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1966-05-26 第51回国会 参議院 法務委員会 第21号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十一年五月二十六日(木曜日)    午前十時二十六分開会     —————————————    委員異動  五月二十五日     辞任         補欠選任      山高しげり君     市川 房枝君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         和泉  覚君     理 事                 木島 義夫君                 松野 孝一君                 稲葉 誠一君     委 員                 後藤 義隆君                 斎藤  昇君                 鈴木 万平君                 田中 茂穂君                 中野 文門君                 大森 創造君                 亀田 得治君                 藤原 道子君                 柳岡 秋夫君                 市川 房枝君    国務大臣        法 務 大 臣  石井光次郎君        国 務 大 臣  安井  謙君    政府委員        警察庁保安局長  今竹 義一君        法務省民事局長  新谷 正夫君        法務省刑事局長  津田  實君        法務省矯正局長  布施  健君        法務省保護局長  本位田 昇君        厚生省社会局長  今村  譲君        労働省婦人少年        局長       高橋 展子君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所事務        総長       岸  盛一君        最高裁判所事務        総局家庭局長   細江 秀雄君    事務局側        常任委員会専門        員        増本 甲吉君    説明員        内閣総理大臣官        房参事官補    田中  穣君        警察庁保安局防        犯少年課長    今野 耿介君        厚生省環境衛生        局環境衛生課長  柳瀬 孝吉君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○検察及び裁判運営等に関する調査売春対策に関する件) (少年法改正に関する件) ○商法の一部を改正する法律案内閣提出、衆議 院送付)     —————————————
  2. 和泉覚

    委員長和泉覚君) ただいまから法務委員会を開会いたします。まず、委員異動について報告いたします。昨日、山高しげり君が委員を辞任され、その補欠として市川房枝君が委員に選任されました。
  3. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 本日は、まず、検察及び裁判運営等に関する調査を議題とし、売春対策に関する件について調査を行ないます。市川君。
  4. 市川房枝

    市川房枝君 売春対策に関する件についてはいろいろな問題がありますが、きょうはトルコぶろの問題をまっ先にまず伺いたいと思います。  私どもは、婦人議員の有志と、民間の各種婦人団体で、五月二十四日に売春防止法制定十周年の記念の全国集会を開いたわけでありますが、その際に、各地にトルコぶろ申請が出ており、それに対する反対運動報告がございました。そこで、大会の決議の一つとして、トルコぶろ等赤線復活とみなされる業態を禁止されたいということを政府当局に要求することにきめてそれぞれ陳情したわけでございますが、トルコぶろ厚生省が所管しておいでになるところでありますが、きょう厚生大臣おいでいただけないのはたいへん残念でしたが、環境衛生課長おいでいただいておりますので、課長はこの私どもトルコぶろ赤線復活なんだという考え方についてどうお考えを持っていらっしゃいますか、まずそれを伺いたいと思います。
  5. 柳瀬孝吉

    説明員柳瀬孝吉君) トルコぶろ問題につきましては、いろいろと健全な浴場ということの域を脱した経営をしているというようなことも実際問題としてございまして、確かに問題があるわけでございますが、現行法におきましては、トルコぶろ公衆浴場法の中でいわゆる一般浴場と同じように衛生面規制ということが内容になっておりまして、衛生面から不衛生にならないようなというふうな必要な措置が行なわれるように規制がされておるわけでございまして、風紀風俗関係の問題につきましては現行浴場法におきましては若干規定がございますが、営業者は「風紀に必要な措置を講じなければならない。」とございますが、これは、そういう規定が入りました時期の考え方は、まだトルコぶろというようなものが現在のようなものがございませんで、男女混浴というようなものをさせないというふうな程度意味であったわけでございます。  ただ、その後、トルコぶろというようなものができてまいりまして、これをその法令に基づく措置としてどこまでのことができるかということを検討いたしましたわけでございますが、その結果、一昨年の五月の終わりに通達を各県に出しまして、その規定ででき得る必要な措置業者に課する内容というものはこういう程度のものであると、たとえば、浴室に窓をつけなければいけないとか、営業者従業員に不健全な服装をさせないように注意をしなければならないという注意義務というようなことを通達したわけでございます。赤線復活というようにあのトルコぶろの中で場所を提供して売春が行なわれるというようなことはあまりないんじゃないか。むしろいろいろなわいせつ行為とかあるいはその他の行為が行なわれておるんだと思いますが、その面はひとつ警察庁のほうでよくお調べになっておられるようでございますから……。
  6. 市川房枝

    市川房枝君 いまお話しの三十九年の五月、これは私が持っている資料で見ますと十二日ですが、都道府県知事に対して厚生省環境衛生局長から公衆浴場における風紀の問題について通牒出しておられますが、これは、例の深夜喫茶を禁止するための法改正国会で行なわれたときにトルコぶろが問題になりまして、そうしてトルコぶろ取り締まり警察厚生省とでお話し合いになって、結局、厚生省がやるんだ、こういうことでこの通牒をお出しになることになったんだと記憶しているんですが、この通牒によってこまかい規定地方府県条例制定をしておりますかどうか、条例制定している県は幾つぐらいあるか、それをちょっとお伺いいたします。
  7. 柳瀬孝吉

    説明員柳瀬孝吉君) あの通達は、実は警察庁との間でお話しをして、トルコぶろ問題は厚生省がやるんだという意味ではないんで、これは何らかの法的措置が必要であればひとつ検討をしてやらなければいけないんじゃないか、しかし、現行法範囲内でできるのはどの程度までできるかということを早急に検討して、それはすぐ実施しようということで、現在の公衆浴場法範囲内でできる内容はどうかということで検討して、その結果出されたのがあの通達でございまして、だから厚生省がみんなあれで責任が持てるというふうな意味ではないわけでございます。  そこで、条例制定しておりますのは、全国でまだあまり多くないのでございますが、東京都、埼玉県、その他あと一、二県あったかと思いますが、まああまり数は多くないわけでございます。ほかの府県でもいろいろと条例制定しようという動きがある程度あったわけでございますが、いろいろ国会のほうでも法律改正につきまして問題になっておりますので、その成り行きを見てというふうな県が相当あるわけでございます。
  8. 市川房枝

    市川房枝君 いまの課長の、厚生省責任を持ったわけじゃないということについて、私どもは外部の者ですから最後的なことはよく知りませんけれども国会における論議、それからあと経過を私どもは比較的よく承知しているわけであります。それで、実は、通牒なすった内容もですね、これはまあはっきり申し上げていいと思うんですけれども、自民党の紅露みつさんと私と二人が厚生大臣に——そのときは小林さんです、参議院議員の、ここにおいでになっていないけど。小林さんが大臣でいらして、お目にかかってお話をして、風紀という以上は、個室の中で女を使えばそれは風紀の問題は起こるにきまっているのだから、やっぱり女を禁止するということが当然入るべきでないのでしょうかというお話をして、小林大臣も、それはそう思うと、だからそれをひとつやめるように何とかしましよう、こういう御意見で、私どもたいへん喜んで、それから環境衛生局長にお目にかかったら、とんでもない、そんなことはできないんだということで通牒となって出たものになっているわけです。その当時からはたしてこの通牒が励行されるのかどうかと私ども心配をしておったわけですが、大阪市にはトルコについて特別な条例がありますね。それがこの間裁判になったわけなんですが、その経過をちょっと教えていただきたい。
  9. 柳瀬孝吉

    説明員柳瀬孝吉君) 大阪におきまする公衆浴場法に基づく条例では、一般公衆浴場については距離制限というものがございまして、原則として二百メートル以内接近して浴場を認めるということをしないように、まあ例外的にもっと近くても認めなければならぬような場合もあるわけでございますが、そういう距離制限があるわけでございまして、その距離制限特殊浴場であるトルコぶろについても適用ができるんじゃないかということで、大阪においてはそれを適用したわけでございます。この点につきましては、厚生省考えとしては、まあ一般浴場の場合には、いろいろ一般公衆が不特定多数の人が体をきれいにするために浴場へ入るということで、その距離制限をしない場合には乱立をしてそのために過当競争を起こして浴場衛生措置というものが保持できなくなるといけないという趣旨をもってそういう規制がされておるわけでございますが、特殊浴場の場合には、そういう一般浴場と事情が違いますので、距離制限適用はむずかしいのじゃないかという考えを持っておったわけでございます。しかし、府県条例に基づいてそういう措置をとられましたもので、裁判の結果、第一審で、それが距離制限というものはトルコぶろには適用されないという趣旨であるという判決が下ったわけでございますが、私どももそういう見解でございます。
  10. 市川房枝

    市川房枝君 いまの大阪の場合、市が法令規定されていないものを条例に入れたわけですね。そういうときには本省にも連絡があったわけだと思うのですが、厚生省はその指導はどういうふうになすっていますか。
  11. 柳瀬孝吉

    説明員柳瀬孝吉君) 条例法律に基づいてそれぞれの府県なり市なりが、制定されるわけでございますが、大阪の場合に限らず、一般浴場特殊浴場というものをはっきり分けて書いている府県と、それからそういうような書き方をしていない府県とあるわけでございます、府県条例がですね。そこで、東京都の条例の場合では、一般浴場基準はこうである、特殊浴場の場合にはこうであるというふうに書き分けてあるわけでございますが、そうでない府県が多いわけでございます。そうでない場合にも、条例解釈上、距離制限というのは一般浴場にだけ適用されるべきものであるというふうなことでございまして、その辺がまあ条例に優先するのが法律でございますから、この法律解釈としてこれは適用するかしないかという問題になると思います。
  12. 市川房枝

    市川房枝君 いまのその問題について大阪トルコぶろ業者から聞いたところによりますと、大阪市にトルコにも距離制限をつける条例をつくらせたのは業者が陳情したのだと言います。東京のように一カ所に密集しないで離れているということが風紀についてもいいと言います。今度の訴訟についても大阪市のほうが負けたわけですが、それに対して業者側は市に控訴するように頼んだそうです。しかし、市はどうせ負けるからもうしないということで放棄したんだと、こういうことでございます。そういうことはお聞きになっておりますか。
  13. 柳瀬孝吉

    説明員柳瀬孝吉君) 実はその逆のように聞いておりますのですが、トルコぶろがどんどん申請が出てきて乱立すると困ると、したがって、距離制限というものでひっかけられて建築制限できるものならそれで制限しようという意味大阪市のほうがこの適用をやってきた。ところが、法律趣旨からいいますと、そうではない。一審で負けた。そういうことになると、今後トルコぶろ建築許可願いが出てきたときに、距離制限にひっかけてこれを押えるということはむずかしくなる、こういうような結果になるのじゃないかというふうに聞いておりますので、業者のほうがむしろそれを積極的というのは、ちょっと私聞いておりませんのでございます。
  14. 市川房枝

    市川房枝君 私が聞いたのは大阪のある一人の業者から聞いたのですから、あるいは全体の意見ではないかもしれません。  そういう問題が起こるのは、大体、公衆浴場法の中に一般公衆浴場と、それからいまのトルコぶろのようなものを二つ一緒にしているところに問題があると思うのですが、別に不思議にもお思いになりませんか。
  15. 柳瀬孝吉

    説明員柳瀬孝吉君) 先ほども申し上げましたように、一般浴場トルコぶろというものが一緒に同じ法律規制されているのはおかしくないかという御質問でございますが、浴場という形態のものは不特定多数の人が入れかわり立ちかわり使用するわけでございますから、そういう施設については衛生的な規制が必要であるということがこの法律趣旨でございます。その意味では、どういう形の浴場であろうが、砂ぶろであろうが、あるいは蒸気ぶろであろうが、熱気ぶろであろうが、一般ふろであろうが、その意味では共通している問題で、やはり衛生的な規制というものは同じようにかけなければいけない、そういう趣旨一つ法律の中ですべて適用されておるわけでございます。
  16. 市川房枝

    市川房枝君 公衆浴場法制定されたときにはトルコぶろなんかの出現というものは考えなかったんだ、自然発生的に出てきて、ついそのままになっているというのが現状だと私ども考えておるわけなんですが、その厚生省立場はどこまでも保健衛生立場ということなんで、そういうトルコ監督保健所がなすっているわけですね。それで、私どもが聞いているのでは、大体保健所は忙しくてなかなかトルコなんかの監督というか検査なんかには一年に一回なんてとても行ってやしないんだ、たまに行くとしても、要するにおふろのお湯がよごれていないかどうか見て来るだけであって、風紀がどうであろうと、そんなことはわれわれの関係したことじゃないと、こういうふうなんだということを聞きますけれども現状監督の具体的な方法というのはどうなっているのですか。
  17. 柳瀬孝吉

    説明員柳瀬孝吉君) 公衆浴場法は、本来の立法の趣旨では衛生的規制ということであったわけでございますが、トルコぶろ等風紀風俗問題が非常に社会問題として大きな問題となってきましたので、公衆浴場法の中でできる最大限の風紀風俗面の問題の処理というのはどこまでできるかということで、相当拡大解釈をして、公衆浴場法の第三条の営業者が守るべき風紀に必要な措置ということを法律解釈上広げられるだけ広げた内容のことを公衆浴場法に基づく条例制定して、その条例の執行といいますか実施については都道府県知事あるいは保健所を通じてその指導を行なうというふうな形で、したがって、その限られた範囲内の問題につきまして、各保健所においては、トルコぶろ業者指導、これは、講習会といいますか、集めて指導する場合もありますし、個々のトルコぶろに行って指導する場合もございますが、そういう指導を重ねてきておるわけでございます。
  18. 市川房枝

    市川房枝君 警察からおいでいただいておりますが、警察のほうとしては、トルコぶろに対して、直接間接といいますか、どういう関係を持っておられますか。
  19. 今野耿介

    説明員今野耿介君) 警察庁立場といいますか、警察立場といたしましては、結局、いまお話に出ておりますような行為があるというような問題があった場合に、犯罪捜査といいますか、あるいは内偵というような関係において接触するということになろうかと思うわけでございます。したがって、現在の公衆浴場法による規制のもとにおけるトルコぶろというものに対しては、いまお話しのようなことがあった場合に、関係者調べて、それによってそこがたとえば管理売春というようなことが行なわれておる、あるいは売春周旋というようなことが行なわれておるというような聞き込みから入りまして、その犯罪捜査という立場でこれにアプローチしていくということになろうと思います。
  20. 市川房枝

    市川房枝君 平生は直接は関係ないわけですね。監督厚生省だけですね。そうすると、何か犯罪があったということがはっきりしないと調査できないですね。具体的にその辺はどうなんですか、もう一度……。
  21. 今野耿介

    説明員今野耿介君) これは前にもちょっと申し上げたかと思うのでございますけれども、結局、そういう風評がまず立ちまして、あそこではそういうことが行なわれておるということになりますと、警察としては、そこに出入りするまず男のほうに目を向けまして、そうしてそれのたとえは家までついて行って、一応どこのだれであるということを確認する。そういうようなことが何十人か行なわれまして、そしてそれらの人々について一応話を聞く。そうしますけれども、なかなか正直にお話しいただくというようなことも少ないということもございますし、また、そういう事実がないという場合もあるわけでございますから、結局、そういった何十人かの男の立ち入った者を調べてみましても、実際犯罪の容疑が明らかになるという意味で役に立つ資料が得られる者は数人ということになるわけでございます。しかしながら、そういうことで一応管理売春であるとか周旋であるというふうな心証が得られた場合にはじめてそれから業者のほうに入っていくというプロセスに普通なるわけでございます。
  22. 市川房枝

    市川房枝君 警察のほうは、トルコにおける犯罪捜査の表が、これは衆議院の地方行政のほうにお出しになったと思うのですが、ございますね。
  23. 今野耿介

    説明員今野耿介君) はい。
  24. 市川房枝

    市川房枝君 その調査の表を拝見すると、私どもはずいぶん件数が多いと感じたわけですけれども、それをできるだけ具体的に説明していただけませんでしょうか。
  25. 今野耿介

    説明員今野耿介君) ここに前に国会のほうに提出いたしました資料がございますが、これは昨年の三月から九月までの間にトルコぶろについて全国一斉に取り締まりを行なった数字でございます。  これによりますと、去年の八月現在で全国で五百四十四のトルコぶろ営業浴場がございまして、そのうち百三十六軒におきまして何らかの違反の事実があったという数字が出ております。  これによりまして検挙した被疑者の数は、児童福祉法違反であるとか、職業安定法違反であるとか、あるいは労働基準法違反売春防止法違反風俗営業等取締法違反公衆浴場法違反食品衛生法違反というようなことで、全部ひっくるめまして三月から九月までの間に取り締まりの結果二百五十八名の者を検挙いたしております。  なお、この取り締まりによりまして、百二十六軒のいまの問題のあった浴場につきまして六百四十六人の年少者が見出されております。十九歳というものがその六百四十六名の中に三百一名、それから十八歳というのが百三十一名、十七歳百七十四名、十六歳三十三名、十五歳が七名、これは主としてミストルコということでございますが、こういうような数字が一応出ております。
  26. 市川房枝

    市川房枝君 いまの犯罪のその件数は、さっきおっしゃいましたように、トルコに行った男の人たち調べて、そしてそこのトルコ違反事実があるということがわかってからお調べになっているわけですね。そうすると、これは実際にもっとたくさんあるということが予想できるわけなんですが、警察は、こういう業態がいまの浴場法取り締まりのもとであることについて、どういうふうにお考えになっていますか。
  27. 今野耿介

    説明員今野耿介君) なかなか微妙な問題があると思うのでございますけれども、結局、そういうふうな違反を犯した者が業者として何らかの処分を受けるというような形、つまり、刑事上の処分のほかに、何らかの、たとえば営業ができなくなるとかいうような処分が講ぜられるようなことがあれば、業者の自粛というような面におきましても非常に効果的ではなかろうかというふうなことを考えておるわけでございます。
  28. 市川房枝

    市川房枝君 それだけでいいのかどうか、あと保安局長がいらっしゃるそうですから伺うことにいたします。   労働省婦人少年局長おいでいただいているのですが、婦人少年局で、いわゆるミストルコといいますか、トルコぶろで働いている女の人たち調査をなすったと伺っているのですが、どんな状態なのか、御報告を願いたいと思います。
  29. 高橋展子

    政府委員高橋展子君) お答えいたします。  ミストルコの生活の実態につきまして若干の調査を試みたわけでございます。これは、三十九年に一度いたしまして、さらにまた四十年にいたしたのでございますが、三十九年におきましては東京都内で行ないました。四十年の末には東京を除きます大都市の存在する九府県で行なったわけでございます。しかし、いずれもその調査規模はたいへんに小さなものでございまして、事例的な調査にとどまったわけでございます。  その結果につきまして概略を述べさしていただきますと、その第二回の調査を九府県で行ないましたものは、これは調査対象が六十一名のミストルコでございまして、私ども調査の目的といたしましては、どのような労働条件で働いているかという点に重点を置いたわけでございますが、同時に、ミストルコになるまでの経歴、あるいは学歴年齢等のいわゆるミストルコの属性のようなものも調べたわけでございます。で、この調査はいま申し上げましたようにきわめて規模が小さいのでございまして、この結果をもって全国ミストルコの動向として御報告申し上げることははばかられるのでございますが、この調査でとらえた限り、多少の観察ができたかとも思います。また、このように小さな規模のものでございますから、主としてこれは婦人少年局で今後行政を進めていく上での参考に供するという役割りをあまり出ないものではないかと思います。そのようなことをお断わりして簡単に申し上げます。  年齢といたしましては、現在従事しております年齢は十九歳から三十六歳にわたっておりました。ただ、ミストルコに初めてなったときの年齢となりますと、十七歳という者がおりました。十七歳でミストルコになるということは、労働基準法規定の上から言いますと違反の疑いがあるわけでございますが、この調査において面接した者は十七歳の者はすでにいなかったわけでございます。  それから配偶関係は、未婚者過半数でございます。また、既婚者の中では、有夫者が一番多いのでございますが、離婚したという者が相当の数になっております。  また、学歴等につきましては、中学卒が約半数でございます。それから学校を卒業して直ちにミストルコになったというものは皆無でございました。まず学校卒業通常職業につきまして、その後転職の過程におきまして、二度目の転職先としてミストルコを選んだもの、あるいは三度目の転職先としてミストルコを選んだものという経過がうかがわれます。  それからまた、その当初の、学校を出てすぐの職業といたしましては、通常女子が就職する職種でありますところの会社事務員工員等がかなりの数を占めていたわけでございます。それが二度、三度の転職のうちに次第に風俗営業的な分野に就職しているということになっております。  それから最終的にミストルコの職場を選んだ動機といたしましては、やはり他の職業に比べて収入が多いということを理由の第一にあげていたようでございます。なぜそれでは収入の多い職業を特に選んだかということにつきましては、家計補助のためというものが過半数でございます。家計補助のために収入の多い職業を選ばなければならない、そのために手っとり早くミストルコ職業を選んだという、このような経過がうかがわれます。  また、ミストルコヘの就職の経路といたしましては、これは職業安定機関のような公の機関はもちろん通っておりませんで、知人の紹介、新聞広告が過半数でございます。  このようなのが六十一名のおおよその姿でございますが、ミストルコ労働条件といたしましては、労働時間につきましては、大体八時間から九時間までの間の拘束時間のものが多いようでございましたが、その中で客に接する時間というのは比較的少なくて、二時間から三時間ぐらいという程度のが一番多いようでございました。それから、時差勤務と申しましょうか、交代制をとっているものが多いようでございました。また、休日は、取りきめというようなものはないまでも、慣行としてきめられた休日があるということがございましたが、休日につきましては基準法の線よりもやや下回るような状態でございました。  収入につきましては、これは店から賃金としてもらっているもの、それから客からのチップだけで収入としているもの、店からのものと客からのものとを合わせたものとの三つの様態があるわけでございますが、いずれにいたしましても月間の収入が四万円から五万円という程度のようにうかがわれました。  また、仕事の内容といたしましては、入浴に関係したもののほかに、マッサージを行なう、頭を洗ってやる、ひげそりを手伝う、つめ切りをする、浴室のお掃除をする、客のズボンのプレスをする、このようなことが言われております。  また、就業時のミストルコの服装でございますが、ショートパンツにブラジャーをつけているというようなものが多いようでございます。また、ノースリーブのブラウス、それから半袖の上着を着ているものもありました。それから水着というものもありました。  大体以上のようなのが実態でございましたが、ミストルコの意識といたしましてこの仕事を今後も続けるのかという問いに対しましては、九割近くの者が続けたいと、このような意思を表明しておりました。  以上、概略でございますが、お答え申し上げました。
  30. 市川房枝

    市川房枝君 いまの婦人少年局調査を伺いますと、そんなに悪いこともないというような調査にもなるのですが、ただ、年齢が十九歳から三十六歳、最初になったときに十七歳のがあり、それがまあ労働基準法違反だということでしたけれども、さっきの警察庁違反件数のお調べのところでは、十五歳が七名、十六歳が三十三名、十七歳が百七十四名、十八歳が百三十一名ということになっておるのですが、これと比べると、たまたまそういう年の多いのばかりにぶつかったということになるかもしれないのですけれども、これは婦人少年局調査権を発動して調査なすったということですか。
  31. 高橋展子

