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参考人(井上敏夫君) 私、
東京証券取引所の井上でございます。本日は、本
委員会から
証券市場の
現状について述べるようにとの御要請がございましたので、以下簡単に私の所見を申し述べせていただきたいと存じます。
戦後の
わが国経済は急速な復興と発展を遂げてまいりましたが、
証券市場におきましても、証券民主化運動の促進と、それに伴う諸制度の導入などがございまして、その機能を充実させるとともに、その規模におきましても著しい拡大を遂げてまいりました。戦前の
証券市場に比べて、全く面目を一新いたしたのであります。しかし、この間
経済の激動期に際会いたしまして、
証券業界もまことにきびしい試練を経てまいったのであります。特に昨年は、
景気調整過程におきまするところの
わが国経済のひずみがいわば集中的にあらわれまして、株式流通市場は、諸施策が講ぜられましたにもかかわらず、低迷の一途をたどりまして、一部の
証券会社に対する
投資者の不安から、いわゆる運用預かりの引き出しや
投資信託の解約が増大いたしました。また、株価も大幅な下落を示し、
証券界は最悪の
事態に立ち至ったのであります。
幸いにして、
政府並びに
日本銀行など
関係諸機関の御理解と御協力によりまして、適切果敢なる
措置がとられ、その危機を回避し得たのであります。昨年の後半に至り、株式市場は、
政府の
国債発行など積極的な財政施策の方針決定を契機に、ようやく
立ち直りを見せまして、その後の
景気回復のきざしと相まちまして、順調なる足取りで、漸次売買高も増大し、株価指数も本年二月には旧東証株価平均指数千五百ポイントを上回るに至ったのであります。
この間、
発行市場におきましては、流通市場の異常な
状況から増資の全面的規制のための
措置が行なわれてまいりました。最近に至りまして、増資の量的規制を取り払いまして、
証券界の自主的な取り扱いにまかされることとなりましたが、もちろん
証券界といたしましては、今後におきましても
投資者保護の
立場から増資内容の充実をはかるために、その質的な検討は続けてまいる所存でございます。
増資についての量的規制を撤廃できましたことは、資本市場の機能
回復を念願するものといたしましてまことに喜ばしいと存じます。しかしながら、一方、流通市場におきましては、依然
日本証券保有組合及び
日本共同証券による株式のたな上げがありまして、そのたな上げ株式の一部を解消いたしたもかお、いまだに簿価にして約三千六百億円の株式が練結されておる
状況であります。この凍結株式につきましては、いわば
日本銀行の信用に基づき保有されているものであり、また
証券市場は本来的にいえば自由市場であらねばならないという観点からいたしましても、このような
状態はできる限り早急に解消することが適当であると
考えるところであります。しかしながら、株式市場の現況からいたしまして、その放出の時期と
方法につきましては、きわめて慎重に考慮されなければならないと存じます。
一方、公社債市場につきましては、資本市場の重大な一翼をになうにもかかわらず、わが国におきましては
金融構造の特殊性からいたしまして株式市場の発達に比べて著しいおくれを見ておりますことは、皆さま御
承知のとおりであります。昭和三十一年開設された公社債の流通市場は、その後の
金融政策の転換に伴いまして、公社債の実勢
相場が起債条件と著しくかけ離れるに至りまして、三十七年四月以降、公社債の売買取引は事実上停止されていました。しかし、このたびの
国債発行を契機といたしまして、
東京証券取引所は、公社債の流通の円滑化をはかりますとともに、その公正な価格を形成し、ひいては
国民経済に寄与いたすべく、この二月、公社債の流通市場を再開いたしました。ここに
証券界多年の念願でありましたところの公社債流通市場確立への第一歩を進めたのであります。また、近く
国債上場も
予定されておるのでありますが、公社債流通市場の確立には、私
ども証券界の努力はもちろんでありますけれ
ども、市場のメカニズムが十分発揮できますところの起債環境の整備に一段の配慮が望まれるのであります。
昨年改正証券取引法が公布施行されまして、
証券業の免許制が採用されることとなったのでありますが、現在、
証券会社は、この免許制への移行を目前に控えまして、財務体質の改善強化と営業体制の刷新整備を中心に、
わが国経済の発展に寄与し得る
証券会社としての機能充実に全力を傾注いたしておるのであります。
一方、証券取引所につきましては、証券取引法改正法案の審議に際しまして、「資本市場育成強化のため、今後とも証券取引法の改正が必要であるが、このため
政府においては、
証券業協会及び証券取引所のあり方、証券の
発行流通に関する制度、さらに証券
金融の制度について十分検討を加えるべきである」との附帯決議がございましたが、私
ども取引所のほうにおきましても、
