○川村清一君 私は、
日本社会党を代表し、ただいま御
報告になりました、いわゆる漁業白書について、佐藤
総理並びに農林
大臣に対し若干の
質問をいたします。
この白書を一読して端的に感ずることを率直に申し上げるならば、まさに優等生の作文であります。
政府当局に都合の悪いところは、意識的に巧みに避けながらも、一般的にはまんべんなく、そつなく記述されておりますが、何が重点なのか、胸にこたえるものは何一つありません。沿振法により義務づけられておるため、義務的作業として、形式的に
報告書をまとめたにすぎないとのそしりを免れることはできないと思うのであります。少なくとも、
政府の提出する白書には、
政策がなければ無
意味であります。現在、沿岸漁民の置かれている実態を正しく認識し、その実態を踏まえて、沿振法の目的たる
沿岸漁業等の生産性を向上し、他産業との格差
是正のための強力な
施策を、重点的に志向する
政策を、国民の前に明らかにするところに、漁業白書の意義があります。
わが国の漁業は、いまや、大きな曲がりかどにきております。国際的には、かつては水産王国の名をほしいままにし、世界の海に雄飛していた日本漁業も、いまや、漁獲高においてはペルーに王座を奪われ、続いて、ソ連にも追いつかれようとしておりますし、韓国その他、後進国の漁業発展も目ざましいものであります。これに対し、わが国の遠洋漁業は、世界漁場においてきびしい規制を受けて、しりつぼみの状態になっております。国内漁業では、沿岸漁業、中小漁業と、大資本漁業との二重構造は、一向に解消せず、格差はますます
拡大しております。独占資本の収奪支配の中で、沿岸、中小漁業は縮小の一途をたどっておりますし、さらには、沿岸と中小漁業相互間の
矛盾も逐次増大しているのが
実情であります。このような情勢の中で、将来日本の漁業はどうなるのか、沿岸漁民は漁業で生きていけるのか、中小漁業の
経営はどうあるべきか、漁業者は進路を求めて迷っております。これらの漁業者に対し、長期的展望に立って希望を与え、進むべき
方向を的確に指示するものが漁業白書であろうと思うのであります。しかるに、本白書は、現象面をただ追って、統計的な数字を羅列しているにすぎないし、講じたおもな
施策は、ただ単に予算執行の経過を平板的に
報告したものであります。ここには、特に深く心を配って分析究明した問題もなければ、問題
解決のために最大の努力を傾注したあとを認め得るものは、何一つなく、しいてあげれば、日韓漁業協定の締結だけであります。要するに、本白書は、漁業
政策不在の白書であり、国民に何らの示唆を与えるものではありません。一体、
政府は、どんなおつもりで、この白書を
国会に御提出になられたのか、
総理の御見解をまずお尋ねする次第であります。
質問の第二点として、わが国
経済の異常な高度発展の過程で、漁業は、農業とともに、一方的に犠牲をしいられ、他産業との格差を
拡大されてまいりました。漁業生産は三十七年をピークに連続減産を続け、三十九年は、前年より沿岸では一一%、中小漁業では五・八%減少しております。生産の低下を需要増による魚価の上昇により若干カバーしておりますが、このことは決して恒常的なものではなく、漁業
経営の安定を物語っているものではありません。沿岸、中小漁業の前途はきわめて憂慮にたえないものがあります。したがって、わが国漁業構造の中で九割五分を占める沿岸漁業
経営体は年々減少し続け、中小漁業もまた同じ
方向に推移しております。このことと相関的に漁業就業者数も激減しておりますことは当然の帰結であり、労働力の流出は、はなはだしく、特に若年労働力の流出に大きく傾斜しております。このため沿岸漁村の衰微は、はなはだしく、ますます魅力のない漁村となり、青年の離村に拍車をかけているのが漁村の実態であります。沿岸、中小の困窮をよそに、大資本漁業のみは発展を続け、階層分化はますます激しくなっております。白書は、その他の漁業として生産面にのみ若干触れておりますが、それによると、大資本漁業は、三十九
年度に、沿岸、中小とは逆に、生産量は一二・五%
増加を見ているのであります。生産量の
増加は一二・五%でありますが、その収益率はばく大であります。北洋母船式サケ・マス漁業に一例をとりますならば、母船と独航船の
関係において、独占資本は、買魚
価格で中小を収奪し、
経営面、金融面で支配し、市場
価格形成の場においてもそのどん欲性を
拡大しているのであります。いまや独占資本は、沿岸、中小漁業のあらゆる分野で、生産、加工、流通の各過程を通じて、収奪をほしいままにしていると言っても決して過言ではないのであります。しかるに白書は、この点の分析を故意に避けておりますが、この問題が今日のわが国漁業構造上の最大の問題であります。この問題の究明なくして沿岸漁業の抜本的振興
