○山中(吾)
委員 私は、
日本社会党を代表して、ただいま議題とされました
昭和四十一年度総予算につき撤回のうえ経済財政政策を転換し編成替えすることを求めるの動議につき、その趣旨及び理由を御説明申し上げます。
〔
委員長退席、松澤
委員長代理着席〕
まず、本動議の主文は、
昭和四十一年度
一般会計予算、
昭和四十一年度
特別会計予算及び
昭和四十一年度
政府関係機関予算については、
政府はこれを撤回し、
政府の経済財政政策を左記要綱により根本的に転換し、その上に立って編成替えすることを
要求するというものであります。
政府は、今回の予算編成にあたりまして、今日の深刻な不況と物価高によって
国民生活を不安に追い込んでいるみずからの経済財政政策破綻の責任を忘れ、何ら反省を示さず、景気停滞は底をついた、今後の見通しは明るいとの安易な判断に立って、一方では、独占価格の維持、弱小企業の切り捨て、賃金ストップと合理化による産業再編成を推し進め、他方では、放漫な物価
値上げ政策とともに事実上の赤字公債発行を軸とするインフレ予算を編成し、労働者、農漁民、小規模
事業者など、勤労大衆に対する生活圧迫に拍車をかけようとしておることはまことに遺憾であります。これらの諸
施策を一方的に推進いたしますならば、実質成長率七・五%の達成はおろか、
日本経済を根底から破壊するに至るであろうことをおそれるものであります。
申すまでもなく、現在の深刻な経済不況を招来いたしました根本
原因は、自民党
政府の無計画、無責任な高度経済成長政策に根ざしているのであります。すなわち、過去数年間、とりわけ好況期におきましても、金づくり政策と称して租税の自然
増収を最大限に取り込んで予算規模を膨張させ、その資金を大資本のための産業基盤投資につぎ込んできたのであり、さらにまた日銀による通貨信用を膨張させながら、株式、社債等の有価証券を増発させ、最大限に銀行借り入れを行なわせ、これらの資金をあげて民間
設備投資に傾注させてきたのであります。
以上のような諸
施策を通ずる大資本優先の高度成長政策の過程におきまして、貧富の格差及び産業間、地域間の格差が拡大し、さらには生産と消費のアンバランスが拡大してまいり、その結果として過剰生産の圧力による
構造的不況が生み出されたのであります。それと同時に、インフレと物価騰貴の進行は財政の歳出要因を膨張させ、経済不況に伴う国庫の租税収入の縮小と相まって、ここに必然的に財政破綻の様相があらわれてきたのであります。
にもかかわらず、
政府は、過去においてとってきた経済財政政策の誤りを悟らず、その政策の転換の
努力を怠り、
昭和四十年度
補正予算においては二千五百九十億円の赤字国債を発行し、いままた
昭和四十一年度予算におきまして、建設公債の美名のもとに、七千三百億円の事実上の赤字国債を発行して、表面を糊塗しようとしているのであります。
政府の国債発行のねらいは、明らかにこれによって大資本のための需要をつくり出し、他方国債財源の一部を見返りとした大企業減税を推し進め、大資本の
経営の改善を通じて、勤労大衆の生活を犠牲にして、大資本優先の景気回復政策をとろうとしているのであり、まさに羊頭狗肉の愚民政策というほかはございません。
このような
政府の経済財政政策は、次の諸点において
日本経済と
国民生活に重大な悪影響を与えるものであります。
その第一は、インフレと物価騰貴をいよいよ悪性化させるということであります。
政府は、今回の国債発行にあたって市中消化を行なうと称しているのでありますが、それは当然に民間金融市場を逼迫させ、日銀の大量の追加信用を呼び起こす結果となるのであります。日銀が買い切りオペの方式をとることをきめたのもその一環であります。それに加えて
政府は各種の基礎的公共料金を軒並み引き上げて物価安定対策を放棄し、また大資本の側においては、企業コストの中で特に膨張のはなはだしい金利、償却、
管理販売費等の資本費の増大をすべて物価に転嫁しているのであります。このようなやり方は、ひいては
国民の通貨価値への不信を招く結果となり、本年一年間の物価上昇が、
政府の言うように五・五%にとどまるであろうなどという甘い見通しはとうてい許されないのであります。この一月の
東京の消費者物価指数が、私鉄
運賃の引き上げを織り込まないで、すでに対前月比で一・二%も上昇したことは、このことを示唆しているのであります。
国民経済と
国民生活に及ぼす悪影響の第二は、不況が長引き、その克服が困難になるということであります。現在の不況の
原因は、三ないし四兆円にのぼる供給能力と有効需要とのギャップにあると見ることができるのでありますが、今日、
