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卜部政巳君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
坂田農林大臣から御
説明の行なわれました
漁業年次報告及びこれに伴う
施策につきまして、
佐藤総理並びに
関係各大臣に対しまして若干の質問を行なわんとするものであります。(
拍手)
沿岸漁業等振興法が三十八年に制定されまして、同法に基づくいわゆる
漁業白書が
国会に
報告されるようになってから、本年で三回を迎えるのであります。第一回におきましてはわが党の赤路議員から、前回におきましてもこれまたわが党の松井議員から、それぞれ
漁業白書のあり方につきまして具体的な問題を掲げて
政府の反省を求めてきたところであります。しかるに、今回におきましても、
政府の態度は相変わらず本質の究明に欠けておりまして、苦境に立つわが国
漁業の振興対策を打ち出すという誠意に、そしてまた意欲に欠けておることは、全く遺憾であるといわざるを得ないのであります。(
拍手)
これは、ひとり私だけが受けた感じでは決してないのであります。
漁業白書が
国会に
提出された去る二月二十三日の新聞論調がこれを裏書きしておるのであります。すなわち、朝日新聞は「
長期展望を欠く
漁業白書」と題し、毎日新聞は「決め手を欠く
漁業白書」と、また読売新聞は「停滞を続ける日本
漁業」と題しまして、それぞれ社説を掲げ、日本
漁業が近い将来当面するであろう問題についてはほとんど触れていない、
漁業が幾ら豊凶に左右される産業とはいいながらも、世界的視野に立った上での一年一年の分析が行なわれるのでなければ、これからの白書としての価値はないとまでに極論しているのであります。(
拍手)
政府は、率直に世論に耳を傾け、かつ、えりを正すべきであります。
漁業白書はその年限りのものではないのであります。また、本
会議における
質疑応答もその場限りのものであってはならないことはもとよりであります。今後におきましては、今回に見る
年次報告と講じようとする
施策、この
関係が全くちぐはぐで、水産行政に基本なしなどというようなことが言われないように資料の
整備につとめ、真剣な分析と
長期展望に立ったところの強力な
施策を実施するよう要望しておきたいと思います。
かかる観点から、前二回にわたるわが党議員の質問との重複を避けまして、数点にわたって質問をいたします。
第一点は、わが国の
漁業生産の
動向をどのように受けとめ、いかに対処しようとしておるのかを、ひとつ
佐藤総理から基本的な態度についてとくと承りたいのであります。
まず、第一回から今日までのその白書が示すところの生産量を見た場合に、第一回の
漁業白書は、
漁業総生産量の
増大を掲げ、三十七年の生産量六百八十六万トン、わが国
漁業生産量の最高を記録し、かつ、これを誇った年のものであったのであります。しかしながら、皮肉にも、従来世界に第一位を占めてきた日本が、その地位をペルーに奪われたのもこの年であったのであります。その後は、第二回の白書が示すとおり、三十八年は六百七十万トン、対前年比二・五%の
減少であります。さらに、今回の白書におきましては、三十九年は六百三十五万トンで、前年よりさらに五・二%も
減少しておるのであります。このように、白書は、端的に、引き続く総生産量の
減少を
報告しておるのであります。
以上のように、わが国の
漁業生産量は
減少の一途をたどっておるにもかかわらず、反面、全世界の
漁業生産量は目ざましい
発展を続けておるのであります。しかして、三十九年には五千万トンに達して、過去十年間に二倍に伸びているのであります。一体、総理は、かかる現象をいかように判断しておられるのでありましょうか。
しかも、白書は、この生産量の
減少のおもな原因を、——先ほど
農林大臣は特にこの点を指摘いたしておりますが、サンマ
漁業の不振あるいはイカ釣り
漁業の不振に求めておりますが、これらは漁況だとか、さらには海況の
変動とか自然的要因によるものであるというようなことも織りなしまして、軽々に判断を下した上、さらに、一時的なものであるというような、安易な、無責任な受けとめ方をしていることは、これまた全く遺憾とするところであります。
御承知のとおりに、わが国
漁業を取り巻く国際環境はますますきびしくなっておるのが現実の姿でありまして、沿岸国における領海の拡張、または日韓