    政府委員高橋展子君) この調査にあたりましては、実は労働基準局と同時に調査をいたしまして、労働基準局のほうはもちろん基準法の施行という点から行なったものでございますが、私どものほうは、調査権というよりは、一般調査といたしまして受け入れ側の協力を求めて行なったと、このようなことでございます。
  32. 市川房枝

    市川房枝君 その基準局の調査というのは、あなた方の調査と違いますね、一緒調査したとおっしゃっているけれども。そうすると、結果は同じですか。
  33. 高橋展子

    政府委員高橋展子君) 基準局が、同時といいますか、やや時期は違いますが行ないましたのは、対象の業者は違います。しかし、個所数等はほとんど同じでございます。また、基準局が調査と申しますか監督したわけでございますが、その監督実施の結果といたしましては、傾向といたしましてはほとんど同じようでございます。たとえば年少者が三名発見されたわけでございますが、この三名は、三名とも、いわゆる営業部門と申しましょうか、事務その他についておりまして、事業所としてはトルコぶろでございますが、ミストルコではなかったというようなことでございます。それから、いま申した労働時間等につきましても、同じような結果でございました。
  34. 市川房枝

    市川房枝君 一緒調査したということは、似寄っ器た時期に同じ問題を取り上げたということなんですね。同時に調査したというわけではないのですね。
  35. 高橋展子

    政府委員高橋展子君) 御指摘のとおりでございます。一緒に行って同じところを見たということではございませんで、手分けをして、基準局は監督を強力に行ない、婦人少年局は実態調査を行なう、このような関係でございます。
  36. 市川房枝

    市川房枝君 それは別なところをやったのでしょう。
  37. 高橋展子

    政府委員高橋展子君) 結果的には別のところでございます。と申しますのは、監督の実施と、それから婦人少年局が行ないます一般的な調査とは、おのずから権限も違いますのと、それからまた、より正確な調査の結果を得たいと思いましたために、監督と切り離したわけでございます。
  38. 市川房枝

    市川房枝君 衆議院の地方行政委員会の風俗営業等に関する調査委員会でもって、このトルコの問題をこの前の深夜喫茶の禁止以来続けておいでになったらしくて、今国会が始まりましてからもずっとこの問題を取り上げておいでになるようでありますが、厚生省は同委員会に対して厚生省のいわゆる改正案というものをお出しになっているんですね。それの内容をちょっとおっしゃっていただきたいと思います。
  39. 柳瀬孝吉

    説明員柳瀬孝吉君) 厚生省出しました内容は、考え方といたしまして、厚生省関係行政機関、都道府県あるいは保健所等を通じての機関が直接売春その他の行為を取り締まったりいろいろするということは、これは非常にむずかしい問題でございますので、そこで、他の法令でいろいろと違反があった——先ほど警察のほうでもお話のあったように、いろいろな違反事件あるいは違反行為があるわけでございますが、そういう行為があった場合には、現在の公衆浴場法では、個々のミストルコ嬢が違反をしたというだけにとどまって、営業者自体にはなんにも響かないという形になっておりますので、そういう違反行為があった場合には、営業者にも責任を負わせて、営業の停止あるいは営業の許可の取り消しということのできるようにしたいということとか、あるいは、そういう違反事件のあった者についてはトルコぶろ営業の許可を新たにすることはしないというようなこととか、あるいは、学校周辺の地域にトルコぶろを建設するというような場合には、旅館業法と同じように教育委員会の意見をよく聞きまして、その意見を尊重して許可、不許可をきめるというようなことを内容にしておるわけでございます。
  40. 市川房枝

    市川房枝君 いまお話し公衆浴場法の改正は、大体旅館業法にのっとったものだと伺っておりますが、旅館業法で、風俗犯罪なんかを犯したときには許可を取り消す、あるいは停止をするということになっておるわけなんですが、それからあとの問題も旅館業法にやっぱり現在あるのですね。旅館業法で風俗犯罪を犯してそして旅館の営業を取り消されたというのは、どのくらいありますか。その犯罪を犯したのと取り消されたのと数字が必ずしも同じじゃないと思うのですが。
  41. 柳瀬孝吉

    説明員柳瀬孝吉君) ちょっと手元に数字がございませんので、はっきりしたことを申し上げられませんで恐縮でございますが、風俗違反行為に基づいて営業の停止を受けている件数は相当あるようでございます。許可を取り消された件数についてはちょっといま数字はわからないのでございますが、また調べましてわかりましたら御報告申し上げたいと思います。
  42. 市川房枝

    市川房枝君 風俗犯罪を犯したというのは、これは警察ではっきりしていますね。それから取り消しというのは、一体どこが——これは厚生省でしょう。営業の停止というなら、取り消し、そうですね。警察のほうは、旅館なんかでの風俗犯罪というのはどのくらいありますか。
  43. 今野耿介

    説明員今野耿介君) たまたまここにございます数字でございますが、これは昨年中に売春助長事犯の被疑者として取り調べた者の職業別というあれなんでございますけれども、検挙人員全体が四千四百五人おりまして、そのうち旅館業を業としている者が一千十六という数字が一応出ております。ただ、この数字の中には必ずしもいまお話しになっているようなものばかりということでもないかと思いますけれども、たまたま売春助長事犯の被疑者として検挙された四千四百五人のうちにはその程度の旅館業者があった。大体二〇%くらいになるわけで、二〇%をこえていると思いますけれども、毎年検挙される人員の職業別というふうな点では、大体二〇%前後というふうなものが旅館業によって占められておるというのが最近の傾向のようでございます。
  44. 市川房枝

    市川房枝君 その内容ですね、内容といいますか、私のほうで想像できるのは、いわゆるアイマイ宿といいますか、サカサクラゲといいますか、いわゆる場所提供ですね。旅館がいわゆる風俗違反といいますか売春防止法違反といいますかということで問われるということは予想できるんですけれども、そのほかにどういうことがございますか。
  45. 今野耿介

    説明員今野耿介君) 周旋というようなものもあるわけでございます、売春法で申しますと。経営者につきましては、売春法のことで申し上げますと、いまお話のありました場所の提供であるとか周旋というようなことがございますし、それから仲居とか女中という一応経営者ではないというような者の周旋とか場所の提供といったようなこともあるわけでございます。
  46. 市川房枝

    市川房枝君 そういう違反が直ちに営業停止ということには必ずしもなっていないんですわね。だから、そういう違反件数と停止の件数というものは一体どのくらいになるかということになるんですが、私どもの単なる印象だけから申しますと、あまり停止されていないんじゃないかという印象を持つんですけれどもね。だから、公衆浴場法でのそういう規定を置いてもたいして効果はないんじゃないかというか、第一に、犯罪の発見が、これはさっき警察からトルコぶろについての犯罪の発見が非常に困難というか非常な努力が要るということのお話があったんですが、やはり似たような方法による発見というか、その違反した者が今度はさらに停止はどれだけかということになってくると、非常に数が少ないというふうに予想できるわけなんで、だから、現在の公衆浴場法の中ヘトルコぶろを入れたままでこの程度の改正だけでは、何ら効果はない——何らといいますか、ほとんどないと私らは実は思うわけなんですが、その衆議院の地方行政委員会には、もう一つ、社会党のほうから このトルコの問題について風俗営業等取締法の中に、個室で婦人がサービスをするのを風俗営業と認めるという一項目を追加する、こういう案が出ていたんですけれども、それについて厚生省はどうお考えになりますか。
  47. 柳瀬孝吉

    説明員柳瀬孝吉君) 一昨年の段階におきましては、現行法でできる範囲をできるだけ拡大して、これでとりあえず措置をしようということで、先ほど申し上げましたような通達出したわけでございますが、それだけでは社会的にもいろいろこれだけ批判なり問題になっている問題の処理はとうていできないんで、これはやはり別個の法的規制といいますか、別個の法律的手当てが必要であるというふうに厚生省としては考えたわけなんでございます。そこで、その別個の法律をどういう法律でやって、どういう内容規制をすることが一番実情に沿って実効があがるかという点につきまして、実はこれは厚生省だけじゃなくて、風紀風俗関係の問題は警察庁と非常に関連の深いあれでございますから、そこで法改正の問題についていろいろとお互いに相談もしたわけでございますが、当初の段階では、風俗営業取締法ですべてバー、喫茶店等を取り締まるようにやったほうがいいじゃないかというふうな意見もいろいろ検討されましたし、あるいは、公衆浴場法でさらに規制を強化してこれを処理したほうがいいんじゃないかという意見もいろいろあったわけでございますが、警察庁のほうとも相談いたしまして、政府部内の意見統一といいますか、見解を一つに調整して処理をしていこうということで、厚生省関係公衆浴場法でまずできる範囲はどの程度法改正考えられるだろうか。これも限界がございまして、公衆浴場法で何でもかんでもできるかというと、そういうわけでもありませんで、そこでいろいろ検討いたしまして、先ほど申し上げましたように、旅館業法の程度のところまではひとつやれるんじゃないか。それ以上になりますと、これはやはり風俗営業取締法その他の警察法規でやらざるを得ないということで、しかし、公衆浴場法による改正によりましても、運用のしかたによっては相当効果があがる。先ほども警察庁のほうから御報告のございましたように、相当の違反件数があるわけでございますから、違反のあった者についてはそれに応じたきびしい処置をとるということを励行すれば一応の効果は達せられるんじゃないかということで、警察庁との間も、政府部内といいますか、考え方が統一して、一応公衆浴場法でこういう措置をとろうということに厚生省としては考えたというわけでございます。
  48. 市川房枝

    市川房枝君 そうすると、風俗営業等取締法によるトルコぶろ取り締まりには賛成しないということですか。
  49. 柳瀬孝吉

    説明員柳瀬孝吉君) それを風俗営業取締法でやることに賛成しないということではございませんで、公衆浴場法を改正してやるとすればどこまでのことができるか、それからそれによって効果が達せられるかどうかということを検討したわけでございまして、公衆浴場法でやるとすればここまではできるし、またそれで相当の効果があがるというふうに判断をしたわけでございます。
  50. 市川房枝

    市川房枝君 ここまではできるできないということをお認めになっているわけですね。そのできないことはどこでどういうふうにやればいいとお思いになりますか。
  51. 柳瀬孝吉

    説明員柳瀬孝吉君) 一体どういう内容規制をするかということが問題でございますが、現段階においてどの程度のことをやればどの程度の効果があがって目的が達せられるかということでございまして、公衆浴場法関係でやります場合にはここまでのことはできる、それで相当の効果があがるというふうに考えたわけでございまして、それ以上のことが必要であるかどうか、あるいはどういう内容規制が必要であるかという点につきましては、いろいろとまた問題もありますので、一応公衆浴場法範囲内の問題について検討したわけでございます。
  52. 市川房枝

    市川房枝君 それじゃ前と同じですね。  いまの風俗営業等取締法の中にトルコぶろを入れるという案には、警察はどうお考えですか。
  53. 今野耿介

    説明員今野耿介君) これは、現在の風俗営業取締法の建前と申しますか、基本観念というようなものからちょっと御説明いたしたいと思いますけれども現行法の風俗営業と申しますのは、第一条に規定してございますけれども、七つの種類がございまして、ここにキャバレーとか、待合とか、ナイトクラブ、ダンスホール、喫茶店、その他まあじゃん屋、ぱちんこ屋まで書いてございますけれども、その基本的な考え方と申しますのは、飲食にまつわる問題、飲食に女性の接待というものが加わったものが風俗営業であるというようなことが一つと、それからもう一つは、ダンスというような行為の行なわれるものが一つと、それからもう一つは、まあじゃん屋、ぱちんこ屋等の場合に見られますが、射幸心をそそるというような点を規制しようというような、大きく分けてこの三つの考え方があるわけでございまして、なお、そのほかに、同じ飲食店であっても非常に暗くして飲食をさせるところ、法令では照度十ルクス以下としているものについてはこの規制の対象になるというようなことを申しておりますし、また、同じ飲食店につきまして、一つの広間の中に間仕切りと申しますか、障害物を置きまして、その客席が他から見通すことができないというような点も、同じ飲食店であっても規制の対象に取り入れるというようなことを言っているわけでございます。飲食の場合には、単純な飲食の場合と、女性がそれにまつわる場合、単純な飲食であるけれども部屋が非常に暗いとかあるいは見通しが悪いような客席の構造になっているというようなことが飲食に関連しては規制の対象とするということを申しておりまして、あとは、ダンスのまつわる業種と、それから射幸心に関連しておりますところのまあじゃん、ばちんこといったようなもの、こういうものが基本的な風俗営業法の規制する対象業種だという建前に立っておりまして、ただいま問題になっておりますトルコぶろというようなものは、少なくともこの現行法の概念にはない。したがって、これを取り入れるということにした場合にどういうふうになるかということでございますが、個室というような概念をここでかりに取り入れるということになりますと、ほかのいま申し上げましたような業種についても同じような問題が起こってくるというようなことからして、風俗営業法という現行法の建前のもとにおきましては、トルコぶろというのをこの対象規制業種として取り入れるということについては相当慎重な検討を要するのではなかろうか、こういうような態度で警察はずっと一貫してまいっているわけでございます。
  54. 市川房枝

    市川房枝君 いま風俗営業そのものの御説明があったのですが、何が風俗営業かという取り上げ方からいえば、あるいは特に個室で婦人がサービスするいわゆるトルコぶろというものはその中に入ってもいい業態ではないかと、こう思いますけれどもどもはむしろそれを入れることによってそういう業態一つ営業として認めるんだと、こういう意味において私どもは賛成しかねる、こういう立場でございまして、これは私ども婦人議員が、自民党の方々も含めて、衆参婦人議員懇談会でこのトルコぶろの問題は深夜喫茶の禁止時代から実は取り上げられていたものですから、衆議院の小委員会でお取り上げになっているということを承知したので、皆で集まりまして、さっきの厚生省案、それから社会党案というものなんかもよく検討して、それに参議院の法制局にも参加してもらって、そして私ども考え方を法文の上にあらわすとすればどうすればいいだろうということを相談しました結果、私どもはその風俗営業等取締法の中に——これは風俗営業だけではないんであって、現に、深夜喫茶なんかもこれは風俗営業でなくてあの中に禁止し得る条項が入っているわけなんです。だから、これは「等」という字がくっついているわけなんですが、そこで、その深夜喫茶を禁止するという条項の次へ持ってきて「浴場業又は旅館業を営む者は、入浴の施設として個室を設け、当該個室において女子を客に接する業務に従事させてはならないものとすること。」というのを第四条の三として加える。つまり、禁止することになるわけでございまして、したがって、まあトルコぶろそのものには反対はしない。あるいは個室そのものにも反対はしない。だから、個室をもし存続するならば、そこで男の客に対しては男がサービスするようにする。もし個室でなくて公開の部屋でトルコをするならば、そこで女がやってもかまわないじゃないかと、こういう立場で、その案を小委員会に出し、私ども皆で小委員長とか委員の方とお目にかかって実はそれを申し上げたわけでございますが、その案に対しての厚生省あるいは警察の御意見を伺いたいんですが、総務長官は時間が十一時半から十二時までしかいただいていないので、少しはしょりまして、このトルコのことでついででございますからちょっと簡単にもう一つ伺いたいことは、トルコ業者による団体ができましたね。厚生省は御存じだと思うのですが、その団体をちょっと御説明願います。
  55. 柳瀬孝吉

    説明員柳瀬孝吉君) 全日本特殊公衆浴場環境衛生協会、トルコ業者の方々が集まってそういう協会を設立しょうという動きがございまして、その設立運動などについて前々からいろいろ各府県業者、あるいは都道府県庁等にいろいろお話があったようでございますが、先般いろいろの方がお集まりになって創立総会というものをやられたようでございます。実は、この団体につきましては私どもは全然関与していないのでございまして、この設立の働きかけに私どもの名前などを出されてたいへん迷惑しておるのでございます。その創立総会のときにも、各大臣、あるいは国会議員の方々、あるいは厚生省環境衛生局長なり環境衛生課長、あるいは東京都の衛生局長さん等が当日は御出席くださる予定になっておるというふうなふれ込みでやられておりまして、私どもは出席する気は全然なかったわけでございまして、そういうあれで非常に迷惑しておるわけでございます。
  56. 市川房枝

    市川房枝君 トルコぶろ厚生省の所管でございますので、私ども厚生省の環境衛生局特に環境衛生課がちゃんと御協力なさっているのではないかと想像しておりましたが、いまのように、何も関係がないと、協力してないのだと、むしろ利用されていることを憤慨をしておるようなことを伺って、安心をいたしました。このトルコの団体が深夜喫茶の禁止の二、三年前のときにもうすでに東京にできておりまして、そのときに私どもが問題にしたことに対して非常な運動がございまして、そのときちょうど名誉会長に大野伴睦先生をいただいたということで、機関誌にえらい大きな写真なんかが出ていたことがあるのでございますが、今度の国会における動き、あるいは一般からもトルコに対してのいろいろな反対運動、あるいはまた私ども婦人議員なんかの動きというものに刺激されて、そうして全国組織をつくるということで、いまお話があったのですが、五月四日にホテルニューオータニで創立総会が開かれまして、私どものところへも招待状が実は参ったのでございます。で、実は総会のほうだけ傍聴に行ったわけでございますが、その団体の名前が、いまお話しのように全日本特殊公衆浴場環境衛生協会という名称なんで、この名称を聞きますと、私どもはすぐ思い出す名称があります。それは、例の赤線時代、赤線業者全国組織の団体が、全国性病予防自治会と、こう言ったんです。その発想のしかたはなかなかよく似ているわけでございます。それから名簿をずっとここにありますが見てみますと、その赤線時代の理事長をしておりました、そうして私どもがしょっちゅう交渉を持った人がトルコをやっております。ほかにもこの名前の中にその時代の赤線をやっていた人がいるのじゃないかと思うのですが、これは当時の書類を調べて引き合わせてみればわかると思うのですが、そういう団体ができまして、そうして組織表というものが会場で配られまして、それを見まするというと、全日本特殊公衆浴場環境衛生協会石川県連合会というものの連合会長でありましょうと思われますが、そこに稻村左近四郎氏のお名前が出ているわけでございます。稲村氏は衆議院においでになります方でございます。こういう団体ができて、そうしてトルコがますます盛んになろうとしておる情勢でございますので、これは厚生省当局あるいは警察当局も、その問題についてなお今後一そう関心を持っていただきたいと思います。  なお、トルコの問題についてもまだございますけれども、総務長官においでいただきましたので、またあとに譲りたいと思います。  総務長官にお伺いしたいと思うのですが、いまトルコの話を続けておりましたが、総理府の下にトルコぶろができるというので、総理府でだいぶお困りになっているような話が新聞に出ておりましたが、それはいかがになりましたか。
  57. 安井謙

    ○国務大臣(安井謙君) 実は、総理府と申しますか、総理官邸の下のほうへ何だかトルコぶろの請願が——請願といいますか、申し出が出ておるということを伺いまして、どうも場所柄といい、たいへん好ましくないと思いまして、それぞれ関係当局と連絡をいたしまして、これは法律的になかなか規制するわけに現行法ではまいらぬようでございますが、でき得ればひとつ自主的にそういったものでないように、あるいはどうしてもできるということになれば、世間でいういかがわしい風評の立つような営業のしかたでないようにということを、それぞれの関係当局を通していまも折衝中でございます。
  58. 市川房枝

    市川房枝君 政府当局の有力な総務長官でおいでになります安井さんはじめ、総理府の方たちがお困りになっている。それは、結局、トルコ公衆浴場法以外に規制する何らの法的な根拠がないということを言うわけなんですが、まあある議員の方から、総理府の下は国際的な問題なんだ、外国からお客さまがおいでになった場合に、あすこの下にネオンでトルコぶろと書かれていると少し困るというようなお話もあったのですけれども、これをやめさせるということは、政府としてやろうとお思いになればおできになることだと思うんですけれども、それはもちろん法の手続を経なければなりませんけれども、その法の制定はやはり政府与党でやろうと思えばすぐにでもおできになる。そういうことに対しては野党の方たちももちろん賛成をなさると思いますから、私は満場一致で通るのじゃないかと思うんです。なかなか、自主的にと言っても、要するに業者人たちは金もうけが目的であって、各地でトルコぶろ反対の運動が起こっておりますときに、ずいぶんそういう話し合いでということで努力をしていても、なかなか解決しないのであります。この際、ひとつそれをお考えをいただきたい。  これは長官に昨日実はお目にかかりましたときに差し上げましたけれども、私ども婦人議員有志並びに民間の団体で売春十周年記念の民間の会合を開いたときにトルコの問題を取り上げて、そしてトルコ赤線復活とみなされるようなものだからこれを禁止していただきたいというような陳情をいたしたわけでございますが、それをひとつ十分お考えをいただきたいと思います。  なお、長官は、総理府で今度新しくできました青少年局を担当しておいでになりますし、なお青少年の国民運動も推進なすっていらっしゃる重要な立場おいでになると思うんですが、青少年問題、ことに青少年の不良化の問題、こういう問題は、トルコばかりでなく、売春問題といろいろ関連するような問題を含みますけれども、非常に関係が大きい。トルコだけについて見ますと、少年はトルコに行く者は少ない。トルコを利用しているのは不良何といいますか中老年男子ということになるのかもしれませんけれども、中で働いている、ミストルコはこれは青少年である。それで、基準違反の十五歳、十六歳の子供が相当数いますし、また、ああいうものがあるということが青少年に悪い影響を与える。トルコに対してPTAなんかが立ち上がって反対するゆえんはそこにあると思うのですが、青少年運動において私はこういう問題があまり重要に取り上げられていないように思われるということについて少し不満を持っているのですけれども、その点はいかがでしょうか。
  59. 安井謙

    ○国務大臣(安井謙君) お話のとおりでございまして、青少年をめぐる環境の浄化ということは、私ども非常に大事だと思っております。いま御指摘のトルコぶろにつきましても、何とかいま批判されるような形態で少なくともないようなものにということで種々気を使っておりますし、また、関係当局とも相談をいたしておるわけでございます。ただ、現行法上いま直ちにこれをどうするというわけにはなかなかなり得ない。そこで、あとは自主的な方法でできるだけ規制をしていってもらいたいということでやっているわけでございます。トルコぶろに限りませんで、ほかのたとえば映画館等のいかがわしいと思われるような広告、宣伝ポスター、スチール、そういったようなたぐいのもの、あるいはいかがわしい出版物、そういうようなものにつきましても、浄化といいますか規制をしていきたいということで、昨年来青少年問題協議会等におきましても、映画、放送、あるいは出版、また広告、そういった各部門に分けまして、それぞれの業界の代表と非常に熱心な検討を続けてまいっております。大手筋のそういうような団体につきましては、私どもの意のあるところを了解されまして、十分自制をしていきたい、また、する方途を講ずる、こういうことに相なっておりますが、残念なのは、大体そういうような組合や協会にいつも加盟されていないいわゆるアウトサイダー、こういうのが独自にあるわけでございます。映画にしましても、独立プロダクションというようなものが無数にございまして、これに対してはなかなか組合や協会としての規制の手を伸べるわけにいかない。また、法律上もこれを簡単に規制するわけにいかないといったような問題が今日残っておりまして、これが頭痛の種であります。できるだけそういうものも業界を通じ、また、あまりにもいかがわしいものにつきましては条例等を通じまして、十分な取り締まりをしていきたい、こういうふうに現在努力中でございます。
  60. 市川房枝

