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政府委員(村山松雄君) まず、
青蓮院の国宝、重文の問題でありますが、いわゆる
青蓮院の事件というのは、刑法事件が二件、それと、それらに関連して
文化財
保護法に基づく届け出義務違反というような手続違反が関連してからまり合った数件の問題がございます。最初に、今回世間に出る発端になりましたのは、
青蓮院の所有の重要
文化財の大手鑑というものがございますが、これが詐欺横領事件の証拠品として本年の四月に東京の上野署にとめ置かれたということから明るみに出たわけであります。この事件は、事件が起こりましたときには、大手鑑は大阪の人の所有になっておりまして、これを京都の美術商が売却を頼まれて東京へ持って来た。東京へ持って来たところが、また美術商二人がそれを売ってやるということで預かって、そのまま行くえをくらました。で、京都の美術商が上野署に訴え出ましてさがしておったところ、質屋に入質したのが発見され、同時に二人がつかまったと、こういう事件であります。こういうことからいたしまして、
青蓮院はほかにも国宝や重要
文化財等が散逸しているんではないかということが問題になりました。で、
文化財保護委員会では、実は数年前からそういうことは
承知しておったわけであります。
承知した動機は、買い取った側から届け出があって
承知したわけであります。ところが、買い取りの届け出には、売り渡し側の正規の譲渡書がついておりませんと、手続として完結しませんので、売り渡し側も手続をするようにということを買い取り側並びに
青蓮院にも京都府の
教育委員会を通じて連絡いたしましたところが、
青蓮院側が言を左右にして所定の手続をしない。その間において係官を派遣しましたけれども、寺を預かっておる執事は、自分が関知したことではないというようなことから
調査に応じなかった、かような経緯であります。
もう
一つの刑事事件は、これは
昭和三十七年七月に起こった事件でございまして、
青蓮院にあります重要
文化財の浜松図のふすま絵、これは未指定の部分を含む数枚からなるふすま絵でございますが、そのうちの重要
文化財の分一枚と未指定の分二枚を切り取って観光客が持ち去ったということになっておりますが、そこで、これは窃盗並びにに重要
文化財損壊というような刑法違反並びに
文化財
保護法違反、複合犯であります。所轄の松原署において捜査いたしましたが、手がかりがつかめず、犯人もあがらず今日に至っております。
そこで、今回の一連の事件を契機といたしまして、京都府の
文化財保護委員会並びに
文化財保護委員会
事務局が協力いたしまして、
青蓮院の国宝重文の所在の確認につとめる一方、上野署並びに松原署は、刑事事件として別途捜査を継続しておる、こういう
状況であります。いままでわかりましたところでは、
青蓮院の蔵も実地に
調査いたしまして、寺には二点だけ残っておるようであります。その他は外部に出ておるようでありまして、博物館に預かっておるものを除きますと、大体個人あるいはお寺の美術館などに渡っております。最終の末端のほうでは、売買行為としてはもちろん合法的にやったようでありますが、
文化財
保護法による所有者の移動の手続はなされないままに今日に至っております。
この問題の処置でありますが、刑事事件は別といたしまして、
文化財
保護法としては、売買それ自体は悪ではないわけですから、
一つには多少事後になりますけれども、所有権移転に関する手続をするのが
一つの方法でありますし、それから
青蓮院側では、実はあれは寺が窮乏して散逸したのですけれども、買い戻すつもりであると言っております。買い戻されれば、もちろん
文化財保護委員会としては、けっこうでございますが、買い戻す具体的プランが現段階ではないようであります。これが事件の
概要でありまして、まだ最終的に解明されない部分もあり、未解決の事件になろうかと思います。
それから第二段の、こういう問題を起こさないための基本的な問題でありますが、私どもは法が不備だとは必ずしも思いませんけれども、何と申しましても、私有財産権を基礎として
文化財
保護法に基づく指定物件について一定の公用負担を課するという
文化財
保護法として、究極的には所有権のほうが優先して、
文化財
保護法違反は罰則でこれを追いかけるということになるわけでありまして、その点不徹底の点がございますし、それから実態
