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松浦定義君 私は、
日本社会党を代表し、ただいま
提案の
農地管理事業団法案に対し、
佐藤総理並びに
大蔵、
農林、労働各
大臣に、順次
質問をいたします。
まず、
政府は、本
法案を再
提出するにあたり、
わが国農業の将来並びに
食糧自給対策等、
基本的かつ
長期見通しのもとに総合的な検討がなされたかどうか。
法案の
内容を見るに、わずか一部分の修正にすぎない。わが党が主張した
基本的な点は何ら考慮されていない。この点をまずお伺いいたします。
本
法案は
赤城前
農林大臣の
構想によるものであり、その
内容は、
初年度六千
町歩、
資金百億、十年間で三十三万五千
町歩、
利子二分、
償還期限四十年、特に
離農者対策をも考慮されていたものであったのであります。しかるに、
大蔵省の
農業軽視政策と
農民に対する無理解によって後退し、昨年度
提出の
原案は、わずか
全国で百方
町村、一千
町歩、
資金は二十億、十年間で八万
町歩、特に
金利三分、
期限三十年、依然として売りっぱなしで、
離農者に対しては何らの
対策もないのみならず、二、三年間は
テスト方式で、実に自信も確信もない
内容であり、廃棄の取り扱いは当然であったのであります。
しかるに、
佐藤総理は、先般三月一日の本
会議における
湯山議員の
質問に対し、次のような
答弁をされているのであります。「
農地管理事業団は必要であり、もしこれが一年早くできていたら、ことしなどは一年間本格的に働いて
実績をあげただろうと思います。」と言明されているのであります。本格的に働いたら何ができているのか、どのような
実績があがったとお
考えになるのか、具体的にお聞かせ願いたいのであります。
大蔵大臣に伺いたい点は、本
法案が
日本農業の将来に絶対必要であるとお
考えになるならば、
赤城前
農林大臣の
構想をなぜ無視されたのか。
金利二分、
償還期限四十年を、三分、三十年に切り下げ、
事業費は百億を二十億にする、
離農者対策は全然無視する、無謀にもひとしい処置であります。
わが国の
農政は、
農林省ではなく、
大蔵省や
通産僧の意のままに振り回され、いまや
大蔵省農林部的な立場に置かれ、
農林省の
自主性は全く地に落ちて、
関係者の批判とひんしゅくを買っておるのであります。一例を見ても明らかなように、
農基法でいう
自立農家百五戸
育成のためには、九十万
町歩の
農地の
移動が必要であります。それに要する
資金は、反当二十万円といたしましても、一兆八千億の
資金が必要であり、これは
政府の
公約であった。
農基法審議の焦点であった。
基本法の柱である
公約を一方的に破棄し、これを今回の
農地管理事業団法案で推進するなどと誇大に宣伝し、
内容と責任のすりかえを行なわんとしていることは、
農民をごまかそうとしているものであり、まことに遺憾であります。
金利二分、四十年の
資金は最低の要求であると思うが、
大蔵大臣の責任ある御
答弁を願いたいのであります。
次に、今回再
提出の
内容は、四百
カ町村、三千
町歩、
資金四十億、
利子は三分、
期間三十年、五カ年間に八万
町歩、おもな
改正は、
未墾地を加えたことと、
市町村農業委員会を
受託事務の
処理機関に指定する程度にすぎず、問題の
離農者対策には一言半句も触れていないのは、
小農切り捨てを裏づけるものであり、反論の余地は全くないのであります。
農政関係者、
学者グループ、特に
与党内部にも多くの
反対論のあることも明らかであります。この席から申し上げるのはまことに失礼ではありますけれども、去る九日、
全国農業会議所主催の
全国農業者大会の席上、本
院農林水産委員長は、
農林委員会を代表してと発言され、
日本の
農政には全然中心がない、すなわち、
食糧の
総合政策がない、このような状態で、
構造改善がどうとか、やれ
農業近代化がどうとか、
農地管理事業団などと言っても問題にならないのではないか、だから、場当たり
農政、手探り
農政だと野党に批判されるのは当然であると、語気を強めての意見が示され、一同異様の感であったのであります。本
法案の
内容の不備不当性が
全国の
農業委員会の会長の前で明らかに示され、社会党の反対の態度が理解されたと思います。(
拍手)したがって、慎重なる検討が必要と
考えます。これらの意見に対し、総理の御所見を承りたいのであります。
農林大臣にお尋ねいたしたいことは、この
法案は、
農地等の
権利移動を円滑にして、
農業経営規模の
拡大等に資することを
目的としているのであります。三十九年に
自作地の
有償移動面積は七万六千
町歩、この中には零細
兼業農家の