政府と財界筋が一体となって進めております賃金くぎづけ、合理化政策と相まって、勤労者世帯の実質所得水準を低下させ、
国民総需要の中の個人消費支出を停滞させる結果を招き、四十一年度個人消費支出が一一・二%伸びるという
政府の見通しは、現在の雇用賃金等の
状況から
考えますならば、まことに困難と見なければなりません。
また、
政府の経済財政政策は、大資本の集中合併とアク抜きの推進により、中小企業の倒産を拡大し、また国債発行のしわ寄せと超過負担の押しつけによって地方財政を窮迫せしめているのであり、したがって、大資本の不況脱出に奉仕しようとする
政府の政策でつくり出されるものは、大資本だけが潤う見せかけの景気であり、大資本以外の大多数の
国民諸階層は格差拡大の下積みとして圧迫され、その生活の危機はいよいよ深刻なものとなってくるでありましょう。
第三には、国債発行には歯どめがなくなるということであります。四十一年度の七千三百億円の国債発行は、四十二年度には一兆円をこえ、四十三年度には一兆数千億円にのぼるでありましょう。この予質の規模も毎年大幅に増大せざるを得なくなるのであります。こうして、わが国の予算は国債の発行なくしては予算を編成不可能となり、国債残高は急増し、その元利償還のために大増税を
国民に強制するか、でなければ、国債元利償還のために、またしても国債発行を迫られ、自転車操業的悪循環におちいるでありましょう。同時に、第三次防衛計画によります防衛費の急増とあわせて
考えまするならば、この国債はやがて事実上の軍事国債の性格に変質するおそれが十分であるといわなければなりません。
第四には、国際収支の危機が招来されるということであります。昨年来の貿易の動向は、すでにわが国の輸出の増勢が純化してきたことを示しておりますが、現在の
政府の経済財政政策を進めますならば、国内価格の騰貴により、輸出減、輸入増の傾向に一そう拍車をかけることになる心配が顕著になっております。しかも、それに加えてアメリカのドル防衛政策と、さらにはわが国と欧米諸国との金利差の動向等により、資本収支の赤字が拡大することも避けられないと見ることができるのであります。こうして、わが国の国際収支の天井は低下し、経済規模の拡大を制約することになるのであります。これは国債発行の最大眼目とされておる財政需要造出の政策と根本的に矛盾撞着するものであります。
以上のような
政府の経済財政政策は、根本的に社会正義と
国民的利益に相反するものであり、われわれの断じて承認することができないものであります。
このような立場から、われわれは、
政府がここにわが党が提示いたします経済財政政策転換要綱に基づき、その経済財政政策を根本転換することを強く求めるものであります。わが党の経済財政政策転換要綱の基本は、何よりも経済財政政策を大資本優先から勤労大衆優先に転換することを主眼として、国債の発行を取りやめ、物価安定を第一義とし、大衆生活の擁護につとめ、産業と地域の二重
構造を是正し、混乱をした
日本経済に
国民生活の安定を軸とする秩序と方向を与えることにあります。
この基本によって立てました次の六つの政策転換の柱を中心に具体的
施策の実施を
政府に
要求するものであります。
政策転換の第一の柱は、
国民生活の安定の最大の前提としての物価の安定をはかることであります。そのために
政府に要望する
施策は、第一に日銀法を改正し、日銀政策
委員会を抜本的に改組し、中小企業者、農漁民、労働者、民主的
学識経験者を加えて構成し、大資本奉仕の日銀の運営を
国民奉仕に転換をして、通貨価値の擁護に万全を期すること。第二、各種公共料金の
値上げを防止する強力な法制的及び財政金融的措置をとり、消費者米価、郵便料金等の引き上げを防止するため、一般会計より所要の繰り入れを行ない、
国鉄運賃については経理の洗い直し、含み資産の厳正な把握を行なうとともに、その上でなお必要な経費は一般会計より繰り入れること。第三、各種健康保険については国の補助を引き上げ、
国民の保険料負担を増すことなく、生命と健康を保障し、地方公営企業についても長期低利資金の供給、国の補助の導入等、赤字補てん措置によって料金
値上げを防止すること。第四、一般諸物価については企業優先の通産行政の姿勢の転換、公正取引
委員会の機能と独禁法の適用強化、不当なカルテル行為の禁止により独占
管理価格を引き下げ、また生鮮食料品については、生産基盤の強化と計画的生産と出荷体制の整備、中小企業を主体とする流通機構の整備、国費による冷凍・冷蔵
施設、輸送
施設の整備とその民主的
管理により、需給と価格を安定させる措置を強力に推進すること。第五、土地利用区分の設定と、市街地指定地域内の土地売買及び宅地造成の国家
管理、宅地