調査にしましても、指定物件の件数が多くて、それからまたこれが一面において社寺の寺宝であったり、個人の秘蔵品であったりする
関係がございまして
調査が行き届かない面があります。かような法的な面、それから
調査し、これを適正に管理するという
運営面についても、今回の事件を契機に一そう管理の適正化につとめたいと考えておる次第であります。
その
一つの方法として、これは結局個人ないし社手が持っておるところに問題があるので、国が買い上げて
保存すべきではないかという議論があります。これに対して国の買い上げ費が一億円できわめて不十分ではないかという識者の指摘がございます。この点に関しましては、この国の買い上げ費というのは、
文化財
保護法では、元来、所有者が基本的に管理するたてまえでありまして、売買それ自体がむしろ例外的というとらえ方でありますし、それからまた売買に際して国がこれを買い上げるというのは、何も売りに出た国宝、重文を極力買い上げるというような方針がとられたわけじゃなくて、売りに出された国宝、重文の中で、特に類似品も少なく、その時代を代表するようなものであって、国が買い上げて
保存するのが適当であるものについて買い上げるというような例外的措置の財源として一億円用意しておるわけでありまして、従来の経過にかんがみますと、買い取りの申し出は必ずしも非常に多数にのぼるということではございませんので、最近の実績も、一億円に対してこれに数倍するというような買い取りの申し出ではなかったのでございます。大体二億円をこす
程度の買い取り申し出はございますが、その中では必ずしも買い取る必要がないものもありますし、多少不足でありますが、まあまあやっておったのであります。そこで、担当課長としては、せめて五億円でもあれば、かなりこの問題が解決できるのではないかという考えで、おそらく新聞記者等にそういう話をしたのだと思います。問題は、従来の買い上げのたてまえが例外的な場合に対する財源でありますので、もしこれを国がかなり積極的に買い上げるという態度を示した場合に、はたして五億円で足りるかどうかについてはかなり問題があろうかと思います。私どもとしては、この買い上げ費の増額は、今後これを契機といたしまして、できるだけふやしたいと思いますけれども、一体どれだけふやしたらば需要に応ぜられるかということにつきましては、なかなかむずかしい問題がございます。従来はどちらかといえば買い取り申し出の実績などを参考として要求しておったわけでありまして、要求自体が必ずしも思い切った金額ではなかったのでありまして、今後はひとつ考え方を新たにしまして、増額をはかりたいとは思いますけれども、直ちに飛躍的な増額がはかれるか、また一体適正買い上げ費はどうかというような点については、かなり研究すべき問題があろうかと思います。
それから次に、こういう問題に関連して美術商が明朗ならざる動きをするという問題でございます。それは率直に申しまして、御指摘のような事実はないとは申せませんし、
青蓮院事件につきましても、お寺から現在の所有者、管理者が所持するに至ります間には数人の手を経ておるようでございます。ただ、
文化財保講法としては、先ほども申し上げましたように、所有権を基礎として所定の手続を課しておる。で、手続違反について事後追及するというようなたてまえになっておりますので、古美術商取り締まりというふうな角度でこれを規制することはなかなかむずかしい問題がございます。しかし、これもひとつ研究課題として管理適正化の観点から検討いたしたいと思います。
それから最後のパカードという名前をあげてどうするかという問題でありますが、北魏金銅仏の事件におきましては、警察の調べによりましても、パカードが国外にこれを持ち出したという確証はなかったのでありますし、それから京都の九品寺の場合ですと、これはたしか指定以前の行為にかかる問題でありまして、
文化財
保護法違反として追及するには若干要件が欠ける問題もありましたし、売買行為それ自体としては、警察の調べでは、パカードが九品手の仏像を所有するに至った経緯は合法的であるという判定を受けまして、一たんはパカードに返されたというふうな経緯もございます。そういう
意味合いにおきまして、パカード氏を
文化財
保護法の観点からこれを何か規制するというような手順が発見できないでおるのが
現状でございます。