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神近分科員 地元のことで、福岡で起こったことを御存じないということは、私には納得ができないのですけれど、地元であれば
選挙地でありますから、地元の問題はもう少し頭を使ってもいいことで、いまみなの質問を聞いておりますと、みな自分たちの地元か何かに関することです。それを御存じないというのならば、私が申し上げます。
この
関係者は七、八人おりますけれど、全部戦争に行って帰ってきた人たちでございます。二十二年のできごとでございます。そしてその当時は、軍の物資というものが佐世保あたりにたくさん蓄積されていて、軍服だとか、シャツとかズボンとか、そういうものがたくさん隠してあって、これが盛んに福岡で取引されていたということ、この
関係者は全部戦争に行ってきた人たちであるということ、それから非常に食糧不足のときで、そしてやみ物資が非常に盛んであったということ、そういうことを背景にして起こっているのでございます。その死刑囚の西武雄という人は、ラバウルかどこかに長く行ってそして帰ってきた人なんで、人柄がちょっとよかったようでございます。そして前に芸能社をやっていまして、みんな娯楽に飢えているので、若い者や村落の人たちにその芸能を見せて歩いていた。ところが、持ち逃げか何かされて芸能社がやっていけなくなって、トラック業をやっていた。野田俊作という方が
知事選挙をやられたときに、トラックを持っていたものですから、応援することになって、そこに出入りしているうちにいろいろ問題が起こってくるのです。結局は、この人の顔がいい、みんなに愛されているというので、やみブローカーの熊本というのに頼まれて、自分がやみ取引をするから顔だけ貸してくれ、前の取引のときにやくざに入り込まれて、そしてもうけをだいぶとられたから、それを防ぐためにこの西という人の顔を貸してくれ、こういうことになって、そして軍服を千着取引することになったときに、問題が変なことになるのです。松川
事件でもあるいはほかの
事件でも、みんなそのときの警察がつかまえるのは十九歳ぐらいの青年です。そしてこれをだましたり、すかしたり、おどしたり、なでたりしてそしてしゃべらせる。それが白状ということになって、
起訴の根拠になる。そういうようなことで、このときは、本名ははっきりしませんけれ
ども、一応黒川というチンピラの変な青年がつかまって、そして松長次郎という検察事務官がこれを締めつけて、そしてべらべらべらべら、あることないこと言わせたというようなことで、そして
石井健次郎というもう一人の死刑囚はどういうことだったかといえば、陸軍少佐をしていた人からピストルの売り込みを頼まれて、そのピストルを持っていたが、売れないので、一発間違って若いものが発砲するものですから、これはあぶないと思って返しに行った。返しに行ったけれど、その人がちょうど留守だったから、ピストルを持って帰るところを、さっきの黒川という青年が、やくざのけんかに
——福間というところの競馬場の場所争い、それでけんかが久留米と福岡の親分の間に起こりそうだからというので、この西という人が、親切だったとみえて、そんな日本刀なんか持っていってもしようがないぞというので、ピストルをさがしてやろうというところだったのです。そのピストルを預かっていた
石井健次郎というのが、返しに行って、いなかったから持って帰るところをちょうどつかまって、そしてピストルなら買いましょう、売りましょうということになっているうちに、お金がない、五万円くらいのお金をもらわなければならない、ピストルを先に渡してはこのお金がとれるかとれないかわからない、人のものだからというので、お金と引きかえにというので、西だの熊本だの黒川だのというのについて歩いている。そのうちに、何だかお金の取引があるだろうと思うところに、中国人の王という人ですが、この人の様子をこう見ていると、何かけんかが熊本との間に起こって、取引の品物が出ないというのか、あるいは倉庫か何かの門があかないというのか、王というのがおこって、そして何だかけんかをやっている。それで、暗いところでこう見ていると、何だかピストルを出しそうな感じがして、こっちが先に撃ってしまう。そういうような、もうばかばかしい、
調べてみればほんとうに、誤って撃ったということになっておりますけれど、そういう
事件なんです。そして西武雄という人は、手付は十万円預かってそして受け取ったけれど、その
事件が起こった場所にはいないで、はっきりとどこかで向こうの仲間と
——その王の仲間がほかに五人来ていまして、それが集まって、取引が済んで一ぱい飲んで待っているところに、片方の現場ではその殺傷
事件が起こった、こういうことなんです。それで、本人たちは間違って撃ったのであって、西という人はほんとうに何にも知らない。だけれど、でっち上げといいますか、こしらえ上げた事実としては、謀略、千着で七十万円
——そのときの七十万は、今日の一千万か二千万に当たるそうです。それだけの金を取引するということで、十万円先に手付をもらって、現場で品物を渡しましょうといって、その現場でそういう考え違いから
