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1966-02-11 第51回国会 衆議院 予算委員会 第11号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十一年二月十一日(金曜日)    午前十時九分開議  出席委員    委員長 福田  一君    理事 赤澤 正道君 理事 久野 忠治君    理事 田中 龍夫君 理事 松澤 雄藏君    理事 八木 徹雄君 理事 川俣 清音君    理事 楯 兼次郎君 理事 野原  覺君    理事 小平  忠君       相川 勝六君    愛知 揆一君       荒木萬壽夫君    荒舩清十郎君       井出一太郎君    今松 治郎君       植木庚子郎君    江崎 真澄君       小川 半次君    大橋 武夫君       上林山榮吉君    川崎 秀二君       倉成  正君    坂村 吉正君       竹内 黎一君    登坂重次郎君       灘尾 弘吉君    丹羽 兵助君       西村 直己君    野田 卯一君       橋本龍太郎君    古井 喜賢君       松浦周太郎君    三原 朝雄君       水田三喜男君    大原  亨君       加藤 清二君    角屋堅次郎君       小松  幹君    多賀谷真稔君       高田 富之君    中澤 茂一君       永井勝次郎君    八木  昇君       山中 吾郎君    山花 秀雄君       春日 一幸君    竹本 孫一君       加藤  進君  出席国務大臣         内閣総理大臣  佐藤 榮作君         法 務 大 臣 石井光次郎君         外 務 大 臣 椎名悦三郎君         大 蔵 大 臣 福田 赳夫君         文 部 大 臣 中村 梅吉君         厚 生 大 臣 鈴木 善幸君         農 林 大 臣 坂田 英一君         通商産業大臣  三木 武夫君         運 輸 大 臣 中村 寅太君         郵 政 大 臣 郡  祐一君         労 働 大 臣 小平 久雄君         建 設 大 臣 瀬戸山三男君         自 治 大 臣 永山 忠則君         国 務 大 臣 上原 正吉君         国 務 大 臣 福田 篤泰君         国 務 大 臣 藤山愛一郎君         国 務 大 臣 松野 頼三君         国 務 大 臣 安井  謙君  出席政府委員         内閣官房長官 橋本登美三郎君         内閣法制局長官 高辻 正巳君         総理府事務官         (総理府特別地         域連絡局長)  山野 幸吉君         総理府事務官         (総理府中央青         少年問題協議会         事務局長)   赤石 清悦君         公正取引委員会         委員長     北島 武雄君         警  視  監         (警察庁刑事局         長)      日原 正雄君         警  視  監         (警察庁保安局         長)      今竹 義一君         総理府事務官         (行政管理庁行         政監察局長)  稲木  進君         防衛庁参事官         (防衛局長)  島田  豊君         防衛庁参事官         (人事局長)  堀田 政孝君         総理府事務官         (経済企画庁調         整局長)    宮沢 鉄蔵君         総理府事務官         (経済企画庁国         民生活局長)  中西 一郎君         総理府事務官         (科学技術庁研         究調整局長)  高橋 正春君         検     事         (刑事局長)  津田  實君         外務事務官         (アジア局長) 小川平四郎君         外務事務官         (中南米・移住         局長)     廣田しげる君         外務事務官         (経済局長)  中山 賀博君         外務事務官         (条約局長)  藤崎 萬里君         外務事務官         (国際連合局         長)      星  文七君         大蔵事務官         (主計局長)  谷村  裕君         大蔵事務官         (主税局長)  塩崎  潤君         大蔵事務官         (理財局長)  中尾 博之君         大蔵事務官         (証券局長)  松井 直行君         大蔵事務官         (国際金融局         長)      鈴木 秀雄君         文部事務官         (大臣官房長) 安嶋  彌君         文部事務官         (初等中等教育         局長)     齋藤  正君         文部事務官         (大学学術局         長)      杉江  清君         文部事務官         (社会教育局         長)      宮地  茂君         文部事務官         (体育局長)  西田  剛君         文部事務官         (調査局長)  蒲生 芳郎君         文部事務官         (管理局長)  天城  勲君         厚生事務官         (大臣官房長) 梅本 純正君         厚生技官         (公衆衛生局         長)      中原龍之助君         厚生技官         (環境衛生局         長)      舘林 宣夫君         厚生技官         (医務局長)  若松 栄一君         厚生事務官         (薬務局長)  坂元貞一郎君         厚生事務官         (社会局長)  今村  譲君         厚生事務官         (児童家庭局         長)      竹下 精紀君         厚 生 技 官         (保険局長)  熊崎 正夫君         厚生事務官         (年金局長)  伊部 英男君         厚生事務官         (援護局長)  実本 博次君         社会保険庁長官 山本 正淑君         厚生事務官         (社会保険庁医         療保険部長)  加藤 威二君         厚生事務官         (社会保険庁年         金保険部長)  網野  智君         農林事務官         (大臣官房長) 大口 駿一君         農林事務官         (農政局長)  和田 正明君         通商産業事務官         (通商局長)  渡邊彌榮司君         通商産業事務官         (貿易振興局         長)      高島 節男君         通商産業事務官         (軽工業局長) 伊藤 三郎君         中小企業庁長官 山本 重信君         労働事務官         (労政局長)  三治 重信君         労働基準監督官         (労働基準局         長)      村上 茂利君         労働事務官         (職業安定局         長)      有馬 元治君         建設事務官         (計画局長)  志村 清一君         建設技官         (住宅局長)  尚   明君         自治事務官         (行政局長)  佐久間 彊君         自治事務官         (財政局長)  柴田  護君         自治事務官         (税務局長)  細郷 道一君  委員外出席者         最高裁判所事務         総長      岸  盛一君         専  門  員 大沢  実君     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  昭和四十一年度一般会計予算  昭和四十一年度特別会計予算  昭和四十一年度政府関係機関予算      ――――◇―――――
  2. 福田一

    福田委員長 これより会議を開きます。  昭和四十一年度一般会計予算昭和四十一年度特別会計予算昭和四十一年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題といたします。  この際、おはかりいたします。  本日午前の質疑の際、最高裁判所当局より出席説明の要求があります。これを承認するに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 福田一

    福田委員長 御異議なしと認め、さよう決定しました。  最高裁判所御当局で、発言の際は、委員長許可を求めてください。  それではこれより質疑に入ります。山中吾郎君。
  4. 山中吾郎

    山中(吾)委員 私は、教育政策中心として、主として総理大臣質問を申し上げる予定でございますが、まず第一に、政治教育の問題についての基本的なお考え方と、現在、あらゆる教育制度の中でひずみが生じて、あらゆる点にアンバランスが生じておりますが、その中で特に私立学校の問題、青少年の問題、父母負担の不公平、その他の問題についてお聞きいたしたいと思いますので、事、教育に対する問題でございますから、私もあまり誇張しないで、民族の未来に関する重要な問題と考えてお聞きをいたしますので、総理中心として、国民に安心できるようなお答えを願い、足らない部分は各閣僚からお答え願いたい、こういうように思うのであります。  そこで、恐縮でございますが、その前に、緊急に佐藤総理大臣要望を兼ねて御質問いたしたいと思うのであります。それは、実は沖繩に対する渡航許可の問題でありますが、沖繩におきまして、全国勤労者代表者会議を二月の十三日、十四日に開く予定計画をいたしておったのでございまして、国内の各県から、各労働組合代表であるとか、青年団代表であるとか、婦人団代表であるとか、そういう人々を四百名、全国大会でありますので向こうに集まる予定渡航許可申請をいたしておりましたが、現在四十名くらいしか許可になっていない。そのために大会を延期をせざるを得ない状況になっておるわけであります。この点については、総理大臣沖繩に行かれたときも、内地沖繩一体論を説かれ、渡航制限緩和も約束をされておったことも聞いております。また先般、多賀谷議員代表質問に対しても、渡航制限どもよほど緩和をされておりますと、日本国民一つの誇りを持たすような方向に向かっておる御答弁があったのでございますけれども現実にはそれが許可になっていない。したがって、私は岩手でありますが、岩手代表についても、資金カンパをして、あらゆる準備をしておった者が行けないために困っておるわけであります。同じ同胞の中で、勤労立場全国大会を開き、沖繩人々にも激励をするという、そういう意味を持った大会でありますから、この点については、やはり若い人々内地沖繩一体感を持つような意味のあるものにするためには、できるだけ日本総理大臣として最大努力を払って、そういう人々が希望の持てるようにしていただきたい。これが要望を兼ねた私の質問でございます。そこで、端的にその点の努力をするという総理大臣考え方だけをぜひお聞きをいたしておいて、教育問題に入りたいと思うのであります。
  5. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 一般的には、沖繩渡航はよほど緩和されたと、私かように考えております。しかし、ただいまの全国勤労者大会沖繩で開く、そのために四百名の渡航申請だ、こういうお話でございますが、私も、ただいまさような話は初めて実は聞くのであります。御承知のように、潜在主権は持っておりますが、とにかく施政権向こうにある。いわばその形では外国みたような扱い方でございます。だから、在来から渡航手続きども要るのでありますから、ただいま申し上げるように、この種の会合が向こう収容力その他等のにらみから、はたして適当なりやいなや、こういうような判断もするのだ、かように私は思いますので、いわゆる一般渡航緩和とこのケースを一緒にしてお考えにならないように、政府におきましても十分実情を調べてみたい、かように思います。
  6. 山中吾郎

    山中(吾)委員 相手のあることでありますし、施政権向こうにあることも承知いたしておりますが、そういう全国的な大会でありますので、最大努力をお払い願いたいと思います。  そこで、私の本論に入りたいと思いますが、まず第一に、教育政治の問題を、率直に政府考え方を表明をしていただく必要があるというので質問を申し上げるのでありますけれども、私は、日本の国の教育でありますから、その教育目標というものは政治が与えるものである。また一方に、教育立場というのは、人間尊重精神の中で、外から一つの型を押しつけるのでなくて、人間の持っておる素質を一〇〇%発達をせしめるという教育の本質があるわけであります。したがって、その方法その他については現場の教師の自由にまかさなきやならぬと思いますが、その点について、政治教育は別々であるというけれども、実際はそうでない。日本国民教育目標は厳に与えなきゃならない。それは、現実には憲法教育基本法だと思っておるわけであります。その点について総理大臣のほうにおいて、日本国民教育現実目標を指示しておる、国家の理想を掲げておる憲法、それを具体化した教育基本法というものの精神を忠実に生かす姿勢をお示しにならないと、教育方面においては積極的な姿勢も出ないし、また混乱を来たすと思うので、その点についての総理大臣のお考えをお聞きしておきたいと思う。
  7. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 山中君にお答えいたしますが、私が申し上げるまでもなく、われわれは政治を担当している。政治は一体何なのか、一口に申せばりっぱな国をつくるということだ。これが国民からは住みいい社会だ、かような表現もございますけれども、とにかく政治家考えましてりっぱな国だと、そういうものをつくりたい。その際に、ただいま基本的には憲法で明示している。また、その憲法を受けて、りっぱな国をつくるためには青少年教育が大事だ、教育にこそ力を入れなきゃならないというので教育基本法ができている。だから、私は、重ねて憲法目標とするもの、また教育基本法のねらい、それは何であるかということをここでくどくどしく申しませんけれども、ただいま申し上げるような形で、この国の教育基本的態度というものが実はつくられておるのであります。それは、どこまでもりっぱな国をつくろうということであります。そういう意味では、政治家も、これに携わっておる教職にある者も、また家庭にある者も、すべての者がりっぱな教育をして、りっぱな国民をつくる、そのことが日本民族発展の基盤である、将来にこの国の発展を託する、こういうこともできるんだ、こういうことで特に力が入っておると思います。
  8. 山中吾郎

    山中(吾)委員 私は、現実には、現在の自民党政府憲法軽視をしているんだ、教育基本法についても、教育基本法の中に、真理と平和を希求する人間国民形成ということばをうたい、そうして憲法の中身を積極的に国民生活の中に安定せしめる、そういうことで具体化しておるわけなんです。一方に憲法の改正ということを綱領の中で示した中で、やはり憲法を敬遠し、教育基本法というものを国民生活教育の中に、積極的な教育目標の柱として出していない。それが混乱の原因だと私は思っておるのですが、いかがですか。
  9. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 これはたいへんなお話でございますが、私どもも、党の綱領の中にはっきりうたっておりますが、憲法の三大主義といいますか、三大基本原則というものは、これはどこまでもその精神を貫いていく、こういうことを実は申しておるのでありまして、そういう点では、私は誤解を受けるとは思いません。だからこそ、自民党国民絶対の支持を得ておるのも、ただいま申し上げるような、憲法を無視している、こういうことではなくて、憲法に忠実な政党だ、こういうことで国民信頼を得ておる、私はかように確信をしております。
  10. 山中吾郎

    山中(吾)委員 自民党国民信頼を受けておるのは、それであるか、選挙費に金をたくさん使うからか、これはわからないと思う。  一つの例を言いますと、憲法記念日を、終戦直後においては国が積極的に行事をして、憲法精神というものを国民生活に浸透せしめる非常に積極的な行事をしておったが、いまやらさないじゃないですか。それはもう憲法軽視の事実と、教育的立場からいったら完全に教育軽視であると思うが、いかがですか。
  11. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 憲法記念日行事、私もそれに参加したことはございます。ちゃんと記憶いたしております。しかしながら、今日におきましては、憲法記念日、この日は休みにはしておりますが、しかし行事を特にしなければならない、かような状態ではないというので、今日は行事は取りやめられておる、かように理解しております。
  12. 山中吾郎

    山中(吾)委員 私は、それは詭弁だと思う。祝祭日には二種類があると思うのです。一つは、お盆の場合であるとか節句のように、長い庶民生活の中で固定をした生活様式というものを取り上げて、休日にして楽しむ日にしておる。一つは、国の憲法、国の理想というものを政治教育の場にするために国が取り上げた祝祭日があります。戦争前においては、そういう意味において、天皇政治であったために・皇室の行事中心として、それを取り上げて学校で校長の訓示をする、政治教育の場にしたのと、二種類あると思うのですよ。いまつくっておる記念日の中に、楽しむ祝日と、学校でそれを取り上げて、そうして現在の憲法考え方を浸透せしめる、いわゆる学校に集めて式をし、その日を休みにするという二種類があると思うのです。憲法記念日はそのあとのほうじゃないですか。それをお盆休みと同じようにした。最初はしておったのですよ。現実に、教育政策としたら、総理大臣、それは軽視ですよ。そんな詭弁はいけません。
  13. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 これは、そういう行事をするかしないかということが一つの問題であります。私ども子供のときは、山中君御指摘のとおり、三大祝日は必ず行事があった。先生方もいろいろその日はどういう意味のものかということを子供に教えてくれるし、同時に、私ども、まんじゅうをいただくので、当時はたいへん喜んで出かけたものであります。しかし、今日、その行事自身とその記念する事柄と、これを一緒にしてはなかなかいけないんじゃないのか。たとえば、いま成年式行事、これはいろいろやられているが、もうすでに成年式行事マンネリズムにおちいっている。これは行事よりも、その成年式の日、それはみんながどういう意味かをみずからが考えたらいいだろうと、こういうようにだんだん変わってきている。憲法においても、同じようなことが言えたんじゃないでしょうか。過去におきまして、これも一度行事をやってみた。ところが、大体憲法のあり方というものがわかってきた。しかし、あの行事のしかた、これはどうもマンネリズムにおちいっているというようなことで批判があったんじゃないかと私は思います。しかし、また別な意味憲法行事をやれ、こういうことなら、新しい問題として検討しても、それはけっこうですよ。当然検討すべきことだと思いますけれども、ただいま申し上げるように、なかなか意見は一致しないだろう、かように私は思うので、率直に申し上げた次第です。
  14. 山中吾郎

    山中(吾)委員 私は、憲法記念日行事は、自然になくなったのではなくて、政府がやらさなかった、やらさなくなってしまった。大体民主政治ほんとうに守るというならば、それは経済の安定がないといけませんが、同時に民主主義に対する政治教育という二つのものがあって民主政治というものは育つのでありますから、昭和六年時代のように、あのパニックで経済の不安定と、それから政治のほうに汚職、そういうものから政治不信を生じて、とうとう大東亜戦争から破滅におちいったという苦い経験があるわけなんで、いま民主政治の必要を総理大臣が盛んに新聞とか演説では言われている。それなら――経済の安定は、これはしなければ政治不信は出るでしょう。しかし、国民憲法精神を説く政治教育というものを積極的にやり、その機会として、祝祭日一つ憲法記念日を入れたんじゃないですか。やらないのはどういうわけですか。  そうして一方に、今度は建国記念日で法案を出そうとされている。私は、第一条の国民主権という意識が国民ほんとうに定着したときに、象徴としての天皇制も定着するんだと思う。憲法記念日のほうをそういうふうにないがしろにしておってそういうものを出すということは、私は率直に言って、誇張も何もない、ほんとう憲法軽視自民党の体質にはどっか憲法軽視がある。もしそうでしたら、もっとまじめに憲法というものを国民のいわゆる知識じゃなくて、憲法感覚として定着せしめるために、憲法記念日政治教育、いい意味憲法教育基本法にある一党一派に偏しない政治的教養を高める機会に積極的に取り上げる姿勢をお出しにならなければ、私は国民が信用しないと思う。いかがですか、そういうことをお考えになられますかどうかをお聞きして、次に移りたいと思います。   〔発言する者あり〕
  15. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 不規則発言はやめていただきまして、ただいまの問題は、私が先ほどお答えしたとおりでございまして、新しい提案としてそういうことを検討しろとおっしゃるなら検討します。ただいままでのところ、いますぐ復活するというような考えは私は持ちませんと、かように申しておるのです。これは私は別に憲法軽視につながるものだとは思いません。憲法のどの点の軽視につながっているか。ただいま山中君も御指摘のように、いわゆる行事そのものが、あるいは国会内で開いたとか、あるいは皇居前広場で開くとか、こういうことが、これで十分憲法が尊重されると、こういうように理論づけるととはやや無理じゃないか。ただいまは、もちろん学校におきましても、教育を通じて、わが国憲法が何を考えておるか、平和主義だ、民主主義だ、主権在民だ、こういうことをちゃんと植えつけておると思います。もしそういう教育をしてないなら、それこそ教育の怠慢だといわなければならない。私は、憲法記念日休みであることによって、そういう点には一そういかような説明でもつくことだと思います。しかし、行事をやること自身とこのことは区別していいんじゃないか、かように私は思っておるのです。私の考え方を率直に申し上げました。  なお、建国記念日の話にも触れられましたが、私は、建国記念日はぜひともつくるべきものだ、かように私自身考えております。昨年も提案いたしましたが、国会において御審議をいただいて御協力を得なかった。そのために国民祝日に関する法律が成立を見なかった、まことに私残念に思いますが、それとこれは別なことだ、かように区別をして考えております。
  16. 山中吾郎

    山中(吾)委員 憲法記念日に入りましたので、私、一言意見を述べなければならぬと思うのですが、ヨーロッパ各国を見ても、独立をしたとか、新しい憲法が制定されたときの記念日はあっても、歴史的に不明なそういう意味の同じような記念日はございませんし、私は学生時代に――私は高等師範の卒業生です。そこの峯岸という歴史の先生が、学校で紀元節をやるときにはほんとうのことを言っては困るんだ、これは韓国の歴史、中国の歴史を比較すると、学問的には六百年間違っておるから言わないでくれという。そうして歴史を教える教育をせざるを得ないようなそういう記念日をどうしておつくりになるのか。明治の天皇主権のもとにおいては、これはそういう政治教育機会として設定されたものなんです。学校で校長さんもそうやって教育したのです。今度は新しい憲法のもとにおいては、やはり憲法記念日機会にして政治教育をすべきである。その正しい意味の、すなおに考え政治教育機会としての憲法記念日軽視しておいてそれを持ってくるというのは、それは佐藤総理大臣、どんなことを言ったって、ものごとのわかった人はおかしいと思いますよ。それは、もっとすなおにお考えになって、いま何回も出したからメンツでというような考えでなしに、もっとすなおにこの憲法国民の中に生かすということをお考えになって、姿勢をもう少し変えてもいいのじゃないですか。そういう変な――これは、そういうことをすることによって日本政治がよくなるとお思いになるのですか。私はやはりすなおに――日本の皇室にしても、江戸時代にしても、鎌倉時代にしても、室町時代にしても、象徴的な性格であったことはおわかりのはずです。あえてそれをお出しになるなら、国民主権という意識というものをもっと徹底したあとで、民主主義というものを安定さしたあとに出すべきで、今は民主政治をやろうというまだ中間段階だと思うのです。わざわざ今お出しになることはおかしいじゃないか。  それから、平和主義の問題にしても、私は、平和主義というものをほんとうに徹底したあとに、全国民一つになってこの国を守るという別な平和主義民主主義と結びついた愛国心が生まれるのであって、そういう方面についてはもっと角度を変えて、この憲法をすなおに守るのには政治教育機会をどう与えるかということをお考えになって、マイナスになることはおやめになったほうがいいのではないか、それはお考え願うべきだと思うのです。また……
  17. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私は、ただいまのお話については、たいへん所見を異にしておりますので、実はお話の途中でありましたが、特に発言を求めたのであります。ことに山中君が、建国記念日天皇制とを結びつけて考えておられる。とんでもない間違いであります。天皇制天皇制で、新しい憲法で陛下の身分はちゃんと規定されております。ただいまの建国記念日天皇制と何の関係がある、かような考え方で論旨を進められる、そういうところに間違いが起きておる。とんでもない話なんです。私は、いま憲法を尊重すると言われるが、そのたてまえから考えまして、ただいまの天皇制天皇制と言われること、同時にまた建国記念日を結びつけてとやかく言われること、たいへんな間違いだ、かように私は思っております。(拍手)
  18. 山中吾郎

    山中(吾)委員 変なところで力まれたようでありますけれども、これは心理学の問題だと思うのですよ。そういうふうなものをわざわざお出しになるということの中に国民心理に対する影響を考える、それを考えるのは政治だと思うのです。  それは一歩別にしまして、歴史教育というふうな立場から言いますと、日本民族に誇りを持たし、それから歴史を知ることによって民族精神を高揚するというならば、考古学の中に、数万年の埋没文化というふうなものの中でわれわれの祖先がこういう文化を持っているのだと、ほんとうに科学的な立場で歴史教育考えるならば、考古学の中で新しいものが出ておるわけですよ。それを日本書紀、古事記にあるところのあの神話の中から建国記念日を持ってくるというふうな時代は過ぎている。どこから見たってむだなことをおやりになるのはおかしいじゃないか。そういうことなんです。なぜそういう一つのことに一国の総理大臣がいわゆる執着するのか、ふしぎでならないのです。  それは私はあとでもっと論議をいたします。いたしますが、総理大臣一ついいことを言われた。憲法記念日のいわゆる行事について、復活することについては検討してもいいというお考えですから、その線を十分に文部大臣と御相談になって、そういう方向でひとつ検討してもらいたい。そういう御答弁があったので、政治教育立場で非常にいいことだと思っておるので、記憶にとどめておきたいと思うのです。  なお一つ、これはあとで触れたいと思うのですが、この間、新聞発表その他を見ますと、公務員の宣誓の改正があるんですね。その前の宣誓を読んでみますと「私は、ここに、主権が国民に存することを認める日本憲法に服従し、且つ、これを擁護することを固く誓います。私は、国民全体の奉仕者として、公務を民主的且つ能率的に運営すべき責務を深く自覚し、国民の意思によって制定された法律を尊重し、誠実且つ公正に職務を執行することを固く誓います。」実にりっぱなものだと思うんですね。ところが、これを改正する。なぜ改正しなければならぬか。だれが聞いてもりっぱなものです。それをわざわざ改正をするということの中に、また何かずるい、そして一つ憲法考え方をどこか水増しをするような意図があるという以外に考えられない。新しい宣誓を見ますと、「私は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を深く自覚し、日本憲法を遵守し、並びに法令及び上司の職務上の命令に従い、不偏不党かつ公正に職務の遂行に当たることをかたく誓います。」この辺、ごまかしがある。「主権が国民に存することを」ということをとってしまっている。それから「国民全体の奉仕者」というものをとってしまって、そうして上司の命令だけを書いてしまっている。こういうふうなことをおやりになるというから、国民が、憲法に対して熱情を持っていない自民党政府だと、頭のいい者はすぐわかるんですよ。愚民政策をおやりになってはいかぬと思うのです。  それで、もう一つ遺憾なことには、公務員制度審議会ができて、あれだけ政治問題になって、ILO批准に関連をして、そういう公務員制度については、結論をつくってからというので、いま審議中なんですよ。そういう審議中に、公務員の代表者と審議をしているその途中でぽつんとこういうことを不意にお出しになるということは、これは政治不信が出るはずです。これは、私は撤回すべきだと思います。結論が出てからやるべきだ、審議の途中なんだ、しかも後退するような表現をお出しになるということ、これは私は政治不信をつのるだけで、決して自民党政府のためにならないと思います。それは総理大臣、その点についてはもっとすなおに、この公務員制度審議の結論を見ながらやるというお考えになって、正しい姿勢で処理してもらいたいと思うのです。
  19. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 もう新規採用の時期も迫っておりますので、今度はりっぱな宣誓書にしよう、こういうことでこれを取り上げたのであります。先ほど来言われた点は、この中に「日本憲法を遵守し、」これでもって非常にはっきりしているのです。きょうも先ほど来山中君がいろいろ議論を展開されましたが、わが国の憲法から始められた憲法記念日まで、また行事までしろ、こういうお話をしておられる。この宣誓書には、まず「日本憲法を遵守し、」と、実ははっきりうたっております。そうして、職務の遂行にあたっては不偏不党、これが最も大事なことだ、職務遂行にあたっては不偏不党、これをかつ公正にやれ、こういうことを言っているので、これは実にりっぱな宣誓書だ、このくらいわかりいいものはない、かように思っております。変える意思はございません。
  20. 山中吾郎

    山中(吾)委員 そういう御答弁の中にごまかしというものが私は入っていると思うのです。まず第一に、先ほどりっぱな文章を読んだら、そのとおり賛成だと言われた。それほどりっぱなものをなぜ変えなければならぬか。どこに欠点があったのです。宣誓を数年ごとに変えるなんていう政治は、昔からこれを朝令暮改と言う。どこに改正しなければならぬ根拠があるかということです。(「翻訳だから」と呼ぶ者あり)どこが翻訳なんだ。  それから、不偏不党と言う。公務員は執務において何か政党的なことをいままでしたことがあるのですか。労働組合として、組合としては別ですよ。行政官自身がもし不偏不党でないというなら、現在のいわゆる各省の局長級ですよ、自民党一緒になってやっているのは。一般の人にあってはそんなものは一つもないですよ。だから、そういう純粋なる一般の公務員に対して、政治的に結びついておる局長級と一緒にしてこういうことを言うということは、やはり総理大臣としては、日本国の公務員を大体信頼しない、そういうことを示すだけじゃないですか、こういうことばを出すのは。   〔発言する者あり〕
  21. 福田一

    福田委員長 静粛に願います。
  22. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いま詳細総務長官から説明をいたさせますが、ただいま申し上げますようにこれは、職務遂行は不偏不党で公正でなければならない。いままでそういうことがあったかと、こういうことですが、あったらそれはたいへんなんです。だからこそ、こういうように、不偏不党、公正にやる、こういうことなんで、これは当然のことです。なお詳細に、なぜこれを変えたか、改正の理由を安井君から説明させます。
  23. 安井謙

    ○安井国務大臣 総理の御答弁、ちょっと補足させていただきますが、実は、御承知のとおり、ILO八十七号条約の法律案が成立しました際、その内容として、人事院で扱っておりました人事関係の事務の一部が人事局に移ったわけでございます。それの施行の期限がこの二月十八日一ぱいで、これをそれぞれ政令で改めなければならぬという手続上の問題が残っております。そのうちの一つにこの宣誓もあったわけでありまして、いま突如としてこれを出したわけじゃございません。二月十九日から新しい政令によって施行しなければならぬという手続上の必要があったもので、最近この政令をきめたのが、この今回出しました趣旨の一つでございます。  それから、内容につきましては、全体として非常に当時翻訳口調が強くて、どっちかというと冗長に流れておるという感じもいたしますので、この際もう少し簡明にという趣旨で、字句等も縮小いたしまして簡単なものにしたわけでございます。  なお、その一番大事な国民全体の奉仕者ということばがないじゃないか、取ったというように、いまちょっとお話があったようにも聞いたのでございますが、これは、冒頭にむしろ国民全体の奉仕者としての責任を、御説のとおり一番大事であるから、逆に冒頭にうたう、そして憲法を守る、そうしてあとは不偏不党に忠実に業務を遂行してほしい、する、こういうふうに簡明に直した次第でございます。
  24. 山中吾郎

    山中(吾)委員 説明をされると、こういうものは文章ですから同じようなことになってしまうと思うのですが、やはり強調すべきものが移動しておるということなのです。だから、憲法が制定されてから、そのあと、まだまだ私は、民主思想、経済上の民主主義にしても政治上の民主主義にしても、未熟な状態にあると思うのです。そういうときに、強調すべき点を取っていくという中に、私は、政府考え方の中にどこか後退する方向を感じるのです。こういうのは改正じゃなく改悪だと私は思う。  また、こういう文章を翻訳口調と言う。翻訳口調少しもないじゃないですか。そういうようなことをされることは、これは不信を生むだけだと思う。  それから、一番大事なことは、公務員制度審議会がいま行なわれているときじゃないですか。一年区切ってとか、何か前に国会においてそういう約束もあったそうでありますが、そういう線ぐらいはお互いに理解をして、ことに、こういう宣誓というのはみな理解するという形でやるべきで、一方的にお出しになるということは、形式的に読むだけになってしまいますよ、こういうのは。私は、そういう点においてまことに遺憾であると思うのです。  だから、安井総務長官も、これを受けるほうの立場人々からいろいろな意見があれば、すなおに聞いて、そうして疑義のある点は解明するという誠意をお示しなさる、それだけの親切心はあるのですか。
  25. 安井謙

    ○安井国務大臣 御承知のとおりに、政令をきめますのは政府の責任でやりますので、いま、この問題自身につきましては、私ども、どこから見ましても、これが不当であるとか、不穏当であるというふうには何ら考えておりませんわけで、申し上げましたように、国民全体の奉仕者ということばは冒頭にうたいまして、簡明な文章に直した。しかも、これは、いま言われる一年間を切ってのこのたな上げ部分といったような問題と違いまして、二月十八日から人事院から人事局へ移す部分の、もうすでに決定した部分の実施要項でございますので、これを政令できめた次第でございます。
  26. 山中吾郎

    山中(吾)委員 いま一回聞きます。  そこで、前と精神は変わらないということなのですから、疑義があれば、その解釈を、これはどういう意味だ、前と同じかどうかということについていろいろ意見を聞かれた場合は、誠意をもってあなたはお答えになるかどうか聞いているのです。
  27. 安井謙

    ○安井国務大臣 これをつくって政府で決定いたしました内容そのほかにつきまして、もし御質疑があれば、これは誠意をもっていつでも御答弁申し上げます。
  28. 山中吾郎

    山中(吾)委員 この点についていろいろお聞きしたい点がありますが、時間の関係であとのほうに回して、私学問題について御質疑を申し上げたいと思います。  これは毎日の新聞に出ていることですが、早稲田大学を中心として、授業料値上げ問題で紛争いたしております。けさの新聞を見ましても、最悪の事態に突入したという見出しで、まだ依然として紛争が続いておるようでありますし、また、わが同僚の先輩が与野党を含んで打開に乗り出すというふうに出ておりまして、早稲田大学の卒業生の橋本官房長官、海部俊樹さん、武藤山治さん、元衆議院副議長の中村高一さん、稻富さんというふうなれっきとした人が、何とかしょうとして立ち上がっておるようであります。ところが、一方に、これはうそかほんとうかは知りませんが、総長が総理大臣に面会を求めたときには拒否をされたということも聞いておりますが、これはおそらくそうでないと思います。そこで、私は、早大のあの紛争は、単に早稲田大学だけの問題でなくて日本の私立大学全体の問題である、こういうふうに考えてこの問題を処理すべきだと思いますが、その点はいかがです。
  29. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私学全体で授業料その他経営上の問題を持っていることは、これは確かでございます。そういう意味で、私学振興の調査会等で十分内容を審議しております。しかし、ただいま紛争を生じておるのは、これは早稲田大学そのものの紛争でございますから、私学全体の問題だというわけではございません。ただいま申し上げますように、授業料その他の点で共通の問題を持っていることは、これは確かであります。
  30. 山中吾郎

