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小林武君 私は、日本社会党を代表いたしまして、
国鉄運賃値上げを内容とするところの
昭和四十年度
政府関係機関補正予算(機第3号)に反対の立場より討論を行なおうとするものであります。
反対の第一といたしましては、民主政治の根幹に触れる基本的な問題として、
政府が
予算案を
国会に提出し
審議を受ける態度について述べたいのであります。
補正予算の提案理由
説明によりますと、二月十五日から
国鉄運賃の値上げを予定して本
補正予算は組まれていることは明らかでありますが、
参議院予算委員会が本案の
審議に入りましたのは昨二十一日であり、予定期日をすでに八日過ぎております。また、本
補正予算の裏づけをなすところの
運賃値上げ
法案は、まだ衆議院
段階にあって、
法案の前途は容易に予断を許さないという状態にあります。
ところで、
政府の
説明によりましても、今回の
運賃改定は、一日四億二千万円の
増収を見込んでおるのでありますから、十日では四十二億、半月おくれますと六十三億円も、提案された
予算より減収となるのであります。かかる異常な事態に対し、
政府は一体、計画変更をするのか、あるいは第四次
補正を提出するのかという、われわれの正当なる指摘につきまして、言を左右にし、数日間であれば何とかなるだろう、資産充当でもできようし、短期借り入れの方法もあろうと、このような
政府の
答弁を聞きますと、一体
政府は、まじめに本
補正予算の成立をはかろうとする意思があるのかいなか、疑いたくなるのであります。
民主政治とは、
政府に行政をゆだねますが、それを
予算という計画に基づいて執行することを求めているのであります。しかるに、
政府の提出いたしました
予算が実施の期日において狂い、
予算が計画どおりに実施できないことが明白であるにもかかわらず、それを、ほおかぶりして通そうとする
佐藤内閣の政治姿勢を見ますと、およそ財政民主主義の何たるかを解せざるものと評するほかありません。
なお、
関連して申しますと、今回の
予算補正にあたり、
政府は、公式には
運賃値上げを表面に出さず、単に二百六十二億の赤字を生じているから同額の鉄道債券の増発を求めるような形をとっているのであります。その実態を指摘すれば、ずさんな東海道新幹線運行計画の失敗をはじめ、旅客貨物
収入における水増し
予算が不況のため大穴があき、四百五十三億という赤字を生んだこと、その穴埋めとしての
運賃改定と鉄道債券の増発が計画されている次第であります。
このような経緯は、
予算書のどこにも出ていないということ
自体が、財政の民主化と、いかにほど遠いかということを証明するものであります。われわれは断じて承服できないのであります。
反対の第二点は、本
予算の実体をなす
国鉄運賃値上げが、はたして不可避であったのかどうか、また、今回の
運賃改定が、
国鉄の財政を、はたして安定ならしめるかどうかという点であります。 御承知のとおり、今回の
国鉄運賃改定は、
昭和四十年度を初年度とする
国鉄輸送の増強七カ年計画の一環として計画されたものであります。その計画によりますと、七カ年に、
国鉄は二兆九千七百億円の工事と七百億円の出資を行なうことになっており、その
財源といたしまして、七年間で一兆二千億にのぼるものを
運賃引き上げに期待しておるのであります。しかし、それだけの値上げにかかわらず、損益勘定からの利益として資本勘定に受け入れられる額は八千五百億に過ぎず、結局、三兆一再億を外部資金に仰ぐことになっております。その結果、四十六年度の姿を見ますと、利子の支払いが二千億円をこえ、損益勘定上の利益が千億を割り、九百七十八億円になっております。
一体、三兆円からの設備投資をいたしまして、この完成時の収益が、いまよりだんだん減っていき、九百億ばかりになるという計画は、はたして健全合理的であると認められるところでありましょうか。
さらに、昨日の
