○足鹿覺君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
提案されました
雇用対策法案につき、
内閣総理大臣並びに関係閣僚に対し若干の
質問を行なわんとするものであります。
今日、
わが国政治が
国民に対して
解決をはからなければならない中心的な課題の一つは、
物価の
値上がりと経済不況によって深まっている
生活の不安を具体的に解消することにあると
考えるのであります。(
拍手)
政府は、
昭和三十五年以来、
国民所得倍増計画に基づく高度成長
政策を推進してまいられたのでありますが、
政府の見通しとはうらはらに、
物価は
所得の伸びを上回る急激な高騰を示し、大企業と
中小企業との格差をはじめ、社会、経済全面にわたる二重構造の
矛盾は深まり、不完全就業あるいは不安定雇用の問題や住宅問題は今日なお深刻な
状態にあるのであります。この
国民所得倍増計画の破綻に際し、
政府は、安定成長への手直しを行なうため、
昭和三十九年秋、中期経済計画を策定したのでありますが、本年一月には、この計画もまた破棄せざるを得ない事態に立ち至ったのであります。このように経済計画をしばしば
変更するということは、
政府に確固たる
国民経済に対する
基本的な姿勢が確立されていないことをみずから物語るものといわねばならぬと存ずるのであります。(
拍手)
このため、
政府の統計によりましても、
昭和四十年の勤労者世帯の実収入は
物価上昇によってマイナスに転じ、勤労階級の
生活はいよいよ困難の度を増しているのであります。一方、雇用の面におきましても、昨年の企業
倒産は六千百四十一件の多きにのぼっていること、本年一月現在における失業保険の受給者が実に七十二万を数え、また、臨時日雇いという不安定雇用
労働者は
昭和三十九年にすでに二百六十万人に達しているなど、きわめて憂うべき情勢にあることがわかるのであります。
さらに、農業
基本法体制による農民切り捨て
政策の結果は、百万に及ぶ出かせぎ農民を生み出しているのでありますが、これは、
わが国の農業と農民の家庭
生活を破壊へ追いやるものとして、農業
政策上の重要課題であるばかりでなく、低
賃金と長時間労働あるいは労働環境の劣悪さと無権利
状態といった点から、労働
政策上の重要課題でもあるのであります。(
拍手)
また、今日全国で八十四万人に及ぶ家内
労働者が安い工賃で長時間労働を余儀なくされていることは、出かせぎ農民の問題とともに、労働
政策上の緊急課題として把握しなければならないと思うのであります。
このような不安定な労働情勢は、歴代自民党
政府の経済
政策及び労働
政策が
労働者や
中小企業を圧迫する方向で推し進められてきたことに基因するといわなければなりません。(
拍手)
私は、以上述べましたような事実認識の上に立って、まず最初に
総理大臣にお伺いいたしたい。
その第一は、失業はもとよりとして、私がいま申しましたような不安定雇用、不完全就業をいかなる具体的
政策をもって解消しようとされておられるのか、その構想について伺いたいのであります。すなわち、
昭和三十四年、雇用審議会が、完全雇用に関する答申、いわゆる第二号答申において、
政府がとるべき雇用
政策の方向並びに施策について明らかにしておりますが、
政府は、今日まで
国民所得倍増計画及び中期経済計画の展開にあたってこの答申の内容をいかなる形で具体化されてきたのか、また、今後この答申を十分に尊重し、これが実現のため努力する強い決意をお持ちであるかどうか、お伺いいたしたいのであります。
第二に、雇用
政策に関するILO百二十二号条約並びに勧告についてお伺いいたしたい。申すまでもなく、この百二十二号条約並びに勧告の基礎をなしているものは、ILOのフィラデルフィア宣言において明らかにされているとおり、「一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である」という原則、並びに世界人権宣言における、「何人も、労働し、職業を自由に選択し、公正且つ有利な
労働条件を得、及び、失業に対する保護を受ける権利を有する。」という原則であります。この雇用に関する国際通念として確立された百二十二号条約について、
わが国政府は、この条約が採択された一九六四年のILO第四十八回総会において賛成したにもかかわらず、今日まで批准を行なっていないのであります。このことは国際信義にもとる行為といわなければなりませんが、何ゆえ今日まで批准がなされなかったのか、その
理由を明らかにすると同時に、
総理は、この条約をすみやかに批准し、勧告を含めてこの条約の
趣旨を国内法に反映させる決意をお持ちであるかどうか、お伺い申し上げたいのであります。(
拍手)
次に、経済企画庁長官並びに通産大臣にお伺いいたしたい。
本法案においては、労働力の需給を均衡させるため、雇用対策
基本計画を策定することとなっております。この計画の内容いかんは
労働者の死活の運命を握ることは言うまでもありませんが、本法案では、この
基本計画と経済計画との関連について、単に調和をはかるというにとどめられておるのであります。いやしくも雇用対策の
基本計画を樹立するからには、
労働者の職業の安定、
生活水準の向上を
基本として、これを基礎に国の経済計画全体が確立されるべきであり、経済計画に従属して雇用計画が策定されるようなことが絶対にあってはならないと
考えておるのであります。(