——そばに立っていて、お金を受け取ったらピストルのお金をもらおうと思って立って待っていると、何だかけんかが始まって、そしてここからピストルを中国人が出しそうな気配がして、撃たれると思ったから撃ったということになって、この人は確かに二人殺しているんですから、私は、この人がある程度罰を受けるということはやむを得ないだろうと思います。死刑に当たるかどうか知りませんが、意識的にやったんじゃない、間違ってやったというところに私は考慮の余地があると思うんです。
——きょうは人権無視の問題なんですけれど、女の人権というものはこのとおりでございます。一番おしまいにされまして……(「いや、ぼくもある」と呼ぶ者あり)私は簡単に言いますよ。簡単なつもりでやっているのだけれど……。
こういう下山
事件、松川
事件、それから、いまの福岡
事件と呼んでおります
事件、それから三鷹
事件、八海
事件、松山
事件、帝銀
事件、私は、こういうような問題が起こった根底はどこにあるかということを
大臣に一番考えていただきたいのです。松本清張はフィクション・ライターということになっておりますよ。だけれど、彼のこのごろの作品は知りませんが、初期の作品を見ますと、私はフィクションを書けばもっと売れるということはよくわかる、だけれど、今日の占領中の歴史というものは、おそらく二十年、三十年、あるいはもっとたたなければはっきり書けないだろう、その材料に私は残しておきたいというようなことを書いておりますから、この
事件に関したものは単純なフィクションということに受け取っては、私は間違いだと思うのです。それでこの古川泰龍という人がいろいろなところに陳情をして、自分の生活をなげうって、もう食うか食わないか借金だらけで、奥さんの着物はみんな質に入れさせたり売り払わせてやっていらっしゃるというところに、私はもうちょっと同情的な考え方を持っていただきたいと思うのが、今日のこうやって
大臣に特別にお願いする、あるいは
お尋ねする事態ですけれど、そのときのことは実に言語道断なのです。私は役人の悪口は言いませんよ。そのとき役人が法律どおりの生活をしていらっしゃるなら
——あのとき判事さんでしたか、
名前を忘れましたけれど、飢え死にした人がありました。ですから、法律どおりにやみ物資を食べないと言って飢え死にした判事さん、これは私りっぱだと思うのですけれど、現実的ではないというふうに考えます。だから、そのとき中国人がやみ物資をたくさん持ってきて、その仲間を殺されたという憤りから、警察にたくさんシナ料理、食べものを持って、チップを持ってきて、そうしてやっているというようなこと、それは私やむを得なかったろうと思うのです。ですけれど、いま
名前はちょっと忘れましたけれど、第一審のときに、裁判長が死刑を二人に言い渡した。ところが、中国人が一ばい傍聴席に来たのを、その判決を言い渡した
あとに法廷に入れて、そして、ともかく七人ともみんな死刑にしろ、死刑にしろと中国人が言うところを、二人死刑にしたのだからこれでがまんしてくれと言ったというようなことを考えれば、そのときの裁判というもの、あるいは松川
事件であれ、あるいは三鷹
事件であれ、ともかくそういうような変な圧迫のもとに裁判が行なわれたということ、この過去の現実だけは、私は
大臣に認めていただかなくちゃならないと思うのです。
この平和条約の実施に伴う刑事判決の再審査等に関する法律、これは法律ではあるが、平和条約以前につくられたものですから、
大臣御存じなかろうと思うのですけれど、これなんか読んでみると、連合国の人は自分の国の国民を守るのに実に賢明だと私は思うのです。これは、
昭和十五年ですから、戦争が起こる前から、日本で受けたところの裁判、刑事あるいは民事両方ともに、それに対して不当だと思う者は、平和条約発効後一年間は、連合国人は、法人もそうでありますけれど、再審を頼むことができる、こういう法律をちゃんとつくって帰っていった。私はそういう
意味からも、もし駐留軍の
権力によって行なわれた裁判があるならば、これを是正するということが今日必要ではないか、やるべきではないかと思うのです。この材料は、私がいまべらべら申し上げただけですから、あるいは御納得がいかないかと思いますけれど、駐留軍の圧迫によって行なわれたという事実はたくさんあります。私はまた別の日に法務委員会で御
報告申し上げ、また御考慮を願おうと思うのですけれど、ともかく、万一、駐留軍のいた間の
権力の圧迫によって裁判が行なわれ、どこかで
——ちょっと
名前はいまなにしましたけれど、松川
事件のときなんかはっきり言っているのですよ。ポリシーじゃない、工作だ、
政治ではなくて、われわれがいまやっているのは工作だと。これはG2とか、CICとかいう
関係者の発言ですけれど、それを食っているかわいそうな人たちがたくさんいるということをお考えになれば、これは自国の国民を守るために、特別の再審を考慮していただく余地があるのでないかということを私考えるのです。
大臣はいままで法務のほうにはあまり御
関係はなかったかもしれませんが、こういう事実の前にどういうように、もしそういうことがあったならばという仮定の上でもけっこうでございますけれど、どういうようにお考えになるか。