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参考人(
鈴木竹雄君) では、御指名によりまして、
意見を申し述べさせていただきます。
私は、
保険審議会の
委員をしております。また、
保険審議会におきまして
地震保険を
研究いたします小
委員会の
委員もいたしております。今回提出されておりまする
法案は、この
保険審議会の
答申をほとんど全く取り入れたものでございます。したがって、
委員会でこのような
内容の
答申に達しましたいきさつ、その間における私の
考え方を織りまぜて、申し上げたいと存じます。
この
間画が
保険審議会に提示されましたのは、一昨年の七月
新潟地震の直後でございました。ちょうど
地震の当時でございますが、
保険業法の一部改正を
審議中であった
衆議院の
大蔵委員会が、すみやかに
地震保険等の
制度の
確立を検討すべき旨の
附帯決議を行なわれましたことにうながされたものであったと思われるのであります。
地震が
保険制度化することのきわめてむずかしいものであることは、ただいま
高木損保会長の言われたとおりでございまして、現在の
火災保険の普通の場合、つまり
普通保険約款でございますが、その中にはいわゆる
地震約款というものを置きまして、
地震による直接間接の
損害については
保険会社は免責されるということが定められているわけであります。
しかしながら、この
地震約款の効力が
関東大震災の際に大問題になりまして、そのような
約款は無効であり、
保険会社は
責任をしょわなければならないんだという主張が強く一方においてなされたのでございますが、
法律上の解釈といたしましては、やはり
地震約款も有効なものであると、この点は大正十五年の大審院の
判例によって明らかにされております。そうしてまた、学説もこれを支持しているわけであります。その後もこの種の
判例が繰り返されておりまして、今日において
地震約款の有効なことについては、
法律論としてはほとんど争いがないと思われるのでございます。しかしながら、
関東大震災の場合におきましても、このように
法律上は
地震約款が無効であるとされながらも、やはり一種の政治的あるいは社会的な妥協といたしまして、若干の
見舞い金が
保険会社によって出されたのでありまして、それがその後も
あとを引きまして、
地震の
たびごとに、
法律上は
保険会社が
責任がないにもかかわらず、ある程度のものを出すべしというような声が常に聞かれるのでございます。
先ほど申し上げました
衆議院の
大蔵委員会の
附帯決議の中にも、
保険会社が何らかの
措置を講ずるように指導を行なうべき旨の要望がなされております。その結果、
保険会社は若干のものを出したということでございます。
しかし、このような形ははなはだ非
法律的な解決でございます。そうして、それによって
保険会社が出します金というふうなものもきわめてわずかなものにすぎないのでありまして、とうてい
地震による
損害というものをてん補するに足りないということは申すまでもないわけであります。言いかえれば、きわめて、本来の目的から申しますと、
意味の少ないものでございます。したがって、私もかねがね
地震保険のようなものが普遍的な
制度として何とかできないものであろうかというふうなことを考えてはおりました。もちろん、現在におきましても、
火災保険に
地震の場合においても
責任を負担するという特約をつけるということは可能であり、現にそのような
保険もとられてはいるのでありまするけれ
ども、これはきわめて部分的なものでございまして、
金額もきわめて少なく、一般的な
保険というものにははなはだ適しないものでございます。
〔
委員長退席、
理事藤田正明君着席〕
したがって、そういう
意味で普遍的な
地震保険というものができることが望ましいと考えておりましたので、
先ほど申し上げたように、国会の御
希望というものが
基礎になって、そして
保険審議会でその問題が取り上げられましたことは、私としてもきわめて妥当なものであると考えたわけでございます。
しかしながら、このような
地震保険というものをやるにつきまして、それがきわめてむずかしいものであるということは言うまでもございません。第一に、国営でやるか
民営でやるかというふうなことが問題に当然なったわけでございます。そのときに、
民営という形が
最初にわりあいに強く出てきたわけでございます。しかしながら、
先ほど高木会長も申しましたように、
損保会社というものは広く名神の
保険を営んでおるわけでございまして、そのようないわば本来やってまいりましたところの
仕事が
地震保険を始めたことによりまして危うき状態におちいっては、これはいわば元も子もなくなると申しますか、たいへんなことだとまあ私も考えたわけでございまして、したがって、
審議会の席上
損保会社のほうからやるというふうな意向が示されましたのでございますが、あるいは
先ほど申しました兄舞い金と同じように社会的ないしは政治的の圧力というふうなものが
損保会社に働いて、そのような発言になったのではないかということを私自身おそれたのでございまして、そこでまあコンフィデンシャルな形で私は
損保会社関係の
意見を聞いてみたのでございますが、
先ほどの
お話のように、
担保会社としては
保険事業の公共的な性質というものを深く自覚をして、必要な
地震保険というものを自分の力でできるだけのものとして実現をしたいという強い
希望を持っていることを知りましたので、それならば
民営というふうなもので前向きの姿勢で考えていくということに私の
意見もなってきたわけでございます。
しかしながら、
民営でやると申しましても、もちろん
民間だけでできることではございません。もしそうなりますれば、
ほんとうにひさしを貸しておもやを取られてしまうというような重大な結果も起こるのでございますから、やはり国の
支援というものがなければならない。したがって、
民保会社のとりました
保険というものを再
保険する、それを国が
引き受けるという形をとらざるを得ないというふうに思ったのであります。しかしながら、これは、いま私はまあ
民営というものに国が
支援をするというふうに申し上げましたけれ
ども、逆に考えまするならば、国がやる
仕事に
民保を使うのだという