基準価格の設定、国有地の開放、空閑地税及び土地譲渡所得課税の強化などにより、地価引き下げを積極的に推進すること。第六、以上の措置と並行して、消費者保護行政確立の立場から物価安定法を制定し、物価安定
委員会を
設置し、物価に関する諸事項を
調査して、その対策を
国会と
政府に勧告する強力なる権限を付与することであります。
政策転換の第二の柱は、所得の不均衡を是正し、最終消費需要の拡大をはかるということであります。そのため
政府に要望する
施策の第一、全国一律最低賃金法及び家内労働法の施行により、低賃金の大幅底上げを行ない、その土台の上に物価上昇をカバーして、勤労大衆の生活水準を引き上げるに足る大幅賃上げを実行すること。第二に、生活保護
基準、失対賃金、福祉年金等の大幅引き上げを中心として、社会保障制度を拡充し、また医療保険の国庫補助を引き上げて、
国民の健康にして文化的な生活を保障する国の責任を明確にすること。第三、勤労大衆に対する大幅な所得税、住民税の減税を行ない、またその他、大衆消費生活に関連する間接税も引き下げること。第四、義務教育無償の原則に立って、父母負担の解消を進めるとともに、高校、大学教育の父母負担の軽減のため、国立学校の予算を充実し、また私立学校に対しても私学振興費の利子補給、私学寄付金の免税等の措置をとること。援助して支配せずの立場から、経常費への助成措置をとること。第五、住宅政策には特に力を注ぎ、五カ年間に七百六十万戸の住宅を建設し、うち四百六十万戸は初年度五十五尺以後毎年三割ずつ戸数をふやす方法による
政府施策住宅を建設することを目標として、オリンピック工事に匹敵する熱意と資金を集中して、大規模に住宅及び付帯
施設の建設を推進し、住宅難を一挙に解決するとともに、有効需要の拡大をはかること。
政策転換の第三の柱は、産業間、地域間の不均衡是正と、底辺経済の強化をはかることであります。そのために
政府に要望する
施策の第一、大企業の圧迫による中小企業の倒産を防止するため、公正取引
委員会の機能を強化して取引
関係の公正化をはかるとともに、倒産防止の万全の財政金融政策をとり、また大企業と下請企業の系列
関係に関する下請
関係調整法をつくり、下請条件の公正化、現金取引を主体とする代金支払いの確保などをはかるとともに、下請企業の共同組織化を促進し、さらに大企業の中小企業分野への進出を規制し、官公需の大幅割合を中小企業に確保するとともに、小規模
事業、勤労性
事業については共同化を促進しつつ、一口二百万円までの無担保、無保証、低利融資を確保すること。第二に、農林漁業に関する長期発展計画を策定し、それに基づく農用地及び漁場の開発、農林漁業基盤整備、機械化、共同化を進め、もって農林漁業生産力を高め、あわせて農漁民の所得水準と食糧自給度を大きく高めること。そのため特に、米作、畑作、畜産、果樹を中心とする農業を育成し、主要農畜産物の生産費の引き下げを進めるとともに、その再生産と所得を補償する原則に立って、価格支持政策を強化すべきであります。この関連において、米麦、牛乳、肥料、飼料は国の
管理のもとに置き、漁業については、採取漁業とともに育てる漁業を育成し、特に多獲性大衆魚の価格安定措置を早急に確立すべきであります。第三、大企業偏重、地方財政圧迫、住民福祉無視の地域開発方針を根本的に転換し、道路交通網整備と、工場再配置による後進地産業水準の引き上げを進め、また地域の特色に応じた地場産業育成、農工併進の開発を推進すること。
政策転換の第四の柱は、国際貿易の改造と、経済自立の強化をはかることであります。そのために
政府に要望する
施策の第一、アメリカに対して過度に依存しておる現在の貿易
構造を転換し、わが国貿易が北米、中ソ、東南アジアの三大市場を中心に、西欧、アフリカ、中南米、大洋州等と交流する体制をつくり、もって輸出入の均衡のもとに貿易規模を急速に拡大発展させること。このため対米貿易については、輸出入の均衡をはかり、同時に、原材料については中ソ及びアジア諸国からの輸入を増大し、中ソ、北朝鮮貿易については一切の貿易制度を撤廃し、輸出入銀行の延べ払い条件を改善し、大型プラント類、鉄鋼、船舶、重機械、車両、化学製品等の輸出を急速に増加すべきであり、特に中国に対しては、
政府間貿易協定を締結し、中ソ、北朝鮮と往復二十億ドルの貿易規模を直ちに実現すべきであります。第二、貿易外収支の改善のため、前述の貿易転換とあわせて、貿易物資の
日本船積み取り率を向上し、米船優先方式の圧迫を排除すること。第三、低開発諸国との経済
協力は、アメリカの下請として、東南アジア開発計画を進めたり、台湾に一億五千万ドルの円借款を供与することをやめ、
日本の真の自主性に立って、アジア、アフリカ諸国の民族独立を強化するため、友好的
