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1966-06-21 第51回国会 参議院 法務委員会 第26号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十一年六月二十一日(火曜日)    午前十一時二十分開会     ―――――――――――――    委員の異動  六月九日     辞任         補欠選任      大矢  正君     亀田 得治君  六月十七日     辞任         補欠選任      市川 房枝君     山高しげり君  六月二十日     辞任         補欠選任      亀田 得治君     鶴園 哲夫君     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     委員長         和泉  覚君     理 事                 木島 義夫君                 松野 孝一君                 稲葉 誠一君     委 員                 後藤 義隆君                 斎藤  昇君                 鈴木 万平君                 中野 文門君                 中山 福藏君                 鶴園 哲夫君                 藤原 道子君                 山高しげり君    国務大臣        法 務 大 臣  石井光次郎君    政府委員        法務大臣官房司        法法制調査部長  塩野 宜慶君        法務省民事局長  新谷 正夫君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所事務        総長       岸  盛一君        最高裁判所事務        総局民事局長   菅野 啓蔵君        最高裁判所事務        総局民事局第一        課長       西村 宏一君    事務局側        常任委員会専門        員        増本 甲吉君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○執行官法案内閣提出衆議院送付) ○借地法等の一部を改正する法律案内閣提出、  衆議院送付)     ―――――――――――――
  2. 和泉覚

    委員長和泉覚君) ただいまから法務安員会を開会いたします。  まず、執行官法案議題とし、政府から説明を聴取いたします。石井法務大臣
  3. 石井光次郎

    国務大臣石井光次郎君) 執行官法案について、その趣旨を説明いたします。  わが国の執行吏制度は、明治二十三年に旧裁判所構成法と同時に施行された執達吏規則及び執達吏手数料規則によってその基礎が定められて以来、ほとんど実質的な改善が行なわれることなく、今日に至っているのであります。もとより、政府におきましても、執行吏制度の全面的な改善について長年にわたり検討を続けてまいっているのでありますが、現在の執行吏を完全な俸給制国家公務員に置きかえることを目途とするような抜本的な改正につきましては、なお解決を必要とするいろいろな問題点がありますので、この際、今日の社会情勢にはなはだしく適合しなくなっている諸点等改善を加え、この制度の適正円滑な運営を確保することを目的としてこの法律案を提出することとした次第であります。  この法律案は、従前の執行吏にかえて、執行官を置くこととし、執行吏規則及び執達吏手数料規則廃止いたしまして、執行官に関する基本的事項につきまして必要な措置を講じようとするものでありまして、その主眼とするところは、新たに置かれることとなる執行官について、その職務内容事務処理体制手数料その他をできる限り明確かつ近代的なものとし、その公務員としての性格の強化をはかろうとする点にあります。すなわち、この法律案によりまする執行官制度におきましては、これが当事者等から受ける手数料をその収入とする点は従来の執行吏の場合と同様といたしておりますものの、まず、執行吏各自が執務の本拠としてみずから役場を設置しこれを維持するという従来のあり方を改めまして、執行官は通常の裁判所の職員と同様に裁判所に勤務するという体制とし、次に、当事者がその選択する各個の執行吏に直接事務の取り扱いを委任するという従来の制度をやめまして、当事者は国の機関としての執行官に対して申し立てを行なうこととするとともに、執行官事務の分配は、原則としてその所属の裁判所が定めることといたし、また、職務を担当する執行吏手数料等予納金その他職務上、取り扱う金銭を各自の責任において保管するという従来のあり方を改めまして、執行官の取り扱うこれらの金銭原則として裁判所が保管することとする等、現行執行吏制度に比して、その職務体制その他を合理化しまして、執行官の行なう民事裁判執行その他の事務運営を適正円滑化するための基盤を強化しようとするものであります。  以上が、執行官法案趣旨であります。  何とぞ、慎重御審議の上、すみやかに御可決くださいまするよう、お願いいたす次第でございます。
  4. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 本案に対する質疑は、後刻行なうことといたします。     ―――――――――――――
  5. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 次に、借地法等の一部を改正する法律案議題とし、質疑を行ないます。質疑のある方は、順次御発言を願います。
  6. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 建物保護法ができた経過は、どういうふうな経過から建物保護法をつくるようになったんですか。――だいぶ古い法律ですね。明治四十何年かな。
  7. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 建物保護ニ関スル法律でございますが、これは明治四十二年の五月にでき上がった法律でございます。明治の問題でございますけれども、当時、日清日露戦争を経ましてだんだんと日本社会が発展してまいるに従いまして、土地建物売買その他の処分がかなり多く行なわれるようになってまいったわけであります。その際、借地上に建物を持っております場合に、地主が勝手にその土地を担保に入れたり、あるいは売買によって譲渡するというようなことが行なわれますと、建物所有者、言いかえればその土地賃借人立場保護されない結果になるという事例がだんだん多くなってきたようであります。そこで、建物所有目的といたしまする土地賃借権あるいは地上権保護するために、特別にこの建物保護ニ関スル法律を制定いたしまして、借地権者保護をはかるようにいたしたものと理解いたしておるのでございます。
  8. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 借地権者保護をはかるのに、土地とは関係のない建物登記によって対抗力があるという行き方は、非常に変則的な行き方ですわね。どうしてこういう変則的な行き方が生まれてきたわけですか。
  9. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 建物所有いたしますためには、地上権を設定いたしますか、あるいは賃貸借契約を締結するか、いずれかの方法によるのが普通の場合でございます。地上権につきましては、これは物権でございますので、地上権設定契約がございますれば、登記をいたしましてその対抗要件を備えることができるわけでございますけれども賃貸借の場合におきましては、これは登記はできるわけでございますか、賃貸借という債権関係でございますので、当然に賃借権者が単独で登記をすることはできないということから、この賃貸借登記があまり行なわれないということでございます。  そこで、登記はなくても、建物だけ自分の名義にしておけば、たとえ土地所有者がかわりましても、建物を公示しておることによってそこに賃貸借が存在することが明確にできますので、そういう関係建物登記をすることによりましてその土地賃貸借第三者に対抗できると、このようにいたしたわけでございます。
  10. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そのとおりですけれども、しかし、土地賃貸借登記が、土地とは別個建物でしょう。土地という一つ不動産建物という一つ不動産、全然別個のものですわね。それの登記によって土地賃借権というものについての対抗力を与えるという行き方は、きわめて例外的な行き方であって、理論的にもおかしいものじゃないですか。そういうふうに考えられないわけですか。
  11. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 確かに、お説のように、建物そのもの登記でございますので、土地登記とはこれは違うわけでございます。しかし、賃貸借関係の存在します土地の上に建物所有しておるわけでございますので、その建物登記してあるということによってその土地利用関係もそれによって明らかにし縛る。そこで、これは一つの便宜の方法かもしれませんけれども土地そのもの賃貸借についての登記ではございませんけれども建物を少なくとも登記してあれば、その敷地である土地利用権建物所有者が持っておるということが明確にし得るわけでございますので、賃貸借登記は困難であっても、建物登記さえしてあればそれでいいというふうにされたわけでございます。
  12. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 その建物保護法廃止することが、「借地借家法施行法案要綱」というのですか、その第二のところに出ていたわけですね。そうじゃないんですか。建物保護法廃止しないで行った理由ですね、建物保護法廃止するということにしておきながら建物保護法廃止ということに踏み切らなかった理由はどこにあるわけですか。
  13. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 「借地借家法改正要綱試案」におきまして、この建物保護ニ関スル法律廃止しようという考えもあったわけでございます。これは、土地賃借権が現在地上権賃貸借と二つの形態になっておりますのを一つにまとめまして、全部物権にしようという構想に立っておるわけでございます。そうなりますれば、しいて建物保護法を存置しなくても、それが物権になりますれば、物権者でありますところの土地利別者登記の申請ができるわけでございますので、地物保護法を存置する必要はないと、こういう帰結になるわけでございます。そういう意味で建物保護ニ関スル法律廃止するということが関連する問題として考えられたわけでございます。
  14. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そこで、借地権物権化の問題が起きてくるわけですが、借地権物権化ということについて、これは昔から借地権はもう物権なんだという考え方が、一部の学者というか、一部の判事の中にあったんじゃないですか。賃借権という債権的なものじゃなくて、すでに、借地権というものは物権なんだという考え方があったわけでしょう。
  15. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 民法賃貸借そのものが即物権であるというところまで考えておるかどうか、これは法律論としても問題でございます。ただ、しかし、土地賃貸借という債権契約でございますが、これがだんだんと土地利用者保護しなければならないという考え方から、賃借権保護強化ということが考えられてきたわけであります。本来の債権契約のままにいたしておきますと、必ずしも土地利用関係がうまくいかないといううらみもございますので、不動産賃借権というものは物権化されていくべきものであるというのが多くの学説のとっておる態度なんであります。物権的に賃借権というものを将来考えていくべきである、現にまた、賃貸借というものがだんだんと強化され、ことに借地法というふうな法律があとでできました経緯にかんがみましても、土地賃借権物権として保護していく方向に行くべきである、現行法のもとにおきましてもいろいろの手当てがございましてこの賃貸借というものを保護しょうという構想がございますために、土地賃貸借というものを物権化していくべきものである、また、そういう傾向にあるということが学説としては言われておるわけでございま
  16. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 学説として物権化方向へ進んでいくべきだというのが非常に強い傾向であること、これはわかるのですが、現実学説の中でも、すでに現在でも物権だという考え方があるのじゃないですか。岡村玄治博士なんか盛んにそういう説を言っていましたね。これは判事をやっていてそういう説を出したのでどこかの裁判所に左遷されたという話もあるくらいですが、これはどういう説なんですか。現在でも物権だというんでしょう。そういう考え方じゃないんですか。ちょっとぼくも理解しにくいところもありますけどね。
  17. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 現在、民法上の物権としましては、賃貸借に近いものとしては地上権という物権があるわけでございますが、その物権がありながらなおかつ債権契約として賃貸借を締結することによって賃借権というものも生まれてくるわけであります。その間に区別する必要はないじゃないかと、極端に言えばそういうことになるわけであります。ことに、賃借地上建物所有しておるその建物を譲渡するということになりますと、当然にその敷地利用権処分がそれに伴うわけでございます。債権関係でございますために、建物処分することと土地利用権処分することが別個の問題になるわけでありますけれども、これは事実上は不可分にくっついて処理されなければならない筋合いのものでございます。建物所有者がその建物処分しようとしても、敷地利用権がそれに合理的に伴っていかないといううらみがありますために、投下資本の回収も十分できないということになるわけであります。そういう関係で、これを物権にしてしまえば自由にその利用権を譲渡できるわけでございますので、賃貸借という債権契約じゃなくてこれを物権にするということが必要である、これが物権化一つ理由とされるわけであります。  ただ、しかし、少なくとも現行民法におきまして、物権であるところの地上権と、債権契約に基づいて発生します賃借権というものは、法律上全然別個のものであります。債権である賃貸借関係を直ちにこれを物権であると言い切ってしまうのは、法律のたてまえから、言っても行き過ぎであろうと思うのでございます。ただ、しかし、そうは申しましても、土地賃貸借というものを保護すべきであるということは、これは何びとも肯定せざるを得ない問題でございますけれども債権関係ではあると、青いながらも賃貸借関係をできるだけ物権に近いような形で保護していこうという趣旨が極端に、言われますと、賃借権物権というふうな形で言われるであろうと思うのでありますけれども法律上はこれは厳然たる区別があるわけでございます。賃借権はすなわち物権であるというふうに申し上げるのは、ちょっと行き過ぎではないかと思います。
  18. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 物権法定主義をとっているのですから、賃借権物権だということは、これは理屈から言ってもあり得ないわけなんですが、それはそれとして、そういうふうな一部の非常に珍しい学説を唱える裁判官がいたわけですわね。それは現実の問題で実質的な権利に着目してそういう見解を述べたんだと、こう思います。  そこで、問題になってきますのは、今度の改正案の中では、建物保護法廃止ももちろんうたってないし、賃借権物権化ということについても、これは一応そういう「要綱試案」があったのですけれども後退してそこまで行かなかったわけでしょう。その点はどうなんですか。行かなかったことについては何か特別な理由、かあるわけですか。
  19. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 前にも御説明したと思いますが、「借地借家法改正要綱試案」というものができたわけでございますけれども、これは、借地借家法改正準備会という会合におきまして、一応考えられる理想案というものをひとつつくってみるということからこれができたわけでございます。正式に法務省の案としてつくるためにこの作業をいたしたわけではございません。現行民法借地借家法、あるいは建物保護法等関連法律を整備するために、また、将来の借地権というものをどう持っていったら最もすっきりするものになるかというような考えに立ちましてこの「要綱試案」というものを検討されたわけであります。これは、一種の理想案と申しますか、そういった特定の関係者の努力の結果でき上がったものでございますが、もちろんこれが法務省案であるとかあるいは政府案であるというふうな考えには立っていないのでございます。  したがいまして、これがあるからこれに及ばない今度の改正案は一歩後退であるというふうにお考えのようでございますけれども、私どものほうといたしましては、この「改正要綱試案」は一つ参考としてそういった準備会においてつくったものにすぎないのでございまして、政府案といたしましては、これを参考としつつ、しかも現行借地借家関係法制をどう改めていったらいいかということを検討いたしまして、必要最小限度のものを今回の改正案の中に盛ったわけでございます。したがいまして、出発点見方の相違でございますが、「改正要綱試案」から出発するとすれば確かに後退というふうな御感触になろうかと思いますけれども、私ども政府立場からいたしますれば、現行民法なり借地借家法にさらに一歩前進したというふうに考えておるわけでございます。もちろん、借地権というものを物権にいたすという考えではございませんので、その点では「要綱試案」とかなり隔たりがございます。そうは申しましても、現在問題になっております借地関係あるいは借家関係につきましての特に重要な問題点につきまして、債権関係としながらも、なおかつその間の調整をはかることによりまして土地の合理的な利用に資するように配慮いたしたつもりでございます。したがいまして、私どものほうから申し上げますならば、これは後退というのではなくて、むしろ前進というふうに考えておるわけでございます。
  20. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いや、後退前進かということは、今の法律から見れば前進だという見方もあるし、要綱から見れば後退だという見方もあるし、要綱というのは単なる試案なんだから後退だとかなんだと言うこと自体がおかしいんだという議論もあるですが、それはまあそれとして、賃借権物権化しなかった理由はどこにあるわけなんですか。それが時期尚早だという意見のように聞いているわけですが、どうもそこら辺がはっきりしないわけですよ。ここからどういう意見が出てきて時期尚早となったのか。物権化した場合にどういう人たちがどういう害を受けるのかですね、こういう点のいろいろな要請があってそこまで踏み切らなかったということじゃないですか。
  21. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 昭和三十四年に、この「要綱試案」というものを発表いたしまして、さらに広く各方面意見を求めたわけでございます。その概要につきましても、前回の御質疑のときにお答えいたしておいたわけでございますが、日本弁護士連合会をはじめといたしまして、現在の借地借家関係を「要綱試案」のような形に持っていくとするのは妥当でない、一口に申しますればそういうような意見が非常に多いわけでございます。  それならば、「要綱試案」に盛られた内容のものは考慮に値しないかと申しますと、そうではないのでございまして、かりに物権化できないといたしましても、土地利用、紛争の防止というふうなことを考えますならば、少なくとも現行のたてまえはたてまえとして、なおその上に改める必要性のある点があるわけでございますので、そういった点を取り上げて今回の改正案にいたしたわけでございます。各界の反対理由といいますのは、主として賃借権物権化するということに対して非常に強い反対でございまして「これは、現在におきましても、先ほど申し上げましたように、地上権という物権かございます。ございますが、この物権である地上権債権関係に基づいて発生いたします賃借権というものの比率は、はるかに賃借権のほうが多い。現行法におきましても、物権にしたいと思えば物権になし得る道があるのでございますけれども、それがなおかつ賃貸借が多いという現実の事態もこれは無視できないわけでございますし、また、現に存在いたします賃借権そのもの物権に改めるということになりますると、これは憲法上の問題も出てまいりまして、非常にむずかしい問題がそれに伴って発生してくるかと考えられるわけでありまして、外部の多くの意見が、現段階賃借権物権にすることについて相当批判的な声が多いといたしますならば、これは一応差しおきまして、現行法制のもとにおける最小必要限度改正はする必要があるというふうに考えるわけでございます。
  22. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 賃借権物権化することについて、妥当でないという各方面からの意向もあったということが結論ですね。これはなぜ妥当でないかという理論づけが、法律的な理由もあるし、いま言われたのは法律的な理由の一部を言われたのじゃないかと思うのですが、経済的な理由だとか、社会的な理由だとか、いろいろあるわけでしょう。その点がはっきりしないわけなんですよ。なぜ賃借権というものを物権化することがいけないのか、妥当でないのか、それをしたことによってどういう層が不利益をこうむるのか、こういう点が明確でないでしょう。そこに問題があるのじゃないですか。
  23. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 現在の土地利用関係の大部分は、先ほど申し上げましたように、債権関係としての賃貸借によって行なわれておるわけでございます。これはもちろん土地という不動産利用関係でございますので、貸す人も借りる人も、お互いに信頼関係の上に立って、この人ならばという人にそれを貸しておる。そして、その貸借につきましても、利用につきましても、貸し主意向も十分反映してもらいたいということで行なわれているのが現在の大多数の実情でございます。それを一挙に物権にいたしてしまいますと、これが貸し主側事情は全く考慮されないということになるという不利益が確かに生ずるわけでございます。現在、双方の信頼関係に基づいて合意によってその利用関係が調節されておるのを、いま一挙に物権にしてしまうということは、現在の実情からして適当でない、こういうのが一般の意見でございます。
  24. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 どうもよくわからないのですがね。そうすると、現実地上権という制度がありながら、地上権という制度利用しないわけですわね。これは登記全体に親しまないという日本一つの慣習があることにも原因があると思うんですが、なぜ地上権という制度がありながら賃貸借でほとんどこれは行なわれているのですか。もう九〇何%、九九%、ほとんど賃借権という形で行なわれておるのじゃないのですか。どこに原因があるわけですか、それは。
  25. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) やはり、現在の実情から申しますならば、地上権というふうな物権にしてしまうということが土地所有者の利害に端的に影響するということであろうと思います。そういう権利を設定いたしてしまいますと、もう所有権のほとんど大部分が行使できないものと同じような結果になりまして、ただ単に賃料だけ、使用料だけもらうということにとどまるわけであります。所有権というものをどう考えるかという非常に大きな問題にこれは関連してまいるわけでございますから、現在の社会事情といたしましては、すべての土地所有者がそこまで完全には割り切って考えることはできないというのが多くの意見であるといたしますれば、やはり法律改正考えます場合にもそういう実態は十分考慮に入れてやる必要があるわけでございます。地上権にいたしますと、土地所有者に対しまして登記請求権法律上断然出てまいるわけでありまして、登記してしまいますと、これは非常に強力にはなるわけであります。第三者にも対抗できることになりますので、地上権者にとっては非常に有利でございますけれども、片方、貸し主側にとりましては、ある程度不利益になるというふうなことから、現状といたしましては、大部分賃貸借契約という形によって処理されておるわけであります。  こういった現実を一方の過程において十分考えながらやる必要があるわけでございまして、現段階におきまして物権化するということは国民の多数の考え方にも反するのではあるまいかというふうに考えられるわけであります。もちろん、的に土地利用権保護していくということを考えてまいりますならば、物権化するということが理論的には最もすっきりする形ではあろうと思うのでありますが、実情は必ずしもそうはいっていないということも私どもは決して無視できないわけでございますので、そういう意味でまだなまぬるい改正であるという御意見のようでございますけれども、現状においてなし得る必要最小限度のところをこれによって改めてまいろうというふうに考えておるわけでございます。