    山中(吾)委員 その辺は非常に認識不足ではないかと思うのです。これは、昨年慶応、ことし早稲田、立教その他、もう全国的な問題なので、その一つの集中的な表現として早大問題が出ておると思うのです。その第一は、今度の授業料値上げを含んで入学金とそれから施設費寄付で入学当初に一度に出さなければならぬのが、法経関係で二十万、理科関係で三十万円である。そういうふうな行き方になると、貧乏人は入れない。これは、農村の人々が、長男には土地を譲るから、次男、三男は希望で大学まで出すという場合に、一時に三十万という金は出ないのですよ。私のうちでも、次男が向こうへ行くというふうなことで、何としても、土地を与えないから出してやらなければならぬ、農協に利子を払ってその三十万を借りる、そういう姿であります。これは受験のための金を含んだら四、五十万要ってしまう。したがって、これは早稲田の問題とお考えになる問題じゃなくて、教育機会均等という立場において日本全国の私立大学の問題である、こう総理大臣がお考えになるのが、私は総理大臣としての識見じゃないかと思うのですが、早大だけの問題とお考えになっておられるのですか。
  31. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いや、ただいま申しましたように、紛争そのものは早稲田だ、こういうことであります。けれども、その原因、その共通の悩みは私学全体にあるのだ、だから、ただいま私学振興調査会等におきましてもその対策を十分研究しているのだ、かようにお答えをいたしたのです。同時に、それは私学の経営上の立場からの一つの問題だし、同時にそれは修学する宵少年の問題だ、これはたいへんな教育問題だ、かように私ども考えておりますので、ただいまの早稲田の問題がああいう紛争をしておるが、これを傍観しておる、こういうのではございません。幾ら早稲田の問題だろうが、これは傍観しておるというつもりはございません。しかし、この段階で政府自身がこういうものに干渉するということがいいのかどうか、これは一つの問題だと思います。私ども考えるべきことは、教育全体の問題として、私学の振興もはからなければならないし、また修学する青少年の問題としてもこれを考えなければならぬ。これは広く言っていわゆる教育全体の問題だ、かように私は考えておるのであります。
  32. 山中吾郎

    山中(吾)委員 私は、総理大臣はまだ認識不足だと思うのです。それは、戦後、私立大学も、戦前のように私人が立てることは認めない、学校法人立にして、そして教育基本法のコントロールに入ることにし、法律に定めたる学校として、その教育の身分を保障しなければならぬという教育基本法の規定もでき、公立の教員であろうが、学校法人立の大学であろうが、同じように国が責任を持つという体制になってきておるわけであります。俗に私学私学と言っておるが、ある意味ではもう私学はなくなっておる。同時に、文部省では、大学設置基準を出して、ここまでは大学は設備を充実する責任があるという基準を出されておる。そのために入学金を取らなければならぬという姿になってきておるのですから、これは政治の責任だと私は思うのです。それから、同時に、戦前においては各私学に基金があった。基金があったけれども、あの戦争面後に物価騰貴のために基金の価値なんぞどっかへ吹っ飛んでなくなってしまった。その中にも、すべて学生の納入金に全部背負わしていくというふうな事態になっておるので、私は、政府の責任として、重大な問題として、総理大臣のことばをかりれば、真剣に取り組むべき問題だと思うのですが、ずいぶん傍観者、対岸の火災視するような御答弁に聞こえるのですが、そういう問題ではないはずなんです。  さらにまた、大学院も、最高の学術の研究は国が背負って立っていくというふうな体制をとっていないので、大学院を設置するために、一学生に対する教育費が非常に多い。それも背負ってやっておる。その中で、早稲田大学が、あの歴史のある大学が、いまのように全部学生納入金に依頼せざるを得ないような姿の中で混乱をしてきておる。その点については直接の大きい政治責任問題だとはお考えにならないですか。
  33. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 これが重大なる教育問題である、これは私も山中君も同じ立場でございます。しかし、同時に、官公立のものと私学を全然同一に考えろ――ものによりましては同一に考える部分もありますし、同一に考えることのできない部分もある。これは当然のことではないか、かように私思いますが、なお、私の説明が不十分なら、文部大臣に説明させます。
  34. 山中吾郎

    山中(吾)委員 国立と私立と違うということを当然のようにお考えになっておる。法制上どこが違うのです。文部大臣、説明してください。
  35. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 どこが違うか、同じじゃないかとおっしゃいますが、やはり私学は私学の創立の伝統があり、またいろいろ私学のよさがあるわけだと思います。ただ、現在私立学校がいろいろな悩みをかかえておることは事実でございます。あるいはまた、学生にいたしましても、学生負担が相当増加してきて困難であるとか、いろいろ問題があるわけで、そこで、これらをどういうふうにさばいて解決をしていったらよろしいか、これはなかなかむずかしい問題でございます。そこで、いま私学振興調査会で、これには大学関係者も入っていただきまして、国の助成策としてはどうあるべきか、こういうことについて御検討願っておる次第でございます。また、私立学校私立学校としての生まれてきたいろいろな伝統がございますから、この私学に対して国の力で援助するのがいいか、あるいは適当な適性能力を持ち、そうして所得その他収入の上で勉強するのに困難であるというような者に対する育英制度を拡充して、一定の水準なり条件の整った者は国の力で育英していく、力のある者は私学の負担が重くてもそれは自分でになってやってもらうようにするのがいいか、あるいは私立学校に対して国の力でどの程度の助成をするか、また、助成をするとしても、もちろん政府としては国民の税金を使うわけですから、まるきり野放しで助成するわけにはいきませんので、どういうふうにすればいいか、あるいはまた、私学の立場からすれば、助成はしてもらうのはけっこうだけれども、あまりかれこれ報告を出せとかいろいろな指図を受けては困るというような事情もございましょうから、こういう複雑な事情を、この調査会にいろいろな学識経験者あるいは私学の関係者等に入っていただいて、掘り下げた研究をした上で妥当な結論を見出そうというのが、御承知のとおり現状の姿でございます。したがって、世間も納得し、最もいい成案を得れば、われわれはそれを検討いたしまして実行に移していきたいと考えておるのが現段階でございます。
  36. 山中吾郎

    山中(吾)委員 文部大臣の答弁は答弁になっていないのです。伝統というのは国立だって私立だってみなございます。東大には東大の伝統があり、早稲田には早稲田の伝統があり、慶応には慶応の伝統があり、京都大学には京都大学の伝統があり、一橋には一橋の伝統があるじゃないですか。制度的にどこが違うかというのです。違うところはないじゃないですか。教育基本法の六条に、「法律に定める学校は、公の性質をもつものであって、国又は地方公共団体の外、法律に定める法人のみが、これを設置することができる。」といって、法人立の学校教育基本法の法律に定める学校に一括して、公教育として戦後この制度が出発してきているわけじゃないか。制度的に、公教育で、私教育じゃございません。その辺の学習塾なら私教育でしょうが、少しも変わらない。その点だけは明確にしないと、あれは私立だから国の責任じゃない、大学が勝手にやっているのだというので、こういう最高の政治判断をしなければならぬ行き詰まってしまっておるものが、この場合怠慢になっておると思うのです。  しかも、国民立場から言えば、これは文部省からいただいた書類ですが、ほとんども教育機会が破壊されたと思うのですよ。見てみますと、とにかく、月々払う金じゃない、その入学当日現金で払う金がたいへんな額になっている。これは現金で払いますから、入学の日に行ってみなさい。各大きな銀行がテントを張って金を一度に十億ぐらい集めている。これは借金できないのです。入学許可取り消しになるから。それがどういうのかというと、早稲田では、文科系が十八万、理科系が二十六万、慶応は、文科系が十八万、工学部が二十一万、医学部は五十三万、もっとはしたはあります。法政大学が、文科系が十四万、工学部が十八万、明治大学は、文科系が十一万、農学部が十二万、工学部が十五万、こういうふうに、大体二十万前後が、これはもう最低なんです。それから、これは文部省から出ておる全国の一覧表ですから、何のかけ値もないわけですが、私学のいわゆる歯科医大とか医科になりますと、最低六十万で、歯科医大は百万です。百万の金を一時に出す国民というのは一体どれだけあるのか。私は、貧乏人の秀才はもう医者になれないところまでいっておると思うのです。人の命を担当するお医者さんになるのに、一体、できない子供が入れて秀才が入れないという学校制度は、最高の政治で処理すべきところまで来ておるんじゃないか。そのときに文部大臣が、制度的に国立と私立が戦前と同じように差があるんだと言っておられたが、これは認識不足もはなはだしいと思うのです。制度的には少しも差はない。いまのように対岸の火災視をされる問題ではないと思うのです。いま一度、その辺は、伝統で違うというお答えはちょっと答弁にならないのですから、答弁を修正するならしてください。局長に聞いてもけっこうです。
  37. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 そういうふうな問題点がいろいろございますから、私学のあり方について目下調査会に掘り下げた検討を求めておる次第でございます。
  38. 山中吾郎

    山中(吾)委員 問題点じゃないんです。制度として文部大臣は認識不足だから、修正しなさいと私は言ったのです。ただ、学校教育法の中にまことに矛盾をした規定がある。学校教育法第五条に、経費は原則として法令に規定のない限り設置者の負担とするという、この法律でそういう財政上筋の通らないものを出してきておるだけなんです。憲法教育基本法における体制は、全部公教育として一本で、何の性格の差もない。これだけはしっかり認識してもらわなければいかぬと思うのです。  そこで、法令の特別の規定というものについては、学校法人によって経営しておる大学についてもここまで基準を伸ばさなければ取り消すという省令をお出しになっておる限りについては、これは、その特別の法令で規定した場合であるから、必要なる経費は出してやるという責任も伴っておると思うのです。政策論でなしに、そういう問題として早稲田問題を真剣に取り組んでもらわなければ困る。  現実に、早稲田の状況を調べてみますと、年間に大体四十三億円経営費にかかっておるわけですね。四十三億の中で、今度の予算の中でも理工科関係の研究設備その他の助成はあるわけで、早稲田は四十三億必要な経費の中で一億五千万だけを国から助成を受けておるだけなんです。したがって、そのほかの大部分は、学生から無理無理引き上げて取らないと経営ができないというのが現実であります。ところが、早稲田の卒業生というのは、国会のメンバーを見てもわかるのです。日本の国家社会のために先頭を切っていて、一番大きい功績をあげているんです。東京大学と比べたら、なお多いじゃないですか。その社会機能から言ってもどこに違いがあるのか。そして、年間現在四億円づつぐらい、物価の関係その他でふえておるようです。施設も文部省の命令でせにゃならないから、そういう関係で、ようやく残っておった基金というものももうなくなってしまって、授業料に待つほかないということで、いまの騒動が起こっておるようであります。これはもう授業料を引き上げるほかないんだということで、あとは政治的にこれを打開する道を国が開いてやらなければできないじゃないか。  また一方、学生から言いますと、その学生には変な者もおると、その辺でやじを言っている。そんな問題をお考えになるからいけないので、一体、早稲田に入っている学生は、みなわれわれ日本国民の優秀な青年なのです。ところが、学問が十分にできる施設がなければ、学生は欲求不満になりますよ。入ってみたら、五百名も六百名も教室に入って講義を受けなければならない。ろくに勉強もできなければ、そのエネルギーを善用するよりそういう方向に向いていくじゃないですか。青年のエネルギーをいい方向に善用せしめるのが私は政治だと思うのです。それが、あれはアカだなんだというふうな不謹慎、無責任なことを言うのは、私は政治家の識見ではないと思う。一体、現在全学連と言いますけれども学校設備がなっていない。そういう点は、じっくり勉強する環境がないという中から私は理解をすべきだと思うのです。  さらに、現在の私学問題について、経営のことについて先にお考えになるから間違いが出ると私は思うので、あくまでも国民の負担という立場からこの問題を一貫して考えなければならぬと思うのですが、大体年々二千億円以上国立大学に国民が税金を出しておる。ところが、その自分の税金を出している国立大学に自分の子供を入れることができないで、私立大学に三倍、四倍の学資を出して子供を入れている。その国民から言えば二重課税だと思うのですが、総理大臣、いかがですか。
  39. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 山中君の先ほどからのお説の中にもありましたが、私立学校というものはやはり経営者の負担だという点をしゃんと先ほども主張なさいました。これは、私立大学として、やはり最後のところが――最後のところと申しますか、あるいは中間と申しますか、とにかく経営者の負担だということ、これが、国立の場合には国がやる、また公立の場合には自治体がやる、こういうことでありますから、そこのところはもうおわかりだと思う。それがわからないじゃ困るのです。だから、ただいま申し上げますように、経営はそこへ来ている。ただ、教育そのものとして、先ほど来私も申し上げますように、教育としてこれは重大な問題だ、かような意味で取り上げます。だからこそ、ただいまの調査会でやっている。どうしたらいいか、あるいは低利長期の資金がほしいとか、あるいはその他の助成方法は一体どうなるか、こういうことになるわけであります。どこまでも経営の主体は、これは法人で、これは民間だ、かように私は考えております。この点が一番重大な点です。先ほど来山中君のお話を静かに聞いておると、ちゃんとその点は承認していらっしゃる。
  40. 山中吾郎

    山中(吾)委員 総理大臣は自分で御都合よく私の説明を解釈されておるのです。  一つは、そういう教育基本法の中で、法律に規定された学校として全部統一をした制度にしたことが戦後の学校教育制度ですから、設置者ごとに負担をするという法律自身は改正すべきだというのが私の論です。  それから、もう一つは、法令に特別の規定がない場合と書いておるのですから、政府のほうで設置基準を定めてこれまで到達しろという命令を出す限りは、それについて助成をすべきだということが、反対解釈として私はその法律をそう解さなければならないと思うのです。それを、スズメの涙のようなやり方をして、そして見ておられるというのは、私は政治責任の回避だと申し上げておるので、早稲田がかってに苦労すればいいという法律規定ではない。総理大臣は、自分の都合のいいように、金のかからぬように解釈されておる。また、私立で、そういう教育制度をとっていない英国にしても、ケンブリッジ、オックスフォードに八〇%国庫が出しているでしょう。八〇%出しておりますよ。オックスフォード、ケンブリッジ大学、あれは私立ですよ。国の費用は八〇%出している、そしてコントロールはしていない、援助して支配せず。愛知元文部大臣のことばを借りれば、援助して口出しをしない、こういうふうに言っておられる。アメリカは四〇%私学に出しておる。   〔委員長退席、赤澤委員長代理着席〕 だから、出さないのがあたりまえだというお考えは、これは一応取り消さなければ解決しないし、間違いだと思うのです。いかがですか。
  41. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 イギリスやアメリカの例をいま説明されております。私は、基本的な考え方は、ただいま、国立なら国が経営の責任をとる、また、公立ならば自治体が責任をとる、また、私立ならば私立の経営者が責任をとる、これが本来の姿だと思います。それで十分のことができない、ことに教育のちゃんと認可しておるその基準から見ましてそれができないような場合に初めて政府はどういう処置をとるか、こういう点をただいま調査会で十分検討しよう、かように申しておるのであります。本来の姿は、基本的には、ただいまのように経営形態がそれぞれ違っておるのですから、それぞれの責任において処理されていく。しかし、どうしても一定の基準を保たなければならない、その政府の認めた基準を満たすために、そういう場合にはどうするのか、これが政府の援助の方法だ、これがただいままでは、長期の低利資金の融資だとか、あるいは直接助成方策をとっておる、かように私は考えております。ただ、その率が幾らでなければならないというものでは実はない。それは全部の関係で、経済の許す限りにおいて、それはたくさんやれるような状態ならいいだろうし、また、そういう状態もできない、こういう場合におきましては、それぞれの範囲において経営させていく、このほうが常識的じゃないでしょうか。
  42. 山中吾郎

    山中(吾)委員 私は非常識だと思うのです。財政的に困るということならばわかるのですが、制度的には非常識だと思うのです。大体、教育基本法にも公教育として制度的に定着してある。もしそれをするならば、大学配置計画というのは国の計画として立てて、人口何万以上のところには大学は一つ、二つという計画が立って、その方向で規制するなら、それはわかりますよ。ところが、大学設置基準をきめて、これだけ基準があれば認可をする、そういう制度もつくっておいて、そうして公教育として制度を一本にしておいて、設置者負担にするのは常識だとか。非常識じゃないですか、非常識ですよ。
  43. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私は、非常識だという話には一つも触れておりません。私の言っていることが常識的ではないか、かように言っただけであります。
  44. 山中吾郎

    山中(吾)委員 私が言っているのも、総理大臣が言っているのは非常識だと言っている。  さらに……(「もういいよ」と呼ぶ者あり)いや、これは大事なことなんです。そんなことじゃないんです。  それから、そうしたら、教育機会均等という立場からいって、一体国立大学に入るために税金を払っておる国民がそこへ入れることができないで、私立へこれだけ借金をして入れなければならぬという国民立場は、これは政治的にどうしても何とかしなければならぬということだけは、総理大臣としては認識しなければいかぬと思うのです。ことに、ずっと家庭を調べてみますと、国立大学だからといって貧乏人の子供が行き、それから私立大学は金持ちの子供が行っているのではない。戦前と違うのですよ。サラリーマンの五、六万の月給をもらっておる者が、大体私立学校に入れているのです。しかも、いまのような変な入学制度であるので、家庭教師を置いたり十分の教育環境を与える家庭でなければ国立に入れない。貧乏人が国立へ入っているのとは違うのです。金持ちで豊かなほうが二千億の税金を出しておる国立に入り、そうして貧乏人の国民子供が私立へ入って払っているという現実を、あなたは、やはりそれはかってにしたらいいというのが常識とお考えになるのですか。よく実態を調べて政策を立てるべきだと私は思うのです。総理、第六感でおっしゃっては、国民はだれも総理大臣に対して敬意を表さないですよ。  そこで、私は、そういう姿の中でゆうちょうな姿勢をおとりにならないで、文部大臣のほうも、臨時調査会を設置されておりますが、中間報告ぐらいしたらいいじゃないですか。こういう大騒動をしておるときに、中間報告は、どういうところまで結論はいっておるんですか。それをひとつ答えてください。
  45. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 ちょっと少し前のことにさかのぼりますが、簡単に割り切ろうとすれば、大学などは国立一本にするか、私立一本にするかのほうが割り切れると思うのですが、日本の国は、御承知のとおり、戦前からの伝統がありまして、国立、公立、私立と三本で来ておりますから、そういうわけにもまいりません。そこで、私立大学に対して今後どうしていくかということは、いま御指摘のように調査会で検討中でございますが、この調査会の中間報告を求めたらどうかということでございますが、昨年来鋭意この調査会の委員は検討をし、数回の総会を開き、さらに、部会を第一部会、第二部会と設けまして部会ごとの検討に入り、現在は大体各大学のあり方、私立大学、私立学校のあり方をこの調査会の委員が直接実態調査をしておる段階でございますから、まだ中間の答申なり報告を出してほしいと言うのも無理な状況にあると思います。しかし、最終報告まで待つのがいいか、中間でまとまったものができるならば中間答申を受けたほうがいいか、これらは今後調査会の方々とも相談をしまして適当に進めてまいりたいと思っておる状態でございます。したがって、中間答申を出すようにいま行政指導をしたらどうかという御指摘に対しましては、いま、即座にはお答えしかねる調査会の進行状況にあると思います。
  46. 山中吾郎

    山中(吾)委員 それじゃ提案をいたしたいと思うのですが、こういうふうな状況で、あとからあとから授業料値上げ問題で学生のストが続出すると私は見ておるのです。それは、学生を責めるわけにはいかないと思うのです。二十万、三十万、四十万の一時金を出すということは、これは一般大衆からいえば、だれが見たって不合理なんだし、しかも文部省のほうにおいては、大学急増対策を私立におんぶしておって、そうしてみずからそれを守るように要求すべきはずの定員の水増しをあなたのほうから一・四四を認めて計画されておられるでしょう。やみ定員をですね。そうして国会に報告されておるんですよ。そういうのですから、私はこの調査会の答申をもっと繰り上げて早く出すようにすべきだと思うのです。あと半年ぐらい。そういう提案をしたいと思いますが、できますか。それくらいはおやりになるべきだと思うのです。
  47. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 私どもも私学の将来についていろいろなことを考えておりますが、調査会の方々としましても、どうあるべきかということについては、もっともっと掘り下げた御研究を願わなければならぬのじゃないかと思うのです。たとえば例をあげて申しますと、先ほどお話がありましたように、学校は設置者が経費を負担してやるんだ、国立は国がやり、公立は公共団体がやり「私学は設置基準に基づいて認可された条件に従ってやっていく。したがって、新しい学校を認可いたしまする場合には、資金計画あるいは校舎その他の規模、こういうようなものを見た上でやっておるので、スタートするときには資金計画もあり、その計画どおりいくはずなんですが、そういかないところに世の中の実際むずかしいところがある。そこで、私立学校というものは、大体生まれてきた過程を考えれば、設置者が相当資産を持っていて寄付をするとか、あるいは関係者から寄付金を集めて学校を設置して、政府の認め得るような資金計画なりその他の設置基準を満たしてやる、こういう発足で来ておりますから、今後この私学に対して一体国が融資なり現金なりで助成するのがいいのか、あるいは、もっともとの起こりのように設置者がその学校の優秀性を大いに発揮して、世間の理解を得て寄付金を集めて、生徒に負担のそうかからないような経営方針をとれるようにするのがいいのか、ここらは問題があると思うのです。それについては、やはり政府としても、金で援助するのがいいか、あるいはそういう優秀な学校に対する寄付金に対する免税措置を講じて、そのほうで考えていくのがいいのか、ここらにも大きな問題点があると思うのです。調査会におきましても、とにかくこういう私学に関係したあらゆる諸問題を取り上げていまやっておりますので、なかなか急速に、こちらが気があせるからといって催促をしても、催促どおりに行きかねる状態にあるのではないかと私は想像しておるわけであります。しかし、御指摘もございますから、決して御意見の点を無視するつもりはありませんので、調査会の方々に、できるだけ早くまとまった意見の出るように御尽力方を要請して、相談をしてみたい、かように思っております。
  48. 山中吾郎

    山中(吾)委員 いま寄付にということばが出たので、それならせめて総理大臣に提案をしてお答え願いたいと思うのですが、私立学校の寄付は、法人税にしても所得税にしても完全に免税にして、民間の教育に熱心な人あるいは功成り名遂げた人の財産を私立学校に提供するときには、完全に無税にしてやる、法人税、所得税及び相続税その他、この点ぐらいは、根本的な問題を論議する以前に、こういう現実を見て、国民の負担の立場から見たときに、私は当然やるべき問題だと思うのだが、その決心がおつきになりますか。大蔵大臣にもお聞きします。
  49. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 私立学校に対する寄付に対しては、従来とも免税の措置があるわけです。(「制限されている」と呼ぶ者あり)これは、お話のとおり相当制限してきているわけです。それに対しまして、世論の一部に、大幅にその制限緩和したらどうだという戸があるのでありまして、その声は一面においてもっともなところがある。しかしながら、これを大幅に緩和するということは、国家財政の財源として徴収すべき税を軽減するということでありまするから、国の財政支出を用いたのと結果においては何ら異なるところがないわけであります。私学はあくまでも私学であって、先ほど総理大臣が申し上げておりまするように、国家としては教育上の責任はある。しかし、直接の経営上の責任者ではないわけであります。さようなことから考えまするときに、かりに寄付の全額を免税いたしたというようなことを考えまするときには、税として国家に納付すべきものが、国家を経ずして直接学校に行っちゃうということになり、したがって、個人はその税負担を免れると同時に、その私学自体に対して相当の影響力を持つ、まあ同族的な関係が出てくるというような面もありますので、その辺は一がいに世論の部の考え方というものを採用するわけにはまいらない、そういうふうに考えておるのです。しかし、世論の考え方につきましてもこれを取り入れる必要がある、こういうふうに考えまして、昭和四十一年度の税制改正におきましては、従来特にこういう点が問題があったのでありまするが、免税の対象になる寄付要件ですね、これが非常に厳格に縛られておった。つまり、寄付をしようという際に、寄付者が五十人または五十社なければ取り上げられないというようなきつい制限があったのですが、これを十社または十人というふうに緩和いたしますとか、あるいは、寄付をする、それが寄付対象事業額の二〇%をこえてはならぬというような制限があったのですが、これを緩和しまして、半分まではよろしい、こういうふうにいたしますとか、相当緩和する税制改正案を御審議をお願いする、こういうことになっておる次第でございます。
  50. 山中吾郎

    山中(吾)委員 思い切って、あまりけちけちしないで、教育事業に寄付するのですから、私は、それぐらいはしてやるのが最小限の政治処理だと思うのです。東大の安田講堂のように名前をつけてもいいですし、あるいは一講座を永久に寄付するというので、その名前をつけてもいいじゃないですか。佐藤講座というのをつくってもいいじゃないですか。それを早稲田に寄付するとか――税金を取ろうなんという、財源的立場ということをおっしゃるけれども、戦前は経常費の補助までしておる。見本の戦争前の政府がしているのですよ。私立大学の経常費に対する補助で一大学二十五万円、これは、貨幣価値をいま見たらどうなるか知らぬが、これを二十五の大学、早稲田も含んだ大学に、大正十年から経常費の補助までして、そうして設備の充実をはからしている。そういうまだほんとうの私立の大学時代でもそれをやってきているじゃないですか。現在公教育という概念の中に入って、個人経営を認めないで、学校法人立でなければやれないことにまでしておいて、そうして、私立だから向こうでやるべきだというのが常識だという考えを、総理大臣も、大蔵大臣もみな持っているのですが、これは偏見ですよ。一方には、教育事業でほんとう国民人間形成するという機能でなくて、名前だけ、たとえば国立教育会館、あれは特殊法人ですよ。特殊法人の経営、そうして寄付を募るときには、全部免税になるから、国立にして寄付を集めてあれは建てておる。ほんとう国民人間開発のための大学の場合には、設置者が法人だから税金を取るのが当然だと言っておるけれども、実体は、特殊法人の教育会館にしても、国立競技場にしても、あれは法人ですよ。なぜ法人にしているかというと、全部寄付を完全免税にするというだけなんですからね、実際見ていると。ぼくから見ればそういう脱法行為的なことをしている。どうして私学に対して税金を全部撤廃するという政府は決心がつかないのか、私はふしぎでしょうがない。  そこで、私は、総理大臣に申し上げたいが、一体、トップレベルの私学問題の会議をお持ちになって、その辺のことぐらいはやはり総理大臣の高次の政治的な処理をお示しになるということは、私は最小限必要だと思うのですが、そのくらいのことはお考えになったらどうですか。
  51. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私も、今回の予算編成にあたりまして減税を大幅にしておる、こういう場合に、たとえば学校、あるいは病院、こういうのは、一人でそういうものを建ててもこれは免税していいじゃないのか、こういうような議論もいたしてみました。ただいまここで展開された御議論、これに対しましていろいろ弊害等もあるのでございますから、むしろケース・バイ・ケースで、この場合は免税にすべきじゃないか、こういうような特別審議、いままでやっておるその方法が望ましいのではないか。制度そのものといたしましては、今回のような大幅減税に踏み切った。今回は大体五〇%までというものなら免税になるような仕組みになっておると思いますが、今度はよほど大幅になったと思います。したがって、特別なことについてはケース・バイ・ケースで審査を受ける、手続は少し煩瑣でございますが、そういうことでひとつしんぼうしていただきたい。学校だとか、あるいは病院だとか、あるいは特殊天然記念物等々、いろいろあるようでございますが、免税すべきものが社会全般のためにというような事柄はなかなか範囲が広うございますから、その範囲をどの程度にやるか。山中君はちょうど教育問題でお尋ねですから、私は学校だけでよろしい、かように言われるかわかりませんが、また他の厚生関係の方々になれば、病院だけでよろしい、こういうような話にもなりますので、それらの点も十分勘案してまいりたいと思っております。
  52. 山中吾郎

    山中(吾)委員 大幅減税といいますが、頭打ちや足切りがあるから、大幅にならぬですよ。  それからもう一つは、一般社会事業と学校一緒にされて、大蔵省の役人もそれで査定したりするそうですか、私は全然違うと思うのです。たとえば病院とか、そういう場合については、国が補助を多くするしないにしても、入院料はたいして変わらぬと思うのです。ところが、学校というのは、学生全部にかぶさってくるのですよ。だから、国民立場から見ますと、教育事業とその他の事業を一緒にお考えになって税金を制限するということは、実態に合わないのだ。その一方に、大学教育水準を下げさすということは、日本民族発展のためにはこれは大問題だ。その基準を要求するでしょう。それで、一方に寄付まで制限しますけれども、それは皆納付金にいくのじゃないか。だから、一時に五十万も入学金を取るというようなことになって、教育機会をなくしてしまっている。病院に寄付を制限したところで、あるいはその他の社会事業会館に寄付するのを制限したところで、そこの使用者に対して一時金、入学金を取るのじゃないのですよ。民主主義国民立場からいえば、全然質が違うのだ。それを、大蔵省の役人の税金についての考え方は、そういうものを一緒にしておるように思う。私は、全然違った重大問題だと思うのです。その点、総理大臣は認識をもう少し深めてもらわなければ解決しないですよ。  それで、憲法の八十九条か何かの、例の公の支配、あれは解決済みでしょうね。それをいまはっきりしておいてくれませんか。公の支配に属せざる教育及び慈善事業については国が援助してはならないというのは、最初論議になったけれども私立学校法ができて、公の支配という制度が確立したから、私立学校についてはあの憲法の適用は排除になったという国会の解釈は確立しておると私は思うのですが、間違いないですか。
  53. 高辻正巳

    ○高辻政府委員 御承知のとおりに、八十九条は、公金を公の支配に属しない教育の事業に対して支出してはならないという規定でございますが、八十九条は、そういう意味でしばしば問題とされるわけでございます。山中先生指摘のとおりに、私立学校法、たしか五十九条だったと思いますが、その辺に、特定の助成に関する限りにおいて、そこに支配関係というと語弊がございますが、一種の監督関係を設定することで、その憲法の八十九条の関係がいいだろうというのが、の考えでもございましたし、国会が当該条文を議決されたお考えもそのとおりであろうというふうに考えております。
  54. 山中吾郎

    山中(吾)委員 大臣、いいですね、一応解決したという答弁だと思うのです。ところが、調査会の基本部会というのですか、もとの法制局長官の林さんですね、あの人の意見として、まだ制限がある、生きているというようなことが前に新聞に載って、そんなばかなことはないという論議をしたことがあるのですが、その人を調査会の部会長にしているのです。だから、どうも政府ほんとうに誠意を持ってこの問題を解決するのか、あそこでブレーキをかけるために調査会があるのか、私は疑わしい。そういうことではだめですよ。法律家ですから、自分がそう解釈する。現法制局長官の前の林長官をその関係の部会長にしておるじゃないですか。とにかく、適当にこれをごまかすという問題はなくなると思うのです。  そこで大臣、全国私立学校の学長代表を文部大臣が急速に集めて、実態を聞いて、詳細は調査会でいいですが、現実に寄って当面の最小限の政策だけはやるために、トップレベルの会談を速急におやりになるべきだと思うが、いかがです。
  55. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 御承知のとおり、私立大学には大学協会と大学連盟と二つグループがございます。いま御指摘のように正規の協議会のようなものは持っておりませんが、私ども至大の関係がございますので、おりに触れてこの大学協会あるいは大学連盟の世話役の方々とは懇談をいたして、御意見等は聴取いたしておる次第でございますので、今後も続けてまいるつもりでございます。なお、国立にせよ私立にせよ、できるだけ緊密な関係を持つほうがよろしいのでありますから、そういう点については研究をしてまいりたいと思います。
  56. 山中吾郎

    山中(吾)委員 速急に手を打たれて、青年の思想まで悪化させないように処理さるべきだと思うのです。  さらに、この機会総理大臣に認識をしてもらいたいと思うのですが、国立大学の医学部の学生の学資は、一番多く国民の税金が出ておるわけですね。ところが、診療所その他の公的医療機関には私立医大出の先生が行って、国立の人は行かない、そういう一つの矛盾もありますし、それから一方に、百万ぐらい出さないと入学できないから、お医者さんのむすこは、設備がむだになるから、五百万も一千万も出している人がありますね、寄付入学というのは……。そういうふうな矛盾は、私はほんとうは極限にきていると思う。だから、進学制度を含んで、やはり私は、特別の最高の政治で進学制度あるいは大学制度の検討をする機関を持ってやる段階に入っていると思うので、その点はゆうちょうなものでないということだけはひとつ明確に認識しておいてもらいたい。  なお、大蔵大臣にお聞きします。設置者負担というものが鉄則のように頭に入っておられるようでありますが、これは、私は考えを直してもらわなければならぬと思うのです。その行き方をとりますと、各県で県立の工業高等学校とか商業高等学校、これはやはり国の要請で、中級の技術者養成ということで県立のそういう高等学校を設置しておるけれども、これは設置者は府県だから、設置者で負担すべきだという鉄則のもとに、財政的立場から施設の補助などはしない、やるのは特別例外だけであるというお考えでいままできておる。市町村立の小中学校は、義務教育だから、国が二分の一負担するという負担法に基づいて例外としてやっているのだ、こういうふうなお考えでいままで予算編成をしてこられたと思うのですが、私は非常に矛盾があると思うのです。いま私立大学の場合も、設置者は向こうだから向こうでやれと言っておりましたが、いなかのほうの高等学校の卒業者はほとんど県外に出て、東京、大阪付近の優秀なる中級技術者とか、あるいは低賃金、しかも勤勉なる労働者として東北あたりから出て来て働いているわけです。ところが、この設立の趣旨は、県会においても知事においても、この地域の開発のためにこの学校を設置する、そうして、卒業した者を地域の開発に使うというので予算を計上しておるわけです。ところが、出た者はみなもぬけのからです。これは、工業になると、七、八〇%は全部県外に出ておりますよ。県内に工業がないからですね。そこで、一般の普通高校を含んで見ても、高等学校において見ますと、これは文部省から来た統計ですが、せっかく県費によって養った高等学校の卒業生は、大部分は県外、大阪、東京に働きに出ておる。たとえば鹿児島が六三・一%、佐賀県は五三・九%、徳島は五〇・六%島根県は六五・二%、これはみな外に出てしまっているのです。しかし、予算計上の趣旨は、その地域の開発をするためにできて、設置者負担で学校経営をしているわけです。逆に、東京、大阪のほうを見ますと、受け入れのほうは六〇%から七〇%はみな外から受け入れておる。そうしますと、大蔵省のいつもの思想のように、高等学校は府県の費用でやれというのはあまり酷だと思うのです。交付税の配付にしても、貧乏県が金を出して養成した卒業生が大都市の地域開発に出ておるわけですから、せめて施設費の二分の一負担くらいはしてやるべきだ。中学にしても、佐藤総理大臣が盛岡に来て、僻地の学校給食は完全給食をと、いいことを言ってくれた。しかし、まだ十分全部じゃないと思うのですが、その中学は九〇%はみな外に行っていないのです。もぬけのからですよ。村長は校長をいじめておるのです。これだけ貧乏して学校施設費を出しておるのに、卒業生をみな外に出しておるじゃないか。ところが校長からいえば、就職の場所がないから、できるだけいいところへといってあっせんをして、実は県外に世話をしている。子供のことを考えると、東京あたりに世話をしなければならぬので努力するが、村長から何のために教育して、この施設を使っているかといわれて、結局先生はサンドイッチになってしまう。そういうときに、この間山花委員からも話が出たけれども、建築費の単価を実際よりも切り下げて、そうして三分の一くらいの実態しか補助金を出していない。それが設置者の原則だという先入主をどこかあなたはお持ちになっているから、こういう矛盾があって、国民の税金の使い方に全く不公平なものがあると思う。そういう実態に即して予算編成の基準をりくるべきであると思うのです。文部省から要求したときに、若い大蔵省の役人がただそういう形式論理だけで査定をしていくから、いつまでたっても、大体経済の格差ばかりでなく、人材の格差から大都市と僻地を持っておる県の間はまことに不公平な教育費の負担があると思うのです。それは修正すべきだと思うのですが、いかがですか。設置者負担の問題が出たから、その辺を明確に聞いておきたいと思うのです。
  57. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 行政をやっていくにはおのずから筋があり、系列がなければならぬ、そういうふうに考えるわけであります。高等学校教育は、これは地方団体が経営主体になっておるわけでございます。そのたてまえを尊重しながら、ただいまお話のようなことを加味していかなければならぬ、そういう考え方でございます。でありまするから、現に国が、地方で担当する高等学校教育、その教育課程の中に理科教育というような問題、あるいは定時制の教育の問題、こういうことに対しましては補助をするたてまえをとっておるわけであります。しかし、地方団体それぞれには特殊性がある。いまお話しのように、教育をいたしました子供がその土地にいつかないで都会に出てくる、そういう傾向があるわけであります。その結果、その地方の財政なんかもふるわないというような影響もありますことを考えまして、そこで交付税でありますとか、いろいろなその土地土地の財政に応じた援助をするという仕組みがあるわけでありまして、私は決して現在の考え方が矛盾しているものとは考えておりません。
  58. 山中吾郎

