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参考人(
古賀藤久君)
福岡県の
教職員組合嘉穂支部長の
古賀でございます。
まず、第一に、
産炭地の
教育関係者といたしまして、四月二十七日の本院のこの
石炭対策特別委員会において、
石炭鉱業合理化臨時措置法の一部を
改正する
法律案の
審議のときの
附帯決議の中で、「
産炭地域における
教育の
現状は憂慮すべきものがあるので、
教育振興のため、一層財政上
行政上の
特別措置を講ずること。」という
決議を加えていただきました件につきまして、心からお礼申し上げます。私
どもは、この
決議がちょうど大干ばつのときに農民が慈雨を待っているような気持ちで承り、喜びと
期待で一ぱいでございます。よろしく
お願いします。
資料を配っておりますので、これを
中心にお話を申し上げます。
産炭地教育の
実情は、一口に申しますと、
失業
の増大による
崩壊家庭の
子供の
教育の問題であるということが言えましょう。提出しています
資料の一ページ、二ページによって明らかなように、再就職した人々の多くは他の地方に去って行きましたが、一方、再就職の
機会に恵まれない多くの
失業者が出ております。三ページ、四ページに出ておる
生活保護家庭の問題は、
子供たちの
作文に次のように書かれております。
「
炭坑の
閉山、六年K・
T男」というので、「
炭坑の
閉山は私の
家庭に大きな被害を与えた。
炭坑閉山からの
生活は苦しかった。そのころ小さかった私は今でもそのころのことがかすかながらも頭の中に残っている。それからの私
たちの家族は貧乏のどんぞこに苦しみ、毎日の食事も米のごはんにありつけず、さつまいものゆでたのが三つか四つ食べればよい方だった。今四年の弟な
ども病人になった。それを見かねた母はどかたに出だした。毎日へとへとになって帰って来た母を見た私はふとんの中で泣いたこともあった。今考えれば、石油などが、世の中に現れなかったら私
たちの苦しい
生活はなかっただろう。」と書いております。そのほか
作文がございますが、時間の
関係上省略いたします。
こうして
失業者の
家庭から
崩壊が始まりました。親と死別した
子供のほかに、生別、出かせぎなどが目立っております。また、
失業の中から
生活に絶望し、家出する父、あるいは母、または
仕事を求めて出かせぎに行って別居、そのまま行くえ不明になった父母が多く
報告されております。また、両親がいても、
失業の中でいらいらしたり、不満、それが
夫婦げんかとなり、時にそばにいた
子供がなぐられたり、教科書が破られたり、母が住み込みで旅館やバーに働きに出ているため、父がおこりっぽくなり、
子供が必要以上になぐられたりしております。こうした
家庭の
子供たちが
非行に走るのも無理からぬ点がございます。
資料の五ページ、六ページ、七ページ、八ページ、九ページ、一〇ページは、そうした背景の中から
非行の増大していったことをあらわしております。
産炭地では、
炭鉱の盛んなときでも
非行児が多く、これは戦前からも見られた傾向でしたが、
石炭合理化、閉廃山による
失業者の
大量増加の中からこの
非行が大きくなっております。
ミカン山の
ミカンを盗むとかカキを盗むということは、私の
少年時代も見られましたが、私は
産炭地で育っております。今日のそれは質が変わっております。
K中学の
報告によると、
ミカンを盗むのに大きなふろしきやリュックサックを持って、小学生を見張りに立てて集団で盗み、それを売って金を得ているという事件がありました。
非行は集団化し、組織化し、年齢も低下しております。
子供たちは
家庭がおもしろくないので、
家庭から遠ざかろうとして家出したり、学校でおそくまで遊んだり、また、学校の養護室に寝てホテルのようだと喜んでいる。そんな姿の中から
非行に入っていくのではないでしょうか。
教師
たちは、
非行対策に、補導とともに、クラブ活動の重視をあげています。教師が夕方まで土曜も日曜も夏休みもクラブに熱中し、
自分の
家庭すら放棄して
子供たちの
指導をし、そのために
夫婦げんかも起こったりしていますが、この
非行防止の悲願がクラブ活動に教師を熱中させています。
次に、
資料二ページ、それから別冊稲築町の補導主事会のパンフレットがございますが、これを見ていただけば御理解いただけるように、各学校はいま補導専任の教師を置いて対策に大わらわでございますが、解決の抜本的な見込みはありません。
非行の拡大を食いとめようとしておるのに精一ぱいです。ここに私
たち現場教師が実際に行なっている補導日誌、巡回記録、カウンセリングカードの一部を持参しておりますが、このカードの
一つ一つを読みますと、
非行の
子供一人一人を私
たちは責めることができません。本来的に
子供の素質がそうさしたのではなくて、
崩壊家庭がこの
非行を生んでいるからでございます。今日カギッ子が世間で問題にされているそうですが、私
たちの地帯ではカギッ子はいいほうでございます。かぎをかけるのは、盗まれるものがあるからかぎをかけるので、親
