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1966-04-28 第51回国会 衆議院 法務委員会 第32号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十一年四月二十八日(木曜日)    午前十時四十一分開議  出席委員    委員長 大久保武雄君    理事 上村千一郎君 理事 大竹 太郎君    理事 小島 徹三君 理事 田村 良平君    理事 濱田 幸雄君       鍛冶 良作君    唐津 俊樹君       佐伯 宗義君    四宮 久吉君       濱野 清吾君    森下 元晴君       中嶋 英夫君    横山 利秋君       志賀 義雄君    田中織之進君  出席政府委員         法務政務次官  山本 利壽君         検     事         (民事局長)  新谷 正夫君  委員外出席者         参  考  人         (東京大学教         授)      加藤 一郎君         参  考  人         (弁護士)   布井 要一君         参  考  人         (社団法人横浜         土地協会理事) 山木 正喜君         参  考  人         (借地借家同盟         顧問)     雪入 益見君         専  門  員 高橋 勝好君     ――――――――――――― 四月二十七日  委員唐津俊樹君、濱野清吾君、早川崇君及び森  下元晴辞任につき、その補欠として安藤覺君、  一萬田尚登君、鍛冶良作君及び根本龍太郎君が  議長指名委員に選任された。 同日  委員安藤覺君、一萬田尚登君、鍛冶良作君及び  根本龍太郎辞任につき、その補欠として唐澤  俊樹君、濱野清吾君、早川崇君及び森下元晴君  が議長指名委員に選任された。 同月二十八日  委員早川崇君及び神近市子辞任につき、その  補欠として鍛冶良作君及び中嶋英夫君が議長の  指名委員に選任された。 同日  委員鍛冶良作君及び中嶋英夫辞任につき、そ  の補欠として早川崇君及び神近市子君が議長の  指名委員に選任された。     ――――――――――――― 四月二十八日  執行官法案内閣提出第一四九号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  借地法等の一部を改正する法律案内閣提出第  一三五号)      ――――◇―――――
  2. 大久保武雄

    大久保委員長 これより会議を開きます。  借地法等の一部を改正する法律案を議題といたします。  本日は、本案について参考人より意見を聴取することといたします。  本日の出席参考人は、東京大学教授加藤一郎君、弁護士布井要一君、社団法人横浜土地協会理事山木正喜君、借地借家同盟顧問雪入益見君の四名であります。  参考人各位には御多用中のところわざわざ御出席いただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼申し上げます。何とぞ各位におかれましては、それぞれの立場から忌憚のない御意見をお述べくださるよう心からお願いを申し上げます。  なお、議事の都合によりまして、御意見は最初お一人十五分程度にお取りまとめをお願い申し上げます。  それでは、まず加藤参考人よりお願いいたします。
  3. 加藤一郎