漁業協定の締結を契機としての専管水域設定の動きが活発になっておることは心すべきことだと思うのであります。また、ソ連及び南アメリカ、アフリカ、アジア等が
漁業に対して大きく進出してきたこともあわせ考えてみるときに、白書がいうように、
漁業の不振を自然的現象によるものとして安易に片づけることは、許されてよいはずはないのであります。
さらに、
水産物は国民食糧のうち動物たん白質供給源といたしまして重要な役割りをになっております。たとえ近年畜産物の消費が
増大しているとはいいながら、わが国にありましては、動物性たん白補給の半分以上は、依然として
水産物でまかなっておるわけであります。今後におきましても、
水産物の
需要は
増大の
傾向にあることは明らかなのであります。
以上のような各般の事情を総合判断するならば、わが国の
漁業生産の
減少の原因を軽々に判断すべきでなくて、いまこそ
漁業生産の
維持増大をいかにすべきかということを真剣に考えるべきときにきていると思うのであります。
しかるに、講じようとする
施策を見ましても、遺憾ながら、これに対処しようとする積極的な姿勢は見当たらないのであります。低位安定というか、
漁業経営の安定に
重点を置きまして、生産及び
価格対策には、全然といっていいほど熱意が感じられないのであります。かかる点に関しまして、総理の率直な御所見を承りたいのであります。同時に、国民食糧供給の責任をになう
農林大臣といたしましては、
水産物に対する
需要を満たすために、いかに対処しようとするのか、また、わが国の
漁業生産量の目標を那辺に置き、輸入のウエートをどの
程度に考えるのか、具体的にこれがための
施策について明確に答弁をしていただきたいのであります。
第二点は、
水産物の
価格であります。
水産物の生産は
減少する反面、
需要は
増大しておるのでありますから、
価格の
上昇は必然であります。近年
水産物の
価格が高騰を続けまして、対前年比一一%の
上昇であります。中でも、特に庶民の食ぜんを潤す多獲性大衆魚の
価格上昇率が最も高く、一八%ということは放置できないところであります。皮肉にも、
漁業者は生産量の
減少を魚価の高騰によって補い、ようやく
漁業経営をささえているというのが、残念ながらわが国
漁業の現実の姿なのであります。生産対策も含めて、流通対策、
価格対策について
農林大臣の御答弁を求めます。
第三点は、
水産物輸入の問題について総理並びに
農林大臣に質問をいたします。
水産物の輸入は逐年大幅に
増大しておりまして、三十九年においては対前年比五一%の増であります。そして、その金額は三百二十三億円、一躍わが国も
水産物の輸入国として世界第七位の地位にのし上がったのであります。私は、ここで単に輸入量の
増大のみを問題にしようとは考えておりません。他面わが国が従来から
水産物の輸出国として世界第一にあるということを知っておるからであります。しかしながら、
水産物輸入の急増が国内における流通あるいは
価格対策に及ぼす影響を思うときに、これまた決してゆるがせにできない緊要な問題であると考えるのであります。沿振法第三条に国の
施策として明定されておりますとおり、
水産物輸入の調整を行ない
漁業経営の安定をはかるための具体的な
施策を講ずべきときであると思うが、大臣の所見をお伺いしたい。ただし、従来におきましても非自由化品目として輸入割り当て制をとっておることは重々承知いたしておるのでありますから、答弁はひとつ、輸入割り当て制度の運用を効果的に行なう云々という逃げ口上ではなくて、私の指摘した具体的
施策を行なうかどうかについて答えていただきたいのであります。
なお、輸入
水産物の
増大のおもなるものは生鮮冷凍
水産物でありまして、韓国からの輸入
増大の結果であります。韓国は、日韓国交正常化という名のもとに行なわれる日本の経済援助等によりまして、今後飛躍的に漁獲力が
増大することは明白であります。しかも、これが漁獲物は直ちに日本への輸入となってはね返ってくることも容易に理解されるところであります。現に、下関等各漁港には韓国漁船による直接水揚げが行なわれておりまして、市場における競合となっているのであります。しかも、日本漁船の場合は、五十三海洋丸の例に見るごとく、共同水域においてさえ発砲、拿捕されるという状態なのであります。しかも、この五十三海洋丸の件だけにとどまらず、日韓
漁業協定の締結後に数件にわたって臨検されるという
事件が発生をしているのであります。こうした中にあって、韓国漁船がわがもの顔にわが国の下関や清水等の各漁港に直接水揚げを行なって、競合をしておるということに相なっては、今回の