    山中(吾)委員 親の願いというものは、どこに行ってやってもらっても、幸福になってもらいたい。親からいえば、教育費はいいですよ。だから、それもまた出している。寄付まで出している。法律違反の寄付までとられている。地方自治体が学校経営をするのは、地域の開発のために、必要な人材養成のためにと予算説明をしてみな建てておる学校ばかりなんです。卒業生がみなその地域の開発に貢献しないで、外へ行っているということに対しては、国が税金の配分において修正をして、十分にその地域に教育費というものを、その地域のためでない教育費については国が出してやるというふうに予算編成の基調を変えなければならぬじゃないか。あたりまえだというそんな不認識なことはないじゃないですか、どうです。
  59. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 結果は同じことになるのです。つまり行政の運営には筋を立てなければいかぬ。その筋に従って高等学校教育に対する地方と中央の分担をきめる。しかし、その結果、地方に出るところの負担、これに対しましては財政面から総合的に調整する。ちっとも違わないのです。
  60. 山中吾郎

    山中(吾)委員 財政面からいうと、特別なある程度の修正はあるけれども、大体同じ需要額に基づいて、基準によってやっておるのでして、教育費の関係については、少なくとも私は施設費については、農山村の県立高等学校の場合、二分の一ぐらい出すというふうなことをしないと、税の配分の不公平が出るという実態を申し上げたのです。あなたのやり方では全部不公平のままですよ。そして、大部分教育費に支出をしてほかに使うことができなくなる。したがって、東京が一番教育費のパーセンテージは少ないでしょう。大都市にいくほど総予算の大体二〇%、三〇%、岩手あたりにいったら六〇%、七〇%になってしまう。市町村、僻地にいきますとですよ。だから、せめて僻地の給食についても、わざわざ佐藤総理大臣が盛岡へ来て、一国の総理大臣が、僻地に完全給食をすると言っておいて、一、二級を排除している。三級以上だ。そんなけちくさい施政がどうして――総理大臣が呼びかけたのならば、せめて僻地を差別をしないで、そのぐらいは完全無償にしてやるべきだと思うのです。一、二級を排除しているじゃないですか。それくらいのことは総理大臣、言いかけたのですからおやりにならないのですか。いまのような状況も含んで見ますときに、どうですか。
  61. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いまの給食についての話もさることですが、その起こりが、やはり高等学校教育教育費を地方で持っている、こういう問題からこういうものがよほど――卒業すればみんな中央に出ていくじゃないか、したがって、地方の役に立たないのだから特別にめんどうを見ろ、こういう要望であるようですし、また、学校給食の問題にいたしましても、自治体自身の負担分もある、そういうことでなかなかやれないのだ、こういうことも言われたいのだろうと思います。私、この教育問題について、ただいま山中君も御指摘になるように、親御さんの気持ち、これから見れば、とにかく自分の子弟がりっぱな教育を受ける、こういうことをとにかく希望しておられる。また、地方の発展のために、りっぱな工業高等学校を卒業すればその土地に定着して、そうして工業の発展に寄与する、こういうことを自治体の首脳は考えるとか、また、そういう意味学校のできることに期待をかける。しかし、なかなか政治のほうが進まないので、工場の分散計画なり、あるいは工場誘致なり、産業の地方への分散、これもできておらない。できおらないから、そういう場合に大阪や東京へ出ていく、こういうことになるのだと思います。その場合に、私は双方の言い分を全然理解しないわけでもないのですが、ただいま大蔵大臣が申しておりますように、制度そのものから見て、高等学校はどこでやるんだ、これは地方自治体でやるんだ、その関係において交付税という制度があるんだ、その上で見れば、これはどうもしかたがないじゃないか、いわゆる学校補助として特にどうこうというひもつきのものが出なくとも、全体がまかなえるような交付税、あるいはものによりましては特別交付税、そういうもので処理していけば、地方の財政負担はまかなえるのではないか、こういうお答えのようであります。また、山中君のほうでは、そんなことじゃないんだ、せっかく地方の発展を期する意味学校をつくったんだ、その効果を上げないんだから、そのための教育――父兄は喜ぶんだから、教育の効果はあるか知らないが、自治体として困っているからこれを明確に補助しろ、こう言われたように聞いたのですが、しかし私は、どうも制度のたてまえとしては、大蔵大臣のような考え方のほうが現実問題として処理ができるのじゃないか。一方で、おくれております産業の地方分散、また、地域格差をなくするというのも一つ政治目標でありますから、ただいま発展途上にある、あるいは教育途上にあるものには、ただいま御指摘になりますような不都合の点も出てまいりますが、同時に、政治を総合的に進めることによって所期の目的を達するように、この上とも注意してまいりたい、かように思います。現状においてこれを特別に処理しろと言われましても、ただいまの交付税その他の方法で中央からめんどうを見る以外に方法はないのだ。この点を御了承いただきたいと思います。
  62. 山中吾郎

    山中(吾)委員 私は不満足なのですが、やはりそういう税の配分の不公平というものは、それを地域の関係で補助制度その他の中で修正するという政策をとらなければ、どうしてもこの矛盾は解・決しない。敷地についても、その地元においてほとんど全部寄付をされておる。そういうのですから、もっと論議をしたいのですが、時間がないので次に移りますが、ひとつ予算編成の場合に、昔のとおりの考えなり形式論議でなく、もっと弾力性を持った考えを特に持ってやってもらいたい、これを要望したいと思います。  青少年問題でありますが、最高裁の方も来ていただいておるので、それに移りたいと思います。  これは、昨日も川崎委員のほうから触れられたようでありますが、少年法改正問題にからんで、最高裁から少年非行対策についての考え方を公に発表された。法務省のほうと意見の相違がある、現実の非行少年の分析に相違がある。これについてお互いに誤解のないように統一をされる必要があると思うのです。それは、青少年問題を食いものにしてはならない。これは、あくまでも若い人々のエネルギーをそういう非社会的なものに使わないで、いい方向に持っていくために論議をしておるわけでありますから、いずれにしても、どちらが事実に近いかということを率直に話し合いをしてもらわなければならぬと私は思うのです。それから対策についても、どちらが実効があるかということによってきめるべきで、役所のなわ張り争いでやってはならないと思うので、その点、まず最高裁のほうから発表されたことについてお聞きしておきたいのですが、非行少年は特に増加はしていない。しかし、実際の傾向からいうと、学生生徒非行のほうが非常に増加をしておる。年齢が低下しておることは間違いない。こういう結論のようでありますが、私も、それはあまりいままで激増という誇張の表現があるので、あるいは事実に近いのではないかと思うのですが、その点、確信のあるところをひとつお答え願いたい。  それから学生生徒の、いわゆる小中高に在学をしておる人々が非行をすることが激増しておることについては、教育政策の問題として、その対策については相当違った角度から対策を立てなければならぬというふうに思うので、その点、最高裁のほうから時間をかけないで、簡潔にひとつ説明願いたいと思うのです。
  63. 岸盛一

    ○岸最高裁判所長官代理者 ただいま御質問がございましたが、最近最高裁判所のほうから公にいたしました「最近の少年非行とその対策について」という。パンフレットがございますが、それらとからんで、いかにも法務省と裁判所側とが公に意見を対立させて、そして争っているかのごとき印象を与えましたことは、これははなはだわれわれの意図したところと違いまして、その点は決して、これを法務省のほうにつきつけて法務省と論争する、そういう趣旨のものではございません。まずその点をお断わりいたしておきたいと思います。  少年対策について緊急の処置がとられなければならぬということは、裁判所側もちっとも異存がないわけで、必要性を感じております。ただいまの少年非行増加の現象でございますが、これは、この書面の表現があるいは妥当を欠いているという点があるかもしれませんが、その点は、数はふえておっても、ふえておる数の非常に多くのものは、道路交通関係の事件、それにからむ業務上の過失傷害の事件がふえているので、本来の刑法犯というものはそう顕著なふえ方をしていない、そういう趣旨でございます。しかしながら、御承知のように、最近ときどきではありますが、年若い少年の間で、従来は見られなかったような特異な犯罪が行なわれておりますので、これはやはり戦後の一つの現象と思わなければなりません。そういう点をとらえて少年犯罪が全般的に凶悪化しているという印象を世間に与えておりますけれども、これはこの資料でも御説明してありますとおり、少年犯罪全体としては、一般的には凶悪化しているものではなくて、たまたま特異な事件が起きて、それがそういう印象を与える、そういう趣旨でございます。  それから学生の問題でございますが、裁判所のほうで重視しておりますのは、最近の少年現象は年長少年、すなわち十八歳、十九歳あるいは中間少年、十六歳、十七歳というところに問題があるよりは、むしろ十四、五歳の年少少年  ですから、ちょうど中学生あたりの学生の犯罪がふえておる。しかも、この少年の犯罪は初犯、つまり初めて罪を犯す犯罪がふえておって、累犯、つまり前に非行があった少年については累犯率はふえていない、そういう点を申し上げたいのであります。  要するに、この資料はあくまでも最高裁判所の家庭局の資料として従来取り集めましたものをまとめて出したもので、法改正についての公式意見として発表しているものではございませんで、どういう方向に向かって改正されるかということは、これはまだ法務省のほうでもいろいろ案を御用意のようでありますし、その案をお示しいただいてから真剣にこちらも早急に考えたい、そういう趣旨でございます。
  64. 山中吾郎

    山中(吾)委員 簡単でいいですが、法務大臣に伺いたい。最高裁のほうはああいう考え方を持っておるわけですが、特に無理をして少年法を改正するというお考えをお持ちになるかどうかということだけは聞いておきたいと思うのです。年齢も低下しておるのですから、問題はあまりなくなってきている。  それからもう一つは、立教大学のこれを専門としてよく研究しておられる山本晴雄教授の調べた資料などを見ますと、家裁の判断によっていわゆる審判を開始をしない、あるいは処分をしないという決定をしたものは、大体七割ぐらいは累犯を重ねないで社会復帰をしておるという資料がきておるわけですが、そうしますと、やはり教育主義的な立場でこれを処理していくというほうが、青少年の場合については妥当じゃないかと思うのです。あまり少年法の改正の方向のように刑罰主義をとるということは、私は適当でないのではないかと思うのですが、それは別として、意見が十分に一致したあと慎重にこういう問題を取り扱うのかどうか。取り扱うべきだと思うのですが、それだけ一言お聞きしておきたい。
  65. 石井光次郎

    ○石井国務大臣 お答えいたします。  さっき最高裁のほうからお話がございました。私の考えは、きのう川崎君の質問にお答えしたとおりでございまして、別に最高裁といま法務省とが意見の対立を来たしておるという情勢でないということだけは、これはもうはっきりした事実なんでございますが、まだそこの段階まで至ってないのでございます。いま両方とも勉強しておる。というのは、少年の非行問題が非常に大事な問題に取り上げられておりまして、わが内閣を中心といたしましても、いろいろな問題と関連し取り扱っておりますので、わが法務省といたしましては、どうやってこれに処するかという問題を考えますると、予防的な問題といたしますると、暴行の取り締まりであるとか、あるいは不良文化財の取り締まり、あるいはその自粛を求めるというような予防的な問題もありまするし、また、一たん非行を行なった場合において、検察庁の扱いをもっと慎重に、厳正に、適正にやるというようなことやら、少年鑑別所あるいは少年院の動き等につきましても、もっといろいろやるべき問題があるのじゃないかというような問題をいろいろ考えておるわけであります。   〔赤澤委員長代理退席、委員長着席〕 そういうふうな問題等にあわせまして、少年法の改正も、もう実施いたしまして十数年目です。その間に家庭裁判所のやりましたことはだんだんと形をなしていきまして、非常に好評を得ておる面もあるのでございまするが、また、もっともっと何かやるべきものじゃないかという批判も長い間には起こってくるわけなんでございます。これらの点をあわせまして今度ひとつ取り上げて、高い立場から少年法の改定というものをやってみるべきときにきたのじゃないか。それにはどうしたらいいか、きのうも申しましたように、それは私ども一つの成案を持って、それでどうだというものをいま突きつけておる状態ではないのであります。したがいまして、最高裁とこれによって対立しておるわけでもない、意見を聞いた状態でもないということでございます。いま私どもは、近く複数で意見を出して、こういうふうな案もあるがというふうなことを出しまして、有識者、また皆さん方にも御意見を承って、そうして一つの成案を得ることができれば、それによってやっていきたい、御説のごとく慎重にこれは取り扱っていくつもりでございます。
  66. 山中吾郎

    山中(吾)委員 時間がないので、これは一般質問その他に譲りたいと思うのですが、戦後の専門的に青少年を判断して処理する決定の基礎をつくる家裁の調査官、青少年係の調査官、それが大学の先生をしておる人だとか、そういう優秀な人もありますが、非常に待遇が悪くて、ほんとうの指導をする者が待遇が悪いというので相当批判が出ておるようですが、そういう青少年対策の場合は、役所仕事でないわけですから、そういう専門家を優遇してやるという、そういう方向で御検討願うべきだと思うので、これは時間がないので、総理大臣に御要望だけしておきます。  そこで、この青少年問題について総理大臣に特にお聞きしたいのですが、世界共通の問題で、列国議会同盟についても青少年問題委員会がある。私、二、三年前に代表で行ったのですが、植民地解放の委員会だとか、その中で青少年問題委員会がある。いわゆる社会が工業化するときには、どこの国でも政治問題になって、重大問題になっていると思うのです。したがって、世界共通の原因のほかに、戦後の日本社会青少年問題がこういうふうに政治問題になる特殊の原因というものを見きわめなければ、私は青少年問題の対策にはならないと思うのです。青少年協議会のほうで顔の委員会をたくさんつくって運動を起こされて、各地域に各界の代表が集まって会議を開く、あんなものは青少年対策ではないと私は思うのです。  そういう意味において、日本の特殊原因によって青少年問題が起こっておるということを見きわめたならば、一つの問題が明らかになってくると思います。これは国立国会図書館から出しておるレファレンスですが、これによって、いろいろ法務省その他の資料によって、原因というものを西独と比較したのがあるのです。そうすると、戦後「少年の身体的成熟が高まったこと」、精神とのアンバランス、これはどちらも同じですね。どっちも敗戦国ですから共通点を比較したと思うのですが、あるいは「戦時および戦後の混乱期の影響」、これも同じ。「マスコミの影響」も同じです。どららも同じ原因です。消費が急に増大した、これも同じです。それから少年に対する教育能力が少なくなった、これも比較してみると西独と日本は同じです。違うところは、ドイツのほうでは東独からの逃亡者の数が多いというのが日本にない一つの原因になっている。東独からの逃亡者ですね。日本の場合だけの一つの原因は、「戦後における価値体系が混乱したこと」、旧憲法から新憲法に移って、その中にいわゆる国民主権あるいは人権、平和主義という、民主主義の新しい憲法というものの中で、いわゆるものの考え方、価値観というものは確かに大変動があると思うのですよ、いままでの教育と違っておりますから。それが日本青少年問題の、日本だけの特有の原因だ。私はこれに対して、日本青少年に対する対策を根本的に考えるのがほんとうの正しいやり方だ。これを忘れておれば、ただ青少年問題は大事だという演説をする、新聞に載る、そしてある意味においては、政治的に利用する、青少年は被害者になるというような感じがすると思う。  その意味において、ものの考え方というものは非常に変革をした。旧憲法から新憲法は、私は端的に政治革命だと思うのです。天皇の主権から国民主権に移って、価値観というものを、いわゆるほんとう民主主義的な立場の中で考え直さなければならない。それが混乱をしておるために、家庭における親も自信をなくしておる。おとなも自信をなくしておる。そういう中に私はこの問題があると見るのがいいんじゃないか。  そこで、総理大臣は、そういう価値観の転換をしたときに、その価値観の転換した根拠である憲法考え方を、先ほど言ったように、憲法記念日にも政治教育に利用するとかしないで、ほんとうに徹底してその方向に浸透するように強調して、総理大臣が先頭を切ってこの憲法を守るということを、教育政策の中においても、あるいは社会制度その他の中に透徹していけば、この混乱は防げる。それがないから青少年は自分の個人主義の幸福だけを願う、片すみの幸福を願う、規模の小さい、片すみの幸福型が出ておる。それがなければいわゆる享楽の方向に走るので、自分のエゴイズムを越えて天下国家のためという目標を、現在の戦後の政府はあいまいで、与えていないと思うのです。  私は、そういう意味において、憲法教育基本法に根ざす教育が中立だと思うのです。それは、思想は資本主義思想を持っておろうが、社会主義思想を持っておろうが、この憲法民主主義というものを徹底するという立場は、これは教育の中立性の中におってうんと奨励すべきものがある。ところが、文部省は、日教組とけんかばかりして、日教組の言ったことだからこれは反対だ、また日教組は、文部省が言ったから反対だ、お互いにそのものの考え方の中に、価値観というものを越えて対立してきておる中に、これはもう何にもならない空白が出ておる。青少年問題も、私は戦後の価値観の混乱を、その憲法に基づいて積極的に庶民の生活の中に確立するということを、いわゆる自民党の政権というものはやっていない。どこかあいまいにして、水増しにしてしまっておる。そこで、一方にまた文部大臣は、いや教育基本法を改正する、あれは抽象的で民族的のなにはない、そういうことを言ったり、どこか改正のにおいをあちこち出してしまっておる。だから、個人を越えて社会のため、日本のために尽くすという、そういう優秀な者は、われわれが育ったような一つ目標を持たないし、そうでない者は享楽に走る、そして、中間の者は個人の幸福を願ってほかのことは考えない、政治から遊離する。そこに青少年問題の根源があると私は思うのですが、いかがです。
  67. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 いまのにお答えいたします前に、御要望がございましたが、家裁の調査官の待遇等については一そう注意したい、かように思います。  次に、ただいまのお話でございますが、ドイツと日本青少年を比べられることとか、真剣に青少年問題に取り組む、その場合に、広く資料を求めるということで、私もその態度には賛成でございます。しかして、ただいま言われますのに、いろいろの欠陥があるのでありまして、一つだけに集約して、これでいまの青少年の非行があるのだと、こうきめてしまうことはできないように実は思います。その中には、ただいま言われるように、旧憲法から新憲法への価値観の変動、これは確かにあるだろう。また、ものの見方が今日はよほど変わっておりますから、そういうものが、これは新憲法ばかりじゃない、あらゆる面において出てきておる。したがって、それは単純ではないと思うし、また非常な物質文明の発展はあったけれども精神文明のほうはたいへんおくれておるとか、そこらに均衡を失っておるということもあると思います。したがって、これだ、これがきめ手だ、こういうものは実はないように思いますが、私どもが、いま同時にそういう点から考えまして、いまもお触れになりましたが、非常に不幸な状況は、青少年を教える人が、特殊な形においてただいま云々されておる。倫理綱領などが批判にのぼっておる。そうして、文部当局と教員との間の融和というか、十分な完全な一致が来たされておらない。これはたいへん不幸な状態だと思います。私は、いずれが悪いとかどうとかいう問題ではないと思う。これなどは、今後双方において努力してまいる筋のものだと思います。教育の中立性を言われながら、どうも日教組そのものは中立性だとは言えない、こういうことも私は指摘したいのです。だから、その倫理綱領をよく読んでみると、あるいは書いてあることはたいへんけっこうなようだ。しかしながら、その注釈になってくると非常に色がついている、かようなことも指摘できるのでありまして、私は、こういう点が非常な不幸だ、こういう事柄が今日の青少年の非行にも悪影響を及ぼしておる、これは見のがすことはできない、かように思うのであります。私は、青少年問題を、ただいまの非行の面、これを取り上げて対策を立てること、これも必要なことですが、もっと前向きで、積極的にりっぱな日本人をつくるのだ、こういうことであってほしい、かように思うので、私の演説その他については、非行のほうはきわめてわずか触れた、かように思いますが、どうかただいま申し上げるような積極的な前向きな考え方で、青少年教育に携わっていただきたいと心から願う次第であります。
  68. 山中吾郎

    山中(吾)委員 総理大臣、なおこの問題をもう少し明確に話し合いしておきたいと思うのです。日韓条約のときにも、自民党の強行採決で私は質問機会がなくなったのですが、文化財協定と教育問題について質問するつもりだった。そこに日本のいわゆる新しい価値観というものを確立しなければ何にもならぬという実感を私は持ってきておったわけです。  それは、韓国のほうでは、最高の英雄は伊藤博文を暗殺した安重根で、ソウル南大門に一番大きい銅像として、それはもう国民英雄ですね。それから暗殺された伊藤博文は、国会の正面玄関に銅像としてあり、千円紙幣の肖像で、日本国民英雄になっておる。一方は、暗殺をした人が英雄に、一方は、暗殺された人が教育人間像の中に入っている。これは、私は、どんなに譲歩すべからざるものを譲歩しようが何しようが、キツネとタヌキのだまし合い条約だと思うのです。だまし合いだ。しかし、朝鮮のほうから言いますと、攻めてこられた人に対して民族を守る人として戦った人なので、ヒューマニズムに何の矛盾もなく英雄にできる。そしてあの人は、裁判で民族のために堂々とりっぱなことを言った。人間としてみるとりっぱな人格者ですね。それが向こうの英雄になっている。  日本の場合には、依然として期待される人間像というのは、憲法と基本法に全然無関係な迫力のないものを文部省は出す。そして、一方に、外から見ると植民政策のいわゆるシンボルというような人が英雄として一番評価される姿で貨幣の中へ入ってきている。私はそれをもっと明確な、新しい憲法に基づいた平和――平和に徹するということは、私は何回総理大臣から聞いたことか。こういうことについて、私は、歴代の内閣は不明確で、ある面ではずるい。それがこういう問題に出ているので、もうすでにこういう問題を根本的に確信を持って国民を指導するいわゆる灯台守になるだけの明確なものを出すべきだと思うのです。  だから、一万円札の聖徳太子のように、外国の文化を吸収した人を国民英雄に持ってくるなら、これは国民も入ってきます。しかし、やはり疑問の、外に向かって植民政策の代表者というような人は、その辺の扱い方を変えないと、こういう問題はうまくいかない。日本民族愛というものをつくる場合に、憲法に従って言うならば、やはり外国の文化を吸収した功績者――千円札に福沢諭吉くらいの人を肖像にしなさい。聖徳太子は仏教を取り入れた。日本民族のよさというものは、文化を吸収し消化する創造力で、外国を侵略するところではない。侵略する方向を人間像に持っていくという人が政治家の中にある。自民党政治家の中にやはりあると思うのです。それは、姿勢を正しゅうするということが、案外青少年問題のエネルギーを善用する問題だと思うので、私は力説をしておるわけなんです。  それで、あれは私はキツネとタヌキのだまし合いだと見ているのです。さらに、北鮮にしても、韓国にしても、徹底した民族精神を、誇りを持たすためにやっていると思うのです。日本にはほんとうはないですね。私は、これは憲法教育基本法精神を明確に国民人間像の要素にするということを、確信を持って総理大臣が閣僚に、それから党員に対して指示していくならば、平和と結びついた民族教育はできる。そうでないから、軍国主義復活ですぐ建国記念日だけを強調するような方向にいっていると思うのです。それは考え直すべき問題だと思うのですが、どうですか。
  69. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 たいへん山中君の御高説、静かに拝聴いたしました。おそらく閣僚諸公も勉強になったことだと思います。私自身も、一つの見方だ、かように考えておりますので、批判はいたしません。
  70. 山中吾郎

    山中(吾)委員 時間がきたので私はやめます。やめますので、なお印象を深めてもらう責任があるので、一言だけ言って終わりにしますが、これは「民主主義」という戦後副読本としてわが国から出た本なんです。「本書は、先に中等学校、高等学校社会科の教材として発行」し、よく読め。これについて、資本主義社会主義のことも、長所、短所、それから民主主義のあり方を、実に学問的な立場と実際のデモクラシーの中で公平に書いているのです。これを文部省はどこかへ隠してしまって、最近教科書検定もずいぶん反動化して、一方的になっている。資本主義考えている者が色がつかないで、社会主義考えている者は色がつくなんということは、偏見です。これ見なさい。おのおの長所、短所――自由経済については、その利潤を追求する欲望の刺激で生産を増強するけれども、一方にやはり搾取というものは伴う。社会主義の場合については、その意欲がなくなるから生産性が停とんするんじゃないか。おのおのこういう説があり、こういう説がある。しかし、その中で、民主主義というものの中で、その長所をとり、日本の将来の発展考える。これはもう率直に書いてある。これは文部省から出た副読本です。  私はいま全部読もうと思ったが、時間がないので省略しますけれども、一応終戦直後の日本建設の、あのときの教育改革の熱情に戻ったらどうですか。あのとき、初心忘るべからずということばがあるならば、終戦直後の――制度は別ですよ、制度は再検討すべきものがたくさんあるし、アメリカから持ってきて木に竹をついだ制度はたくさんある。しかし、あの当時の、終戦のあとで反省したこの政治家姿勢と熱情というものは戻すべきだ。戦後二十年のいまに至って、二十年の経過を見たら、教育現象は後退に後退を続けておる。考え方も反動化しております。だから、終戦直後の最初に戻って検討されれば、私はこの国会の中に共通の広場もできるし、そうして強行採決もしなくていい一つのものができると思うのです。  そういう点について総理大臣が十分に反省をして、あるいは終戦直後を顧みて出直すというふうな姿勢の中で、私学問題についても、青少年問題についても、一般教育政策についても考え直して、総理大臣民族の未来に責任を持つ人でなければならぬと思うのです。ただ二十一世紀につながる青少年と言うだけでは、それはおだてるだけだ。二十一世紀につながるあのすばらしい科学力と、平和に徹する豊かな人間性と、それからほんとうの平和と結びついた民族精神というような三つの柱をイメージに出して、それに基づいた教育体制をつくるぐらいのことをうたい出す責任があるんじゃないですか。  いまの教育体制は、十九世紀に向かった教育体制です。進学制度の中に、学歴主義の中に、実力がどこかへ行ってしまっておる。入学が目的で、入れば勉強しない。そして小学校からみな予備校化し、それから幼稚園の浪人も出ておる。浪人の存在は世界のどこにもない。それから予備校なんというのは、どこにそんな変な学校が生まれてくるのですか。それから学習塾なんというのは、学校を一体信用しない姿で出ている。あらゆるものがさがさになって、人間をつくるという教育体制というものはもうなくなってしまっておる。十九世紀に向かった教育体制で、それは政治家のほうで汚職問題を出したり不信用を出す。また、目標を明確に出さないから、せっかくあるこの憲法を、徹底してこの中で民族を生かしていくという高い姿勢というものを私は全部出すということが要訣であると思うので、その点を要望いたしまして、その他細部のことは残ったわけですが、これを一般質問その他のときにいたしまして、私の質問は終わりたいと思います。
  71. 福田一

    福田委員長 これにて山中君の質疑は終了いたしました。  午後は一時二十五分より再開することとし、暫時休憩いたします。    午後零時二十四分休憩      ――――◇―――――    午後一時四十九分開議
  72. 福田一

    福田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  昭和四十一年度総予算に対する質疑を続行いたします。大原亨君。
  73. 大原亨

    ○大原委員 私は、ただいまから社会保障、住宅政策等を中心といたしまして質問いたしますが、質問に入ります前に、社会党の私どもの機関の決定に従いまして、新潟県知事の問題につきまして質問をいたします。  新潟地検は、新聞も伝えておりますように、あるいは一般もそういうふうに承知いたしておりますように、知事選挙前に自民党会議員四十五名に対しまして、二十万円プラスアルファをばらまいた、これはやはり選挙前の事前運動である、買収である、こういう常識に従って捜査を進めて起訴を決定をした、こういうふうに内定いたしたと、そのことを新聞でも伝えておるわけであります。これも世間の注目の中で行なわれておることですが、新潟地検は、高検やあるいは最高検のそれに基づく意見を聞くために、九日、十日と東京に来ている、こういうことが伝わっておるわけでございまして、一般の常識に従うと、少なくとも十日前後には起訴について最終的な決定がなされるであろう、こういうふうに察せられておったのであります。しかし、昨日、きょうの一部の新聞によりますると、この起訴についての決定が月末まで延びた、こういうふうに流布されておるわけでございます。私どもはみずからの政治姿勢を正さなければ議会政治に対する信頼を確立することはできない。社会党といたしましては、この問題がどのように決定されるかということは、山花委員指摘されましたから、私はくどくど申し上げません。私どもはきわめて重要な問題であると考えておるわけでございますが、この間の経緯につきまして、まず法務大臣より御答弁をいただきたい。
  74. 石井光次郎

    ○石井国務大臣 この問題は、ただいまお話の中にありましたように、だんだん取り調べが進んでおる途中でございます。まだ決定する段階には至ってないと聞いております。まだ取り調べが十分でない点があると見えまして、なお取り調べを進める、そして取り調べが十分終わりますれば、それによって適正なる判断を下すという段階になると思っております。これに対しましては、私どもはそれ以上のことは聞いてない。適正なる方法をとられることを期待いたしてじっと待っておる状態でございます。
  75. 大原亨

    ○大原委員 ただいまの法務大臣の御答弁では国民は納得しないだろうと思うのであります。特に一部流布されておるところによりますと、このことに関して石井法務大臣は馬場検事総長とお会いになったというお話が伝わっておりますが、これは事実でありますか。
  76. 石井光次郎

    ○石井国務大臣 特にこの問題について馬場検事総長と最近に話し合ったことはございません。この問題につきましては、ときおりに報告は聞いたことがございますが、最近にはこの問題について特に聞いておりません。
  77. 大原亨

    ○大原委員 この問題につきましてちょっと私大蔵大臣と自治大臣にお尋ねするのですが、新潟県の県会議員の四十五名が二十万円プラスアルファ、十五名は返した、あるいは二、三名はもらってない、そういう事実がございますけれども、これは所得として税金の対象になるのかどうか、これに関連いたしましてひとつ見解を明らかにしてもらいたい。これは、授受にりきましてははっきりいたしておるわけであります。もらった人がはっきりいたしておるわけでありますから、この点につきまして国民が持っておる疑惑の一つでありますから、これについてのお考え方を明らかにしてもらいたい。
  78. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 これはその金の性質、それからそのやり方等について判断をしなければならぬと思います。そういうようなことで、非常に技術的な問題でありますので、主税局長から答弁いたします。
  79. 塩崎潤

    ○塩崎政府委員 ただいま大臣からお話がございましたように、所得の性格論に入りますけれども、贈られた目的あるいは受け取った方の所得の金額、それらあたりをよく調べてみなければわかりませんが、税法上おそらく一時所得というものに該当すると思います。場合によっては雑種所得に該当する場合もございますが、雇用関係もない別な型でありますので、大体一時所得になろうかと思います。そういたしますと、年間十五万円という控除限度が働くかと思いますが、それは一時所得という仮定でございますので、これがその他の所得に当たりますればまた別な所得計算が出てくるかと思います。そこらあたりの事実をよく調べてみまして、はっきりしたお答えができるかと思います。
  80. 大原亨

