた者二一%という
所見を得ております。
次に、神経学的な
所見は、一般に軽く、四肢の振顫——ふるえでございますが、ある人か五〇%から二〇%に減り、下肢の腱反射の高進が二一%から八%に減りました。しかし、筋強剛——筋肉が固いことですが、ロンベルグなどは七%、五%と増減がなく、下肢腱反射の減弱ないし消失も一五%で、増減はございません。
次に、心理テストを試みておりますが、その内容として、クレペリン、それから記銘カテストなどをやっております。それから知能検査も行なったわけです。これらのテストを症度別——病気の重さ軽さとの関係を見てみますと、大体重い人ほどテストの成績も悪いという成績が出ております。
次に、臨床
観察による
精神症状の変化でございますが、情動
障害は全体としてかなり著明に軽快している
傾向がありますが、記憶、記銘、計算力などの問診成績の改善は認められませんでした。
次に、私
たちはいろいろの機能検査を行ないました。狙準とタップは運動機能、共応は両手を同時に使いこなす機能、フリッカーは大脳皮質の活動性が鈍っているかいなかを調べるテストでございますが、どのテストも対照群よりも悪くて、症度の軽重と大体平行して、また、自覚症の強い人ほど異常率も、その
程度も悪いというデータを得ております。
次に、われわれは本年六月、赤色視野検査を行ないました。これはCO中毒に高率に出ると言われておりますが、この狭窄のある人は四十三例中、三十例という高率で、しかも、軽症の十五例中、九例に認められたことは、器質的脳
障害を示しているものと考えます。本年六月の脳波
所見は、百例中、軽度異常、それから異常を合わせて三十二例という高率で、軽症者にも相当数異常
所見がありました。本年六月には、また四十六例に聴力検査を行ないましたが、そのうち三十五例に神経性難聴が認められました。しかし、対照群にも四〇%という異常率がございますので、この難聴をCO中毒と直ちに結びつけることは困難でございますが、CO中毒以後難聴を訴えた人、増悪した人が多数ございます。
以上の
所見は、
意見書でいわゆる神経症扱いにされている軽症者の大部分に他覚的
所見があることを示しております。私
たちの出した結論は、偶然にもこの科学技術庁の
報告書の中の立津
教授の論文の要約、
通院患者についての項でございますが、その一五五ぺ−ジ、「心身故障を訴えるものの八三%は器質性
障害の徴候とみなされる知的機能
障害と神経
症状の一ないし二を持っている」ということと一致しております。
次に、いわゆる合併症、続発症について述べたいと思います。
じん肺は相当高率に見られるようでございますし、これがCO中毒罹患後悪化したと見られる人も出ており、今後さらに
調査を要します。また、胃腸
障害、貧血、やせなどが治癒せず、また進行、悪化している人もまれではなく、休業
補償の不足が重要な原因ではないかと思われます。持続性または間欠性の血圧異常、循環器
障害、一過性の浮腫、発熱、糖尿病、肝
障害など、CO中毒に起因していることが疑わしい疾患も見られ、これらについてもさらに
調査研究を要すると考えられます。
私
たちは、A群、
症状が重くて
職場復帰が困難なもの、B群、中等症で
復帰の可能性の不明のもの、C群、軽症で
復帰の可能性のあるものと玉群に分類しました。本年七月の症度
判定は、A群二十七名、B群七十七名、C群六十八名でございます。しかも、四回にわたる集検時の総合
判定で個人個人の症度が動いており、第一回目と第四回目を比較しますと、軽快した人四十四名、悪化した人十八名、不変七十四名です。個人個人の
症状も動いており、全体的に見ると軽快の徴候が見えますので、今後なお
療養を続けるべきであり、現在は、たとえC群でも、直ちに就労は危険だという結論に達したわけです。しかるに
勝木教授の
報告の第五項に、「
検診の結果は八百二十二名の
受診者があった。その結果を見ると、
事故発生後すでに三年近くを経ており、その大多数は一般的
作業能力が回復しておると考えられた」とあり、この
意見書に基づいて大多数が打ち切りということになったのではないかというふうに思いました。この
意見書を見て私は実はショックを受けました。
勝木教授が私
どものA群を直接見られたら、とても私はそんな結論は出ないはずだというふうに、まことに無礼でございますが、こんなふうに思ったのです。
昨年秋以来、
職場復帰者が二百数十名出ましたが、その大部分が新労であったわけですが、本年五月の大牟田労働
基準監督署の
発表によりますと、そのうち約百名近くが就労と休業を繰り返すか、あるいは再び通院に切りかわっています。私は、
労働省が今回の労災
療養打ち切りの前に、これらの就労した人のこの医学的な
調査をなぜやらなかったのだろうかというふうに、残念に思います。これを抜きにした打ち切りというのは強制就労とつながりますので、生命の危険を伴います。また、今回の打ち切りに約八〇%、相当する新労組員からの
異議申請が出ていると聞きました。このことをすなおに冷静にひとつ考える必要があるのではないか。私は、人道上からも、今回の労災打ち切りには、ぜひひとつ私は反対したい、許されないというふうに思います。