○長野
参考人 ただいま
公害審議会の
会長から、基本的な主要な点について御
説明がございましたので、私はその他のことについて
説明をさせていただきたいと存じます。しかし、若干重複するようなことがございましたら、どうかお許しを願います。
最初に、私は国民の基本的人権と
公害という問題について、ちょっとおしゃべりをさせていただきたい。それは、私がなぜ
公害審議会の
委員に選定されたかということについて、私自身の考えを申し上げます。
私は、法務省
関係によって設置されております人権擁護
委員という制度がありまして、これは
全国的な組織といたしましては、
全国人権擁護
委員連合会と申すのであります。その
会長を約十年つとめております。また、
東京都人権擁護
委員連合会ないし協議会というものがありまして、いずれもその
会長を約十年間つとめておるのでございますが、その人権擁護
委員にあらわれてくる問題の中に、約十年前からすでに
公害問題が基本的人権の侵害という形であらわれ、取り上げられておりまして、また決議もされておる。その決議は、すでに数年前に内閣はじめ厚生省、建設省、あらゆる
関係の官庁に提出いたしておりまして、善処をお願いいたしておる。そればかりではなく、自民党、社会党あたりにはやはりその書面を提出して御協力を願っておる次第なんであります。
その基本的人権と
公害というものがどういう
関係にあるかということについては、非常に長くなりますし、それを目的でいま私が
意見を申しておるわけではございませんから、詳しいことは申し上げませんけれ
ども、たとえば隅田川の水質が非常に汚濁しておる。夏などは西国橋のあの辺からメタンガスがぶくぶく上がっておる。見た目にきたないばかりでなく、非常な悪臭を伴っておる。これがちょうどオリンピックの開催を控えておりまして、何としても
日本の首都でこのざまは国辱であるし、非常に
日本の文化の水準の低いことをあらわしておる。国民が忍耐するのはよろしいけれ
ども、それをがまんしてやっておるということは、何としても
日本の国民の
政府に対する要請が弱いと申しますか、いくじがないと申しますか、これは何としてもきれいにしなくちゃいかぬというのでいろいろ尽力したのでございます。その結果、主として予算
関係では
東京都が出してくれたと思いますが、それから警視庁、水上警察などの非常な御協力を得て、われわれ
委員もたびたび隅田川へまいった。その結果といたしましては、ある程度まで
発生源を突きとめました。突きとめることができたればこそ、幸いに今日はそれほどひどい悪臭ではない。それから汚濁の点も、もちろん完全とはいっておりませんけれ
ども、ひところから見ますと非常によくなった。現に付近の子供がある程度まで魚の泳いでおるのを見ましたというように非常に驚異的に喜んでおるようなこともある。その当時はさような水質の汚濁、悪臭の結果どういうぐあいであったかと申しますと、付近の料亭が一番先に悲鳴をあげた。それまでは、夏などの——春先でもそうですが、あけ放しておるときには、昔は非常によかったのでありますが、非常な悪臭を発するためにお客さんが少なくなっちゃった。夏などは店を閉じなければならぬ。それから
個々の家庭でいいますというと、これはぜんそくかどうか存じませんけれ
ども、非常に咽喉の弱い子供がのどを痛める。おばあさんや腺病質の人もやはり非常に咽喉をおかされる。それから金属などにつきましても、やはり変色したりさびついたりして非常に困る。結局、人体に対する健康、財産に対する非常な侵害、さような点から申しましても、人間の生活に最も重要である健康という点からいってもほっておけないんじゃないかということで非常に
努力いたしました。その結果、とにかく
日本のほんの一部であるけれ
ども、偶田川の例をとっただけでもある程度の
公害が除かれた。でございますから、やはり人間の一生懸命な
努力によればある程度の
効果があるということを認識できましたので、私
どもも今後ますます
努力しなくちゃならぬと感じたわけなんであります。これは国民の人権と
公害ということについて、われわれ
全国に散在する人権擁護
委員がどんなことをしたか、その結果どういう
効果を生じたかということの一端を申し上げた次第でございます。
次に本論めいたことについて申し上げますが、まず
公害についての原因者、ひところは加害者なんと言ったものでありますが、近ごろは加害者ということばは非常によくないからというので一応原因者と言っておるのでありますが、原因者ということばが適当であるかどうか、これはどうせ国会の皆さんや法制局あたりの皆さんが適当なことばをおきめになると思いますが、一応原因者とか
発生者と言っておりますが、その原因者の
責任の明確化ということでございますが、これは
法律的にはいわゆる無過失
責任という
立場をとっておるのであります。これは御
承知のとおり、それを
責任追及する段になれば、やはり原因者のやる
産業経営などに、はたして故意があるか過失があるかというような問題が起こりますが、故意、過失という観念だけではとうてい
規制できませんので、一応は無過失
責任であるという考えに立っておるわけであります。もっとも、
公害による
被害につきましては、その原因者がはっきりしなかったり、
