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津田政府委員 改正の第一点でございます
刑法第四十五条
関係の点でございますが、これは現在
刑法第四十五条におきましては、
確定裁判を経ない
数罪を
併合罪とするということになっておりまして、その
後段に、ある罪につき
確定裁判があったときは、ただその罪とその
裁判確定前に犯した罪とを
併合罪とする、こういうことになっておるわけでございます。そういたしますると、かりにA、B、Cという三つの
犯罪を犯した者がありまして、その間の
A罪と
C罪との間に時間的に
B罪というものがすでに
確定裁判があったという場合は、今度その
A罪と
C罪とが発覚いたしまして、それを裁判いたします場合に、
A罪と
C罪とは
併合罪にならないで別々に刑を言い渡される、こういうのが現在の
刑法のたてまえになっております。それはまさに
刑法四十五条の
後段がさような現定をしておるわけであります。それで、その現在の
趣旨は、
B罪という
中間の
確定裁判がありますと、それが
犯人の人格に影響いたしまして、つまり
確定裁判の
感銘力というものがありまして、その
あとに
C罪というものを犯したのであるから、
C罪の
評価は別にすべきである。
確定裁判を経ざる
C罪ではありまするけれ
ども、
C罪については
評価を別にすべきであるという
考え方から出発しているのが
現行法の
趣旨でございます。ところが、この
中間の
B罪というものが、それじゃすべての
犯罪がそうであるかという問題になります。現在は
科料でありましても、この
感銘力というものがあるというたてまえで、A、Cというものを別々に
評価しておるわけでございます。ところが
罰金以下の刑につきましては、その
感銘力をそれほど認める必要がないではないか、こういう意見が出てまいっております。これはすでに公表されております
刑法改正準備草案におきましても、その
中間の
B罪が
禁錮以上の刑に処した場合に限りまして、AとCとを別に
評価すべきであって、
罰金以下の刑であるときには別に
評価する必要なし、こういう
考え方を
改正準備草案がとっておるわけです。それは、やはり
罰金以下の刑の
感銘力をその
程度に認めないということ、認める必要がないではないかということと、もう
一つは、やはり実質的にそのために非常に繁雑になると同時に、
犯人に
不利益になる、こういうことから起こる問題でございます。
たとえば、これは極端な例でございますけれ
ども、
強盗殺人を二回やりまして、その
中間に
道路交通法違反で他に
科料になっておるという場合は、その人は、
そのものがさばかれた結果はそれが
死刑に当たるといたしますと、
A罪について
死刑、
B罪について
死刑という
死刑の主文が二つ出るというようなことになるわけであります。現にその実例があるようでありますが、そういうきわめて奇妙なことが起こりますし、またこれがかりに十年だといたしますと、
A罪について十年、
C罪について十年ということがあり得るというようなこと、懲役十年というようなことがあり得るというようなことになりまして、その面におきましては
犯人にとっては
不利益でございます。合計して
併合罪の加重をされる場合よりは、
別罪を言い渡される場合のほうが結果的には
不利益になるという
考え方、これがすなわち
感銘力を重く見れば
不利益になってもやむを得ないのではないかということになると思います。
そこで今回の
改正におきましては、その
刑法改正準備草案の
趣旨と同じように
罰金以下の刑につきましてはこの
併合罪を遮断しない。
つまりB罪が
罰金以下の刑であります場合は、A、Cは依然として
併合罪として
一つの刑を言い渡してよろしい、こういうふうにしようというのが今回の
改正でございまして、まさに
改正準備草案そのものと同じことであります。
それじゃなぜそういうことにするのかといいますと、
理屈の上から申しますと、先ほど申しました
感銘力をそれほど考える必要はないのではないかという問題と、今日
年間五百万件の
罰金あるいは
科料事件というものが
道路交通事件で起こっております。そういたしますと、その五百万件につきましては、すべてこれは
前科ということになるわけでございます。その
前科はもちろん
検察庁で全部把握いたしておりますけれ
ども、これは
前科を索引することがきわめて困難であります。
年間五百万件といいますと、三年たちますと千五百万件という数の
前科になりますから、これは
検察庁といたしまして、必要があれば調査をすればもちろん記録があるわけですからできるわけですけれ
ども、即座にその
前科を出してくるということは困難であります。そういう
事務処理上の面もございまして、やはりその
感銘力の点においてさような
考え方をとり得るとすれば、今度は
事務処理上の問題から考えて、
罰金以下の刑についてはこの
併合罪の
関係を遮断しないとするほうがきわめて合理的であるということであります。現に、あるいはたしかお
手元へ資料を差し出してあると思いますけれ
ども、一審でその
中間の
道路交通法の
罰金事件を見のがしたために、
高等裁判所で破棄される
事例が相当出てまいります。そういたしますと、実質的には非常に変わらないことでありながら、さらに破棄してこれを一審に差し戻して裁判するという、きわめて繁雑な
手続を要するというような
事例が出ておりますので、それこれを考えまして、少なくとも実質的に影響のないものについては、この
中間で
併合罪が遮断するということにしないほうがいいという
結論に立って、今回の
改正提案をいたした次第でございます。