    市川房枝君 いまお話しの環境浄化の中の映画とかあるいは読み物とかこういうものについては、わりあいにいままで尽力してきてくださっておると思うのですけれども売春とかトルコとかこういう問題は、何か別もののようなふうにして、あまり何か取り上げられてと言うか、そういう問題は入っていないような気がするんですけれども、まあそれもひとつどうぞ今後お考えになってやっていただきたいと思います。
  61. 藤原道子

    ○藤原道子君 ちょっと関連して。このトルコの問題は、ずいぶん前から私たちは社労で取り上げてきたんです。そのたびに、厚生省は、自粛させるとかいろいろ言われるけれども、だんだんひどくなってきている。それで、安井さんのお考えを聞きたいのは、私たちはなにもトルコを目のかたきにしているのでなくて、トルコぶろそのものは私はいいと思うのです。だから、これを明朗にやっているところがございますよ、大部屋で、あるいはちょっとしたつい立て程度のもので。そういうあり方であるならば、私たちは賛成なんです。ところが、公衆浴場法取り締まりの中に入っておりながら、個室でなければならない理由はどこにあるか。これが一つ。それからもう一つは、風俗上から言っても、世界の慣習から言っても、裸体の男が入っているところへ、それこそブラジャーにショートパンツぐらいで女性が介助する、ここに何らの問題がなければ、そういう業態が生まれるはずがないと思うんです。そこで、あなた方の考えで、トルコぶろに個室で女がサービスしなければならない理由はどこにあるのか。私はこれらのいずれも禁止すべきだと思うんです。これに対してのあなたのお考えを伺いたい。たびたびこの問題はひどくなるぞなるぞと私たちは警告してきた。そのつど、厚生当局は、いや自粛することを誓っておりますとか、ガラス窓をはめるようにいたしましたとか、そのつどそういう答弁をしてきた。ところが、だんだん実態はひどくなってきておる。それで、ついに、それこそ日本の最高の機関である国会の、しかも総理官邸の隣にこれができる。それであなた方はいまあわてていらっしゃる。法改正すればできるものを、法改正には手をつけない。自粛を要請するという弱い考え方は一体どうしてでしょうか。それが私は納得がいかない。ひとつこれに対してのお考えを伺いたい。そういう業態が必要であるとお認めになっての上でのことですか。
  62. 安井謙

    ○国務大臣(安井謙君) おっしゃるとおり、トルコぶろそのものが悪いと思いませんし、また、トルコぶろを個室にしておるということも、これまた外国ではふろ場は公衆で大ぜいで一緒に入らないような習慣もあったり、そういうものを残すための個室というようなことも必ずしもこれは否定できないかもしれないと思いますが、いま言われますような風俗的にいかがわしいことじゃないかという点につきましては、私ども全く同感でございまして、何とかああいう業態をやめてもらうわけにいくまいかということについては、かねがね検討中でございます。いままでの法律その他の建前から、すぐこれを右から左になかなかなくしていけないというような事情もあるようでございます。これは、厚生省、あるいは警察庁等、法務省も関係あると思いますが、そういった点から、法律的にどこまで規制できるか、できるだけ早くそういった検討を今後もやって結論を出したいものだと思っております。
  63. 藤原道子

    ○藤原道子君 いま、長官は、個室は外国のしきたりからして禁止することはいかがかと思うと、私はそれもわかります。それならば、外国で個室の中で半裸体の女がそういう介助している国がありますか。だから、都合のいいときは外国の例をもってくる。都合の悪いところはすらりと逃げてしまう。こういうずるい考え方だから問題が解決できない。いかがでございますか。
  64. 安井謙

    ○国務大臣(安井謙君) そういうことでありまして、個室は直ちに全部いかぬというわけにはまいるまいかと思いますが、いまのような営業形態というものははなはだしく好ましくないという藤原先生の御説、市川先生の御説に私どもも同感でございまして、これをどういうふうに規制できるか、これは関係当局とできるだけ早く検討を進めたいということで相談をいたしております。
  65. 藤原道子

    ○藤原道子君 あなたがやろうと思えばすぐできるんです。失礼いたしました。
  66. 市川房枝

    市川房枝君 次に、長官に売春の問題について審議会のことをちょっと伺いたいと思いますが、長官は、内閣の売春対策審議会を担当しておいでになりますね。
  67. 安井謙

    ○国務大臣(安井謙君) 審議会は、総理府の附属機関という形で担当いたしております。
  68. 市川房枝

    市川房枝君 売春の問題は、これはいま御担当の青少年の問題と似ているのですけれども関係の官庁が非常に多いのですね。それで、なかなかまとまらないといいますか、というきらいがあるわけなんですが、その売春についてのまとめというか、それは総理府がやるということではないのですか。ただ官制によって内閣に売春対策審議会があるから、その審議会の運営だけをするのですか。これは事務当局でもかまいません。
  69. 田中穣

    説明員田中穣君) ただいま先生おっしゃるように、こちらの審議会に伴う所掌事務を担当しておるわけでございます。
  70. 市川房枝

    市川房枝君 そうすると、売春問題全体についてのまとめ、連絡調整をするということは入っていないのですね。
  71. 田中穣

    説明員田中穣君) 連絡事項として入っておりますが、やはり審議会に関連する事柄で取り上げられておるわけでございます。
  72. 市川房枝

    市川房枝君 審議会についてこの前の法務委員会田中寿美子さんが質問しておいでになって、福田参事官から答弁されているのですが、それを拝見しますと、どうも何だか少しはっきりしていないといいますか、私が承知している関係からいうと何だか少しごまかしてしまったようなことで、率直なことばで言えばそういうことなんですが、売春対策審議会というのは、第一番の目的は、審議会そのものはどういうことになっておりますか。規則がありますね。それによってちょっとはっきり伺わしていただきたい。
  73. 田中穣

    説明員田中穣君) お答えいたします。  審議会の設置目的につきましては、総理府設置法の第十五条に規定されておりまして、この目的といたしますところは、「内閣総理大臣又は関係大臣の諮問に応じて売春対策に関する重要事項を調査審議すること。」、以上のように規定されてあります。
  74. 市川房枝

    市川房枝君 その「諮問に応じ」ということがおもな役目ですね。それから意見を具申することもできるわけですね。ところが、売春対策審議会というものは、諮問に応じて答申をしたといいましょうか、それはこの法律のできたときだけであって、以後約十年間というものは総理大臣あるいは各省の大臣一つも諮問をしておいでにならない。そうでしょう。
  75. 安井謙

    ○国務大臣(安井謙君) 諮問につきましては、仰せのとおり、三十七年にできましたときに、売春防止法を出しますにつきまして諮問をいたし、また、答申をいただいておりますことは、御承知のとおりであろうかと思います。あとは、しかし、随時いまお話しの必要な事項について建議をしていただくということで、麻薬もございましょうし、性病予防、そういった分科会もできておりまして、ほとんど毎年のように各方面についての積極的な意見をいただいております。それを総理府としていただいたものをそれぞれ関係各省なり内閣総理大臣へ取り次いで善処をはかっておる、こういうことでございます。
  76. 市川房枝

    市川房枝君 そのとおりにあとは具申をしておいでになるのだけれども、これは審議会自身の自発的な急患であって、政府からは何もない。ということは、やはり政府のほうが積極的にこの審議会を活用していくというか、審議会にいろいろな答申を求めるという態度がなかったんだ、この問題について熱意がなかったんだということの一つの私は証拠になると思うのですが、どうですか。
  77. 安井謙

    ○国務大臣(安井謙君) 売春防止法が施行されましてからそのあとの施行その他につきましては、これは行政府の責任としてそれぞれやっております。また、その後の売春問題、あるいは麻薬、あるいは性病予防、そういうようなものにつきまして、常に審議会と政府は連絡をとりながら——審議会御自身に形式上の諮問という形をとっておりませんが、実際上は常に連絡をとりながらいろいろな建議をしていただいておるし、また、御相談を事実上申し上げておるということで、これは、百数十あります審議会、委員会の中では、政府との連絡についても決して悪いほうじゃございませんで、非常によく連絡しながら御検討願い、御活躍願っておる審議会の一つであろうと私ども思っております。
  78. 市川房枝

    市川房枝君 それは、委員長の菅原さんが非常に熱心なものですから、政府から言われないのにというか、自分のほうから働きかけていろいろな問題を取り上げては役所をむしろ動かしたと、こういうかっこうだと私率直に言っていいと思うのですが、そういう意味においてはやはり政府が不熱心だった、消極的だったということは言われてもしょうがないと思うのですけれども、それはそれとして……。  それから内閣の売春対策審議会の本年度の予算が去年よりも減っているんですよね。大体、審議会の予算そのものは、それはそっちで事務的に答弁していただいてかまいませんが、四十年度は五十七万四千円、四十一年度は四十八万五千円で、八万九千円減っているのですね。ふえていいはずだと思うのにこれが減っているのは、一体どういうわけですか。
  79. 田中穣

    説明員田中穣君) ただいまおっしゃられたとおり、四十年度予算額は五十七万四千円、四十一年度の予算額は四十八万五千円、したがいまして、八万九千円の減という形になっておりますが、この中身につきましては、主として庁費の関係でございます。したがいまして、会議費、それから先生方の諸謝金、旅費関係については、一切前年どおりという形がとられておるわけでございますが、庁費につきましては、これは一応大蔵省の一つの方針といたしまして一斉に一割削減といったような形をとられておる事務的な経費がございます。その経費についての減額というふうに御承知願いたいと思います。
  80. 市川房枝

    市川房枝君 それはしかし多いですね、一割よりも。私が聞いているところでは、これは売春対策審議会の会合が少なかったんだ、だから減らされちゃったんだ、こういうふうに聞いているのですが、その少なかったというのは、定例会議というのは何回になっているか知りませんけれども、あまり内閣の審議室のほうが忙しくて開かれないということもあるかもしれないけれども、私どもから言えば、やはりどうも熱意をお持ちになっていないということのこれも一つの証左みたいに思われるのですが、どうですか。
  81. 田中穣

    説明員田中穣君) 先ほども総務長官からも一部これに触れてお答え申し上げましたけれども、この売春対策審議会の開催回数は、他の審議会に比べまして決して少ない回数にはなっておりません。前年度の実績でございますが、たしか部会を含めまして七回余の開催になっておったと思います。したがいまして、大蔵と予算折衝の段階におきましても、開催回数が少ないためにこの予算を減額するという表示も先方からは全然ございませんでした。ただいまお話のございましたその開催回数が少ないんではないか、そういう点は、この予算の面には全く影響してございません。
  82. 市川房枝

    市川房枝君 大臣の時間が来たそうですから、ちょっと大臣にもう一つ。  売防法制定十年に際して、総理府をはじめ政府の関係方面で十周年記念会をやっていただいたことは、私どもたいへんけっこうだったと思っております。まあ憲法については記念会というものはすっかりなくなっちゃっているのですが、売春のほうもうっかりするとこれもなんにもなくなって、こういう法律もなくてもいいということになるんじゃないかと心配しておりましたが、とにかく式典があって、総理からもあいさつもあり、ほかの行事もありまして、総理は、御出席になるということで時間の都合なんかをいろいろ苦労をなすってああいう時間になすったそうですが、当日は差しつかえで御出席にならないで、総務長官が出席をして代読をしてくだすったのですが、当時出席しました者の間では、なぜ総理が出てくださらなかったのだろうか、やはり総理はこの問題についてはあまり熱意を持っておいでにならないのじゃないかと、こういう疑問を持った向きが相当ありました。ですから、その理由をあそこではっきりおっしゃっていただくとよかったと思っているのですけれども、この会の席でも、御出席の意思があったのだけれどもこういう理由で出られなかったということがありましたら、ひとつそれをおっしゃっていただきたいと思います。
  83. 安井謙

    ○国務大臣(安井謙君) 当時、総理も出られればぜひ出たいということを私にも言っておられましたし、また、売春対策あるいはトルコぶろの問題についてじかに何かいい方法でさらに進める方法はないかといったようなことについての問答も私自身も総理から伺ったようなこともございまして、決してこの問題等について不熱心だということは私どもあり得ないと思っております。当時は、その日になって、どうも——前日でございましたか、ついその日まで出られるものだと思っておったのですが、その前日にきまったようでしたが、何かどうしてもやむを得ない用事があって、渉外事務じゃなかったかと私思っておりますが、当日のことで出られないからということで、詳しくは聞いておりませんが、そういったような事情であったので、これはほんとうにやむを得なかったことだろうと思っておりますが、それにしましても、できるだけ出たいという意思表示をされていながら出られなかったということにつきましては、たいへん遺憾だと思っておりますし、また、申しわけないと思っております。
  84. 市川房枝

    市川房枝君 この十年を期して「売春白書」をお出しになるということを売春対策審議会でおきめになったというふうに聞いておったのですが、その後聞きますというと、婦人少年局は何か売春の年表をお出しになる、厚生省厚生省所管に関する事務の何かをお出しになるということで、「売春白書」というものは消えちゃったみたいな印象を受けるのですけれども、それはどうでしょうか。この機会に、はっきりとこの法の制定のときからずっとそういうものをまとめていただきたい。この間の委員会で、田中委員から、赤線廃止の法律を実施したときの業者たちは一体どういうふうに転業していっているのか、その数字がありますかという御質問に対して、警察当局からは、いま数字を持っていないからといってお答えにならなかったし、あるいは、一体潜在している売春婦というのはどのくらいいるのか、あるいは業者というのはどのくらいいるのか、その数字の概数を聞きたいという御質問があったのですが、それにもそのときにはお答えがなかったのですけれども、私は、そういう問題を含めて国民の前に出していただきたい。いろいろな問題で白書をお出しになって、毎年お出しになっている白書もあるのですが、少なくとも十年に一ぺんひとつ総合的なまとまったものを総理府の責任においてひとつお出しを願いたいと思うのですが、いかがですか。
  85. 安井謙

    ○国務大臣(安井謙君) 白書は、五周年のときに一回出しております。御存じのとおりだと思います……。
  86. 市川房枝

    市川房枝君 あれは白書じゃないですよ、あんなものは。
  87. 安井謙

    ○国務大臣(安井謙君) そうですが。まあ白書だとわれわれは心得ておるのですが……。それから十周年でございますし、せっかくのそういう御示唆もありますので、私どもぜひこれはひとつ十周年を記念して出したいと思っております。各省に関係する部分が相当多いわけであります。それも取りまとめまして、ことしじゅうにぜひ出したいと、こう思っております。
  88. 市川房枝

    市川房枝君 ことしじゅうですか。
  89. 安井謙

    ○国務大臣(安井謙君) ええ、ことしじゅうです。
  90. 市川房枝

    市川房枝君 じゃ、大臣、ありがとうございました。  売春対策審議会のことをちょっともう少し伺いたいのですが、前に私委員をしていて、いま委員をしていないから審議会のことがよくわからないのですが、前には、審議会に、法改正の部と、それから施設のこと、それから法の実施の面と、たしか三つ小委員会があったはずですが、いまでもございますか、会合しておりますか、それを伺いたい。
  91. 田中穣

    説明員田中穣君) ございます。それで、ごく最近の例といたしましては、昨年の十一月に性病予防の対策に関しまして部会を開いて意見出しております。
  92. 市川房枝

    市川房枝君 それは、性病の予防でしょう。
  93. 田中穣

    説明員田中穣君) 部会は、一部、二部、それからもう一つと分かれておりまして、法制上の問題が一部、それから運営の問題が二部で、したがいまして、性病予防の関係は、売春問題に関連している事項といたしまして一部、二部を通じまして、法制の面、それから運用の面、そういう形でそれぞれ検討をしていただいております。
  94. 市川房枝

    市川房枝君 じゃ、変わったわけですね。ただ、性病予防法は厚生省法律として国会に提出しおいでになるんですが、そういう場合にやはり厚生省は当然諮問をなすっていいはずなんだけれども、それも諮問をしてないんでしょう。やはり具申でしょう。そういうやり方は、どうも私は要らない口出しということにもなると思うんですけれども、そういうことで、内閣の売春対策審議会の運営の問題ですけれども、はたから見ていてどうも私はそこのところが少し納得がいかないんです。
  95. 藤原道子

    ○藤原道子君 ちょっと関連して、この問題に。私、審議委員であったころ、法改正の小委員になっていたんです。相当法改正の問題を審議してきたんでございますけれども、その後そのことはどうなっておりますか。審議会における法改正についての審議です。
  96. 田中穣

    説明員田中穣君) ただいまの藤原先生の御質問でございますか、その関係につきましては、昨年度の実績を申し上げますと、売防法直接の法改正の問題につきましては昨年度におきましてはそれぞれの部会においては取り上げられておりません。
  97. 市川房枝

    市川房枝君 いま藤原さんのおっしゃったことに関連をして、やはり売春対策審議会について伺いたいのですが、この間の田中寿美子さんの質問に対して福田参事官がお答えになっているんです。それは、田中さんが、「今度の私どもの一部改正法案ですね、これに対しては、審議会はどういう態度にきめたのでございますか。」という質問に対して、福田さんは、「実は、今度の先生方御提出の法案改正の問題でございますが、御承知のように、つい先回の総会におきまして、これを小委員会にかける、法律改正あるいは法律運用の問題についての本質的な討議に入ろうという段階に至っていたわけでございます。」——そんな事実はありませんね。これは何だかおしまいにいくとちょっとあやしくなってくるんだけれども
  98. 田中穣

    説明員田中穣君) 前回の総会では、会議の議決を経るという段階までは行っておりませんでしたけれども、一応会長段階までの話として、そちらのほうの福田参事官のお答えされているような事柄はございます。したがいまして、次期の総会の開催予定日はまだ決定してございませんので、開催日は申し上げられないのですが、次期の総会におきましては、その問題は当然公式な問題として取り上げられると、かように考えております。
  99. 市川房枝

    市川房枝君 そうすると、私ども出し売春防止法改正案は内閣の売春対策審議会で討議されると、そういうことに了解していいわけですか。
  100. 田中穣

    説明員田中穣君) その際の福田参事官の回答も、おそらく、今回提案されておりまする売防法の一部改正案という形に限定した形のお答えじゃないと思うのです。したがいまして、いま考えられておりますのは、まあ現在の売防法に対する一般的な考え方としてどうしたらよろしいのか、かような問題じゃないかと思います。
  101. 市川房枝

    市川房枝君 保安局長おいでになりましたので、簡単に申し上げまして、私はきょうの質問を終わりたいと思っております。  先ほど来、トルコぶろの問題についていろいろ伺っていたわけでございます。厚生省は、公衆浴上法の改正をしよう、こういう御意見でございましたし、それからさっき伺いました警察のほうの方の御意見は、風俗営業等取締法の改正について私は伺ったのですが、それによる改正案というものはどうも賛成しかねると、こんなふうな御意見だったんです。それで、私ども衆参婦人議員の超党派でのこの問題についての話し合いで、トルコぶろについては、個室を設けてそしてその個室の中で婦人にサービスをさせるそういう業態、これは浴場業あるいはまあ旅館業を含むそういう業態を簡単に言えば禁止させるということでありますが、そういう案を衆議院の小委員会に出したのでございますが、これに対する厚生省なり警察の御意見を伺うことをあと回しにしたわけでございますので、警察のほうの御意見をひとつ伺いたいと思います。
  102. 今竹義一

    政府委員(今竹義一君) お答え申します。  トルコぶろ、特に個室のあるトルコぶろ、そこで婦女のサービスが行なわれておるといういわゆる個室付トルコぶろにつきましては、そこでかなりの売春防止法違反あるいは職業安定法違反という違法な行為が行なわれておることは、御承知のとおりであります。また、そういうものに至らないまでも、いわゆるスペシャルサービスというような行為が行なわれておるというような状態でございます。そこで、私どもとしましては、風俗警察の観点からいたしますと、この種行為が行なわれておるものをまず取り締まりをすべきなんだと、こういう建前に立ってものを考えております。ただ、その取り締まりが有効に行なわれるということを念願しておるわけでございまして、その意味で、単にこれに取り締まりをしていわゆる刑事罰を科するということのほかに、できれば有効な行政処分が課されるということがさらに効果的である、こういう考え方に立ちまして、現にこの種営業公衆浴場法等の許可営業でございますが、その面を直していく、そういう行政の取り消し、あるいはそういう営業については許可をしないということが整備されることが最も効果的なものじゃないか、かように考えておるところでございます。これについて、たとえば、そういうことなら風俗営業に取り入れて、風俗営業等取締法の中でこれを許可しまた禁止してはいかがかというような考え方もあるわけでございますが、そういういかがわしい行為を防止するために——現在の風俗営業では個室というものは建前として認めておりますが、入浴であるがゆえに、個室ということが認められる営業を取り消すということは、風俗営業の建前から言いますといかがかと、こう考えられますし、また、個室におけるものごとについて、風俗営業の建前によりまして警察官が立ち入るということ——風俗営業はすべて警察官の立ち入りを認めております。そういう立ち入りの権限を認めるということは、人権の上からまた警察の運営の上からもかなりいろいろと問題があるところではないかと、こういう考え方に立脚しまして、私どもとしましては、警察がむろん法規に基づいて取り締まる、その結果を公衆浴場法の建前に立って営業の取り消しなりそういう措置を講ずることによって十分目的を達成し得る、かように考えております。
  103. 市川房枝

    市川房枝君 有効適切な取り締まりをする、そうして、もとは公衆浴場法厚生省のほうにまかす、そういうことですね。有効適切な取り締まりというのは一体どういうのですか、いまの状態がそれで取り締まれますか。
  104. 今竹義一

    政府委員(今竹義一君) 事柄が個室の中で行なわれることが多いものですから、この取り締まりについてはかなりの困難があるということは、御説のとおりでございます。しかし、困難はあるとしても、やはりわれわれとしては違法な状態というものに対してはできるだけの捜査を続ける、こういう考え方に立っております。
  105. 市川房枝

    市川房枝君 これも、さっきから藤原さんからお話もありましたけれども、個容の中で、裸体の男子に、ほとんど裸体の女子がサービスをする、そこに風紀問題が起こることは当然なんでありますね。そういう事態を許しておいてというか承知しておいて、そうして外側から、やれ取り締まるとかなんとか言ったって、それはだめだ。そうして、そこへ入ることは人権の侵害にもなるし、取り締まるといったって、それはできない。そういう考え方というか、そういう態度なら、いまの状態をむしろ温存するというか、むしろそれを盛んにしていくということになるのではないのか。どんどんそのためにトルコぶろは二年三年前から三倍にもふえている。この勢いでどんどんもっとふえていくのじゃないか。だから、ここでやっぱり厚生省なり警察当局なりがこの問題についてもっと考え直さなければ、結局、赤線復活ですよ。
  106. 今竹義一