  26. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、物権になった場合と、それから賃借り権でいった場合とで、地主側に相当大きな開きがあるわけですね。地主側の権利に差異があるという点がどうも中心になって考えられているようなんですが、そうすると、物権化した場合と、債権であった場合とで、地主側にとってはどういうような差異があるわけですか。大体いま御説明があったんですけれども、整理しますと、ただ債権という場合の純粋な債権関係民法でいう債権関係の場合と、それが相当に大幅に修正されて借地借家関係の中に持ち込まれておるわけですから、純粋な債権関係というものは一種修正されたような形になっているわけですが、最初の民法上の純粋な債権関係の場合と、現在の借地法の場合と、相当違うわけですわね。それはまあ抜きにして、現在の借地法と、それが借地権物権化した場合とで、地主側にとって物権化した場合に不利だというのは、いまちょっとお話にありましたけれども、整理すると、どういう点とどういう点とあるのですか。
  27. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは物権債権の差異でございますので、当然のことでございますけれども物権といたしますれば、物権者であります土地利用者がみずから直接にその土地そのものを支配して利用するわけであります。したがいまして、物権内容に応じまして、その地上権を設定した土地所有者意向にかかわらず、その物権内容に従って権利者が自由にこれを使用収益できるということになりますが、これが債権でございますと、あくまでも貸し七がそれを利用に供した借り主のために使用収益させる対人的な義務を負担するにすぎないわけでございます。これはお話し申し上げるまでもないことでございます。そこに本質的な相違があるわけであります。借り主としましても、債権であります限りは、自分がこういう使用収益をしたい、そういうことを貸し主に求める権利にすぎないわけであります。  これが最も端的にあらわれてまいりますのは、借地権の譲渡の問題であろうと思います。物権でございますと、所有者の承諾なしに自由にこれを処分できますので、売買もできますし、抵当権の目的とすることももちろんできるわけでございます。しかし、現在、債権であります以上は、民法の六百十二条の規定がございますので、無断でこれを譲渡したり転貸したりすることはできないわけであります。債権としての制約を受ける。ところが、先ほど申し上げましたように、土地の借り主が地上の建物所有しておりますときに、どうしてもその建物処分しなければならないというふうな事態が起きましても、地主が承諾しない限りこれが合理的に解決できないという事態になるわけであります。物権でありますれば、円滑にそれが処理できるのでございますが、債権でありますために、地主の承諾が必要であるということになるわけであります。これが一番債権物権との差異によって生ずる違いであろうと思います。  なお、土地利用方法につきましても、物権でございますれば、当初予定したところに従いまして当然その内容に応じた利用関係が発生するわけでありまして、権利者がみずからその土地利用すればよろしいわけでありますけれども債権でございますと、やはりいろいろとその利用形態につきましても、契約によってその内容が定まってまいる。そうなりますと、今回の法案にもございますように、借地条件を変更したいというふうな場合にも、一々地主の承諾と申しますか、契約の一部変更がなければそれができないという不便が生ずるわけでございます。また、登記をいたしますにつきましても、物権でございますれば登記請求権が当然に発生いたすわけでございますが、債権の場合にはそうはまいらないわけでございまして、貸し主の承諾がなければ登記ができないという不便があるわけであります。  その他、こまかい点がいろいろ債権物権によって差異が生ずるわけでございますが、一番大きな点はそういうところにあるように考えます。
  28. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 建物保護法によって、土地賃貸借登記がなくても建物登記があればその新しい土地所有者に対して対抗できると、こういう形になっているわけですけれども、そうすると、その建物登記というのは例外的な一つ制度ですわね。その建物登記を見たって、借地権内容というものはわからないのじゃないですか。わかりますか。
  29. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 建物登記簿を見ますと、その敷地部分の表示がございます。ただ建物の種類、構造、床面積のみならず、何町何番地の宅地何坪の上にある建物と、こういうふうに表示いたしております。したがいまして、その建物登記簿を見ますれば、どこの土地の上にあるかということはわかるわけであります。そうしますと、その土地建物所有者所有にかかる土地であるか、あるいは他人の土地を賃借しているか、どちらかであるということになるわけであります。そこで、もしも土地売買をいたします場合に、その上に建物があるかないかということも、その建物登記簿を見ますればわかるわけでございます。建物登記があれば、賃借権が設定されておるか、あるいは地上権が設定されておるか、あるいは建物所有者所有地であるか、いずれかに該当するということは明らかになるわけであります。
  30. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 建物登記があって、宅地たとえば百坪のうちに二十五坪建物が建っていたとして、百坪全部について建物敷地とみなされるかどうか、これは別の問題じゃないですか。必ずしも百坪全部が建物敷地とは限らないんじゃないですか。
  31. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 確かに百坪全部が建物敷地とは言えないかもしれません。しかし、建物登記簿に敷地部分が表示されておりますと、土地登記簿を見ますれば、その一筆の土地が数筆の土地であるかないかということはわかるわけであります。したがって、その関連は当然つけられるわけでございますので、建物登記だけによって借地権の存在する土地が確定できないというわけてはないのでございます。
  32. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 非常に大きな土地があって、そのうちの一部に建物が建っている場合は、全部の建物敷地を一体どこまで認めるわけですか。分筆してないものがいっぱいあるでしょう、土地で。土地がたとえば百坪あっても、こっちに建物一つ建っている、もう一つ別のところに建物が建っている場合があるでしょう。その場合に、甲の建物を見て、その百坪全部が甲の建物によって借地権を対抗できるというわけにいかない場合もあるんじゃないですか。百坪のところで建物が二つ建っている場合があるでしょう。所有者が別で。そういうところは、甲の建物登記があるからといって、百坪全部に対して土地賃借権を対抗できるということはおかしくなってくるんじゃないですか。
  33. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 一筆の土地の上に二つの建物があって、その建物所有者がいずれも違うという場合は、その土地利用区分をいたさなければならないわけであります。甲という者がその建物所有するためにAという土地の一部を借りて、さらに乙がAという土地の一部を借りて別の建物をそこにつくっているという場合には、これは契約によりましてその土地を区分いたしまして、それを敷地として建物所有しているわけであります。したがいまして、これはやはり当事者に確認いたしませんと、その点はわからないわけであります。もしもその所有者がいずれも違うという場合は、これは確認する必要がございます。
  34. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 その点は登記簿には出ないわけですか。
  35. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 登記簿の場合は、一筆の土地でありますれば、同じように表示されます。したがって、甲の持っている建物敷地部分も、乙の持っている敷地部分も、同じように表示されるわけであります。
  36. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それから建物の保存登記があって、その建物によって建物保護法保護を受ける場合の賃借権ですね、これは内容というものは登記簿ではわからないわけですね。わかりますか。
  37. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これはわかりません。
  38. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 だから、土地の範囲なりそういう借地権内容というものが登記簿上わからないで対抗できるということ自身がもう理論的におかしいんじゃないですか。非常に便宜的な例外的な措置を講じているからこういう結果になるので、建物登記ということは公示として完全なものであるという形なら、そういうものは全部出ていなきゃならぬわけですからね。建物保護法によって救済するという行き方自身がもう非常な便法的なものでおかしいものであって、当然これは改廃してもっとしっかりしたものにしなければいけないのじゃないですか。どうもぼくは建物保護法という法律が現在まだあること自身がどうも納得いかないのですがね。これを廃止して民法に入れるか、民法に入れるのがおかしければ借地法に入れるか、どこへ入れるか別として、どこかへ改廃して入れてくるべき筋合いのものではないのですか。借地法ができたのは大正十何年ですか、そのときに、建物保護法廃止するなら廃止して、借地法の中に入れるとかなんとかいうことは考えられなかったのですか。あるいは、建物保護法はまた別個考えられる働きもあるんだということなら別かもわかりませんがね。そこはどうなんですか。
  39. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 建物保護法借地法あるいは借家法との関連におきましてすっきりした形にすべきであるという御意見は、確かにこれはごもっともな御意見だと思うわけでございます。建物保護法がこういう僅々二カ条の非常に簡単な法律でございますので、これ自体完全かということになりますと、必ずしもこれでも完全無欠と言えないわけでありまして、ただいま御指摘のようないろいろの問題が出てまいるわけでありまして、登記の面から見ますと、これは不備な点が相当考えられようと思うわけでございます。しかし、現状におきまして、先ほど申し上げましたように、借地権者登記できないという実情がございますこれは賃貸借でございますので、地主が承諾しなければ借地権者にはどうにもならない。そうなりますと、便法としてどうしてもこういう方向考えざるを得なかったということも、これはうなずけるわけでありす。そうかといって、現在の建物保護法が完全ではないのでございますので、これを完全にすることもよく検討しなければならないと思います。けれども、これを直ちに廃止だけしてしまうということは、借地権者保護の面からいって困るわけでありますので、この構想そのものは、一たん必要によって生まれたというその理由は、もう現在も変わりないわけでございますので、借地権保護のためにこの法律そのものの思想がやはり残されていくべきであるということも当然考えられるわけでございます。
  40. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、民法の特別法は借地法で、借地法の特別法が建物保護ニ関スル法律だ、こういう理解でいいわけですか。
  41. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 借地法の特別法と申しますよりは、むしろ民法対抗要件についての特別法でございます。本来、賃借権登記をすべきところを、それがなくても、借地人が建物登記をしてあれば借地権第三者に対抗できるというふうにいたしたわけでございますので、これはむしろ民法の特別法になると思います。
  42. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そんなら、民法の百七十七条ノニとかなんといかう規定を設けてそこに入れるとか、あるいは、借地法の中に一条を設けるなり、あるいは、どこか借地法の中の何条の何で入れるということは考えられないのですか。
  43. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 民法百七十七条のあれは物権に対する対抗要件に関する規定でございますので、百七十七条が直ちに債権である賃借権登記には適用にならないわけであります。これはむしろ民法の六百五条の賃借権対抗要件についての特別規定がございます。これによって賃貸借についても登記できるということになっておるわけでございます。したがいまして、百七十七条そのものの特例と考えるか、六百五条の特例と考えるか、さらに借地法との関連においてまた別途考える余地がないかということも関連して問題が出るわけでございますので、どの法律に取り入れるべきかということもはっきりいまここで申し上げられません。将来の問題としましては、こういった点をだんだんと整備していく必要はあろうというふうに考えます。
  44. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまの場合は、非常にむずかしい点ですし、また、むずかしいだけじゃなくて、どれだけ実益があるかということもちょっと議論がある点ですがね。現実にあるわけですから、それをどこの部門に入れたところで、現実に作用が変わりなければ同じことだと思うわけなんですが、何か建物保護法というものが、明治四十二年につくられたものがぽかんと残っているんですね。これは、失火ノ責任ニ関スル法律みたいな、あれもぽかんと残っているわけなんですけれども、何か法律体系として整備されていないというような印象を与えるんですがね。  そこで、現実の問題となってくるのは、難物保護法によって建物の保存登記をすればいいんですが、建物の保存登記をするについても地主の承認が要るというふうに一般の人は考えているわけですね。そうでしょう。まあぼくら説明して、いや、地主の承認は要らないんだ、建物は自分の建物なんで、これは保存登記を自分がやればいいんだと言うんだけれども建物の保存登記の申請のところにも地主の承認欄みたいなところがあるんじゃないんですか。どういうふうになっているんですか。
  45. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 建物登記をいたしますときに、これは表示の登記ということになりますが、その建物を自分が持っておる、自分の所有であるということの証明が要るわけでございます。その証明の一つ方法として、土地賃貸借というよりも、むしろその土地の上にある建物は何某のものであるということの証明手段としてそういうふうにやっておるわけでございます。したがいまして、賃借権についての承諾という意味ではないわけでございまして、その証明のねらいは、建物所有権の証明というところにあるわけでございます。
  46. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 表示の登記の問題は、あとの問題にいたします。  建物の保存登記を申請するときに、土地所有者がだれであるかということで、その土地所有者の何か承認を必要とするような欄があるのじゃないですか。これはあとで建物の保存登記の申請書のひな形を持って来てもらいたいんですが、たしかあるはずですよ。そこで、地主の判こが要るんじゃないんですか。地主の判こがもらえないときは、もらえない事情を書けばいいということになっているんですが、一般の人はそうはとらないわけですよ。地主の判こが要るということになっていて地主は判こを押さない、結局建物の保存登記ができないというので建物保護法による保護が受けられないという形が現実に行なわれているんじゃないですか。どうもぼくらはそういうふうに聞くんですがね。そこのところはどうなっているんですか。――理論的にはそうじゃないんですよ。理論的には地主の判こは要らないということになっているんですけれども現実には地主の判こが要るということになっているんじゃないですか。どういうふうになっているんですか。
  47. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、昔、台帳の申告をいたしましたときに、まず所有権をきめる必要がございます、所有権者がだれであるかということを。そのときに、お説のような欄を設けまして、地主の判こをもらって、それによって一つの証明方法を講じたという経緯がございます。これは何も賃貸借そのものに関することではございません。現在は、竣工証明書、建築基準法に基づく証明書があれば、当然にその建物がその人のものであるということは明確になりますし、まあ地主の承諾書をかりに得られないという場合に、その賃貸借の証明書を持って来ましても、それによってもその土地の上にある建物がその人のものであるという一つの証明手段になるわけでございます。必ずしもそれに拘泥する必要はないわけでございます。現実としてそれがなければいけないということが一般に行なわれておるといたしますと、それはちょっと行き過ぎだろうと思うわけでございますして、地主の判がなければ絶対にだめだという性質のものではございません。
  48. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 その点は、民事局から各法務局へどういうふうに指導しているんですか。確かに理論的にはそうなんですよね。何も地主の判こは要らないわけです。ところが、地主の判こが現実に要るんだと。で、もらえない場合には、もらえない理由を書く。たとえば、現在土地借地権の問題について係争中だ、だから判こを押してくれない、そういうことを書けばいいということになっているんですが、実際には判こが要るんだというふうに一般の人は思っている。だから、そのために判こがもらえないから建物登記はできないんだということで建物の保存登記をしない。すると、建物保護法による保護を受けられないというような形になってきているようですが、ここら辺の実情が、前の場合の実情といまの実情は違うでしょうけれどもね。たびたびそういう話を聞くんですよ。ですから、どういうふうな指導をしているのか、現実にどういうふうにやっているのか、これは現実の法務局のやり方をあとでいいですけれどもよく調べていただきたいと思うんですけれども、何かどうもそこら辺のところは不徹底なような印象を与えるのですがね。それが一つ。  それからもう一つの問題は、建物保護法によって建物登記があればいいわけですけれども現実になかなかその登記にはなじまないわけですね、日本の習慣というか。建物登記がないというと、そこへブローカーや何かが入ってきたりなんかして、土地を売っちゃうわけですね。土地を売っちゃって、新しい土地所有者から訴えを起こすわけですね。建物の収去、土地明け渡しの訴えを起こす。建物の保存登記がないと法律的な対抗力がない。そうすると、いろいろな救い道はあるとしても、負けちゃうというのが相当出てきているわけですね。そこで、「要綱試案」のときには、建物保護法による登記がなくても一あのときは建物保護法廃止するという考え方だったものですから、ちょっと立場が違うかもしれませんけれども、いずれにいたしましても、未登記借地権者保護の場合には、借地権なり、それから借地権ではなく建物登記がない場合であっても、第三取得者が詐害の意思を有して取得した場合には借地権を対抗できるんだというような考え方があったのじゃないですか。これはいまは権利の乱用というような形で救っているのでしょうけれども、そこのところをもっと明確にする必要があるのじゃないですか。それが今度の改正案の中には入っていないのじゃないですか。これは非常に多いのじゃないですか。  いま言ったような形で、地主の承認が要るものだと思っているものですから、くれないから、建物登記しない。そうすると、第三取得者に土地が移る。建物収去、土地明け渡しの訴えが起きる。結局、建物保護法による保護が受けられないから負けちゃう。結局、権利の乱用という主張をしても、なかなかそれが通らない。それをもっと明確にするために、第三取得者が詐害の意思を有して取得した場合には、借地権登記がなくても――借地権登記というものは、建物保護法による登記ということも含んで、それがなくても救えるというような形のことを明確にするという意味の考え方があの「要綱試案」の中には強かったのじゃないですか。これはちょっと違うことは違うんですよね。建物保護法廃止して、借地権登記一本にしろという意見ですからね、「要綱試案」は。ちょっと違うと思いますけれども、いずれにいたしましても、そういうような形で未登記借地権者保護ということをもっと明確にしろということが強かったのじゃないですか。それが取り入れられていないのじゃないですか、今度の改正には。
  49. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 「要綱試案」ができますときに、御意見のような問題も確かに提起されたのでございますが、しかし、事柄がこれは第三者に対する対抗要件という問題でございます。対抗要件ということになりますと、やはり法律で明確にして、こういうものが備わらなければその権利第三者に対抗できないということはやはり明確にすべきであろうと思うのでございます。建物保護ニ関スル法律でさえこれは対抗要件としては例外の問題でございますので、だからこそいまお話しのようないろいろの問題もこれに関連して出てくるわけでございます。できますならば、これは登記に統一いたしまして、すべて登記によって対抗要件を具備するようにするというのが一番望ましいわけでございます。遺憾ながら、わが国の現状といたしましては、この法律が必ずしもそのまま行なわれていないという実情も確かにあるわけでございまして、登記のようなめんどうな手続をとるということを必ずしも好まない向きもそれはあるかもしれません。しかし、これはそういう現状にあるからといって、それでいいというわけのものではございませんので、どうしても法治国としてこういった権利関係を明確にするという立場に立ちますならば、法律で認められた対抗要件を備えていないものを保護するということはどうであろうか。ただ、別の観点から建物保護のような制度も必要になってくる場合も例外的にはございますけれども原則論を申しますならば、やはり登記制度というもので統一していくということが望ましいと考えるわけでございます。ただ、第三取得者、あるいは土地の譲り渡し人の主観的なそういった行為のみに対抗力があるかないかというような判断をすることも非常にむずかしい問題でございますが、そういう考えもあったことはあったわけでございますけれども要綱としましては登記で統一しようというふうな考えになっておるわけでございます。
  50. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 権利の乱用ということで、建物保護法による保護を受けられない人を救っている例も相当あるわけですね。そこら辺のところが、どういう場合に救うのか、どういう場合に権利の乱用に当たらないとかという形ではねているのか、そこのところの基準がまちまちなわけですがね。まちまちなのが権利の乱用というものの実態であるのが普通ですから、なかなか統一しろといっても無理だと、こう思うんですが、そこら辺のところはもっと明確に一定の基準を設けてやるわけにいかないんですか。これはなかなかむ、ずかしいですか。
  51. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) それは、非常にむずかしい問題でございます。権利乱用もさることながら、正当の事由というふうな問題も同じような問題でございまして、一般の国民にとりましては、ただ口で権利乱用と申しましても、それは内容あるいは背後の事情によっても千差万別でございます。いかなる基準に合致した場合にこれは権利の乱用になるかということを一律に法定することは、非常に困難な問題でございます。これは権利乱用という法理は、非常に便利であると同時に、国民にとりまして非常にわかりにくい結果になる。また、それがひいては争いを起こす原因にもなっておるのじゃないかというふうにも考えられるわけでございます。これは裁判所の判断に委ねるほかはないわけでございまして、ただ当事者の間で権利乱用であるとかないとかという議論をいたしましても、これはらちはあかない問題でございまして、基準を設けなければよろしいわけでございましょうけれども、なかなかそれは容易なことではないというふうに考えております。
  52. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 先刻、表示の登記の話が出たんですけれども、表示の登記というのとそれから保存登記とは、どういうふうに法律的な効力が違うんですか。
  53. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 表示の登記と申しますのは、建物その他の物件を特定するための登記というふうにお考えになってよろしいんじゃないかと思います。まず、こういう土地がある、あるいは建物があるということを登記するわけでございます。これは、前の制度で申しますれば、土地台帳あるいは家屋台帳に相当するものでございます。これは課税の目的でもともとできたわけでございますので、その台帳によりまして権利関係を設定する、第三者に対する権利対抗要件にするという趣旨から生まれたものではないわけでございます。まず税金徴収の目的でそういう台帳ができたわけであります。それからさらに発展しまして、登記制度にそれが結びついてまいったわけでありまして、台帳に登録された物件を基礎にいたしまして保存登記が行なわれますと、これによって権利対抗要件が備わる、こういうことになっておるわけであります。現在の表示の登記と申しますのは、かつての台帳の登録に相当するものでございまして、その表示の登記をまずやりまして、その後に保存登記が行なわれる、こういうことになるわけであります。