考え方もできるかと思うのであります。すなわち、国が直接に乗り出してまいりますよりは、
民保会社のいままでの機構、そしてまた持っております力というものを利用するのだと、第一義的にはそれを利用していくのだというふうに考えることもできるのではないかと思うわけであります。
で、かようにいたしまして、一義的には
民保が取り扱いますけれ
ども、国がこれを再保するということになります。しかし、この問題を考えてまいります場合に一番重大なことは、
先ほどからも
お話がありました
地震危険というものの
特殊性であります。あるいは
地震損害の
特殊性というものでございます。これはきわめて大きなものになる
可能性があるわけであって、たとえ国の直営でやる場合におきましても、その
損害の全額を負担するということがはたして可能かどうかということが疑問視されるだろうと思います。その上に、たとえば非常に大きな家を持っている人、豊富な
家財を持っている人の
損害を、国が直接なりあるいは国がバックアップいたしました再
保険というものでカバーするというふうなことは、これはやはり適当ではない。ある程度と申しますかのものをただカバーできれば、それでがまんするほかはないのではないかというふうに思われるわけであります。
そうしてまた、その問題は、他面におきまして
保険料という問題にもつながってくるわけでありまして、もし
保険金額が非常に高いということになれば、それに応じて
保険料が高くなり、そういうふうな
保険料の高いものを、生ずか生じないかわからない、ある
意味においてはたいていだいじょうぶだろうと思っているような
契約者が支払ってまで
地震保険というものをつけるというふうなことはなかなか考えられないということになりますと、やはりある程度にそれを押えて、
保険料が高くならないというふうにすることの一つのまた
必要性も起こってくるわけでございます。
そのような観点から、この
地震保険というものを
制度化してまいりますことになりますと、きわめて複雑な形のものをとらざるを得ないということになるわけでありまして、すなわち、
民保の力をあげて
引き受け得る
限度というものは三百億である。そうしてまた、
政府がこれを再保にとるといたしましても、
先ほど申しましたような
考え方からいたしますと、やはり
限度を国としても設けざるを得ないわけでありまして、それは
民保を合わせて結局三千億というところで一応とめていこうというふうなことになります。
そうしてまた、
保険にとります
対象といたしましても、
住宅及び
家財というものがその
対象として考えられてくるわけでございます。もちろん、工場のようなものも
地震によって
損害は受けるわけでございますが、そのようなものまではいま及ぶということはできない。そうして結局民生の安定というものをはかるということからいけば、やはり
生活自身に直結したところで限るということが妥当であろうということになったわけでございます。
そうしてまた、それを独立の
地震保険というふうなものにいたしませんで、
火災保険に付帯させていくということが望ましいだろう。その場合におきまして、やはり
住宅総合保険のものに
地震保険を入れる、自動付帯と申しますけれ
ども、その自動付帯というのは、結局総合
保険の負担しております事故の中に
地震を入れるということ、言いかえれば、
約款の中に
地震を
保険事故として加えるということなんでありまして、別に知らないうちに
地震の危険までがその中に入ってしまうというのではない、一般の普通
約款の中にそれが入り込んでいるというだけのことでございます。そうしてまた、それ以外の普通の
火災保険の場合にも、これは欲すれば
地震保険というものを任意につけることができると、そういう形にすることがいいだろう。
そうしてそのような形になりましたときに、
地震保険のほうで払います額というものはやはり限定をせざるを得ないということになって、その結果として、結局主
契約の
保険金額の十分の三、しかもそれは
地震保険に付することのできる
金額は、
住宅のほうは三百万円、
家財のほうは二百万円となるから、したがって、
保険金を払われ得る
限度というものは、
住宅については九十万円、
家財については六十万円、計百五十万円というところでとどまるということになったわけでございます。そうして国が再保をいたします場合におきましても、やはりその
限度は国としては二千七百億円。したがって、両方合わせて三千億というところで頭打ちになるわけであって、それ以上に達した場合には削減ということを考えざるを得ないということになるわけであります。
このような形のものはいままでの
保険にはなかったことでありまして、損保としてはきわめて新しいタイプのものがここででき上がることになるわけであります。しかし、このような非常に複雑な技術を使いますことも、いわばわりあいに短時日の間——もっとも
損保会社におきまして相当以前から
研究をしていたようでありますけれ
ども、
保険審議会として比較的短時日の間にこのような技術を考え出してきたということは、相当よくやったんじゃないかというような感じもするわけでございます。
要するに、その他、全損の場合だけ
責任を負担するようにしてございますけれ
ども、これも分損のことを考えますと、なるほどしてはやりたいけれ
ども、それは非常に評価が困難になってくるということ、できるだけ迅速に払うという必要から考えますると、こういうふうなものはその点に問題が多い。しかも、分損を含ませますと、また
保険料が非常にふえてくるといったような問題も出てまいりまするので、一応分損をはずすということにしたわけでございます。
要するにいま申し上げましたように、この
地震保険というものは相当不十分なような感じもするわけでございますけれ
ども、しかし、やはり
損保会社としてできるだけの力をそこへ吐き出させた結果というものがこういうものにとどまらざるを得ないという現状でございます。これは将来において、幸いに
地震というふうなものがすぐに起こるようなことがなく、順調にこれが進んでまいりまするならば、もっと
契約を改善をしていくということは可能であろうと思われるのでありますが、要するに、非常にむずかしい問題も、現在における解決としては、まずこのところにとどめざるを得ないだろうというのが私の感じでございます。
以上、私の
意見を申し述べました。