    加藤参考人 加藤でございます。私は法制審議会民法部会委員をいたしておりまして、今度の法案のもとになりました改正要綱というのを審議会で作成いたしますときに関係をしておりました者でございます。法制審議会では、かなり前から借地借家法改正をしようという考えでいろいろ準備をいたし、かなり基本的な改正案要綱のようなものを出したこともございますが、なかなか根本的な改正はむずかしい、しかしいまの借地借家で問題になっている点をこのままほっておくことはやはり適当でないということで、さしあたり必要なところを緊急に改正しようということで、今度の案になったわけでございます。実は法制審議会を通りましたのは一昨年でございまして、それから二年間、これは手続的な問題であるとかあるいは一部の反対であるとか、そういうことがございまして、提案がおくれておりましたが、今回それを提案する運びになったわけでございます。申すまでもなく法制審議会は一応の案を出すわけでございまして、提案政府の責任でなされているわけでございます。  今度の改正のおもな内容は、すでに御承知かと思いますが、幾つかの点がございますけれども、ここでは一番主要と思われる点に重点を置いて私の意見を申し上げてみたいと思います。  第一点は、いままでの木造建物を鉄筋その他の堅固な建物改築をしたいという場合の問題でございます。現在の借地法では、堅固な建物目的とする借地権と非堅固の建物目的とする借地権とが、一応性質の異なるものとされておりますので、木造建物を堅固な建物にする場合には、地主承諾がどうしても必要である。しかし今日都市の再開発あるいは都市発展によりまして、そういう改築の必要は相当大きくなってきている。ところが地主はなかなか承諾をしてくれないということで、争いが起こります。今度の法案では、その点を裁判所借地条件を必要に応じて変更してもらうということにしたわけでございます。なおその要件といたしましては、防火地域指定、それから付近の土地利用状況の変化という、一般的に申しますと事情変更によって改築することが相当となったような場合に、借地条件変更、つまり堅固な建物を建てていいということを裁判所で認めていこうというわけでございます。  第二の重要な点は、条文としては同じところに入っておりますが、増改築禁止特約の問題でございます。これは現在借地契約のほとんどに例文として増改築禁止特約が入っている。あるいは増改築をしたいという場合には地毛承諾を得なければならない、それで無断増改築をいたしますと契約を解除するというような条項が入っております。借地人借地上に持っている家屋は、これは本来借地人のものでありますから、自分増改築してもいいはずのように思われますが、しかし、上の建物によって借地権の価値が変わったり、あるいは期間の問題があったり、あるいは期間満了の場合の建物買い取り請求権の問題があったりいたしまして、地主としてはかってにやられては困るということでございます。しかし、増改築と申しましても、その中にはいろいろな種類のものがありまして、比較的簡単なものの場合には、むしろそれを認めないと借地人のほうが困りますし、認めても地主のほうではそう困らないという事情があるのではないか。この点は、地主承諾してくれないのでかってに増改築をして契約を解除されたといって裁判所で問題になった例が、資料の中に幾つか出ておりますが、学説の中にも、増改築禁止特約一般的に効力がないという説もございますし、またそうでなくても、わずかの増改築に対して契約を解除するのは一種の権利の乱用であるというような考え方もあるわけでありますが、判例は、ごらんになりますようにいろいろまちまちである。そこで、この点につきましても、その増改築土地通常利用上相当であるというように認められるときには裁判所でその許可を与える。これは一般増改築禁止特約効力をなくすのではなくて、個別的にその場その場で、具体的事情によって許可をしていこうという考え方でございます。  次に第三点といたしましては、借地上の建物譲渡する場合に、その底にある借地権通常は一緒に譲渡するわけでございますが、その場合の譲渡については、民法六百十二条によりまして地主承諾が要る。無断譲渡いたしますと契約を解除される。それから譲り受けた者は、これは無権利者ですから、地主から追い出されるという結果になるわけでございます この点につきましては、最高裁判所判例で、特にその譲渡無断譲渡であっても、背信行為地主に対する信義に反しないような場合には譲渡が許されるという判例に、これは条文とは違うのですが、そういう判例になっておりますけれども、しかしその範囲はきわめて限られております。そこで、その譲渡を少し弾力的に認めようということでございまして、地主のほうで譲渡されても不利となるおそれがない、たとえば譲り受け人の地代支払い能力あるいはその性質等において懸念がないと思われるような場合には、裁判所でやはり承諾にかわる許可をしていこうということでございます。なお地主のほうで、よそへ売るならば自分のほうで買い取りたいという場合には、地主先買い権といいますか、地主が同じ価格で買い取ることを認めるということになっております。  以上三つの点が今度の改正の中の一番重要な点だと思われますが、このいずれの場合におきましても、裁判所はただ単に許可をするということではなくて、その場合に必要に応じてある程度対価と申しますか、普通、承諾料とか名義書きかえ料とかいわれて世間では行なわれておりますそういうものの支払い借地人から地主事情に応じて認めていこう、あるいは場合によっては地代の値上げを認めようということで、お互いのバランスをとっていくという考え方に立っております。  以上のような三つの点を通じての特色ということを申してみますと、いずれも、いままでは地主のほうでどうしても困ると言って承諾なり許可をしないような場合には、これはどうにも法律関係が動かなかったのであります。地主としては、それで絶対的に拒むことができた。それを、拒まれても、やはりどうしてもやらなければならないといってやりますと、先ほどの契約解除土地明け渡し請求というような訴訟問題になってまいります。そこで、これでは現在の都市における建築あるいは住宅問題ということについては十分な解決にならない、もう少し弾力的な解決をとる必要があるということで、裁判所に間に入ってもらいまして、そこで事情に応じて弾力的に許可をしていこうというのが主要な眼目でございます。これが共通する第一の特色でございます。  第二の特色といたしましては、いままで争いになりますのは、違反が起こってからの問題でありまして、借地人が、地主承諾しないにもかかわらず何かする、それに対して地主契約解除訴訟を起こす、あるいは地主建築禁止の仮処分をするというような事後的な解決になります。しかし、それではお互い損失が多いわけでありまして、それを事前解決、つまりこれから何かをしようというときに、あらかじめいいかどうかをきめてもらうという事前解決によって社会的な損失を少なくする、紛争を少なくするという、いわば紛争が起こる前に防止するということが第二のねらいでございます。  第三の点といたしまして、それに伴って、形式的には従来の訴訟形式からいわゆる非訟事件という形に切りかえられております。非訟事件としましたのは、私は主として理論的な理由からだと思うのです。つまり、普通の訴訟というのは、過去に起こった問題について黒白を明らかにするといことに本来中心がある。ところが今度の問題は、事前に、将来の法律関係をどうしていくかという、いわば新しい法律関係を形成するという役割りを持っております。そういう意味では、本来の司法作用のほかに、やはりある程度行政的、合目的にどれが妥当かという、そういう判断が入ってくるわけであります。極端なことを言えば、行政庁許可をしてもいいということも形式的には言えないわけはないと思うのですが、ただ当事者権利義務関係に非常に重要な影響を及ぼすものでありますから、実質的にはやはり裁判所で扱っていただくのが適当であるということで、裁判所の非訟事件取り扱いになるわけであります。非訟事件にいたしますと、取り扱いが簡単になる、事柄を早く解決するために簡単になりはしないかそれによって当事者権利関係がそこなわれはしないかという懸念が一部にあるように思われますが、その点は非訟といいましても、何も一つ手続の型にきまっているのではなくて、形式は非訟でありながら、実質的には訴訟で行なわれておる。慎重な手続かなり程度において取り入れる。したがって、手続としてはいわば従来の非訟、起訴事件の中間的な第三の道を行くというようなことになっているわけでございます。  次に第四の点といたしましては、結局許可ということは裁判所判断にある程度まかせられるということであります。借地借家関係というようなものは、当事者の間の関係によって実質的判断が非常に異なり得るものでありまして、これを一律に規制することは非常に困難であります。そういう具体的事情を考慮に入れて適切な判断をするのは、やはり裁判官にある程度おまかせをするほかはないと思います。そういう意味で、裁判所の負担はかなり程度にあるいはふえるかもしれませんが、当事者にとってはそれで妥当な解決が得られるのではないか。ただ、この点はあまり裁判所で自由にやられては困るという御意見もありますので、今度の案では、以前の案に比べましてかなり要件をしぼりまして、そういうおそれのないように配慮をしているように思われます。  以上が私の主要問題に対する考え方でございますが、借地借家問題と申しますのは非常に解決がむずかしいのでありまして、少しでも動かそうとすると借地人のほうに有利になるか、あるいは地主のほうに有利になるかという、まさに利害が対立する間の問題を解決しなければなりませんので、どちらに動いても、どちらかから反対を受けるというような点がございます。そこで根本的な改正も非常に困難でありますし、それから緊急改正と申しましても、どちらの味方をするというのではなくて、やはり両方利害を適切に調整するということに持っていかざるを得ないように思われます。そういう意味で、私としてはもう少し思い切った改正をすべきではないかという個人的な意見でございますけれども、それが困難だとすれば、この程度のことでもいままでよりはかなりよくなるのではないか、そう考えまして、不満はありますけれども、今度の改正には一応賛成であるということでございます。  以上で一応終わります。     ―――――――――――――
  4. 大久保武雄