  54. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 表示の登記は、職権でやるわけですか。
  55. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは申請によってもよろしゅうございますし、職権でもよろしいわけでございます。
  56. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それは、登記ということばは使ってあるけれども、そうすると、本質的には登記ではないんですか。登録なんですか。
  57. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 本来の意味での、狭い急味での対抗要件という意味での登記ではございません。一応こういう土地が新たに生じたというふうな場合に、登記所でそれを発見いたしまして確認できますれば、それをまず表示の登記として登記するわけでございます。そういう点の登記は本人からの申請がなければこれはできない、こういうことになっておるわけであります。
  58. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、建物保護法による登記ですね、これは、どうなんですか、表示の登記でもいいんですか、対抗できるのですか。
  59. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) ただいまの表示の登記の問題は、昭和三十五年に登記簿と台帳の一元化のために不動産登記法を改正いたしたわけでございます。そのときにやはり同じ問題があったようでございまして、解釈としては、表示の登記も現在ではこれは登記の一種でございます。本来の対抗要件を備えたという意味での登記ではございませんけれども、やはり登記制度の中に取り入れられて、表示の登記という形式的には一つ登記でございます。そういう意味で、表示の登記が行なわれました場合には、建物保護法の要件を具備するというふうに解釈上はなるというふうに現在考えておるわけであります。
  60. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 建物保護法による建物登記が表示の登記を含むんだという法務省の統一見解なら、統一見解として、確定見解として、はっきり出してくれませんか。これはあいまいなんです。裁判所では、認めるという人もあるし、認めないという人もあるし、学者もいろいろあるし、さっぱりはっきりしないんです。平賀民事局長は、はっきり表示の登記でも建物保護法にいう登記に入るんだということを言っていたわけですけれども、それは、考えてみると、厳密に言うと、おかしいわけです、対抗要件登記じゃないわけですから。厳密に言うとおかしいのだけれども、まあ救うという意味で拡大しておるという意味なら了解できるんですけれども、理屈はいずれにしても、結論として建物保護法にいう登記に表示の登記も入るんだということなら、そういうものを各法務局に通知を出すなり何なりはっきりしてもらいたい。裁判所は通知を出すわけにいかないでしょうから、裁判所裁判所ではっきりやってもらわないと、今度、調停の場合でも、民訴の場合でも、わからないわけです。やれ含むんだ、含まないんだといって、調停委員はわからない。裁判官のほうはなかなかはっきりしなかったりして、ごたごたするんですがね。法務省の統一見解、確定見解として承ってよろしいですか。
  61. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 法務省の見解として御理解いただいてけっこうでございます。ただ、これを登記所に通達して流すかどうかという問題でございますが、登記専務には直接関係はないわけでございます。むしろ実体法の解釈の問題になりますので、したがいまして、これを通達して流すかどうかは別としまして、下級裁判所では法務省の見解と同じ見解をとっておる判決例もあるようでございます。
  62. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうなってくると、表示の登記が非常におくれているところがありますね。台帳の一元化は職権でやるわけでしょう。それが四十一年までに終わる予定だったのじゃないですか、初めの予定では。初め五年間ぐらいで終わる予定だったのじゃないですか。それが延びちゃったのでしょう。そうなってくると、それがおくれることによって、建物保護法保護を受けられるものと受けられないものが出てくるわけですね。非常に不公平が出てきているんでしょう。これがまた問題になるんです。だから、政府のやるほうのおくれによって一般の人の権利保護されないという結果が出てきて問題になってくるんですね。だから、台帳一元化といってやるなら、徹底的に早くやらなければ困るんじゃないですか。いまどのくらい進んでいますか。半分ぐらいですか。もっと進んでいますか。七割ぐらいですか。
  63. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 当初五年計画で一元化を考えましてスタートしょうとしたわけでございますが、いろいろの事情でそれが予定どおりできませんで、十年計画になっておるわけでございます。現在ちょうど六〇%ぐらいのところまで進行いたしております。
  64. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 速記をとめて。   〔速記中止〕
  65. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 速記を起こして。  午後一時三十分まで休憩いたします。    午後零時三十二分休憩      ―――――・―――――    午後一時四十三分開会
  66. 和泉覚

    委員長和泉覚君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き借地法等の一部を改正する法律案議題とし、質疑を行ないます。質疑のある方は順次御発言を願います。
  67. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 借地法改正関係で、条文に従って、八条ノ二のところからいきますが、堅固の建物所有とそれから非堅固の建物所有という二つの分け方はどこからきたわけですか。というのは、その後になって一体どちらに入るのかはっきりしないものが相当出てきているのじゃないですか。たとえば、現在問題とされているものがいろいろありますね。ブロックの問題とか、軽量鋼の問題だとか、そういうのはどっちに含めるという考え方を基本的にとっているわけですか。
  68. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 堅固の建物であるか非堅固の建物であるかという区別の基準でございますが、大体、堅固の建物と申しますのは、地震、火災等に対しまして相当耐久力のあるものというふうに、ごく一般的に申し上げればそういうことになると思うのでございます。具体的に申し上げますと、たとえば、木造の建物とか、あるいは木造であっても防火施設の施してある防木の建物、そういったものは、これは堅固でない建物と言わざるを得ないわけでございます。鉄筋コンクリートとかあるいは鉄骨のコンクリート、こういうものはもちろん堅固の建物でございますが、ブロック建ての建物、あるいはまた軽量鉄骨でつくってある建物、こういったものも堅固の建物の中に入れてよろしいというふうに考えております。
  69. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、軽量鋼でつくる場合が相当あるのですがね。木造のものを改造して軽量鋼でやるという場合には、一々地主の承諾が要る、こういうことになるわけですか。
  70. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) そういうことになると解釈しております。
  71. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 六十年と三十年というふうに分けた具体的な理由というのはどこにあるのですか。
  72. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 六十年、三十年の区別の基準といいますのも、はっきりした理論的な根拠というものは必ずしも明確でございませんが、堅固の建物は耐用年数も相当あるということから六十年ぐらいが適当であろうというふうに定められたものと考えるのでございます。そうでないものが三十年とございますが、これもあるいは見ようによりますと長過ぎるという感じもないではないのでございますけれども、堅固の建物を六十年とすれば、非堅固の建物はその半分の三十年というくらいのところでこの規定が設けられておるものと考えております。
  73. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 第八条ノ二で、「借地条件ヲ変更スルコトヲ得」と、裁判所はですね。これは、防火地域の指定のような場合には、堅固の建物所有するような形の借地条件の変更に裁判所としては借地条件を変更するのが当然だというふうに考えられるのですが、「防火地域ノ指定」の場合と、「附近ノ土地利用状況ノ変化其ノ他」による場合とでは、その借地条件を変更する場合の裁判所の、何といいますか、裁量といいますか、その範囲には、相当変化があるのですか。ウェートが違うわけですか。
  74. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 第八条ノニにおきまして「防火地域ノ指定」ということと「附近ノ土地利用状況ノ変化」というのが具体的に二つ書か旧れてございます。「其ノ他ノ事情ノ変更二因リ」というふうに受けてございますので、防火地域の指定というのもその一つの例示でございます。客観的な土地事情の変更によりまして、現在借地権をもし設定するといたしまするならば堅固の建物所有目的とする借地権とするのが相当であるというふうに客観的に考えられるに至った場合には、この条件の変更を認めるということになるわけでございます。
  75. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 防火地域に指定されるというと、今後建築する場合には堅固な建物でなきゃいけないわけですか。
  76. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 法律上当然に堅固の建物でなければならないというふうにはならないと思うのでございますが、防火地域内におきましては堅固の建物を建てるのがまあ普通でございます。
  77. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、防火地域に指定されたら、防火地域に指定された趣旨というものは、堅固の建物でないとあぶないぞという場合でしょう、防火上。そうなれば、非堅固の建物を地主の承諾を得ないで堅固な建物にしたところで、防火地域に指定されたというそういう大きな要請からしたわけですから、地主の承諾は要らないというのがむしろ筋が通るのじゃないですか、その場合には。
  78. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 防火地域の指定がございましても、防火施設を施せばこれはよろしいわけでございますので、必ずしも堅固な建物でなければならないということにはならないわけでございます。木造のものでございましても、防火施設が施してございますれば、それでよろしいわけでございます。防火地域に指定されました場合には地主の承諾なしに当然に堅固の建物にしていいのではないかという御意見も確かにあり得ると思うのでございますが、この借地権の設定が、防火地域の指定があるかないかということとは別に、貸し主と借り主との間の契約によって現在できておるものでございます。貸し主側事情も十分に考慮する必要がございますので、こういう事情の変更がありました場合には、通常の場合には、双方の合意によりましてこういう条件を変更して、防火地域に適するような建物をつくるのが通常考えられるわけでございますが、万一それができないという場合に、裁判所が関与いたしまして条件を変更しようと、こういう趣旨でございます。当然に防火地域に指定されたからといって堅固の建物を建ててよろしいということには必ずしもならないと思うわけでございます。
  79. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、「防火地域ノ指定」の場合と、「附近ノ土地利用状況ノ変化其ノ他」による場合とで、裁判所が行なう変更を命ずる場合に、ニュアンスの差があるわけですか。裁判所としては、防火地域の指定という一場合には、当然――当然というのが行き過ぎならば、それに近い範囲で借地条件の変更というものを命ずるんだというんですか、あるいは、その点は裁判所の全部自由裁量にまかせるんだと、こういうことになるんですか。
  80. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 土地事情の変更がございますれば、裁判所の判断によりまして借地条件を変更するかどうかということをきめていただくわけでございますが、防火地域の指定とか、あるいは附近の土地利用状況が変化してきたという明らかな事情がございますれば、これは一般の単純な事情の変更という場合よりも若干強い意味を持ってくるだろうと思うわけでございまして、裁判所の扱いといたしましても、おそらく、防火地域の指定ということがございますれば、堅固の建物借地条件を変更することになるだろうと考えます。
  81. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 「借地条件ヲ変更スルコトヲ得」というんで、具体的にどうやってやるんですか。これの執行力というか、それはどういうことになるんですか。
  82. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 現在、賃貸借契約におきまして、土地を借りますときに、その土地の上に木造の住宅を建てるとか、あるいは鉄筋コンクリートの事務所を建てるとかということがそれぞれ条件として定められておるわけでございます。木造の建物すなわち非堅固の建物所有することを目的としております賃貸借契約があります場合に、このような客観的な事情の変更がありますと、それを堅固の建物所有目的とするという条件に改めるわけでございます。いろいろ借地契約には条件が定められるわけでございますが、どういう建物所有する目的かということが一つの重要な要素になっております。その部分を変更するのがこの裁判でございます。この裁判によりまして従来の賃貸借関係が一部変更されるわけでございまして、これは一種の形成裁判でございます。したがいまして、その裁判が確定いたしますと、当然にその法律関係が形成されることになります。これによって当事者の間の借地条件についてその法律関係が改まっていくということになるわけでございます。
  83. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それは普通の民事訴訟でやるのですか。
  84. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、今回の改正案の第十四条ノニに規定がございまして、管轄裁判所のことを定めてございますが、その規定を受けまして、十四条ノ二におきまして非訟事件手続法の規定によって裁判を行なうことになるわけでございます。
  85. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、これは簡易裁判所がやるわけですか。――いや、わかりました。合意があるときには簡易裁判所ですね。普通の場合は地方裁判所ですか。これは、いわゆる訴訟額というか、それによってきめるのですか。
  86. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、原則としまして、第十四条ノ二の規定によりまして、借地権目的でありますところの土地の所在地の地方裁判所が管轄することになっております。ただ、合意がありますれば、当事者の都合によりまして簡易裁判所に持っていっても差しつかえないということでございまして、別に基準はございません。
  87. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、非訟事件でやるとなると、具体的にどういうふうにやるのですか、非訟事件の場合には。
  88. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、訴訟事件と非訟事件の違いになります。民事訴訟事件でございますと、御承知のように、法律関係の存否に争いがございます場合に、その法律関係あるいは権利があるかないかということを裁判所の判断によって確定するのが民事訴訟でございます。たとえば、第八条ノ二の関係について申し上げますと、堅固の建物所有する目的賃貸借契約が締結されておるというふうに借り主が主張いたします。それに対しまして、貸し主のほうは、いや、そうではないというふうなことになりますと、その法律関係の確定が必要になってくるわけでございます。さらに、賃借権があるかないかというふうな問題になりますと、これはその法律関係そのもののあるかないかということが争いの対象になるわけでございます。これはもちろん民事訴訟によりまして当事者双方の主張、立証に基づいて裁判所が判断をするわけでございます。  ところが、非訟事件は、そういった法律関係の存否の争いというものはまだない段階におきまして、現存する法律関係を特定の理由によりまして変更したり、あるいは新しく法律関係を形成していくという場合に非訟事件の手続によって裁判を行なうということになるわけでございます。  今回の第八条ノ二の規定は、まさにその後者に当たるのでございまして、法律関係の存否の争いがあるというのではなくて、これから土地利用状況その他の事情の変更によりまして既存の法律関係に変更を加えていくということでございますので、裁判所が後見的な見地に立って当事者間の法律関係を形成変更していくということになるわけでございます。そこが非訟事件と民事訴訟との本質的な違いでございます。
  89. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そういうことではなくて、具体的に非訟事件の場合にどういうふうにやって結論まで導くのかと、こういうんです。もちろん口頭弁論をやるわけじゃないのでしょう。だから、何といいますか、当事者に主張なり立証の責任というものを負わせるわけじゃないでしょう、後見的な職能をもってやるというのは、具体的にどうやってやるのですか。
  90. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは非訟事件手続法にその規定がございますが、当事者が申し立ていたしますと、非訟事件手続によりますと裁判所は職権で事実の探知あるいは証拠調べをいたすわけでございまして、通常の民事訴訟の原則とは非常に違うわけでございます。当事者の主張の有無にかかわらず、事実関係を調べたり、あるいは証拠調べもやったり、あるいはその他の事実の探知の方法を講じまして、裁判所が合目的的に判断を加えて裁判をするということになるわけでございます。ただ、今回の借地法改正によりまして非訟事件手続によってやるというふうにいたしました場合でございますが、従来のような非訟事件の形でこの事件を処理しますことははたして適当かどうかという問題がございます。貸し主、借り主双方の主張を十分聞いて、さらに証拠調べも当事者の申し出によってやるというふうに規定を設けたわけでございまして、いわば訴訟の場合における当事者の主張とかあるいは証拠調べの方式を取り入れまして、できるだけ双方の言い分等も十分に聞いて裁判所が判断できるようにいたしたわけでございます。本来の非訟事件でございますれば、裁判所がもうこれ以上調べる必要がないということになれば、それで結論を出されるわけでございますけれども、十分に双方の事情を聞いて、証拠調べも民事訴訟法による証拠調べの例によってやるようにいたし、双方の利害を十分に反映できるようにいたしたわけでございます。その点が従来の非訟事件とは若干違ってくるわけでございます。
  91. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 口頭弁論を開いてやるのですか、開かないのですか。非訟事件というのは元来口頭弁論をするという考え方はないですけれども、そうすると口頭弁論は開かないのですか。
  92. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 非訟事件におきましては、審問期日というものを開くわけでございます。これは必ず開くことにいたしまして、当事者がこれに出席しまして相手方の陳述を聞き、さらに自分も自由に発言できるような様式をとったわけでございます。いわば訴訟における口頭弁論に近いような形をとったわけでございます。
  93. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 その審問というのは、法廷でやる必要はないわけですか。判事の部屋でやるのですか。
  94. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 民事訴訟の法廷でやる必要はございません。
  95. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、八条ノ二の場合でも、地主のほうは、前の建物が非堅固だと、それから借り手のほうは、いやこれはもう堅固なんだと、こういうふうに主張してきた場合には、どうなんですか、これは非訟事件でやれないのですか。堅固に争いがあるわけですね。
  96. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) いま例示されました事案は、借地条件を変更していくという事案ではなくて、現在の法律関係がどうなっているかということの争いでございますから、この非訟事件手続には向かないわけでございます。そういった法律関係についての争いは、民事訴訟で解決するほかはございません。
  97. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 本件の場合に、借りているほうから借地条件の変更という形で申し立てをしていたときに、相手方が実体関係に触れるような主張なり反論なりをしてきたときに、それを一体どういうふうに裁くわけですか。これは非訟事件としてはやめて一般の民訴にまかすのか、それはできないとなれば、申し立てを却下するというのか、棄却するという形をとるのか、抽象的に言うとあれですけれども、具体的に非訟事件で申し立てをしながら実体に触れてくるというのは、どういう場合がありますかね。
  98. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 現在の賃貸借契約におきまして非堅固の建物所有するという条件になっておりますときに、借り主がこれを堅固な建物に直したいという場合にこの申し立てがなされるわけでございます。ところが、貸し主のほうにおきましては、その借り主と称する者に対して土地を貸していない、貸借権を設定していないというような主張をかりにしたといたします。そういたしますと、この申し立てば借り主側のほうで賃借権の存在を前提にして申し立てをいたしておるわけでございますので、当然その前提問題として賃借権があるかないかということが第一の問題になります。この非訟事件におきましても、もちろんそういう法律関係が存在しませんと条件の変更ということができないわけでございますので、当然条件変更の裁判をいたします際に賃借権があるかないかということにつきましても一応の判断はしなければなりません。しなければなりませんが、もしも賃借権があるという認定ができますれば、さらに進んで借地条件を変更するという裁判になるわけでございます。したがいまして、非訟事件でございますけれども、前提問題である法律関係の存否についての判断は一応前提としてなされるということが言えると思うわけでございます。
  99. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 前提として、たとえば賃借権があるかないか、そういうことを認定して、それは既判力はあるのですか。
  100. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、既判力はございません。
  101. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、非訟事件で実体的権利関係の内部まで入って認定するわけですか。そういうふうな形のことを、あれですか、非訟事件というものの性質からいってやっていいわけなんですか。これはそういうこと関係ないわけなんですか。