協力を進めること。第四、経済の計画的運営と物価の安定をはかり、また
国民経済に不可欠な重要物資の供給の安全を確保するため、食糧、砂糖、飼料、石油、木材などの輸入物資は、国の
管理のもとに置き、その最終末端価格に至るまで国が責任を持つこと。第五、各産業、企業の外資導入計画、導入にあたっての契約条件を国の一元的指導のもとに置き、アメリカのドル防衛措置の変動によって、わが国経済がゆすぶられるのを防止すべきであり、そのため外国為替業務は、国の
管理する単一、専門の金融
機関に統括し、また外国銀行の為替業務並びに外国商社の貿易業務を国の規制に従わせること。
政策転換の第五の柱としましては、金融の計画化と資金の有効利用を確保することであります。そのため
政府に実施を要望する
施策は、第一、内閣に強力な権限を持つ資金計画
委員会を
設置し、財政を民間を通ずる長期資金の運用について、その産業別投融資順位、株式会社及び社債の産業別発行限度ワク、中小企業金融、農林漁業金融、公共投資、政保債、地方債の引き受けなどの資金計画を定め、その計画に基づいて、各金融
機関の運営をさせる体制をつくること。第二に、日銀法を改正し、前述のような日銀政策
委員会の抜本的改組により、大企業による過剰投資、オーバーローンを規制し、その反面、地銀、相銀、信金、信組、農協などの資金の、それぞれ地方産業、中小企業、農業への還流を促進して、資金の中央集中を避け、また歩積み両建てを解消して実質貸し出し金利の引き下げをはかること。
政策転換の第六の柱といたしましては、国債発行によらないで、民生優先の財政を確立することであります。そのため
要求する
施策の第一、租税公平の原則に立って税制を大胆に改正し、四十一年度新設のものも含めて、大企業本位の租税特別措置の整理、法人税率に累進制の導入、会社交際費や過当広告費への課税、利子配当分離課税の廃止、土地、山林、有価証券等の譲渡所得への総合累進課税、富裕税の新設を行なうこと。第二に、所得税の免税点を標準世帯年収八十万円に引き上げ、所得税納税人口を現在の二千百万人から千三百万人に減らし、その他間接税、住民税も含めて、大衆減税の規模を四十一年度四千億円にすること。第三、歳出においては防衛
関係費、公安
調査庁等の反動
機関経費、それから農地報償費、対韓国供与等のうしろ向き経費を削減、削除し、各種補助金を整理、合理化すること。第四、地方財政につきましては、国と地方の事務及び税源の再配分を進め、また十分な自主起債ワクを地方公共団体に付与し、農林漁業、中小企業、社会福祉、文教、公営住宅等の行政を、国とともに都道府県、市町村が自主的に活発に行なえるよう制度改正を行ない、各種公共
事業の予算単価を実態に合わせて適正化し、地方公共団体のいわゆる超過負担を解消すること。第五、財政投融資計画の重点は、住宅建設、生活環境整備、各種国営
事業及び地方公営企業の
経営改善に向け、特に住宅建設については、所要の資金を調達するため、生保、損保、農協等の余裕資金を活用し、厚生年金還元融資の四分の一のワクは、これを打破すること。
以上述べましたわが党の経済財政政策の転換が行なわれるとすれば、
日本経済の体質は大きく変わり、安定した発展が軌道に乗ることを確信いたします。すなわち、インフレと物価騰貴は抑制され、四十一年度の卸売り物価は生産性向上の成果を
国民へ還元するため引き下げられ、消費者物価も安定に向かうとともに、付加価値総額における労働分配率が高まり、中小企業、農林漁業の振興とあわせて大衆の消費購買力が向上し、
国民総需要のうち個人消費支出は大幅に拡大し、また中小企業、農業の生産活動及び大量住宅建設を土台とする下からの活発な需要が生まれることを確信いたします。また、対外貿易では、中ソ等への重化学工業製品の輸出を中心として新しい需要が生み出され、また国際収支の天井も高められ、これらの有効需要は現在の生産能力をフルに動かすとともに、さらに新しい生産能力を拡大するにも役立つことは明らかであります。
以上、私は
日本社会党の提出いたしております
昭和四十一年度総予算につき撤回のうえ経済財政政策を転換し編成替えすることを求めるの動議につき、その概要を御説明申し上げました。
このわが党の動議は、もし
政府が真に
国民大衆のしあわせを願う責任ある態度を持てりとするならば、一部大資本に対する思惑を断ち切り、ためらうことなく直ちに実行に移すべきものと確信し、いまこそ、
政府は長期の展望に立ち、勇気と決断ある態度をもって
日本経済の安定と発展、
国民生活の向上を目ざして、わが党提出動議に賛意を表せられるよう強く要望いたしまして、
提案説明を終わりといたします。(拍手)