対策はあり得ないと確信しておりますが、これに対する
総理の御見解をお伺いしたいと存じます。
さらに、この際、
総理は長期的展望に立って、わが国民
経済の中における漁業の位置づけを明らかにしていただきたいと存じます。
質問の第三は、世界の沿岸国は、漁業先進国であるわが国漁業の進出に対し、いずれもきびしい規制
措置をもって抑制せんとしております。後進国の漁業発展への意欲と漁獲努力にのみ専念し、資源の維持開発を無視した、わが国漁業に対する不信感は、わが国遠洋漁業に対し、各国沿岸からの締め出しをはかっており、わが国が領海三海里と公海自由の
原則を主張しても、相手方がなかなか容認しないのが
実情であります。加えて、日韓漁業協定で、名目は専管水域でありますが、
実質的には領海十二海里を認めたことから、さっそくニュージーランドが韓国同様に専管水域十二海里を主張して紛争を起こしており、かかる紛争は今後ともその他の国々との間にも惹起する可能性があります。世界の沿岸国で領海三海里を主張する国は少なく、大半は六海里あるいは十二海里を宣言しているのが
実情であり、日本の主張は国際的に通らなくなってきております。かかる情勢の中で、わが国はあくまでも領海三海里を主張し続ける方針なのか、明らかにしていただきたいと存じます。
海洋に関する国際条約として、すでに、領海及び接続水域に関する条約、公海に関する条約、大陸だなに関する条約が発効しておりますのに、世界一流の漁業国であるわが国が、いまだこれに加盟しておりませんが、これはいかなる
理由によるものか、理解ができません。今
国会に批准案件として
提案される御意思がないか、お伺いいたします。要するに、国際漁業は、国際信義と協調に立脚し、人類共同の資源を保護育成して、永続的に漁業が継続されるよう、世界的視野からわが国遠洋漁業の位置づけをすべきだと思いますが、これに対する
総理の御見解を承りたいと存じます。
次に、農林
大臣にお尋ねいたします。農林
大臣には、白書から摘出した具体的な問題についてお尋ねいたしますので、御答弁も、具体的に明確にお願いいたします。
質問の第一点は、沿岸構造改善
事業に対する成果と欠陥が分析されていないことについてであります。沿岸漁業の生産は、漁船漁業については減少し続け、ノリ漁業につきましても、一昨年は凶漁、昨年は豊漁でありましたが、本年はまた暖冬異変の
関係で大不作といわれ、
関係漁民はその
対策に天災融資法の適用を願って、陳情運動を行なっております。このように、その生産動向はきわめて不安定であります。沿岸漁業の振興をはかる目的をもって、多額の国費、
地方費を投入し、あるいは地元漁民も経費を
負担して、沿岸構造改善
事業を施行しているのでありますが、その効果が漁業生産の面にいまだに顕在化されないことは納得できません。白書は何ゆえこの点を明らかにしていないのか、
お答え願います。
質問の第二点は、資源についてであります。わが国漁業の発展過程が科学的資源論を基礎に置かない生産第一主義の漁獲操業として進められてきた
関係上、諸外国に比べ、資漁研究は非常に立ちおくれていることは、何人も認めていることであります。このことは、毎年の日ソ漁業
委員会の論議の焦点となり、日本の主張が相手方を納得させることができないで推移してきたことでも明らかであります。白書においても、生産の減産が、イカ、サンマの海況の変化による不漁が原因であると軽く片づけておりますが、はたして短期的な海況の変化が魚群形成を阻止したのか、乱獲による資源量の減少なのか、魚道変化があったのか、もっと突っ込んだ分析解明がなされなければならない問題であります。資源問題の分析には、困難が伴い、長期的な努力を必要としますが、そうであればあるほど、国は試験研究に本腰を入れ、さっそく取り組むべきであり、科学的資源論に基づいた強力な水質汚濁
対策や恒久的な生産
対策が打ち立てられなければならないと思いますが、これに対する御見解をお伺いいたします。
質問の第三点は、水産物の需給
関係と
価格の問題についてであります。白書は、生産量は減少したが、旺盛な需要によって
価格は上昇して、漁家
所得は前年より三%
増加したことを
報告しております。水産物の
価格が上がり、漁家
所得が向上したことは、漁民にとっては喜ぶべきことではありますが、これは
政策的になされたことではなく、需要が
増加したことによる自然的現象であります。したがって、恒常的に安定したものではありません。生産減を
価格が補うという