    大久保委員長 都合によりまして、加藤参考人に対する質疑を先にいたしたいと存じます。上村千一郎君。
  5. 上村千一郎

    上村委員 加藤参考人に一、二点お考えを承っておきたいと思うわけです。  実は、この借地法等の一部を改正する法律案につきましては、ただいま先生がおっしゃったように、非常に前進的な、そして適切な点も多々あるわけでございます。それとともに、また一般のこれに利害関係を特に持っております者としての不安の念もあるわけです。だから、この審議の過程を通じまして、その不安の念、またどこが不安になっておるかということを解明しておくことも、今後の法改正の結果を円滑にする意味において有効なことであろうと思いまして、一、二お尋ねをするわけでございます。  この法律案が、最近における土地建物利用実情にかんがみまして、借地借家に関する紛争の防止とかあるいは当事者利害の調整とか、あるいは土地合理的利用の促進をはかるために、あるいは借地借家法、あるいは民法の一部を改正していく、こういうわけであります。いま先生がおっしゃいましたように、非常に利害関係について紛争が生じておる、また判例もいろいろと立場の違う判例が出ておる、これをどう解決するのかというのが多年の懸案であったことは確かでございます。私は中心点を一点に置きまして先生のお考えお尋ねをしておくわけでございます。  実は、一つの不安の念が出ておりますのは、元来借地権というようなもの、借家権でもそうでございましょうが、債権的なもの、これが物権化されやせぬか。また物権化という意味におきまして、何もそう別段取り立ててどうこうという問題ではないでしょうが、その内容がはっきりしてこない。要するに、貸し借りの問題にしましても、対人関係が非常に重要な要素をなしておる。そういう状態で発生したものが、途中でその権利者の意思に反して転々としていくということにつきましての心配があるわけなんですね。もちろん憲法二十九条によりましては、「財産権は、これを侵してはならない。」という第一項を規定するとともに、「財産権内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」、第三項に、「私有財産は、正當な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」というような規定がありまして、その権利を無条件に全部保護しておるという関係でもございませんので、そこに公共性というようなもので一つワクをはめておることは確かでございます。その場合におきましても、この公共という立場におきましてワクがはめられることは当然としましても、そうでない場合においても権利が束縛されやせぬだろうかという不安があるかと思うのでございます。  それで、先ほど先生もおっしゃいましたが、この借地法の一部改正に伴いまして、建物に関する借地条件変更ですが、まず防火地帯指定の場合、この場合におきましては、もちろん一つ公共性を持っておるわけです。ところが、防火地帯指定というような状態でなくて、非堅固な建物を堅固な建物にするというような状態が、たとえば都市において、駅前などの急速な発展などにおいて生じてくる。その際に、従来貸しておった相手方はいいけれども、今度借りた人につきましては暫定的に貸しただけであって、これが長期に堅固な建物にされては非常に困るというような考え方がある。客観的状態におきましては、堅固な建物にするということが相当としましても、個人的な感情と申しますか、あるいは人的関係においては耐えられないというような場合もありはせぬだろうか。こういうような状態の場合はどうするか。あるいは、造改築の制限の借地条件が存在する場合におきましての先ほどの問題、あるいは賃借権譲渡、転貸の承諾にかわる許可の場合にも、いろいろなそういう問題が起きてくる。もちろん、それに対する対策としましては、あるいは当事者間の利益の均衡だとか、あるいは借地権存続期間だとか、あるいは土地状況借地に関する従前経過、その他一切の事情を考慮して裁判所できめるというような状態です。いわば、これがこのとおりすなおに行なわれていく場合におきましては、結果的においては妥当なものになるかと思うわけでございますが、「其ノ他一切ノ事情」という点にいろいろ含まれるとするわけですけれども、従来の賃貸借の関係におきまする対人関係という問題ですね。要するに、いろいろと懇意なために貸しておった。ところが、今度は犬猿ただならざる人間権利者としてそこへ入ってくる。それは支払い能力もあるであろうし、いろいろな条件も整っておるでしょうけれども、どうもいつもその人から借地料をもらっておったのではかなわぬという実情も、これは人間社会としてあり得ることであろうし、また土地を賃貸しするというような実情におきましての状態におきましては、そういう人間には貸さないという問題もあるでしょう。あるいは、その当時におきまするところの地代支払い能力というものがあるとしましても、その人の性格によりまして、非常に浮き沈みがある場合もあるだろう。こういうような状態、要するに対人関係的なものですね。こういうものも「其ノ他一切ノ事情」というのに重要な要素として入ってくるだろうかどうだろうか。要するに、借地権存続期間というような問題、これは大きな問題です。あるいは土地状況、これも大きな問題です。あるいは借地に関する従前経過という問題も大きな問題でしょうが、一つ対人関係というものも、要するにこれに肩を並べる程度項目としまして入り得るというふうに考えるかどうか。と申しますのは、裁判官においてこの事情判断する際におきまして、そういう項目が出ている場合とそうでない場合とは、現実状態におきまして非常に違ってくることは、これはもう経験法則によりましてもはっきりしているわけですね。ですから、要するにそういうような従来の債権関係というものが物権的な要素を持ってきているということは、これはいなめないだろうと思うけれども、その内容がきわめてはっきりしていない点もある。それだけ、要するに権利者としては非常に不安な念があるのではなかろうか。その他にもいろいろ心配されておる点もあるでございましょうが、きょうは時間のいろいろな関係もございましょうから、その点につきまして先生のお考えを一点だけお尋ねをしておきたい。
  6. 加藤一郎