たちが出て行ってあき家になっても家にかぎをかけていない、盗まれるものがないといった
家庭でございます。ある女教師の
報告ですが、
家庭訪問をすると、父親は近所の人と花札賭博をしていて、教師の顔を見ても知らぬ顔をして花札を繰っているので、女教師もその場で何も話せずに帰って来たという
報告をしております。また、日雇いに働きに出ている母親は夜おそくなり、
子供の世話もできません。毎日よごれたシャツを着ているので、その
子供を夏は教師も裸にしてやって洗ったりしてやりますが、あまり破れたシャツ、よごれたシャツなので、夜おそく
家庭訪問してそのことを母に話すと、母親は、食べることが精一ぱいです、
子供のことは
先生に頼みます。見れば、その母親は三十五、六歳なのに、ぜんそくでも悪いのか、老婆のように口をぜいぜいいわせ、老人のように疲れ果てた表情で、教師は何も言えないで帰ったと言っております。二二ページ、一四ページにありますように、平恒小学校の清潔検査の例ですが、他の地方だったら、新一年の
子供は、母親の愛のしるしに、胸にハンカチを安全ピンでとめて、新しい服と帽子、ランドセルで意気揚々と校門に入りますが、ここでは四月の第一回検査、第二回検査では一七、八%の
子供がハンカチすら持って来ていないのでございます。学校は、学習よりも、
家庭でやれなかった、やってもらえなかったしつけを
家庭にかわってやることから始めなければなりません。
家庭の
崩壊は学習面でもあらわれています。一八ページに、三井山野鉱業所の
閉山の影響を直接に受けた稲築町鴨生、平の両小学校の児童の知能、学力の低下の現象が記述してあります。ここで見られるように、成績の上位の生徒が転出して、中位、下位が残り、それから、第二会社になってさらに悪化しております。幼児から栄養が悪く、それが知能の発達をおくらせ、
家庭では全く放任され、しかも、
家庭に学習する雰囲気もない、机もない
家庭でどうして学習させられましょうか。学習不振児が多くあらわれております。学習不振児を
中心に授業をしようとすれば進度がおくれて、文部省の示すとおりに進度を進めると劣等生を増加させてまいります。劣等生の生まれるのは教師の罪でしょうか、また
子供の責任でしょうか。こうした
生活指導、学習
指導上の障害に加えて、教師
たちは多数の保護児童のために
教育扶助事務を行なっております。一六ページから一七ページまではそれを
報告していますが、二〇ページは、Tという
子供に教師が町からの
教育扶助料を預かって、親にかわって学用品を買い与え、
最後に親の領収印をもらって会計監査を受けているときの写しでございます。この原本はここに用意しております。教師
たちは、当然福祉事務所や親のすることを代行しております。申し上げることはたくさんございますが、時間が切られておりますので、
最後に
一つだけ申し上げます。
嘉穂郡の平恒小学校の校長や教師
たちが、
崩壊家庭の
子供たちを次のように話しております。四年前に
子供たちのために花壇をつくった。初めのうちは
子供たちは花壇の垣のブロックを持ち出したり花をつみ取っていた。しかし、四年間
子供たちと努力して花を育てた結果、いまでは花壇をこわす者も花をつむ者もない。
子供たちが
自分から水を注ぐようになってきた。私
たち教師は
子供を信じている。
子供がゆがみ、むしばまれているように見えても、その奥の心のけだかさを信じていると申しております。これは
産炭地教師、
教育関係者の共通の考えです。この
産炭地の
子供たちを救うための応急の対策としては次のように考えます。
家庭教育、社会
教育の
崩壊した
現状の中で、学校がその代行をせねばならぬため、一学級の規模を少なくして、学級担任が真の親がわりになれるよう、一人一人に行き届いた
教育がやれるように措置するとともに、教師の受け持ち時間を少なくしてクラブ活動ができるように
配慮する。そして教師を事務や養護から解放して、
子供の直接
指導に専念できるようにすること。
非行対策のために補助教師を最低各学校一名以上配置すること。
精神薄弱児童のための特殊
教育に格段の措置を行なうとともに、
産炭地の
教育施設、設備の充実によって
教育効果をあげるようにすべきことなどであります。しかし、これは抜本的な対策ではありません。抜本的な対策は、まず、親が就職し、毎日の
生活に安定と希望を持っていくことです。ある
失業者はこう語っています。昔のごつ、働けばそれだけ金になったり、盆、正月には女房
子供に晴れ着の
一つも買えたころはよかった、もうつまりまっせん。
先生、せめて
子供だけは一生働ける
仕事につかしたいが、むずかしゅうございますか。私のまねだけは
子供にはもうこりごりです。この親が毎日働き、
子供の世話をし、
子供を励ますとき、
家庭に笑いと希望が生まれるとき、
産炭地教育の危機は解消します。要は、
産炭地の父母を
失業の荒廃から救うことです。父母の
生活の安定と希望ある
生活、労働をする
生活、張りのある
生活の中にこそ、
子供は美しく強く正しく育つことができます。(
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