取得面積も含まれております。実際に
経営規模拡大のための
移動は、全耕地面積の一%にすぎないのであります。これは、
農家が
経営規模を
拡大する
条件がほとんどなく、その動きがきわめて低いことを示している。この状態の中で、
農地管理事業団がわずか一%の
農地移動のその何分の一かの
移動を促進することで
農業構造改善に寄与するということは、全く意味がないと思うのであります。
政府は、積極的に経営
拡大できるような
条件を問題とすべきではないか。
また、
農家が現在経営
拡大ができない
理由の一つは、
農地の価格が商いこと、また基幹労働力が不足していること、
資金の蓄積がないこと、特に農畜産物価格が不安なことなとであります。四十年度の
農業の動向に関する年次
報告は、これまでの高い経済成長は、一面において地価の高騰、
兼業農家の増大、
農業労働力の質的な低下を招くなど、
農業構造の
改善を妨げる方向に作用しつつあることを認めているのであります。しかも、今後もこれまでの動きを
基本的に変えることはないと見ているのであります。さらに、優良
農地の壊廃面積の増加傾向、また不耕作地面積の増加を明らかにしているが、かかる状態を放置したままで全耕地の一%足らずの流動化を進めても、
農業構造の
改善にはならない。
政府は、まず、優良
農地の壊廃防止、農用適地の整備拡充等のため、土地利用区分を明確にし、全額国費で土地改良を実施し、
農地価格が宅地の高騰に影響されることのないよう
対策を確立すべきであると思うが、
農林大臣の御所見を承りたいと思います。
次に、
自立経営を目標とする
農家の
農地取得を促進することを第一に掲げている。ところが、現状は、
農業年次
報告が
兼業農家といえども
農地保有の意欲が強いことを指摘しているように、他産業で安定した就業の保証がないために、
兼業農家は
農地を手放そうとしない。これは当然のことであります。最近の経済不況の影響で、一度離村就職した者が再び離職し帰村する、いわゆる還流人口が増加している傾向から見ても、
兼業農家、零細
農家が
農地を手放す
条件はない。しかしながら、北海道の畑作地帯においては、一
町村何百
町歩という
移動が行なわれんとしている実態は、まさに、ここまで追い込んだ
政府の責任であり、
わが国農政の一大悲劇といわざるを得ないのであります。この現実を総理並びに
農林大臣はどうお
考えになるのかを承りたいと思います。
次に、
農業年次
報告の中で、耕種部門をはじめとして
農業生産の停滞傾向が見られることを明らかにし、特に
兼業農家の生産力が専業
農家より劣ることを指摘している。ところが、全耕地面積のうちで
兼業農家の耕作面積は実に七一%に達している。このうちの一%ぐらいを年々
自立経営に
移動させていくぐらいでは、
農業全体の生産を高めていくためには実に数十年の歳月を要することになる。さらに、一方では、
兼業農家の生産への意欲を失わせ、国全体の
農業生産の低下を促進することになる。全体の生産を高めようとする見地に立つならば、少数の自立経常
育成に力を注ぐよりも、兼業農、零細農を含めて生産を高める方策を樹立すべきであると思います。現に、小
規模農家の参加した
農業生産法人や、
兼業農家も加わった水稲の共同作業など、共同化の方向での
経営規模拡大の動きは
全国各地に数多くの実例があるではないか。
政府はこの方向をこそ伸ばすべきではないかと思うが、
農林大臣の御所見を承りたい。
次に、
自立経営とはいかなる
農家をさすのか。適正
規模とはどの程度なのか。かつての
所得倍増計画では、二町五反と言い、十年間に百万戸の
自立農家の
育成をすると
政府は言明していたが、現在どうなっているのか。このためには約九十万
町歩の
農地の
移動が必要となるが、
政府はこれら
農地の
移動をどう進めようとされるのか。
農地管理事業団がこの
事業に当たるとするならば、あまりにも
法案の
内容が不備であると思いますが、具体的に数字をあげて計画を明らかにしてほしいのであります。
次に、
政府はこの
法案を糸口として
農地法の
改正と小作料の改定を検討していると伝えられているが、事実かどうかを伺いたい。
現行
農地法は、耕作
農民の所有権、耕作権の擁護を原則としており、これを改悪して
農地を少数の上層農に集中させようとすることは、
農地制度上重大な問題である。本
法案がその糸口となる危険は多分にある。
農地法改正の具体的な
内容と、それらと本
法案との関係を明らかにされたい。もしそれが明らかにできない段階であるならば、この
法案のみを切り離して成立させるべきではないと
考えられるので、特にこの点明確にしていただきたいと思います。
次に、この
事業の機構についてであります。
中央並びに県段階では、役人が一方的に支配する