  102. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これはほかの場合にも例はあるわけでございまして、非訟事件によりまして法律関係の形成変更を求めておりますその目的と、その前提となる法律関係というものは、やはりこれは不可分のものでございます。そこで、前提になります賃貸借法律関係というものがあるかないかということがきまりました上で、もしあればさらに進んでその法律関係内容を形成変更していくということになるわけでございまして、非訟事件の裁判は、その形成変更の点についてのみ裁判の効力は生ずるわけでございます。前提の賃貸借関係の存否について一応裁判所は判断いたしましてその結論を出すわけでございますけれども、前提問題についての判断そのものは、これは本来は民事訴訟でやるべき事柄でございます。したがいまして、非訟事件の裁判の結論にはこれは出てまいらないわけでございまして、非訟事件で裁判されましても、前提問願の借地権の存否そのものについての既判力はもちろんないというふうになるわけでございます。もしその点に争いがございますれば、これは民事訴訟でやはり終局的な確定を求める必要があるわけでございます。
  103. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、非訟事件では賃貸借があるという認定をして条件の変更を命じた。ところが、賃貸借の成立していないということを普通の民事訴訟で争えるわけですね、既判力がないわけですから。そうなってくると、争っている間に、一体、非訟事件できまったものの効力はどういうふうになるのですか。
  104. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 民事訴訟とこの非訟事件が並行しておりますと、おそらく非訟事件のほうが中止になると思います。民事訴訟の前提問題の確定を待つということになると思うのでございますが、しかし、非訟事件のほうがさきに解決いたしまして、そのあとで、前提問題である賃貸借関係について民事訴訟が提起される。そこで判決が確定した。しかも、その判決は貨借権の存在を否定するというふうな結果になりますと、これはもう根本がくずれるわけでございますので、非訟事件の裁判もその効力がなくなる、こういうふうに考えます。
  105. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 民事訴訟のほうが確定するのは、それは何年かかるかわからないわけですから、確定するまでの間に非訟事件のほうで賃借権がありとして借地条件の変更を命じたら一それを片方で争っているわけでしょう。その場合に、非訟事件のほうの判決をどうやってとめるのですか。とめられないのですか。
  106. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 非訟事件のほうの裁判は、先ほど申し上げましたように、法律関係の形成変更をいたすわけでございます。即時抗告期間が満了するとか、あるいは即時抗告に対する抗告審の裁判がございまして、上訴の方法で争い得なくなりますと、これによって非訟事件の裁判は確定いたします。確定いたしますと、当然にその法律関係が形成されてしまいますので、一応賃貸借関係があるという前提に立っての借地条件の新しい関係が生まれてくるわけでございます。ところが、その前提問題になっております賃貸借関係が、別の民事訴訟によって存在しないということが確定いたしますと、これは根本がなくなるわけでございますので、非訟事件のほうで形成変更されたということに形式的には一応なりますけれども、これも実体関係が存在しないということになれば、その効力は生じないということになるわけであります。その中間におきまして、それをとめることができるかどうかということでございますけれども、これは非訟事件のほうの裁判が形式的に確定いたしますと、一応それによって法律関係は形成された形になります。これは一応、その効果を発生するというふうに解せざるを得ないわけでございます。
  107. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、その基本たる関係に争いがあって、そういうふうな形で非訟事件が進行しているときに、いま民事訴訟で基本たる権利関係を争っているという場合に、片方でこういうふうに与っているのだから、その結論が出るまでこの非訟事件のほうは待ってくれというようなことで非訟事件の進行というものを停止できるのですか。
  108. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 非訟事件の手続のこまかいことにつきましては、最高裁判所の規則で定めることになっております。現在、最高裁のほうにおきまして規則の案を検討中でございますが、この非訟事件に関連いたします訴訟事件が係属しています場合には、非訟事件手続の中止に関する規定を設けるということで、いま検討中でございます。
  109. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いま検討中というのは、ちょっとおかしいですね。これは第十四条ノ三で「前条ノ事件ニ関シ必要ナル事項ハ最高裁判所之ヲ定ム」と、こういうことになっているわけですが、これはルールで行くのでしょうが、ルールで行くのが本筋か、法律で行くのが正しいのか、議論があるところとしても、当然できていなくちゃいけないのじゃないですか。もっとも、施行が一年内だから、その点町間があるからということですか。どうなんですか。
  110. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 最高裁判所におきまして「借地条件変更等裁判手続規則要綱」というものをつくってございます。これは、現在法律が通過いたしませんので、確定的な要綱というわけにはまいりませんので、試案という形になっておりますが、これの第十五項にただいま申し上げましたような規定を設けるという趣旨の文言が入っているわけでございます。
  111. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この「資料」によりますと、一五九ページに、非訟事件の既判力についての問題が出ていますね。これは罹災都市借地借家臨時処理法に関連するもので、下飯坂さんの少数意見ですか何ですかあれですけれども、非訟事件の既判力についていろいろ争いがあるのですか。
  112. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 非訟事件の裁判に既判力があるかないかということにつきましては、いろいろの考え方があるわけでございまして、既判力があるという説もございますし、また、既判力がないという説もあるのでございます。
  113. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それは、あるという説と、ないという説と、どこでもあるわけですが、あるという説は理論的にどういう根拠なんですか。ないという説はどうなんですか。  大法廷の判決で罹災都市借地借家臨時処理法十五条による裁判というのは、どういうのですか。
  114. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 罹災都市借地借家臨時処理法に関する判決でございますが、この法律によりますと、第十五条によりまして裁判を行ないますと、第二十五条の規定によりましてその裁判が「裁判上の和解と同一の効力を有する。」と、こういうふうに定められておりますために、裁判上の和解と同一の効力を有するということになりますと、確定判決と同一の効力のあることになり、ひいては既判力があるという論理に導かれるわけでございます。そういう意味で、既判力があるという説が一方では出てくるわけであります。
  115. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 既判力がないという説の根拠はどこですか。
  116. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは非訟事件でございますので、民事訴訟の原則がそのままには適用にならない。ことに、非訟事件は、先ほども申し上げましたように、職権主義をとっておりますので、民事訴訟の原則に対しまして非常に大きな例外となっております。ことに、この非訟事件は、最初申し上げましたように、既存の法律関係の存否を確定するということではなくて、新しく法律関係を形成変更するものでございます。そういたしますと、その形成力によりまして当然に法律関係がきまってしまうわけでございまして、既判力という問題は考える必要がないと、こういうふうに考えられるわけであります。非訟事件の事件の性質上既判力というものはあり得ないと、こういうふうに考えるのが一つ考え方であります。
  117. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、家事審判法の場合の審判でも、何かその既判力の問題について争いがあるのですか。
  118. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 家事審判法におきましても、同じような問題がございます。これは、家事答判法の第十五条によりますと、先ほどの罹災都市借地借家臨時処理法の第二十五条の規定と表現が違いまして、「執行力ある債務名義と同一の効力を有する。」と、こういう書き力になっております。したがいまして、この規定から申しますと、確定判決と同一の効力ではないわけでございますので、ただ債務名義としての効力があるというだけでございますので、この場合には既判力はないと、こういう卑属も出てくるわけでございます。そういう意味で、家事審判法の場合と罹災都市借地借家脇町処理法の場合では、形式的な解釈論としまして結論に差異が出てまいるということにもなると思います。
  119. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 最高裁判所で、家事審判法の場合に、既判力の問題では、たしか八対七かで既判力がない――どっちですか、あれは。
  120. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) この資料には載っておりません、か、昭和二十五年の判決があるのでございます。家事審判法の判決でございますのでこれに載せなかったわけでございますが、これによりますと、既判力があるという判断を下されておるわけでございます。しかし、ここに載っておりますいろいろの事案におきましては、最高裁判所の判決におきましても、必ずしも既判力の点については触れないような傾向になっております。終局的に判断することによってその事件の解決をはかるという場合に、民事訴訟によるべきか、あるいは非訟事件によるべきかということは申しておるのでございますが、既判力の問題は、最近の最高裁判所の判決ではあまり触れていないように考えるわけであります。
  121. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 ちょっとぼくは勘違いしているかもわかりませんけれども、「世界」で我妻さんが言っているのがありますね。家事審判法による審判が非訟事件として既判力があるかないかということについての判例が、八対七で最高裁が大法廷が分かれたわけですね、一人違いで。非常に接近しているんですね。それで、その点を疑問に思っているものですからちょっと聞いたわけですがね。今度の七月号かに我妻さんが「裁判を受ける権利」というようなことを言っているんですね。ちょっとそれを持って来るのを忘れちゃったものですからあとで聞きますけれども、その判例の内容をよく検討してみなければいけないのですけれども、いずれにしてもそれはあとにします。  そうすると、非訟事件でやった場合にいろいろ言われていることは、十分な権利の主張というものができないのじゃないか、それが非常に制限されてきて、しかも迅速かもわからぬけれども非常に早くきまっちゃって、かえって借地人なり何なりの権利が、あるいは場合によっては地主の権利が十分保護されないのじゃないかと、こういう考え方があるわけですね。これは、あれですか、そういうようなものが保護されるという形のものは、どこに担保というものが求められるのですかね。非常に早くきまっちゃうわけでしょう。これは書面審理でやる場合もあるのですか。それはないのですか。
  122. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 非訟事件手続法の原則によりますと、書面審理でもよろしいわけであります。しかし、この借地借家関係の問題になりますと、書面審理のみではこれは十分ではございません。今回の改正案の十四条ノ六以下に所要の規定を設けまして、当事者の主張が十分尽くし得るようにいたしたわけでございます。  簡単に申し上げますと、十四条ノ六におきましては、裁判所は必ず審問期日を開きまして当事者の陳述を聞くことを要することにいたしまして、なお、他の当事者もその審問に立ち会う権利を与えるということにいたしまして、十分双方の陳述を尽くせるようにいたしました。  さらに、十四条ノ七におきまして、従来のように職権をもって裁判所が事実の探知をしたりあるいは証拠調べもできるわけでございますけれども、さらに申し出によりまして証拠調べもできるようにいたしまして、その証拠調べにつきましては民事訴訟の例によるということにいたしたわけでございまして、これによりまして事件の当事者が双方の証拠調べに立ち会う権利もございますし、また、反対訊問する権利もそれで認められるということになるわけでございます。  さらに、十四条ノ八におきまして、裁判所は審理を終結いたしますときに、審問期日においてそのことを宣言することにいたします。従来の非訟事件手続におきましてはこういったことがございませんので、裁判所が過当と認めますときにその審理を打ち切りまして裁判するということができたわけでございますけれども、この場合には、やはり裁判所の審理終結の宣言までは十分当事者に主張立証を尽くさせるということを考えまして、こういう措置を講じたわけでございます。
  123. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 不服申し立ての場合は違ってくるわけですか。抗告なり特別抗告の場合は、これは書面審理ですか。
  124. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これもやはり第一審の原審の手続と同じでございます、抗告の場合は。
  125. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 ただ、普通の民訴の場合と違って、職権審理が入るからですか、非常に早くなることは早くなるんですか。
  126. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 一般の民事訴訟の場合よりも迅速に処理されるということは、一つの大きな要請でございます。非訟事件によってやりますときにはそれが十分期待できるという考えに立っているわけでございます。
  127. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 まあ迅速にやるのは非常にいいことなんですが、迅速にやることによって借地人なり何なりの権限というか権利が十分に保護されなくなってくるのではないかというのが一つの非訟事件に対する、何といいますか、心配というか、そういう考え方が相当あるわけなんですがね。この点は、もちろんそういうことはないように十分裁判所のほうで注意してやるということになると、こう思うんですがね。  そこで、中心はどこに置くんですか。地裁に置くんですか、あるいは簡裁に置くんですか。地裁に置くとなると、こういうことをやるだけの裁判官の事件の配付というか、配件といいますか、これはどういうふうにやるわけですか。たとえば三人おれば、各人順番によって割っていくという形をとるのか、あるいは、一人の人が専門にこういうことをやるのか、こういう点はどういうふうにやるんですか。
  128. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは最高裁判所でいずれおきめになると思うのでございますが、もしもこれによりまして事件が非常にふえるということになりますれば、裁判官の増員ということも必要でございましょうし、また、裁判所によりましては特別に専門の部を設けてやるというふうなことも裁判所のほうでも考えられておるようでございます。専門の部によってやりますれば、審理の促進にも十分こたえられますし、当事者にとりましても非常に利益になるわけでございますので、政府側といたしましてもそのような措置とられることを期待いたしておるわけでございます。
  129. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それからいまのところの第二項で増改築の禁止、または増改築について地主の承諾を要する等の制限の借地条件が存する場合のことが規定されておるわけですが、増改築の禁止の特約について、これはものによっては借地人に不利益なもので、それがなかったものとみなされるものがありますね。そういうようなものがあるわけですか、内容によっては。
  130. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 増改築の禁止の特約につきましても、これは有効と解釈する場合と、そうでないというふうに解釈されておる場合があるわけでございます。事案によっていろいろ違うのであろうと思いますが、増改築の禁止の特約が直ちに借地法に違反するというふうには考えられないのでございまして、借り主の用法義務あるいは保管義務に基づく特約条項といたしまして原則的にはこれは有効であるというふうに考えられるわけでございます。
  131. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 土地を借りて家を建てているわけですから、その家をどういうふうに利用しょうと、それが用法を変えていく、たとえば堅固のものを非堅固にするというなら、これは借地人に不利になるから別ですけれども、非堅固の建物を非堅固のものとして利用している限りにおいては、別に借地人が特別なプラスを得るわけでもないし、地主に対して不利益を与えるわけではない場合が多いのじゃないかと、こう思うんですがね。ですから、非堅固の建物をこわれたからといってそれを改築するということについて地主の承諾を得なきゃならないというとりきめ、しかもこれが印刷でされている場合が非常に多いですね、最初の契約のときに。こういうようなものは借地人に不利な契約となってきて、しなかったものとみなされる場合があるのではないでしょうか。そういう場合もありますか。
  132. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 稲葉委員のおっしゃいます趣旨は、借地法の十一条の強行規定の違反の場合があるのではないかということでございますが、借地法の十一条の規定には正面からはこれは入らないわけでございます。ただ、具体的な事情によりましては、ほかの理由によりましてそういった特約が無効になる場合もこれは絶無とは申し上げません。しかし、土地賃貸借につきまして、たとえば地主が持っている土地の隣地を人に貸すというような場合におきまして、地主側は本来それを貸す意思はなかったんだけれども、借り主のほうでどうしてもというのでそれを貸すという場合におきまして、地主側の利用を妨げないような建物の種類、構造にしてもらわなければ困るというようなこともあり得るわけでございます。したがいまして、そうした場合に、一がいに借地条件を定めて増改築を制限するというふうなことにするのか無効であるというふうなことは言えないのであろうと思うのでございまして、これはそれぞれの事案によりましてその点の判断はすべきものであろうと思います。一律にこれは無効であるとはちょっと言い切れない面があると思うのでございます。
  133. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 ですから、いま地主がこういう特約を結ぶについての合理的な理由がある場合ーーだれが見ても合理的な理由がない、ただ印刷してある場合があるでしょう、不動文字で。そういう場合に、別に合理的な理由があるわけでも何でもない場合は、借地法十一条の強行法規として借地人に不利なものとして――借地人は土地を借りて建物を建てておる。建物は自分の建物のわけですから、自分の建物をどういうふうに直そうとこれは自由なわけなんで、そんなものはあたりまえの話じゃないですか。それを、建物かこわれそうになったものを大改築をやって朽廃を防いだということになれば、これは地上に対して不利益を与えていると思いますがね。そうでない場合においては、別に地主に不利益を与えないで、むしろそういう特約が合理的な理由がない場合には、強行法規違反として十一条でこれはなかったものとみなすというのが、正しいのではないですか。
  134. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 借地法の十一条によりますと、「第二条、第四条乃至第八条及前条ノ規定二反スル契約条件ニシテ借地権者二不利ナルモノハ之ヲ定メサルモノト看做ス」と、こう定めてございます。したがいまして、増改築の禁止の特約はこの第十一条に掲げてございますいずれの条文にも該当しないわけでございますので、借地法の十一条によって無効になるということが法律的には言い切れないであろうと思うのでございます。ただ、その契約を締結するに際しまして、あるいは地主側に、先ほどのお話じゃございませんけれども権利乱用があるとか、あるいはまた公序良俗に反するとか、ほかの理由によりましてこの条項が無効になるということはこれは考えられますけれども、ただ不動文字によって印刷されておるというだけの理由によってこれが無効であるとは必ずしも旨い切れないであろうと思うわけでございます。
  135. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 条文の関係から言うと、たしかそういうわけですよね。前の規定を援用して十一条でやっているわけですから。ですから、そういう解釈が出てくるのですけれども、実はこれは非常に問題になってくるんですよね。たいてい印刷してあるわけですよ。そうすると、ちょっとでも改築しようとすると、地主の承諾が要るんだ、地主の承諾がないからといって建築中止の仮処分をやってくるんですね。そうすると、裁判所がばっと認めちゃうわけですよ。認めちゃって、しかも占有を執行吏に移しちゃって、どうにも手がつけられないわけですよ。それで、自分の家を直すのに非常に困ってしまうんですね。ですから、増改築禁止についての特約というか、そういうようなものの判断をどういうふうにするかというのが非常に大きな問題に現実になってきているわけですね。仮処分をやられる場合が非常に多いんです。利用されて裁判所が認めちゃうことが多いんですよ。非常に困るものですからお聞きしているわけなんですが、そうすると、それが書いてはあるけれども、いわゆる例文なんだ、単に書いてあるだけの話であって、法律的に効力がないんだという場合もあるのですか。地主のほうにとってそれを必要とするような合理的な理由がない場合には、書いてはあるけれども例文なんだ、意味はないんだ、こういうふうな解釈もあり得るのですか。
  136. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) ただいまこまかい資料を打ち合わせませんので、下級審の裁判例で一々どうなっているかということは正確にお答えいたしかねますが、単なる例文にすぎないから拘束力がないというふうに判断した裁判所も絶無ではないと思います。しかし、土地賃貸借は、やはり地主と借り主との間の契約関係、ことに土地の貸し借りということになりますと、やはりそこに相互の信頼関係というものがどうしても考えられるわけでございます。これが物権でございますれ、ば、貸した以上は借り主が自由にやれるということもあるいは可能であろうと思うのでございますけれども、現在の債権契約という関係に立っております以上は、やはり借り主の利用面も考えなければなりませんけれども貸し主側事情もこれは十分考慮する必要があるわけであります。多数的と申しますか、多くの考え方としましては、増改築禁止の特約を当然に無効というふうには考えていないというふうに私どもは理解しておるわけでございまして、むしろ特殊なほかの事情によりましてこれが無効になることはあり得ましょうけれども原則的にはこれは有効であるというふうに解釈せざるを得ないだろうと思っております。
  137. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 債権関係なんだから、債権者、債務者間の信頼関係というものを考えなければいけないと。これは一つ考え方のわけですね。建物を借りている場合には、建物は家主のものですから、借りているほうから見れば他人のものですから、建物がいたんで直したり何かすることはできないとしても、特別な場合に雨漏りや何かあって修繕するためにやむを得ずやったというようないろいろな場合があるけれども、これは別として、土地を借りて家を建てている場合は、家は自分の家なわけですからね。地代を払うか払わないかということが信頼関係の中心であって、土地を借りて家を建てている、それを改築するとか増築する、それは限度があるとしても、その程度のことは自分の家を自分が直すのに問題がないと思うんです。家を借りている場合と、土地を借りて家を建てている場合とは、信頼関係といっても、全然ニュアンスが通うはずなんですよね。それを、一方的な形で増改築禁止の特約があって、その特約が有効だというのは、どうも筋が通らないように思う。ですから、お聞きしているのは、増改築禁止の特約があって、それが直ちにこの際借地法十一条に抵触すると言っているわけじゃないんです。借地法十一条に抵触するものもあるのかどうかということなんです。あるとすれば、なかったものとみなされるわけでしょう。そういう考え方はとらないんだ、いや、これは借地法十一条とは全く関係がないんだ、別個の関連から特約が有効か無効かということを考えるんだと、こういう考え方なんですか。借地法十一条との関連でものを考える場合もあるのだというのと、そうじゃないんだ、借地法十一条は全く関係がないんだ、別個の見地から特約がなされたのが効力があるかないかということを考えるんだと、こういうことになるのですか。どっちなんですか、ちょっとはっきりしないのですがね。