    加藤参考人 ただいまのお話で、一点だけということでございますが、若干問題を分けて説明をしたいと思います。  まず第一には、物権債権の区別ということでございますが、これは、いまもちょっとお話がございましたように、典型的な型としては、物権型、債権型というのは一応理論的にははっきりできるかと思いますが、現実に存在する当事者関係というのは、債権的な要素物権的な要素が互いにからみ合っているわけで、学説的にも、従来から、借地権あるいは広く不動産の賃借権というのは物権化されてきておる、あるいはされてきつつあるということが言われておることは御承知のとおりでございまして、今度の改正も、別にいままでの関係物権に切りかえるということではないわけでございまして、形としては債権というワクの中で考えておりますが、内容的には物権的な要素も、これは従来からあるものがやはり続いて存在するということはいなめないわけでございます。  具体的な問題になりますと、いまお話しの、木造を堅固な建物に変えるという場合と、それから賃借人が交代するという場合とは若干問題が違うように思いますので、分けて申し上げてみますと、第一の借地条件変更のほうでございますが、これは、いまのお話でございますと、木造ならば貸しておいてもいいけれども、堅固な建物では困るという場合があるのじゃないかというお話のように承りました。ただ、借地権期間は、御承知のように、借地法の制定されました大正十年から、最低で二十年間という期間がはっきりきめられておりまして、その他、一時使用の場合は別ですが、一時使用というのはかなり狭く考えられておりますから、土地を貸せば二十年は最低貸しておかなければならないということになっておるわけでございます。それからまた、二十年がかりに過ぎたところでも、取り戻しはむしろ原則としてできない、地主のほうから正当な事由がある場合にだけ更新を拒めるというようになっていることも御承知のとおりでございます。そこで、今度の借地条件変更は、その、いままできまっているワクの中で借地条件を変えていこうということが主たる問題でございます。もっとも期間の点から申しますと、木造ならいずれ、二、三十年もたてばまた改築するということになるかもしれないけれども、堅固な建物だとそれが相当期間続くという点の違いはあるわけでございまして、そこでそういう借地条件の中に期間を延長する対価として地代を上げるとか、そういうことが入ってくるかと思いますが、問題は、やはりここでは直接期間の問題に触れるわけではなくて、その内容としてどういう建物を建てていいかという点だけを変えていこうというのが本来のねらいであるわけです。そういたしますと、地主のほうの事情もあるかもしれませんが、木造ならいいけれども堅固な建物では困るというのは普通どういう場合だろうかということを考えますと、普通の場合には、同じ借地人であれば、地主のほうで拒むだけの理由のあることはそう多くないのではないか。これに対して今度は借地人のほうの側の事情考えますと、これは主として商店街あるいはオフィス街などで問題になると思うのですけれども、そういうところでは、周囲が堅固な建物になっていけば、やはり新しい堅固な建物を建てさせるということが、これは当事者ばかりでなくて、やはり国の政策としても適当なのではないか。そういう両方利害を考慮しますと、一応借地条件変更の道を開いておいて、あとは裁判所で具体的な事情判断してもらうということが適当のように思われます。いまのお話の中にはさらに、地主借地人との間の事情が一切の事情の中に入るのかどうかというお話がございましたが、これは一切の事情といっておりますから、そういうものも当然入ってくると私は考えます。ただ、どの程度の比重で入ってくるかということが問題でございまして、これは、一切の事情の中にいろいろなものがありますから、それをきめるのは、結局最後は裁判官に、そのお互いの比重をその具体的な事情において考えていただくほかはない。こちらで、これはここまで考えてくれということを割合で示すというようなことはもちろんできませんから、最後はやはり裁判官の良識にまつほかはないのではないか。いまのような建物の種類という点から見ますと、個人間事情というものは、考慮する比重がそれほど大きくなくても通常はいいのではないかというように、私個人としては考えております。  それからもう一つの、借地人自体が交代する場合でございますが、この場合には条文としては、借地人が変わっても賃貸人に不利となるおそれがないという表現をしておりまして、ここでも実際にはやはり一切の事情が考慮されることになると思いますが、一番はっきりしておりますのは、たとえば借地権を譲り受ける者が地主と同じ商売をしていて、そこで競業関係に立つというような場合は、これは借地という点から見れば問題ないかもしれませんが、一切の事情という点から見ると、そういう場合はやはり許可すべきではないということが出てくるかと思います。そういう意味で、ここでもいろいろ地主借地人間の事情ということは考慮されると思いますが、いままでの関係がどうであったかということよりも、新しい借地人が一体どういう者であるかということがここでの中心問題になると思うのです。借地人立場からいいましても、よそへ移転をするような場合にその建物を売っていきたいというような場合に、いままでですと、それが非常に売りにくいわけです。その点の借地人立場考えて、移転をする場合には売りやすくしなければならぬ、で、前の借地人についてはそういう点を考える、今度交代する、新しく借地人になる者については地主との関係がどうであるかということを考えまして、不利となるおそれがあれば許可はしないということでいくほかはないだろうというように考えるわけでございます。
  7. 上村千一郎

    上村委員 実は私お尋ねしておるのは、そういうものが審議の過程におきまして、具体的事例というものが出ることによりまして、不安に思っておられたりいろいろする方々の判断資料になるかと思いましてお尋ねするのですが、たとえば木造建物が堅固な建物になる場合におきましては、もちろんこれは実際上、この存続期間の問題は当然変化してくることは現実の問題です。そうすると、いま地主の方々が土地を処分しようとするわけです。それで処分をしようとする場合におきまして、地主の経済的な実情というものが必ずしも安定しておる者ばかりが地主であるわけじゃない。ですから、どういう状態においてこれが処分しなければならぬかという不安は常にあるわけです。それで、たとえば東京都の場合におきましては、借地をする場合にすでに権利金として相当の、要するに地価に相当するだけの権利金を取っておるのが慣例である。ところが、それ以外の地域において、たとえば名古屋あるいは大阪、神戸その他の地方においては、東京都を中心とするような、要するに、借地をする場合にすでに地価に相当する額くらいの権利金をとっておくだけの慣例を持っていないという際においては、地主としては、その期間というもの、あるいは買い取り請求を受ける場合に、その支払うべき金、代金というものは相当利害関係を持つわけなのです。こういう点において、また一面不安の念をお持ちになっておられることがある。今度の趣旨は、そういうようなことも裁判所においてよくしんしゃくしていくことであろうと思うのです。けれどもこれは、要するに法律ができてしまえばそれ相応の御判断裁判所はされるわけなのです。だからできる限りこういう審議の過程において具体的事例というものを出しておいたほうが、今後裁判所において、ある意味においては広範な判断をする権限が与えられておることになるのだから、その参考資料あるいは基準というものをできるだけ与えておいたほうがいい、明白にしておいたほうがいいというわけで、先生に御意見を承るわけなのです。いまのような場合も当然、一切の事情へ入るというふうにお考えになるかどうか、お尋ねをしておきたい。
  8. 加藤一郎

    加藤参考人 おっしゃいますように、堅固な建物にした場合には期間の点が当然問題になるわけです。現行法でも、木造建物なら最低二十年ですが、堅固な建物だと最低三十年というように期間の点も違っているわけでございますし、実際問題とすれば、堅固な建物は半永久的な建物として存続するわけでございますから、おっしゃる点はまさにそのとおりだと思うのですが、ただその場合に、各地の慣習がかなり違っておりますれば、裁判所は当然それを考慮に入れなければならない。つまり従来、たとえば権利金を幾らもらっていたか、あるいは地代がどの程度であったかということは当然考慮に入れて、そうして対価と申しますか、新しく、それじゃどういうことでバランスをとるかということを考えることになるわけです。これは裁判官だけではやはり適当でないので、むしろそういう事情に通じた方々、あるいは庶民の感覚に近い方の意見も取り入れるべきではないかということで、法案にございます鑑定委員会というものを置いて、その点の実情に詳しい方、あるいは学識経験のある方に判断を手伝っていただくということになっているわけでございます。
  9. 大久保武雄