    政府委員(今竹義一君) 個室の中で男女がおる場合、いろいろなみだらがましいことが起こりやすいということは、お説のとおりであります。しかし、やはり、旅館におけるあんまの問題、いろいろな他の問題もあるわけであります。私どもとしましては、個室の中でたとえば現在のような服装で婦女子が客の流しとかマッサージをするということはいいことだとは考えておりません。しかし、これを直ちに法律をもって禁止すべき行為であるということにはかなり疑問がある。むしろ、中で、たとえばわいせつな行為等、そういう悪質な行為が行なわれた場合には、これはもう法で規制する必要があるかと考えます。単なるマッサージ、単なる流しのものであるという行為にとどまる限り、それを法律をもって禁止するということはできないのではないか、かように考えております。
  107. 市川房枝

    市川房枝君 まあ公式論の問答をしておっても始まらぬので、警察というところはこういうところではそれ以上はおっしゃれないかと考えますけれども、三年前に厚生省風紀に関する通牒出したってそれが全然効果がないということはさっきお認めになったわけなんでして、いまの局長のおっしゃることも、これは実際には私はたいして効果がないと思います。これ以上あなたに伺っても、もう少し上のほうの方にこの問題はお話しするよりしょうがないから、一応きょうの私の質問はこれで終わります。あと、この問題については続いて伺う機会を得たいと思います。  質問は一応終わります。ありがとうございました。
  108. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 速記をとめて。   〔速記中止〕
  109. 和泉覚

    委員長和泉覚君) じゃ、速記を起こして。     —————————————
  110. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 次に、少年法改正に関する件について調査を行ないます。稲葉君。
  111. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 「少年法改正に関する構想説明(要旨)」というのが法務省から二、三日前に出たわけです。で、こういうことの内容にこまかく入っていきますと、率直に言ってこれは法務省のペースに巻き込まれるような形になるわけですが、法務省はこれは盛んにもっと取り上げてほしい取り上げてほしいという意向でしょうから、そこへ巻き込まれてもあれですから、こまかいことはお聞きしないで、大ざっぱなことを聞くわけであります。  そこで、その前にお聞きしたいのは、最高裁判所の事務総局の家庭局ですか、ここで去年の十二月に「最近の少年非行とその対策について——少年法改正をめくる諸問題——」というのを出されて、その後にそれを要約したものをことしの一月に出されているわけですね。そこで、最高裁のほうにお尋ねするわけですけれども、最高裁としてはどういうような考え方からこういうような「少年法改正をめぐる諸問題」というようなことで、家庭局ですけれども、相当部厚な資料を出されたのか、最高裁のほうからお尋ねしていきたいと思います。
  112. 細江秀雄

    最高裁判所長官代理者(細江秀雄君) ただいまお尋ねの点でございますが、少年法改正問題は従来からいろいろと論議されておりますので、また、私たちのほうの実務家の会同でもしばしば問題に取り上げられまして論議を尽くされておりました結果、それらのいろいろの従来の会同なんかでもあらわれました議論の結果をまとめまして、少年法改正の問題とともに最近の少年非行の趨勢ということについてやはり世間一般の方々に認識していただきたいという趣旨のもとに出したわけであります。
  113. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、これは、家庭局としては、あれですか、相当研究した結果のいわば決定版と言うと語弊があるかもしれませんけれども、それに近いものとして承ってよろしいわけですか。
  114. 細江秀雄

    最高裁判所長官代理者(細江秀雄君) 最高裁判所の見解としては、まだ固まっておりません。ただ、従来家地局が主宰しますところの会同などであらわれましたところの実務家の見解というものをとりまとめ、また、その見解について私どものほうで検討した結果をそこに書いたわけであります。
  115. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 法務大臣にお尋ねするわけ、ですが、この「少年法改正に関する構想説明」というのを出された意図といいますか、どういうお考えのもとにこういうふうなものを特に出され発表されたのか、そういう点はいかがでしょうか。
  116. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) これは、昨年あたりから、国会で、少年法の問題が新聞等でときどき問題になりますので、よくお尋ねをあちらこちらで受けました。そのときに、いま少年法を改正すべきでないかというので研究をいたしております、しかしまだ研究をいたしておる途中であり、それはいま私の考えでは、こういうものがいいときまったということで法務省案としてほんと成案として出さないで、できれば複数にして出して、そしてそれに対して世間の意見と申しますか、専門の方々、あるいは国会の方々、ジャーナリズムの関係人たち、各方面の意見を聞き、もちろん最高裁とはよく打ち合わせをいたしますが、これは内輪のことでございます、そういうこと等もいたしまして、そして成案をひとつ得て、できればなるべく早い時期の国会に提出するようにしたい、青少年問題というのが非常に大事な問題として取り上げられておりまするその一環の作業といたしまして、非行青少年の問題というのは非常に大事な問題として私ども考えておりますので、いものももではどうも十数年の実施の結果は必ずしもこれでよろしいいと言えないんじゃないか、これでいいという声もありますけれども、これを改めるべしという声のほうが大きいようにも私ども思うので、そういう方向でひとつ調べを急げ——ということを私は下僚に命じておいたわけでございます。そうしてでき上がったのがこの間発表したようなものでございます。そういうふうないきさつで出したわけでございます。
  117. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 実施した結果いろいろ問題点が出てきたからだと、こう思いますが、大臣の発表のときの談話によりますと、これは占領政策の一環というか、占領下の立法であった、そういうようなことで、何か日本の現在の状態にぴったりしないものがあるんだと、こういう意味のことが言われているようなんですが、少年法というものが現在の日本の状態に合わないというふうにお考えなんですか。それかどこにどういう点が合わないというふうにお考えでしょうか。
  118. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) それは、現行の少年法がこしらえられたのが占領治下であったということを言うたのが、何かそれが特に目立って響いたかもわかりません。その時分にこしらえ上げたのであって、その時分に進歩的な意見として取り上げられたものであっても、ずっと十数年やってみると日本の国情に必ずしも合わぬというものが起こってきたというようなものも考えられる場合がある。というのは、すべての法律、特に青少年問題等になると、国の歴史とか、あるいは国の地理的関係とか、いろいろの情勢が考慮されて、青少年というものがどれくらいから青少年になるかというような問題等も考えられる問題でありますので、ただ規定の上でこういうことがいいということだけで機械的にそうきまる問題ではないというようなことから、まあ十数年の実施の結果、いま振り返ってみるべきときにきている、そういう意味において言ったのであります。
  119. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 一般論はわかるんですけれども一般論ではなくて、具体的に少年法がそれではわが国の国情に必ずしもぴったりしない点が多かったんだということになってまいりますと、それではどういう点がわが国の国情に合わないというふうに法務省としてはあるいは大臣としてはお考えになったのかというわけですがね。
  120. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) それは、第一は年齢関係でございます。少年法においては、二十歳未満を対象にしているわけでございます。これをいろいろいままでの経験から考えまして、どうもこのままでは、少しもう一ぺん考え直すべきではないかというようなことで、第一案、第二案というような考え方を発表したようなわけでございます。
  121. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 年齢の点だけが改正の要点ということになってくるわけですか。そこが基本で、そこからいろいろの問題が出てくるんだということに承ってよろしいわけですか。
  122. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) それが基本で、「少年」はどれくらい、私どもの言っている「青年」はどれくらい、それから「成年」はどれくらいの年と。そうなりますると、それの非行をした場合には何を適用するかというような問題が起こってき、そうすると、それに対する手続の問題がいろいろと変わってくるわけでございます。たとえば、そういたしますと、それから先は内容の問題になりまするが、たとえば刑事問題は刑事訴訟法によってやりまするが、保護の行き方にいたしましても、いままでの保護の行き方よりももっといろいろのこういうふうなものをいろいろやったらどうであろうかというようなこと等を実際の結果からみてわれわれの考えているようなものを加えて発表しているというような次第でございます。
  123. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 前にお話がありましたように、総合対策の一環としてこの法の意味があるんだというようなことですね、これはそのとおりだと思うんですが、そうすると、その総合対策というものをどのようにして立てて、将来どういうふうに運用していくかということ、これは内閣全体の問題になるかもわかりませんですけれども、あるいは所管としては総理府かもわかりませんけれども、法務大臣として少年に対する総合対策をどう考えておられるのか、その中で少年法というものの位置づけというものをどう考えておられるのかということですね。
  124. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) 私どもの関与いたします非行少年の部分は、これは非常なおしまいの部分と申しますか、青少年の悪くなった部分でございます。そうならないようにする前段が一番大事なことだと、これが青少年対策の根本の大事なことだと私は思っております。それはどういうところから来るかというと、いろいろの総合対策ということばに尽きるわけでございましょうが、私ども考えるのは広い意味の教育問題だと思っております。そうして、これら子供たちが明朗な、そして順法精神が植え込まれた正しいりっぱな青年に育っていく、そして朗らかな青年、健康な青年になっていく。私は体育協会の会長をしておりますが、宣伝のようなことであれですが、この体育協会を引き受けたのは、実は青少年問題の一翼をになったつもりで引き受けているわけでございます。健康な精神は健康な肉体に宿るという昔からわれわれ子供時分から言われたことは、どこまでいっても真理だと思っております。そういう点において一つの大事な部面があると思います。非行をしないようないろいろなものに力を入れて、やむを得ずそれでもいろいろな環境で非行をする、家庭の事情等の問題もあるでありましょう。そうなると、そういう問題はどこかと申しますと、家庭のそういうような問題は、厚生省のいろいろな社会施設の問題等にも及んでくるでありましょう。というような、これはどこか一つ飛び出してやっていく、そこだけで即効薬というものはないことは御承知のとおりでございます。これが、小さい、そんなことじゃしょうがないじゃないかと言われるかもしれませんが、内閣に青少年局を設けて、みんな各省の行き方等をまとめてやっていこうというような方向にいたしたわけでございます。それにはもっともっと力を集めて、もっと予算をとり、もっといろいろな計画等も総合的にやらなくちゃならぬ問題だと私は思っております。まだそれの方向が十分出ていないのではないか。そうなると、こういう問題だけお先走りをしているのはどうかという問題も出るかもしれません。これはこれとして、いままで長年調べてきて、青少年たちを普通の状態に早く返して、そしてすなおな国民に仕上げることができるようにする一番いい方法はどんなことかというような意味考えて、その意味からいたしまして、昨年あたりから私は思いもかけぬことでございましたが、裁判所と法務省の縄張り争いというようなことをよくいわれましたが、これはまことに残念なことでございまして、そういうことであってはならない。もっと高い立場から裁判所も考えておられるし、われわれも考えておる。青少年をどうするかという立場でわれわれは考えておるのであります。そういう意味で話し合おうじゃないかといって、最高裁の長官はじめ局長さん、皆さん方も同感だと御賛成をいただいて、これからさらに私ども出した問題等についていろいろな意見出し合って、話し合いをこれからだんだん進めていこう、こういうふうに思っているわけでございます。
  125. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 法案が出たわけでもまだございませんし、そういう段階で深入りすることは私も避けたいと思いますが、青少年法といいますか、あるいは少年法の改正といいますか、いずれにいたしましても、それの実施に至るまでの段階というか、めどというか、それは具体的にはどういうふうにお考えになって、いつごろこの改正というものを国会に提出したいとか、こういう点はどういうふうにお考えなんですか。
  126. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) この間ああいうふうに発表いたしました。これで、内輪では私のほうと最高裁のほうとよくいろいろな点でこれから御相談をいたします。最高裁は最高裁でいろいろ研究いたしておりまするし、また、なお研究していただいて私どものほうでまた話し合いを続けていきます。それから新聞のほうでも幸いにいろいろ意見出しておりましたが、さらにこれからいろいろな形で意見も聞きたいし、それから各政界の方面、あるいは学界、こういう問題に特に熱意を持っておられるような方面には特にお願いをいたして、こちらのほうから意見を聞くというようなことも、できるだけ広くこういう方面の意見を聞いたらどうだろうという注意等がどこからか出てくれば、そういうところからも喜んで意見を聞くという、各方面に意見を聞いて、そうしてできるだけひとつ広く聞いてまとめるという方向を出しまして、それからおしまいは法制審議会の議にかけるというのが御承知のように法案の手続でございます。これは大事な基本法の一つでございますから、当然そういう手続を経なければなりません。私はいまからずっとそういうものを急いで、できれば次の通常国会にも成案ができればけっこうだというつもりでいろいろ言っておりますけれども、それは少し早過ぎはせぬか、そこまでなかなかいかぬじゃないかというような声もございます。しかし、ただ聞いているのだというようなことでありますと、のんべんだらりとなってしまう。目標をこの次の通常国会に間に合うぐらいの意気込みでひとつあちらこちらの意見を聞いて、そして努力をしてまとめていこう、こういうような心組みでいるわけであります。
  127. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 ちょっと関係するんですけれども、刑法の改正ですね、全面改正するという話があって、法制審議会にかかっておりますが、これはどういうようなめどでおられるわけですか。
  128. 津田實

    政府委員(津田實君) 刑法の全面改正につきましては、すでに約三年近くなるわけでございます。そこで、これにつきましては、現段階におきましては、諮問されました案を刑事法特別部会で審議いたし、さらにその下の五つの小委員会に分けて各条文にわたって審議をいたしております。この三十日、三十一日にも特別部会を開くことになっておりますが、それは、それまでの段階におきまして各小委員会でまとめた考え方要綱を特別部会にはかっていろいろ意見を聞く、まとめるものはまとめる、こういう形で進んでおりますが、いまのところ小委員会の作業もなかなかいろいろと困難な問題がございます。特に保安処分の問題等は新しい問題でありまして、なかなか進行いたしておりませんが、いまのところは、まあできれば本年中ぐらいに部会の案がまとまればと考えられておりますけれども、これはなかなかむずかしいのではないかと思いますので、部会の案がまとまるのはあるいは来年のいまごろになるかもしれぬというような予測もあるわけであります。そういたしますと、それから本会議、法制、審議会の本会議にかけますというような段階も出てまいりますので、いまからいつ成案を得て国会へ提案できるかという時期は予測しがたいのでありますけれども、まず次の次の通常国会が一応のめどになるのではないかというような考え方でいる次第であります。
  129. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 いまの刑法の改正の問題ですが、そうすると、法制審議会の刑法部会のメンバーの人と、こういう少年法の改正が出るとすると、法制部会のメンバーと、ほとんど事実上同じ人になるのじゃないか。あるいは多少違うかもわかりませんが。そうすると、法制審議会で刑法の全面改正が済まないというと、この問題も法制、審議会にかけても、実際には進まないという結果が出てくるの、じゃないですか。だから、刑法のほうが終わってからこれを法制審議会にかけるという形になるのですか。
  130. 津田實

    政府委員(津田實君) これは、法制審議会に対する考え方ではそうではなくて、並行と申しまするか、現在、刑事法特別部会というのが刑法全面改正問題に専念しているわけでありますが、まあいま現在私の考えでございますけれども、少年法をいよいよ法務省原案というものができてかけます場合には、やはり少年法特別部会というものができるのが相当だと思うのであります。したがいまして、それが刑事法特別部会あるいは刑事法部会と委員が共通する方もありますけれども、また少年法は少年法の分野でやはり特別の専門家もおられるわけですから、そういう方も含めましてやはり少年法特別部会で審議するということになろうかと思うのであります。そこで、それらの部会はただいまその刑事法特別部会は年に数回開いておるわけであります。小委員会は毎週開いておるというようなことでございますけれども、そういうようなことでありますので、やはりその間を縫って少年法の問題についても審議をするだけの余力はあると私は考えます。
  131. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 問題をもとに戻しますが、大臣、いまの少年法の改正の問題ですね、このことに関連しては、最高裁側に反対意見がある、相当強い反対意見があるということは御存じでしょうか。
  132. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) 私は、直接にこういう案をもってこれでどうだというふうにお話し合いをするようなことを前にやって、それに対して討議をして、これに強い反対とか賛成とかいう意思を表示されたことを聞いたことはないのでございます。いままでの、さっき話が出ましたように、事務的段階において、自分たちはこういうふうに考える、自分たちはこういうふうに考えるというようなふうに、私ども刑事局のほうの事務的な考え刑事局のほうで言ったり、あるいは家庭裁判所のほうの係の方が言われたりしておったのが、何か非常に戦いをやっているようなふうに伝えられたのでございまして、まだ話し合いの段階に入っているわけじゃないのでございます。私はこれはこういう一つの提案をして、これによってひとつ話し合いをしていこうということを申しておりまして、そういうことでこの間からいろいろお話し合いをしております。また、きょう事務総長が見えておりますが、事務総長のお話は、私は新聞で拝見したのですが、私たちの提案に大体心持ちは賛成、そういうことで話し合いをして、自分のほうも勉強してひとつお互いに大事な問題だからひとつ討議し合っていこうということを言っておられる状態で、いまけんかし合っているというふうなことはありません。
  133. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 けんかしているかいないか聞いているわけじゃありませんけれども、   〔委員長退席、理事木島義夫君着席〕 また、けんかの定義というか、内容にもよりますから、ここでそれを言っても始まりませんけれども大臣としてはというか、法務省としては、最高裁側と意見が一致しなければこの改正は提案しないというか成案を得られない、こういうことはお約束できるのでしょうか。
  134. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) それは、ちょっとこの間も私は最高裁の長官と立ち話をしたのでありまして、人間は意見の相違というものはあるもので、親きょうだいでも意見の相違というものはあるけれども意見の相違に持っていくまでに、いやなへんてこりんな感情を持ったりなんかしないで、何でもかんでも打ち明けて、もう変な誤解のないようにする、すっかり打ち解けてすべてを投げ出して、共同してどうやったらいいかという心持ちでこの問題等は研究していく問題だということを、二人とも同じようなことを言い合ったのでございます。そういうふうにして、両方の話が、こういうふうなものが一番いいのだということに話し合いができれば、一番けっこうでございます。最後にどうしてもこういう意見とこういう意見とがあるということでありまして、かりに私どもがこれはやはりどうも出したほうがいいということであれば、私どもは私どもの提案をいたします。しかし、そういう場合にも、裁判所の側でこういう意見を持っておられるというようなことであるということであれば、こういう意見もあったのだということもあわせて持ち出して皆さん方の御意見の参考に資したい。そうして、皆さんも判断していただきたい。私ども出して私どもが無理やりに通すということは、皆さん方が論議をしていただく問題でありまして、そういうふうにして出します。
  135. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 法務省と最高裁側とが意見が一致してそうして成案を得て出すのが好ましいということは、これはそのとおりなわけですか。
  136. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) それは好ましいと思っております。
  137. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 意見が一致しないで法案をかりに出したところで、現実に裁判をするのはこれは裁判所側なわけですね。そこで、重要な点で意見が一致しないで法案ができても、その運用がうまくいくわけはないと、こう私は思うし、いわゆる裁判法のようなものを法務省が立案して提案するという行き方自身にぼくは疑問を持つのですけれども、しかし、これはいろいろ憲法上の問題もありますから、むずかしい問題もありますから、ここでは触れないことにしますけれども、いずれにいたしましても、最高裁側の意見というものを十分聞いて、一致した上で出すように——出すようにというか、出すのをすすめるわけじゃありませんし、私ども内容をまだ十分検討しておるわけじゃありませんし、これはむしろ法務省側の意見には反対のような空気がどんどん強まってくるのじゃないかと、こう思いますけれども、これはあとの問題としまして、十分そういう各方面、特に裁判所側との調整というか、これは当然はかっていただきたい、こういうふうに考えます。  そこで、最高裁の事務総長の、法務省が発表したものに対する談話を見てみますると、これは談話ですから、書いたものを読まれたのか、そのときの経過がはっきりしないのですけれども、あれですか、裁判所側のいままでの改正意見と今度の法務省の意見とが一致する点もある、一致しない点もある、こういうことのようなんですけれども、一致する点もあるわけですか。
  138. 岸盛一

    最高裁判所長官代理者(岸盛一君) この私の談話を発表するに至りました経過を簡単に御説明いたします。  ちょうど今週の月火と、裁判所のほうでは、新聞で御承知と思いますが、全国の高裁長官・所長会同をいたしておりまして、その初日の二十三日の午後に法務省からこの構想の要旨というものをいただいたわけなんであります。したがいまして、内容を十分検討するひまもなかったわけですが、ざっとめくった感じでとらえた印象に基づいてああいう談話を発表いたしました。その談話も、ちょうど会同中でございますので、私が会同の席でつくりまして、それを印刷にして、そうして広報課長を通じて発表してもらったのであります。その中に、一致する点もあるし、一致しない点もある——これまで最高裁判所といたしましても、これが最高裁判所の確定案だというものを発表いたしたことはございませんで、先ほど法務大臣からもお話がございましたが、事務段階の折衝でいろいろ意見が分かれた、そういうものは資料となってわれわれのほうにもございます。そういうわけで、完全に一致しておるという点もたくさんございます。それは、執行面を充実していく、これは裁判所の古くから強く主張しておる点でございますが、それ以外の点につきましては非常に裁判所の機構というものに影響を及ぼす問題を含んでおりますので、それを十分裁判所としては検討いたしたい。しかも、そのときの法務省のほうのお考えでは、これはほんの説明の要旨であって、近く二百数十ページにわたるこまかい説明書を発表する、そういうことでございますので、この案を読みましてもその案の結論の根拠はこれで知ることはできませんで、その詳しい説明書ができましたら、それに基づいて十分法務省案というようなものを検討した上で裁判所側の考え方をきめたい、こういう次第でございます。
  139. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 最高裁判所というか裁判所側には法案の提出権がないわけですね。法務省を通じないと法案を提出できないわけです。ですから、結局、いろんな法案を提出するときに、何といいますか、法務省側にチェックされるわけですね。ことばがチェックというのが悪ければ何ということばを使ったらいいかは別として、法案の提出権かないものですから、結局、何かやろうと思っても、法務省の言うことをある程度聞いていかないと自分たちのいろんな面で不利になる——と言うとことばは悪いのですけれども、そういう面が現実にあって、結局法務省の案には裁判所側はあまり強く反対できないというのが現実の姿であって、そういう点から下部には非常な不満があるのではないかと思うわけですね。この最高裁の岸さんの談話などについても、非常にこれはやわらかすぎてというか、いままでの最高裁の態度と違うじゃないか、すでに法務省側に押し切られたような印象——と言うと語弊があるけれども、何といいますか、遠慮している、そういう空気が非常に濃厚のようにぼくにはとれるのですがね。これはお答えいただかなくてもけっこうですが。そういうようなことから、どうも何といいますか、そういう点で弱いものがあって、自分たちの主張を十分法案の成案を得るまでに主張できないうらみがあるのじゃないか。現実にそういうふうなきらいがあって、強く法案のときに主張できないという傾向が最高裁側にあるんじゃないですか。
  140. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) ちょっと私に先にやらしていただきます。  私どもが法案提出の便宜があるから抑えつけ得るように聞こえますが、私は、この問題について、さっきも申し上げましたように、法務省と最高裁との間のなわ張り争いみたいな感じになる、そうなってはこの法案がまことに残念なことになるということを一番考えておる次第でございます。最高裁とこの問題を根こそぎ持ち寄って、根こそぎどんどん議論し合って、そうしてどんどん話し合って、両方で最高の案はどうだということで共同作業をするというような、向かい合わないで一緒になって作業する、ような心持ちでこの問題と取っ組むようにしてくれということを次官はじめ関係者にも言っておるわけであります。このように厚い本ができるので、こういうふうなものが近く関係者のほうへいくのであります。そうしたら、ひとつその上でそういうような心持ちでやってもらって、そこで議論の差がありましたら、私どもはこう思うてこういう提案をしたのだけれども裁判所側でこういう意見があったんだということをさっき申しましたように持ち出して皆さん方の意見資料にするというようなことで、私は押しつけがましいようなことはしないつもりであります。ぜひそうやっていきたいと思っております。
  141. 岸盛一

