○多賀谷
委員 法制局長官は、少なくとも
法律の解釈については
政府を代表するものである、政治的な判断は別として、純然たる法理論に立っては、私は
政府を代表するものであると思う。そうして先般もこういうことを言われておる。「私は不肖にして国際法学者のいろいろな
資料によって知ることができませんでした。」すなわち春日並びに高田
委員の主張、沖繩には七十八条条約が適用あるわけですから、ですから平和条約の三条は失効するのではないかという説ですね。それを私の知るところでは、国際法学者のいろいろな
資料では知ることができない。ただ、しばしば
国会の質疑における論議として私は承知しておる。こうおっしゃる。そしていまもまた、私の知るところでは、すべての学者は私の説を支持しておる、こうおつしゃっておる。しかも内外の学者とおっしゃる。
一体どういう勉強を
法制局長官はしておるか。私はいまからその学説を披露したい。この
国会で、私は国際法学者のいろいろな
資料では知ることはできぬ、こう言っておる。ところが、現実に日本字で書いてある書類でも、そういうことは幾らでも出ておるのですよ。私は
一つ一つ紹介したいと思う。まずレファレンスといって、これは
国会図書館が出しておる。現在国学院大学の助教授をして国際法を教えておる関野昭一君が「国際連合加盟国の権利義務」として「日本が加盟した場合の法的関係」という中で「自国領域に信託統治制度を適用されない権利」というのを述べている。これが七十八条は適用をされるという理論を展開をしておる。これはわれわれのところに全部配られておる。さらに東大の教授の高野雄一さんが、次のような説があるということを「日本の領土」という本で紹介をしておる。この説はもとの九州大学の教授で、学習院大学の教授であった国際法の権威者の大沢章さんの説であります。さらに最近出た本で「現代法と国際社会」という岩波から出しておる書物の中に東京大学の寺沢一教授と法政大学の講師をしております杉山茂雄さんが書いた本にもそれは述べてある。
一体内外の国際法学者は全然そういう説をとっていない、私が知る限りすべてそういう表現を使っておる。そこで私はその最も顕著な
一つの説を紹介をしておきたいと思う。これは国の領土に関する問題ですからね。施政権に関する問題、それをあなたが、いまや国際法学の定説である、こう言っておる。そうして
自分の知るところでは、国際法学者はそういう説をとっていない。たまたま
国会で野党の諸君が論議をしておるから、私はそれで承知をしておる。こういう実は事実に反することを
国会で堂々述べておる。しかも政治的判断でなくて、法的判断をしている。私は、これは国をあやまつものだと思う。しかも
総理自身があやまっておるでしょう。
法制局長官が言ったとおりです。こう言っておる。大沢章博士は「まずかつて国際連盟の時代に委任統治制度があり、これを今日の国際連合は継承をしておる。すなわち未だ自立することのできない人民に対する国際法による後見の制度であると考える」、「そういう未発達の段階にある人民の福祉と発達とを計ることを、連盟は」国際連盟のことです。「文明の神聖な使命であると考え、その使命を遂行するための保障の制度を連盟規約の中に設けたのである。そうして、国際連合もまた、その憲章の中において、信託統治制度を設けて、未だ独立と自治とを実現していない住民と地域とに対して、国際的の後見の制度を設け、その制度の下におかれる住民と地域とに対して、施政と監督とを行なうことを目的とした。」こういうように述べておるわけです。さらに彼は、「すでに完全に独立と自治とを享有していた主権国家の領域とその住民とを、未だ独立と自治とを享有していない人民と地域と同視して、それらに対してのみ、みとめられている国際的な後見としての信託統治制度の下に独立国家の
国民と領域との一部をおくということは、法的には全く不可能なことである。」要するに、全部ならできないけれ
ども一部ならできるということは、これは法的には不可能なことだといわれておるわけです。さらにいま問題になっております。「国際連合の加盟国となれる地域」に対しては、信託統治制度は適用されるべきでない規定を設けたことは、主権平等の原則が平等者の間に支配の関係をみとめえないことを意味するものであり、国際法における国家の領域の不可分性と全一性とについての原則から見ても、法的に平等である国家の間に国際的の後見の制度をみとめることは不可能であると考える外はない。それは、ある国の全部の領域としても、または沖繩の場合のように、日本の一部の領域としても、そうである。それゆえ、平等な国家の領域の全部を信託統治制度の下におくことは法的に許されないが、領域の一部ならば許されるという主張は」——これはあなたの主張ですね。
法制局長官の主張、また歴代
政府がとった主張ですね。「領域の一部ならば許されるという主張は、政治的にはどうあれ、法的には全く根拠のない詭弁にすぎない。上述の衆議院の外務
委員会において小坂
国務大臣は、国際連合の成員となった国家であっても、その領域の一部を信託統治制度の下におくことができると主張している。これは、法的には全く支持しがたい謬論であると評する外はない。かつ論理的にも、誤謬をふくんでいる。なぜならば、「加盟国になった地域」というのは、加入した国家の領域を意味するからである。そういう主権国家は、国際法において主権平等の原則の上に立って、相互関係をもつ法主体である。従って、法的には、平等者の間には支配はありえない。」こう言っておるわけです。でありますから、国際的な後見としての信託統治というのは、これは平等である主権国家の間にはないんだ、こういうことを堂々とおっしゃっておるのですよ。しかもそのことをさらに、先ほど引用いたしました「現代法と国際社会」の中では支持しておる。高野さんは、必ずしもそれを表からは支持してないけれ
ども、理由のないことではないと言われておる。それから先ほど紹介しました関野さんの学説は、きめこまかく、その関連である七十六条あるいは七十七条、さらに第二条、さらに百三条、百七条の規定を全部列記して、そして沖繩は七十八条が適用される、こういうことを言っておるわけですね。あなたは
一体何を読んでおるのですか。内外の学者の学説にはそういう学説はないと言っておるじゃないですか。