事件にいきり立つ漁民の口をついて出るところの「日韓
漁業協定は不満だらけだ、ただ人間尊重が取り柄で、いやいやながら納得せしめられたのに」というこのことばは、耐えがたき漁民感情からほとばしり出たことばだと私は思うのであります。(
拍手)総理はこのことばをどういう気持ちで受けとめられるか、また、対処しようとしているかを承りたいのであります。
なお、
政府は、講じた
施策といたしまして、日韓
漁業の締結を四ページにわたって大きく取り上げております。「李ラインの実質的な撤廃と、わが国の操業の実績の
確保を主眼として交渉に臨んだ、おおむねその
趣旨に沿って解決した」と自画自賛しておるのでありますが、先ほどの
事件とあわせ、大いなる反省が必要なのではないだろうかと思うのであります。この点に対しましても、ひとつ総理からとくと御答弁を賜わりたいのであります。
さらに、この
事件とあわせ考え、同時に、私が御指摘を申し上げたように、この受ける影響については具体的な
施策を怠っておるのではないかと私は思うのであります。韓国からのノリあるいは鮮魚の輸入にまつわる黒いうわさがつきまとっておることは、総理も御承知のとおりであります。その黒いうわさがつきまとってくるということは、端的にそうした対策の盲点をついて行なわれておるということを私たちは知らなくてはならないと思うのであります。同時に、こういう面に対して、すみやかにわが国の受け入れ体制を
整備し、かかるうわさを取り除く具体的
施策を明らかにすべきだと思います。
さらに、外国においても、先ほど指摘いたしましたような韓国の漁船の直接水揚げなどという、こういう公海上からの輸入は
禁止して、国内における流通、
価格対策の調整を同じくはかっておるのでありますが、
政府といたしましては、かかる法的規制措置を講ずる用意があるかどうか。これまた、総理並びに
農林大臣にその御所信を承りたいのであります。
第四点は、
沿岸漁業構造
改善事業に関しての質問でありますが、
農林大臣にお伺いいたしたいと思います。
構造
改善事業は、沿振法の目的といたしまして、
沿岸漁業の
発展を促進することから始まりまして、
沿岸漁業の従事者の地位の向上をはかるために、地域の特性を生かしつつ必要な
事業を十年間にわたって実施するということをうたっているのでありますが、今日まで何らなすことなく終始しておるのが現状であります。しかも、構造
改善事業の大きな柱である
経営近代化促進対策
事業は、すでに宮城、愛知、京都、山口及び長崎北部の
事業完了地域が出ておるのでありますが、何ら本
事業実施による効果等については検討されておらず、白書においては分析さえも試みられていないのであります。わずか二十数億の予算を計上したのみでは焼け石に水である。この構造
改善事業に残されました多くの問題について、どう対処しようとされておるのか。また、
事業実施地域、特に
経営近代化促進対策
事業完了地域についてはきめこまかい分析を行なってしかるべきだと思われるが、
農林大臣の考え方を承りたいのであります。
次は、大資本
漁業の
動向に関する問題について
農林大臣にお尋ねをいたします。
沿振法制定の当時から、
政府はなぜかこの大資本
漁業については触れたがらなかったのであります。いままで
政府提案の
内容は、
漁業白書は
沿岸漁業及び
中小漁業の
動向に限って
報告することになっていたのであります。この点は、本院において追及され、さらに修正されて、
漁業全体の
動向について
報告するよう
政府に義務づけられたのでありますが、いまもって大資本
漁業の
動向については十分なる分析が行なわれておらないのであります。すなわち、今回の
報告におきましては、「
漁業金融の
動向」の項に限って、初めて大資本
漁業と
中小漁業及び
沿岸漁業に分類して比較を試みておりますが、「
漁業生産の
動向」においては、依然として、「その他の
漁業」として扱っております。そして焦点をぼかし、さらに、最
重点である「
漁業経営の
動向」については、大資本の
漁業は全然触れておらないことであります。水産業の場合にありましては、
中小漁業の
経営と大資本
漁業の
経営とが密接に結びついておるということ、これはわかりますが、極端に利害が対立していることもまた御承知のとおりであります。現に、モスクワで行なわれておる日ソ
漁業交渉の
中心議題であるサケ・マス
漁業においても、直接漁労に従事する独航船の
