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説明員(岸盛一君) 少年法の改正問題につきましては、多年にわたりまして裁判所と
法務省との間でいろいろ
意見の交換がなされております。先般五月の末に
法務省がいわゆる少年法改正構想、いわゆる
法務省試案というものをおつくりになって、世間
一般の世論をも聞きたいということで広く世の中にお配りになったわけです。その中の一つの最も
関係の深い裁判所へもそれが示されまして、裁判所の
意見を聞きたい、こういうことでございます。
そこで、最高裁判所では、事務
総局内に、事務
総局のメンバーとそれから在京の実際の実務家の裁判官六名、
調査官研修所の
所長を加えました十六人からなる少年法改正問題
協議会というものをつくりまして、短時日の間ではございましたけれ
ども、鋭意
法務省の構想の基本的な問題について討議いたしました。それと同時に、全国の高裁長官と独立家裁、つまり専任の家庭裁判所の
所長、それから主要都市の併任の家裁
所長の会同を開いて、この
法務省構想に対しての
意見を求めたわけでございます。その趣旨は、先ほど申しましたように、やがて最高裁判所が
法務省に対しまして正式に裁判所としての
意見を表明しなければならないわけでございますので、その
意見を打ち出すための参考として
協議会あるいは会同を開いたわけでございます。そこで、
協議会ではまだ中間
報告というものは出しておりませんけれ
ども、大体基本的な問題についての討議が相当進んでおります。その
協議会における討議の模様と、会同の際における
意見とがほぼ同じ傾向をたどっておりますので、両者をあわせて
法務省構想案に対してどういう点が問題になっておるかということをこれから簡単に申し上げたいと思います。
まず、
法務省構想案を批判する前に、裁判所としまして、今後家庭裁判所の充実をはからなければならぬということは、これはみな考えておることでございますし、また運用の問題も現状をもって満足しておるわけではなくて、運用の改善すべき点については、今後十分それをやっていかなければならぬ、そういうことが前提となっております。その上で、
法務省構想案の青年層の設定と検察官先議について、これは御承知のとおり、年齢を十八歳まで引き下げまして、二十三歳までの間の層について検察官のいわゆる先議権を認めよう、したがいまして、少年法の適用を受ける年齢は満十八歳未満ということになっているわけでありますが、この構想につきましては、
協議会におきましても、また会同におきましても、ほとんど一致した強い反対
意見が述べられております。いろいろ論議されましたが、大体
法務省の構想では、青年層の設定と検察官先議権というものは結びつけられておって、年長少年を刑事処分にするか、あるいは保護処分にするかのふるい分けを検察官に行なわせようとするわけでありますが、少年についてどういう
処遇をするのが適当か、すなわち、少年を刑事処分にするのが適当か、あるいは保護処分にするのが適当か、ここでいう保護処分ということばは、法律でそういうことばを使っておりますので、これは誤解を招きやすく、家庭裁判所は少年を甘やかすというような批判も一部にはございますが、その点は、反省すべき点は反省しなければなりませんけれ
ども、ここで言う保護処分というのは、少年の再非行防止のための健全育成、そのための
矯正的な教育、そういうものが
内容になるわけでございますが、それがどちらが適当かという判断は、その少年の非行事実の有無についての正しい審査と、それから何と申しましても、少年の犯罪の原因は環境とその資質、つまり精神薄弱者が多いのですが、そういう非行事実の有無についての正しい審査と環境
調査、あるいは資質に関する公正な
調査を前提として初めてこのふるい分けが可能なわけであります。そうして、このような正しい事実認定と公正な
調査はやはり司法機関である家庭裁判所が行なうのが最も適当である。家庭裁判所以外にその役割りを果たすところは考えられない。もしかりに、検察官がこのような役割りを
担当するとしますと、非行事実についての裁判官の審理が始まる前に検察官の
調査が行なわれることになる、これは適当ではない。つまり家庭の秘密やプライバシーに重要な関連のある
調査が
捜査の段階で検察官によって行なわれることになるじゃないか。その
調査は、さらに保護者や
関係者にまでも及ばざるを得ない。その結果、これらの者は、
被疑者に対する起訴、不起訴の権限を背景に持っておる検察官によって、一身上のさまざまな秘密をおかされることになって、これは人権保障の点から言って問題じゃなかろうか。またこればかりではなくて、社会
調査や資質の鑑別というものは、
事件が
捜査ないし訴追機関の手を離れて裁判所に係属してから初めて審判のために行なわれるというのがこれが筋である。そういうわけで、との構想にはどうしても納得できない。少年
事件に関する検察官の関与−もちろん少年犯罪についても社会防衛という点を無視するわけにはまいりません。そのための検察官の関与の程度は、検察官が審判手続へ関与する
機会をある程度拡大することによって十分ではなかろうか。いろいろな
意見がありましたけれ
ども、大体そういうふうなことに結論がなっておりました。
それから審判手続の改善につきまして、家裁の処分に対して検察官に不服申し立ての道を開くということは、これは認めてもよいという
意見が多数を占めております。しかし、抗告権を認めるにしましても、全部の
事件についてではなくて、たとえば刑事処分
担当の検察官
意見が付された
事件を家裁が刑事処分に付さなかった、それがあまりにも不当である、こういったような場合に認めるのが適当じゃないか、そういう不服申し立て権はある限度において認めてよろしい。検察官の審判手続の立ち会い権についてでありますが、これは検察官に
意見陳述の
機会を持たすということは、これは十分考慮検討されてよろしい。しかし、少年審判の教育的な場としての特色、少年の情操保護という点からして、審判の場で少年と検察官とが相対立して相争うような性格を持たすべきじゃない。したがってそういう対審構造をとるような検察官の立ち会い権は認めることには疑問がある、そういうことでございました。なお国選付添
弁護人制度については、これは裁判所も大賛成でございました。
次に、保護
矯正の
執行面の改善の問題、保護処分の多様化、またこれらも全員賛成でございました。なお
執行面の充実、これこそ目下の急務じゃなかろうかということが強く強調されたわけであります。実際の問題として、少年のための
収容施設や保護観察の制度が非常に不備である。そのことが家庭裁判所が
事件の適切な処理をするのに大きな支障になっておる、支障を生ぜしめておる。そこにこの現行少年法の運用をゆがめる根本的な原因があるのではないかということも指摘されたわけでありまして、その保護
矯正の
執行面の改善については、これはかねてから裁判所側も強く要望していたところでございました。その点について積極的にその改善をはかるべきであるという強い
意見が出たわけであります。
それから
調査機構の改善につきましては、これは
調査は先ほど申しましたような性質のものでございますので、裁判官からそれを離してしまう、つまり裁判所から独立の
調査機構を設けるということには、これを支持する
意見はございませんでした。これが
協議会、それから会同において述べられた
意見の大要でございまして、これからなお最高裁判所といたしまして検討を続けて、一、二カ月先に正式な裁判所側の
意見をつくりまして、そうしてやはり世の批判を受けて、そうしていろいろ御
意見を聞いて
法務省との調整をはかりながら実効のある少年非行
対策を考えていきたい、こういう現状でございます。