    最高裁判所長官代理者(岸盛一君) 先ほど、この談話ですね、裁判所が押しまくられたのじゃないかという御懸念なんですけれども、そういうことでは決してございません。それは事のいきさつから申しましても、初めてちょうだいした構想であり、まだ内容も十分検討しておりませんので、しょっぱなから法務省とディスカッションする、そういう段階でもございません。決して法務省に首を締められて裁判所がじっとしておるというようなことではございません。
  142. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 この談話だけをとってかれこれ言っているのじゃないわけなんですけれども、この談話すらも裁判所の中で不満がありますよ。おかしいじゃないか、いままでの最高裁側の主張なり家庭局の主張と全く違うじゃないか、それをもうすでに引っ込めたようにとれるじゃないかというような意見が相当下部に出ているわけです。それはそれとして、このことだけを言うのじゃなくて、全体として、これは一種の裁判法、裁判所法みたいなものですわね。元来、あれは裁判所がつくって提出するのがほんとうかと思いますけれども、そうなってくると法案提出に対する責任を負わなきゃならないということになってきて、三権分立の問題になってまいりますから、それは別として、いろいろ問題があると思うんですけれども、まあ大臣が言うように、一緒になってやる、向かい合ってやるのじゃなくて一緒に合同してやるような気持ちでやりたいと言いますけれども、そうすれば、法案なんかできっこないじゃないですか、全然根本的に意見が違うのですから、基本的に。全くできっこないと見るのがぼくは妥当だと思うんですがね。  それは議論のことですから、これ以上言いませんけれども、要望するのは、いま大臣がせっかくそういうふうに言われたのですから、最高裁側も、こういう法案のときに遠慮しないで——自分たちで法案をつくったときに、法務省のほうでなかなか提出してくれないとかなんとか、意地悪なわけじゃないでしょうけれども、まあことばは悪いですけれども、ともかく遠慮しておるわけです、いろんな面で。それで陰でぶつぶつ言っているというのではよくないと思いますから、最高裁側も遠慮しないで、こういう法案としては、こういう点が反対なんだと主張すべきものは徹底的に主張していくようにしてほしいと、こういうふうに考えるわけです。それだけちょっとお答え願えればお答え願って……。
  143. 岸盛一

    最高裁判所長官代理者(岸盛一君) これまで、この少年法は別としまして、裁判関係の法案を国会に提出する際に、いや、その前に法制審議会に出す案ができる経過におきまして、裁判所側と法務省側とが全く意見が対立したままで法務省に押しまくられたという例はございません。常に話し合って、そうして両方、か納得する妥協点を拠出して成案を得てはじめて法務省のほうでは法制審議会を開いておられましたのですが、まあこの少年法は今後これからの法務省との折衝でございますので、御趣旨は私もよくのみ込んでおります。
  144. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 あまりそういう内輪の話をすれば、かえって皆さん方の中に御迷惑かけてもいけませんから、この程度にしてやめます。  そこで、石井さんがこの前、急遽かどうか、鑑別所や少年院ですか、どこか視察されましたですね、ことしですか。どことどこを視察されて、率直な話として、たいへん失礼ですけれども、どういうふうなことを視察の中からお考えになったか、ちょっとお聞かせ願いたいと思うんですけれども
  145. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) 私は、そのとき、女子の少年院とそれから保護施設を一つと、それから少年鑑別所、それから男子の少年院と、それを見まして、私の通しての考えは、これらのところを預かっておる人たちが親身になって、親とかきょうだいとかいうような心持ちでそこにはいっておる人たちをみてくれるかどうかということが、この仕事のうまくいくかいかぬの分かれ目だと、こういうふうな感じがしました。夫婦で非常に親身になってやっておられます保護施設なんか見ますると、まことにうまくいっておるようであります。少し人数が多くなって、やむを得ず機械的になりやすい傾向を持ちますと、だんだん心持ちが離れていくのじゃないか。そこをもっと心持ちを近づけなきゃいかんのじゃないかというような感じを、私はまあ全体を通してはそういうふうな感じがいたしました。そういうふうな心持ちですべての施設はやってもらいたいということを、帰ってから関係局長を通して、見たところも見なかったところに対しましても、注意というか、私の心持ちを伝えてもらったわけであります。
  146. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 いまのお話は、率直な話、ぼくは法務大臣としての視察の結果としては何かこう少しポイントが違うような気がするんです。どこかの町の教育者か何かが視察されたような印象を受けるんです、失礼ですけれども。  それは別として、そうすると、そういうようないろいろな施設なり何なりを具体的に少年法の改正が行なわれない段階においても何らかの手を打って拡充しなければならないとか、いま言われたように、教師が少なくて収容しておる人が多いから、十分やれなくて機械的になりやすいとか、いろいろな問題があると思うんですが、この法律の改正というのはそう簡単にはぼくはいかないと思うんですよ。各方面の意見を聞き、法制審議会を通ったとしても、三、四年ではなかなかいかないのじゃないか。ぼくはもっとかかるというふうに思っていますがね。ですから、その間、現在の少年法の中で非行少年の対策としてやれることが当然あり得るわけですね。そういう点を具体的にどういうふうに進めていかれるのか、こういうようなことを私はお聞きしたいと思うんですがね。これはあるいは矯正局長なり何なりのお答えでもけっこうだと思います。
  147. 布施健

    政府委員(布施健君) ただいま御指摘の施設あるいは職員の問題でございますが、確かに私ども少年法の改正の問題と切り離しましてもこの面ではやはり充実を期していかなければならないと考えておるわけでございます。  そこで、ちょっと申し上げますと、少年院は、昭和二十四年に少年院法が施行されましたとき十二ございました。その後拡充いたしまして、急激に拡充したために、あるいは保護施設の転用、あるいは旧軍事施設の転用といったようなことがございました。それらを内訳してみますと、国が設けたもの——国が設けたと申しますとおかしいですが、国が少年の施設として最初から設けたものが、いま少年院が六十二ございますが、そのうち十六でございます。それからあとは保護施設からの転用、これが二十四ございます。それから旧軍事施設からの転用、これが十一ございます。その他病院であったとかその他の施設から転用したものが十一というふうな数字になっております。年々この施設の充実につきましても努力いたしてまいりまして、現在の状況では、完成ということになっておりますのが二十、それから現在全体改築中のものが四つ、それから新しいもの、これは宇都宮等にできておりますが、そういうものもございますし、それから改築を要するもの、これは十九ばかりあります。それから一部の改築を要するもの、これが九というのが大体の数でございます。老朽の度合い、あるいは施設として適当であるかないかという点、そういうものを考慮いたしまして、順次これを改築しあるいは新設するというような方法で努力いたしておるわけでございます。  それから職員の問題が出ましたので、それについて申し上げます。職員につきましても、これは先ほど大臣からも申されましたように、きめこまかくやっていくためにも職員というものは非常に大切なわけでございまして、職員の増員につきましても年々努力いたしておるわけでございますが……
  148. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 こまかい点はいいですよ、きょうは。
  149. 布施健

    政府委員(布施健君) 四十一年度におきましては二十名の教官の増員を得まして、二千七百六十三という数になっております。これで十分というわけではございませんので、今後さらに増員につきましても努力いたしたいと考えるわけでございますが、なお、職員の資質の向上といったような点につきましても、最近は心理職の上級試験を通った者、あるいは矯正保護上級職員の試験も人事院と相談しましてやっておりまして、そういうものに合格したという者を逐次入れまして、だんだん質の向上につとめておるというのが現状でございます。
  150. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 問題がそれますから、もとへ戻ります。きょうはこまかい内容を聞くのが目的ではありませんので、ここら辺のところできょうの質問は終わりにする予定なんですが、結論的に言って、この少年法の改正の問題については、大臣のほうで、各方面の意見を十分に聞くと。各方面の意見の中に、法務省の考えておる少年法の改正に反対の意見も相当あるわけです。この中の個別的にこまかい点を言いますと、ぼくら賛成のところがあるわけです。それは別として、全体の問題のポイントの点についてはいろいろ反対の意見も各方面にあるわけですから、そういうような反対の意見、これは最高裁にもあるし、その他のところにもたくさんあるわけですから、そういうような声も十分聞いて、そして非常に無理に拙速で急ぐという行き方はとらないようにぼくはしなくちゃいけないと思うわけです。何か少年犯罪が非常にふえてきたと。これはふえてきたかふえてこないかは統計のとり方によって違うところですけれども、そうすると、すぐにそこへ飛びついていって少年法を改正したい、こういうような行き方が往往とられるわけですね。これは決して今度のものが大臣の功績をあげるためにやったということを言うわけじゃございません。石井さんがここで法務大臣として功績をあげたって、どうということはありません。どうということありませんということばは語弊がありますけれども、そういう意味でやっておられないことは私はわかりますけれども、何か問題になればすぐに飛びついてすぐ法律を改正すればいいんだという非常に拙速なものの行き方は避けなければいけない。こういう刑事法の基本的な問題ですから、十分慎重に、しかも反対の各方面の意見を聞いてこの法案のこれからのことに処していただきたいということをぼくは最後に要望をして、きょうは概括的なことですから質問を終わります。その要望に対して最終的に大臣からお答えを願えればしあわせだと思います。
  151. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) ただいまの稲葉君の意見に全面的に私は賛成でございます。意見を十分聞くということのために、こういうふうな複数案みたいなものを出したのもそういうわけでございます。各方面からいろいろ意見の出ておることでございますし、いま出ておる意見でも賛成もあれば反対もあり、その中にはそんなことせんでもいいという声もすでに出ております。そういう声、他山の石とすべきものが当然たくさんあるに違いない。そんなものはほったらかして、賛成した者があるということだけで、もうこのとおり賛成があるんだということで急げというようなことはしないつもりであります。慎重に、さっきも申されましたように刑事法の基本法の一つでございますから、その心持ちは忘れないでやりたいと思っております。
  152. 亀田得治

    ○亀田得治君 最高裁のほうにちょっと聞いておきたいんですが、法務省の考え方に対していろいろ意見のあることはわれわれも聞いておるわけですが、最高裁自体としてはもちろん機構として意見の結論を出したものはないというふうに聞いているわけですが、いずれにしても、最高裁の皆さんの立場から見て、現在の少年法でやっていけるんだという考え方に立っておるのか。そうじゃないんで、やはりいままで取り扱った経験上、いろいろやはり問題点がある、この辺に手をつけなければならぬというふうな考え方に立っておるのか。ともかく、法務省の出したものを批判するということもよろしいが、本来私は主体は裁判所のほうになければならぬと思っておる問題なんでしてね。皆さんのほうがむしろ原案を出して、それに対していろんな意見が出てくる。しかし、手続としては法務省のほうに回すということであってもいいわけですがね。しかし、その根本は、何か最高裁のほうが人のつくったものに意見のを出しておるというようなかっこう自体にどうも腑に落ちない点がある。そこで、いま私がお聞きした点について、大まかな点から言ってどういうふうに考えておられるのか。裁判官一人一人別なことを考えておるかもしれぬが、大勢としてその辺をちょっと明らかにしてほしいと思います。
  153. 岸盛一

    最高裁判所長官代理者(岸盛一君) 基本的な態度といたしましては、現行法のそのままでいいとは考えておりません。やはり手を加えなければならぬ部分があるということは、われわれがつとに主張しておるところでございます。単に今度の法務省案に消極的に賛成するという意味じゃなくて、むしろ積極的にこういう面を変えてもらいたいということが多々ございます。今度のこの構想案ですね、法務省としてはやはり裁判所の意見も十分聞きたいという意向を十分お持ちのことはよくわかっておりますので、われわれとしましては早々にこの問題についての実務家、専門家を加えた協議会を事務総局内につくりまして、そこでいろいろ検討して、そうしてなお主要都市の家庭裁判所の所長の会同も開催いたしまして、そうしてこの案に対する意見をまとめまして、そして最後は最高裁判所の裁判官会議の了解を得て、これが裁判所のこの案に対する意見である、そういう段取りで臨んでいきたい、こう考えております。
  154. 亀田得治

    ○亀田得治君 いや、そこが私ちょっともの足らぬと思うんですよ。裁判所側自身として、いままでの少年法の運用の経験にかんがみて、この点をこうしなければならぬとか、いろいろ意見があるというのであれば、そのものをまとめてわれわれとしては出してほしい。これは貴重な一つの経験なんですからね。法務省の案に対する意見というようなかっこうでは、やはり多少回り道といいますか、間接的なことになる。最高裁自体のそういう経験というものをそのものずばりで出してもらうことのほうが、われわれとしては両方なまのものをおのおの別個に見るのですから、問題点が非常にはっきりしてくるんですよ。だから、そういう作業をすべきじゃないか。それがまた、私は、ひいては法務省の案に対する最もいい意見出し方でもあろうと思う。大臣も率直にいろいろな意見を聞きたいと言っているのですから、そういう作業をやってもらえないか。私はいままでにすでにやってもらっておらなければならぬ問題じゃなかろうかと実は思っておるのですがね。どうなんですか。
  155. 岸盛一

    最高裁判所長官代理者(岸盛一君) その点は、まさにそのとおりの考えでわれわれはやっております。この案に対しましても、やはり裁判所の積極的な意見というものを法務省のほうに反映させるはずでございます。ただ意見を求められたからそれに対する答えをするというのじゃなくて、従来からも、少年法の、つまり、少年非行の現状をいかに分析するか、それからそれに対して家庭裁判所がどういう働きをしているかということについての見方、その認識について、正しい認識を持っていただくために、この前の資料出したわけなんでございます。あの中にもすでに裁判所側の積極的な意見が盛られております。しかし、ただそれは正式な意見としてじゃなくて、家庭局がとりまとめた資料として出ております。ですから、裁判所側の意見は、この間のあの説明書が基礎になりますが、しかし、さらにこの構想案に対して詳しい説明書を法務省のほうでこれから用意されるということでありますので、それを十分読んで検討した上でやるのが筋道だろうと思っております。そういう趣旨でございます。
  156. 亀田得治

    ○亀田得治君 私はよくこれを見ておらないわけでございますが、私がいま申し上げた点をもっと積極的に出してもらいたい、経験と事実に即したものをですね。この問題をただ抽象的に考えておりましても、どっちが結果においてほんとうに少年の利益になるのだろうか、なかなか判断がつきません、やはり具体的な論議になってまいりませんとね。そういう意味でこの要求をしたわけであります。だから、今後とも、法務省案に対する意見の開陳というようなことじゃなしに、いま申し上げたようなことで、もっともっと中身のある材料というものを整理されるように、これを要望しておきます。
  157. 岸盛一

    最高裁判所長官代理者(岸盛一君) 御趣旨はわかりました。われわれもその覚悟でこれからの事に当たります。
  158. 亀田得治

    ○亀田得治君 それから、先ほど、法務大臣は、稲葉委員の質問にお答えになって、法案の提案について無理はしないというふうに最終的にはお答えになりましたが、しかし、その説明の過程において、まあいろいろ意見は聞く、できるならばそれを一致させたい、しかし、どうしても一致しない場合にはやはり法務省案というものを出してそうして御審議を願わなきゃならぬかもしれぬという意味のことを最初に言われておるのですが、どうもそこら辺が本心じゃなかろうかというふうにも危惧の念をもって聞いたわけでございますが、これはともかく真理は一つでありまして、そうしてその現実の経験というものをほんとうに両方でずっと掘り下げて検討すれば、必ず一致し得るものだ、裁判所、検察庁、法務省といったような派閥的な立場というものを抜きにして検討すれば一致し得る問題であるというふうに私はまあ確信するわけなんです。ほかの政治的な問題と相当そういう意味では質的に違う問題があろうと思う。だから、そういうふうな問題について、かりにも一致しない場合にはともかくわれわれの案を出してというふうなこと——そういうことは第二、第三の考えで、原則じゃないのだということであっても、そういうことばが出るということは、私は多少危惧の念を感ずるのですが、それはどうなんでしょうか。先ほどのそのことを言われたときには、何かもう次の通常国会、もしできなければその次ぐらいにはどうしても出すんだというふうな意味のこともどうも含まっていたようでありますが、稲葉君の質問でだいぶ穏やかにはなりましたが、もう一度これは大事なところですからお聞きをしておきたい。
  159. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) さっき申し上げたのは、そうむずかしい意味で申し上げたわけじゃありません。いつごろまでに出すかといえば、次の国会までに出せるものなら出すというような心組みで一生懸命あちらこちらの意見を聞かないと、なかなかそのうちにとやっておると、一年二年とこんなものはたってしまうので、一こう勉強にもならない。そのうちそのうちということになってしまうから、およそのめどはそういうことにするのだけれども、必ずしもそれに間に合わなければ間に合わぬでもしかたがないという、期限はそうなんでございます。  それから、私は、最高裁とは内輪のことだから、もうどんどん論議し合って、一緒になって、向かい合わないで、同じものとしてどんなものが一番いいかということで話し合って、いま亀田君のおっしゃるように、真理は一つだから、一つのものができることを期待しておるのです。しかし、どういうことかで話がつかぬところもあるかもわからない。どういうことで——私どもが悪いかもわかりませんよ。裁判所のおっしゃることがよくて世間の声がどうかというような、いろいろなケースがあるかもわからないが、必ずしも一致しない場合でも、皆さん方にこれは批評していただく問題だから、そういうふうなこともある——根本的な問題でなくて違うようなところがあるかもわからない、末梢的なところで。そういうふうな何でもかでも完全に一致しないような場合があるかもわからぬけれども、そんな場合、かりに意見が違っておっても、こういうものとこういうものをあなた方に見ていただくというときは、最高裁ではこう言うておる、私どもはこう思うとるがいかがでございましょうというような形で出してもよろしいというような意味を申し上げたわけでございます。そういうふうな心持ちでありますから、決して出し抜いて、また私のほうが提出の便宜な立場にあるからしゃにむに押し通して何でも出して、そして多数で押し切ろうなんということの性質のものでもありませんし、こういうものの性質が、変なことでいがみ合うと、少年に影響する問題であります。少年の教育に影響しないような心持ちでやってまいりたいと思います。
  160. 亀田得治

    ○亀田得治君 まあいまお答えになったような気持ちで、ともかく、ざっくばらんに検討すればこれは一致するものなんだという立場でひとつ作業を進めてもらう、いやしくも一致しない場合にはというようなことは今後おっしゃってもらわぬことにする、そういう立場でかかってください。
  161. 石井光次郎

    ○国務大臣石井光次郎君) 承知しました。
  162. 亀田得治

    ○亀田得治君 われわれも、これはともかくこういうふうに問題が出てきた以上、ほんとうに研究したいと思っているんです。何といっても、法務省検察側の立場に立った事実、それから裁判所から見た事実、これがやっぱり一番われわれとして知りたいところでして、その事実をどう評価するのかという点、これは相当論議すれば——こんなことが一致しないようでは、子供の指導なんておとなはできませんよ。そういうつもりでひとつかかっていただきたい、お願いしておきます。だから、法務省もひとつそういう大きな気持ちで、裁判所もそんなあなた向こうの意見に対して批判しているというんではなしに、積極的な立場出して、自然にそれが両方から出しておったら、なるほどそれは出し方は多少違うが、うらはら一緒という形であるべきものだ。そういうかっこうじゃないと、国会に出されたあとの審議にしたって、上実行面においてだって、これは非常な影響が出る。意気込みですからね、検察官にしたって裁判所にしたって。その法案が何かくしゃくしゃの形で不承不承生まれてきたというんじゃ、それはほんとうにその気になって運用していくという面ではやっぱり欠けるところが出てくる。被害者は少年なんです。われわれもそういう覚悟で、この問題はひとつ法案作成の過程においても、いろいろなまた意見も出さしてもらいたいと思っておるので、まあひとつ大臣の誤らぬこれからの持っていき方、運び方を要望しておきます。
  163. 木島義夫

    ○理事(木島義夫君) それでは、これは終わります。     —————————————
  164. 木島義夫

    ○理事(木島義夫君) 次に、商法の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行ないます。質疑のある方は順次御発言を願います。     速記をとめて。     〔速記中止〕
  165. 木島義夫