    大久保委員長 大竹太郎君。
  10. 大竹太郎

    ○大竹委員 加藤先生の専門外のことにも多少関係あるかと思いますけれども、一点だけお聞きをしておきたいと思います。  御承知のように、国として現在一番力を入れて、一番といってはあれですが、非常に力を入れている問題に住宅政策があるわけでございます。それで戦前なんかの状態からいたしますと、借家というような問題はたいてい対人関係において解決されておったわけでございますが、戦後においては家族制度の変更その他戦災で焼けたというようなことで需要が非常にふえたというような問題にもからみまして、なかなか対人関係では解決できない。国あるいは自治体が大量に取り上げて宅地を造成し、借家をつくらなければいけないというようなことになったわけであります。申し上げるまでもなく、これは国や自治体だけで間に合う問題ではなくて、やはり対人関係において大いに解決してもらわなければならない問題だろうと思うわけであります。それにはやはり、余分な宅地を持っている人は喜んで貸せる、また借りる側に立っては、法外なことを吹っかけられないで適当な地代、家賃で借りられるという状況法律の上でもつくり出す、法律改正するのなら改正するとして、そういう方向に持っていかなければこの問題は解決できないと私は思うわけなんです。それで、戦時中非常な混乱の中にあって、一口に言えば借地、借家人を保護し過ぎた。したがいまして、地代家賃統制令というようなものも出たという状況にあるわけでございます。今度の法律改正、これはもちろんいろいろな立場で、家主、地主立場からいえば、さっき上村先生がおっしゃったように、これは借地権物権化じゃないか、これは家主、地主にとってはとんでもないこ  とだということも言っている人があるわけでありまして、そういうような面から考えまして、いま私が申し上げましたように、それぞれの立場で十分保護され、そして地代、住宅というものが現在以上に円滑になるという、もちろんそういうお見込みだろうと思うわけですが、これについては相当相反した主張もあるわけであります。その点に  ついて、これはちょっと法律学者としての先生のお立場からどうかと思うわけでございますけれども、一応お聞きしたいと思います。
  11. 加藤一郎

    加藤参考人 私の基本的な考え方は、借地権借家権が強いか弱いかということは、必ずしも法得の規定によってきまってくるのではなくて、社会的な条件の中できまってくる。御承知のように、戦争直後の非常な住宅難の時代には、追い出されれば出ていくところがなくなるわけですから、裁判所としても非常にきつい判決をいたしまして、明け渡し請求は原則として認められないという非常にきつい線を出していたわけでございます。それが、いまでも住宅難でございますが、ある程度緩和されてまいりますと、裁判所の態度もある程度緩和されてまいりまして、事情に応じて借地人、借家人と地主、家主両方利害をいわば対等の立場で比較考量をして、そうして問題をきめていこうというところまで現在きておるわけでございます。住宅問題の基本的な解決は、やはり住宅をたくさん建てる、それによって需要供給の関係を改善していくということ以外にはないように思われるのでありまして、今度の改正で住宅事情、住宅環境がよくなるということは、それ自体としてはそれほど期待できないかもしれない。しかし、たとえて申しますと、いままで地主、家主と借地人、借家人との二つの歯車がお互いにぎしぎしきしみながら動いていたのを、そこに油をさしまして、それが円滑に動いていくようにしよう。別にどちらの肩を持ったというわけではなくて、いま動いている秩序の中でそういうぎすぎすしたところを少しでも直していこうというのが、今度の改正のねらいだというように思っております。
  12. 大久保武雄

    大久保委員長 加藤参考人には御多用中のところ御出席をいただき、貴重な御意見をお述べくださいましてまことにありがとうございました。どうぞ御退席ください。
  13. 加藤一郎

