○小野明君 私は、
日本社会党を代表し、ただいま
趣旨説明のありました石炭
関係三
法案に関連いたしまして、総理並びに
関係大臣に若干の
質問を行なうものであります。
現在の石炭危機を象徴している基本的な問題は、石炭産業の将来に対する不安感、並びに真の意味における生産力の荒廃であります。石炭産業における労働生産性は、ここ数年来急激に
上昇しておりますが、これは非能率炭鉱の買いつぶしが
計画以上に進められた結果にほかならず、ビルドとして生き残った山にいたしましても、坑内の骨格構造の
近代化、
機械化が停滞しているのでありまして、このため、出炭総量は必ずしも伸びてこないのであります。
近代化、
機械化の停滞は、通産省の
昭和三十九年度「設備、切羽調査」によっても明らかで、採炭掘進機械の在籍、使用台数が、
昭和三十五年をピークに、その後は減少ないし停滞の傾向にあることからも証明されるところであります。また、炭鉱
近代化の指標とされておりました立て坑開発は全く停滞し、依然、斜坑方式が優位を占めているのに反し、第一次
答申で規制されたはずの第二会社は、
昭和三十五年以来続生し、独立中小鉱の存立さえ脅かすほどになっておるのであります。このような結果をもたらしたのは、第一次
答申以来の石炭政策にありますことは明らかであり、石炭産業がかかる事態になったのは、もともと
政府の石炭政策には長期の展望がなく、きわめて場当たり的なものであったからであります。
このことは、五千五百万トンの出炭を目標とした、第一次、第二次石炭
答申に対し、
政府と経営者の無為無策と相まちまして、政策の破綻を見、五千万トンベースをも割るような事態に追い込まれた事実をもってしても明らかであります。昨年夏、石炭局長は大手代表を招致いたしまして、出炭に対する要請と警告を発し、労働者はこれに応じまして増産体制をとり、ようやく五千二百万トンに到達いたしたのであります。しかるに、今日、貯炭は一千万トンにのぼり、山元貯炭だけでも三百万トンになるといわれております。石炭
不足といわれて増産をすれば、すぐ貯炭となり、引き取り先のないという状態は、何を物語るのでありましょうか。これは、
政府並びに日本財界全体の石炭に対する認識の欠除を意味するものであります。同時にまた、
政府に総合エネルギー政策がないままに放置されてきたからにほかならないと思うのであります。しかるに、
政府は、いたずらに事態を遷延し、ここまで追い込まれて初めて、総合エネルギーにおける石炭の位置づけに基づいて新たな石炭政策を打ち出そうとしているのでありますが、あまりにもおそきに失した感は免れ得ないのであります。この際、総理並びに通産大臣は、今日までの石炭政策についてどのように批判を持ち、反省をされておられるのか。また、焦眉の問題である本年度の需要確保と総合エネルギー政策に対する決意のほどを明らかにしていただきたいのであります。
第二の問題は、炭鉱における労働力の流出と苦汗労働の復活という点であります。
第一次
答申の当初
計画では、目標年次四十二年度における人員を十二万人台に置いておりますが、三十九年六月には、すでに十一万人台に達するという状態であります。この中で、特に若年技能労働者の離山が激しく、労働力の老齢化が急速に進んでいることが重大であります。さらに、いわゆる離山ムードの高まりの直接の動機は、石炭産業に対する将来の不安にありますが、基本的には、生命の危険と低賃金に基因しております。御
承知のとおり、先進資本主義国の炭鉱賃金は、全産業の中で首位を占めていますが、わが国では、労働省調査によると、
昭和四十年十一月現在、二十五業種中石炭鉱業は第六位でありまして、坑外夫に至っては第二十位なのであります。また、切羽個所の深部移行に伴い、高温個所は
全国的に広がり、三十七、八度の高温かつ劣悪な労働環境の中で、大手炭鉱においてさえ十時間労働が常態化し、体力の消耗は著しく、熱中症に苦しむ労働者が多いのであります。ことに、中小炭鉱では、なおさら労働
基準法を無視した苦汗労働が復活しております。また、
答申で厳重に規制されたはずの組夫は、労働省調査によると、大手炭鉱ほどその依存度が高く、九十六山二百四十
事業所の八六%に労働
基準法違反が認められたと
報告されております。石炭危機が労働者の離山を促進し、労働力の流出が石炭危機に拍車をかけていることを、
政府はお認めになりますか。お認めになるならば、労働者を確保するのにいま最も必要なことは、石炭危機の救済という基本問題はあるといたしましても、時間短縮と賃金の大幅引き上げにあると思うのでありますが、
政府は、抜本策の中で、あるいは当面現実の問題として、いかなる
措置をとられようとしているのか、お伺いをいたしたいのであります。
第三の問題は、災害の増大と保安体制の崩壊であります。
三井、三池、夕張、伊王島、山野など、いわゆる保安優良鉱といわれている炭鉱での相次ぐ大爆発は、炭鉱が現在いかに危険な職場となっているかを
国民の前に明らかにしております。皮肉にも、昨年の山野炭鉱——三井鉱山の第二会社でありますが、これと同様、石炭調査団をして、第二会社の典型的ビルド鉱と称賛させた北海道の空知炭鉱、これも北炭の第二会社でありますが、ここでも、去る三月二十二日、またもガス爆発で、八名が重軽傷、十名が死亡するという重大災害が起こりました。また、今月に入りまして、この八日には、第二会社の山野炭鉱の子会社である漆生炭鉱は、古洞の出水事故で三名の行くえ不明者を出しました。引き続き、この十日、またも山野炭鉱でガス突出がございまして、三名の犠牲者を出しておるのであります。統計によりますと、昨年一年間で六百四十一名の死亡者を出しておるのであります。いま、世間では、全日空、カナダ航空、B