    ○理事(木島義夫君) 速記をつけて。
  166. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 株式の、藤波方法のところをこの前やっておりましたから、この続きをいたしますが、株券の交付によって記名株式が移転するという場合には、交付というのはどういうものを含んでいるわけですか。
  167. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 株式を譲渡いたしますには、前回も申し上げましたように、譲渡契約のほかに、株券そのものを交付の相手方に交付ということになるわけでございます。これは現実に株券を引き渡す場合もございますし、それから御承知の占有改定その他の簡易の引き渡しによっても差しつかえないことであります。
  168. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 占有の改定や簡易の引き渡しの場合には、だれが株券を持っているのやら、それから実際に移転したものやら、わからなくなってしまわないですか。実際に移転してないのに、前にさかのぼって、簡易引き渡しや占有改定とかいろいろなことをやったんだという形をとることも考えられてくるんじゃないですか。現実に移転したのに移転していないというふうな、何といいますか、根拠を与えたり、逆な、移転してないのに移転したというふうな根拠を与えることもできてくるのじゃないですか。
  169. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 株式の譲渡の場合におきまして、株券の交付ということだけをながめますと、確かにおっしゃいますような疑問も出るかと思うのでございます。しかし、申し上げておりますように、単にこれは株券を交付するというそういう外形的な事、実行為のみによって株式の譲渡が行なわれるのではございませんで、やはり譲渡契約というのはこれは必要でございます。したがいまして、これは株券の場合のみに限りませず、一般の動産の場合におきましてもそうでございますが、やはり譲渡したということの立証はいかなる場合にも必要なわけでございまして、そちらのほうで何びとが株式の譲渡を受けたかということは当然証明され得る筋合いのものでございます。したがいまして、単に株券の所在がどこにあるかということによってのみ判断すべき問題ではございませんで、本質的にはやはり譲渡契約があるかないかということによってきまるべき問題でございます。
  170. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 その契約が、書面による契約で要式行為だとかいうようなことであればいいと思うのですが、口頭による契約でもいいわけでしょう。そして、自分が現実占有しているものが占有改定で移ったと、交付があったと、こういうふうな形になってくると、現実に記名株式が移転したのやら移転しないのやら、外形的には全くわからなくなってくるのじゃないですか。そういうふうなことがあらわれてきませんか。
  171. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 株式譲渡の要件といたしまして、単なる意思表示のみでは足りない、株券の交付ということを一つの要件として規定したわけでございます。このことが、一般の動産の場合と比較してお考えいただけますれば御理解が容易になるのではないかと思いますが、動産の場合でございますと、そのものの引き渡しということは権利の移転には必要ございません。単に契約がございますれば、それによって権利は移転するわけでございまして、これも必ずしもすべての財産につきまして書面による契約書が必要であるというふうなものではありませんで、単なる意思表示のみで転々と物の所有権は移転するわけでございます。それと同じように、株式の場合におきましても、譲渡契約というものがございますれば、それが一つの権利移転の証拠になるわけでございます。ただ、それのみでは足りないので、株券を交付するという要件をここに付加したのでございます。現在の株式の譲渡の場合におきまして、裏書きの方式が要件になっております。しかし、これとても、単に株券にそれを記載するというだけではございませんで、裏書きのための記名捺印をいたします。さらに株券を交付するということが要件になっておるわけであります。その中の記名旅印という点だけを省略いたしまして、株券を交付するということを今回の株式譲渡の要件といたしたと、こういうことでございます。  要は、その株券の所在いかんによって何びとの株式であるかということがわからないという御趣旨の御質問だろうと思いますけれども、これはすべての財産権の場合に起きる問題でございます。株式の場合に、従来裏書き方式をとっておりましたので、株券を見れば、一応何びとに裏書きされておるということが普通の場合にはわかるわけでございますけれども、それが実質的に意味を失っておるということから、今回のように交付のみを要件にしようというわけなんでございます。
  172. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、株式の移転は、当事者間では、意思表示だけでやはり効力を生ずるわけでしょう。
  173. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) これは新しい二百五条にございますように、「株式ヲ譲渡スニハ株券ヲ交付スルコトを要ス」と、こう書いてございます。したがいまして、意思表示のみでは足らないわけでございます。やはりそれに交付という要件が加わって、はじめて株式の譲渡ということが行なわれるわけでございます。
  174. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 交付は対抗要件ではないのですか。
  175. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 対抗要件ではございません。
  176. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、現実の交付じゃなくて、占有改定を認めるとなると、現実には事実上の移転がなくても、占有改定によって移転があったものとなってきて、それで株券を現実に所持している人が権利者じゃないということが起きてくるわけですね。
  177. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) これは、代理占有の場合を考えますと、当然にそういうことが起こるわけでございまして、現実の株主が株券を持っているかいないかということと、株式を譲渡するための要件としての株式を交付するということとは別でございまして、株式を譲渡いたしますには、譲渡契約のほかに株券を交付するという要件を一つ加えたわけでございますが、これは、対抗要件ではなくて、譲渡の要件の一つでございます。ただ、その株券を持っておる者に限って株主かということでございますと、必ずしもそうではないわけでございまして、代理占有ももちろん可能でございます。
  178. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 いままではどうなっているのですか。現行法では、意思表示だけによって株式が移嘱するのですか。
  179. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 現行法によりますと、裏書きの方式によって譲渡をするということになっております。この裏書きと申しますのは、株券に譲渡人の品名捺印をいたしまして相手方に交付するというのが裏書きでございます。それからもう一つは、譲渡証書をつけまして、株券にこの証書を添付いたしまして相手方に交付する、こういうことに現在はなっておるわけでございます。
  180. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、現行法でも、単に当事者間の意思表示だけによって当事者間では移転の効力は生じないんだという建前をとっていて、その点については今度の場合と変わりはないんだというふうに承ってよろしいわけですか。
  181. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) そのとおりでございます。
  182. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 しかし、日本の法律体系の中で、あれでしょう、意思表示だけによって所有権は移転するわけですね。あと対抗要件の問題ですね、民法の場合なんか。商法の場合だって、普通そういうふうにいっているのじゃないですか。
  183. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 動産の売買の場合でございますると、これは、民法におきましても、また一般の商事取引におきましても、意思表示のみによって権利が移転いたします。これが原則でございます。特別に要式行為としてほかの要件が加わっておりますれば、それが充足されませんと権利は移転いたしません。しかし、一般の場合には、意思表示のみですべて権利は移転いたすわけであります。ただ、動産の場合には、対抗要件として占有を移転するということが要件になっております。したがいまして、第三者に対抗するという問題が起きません限りにおいては、意思表示のみによって権利は移転いたすわけでございます。
  184. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 不動産の場合だって、日本の場合は、ドイツなんかと違って、登記によって権利が移転するわけじゃないですね。単なる対抗要件ですね。そうすると、そういう全体の法体系と、手形なり株式の場合には、現在の法律の中でもそれとは違った形をずっととっているわけですか。
  185. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 株式、あるいは手形も同様でございますけれども、譲渡いたします際に、その株券あるいは手形そのものを相手方に交付する、渡すということが権利移転の要件でございます。したがいまして、権利を取得した者は、当然そのものについての占有と申しますか、交付を受けておるわけでございますので、一般の対抗要件の場合とは違うわけでございます。対抗要件の場合には、単に意思表示のみで権利が移転いたしまして、第三者に対抗するためにさらにそれに加えて物の引き渡しが必要なわけでございます。こちらの株式の場合におきましては、譲渡契約のほかに、その株券の引き渡しということがございませんと、藤波の効果を発生いたしません。これは同時に株券の交付を受けておるわけでございますから、一般の動産の売買におきまする引き渡しに相当するものは、この譲渡の要件としてもうすでにその中に含まれております。そこが一般の動産の売買の場合とは違うわけでございます。
  186. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、株式藤波の契約があった、契約があったけれどもその引き渡しはずっとおくれていた、こういう場合は、株券の所有権というのは移らないわけですか。
  187. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) これは、株式を譲渡する一つの形式と申しますか、そういう手段といたしまして、株券の交付ということになるわけであります。したがいまして、譲渡契約をいたしましても、その当事者の間では株式を譲渡するという債権債務は発生いたすわけであります。しかし、商法で定めておりまする株式譲渡の要件は、それのみでは備わりませんので、その効力を発生させますためには、株券を交付するということが加わりませんと完全な効力は生じない、こういうことになっております。
  188. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、たとえば甲が乙にこの株式を涙渡するという契約をしていた、そうして履行しないでいて甲は内にそれを譲渡して、現実に交付してしまった、こうなった場合には、乙は、あれですか、不法行為か債務不履行か知りませんけれども、損害賠償の請求権というものは発生しないですか。
  189. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 甲が乙に株式を譲渡いたしますという契約だけいたしまして、株券の交付をいたさないうちに甲が内にそれを譲渡する契約をいたしまして交付いたしてしまいますと、乙は株式譲渡の要件を備えておりませんので、株式は取得いたしません。丙がむしろ要件を備えておりますので、丙が取得する、こういうことになります。そこで、甲と乙の関係は、これは当事者の契約の履行ができたかどうかという問題になってこようかと思います。したがいまして、乙としては、甲に対して、その履行をすることがもう不可能になっておるわけでございますから、損害賠償の請求はできるかと思います。たとえば、代金を支払っておるというふうな場合に、株券の交付が行なわれませんと、乙はそれに相当する損害を受けるわけでございます。したがいまして、これは譲渡契約を解除して損害賠償の請求は当然できる、このように考えております。
  190. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 いまの場合に、代金を支払っている場合は、それは現実に乙に移らなくても、甲なら甲が代理占有しているというふうに通常見られるのではないでしょうか。必ずしもそうは見られないわけですか。
  191. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) そこまで意思表示がございますれば、これは当然乙に移転しているというふうに見られる場合があろうかと思います。しかし、単に譲渡契約のみで、株券の交付に相当する、要件備わっていないという場合でございますと、株式の譲渡の効力は生じていないわけであります。
  192. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 いま言われたのは、乙が金を払ったら損害賠償請求権があるというふうに言われたような気がしたわけです。そうすると、株式を譲渡する意思表示があって契約が成立していたと、金を払っておったと、株券はそのまま甲が持っていたと、こういう場合、一体株券の所有権はどっちへ移っていることになるのですか、通常の経験則から言うと。
  193. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 譲渡の効力は生じておりませんので、それはやはり甲の株券ということになろうと思います。普通の一般の動産の売買の場合と違います。その場合には、甲は乙に株式を譲渡する義務を負担しておるわけであります。その段階でとどまっておるわけでありまして、さらに株券を交付いたしますと、株式譲渡の要件がそこで完成するわけであります。したがいまして、まだそこまでいっていない、甲は依然として株主たる地位にとどまっておる、こう見ざるを得ないと思います。
  194. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 しかし、契約が、成立していて、現実に金を渡して甲が受け取っておるという場合には、あれじゃないですか、当然株券を引き渡すべき義務があるのだけれども、それを乙の都合なり何なりで自分のかわりに甲がしばらく持っていてくれとかなんとかという意味にとれるのが普通じゃないですか。
  195. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) そういう場合でございますれば、乙に株式が譲渡されたと見るべきだと思います。先ほど私が申し上げましたのは、株券を交付するということの要件が備わっていないというふうにはっきりしている場合のことを申し上げたわけでありまして、いまおっしゃいますように、自後甲が乙のためにそれを占有しているという趣旨のことがはっきりいたしておりますれば、その株式は乙に移転しておるというふうに見て差しつかえないと思います。
  196. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、外見だけでは、甲が持っていても、それが甲のものだか乙のものだかわからないものが出てきますね。そういうふうなことで、それが甲から今度は丙へ、丙から丁へというように移ってきて、善意取得の問題が生ずることになるのですが、一般の取引の安全なり乙の権利というか、そういうようなものは十分に保護されるのでしょうかね。
  197. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) いまお尋ねのような場合は、非常にたくさんあり得る例でございます。    これは、この株式の譲渡方式を改正いたしましても また、現行法のもとにおきましても、起き得る問題でございます。たとえば、株式の白地裏書きをいたしまして、譲受人が何ぴとであるかということが裏書きの面でわからない。単にこれは株券の交付だけで転々譲渡されるわけでありまして、それで有効に株式の譲渡が行なわれるわけであります。その間におきましても、ちょっと株券を預かってもらいたいというふうなことが起きますと、それは譲渡とは無関係に株式の所在は株主のところからは離れてまいります。したがいまして、今回の改正によって特にその問題が起きるのではございませんで、現行法のもとにおきましてもそういう事例は多々あり得るわけであります。
  198. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 株式の譲渡が交付だけによって行なわれるようになると、あれですか、転々として流通する、しかもその間に盗難にあったという場合には、これは善意取得の関係はどういう条件で、取得者がどういう権利を取得することになるわけですか。
  199. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 株式が盗難にかかりまして転々と流通いたしまして、善意の取得者が取得したということになりますと、二百五条の第二項で株券の占有者は適法の所持人を推定するというふうになっておりますが、さらに二百二十九条の規定によりまして、小切手法二十一条の規定が株券に準用されてまいります。これは、現行法のもとにおきましても小切手法二十一条の規定が、善意取得の規定でありますが、これが準用されております。その関係で、善意取得者は株式を取得する、こういうことになるわけでございます。
  200. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 善意取得の場合に、盗難の場合にも善意取得者は保護されると。それは、民法の規定の場合と株券の場合とはどういうふうに違うわけですか。
  201. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 一般の動産の場合でございますと、民法の百九十二条、あるいはさらに盗難の場合におきましては百九十三条の規定がございます。ところが、株券その他の有価証券につきましては、その流動性と申しますか、流通性にかんがみまして、一般の動産以上にその流通性を保護することになっております。手形にいたしましてもそうでございますし、先ほど申し上げました商法の二百二十九条の現行法もそのようになっておるわけでありまして、これによりまして、民法の一般原則でございます百九十二条あるいは百九十二条の規定は株券については適用がない、こういうことになるわけであります。
  202. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 即時取得の例外としての百九十三条がありますね。そうすると、それは商法の関係一ではそれが小切手法二十一条になりあれされるわけですが、盗難にあって、この株券は盗難にあったんだから無効なんだということは、これは何らかの方法でできないんですか。
  203. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 普通の場合でございますと、とりあえずは、その被害者は株券の発行会社にその事故届けというのをいたしまして、まずその面での防止策を講ずるわけでございます。法律的には、株券が盗難にかかったりあるいは紛失いたしました場合に、公示催告の手続、除権判決の手続、これによりまして株券の無効宣言を求めることができるわけでございます。
  204. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 よく株券の場合とかそれから約手や小切手の場合に、盗難だとか紛失だとかいうので事故届けを出すわけですが、株式の場合は、今度こういうように改正になってくると、あるいは改正にならなくても同じかもわかりませんが、事故届けを出しておけば、その会社は新しい取得者に対して、これは事故で盗難にあったものだからというふうなことを主張できるわけでも何でもないわけでしょう。事故届けというのは法律的な意味は持たないわけでしょう。持つんですか。
  205. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) お説のとおりでございます。ただ、そういう事故が起きました場合に、発行会社と株主あるいは権利取得者と称される人のそういう問題が紛糾しないように、発行会社としてもできるだけ調査いたすわけであります。事故届けが出ておりますと、かりに自分がこの株式を取得したということで名義書きかえの請求が出ました場合には、発行会社としてはすでに事故届けも出ているという理由によって、どういう経緯によってその株式を取得されたかということを調査いたしまして、これが善意取得であるというふうな事実が確認されますれば、これはもちろん名義書きかえに応ぜざるを得ないわけでございます。その程度意味しか持たないわけでございますけれども、実際問題としては業界におきまてそういう取り扱いがなされておるということでございます。法律的にそれによって完全に防止できるかということになりますと、これはそうではないと申し上げるほかございません。
  206. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 公示催告をして除権判決をしたとしてもですね、よく官報に出ていますわね、今度の場合は、もういっその交付があったのかわからぬから、除権判決の効力が発生する前に交付を受けたんだと、こういうふうに主張して来たら、どうなんですか。
  207. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 除権判決前に交付を受けて善意取得したと、こういう主張をいたしますと、この主張した者とこれを争う者との間の問題としてこれを解決しなければなりません。ただ、そう主張したから必ず善意取得の効果が与えられるかといいますと、そうは必ずしもまいらないわけでございます。真実善意取得が行なわれますれば、除権判決前に取得した者は、これは権利を取得いたすわけであります。
  208. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 いや、その除権判決後に権利を取得したとしても、その株券の中ではいつどういうふうに交付を受けたか全然書いてないわけでしょう。だから、結局、その除権判決より前に交付を受けたんだと、こう言われれば、それまでじゃないんですか。
  209. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) それはそのとおりでご   ざいます。その除権判決の前後によりましていつその株券の譲渡を受けたかということがわからないということになりますと、これはもう取得した者が証明するほかはございません。これは現行法におきましても同様の問題があるわけでありまして、株式の取得の時期が除権半決の前であるかあとであるかということは、取得した者がこれは当然立証すべき責任があるわけでございます。
  210. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 けれども、適法な権利の何といいますか、適法な所持人とみなされるわけでしょう。だから、そこまで立証する必要があるわけですか。
  211. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 二百五条の二項の規定によりまして、株券を占有しておりますと、これが適法な所持人であると推定されるわけでございます。したがいまして、会社といたしましては、株券を持って来た人に対しまして、一応この推定がございますので、それに応じて取得者と称する者に対して名義の書きかえをいたしましても、会社の責任はないわけでございます。これは株式というものの性質によりまして特にこういうふうな資格授与的効力というものを認めたのでございまして、これは株式発行会社の責任をこれによって免責しようということであります。
  212. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 私のお尋ねするのは、適法の所持人と推定されるのだから、だから、これは自分が除権判決前に取得したんだということを立証する責任は、適法な所持人と推定されているのだからないのじゃないですか。そうじゃないんだという人に立証責任は移ってくるのじゃないんですか。
  213. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 除権判決がございました株券は、株券としての効力を失うわけでございます。したがいまして、除権判決後でございますと、会社としてはその株券を有効な株券として扱う必要はないわけでございます。したがいましてかりに除権判決前に善意取得したと言って参りましても、その株券はすでに株券たる効力がございませんので、それを提示して名義書きかえを求めて来ましても、これに応ずる役務はございません。
  214. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 わかりました。そうすると、適法な所持人と推定するということの法律的な効果はどこにあるわけですか。
  215. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) これは、株券の所持人が名義書きかえを求めました場合に、会社といたしましては、実質的にその者が適法な株券の所持人であるかどうか、言いかえますれば株主となったかどうかということを一々調査しなくても名義書きかえの手続に応ずべきであり、また、それを名義書きかえの手続をしたことによって発行会社に責任を負わさないというところにこの規定趣旨があるわけでございます。一応、株券を所持しております者は、実質的にもその株式の正当な所持人である、言いかえれば株主であるというふうに見られるのが通常の状態でございます。したがいまして、転々流通いたします株式のようなものにつきましては、一応その所持という事実がございますれば、適法な経過によって株券を取得したというふうに見るべきであるというところからこの規定ができているわけでございます。したがいまして、会社としましては、この規定がありますので、名義書きかえに応じても、それによって責任は問われないということになるわけでございます。ただ、しかし、これはあくまでも推定でございますので、会社のほうで明らかに株券の所持人が正当な株主でないということが把握できますならば、この規定は働かなくなるわけでございまして、会社側は名義書きかえに応じなくてもいい、こういうことになるわけでございます。
  216. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 除権判決の場合に、株券が転々と流通していますね、交付でどんどん所有権が移っていっている。もらった人は、除権判決が出ているか出ていないかということは率直な話わからないわけでしょうね。まさか毎日官報を見るわけにもいかぬし、裁判所の表へ行って、紙が張ってあるけれども、あんなもの見る人もいませんから、そうすると、盗難だからといって直ちに除権判決といって、直ちにでもないでしょうけれども、その株券が無効になるという行き方自身、どうなんですか、どこの国でもそういう行き方をとっているわけですか。そうすると、動的安全というものと静的安全とのかね合いが非常にむずかしい問題ですけれども、取引の安全というものを非常に害されて、自分の知らない間にたまたまそれが除権判決を受けちゃったということで非常に大きな損害を受けることがあり得るわけですね。ですから、株券のようなものの場合に、ぼくは除権判決のことはよく知りませんけれども、どういう場合に除権判決が認められるのですかね。そういうことを認めるのが立法政策的に正しい行き方なのか、そこら辺はどういうふうになっているのですか。
  217. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 商法の規定によりますと、有価証券を喪失いたしました場合には、公示催告の手続によって処理することができるように株券についてなっておるわけであります。さらに、民事訴訟法の七百七十七条以下に規定がございまして、盗取せられあるいは紛失、滅失した手形その他商法に無効となし得べきことを定めてある証書——これに株券も入っておりますか、これについての除権判決の規定がこれ以下に規定されております。ただいま稲葉委員の仰せのこういった有価証券の動的安全を確保するという問題とこの除権判決の問題は確かに非常にむずかしい問題でございまして、これは議論もいろいろあるところだろうと思います。しかし、少なくとも盗まれたものとかあるいは滅失したその本人の救済ということを考えましてこういう制度ができておるわけでありまして、この限りにおきましては動的安全の保護ということも完全にはまいらないということになるわけであります。もっとも、除権判決がございました後に善意取得ということは当然起き得ないわけでございまして、それ以前でございますれば、これは善意取得者が保護されるということになるわけでございます。
  218. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 いまの場合の除権判決の前だったかあとだったかということが株式面にあらわれないから、その点の争いはいろいろ起きてくるのじゃないかと、こう思うんですが、これは実際の問題になると思うんです。  そうすると、株式を盗まれた場合に、盗まれた人ですね、被害者といいますか、その人の権利がどういうふうに保全されるか、これは今度の商法の改正と現行法とではどういうふうに違ってくるのですか。
  219. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 盗難にかかった人の権利の救済の方法ということになりますと、この改正によって変わるところはないわけであります。これは現行法のもとにおけると同じような結果になろうと思います。
  220. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 事実上としては、あれですか、権利の回復のときに、だれの手を通ってどういうふうに行ったかということが、現在の場合にはわかるけれども、交付だけになってくるとそれがわからなくなってくるから、その点で権利の回復ということが今度の法律になった場合に不十分なんだと、こういう意見はあるわけですか。
  221. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) その点は、それほど明確に現行法と改正後の商法によって区別できるものとは考えられないわけでございます。先ほども申し上げましたように、手形にいたしましても、株式にいたしましても、現在裏書き湊渡されております場合の一般の形態は、白地裏書きで譲渡されているわけでございます。一々裏書きをするのは非常なめんどうなことになりますので、最初の譲渡人が白地裏書きをいたしますと、あとはもう株券、手形を事実上交付するだけで譲渡が行なわれているというのが実態でございます。したがいまして、特別にその転々譲渡されたあとを追及していくということがはたしてどの程度可能かということになりますと、これは現行のもとにおきましても同じ問題があるわけでございまして、一々その譲渡について正式な譲渡証書が添付され、あるいは軍衣書きが克明に行なわれるということでございますれば、これはあとを追及できるわけでございますけれども現行法のもとにおいて必ずしもそんな取り扱いはなされていないわけでありまして、それほど大きな差異が事実上出てくるというふうには考えられないわけであります。