説明にありますとおり、この計画には物価騰貴が織り込まれておりませんから、現実には行き詰まり、四十六年度よりももっと早く再び赤字になるというような可能性が強いのであります。
政府は、今回値上げをすれば、この期間中は再値上げはないと申しますけれども、だれもそれを信ずる者はないのであります。
そこで、なぜに
国鉄の資金計画は不安定たらざるを得ないかと考えますと、それは、
国鉄の投資計画の性格に帰着するのではないでしょうか。すなわち、
国鉄が今後投資するもののうち、通勤輸送や山陽新幹線のように、投資とともに収益が伴うものもありますが、幹線電化、複線化、踏み切り、信号機の増設等の問題は、必ずしも投資と収益とが
関連をするものではありません。そのほか、
国鉄は公共負担も負わされているのであります。このような
国鉄は、公共企業体として、独立企業の面と公益性の二面的性格をもたらす矛盾に絶えず苦しんでいるのであります。
国有鉄道の設備投資をまかなうべき
財源として、通常の
運賃収入や市中借入金というもののほかに、国家資金の直接投下、あるいはそれにかわる利子補給のごとき手段を適切に組み合わさるべきは理論的に考えても当然であるし、イギリス、フランスの
国有鉄道も、こうした
方向をとっているのであります。
日本社会党が、
国有鉄道整備緊急措置法という法律を提出した趣旨は、
運賃値上げだけでは
国鉄財政は安定しないこと、
運賃値上げと借金政策は、結局将来
国鉄を借金の重圧下に押しつぶす以外の何ものでもないことを明らかにせんとするものであります。
国有鉄道の性格にかんがみ、
政府がもっと早くより
国鉄資本投下の三分の一程度を一般会計より出資していただければ、おそらく今日の値上げ問題は発生していなかったであろう、かように考える次第でございます。
最後に、第三の反対点として、
政府の物価政策の欠除を指摘するものであります。
佐藤総理や
福田蔵相、藤山企画庁
長官は、いずれも、池田内閣の高度成長政策の批判者として知られております。安定成長と物価の安定に
努力することを公約しておりました。しかし、皮肉にも、
佐藤内閣になって以来この二年、物価が騰貴したことは、これ以上のものがないのであります。しかも、高度成長の裏目が出て構造的不況になって以来、雇用と賃金の伸びが鈍化し、勤労者の
収入は横ばいの状態になり、消費者物価の騰貴は直接国民生活の危機として映ずるに至ったのであります。今日ほど、国民が切実に物価の引き下げを望んでいるときはないのであります。しかるに、
佐藤内閣のなすところは、一月一日から二度目の米価値上げ、さらに私鉄
運賃の引き上げ、二月は
国鉄運賃、次いで郵便料金と、相次ぐ公共料金値上げの追い打ちは、全く国民生活をないがしろにするものであると言わなければならないのであります。公共料金については、他の消費物価と異なり、
政府が決定権ないしは影響力を発揮し得るものであり、
政府の物価政策のきめ手として公共料金政策がすこぶる重要なる意味を持つものであります。その中で、
国鉄運賃の改定が物価水準に及ぼす影響は、きわめて大きいと考えるわけであります。それゆえに、米価に次いで
国鉄運賃を急いで上げるべきではなかった。また、
国鉄の
運賃改定を既定のものとして私鉄
運賃の大幅引き上げを認めた
政府の態度は、軽率と言わなければなりません。
国鉄運賃を改定するにしても、その実施の時期を繰り下げ、
政府の出資をふやすこと等により、その値上げ幅を縮めるならば、ひいて、私鉄、バスの値上げを抑え、あるいはその幅を縮小させ得たはずであります。
政府は、このような手
当てを全く考慮することなく、むしろ、近く値上げの必要な料金はことごとく上げてしまえという式の姿勢であり、それは、やがて来たるべき総選挙対策にも通ずるものだと解釈されても、しかたがないのであります。国民が切実に物価の安定を望んでいる今日、自己の権力政策の打算から物価政策をもてあそぶ
佐藤内閣のやり方に、国民は衷心より憤激を覚えるでありましょう。
以上の三点より、日本社会党は本
補正予算案に反対し、その撤回を求めるものであります。(拍手)