    加藤参考人 どうもかってでございますが、失礼させていただきます。     ―――――――――――――
  14. 加藤一郎

    加藤参考人 どうもかってでございますが、失礼させていただきます。
  15. 大久保武雄

    大久保委員長 次に布井参考人にお願いいたします。
  16. 布井要一

    布井参考人 布井でございます。  私、弁護士布井要一として御招請をいただいたのでありますけれども、この委員会は先輩の弁護士の練達の先生方も多くおられることでございます。またその余の先生方も、この道につきまして私以上に平常から御研究と御研さんを重ねられておることと思います。でございますから、私個人の意見を申し上げるということもおこがましくもございますし、また、きょうお呼びいただいた趣旨にももとることだと思います。私がきょうお呼びいただいたのは、ちょうど昭和四十年度の日本弁護士連合会司法制度調査会の委員長をつとめさしていただきまして、昨年秋ごろから、この問題にわれわれのほうの委員の御努力を結集いたしまして一応の意見を出しましたので、その意味におきまして、日本弁護士連合会の司法制度調査会の審議状況を御参考までに申し上げることが、私個人の意見を申し上げるよりも、むしろ先生方の御参考に供することができると存じますので、そういうような方向で、簡単でございますけれども意見を述べさしていただきたいと思います。  多分、皆さんのお手元にわれわれのほうの発行いたしておりますところの「自由と正義」が配付済みだというように、私のほうの事務局からこちらの事務局へ伺いましたところ、そう伺いましたので、むしろこれをお読みいただければ、これは一九六五年十二月号でございますが、この中に比較的詳しく日本弁護士連合会の意見審議経過を書いておきましたので、詳しくはこれをごらんいただきたいと思いますが、ただこの日本弁護士連合会の意見書なるものは、昭和二十九年二月の法制審議会の答申に基づきまして書かれたものでございます。この答申と今回の法律案との間には多少の修正がございますので、その修正部分につきましては、この私のほうの意見書は訂正をしなければならないと存じます。  一言にして申し上げますと、今回の改正案につきまして、われわれのほうといたしましては民訴か非訟か、主として手続法の画におきまして審議の時間を多分にこのほうにさきました。実体法の面におきましては、昭和三十一年に法制審議会民法部会で初めて改正作業に御着手になってから数回にわたって御意見が出ております。当初は借地権物権化の線を強く打ち出しておられました。これにつきましてはわれわれのほうの連合会といたしましては全く反対の態度をとりました。ただし、現在の借地借家法がこのままの姿で改正を必要としないとは考えない。ですから必要に応じて一部修正、一部改正ということは当然なさるべきものだという意見を出したのであります。その当初の物権化の線からは、われわれが見ましたところ、非常に後退しております。今日、今度の改正案賃借権借地権物権化だとは義理にも申せないようになっておることは事実であります。その意味におきまして、われわれのほうといたしましては、実体法の面の審議によりもむしろ手続法の審議のほうに時間をさきました。  ただ、一言内輪話を申し上げますと、実体法の面の委員の賛否の模様を御参考までに申し上げたいと思いますけれども、私のほうの委員会は百人の構成でございまして、約四割は在京の委員さん、あとの六割は地方の委員ということになっておりますが、大体色分けいたしますと、地方の委員はやはり相変わらずこの実体法の面でもこの改正案に関しまして多少の不安を持っております。  それから在京の委員さんのほうは大体御賛成のようであります。  それはこういう点に出ておると思います。第八条ノ二の問題は、いま先生方の御質疑の中にございましたけれども、危険な建物を堅固なものに直す、防火地域指定とかいうような何か行政措置のあった場合は、こういうのを直すのはわりあいに簡単に直る。すでにこの種の法律防火地域借地権処理法としてございますから、これを今度こちらのほうへお移しになるのですから、これは問題がない。ただその余の事情変更によってこういう申し立てができるという面のこの点につきましては、私らのほうも、中で相当審議、議論いたしまして、甲論乙駁でございました。しかしながら、今度のこの改正の動きとそれから福祉国家の問題もございまして、やはりある程度のそういう配慮が必要じゃないかということによりまして、われわれのほうの試案の中に同種のものを盛り込みました。比較的もう少し詳しく具体的に書いてございますけれども、今度の改正案とは五十歩百歩だと私は思います。  そういような経過をたどりまして、とにもかくにも私のほうの委員会におきましては、この実体法の面は、多少の地方の反対はございましたけれども、東京方の委員さんのほうに同調いたしまして、日弁連といたしましては実体法の面においてはあえて反対しないのだ、こういう態度を打ち出したわけでございます。  これはもう先生方御承知のように、この資料にもございますように、東京を除きましては、地方では借地というものは非常に少ないわけです。それから事件を見ましても、借地関係争いは東京高裁管内ではこの種の事件の全国の約半数を占めております。それから大阪が一八%、名古屋管内が二〇%、その余の高裁管内においてはもう五%以下なんです。でございますから、この種の問題を考えてみる場合には、やはり東京高裁管内のこの事件というものをまず考えたほうがいいんではないかということになっております。  それからまた、これは私の考えでございますけれども、東京高裁御内においては借地関係というのは一種の商業ベースで解決しておられる。対人的な関係が希薄になっておる。それに反しまして、地方では昔の地主、小作の関係ほどではございませんけれども、やはり地主から見れば土地を貸しておるのだ、おまえだから貸してやるのだという対人関係をまだ考えておられます。これによって経済的利益を得て云々というような観念がまだ地方には、大阪においてさえもまだないわけでございますから、将来こういうような法律が全国的に行なわれますと、むしろ私は地方の借地関係は東京の借地関係にだんだん似てまいりまして、そのうちには地方と東京との格差がなくなっていくんじゃないか、こういう気がいたします。それが日本の法制あるいは日本国民にとっていいことか悪いことかと申しますと、これは皆さんの御判断にまかすべきだと思いますが、私個人の考えから見ますれば、やむを得ないし、またいいんじゃないかという気がいたします。