  222. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 商法の二百二十九条を今度改正したわけですね。これは、学者の中には、よくわかりませんが、新しく書きかえるべきだったんじゃないか、それを書きかえるとむずかしくなるので、中間の部分を削るにとどめるという簡単な方法をとったんだと、こういうふうな意見を述べる人があるんですね。これはどういうわけなんですかね。
  223. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 二百二十九条の改正点でございますが、小切手法第二十一条によりますと、「事由ノ何タルヲ間ハズ小切手ノ占有ヲ失ヒタル者アル場合ニ於テ共ノ小切手ヲ取符シタル所持人ハ小切手が持参人払式ノモノナルトキ又ハ裏書シ得ベキモノニシテ其ノ所持人ガ第十九条ノ規定ニ依リ権利ヲ証明スルトキハ之ヲ返還スル義務ヲ負フコトナシ」と、こういうふうになっておりまして、この規定を準用したわけでございます。    〔理事木島義夫君退席、理事松野孝一君着席〕 ただ、この場合に、「小切手が持参人払式ノモノナルトキ又ハ裏書シ得ベキモノニシテ」云々という規定がございますが、この点がどのようになるかというのが今回の改正に関連する株式譲渡の場合に明確にすべきじゃないかということでございます。したがいまして、単純に小切手法第二十一条の規定を準用すると言ったのでは、ただいまの点がどう読まれるのかという問題が起こってくるわけでございます。しかし、これは、株式の譲渡がただいま申し上げましたような形式に改まりますと、小切手法二十一条の「小切手が持参人払式ノモノナルトキ」云々という規定がこのまま読まれるのではございませんで、この点は準用上は意義がないことになってしまうわけであります。そこで、簡単に申しますと、「小切手ノ占有ヲ失ヒタル者アル場合」「共ノ小切手ヲ取得シタル所持人ハ」「第十九条ノ規定二依リ権利ヲ証明スルトキハ」と、こうございまして、第十九条というのは小切手法の十九条でございますけれども、この点は今度の商法の二百五条の第二項の規定が「所持人ト推定ス」という規定でございますが、この規定と相対する規定なんでございますから、むしろ、準用という形をとりますと、商法二百五条の第二項の規定というものはこの十九条というところを読みかえて二十一条の小切手法の規定を準用する、こういうふうに理解しているわけでございます。
  224. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 これは、学者の中には、新しく書きかえるのがほんとうだったけれども、書きかえるのは非常にめんどうだったので、こういうふうにしたんだという意見を述べる人があるんですが、鈴木さんはそういう意見のようなんですが、鈴木さんの言っていることもぼくはよくわからないんですよ。新しく書きかえるのがむずかしいので、中間の部分を削るのにとどめるという簡単な方法をとったんだと、こう言っておりますが、実益はあまりない議論のようですけれども、学問的には何かそこら辺のところが問題のようなことを言うんですけれどもね。
  225. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 法制審議会の議論の過程におきましてそういう意見も出たのじゃないかと思いますけれども、それはそう大きな問題として取り上げた程度のものでないように承知いたしております。
  226. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 昭和二十五年に法律百六十七号で二百五条が改正になったんですか。そして、二百二十九条二項というのが削除になったんですか。
  227. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 昭和二十五年の改正のときに、その点改正になったわけでございますが、従来の株式の譲渡方式と申しますか、   〔理事松野孝一君退席、理事木島義夫君着席〕 これは、現行法の裏書きあるいは譲渡証書による譲渡の方式というのとは違っておりまして、前の二十五年の改正以前の二百二十九条というのは、第一項に「小切手法第二十一條ノ規定ハ株券二之ヲ準用ス」とございまして、第二項に、「株主名簿二記載アル株主ノ為シタル裏書が眞正ナラザル場合二於テ會社ニ就キ調査ヲ為サバ其ノ眞偽ヲ判別スルコトヲ得ベカリシモノナルトキハ前項ノ規定適用セズ」と、こうなっておりまして、小切手法第二十一条の規定は準用はされますけれども、会社に届け出た判子と合っているかどうか、裏書きが偽造のものであるかどうかということを調査する必要があったわけでございます。それでは非常にめんどうだと、取引の円滑を害するというので二十五年に改正いたしまして、その二項の規定を落とした、こういう経過になっております。
  228. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、この問題に関連をして、記名の補充の問題ですか、何か争いが起きて、最高裁の判決があったんですか。最高裁の判決があったのは昭和三十八年十月一日のように聞いていますが、この争いの要点はどこにあるんですか。どういうふうな結論になったわけですか。  一番新しい最高裁の判例がありますね。
  229. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 差し上げてございます資料の一七二ページに最高裁の判決が掲げてございまして、それは、ミスプリントでございまして、一七二ページの冒頭のところに「株式および株主名簿名義書換請求事件」としてカッコしてございますが、ここに最高裁判決ということが必ずしも明白でないかもしれません。「第三小法廷」とございます。これは最高裁の意味でございます。  この判決要旨にございますように、「譲渡人の捺印のみで記名を欠く裏書により記名株式の譲渡を受けた者が、記名を補充せずに会社に対し株主名簿の名義書換請求をしても、会社はこれに応ずる義務がないと解すべきである。」と、こういう趣旨でございます。  この問題になりましたのは、一般の取引の場合におきまして裏書きの形式といたしまして記名と捺印と二つを要するわけでございますが、実際の慣行として行なわれておりますのは捺印のみございまして、一々記名をしていないというのがこれは非常に数が多いわけでございます。そこに現在の裏書き制度に対する問題があるわけであります。それでは捺印のみある裏書きをはたして有効な裏書きと見て扱っていいかどうかというところからこの問題が発生したわけであります。下級審にもいろいろ判決が出ておりまして、この資料にもそれは載せてございますが、まあ考え方といたしましては、捺印のみで記名がない形式のものは、これは裏書きではないと、しかしながら、その記名部分の補充権を被裏書き人に与えた、あるいは発行会社に委任しておるというふうに一応見てよろしいのではないかというふうな考えがまあ大体多数の考え方であろうと思うわけであります。そういうことによって、捺印のみの裏書きと申しますか、これは不完全な裏書きでございますけれども、そういったものでもまあできるだけ救済しようという考えに立って従来裁判も行なわれてきております。要するに、記名部分の補充権を相手方に与えたと、こういうふうに解される場合には、取得者がそれを適宜補充して裏書きを完成すればよろしいと、こういうことになるわけであります。したがいまして、そこに実は今回の改正の一つの理由があるわけでございます。裏書きそのものが実質的に意味がないというのも、そういうところに一つはあるわけであります。  最高裁判所で問題になりましたこの事件におきまして、ただいま申し上げるようなことから、記名部分を補充しないで捺印のみの不完全な裏書きによって株券を取得した者が会社に対しまして名義書きかえの請求をした場合に、会社がそれにはたして応ずる義務があるかないかという最終的な問題になってきたわけでございます。その場合に、最高裁判所は、捺印のみで完全な裏書きの形式を欠いておる場合には、適法の所持人であるということを否認して、書きかえの請求を拒んでよろしいと、こういうふうな結論を出したわけでございます。実際問題としましては、その発行会社は、さらにその記名部分を補充することを委任されているというふうに見まして、会社のほうで適当に名前を書いて形式的にはつじつまを合わせて処理しておるという例も多々あるように承知いたしております。
  230. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 この最高裁判決が出て、そうして取引界は非常に混乱というか影響があったわけですか。それと今後の法律の改正ということとはどういうふうに結びつくのですか、あるいは結びつかないのですか。
  231. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) この最高裁の判決があったから今回の改正をするという意味ではございません。こういうふうに、取引の実際におきましては、捺印のみの、裏書きと言えない裏書きが現実には行なわれておる実情であるということはもちろん前提に渇いて今回の改正を考えたわけでございますけれども、さらに突き進んで考えますと、その形式的に行なわれておる捺印のみという場合のこの捺印でございますが、この捺印すらも、これは昭和二十五年の改正によりまして、会社に届け出ました印鑑と符合しなくてもよろしいわけでございます。形式的に株主といわれる者の印鑑が押してあるという形式さえとっておればそれでいいということになっておるわけであります。したがいまして、この捺印すらも実際の株式の譲渡の場合には適当に行なわれておるというのが実際でございまして、あり合わせ印を使ってももちろんこの裏書きが有効に、成り立ち得るということになるわけであります。そこまで参りますと、この裏書きという形式をとることがはたしてどれほどの意味があるか、むしろ手数のみを加えることになるのでありまして、取引の円滑という面から見ますれば、現在の裏書き制度というものは有名無実のものというふうに見て差しつかえあるまいということから、端的に記名捺印という点を省略して、株券を交付するということを一つの要件といたしまして今回の譲渡方式の改正に踏み切った、こういう経過になっております。
  232. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 この商法の一部を改正しようとしたのは、いつごろからですか、この判決が出たあとからではないのですか。
  233. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 昭和三十七年の秋から改正の問題と取っ組んだわけであります。
  234. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 じゃ、わかりましたが、ちょっと前に戻って恐縮なんですけれども、さっき育った二百五条で「株券ノ占有者ハ之ヲ適法ノ所持人ト推定ス」と、こういうふうにあるわけですけれども現行法は、「記名式ノ株券ノ占有者が第一項ノ譲渡ヲ証スル書面ニ依リ其ノ権利ヲ証明スルトキハ之ヲ適法ノ所持人ト看做ス」と、こうあるわけですね。「看做ス」と「推定ス」とは違うわけですけれども、これは、あれですか、特に「推定ス」というふうに変えたのはどういう意味ですか。
  235. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) これは、表現は変わっておりますけれども現行法の「看做ス」という意味は推定するという意味であるということになっております。これはもう定説であると言ってよろしいかと思います。ただ、表現の技術上、あるいは従来のこういった立法技術上の慣行に従って、この場合は「看做ス」と書いたという経緯があるようでございますが、実質はこれは推定するという意味であるというふうに理解されて運用されておるわけであります。したがいまして、それであればむしろ「看做ス」というふうに書くのでは、かえってそういう問題を残すのであるから、今回どうせ改正することになれば、むしろ端的にそのまま推定するという趣旨を明確に出したほうがよろしいのではないかというので「推定ス」というふうに今回は表現いたしたわけでございます。
  236. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 手形法の十六条一項ですかでは、やっぱり同じように「看做ス」と、こうなっているのですが、この意味はやはり同じですか。
  237. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) そこから実は問題が発生しておるわけでございます。手形法の十六条に「看做ス」と書いてございますので、同じ有価証券で商法の体系の中にあるものが違った表現を使うことはおかしいことであろうと思うのであります。そこで、商法にも「看做ス」と従来は書かれたわけであります。実質が推定するという意味であれば、何もそういうことにこだわる必要はないのではないか、むしろこの際明らかに推定の意味であれば「推定ス」と書くほうが正しいと考えまして、このように表現いたしたわけでございます。
  238. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君  「看做ス」と「推定ス」とは全く違うわけですね。手形法でそういうふうに書いてあるというのは、何かフランスの翻訳だと、こういうんですか。
  239. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) これは、御承知のように、手形法の統一に関する条約がございまして、そこから来ておるようでございます。その当時のいきさつによってこれは「看做ス」と書いたわけでございますが、手形法の解釈上もこれは推定するという意味であるというふうにすべて理解されておるわけであります。
  240. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 この法律が通ることによって、現在、株式が権利の移転があったかなかったかということで方式が違うから争いになつでいる裁判が相当あるわけでしょう、そういうものに対する影響はどうなんですか、影響はないわけですか。
  241. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 現在、株式の譲渡が有効かどうかということについての訴訟がどのくらいあるか、ちょっと明確にいたしませんが、それと今回の改正とは関係はございません。現在行なわれている訴訟そのものは旧法の効果を論じているわけでございまして、今回改正いたします点はこれから後の株式譲渡について適用されるわけでございます。従前の訴訟には関係はないというふうに考えております。
  242. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 それは当然ですわね。前のものに遡及されたんじゃ、これは混乱ばかりが大きくなっちゃって、取引の安全なんというものはあれですから、遡及しないのはあたりまえですね。この法案が通ることによって現実の裁判に対する影響というものはもちろんないわけなんですが、それは当然なことですからあれしますが、そうすると、問題になってきますのは、株券を紛失したということで再発行してくれと、こういうようなことを会社に言って来ますわね。その場合に、その人が株主であるかないかということを一体どういうふうに確認するのですか。
  243. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 株券を紛失いたしました場合に、新しい株券を発行してもらいたいということを会社に請求いたしますには、除権判決によるほかはございません。商法二百三十条に規定がございまして、「株券ヲ喪失シタル者ハ除権判決ヲ得ルニ非ザレバ其ノ再発行ヲ請求スルコトヲ得ズ」と、規定に明らかに定められております。
  244. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 再発行ではなくて、自分は株券を盗まれてしまった、あるいは紛失した、けれども自分は株主であるのだから、株主として認めろと言って来たときには、どうするんですか。株券を持っていない。再発行ではないわけですね。
  245. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 株主たる地位を認めろという主張でございますと、会社側といたしますると、株主名簿に何びとが現時点における株主であるかということが登載してございますので、その申し出た者と名簿に記載されてある者が同一人だということがわかりますれば、その者を株主であると認めることは、これはちっとも差しつかえないわけでございます。また、株券がなくなりましたからといって、直ちにその者が株主としての権利を行使することができなくなるのではございません。会社としては、株主名簿に記載されている者を株主として扱えばそれで責任は免除されるわけでございまして、利益配当にいたしましても、株主総会の招集の通知にいたしましても、一々株券を持っておるかどうかということを確認する必要はないわけでございます。そのために株主名簿という技術的な制度が生まれておるわけでありまして、その名簿に基づいて会社は処理すればよろしい、こういうふうになっておるのでございます。
  246. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 株券が交付によってどんどん移転していくわけですから、受けた人は一々株主名簿に登載するわけじゃないですね。株主名簿に登載されている人が紛失したとかなんとかいう場合は、その人が行って自分の権利だということを主張すれば、名簿に載っているから、あなた同一人だということを確認できるでしょうけれども、次から次へ行っちゃった、途中で持っていたけれどもなくなっちゃったという場合に、それがうそかほんとうか別として、株主なんだということを主張して行った場合には、除権判決なんかまだ出たいわけでしょう、すぐおりるわけじゃありませんから。それはどういうふうになるんですか。
  247. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 転々譲渡されております過程におきまして、名義書きかえをしていない者から、自分は株主であるということを会社に申し出ましても、会社はそれを受け付ける必要はございません。と申しますのは、商法にもはっきり書いてございますように、株主名簿の書きかえをしない限りは、会社に対してその権利を主張できない、株主であるということを主張できないことになっております。名義書きかえ以前の状態において、自分が株主であるということをその者から一方的に主張するということは、これはできないわけであります。
  248. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 株券を発行しないということは、これは特に定款の規定を必要とするわけですか。
  249. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 定款で排除することはできます、法律規定によりまして。ただいまの御質湖は新しく設けました二百二十六条ノ二の問題であろうと思いますが、これは「定款ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外」とございますので、原則としてこの二側二十六条ノ二の規定がすべての場合に適用されます。したがいまして、所持を欲しない旨を会社に申し出た場合に株券を発行しないことになるわけでありますけれども、これは定款に別段の排除規定がない限りは、この規定によって運用されていくということになるわけであります。
  250. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 定款に株式を発行しないという規定を置いても、これはかまわないわけですか。現実にそういうのはたくさんあるわけですか。
  251. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 当会社においてはこういう場合には株券を発行しないということを定款に書いても、これは差しつかえないわけであります。ただ、それは商法の二百二十六条ノ二の規定をそのまま書いているというだけの意味でございまして、反対に、「別段ノ定アル場合」といいますのは、株券の所持を欲しない旨を申し出ても不発行の措置はとらないという場合のことを定款に書くわけであります。その場合にはこの不発行の規定適用されない、こういうことになるわけであります。
  252. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、その株券を会社が預かるのですか、寄託するという形になるわけなんですか。
  253. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) これは二百二十六条ノ二の第二項でございますが、株券の所持を欲しないということを会社に申し出ますと、会社はその株主については株券を発行しないということを株主名簿に書くのが一つの方法でございます。この場合には、株券の発行をしないということになるわけでありまして、これが第三項に書いてあるわけであります。それからさらに、この発行会社としましては、そのような措置を講じますか、あるいはまた別に株券を銀行あるいは信託会社に寄託するという方法もあるわけであります。そのどちらをとってもよろしいという趣旨でございます。
  254. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、現実に発行されておる株券を持っておって、それを自分のほうで持っていてはあぶないから銀行なら銀行に預けてくれと会社に持って行くわけですか。その場合の費用なんかはどうするのですか。
  255. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 株主がみずから株券を保管しておることが不安だというふうに思われます場合の措置といたしましてこの二百二十六条ノ二の規定を置いたわけでありまして、これはもうそういう申し出をするかしないかはその株主の任意でございます。自分のところへ株券を置いておいたのでは危険だと思われれば、会社に対してその安全措置を求めるという趣旨なんでございます。したがいまして、会社としましては、それを株主名簿に記載して株券を発行しないでおく。しかし、その場合の株主としましては、自分の株式については株券が発行されていないということを何らかの方法で証明できるもの、何かの証拠がほしいわけでございます。株券はないわけでございますけれども、何かの形を残したいというふうに考えられるのは当然であろうと思います。したがいまして、その場合には、株主名簿に不発行の旨を記載したのか、あるいは株券を銀行、信正会社に寄託したのか、その辺を明らかにすることを通知するということを会社に義務づけまして、株主にその辺を明確にさせることができるようにいたしたわけであります。  さらに、費用の点でございますが、これは、第五項にございますように、「第二項ノ規定二依ル株券ノ寄託ニ要スル費用ハ会社ノ負担トス」と、こうございますので、会社がその経費を負担する、こういうことになるわけであります。
  256. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 二百二十六条ノ二の一項で、「既ニ発行セラレタル株券アルトキハ之ヲ会社ニ提出スルコトヲ要ス」と、こうあるわけですね。これは、すでに発行せらたれものはまた別で、分けて自分が持っていてもいいのじゃないのですか。その点はどうなっておるのですか。
  257. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) すでに株券が発行されておりまして、株主がそれを持っております場合には、もちろんこれは株主が自分で持っておってもよろしいわけであります。ただ、一たん発行された株券ではございますけれども、それを持っておることが不安であると思われます場合に、その株券を会社に持って参りまして、そうして株券の不発行の措置を講じてもらうとか、あるいは銀行、信託会社に預けてもらうとかという措置を発行会社にとってもらうという意味でございます。  したがいまして、もしもすでに発行された株券を持っておりまして、それを会社に提出されまして不発行の旨を株主名簿に書きますと、株券の発行をしないということになりますので、その発行された株券は破ってしまうということになります。それからそういう措置をとらないで、銀行、信託会社に寄託しますならば、これは株券の発行はあるけれども、その保管を銀行、信託会社が行なうと、こういうことになるわけであります。
  258. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 新しく株式を発行せられて、その株式を持っていなくてもいいということを言うその人が、すでに前に発行しておった株券を持っておるという場合に、その前に持っておった株券を一緒に出さなければならないのかというふうにちょっととれるんですが、そういう意味じゃないわけですね。
  259. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 要するに、すでに発行されておるものを持っております場合には、その持っておる分は会社に提出するというわけであります。ですから、まだ株券の発行されていない段階におきましてまだ手続中の段階におきましては、自分は株券は所持したくないということを申し出ますれば、株券の提出は要らないわけであります。これは株券のまだ発行がなされていないわけでありますから。
  260. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 ちょっと聞き方が悪いのですけれども、すでに発行されて持っておる、そのほかに今度株券を自分は持つことができるんだけれども、そいつは所持を欲しないという場合に、すでに持っておるものも一緒にして会社に提出することが必要になったとちょっと文章がとれるものですから、そういう意味じゃないと、こう思うわけですがそこをちょっと……。
  261. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) すでに株券を所持しておる者に対しまして新たに新株が発行されるという場合に、新株の株券が交付される前にそういう申し出をいたします場合でありますが、そういう場合にも、新株についてだけ不発行を求めるという場合には、むろん株券の提供は必要ではございません。自分が持っている株券についてそういう措置をとってもらいたいという場合にこの後段の規定が働くわけであります。
  262. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 その株式を質権を設定するというような場合には、今度はどうするのですか。特に変わるのですか、現行法と。
  263. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 現行法と変わりはございません。
  264. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 簿記だとか、質権を設定したりあるいは譲渡担保を設定したりするようなときには、寄託したのか、あるいは担保権を設定したのか、単に交付によって所有権が移っていくということになると、譲渡担保のような場合には、これは一般の場合にも起きるんですけれども、ほんとうの所有権移転の意思でやる交付なのか、単なる担保なのか、ここら辺のところがわからなくなってくるわけですけれども、それは現行法の場合でも今度の改正の場合でも同じですかね。
  265. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) それは同じでございます。単に株券が物理的に甲から乙に移ったというだけで、株式の譲渡が行なわれるのではございませんで、最初に申し上げましたように譲渡契約が必要なんでございます。したがいまして、株式そのものを譲渡しようという場合に、譲渡契約のほかに株券の交付が必要であるというふうになったわけでございます。譲渡担保あるいは寄託の場合に株券を相手方に渡す、渡すことによって譲渡が行なわれたと言えるかという疑問が出てくるわけでありますが、しかし、それは、単なる物理的な株券の交付という行為のみによって株式の譲渡が行なわれるのではなくて、あくまでも基本たる譲渡契約というものが必要でございます。したがいまして、逆に申しますと、株券の交付というものがあって、それがはたしてどういう効果を持っているかということは、基本関係の契約によってきまるわけであります。譲渡契約がありますれば、株式の譲渡になります。また、寄託契約がございますれば、これは単なる寄託契約でございます。あるいは譲渡担保の趣旨で交付したということが契約上明白でありますれば、これは譲渡担保として扱わざるを得ない、こういうことになるわけでございまして、単なる株券の移動だけによって法律効果がどうなるかということは判断できないわけでございます。これは現行法のもとにおきましても同じような問題でございます。
  266. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、株券を占有していれば適法な所持人として推定されるのですから、そうでないんだということを主張する人は、たとえば、譲渡担保があったとか、寄託だとか、あるいは質入れだとか、こう主張する人は、反証をあげなきゃならぬわけですね。これはあたりまえで、現行法とその点については変わりはない、こういうわけですね。これはそのとおりだと思うのですが、ただ、いろいろな書物などを読んでみますと、一部の学者は、現行法の場合と、交付によって所有権が移り、しかもそれが適法な所持人と推定されるという行き方、現行の場合には裏書きとか譲渡証書があるわけですから、それのない場合とで、反証のあげ方なり何なりが非常に変わってくるんだということを言う——ニュアンスといいますか、何といいますか、立証の方法の困難さといいますか、それが変わってくるんだと言う人がいるんですが、ちょっと私も考えているところなんですが、裏書きだとか譲渡証書をつけて移転した場合と、それをつけないで移転した場合と、現行法でそれをつけて移転した場合には権利の移転があったというふうにとれるけれども、それをつけないで移転した場合には、現行法の場合にはあるいは寄託だとか質だとか譲渡担保だというふうに立証しやすい、とりいいけれども、今度は交付だけで所有権が移るという形になってくると、現行法で分けられておったものが今度は分けられなくなってしまって、全面的に権利の推定という形が行なわれるので、現実に寄託や譲渡担保なんかした人が困難になってくるんだと、こういうニュアンスの差があるような気もするのですが。