  138. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 直接借地法十一条からくるのではないというふうに先ほども申し上げたわけでございまして、これは法律の解釈としては当然のことであろうと思うのでございます。ただ、借地法の精神と申しますか、土地を借りておる人の利益を十分これによって守っていかなければならないということも当然言えることでございます。したがいまして、一般的に借地法の十一条から離れて考えましても、場合によればその精神をなるべく生かすという考えに立ってその判断を行なわなければならない場合もあると思うのでございます。したがって、最初申し上げましたように、借地法第十一条の規定によるのではないけれども、個々の事案に応じましては、公序良俗違反の場合とかあるいはその他の事由によりましてこの条項そのものが無効であるということは、これは当然あり得るわけでございまして、そういう判断をするに際しまして、やはり借地法の精神というものも考慮に入れて判断する必要があることは、これは申し上げるまでもないことでございます。ただ、借地法十一条のみがその根拠かということになりますと、それはそうは言えないだろうということでございます。
  139. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 増改築について地主の承諾を必要とする根拠はどこにあるのですかね。
  140. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、賃貸借関係債権契約でございますので、その契約の趣旨に違反するということになりますと、債務不履行の問題も出るわけでございます。したがいまして、その条件を変更して相当の処置をとらなければならないという場合には、やはり借り主と貸し主との間の話し合いによってその条件を定めていく必要があるわけであります。
  141. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 増改築によって地主の権利がどういうふうに害されるわけですか。害されることもあります、もちろん。非堅固の建物で借りていたやつを堅固の建物にしちゃったら、その場合でも地主の承諾なくてもできるというならば害されますね。その他の場合でも、建物が非常に朽廃しそうだ、朽廃しそうなものをやってしまったので朽廃しなくなるということになれば、それは地主のほうの権利は害されるかもわかりませんけれども、ぼくは、地主の承諾を必要とする理由は、もちろん債権関係だからということでわかりますけれども、合理的な理由がある場合とない場合があるような気がするんですよ。ということは前にも言ったとおり、家の貸し借りの場合と違うわけですから。土地を借りて家を建てている。家は自分のものです。自分のものを自分で直すのに人の承諾を得なきゃならぬなんて、そんなばかな話はない。地主に影響を及ぼす場合はあれでしょうけれども、だから、地主に影響を及ぼす場合と及ぼさない場合とあるでしょう、権利に。地主に影響を及ぼさない場合はどういう場合でしょうか。そういう場合も考えられるのじゃないですか、増改築しても。考えられませんか。あらゆる場合の増改築はみんな影響を及ぼしますか、権利に。そこのところはどうですかね。
  142. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 具体的な例で申し上げるのは非常にむずかしいのでございますが、たとえば、非常に広大な土地の一画をただ建物所有するために使っておるという場合に、それに多少の手を加えて物置をつくったという場合に、必ずしも地主には影響ないということも言えましょうし、そうかといって、やはりいくら土地が広いからと申しましても、その建物のありますすぐ近くにほかの施設、ことに地主の持っておる施設があって、その利用に影響を及ぼすというような場合もこれはあり得るわけでございます。たとえば日照の関係とか、風の関係とか、あるいは病院施設なんかたとえばあります場合に、それに接して建物をつくられるということになりますと、土地所有者にも非常に影響があるわけでございます。一がいに影響があるかないかということは、これはなかなかきめがたいものでございまして、具体的事案に応じてやはりそういうものは判断する必要があろうと思うわけでございます。
  143. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それはもう具体的事案に応じて判断する以外にないんで、それはあらゆる場合そうですけれども、地主としては、土地を貸していれば、地代をもらえばいいんじゃないですか。信頼関係信頼関係なんて言うことがおかしいんですよ、近代的な土地利用関係で。それは債権関係だけということにこだわるからそんなことを言い出すので、地主の顔なんか知らない借地人もいるでしょうし、それは差配がやっている場合もあるし、だから、土地を借りて建物をつくっていて、建物がこわれたから直すということで、そんなことで地主に一々承諾を得ることもおかしいんじゃないですかね。地代をきちんきちんと払えばいいんじゃないですか。地代を払わなかった場合に契約解除されるのは、これはしようがないですわ。一々そんなことを地主に承諾なんか得る必要はないんじゃないですか。大改築をするとか、非堅固の建物を堅固の建物にするということなら、これは地主に対して影響がありますね。借地権が延びちゃいますからね。建物が朽廃しそうだというのを大改築してもう一ぺんきれいなものを建てなおしちゃったというなら、借地権が消滅するのが消滅しなくなっちゃうんだから、これは地主に影響しますわね、そうでない場合は、ちょっとこわれたから直すといって自分の家を直すのに一々地主の承諾を必要とするなんていうのは、そんなことはおかしいと思うんですがね。もちろん場合によりますけれども、地主の承諾を必要とするようなこともあるだろうけれども、すべての場合に地主の承諾が増改築に必要だというそういうきめ方はおかしいんじゃないか。これはまあ借地法十一条の正面からいくかいかないかは別として、効力がないんじゃないかというふうに考えざるを得ないと思うんですがね。信頼関係信頼関係ということをよく言うんですけれども、それはもちろんそういうものが残っている場合もありますけれども現実の経済関係では、信頼とか何とかいうことよりも、まあ一種の地代徴収のようなものになりつつあるんじゃないかと、こう考えるわけですよね。  どうも特約というのが私は問題だと、こう思うんです。ということは、これが悪用されて盛んに使われるんですよ。風が吹いて家がぶっこわれちゃった、家がぶっこわれたから直そうと思っても、特約があるからといって仮処分をやって建築中止だと。裁判所がよく見てくれるといいんですけれども、よく見てくれないで、ばっとやっちゃう。あるいは、火事で焼けちゃったと。火事で焼けたのは朽廃にならないんですよ。風であれしたのも朽廃にならないんです。そこまでよくわからないから、滅失しちゃったというので仮処分で建築中止ということをやられたりなんかすることがあるんですよ。非常に悪用されているからお聞きしているんですけれども、まあそれはあれですけれども……。  そうすると、地主の承諾にかわる許可の裁判をするんですね、これはすることができるわけですか。そうすると、この地主の承諾にかわる許可の裁判というのは、これは具体的にはどういう法律的には性質を持っているわけなんですか。
  144. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 第八条ノ二の第二項の裁判がございますと、地主が承諾したと同様の効果を生ずるわけでございます。
  145. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それは、あれですか、一種の仮執行の宣言みたいなことがつくんですか。金銭給付じゃないから、仮執行ということはないんですか。向こうが抗告なり特別抗告なりしている間は効力は発生しないんですか。
  146. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) この裁判が確定いたしますと、その承諾の効果を生ずるわけでございます。
  147. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 確定しなくても、一審で裁判があった場合に、それによって承諾にかわる許可があったものとして増改築できるということはできないんですか。
  148. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは意思表示にかわるものでございますので、仮執行の宣言はできません。したがいまして、即時抗告期間が経過するか、あるいは即時抗告によりまして抗告審の裁判が行なわれて、もはや抗告のできないような状況になりますまでは確定しないわけでございます。確定によってはじめてその承諾の効果を生ずる、こういうふうになるわけでございます。
  149. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 金銭給付じゃありませんから、仮執行の宣言がつかないのは、これはそのとおりですけれども、そうすると、一審の判決というか、これは決定ですか、があっても、それが確定するまではだめだと、こういうことですね。わかりました。  それから、その場合に、あれですか、増改築制限の特約というのは、廃止されないで、一般的に存続されることになるのだと、こういうんですが、それはある一定の時期における一定の増改築における許可の裁判ですから、一般的なものには関係ないのだ、これはもうあたりまえのことですけれども、この増改築制限の特約ということが有効か無効かということを争うのは、これは普通の民訴で争うわけですか。
  150. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは民事訴訟によって確定するほかはございません。
  151. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、地主の承諾にかわる許可の裁判を借地権者が求めるわけですが、その前提として、増改築制限の特約は無効なんだが、かりにそれは無効でなかったとして、有効だったらということで、予備的な形で地主の承諾にかわる許可の裁判というものを非訟事件で求めることはできないわけですか。
  152. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは第一項の場合にも同じような問題を提起されたのでございますが、やはり第二項の場合におきましても、承諾にかわる許可の裁判を求めます際に、その前提問題が争いになります。非訟事件の手続におきましてもこれは一応判断しなければなりません。もしも増改築の制限をするという特約があるかないかということが問題になりますれば、その点の判断を前提にするわけでございますが、これは、先ほど申し上げたと同じように、そのことについては、かりに裁判がございましても、既判力は生じないわけでございます。したがいまして、別の民事訴訟によりましてその点の解決を最終的にははかるということになるわけであります。
  153. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それはわかったんですけれどもね。そうすると、増改築の制限の特約があるかないかとか、あるいはそれが有効か無効かということを争って、たとえば増改築制限の特約がないということになれば、地主の承諾にかわる許可の裁判ということは、あれですか、問題はなくなってくるのですか。そうとは限らないわけですね。増改築制限の特約とは関係なしに地主の承諾にかわる裁判ということは求められるわけでしょう。
  154. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) この第二項は、増改築を制限する旨の借地条件があります場合に、これに違反するような結果の起きないようにするために、承諾にかわる許可の裁判をするようにいたしたわけでございます。したがいまして、もしもその前提問題でございますところの増改築制限に関する特約がないということになりますと、これはもう非訟訟件の申し立てをするまでもなく、増改築は自由にやってよろしいわけでございます。
  155. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 増改築禁止の特約がない場合には、増改築は自由にやってよろしい、こういう、ふうに承ってよろしいですか。
  156. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) それは別に制限がございませんので、差しつかえございません。
  157. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、非堅固の建物を堅固な建物にしちゃってもかまわないのですか。それはまた別ですか。
  158. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは条件が別でございますので、第一項の場合は、「堅固ノ建物以外ノ建物所有スル旨ノ借地条件ノ変更二付」と、こうございます。それから第二項のほうは、「増改築ヲ制限スル旨ノ借地条件が存スル場合」とございますので、第一項の場合と第二項の場合は別なんでございます。
  159. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 増改築を制限する借地条件がないという場合には、あれですか、たとえば建物が朽廃しそうになったというので大改築をやったというふうなことは、そういう制限する特約がなければ、やってもかまわないわけですか。
  160. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 差しつかえございません。
  161. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それでは、地主側の権利というものは非常に大きく害されることになるのじゃないですか。そのままほうっておけば借地権は消滅しちゃうんじゃないですか。借地権が消滅しちゃう場合にそれをやっちゃったら、借地権は消滅しなくなっちゃうでしょう。
  162. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは契約によって定めることでございますので、もし地主がこういった制限をする必要がないということでございますれば、これは当然増改築をやってもいいということでございます。しいてそれを一々地生の承諾にかける必要はないわけでございます。
  163. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 増改築のことについて契約に全然触れてない場合に、あれですか、それはそれでいいんですか。それでいいなら、私はけっこうなんですけれども。ぼくは借地立場にいつも立っているけれども、それじゃ、あれじゃないですか、地主側が不当に害されちゃうのじゃないですか。
  164. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) もしもその心配がございますれば、これは賃貸借契約を締結します際に、そういった借地条件を締結すべきものでございます。いかように増改築しても差しつかえないということであれば、そういった制限は契約条項の中へは入らないわけございますので、もしなければ、借り主が増改築をいたしましても契約違反にはなりません。
  165. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 何も増改築について触れてない場合に、たとえば建物がこわれそうになっちゃった。そうすると、それは、あれですか、いわゆる大改築して全部建てかえちゃってもかまわないですか。改築でしょう。改築だから、新築と違うのでしょう。そこの限界があるのじゃないですか、一つ問題としては。それが一つと――ちょっと質問の意味がはっきりしませんか。何も増改築の制限とか何とか云々のことが契約書に全然ない場合ですね、土地を借りて建物を建てている。そうすると、あれですか、一の場合ですよ、建物を全部こわしちゃって新しく建てた場合ですね、これはどうなんですか。これはかまわないわけですか。
  166. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 差しつかえございません。
  167. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それから二番目として、それじゃほっておいたら建物がもう自然に朽廃してしまう、それを防ぐために全部建てかえる、こういうこともいいわけですね。
  168. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) それも差しつかえございません。
  169. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 ところが、いままでの裁判所なんか、そうは言わないんですよね。これはぼくが間違っているのかもしれませんけれども、新築になるわけでしょう。新築はいかぬというわけですよ。だから、土台か何か残っていれば、これは改築だから、改築について何もない場合はいいけれども、全部ぶっこわして建てるとすれば新築でしょう。だからこれはいけないんだという解釈が出てくるんですがね。建物の朽廃じゃないわけでしょう。自分のほうで人為的にこわしているわけですから、滅失でしょう。滅失の場合は全然別個になるわけだから、朽廃じゃないんだから、借地法上問題は起きないんだから新しく建ててもいいという解釈をぼくらとるわけですけれども、それはいや違うのだ、新築の場合はだめなんだ、こういうふうに言うけれども、そういうことは間違いなんだ、そういうことをしてもいいんだということなら、これはけっこうな話で、このままにしておきますけれども、何かいままでそういうに聞かないんですよ。普通の場合にその点を非常にやかましくやって、すぐ仮処分をやる。それは滅失ということと朽廃ということとの考え方を千分理解していないで、何でもなくなっちゃえば朽廃だという形でやってくる考え方がありましてね。だから、よくわからないところだと、そういうことを言っちゃあれですけれども、火災で焼けてしまうと、すぐ地主がやってきてへいか何かやって仮処分をしてしまう。よくわからないとこでは仮処分を認めちゃうところがあるわけです。火災の場合だから、朽廃じゃないから、借地権を消滅するわけではないけれども、その場合に仮処分を認めたりなんかして、これは法律でそんなばかな話はないんだといって異議をやるんですけれども時間がかかっちゃって、あっちをひっくり返し、こっちひっくり返して、こっちは困っちゃう。そういうあれがありますから、だから、簡易裁判所判事さんにこういうのをあれするのはあぶなくてしょうがないという感じを打つんですが、これはぼくのほうが認識不足であったかもわからないので、この程度にしておきます。  そこで、地代なり借り賃ということになってくるのですけれども、「地代又ハ借賃」ですね。そうすると、地代というのは厳密に言うとほとんどないわけですね。どういうふうになるのですか。地上権の場合だけ地代と言うんですか。厳密に言うとそういうふうに使い分けているのですか。
  170. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) それは、地上権の場合には地代言っております。
  171. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 普通の場合は何と言っているんですか、借り賃……。
  172. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 借り賃と申します。
  173. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、この第三項でいう地代の増額とかいろいろなことで一定額の金銭の支払いを命ずることがあるんだと。この場合には、あれですか、これは債務名義になるわけですか。
  174. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) そのとおりでございます。
  175. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そこで、地代の問題なりあるいは借り賃の問題になってくるわけですけれども、この増額の請求権が形成権であるという考え方ですね、これはどこから来ているのですか。これはまだぼくもよくわからないわけですが、初めからこういう考え方じゃなかったんでしょう。
  176. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、借地法の第十二条、あるいは借家につきましては借家法第七条の規定でございまして、この各条に定められました要件が備わりますときは、「当事者ハ将来ニ向テ地代又ハ借賃ノ増減ヲ請求スルコトヲ得」、こう書いてございます。当市者がその請求をいたしますと、これは形成権でございまして、その請求いたしましたときから相当額に増額あるいは減額されるということになるわけでございます。この意思表示によって増減の効果が生ずるということは当初から解釈は一定していると思います。
  177. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それは借地法ができてからの話で、借地法ができる前はその点についていろいろ解釈があったのではないですか。
  178. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) そういう制度を設ける必要があるかないかということは、これは別問題といたしまして、借地法、借家法ができますまでの間は、特にそういう法律上の根拠はなかったわけでございます。当事者の合意によって地代、借り賃の増減をする、こういうことになるわけでございます。
  179. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それは、当事者の合憲によるというなら、契約でしょう。地代なら地代を、家賃にしろ借り賃にしろ、それをきめるのは本来契約ですわね。当事者の意思の合致によるわけです。それを一方的に形成権の行使で増額請求できるというふうに考える理論的根拠はどこにあるのですか。
  180. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、やはり一種の事情変更の原則のあらわれだろうと思います。従来の契約関係をそのまま維持してその履行を求めるということが著しく不均衡になる、あるいは不相当であるというようなことになりますと、それに応じた契約関係を新しく形成変更することができるようにすべきである、いわば一種のそういう客観的事情の変更に応じて妥当な法律関係を形成していこうということであろうと思います。
  181. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 事情変更の原則ということによってこの増減の請求権というものを認めようという形はとっていないんじゃないですか。基本的な考え方はそこにあるとしても、そういう形でいままでいっていないんじゃないですか。
  182. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) この要件は、それぞれ借地法十二条ないし借家法の第七条に規定されておりますが、「土地ニ対スル租税其ノ他ノ公課ノ増減若ハ土地ノ価格ノ昂低二四リ又ハ比隣ノ土地ノ地代若ハ借賃二比較シテ不相当ナルニ至リタルトキハ」と、こうございまして、契約締結の当時から考えますといろいろここに定めてありますような条件に変更がございますために、現在の地代あるいは借賃が不相当になったということを前提にいたしておるわけでございまして、やはりこれは事情変更の思想の具体的な一つのあらわれであろうと思うのでございます。
  183. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 事情変更だということになれば、契約当時なり何なりに予期しない事情が起きたということは一つ理由になりますね、だから、ある程度地代なら地代が、将来上がるということを予期して決めている場合には、それは認められたいことになるわけですか。ある年限の範関内においてはこの程度地代がし上がるだろうということを意識してというか、そして地代をきめますね。きめておる場合には、それをまた、事情変更の原則ということになれば、事情変更の原則を適用するという条件がいろいろあるわけでしょう。どういう条件とどういう条件があってはじめて地代の増額請求権というものが形成権として行使されることになるわけですか。ただここに書いてあることだけ言うのじゃなくて、事情変更の原則なら原則というものが適用になる条件というものが、一般的にはあるのじゃないですか。でないと、おかしいの、じゃないですか。