○ACなどの空の惨事が注目を集めておるのでありますが、炭鉱では、実に三カ月に一回の割りで、墜落事故と同じ災害を出しているのであります。こうした災害の続発は、現在の合理化政策によって、もはや炭鉱の保安体制が崩壊していることを証明しているのであります。かかる状況のもとでは、事故のたびの警告や自戒では、何の役にも立たないのであります。
政府は、災害のたびに、保安第一主義、人命尊重を旨とすると、こう言っておりますが、この災害絶滅のための具体的な施策を、通産並びに労働大臣にお伺いをいたしたいのであります。
私は、以上、石炭政策に関する基本的な問題を
指摘してまいりました。今日、石炭産業をかかる破局的状態にまでもたらした責任は、
昭和三十五年以来一貫して
政府がとってまいりました、国際石油資本に従属し、国内エネルギー市場を外国石油に売り渡す、すなわち、スクラップ・アンド・ビルド政策という名のスクラップ・アンド・スクラップ政策にあったのであります。ロンドン・エコノミスト誌(
昭和三十九年十一月二十九日)では、次のように
指摘をしております。「工業国で日本のように輸入エネルギーに依存する国はない。このような状況で日本が自国の石炭産業を衰退にまかせていることは、西欧人にとっては奇異なことである」!炭鉱をつぶすことが政策ではありません。企業が
赤字になったら金を出すことが政策ではないと思うのであります。いまこそ、国家百年の大計に立って、従属的エネルギー政策を改め、私の
指摘した問題に対する真剣な究明こそ、政治であると信ずるものであります。しかるに、伝えられる抜本策は、石炭危機の原因には目をおおい、結果として起こった現象の手当てのみに終わっているようであります。
政府がいままで
実施してまいりましたスクラップ・アンド・ビルドを柱とした合理化政策は、結果として、急激なスクラップ化の進行により企業に過重な負担をかけ、炭鉱労働者の離山ムードを醸成したにすぎないと思うのであります。
第二次
答申に基づく石炭対策にいたしましても、企業
収支の
改善をはかることが石炭鉱業再建の道であるとして、炭価の引き上げ、利子補給制度の創設を中心として、企業経理の負担軽減をはかったのでありますが、企業
収支の
改善策はその効果をあらわさず、企業の累積
赤字は、減少するどころか、すでに八百億円に達しているのであります。しかも、大手十七社の四十年度末では、トン当たりの
赤字が六百円をこえ、また、借り入れ残高におきましても、三十九年度末に一千七百億円に達しているのであります。このような石炭鉱業の実情に対しまして、先ほど出されました
審議会の中間
答申は、合理化過程において発生した過重な負担の
財政資金による肩がわり、画期的な助成
措置、安定補給金の交付という基本方向を示しているのでありますが、これこそ私企業に対する国の保護政策の限界を越える
措置と言わざるを得ないのであります。また、これに要する
資金は、ばく大な額にのぼるであろうことは想像にかたくありません。
政府は、これが
財源を一体どこに求めようとしておられるのか。私企業を前提とする限り、これらの肩がわりや交付金の政策が、
国民の税金の有効な使用と、唯一の国家資源である石炭の合理的な開発に役立たないことは、過去五年間の実績と今日の石炭危機そのものが最もよく証明しているではありませんか。石炭産業安定の道は、英国、フランスのごとく、確固とした総合エネルギー政策のもとで、石炭産業の
近代化を阻害している鉱区解放と労働者の低賃金を打破する方向での国有化以外にはないと思うのでありますが、総理並びに通産大臣の所信を伺いたいのであります。
最後にお伺いをいたしたいのは、産炭地における教育の荒廃についてであります。
政府の石炭政策の失敗は、産炭地の社会機能を破壊しつつあります。合理化による閉廃山の
あと、産炭地は、ただいま
趣旨説明のありましたこととは逆に、
政府の無為無策により、無数の鉱害と、
地方自治体の貧困と、おびただしい失業者の洪水を生み出しております。また、この産炭地に誘致された企業もごく少数であり、この企業も、
政府の積極的援助策がないまま、成長することができず、立ち枯れ状態に追い詰められつつあるのであります。こういった中での教育がいかに困難をきわめておるかは、想像を絶するものがあります。いまや、産炭地の学校は教育の場とは言えず、教師は、青少年非行の防止、あるいは
児童生徒の家庭の貧困との戦いに追われ、あるいはまた、教育扶助費の支給、学用品の購入、支給等の事務に忙殺されるため、極端な人員
不足と労働強化を来たし、ために、学校は福祉事務所か職業安定所のごとき観を呈する場合さえあるのであります。総理は、この第五十一国会の冒頭、青少年教育の重要性に触れ、次のように述べております。「私は、最後に青少年
諸君に訴えたい。今日の青少年
諸君が自由と平和に恵まれつつ、はつらつと成長できることは、まことに幸福であります。」——これを、産炭地の
児童生徒五十三万、なかんずく生活保護、準要保護
児童生徒約十万名、並びにその父兄は、何と聞いたでありましょうか。教育の機会均等を失すること今日の産炭地学校ほど深刻なものはないと思うのであります。この中で、
さきの第四十八国会において、愛知文部大臣の言明、あるいは本院石炭特別
委員会の決議等、産炭地教育に対する
財政的、行政的な特別
措置がなされるよう約束はされておりますけれ
ども、いまだにその施策はきわめて不十分と言わざるを得ないのであります。この産炭地教育の窮状に目をおおうことなく、これを救済するため、総理並びに文部大臣はいかなる方途をお持ちであるか、また、救済する必要はないとお考えであるか、この点をお伺いいたしまして、私の
質問を終わりたいと思います。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