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吉田忠三郎君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま
報告のありました
羽田沖での
全日空機遭難事故に関して、
総理並びに
運輸大臣に
質問を行ないます。
御
承知のとおり、去る四日夕刻、
羽田沖合いで、一瞬にして百三十三人のとうとい命が失われた
全日空ジェット旅客機の
遭難、一機の
墜落事故としては
世界史上最大の死者を出した、まことに悲しい重大な
できごとであります。いまや全
国民、こみ上げてくる悲しみ、何ものにぶっつけてよいのかわからぬ
怒り——私は、
質問に先立ち、
犠牲となられました百三十三人の
方々に、みたまよ安かれと、心の底から御
冥福を祈るとともに、御
遺族の
方々に対し、心からなる御同情を申し上げる次第でございます。
さて、今次
事故を顧みて、今後の
対策をも含めて
幾多の問題があろうと存じます。この
機会に、まず
総理大臣に伺います。
その第一は、
わが国の
航空政策と
事故に対処する具体的な
対策であります。
総理御
承知のとおり、
政府は、
さきの
所得倍増計画の中で、「
交通機関の
利用者たる
国民の
立場に立って、将来の
交通体系の
構造的発展を促進する
投資政策がとらるべきである」と
国民に公約をしました。
総理また就任以来、
人間尊重、ひずみの是正を
政策の
基本として、今日なお大々的に
宣伝をしてきたところであります。しかるに、
運輸交通の
現状は、
政府の
宣伝とは全く逆に、ますます悪化の
傾向にあり、このことは、
さきに私が本院において、その例を具体的にあげ、
指摘をしたところで明らかになっています。さらに、
都市交通、
通勤通学輸送、
安全保安、踏切の問題等々、数え上げますれば
幾多の問題が山積しています。これに対し、
政府は、いまだ効果的な、かつ具体的な
施策を施していないのであります。私は、この
機会に、
総理の言う
人間尊重を基調とした
運輸交通政策とはいかなるものか、具体的に示していただきたいと思うのであります。
さらに、
航空政策でありますが、
わが国航空の
現状は、
政府みずから認めているように、国際的に見て、諸
施策はまことに立ちおくれているのであります。これらは、衆参を問わず、たびたび
国民の
立場で
指摘をされてきたところであります。しかるに、今日、これらはいまだ何ら克服されていないのであります。その
一つは
施設の問題であります。
わが国主要飛行場の
整備について見ても明らかなように、
羽田の場合は、
予算不足のために、窮屈な、無理な
空港になっているのであります。継ぎはぎ式に拡張したため、スポットと
整備施設の地域が
滑走路で分断をされているのであります。何ぴとが見ても、自動車で引かれた
飛行機がよたよた
滑走路を横断する
状態は、まことに危険といわなくてはなりません。また、
空港周辺の住宅、これに伴い騒音問題で、
飛行機は離陸後間もなく大旋回をしなければならない問題等々、大阪に至ってはわずか千八百メートル余の
滑走路たった一本、これでは、おせじにも
国際空港とは言いがたいのであります。さらに、
米軍が一切
管理をしている福岡に至っては、
お話にもならないと考えます。これらは、追って
運輸委員会及び
予算委員会において、詳細取り上げ、具体的に
指摘をいたし、
政府を督励し、鞭撻いたすこととしても、
空港に
事故の誘因となるようなものは、たくさん存在しているのであります。まさに「危険がいっぱい」の
空港といわなければならない
現状であります。加えて、
航空行政、
日本の
民間航空の
あり方についても、わが党はしばしば問題を提起してきたところであります。今回の
事故はもとより、
わが国の
航空事故も戦後かなりのものになっております。
政府も御
承知のように、
昭和二十七年の
木星号の
事故をはじめ、今回の
事故等々、数えあげますれば十数件にのぼり、その
たびごとに多くの
犠牲者——とうとい
人命が失われているのであります。
政府は、そのつど、それぞれ今後の
対策に万全を尽くすと、
国民に声明してきたところであります。しかるに、
政府が今日まで具体的に取り来たった
政策は、恒久、当面を問わず、何らなされていないと言っても過言ではないのであります。したがって、かかる一切の責任は、あげて
佐藤自民党政府並びに
運輸大臣にあると断ぜざるを得ないのであります。とりわけ、
監督指導の面でも言えるのであります。今度の
事故の場合、
機種の性能に
関係があるかどうかは、いまだわからないにしても、そこに
一つの
問題点があったことはいなめない。なぜかならば、それは、この
飛行機の
製作国たる
アメリカで、すでに問題にしているからであります。昨年十一月の
米誌によりますれば、
航空会社やパイロットから
称賛のことばを受けた
中距離ジェット機ボーイング727が、八月に
事故を起こした。さらに、十一月八日と、その七十二時間後に起こした
事故に触れまして、「三つの
事故は、みんな
飛行場に接近して起こった、そして、そろって夜だった」と述べているのであります。
航空局の
調査でも明らかなように、
ボーイング27は、昨年八月以来、三回にわたる大
事故を起こしているのであります。いずれも
着陸のときにおける
事故で、今回の
全日空の
事故と
共通点があるのであります。このことについて、
アメリカの
航空局は、
同機の
構造上の欠陥として、「後部の出入り口が必ずしも