    ○大原委員 これは所得税と住民税の関係ですが、同じような見解と思いますが、これもやはりこういうふうに決定が延び延びになっておることにつきまして、石井法務大臣は御答弁になりましたけれども、石井法務大臣のほうから何らかの示唆や指導がなされたのではないか。あるいはこのお会いになりました時点の問題と一緒に――積極的に会っていないけれども、事情は聞いたという御答弁ですが、何らかの示唆や指導を与えられたのではないか。あるいは、もう一つ巷間で言われておることは、馬場検事総長は次の参議院の選挙に立候補するといううわさがあるが、これらの問題と関連して処理されておるのではないか。こういうことが言われておるのでございます。私は、これは事がきわめて重大であって、社会党といたしましては重要な問題と考えておりますがゆえに、この点につきまして、私は法務大臣のほうからその間の事情についてお答えをいただきたい。
  81. 石井光次郎

    ○石井国務大臣 馬場君が参議院に出るというような話は、私ただいまのお話が初めてで、そういう話をかねて聞いたことも相談を受けたこともない。馬場君とは私は同県人でございますが、そういう話は県のほうでもかつてうわさに上ったこともないのでございます。したがいまして、この際の問題としてそういうものを取り上げて考えたこともない。したがいまして、相談することもないわけでございます。
  82. 大原亨

    ○大原委員 私は、前回も総理大臣から御答弁があったと思うのでありますが、社会党といたしましても、この問題はきわめて重要な問題でありますから、もしこの問題の処理にあたって、政党との関係においていろいろな話が伝わったり、疑惑を助長するような事態があり、あるいはそれらの処理の結論について納得できないというふうなことになれば、重大な決意を持って、政治の根本問題といたしまして、この予算審議自体についても、私どもは十分これに関係をいたしまして態度を決定する、こういうふうに――おどかしではなしに、私どもは真剣に考えておるわけであります。この問題につきまして総理大臣のお考えをひとつ明らかにしてもらいたい。
  83. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 過日、山花君からもお尋ねがございました。また、きょうは大原君から同じ問題についてのお尋ねであります。私は、山花君にもお答えいたしたのでありますが、二つの問題がある。一つは検察当局に対して、政府が干渉しておるかどうか、これは全然干渉しておりません。ただいまも法務大臣が申しましたように、法務大臣自身も、この問題について積極的な動き方はしていない、かように申しておりますし、私自身はもちろん、この問題に検察当局に対して指示したようなことは全然ございません。この点はもうはっきりいたしておりますので、同じことをまたいつまでも疑いを持たれないように、この点を明確にしておきます。  もう一つは塚田君自身の問題でございます。ただいまこれは捜査中の問題でありますし、先ほど来お話を聞いておれば、捜査の最終的段階に近づきつつある、たいへん大事なときのように私は考えております。この捜査が完了いたしました上で、県民も納得するような処置をとるということをはっきりお約束いたしておきます。
  84. 大原亨

    ○大原委員 ただいまの御答弁で今後の事態を見ることにいたしまして、質問を進めます。  前の臨時国会におきまして、私は、所得税の免税点は若干上がるけれども国民の半数以上の免税点以下の人々、五千万以上のそういう低所得階層に対するいろいろな施策について、事実をあげまして、物価高と公共料金引き上げの情勢の中においてどのような生活の実態にあるか、これに対して政府はきめのこまかい措置というふうにしばしば言われましたが、どのような措置をとっているかという問題について質問をいたしました。それから私が質問をいたします医療保障、所得保障、住宅等の問題に関しましては、特に社会保障の問題に関しましては、御承知のように、昨年のいわゆる指揮権発動にも比すべき職権告示の問題をめぐりまして、医療保険の問題が非常に大きな問題になりました。その審議の過程においてもしばしば質疑討論がかわされて、与野党の間におきましても了解事項、確認事項が取りかわされたことは御承知のとおりであります。医療保障を中心といたしまして、前回の臨時国会において討議されたことを含めまして、これらの問題点につきまして、四十一年度の予算編成において大蔵大臣は具体的にどのようなお考えでこれに対処されたか、これにつきまして大蔵大臣の御答弁をいただきたい。
  85. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 昭和四十一年度におきましては、予算が非常に大型化いたしております。その原因は、一つは公共事業費を拡大をする、これは経済の現状に照らしてであります。もう一つの要因は、公共事業費じゃなく、つまり公債財源と関連をしない一般予算であります。これにおいて社会保障費を大幅に増額をしておる、この二つが大きな原因であります。社会補償費は一般の伸び率と違いまして、二〇%以上の伸び率と相なるのでありまして、総額におきましては千五十億円の増額、非常な大幅な増額であります。その中でも特に低所得者層の対策といたしまして、生活保護基準の引き上げ、それから福祉年金、児童扶養手当、こういうものの支給額の引き上げ、ミルクの無償支給範囲の拡大、それから世帯更生貸し付け補助金の増額、老人福祉施設の収書人員の増加並びに処遇の改善、失業対策賃金の引き上げ、そういうものでございます。また低所得者層のみならず、一般の医療費につきましては、相当大幅な増額をはかっておる、かように御了承願います。
  86. 大原亨

    ○大原委員 これは総理大臣にお尋ねしたいのですが、昭和三十七年の八月に「社会保障制度の総合調整に関する基本方策についての答申および社会保障制度の推進に関する勧告」が社会保障制度審議会から出されたのであります。これは十ヵ年計画であります。昭和四十一年までにヨーロッパの水準に近づける、こういう構想があるわけであります。それを受けまして中期経済計画が策定をされまして、池田内閣の末期においてこの問題が論議されて、この計画が策定されました。そして三十九年に、一年間かかりまして、たくさんの専門家を総動員興し、政府機関を動員いたしまして、電子計算機、あらゆるものを動員して使ってやったそうでありますが、中期経済計画を策定いたしました。その中には社会保障制度のいわゆる大内報告なるものも一部取り上げまして、やや具体的に、社会保障の非常にばらばらになっておる成立過程、その他のたくさんの問題を総合的に、計画的に中期経済計画に盛り込んで水準を引き上げる、こういう態度を決定いたしたわけであります。しかるところ、佐藤内閣におきまして、この中期経済計画は一昨年の末に閣議決定をいたしたと思いますが、しかしながら、間もなく御承知のとおり中期経済計画は弊履のごとく破り去ったのであります。  私け、これから所得保障の問題、特に医療保障の問題等について論議をしていこうと思うわけでありますが、中期経済計面を弊履のごとく破り去ったけれども、やはり社会保障というものは総合的、計面的にこの施策の前進をはかっていかないと、これはとてもじゃない、混乱をし、かつむだ使いをし、かつ内容が前進しないもの、であります。私は、社会保障について、長期計画とは言わないけれども、数年間の計画について、当然社会開発を主張いたしておるところの佐藤内閣は方針を持っておるべきである。ないとするならばつくるべきである。こういうふうに考えるのでありますが、佐藤総理大臣の御見解をお伺いしたい。
  87. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私は、ただいまもお話にありましたように、社会開発を政治目標として大きく掲げております。その社会開発の中で、またその中心をなします社会保障制度、かように考えますので、社会保障制度の前進、これには積極的に取り組む考えでございます。ただいま中期経済計画が変わったじゃないかということを言われておりますが、しかし社会保障制度審議会の答申並びに勧告等はりっぱに生きておりますし、私どもはこれを尊重するというたてまえで、ただいま前向きでこれを検討しておるわけであります。ことしの予算編成にも、そういう意味で大きく取り上げられたと思います。また中期経済計画そのものにつきましては、経済企画庁におきまして、この四月時分には成案を得るように、そういう方向でスタートする、かように申しておりますから、しばらく時間をかしていただきたい、かように思います。ただいまお話しになりましたその大筋の線でせっかく勉強中でございます。
  88. 大原亨

    ○大原委員 物価とか公債問題等で中期経済計画の基礎がくずれて、中期経済計画は破棄されましたけれども社会保障については、やはりその線に沿うて、それらの問題を含めてやるのだという御答弁であります。四月を目標にやるのだという御答弁であります。  そこで、経済企画庁長官にお尋ねいたしたいのであります。中期経済計画の中には、たくさんの社会保障制度に関する問題があるわけですが、こういうことがあるわけであります。社会保障の指標としての振りかえ所得の規模が五%でずっと横ばいをしておる、先進諸国の中では著しく低い。この比率を高めて、昭和四十三年までに振りかえ所得を昭和三十八年度の九千六百十億円から二兆一千一百億円に高めることとする。つまり昭和三十八年度の中期経済計画の初年度の九千六百十億円から二兆一千一百億円に高めることとする。振りかえ所程の比率は、昭和三十八年度の五・三%から昭和四十三年度には七%に引き上げる。しかもこれは十分ではないというふうにつけ加えまして、老人、児童の生活保障の立ちおくれを指摘をして、そして、医療保障についての家族の給付の引き上げを述べておるのです。これから述べますが、医療給付につきましての家族給付の引き上げを述べておるのであります。  そこで、総理大臣の答弁を受けて、経済企画庁長官は、破棄されましたけれども、中期経済計画を検討し直して、四月ごろにつくり上げていくという御答弁でありますが、これらの問題を含めて、つまり私があなたにお聞きしたいのは、現在の振りかえ所得の金額と、そして率、これがどうなっているか。それから中期経済計画を再検討する際に、社会保障についての総合調整、計画的な前進についてあなたはどのような考えを持っておられるか、これをひとつ明らかにしてもらいたい。
  89. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 御質問の第一点は、四十一年度の予算の中に推計される振りかえ所得がどのくらいになっているかと、こういうことであります。一兆五千七百億、そして六・三%、こういうふうな推計になっております。  それから第二の御質問は、今後新推計をもちまして、大体三月末には新推計が整いますので、それをもちまして長期の見通し、経済運営の指針としてまいるつもりでございますが、約四、五ヵ月はかかると思いますので、でき上がりますのは夏ごろになるのじゃないか、こう思っております。その点御了承いただきたいと思います。  同時に、その内容につきましては、経済諸般の問題と同時に、いま社会保障等の問題につきましては、さらに今日の情勢を勘案しまして、それらの従来の計画をどういうふうに拡大していくか、あるいはどういうふうに年度に入れて考えていくかということは、そのときに十分現時の情勢を考えたがら、この新しい見通しの中に織り込んでいきたい、こう考えております。
  90. 大原亨

    ○大原委員 いまの御答弁で、総理大臣は四月と言われたし、経済企画庁長官は八月にでき上がると言われたんですが、これはどういうことなんですか。
  91. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 おそらく総理大臣は、新しい新推計をもって、これが三月にできますから、大体新推計をもちましてやっていくつもりでございます。そして、従来の経緯もございますから、経済審議会のほうにかけることになりますので、それらの手続を終わって完全なものにいたしますのには夏ごろになると思います。総理はおそらく新推計を四月くらいから使ってやるからという意味で御了解いただいておるのじゃないかと思います。
  92. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私のことばが不十分で誤解を受けているようで、ただいま経済企画庁長官がお答えしたとおりでありまして、四月以降において前向きにこれと取り組んでいく、こういうことでございます。御了承いただきたい。
  93. 大原亨

    ○大原委員 そこで、社会保障の中に医療保障、所得保障、二つ柱があるわけですが、所得保障はやはりいまの振りかえ所得の六・三%、若干上昇いたしております。中期経済計画目標から言いますと非常に低いわけでありまして、これは、大蔵大臣はずいぶん努力したというふうに言われるのですけれども、これはまだ低いわけであります。それらの問題を含めまして、私は大内報告等を十分勘案されて、社会開発をせっかく提唱してきておられるのですから、国民に対するそういう公約を果たすということは、政治に対する信頼をつなぐために、これは一番大きな問題であります。国会でどうこうするというような問題以外に、多数決とかいろいろなことを言いますが、公約を果たすということが一番大きな政治に対する信頼の道であると思うのですが、この点につきましては、国民が納得できるようにこの策定を進めていただきたいと思います。  そこで、所得保障は非常に水準が低い。医療保障に至りましては、破局寸前にあって、非常に混迷をいたしておるのが事実であります。特に医療保障につきましては、前の国会におきまして、昭和四十二年度を実施の目標にいたしまして抜本的な改正をするというふうに言われておるわけであります。これは御答弁になっておるわけであります。そういたしますと、本年中に医療保障制度、医療保険の問題についての徹底的な討議と政策の樹立が必要であるということに相なるわけであります。  そこで私は、それらの医療保険に対する議論の抜本的な対策に入りますまでに、私どもが前の国会、昨年の国会以来非常にやかましく議論してまいりましたが、薬務行政の問題であります。薬の問題であります。この前提といたしまして薬の問題が、これは日本は世界各国に類例のないような形で混迷をいたしておるわけであります。この薬の企業のあり方の問題、薬務行政の問題につきまして、これから私は質問を続けていきたいと思うのであります。  そこで、最近のたとえば一つの例をとってみますと、最近の薬の塩産は、四、五年来非常にたくさんになっておるわけです。これはメーカーの価格でありますが、昭和三十五年を一千本目二十億円といたしますると、昭和四十年には五千六百億円をこえるというふうな実情であります。三倍近く増大をいたしておるわけであります。しかし国民は、こんなにはんらんいたしております薬を飲まなければならぬ責任はないわけであります。何も飲まなければならぬということはないわけであります。このことは、いろいろな行政のあり方や企業のあり方をめぐりましていろいろなところに波及をいたしておるわけであります。特に皆保険下の薬の企業のあり方、患者も、国民も、あるいは医師も、それぞれ各方面において犠牲を忍び、問題をはらんで皆保険に対処いたしておるわけですが、薬の企業だけが全く野放しの状態であるというふうなことは、これはたとえ自由主義を標榜される自民党の内閣におきましてもおかしいわけであります。薬禍事件も続出いたしておりますし、そうして、この中で私が注目すべき事実を指摘いたしますと、たとえば薬の輸出が生産の二・九%くらいしかないということであります。だんだんと減っておるわけであります。たとえば電機器具とかあるいは自転車、自動車等は、これは国内消費も進んでおりますが、宣伝も盛んでありますけれども、輸出も相当大きくなっておるのであります。国民経済をささえておるわけです。薬はわずかに二・九%であります。たとえばスイスなどは、輸出は驚くなかれ九〇%であります。ドイツにいたしましても、これは五、六〇%は輸出をいたしておるわけであります。日本はアジアの先進国である、こういうふうに言っておるわけでありますけれども、これは何たることであるかということであります。私は、ここに薬務行政なり薬の企業のあり方について基本的に問題がたくさんあるのではないかと思います。このことは昨年の春以来非常に議論してきたところであります。何人も立ちまして議論してきたことであります。これは、国民の命と健康にかかわる問題でもあるわけであります。公共性、社会性を持った問題であるわけであります。しかもこの企業につきましては、厚生大臣が企業の育成と監督の両方をやっておるという特殊事情もあるわけであります。このととがそれを示しておるのであります。私は、これらの問題、薬の企業のあり方を含めて、薬務行政について抜本的な改善検討を加えることが、医療保険制度の抜本的な改正の前提として不可欠である。このことをしばしば指摘してまいりましたが、これに対しましてひとつ総理大臣から、簡潔に考え方につきまして――一番総理大臣が議論を聞いておられるわけです。いまの大臣はあとで出た大臣であります。神田厚生大臣は聞いておりましたけれども鈴木厚生大臣は聞いておらないわけです。だから、あなたが一番よく議論を聞いておられるわけでございますから、これに対しまして、根本的な考え方について見解を明らかにしてもらいたいと私は思います。
  94. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 医療保険で大事なのは、一つは医務行政とでも申しますか、医学がとにかく発達している、診療ですね、同時にまた、ただいま問題になっている薬務行政、この二つが両々並行して、最近の進歩につれて均衡のとれた方向でいくことが望ましい、このことは言えると思います。  そこで、ただいままで薬務行政においてしばしばその弊害が指摘されておる、副作用はないのかとか、あるいは過大広告はどうだとか、また経営者の姿勢、態度など、これがいろいろ批判されている。ことに日本自身がそうではないかと思いますが、薬に非常に関心が強い、こういうところが、業者ばかりではなく、お互いもこれについて十分の理解を持つこと、このことが望ましいのではないかと、私かように思います。したがいまして、ただいま薬務行政ということを取り上げられたこと、このことは医療制度、医療保障を推進していく上において最も大事なことだと、かように思います。
  95. 大原亨

    ○大原委員 薬の問題は、私が前に言いましたが、前田のクラッカーとか日清ラーメンとかいうものとは違うわけであります。これは違うわけです。それはもう少々間違って買いましても、味が悪いとか、そういうことぐらいのものです。しかし、薬の問題は、医療保険全体にも影響いたしまするし、国民の生命や健康にかかわる問題であります。  これは厚生大臣に質問いたしますが、特に薬の問題が大きくなった原因は、ここ四、五年来総医療費が年々二十数%上昇したこともあるわけでありまして、昭和四十一年は総医療費が一兆一千億円に達するのであります。これはものすごい伸長率であります。そうして昨年、政府はこの赤字対策といたしまして、薬の半額負担を出してきたのであります。総報酬制を出してきたのであります。これは、あのような経過をたどりまして引っ込めることになったわけであります。しかしながら、一部を取り入れまして、保険法の改悪について出しておりますが、それはあとで議論することにいたします。  もう一つ、薬について関心を持つようになったのは、これはこの前若干国会の最後のどたんばでやりとりいたしましたが、つまりアンプル入りのかぜ薬の問題、ショック死の問題が起きたのであります。強力パブロンの問題であります。これは大正製薬を言って悪いけれども、かたきにするわけではないが、強力パブロンの問題等、ショック死の問題が起きたのであります。だから、そういう薬の問題が非常に国民の中において大きな関心を呼んでいるわけですが、薬の問題に対しまして正しい認識を持つということは、これは非常に今後の行政を運営する上において大切な問題であります。総理大臣からお答えがありましたが、鈴木厚生大臣から、これらの問題についての基本的な点について簡潔に決意を述べていただきたい。
  96. 鈴木善幸

    鈴木国務大臣 ただいま総理からもお答えがございましたが、皆保険下におきましては、この医薬品の国民生活に与える影響はきわめて大きいものがございます。私どもはそういう観点から、薬剤につきましては生産、販売、流通の各過程を通じまして、できるだけその合理化を促進いたしまして、そして良質で廉価な医薬品が国民に提供されるように、国民の保健衛生の上に寄与するように、そういう観点で製薬業者、あるいは薬品の販売業者等を指導しておるのであります。特に大原さんからしばしば御指摘がございましたところの薬につきましての誇大広告、そういう誇大な広告宣伝のために多額の経費をかける、それが薬剤の価格の上にまたはね返ってくる。また行き過ぎた広告等のために、薬剤に対する知識の乏しい国民に対して悪い影響を与える、こういう点がございますので、この行き過ぎた宣伝広告につきましては、厳重に自粛を警告をいたしております。最近におきましては、治療薬につきましては、私は大部分誇大宣伝のような弊害はなくなった、こう考えておりますし、大衆薬につきましても、業界に対しまして強くその自粛を求めておるところでございます。  第二の点は、この薬の副作用の問題でございまして、この点につきましては、製薬の承認、許可を与えます際に、その申請にあたりましては、動物実験についてのデータを十分提供させる。また臨床実験につきましても、従来六十例程度でございましたものを、五ヵ所、百五十例程度に広げまして、臨床実験の正確なデータを提供させるということにもいたしておりまして、副作用のために薬の被害事故が起こらないように、できるだけの注意をいたしておるところでございます。  また、しばしば大原さんから御提案がございますところの、治療薬と大衆薬を分けろという御提案につきましても、そういう方向で努力を進めてまいりたい、かように考えております。
  97. 大原亨

    ○大原委員 かなり具体的な御答弁があったわけですが、大切な問題ですから、これは何回も――神田厚生大臣もこの問題だけはある程度効果をあげられたと思うのですが、小林前厚生大臣等もしばしば、趣旨はもっともだ、検討するということでございまして、若干進んでおりますが、なかなか現実の結論が出ていない、こういう実情であります。重要な問題につきましては、何もおしゃべりの場所でありませんから、逐次ひとつ議論を集中いたしまして、答弁をしていただきたいと思います。  いま一つの問題は、医薬品の企業界において、やはり悪貨が良貨を駆逐しているのではないかという問題であります。御承知のように、メーカーの中には、原料メーカー、バルクメーカーといわれる半製品をつくるメーカーがあるわけであります。これは主として治療薬をつくっておると思うわけであります。それから原料をあっちからこっちから持ってきまして、これをこね回して栄養剤と称して大衆薬をつくっているメーカーがあるわけであります。二つの系統があって、これを一緒にやっておるのもあります。そこで、いま厚生大臣の御答弁がありましたが、治療薬と大衆薬、つまり栄養剤といわれる――薬かどうかわからぬが、栄養剤といわれている、そういう問題、その許可の行政区分を分割をしていくということが一つ。治療薬と栄養剤、大衆薬を分離して許可をしていく、管轄をしていくということが一つ。たとえば治療薬の中で薬価基準に登載するのが五千数百あるわけでありますが、少なくとも治療薬として登載したものであって、そういう誇大広告や一般広告によって患者が誤ったりいろいろなことをするような、そういう広告をした者は薬価基準からおろす、こういうふうな具体的ことで、具体的な措置を通じて、ひとつ治療薬と保健薬を分化させていくというふうな、そういうはっきりしたけじめをつけるような行政が必要ではないか。私どもは、討論の中でこういう一つの結論を持つわけであります。厚生大臣、具体的にこのことについてひとつ見解をはっきりしてもらいたい。
  98. 鈴木善幸

    鈴木国務大臣 先ほどもお答えをいたしましたように、厚生省といたしましても、治療薬と大衆薬をはっきり分離するという方向で指導いたしておりまして、現にビタミン剤等につきましても、治療薬と大衆薬、両面に使われ、それがしばしば広告宣伝等をやっておりましたものを、大衆薬と治療薬をはっきり製品の面で分離をさせまして、治療薬につきましては広告宣伝等をしないように、厳に自粛するように指導をいたしておるわけであります。大原さんのおっしゃるように、今後そういう方向で、心がまえでやってまいるという考えであります。
  99. 大原亨

    ○大原委員 もう一つは、これも議論いたしましたが、新しい薬を許可する際に、いままででありましたら、薬事審議会が審査するデータの中で、病院等、医療機関二ヵ所と六十の臨床例が最低あれば、書類審査で事が運ぶということであります。薬事審議会の構成や運営も、これは非常に非民主的であるということであります。そういう点について、制度上の問題、運営上の問題で抜本的な改定を加えながら、いま厚生大臣はこの制度を、病院は五カ所で百五十例にするように強めたいというふうに言われたのであります。しかしながら、書類審査等だけに依存いたしますると、悪質なメーカーが金を出しまして、研究室等の金の足りないところに便乗いたしまして金をつぎ込んでいって、そうして副作用その他については書類を書かないとか、そういうかってな書類をつくり上げたような例がいままであるわけであります。ですから、そういうことが客観的に見てできないで、そうしてだれもが納得できるような形で薬事審議会を通ずる新薬の許可をさせるということが一つと、その新薬の許可がされたならば右へならえで、類似薬がどんどこいま日本では出ておるわけであります。だから、技術を開発しましても、技術を開発したことが何にもならぬというような、そういう結果になっておるわけであります。そこで類似薬がはんらんいたしましてインスタント・メーカーが出てくるわけであります。それで生産量がふえてまいりまして、これがいろいろな形で医師やあるいは保険関係に反応を及ぼすというふうなことであります。ですから、そういう新薬の製造、販売の許可について、やはりだれもが納得できるような資料を持って、データを持って、そういうはっきりだれもが納得できるようなルールに乗せることが必要ではないか、この点について一方さらに英断をふるって改善すべきではないか、この点につきまして厚生大臣のお考えをお聞きします。
  100. 鈴木善幸

    鈴木国務大臣 この新薬の製造許可にあたりまして、薬事審議会がきわめて重要な役割りをいたしておりますことは御指摘のとおりでございます。  そこで、政府におきましてもこれを重視いたしまして、約三百人近い、二百数十名の薬学その他の学界の権威者を委員に委嘱をいたしまして、さらに各部門別に部会なり、あるいはさらに調査会なり、そういうものを設けまして、専門的にこれを検討をいたしております。大原さん御指摘のように、胎児に及ぼす影響についても、動物実験なりあるいは臨床実験等々のデータも十分提出をさせますし、また国内はもとより、諸外国からの情報等も十分収集をいたしまして新薬につきまして、副作用等の被害が起こらないように十分慎重に検討しておる次第でございます。  なお、この審議会のメンバーにつきましては、そういう観点で慎重に人選をいたしておりますが、学問的な問題で日進月歩でございますから、そういう点にも配慮しながら今後審議会の充実をはかっていきたい、かように考えております。
  101. 大原亨

    ○大原委員 私は、日本の薬がこれほど国内にはんらんをしておりながら、国際的には何ら評価されていない。これは輸出が証明いたしておるのであります。東南アジア等に一部出ておりまするけれども、これは東南アジアに歯みがき粉を持っていって、これは胃がなおるぞ、腹がなおるぞといえば飲むというような、そういう宣伝でやっておるわけですが、国際的に価値を認められておるのは少ないのであります。相当良心的なメーカーも若干ありますけれども、ないのです。これは、やはり私は特許法に欠陥があるのではないか。つまり、いまの制度は製法特許をとっておる、構造式、あのカメの甲の構造をちょっと変えて、製法において特許をとるということであります。これを製品特許に切りかえるべきではないかという専門的な議論があるわけであります。この問題は、私はいまここで質疑応答いたしましても、これは簡単にいく問題ではありませんが、この問題は十分ひとつ検討すべき問題ではないかと思うのであります。  そこで、大蔵大臣にひとつ眠そうですからお尋ねいたしますが、この治療薬の問題と、大衆薬、栄養剤の問題があるわけですが、栄養剤の中で最近こういう議論が出ておるわけであります。これは科学技術庁長官おられるけれども、大正製薬のリポビタンDとか、いろいろなやつがたくさんあるのです。これは競馬場とかゴルフ場とか、薬局でない、薬剤師がいないところでどんどこ売っているのもあるそうだ。そこで、これは薬ではないという、こういう議論が業界から起きておる。清涼飲料水の業者の団体が、そういう意見を出しておるのです。つまりドリンク用というのがあるわけです。それからあの注射まがいのアンプル用というのが一つある。強力パブロン等がショック死を起こした事件がある。アンプル用がある。一つはジュースまがいのドリンク用というやつがある。八十CC、百CCという大きなやつができていて、ジュースと境がっかなくなっているのです。中身もほとんど差はないわけです。これを末端価格を、薬品と称しまして――これは公取のほうへも聞きたいわけですけれども、規制をいたしまして、税法上のこれは特例を受けまして保護されておる。だから、清涼飲料水の業者の人々は物品税をかけるべきである、こういう議論が出ておるのであります。ですが、私は、栄養剤とか大衆剤、保健剤をつくって売って悪いことはないのです。ないけれども、薬に対する認識をきちっとするために、治療薬と峻別をしなければいけない。だから、大衆薬の売り方や、物品税その他の扱いについて、そういう問題が起きておるけれども、こういう問題について、これはずばりとひとつ簡潔に、ノーかイエスかで大蔵大臣は見解を明らかにしてもらいたいと思うのですが、いかがですか。
  102. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 清涼飲料なりやあるいは薬品なりや、これは化粧品でもそういうような問題があるわけであります。薬であるか化粧品であるか、非常にデリケートな問題でありますが、いま御指摘のような点もありますので、その処置方を検討中であります。詳細は主税局長が御答弁申し上げます。
  103. 塩崎潤

    ○塩崎政府委員 御指摘の点につきましては、今回の物品税法の全面的な改正案の際問題になりまして、一定容量以下のものにつきましては、これは医薬品的な色彩が強いという考え方で、それをこえるものにつきましては、嗜好飲料といたしまして課税するように改正案を考えておることは御承知のとおりでございます。ただし、この点につきましては、業界の自粛をお願いする意味から、二年後の施行ということで全般的な改正手続を進めておるところでございます。
  104. 大原亨

    ○大原委員 公取委員長にお尋ねしたいのですが、これはコストの問題にも関係いたしまするが、再販売価格維持契約という独禁法二十四条の問題が、けさほどの新聞にも相当議論になっておるようであります。この特例に隠れまして、末端価格を規制しながら原価の安いものを高く売りつけるということであります。これは消費者の立場に立つと、そういうことで、物価政策とも関係が深いわけであります。まあビタミン剤とか肝臓薬というふうに言われておるものは、たとえばビタミン剤にいたしましても、昔、鈴木博士などがつくられましたときには、オリザニンというふうに言っておったのでありますが、これはたくさんのぬかの中からちょっぴりビタミンBを出したのですが、いまはもう大量生産です。一キログラムが大体四、五千円くらいのコストでありますから、ミリ単位で計算するのですから、これはただみたいなものであります。つまりそういうものを寄せ集めましてインスタントに大衆薬、栄養剤をつくりまして、宣伝で売るというわけであります。これが数百億円に達しておるといわれておるのでありますが、これが薬に対する認識を非常に誤らしておるわけであります。もちろんこれについては若干の、十分の一ぐらいな長所や何もあるでしょう。しかし全体といたしましては、私が指摘するとおりであります。そういたしますると、再販価格でこの問題を扱って末端価格を保護するというふうなことは、たとえば百円のものが四、五円といたしまして、薬九層倍でなしに二十層倍くらい、こういうふうになる。そういうことになりますと、結果として高いものを国民は飲むということになりまするが、この点について私はいま物品税の問題を議論いたしましたが、この問題について国民立場に立って再検討すべき問題があるのではないか。その問題につきまして公取委員長のお答えをひとついただきたい。
  105. 北島武雄

    ○北島政府委員 お答え申し上げます。  ただいまの御質問は、結局再販売価格維持契約というものの本質はどうかということに関係してくる問題でございますが、各国で、独占禁止法を持っておる国におきましても、一定の条件のもとに再販売価格維持契約が認められておるわけでございますが、この考え方といたしましては、一定のたとえばメーカー品については、それが売れているのは結局メーカーのところに力があるのだ、商標を保護するという考え方から、末端においてもしかりにそれをおとり商品として廉売するようなことがありますと、メーカーの信用を傷つける、あるいはまたそれをおとり廉売として小売り店があばれました場合におきましては、小売り店間の不公正な競争ということにもなります。という関係から、独占禁止法で、一定の条件のもとに再販売価格維持契約に対しては独禁法を適用除外しておるわけです。現在これを独占禁止法上で認められておりますものは、新聞紙、書籍、雑誌等の著作物、そのほかには公正取引委員会が指定した商品ということになっておりまして、この指定した商品は現時点におきましては九品目ございます。化粧品、医薬品等でございますが、世界各国におきましても、現在あります再販売価格維持契約を調べてみますと、この出版物以外は医薬品が相当な部分を占めておる。この再販売価格維持契約について、はたしてそれが現時点においていいのかどうか、それからまた再販売価格維持契約の名の陰におきまして、実際に法律上認められてないものについてそういった類似行為が行なわれている気配が多分にありますので、こういう点につきましては、とにかく現在の指定商品についてもう一ぺん再検討するとともに、認められてない商品についてのいわばやみの再販売価格維持行為は、これは厳に取り締まる、こういう方針できているわけでありまして、現在公正取引委員会においても、まず第一段階といたしまして、最近ほとんど行なわれていないものについて、とりあえず指定を取り消して穴をふさいでおこう、こういう見地から、来週から三品目について商品の指定の取り消しをし、ざらに一品目について範囲を非常に限定して置いておく、なお一般の再販売価格維持契約については、具体的にひとつ実態を調査いたしまして、今後どういうふうにあるべきかを検討していきたい。こう考えておるわけであります。
  106. 大原亨

    ○大原委員 私の手元にこういう例が出ておるのであります。あるメーカーは、六カ月ごとに小売り契約を切りかえるのであります。これは再販契約についての手続を整えるためでありますが、新契約記念セールと称しまして、一千個そのメーカーのものを売ったならば一千個つけ加えてやるということになる。そういたしますと、再販に届け出ておる価格の半分で薬局は入れるということになりますから、それを売るわけであります。こういうことが行なわれているわけであります。  あるいは、先般私は、佐賀県の医師会の幹部の藤川某君が、ニクビタンとアリナミンをすりかえて、保険に対してニクビタンを使っておきながらアリナミンの薬価基準で請求した、こういう詐欺事件について、相当大きな問題があるということを指摘をして経過を求めました。きょう時間があればさらに追及いたしますが、そのときにいたしましても、ある関係メーカーは自動車を景品に出したり、香港あるいはハワイに旅行させる、そういうことで薬を売りつけている。良心的な医薬品メーカーは保護しなければならぬ、その技術も保護しなければならぬ。それについては、これらの独禁法二十四条の例外規定も適用すべきことは当然である。しかしながら、一般商品とまぎらわしいものや、あるいは独禁法違反のようなそういうことを公然と行なっているものについては、この際十分規制をすべきではないか、公取委員長いかがですか。
  107. 北島武雄

    ○北島政府委員 ただいま申しましたように、独占禁止法違反の疑いある再販売価格維持契約類似行為、これについては厳に取り締まりをするつもりでございます。それからまた不当景品類防止法に触れるものにつきましては、その方面から規制を加えていく。なお、再販売価格維持契約につきましては、ただいままで公正取引委員会において、きわめて陣容が残念ながら貧弱でございまして、十分た調査が行なわれておりませんので、来年度におきましてある程度増員がされますので、そのうちある部分をさきまして、主として再販売価格維持契約を中心とする課を創設いたしまして、それで十分徹底的にひとつ事態を洗ってみたい、こう思っております。
  108. 大原亨