  184. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 先ほども申しましたように、事情変更の原則一つのあらわれであると、こう申し上げたわけでございます。事情変更の原則といわれますのは、これは先ほどもお話しのように、契約当時予測しなかった新しい事態が生じ、そのために、現在の法律関係をそのまま維持していくということは、著しく公平に反する、不相当であるという場合に、事情変更の原則というものが認められるわけでございます。地代、借賃の場合には、ある程度、将来のことも見越して地代、借賃を定めているわけでございますが、その契約時点においては予測し得なかったとは言えないじゃないかというような御意見だろうと思いますけれども、これは一つ事情変更の、そういう考え方のあらわれであると、先ほども申し上げたのでございまして、事情変更の原則ずばりそのままここに書いてあるという趣旨ではございません。やはりそういう考え方もありますので、そのときそのときの実情に応じて地代、借賃というものは増減されるべきである、相当の額に改められるべきであるという考え方に立って、これはできていると考えるのでございます。
  185. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 私の聞くのは、事情変更の原則というものの適用だというなら、事情変更の原則そのものですよ、原則そのものがどういう場合に成立するのか、いろいろな条件があるだろうということを聞いているわけですよ。それが一つと、それから事情変更の原則の適用なんだから、予測しないということが一つの条件になるんだと。地代の場合にはある程度上がることを予測されているのだからということを言っているわけじゃない。ある年限の範囲においては、予測されないでしょうけれども、年限を越えてくれば上がるということを予測されているかもしれませんからね。そういうことを言っているのじゃなくて、基本的な事情の変更の原則原則ということを言われるので、それじゃその原則というのはどういう場合に適用されるのか、原則自身の適用される条件があるのじゃないかということなんです。
  186. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 事情変更の原則と申しますのは、その締結いたしました契約を、そのまま文字どおりに履行させるというふうなことにいたしますと、信義誠実の原則にも反することになり、著しく当事者にとって公平を失するというふうな場合に、この平時変更の原則を認めようということでございます。  それでは、どういう場合に具体的にそういう原則が適用になるかということがございますが、これは、事情の変更が当事者の責に帰すべからざる事由によるものであるということ、あるいは、事情の変更があらかじめ予見することができなかったものであるというふうなことが要件とされているのでございまして、その場合に、慕情が変わっているのでございますから、従来の契約をその理由によって破棄してしまうというところまで持っていきますと、これはやはり信義則にも反する結果になりますので、その事情その事情に応じてその契約の内容を変更していこうというのが事情変更の原則というふうに理解しているわけでございます。
  187. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 地代家賃のこれは、あとでいろいろむずかしい議論というか、現実に形成権だという理論を貫けないから、貫くと、いろいろな不均衡というかあるいは混乱というか問題が起きてくる。だからというので、今度それは変えようということになってきたのでしょう。そうじゃないですか。形成権ということが一つの本質だ、それを今度具体的に適用の中で変えていこうというわけでしょう。形成権だということを変えようという意味じゃないですよ。この条文の適用というものを変えていこうというわけでしょう。それは、形成権説では意思表示が到達したらこそで適正額まで上がるんだということになってくると、借地人のほうでは何が適正額かということはわからないわけですから、払わないわけです。供託といっても、自分の思っていたとおり供託したら、その供託が足らなかったとか、あるいは提供がなかったとか、何とかかんとか言って債務不履行で契約を解除されるということが現実に起きてくる。それを防ごうというので今度改正が起きているわけですね。だから、一方的に形成権説というものをとっているところに問題点があるのじゃないかという議論がどうもひっかかるわけです。なるほど、学説でも判例でも、全部形成権説でいっているわけです。だけれども、元来は、当事者間の契約なわけです、地代というものは。当事者閥の契約できまっている。それが、いきなり継続的な債権関係になってきたら、とたんに形成権になってくる、一方的な意思表示によって上がってしまうんだということ、どうもそこのところが、ぼくの勉強が足らないんでしょうか、継続的な契約関係というものが本質的なものがよくわからんからかもしれませんけれども、どうも納得できないんです。どうもそこのところがはっきりしないわけです。地代なら地代がやはり契約によって成立するんだということでどうしていけないわけですか。それが本筋じゃないですか。たとえば公定価格なら公定価格があるときに、そこまで意思表示があったならば、公定価格までは当然承諾するという黙示の意思表示があるんだから、そこまでは契約が成立するんだという一つのフィクションのような考え方でならばわかるんです。適正額なら適正額というところまではそれを承諾するという黙示の意思表示があるんだ、だからそこで契約が成立するというんなら、ぼくはまた話がわかるような気もするんですけれどもね。一体、契約というものがばっとなくなって、いきなり形成権になって、一方的な意思表示で適正価格できまっちゃうんだというのは、どうもよくわからない。学者はその点は疑わないし、判例でも疑わないのだけれども、どうもぼくは不思議でしょうがない。本来は契約なんでしょう、地代をきめるということは、当事者間の。それがどうして、継続的な契約関係に入っていって、途中で一方的な意思表示によってきまっちゃうんですかね。そこでまた契約があるんだ、黙示にしろ何にしろ、そこで意思表示があって、適正額についての契約があるんだという考え方じゃないでしょう。そこのところがどうもはっきりしないんです。そういう考え方もあるようですね。適正額については、あらためてそこで意思表示があって、黙示にしろ、あって、そこで契約が成立するんだというフィクションみたいなものがあるでしょう、考え方が。どうもそこのところがぼくはよくわからないわけです。どうして途中から形成権になっちゃうのですかね。
  188. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、確かに地代なり借り賃というものは本来契約によってきまるべきものでございます。しかし、きまってしまえば、これはその地代借り賃がそのまま確定いたしまして、それを支払う義務が生ずることは、これは当然なのでございます。それならば、これを改める際にさらに原則的に契約によって改めるべきではないかということでございます。これは、増額の場合も減額の場合も同じ問題が起きるわけでございますが、これを契約によってやるということになりますと、なかなか話し合いもつかないだろうというところにおそらくこの形成権にした根拠といいますか、理由といいますか、そういうものもあるのじゃないかとうかがわれるのでございます。これは、言いなりほうだいに増額の請求あるいは減額の請求をした、その意思表示に従って当然に変更されるものではございませんで、客観的に相当の額に増額されあるいは減額されるという思想に立っておるわけでございます。したがいまして、いくら貸し主あるいは借り主が増減請求をいたしましても、その自分の意思のとおりには必ずしもならないのでございまして、客観的に妥当な相当な額でこれがきまるということでございます。その客観的に相当の額というのが実はこれは必ずしも明確でないわけでございまして、ただいまお話しのように、意思表示をしておいて、その間に当事者の間であるいは合意ができるというふうな場合もございますし、また、それができない場合には裁判でこれを確定してもらおうということにもなるわけなんでございます。立法政策として、形成権にしたということが、原則的に契約であるべきものと両立しない、あるいは矛盾しないかというお考え方とも思うのでございますけれども、まあ形成権によって増減の請求の効果を生ずるというふうにしたほうがすっきりするだろうということは考えられるわけでございます。
  189. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いや、形成権にしたほうがすっきりするとかしないとかということではなくて、これはいわば便宜的なことですわね、立法政策かもわからぬけれども。そういうことで変えるというのはぼくはちょっとわからぬ、納得いかないんです。あくまでも本来契約なんだとすれば、その契約がまとまらないということになれば、裁判所はその契約にかわる裁判をするというならばわかるんですよ。契約にかわる裁判をしたときに効力が発生するんだということならわかるんですが前の意思表示のときに適正額で契約が成立しちゃうということなんでしょう。契約じゃないかもしらぬけれども、なっちゃうわけでしょう。そうすると、裁判までの間の問題で、片っ方は払わないわけです。片っ方は払わないわけですから、債務不履行の問題が起きてくるわけでしょう。かえって混乱するわけでしょう。だから、契約にかわる裁判というものを裁判所がする、そのときにあらためて当事者間の契約というものができたんだということになると、それから問題が発展してくるから、その前のことは問題にならなくなってくる。あくまで契約というものは前の契約が生きてくるんだということになって、かえって問題が起きなくて済むのではないかと思うんですが、ぼくもそこのところはちょっと……。形成権だということでだれも疑問を持っておりませんけれども、そう言われればそのような気もしますけれどもね。  それはそれとして、いまそういうことを質問してもあれですけれども、そうすると、地代家賃を増減することについてきめてあるのは、いま法律ではどんな法律できめてあるわけですか。地代家賃統制令があることはわかりますけれども、そのほかに何かあるわけですか。
  190. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 地代家賃についてきめてありますのは、現在、地代家賃統制令でございます。  なお、地代家賃統制令の趣旨とは違いますけれども、公営住宅法にもこの借り貨についての定めが規定されておると思います。
  191. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それはそうですけれども、増額請求権とかなんとかを認めているのは、都市計画法で認めているのですか。
  192. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 地代借り賃の増減請求を認めておりますのは、借地法と借家法だけでございます。
  193. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうですが。都市計画法の十二条の二項というのは認めていないのですか。
  194. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 都市計画法にはそのような規定は見当たらないのでございますが……。
  195. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 改正になったかな。区画整理の実施によって賃借り地の利用を妨げられた場合には借地人に減額請求権を認めて、これと反対に、賃借り地の利用が増加した場合には賃貸し人に増額請求権を認めているというんですが、廃止されたのかな。――まあいいですよ、あとで。改正で変わっているようですね。前にそういう規定があったんですか。それはわかりませんか。
  196. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 調べてみますが、ただいまのところちょっと明白でございません。
  197. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 地代なら地代がまだきまっていない場合に、これを地代額をきめてくれという裁判の申し立てをすることはできるわけでしょう。それはできないのですか。
  198. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 賃貸借と申しますと、やはり借り賃というものが要件でございます。これがきまっていないと賃貸借契約は成立していないのではないかと思います。したがいまして、賃貸借契約が成立して借り賃を定めるということはあり得ないだろうと思います。
  199. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いや、もちろん賃貸借契約ですから、地代の額が確定していなければいけないわけです。それが当事者間で話がまとまらない場合、裁判所へ申し立ててそれをきめてくれということ-はできないわけですか。
  200. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 先ほども申し上げましたように、地代あるいは借り賃というものがきまりませんと、賃貸借契約は成立しないと思います。それがきまらない段階賃貸借契約の借り貨だけを定めるという請求権は発生してこないと思います。
  201. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 地代は適正額で払うという契約で、適正額が幾らかということを裁判所にきめてもらえないですか。
  202. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 法律上、そういう請求権というものは認められないのではないかと思います。
  203. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 地代を確定してくれという請求でしょう。そういうのは認められないのですか。
  204. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 仮定の議論になりますが、そういうことが可能だといたしましても、それが賃貸借契約というものが存在することを前提にいたすわけでございます。ところが、まだ借り賃が確定していないのでございますから、賃貸借そのものがまだ成立していないというふうに考えられるわけでございます。成立していない賃貸借に基づいて裁判所にそういう請求をするということは不可能であろうと思います。
  205. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いや、適正額で払うということはさまっているんですね。ただ適正額の争いがあるということで裁判所できめてもらうということはできないですか。
  206. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) それはまだ賃貸借として確定的に契約ができ上がっているとは言えないと思います。
  207. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、地代を上げてくれと言って、片方はだめだと言っているわけですね。そうした場合には、前の地代が生きてきているわけですから、だから賃貸借契約は成立しているということになるんですか。
  208. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 増額の請求をいたしますまでは、従前の地代がそのまま効力を持っておるわけであります。したがいまして、それを前提にしてさらにその賃貸借の地代を改めるということでございます。したがいまして、先ほどの適正額に定めるという契約のある場合とは違うように考えるわけでございます。
  209. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 地代を前払いしちゃっている場合はどうなんですか。
  210. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 地代を前払いしておりましても、地代の増減の請求は可能でございます。ただ、あとで相当額にきまりました地代との精算は残る場合があると思いますけれども、前払いしたから増減の請求はできないという性質のものではないと思います。
  211. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 前払いしたということは、たとえば五年間なら五年間前払いしちゃった。五年間は増額請求権なり減額請求権を放棄したと、こう見られるんじゃないですか。
  212. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 増額をしないという特約がありますれば、これはむろん増額の請求はできませんけれども、そうでなければ、ただいまの借地法十二条の要件を満たす限りにおきましては、増額の請求はできると思います。
  213. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 前払いしたということは、普通の場合には、その問地代なら地代を値上げなり減額――減額ということはないでしょうか、値上げをしないという特約があったものと推定されるのが普通じゃないですか。そこまでいきませんか。事案によるわけですか。
  214. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 前払いの場合にもいろいろ考えられるわけでございまして、その期間内はもう絶対に増額いたしませんという趣旨の場合もあるかもれません。しかし一応三年間なら三年間の地代は前渡ししておきましょうという程度のものもあるかもしれません。したがいまして、前払いのゆえをもって当然に増額の請求をしないという特約があるとは断定し切れないだろうと思うのでございます。やはり、それぞれの事案によりましてその契約の内容を判断いたしましてきめなければならないと考えるのでございます。
  215. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この借地法でいう地代増減の理由がいろいろ書いてあるのと、地代家賃統制令できめている増額の理由というのとは、これは違うのですか。
  216. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 地代家賃統制令の第七条によりますと、「地代又は家賃の停止統制額又は認可統制額の増額の認可」の規定があるわけでございます。この場合に、「借地について改良工事がなされたとき、又は借家について改良工事若しくは大修繕と認められる工事がなされたとき。」、さらに第二の点といたしまして、「地代又は家賃の停止統制額について、借主と借地又は借家の借主との間に縁故その他特別の関係があったため、地代又は家賃の額が著しく低額であるとき。」と、こういうふうに定めてあります。したがいまして、これと借地法第十二条、借家法第七条の規定とは若干趣旨が違うわけでございまして、借地法、借家法のほうは、地代家賃そのものの増減請求に関するものでございまして、地代家賃統制令のほうは、その統制額の増額を求める規定でございまして、これがすなわち地代家賃であるということにはならないのでありまして、その点、地代家賃統制令と借地法、借家法とは規定の趣旨が多少違うように考えます。
  217. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それを今度の改正法で――それというのは、地代家賃統制令のことじゃなくて、地代の増額の問題ですね。これをどういうふうに改正しようとしているわけですか。
  218. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 先ほども問題として提起されましたように、現行法によりますと、地代借り賃の増額の請求がございますと、客観的に相当の額に至るまで当然に地代家賃は上がるわけでございます。しかし、当事者の間に話し合いがついてこの額にしようということがきまりますれば、問題はそれで解決いたすわけでございますけれども、それがきまりませんと、裁判によって相当額を確定しなければならないことになるわけであります。その間におきまして、たとえば従来一万円の地代を二万円に増額請求をするというふうな場合におきまして、借り主のほうは一万五千円で相当だと思って一万五千円払おうといたしましても、貸し主のほうは、いや、二万円だということで、それを受け取らない、あるいは、借り主がその一万五千円を供託しようということにいたしましても、はたしてその一万五千円が相当額であるかどうかということの判断がつかないわけでございます。これは主観的には借り主が一万五千円が相当であると思いましても、裁判所はあるいは一万八千円に定められるかもしれないわけでございます。そういった場合に、やはり債務不履行問題が出てまいるわけでございまして、そのために、現在の地代家賃の増額請求の訴訟の過程におきまして、その種の債務不履行を理由といたしまして賃貸借契約そのものものを解除するというふうな争いにまで進展いたしまして、だんだんと地代家賃の増額の請求をめぐって紛争が大きくなるということになるわけであります。そこで、そういった争いを避けますために、ともかくも裁判が確定いたしますまでの間は、借り主側といたしましてはみずから相当と認めるものを支払っておけばそれでよろしい、債務不履行にもしないということにいたしまして、裁判が確定しました暁においてその不足額の精算をする、こういうふうに考えたわけでございます。これによりまして、借り手側は従前の地代を払っておいてもよろしゅうございますし、また、相当の事情によって地代を上げなければならないというふうに考えますれば、若干増額したものを払っておいてもよろしいわけでございまして、そういう措置をとることによりまして、従来のような債務不履行に基づく紛争というものは防止できるわけでございます。そこをねらって今回の改正をしようとするわけでございます。
  219. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、この改正以前の、いまの場合のことで、たとえば地代を幾ら幾らに上げてくれ、家賃を上げてくれ、こういうふうに内容証明なんかでいきますわね。借りているほうからいうと非常に高いからといって、そんなばかなものは払えるかといって払わない場合がありますね。払わないから、じゃ前にきまったものを、契約できまっているわけですから、それを払えばいいというのは理屈でしょうけれども、そうすると、供託するとけんかが大きくなるということなんで、まあそこまでやらないでそのままにしておくわけですね。そうすると、結局あとで裁判がきまったときには、供託するとかえって騒ぎが大きくなるということで供託しないと、債務不履行ということで契約解除になっちゃったり、そういうのが話としてくるわけですね。供託すると、地主のほうじゃ、まるで借地人なり何なりがけんかでも売ったように思うんですね。供託なんかしてきたということで怒るわけですよ。そういうことでごたごたごたごたして、そういう関係で非常に困ってくるわけなんです。もちろん、借りているほうだから、債務の方針に従ってそれを払わなければならないのはあたりまえなんですけれども、要求が非常に高い場合、非常に高額に増額している場合に、あまりひどいからといって払わないわけですね。払わない場合に、あとで債務不履行だということになっちゃうんですが、今度の場合でも、一応、あれですか、借地人なり何なりがみずから相当と認めるものなりを支払っておかなければいかぬわけですか。支払っておかないと債務不履行になっちゃうわけですか。
  220. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) そのとおりでございます。一応借り主が相当と認める額を支払っておきさえすれば債務不履行にはしないというのがこの規定のねらいでございます。したがって、従来の地代を一応払っておくということにいたしますれば、それで債務不履行の責任は免れる、こういうことになるわけでございます。
  221. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 現在の場合は、自分で前の地代家賃を払う、あるいは、みずから相当と認めて払っても、それは裁判の結果適正額と非常に開きがあった場合は、債務不履行にされちゃう場合があるわけでしょう。それが、今度の法律改正によってはそれがなくなるわけですか。
  222. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) そのとおりでございます。
  223. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そんなら、この点についてもっと早く改正すればよかったのじゃないですか。そういうことになるわけです。これは実に困っているんですよ、争いで。だから、借りているほうからいえば、率直な話、借りるときは契約できまっているわけですからね。それを、途中で一方的に意思表示があって、そこで形成権か何か、法律のむずかしいことは知りませんよ、一般の人は。そんなことで一方的に地代なり家賃なりがきまっちゃうということは、全く納得がいかないという感じを持つわけですよね。それは適正額できまるのだとしても、やっぱり契約なんだから、そこで、承諾がなきゃいけないのじゃないかという考え方を持つわけです。統制令がある場合には、統制令の額まではきめてもいいんだという黙示の承諾があったんだという形で、一種のフィクションになりますけれども、そういう場合なら納得するでしょうけれども、これが盛んに現在悪用されているんですね。ですから、地主、家主のほうでも、意識的に相当高い家賃をわざと内容証明で出すわけですね。内容証明が来ただけでもこわがってしまう。たいへんな騒ぎになって、高いものだから、そんなものは払わなくてもいいだろうと思ってそのままにしておく。あにはからんや、契約解除されちゃう。いろいろな手でやられるんです。  まあ、いずれにいたしましても、執行官のほうの質問に入らないとあれですから、これで私一応途中ですけれども終わりにしておきます。