脱出口として利用できない、
機体の底を通っている
燃料パイプがショックで火の出る危険があり、その経路を変え、材質をもっとじょうぶなものにする必要がある」と、すでに
改造勧告を出しているのであります。また、
T字型の尾翼を持った
ボーイング727型のような
飛行機は、
構造上失速しやすい
傾向があるともいわれているのであります。しかるに、
わが国航空局は、727型は、きわめて
高性能化されたもので、離
着陸に要する距離が短くて済み、なおかつ、
経済性に富み、便利な
ジェット機であると、しきりに
称賛をいたし、かてて加えて、二月五日の
運輸大臣の
記者会見での
発言では、何らのためらいもなく、「むしろ
安全度の高いものと考えており、日航、
全日空、両
航空会社に対して、
整備点検を十二分に行なうように
指示するだけにとどめる。したがって、
同型機使用はやめない」と発表したことに、私は、端的にあらわれていると思うのであります。今日まで
運輸省として
航空会社に対し、この
機種の運航に特に注意を払えというような
指示指導は全然していないところから見ると、
飛行機会社の
育成にはある程度熱心だが、
監督とか、折り目を正すということは、非常に弱いのであります。
これに対して、私は、今日なお
幾多の疑問を持っています。かつて英国では
ロメット機が立て続けに
墜落をしたときに、
イギリス政府は、き然たる
態度と、厳粛な反省と、公正なる批判の上に立って、直ちに
コメット機の
使用をやめでしまったのであります。事の起きた事態は、よく似通ってはいるようだが、これをすなおに対比してみるときに、
両国政府機関のとった
態度、処置には、格段の差異があり、あまりにも今回の
運輸大臣の
発言は、慎重を欠いた、軽々しいものであったと批判されても、私はしかたがないと思うのであります。
今日、内外を問わず、一般的に
航空企業者は、「いわゆる
政府の
航空政策では先を見越した
事業計画すら立てられない」。また、
国民からは、
機種に対してもすぐれた点のみを強調するあまり、ともすると
機種に対して欲目が出ることがあり、そのことが、何かしら、今後の
国内主要機に統一された
事柄等々をも含めて、一
アメリカ商社の
営利に気がねをしたり、ある意味においては
航空業界に振り回されておるのではないかと批判されても、しかたがないことと思うのであります。もしそうであるとするならば、いやしくもとうとい
人命がその
営利の
犠牲として軽々に扱われることに、結果として、なるのであります。私は、かかる
行政は
国民の名において断じて許されないのであります。この際、
運輸大臣の見解を求めます。
ともあれ、今後の
航空界はますます
大型化の
傾向にございます。世界は急激に
快速大量輸送の時代に進みつつあります。その
機械文明の
進展により、より
高性能の
飛行機が開発されることだろうと存じます。
高性能の
飛行機では
機械装置が複雑であり、したがって、
操縦技術も複雑であります。それだけに、一瞬にして破局的な
事故を生み出す
危険性をもひそんでいるともいわれているのであります。しかし、私は、いかに
機械文明の発達とはいえ、
傾向はどうありましょうとも、
事故は避けがたいものだとは信じたくないのであります。もちろん、そこには社会的、経済的、政治的ないろいろな要因が加わり、常にある点で
安全性を損うような妥協が行なわれている事実はあるとしても、この
事柄は
機会あるたびに反省しなければならないし、特に今度の
事故は目先の
東京湾内での
事件であるからであります。したがって、
事故の原因は徹底的に追及されなければならないと考えます。
政府は、このことについて
調査委員会を設置し、今度の
事件を精細に
調査すると言っていますが、私は、ただ単なる
調査だけでは結局さほどのデータは出てこないと思います。この際は、抜本的な
対策として、同一
条件の
状況を厳密に再現し、考えられる限りの場合をテストするということが必要ではないか。と同時に、これがためには、
政府は思い切った
航空予算を計上すべきであると考えます。今日、
日本の
航空界は
幾多の問題をかかえています。
保安施設の弱体、業界の
過当競争、要員の不足等々、これらの矛盾の
一つ一つをこの
機会に真剣に考え、解決することはもとよりでありますが、何といたしましても、
安全性を第一義的に取り上げなくてはならないと思うのであります。今日、
米ソとも、宇宙船に乗った
人間の
事故は、いまだ一度も起こしていない。このことは、両国は、
国制の相違や、置かれている諸
条件の違いがありましょうとも、国の威信をかけてすべてを統一をして動員され、総力をあげてその安全に尽くしているからであります。
政府は、このことにこの
機会に目を向け、今後あらゆる角度から、
政策、
施策を施さなければならないと存ずるのであります。かかる観点から、
一つには、
基本の問題として、
日本の
航空事業の
あり方は、
先進国のごとく国営もしくは
公社制にして運営するという検討も、この段階では必要であろうし、二つには、今後の
事故対策としては、今次
事故を、前に申し述べたとおり、徹底的に究明し、あくまでも
人命の
尊重と安全を第一に考えた諸
施策を常に先行させなくてはならないと考えます。
総理大臣の明快な答弁を求めます。
最後に、
政府はこの際、
犠牲者の
補償並びに御
遺族の救済については、特段の
努力と
最善の
措置をとられまするよう強く要望して、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