    ○大原委員 次に、私もしばしば議論いたしました薬禍事件であります。これは、私おとなげないと思いましたが、この前の国会で上原長官とやりとりいたしました。しかし上原長官の答弁を読んでみますと、これはなっておらぬわけです。全くでたらめです。私は上原技術庁長官ときょうはあらためて質疑応答をやりとりする意思はない。ないです。私もその問題については若干触れておるが、これは科学技術庁長官に御答弁を求めましても、科学技術庁長官じゃない、わが社を代表いたしましてという答弁ですから、これは私は質疑応答は意味がないと思っておる。しかしながら、私はこの際ぜひとも指摘しておきたい点について厚生大臣に見解を求めるのです。  上原長官の――上原会長と言うか、社長と言うか、上原長官の答弁をずっと読んでみると、これはひどいのだ。私は科学技術庁長官として許しがたいと思う。私は前に神田厚生大臣といろいろやりとりをいたしました。けれども、これは何も私はあったわけではない。また医療保険や薬の問題で科学技術庁長官とやりとりするのは私は不本意ですよ。ですけれども国会の権威において看過できない問題が二、三点あるから、この問題について議事録に即して私の見解を述べて厚生大臣の見解を聞きたい。  上原長官の答弁の中におきましては、ピリン系の劇薬は百年来非常によくきく云々とずっとあるわけであります。こういう宣伝があるわけです。これは、薬がきかなければ売れませんから入れておるわけでございますという非論理的な説明もあるわけです。こういうことは、いま医学界でははっきりいたしておるのです。こんなことが分かれておることはないのです。ピリン系の劇薬は、鎮痛やそういう作用については神経系統に働きかけて作用を及ぼすけれども、かぜのビールスには関係ないのです。そうしてお医者さんが診断する場合に、ピリン系の劇薬の入っておるアンプルのかぜ薬をどんどん飲んでおると、からだの調子が変わっていて、熱の上がり下がりその他について正しく診断できない、そういう意見が医学界からも出ておるのです。ですから、私どもは身体を守る、健康を守るというような点からいっても、強力パブロンが一億数千万本売られて、百数十億円も国民が消費いたしまして、その中でショック死を起こして死ぬどいうようなことは、これはもはや許すべきことではない。メーカーもその上にあぐらをかくべきでない。だからこそこの前の国会でえらい討論をいたしまして、これは禁止いたした。つまり許可の取り消しを申し出でさせたのであります。これは神田厚生大臣が残した、少ないけれどもただ一つの実績である。この点について、私は上原技術庁長官の答弁はまことに遺憾ですが、厚生大臣がもし所見があれば聞きたいし、特に答弁の速記録の中に、特異体質の持ち主は患者が一番よく知っております。これを売っておる薬屋も承知いたしております。こういうことなんですよ。しかし特異体質は、これは医学上は患者に自覚症状がないのが一つの特色でもあるわけです。だから、この委員会におきましては特異体質の研究をしようじゃないかということで、河野委員やその他から議論が出まして、この問題が進んでおるわけであります。異常体質の研究をしなければならぬ。解剖してみて初めて特異体質がわかってくる。しかるに上原長官の答弁を聞くと、特異体質の持ち主は患者が一番よく知っている、薬屋さんも知っているということだ。しかしながら、患者は全部その体質を知っている薬局に行って買うとは限らぬわけですから、これもこじつけですが、つまり、この裏を返すとどういうことかというと、飲んで死んだその人が往生せよということだ。そんな医薬品や医療についての行政がありますか。こういうことは私は絶対に納得できぬですよ。そういう態度というのは科学的じゃないですよ。非科学的である。  それからもう一つ、議事録を見てみますと、薬禍が起きておることを承知の上で厚生省も免許しております。製造業者も製造しております。販売業者も販売いたしております。こういう答弁である。何たるたわけたことであるか。何たることであるか。このことをどうしてなくするかということが私どもが真剣に討議をしておる問題である。一人の人間の命が地球よりも重たいということばがあるけれども、人命尊重というのはかくのごときものである。含有量は、強力パブロンは免許基準を下回っております。記録によりますととういう御答弁もある。しかしショック死をたくさん私は厚生省でやってみたけれども、大正製薬のものがずいぶんこれはある。りっぱなものだ。数からいえばりっぱなものだ、中身はでたらめだけれども。これを見ると、特徴はピリン系の錠剤やアンプル入りを重ねて飲んだり、ほかの会社のものを、名前の違ったやつを飲んだりして、量を過ごしてショック死を起こしておる。味がついておるものだからちょっと飲む、こういうことであります。しかも解熱作川があるだけであって、その作用がかぜにきくわけでもないのに、それを飲んで死んでいくということがたくさんある。だから、これは薬の販売のしかたやそれから薬屋が、メーカーがそういう副作用のある薬を一般国民に提示するしかたというものに問題があるのではないか。しかもそのことについて、副作用を隠して誇大宣伝をするところに問題があるのではないか。  責任問題については、あとこれは必要があれば触れますけれども、強力パブロン、アンプル入りのかぜ薬、サリドマイドで両手両足がぶらぶらになって、数十人の父兄が奇形児をかかえて非常に困っておるのであります。そういう面において、私は医薬品メーカーのあり方や、薬務行政のあり方について、根本的に検討し面さなければいかぬ。人命尊重、ほんとうの技術尊重というたてまえで立て直しをしないと、これは医療保険全体がひずんでくるのではないか、こういうふうに私は思うのであります。私は、それらの問題について概括的に厚生大臣に書いたいところですが、こっちへいきまして総理大臣、これは何回も議論を聞いておりますから、総理大臣から、私はこの問題ははっきりした、国民が納得できる御答弁をいただきたい。
  109. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 たいへん専門的なお話ですが、私はしろうとですから専門的には答えません。先ほど来お答えいたしましたように、医療制度、医療保険、これはまことに大事なことでございます。その意味において、薬のあり方、薬というものがたいへん重大な役割り果たしておる。したがって、これはただ単に経済的な価値ばかりでなしに、これがとうとい人命にも損傷を与えるし、またそれを維持、保健を増進するということもできるのだ、こういうようなことでございますから、これの取り扱いにつきましては一そう慎重を期していきたいし、また各方面において納得のいくようなことで新薬の採用その他に取り組んでまいりたい、かように思います。
  110. 大原亨

    ○大原委員 総理大臣が御答弁になりましたが、厚生大臣いかがですか。私はもう一つ例を申し上げておきます。これは議事録の引用で落ちておりましたが、つまり広島で、これはプレトランという二日酔いの薬があるわけです。これは大正製薬です。これまた上原さんのところだが、これは中小企業の経営者だが、これを昨年の八月に飲んだ。これは二日酔いではなかったのですが、頭がすっきりしないからといって、頭のすっきりする薬はありませんかといって、大阪で飲んで、飛行機か何かで広島へ帰った。それで、あさって生まれるという子供を含めて、二人残して死んだわけであります。このプレトランの問題について、これは詳しく上原長官から御答弁がありますが、その中で、異常体質である。その上に田胃腸をこわしておる。過敏性だ。しかしながら、プレトランは厚生省の許可した基準を下回っておる。違法ではありません。それで、悪いことには胃腸をこわしておったと言って、死んだほうが悪いというようなことを言っておる。そういうことは厚生省の責任問題もあるけれども、しかしながら、メーカーも――私は、たとえば副作用の問題でこれから議論しようと思ったが、時間の関係でずばりとやるが、副作用の問題でも、たとえばアメリカでは、これは薬なんかはできるだけ日本へ持っていって、輸出いたしまして、日本で実験したほうがいいという気持ちもあるそうですか、しかしアメリカの中ではきびしいのだ。非常にきびしいのだ。たとえばたばこにいたしましても、これはガンのもとだというようなことで、たばこに赤い字でデンジャーというふうに書かせる。デンジャー、あぶないということだよ。危険だということだよ。日本でも、飲んだらショック死を起こしたりいろいろな危険がある薬については、デンジャーでなしに、「危険」というふうに赤い字で書かして、これは異常体質の人や過敏性の人は飲んではいけませんよ、あるいは他の劇薬の入っておるピリン系のものと一緒にして飲んではいけませんよということを、はっきりと書いておかなければいかぬ。このプレトランを見ると、これは何も副作用については書いておらぬわけですよ。これについては厚生省は、それまでは副作用についての監督をサボっておりました、こういうふうに言って、これから注意しますと言うでしょうが、このプレトランは内服薬と錠剤の二つがある。内服薬の処置についてはどうしたか、液の処置については厚生大臣はどうしたか、それからプレトランの錠剤の問題についてはどういうふうに処置をするか、こういう点について、私は議論になったことですから、政府委員でもよろしいが、ひとつ御答弁をいただきたい。
  111. 鈴木善幸

    鈴木国務大臣 医薬品につままして製造許可の承認を出します場合に、慎重に扱っておるということは、先ほど申し上げたとおりでございます。  それからもう一つは、使用にあたりまして、要指示薬というようなものにつきましては、これを医師の指導のもとに服用するというようなことが励行されなければならぬのでございますが、その点が必ずしも今日まで励行されていなかったという点があるのでありまして、今後その指導につきましては十分注意をしてまいりたいと考えております。  それに関連いたしまして、薬の広告なり表示なり、そういう点に、明確に薬の成分あるいは副作用の問題等を表示をする、そうして十分服用する人に注意を払って服用するようにしてもらうというようなことが必要ではなかろうか、そういう方向でいま業界の指導をいたしておるわけであります。  なお、広島県下で起こりました薬の事故につきましては、事務当局からその処置とともに御報告をいたします。
  112. 坂元貞一郎

    ○坂元政府委員 お答えいたします。広島県で起きましたプレトランの内服液でございますが、これにつきましては、昨年来製造を中止しているところでございます。それから、御指摘のプレトランのカプセルのほうにつきましても、現在製造を中止して、本年三月までに市販されているものだけを市販してもらう。したがいまして、本年四月以降は一切なくなる、こういう形にいましまして、業界を指導しているわけであります。ただ、御指摘のように、それまでの間の表示なり注意書き、そういうものにつきましては、厳重に一般消費者によく承知できますように具体的な注意書き、表示を添付させますように指導して、現在そのとおり実行している、こういう状況でございます。
  113. 大原亨

    ○大原委員 薬禍事件はたくさんあるわけでありますが、たとえばサリドマイド睡眠薬事件ですね。これは八十三名の人が損害賠償で集団訴訟しておるのですが、これは、そういう両手両足がぶらぶらという子供をかかえたら一生たいへんですよ。そとで、サリドマイドの睡眠薬を飲んで奇形児が出たかどうかということの因果関係については議論されだんだが、これは西ドイツにおいても議論があって、レンツというその道の権威の博士が、これは関係ありというふうに言って、製薬会社は中止した。日本においては一年後にこれは中止した。ずるずるずるでやっていた、こういうことですね、睡眠薬によくきくから。そういたしまして、この間レンツ博士が日本に来日されたときも、患者を見て、子供たちを見て、これは関係ありというふうに、自分の経験と知識から判断をされておるんですね。しかしながら、この子供はだんだんと年をとって、もの心づいておるようでありまするけれども、そういう事件が起きて、たくさんの人々が――それが、その親がいてもたってもたまらぬから、大日本製薬を相手にとりまして集団訴訟を起こしておるわけです。  そうすると、そういうメーカーが大体責任を負うのか、そういうことを許可したところの厚生省が責任を負うのかということがあるわけです。これは裁判所の結論を待ってというふうなおざなりの議論で私は了承しようとは思わないのです。私は、このような問題はプレトランの問題と一緒に、メーカーがはっきり、やっぱり道義的にも実際的にも責任をとるべきである。そういうふうにしなければ、人命尊重とか薬務行政の立て直しとかいうことはあり得ないのではないか。そんなことは、死の商人ということばがあるけれども、ベトナム戦争で兵器を売っていく、それが民族解放戦線にほとんど流れる。それで人間が人殺しをしておる。そうして軍需品メーカーはもうけておる。じゃんじゃん誇大宣伝をして薬を売っていく。副作用やその他についてはやらないでおいて、じゃんじゃこ二十割配当ぐらいまでもうける。二十割配当ですよ。日本でベストテンになっていく、大臣になっていく、こういうことだ。これは死の商人と私は言わないけれども、その中で人命が、たとえ一万、二万の中においても死んでいって、そして不幸を見るというふうなことはできるだけ避けていく、そういう基本方針を立てなければいけない。これが医療行政のあり方、薬務行政のあり方の基本ではないか。この薬禍事件についてだれが責任があるかという問題について、私はこの際、メーカーも責任を、将来の問題を含めてとるべきである。そういう点について、行政上の措置を私はとってもらいたい。これを厚生大臣、ひとつ見解を伺いたい。
  114. 鈴木善幸

    鈴木国務大臣 サリドマイド禍の問題につきましては、まことに遺憾な痛ましい事件でございます。このサリドマイド禍の事件がございましてから、さらに意を用いてこの薬の副作用の問題を厳重にしなければいけないということで、先ほど来申し上げたように、新薬の製造許可にあたりましては、慎重な、厳重な措置をとっておりますことは、先ほど来申し上げたとおりでございます。  なお、この事故の問題は、補償の問題は、ただいま裁判で究明されつつある問題でございますので、その結果を待ちまして、適正な措置を講じたいと考えております。
  115. 大原亨

    ○大原委員 これは気持らはわかるけれども、大臣答弁じゃ満足できません。典型的な大臣答弁ですね。  そこで、薬務行政について若干の問題点を指摘をいたしまして、相当長い間議論したことですから、質疑応答の中で一致点もあるわけであります。私は、この問題と具体的にひとつ取り組んでいただきまして、そしてほんとうにメーカーの中においても良心的なメーカーが育つように――たとえばその良心的なメーカーが、経営者がやろうと思っても、重役会なんか開いてみると、大衆薬その他でもうかるやつをつくれ、もうかるやつをつくれ、こう言うて大株主まで突き上げたならば、やっぱり悪貨のほうに連れていかれるのであります。それが不当なる売り込みその他になりまして、良心的な医者等は離れたかっこうで、ニクビタンの問題のように、売薬的な、医療とくっついて、保険財政を赤字にしている原因になっておるのであります。医薬分業の問題も、ここから出てきておるわけであります。責任分野を明確にして、技術を尊重すべきものであると明記しておるわけであります。ですから、この問題については、おざなりな議論でなしに、私どもは今後この問題について徹底的な議論を続けていきますが、ここらでひとつ、締めくくりは相当ついているはずですから、政府において善処されるように私は強く要望いたします。これは総理大臣からひとつ御答弁をいただきます。
  116. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 先ほど来たびたびお答えいたしましたが、薬は人命に影響を持つ大事なものでございますから、一そう慎重にこの問題と取り組んでまいります。
  117. 大原亨

    ○大原委員 これはほんとうにまだまだ徹底した大臣答弁だな。  それで、次に、この問題を踏まえましてひとつ議論を進めていきたいと思います。昭和四十二年から医療保険の制度の抜本的な改正をやるということであります。これは前の国会にも答弁をされたのであります。そうして薬代の半額負担や総報酬制という、医療保障を後退させ、国民の負担を増大させるような法案については、これは引っ込めたわけであります。そこで、これらの問題を踏まえまして、医療保険制度の抜本的な改正を一年以内にやるのであるけれども、これは相当議論してきたけれども、どういう問題点を取り上げて抜本改正をしようとするのであるか、どの問題を国民の中の討議、各界の討議の中にゆだねてこの問題を解決しようとするのであるか、この問題につきまして、ひとつ厚生大臣から御答弁いただきます。
  118. 鈴木善幸

    鈴木国務大臣 医療保険制度につきましては、先般社会保険審議会、社会保障制度審議会並びに中央医療協の答申に基づきまして、当面の財政対策を中心とする措置を講ずることといたしまして、国会にも健康保険法の改正案を御提案をし、御審議を願っておるわけであります。しかしながら、これはあくまで当面の財政危機を処理いたしますための応急の措置でございまして、大原さん御指摘のように、医療保険制度につきましては、抜本的な改正をしなければならない段階に立ち至っておるのであります。  そこで、この医療保険制度の問題点といたしましては、一つは、医療制度の問題がございます。これは、医療機関が一地域に偏在しないように、皆保険下の国民にひとしく医療の手段が提供されるように、これを計画的に整備してまいる必要がございます。  それから、第二の点は、診療報酬体系の適正化の問題。これは、しばしば論議いたしておりますように、物と技術を分離をいたしまして、技術を適正にこれを評価をする、そういう形における診療報酬体系をもう一ぺん再検討する必要があると思います。また、現在は甲乙二表があるわけでございますが、この調整ということも私は必要である、かように考えております。  第三の点は、医療保険制度が、御承知のように、いろいろ分かれております。国民健康保険、あるいは政府管掌の健康保険、組合健保、あるいは日雇い健保、船員保険、あるいは公務員の共済保険、いろいろ分かれておるわけでございますが、しかもこの医療保険各制度の間に、負担の面におきましても、給付の内容におきましても、きわめてアンバランスな点が見受けられるのでございます。そういう意味合いにおきまして、この各種医療保険制度の総合調整、そういうような問題につきましても検討を加える必要がある、かように考えております。
  119. 大原亨

    ○大原委員 問題点をあげられたわけです。私は逐次これから、きょうだけでなしに、あとからずっと同僚議員その他と一緒に議論していきたいと思うのですが、医療保険制度の問題で、これは非常に問題になっております重要な点だけ私は一、二触れておきますが、医療保険制度の問題、これは国民健康保険からずっとあるわけであります。その格差の問題についても大内報告は指摘をし、あるいは中期経済計画の中において、社会保障の部面において、それを課題として指摘をいたしておるのであります。格差を是正するという問題であります。  そこで私は、詳しい議論をすれば数限りがないが、しかし、大蔵大臣との間におきましてもいろいろ議論いたしましたが、免税点も非常に高い。戦前は七十万しか所得税を納めていないのに、現在は二千数百万納めているというので、非常に高い。高いけれども、それ以下の人々がほとんど関係をしている保険の中に、国民健康保険と日雇い健康保険と、政府管掌健康保険があるわけであります。だから、その全体の一元化、調整の中においてその給付の内容において、各保険の低所得階層の問題もあるけれども、それと一緒に、特に保険自体としては、低所得階層全体を対象としているこれら三つの保険を中心として、国はやはり相当の金をつぎ込みながら、所得の再分配ということは大内報告にも中期経済計画にもあるのです。保険だけの思想ではないわけです。保険だけではない。社会保障の思想があるわけです。そういう思想を入れながら、給付その他を含めてレベルアップをしていくことによって、負担の公平と医療給付の前進をはかっていく。こういう基本的な考え方で望むべきであると私は考えますけれども、これはさいふのひもを握っておられる福田大蔵大臣に御答弁をいただきましょう。
  120. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 各種の健康保険制度の最近の財政状態、私も非常に憂慮しているのです。つまり、それらを見てみますと、医療費のほうは、給付のほうは二〇%ぐらいずつ毎年ふえていく。ところが医療収入のほうは一〇%ぐらいしかふえておらない。これはだんだん年をふるに従いまして、そういろ状態が続くとするならば、保険財政はますます悪化する、こういうことにならざるを得ないのであります。それを一体どういうふうにしていくか。財政的あるいは私どもの予算のほうの立場から考えてみますると、根本的な原因は、私は、いま厚生大臣からお話がありましたが、医療制度そのものにあると思うのです。つまり、今日の点数制度、これは一点十円というふうになっておる。これでは給付が非常な悪平等になり、またその点数をかせがなければならぬという傾向になって、どうしても医療費給付が膨張するという傾向にならざるを得ない。さあ、それではその膨張に対する歯どめはあるかというと、診療審査制度、こういうものはあります。しかし、これがうまく働くということは非常に私は困難だろうと思う。そこで、この歯どめという問題を真剣に考えなければならぬ、こういうふうに考えておるのであります。  そういう見地からいいますると、やはり一つは制度的な問題である。ただいま厚生大臣も申し上げましたが、この各種の組合、各種の保険機関の総合調整、統一まで行けば非常にけっこうだと思いますが、その総合調整の問題、それからもう一つは、制度的な歯どめの機関、これはほんとうにうまくいくはずがないと思うのです。やはりこれは自動的に歯どめが行なわれる、つまり私は、一部患者の負担、こういう点にあるのじゃないか、そんな感じがしておるのであります。これは私の意見でございますが、そういうふうに思います。  それで、ただいま国庫負担を大きく増加しなければならぬ、こういう話でありますが、弱小の組合というものをどういうふうにするかという問題をこそ検討しなければならぬ。いま欧米先進国をずっと見てみると、医療費の負担というのは大体二%ぐらいであります。非常に少ない。大体自己運営というものができるような仕組みになっておる。それは制度として、制度自体がいい、また歯どめもしっかりしておる、そういう問題があります。これを、全部が全部国の負担で持っていくのだといった場合には、納税者はたまらぬ。ですから一〇%、二〇%という先ほど申し上げました開きがあるというのでありますが、二〇%をどういうふうに抑制していくかということをこそ真剣に考え、その経過期間におきまして、弱い者、弱い団体、弱い組合、そういうようなものは国庫が補助していく、こういうことかと思うのであります。
  121. 大原亨

    ○大原委員 私は、この問題はそうたくさん長い時間をかけて議論しませんが、大蔵大臣が大切であるというのは総理以下全閣僚あげて取り組まなければ解決しない問題である。この医療問題の抜本改正は、この一年にできなかったならば、佐藤内閣はこれでふっ飛んでしまってもよろしいほどの問題である。こういう大きな問題である。だから、大蔵大臣が、たとえば前の神田田中メモというふうな軽率なことで混乱させるようなことがあってはならぬ、官僚の作文等で。私は、そういう点で集中的な議論をいたしておるわけです。まあ、ともかくも制度上の問題を私は議論をいたしておりますが、これは一つだけ質問をいたします。つまり、社会保障税というものはいま日本にはないけれども、しかしながら、これはやはり所得の再配分ということになれば、最低生活費に食い込むような保険税、保険料は、国民健康保険を通じまして軽減をしていかなければならぬということであります。ですから、私どもは別の構想を持っておりますけれども、そういう考え方からいうならば、最低生活に食い込むような保険料、保険税は取るべきではない、軽減すべきである。そのことをふやすような、そういう法律の改正というものは、後に議論するけれども、これは問題ではないか、こういう点であります。これについて、私は、税についても専門的な考えを持っておられる大蔵大臣、ひとつお考えを述べてもらいたい。
  122. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 社会保険税と申しますか、社会保険料ですね、これは一方においてみんな制度的なものとして徴収する、これは例外を設けないほうがいいと思うのです。ただ、ほかの、国の総合政策として、税の面において、あるいは社会保障政策の面においてこれが調整をとっていく、こういうことで一貫した運営ができる。何か特殊な例外を設けて保険料の軽減を行なうという形においてこれを運営する場合におきましては、どうも組合なり団体の運営自体にゆがみがくるのじゃないか、そういうふうに考えます。
  123. 大原亨

    ○大原委員 たとえば国民健康保険税は人頭割りと応能割りですね。これがフィフティー・フィフティーになっておると思うのですよ。応能割りを加味しておるのですから、やはり低所得階層からは、減免するなり取らないという方針を貫くということが当然ではないか。特に保険料を上げるということは、今度は国民健康保険も上がってきますよ。時間がないから議論しないけれども政府管掌保険というのも、千分の六十三というのに、六十五まではよろしいと社会保険審議会は答申したのに、七十に上げているのですね。そういうことから考えてみますと、やはり所得に応じて保険料も負担をしていきながら、それで所得割りの分野もふやしていきながら、全体としては法人からも取っていきながら社会保障全体をやっていく、こういうことは私は制度の前進から、当然だと思うのです。私は総理大臣に、昨年の予算が通る際に――当時福田大臣はおられなかった、田中さんだったけれども、与野党の間において確認事項がかわされて、そして文書になっておるわけです。その中には社会保障制度審議会の答申も尊重するということ、これは公約であります。社会保障制度審議会の公約は、千分の六十五までで、頭打ちは五万二千円を十万四千円まで、こういうことに相なっておるわけであります。そのせっかく軌道に乗りかけた保険の問題について、答申を無視いたしまして、両党間の約束を無視いたしまして、千分の七十という案を出しておるというわけであります。これは非常に負担が大きくなっておることでもあるし、そしていままでの経過から言いまして、抜本改正を通じてそういういろいろな問題を議論しながら、そして赤字対策その他保険の立て直しをやっていくのだということを約束いたしましたたてまえから見ましてもおかしい。私は、その点について、厚生大臣はその間の経緯、あなたの考え方、これをひとつ明らかにしてもらいたい。これは重大な決意がありますよ。
  124. 鈴木善幸

    鈴木国務大臣 昨年の予算審議をいたしました際に、自民、社会、両党の国対委員長の間でいろいろお話し合いをいたしたのでありますが、その内容につきましては、私十分承知をいたしておりまして、できるだけこれを誠意を持って実行するということに努力をしてまいりました。すなわち、あの申し合わせの中では、第一点は、政府管掌の健康保険につきましては、支払い等に支障を来たさないように十分資金の手当てをすべきである、こういうことが第一点でございまして、この点につきましては、大蔵大臣の御理解ある協力を得まして、今日まで支障なく資金の手当てをやってきております。  それから第二点は、できるだけ国民健康保険あるいは政府管掌健康保険等について国庫の助成、負担を増額すべきである、こういう点につきましては、御承知のとおり、国保につきましては、就任早々でございましたが、昨年四十億円を臨時財政調整補助金といたしまして計上いたしました。また、補正予算におきましては、二百十一億円を計上いたしたのでございます。また今回四十一年度の予算編成にあたりましては、市町村民の長く期待いたしておりましたところの家族七割組付をいたします場合におきましては、これに対しまして国庫四割負担をやる。なお、事務費につきましても、二百円を二百五十円引き上げる。総額といたしまして一千四百五十億円を国保に国から繰り入れる、こういうような措置をいたしました。また政府管掌の健康保険につきましては、昨年、四十年度に三十億円国庫補助をいたしたのでありますが、これを今回五倍の百五十億円入れることにいたしておるのでございます。  問題は、大原さん御指摘の点は、今回の財政対策を政府管掌健康保険についてやります場合に、なぜ千分の六十五というものを七十までとるようにしたか、この一点にあると思います。この点につきましては、なるほど多数意見というものを――財政上の関係から、また被保険者の負担の面で、負担力の一番弱いといわれる国民健康保険の被保険者におきましても千分の三十五程度を負担をいたしております。でございますから、政府管掌のほうで千分の七十というのは、これは労使で折半いたしますと、おおむね千分の三十五、国も百五十億を入れるのでございますから、政府管掌の被保険者におきましても、せめて国保並みの負担をやっていただきたい。これは答申を無視したのではございません。答申全体を十分熟読玩味いたしまして、そして、その土俵のワク内でそういうような措置をやった次第でございます。
  125. 大原亨

    ○大原委員 私は、保険料は間接的な税金だと思うのです。これは従来からの主張です。公共料金と同じで、だれも避けて通ることはできない。だから、これは物価政策の中においては、保険料の負担の問題として十分慎重に考えるべきである。一つずつへ理屈をつけてやりますると、国鉄も上げなければならぬ、郵便も上げる、ざあっと全部上げるというふうな、公共料金を軒並み上げる政府の施策に通ずるのであります。ですから、この問題については抜本的な検討がなされて、政府に属する責任の分野が非常に多いということが、私は議論の中で明らかになったと思うのであります。私は、それらの問題を総合的に考えるべきであると思う。その問題はあとでひとつ総理大臣から見解を聞きたい。これは、ひとつ保留しておきます。  もう一つ、私がこの際ぜひとも議論をしておきたい問題は、厚生大臣が問題点として指摘されました中で、これは、佐藤総理大臣も前の国会の予算委員会において、河野正委員質問にも答えておられます。あるいは神田厚生大臣も、分科会や、あるいは内閣委員会等において答えております。これは医療における物と技術との分離ということであります。医薬分業という問題であります。これは、ある一面ではダブルのでありますけれども、しかしながら、これはやはり技術を尊重するというたてまえで、医者の技術やあるいは薬剤師の技術や責任分野、調剤における責任、これを明確にする。薬剤師の調剤における責任が明確でなくて、ちり紙や化粧品を売ってもうけておるというようなことであります。薬も売っているけれども。そういうことでなしに、これは、いろいろな薬価の問題を見ましても、やはり責任分野の問題があるわけであります。いろいろニクビタンその他の問題でいわれているが、売薬的な医療克服の問題を中心といたしましても、やはり議論になっておる。技術を尊重しながら国民の要求する医療に奉仕するようなことをやるためには、やはりこれはきわめて重要な問題であります。これは十分納得のいく形で各方面から検討してやるべきである。佐藤総理大臣は、前の予算委員会で議論をされておりまして、きわめて端的な答弁をされておりますが、この問題について佐藤総理大臣は御見識があるようですから、ひとつ御答弁いただきましょう。
  126. 鈴木善幸

    鈴木国務大臣 先ほど、診療報酬体系の適正化をはかりますためには、物と技術を分離いたしまして、そして技術を適正に評価していく、そういう形で検討すべきだという方向を私申し上げたのでございますが、それに関連いたしまして、医薬分業ということを御指摘になりました。私は医薬分業の方向で今後進めるべきものだと考えておりますし、医師会の武見会長なども、調剤センターを設置すべきであるという構想毛発表されております。いろいろ具体的なそういう御提案についても検討いたしておるのでありますが、ただ問題は、都市的なところと農村のようなところと、いろいろこの医薬分業につきましては、実行上いま直ちにこれを全面的に実施するという点につきまして難点がございますけれども方向としては、私はそういう方向で努力すべきものである、かように考えております。
  127. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 医薬分業はかねての目標でございます。
  128. 大原亨

    ○大原委員 たくさん残っておりますが、医療の抜本的な改正の問題については、全閣僚あげて、総理大臣は全責任を持って各方面の意見を聞いて、技術が尊重され、適正な薬が施され、そして保険がその上に立って全国民信頼の上に運営される、こういうことで医療保障がまともに前進をするように、これを私は強く要望をいたしておきたいと思います。  さてその次は、時間も相当迫ってまいりましたが、所得保障の問題でございまするが、これはたくさんは申し上げませんが、生活保護についてはかなり増額したという大蔵大臣の御答弁であります。念のため、時間がないから端的にお尋ねするのですが、改正をされました生活扶助によって、東京都において一日の食料費は一体どのくらいかかっておるだろうか。これはそこの答弁の控えになければ、政府委員でもよろしいです。
  129. 鈴木善幸

    鈴木国務大臣 大筋だけを私申し上げまして、あとは政府委員から答弁をさせることにいたします。  生活保護基準の改定の問題は、社会保障の重要な柱でございますので、この決定につきましては、私としても最善の努力を払ってまいりました。特に物価値上がりの影響を深刻に受けますのは低所得階層であり、また一面減税の利益にも均てんをしないという階層でございますので、そういう観点から十分配慮すべきだということで、今回は一三・五%の引き上げになったのであります。これは一般国民消費生活と見合って改善さるべきものだと考えるのでありまして、御承知のように、経済の見通しによりますと、一人当たりの消費水準の上昇は一〇・二%でございます。これに対しまして二二・五%の引き上げをいたしまして、そして消費生活の面における格差もだんだん縮めていきたい、こういうことで措置いたした次第でございます。  なお、こまかな都市等における数字につきましては、社会局長から答弁をさせます。
  130. 今村譲

    ○今村政府委員 お答え申し上げます。  お尋ねの、東京の標準四人世帯におきます一ヵ月の食費は、四十一年度の予算でありますが、一万三千二百三十四円、四人で割りますと一人平均が、前年度が百八円というのが百二十三円、こういうふうな数字に相なります。
  131. 大原亨

    ○大原委員 四級地は。
  132. 今村譲

    ○今村政府委員 四級地はちょっと――すぐ調べて申し上げます。
  133. 大原亨

    ○大原委員 総理大臣、百二十二円が一日の一人の食料費です。四級地の都市等におきましては、私の調べたのでは一人一日七十円です。三回食べるのです。三食ですよ。これはやはり大内報告にもございますけれども、名目でなしに、実質三倍に上げなければならぬというふうに書いてあるのです。だから、パーセンテージをあげられますけれども、それは率直に言って、一三・五%には相当の努力のあとは見えますよ。しかしながら、一三・五%でありましても、これは物価とか公共料金その他の負担が集中的にかかってくる階層でありますから、私は十分配慮しなければならぬと思う。これは閣議において議論になったそうですか、藤山さんか瀬戸山さんが提案されたそうだが、未亡人で、主人が生きておられるときに冷蔵庫があった。冷蔵庫を売ったって二、三千円だ。冷蔵庫を売らなければ生活保護をとるぞというようなことを機械的に言った話もあるし、あるいは子供かだれか家族の補償金――けがか何かの補償金を生活保護から引くという話もあったそうです。私は、生活保護の本質について認識が足りないのではないかと思う。これは救貧政策であって、本来の社会保障ではない。社会保障が、所得保障等が整備され、医療保障が整備されれば、これはだんだんと消えてなくなる。そしてだんだんと立ち上がって、自分で働いて生きていけるようになるべき問題である。であるから、これを機械的に生活保護の問題に適用することはいけない。この食費の問題と一緒に、私はそういう面において最底辺をささえないと、全体の生活水準を上げる、そういう結果にならぬ。国民生活を安定させる、向上させるということにはならぬ。こういう面において、非常に日本的な二重構造の集中的な一つの産物であるところの生活保護、百七十万の生活保護の世帯人員、そういうものについて私は十分今後とも改善に努力する、運営において努力する、こういうことが必要ではないかと思います。厚生大臣の御答弁を願います。
  134. 鈴木善幸