証券市場管理の担当機関といたしましていかにあらねばならぬか、またいかにして社会の負託にこたえ得るかという観点から、そのあり方に意を注いでいるところであります。
ここで本取引所の組織について見てみますと、御高承のとおり、戦後会員組織の取引所として再開されたのでありますが、この組織が採用されましたのは、統制的な性格の強い
日本証券取引所を解体して民主的な制度を採用するねらいがありましたことはもとよりでございますけれ
ども、証券取引はきわめて専門的で、しかも大量の証券を正確迅速に処理することが要請されるところから、取引所を能率的に運営するには取引の主体をなす
証券業者の自治的な運営形態が最も適当なものとされたからにほかならないのであります。この意味におきまして、取引所の組織としては、今後も会員組織でいくべきものと私は
考えるのであります。
ただ、その運営におきましては、
投資者の保護並びに
国民経済の適切な運営に寄与するという証券取引所の公共的使命が十分に確保されることが強く要請されるところであります。かかる要請にこたえるべく、私
どもの取引所におきましては、すでに昨年七月、証券取引所のあり方に関する特別
委員会を設置し、取引所はいかにあるべきかについて、総力を結集しまして鋭意検討を行なっております。
同特別
委員会におきましては、会員組織に基づく取引所機構のあり方、公正な価格形成と流通の円滑化のための売買管理のあり方、
投資家保護と産業
資金の調達という二面の観点からの上場基準と上場後の証券管理のあり方などにつきまして、根本的な検討を加えております。
このうち、いわゆるバイカイ問題につきましては、昨年未以来鋭意検討を加えてまいりましたが、最近、市場における価格形成の一そうの公正化をはかるために、上場有価証券の注文は、売り買い別に市場に集中し、競争売買により価格優先及び時間優先の原則に従って執行するものとするとの大綱により、今後具体的な実施細目を検討するということが、取引所の
理事会において了承されているところであります。
これまでにおきましても、本取引所は、流通市場の健全性保持並びに
投資者保護という観点から、売買管理の強化をはかり、株価の変動に異常が認められた場合あるいはそのおそれがある場合には、委託保証金率の増徴等の弾力的規制
措置を講ずるなど、公正な価格の形成につとめてまいりました。また、上場会社の決算に関する監査
意見を公表して、上場会社の財務内容のディスクロージャーを強化してまいりましたが、今後ますますこうした制度を充実することによりまして、真に
投資者保護に徹した
企業のあり方が確立されることが期待されるのであります。
また、取引所業務につきましては、流通の円滑化をはかるため、かねてから大型電子計算機などを導入し、計算事務の機械化を行なうなど、その
合理化を進めてまいったのであります。今後におきましても、長期的視野に立ち、可能な限り業務の
合理化を推し進めていく所存であります。また、将来においてますます
増加が予想されますところの株券及び債券の取引決済面の
合理化をはかる必要があると
考えられ、これに対処していくために、広く業界、学界、
産業界、
金融界の方々から御参加を求めまして、いわゆる振りかえ決済制度の検討を行なっております。
以上、述べてまいりましたように、
証券界においては解決しなければならない問題が多々あるのでございます。もちろんこれらは私
どもに課せられた大きな課題でございますけれ
ども、
国民経済と密接な関連を有する
証券市場であることにかんがみまして、基本的な施策につきましては、
証券界のみならず、各界、特に国会並びに
政府の御理解が必要なわけでありますからして、今後ともよろしくお願いする次第でございます。
特に証券税制につきましては、国会並びに
政府の御理解と御協力によりまして、昨年配当所得に対する源泉選択課税制が実現されたのでありますけれ
ども、なお利子所得と配当所得の課税上の均衡が十分はかられたとは言いがたい
状態でありますので、明年度以降の税制改正におきましては、
企業には蓄積、家庭にはゆとりという要請からいたしましても、利子所得と配当所得を税制上均衡のとれたものに扱われますよう特に要望する次第でございます。
また、証券
金融につきましては、その
現状はきわめて狭隘かつ不安定でありまして、このため
証券市場の重要な機能であるところの有価証券の市場性の付与が不完全なものになっております。
金融の
緩和基調にあるこの機会に、正常な
証券業務を営む上で必要とされる
資金は、証券担保
金融の形で供給される制度の確立が望まれるのであります。
最後に、業者の免許制への移行につきましては、業者自身の努力はもちろんでありますが、それに関する一連の証券政策につきましては、
証券界の育成という見地から、大局的総合的視野に立って、円滑かつ効果的に行なわれますよう格段の御配慮をお願いいたす次第でございます。
以上をもちまして、私の陳述を終わりますが、何とぞよろしくお願い申し上げます。