拍手)しかるに、現在、中期経済計画が廃止され、これにかわる経済計画はいまだ策定されておらず、膨大な赤字公債の発行、公共投資の繰り上げ
実施などといった場当たり的な
政策が、長期的な見通しに立った経済計画との関連性がないままに進められているのであります。一体、経済計画がない現状において、雇用対策
基本計画と経済計画の関連を具体的にどのようにして
処理されるつもりでありますのか、また、現在策定中といわれる新経済計画において、雇用計画の
目標をどのように設定されておるのか、これを明らかにせられたいのであります。
次に、
政府は、
地域格差の解消を目的として、いわゆる新産業都市法を制定したのでありますが、との法律の基礎となった
国民所得倍増計画の破綻とともに、新産業都市計画もまた完全に行き詰まりを来たしておることは周知の事実であります。この結果、今日、
わが国工業の大半は依然として太平洋沿岸ベルト
地帯に集中し、
地域格差はさらに拡大する傾向にあるのであります。
政府は、新経済計画の中で、
地域格差解消の具体策をいかに
考え、また、産業と雇用の適正配置についてどのような
政策をお持ちであるのか、御所見を承っておきたいのであります。(
拍手)
最後に、労働大臣にお伺いいたしたい。
今後の雇用情勢の推移について見まするに、
わが国の出生率は、
昭和三十八年において、人口千人に対し十七・三人であり、フランスの十八・二人をも下回っているのであります。この出生率の低下によって、新規学卒の若年労働力は急激に不足する反面、人口構成の高齢化と技術革新の進展、産業構造の変化に伴い、いわゆる合理化解雇が進行し、一面不足、一面過剰という錯綜した情勢が予想されるのであります。しかるに、現在の若年労働力の不足
状態の中にあっても、中学卒業者を見ると、大企業の充足率は求人の五割以上が確保されておるにもかかわらず、
中小企業は二割程度にとどまっているのであります。
そこで、第一点として伺いたい。このような大企業への若年労働力の集中は、若年低
賃金労働力の大企業による独占への道であり、したがって、
中小企業における新規学卒労働力の確保を困難ならしめるとともに、大企業から排除される中高年齢労働力を低
賃金によって
中小企業へと下向移動させる結果となっているのであります。この二つの問題を解消するための具体的施策を用意しないままに本法案が施行されるならば、大企業と
中小企業の格差拡大と中高年齢
労働者の雇用不安は一そう拍車をかけられることとなると思われますが、
政府は問題
解決の具体的施策を用意されておるかどうか、この際明確にしていただきたいのであります。(
拍手)
第二点として、雇用安定のための総合的施策についてお伺いしたい。冒頭に申し述べましたような一般的な雇用不安が存在するとともに、当面する緊急の問題として、炭鉱、駐留軍、林野、建設、港湾などの各産業における不安定雇用をいかにして
解決するか、その具体案が急がれなければなりません。
政府が本法案によって真に完全雇用を達成するというならば、かねてからわが党が
主張しておる
最低賃金制の確立、児童手当法及び家内労働法の制定、失業保障の抜本的改善、低家賃公営住宅の拡充、さらには農業
政策及び
中小企業政策の転換が必要であると思うのでありますが、これらの諸点についてどのような施策を
考えておられるか、お伺いいたしたいのであります。(
拍手)
第三点としてお伺いいたしたい点は、いやしくも雇用
政策を
考える場合、
政策の対象となる
労働者の
意見が最大限に尊重されなければならないのでありますが、今日すでに多くの労働団体より本法案に対して反対の
意見が表明されているのであります。一体、
政府は、雇用審議会その他の機会において表明されておる
労働者の
意見をどのような形で本法案に織り込まれているのか、この際明らかにしていただきたいのであります。
第四点としてお伺いいたしたいのは、労働行政のあり方との関連についてであります。われわれのなまなましい記憶によりましても、最近とみに、航空機事故、炭鉱災害、ダム現場等の災害など多くの労働災害が発生しておりますし、さらに、近くは日産・プリンスの合併の例に見られるように、
労働者の団結権の侵害のため直接警察権力が介入しております。このように、合理化が進行する中で労働災害の多発、団結権の侵害、あるいは労働基準法をはじめ
労働者保護の法律の空洞化が進んでいることは、われわれのまことに遺憾に存ずるところでございます。(
拍手)いかに
政府が雇用計画を策定されようとも、
労働者の安全と権利を守る
立場を明らかにした
政策と行政を行なわない限り、真の雇用安定はあり得ないと思うのでありますが、労働大臣の所見を明らかにしていただきたいと存ずるのであります。(
拍手)
要するに、以上の
質問を通じて明らかにしましたように、本法案は、経済計画との関連において不十分であるばかりでなく、従来窓口規制の強化等によって行なわれてきた強権的行政措置に法的
根拠を与えんとする立法となるおそれが多分にあり、本法をもってしては、完全雇用の達成はおろか、むしろ不完全就業の再生産を
意味するものでしかないとの
観点から、私は、
政府が本法案を撤回し、真に完全雇用を達成する具体的施策を伴った立法として出直すべきであることを強く要求し、私の
質問を終わる次第でございます。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