  224. 木島義夫

    ○木島義夫君 ただいま、料金がきまらない前に賃貸借の契約はないと、こういう御説明でしたね。ところが、これは実際問題に起こっていることでお伺いしたいのですが、借地を他の者が使っておったわけですね。その場合は、外形的に貸したごとく見える場合があるわけですね、外形的に見ると。しかし、料金は何らもらっているわけでもない。賃貸の契約もしたわけではない。ところが、地主は、貸したと。まあこういうことで実体は貸してあるのじゃないか、こういうことを内容証明等によって主張してきておる事実があるんですよ。――わかりましたか。事実は貸しているわけでも何でもないですよ。第三者がただで使っているわけです。これはいわゆる賃貸借を行なっておると、こういうことを主張して、そしてちょうど期限が切れたのを幸いとして取り上げたと、こういうことが事実上起こっているわけです。これはどう判断するのですか、また、使用貸借と考えられるのですか、そういうような点をひとつ……。
  225. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 御質問の場合は、ある土地を甲という者が契約も何もないにもかかわらず勝手に使っておると。ところが、地主のほうでは、それは賃貸借で貸しておる、こういう主張をしておる。こういう場合でございましょうか。
  226. 木島義夫

    ○木島義夫君 ええ、そうです。
  227. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これはまあその使っておる者が現実に契約関係に立って正当の権限に基づいて使っておるのかどうかということが一つ問題点でございます。それから貸していると称する地主のほうが、賃貸借があると言うのでございますから、地主のほうが賃貸借の存在を証明しなきゃならぬわけでございます。いずれにいたしましても、現実に使っておる甲という者と地主との間にどういう法律関係があるかということが確定しなければならないわけでございますので、まあそういう事実関係だけに基づいてそれが賃貸借であるかあるいは不法占有であるかということは、必ずしも断定はできないわけでございます。現実に使っておる者と地主の関係がどうかということを確定いたすことがまず先決問題だろうと思います。
  228. 木島義夫

    ○木島義夫君 それは、何の関係もないです、地主は。こういう事情なんです。甲と乙と契約したわけですね。そうすると、今度借地人が甲と話し合いの上に、いままで会社が借りておったものを偶人に直したわけです。だから、貸し人は個人に面したということはちゃんと承知で判を押しているわけですね。だから、借地人は今度は個人の丙なら丙との間に契約ができておる。ところが、向うのほうでは引き続き乙が使っておるという理由をもって貸したんだと、こう主張しておる。こういう場合ですね、これは存在していないと見ているんでしょう。使用貸借もないと見ているんでしょう。いまお話の、料金がきまっておらなければ賃貸借は生じないという原則、それが貫かれるかという問題……。
  229. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 契約がございませんと、賃貸借関係というものはむろん存在しないわけでございます。したがいまして、その当事者の間にそういった法律関係が契約によって発生しているかどうかというはっきりした証拠がございますれば、賃貸借ということが言えるわけでございますけれども、それがなければ、賃貸借という法律関係は成立しないと言わざるを得ないと思っております。
  230. 木島義夫

    ○木島義夫君 それからもう一つ念のために伺いますが、使用貸借の場合において、それをいわゆる世間でいう貸借関係ありとみなされるおそれがあるかという問題です。
  231. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 使用貸借もやはり貸借関係でございます。ただ、借地法、借家法の適用を受けますには、使用貸借ではだめでございまして、地代家賃を払っておる賃貸借の場合に限るわけでございます。
  232. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 さっきの非訟事件の問題は、憲法八十二条との関係で、「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」とあるのとの関連で、非訟事件が一体憲法との関係でどうなるかということの問題なんです。これはきょうでなくていいですから、あとで伺います。
  233. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 速記をとめて。   〔速記中止〕
  234. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 速記を起こして。     ―――――――――――――
  235. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 次に、執行官法案議題とし、質疑を行ないます。質疑のある方は順次御発言を願います。
  236. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この執行官法の国会への提出が非常におくれたわけですね。そのおくれたのは、どういうところに理由があっておくれたわけですか。
  237. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 執行官法は、昨年の国会の終了後から改正案の検討を始めまして、今年春ほぼ大体の構想が固まったのでございますが、御承知のとおり手数料制を維持しているわけでございますが、その手数料の年間の合計額が一定の基準に達しない場合には国庫から差額を補助するという形になっておりまして、これは現行執行吏制度と同じでございますが、その国庫補助の額をどの程度のものに形づくっていくかということにつきましていろいろ検討の段階で論議がございまして、さような関係もございまして国会に提案するのがおくれたというような事情になっているわけでございます。
  238. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 今度の改正法案は、昭和三十一年に法制審議会で強制執行制度部会が一応の結論を出したわけでしょう。それと同じなんじゃないですか。だいぶ違いますか。
  239. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 昭和三十一年に、御指摘のとおり、法制審議会の強制執行制度部会、さらに強制執行制度部会の中に小委員会を設けまして検討していたわけでございますが、その小委員段階一つ改正方向と申しますか、検討の方向というものを打ち出したわけでございます。それをただいま御指摘になったのだと思いますが、その段階の検討の方向と申しますのは、俸給制裁判所職員である執行官制度に改めるというのがその方向でございまして、   〔委員長退席、理事木島義夫君着席〕 今回の執行官法は御承知のとおり俸給制の形にはなっておりませんので、必ずしもただいま御指摘の法制審議会の打ち出しました方向とは一致しない点があるわけでございます。
  240. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この前に、執行吏の恩給ですか、たしか増額したのがありましたね。去年ですか、ちょっと忘れましたが。そのときに、どうしてこれを一緒に提案できなかったんですか。
  241. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 先ほども申し上げましたように、現在の執行吏制度は、御承知のとおり、明治二十三年の執達吏規則執達吏手数料規則を根拠にいたしまして現在まで運用されていたものでございますが、何ぶんにも七十数年間この二つの規則を中心にして運用してまいりましたので、いろいろ問題点が出てきたわけでございます。そこで、戦前におきましても検討を続けたわけでございますが、戦後におきましても昭和二十九年以来法制審議会で検討を続けてまいったわけでございます。しかしながら、法制審議会の大方の方向は俸給判の公務員制度にするのがいいんだという方向に向かっておりますけれども制度をさように切りかえますにつきましてはなお解決しなければならないいろいろな問題がございまして、はたしてすぐに切りかえ得るのかどうかということの検討を続けていたわけでございまして、昨年執行吏の恩給の増額の法案を提案いたしました際には、まだその問題につきまして政府の向かうべき最終的な方針、現段階でとるべき方針というものが確定いたしていなかったわけでございます。
  242. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 執行吏制度改善が、昭和三十一年に、「固定俸給制裁判所職員たる執行官制度に改める」という一つの目途を出したんだと。ところが、それはいろいろな問題があって、現段階においてはそこまでいかないと、こういうわけですね。そうすると、結局、あれですか、俸給制執行官制度というものを創設するということについては、具体的にどういう点での難点があるわけですか。主としてこれは大蔵省との関係、予算面でのいろいろな難点があるということなんですか、あるいは、そのほかの面でもいろいろあるわけですか。
  243. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 俸給制執行官に切りかえる問題につきましては、いよいよ具体的に検討を進めますれば、御指摘のように予算面でも格段の手当てをしなければならないと考えられるのでございますが、私どもが現在まで検討してまいりまして、いますぐに問題を解決して切りかえをすることができないというふうに考えました点は、必ずしも予算の点とは限らないのでございまして、現在は御承知のとおり、手数料制でやっておりまして、執行吏が三百四、五十名おります。それから執行吏代理と称する者が二百四、五十名おるわけでございます。合計で約六百名の職員で強制執行、送達という仕事をしているわけでございますが、これを固定俸給制度というような形の公務員に切りかえるといたしますと、おのずから執務のやり方というようなものも違ってまいりますので、法制審議会などでもいろいろ検討されたわけでございますが、現在の人員数の三倍くらいの職員を必要とするのではなかろうかというふうにいわれているわけでございます。この三倍と申しますのは、私も外国のことをよく存じないのでございますが、ドイツあたりで手数料制から俸給制に切りかえるという問題の起こりましたときに、俸給制にすると三倍くらいの人員を要するのじゃないかというような議論がやはり行なわれたようでございます。そういう経過もございまして、日本の現状を見ましても、これを固定俸給制ということに切りかえてまいります場合には、三倍くらい、数で申しますと、先ほどの数から申しますと千五百から二千というような人員数を予定しなければならないのじゃないかというふうに応考えられるわけでございます。  そうして、その職員の行ないます仕事の内容は、御承知のとおり強制執行事務でございまして、現在でもあまり人に好かれない仕事でございますので、しかも現場において自分の判断で適正な執行を行なわなければならぬという非常に責任の重い、しかも心労の多い仕事でございますので、こういうような仕事を適正円滑に行なっていくためには、相当な法律知識、法律の素養、あるいは円満な人格というようなものを備えている人を充てなければ、強制執行ということは円滑にいかないというふうに考えられるわけでございます。  そういたしますと、それだけの人員をそういう優秀な素質の人たちによってうまく充員できるかどうか。さらに、だんだんと退職する者もございましょうから、逐次補充をしていかなければならない。さらにはまた、それらの人々に勤労意欲を刺激して能率を十分に発揮させるというためには、手数料制の場合と違った何らかの研究も必要となるのじゃなかろうかというような問題がいろいろございまして、最高裁判所ともいろいろ御相談し、また、法制審議会におきましても検討を続けられたわけでございますが、現在の段階では、なおそれらの問題をすぐ解決して制度を切りかえるということはまだできないというふうな考え方に立ちまして、これは今後もなお引き続いて検討していこう、こういう形になっているわけでございます。
  244. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 俸給制執行官という形になると、純然たる裁判所の職員であるわけですか。そうすると、裁判所職員の中で、執行官なら執行官、この仕事をやる人たちだけがきまっちゃうわけですか。ほかのたとえば民事部の職員と入れかえてやるということはできないわけなんですか。
  245. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 固定俸給制裁判所の職員ということになりますと、今回と名称は同じでございますが、裁判所の職員の中に執行官という一つの官職ができる、かようなことになるわけでございます。そうして、ただいま御指摘のように、その執行官の仕事を他の職員たとえば書記官とか事務官というものが行なえるかどうかということになりますと、原則としては別種の職員であるというふうに考えるべきだろうと思います。しかしながら、現在も執行吏の仕事を書記官が代行するという道が開かれておりますので、さような道はあるいは残されるかもしれません。さらに、執行官裁判所書記官との人事交流という問題も起こるわけでございます。これも格づけ等の問題に関連してまいりますが、それらを考え合わせますればあるいは可能かとも思いますけれども、何ぶんにも書記官の行ないます法廷事務執行官の行ないます現場事務とは仕事の性格が非常に変わっておりますので、これを普通の職員のような人事交流でうまくまかなっていけるかどうかということにはなおかなり疑問の点があるのじゃなかろうかというふうに考えております。
  246. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いま、強制執行の場合でも、不動産の強制執行の場合は裁判所の職員がタッチしているわけでしょう。有体動産の場合は全然タッチしないのですか。これはどういうわけになるのですか。
  247. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 御指摘のとおり、現在の強制執行制度は二本立てになっておりまして、動産の場合は執行吏が行なう、不動産の場合には執行裁判所がこれは担当するという形になっているわけでございます。そこで、私どもこれを強制執行の二元論ないしは二元案というふうに申しておりますが、法制審議会で検討の段階におきまして、はたしてこういうふうな二元の考え方がいいのかどうか、あるいは一元にしたほうがいいのかという議論が出ているわけでございます。その一元論の中にもまた二通りございまして、現在執行裁判所が処断している事務まで執行吏のほうに吸収いたしまして、執行吏を中心にした一元の制度というものが一つ考えられるわけでございます。それからもう一つは、執行裁判所を中心にした一元という制度考えられるわけでございまして、その場合には、現在の執行吏というようなものは、裁判所の下部機関と申しますか、執行裁判所の指示に従って補助的な事務を行なっていくというような形になろうと思うのでございます。  これらのいろいろな考え方がございますので、法制審議会におきましてもいろいろ論議されておりまして、ある段階では執行官の一元制度というようなものがいろいろ検討された時代もあったのでございますが、執行官一元という制度をとりますと、執行裁判所のやっておりました従来の事務執行官がやることになりますので、先ほど充員の問題で申し上げましたように、新しい組織のもとで仕事をする執行官というのは相当に優秀な素質のいい者でなければならないということになりますので、そういう面で二元の場合よりもさらに充員の問題がなかなかむずかしくなってくるということもあろうかと思うのでございまして、法制審議会におきましては、俸給制にすべきかどうかということとあわせて、一元がいいのか二元がいいのかということも現在まで検討を続けているわけでございます。この問題も、将来さらに引き続いて検討を要するものというふうに考えているわけでございます。
  248. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いま、不動産競売の場合に、たとえば競売期日をきめるのは、全部これは裁判所がやるわけでしょう。   〔理事木島義夫君退席、委員長着席〕
  249. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) さようでございます。
  250. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 不動産競売の場合に裁判所が関与するのは、どういうところとどういうところに関与しておりますか。
  251. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) まず、申し立ての受理、それから開始決定でございます。それから不動産の取り調べを命ずるとか、賃貸借の取り調べ、それから鑑定を命ずるとか、それからただいま申し上げました競売期日の指定であります。競売期日における競売は執行吏にやらしておるわけでございます。
  252. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 競売期日における競売ですね、執行制度、これは裁判所は立ち会わないのですか。裁判所の構内でやるときは立ち会うのですか。
  253. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 法律手続の上で立ち会わなければならないということにはなっておりませんが、ただ、裁判所は監督権がございまするので、その競売を査察するという意味で臨場査察ということができるわけでございます。そして、そういうことをなるべく多く実施するように私どもとしては行政的な指導はしておるわけでございます。
  254. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 裁判所不動産の競売をやりますね。普通どこでやっているんですか。どこでやっているのかさっぱりわからぬのですがね。競売場があるところもあるし、ないところもある。どこかちゃんときまっておるのですか。
  255. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 競売をすべきところは、これは裁判所の構内できまっておるわけでございます。ただ、施設といたしまして、東京とか大阪とかそういう大きなところはちゃんときまった競売場がございます。小さい裁判所になりますと、毎週競売事件があるというわけでもございませんし、そういうような関係で、執行官の詰め所、あるいは公衆控え所というところでやっておるというところがあるわけでございます。
  256. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 最低競売価額なんかをきめるのは、あれは執行吏が自分の判断できめるのですか。一々裁判所に持って来て、裁判所の許可というか、報告をするというか、そういう手続をとるのですかとらぬのですか。
  257. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 御指摘のように、不動産競売につきましては、最低競売価額というものをきめまして、それ以下では競売してはならないということになっております。これは現行法では鑑定人に鑑定を命ずるということになっております。それで、たいてい大きな裁判所では毎年裁判所が指定鑑定人というものを指定しておりまして、それにまあ普通順ぐりに事件が来ますと不動産の競売の鑑定をなさしめております。
  258. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 鑑定人に鑑定させるというのは、必ずさせることになっているんですか、あるいは、「させることができる」んで、実際は執行吏が自分の判断でやっているんですか。
  259. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) これは必ず鑑定を命じなければならないのでございまして、最低競売価額をきめてから競売に出すということでございます。執行吏が鑑定を命ぜられる場合があるわけでございます。そういう場合に執行吏が鑑定人になっておるという場合がございます。
  260. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この最低競売価額というのは、非常に安いのが多いわけですね、実際から見て土地でも建物でも。まあ必ずしもそうでない場合もあるでしょうけれども、それに対しては異議は言えないわですか。そのこと自身に対して、価額の決定に対してですね。
  261. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) やはり、鑑定価額が低いということは、執行方法が悪いという意味になろうかと思いますので、執行方法め異議が申し立てられるかと思います。そういう最低競売価額で競売に出すということは、競売の手続が違法であるということで、最低競売価額に対する執行方法の異議は可能であろうかと思います。
  262. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 話をもとに戻しますが、そうすると、俸給制執行官制度ということをとることによって得られるプラスというものもあるわけですか。
  263. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) もちろん、法制審議会におきましても俸給制執行官のほうがいいのではなかろうかという方向を打ち出しておりますので、さような制度についての利点はあるわけでございます。それは、従来の執行吏は、御承知のとおり手数料でございますが、同時に役場制度をとっておりますので、手数料をもらって役場を経営していくという小さな企業、私企業のような形になっていたわけでございます。そこで、その役場制度等を中心といたしましていろいろ債権者その他の関係者との不明朗な結びつきがあるというようなうわさが出る場合もございましたし、従来いろいろ弊害と言われていたものがそういうようなものに結びついていくものがかなりあるのではないかというふうな点を考えますと、これを固定俸給制にしまして裁判所の書記官とか事務官とかと同じような一つ執行官という俸給制の職員に切りかえますれば、そういう問題も解決するのじゃなかろうかというようなところから固定俸給制考え方が出てまいるように思われるのでございます。
  264. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、プラスというよりも、弊害があるから、弊害を除去するという意味におもにとるのですか。そうすると、現在の執行吏制度というものは、弊害がいろんな面においてあるわけですか。具体的にどういう点が弊害になってあらわれているわけですか。
  265. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 現在の執行吏制度の弊害という点につきましては、従来からいろいろなことが言われているわけでございますが、先ほども申しましたように、何ぶんにも明治二十三年の法律に基づいている制度でございまして、いろいろな面で近代的な法律制度とは違ったものがあるのでございまして、そういうような点につきましてもいろいろ指摘されているものがあるわけでございますが、一般に現在の執行吏制度の欠陥、弊害と言われておりますのは、先ほど申しましたように、手数料制で役場制度をとっている、しかも債権者の委任によって執行が開始されるというようなところから、何か債権者の個人的な代理人のように見られる。その結果、執行の現場におきまして債務者のほうからは不当に何か非難を受ける。その関係がさらに一般人からはこれもまた不当な軽べつの感じを持たれるというようなことで、執行の権威というものが失墜するおそれがある、ある程度そういう状況が見られるのではなかろうかというようなことが一つ言われております。  それからさらに、何かそういう関係者、よく言われております立ち会い屋、その他ブローカーとの結びつきというようなものが現在のような制度では起こりやすいのじゃなかろうかというふうな点も言われております。  それから手数料制でございますと、事件が非常に多いところは手数料がたくさん入りますけれども、自分で仕事をつくるというわけではございませんので、収入が不安定だというような面もあるわけでございます。  さらにはまた、公務員でありながら役場というところで仕事をしておるというのが執務体制としてきわめて非近代的な形じゃなかろうかというような点も、欠陥と申しますか、弊害と申しますか、そういうようなものとして指摘されているわけでございます。  いろいろ従来指摘されておるところはあると思いますが、いま申しましたような諸点が特に耳に強く入ってまいる諸点でございます。
  266. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 執行吏は、現在おる人というのは、どういう職業を前にしていた人が多いわけですか。どういう経路で執行吏になるのですか。