    鈴木国務大臣 生活保護の問題につきまして、さらにいろいろの痛ましい事件が起こったことに関連いたしまして、今後のこの運営につきましての御注意がございましたが、私ども、今後第一線で実際にそういう方々に接する場合の職員の諸君の十分理解ある適正な措置を、厚生省としても各県を通じまして注意を喚起しておる次第でございます。  ただ、この際私申し上げておきたいことは、大原さんもすでに御承知のことと思うのでありますが、電気冷蔵庫であるとか、いろいろなそういう文化的な施設につきましては、耐久消費財でございますが、そういうものにつきまして、その地域住民の生活の水準が、ほとんど電気冷蔵庫を各家庭で使用しておる、少なくとも半数以上の地域住民の家庭でこれを普遍的に利用されておる、こういう状態でありますれば、これは問題がないのでございます。まだ一般家庭におきましても、一割か一割五分しか普及されていないというような段階におきまして、生活扶助を受けて、おる家庭がそういうものを使用しておるというようなこと等がございますと、とかくその地域住民との関連におきまして、いろいろ問題が起こってくる。しかし、私は一がいにそういうことをしゃくし定木に申し上げるのではございませんが、一方においてそういう面を考えながら、運用面においては十分思いやりある措置を講ずべきである、かように考えて、厚生省からさっそく各府県に対しまして指示をいたしておるような次第でございます。  なお、低所得対策といたしましては、この生活保護のほかに、先ほど来問題になりましたところの国民健康保険の医療保障の面におきましても、生活保護家庭はもとよりでありますが、住民税の均等割りしか納めていない家庭等につきましては、減額の措置を講じておりますことは御承知のとおりでございます。全世帯の三三%、約三百六十五万世帯に対しまして減額措置を講じておるのでございます。また、その他福祉年金でありますとかあるいは児童扶養手当でありますとか、いろいろな総合的な角度から、低所得対策を進めてまいりたい、このように考えております。
  135. 大原亨

    ○大原委員 つまりこれは憲法二十五条を基礎として生活保護はできておるのです。健康で文化的なということが目標であり、前提であるわけです。したがって、所得保障が十分ない、年金等がないのですよ。日本においては母子年金等がない。主人が積んだって、母子年金がないのだ。その点はほとんどないのと同じなんです。そういう場合においては生活保護を、やっぱり一つ憲法上の保障された権利として堂々と生きていけるように運営していくべき問題であります。何も日陰におってごそごそとすべきじゃないのです。これは社会的な責任として考えておる。責任を政府が果たしていないから、生活保護を、ここでとにかく努力をしながら補っていっておるということです。  そこで問題は、こまかな議論になりましたけれども、現在まで持っておったので、主人が死んで売るというのと、これから買って冷蔵庫を持つのとじゃ、これは違うわけです。常識からいっても、経済的に考えてみてもそうですよ。だから、そうやるならば、主人が死んだら冷蔵庫を売りなさい、生活保護を取り上げますよということだったら、家族まで含めてどういう気持ちになりますか。経済的にもどうですか、失費が多いでしょう。そういう配慮が、週刊誌にたまたま出て閣議の話題になったけれども勤労控除その他においても、とにかく生活保護というのは、一つの部落や階層をつくっているような、貧乏に追い込めておるような、そういう制度であったのでは、憲法二十五条の精神憲法違反である。食費の一律金額の問題と一緒に、憲法違反である。朝日裁判の精神は、いまだに地方裁判所の判決の精神は生きておるといわなければならぬ。そういう点について配慮をしなければ、社会保障というものは、やたらに圧力に押されてアンバランスを増大する。私は全部調べてみたが、たくさん言いたいことがあるが、時間の関係でひとつ集中的に取り上げておきます。だから、そういう問題等を含めまして、総理大臣、この点について、ひとつ政府としてのはっきりした考え方を明らかにしてもらいたい。
  136. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 ことしはもうすでに予算を組みまして、ただいま御審議をいただいております。これは別に率をとやかく言うわけじゃありませんが、ただいまもお話のうちにありましたように、一三・五上げたということは、わりによくやった、こういうような批判、そういうような称賛も、実は一部から受けております。しかし、私はこういう問題は、ただいま大原君のお話をずっと聞いておりまして、一そう生活は向上してまいるのでありまするから、この上とも今後とも内容が充実するように努力していくつもりでございます。
  137. 大原亨

    ○大原委員 それで、所得保障の問題は、国民年金やその他ございますけれども、これは時間の関係であとで議論することにいたしまして、この際、一昨々年に衆参両院で原爆被爆者の援護強化に関する決議が、全会一致なされました。被爆者は、御承知のように、二発の原爆で死んだ人が約三十万、放射能をたくさん受けた人が約三十万。約というのは、二十年後のいまもその実態がわかっていないということであります。だから、白血病やガンでなくなる人が、二十年後においてもあるということでございます。放射能は累積をしておるという点もあります。よく総理大臣は口を開かれますと、唯一の被爆国であるということを、国民一緒にということをおっしゃるわけです。平和に徹するともおっしゃるわけです。この問題については、いままで相当の努力のあとがございまするけれども、特に医療の面においては努力のあとはあるわけでありまするけれども、決議されました援護という面においてどのような考え方を厚生大臣はお持ちであるか。
  138. 鈴木善幸

    鈴木国務大臣 ただいま大原さんもお話がございましたように、医療援護の面におきましては、昨年の法改正によりまして、特別被爆者の範囲も広がりましたし、いろんな面で大きく前進したと思います。ただ、問題は生活援護の面においてどうかということでございます。この点につきましては、昨年十月以来原爆被爆者の実態調査を行なっておりまして、大かた九〇%程度調査が進んでおります。なお、四十一年度予算におきましても、これを集計、集録をする、取りまとめるという作業をいたしますために若干の予算を計上いたしておるわけでありますが、その実態調査の結果を見まして、この生活援護の問題につきましては、検討してみたい、かように考えております。
  139. 大原亨

    ○大原委員 この問題については、総理大臣や大蔵大臣からも特に御答弁いただきたいと思うのですが、医療面においては相当の努力がされておると思います。しかし、原爆の実態をつかむ調査の話がいま出ておりますけれども、これはなお完了していないというふうに私ども承知いたしておりますが、ともかくも、原爆を受けましたときに、やけどをしたり、外傷したり、嘔吐、悪心、発熱、下痢、出血、吐血、下血、血尿、歯齦出血、鼻出血、皮下出血、脱毛、咽喉痛、口内炎、無月経、ひどいのは性的能力がなくなる、こういうたくさんの被害を受けながら、正常に返っておるけれども、異常な状態があればまた復帰してくる、あるいは就職や結婚等においても支障がある。だから、私はその問題を含めて、圧力団体としては、全国に散乱をしておるし、このことを言うこと自体がいろいろな問題、障害があるから、なかなか声が出てこないけれども、しかし、やはりこの問題については、援護の問題は、唯一の被爆国の政治といたしましては、重大な責任を感じてこの改善に努力をすべきである、国会における超党派的な決議に沿うべきである、私はこういうように思うのであります。その点について大蔵大臣に御質問したい点と、昨年の予算委員会におきまして、私どもは愛知文部大臣に対して、広島大学の原爆放射能医学研究所の構内に資料センターをつくる問題についてただした。というのは、その直接の契機は何かというと、ABCCというアメリカの原子力委員会の下請の研究機関が広島、長崎にあるわけであります。そこに四、五千体のアルコールづけの解剖死体の身体の部分があるわけでございます。これは成人病その他の観点からいっても絶対に残しておきたいという一般のお医者や学者の意見であります。その問題を取り上げて議論いたしましたところが、当時の愛知文部大臣――ここにおられますけれども、愛知文部大臣は、これは趣旨はもっともである。前の荒木文部大臣も、この点については、やはり広島、長崎のそういう原爆資料研究所というふうなものは世界で有数なものにすべきである、こういう議論だった。昨年の愛知文部大臣は、その点については同感の意を表明されて、努力をするということであった。で、実態調査の問題と一緒に、そういういままでの被爆による経験の遺跡をここで集約をして、将来人類の平和と幸福に役立てる、こういう高い観点から、そういう標本センターというふうな問題、資料センターというふうな懸案の問題については、私は早急に今後の課題として努力をしてもらいたい。最終段階で吹っ飛んだそうでありますが、努力をしてもらいたい、このことを私は申し上げておきたいのですが、その二つに対しまして御見解をお聞きをしたい。
  140. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 原爆被爆者に対しましては、政府においても国会の意向を極力尊重いたしたつもりでありまして、現に予算におきましても、四十年度の十六億円、それを二十三億円に増額し、できる限りの処置をいたしておる、こういうつもりでございます。  なお、広島大学の点につきましては、私、詳細ないきさつを存じませんから、文部大臣からお答え申し上げます。
  141. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 お答えいたします。  ただいま御指摘の広島大学の医療センターに原爆被災の資料、標本センターをつくりたい、これは私ども実は非常に本質的には共鳴をいたしておりまして、四十一年度の予算概算要求の際には要求しておったのでございます。その後大学側ともいろいろ相談をしてまいったのでありますが、大学としては、資料はどうせ整って保存はされておるのだから、それは次の問題として、それよりももう一つ急ぐことは、瞬間被爆に近い状態というものを実験室で現出をして、それが生物にどういう影響があるかというような研究のほうが実は非常に医学上重要なんです。これは、名前は専門のことばでよくわかりませんが、広島大学放射能医学研究所の中に、特別設備としてリニアアクセレレーターという施設でございますが、これは、原爆の被爆を受けた場合の瞬間状態というものを実験室で演出をして、そして生物にどういう影響があるか、こういう研究をぜひひとつ至急に進めてみたい、こういう案件が出てまいりまして、いろいろ検討した結果、もっともであるという私どもも感じがいたしましたので、この施設をするために本年度一億七千五百万円ほど計上いたしまして、大学側が学術上希望しておりまするこのほうに実はさしあたりは振り向けたような次第でございます。しかし、標本センターのほうも、諸外国の人が原爆の被災を受けた唯一の国として日本に参りました場合に、そういう標本がセンターにそろっていたほうがいいのでありますから、今後も研究をして進めてまいりたい、かように存じております。
  142. 大原亨

    ○大原委員 とういう件ですから、一応申し上げておきますよ。つまり、これから原子力の平和利用もあるわけですが、放射能の影響を残した人体というものが四、五千体残っている。そのことは、やはりこれからのガンの放射能治療、ガンの研究、成人病その他にも大きな影響を及ぼすんだ、そういう一部の学者もあり、大学でもそういうことを主張されておるわけですね。ですから、そういうことについても全体のデータをそろえて、被爆の実態というものをやはり社会的にもそういう歴史的な蓄積をするという意味において、この問題については十分努力をしてもらいたい、こういうことで議論をし、あるいは文化人等も総理大臣お話しになり、あるいはその他を通じてもいろいろ話があって、問題となっておるのですから、この点は、十分その点が取り上げられるようにひとつ善処をいただきたい。これは愛知文部大臣等との経過もありまするから、福田大蔵大臣、一書簡単に御答弁願いたい。  もう一つは、福田さんの御答弁の前に、建設大臣にひとつ御答弁いただきたいのですが、援護対策の一つといたしまして、衆参両院も、現地を社労の委員人々が超党派で視察になったのですが、広島には被爆者の吹きだまりといって、五、六千世帯のそういうスラム街があちらこちらに形成されておる。これは公営二種改良住宅その他の方法をやることも必要ですが、なかなかその運営においても、地元負担等もあって問題である。そこで、この問題はどうしても解決しなければならない。たとえば上水道、下水道等の設備も悪いし、川のそば等に集中をいたしてスラム街を形成しておると、衛生上も悪い、こういうことであるし、人道的にも、被爆者が多いわけですから、援護の一つとしてやってもらいたいという関係者のそういう要望があったわけであります。この点についていろいろ議論いたしまして、総合的にやらないと、部分的にやったのではできない。建設大臣を中心として、厚生大臣その他イニシアチブを発揮してもらって、自治体の意向も尊重しながら、これは間然解決する懸案の問題として処理すべきではないか。その二つの問題について、大蔵大臣と建設大臣から御答弁願いたい。
  143. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 センターの問題につきましては、文部大臣とよく相談をいたします。
  144. 瀬戸山三男

    ○瀬戸山国務大臣 広島のいわゆる原爆スラム街は、これは大原さんよく御承知でありますから、こまかいことは申し上げません。現在、これは御承知のとおりにいわゆる改良地区とかあるいは都市改造、こういう方面でやっております。一番問題なのは、御承知の太田川流域にある公園敷、それから河川敷、これに相当の戸数がありまして、これは不法占拠という形になっております。したがって、法律上いわゆる正面からの補償ということはできない、そういうことで地元県市とよく相談してやっておりますが、太田川の改修はやらなければなりません。それと兼ね合って、できるだけその現住者に御迷惑のかからないように進めたい、かように相談を進めておりますから、早くこれは解決をいたしたい。御承知のとおり、全部で六千九百世帯余りあるわけであります。今日まで相当解決をしておりますけれども、まだだいぶ残っております。できるだけ早く解決したい、かように存じておるわけであります。
  145. 大原亨

    ○大原委員 この問題につきましては、全体の援護対策の問題と一緒に、政治の合理性というか、一つ理想というか、単に目先だけの圧力その他の問題で動くのではなしに、大きな政治上の課題として真剣に考えていただきたい。その点を強く要望いたしたいと思うわけであります。  これで時間もだいぶ参ったようで、与党の理事の皆さん方から御催促があるのですが、あと残っておる問題は、中性洗剤の公害と毒性の問題、それからもう一つの問題は、住宅政策の問題、特に宅地政策の問題、これらがあるわけであります。これらは遺憾ながら時間の関係で触れるわけにはいきませんが、私は、これらの問題は同僚委員あるいは分科会等におきまして、これはやはり非常に大きな問題でありますからやりますが、私は思うのに、医薬品でも、中性洗剤の問題を調べてみましてもそうでありますが、やはり国民の医療、健康を守るという観点からいうなれば、疑わしきは許さずという国際的な常識、学問的な良心に従った措置がなされるべきである。その面においては、いままでの措置において、一部の圧力や利益に奉仕するという疑いがあるものがたくさんある。そういう疑惑は一掃しなければならぬ。たとえ疑惑としても、これを残しては、この問題についてはならぬ。こういう観点でないと、国民は何を要求いたしましても納得をしないわけです。私は、この問題は将来そういうふうに議論をいたしてまいりますが、きょうは、以上申し上げました諸点について申し上げて、私の質問を終わるわけです。ひとつ討議の結果については十分これを尊重されて、社会保障制度前進のために努力をしていただきたい。最後に総理大臣の御答弁をいただきまして、私の質問を終わりたいと思います。
  146. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 先ほど私は、社会開発はわが内閣の使命だ、かように申しました。その社会開発の中身としての社会保障制度や、また所得保障制度や、さらにまた生活環境の改善のための住宅問題や、ただいまも中性洗剤その他の社会条件の整備についての御意見を聞いたわけであります。これらのことにつきましては、真剣に、また慎重に取り組んでまいる決意でございます。どこまでも社会開発、これが成果があがるように、そうして国民生活が向上されるようにいたしたい、かように思っております。
  147. 福田一

    福田委員長 これにて大原君の質疑は終了いたしました。  次に竹本孫一君。
  148. 竹本孫一

    ○竹本委員 私は、民社党を代表いたしまして、ただいま御提案になっております昭和四十一年度の予算案等につきまして質問をいたしたいと思います。  まず最初に、総理にお伺いいたしたいと思います。  私は、主としてきょうは経済問題に重点をしぼって御質問をいたしたいと思いますが、佐藤内閣になりましてから、この経済政策の一つの指導理念といいますか、中心的なスローガンとして、安定成長ということをたびたび述べておられるわけであります。一応私どもその安定成長ということばは理解できるようでもありますけれども、よく考えてみると、実は安定と成長ということは必ずしも一致しない。一致する面もありますけれども、一致しない面がある。特に日本経済政策について考えてみますと、終戦直後におきましては、日本経済が敗戦で非常な落ち込みをいたしまして、たとえば今日九千三百万トンといわれておる鉄鋼の生産も、昭和二十一年にはわずかに三十二万トンでありました。そういう点で、経済を飛躍的に成長させるということが、実は日本経済あるいは国民生活を安定させる一番近道でございます。ところが、最近になりまして、御承知のように、いわゆる高度成長政策の行き過ぎあるいは失敗によりまして、どうにもならなくなったのであります。したがいまして、これからは、私ども考えでは、むしろ安定させることが経済をうまくかじをとっていくキーポイントである。終戦直後におきましては、成長させることが安定への道であった。今日では、安定させることが成長への道である、かように考えるのであります。ところが、安定成長という二つの半ば相矛盾する要素を持っておりますことばを一度に内閣が扱われておりますので、国民は安定成長とは何ぞやということにつきましては、はっきりした概念がつかめないでおると思うのであります。のみならず、政府の施策の中にも、安定に力を入れるかのごとく、また成長に力を入れるかのごとく、政府経済政策の根本的な指導理念というものがどこにあるのか、この安定成長ということばのために、かえってあいまいもことなっている面があると思うのであります。私、理解いたしますに、あるいはこれは高度成長を行き過ぎたので安定成長にするというような意味にも受け取れます。また学者が、いわゆる行き過ぎた場合には、整理恐慌、安定恐慌ということばも使いますが、その安定のために恐慌を来たしてはならない、こういうような御配慮で安定成長ということをいわれているようでもあります。いずれにいたしましても、一体安定と成長ということばは矛盾する面が確かにあるのでありますから、一致する面もございますが、その矛盾するような概念を一つの単語にして害われるということは、これはいたずらに政府の施策を混迷におとしいれるだけでなく、国民もまたどうしてよいかはっきりわからないところが出てくる、かように思いますので、一度ここで総理大臣の言われております安定成長というのは、経済政策についていうならば、いま私が申しましたように、終戦直後と段階が変わっておりますので、特に今日この際におきましては、安定ということに力を入れるべきではないかと思いますが、御所見を伺いたいと思います。
  149. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 安定成長ということばが持つ意義がよくわからない、こういうお話でございます。御承知のように、いままで池田内閣町分に高度経済成長政策というものがとられた。高度経済成長、これは非常にわかりいいことであったと思います。しかしながら、この高度経済成長がそれなりに効果をもたらして、そうして経済も活気を呈しましたけれども、特定産業、特殊な業種においては、これについていけなくて非常なひずみを生じた。それが一面から見まして、経済上の一つの病根を形成した。そういうものをとにかくなくしていこうというのが、実はねらいでございます。そこが、いまもお話にありますように、安定ということが一つ経済現象に対して望まれる事態なのであります。これは同時に、各業種間、行事業間における格差のない、均衡のとれた状態というものが安定への道だ、かように実は私は理解いたしておるのであります。その成長ということ、これは経済の場合に停とんではいけないので、いくら安定だと申しましても停とんはいけない。だから、これがいわれておりますように、まずねらいとしてはどのくらいの成長率なんだ。まあ七、八%のねらいを実は持つ七、そのもとで経済の均衡のとれた成長をひとつ計画していこう、これがただいまの安定成長でございます。大体これならば各部門における格差などもなくなり、そうしてお互いに均衡のとれた、摩擦のない状況で経済が成長するんじゃないか、まずねらいはそこにあるのでございます。
  150. 竹本孫一

    ○竹本委員 ただいま総理の御答弁の中で、私は特に二つのことばを注目したいのであります。一つは、高度成長経済政策というものは、それなりに大きな役割りを持ったというおことばであります。私も、池田内閣以来のいわゆる高度成長政策が、それなりに大きな役割りを果たしたということは認めるにやぶさかでありません。ただし、これはどこまでもそれなりにであるということが、大きな問題であります。もう一つは、総理のお述べになりました御答弁の中で、均衡のある発展ということばをお使いになったのであります。私は、安定成長ということばは変えて、均衡ある発展ということに、ひとつ経済政策の重点を組みかえていただきたいと思うのであります。いまのアンバラスをやめて、お話しのように均衡のある発展、これが日本の現段階における経済政策でなければならぬ、かように考えます。  そこで、これから私がいろいろと御質問を申し上げる点は、このバランスを失っておる日本の私どものいう自由主義経済というものでは、どうにもならない。したがって、経済を成長させるためにも、均衡のある発展、このバランスをとるということが根本であろうと思いまして、いかに今日の経済がバランスがとれていないかということについて、一々具体的に指摘してまいりたいと思うのであります。そうすれば、結論といたしまして、安定成長というものは、まあ新幹線で申しますならば、単なる安全運転といったような、いままではスピードが出過ぎた、だからスピードをスローダウンして落としていけばいいんだ、こういう観念ではまだ不十分でございまして、ほんとうのバランスをとるためには、いままでのレールを少しスピードを落として走るのではだめなんだ。中小企業のためにも、あるいは低生産部門といわれる農業部門に対しましても、われわれがほんとう意味日本経済全体にバランスのとれた発展を期待するためには、いままでの経済政策の指導理念というものを切りかえなければならぬということが、私ども中心的な立場でありますが、これに基づきまして、以下具体的に伺ってみたいと思うのであります。  大蔵大臣にお伺いいたしたいのですが、たとえば、今日一億円以上の会社が幾らある、十億円以上の会社が幾らある、全体として日本の会社が幾らあるか。これが御承知のように、今日は自由経済のたてまえに立らまして、自由に、したがってまたあるときは乱暴に、無計画に活動をいたしておるわけであります。そこで最初に、まず会社の数、特に資本金別に一億円、十億円以上くらいのところで、大体の数字を最初に伺いたいと思います。
  151. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 主税局長に答弁いたさせます。
  152. 塩崎潤

    ○塩崎政府委員 お答え申し上げます。今回の税制改正案で、一億円超の法人と一億円以下の法人とに分けまして、各種の制度の仕組みを変えておりますが、一億円以上の法人は約四千九百でございます。一億円未満の利益法人が約五十万、こういうふうに概数だけ申し上げておきます。
  153. 竹本孫一

    ○竹本委員 そこで、今日の不景気の問題に関連していくわけでございますけれども、一億円以上の会社が四千九百ある。全国には五十万の会社がある。これをそれぞれ何を生産するか、幾ら生産するか、幾らで売るか、これが全部一応自由になっておるのが、言うまでもなく自由経済のたてまえであります。したがいまして、そこで起こってまいります問題は、政府のかけ声に従いまして、みんな増産、増産、設備投資、設備投資ということで、この五十万の会社がそれぞれ、極端に申しますと、わがままかってに走ってきたわけであります。これは、私どものいう生産の無政府性であります。無秩序性であります。しかも、その走る過程におきましては、一億円以上の会社は四千九百しかありません。十億円以上の会社、百億円以上の会社、一千億円をこえる会社もあるわけであります。逆に百万、二百万の会社もあるわけです。これらが一緒に同じペースで走っておれば、必ずそこに弱肉強食ということも起こるわけでありましょうし、中小企業その他は追い落とされてしまうということは、きわめて必然的な過程であります。そこで何が起こるかといえば、先ほどお話のありましたアンバランス、均衡を失うということは、今日の自由経済のもとにおいては全く避けることのできない問題であろうと思うのであります。   〔委員、長退席、赤澤委員長代理着席〕  私どもは、後ほどいろいろと申し上げますけれども、今日の不景気、今日の物価高、これは別々の原因から出てきておるのではない。全く二つのものは同じ根から出てきた二つの現象であって、今日のこのアンバランス、社会的なアンバランスということが、すべての禍根である。そのアンバランスを生み出すものは、この五十万の会社が自由気ままに走っておるということである。そこに何らかのいわゆる構造改革的な手を打たなければ、今日のこの形ではだめなんだ。したがいまして、今日の不景気の禍根というものは深いとよく大蔵大臣もおっしゃいますけれども、どこが深いかというならば、との五十万の会社がそれぞれ自由な立場で走っておるんだ、それをだれもコントロールができない、だれも、先ほどのデンジャー、赤信号を掲げることができないということにあろうと思うのであります。そういう意味で、私はここでもう一度申し上げておきたいのでございますけれども、均衡ある発展ということは、単にいままでのようなスピードを出し過ぎてはいけないので、スピードを少しスロー・ダウンするという経済政策の転換であっただけではだめなんだ。そこで社会的なバランスを確保する。中小企業のためにも、農業のためにも、その他全体的な計画を立てて、全体的なバランスを確保するという方向に、単なる安全運転ではなくして、考え方を変えて、新しい一つのビジョンのもとにバランスをとる、拡大均衡の道を歩むということでなければならぬと思うのでありますが、重ねて総理大臣のお考えを承りたいと思うのであります。
  154. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 私、そのとおりだと思います。
  155. 竹本孫一

    ○竹本委員 そういたしますと、私どもは、今日のアンバランスの問題について、政府がはたしてどれだけの手を打っておるかということが、次の問題になってくると思うのであります。  特に総理大臣並びに経済企画庁長官に注目をしていただきたいと思いますが、日本には自由経済の必然としまして、いままでは大体四年に一回不景気がございました。二十九年、三十三年、三十七年であります。四年に一回、資本の運動法則として不景気が参ります。ただここに特徴的なことは、今回の不景気は、いままでの不景気と違うという点であります。どういう点が違うかといえば、先ほど申しました原因が、社会的なアンバランスということに根を張った自由経済の根本につながる問題でございますから、悩みが深刻である。そのあらわれといたしまして、たとえば昭和二十九年の不景気は、八ヵ月の継続期間でございました。三十三年は十ヵ月、三十七年の不景気は十二ヵ月でありました。しかるに今回は、今月をもってしてすでに不景気は十七ヵ月続いておるのであります。いままで八ヵ月か十ヵ月しか続かなかった不景気が、今日は十七ヵ月続いておる。この一事をもっていたしましても、今日の不景気を脱出する、不況克服の佐藤内閣の重大なる課題を解決するためには、なまやさしい決意ではだめだということが一つと、さらに、それは真剣味だけではどうにもなりません。先ほど申しました今日の経済の禍根というものが、社会的なアンバランスという重大、深刻なところにございますので、そこが重大な問題だと思います。そういう意味で、もちろん今日の不景気を招き寄せましたのは、佐藤内閣というよりも、前の池田内閣の責任であると私は思いますけれども、しかし、同じ自民党政府でございます。国民は、自民党政権の経済政策の失敗のしわ寄せのために、今日悩み苦しんでおりますので、特にそれを解決されることを第一のことしの課題として立ち上がっておられます佐藤内閣においては、何としてもこれを早く解決をしなければならぬ。しかるに、十七ヵ月、いままでの不景気で前例を見ない長期間にわたる不景気であるということでございますから、私は、この際総理も決意をあらためて、とうして一この十七ヵ月にわたり、最近におきましては、御承知のように中小企業の倒産も史上空前、年間六千件をこえたといわれておる。五千五百億円以上あるという負債総額にも注目をされておりますけれども、何ぶんにも十七カ月の不景気で、しかもこれが何月になればほんとうに景気が上向くのか、はっきりいたしません。そこで、この十七カ月、いままでかつて経験したことのない、長い、しかも深刻な不景気、これをどう乗り切っていくつもりであるか、御決意のほども伺いたいと思うのであります。
  156. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 ただいま御披露になりましたように、わが国の不景気は周期的に来ている。しかし、そのいずれもが、過去のものは短い不景気期間、それを経過すればまた好況に向かっている。しかし、今回のものに限って長期にわたって不況が続いておると言われました。そのとおりであります。今回の原因はいろいろあると思いますけれども、いわゆる景気循環説、それだけではない。だから、これは経済の構造上から来ているものだ、こういうことが言われます。その構造上から来ているというのは一体何か。いま竹本君の指摘なすったような不均衡、各業種間の不均衡、これから来ているものが非常に大きいということであります。したがって、まずそのよって来たる禍根を克服しない限り、ただいまの経済不況から脱することができない、かように私は思っておるのでありまして、その最もはなはだしいものが中小企業であり、あるいは農業部門だ。こういう低生産性部門で、工業部門との非常な格差にただいま悩んでおる。そういうものを均衡のとれた成長に持っていく。したがって、場合によりますと、大企業その他のほうのいわゆる設備投資の進んだところのものはしばらく足踏みをいたしましても、ただいまおくれておりますものの近代化、合理化等が積極的に進められなければならない。かような意味で、今回の不況を克服するということが、わが党に課せられた、またこの内閣に課せられた政治上の課題である、実はかように思っておりますので、各部門の総合的な対策樹立によりまして、このむずかしい不況克服をぜひとも成果をあげていきたい、かように思っている次第でございます。
  157. 竹本孫一

    ○竹本委員 総理の御決意と御努力、よくわかりますが、問題は、この不況の原因というものについての分析把握の問題だと思います。  そこで、経済企画庁並びに通産大臣にお伺いをいたしたいと思うのでございますけれども日本の不景気の原因は一体どこにあるかということの理解の問題であります。いろいろと原因を私なりに申し上げてみたいと思うのでございますけれども、私は、最近の資本主義国における経済成長には、一つの型があると思うのであります。具体的に申し上げます。財を消費財と生鹿町に分けます。さらに消費財は、耐久消費財と非耐久消費財に分ける。生産財を資本財と原料財に分けます。この四つに分けて、それぞれが最近、のいわゆる高度成長政策の過程において、具体的に私の持っておる資料で申しますと、昭和三十年と三十八年とを比較して、さらにそれを日本とアメリカと西ドイツの三つの国を比較して申し上げます。  日本におきましては、耐久消費財が八・一倍に三十年から三十八年の間になりました。非耐久消費財は一・九倍、化産財は四・六倍、原料財は二・九倍であります。ここにものすごいアンバランスが出ておるのです。八・一倍、一・九倍、四・六倍、二・九倍であります。しかもこれは日本だけで見てははっきりしませんので、念のためアメリカを見ました。アメリカの場合には、耐久消費財は一・四五倍、非耐久消費財は一・二〇、資本財は一・三一、原料財は一・二四であります。アメリカの場合には、耐久消費財が一番伸びておるということは日本と同じであります。しかしそれぞれ一・二三程度であって、その間にアンバランスがありません。これは資本主義のアメリカでもそうなんです。さらに西ドイツの場合はどうなっておるかといいますと、耐久消費財は一・九三、非耐久消費財は一・四三、資本財は一・六九、原料財は一・六七で、西ドイツの場合には大体一・六七か八のところでバランスがとれて、それぞれが成長いたしております。しかるに日本だけは耐久消費財は、ほかのものは一・九か二九であるのに、八・一倍になっておる。一体通産行政は何をしておったか。また、経済企画庁は何を考えて、いかなる指導をやられておったか。テレビその他の耐久消費財というものは、ことばが示しておりますように、耐久であります。耐久であるから長持ちがする。長持ちがするので、一ぺん売れれば、あと必ず生産過剰になることはきまり切っておる。したがって、アメリカや西ドイツのごとく、資本主義の国であっても、適当に政府の指導よろしきを得て、全体の成長の間に一応のバランスを確保しておる。しかるに日本だけは、ほかのものは、非耐久消費財は一・九倍、これに対して耐久消費財は八・一倍、このアンバランスを今日現出するまで一体政府は何をしておったか、経済企画庁並びに通産大臣の御所見を承りたいと思います。
  158. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 いま御指摘のありましたようなアンバランスが起こっておるから、問題はそれじゃそれはどうして起こってきたか、こう言えば、私は政府の指導もそういう点につきましてむろん足りなかったと思います。しかし、それには私はまた民間あるいは経営者の考え方も、金融業者の考え方考えてもらわなければならぬ。と申しますのは、私はこういうふうに分析しておるのでございます。  戦後日本経済がここまで成長しましたのは、御承知のとおり全く廃墟の中から立ち上がったわけです。そうして大企業も中小企業も資本財というものはない。あるいは金そのものも持っておらぬ。そこで何で立ち上がり得たかといえば、私はこれは信用供与だと思います。したがって、担保がなくて信用を供与するということができるのは大企業であって、中小企業にはできない、過去における名声その他に対して。そこでやはり大きな企業に対して非常な信用供与が行なわれた。したがって、それによってどんどん生産の拡充なり設備の拡張が起こってきた。中小企業に対しては担保力がないじゃないか。工場が焼けてしまう。大企業でも同じように工場が焼けた、あるいは蓄積された資本がなくなっておりましても、過去の信用がある。そこで私は非常な信用膨張が起こっておると思います。ですから、そういう意味におきまして、やはり金融が中小企業に対してももっとめんどうを見る。政府もそれに対してもっと力を入れていかなければならぬ。経営者もいたらずに大企業が設備投資の競争をする。そうしてシェアの拡大に狂奔した。石油化学工業のごときは、ある時期においてまさにそうでございます。ですから、そういう面において、われわれ政府の指導も足りなかったと思います。ですから、それらの原因を考えてみまして、私どもは今後はそういう面について十分な各方面の協力を得ながら指導をしてまいり、政府としてもそういう認識の上に立って、今後やはりたとえば設備投資をする場合、安定成長に乗っていった場合に、たとえば四兆五千億の設備投資がふえていく段階におきましては、大企業の設備投資に先ほどお話のありましたように、自制をしてもらって、中小企業のほうに信用供与をよけいしてもらう、こういうような状態が起こってまいりませんければ、アンバランスはなかなか直し得ない。それにはやはり均衡ある安定成長の政策の上に立って、みんなが協力してやる、こういうことだと私は考えております。
  159. 三木武夫