こういう御時世でございますから、いつまでも地主借地人関係が、昔の地主対小作関係に似たような姿で、特に宅地の場合にあり得ないのではないか、またある必要がないのではないかという気がいたしますから、その点におきまして、日弁連といたしましては、東京における現状を重視いたしまして、地方の委員さんの反対を、私委員長として調整いたしまして――内輪話を申し上げますとそういうことでございます。それによって問題を解決しております。  私個人の意見から申し上げれば、いまの八条の二の第一項につきましては、裁判所が非常にお弱りになる、あるいは当事者、たとえば弁護士さんなんかに御相談にいきますと、これは一体申し立てできるようなことになるかどうか、あるいは申し立てても裁判所がどういうような判断をなさるかどうかということについて、的確な具体的な意見弁護士も言うことがむずかしいし、裁判所もまた現実に御判断になるのに、ある程度時期がたてば、判例、先例ができてまいりまして比較的楽になると思いますが、少なくともこれが施行され、実施されました場合には、しばらくは相当御苦心になるのではないか、こういうふうに私は考えます。  それから、主として私のほうで審議いたしましたこの手続法の面でございますけれども、これにつきましては、原則といたしまして民訴の手続を避けまして、非訟の手続に入るのだ。この先例につきましては、防火地域内の先ほど申し上げました法律とか、罹災都市に関する法律とか、先例はございます。しかし、一番国民になじまれておる先例と申しますのは、家事審判法でございます。家事審判法は、御承知のように非訟手続によってやっておりまして、裁判所が職権でおやりになる。これには職権で事実探知とかいろいろなさるについて、手足になる調査官をお持ちになっておる。それからまた参与員というものの制度がございますが、この参与員と今度の鑑定委員会と多少性格が似ているのではないか。ただし参与員のほうは、この法律の規定によりまして、忌避、除斥または回避等の規定の適用がありますから、これはむしろ裁判官に近い一種の参審的なものの性格を帯びているものだと私は思いますが、鑑定委員は、裁判所の外におって一種の諮問機関である。ですから参審的性格を帯びる率が少ないのではないか、こういうように私は考えますが、そういうような構想で、そういう家事審判などを一つの先例といたしまして、こういう手続をお考えになっておりますが、これの利点と申しますか、ねらいと申しますのは、民訴と違いまして、御承知のように非訟のほうは非常に融通無碍に手続を遂行することができる。たとえば当事者の申し立てにもあまり拘束を受けないでやれる。裁判所が独自の立場で事実の調査をしたりあるいは証拠を調べることができる。現在の民訴が、御承知のように、戦後の民訴法の改正によりまして、職権主義を排除いたしまして、当事者主義の色彩が非常に濃厚になってまいりました。この利点はもちろんございますけれども、日本ではまだあまり習熟していないために審理が延びるのだ、こういう観点から、このごろ学者の間でも、非常に民訴の非訟化というようなことの研究も深められ、また提唱されております。それも一つのあらわれだと私らは考えております。日弁連といたしましては、しかしながらこの裁判というものは結果が国民にとって適正であるということはもちろん、これは当然言うを待たぬことでありますけれども、その裁判がいかに判決または決定まで遂行されるか、つまりガラス張りの中で遂行されるということが、これは憲法が国民のために保障している条項でございますが、少なくとも国民が何も知らない間に、結果がいかによくても、裁判所が御自由に御決定になって、これについてこいというようなことは、民主的な裁判としては国民は受け入れることができないのだ。ですから、その意味におきまして、非訟手続をかりにおとりになるといたしましても、少なくとも当事者意見を十分聞いてくれいと、――従来の非訟手続でございますれば、その点は保障されておりません。実際お聞きになるかもしれませんけれども、法律上は保障されてないのでございます。これを今回の改正案では一部をお取り入れをいただきましたわけであります。立ち会いすることという規定が十四条の六にありますが、こういう規定を置いていただきました。  それから証拠調べも、単に職権で証拠調べをやるんだという非訟手続法から一歩民訴の方式に近くなりまして、当時者の申し出の場合も証拠調べをやるんだ、ですからその点におきまして当時者主事を幾ぶん取り入れていただきました。いま申し上げましたように、裁判所当事者意見を聞いたりあるいは裁判手続当事者にガラス張りの中でやる、こういう点、少なくとも当事者公開の点におきましては、ある程度われれわの主張も取り入れていただいていることだと存じます。  ただ問題は、憲法のいわゆる一般公開の面とはこれはほど遠いことでございますが、この面につきましてはなお国会におきましてよく御研究願いたいと思います。と申しますのは、私らの委員会のほうでは、この点においては当事者公開でいいんだというような多数説によって、あえて意見書の中にはその点について詳しく申し上げておりません。しかしながら、最高裁の裁判官で、公法学者であられたところの田中二郎さんなんかの御意見が、家事審判について、この種の事件で意見を述べておられますが、家事審判の場合でももう一度家事審判法そのものを再検討してみて、場合によっては、必要な場合にはこの対審公開の原則も取り入れるべきじゃないかという御意見を見受け、私も読ましていただいた記憶がございますが、その意味におきまして、自信は私のほうではないわけでございますから、なおその点の御研究を賜わりたい、また将来その結論が出ました場合にはお教えをいただきたいと思っております。  さようなことからいたしまして、日弁連の意見そのものではございませんけれども、最も心配しておりますところの裁判遂行の道中におきまして、少なくとも当事者公開の原則は今度の改正案の中に繰り入れられておるということを私は観測しております。  その意味におきまして、結論におきましては、この「自由と正義」の中に、細目につきまして要望しておりますが、これの全部は取り入れられておりませんので、私どもといたしましては、委員長といたしまして全面的に日弁連といたしまして賛成だというようなことはできませんが、主要部分については十分われわれのほうの意見もこの中に盛り込まれておる、この上は国会のほうで十分御審議をいただきまして、このままの姿か、あるいは何らか修正があるかどうか知りませんが、われわれのほうといたしましても、借地借家関係の調整のために、具体的にこういう立法ができ上がることを日弁連としても希望いたします。私の意見はこの程度にさせていただきます。
  17. 大久保武雄