  267. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 簡単に申しますと、非常に多くの数が裁判所の書記官出身者でございます。そのほか、警察官出身、あるいは検察事務官出身と、いろいろでございますが、これらの比率は非常に少ないようでございます。なお、詳細は裁判所のほうでいろいろ資料をお持ちだと存じますので、最高裁判所のほうから御説明願うのが相当かと思います。
  268. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) いまの法務省からの御説明につきまして補足して申し上げますと、執行吏の三百二十五名のただいまの定員の-定員と申しますか、現在員のうち、裁判所職員の前歴の者が二百十二名、法務、検察、警察職員三十四名、地方公務員が七名、その他の公務員が三名、執行吏代理からなった者が三十七名、その他、会社員、司法書士等が三十二名ということになっております。
  269. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、その執行吏の監督というか、それは具体的にはどういうふうにやっているのですか。
  270. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 執行吏裁判所の職員でございまして、地方裁判所に属しているわけで、地方裁判所の監督のもとにあるわけでございます。地方裁判所の監督のもとにあるということは、地方裁判所の裁判官会議の監督のもとにあるということなんでございますが、その裁判官会議がどうやって具体的に監督を行なうのかということになりますと、執行吏の監督規程がございまして、これに基づきまして監督を実施しておるわけでございます。その監督規程によりますと、裁判官会議では査察官を毎年任命いたしまして、そうしてその査察官のもとにおきまして少なくとも毎年二回役場――ただいまの制度で申しますと執行吏役場におもむきまして、事件の処理、会計の検査ということをいたしておるわけでございます。  なお、その他常時監督すべき事項があれば、執行吏に対していろいろの注意をしていくという形で監督しているわけでございますが、具体的には、執行吏のやり方等につきまして裁判所のほうに陳情と申しますか苦情と申しますか、そういうものがあれば、すぐ取り調べて、注意をすべき点があれば注意するという方向でやっているわけでございます。
  271. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 執行吏は、地域によって非常に偏在しているのじゃないかと思うんですがね。特定の地方裁判所にはあまりいない。持に、老齢でなくなってしまうと、あとがなくて、非常に少ない。ことに支部の場合にはいないところがずいぶんあるのじゃないかと思うんです、どの程度であるかちょっとはっきりしませんけれども。  それで、あれですか、執行吏は、地方裁判所の監督なんで、ほかの地方裁判所の管内には行けないことになっているのですか。あれはどういうんですか。
  272. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 御指摘のように、執行吏が偏在しておると申しますか、ある地方では十分に能力のある執行吏に欠けるという現状が出ておることは確かでございます。老齢者があるいは執行吏代理を使って仕事をしておる。そういたしまして、執行吏がやはり規則の上でその属しておる地方裁判所の管轄区域外に出て仕事をするということは原則上許されないことであると思います。
  273. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 査察官というのは、だれがなるんですか。
  274. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) これは裁判官会議の中で指名されました裁判官がやっておりまして、現状といたしまして、大体、所長のほか、執行部の長というような人がやっておる事例が多うございます。
  275. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 執行吏になる人の前歴や何かはわかったのですが、どういうふうにして執行吏になるんですか。採用試験か何かやるんですか。どういうふうにしてなるんですか。
  276. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) ただいまの現行法のもとにおきましても、任命資格がございます。大体、短期大学卒業程度ということが任命資格になっております。それで、一定の修習を経て試験をして採用するというのが任命規則の上では原則になっておりますけれども現実の問題といたしましては、裁判所の書記官からなるという事例が多いわけでありまして、こういう人につきましては試験を免除する制度になっておりまして、試験なくして採用されて執行吏になっておるという事例が多いわけでございます。
  277. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 執行吏代理はどうなんですか、採用試験は。
  278. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 執行吏代理につきましても、執達吏規則におきまして、一定の任命と言ってはおかしいのでございますけれども執行吏代理になる資格がきめられておるわけでございます。これにも一から四までの資格があるわけでございますが、実際は、執達吏規則第十一条の第四で裁判所が「適当ト認メタル者」ということでなっておる者が多いのでございます。
  279. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 執行吏執行吏代理と二つを設けてあるのは、どういう理由なんですか。持に代理なんか設けなくて、執行吏にみんなしたらいいじゃないかと思うんですが、これはどういうわけなんですか。
  280. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 執行吏代理は、御承知のとおり、現在では執達吏規則に基づいているわけでございますが、執達吏規則を見ますと、「自己ノ責任ヲ以テ左ニ掲クル者二臨時其職務執行ヲ委任スルコトヲ得」ということで、どういうことを予想したのか、現在におきましてこの執達吏規則の立案の趣旨というものを的確に把握しかねるのでございますけれども執行吏が何らかの差しつかえによってみずから執行を行なうことができないとか、あるいは、事件が非常に多くなったというような場合に、臨時にその職務執行を委任するというのが本来の制度のたてまえであったと思うのでございます。
  281. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、執行吏代理というのは、本来は臨時のものだったのでしょうけれども、いまでは継続してずっと長い間やっておるんですか。長い人は何年くらいやっておるんですか。
  282. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 調査部長から御説明がありましたように、これは本来は臨時的な制度であったわけでございますが、これが現実としては恒常的なものとして使われておるという姿が出ておるわけでございます。それはなぜかという御質問でございますが、これはつまり執行吏の補充がつかないところを代理でまかなってきたというのが実情でございまして、そうして、たびたびそういう人に仕事をさせておれば、それを臨時だからといってすぐやめさせてしまうというわけにもいかないので、恒常的なものとして使って執行吏の手の足りないところを補ってきたというのが実情でございます。
  283. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これも裁判所の職員になっているんですか。
  284. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) これは、法制の上では、執行吏が自分の雇い人として使っている人という私法上の関係になっておるわけでございます。しかも、それが執行吏の代理として執行行為、公権力の行使ができるという点にこの制度のおかしさがあったわけでございます。それも一時ということであればあるいは許されたのかもしれませんけれども、それが恒常的なものとして使われてくるということになりますれば、どうしても法制上改めなければならない、それが今度の法案の一つの大きな骨子になっておるのじゃないかと思います。
  285. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 公務員なんですか。公務員じゃないんですか。  それからいわゆる公務員でなくて公権力の行使をやるというようなことがあると、涜職の規定の適用なんかどういうことになるんですか。
  286. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) ただいま申し上げましたように、執行吏の私法上の雇い人でありますから、公務員と申すわけにはいかないわけでございます。したがいまして、公務員に適用される各種の法律というものは、この執行吏代理には適用がないということになります。
  287. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、執行吏代理に対する監督権というものはないわけですか、裁判所が。
  288. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 直接の監督権はないわけでございまして、執行吏を通じての間接的な監督権、それから先ほど執行吏代理として認めるか認めないかという点で裁判所が認定するという点がございましたが、これを取り消すということもあり得るわけでございまして、そういう意味での監督権はあるいはあるということになるかもしれません。常時監督権があるかということになりますと、これは執行吏を通じてということになろうかと思います。
  289. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 執行吏代理というのは、どういう人が多いんですか。年齢的にはどうだとか、経歴がどうだとか、いろいろありますね。収入は代理のほうは千差万別だと思いますが、大きな裁判所にしかおらないんでしょう。小さなところにはおらないんですね。
  290. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) まず、執行吏代理の経歴から申しますと、裁判所の職員であった人、それから法務、検察の職員であった人、その他公務員、会社員等も相当ございまして、千差万別ということになろうかと思います。  年齢等も、大体三十五から六十五くらいまで同じような割合で人員が分布されておりまして、年齢も千差万別であります。  それから収入の面で申しますと、やはり多い人は七、八万、少ないところで二、三万というところで、平均はちょっといま……。
  291. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それは、多い人と少ない人とありますから、平均を出したってあまり意味がありませんから、あれですけれども、そうすると、ある特定の事件に限って、この人を執行吏代理に頼むというか、採用するということをやって、その場合、一々裁判所へ通知するんですか、あるいは、承認を求めるんですか、そこがちょっとよくはっきりしなかったんですけれども。それで、その事件が終わってしまえば、もうその人にやめてもらってもいいわけだと思いますがね。どういうふうになっているんですかね。
  292. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 本来は、臨時にこういう人を代理に使ってもよいかどうかということで裁判所の許可を得てやる。そして、その事件が終われば、その人は執行吏代理としての職を離れるということが本来の制度であったんだと思います。ところが、先ほど申しましたように、実情といたしましては、一度認可されますと、特に解任をしない限り、承認を取り消さない限り、執行吏代理としての仕事をしておるということでございます。
  293. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 裁判所の承認を得てから執行吏代理になるんですか。あるいは、執行吏代理として執行代理が頼んじゃって、そして仕事をしちゃって、あとから、でも追認というような形で認めることもあるんですか。そこはどうなんですか。
  294. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 執行吏がありましての代理人としての執行吏代理でありますから、執行吏がなければ執行吏代理もないわけでございます。追認というようなことはございません。あとから認めるということはないわけでございます。
  295. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 一々その人を執行吏代理にしたいということを裁判所へ書面か何かで出すんですか。出して、裁判所でどうするんですか。許可するのか何するのか知りませんけれども、認めて、それからその人は、その執行吏代理としての特別な、身分証明書か何か知りませんけれども、そういうのを持つんですか。
  296. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 先ほど申しました裁判所に対する許可の申請は、やはり書面で出しまして、そして、執行吏代理としての資格が認められますと、その者には執行吏と同じような、証票を持たせるわけでございます。
  297. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そのほかに、執行吏役場に事務員がいるわけですか。まあいないところといるところとあるでしょうけれども、これはどの程度あるわけですか。
  298. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 執行吏役場には事務員がおるところとおらないところとあるわけでございますけれども、全国で約三百人の事務員がおります。
  299. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この事務員は、だれが雇っていることになっているんですか。
  300. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 執行吏が雇っているということになります。
  301. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 執行吏個人が雇っているわけです。
  302. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) さようでございます。ただ、合同役場の形をとっておるところでは――しかし、合同役場と申しましても、これは法人で何でもないわけでございまするから、その契約関係は共同で雇っておるということになろうかと存じます。
  303. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、執行吏がなくなっちゃうと、事務員というものも、あるいは執行吏代理というものも、何といいますか、仕事がなくなっちゃうというか、職を失っちゃう、そういう形になっちゃうんですか。執行吏代理は別なんですか。執行吏がいなくなっても執行吏代理のあれだけは残っているんですか。
  304. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 契約関係は、先ほど申しましたように、個人対個人の契約でございますから、執行吏がなくなりますると、その契約関係は消えてしまうわけでございます。執行吏代理につきましても、事務員につきましても、同じであるわけでございます。しかし実情といたしましては、後任の執行吏が従来の執行吏代理あるいは事務員を引き続いて使っていくというのが大部分実情でございます。
  305. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 話がちょっと違うんですけれども、公証人ですね、公証人と執行吏と比べると公証人からおこられちゃうんですけれども、公証人の場合には、あれですか、監督権というものは、裁判所とか法務省とか、どこかにあるんですか。これは全然ないんですか。
  306. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 公証人は、法務大臣が監督するということでございます。
  307. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 公証人制度ということに関連しての改正なり何なりという点は問題ないわけですか、いまのところ。
  308. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 公証人制度につきましては、現在のところ、根本的に制度改正するという考え方はございません。
  309. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまの事務員の問題ですけれども、公証人役場も、同じように事務員が個人の公証人の採用みたいになっている。で、公証人の人がかわったりなくなったりすると、事実上引き継ぐことはあるんでしょうけれども、その雇用契約はきわめて不安定なんじゃないんですか。公証人役場もそうだし、それから執行吏役場のほうも、事実上いろいろ救ってはいるんでしょうけれども、不安定なたてまえになっているんじゃないですか。
  310. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) その点は、御指摘のとおりでございます。
  311. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そこで、今度のこの法案によって、まず執行吏の三百二十五名は、これは全部執行官になるんですか。
  312. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 執行吏は、この執行官法の附則の規定によりまして全部自動的に執行官になることになっております。
  313. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 執行吏代理はどうなんですか。
  314. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 今回の法案におきましては、執行吏代理の制度廃止するというのを原則といたしております。しかしながら、現在、先ほど来お話のございましたように、相当多数の者が執行吏代理の仕事をしているのが実情でございますので、これらの者を執行官法の施行によって全部整理するということはとうてい困難なことでございますので、執行官法の附則におきまして、当分の間は従来と同じような代理の制度を認めていこうという経過措置を講じているわけでございます。
  315. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 事務員の人はどうなんですか。
  316. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 事務員につきましては、現在におきましても、執達吏規則執達吏手数料規則、いずれの面でも法律の表面には出ていないわけでございます。これは手数料制でございまして、しかも役場制度をとっておりますので、先ほども申し上げましたが、小さな私企業のような形になっておりますので、執行吏の行ないます事務のうち何か補助的な事務につきまして必要があれば事務員的な職員をその役場に置くということは、当初から予想されていたと思われるのでございます。したがいまして、事件数の少ない執行吏役場におきましてはさような事務員は必要としないわけでございますが、事件数の多い役場ないしは合同役場というようなところでは、事務員を直いているのが実情でございます。その点につきましては、今回の法案におきまして、役場制度廃止いたしまして、執行官原則として裁判所の構内に勤務するということにいたしてあるわけでございますが、手数料制はなお残っているわけでございまして、したがいまして、その補助的な事務につきましては手数料収入の範囲内において執行官がやはり補助者を自分で雇って使っていくという面が残されているわけでございまして、新しい執行官法におきましても、法律の表面には従来どおり事務員のことは触れておりませんけれども、実態は執達吏規則の当時と同じような形が続いていくというふうに考えているわけでございます。
  317. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 俸給制執行官制度が完全にできると、そうすると、執行吏代理なりあるいは特にこの事務員は、全部要らなくなっちゃうですか。
  318. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) さようなことになると思います。そして、それらの事務裁判所事務官等が補助する、こういうことになると思います。
  319. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これは変な話なんですけれども執行吏制度執行吏制度と言っているんですけれども、規則を見ると執達吏規則というのが出てくるんですけれども、これはどういう意味ですか。
  320. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 規則自体は、明治二十三年に制定されました執達吏規則、報達吏手数料規則でございます。執行吏ということになりましたのは戦後でございまして、裁判所法が制定されましたときに、従来執達吏と言っておりましたのを執行吏ということで裁判所法の中に規定いたしましたので、従来の法令の中で執達吏となっておりますのをその際執行吏と読みかえるという法令上の措置を講じているわけでございます。
  321. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、読みかえるのだから、これは執達吏規則でなくて執行吏規則ということになるのですか。規則としては執達吏規則ということになるのですか。
  322. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 法令の題名はそのままでございまして、内容部分だけを読みかえると、こういうこと、になります。
  323. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 わかりました。  そこで内容に入るのですが、内容に入る前にお聞きしておきたいのは、執行官法の基本の強制執行法や競売法の改正は、これは現在どういうふうになって、どういう方向に進むことになるわけですか。
  324. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 強制執行制度ということになりますと、いま御審議いただいております執行吏ないしは執行官制度と同時に手続関係も整備する必要があるわけでございまして、その点はいま稲葉委員から御指摘のございましたとおりでございます。そこで、法務省におきましても、制度問題を法制審議会に諮問いたしますと同時に、手続法関係も諮問をいたしているわけでございます。そこで、その両者が並んで検討されてまいったわけでございますが、検討の段階におきまして、やはり執行機関の制度をまずきめなければ手続のほうがきめにくい。これは非常にもっともな考え方だと思いますが、まず機関の組織というものを一応固めて、それを基礎にして手続法の整備をしていこうという考え方に基づきまして、法制審議会におきましても制度のほうを先に検討が進められているという状況でございます。  そこで、現在、暫定措置とは申しながら、当面改正し得る面をこの執行官法で手当ていたしますので、この執行官法が制定されました暁には、手続法につきましてもさらに検討を進めていきたいというふうに考えているわけでございます。
  325. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 大体の目安はどういうふうになっているのですか、大ざっぱなところで。
  326. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 手続法につきましては、ただいま申し上げましたような段階で進んでおりますので、どのくらいで成案を得ることができるかということは、ちょっと私から現在ではまだ申し上げかねる次第でございます。
  327. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 見方によっては順序が逆じゃないかと思うんですがね。手続法というか、強制執行法なり競売法の改正をきちんとして、それに並行して執行官制度というものを合理的なものにするというなら話がわかるとも言えるんですが、これだけを先にやってしまって、あとの重要なところを残してしまうのも変な話だと思うんですが、それはそれとして、きょうは時間の関係でこれで終わって、また次にすることにいたします。
  328. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 本日はこれにて散会いたします。    午後四時五十六分散会      ―――――・―――――