    ○三木国務大臣 いろいろ日本の例をおとりになって数字をあげられたのですが、その場合は敗戦のどん底から日本が立ち上がったわけで、仕事はない、雇用の機会はない、工場は荒廃し、生産はほとんど壊滅状態になったわけですから、そういうところに立ち上がった日本経済には、ややもするとアンバランスが起こる素地が私はあったと思います。そういうことで、これはやはり敗戦の混乱期から一つの秩序ができるまでの間には多少の時間がかかる、また企業家自身も何とかして立ち上がりたいということで将来の市場の測定というものに対しても冷静を欠いた面もありましょうし、また政府も統制経済でないのですから、政府の企業に対しての指導の限界というものもありますが、政府自身もそういう点では反省の余地は私はあると思う。しかし今日においては一つの秩序といいますか、いろいろな設備投資の場合にでも、統制経済ではない、自由経済の中における仕組みというものができつつあるわけです。あるいは産業構造の資金部会などにおいていろいろ検討するし、またこういう経済の変遷を通じて企業家自身のビヘービアにも反省が起こっておるわけです。政府もまた高度経済成長の反省から、いまお話しの名前を均衡のある発展と呼べというわけでありますが、それは均衡のある発展でもけっこうだと思いますが、そういう経済政策にも反省が起こって、今後はやはりこのような事態にはならぬと思いますが、それは御指摘のように、異常な事態としてアンバランスのあった反省は民間も政府も持つべきだと私は思っております。
  160. 竹本孫一

    ○竹本委員 いまのお二人の御答弁を聞いておりますと、一つはアメリカやドイツの場合には、統制経済ででもあるかのごとき御答弁でありますが、それは一体どういうことでありますか。アメリカ、ドイツともに今日はいわゆる統制経済ではありません。自由経済のもとにおいても、それだけの英知を働かして総合的な計画性をもっておるということを私は強く指摘しておるのでありまして、その点が一つ。  それから次には、いまお話を聞いておると、何だか会社や銀行には敗戦の責任があって、日本政府、あるいは池田内閣以来の政府には何ら責任がないような御答弁のように聞こえますけれども、一体どういうお考えであるか。  さらに信用の問題を触れられました。これはあとで銀行のあり方については論じていきたいと思いますけれども、それでは銀行がすべての責任がある、信用のインフレで来たのだと言われるならば、一体大蔵省は、銀行局は何をしておったかということも承りたいとおもいます。  いずれにいたしましても、敗戦というならばドイツも敗戦、自由経済というならば、アメリカ、西ドイツともに自由経済、したがいまして、特にいま三木通産大臣は、敗戦だからと言うけれども、私がいま数字をあげておるのは、昭和三十年から三十八年の間を言っておるのであって、昭和二十一年から三十年の間を言っておるのではありません。そういう意味で、もう少し真剣な政府の責任についての反省がなければならぬと思うのだけれども、一体今日八・一倍の耐久消費財をつくるまで通産省並びに大蔵省の銀行を監督しておられる分野はいかなる指導をされたか、それに対して責任はないのか、そこを伺っておるのでありまして、敗戦や国民の責任を聞こうとは思いません。
  161. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 私は、統制経済だからそうならないでいくのだ、したがって、統制経済を主張するのだという観点には立っておりません。自由主義経済の中で、それぞれの持ち分において良識を持って行動しなければならぬ。しかし……(「八・一倍になるまで何をしておったか」と呼ぶ者あり)それでありますから、先ほど申したように、政府も必ずしも指導が十分ではなかった。したがって、高度に成長する経済に対して、やはり均衡ある成長という問題に取り組んでいかなければならぬ。しかし、どうしてそういうことが起こったかというお話でございましたから、過去において起こった原因を究明いたしまして、私なりに究明して、そうしてそれに対して今後政府考えていかなければならぬところを申し上げたわけでございます。ただ私は、銀行側に責任があるとか、あるいは企業家に責任があるとかいうことで、転嫁をいたしておるわけではございません。ともども良識を持って考えていかなければならず、同時に、こういうような自由主義経済の中にあっても、政府が行政指導の立場に立って十分な配意を今後ともしてまいらなければならぬ、こういうことを申し上げておるのでございまして、決して統制経済を主張しておるわけではございません。
  162. 三木武夫

    ○三木国務大臣 私は統制経済でやれという意味ではないので、日本の場合は設備投資の場合でもすべての責任を政府が負えということは実情に違う、やはり設備投資をする場合においては、これはもう企業家としての最高判断である……。
  163. 竹本孫一

    ○竹本委員 アメリカもそうです。
  164. 三木武夫

    ○三木国務大臣 それは各国においてそうです。社長というものは、設備投資をするところの判断というものに、社長の責任はかかっておるくらいのものです。そういう意味でありますから、統制経済でなくても、自由経済のもとにおいて、やはり節度のある設備投資というものは、企業のビヘービアとして持つべきであります。全部の責任を、経済の責任を政府に負わして、政府はその責任を負うていけるものではないわけであります。けれども、一面において、政府自身もこの経済の状態を全体的に把握できる立場にあるのでありますから、民間の過熱に対して指導よろしきを得なければならぬ。だから、私が言っておるのは、このいま御指摘になったようなアンバランスは、やはり民間も政府もともに責任を感じて、そうして新しい秩序のある、均衡のとれた発展に再出発しなければならぬ、こういうことを言っておるので、責任を転嫁する考えはありません。
  165. 竹本孫一

    ○竹本委員 いまの通産大臣の御答弁は、やはり責任は転嫁されないとおっしゃるのだけれども、ことばの節々を聞いておりますと、アメリカの事業家は英知を働かして、アメリカの社長は全体的な需給のバランスを考えながらやっておるけれども日本の五十万の会社の社長は、少しばかか無責任であるような話でございますが、そう理解してよろしゅうございますか。
  166. 三木武夫

    ○三木国務大臣 私は、ばかとかなんとか、そういう意味を言っているのではないが、やはりああいう敗戦の後から復興する過程においては、冷静を欠く場面があった。企業家自身も、私は、決して日本の企業家が、設備投資の場合に、将来の市場というものを考えて冷静な判断のもとに常に設備投資が行なわれたとは思っていない。シェア競争、シェア競争という点にかられて、将来に対してはあまり見通しのない設備投資を行なわれたというそしりは免れないと思うのでありまして、決して、しかし、そのことが日本の企業家に対して、これをあなたが使われるような形で侮辱する考えはありません。これは反省をしなければならぬ、反省を。そのビヘービアの中に反省の余地があるということだけを申しておるのでございます。
  167. 竹本孫一

    ○竹本委員 しかし、通産大臣に強く申し上げたいと思いますけれども、会社の社長の責任というものは重大であります。そうしてアメリカの社長も日本の社長も同じように苦労なさっておると思うのであります。しかし、先ほどお話がありましたように、五十万の会社がそれぞれ自己の計算と考え方の上に立ってやっておるのです。したがって、一つの会社は行き過ぎがある。当然なんです。その全体の調整をするのが政府の仕事じゃないか。その政府は何をしておったかということをいまお尋ねしておるわけでございますが、私は、そのアンバランスの責任は、したがいまして、経営者にあるというよりも、監督行政の立場にある通産省並びに一般政府にあるのだということをこの際強く指摘して、先ほど総理のおっしゃっておるように均衡ある発展ということをやろうと思うならば、特に通産省は大きな責任を背負っておるということを指摘したいのであります。  次に、アンバランスの裏側からひとつ問題を指摘してみたいと思いますが、たとえば国民総支出の中の消費及び投資の動きを見てみましょう。そういたしますと、日本の場合には、個人消費というものは、豊かな社会をつくるとか、憲法第二十五条がどうとかいわれておる中で、だんだん全体としてのウエートが減ってまいりまして、一九五三年に六一・五%でありましたものが、一九六三年、十年後には五三・二%に落ちておるのであります。六割以上あったものが五割になってしまった。国民総支出の中における個人の消費支出というものはだんだん割合が減っておるのであります。もちろん絶対額はふえたでしょう、物価も上がっておるのですから。しかしながら、全体のウエートが少なくなっていくということは、これは重大な問題であります。福祉国家の建設だとか、あるいは豊かな社会、偉大なる社会が論ぜられておる中において、ひとり日本だけ  これもついででございますから申し上げましょう。フランスの場合には六五%、イギリスでも、苦しい経済の中での個人消費は全体の六五%を占めております。しかるに、日本がかつて六一・五%であったものが、いまや五〇%に近づきつつある。これは重大な問題ではないでしょうか。逆に、投資の支出を見ると、これはもちろん敗戦国でございまして、いま三木通産大臣が指摘されたように、日本としての特殊事情のあることはよくわかりますが、それにしても、一九五三年に全体の二八・三%であったものが、六三年には三七・五%になっております。要するに、個人消費は六割以上あったものが五〇%に落ちつつある。逆に、投資のほうは二八%ぐらいであったものが三七%から四〇%に近づきつつある。しかもつくったものが全部稼働して売れるならけっこうですよ。そうじやなくて、通産行政がぼんやりしているおかげで、結果においては、あとで取り上げますけれども、操業率を見てごらんなさい。つくったものが役に立たぬじゃないか。そういうところへむちゃくちゃに国家の資源、国家の富、国民のエネルギーを回しておるということが問題なんです。そういう意味で、アメリカの場合でも、あるいは西ドイツ、フランス、イギリス、いずれも個人消費が六〇%をこえておるのに、福祉国家をともかくも言われておる自民党政府の中でそれがだんだん落ちていく、五〇%に落ちていくということは一体どういうことか。今後どういうふうにされるつもりであるか。逆に投資支出の場合には、日本とドイツの場合には、ドイツは二六%でございまして、日本の三七%には及びませんけれども、イギリスやアメ・リカよりは割合が多くなっております。それは特殊な事情としてよく理解できます。しかるに、日本の場合には四割投資に回して、国民個人消費のほうは六割以上あったものが五割を割っていく、こういうような大きな流れをいま持っておるわけでありまして、これは福祉国家なり庶民のしあわせを願われる政府のお考えとしては全く逆の方向にいま流れつつある。これを一体どう見られるか、総理のお考えを承りたいと思うのであります。
  168. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 問題は、国民総生産が伸びることにあると私は思うのです。その総生産を国民一人一人が分け合う。分け合いますが、分け合った一人一人の所得を、われわれは家計に使います。それがいま御指摘のいわゆる国民消費五〇%とか六〇%とかいうものになるわけです。ところが、われわれはその総所得の中で一部をさいて共同の家計を営む、これが財政でございます。財政のウエートといまのお話の個人消費は非常に関係があると私は思うのですが、昭和四十一年度に例をとってみますると、まさに共同の家計のほうが伸びて、一人一人の家計のほうが横ばいになっておる、こういうふうに思うのであります。ただ、その国民経済全体のバランスの中で設備投資という問題があるわけでありますが、これがいまは非常に引っ込んできておるわけでありまするが、それがもし非常に伸びるというような際におきましては、またただいまお話しの国民消費、これが圧迫を受けるということになりますが、その際には、私はその関係で圧迫を受けるということになる際におきましては、これは国民の消費、家計の内容というものがそれだけ下がるのだというふうに考えます。しかし下がっても、日本の産業に設備を残すのだという意味の意義というものは、十分われわれは認識しておかなければならぬし、ただその残り方が適切に残っておるかどうかというところに判断の問題があろうと思います。
  169. 竹本孫一

    ○竹本委員 大蔵大臣の言われる共同の家計の問題は私もよくわかります。しかし、いずれにいたしましても、またいかにことばをうまく申されましても、アメリカは現に自由経済の中でアンバランスのために参っておるということがないのです。西ドイツが事実そうなんです。とれまた敗戦国だ。でありますのに、ひとり日本だけがめちゃくちゃに八・一倍に耐久消費財をふやして、そうして今日はそれに引っ張られてきたすべての設備投資が意味を持たないような、稼働しないような形になっておる。これについてはやはり政府が言いのがれ答弁ではなくて、よほど深刻に考えていただいて、均衡ある発展ということにまともに取り組んでいただかなければならぬ。私、その点を指摘したいのです。すなわち、私の言いたいことは、先だってここでも引用されましたロンドン・エコノミストが、「驚くべき日本」ということで、日本経済の初めには非常な成長をたたえましたけれども、最近ではあきれはてたでたらめ経済だということで、「驚くべき日本」を言っておるわけですけれども、私をして言わしめるならば、これは「驚くべき日本」というよりも、「驚くべき日本政府」ということじゃないかと思うのです。政府の指導力というものがほとんど役に立っていない。これは主として佐藤内閣以前の池田内閣以来からの大きな問題だと思うのでございますけれども、ひとつこの点は十分にお考えをいただいて、今後の対策を考えていただきたいと思うのです。  次に、不景気の第三の原因を、私はいま申しました八・一倍になりました耐久消費財、それからそれを中心とした個人消費にいたしましても、あるいはまたあとで申しますが、中小企業や農村等に対するアンバランスの問題、第三番目にこれも重大な問題として指摘しておきたいのは輸出の問題であります。かつて石橋さんは、日本経済を立て直すのには輸出なんかに力を入れてもだめだ、これはなかなかむずかしい、それよりも国内でややインフレ的政策をやって、国内の購買力をふやしていくほうが簡単であり、有効適切だというような経済論を展開されたことがあります。ところが今日の実態を見ますと、やはり世界の安定成長をしておる国の、均衡ある発展をしておる国の経済の特色はみんな輸出に大きなウエートを置いております。御承知のように、日本の輸出依存度はわずかに大体一〇%であります。西ドイツは二〇%です。でありまするから、今後日本経済を均衡ある発展に持っていくためには、輸出に非常に力を入れなければならぬのだ。ところが、これが逆にいままでは輸出に対して力を入れていない。依存度から見てもドイツの半分だ。ここにも日本経済が見落しておる大きな問題があると思いますが、経済企画庁並びに通産省のお考えを承りたいと思うのであります。
  170. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 わが国の経済が輸出を基幹としてまいらなければならぬことは、私はそのとおりだと思います。石橋さんがどういう意味でそういうことを言われたのかわかりませんけれども、私はやはり輸出が非常に大事なことだと思います。  そこで輸出を大いに伸ばさなければならぬのでございますが、輸出を伸ばしますためにはやはり日本の輸出商品というものが他の国の商品と競争力を持ってまいらなければならぬのでありまして、その意味から申せば、私はやはり国民生活が向上して、そうして国内で使っているものがそのまま輸出に向けられるということが輸出を伸ばすゆえんだと思います。ですから、ある程度国内の生活が向上して、そして、たとえば電気冷蔵庫をみんなが持つということになれば、電気冷蔵庫が初めて輸出商品としてコストの面からいっても、あるいは機械の内容からいっても、外国品と競争できるようになる。したがって、そういう過程にまいりますまで、技術的な進歩あるいは国民生活の向上とともに、そういう種類の商品が使用されるようになる過程において伸び率が少ないのはやむを得ぬと思います。しかし、そういうものがだんだんできてまいりまして、そうして先進国貿易等にも信用を得てくる。たとえば、最近小型自動車が外国に輸出されるようになった。これはやはり道路が狭くて困るくらいに、だんだん国民が自動車を持ってくるということ自体がコストを安くすることでもあり、また自動車自身の内容の機械的操作の改善にもなってくるからこそ、初めて輸出商品として濶歩できるんだと思います。したがって、輸出については市場の問題もございます。あるいはそれぞれの輸出に対する政策もございますが、あわせてやはり国民生活の向上とともに日本の輸出商品の種類も拡大され、またその量も多くなってくる、こういうふうに考えております。
  171. 三木武夫

    ○三木国務大臣 昨年、昭和四十年暦年で、日本の輸出は八十四億八千万ドル。これはいま御指摘のような依存度からいったら低いけれども、伸び率からいうと二六・八%くらいの伸び率である。これは世界貿易の趨勢からすれば非常な伸びで、むろんこんなに世界貿易が伸びておる国はないわけであります。しかし、まだまだ日本は輸出を伸ばしていって、そのことが日本経済規模というものをやはりきめるわけでありますから、輸出振興ということが日本経済発展の基礎条件になるという考え方は、私も同意見に思うわけです。そういう点で日本が設備投資が行き過ぎて、一面から言えば、今日のような不況を招いた原因にもなっておるが、また一面から言えば国際競争力をつけるべきだという面も、この高度経済成長の一面としては、その評価をわれわれは無視するわけにはいかないということも申し添えておきたいと思うのでございます。
  172. 竹本孫一

    ○竹本委員 輸出の問題はあとでいろいろと通産大臣にお伺いいたしたいと思っておりますので、私はいま日本経済が不景気を招いた原因の一つとして輸出を軽視したとは申しませんけれども、輸出に対する努力が足らなかった、輸出産業中心の高度成長でなければ間違いなんだ、国内設備投資、それも耐久消費財中心の設備投資主導型であったところに禍根があるのだということを指摘すればいいと思いますので、次へまいります。  もう一つ、最後に指摘しておきたい不景気の原因の一つは、いわゆる借金経済の問題であります。御承知のように、わが国の産業資金の供給構成を見まして、これは日銀の調査でございますけれども、借り入れが八四%、株式は一二・二%程度になっております。まあ八割以上、八五%近くが借り入れによっておるわけでございまして、借金経済であることは間違いありません。そこで、その結果、今後の経済対策のまた重要な問題になるわけでございますけれども日本の主要企業のコストの中身を見ましても、たとえば数字が少し古いので恐縮でございますけれども、一九五五年と六四年とを比較いたしてみますと、資本費は一三・七%から二一・二%に上がっております。驚くべき増加であります。また同時に設備投資過剰という関係もありましょう、あるいは交際費が多過ぎるという関係もありましょう、管理販売費というものは一一・七%から一四・五%にふえておるのであります。これは一体どうしたことか。しかるに、その間において、たとえば人件費は一五・三%から一一・二%に、総体的でございますけれども、減っておるのでございます。さらにもう一つ関連して申し上げますが、たとえば具体的な問題としまして、鉄鋼の場合で調べてみました。付加價値の構成の問題でございますけれども日本は金融費用というものが、鉄鋼の場合には、一九・六%であります。これに対しましてアメリカは一・二%、問題になりません。西ドイツは四・六・%であります。なお、あわせて申し上げますが、配当は日本は九・五%、アメリカは五・八%、西ドイツは四・六%であります。さらに労働大臣にお伺いすることでありますが、人件費は、これに対しまして日本は四三・三%であって、アメリカは六五・一%であります。西ドイツは六一・八%であります。これは時間がありませんから、詳しいことは、ほかのものは避けますけれども、たとえば花形の鉄鋼についてみましても、国全体の流れをよく端的にあらわしておりまして、金融費用というものがものすごく高い、約二〇%である。これに対しましてアメリカは二%以下です。一・二%。西ドイツは五%以下、四・六%である。また配当の占めておるウエートが非常に日本は高い、九・五%である。それに対して西ドイツ、アメリカはそれぞれ五%前後であります。しかるに人件費のほうはどうかと申しますと、アメリカや西ドイツはそれぞれ六五%前後であります。日本は四三%である。この鉄鋼の付加価値の構成だけをとって考えると、これはもちろん一つの例でありますが、そういうところから考えてみましても、日本経済を立て直す上での大きな課題は、単なる賃金が上がって困るという問題もあります。しかしそれよりも人件費は、よそが六五%のとき、日本は四三・三%である。よそが一・二%しかないところの金融費用が日本は二〇%になっておる。配当はよそが五%前後のときに、日本は九・五%である。その辺に問題があると思うのでございますけれども、特にこの点は労働大臣の御意見を伺いたい。
  173. 小平久雄

    小平国務大臣 付加価値に占める賃金の関係は、いま御指摘のとおり、大体そうなっておると思います。わが国では、御承知のとおり、賃金の関係は、三十五年以来名目では大体一〇%余ずつ毎年大体上昇しておりますが、実質賃金から申しますと、三十五年を一〇〇として、昨年あたりが大体一二〇という程度に上がっております。一部からは賃金が上がり過ぎると言うし、片方からいえば低いと言うし、これは見方、考え方によっていろいろあると思いますが、いずれにしても実質はいま申したとおりでありますし、またこれが生産性との関係などにおきましても、大体生産性と見合った上昇を今日までいたしておる、こう申して差しつかえないかと思いますので、概略的に申しますならば、わが国の賃金というものは、大体妥当な線で来ておるのじゃないか、私はさように見ておるわけでございます。
  174. 竹本孫一

    ○竹本委員 そこで、念のため伺っておきますけれども、私ども民社党は、御承知のように、生産性の向上ということにはまじめに、前向きに取り組んでおります。したがいまして、生産性の向上を上回った賃金の要求というものについては、苦しい中でも同盟の諸君もこれを耐え忍んでおるような状態であります。  そこで、その問題はそれでいいとして、よくいわれる所得政策あるいは所得を制限しなければならないということを言われるのがありますが、私は、たとえば中小企業の場合においては、これは確かに賃金が上がり過ぎた。しかし、これも上げ過ぎたというよりも、上がり過ぎたやむを得ない必然性があるわけでございますが、所得政策をいう場合には、おおむね大企業の所得の問題だと思うのですけれども、いま申しました鉄鋼の場合は、大企業の代表的なものなんです。そういう点も含めて、一体いまの政府には、所得政策をやるとするならば、その前に行なうべきいろいろの改善、改革の努力をなすべき余地があまりにも多いということを私は強く指摘したいと思うのでございます。その点について経済企画庁長官のお考えを承りたいと思います。
  175. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 所得の平準化という現象が起こっておりまして、大まかに見まして、いま労働大臣が言われましたように、大企業におきましては、生産性と並行して賃金の上昇が見られておると思います。しかし、中小企業においては、先ほど申しましたように、設備投資に対する資金の供給も十分でない。したがって、高度成長の中にありまして、合理化経営あるいは近代化経営というものの資金もございませんので、十分な改善が行なわれておらぬ。そして生産性が上がってないというところに一つの問題点がございます。  なお、全産業を通じまして、私は、御指摘のように、自己資本が非常に少ない、二〇%を割っておるという状態は、これはその面から金利負担の面が非常に影響をいたしておるのでございまして、これらの問題もあわせて将来にわたって解決していくことによりまして、物価問題にも影響してまいりますし、いわゆる賃金吸収の上においても影響してまいる問題だと思います。  したがって、これらの面においてわれわれは努力していくことがまず第一だと思います。ただ、理髪その他どうしても合理化できないような種類のものがございますから、これは高度の経済が成長しておる過程において、外国でも一・五%程度のものはやむを得ないのじゃないか、こういわれておる範囲内に入るものだと思います。ですから、そういうことを指標にしてまいりまして、われわれは経済の今後の運営の方針を定めていくことによって、いわゆる所得政策に対応もできますし、物価安定の道にも進み得る、こう考えておるのでございます。
  176. 竹本孫一

    ○竹本委員 私は以上で今日不景気の根本の原因はやはりアンバランスにあるんだということを強く指摘したつもりであります。したがいまして、このアンバランスは構造的な面に大きな原因もあるので、これらの政策については構造的な改善、改革もやって、その上に立ってビジョンのある、均衡のある経済発展努力すべきだということを強調いたしたいのであります。  そこで、第二段に入りまして、政府がこの不況克服のためにとられております政策は、私は輸出の振興と金融の緩和と財政のてこ入れだと思います。この三つについては、はたして政府の所期されるような効果が上がり得るものかどうか、特にいまのやり方でそれだけの成果を期待することができるものかどうか、これについて一々吟味をしてまいりたいと思うのであります。  いま通産大臣は、輸出が二六・八%でございますか、ふえたということを非常に得意にお話しになりました。私は、しかしながら、輸出の問題は、物価の問題と並んで、あるいは場合によってはそれ以上に今後の日本経済に重大な影響を持ってくると思うのです。   〔赤澤委員長代理退席、委員長着席〕 通産大臣は、去年の統計を拾って、全体としてこの輸出の伸びが二六、七%あった、これをもって誇っておられるわけでございますが、私の調べたところによると、たとえば通関実績で申しまして、去年の一月には四六・八%、二月には四三・三%といったような勢いで、三〇%から四〇%、五〇%近くの勢いで貿易が伸びました。しかるに去年の十月ごろからどか貧で、ものすごく落ち込みまして、十月は七%、十一月は一二・八%、十二月はわずかに八・四%で、一時五〇%近く伸びた日本の貿易が、十月、十一月、十二月ごろからどんどん落ち込み始めまして、十二月はわずかに八・四%、一月になってもその大きな流れには変わりはありません。そういたしますと、これからの新しいビジョンのもとに考えられる中期経済計画以後の新しい計画がどういう形になりますか、あとでお尋ねいたしますけれども、やはり日本の輸出というものが日本経済をささえる大きな柱であるということに間違いありません。しかるに、その輸出貿易がかつて三割、四割、五割伸びたものが一割以下に落ち込む、この問題を通産大臣はどういうふうに見ておられるか伺いたい。
  177. 三木武夫

    ○三木国務大臣 貿易が毎月四割も五割も伸びるという事態が、ずっと永久にそういう形が続いていくということを期待することは無理だ。したがって、いま御指摘のように、来年度の経済見通しの中にも、やはり世界経済も成長のテンポがゆるんできておる傾向がアメリカにも欧州にもある。また、後進国の諸国は、外貨不足にも悩んでいるというようなことも勘案をいたしまして、来年度の経済見通しについては一〇%程度の輸出の伸びを見込んで、経済見通しを立てたのであります。九十四億ドルという見通しを、経済見通しの上に輸出の総額として期待をしておるわけでございます。
  178. 竹本孫一

    ○竹本委員 確かに来年度の貿易の発展は、ことしの二〇・八%に対してまして一〇・六%ということになっております。いろいろ御考慮されておるわけであろうと思うわけでありますけれども、念のために伺いたいのでございますけれども、世界貿易の新しい年度における発展と成長は、去年が大体八・二%でございますが、政府はどのくらいに見ておられるか伺いたいのであります。
  179. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 国連の統計によりますと、世界貿易の伸びは、四十年度は七・二%、そして国連の推定されております統計で、大体世界貿易の伸びを六%と見ております。若干世界貿易におきましても、四十年度よりも四十一年度が下回る見通しを立てております。われわれはそれに準拠いたしまして、世界も貿易状態がそういう状態である、そうして日本における事情等も考えまして一〇・六%くらいな伸び、ことに貿易総額が非常にふえておりますししますから、九十四億ドルというような推定をいたしたわけでございます。
  180. 竹本孫一

    ○竹本委員 政府は九十四億ドルを見込まれておる。世界貿易は七、八%伸びておったものを六%だという前提に立っておられるようでございまして、一応慎重でありますけれども、私がこの際指摘したいことは、それ以上に日本の貿易の伸びが苦しい立場に立たされるということであります。そのきびしい現実は、言うまでもなく世界が不景気になるとか、それからまた、よく言われるドル防衛体制の強化、こういうことについては、私は今日時間がありませんから触れません。ただ、今日までの論議の過程で比較的に見落とされている点を一つだけ特に指摘して、日本の輸出貿易は非常にきびしい条件の中に置かれるであろうことを強調してみたいと思うのであります。  それは何かというと、先ほど通産大臣のお話にありましたように、日本は敗戦でどこもここもみなやられてしまった。そこで、大いに高度成長も必要であったでありましょうし、特にその過程で比較的に能率のいい、比較的にいい機械が入った。それがためにいわゆる技術革新という面から見れば、敗戦国のおかげでかえって日本は恵まれた条件に立って、能率のいいものが入った、こういう面があったと思うのです。ところが、鉄鋼業の例で申し上げますけれども、鉄鋼業でも、たとえばアメリカは、御承知のように日本から追いまくられ、ヨーロッパのEEC諸国から追いまくられて、一時アメリカの鉄鋼業はまあ眠れるライオンだということになっておりました。ところが、私、昨年アメリカに参りましたときに、シカゴに参って驚いたのでありますけれども、これは通産大臣も御存じだと思いますけれども、アメリカはいまシカゴを中心に年間十八億ドルから三十億ドル、ことしはさらにそれをこえて大きな技術革新の設備投資をやります。もしこれをやられたならば、日本の鉄鋼業は、いままでのような太平の夢をむさぼっておることは許されないという意味におきまして、鉄が一つの例でございますけれども日本がいままで持っておった技術革新の面における優越性というものが、他の先進諸国が思い切って設備投資を始め、技術革新を始めましたために、今後は非常なきびしい競争条件の上に立たされると思うのでありますが、その点は一体来年度の一〇・六%の貿易の伸びの中の計算に入っておるかどうか。また、通産大臣は、アメリカがシカゴを中心にやっておる、さらに太平洋岸にまで伸ばして、御承知のように鉄鋼の設備は大拡張をやっております。これらの脅威といいますか、日本に与える重大なる影響をどの程度に織り込み、また考えられておるか、承りたいと思います。
  181. 三木武夫

    ○三木国務大臣 単にアメリカのみならず、最近、私欧州に行っても、欧州においても、やはり大規模な合理化投資が行なわれておるわけであります。これは世界的な傾向で、むろんそういうことも考えながら、輸出も九十四億ドルというのはかなり慎重な数字であります。実際私はもっと伸びると思っております。そういうことを慎重にいろんな世界情勢も勘案して来年度の見通しを推定をいたした次第でございます。
  182. 竹本孫一

    ○竹本委員 これから先は水かけ読みたいになりますから私は深く追及いたしません。ただ一言はっきり申し上げておきますが、私はことしの輸出貿易は九十四億ドルを達成するということは非常にむずかしい、これは国際情勢が、いま見込まれておるように世界の貿易が六%伸びるかどうか、これも各国の経済情勢――きょうは分析ができませんけれども、見ておるとむずかしい条件がある。その上に日本の強味が逆に弱味になってくる。技術革新は向こうのほうが先輩になってしまう。こういうことになった場合に、九十四億ドルの輸出がはたして確保できるかどうか。通産大臣、今日まだ内輪に見積ったのであるということをおっしゃいましたが、来年までよく覚えておきますから、お忘れにならないようにお願いをしたい。  さらに私は、輸出によって日本経済を振興するということでございますが、これもひとつ残念な問題でございますけれども総理以下皆さんお揃いのところでございますので、ひとつ問題にしたいのは、第二はダンピングの問題であります。私は、日本経済が不景気で、いわゆる輸出ドライブがかかりまして、ある個々の会社において無理をして輸出をしただろうということは理解できます。しかし、全体としての日本の輸出の中にそういうものが一体どの程度のウェートを占めておるのであろうか。またそれは、一方から申しますと、先ほど来申し上げましたように、輸出によって日本経済を繁栄させようということであるならば、富の蓄積をやろうということなんです。ところが、ダンピングで安く投げ売りをするということになれば、輸出は幾ら盛んになってみましても、実質は富の投げ売りであって、国民の全体の利益ということからいえば、マイナスを大きくしておることになる。そういう意味において私はむしろナショナルインタレストの立場に立って、そういう残念な現象があるかないか、まずひとつ伺いたい。  さらにアメリカあたりにおきましては、最近ダンピング論がだいぶ強くなっております。私はアメリカという国はときどき無理を言うし、また日本に対しても相当高圧的な態度で出てくる面も知っておりますから、あるいは日本の伸びる力というものを牽制する意味においてデマを飛ばして、日本の製品はダンピングであると述べておるのかもしれません。はたして一体どうなのか。もしダンピングでありとするならば、ひとつは国内における富をいたずらに投げ売りすることになって、国家経済のためにまことに残念、遺憾なことである。また、それが事実とすれば、対外的には必ず問題を起こして、長き将来にわたって日本経済発展させるゆえんではない。また、それがデマとすれば、アメリカが、日本の貿易がことし初めて、先般御指摘がありましたように、わずかに二十一億ドルの輸入に二十二億ドルの輸出でございますか、やっと初めて黒字を出したら、たちどころに日本の輸出を制限するために、そういうデマを飛ばして業界に政府は迎合しておるということなら、これは健全なる日米関係のあり方としても重大な問題である。この点についてはっきりした御答弁を願いたいと思います。
  183. 三木武夫

    ○三木国務大臣 私は、日本の貿易がダンピングだとは考えていないわけであります。むろん国内価格に比べて輸出価格の安いものが相当にありますが、しかし、いろんな条件が違う。たとえば現金化する場合にも、輸出の場合は非常に容易であるし、また数量もまとまっている。あるいは税制、金融上の便宜もある。また向こうの販売費などは、輸入先において負担をするということで、国内の価格と比べて、ある程度安い場合があっても、これはやはりそれだけの条件があると思うのであります。したがって、今日の日本の貿易が、ダンピングによるものだということは考えていない。アメリカに対しても、鉄鋼の問題でも、最近八幡製鉄の社長なども参って、そういう誤解のないように、今後経済外交あるいは民間の交流を通じで、日本産業に対するそういうふうな不名誉な誤解を一掃するように努力をいたしたい覚悟でございます。
  184. 竹本孫一

    ○竹本委員 通産大臣の御答弁にはまことに心強く思いますが、ただ私はそうでない事実を若干知っている。たとえば五万円のテレビが一万五千円で売られているということで、私はアメリカに参りましたときに、これでは困るということを指摘した人もおります。また二万円の電気洗たく機が五千円で売られておるという事実も指摘されまして、何とかこれは国内において解決をしてもらわないと困る。日本のいわゆる輸出秩序をすみやかに確立するのでなければ、長期にわたってアメリカに輸出を盛んにすることができないというお話を聞きました。そういう事実は例外的であるかもしれませんし、例外的であれば非常にけっこうでございますが、あるのかないのか、通産大臣にもう一度伺いたいと思います。
  185. 三木武夫