被害がいわゆる受忍限度を越えるものであるかどうかの判断が非常に困難でございます。受忍限度ということばは、ときどきいまごろ世上にいろいろ論議されておりますから私が
説明するまでもないと思いますが、だんだん国民の生活が複雑になり、文化が進むようになると、特に都市の生活におきましてはいろいろな
公害現象が生ずるのであります。これはお互いのことだからある程度われわれはがまんするよりしかたがない。しかしながら、その限界というものが、どれほど人間あるいはその他の生物、植物などに害をなすかという程度にもよりますけれ
ども、とにかくお互いでいろいろな社会をこさえておる、そのうちには
産業に従事する人もありますし、また一般の文化事業に従事する人もありますが、とにかく
産業というものはそれ自身の副産物として好ましくない現象も生ずるけれ
ども、大部分としては国民の生活に大いに寄与しておる、だからある程度まではがまんせざるを得ないのではなかろうか。その程度がどの点かというのでありますが、それを学術用語か
法律用語か十分存じませんが、受忍限度とか忍容限度とかいっておりますが、そういうような
一つの何といいますか、がまんしなくてはならぬ社会の
一つの慣習があるのでございましょう。さようなものを判断することもなかなか容易でございません。
それから、私
どもといたしましては
公害の
救済措置を整備するという見地から、
公害紛争の処理やその賠償の支払いなどについて、公正な
解決がはかれるよう何らかの方策を
検討するように強く要請しておる次第であります。
公害の
責任ということに
関連いたしまして緩衝地帯の設置。この緩衝地帯の設置の
方法は、私は専門家じゃないから存じませんが、とにかく幾つかの緩衝地帯の設置の
方法があるのでございましょう。その緩衝地帯の設置。
それから住居の集団移転、これは四日市あたりでもすでにやっておるし、またやる必要を感じておるらしゅうございますが、集団移転という問題が起こります。
それから、
公害防止事業の実施になりますと、これはどのくらい金がかかるか私はわかりませんが、少なくとも少なからぬ膨大な費用を要するのじゃないかと思っておるのであります。そうすると、一体それはだれが負担するか。むろん因果
関係から申しましても
発生源者たる
産業、
企業の経営者にも私は
責任があると思いますけれ
ども、それならといって、それらの
企業家にことごとく全部の負担を強要するわけにはいかないと思う。そういう点について非常な問題がありますが、しかし、少なくともその費用の一部については
企業家に負担していただかざるを得ないと考えておる次第であります。
それから、その負担の割合やその決定手続、そういういろいろむずかしい問題をどういうふうに決定するか。それらの
公害の
防止事業につきましては、これは個人たる
企業家、
発生源者だけでは無理だということは先ほど申し上げましたが、これについてはどうしても国、
地方公共団体が財政
措置を講ずる
責任があると私
どもは考えております。どういう性質の責務であるか別といたしまして、広い国家の政治といたしましては、やはりそこまで考えなければならぬと考えておる次第であります。同時にまた、原因者もその責務と受益の限度に応じまして費用の負担を行なうという
考え方を明確にする必要があると考えておるのであります。
そのほか、先ほど
会長も言われました、われわれが取り上げておる
公害の中で、
大気汚染、水質汚濁、それから騒音、いろいろあるのでありますが、下水道の問題といたしましても、その他いろいろございまして、生活
環境の
施設等については国や
地方公共団体による
公共投資のことが必要なのでありますが、現在の
日本の状態からいいますと、これらのことが非常に立ちおくれておると存ずるのであります。さようなことが今日の
公害問題の大きな原因でありますので、これについて思い切った財政
措置を必要とすること、それから
発生源の
公害防止施設についての金融上、
税制上の
助成措置の拡充、
公害防止事業団の拡大強化についても、
審議会としてみんなでこれは必要であるということが一致した
意見でございます。
次に、
公害防止行政の推進をはかるための行政機構の
措置でございます。
公害問題は、各省庁にわたる行政を最大限に推進して対処する必要がありますが、各省の
施策や
調査研究の総合
調整と、
公害行政の基本方策とを策定する国の機関を設置することを提案したいと考えておる次第でございます。
このほか
公害防止行政について、国と
地方公共団体の事務の配分の明確化や測定監視体制の強化、科学
技術研究の振興、
公害問題についての普及啓蒙その他についても、
審議会として
答申を提出する予定でございます。
最後に、
公害基本法の制定につきましてでございますが、私
どもといたしましては、かかる
基本法の制定がぜひ必要であるという見地に立っておる次第でございます。しかし、もちろん、
基本法が制定されましたからといって、
公害対策がすべて
解決すると考えておる次第ではございません。これが今後の総合的な
公害対策の推進のため出発点となるものであるという
考え方のもとに、
関係当局で御
検討願いたいと考えておる次第でございます。
以上、はなはだ簡単でございますが、これをもって私の
意見といたします。ありがとうございました。