経営は不安定であります。白書は、この点、深く分析すべきであります。資本主義機構の中では、
価格が需給
関係で形成されることは確かであるが、少なくなれば何で毛高くなるとは限らないのであります。消費動向を予測し、需要の長期的
見通しに立って生産の
計画運営をすべきであり、このことによって漁家
経済の安定が期せられるのであります。水産物の輸入は、対前年比五一%増で、三十五年当時の六倍近くに激増をしております。白書は、この点、需要の増大と国内生産の停滞によるものと言っておりますが、これこそ全く、輸入に対する定見を欠いたものであり、場当たり行政の最たるものであります。国民の健康を守る動物性たん白質資源である水産物の必要需要量が推定され、これにこたえる国内自給率の計算を基礎に輸入量をきめていく分析がなされない限り、長期的な
政策を立て得ようはずもなく、ソ連、韓国等から多獲性大衆魚の輸入におびえている沿岸漁民を安心させることはできないと思うのでありますが、これに対する御見解をお尋ねする次第です。
質問の第四点は、漁船漁業の
経営と漁業調整の問題についてであります。白書は、沿岸漁家層を分析して、ミトンから五トン層の
経営が、漁業
所得の生産性が比較的高く、家族労働力を中心に
経営も集約的に営まれているので、この層の
経営体数が最も
伸び、沿岸漁船漁業の中核として今後とも発展が期待されると分析
評価しております。一方、中小漁業につきましては、十トンから三十トン層が著しく減少していることを明らかにしておりますが、従来、この層は、沿岸漁業の中心的存在でもあり、沿岸
経済に対する寄与率は非常に高かったのであります。しかし、近年、資源の枯渇によって企業採算性が低落したため激減したのであります。このような情勢の中で、
政府は、今後沿岸の漁船漁業に対し、どのような方針で指導なされるか、そのお考えを明らかにしていただきたいと存じます。
さらに、続いて、二百トンから五百トン層への大型化が
増加していることに対しは、何らかの
施策が考慮されなければならないと思うのであります。このことは、資本装備の拡充と相まって、操業区の
拡大と生産力の増大を促進はしてきたが、生産の
伸びが順調に進まぬ限り、資本効率を低下させ、
経営が行き詰まる危険性を多分に包蔵しております。このことが中小漁業の独占資本への系列化が激増する要因になっていると思考されます。大資本と中小漁業との
関係の中で、この問題にどう対処していかれるか、明らかにしていただきたいと思います。
次に、白書は、漁業調整、漁業取り締まりについて相当詳しく
報告しており、沿岸沖合いにおける底びき漁業については、厳重な取り締まりのもと、著しい効果をあげたと分析しておりますが、沿岸の
実情は必ずしもさようにはなっておらないのであります。小型、中型機船底びきによる沿岸漁民に与える損害は、相も変わらず相当額にのぼり、両者の紛争は各地に頻発しております。底びき漁業は沿岸漁民の怨嗟の的になっているのが現実の姿であります。沿岸漁民は
政府に対し、底びき網漁業の禁止区域の
拡大、網目の規制、夜間操業の禁止、暴力的入り会いの徹底的取り締まり、違反漁船の許可取り消し等、強力な
措置を講ずることを要望し、底びき漁業からの被害の絶滅と乱獲を防止し、資源の維持を期待し、願っているのであります。日韓漁業協定では、共同規制水域内の底びき漁業について強力な規制
措置をとっておりますが、わが国沿岸においても当然規制
措置を強めるべきであると思いますが、これに対する御見解をお伺いいたします。
最後に、北洋サケ・マス漁業の問題についてお尋ねいたします。本
年度の漁獲量の決定をめぐって、現在モスクワにおいて日ソ漁業
委員会が開かれ、種々論議されております。詳細につきましては、交渉のさなかでありますので、あえて私は避けたいと思いますが、報ぜられているところによれば、ソ連側の主張する規制
措置はきわめてきびしいものがあり、特に本年はマスの不漁年であるということから、北緯四十五度以南、いわゆるB区域の出漁船の九割減船を要求していると言われております。これが事実であるとすれば、事態はまことに重大であります。B区域の出漁船はほとんどが沿岸零細漁民であり、船型も七トン以下の小型が多く、しかもその数は二千隻を上回っております。この漁業を禁止されますことは沿岸漁民の死活に関する問題であり、いまや
関係漁民は異常な関心をもってモスクワ
会議の成り行きを見守っております。
政府はこの問題について、いかなる方針をもって対処せんとしているのか、御決意のほどを明らかにしていただきたいと存じます。
以上で私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