中小漁業者が、漁獲物を母船で
処理加工する大資本
漁業にいやおうなく取引を強要され、出航前に魚価交渉をするということになっております。その魚価交渉も形式的でありまして、三十八年からこの方、魚価の高騰が続いておるという状態の中にあっても、一銭も魚価が上がっておらないのであります。据え置かれておるのであります。すなわち、市価一尾千円もするサケが、わずかに百五十円、市価五百円のマスが、これまた八十円に抑えられております。こういう状態の中にあっては、白書が示すように、
中小漁業の衰退は当然であります。そういうことがあってよいものかどうなのか、総理はこうした現状をどうとらえるのでありましょうか。人間尊重にのっとったお答えがほしいのであります。(
拍手)
大資本
漁業の
動向についても、
沿岸漁業あるいは
中小漁業同様、明確な分析を行ない、
報告さるべきだと思いますが、これまた
農林大臣の御所見をお伺いいたしたいと思います。
最後に、漁船の海難事故について、運輸、労働、農林の各大臣にお伺いいたします。
飛行機事故が多発いたしておりまして、憂慮されるところでございますが、一方、海上におきましても漁船の遭難があとをたたないところであります。三十九年における遭難漁船は一千九十四隻に及び、全海難の四割を占めております。また、海難による死者一千三百十一人のうち、六百五十九名が漁船乗組員であります。しかも、この漁船の遭難の特徴は、無理とは承知しながらも、貧しいがために一尾でも多く持ち帰らなければならないその運航に基因しています。このように、漁船の場合は、避けられない遭難ではなくて、とうとい人命を失わなくて済ませるものが大部分を占めているのであります。
政府においても真剣に対策を講ずべきであります。
そこで、運輸大臣にお伺いをいたしますが、海上保安庁の遭難救助の活動につきましては敬意を表するものでありますが、ただ、この乾舷ゼロメートルに近い危険きわまりなき漁船等の現状をそのまま放置していては、保安庁のせっかくの活動も十分なる効果を発揮し得ないことはもとよりであります。そこで、国際満載吃水線条約あるいは海上における人命の安全のための国際条約等の精神を生かして、漁船を海難から守る方途をまずもって講ずべきであると考えますが、所信のほどをお伺いいたしたいと思います。漁船の遭難は、はるか洋上で起きるために、ややもすると軽々に扱われるきらいがあります。また、対策もおくれておるように考えられますが、その決意のほどを披瀝していただきたいのであります。
次に、労働大臣に関連してお伺いをいたします。
去る三十七年に出されました
労働環境改善措置要綱、これすら、
漁業経営の問題とからみ合い、十分に守られていないのが現状であります。しかも、四十年の十月には、ILOの予備技術
会議が持たれ、さらに引き続き来たる六月にはILO総会を開き、漁船の設備、漁船船員の資格証明、あるいは職業訓練の問題に関して、条約等及び勧告案が採択される情勢にあると推察されますが、これら漁船船員の労働問題の
改善策に対しまして具体的にお尋ねいたしたいのであります。
最後に、
農林大臣にお尋ねいたしますが、わが国
漁業の
労働環境なり
労働条件等の
改善がおくれておる直接の原因は、
漁業許可制度のあり方に基因する点があることは明らかであります。公海上で行なわれる
漁業は、ほとんどすべて
農林大臣の許可を要するということになっておりますし、その規制は、漁船の大きさはもとより、操業海域、操業時期等、細部にわたって厳重な規制を行なっておるのでありますが、他面、
漁業者の雇用状態は、歩合い制度を基調としておることも加わって、
労働環境は勢い
改善がおくれておることも、これまた事実でありまして、海難につながる問題となっておるのであります。また、これがために、漁船員不足、興の低下、老齢化等の問題となり、悪循環を繰り返しておるのであります。かかる観点から、この際
漁業許可の制度を根本的に再検討し、四十二年における指定
漁業許可の一斉更新にあたりましては思い切った
改善を行ない、おそらく
農林大臣はあらゆる角度からする圧力に屈し、しょせん現状
維持程度の手直ししかできないであろうという不信に満ちたうわさが真実とならないように、この際勇断をもって
処理されるよう、その御決意のほどをお尋ねいたしまして、詳細につきましては農林水産
委員会の質問に譲ることにいたします。
以上をもって私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