  267. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 確かにそういう感じの差異といいますか、ニュアンスの差異は出てくる場合もあると思います。しかし、これが権利の譲渡なりや、あるいは寄託契約なりや、それとも譲渡担保なりやということは、先ほど申し上げましたようにその当事者の間の契約によってはっきりさせるべき筋合いでございます。そういうことを明確にしないで、単に株券だけ相手方に渡すということになりますと、渡した者の責任においてこれは解決されなければならぬわけでありまして、どうしても人に渡すからには渡すだけの理由がきちんときまっていなければならぬわけであります。譲渡担保であれば譲渡担保として渡すのであるということを明らかに契約書に残しておくべき筋合いでありますし、寄託契約なら寄託契約であることを明らかにしておくべき筋合いであります。したがいまして、株券を渡した者が後日それを立証する場合に困るということが起きてくるのは、そういったはっきりした措置をとっていない場合に起きてくるわけであります。これは現行法のもとにおきましても同じ問題は起き得るわけでありまして、問題はその交付の原因を明確にしてないというところにあるわけであろうと思うわけであります。その点さえ明確にしておけば、これは譲渡でないということの立証が十分できるわけであります。
  268. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 当事者の意思が明らかな場合は問題は起きないわけですね。それはあたりまえですね。当事者の意思が明らかでない場合に、譲渡証書付の株券が担保に差し入れられているというときには譲渡担保として認められる、単なる株券の交付によっているときには質と認めるといったように現在はどうも行なわれているんだと、こういう見方があるわけですね。当事者の意思が明らかでない場合、現実にそういうふうになるんだと。それは、そういう見方をとっている人がいるんですが、ちょっとぼくも疑問には思っているのですけれども、いずれにいたしましても、交付によって所有権が移ってしまったという一本になってくると、譲渡担保だとか何とかいう場合、それを主張する側にはより困難が現行法よりも起きてくる。だから、その事実関係というものをもっと明確にしていかなければならないようになってくる。それが明確でないというと、結局適法の所持人と推定されるわけですから、そっちが強くなって、預けたり何かした人のほうが損をするという結果が生まれてくるのではないか、こういうふうにも考えられるのですが、それは現行法でもそういうことなんで、特に今度の改正が行なわれたからそこで非常な大きな差ができてくるというものではないと考えられるのですが、その辺はどうですか、結論的にひとつ……。
  269. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 御指摘のとおりだと思います。最初お話がございました、譲渡証書がついておる場合には譲渡担保、また、それがついていない場合には寄託だ、あるいは質権の設定だというふうな一般的な推定は、これはできないと思います。これはもう当然のことでございます。やはり、問題は、どういう趣旨でそれが相手方に交付されたかということは立証しなければならぬわけでありまして、それを立証する必要がありますならば、その点を当初から明確にしておくべきであります。それをしないでおいて、二百五条の第二項の規定によって適法の所持人と推定されるからといってあとになって騒ぎ出しても、これはむしろ交付した者が悪いのでありまして、これは現行法のもとにおきましても同じ問題は起きるかと思います。
  270. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 この株式の譲渡方法ということに関連をして、業界なり学者の中から何か特別な意見が出ているのですか。これに対して、反対だとか、ちょっとこれでは静的安全がいまよりも阻害されるのではないか、こういうふうな意見も出ているわけですか、あるいは、この点に関連してはそれほどの意見はないのですか。
  271. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) これにつきましては、確かにそういう意見も絶無とは申し上げられません。感じといたしましては、こういう譲渡方式に改めますと盗難事故が多くなるのではないかとか、いろいろな御意見考えられるわけであります。しかし、実業界のほうといたしましては、あげてこういうふうにしてもらいたいというのがその要望でございます。先般こちらで参考人をお呼びになりましたときにも、各参考人ともこの点はぜひ早急に改正をお願いしたいという意見を開陳しておられましたわけであります。問題は、こういうふうに株券の交付ということによって株式を譲渡する方式をとることによって生ずる不安を解消するというために、先ほど御質疑のございました二百二十六条ノ二の規定を設けたような次第でございまして、実際界の必要から申しますれば、とにかく現在の裏書き制度が有名無実であるということから出発いたしまして、交付によって譲渡できるようにしてもらいたいというところが一致した要望ではあるまいかと思うわけでございます。
  272. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 問題を別のところの株式の譲渡制限のほうに入っていきたいと思います。二百四条の関係です。  現行法では、「株式ノ譲渡ハ定款の定ニ依ルモ之ヲ禁止シ又ハ制限スルコトヲ得ズ」と、こうなっておりますね。これは強行法なわけですか。これが出てきた立法の趣旨はどこにあったのでしょうか。
  273. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 昭和二十五年に、ただいまの商法二百四条の規定が、「定款ノ定ニ依ルモ之ヲ禁止シ又ハ制限スルコトヲ得ズ」と、こういうふうに改められまして、それまでの譲渡制限禁止ということをすべてできないように改められたわけであります。これは、当時、株式の譲渡性を自由に無制限に認めるべきだという司令部方面の意向もあったわけであります。また、株式の大衆化というふうなこともいわれまして、むしろ株式会社の株式というものは自由にその株主によって処分されるべきものであるというように改められたわけであります。  ただ、これは、当時の実情とそれではマッチしていたかどうかということが一番問題なのでございます。占領下においてこの二十五年の改正が行なわれたわけでありますが、その改正を行ないました当時の実際がどうなっておるかということを、これは全国にわたって調べることができませんでしたけれども、昭和二十五年当時の実情を東京の日本橋登記所について私ども若干調べたわけであります。これは昨年の十二月の調査でありますが、三百八十の株式会社について調べましたところ、そのうちの三百二十二社、パーセンテージにいたしますと八四・七%が譲渡制限の定めをしておったわけであります。それが、二十五年の改正によって全部そういう譲渡制限をすることができなくなったという経緯がございます。この改正が行なわれました当初から、こういった譲渡制限を禁止することがはたしてわが国の株式会社の実態に合うかどうかということは議論になったところでございます。だんだん二十五年の改正以後、経済界におきましても、この点はある程度譲渡制限を認めるべきであるという声が高まってまいりましたために、今回のように、二十五年当時の譲渡制限とはだいぶ違いますけれども、ある程度株式の譲渡を制限することができるようにしようというふうになったわけであります。
  274. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 明治三十二年の商法というのは、これは、旧商法ですか、現行商法ですか。百四十九条、これはどういうふうになっていたんですか。非常に変遷があるようですね、この株式の譲渡の問題に関して。そのときの情勢によって変わってはいるんですけれども、これに返ったわけですか、そうすると。
  275. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 昔に返ったわけではございませんで、やはり株主の投下資本の回収はできるようにすべきであると。昔の譲渡制限は、譲渡を禁示することもできたわけであります。あるいは部分的な一部の制限も差しつかえないというふうなことになっておったわけでありますが、今回の改正は、そういう徹底したものではございませんで、ともかく株主として投下資本を回収する道だけは確保しておく必要がある。ただ会社の経営の安定をはかるというふうな観点から、だれにでもそれを譲渡されては困るという場合を調整できるように定めたのが今回の改正でございまして、昔のように完全に禁示制限をできるというふうな意味での改正ではありません。したがいまして、骨の商法に戻るという趣旨ではないわけであります。
  276. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 昔の商法に戻るというのはことばがちょっと間違いですが、旧商法ですか、百四十九条というのは。
  277. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 旧商法と申しますが、旧々商法じゃないかと思いますが……。
  278. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 昭和十二年の改正というのは、これはどういうふうになったわけですか。昭和十三年に商法ができたんですか。そうではないんでしょう。
  279. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 旧商法におきましては、「株式ハ之ヲ他人ニ譲渡スコトヲ得但シ定款ヲ以テ其ノ譲渡ノ制限ヲ定ムルコトヲ妨ゲズ」ということになっておったのでありますが、これが昭和十三年の当時から昭和二十五年の改正に至るまでそのような規定が設けられておったわけでありますが、先ほど申し上げましたように、二十五年にこの制限を撤廃したということになっております。
  280. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 いや、旧商法というとちょっとことばが誤解を招くので、明治三十二年にできた商法というのは、ずっと、部分的な改正はあったけれども、行っておるんですか。——わかりました。昭和十二年に会社法だけ全部変わったわけですね。
  281. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 十三年に会社法を改正いたしまして、その関係で、従来の商法の規定の条文がずれております。これは全面的にそこで改正になっております。それが昭和二十五年まで引き続いて行なわれておったわけでございます。
  282. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 昭和十三年の改正のときの二百四条では、「定款ヲ以テ其ノ譲渡ノ制限ヲ定ムルコトヲ妨ゲズ」とあって、この譲渡の制限の中に譲渡の禁止も含めていたわけですか。
  283. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) さようでございます。
  284. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、昭和二十五年にGHQの指令か何かで法律一六七で二百四条が改正になったわけですが、そうすると、この当時は、日本の会社では株式譲渡の制限をしていたものが全国的に多かったわけですか。
  285. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 二十五年の改正の当時におきましては、先ほども申し上げましたが、八〇%あるいはそれ以上の会社が譲渡制限の定款の定めをいたしておったわけであります。
  286. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 それはどういうわけなんですかね。ということは、本来株式会社の本質から離れたものが日本では株式会社という形をとっているからそういうことが起きるので、ちょっと筋としてはおかしいのじゃないんですか。そこはどういうふうになっているわけですか。
  287. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 確かに、株式会社であります以上、そんな譲渡制限をするということはおかしいという御意見も出るのは、これは当然だろうと思うわけであります。ただ、株式会社の実態をながめますと、わが国におきましては必ずしも大規模な会社のみが株式会社になっているわけではございませんで、小さな、町の八百屋さんも魚屋さんも株式会社の形態をとっているものがあるわけでございます。そういうものが全国で約七十万ぐらいあるわけでありまして、これがすべて株式の譲渡を自由にするということがはたして適当かどうかという実質論になってまいるわけであります。本来ならば、ある程度規模を備え、株主も多数あって、株式の譲渡を自由にするというのが株式会社の本質には合うのであろうというふうな考え方も確かに成り立つわけであります。現在わが国で行なわれております株式会社というものの実態は、必ずしもそういうものじゃございませんために、閉鎖的な株式会社、あるいは同族的な株式会社というようなものが事実として存在するわけであります。そういった場合に、これについて株式の譲渡性をどうすべきかという点が問題になるわけであります。すべてにつきましてそういったものを株式会社でないほかの形態の会社に切りかえるとか、あるいは初めから株式会社についての要件として小さな会社を認めるべきでないというふうにすべきであるとかというふうなことも確かに考えられるわけでありますが、この点は商法の法制審議会における審議の段階におきましてもすでに問題にされた経緯がございます。現状のままでいいかどうかということでございますが、これはたいへん株式会社の本質の問題になってまいるわけでありまして、いま直ちにそれを全面的に制限するということも非常に困難であろうということから、今回の改正にはそこまで触れるわけにいかなかったわけでありますけれども、今後ともそういう株式会社はどうあるべきであるかということについては、十分検討していく必要がある問題であろうというふうに考えておるわけであります。
  288. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 これは、商法の改正が出たときに、最初のときには、株式の譲渡制限というのは入っていなかったんじゃないですか。
  289. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 前回商法の改正案を出しましたときには、この譲渡制限は入っておりませんでした。前回の案では、額面株式と無額面株式の変更の問題と、先ほどの株式の譲渡方式の問題と、それから新株引受権の譲渡、転換社債の転換請求、この問題であったのでございます。その後、昭和四十年の二月二十五日に、株式の譲渡制限、あるいは議決権の不統一行使、新株発行の手続、この三つの事項につきまして法制審議会の答申が出ましたので、今回の商法改正案におきましてはこれもあわせて御審議をいただくようにいたしたわけでございます。
  290. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 まあこれはいまになってこんなことを言ってもあれですけれども、前の法制審議会の決定は昭和三十九年の二月十七日ですね、このときには——法制審議会には諮問するんですか、法務省のほうから。その諮問の中には、株式の譲渡制限の問題は入っていなかったんですか。
  291. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 法制審議会の諮問といたしましては、商法中緊急に改正を要する点についての要綱を示されたいという趣旨の諮問が出ておったと思います。そこで、全面改正ということは容易なことじゃございませんけれども、この二十五年の改正がはたしてわが国の現在の実情に合うかどうかといういろんな実際上の問題が出てまいったわけでありまして、経済界の要望もございましたために、とりあえずその点について特に急ぐところだけを改めるべきじゃあるまいかというので、法制審議会で審議されまして、ただいまの七つの項目が答申の形になってあらわれてきたと、こういうことになるわけであります。
  292. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 私のお聞きしているのは、こまかい点なんですけれども、なぜ株式の譲渡制限の問題を最初のときに法制審議会の中で問題にされなかったのかということですがね。問題にされたのだけれども、どこかで疑問あるいは反対があったりして成案を得るまで至らなかった、そういうことなんですかね。
  293. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) この譲渡制限の問題も、三十九年の二月当時におきましても法制審議会では審議はいたしておったわけであります。いたしておったのでございますけれども国会提案の関係もありまして、その当時結論が出ておりました四つの項目についてとりあえず商法の改正をお願いしたいということで、前回の法律案の提出という形になってきたわけでございます。
  294. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 法制審議会でどういう点が問題になったかというのは、資料として出ていないんですか。
  295. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 法制審議会の議事の経過については、資料は差し上げてございません。
  296. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 刑事関係などでは、法制審議会の審議の内容を全部資料としてこちらに出しているわけですね。ただ、どの委員が何を言ったかということは、あとになりましてあれだから、名前は出てないけれども、全部こまかくではありませんけれども、要点はいままで出しているわけですよね。それが出てくると、学者の人なんかは、そういう意見を吐いて困ったりする場合なんかあるかもわかりませんけれども——ということは、法制審議会の中でよく意見が出てくる。しかも、意見じゃなくて、修正案が出る場合があるわけですね。それが全然資料がないので、法制審蔵会の中でどういう議論が出てきたかということがちょっとわからないんですがね。株式譲渡制限の場合には、これは強行法規と見ていいのかどうかあれですけれども、相当大きな変化になってくるわけですから、相当議論があったんじゃないですか。これは少し行き過ぎだとか強行法規違反だとか、何だとか、そこまでの議論があったかどうかは別として、相当議論があったのじゃないかと思うのですが、どういう談論があったのですか。
  297. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 株式の譲渡制限をすることにつきましての積極的な反対意見というものはなかったように承知いたしております。ただ、この譲渡制限の問題が生まれましたのは、先ほどもちょっと申し上げましたが、非常に小規模な株式会社、あるいは同族的な閉鎖的な株式会社について特にその必要性が唱えられたわけでありまして、それならばそういう範囲のものに限定して、法律上その範囲のものについてのみその譲渡制限規定を貴くかどうかというふうな問題は論議されたのでございます。しかし、これを一定の規模のものに限るということにいたしますと、そこがまた非常に問題があるわけでありまして、たとえば資本金一億円未満の会社についてのみというふうに定めることがはたしてできるかどうかという問題もございます。また、資本金が一億以上でございましても、同族的な会社で株式の譲渡を自由にするのは適当でないというふうに希望する会社もあるわけでありまして、一律にこれを定めるということはいかがなものであろうかというので、特にそういう制限はしなかったという経過はござます。  さらにまた、第二百四条ノ二以下にこまかい規定を置きましたが、こういった点もいろいろ御議論を重ねていくうちにこういう措置が必要だということで、これを前提にいたしまして今回の譲渡制限規定を置くことにいたしたわけでございます。
  298. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 中小の会社に対して株式会社法をそのまま適用するということが、いろいろ不備というか、不便を生ずるんだと、こういうようなことから、事実上有限会社みたいなものだからというので、非常にむずかしい規定をたくさんやっても実際は守れないのだから、これらの会社には規定を緩和していくべきじゃないか、それから大会社のほうは、逆に公共的性格なりあるいは近代的な経営体制に応じた制度を検討する必要があるんだと、こういういろいろな議論もあったのでしょうが、むずかしいところですが、株式会社法の改正によって中小のものと大のものとに分けるという意味ではなくて、中小の株式会社に適したような形に、法文としては同じであっても、内容的なものを変えていくというような方向も考えられて、その一つのものとしてこれらが出てきたということにもなるんですか。必ずしもそうではないわけなんですか。
  299. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 確かに、お説のように、中小の株式会社について運営できるような規定を設けるということも一つ考え方でございますけれども、先ほど申し上げましたように、その規模等を法律で明確に一線を画するということが非常にむずかしい問題でございます。したがいまして、この二百四条でも書いておりますように、その会社の自主的な自治にゆだねるということにいたしたわけでございます。こういうふうな複雑な規定はございますけれども、それでもなおかつ譲渡制限が必要だということであれば、二百四条の第一項のただし書きの規定によりまして定款で取締役会の承認を要するようにきめてよろしい。そうなれば、二百四条ノ二以下の規定が働いてくるわけであります。大きな会社の場合には、実際問題としては、譲渡制限を定めることは不可能でございましょうけれども、自分の会社は譲渡制限をしたほうがいいと思われるその会社について、それぞれ自主的に判断して譲渡制限を行なうかどうかということを定めるようにいたしたわけであります。画一的に法律によってこの範囲の株式会社については株式の譲渡を制限するということも書けませんし、また、その基準そのものも非常にむずかしい問題でございます。そこは各会社の自治にまかせる、こういうことにいたしたわけであります。
  300. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 これは、取締役会の承認という形をとったのはどういうわけなんですか。株主総会の承認という形は、なかなか株主総会は開けないから、業務の執行は取締役会でやるのだからと、こういう意味ですか。現実に、取締役会といっても、正式に開いてやってないのが多いんじゃないですか。
  301. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 取締役会の承認を要するようにいたしました趣旨は、お説のとおりでございます。そういう趣旨でやったわけであります。ただ、現実に取締役会が開かれているかどうかという問題は、これは事実問題でございます。それはともかくといたしまして、考え方といたしましては、ただいまの御意見のような趣旨から取締役会に承認の権限を与えることにいたしたのであります。
  302. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 取締役会の承認を必要とするようにした場合に、それは、あれですか、何か登記の事項か何かに入るわけですか、それは関係ないわけですか。
  303. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 登記のほうにもこれは関連してまいります。第百八十八条に設立の登記の規定がございますが、この中にもそのことを規定するようにいたしたわけでございます。百八十八条の第二項第三号の規定によりまして登記事項になっておるわけであります。
  304. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 現在の法律では、二百四条で「株式ノ譲渡ハ定款ノ定ニ依ルモ之ヲ禁止シ又ハ制限スルコトヲ得」ないわけですね。ところが、現実にこれは制限やなんかしているのがあるんですか。
  305. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) これは、ちょっと私どものほうではわかりかねるわけでございます。登記事項にもなっておりませんし、現在その制限規定がございませんために、登記事項でも何でもないわけでございます。そこで、ちょっと調べようがございませんので、何ともお答えいたしかねるわけでございます。
  306. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 この資料の中で、日本航空の場合は株式の譲渡を制限することができるのじゃないですか。
  307. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) それは、法律で特別規定がございますためにできるわけでございます。
  308. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 だから、そういう特別な法律で株式の譲渡の制限が認められているものですね。商法では、それは現行法ではできないわけですね。だけれども、単独法で——単独法というか、特別の立法で、それは公共性があるとかいろいろあるわけでしょうけれども、それで株式譲渡の制限ができるというのは、どういうのがあるのですか。たくさんあるんですか。
  309. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 日本航空株式会社法の第二条の規定に基づく制限と、それからもう一つございまして、日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社及び有限会社の株式及び持分の譲渡の制限等に関する法律というのがございます。この規定に基づきまして、その株式につきまして譲渡制限の定めができるようになっております。この二つであると思います。
  310. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 ぼくもよくわかりませんけれども、公共的な色彩を持った株式会社がありますわね。そういうようなものは、ほとんど譲渡制限が特別法で認められているのじゃないですか。そうでないと困っちゃうんじゃないですか。それは、あるいは、譲渡制限という形よりも、むしろ株主となる資格の制限、こういう形のものかもしれませんがね。そういうのはどういうのがあるんですか。
  311. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 正確でございませんけれども、私どもの承知しておりますところでは、特に譲渡制限法律で認めたものは、ほかにないように思います。
  312. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 ぼくもわからないんですけれども、株主となる資格を制限しておるものもあるんじゃないですか。日本銀行なんかどうなんですか。
  313. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 特殊法人の中にはそういうものもございましょうけれども一般の株式会社の中にはそれはないと思います。特に取締役を株主でなければならないというふうに定めることは現在できないわけでありまして、そういう資格制限規定はないわけであります。
  314. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 いや、その特殊法人にしろ、特殊法人という意味になってきますけれども、あまり横道にそれちゃってあれですが、日本航空はこれは何なんですか。
  315. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) これは日本航空株式会社法という特別法によってできました株式会社でございますが、そういう意味で特別法に基づく株式会社ではあります。しかし、その特別法の中で譲渡制限規定を定めておるわけであります。このような形をとった株式会社というのは、先ほどの日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社以外にはないと思います。
  316. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 ぼくもよくわからぬのですが、そうすると、特殊法人の概念の問題になりますからあれなんですけれども、株主の資格を制限しているのは相当あるんですか。日本人でなきゃならない、そういうものもあるのじゃないですか。
  317. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 一般的に株主の資格を制限したものというのはないと思います。
  318. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 いや、ぼくも条文を見ないで言っているんであれですが、外国人でも日本銀行の株券を持てるんですか。あるいは別のところでいっているんですか。
  319. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 日本銀行は別でございまして、これは日本銀行法に基づくこれこそ特殊法人でございます。そういう意味でそれぞれの制約はあるかもしれませんが、株式会社についてそういう一般的な制限規定を設けたものはないと思います。
  320. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 それから日本航空も、日本航空株式会社法によるあれはあるわけでしょう。日本銀行法によるものなんだから、特殊法人と言えば言えるんでしょうけれども、これはどうでもいいことですからやめますけれども、特殊法人という意味が、政府が出資をしているという意味を特殊法人と言うのか、特別な立法をもってやっているのを特殊法人と言うのか、通俗的な意味でちょっとはっきりしないのですけれども、株主たることを制限しているものは相当あるのじゃないかと、こう思うのですがね。あるいは、別な政令で、外国人の財産取得に関する政令がありますわね、大蔵省の、あれによって制限を受けているのが。単独法の中には直接出てきてないのかもわかりませんけれども、そういう形で出ておるのか、あるいは単独法の中で出ておるのか、いずれにしても株式の譲渡を現在制限しているのは、ここにある日本航空のほうと日刊新聞紙のほう、この二つだけを承ってよろしいわけですか。そのほかにも、いわゆる特殊法人というものの中には、そういうふうなものもあるだろうと、こういう程度に承っておいたほうがいいのですか。ぼくもよくわかりませんが……。
  321. 新谷正夫

    政府委員(新谷正夫君) 特殊法人も、ただいまの日本航空株式会社あるいは日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社等の株式会社である特殊法人と、そうでないものがあるわけであります。法人とは一体何かということになりますと、非常にむずかしいことになろうかとも思いますけれども、株式会社以外のたとえば宗教法人とかあるいは協同組合とか、いずれも法人格を持っておりまして、こういうものも特殊法人といえば特殊法人になると思いますけれども、そういったものについて株式がないことは、もう当然のことでございます。本質を株式会社としながら、なおかつ、その資格を制限したり譲渡を制限するということができるものは、先ほど申し上げました日本航空と日刊新聞紙の発行会社というふうに理解いたしておるわけでございます。
  322. 木島義夫

    ○理事(木島義夫君) 速記をとめて。   〔速記中止〕
  323. 木島義夫

    ○理事(木島義夫君) 速記をつけて。  本案に対する質疑は、本日はこの程度にいたしす。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時散会