内容になって、役人の古手が大部分で、すでに中央、県段階では人選がうわさされていると聞くが、この点はどうなのか。
しかして、最も仕事が多くて困難な
市町村段階は、わずかの
事務費で
農業委員会にすべてを押しつける仕組みになっている。
市町村段階の困難な仕事をまかせるならば、中央並びに県段階も
農民の団体である県
農業会議、
全国農業会議所にまかせて、この
制度の
農民的、自主的運営をはかるべきである。
政府機関は監督の立場にあってこの適正運営を推進することが
農民の協力と理解を得る最善の方法と
考えるが、どうか。半官半民的な
事業団の性格では責任ある
事業の遂行はできないと思うが、御所見を承りたいのであります。
次に、労働
大臣の御意見を伺います。
この
法案の重要な点は、経営の
規模の
拡大、
集団化、
農地保有の
合理化等、適正円滑に行なうことを
目的としているが、これを達成するためには、二つの
条件の完全な一致を見なければならないのであります。すなわち、その一つは、土地を
取得する側の
農家は、低利長期並びに
農地の
拡大等有利な
条件のもとで生活は安定するが、他方、土地を手放す
農家は、離農転業をするにあたり好
条件は何一つない状態の中で、生活の不安は何ら解消しないのであります。この両者を比較した場合、あまりにも雲泥の差があるではありませんか。先祖代々引き継ぎ永住してきた人たち、また、戦争の犠牲となって強制疎開させられた人、人知れぬ苦労の連続の中で借金に苦しみながら無計画な入植により今日離農を余儀なくされた者等々に対し、責任ある
対策の片りんも見られない
本法軍は、
農民の真の苦しみを知らない為政者ならいざ知らず、みずから
農業を体験している者としては、断じて承認できない
内容であります。
労働
大臣は、
離農者に対する職業安定行政なるものを
考えておられるのかどうか、もし
考えがあるならば、なぜそれを本
法案の中に一項でも加えなかったのか、その
理由を明らかにしていただきたいのであります。かつて、石炭政策転換
対策として離職者に対してとった実例があるではありませんか。これと同様の取り扱いが必要と
考えるが、御所見を承りたいのであります。最近、聞くところによると、
農民を
対象にした国民年金の付加年金
制度の新設、また、離農希望者などに対する職業安定行政を拡充する等の意見があると聞くが、その
内容を明らかにするとともに、かかる本
法案の
内容で
目的が達成できると
考えるならば、その
理由を明らかにしていただきたいのであります。
最後に、したがって、社会党としては、次の根本的な
農業構造政策の実施を
考えていることを申し上げておきたいのであります。
すなわち、国土の高度利用を大胆に計画すべきであります。国土調査、利用区分の策定、農用地造成、
農業近代化促進のための国の重点
対策を打ち出すべきであります。特に、
農民年金
制度の確立と、
農民を社会保障の面で差別しないことなどであります。
政府は、
農業基本法では西ドイツの例を取り入れ、今回の
農地管理事業団構想はフランス、オランダの
制度をまねたものといわれているのであります。ここで、諸外国における
農地流動化について触れてみたいと思います。
昨年、私は、社会党の第二次欧州
農業調査団長として各国の実情を広く見聞いたしましたが、第一は、
農地値上がりについて強力な抑制策を取り入れていることであります。したがって、
農民の
離農者年金
制度など、
農民保護の
制度が確立しているのであります。イギリスの場合は、
農民の
自主性を尊重しながら
農地の流動化が進められ、その具体策として立法化を進めている重要な点は、五十五歳以下で他の職業につく者には、一時金として千ポンド、
日本円で百万円を与える、六十五歳以上の
離農者には、毎年百ポンド、十万円と、一エーカー、四反当たり一ポンド、千円、これを離農当時の面積に乗じて与える、また、離農は決して強要せず、共同化を希望する者には共同化に必要な経費の九〇%を国が補助金として支出する等であります。
わが国においてもこれに近い政策がとられない限り、国民の
食糧不安は絶対に解消できないことを申し上げておきます。総理並びに
大蔵、
農林両
大臣の御決意のほどを承りたいのであります。
以上の見地に立って、本
法案は名実ともに
慎重審議を必要とすることが明らかになったと思います。したがって、時間の制約を受ける本
会議の
質疑では要を尽くすことはできません。
本案の重要度にかんがみ、今後当該
委員会審議にあたり総理
大臣並びに関係
大臣の出席方を特に要請いたしまして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔内閣総理
大臣佐藤榮作君
登壇〕