    ○三木国務大臣 全体としての貿易、これを世界各国に対しても、日本の貿易がダンピングだという誤解を世界市場に与えることは、私はよくないと思う。また事実そうならばやむを得ないけれども、ダンピングでないものが、日本の貿易が大部分ダンピングであるという誤解は、日本の国益に反します。中には、御指摘のような小さなラジオとか、そういうものが私は皆無だということは言いませんよ。それはしかしごく例外的なもので、われわれとしても、日本が貿易をやっていく以外に日本経済の均衡のとれた発展はないのですから、秩序のある輸出をしたいと考えておるので、たまにそういう一、二の例をとって、日本の貿易の態度に対して世界に誤解を生じさせることは、私はよくないと思う。
  186. 竹本孫一

    ○竹本委員 そういうふうにひとつぜひ、誤解は不名誉な誤解でございますので、これを解いてもらいたいと思います。  ただ、私が気になります点は、いまちょうど大臣がお話がありました八幡製鉄の稲山社長さんが先般アメリカに行かれた。これについてはいろいろのデマがいま飛んでおります。われわれも、いろいろ不愉快な話、また驚くべきことも聞いております。その点についても、この機会にそれが誤解であるならば誤解であるように、国家の名誉のために解いていただきたいと思います。
  187. 三木武夫

    ○三木国務大臣 昨年度、鉄鋼に対して伸びが急激であったことは御承知のとおり、これに対して輸入制限の運動があるので、そういうことを、実情をアメリカの業界の者にもよく話をして相互の理解を深めたいということが渡米の主たる目的だと私は聞いております。まだ、帰ってきて私は会っておりませんが、そういうことで鉄鋼に対する理解を深めるということが主たる渡米の目的だと承知いたしております。
  188. 竹本孫一

    ○竹本委員 ついでに、この際こういう不愉快な誤解、不名誉な誤解は一掃しておきたいという意味で、さらにもう一つだけ伺いますが、その際、稲山社長がアメリカに行かれた場合に、いろいろと――私きょう一々具体的なことは申しません。申しませんが、アメリカのほうから指摘をされたり、文句を言われたり、いろいろ話が出たようなことを聞いておりますが、これは重ねてひとつよく真相を明らかにしていただきたいということが一つと、さらにもう一つは、その関係かどうか知りませんけれども、アメリカが日本のそういうおわびを言ったと申しますか、説明をしたと通産大臣はそうおっしゃるのでございますけれども、とにかくその関係において逆にさらにひとつワクをはめられて、日本のシベリア開発に対する協力について、日本がそういう気持ちであるならばそれもやめろというような意味で、ある程度強い圧力がかかっておるといううわさが非常に飛んでおりますけれども、それはどうであるか。  特に、私どもの、あるいは国民の、その誤解をそこで招いておる点は、御承知のようにパイプ建設の問題、油田のパイプラインの問題について、ともかくも二十億ドルの輸出ができて、あとはその石油を買うんだといったような問題が、業界は急に態度を変えてまいりまして、あれは採算上どうもうまくいかないようだとかいうような理由でこれをやめる。これは非常に消極的なものになっておる。あれはアメリカで圧力をかけられたというのが町のうわさでありますが、そういうことがあるのかないのか。ひとつその点もこの機会に明らかにしておいていただきたいと思います。
  189. 三木武夫

    ○三木国務大臣 私の承知する限りにおいて、アメリカが日本の自主的な判断に対して圧力を加えるというようなことは、私は承知いたしておりません。
  190. 椎名悦三郎

    ○椎名国務大臣 政治的圧力については、いままでたびたび問題になりました。たとえば日韓条約の今回の成立に関連して、これもアメリカの圧力だ、これもアメリカの圧力だというようなことがありましたが、それはもう全然ないということはかねて申し上げておるとおりであります。経済の問題にそういったような圧力をかけておるというようなことは、これはほとんど、何と申しますか、根拠のない流説である、かように考えます。
  191. 竹本孫一

    ○竹本委員 それでは、輸出に力を入れていただく、これによって経済を立て直す、大いに必要なことでございますが、私はそのきびしい条件について一、二指摘をいたしました。特に私が輸出の伸びについて心配しておりますとともに、もう一つ重大な深刻な心配をしておりますのは国際収支、特に資本収支の問題であります。輸出がどこまで伸びるのか、これも議論をすればきりがありません。また逆に輸入が大いに伸びるのではないか。この輸入性向の問題等も論議すればきりがありませんが、本日は残念ながら割愛をいたしまして、端的に最近における長期、短期の資本収支についてお伺いをいたしたいと思います。
  192. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 最近の資本収支は、長期は、御承知のとおりアメリカにおきますドル防衛の見地からいたしましてとられております政策等のために、長期的な資本が日本に流入しにくくなっております。また同時に、アメリカの金利と日本の金利との関係から見まして、短期におけるユーザンス関係その他に弔問題がございます。したがいまして、今後これらの問題については十分な好転を見るというわけにはいかぬ。引き続き赤字の状態、来年五億ドルくらいな赤字だと推定をいたしております。
  193. 竹本孫一

    ○竹本委員 去年の赤字が大体五億四千六百万ドルであります。ことしの赤字が五億ドルというのは、わずかに四、五千万ドルの減にすぎません。そういうなまやさしいことで一体これが済むかどうか、経企長官にもう一度御説明を伺いたいと思います。
  194. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 こまかい点については大蔵大臣から……。
  195. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 長期資本のほうで多少ただいま提出してある経済計画の資料より減るかもしれませんが、総合いたしましてそうたいした変化はございませんと思います。
  196. 竹本孫一

    ○竹本委員 私は短期の問題を特に心配をいたしておるわけでありますが、日本の金利が徐々に下がっていく。それからアメリカのほうは、まあドル防衛の関係もありまして、去年の十二月御承知のように公定歩合も上げた。こういうような関係で、たとえば輸入ユーザンスの場合におきましても、ドルから割り安の円にどんどん切りかえられる。さらにまたわが国の為替銀行の輸出ユーザンスを利用して、いままでは現金で買っておった者が輸出のユーザンスを使うというような関係で、採算の関係から、日本の金利が下がってアメリカの金利が上がった、こういう関係から、為替市場においては非常な注目すべき重大な変化があると思うのであります。  それではお伺いをいたしますけれども、ごく最近における為替市場では一ドル幾らになっておりますか。
  197. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 政府委員から御答弁いたします。
  198. 鈴木秀雄

    鈴木(秀)政府委員 お答え申し上げます。インターバンクの中値で大体三百九十一円八十銭から九十銭くらい、場合によってちょっと上がったこともございますが、大体そのくらいのところで落ちついております。
  199. 竹本孫一

    ○竹本委員 ただいまお聞きのように、ドルに対しては非常に弱くなりまして、三百六十円だと思えば、三百九十一円幾らというような驚くべき情勢であります。政府は国際収支については非常に楽観しておられる。そこにまた今後の経済計画の大きな挫折点があるということが私は心配でありますので、こまかく聞いておるわけでございますが、そういうふうに円が落ちてドルの値が出てきた。この関係において、伝えるところによれば、日銀は平衡操作に出動してドルを売っておるということを聞いておりますが、はたして日銀はドルを売っておるのであるか、売ったとすればどの程度売ったのであるか、承りたいと思います。
  200. 鈴木秀雄

    鈴木(秀)政府委員 三百六十一円でございます。九十一円というのは、まったく大間違いでございました。  外国為替特別資金でございますが、それをもちまして日本銀行が適当なる為替の平衡操作をやっております。なぜいまが高いか、円が円安になっているかと申しますのは、やはり一-三あるいは上半期においては、相当日本の状況は輸出よりも輸入の水準が季節的に高いという原因もございますことを申し添えておきます。
  201. 竹本孫一

    ○竹本委員 三百六十一円と三百九十一円を間違えられるようなことじゃ、まったくどうも議論はできませんが、しかし三百六十円四十銭、あるいは三百六十円すれすれであったものが、今日は三百六十一円六十銭なり七十銭なりになっておるということは、相場の問題でございまして、数字は苦手の人が多いわけですけれども、これは重大な問題であります。専門的に見れば、日本の一ドルは三百六十二円に近づいておるということになると重大な問題であるし、ただいままた、さらに日銀が平衡操作をやっておるような御答弁でございましたけれども、どの程度やっておられるかについてはお話がなかったと思いますが、もう一度御答弁を願いたいと思います。
  202. 鈴木秀雄

    鈴木(秀)政府委員 平衡操作を毎日どうやっておりますかということは、為替銀行その他のいろいろな思惑を呼びますものですから、一切極秘にしております。したがいまして数字等につきましては、この席でも、あるいはどこの席でもそういったことを申し上げたことはございません。
  203. 竹本孫一

    ○竹本委員 事務的な答弁でなくて、大臣からこの問題について、趨勢としてのドルの問題、円の問題をお話を伺いたいと思います。
  204. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 わが国の国際収支は非常に順調だと思うのです。特に順調だと思いますのは、最近は経常収支が黒字になりまして、資本収支で赤字になる、しかも幾らか残る、こういう状態でありますので、きわめて堅調だと思いますので、円の国際価値につきましてどこの国でも不安は持ちませんし、したがいまして円の価値が変動するというようなことは原則的にはないわけであります。ただ輸出期、輸入期というようなことから多少の上限下限があろうかと思いますが、基本的に何ら心配する徴候というものはありませんでございます。
  205. 竹本孫一

    ○竹本委員 大蔵大臣から、基本的に心配はないのだと、これも言明をされたものをはっきりと記録にとどめておいていただきたいと思います。ただこの際強調したいことは、わが国の経済政策はときどき重大な問題を見落とす。たとえば池田内閣の経済高度成長政策というものは、ほとんど一番大事な物価の問題を忘れておったというか、見落としておりまして、今後佐藤内閣において経済政策をやられる場合、物価の問題は、論議が非常に不十分でありますけれども、一応論議されております。しかしこの委員会におきましても、国際収支の問題についてはあまり議論が展開されなかった。しかも私の見るところ、国際収支というもので佐藤内閣の経済政策は大きなつまずきに直面する心配があるのであります。そういう意味で、この点を特に強調いたすわけであります。  ついでに伺いますけれども日本の外貨準備、その中に輸入ユーザンス、いま話にありましたこの輸入ユーザンスのような短期の借り入れば一体どのくらいあるものか。さらにわが国の対外資産、負債の残高は、一体ポジションはどうなっているか。この点が具体的な、私は数字を一々あげませんけれども政府が数字を見せないで、非常に楽観放送されているような、なまやさしいものではない。もう少し真剣にわが国の資金あるいは資産、負債のポジションというものは深刻に考えなければうそだ。もし絶対そんなことは心配ないのだと言われるならば、やや確実な数字で御議論をいたしてもいいのでございますが、私は、対外資産、負債のポジションも、世間で考え、あるいは政府一般言われているようなのんきなものではないと思いますので、あとうる限りにおいて、輸入ユーザンスのような短期の借り入れが外貨準備中にどのくらいあるものか、また、全体としての日本のそういう資産と負債のポジションは絶対に心配のないようなものかどうかを伺いたいと思います。
  206. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 外貨のポジションは、ここ数カ年の間に私は非常に内容が悪くなってきたというふうに思うのです。それは何でかといいますると、経常収支の赤字を資本収支の黒字でまかなった、こういう点にあると思うのです。これは改善しなければならぬ点である。しかし最近におきましては、これが改善される傾向になってまいりまして、現に昭和四十年度のごときは、経常収支において相当の黒字であることは御承知のとおりであります。その経常収支の黒字が、私はまた四十一年度、四十二年度と、こう続いていくという見通しを持っております。そういう形で、悪くなったポジション、これを改善していくことが可能である、また改善をしていかなければならぬ、そういうふうに考えておる次第でございます。ただいまお話しの短期資本がどういうふうになっておるか、あるいは資産、負債はどういうふうになっておるか、これはいかなる席でも申し上げることのできない問題なのでありまして、ひとつ御宥恕をお願いしたいと思います。
  207. 竹本孫一

    ○竹本委員 私のほうから数字を申し上げてもいいのですけれども、適当な機会とも思いませんのでこれはやめます。ただ、私は持に強調したいのは、みんながのんきに考えておるようなポジションではない。これは池田内閣が物価の問題で大きな困難に直面したと同じように、この内閣の経済政策は、この資本収支の問題で大きなつまずきに直面することがあり得るという心配をして私は申し上げておるのでございますから、特に御留意を願って国政の運営をお願いしたいと思うのであります。  次へ参ります。第二の景気政策は、御承知のように金融緩和ということであります。はたしてこれで量的にも質的にも日本の金融を緩和し、金利負担を軽くして、日本経済を浮揚させる、景気を出すということかできるかということについては、やはり疑問があります。  そこで、私は大蔵大臣に伺いたいのでありますが、四十一年度の金融は、国債が圧迫要因になりまして、いま説明されているよりももっと深刻に締まってくると思いますけれども、大蔵大臣の見通しを伺いたい。
  208. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 過日も申し上げたのですが、国債政策をとります限りにおきましては、金融は緩和基調に持っていく。緩和基調が一体実現できるか、こういうお話だと思うのでありまするが、預金の伸びが非常に好調でございます。特に昭和四十一年度、本年度におきましては、預金の伸びだけで四兆九千億になる。これは伸びでございます。三十九年度におきましては四兆円あるわけでございます。それが四兆九千億さらに伸びる、こういう状態でございます。したがいまして、三十九年、四十年は九千億もよけいに伸びておる、こういう状態でございます。したがいまして、四十一年度の預金は一体幾らふえるだろう。今回は、公債政策等の拡大財政によりまして、相当預金の伸びが強くなる、こういうふうに見ておりまするが、そういうことを考えないでも、従来の傾向からいきますれば、五兆ないし六兆という程度は、確実にこれを見積もることができる、さように考えております。それだけの伸びのある中で七千三百億円の公債、また四千億円の政府保証債、そういうものは、そう支障はなく消化されていく。その他の民間債、金融債等においても同様と、こういうふうに考えております。つまり、公債を出すと金融が詰まるのじゃないかというようなことがよく言われるのでありますが、これは税の場合も同じだと思うのです。租税収入として吸い上げる。また公債を市中消化の形で吸い上げます。その吸い上げた金を別にかん詰めにしておくわけじゃないのです。これは政府の歳出として使用するわけであります。ただ、吸い上げてから支出をするまでの間にギャップが生ずる。このギャップに対して適切なる操作を必要とする、こういうことかと思うのでありますが、これは日本銀行がその全機能をあげまして、あるいは売り買いのオペレーション、あるいは貸し出し政策等を考えましたが、同時に、政府におきましても、今度、従来二千億円でありました大蔵省証券を五千億円に限度をお願いしたい、こういう御審議をお願いしておるわけでありますが、金融の情勢によりましては、まず大蔵省証券を発行する、民間への浸潤の様相を見てこれを国債に置きかえる、こういうことも考える次第でございまして、そのギャップにつきましては、これを円滑に埋めていく、こういう考えであります。ただ一つ、金融が逼迫するケースというものがあります。それは公債政策をとった結果といたしまして、景気が出てきた、民間の資金需要が起こってきたという場合であります。しかし、それに対しましては、日本銀行が通貨を供給する。これは成長通貨を供給するのでありまするから、私どもは不安を持たない、かように考えておる次第でございます。
  209. 竹本孫一

    ○竹本委員 大蔵大臣のただいまの御説明、先般来承っておるわけでございますけれども、私、これは預金の増加だけをただ楽観的に計算しただけでは、不十分ではないかと思うのです。特に問題の民間の事業資金の問題でございますが、たとえば全国銀行協会で計算したというのですが、新聞で見たのですけれども、これによりますと、四十一年度の資金不足は五千七百億円と見ておる。それは日銀とコールでまかなうわけでございますが、特に私が注目いたしましたのは、その場合に資金運用の面で貸し出しが、去年が二兆四千二百億であるのに、ことしは二兆五千六百億ということで、わずかに千四百億円しかこれは計算上ふえておりません。ことしは景気を出そう、大いにまた事業会社はやってもらわなければならぬという立場と、事業資金がこの程度で、銀行協会であるか何であるか、とにかく計算をしておるということとは、非常に矛盾する。すなわち、民間に景気が出れば、いま大蔵大臣も御指摘になりましたけれども、民間に活気が出て、事業を活発にやろうと思えば思うほど、事業資金需要が多くなる。しかるに、現在すでに五千七百億資金不足を計算し、その場合にもわずかに千数百億円しか資金の貸し出しの増加を見ていない、こういうようなあやふやな計算の上に立って問題を考えたならば、たいへんなことになるではないかという点が一つ。  さらに、時間がありませんのでまとめて御質問いたしますが、本年における増資の払い込みはどの程度に一体見ておられるかということであります。御承知のように、六月までの増資の払い込みは決定済みでありますけれども、それ以後は一体どうされるつもりであるか、またどうなるであろうと見ておられるか、この点を伺いたいと思います。
  210. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 ただいまの銀行協会の資金計画というものについては、まだ伺っておりません。また、事務当局においても伺っておりませんで、何かの情報かと思います。これを対象にしていまここで論議をするわけにはまいりませんが、大体ただいま申し上げましたように、相当の預金量を期待できる状態でありますので、不安を感じるような事態にはならない、これだけははっきり申し上げられると思います。  民間の事業債が昭和四十年度において幾ら消化されておるか、これは順調に消化されております。また年度末に至るまでの分も順調に消化される見通しでございますが、詳しい資料は事務当局から御説明申し上げます。
  211. 竹本孫一

    ○竹本委員 増資……。
  212. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 増資もそうでございます。
  213. 竹本孫一

    ○竹本委員 時間がありませんので、最後に中小企業の問題と金融の問題とあわせて一緒に申し上げます。先ほど来中小企業の問題については総理からもお答えもございましたが、金融が緩和するという基調の中で、中小企業全体の貸し出しにおいて占めておるシェアというものは、私の見るところ、逆に減っておると思うのであります。  そこで集約をしてお尋ねをいたしますけれども、大体今日、中小企業が生産分野において、になっておる役割りというものは、ウエートは六割から七割になると思うのであります。しかるに、全国銀行が貸し出しをしておる中小企業向けの貸し出しというものは大体五五%程度あったものが、最近では四二・三%に落ちておる。この事実を認められるかどうか。もちろんこの間におきまして基準の取り方が変わった点や、いわゆる千万円、五千が円の問題がいろいろありますけれども、古い基準によりましても大体大同小異でありまして、まず伺いたいことの第一は、六割から七割の生産を担当しておるものに四割から五割の金しか回さない、そういうことで中小企業は高利貸しのところへ走らないでよいか、不渡りを出さないで済むかということが一つ。さらにもう一つは、この銀行の中小企業に対する貸し出しのウエートが最近だんだん減っておる。特に中小企業基本法制定の前は四六%でございました。制定された最近には、四二・三%に落ちておる。この二つの問題を一体どういうふうに政府考えられておるか、伺いたいと思うのであります。
  214. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 まず、金融のシェアの問題からお答え申し上げますが、これは確かにここしばらくの間微減の傾向があったわけであります。しかし絶対額はふえております。しかし、この一、二ヵ月はまた増加する傾向に転じております。行政指導等によりまして、なるべくこの傾向が持続されるようにいたしたい、かように考えます。  事業量のほうは、通産省のほうからお答え申し上げます。
  215. 三木武夫

    ○三木国務大臣 事業量は六割程度と理解しております。
  216. 竹本孫一

    ○竹本委員 通産大臣に伺いたいのでありまするが、かりに私どもは、これは計算のとり方で幾らでも変わりますが、六割の生産をしておるものに対して四割程度の金融のシェアでどうして中小企業が立っていくか、この点を伺いたいと思います。
  217. 三木武夫

    ○三木国務大臣 中小企業に対しては、政府のほうとしても、いろいろな金融上の配慮はいたしておりますが、やはり市中銀行に対しても、中小企業金融というものに対してはいろいろな条件のむずかしさもあるのでしょうが、もっとやはり金融のシェアはふやすべきだというふうに考えております。
  218. 竹本孫一

    ○竹本委員 ふやすべきであるけれども、ふえないところに実は問題があるわけでございまして、私どもがいま伺っておるのは、どうしてふやすかということであります。これはふやさなければならぬ。もう当然のことでございまして、議論を要しません。しかし、ふえていない。逆にパーセンテージは減っておる。いま大蔵大臣は、最近の数字では少しふえてきたということをおっしゃいましたけれども、これはきわめて当然なんです。一時的なんです。しかも当然。なぜかといえば、大企業は設備過剰で困っておりますので、いま金を借りて設備投資をやろうという人はいないのですから、大企業のほうがお断わりしておるから中小企業のほうが相対的にふえておる、こういうことでございまして、こういう例外的な事象をつかまえて中小企業の金融が改善されたというわけにはいかないと思うのですが、いかがでございますか。
  219. 三木武夫

    ○三木国務大臣 やはり中小企業の金融の率をふやすためには、中小企業というものは資本装備率も非常に低いですから、だから中小企業に政府も設備近代化等の助長策を講じておりますから、また企業自体も設備近代化というか、その体質を改善しようという意欲を起こして、そして資金的な需要も起きてこなければいかぬ。設備投資でも、やはり中小企業のほうが昨年に比べて二割減ぐらいの状態で、大企業よりもずっとやはり設備投資の意欲が沈滞しておる。これを、中小企業が生産性を高めるためには、設備の近代化をはかって、体質を改善しようという意欲も起こらなければ――資金的な需要ということも起こることが必要でありましょうから、そういう点において、今後通産行政の上においても、あるいはまた、中小企業自体の上においても力を入れていかなければならぬと考えております。
  220. 竹本孫一

    ○竹本委員 設備近代化の問題につきましては、通産大臣からいまお話がありましたので、あとで最後にもう少し掘り下げて論議を尽くしたいと思いますが、その前にもう一つ伺っておきたいことは、公定歩合が去年三厘下がりました。十七兆円の銀行の貸し出し等を計算いたしまして、もし公定歩合が一厘下がりまして、全国の銀行の貸し出しが、政府のその方針に呼応して一厘下げるということになりまして計算をいたしてみましたところが、大体これは一厘下がれば、あるいは貸し出しの金利が全面的に一厘下がれば、六百二十億円の資金コストの軽減になります。これが景気を刺激するということは大いに期待されることなんです。ところが事実を見ますと、私は日本銀行の調査をここに持っておりますけれども、去年一年間に、公定歩合が三厘下がったのに、金利ははたして幾ら下がったかということが問題だと思うのです。実際は一厘五糸しか下がっておりません。三厘下がったのに、三分の一だけしか銀行は金利を下げておらぬ。私はあとで銀行法の改正についてもお伺いをしたいと思うのでございますが、今日の社会において一番不届きな存在は――と言ってはことばが強過ぎるかもしれませんけれども政府でさえも手を焼いておられると私は思うのですが、それは銀行だと思うのです。まじめに生産をしておる中小企業やあるいはその他の産業資本はまだ理解できるが、今日あぐらをかいて経済界に君臨しておるものは銀行である。この銀行に対してもう少しメスを入れるのでなければ、先ほど来お話しになっておる社会のバランスのある発展ということは期待し得ないと思うのです。そういう点でお伺いをしておるわけでございますが、第一は、三厘の公定歩合を下げたのにかかわらず、日銀の調査によりますと、三十九年末の全国銀行の平均の約定金利は二銭一厘八毛九糸、それが四十年の十二月末には二銭八毛四糸であります。すなわち一厘五糸しか下がっておらぬ。  そこで私は大蔵大臣に伺いたいのでございますが、三厘公定歩合を下げても、銀行が政府の政策に真剣に協力しないで、三分の一の一厘五糸しか下げないというのは一体何ごとであるか。政府はこれについていかなる指導をされ、いかなる監督をされておるか。また銀行は暴利をむさぼっておるということは、今日町の声になっております。銀行は公定歩合についても三分の一しか下げないようなやり方で、去年は一体どの程度の利益をあげておるのか。私の調べるところによりますと、去年の九月期決算において製造業は二九%ぐらいの赤字を出している、減益になっておるというときに、ひとり銀行のみがプラス一〇・二%の利益をあげておる。一体こういうことは許されるべきであるかどうか、これは総理大臣にお伺いをいたしたいと思います。
  221. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 お話のように、全国銀行で見ますと一厘五糸の引き下げになっております。ただ、公定歩合と非常に関係のありますのは都市銀行なんです。都市銀行のほうは年末一厘三毛六糸でございまして、今日では一厘四毛ぐらいと予想しておるのです。この一、二ヵ月の間に一厘五毛ぐらいをいま期待しつつ指導をいたしておるわけであります。  銀行がこの不況時に高収益をあげたということでございますが、そのとおりであります。私は、銀行も産業界も、これは同じ船なんだから、同じ精神でいかなければならぬという気持ちで指導に当たっておりますが、金利等の関係で、都市銀行を中心にいたしまして相当の黒が出た、こういう状態でございまするが、ますます私はそういう状態を基礎にいたしまして金利の引き下げのほうに努力をしていただく、かような指導をいたしたいと存じています。
  222. 竹本孫一

    ○竹本委員 一厘五糸下がったということでございますし、数字についてはいろいろとまだこまかい議論がありますけれども、特に私はこの際強調いたしたいと思いますのは、下がったのは全国平均であって、中小企業のは下がっていないということであります。これは大蔵大臣もいろいろとお聞き及びかと思いますけれども、いま、ちまたで一番嘆いて憤慨をして怒りを持って訴えておるのは、金利が下がったというけれども、われわれの金利は下がらない、また、統計の上においては一厘五糸下がったというけれども、われわれが借りているのは下がらない、一厘下がっておりますのは、これは大口に対する貸し出しにおいて一厘下げて、あるいは一厘以上下げまして、たとえば二銭三厘で貸しておったものは二銭一厘に下げた。そういうものと、中小企業に対しては全然貸し出しの金利は下げていない、それを平均して一厘下がっているのです。でありますから、実情をひとつ検討していただいて、あるいはこれは資料を要求してもいいかと思いますけれども、とにかく銀行は中小企業に対する貸し出しの金利はほとんど下げていない。下げておるという数字があるならば承りたい。下がってはおりません。しかもこれは、したがいまして大蔵大臣の御答弁にありませんでしたけれども、企業が二割、三割と減益になっておるときに銀行だけはプラス一〇・二%の増益になっておる、そういうことで、先ほども伺ったのでございますけれども、一体いいのかどうか、中小企業の金利は、ほとんど下がっていないのではないか。この点については、通産大臣からもう一度伺いたい。  さらに、いまお話しになりましたように、一厘四毛ぐらい全体としてはもう最近は下がったのではないかという御答弁がございましたけれども、これも三厘下げた政府の意図は、やはり全国的に、全面的に金利負担を軽減して景気を出そうということなんです。それに対して政府考えられて三厘下げた。いまやっと一厘四毛、半分以下であります。一体政府経済政策あるいは金融政策というものは、そういうふうに二分の一、三分の一程度銀行がついてくればそれでいいというふうに考えられるのかどうか、その点も伺いたいと思います。
  223. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 すべての貸し出しが公定歩合の引き下げに結びつくわけじゃありません。銀行の資金は、日本銀行から借りる資金もありまするし、その他一般の預金を原資とするという部面も多いわけでありまするから、したがいまして、三厘公定歩合が下がったから三厘下がるかというと、それだけの角度から考えた場合には、三厘は下がらないのであります。しかしながら、ただいまお話しのような銀行の収益の状況というものもある。またさらにコストを低減するための合理化努力、こういうものもしていただかなければならぬ。そういういろいろなものを総合いたしまして、私は銀行の貸し出しというものがもっと下がるように期待し、またそういう指導をしていきたい、かように考えておるわけであります。そういう間にありまして、中小企業向けの金利がなかなか下がりにくい、これはお話しのとおりであります。そういうことも考えまして、政府三機関、これはせめて大いに下げよう、こういうので、昨年の秋に三厘、また今回三厘、こういう引き下げを考えておるような次第でございます。できる限り金利は下げて、そうして景気、また会社の蓄積にひとつ貢献せしめたい、かように考えております。
  224. 竹本孫一

    ○竹本委員 大事な問題でございますから、もう一度言いますけれども、私も、公定歩合が三厘下がったので、全国の公定歩合に関係のない銀行の貸し出しまで三厘下がるとは考えません。しかし、政府の金融政策のあり方からいえば、やはり全般的に三厘ぐらいはコストを下げていく、これで景気を出していく、こういうねらいではなかったかということを強く言っておるわけであります。  次に進みますが、なお念のために伺いますけれども、三割減益になった、金融機関は一割増益になっておる。この矛盾の中で、私が伺いたいのは、たとえば中小企業は、去年は史上空前といわれるくらいつぶれました。その場合に一体、貸し倒れ準備金の問題でございますけれども、私がいろいろ調べてみますと、銀行の中には選別融資を強化して、貸し倒れ準備金に訴えなければならないような貸し出しは、初めからもう避けてしまう。こういうことで、企業が苦しんでおるときには、本来ならば銀行だってともに苦しむだけの、それこそあたたかさがなければ、日本の金融機関としての大きな社会的使命は果たせないと思うのです。ところが今日は、企業がつぶれるのは、おまえ、つぶれてもよろしい、おれのほうは担保さえ確実に取っておけばよろしいと、こういうような態度で、例をあげれば切りがありませんが、やっております。そういう意味において、一体銀行には、今日、政府の政策に協力する、あるいは中小企業その他の企業の悩みに協力をして、ともに共甘同苦で苦労をともにするというかまえがあるのかないのか、それを一体政府はどう見ておられるか。貸し倒れ準備金はどれだけみずから犠牲を払って、苦労をともにしておるか、その辺を伺いたいと思います。
  225. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 全くお話のとおりでありまして、産業も金融も、これは一体のものであり、同じ運命のものである。またそういう意識で金融当局というものは融資に当たらなければならぬというふうに考えます。ただしかし、金融機関は大衆の預金をお預かりいたし、そしてこれを有利確実に運用しなければならぬという責任もあるわけでありまするから、めちゃくちゃに貸し出しをする、こういうわけにはまいらないわけであります。しかし、そういう制約のもとにおいて、ただいまお話しのような精神でやっていかなければならぬし、私どももそういうことを常々金融機関には申し上げておる次第でございます。
  226. 竹本孫一

    ○竹本委員 最後に総理にお伺いしたいと思うのでございますが、いま、銀行の今日のあり方の矛盾についていささか強く指摘をいたしました。私は先般アメリカに参りましたときに、連邦準備銀行に参りまして、最後に、別れに臨んで一冊のパンフレットをもらいました。それは「マネー」ということでありまして、さらにサブタイトルがついておりまして、「マネー、マスター・オア・サーバント」と書いてある。これはなかなかおもしろいと思いまして読んでおるのでございますが、お金というものは、アメリカのような資本主義の国でも、一体われわれの国民生活、われわれのまじめな経済生活の中においてマスター、主人であっていいのか、あるいはサーバントであるべきか、これは重大な問題であります。最近における日本経済というものは一体どうなっておるか。先ほど大蔵大臣も私と同感の旨の御答弁がございましたけれども、大体今日は経済活動というものはほとんどすべてが銀行にサービスをし、銀行がマスターになってしまっておる。これは人間尊重のわれわれの新しい政治の方向とは全く逆であります。何としても金融というものはわが国の経済に奉仕すべきものである、経済はまたわれわれの国民生活国民経済に奉仕すべきものである。全部が価値関係が逆になっておると思いますけれども、これについて総理大臣は、日本の金融行政のあり方、日本の銀行のあり方というものについて、ひとつ佐藤内閣の人間尊重、また日本の産業経済のあり方を正すという意味において、いかなる決意を持っておられるか承りたいと思います。
  227. 佐藤榮作

    佐藤内閣総理大臣 先ほど来いろいろ御議論を述べられましたが、最後に、金融はマスターかサーバントかと、こういうところが落ちのようであります。私は、先ほど来大蔵大臣がお話をしておりますが、金融業、銀行、これも産業の一つだ、経済界の一環だ、お互いに助け合う関係にあるのだ、銀行だけがよくて他の産業をつぶして銀行が栄えるわけはないわけであります。終局においては、それは栄えない。また産業自身が銀行をつぶして、そうして産業だけ栄えると、こういうものでもない。これは車の両輪みたいなものだろう。相互に、ともに栄える、これがただいまの、実は不況克服という私のこの内閣に課せられた課題でもあるのでございます。私は、ただいま、そのいずれかというように結論は出しませんが、お互いに助け合って、お互いに繁栄の道をたどろう、これが銀行の経営者も、また産業の経営者も、同時にその考え方に徹すべきじゃないかと思います。私、この佐藤内閣自身は、ただいま不況を克服して、全部が栄えるような、そういう状態に持っていきたい、これが今日の私ども政治的使命だ、かように考えております。
  228. 竹本孫一

    ○竹本委員 時間がまいりましたので、民社党は議会制民主主義を守ることを最高なりとしていますので、この辺で終わりますが、いずれにいたしましても、いまや全体が調和をもって発展するためには、金融のあり方に根本的なメスを入れなければならない段階にまいっておる。日銀法並びに銀行法の改正も、真剣に前向きに取り上げなければならない段階にまいっておるということを強く強調いたしまして、私の質問を終わりたいと思います。
  229. 福田一

    福田委員長 これにて竹本君の質疑は終了いたしました。  次会は明十二日午前十時より開会することといたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後五後五十九分散会