    大久保委員長 次に、山木参考人にお願い申し上げます。
  18. 山本利壽

    ○山本参考人 私は横浜土地協会の理事をしておる山木でございますが、横浜土地協会と申しますのは、四十年来の歴史を持っておりますほんとうの土地所有者の団体でございまして、今般この借地法改正につきまして非常に心配している団体の一人でございます。ただいまからその会の意見をくみまして申し上げたいと思います。   〔委員長退席、大竹委員長代理着席〕  借地法を近代化するということにつきましては、何しろ大正年間にできた借地法でございますので、いずれは多少改正をしなければならないということは私ども考えておりますし、またそうあるべきだと信じておりましたところ、ここに改正法案が出ましたので、さてその法案を拝見いたしましたときに、私どもといたしましては、この法案を出すならば、まずその前に一応処置しておかなければならないことがあるのではなかったか、あるいは内容を拝見いたしましたときに、もう少し慎重にいろいろなことをお調べ願って出されたらよかったのではないだろうか、また一見いたしまして、いままでの借地法でさえも相当借地人を保護しているにかかわらず、この法律ではなおさら借地人のほうに肩を持って――また肩を持つのもけっこうでございますが、それに見合うような土地所有者に対する利益の提供というものがないばかりではなくて、むしろいままで有していた権利さえも剥奪するように思われました。そこで、やむを得ず、土地所有者といたしましては、このままでは法案にはどうも賛成しかねる、だから多少こちらの意見も入れていただきまして、直していただきたいというのが本心でございます。  借地法を一部改正したといいますが、拝見いたしますと、もともとの借地法という法律に対しては、削除等の変更はされておりませんので、したがいまして、借地権という定義からまずいろいろ問題があると思います。それは借地権は結局建物を所有する目的で借りた場合にそこに借地権ができる、この場合には借地法が保護してやるのだということがまず第一にいわれております。借地法の第二条には、借地権の長期にわたる保障がうたわれております。これがいろいろあとから問題になると思います。それから第十二条には、地代、家賃の増減に関する規定がございます。それで、しかもその増減をする要件といたしましては、租税、公租公課の増減とか、土地の価格の上がったとか下がったとか、あるいはまわりに比較して不相当となったときに初めてできるのだということを明らかに示されております。そして現在それでは契約されておる借地権というものはどういうのが多いかと申しますと、いわゆる地上権的、物権的性格ではなくて、債権的性格の借地法契約によって、しかも対人信用の関係において相互信頼の成立で契約されておる場面が多いのでございます。したがいまして、契約書の取りかわし等がない場面も非常に多いのでございますので、この点が非常に注目される問題かと思います。私どもの会合では、法律的なことは一切――一切と申しますか、法律的のことは十分存じませんが、ただ実際面からこの法律を拝見いたしまして、こうしていただければいいんじゃないか、こういうことでございます。   〔大竹委員長代理退席、委員長着席〕  したがいまして、ただいまから簡単に各逐条ごとに申し上げたいと思いますが、第八条ノ二のこれは防火地域借地権処理法を移したと思われるのですが、この中の第三条が、このところに特に抜けちゃっているのでございます。これはあとで「相当ノ処分ヲ為スコトヲ得」ということに含まれているかどうか知りませんが、これはこの目的がよい町づくりをするというのが目的でございますので、この第三条もぜひ入れていただかなければならないと思います。これは町づくりの目的から当然そうあるべきだと思います。  それから、先ほど諸先生のほうからもお話がありました第九条ノ二のところに、相互信頼の点が「賃貸人二不利トナル虞ナキニ拘ラズ」という意味において、相互信頼の理念がないじゃないかという御質疑がありましたので、私どももそれを本日は申し上げたかったのでございます。これをぜひ、先ほど申し上げましたように相互信頼でできている契約が非常に多いものですから、この点は特に御注意を願いたいというのが私どもの偽らざる希望でございます。  それから九条ノ三でございますが、要するに賃貸人が建物譲渡のときに買いたいと言ったらば、売ってもよろしいというそのことばでございますが、賃貸人が借地人借地権譲渡賃借権譲渡をすることを言えばいい、こういうふうな話でございますが、私ども借地法の第一条の定義で、つまり家屋を所有する目的でもって借地法借地権が取得されたのでございますから、もう家屋は要らないのだというならば、借地法借地権ということは関係ないのじゃないか、したがいまして、この場合には返還という文字を使っていただきたい。もちろん返還ということには無償返還も有償返還もありますので、これは裁判官がおきめくださることと思いますので、とにかく法律のほんとうの意味から常識的に考えて、返還というふうな御表現がしかるべきかと思います。  なお、今度十二条におきまして、家賃地代の問題で、これも非常に御当局が近代化ということについて御心配になってのあまりこういうふうな案を出されたと思うのでございますが、私どもといたしましては、この地代のあり方とかあるいは合理的な地代はどうするかということは、土地を持っている方がいろいろ御心配になっていることであろうと思います。そのきめ方について非常に困っておるので、政府のほうからきめられておる基準を大体考えてみますと、法人税法の施行規則の第十六条にうたわれている法人の権利金と地代とそれから地価との関連性をきめてございます。これは徴税上の問題かと思いますが、一応そういう基準をつけておられるのでございます。それに反しまして、地代家賃統制令という、これまたきわめて古くて時代錯誤の法律がここに出ております。片っ方では評価額の八割の利回りを取れ――権利金の授受のない場合の話ですが、取れといいながら、統制令では、統制令から換算しました現在の利回りは一分にも足りない、こういうのが二つの法律として現在ございます。こういうことから、一般の人が、所有者も借りている人も、地代の算定ということについて非常に困っているのではないかと思われます。  私ども地代の算定についてもう一つ考えさせられることは、この統制令があるために権利金が発生したんじゃないかということも考えられますことは、権利金の発生は地代の先取りだということもございますし、それからまた低廉なる地代を資本還元いたしました差額が権利金だという説もございますが、これがやはり統制地代がいま申し上げました低廉に押えられたために、ここにはからずもできてきたということは、戦前にはほとんど権利金というものは話題にものらなかったのが、戦後こういうふうになったということは、つまり統制価格がこれを引きずっていった、こう考えられます。したがいまして、この十二条は、とにかく地代のあり方というものがはっきりしない限りにおいてこれを法文化するということは、結局地主所有権者にとっては、地代の形成権を非常に制限されます。またここに「相当ト認ムル地代又ハ借賃ヲ支払フヲ以テ足ル」という一言は、結局借地権の解除ということを禁止したことになると思います。そういった関係で、この十二条は現行法だけでいいじゃないかというのが私どもの意見でございます。  なお、こういった前提をなした地代家賃統制令ということが、先ほど一番冒頭に、この法案を出す前には必ずしておかなければならないという問題があると申し上げましたのは、こういった関連性において地代家賃統制令というものは不都合であるということでございますが、それにも増して、この地代家賃統制令は、権利金を取っちゃいけない、地代もこういうふうに制限しろというのに、今度の法律では、権利金も正当と認めればあげましょう、地代もこのくらいにしましょう、こういうふうにいっておるので、法律の精神からまいりましても、全然相反することで、私どもといたしましては、法治国としては非常に恥辱的な法律が二つここに並行してあるということはいけない。それじゃどちらかを消さなければいけないかということになりますと、ただいま出ましたこの法案は、要するに現在の社会の情勢に適応するように苦心しておつくりになったので、過去における地代家賃統制令というものはとにかく流していただかなければならないと強く申し上げたいのでございます。これがあるために、いろいろな災いがこの法律を施行されればなおさら起こってくると確信してやまないのでございます。  地代の算定についてはまだたくさんいろいろ申し上げたいことがございますが、与えられました時間がまいりましたようでございますので、失礼させていただきます。
  19. 大久保武雄

    大久保委員長 次に、雪入参考人にお願いいたします。
  20. 雪入益見

    ○雪入参考人 私は借地借家同盟の顧問ということで、この席で意見を述べさせていただきたいと思いますが、私の本来の仕事は弁護士でございます。したがって、実務関係で主としてこの借地借家の問題を、特に借地人あるいは借家人の立場から扱っておる側から、この法案について意見を述べたいと思います。  この改正案に対しては、改正の方向には一定の前進があるというふうに私は考えます。ただしかし、借地人、借家人の保護という、借地法、借家法の本来の趣旨から見ました場合に、必ずしも今度の改正程度では賛意を表しがたいという意見を有するものであります。これからその理由を簡単に述べたいと思います。  基本的に見まして、今度の改正案は、土地建物の所有者の保護に重点を置き過ぎているのではないかという点でございます。借地利用に関して、たとえば東京都の例を見た場合に、土地使用状況のうち、借地権に依存しているものは、昭和三十八年の建設省の調査によりますと、約四〇%、――三九・三%を占めております。また、借家権利用して生活を営んでいるものが全体の二三%を占めておる。しかも、このうち借地あるいは借家の利用状況を見ましても、たとえば土地については約四〇%が住宅、つまり一般勤労者の住宅に使用されております。同じく借家のうちのおよそ二八%がやはり住宅によって占められているという点であります。つまり借地権あるいは借家権は、およそその三分の一が実際には勤労者の住宅によって占められているということであります。これはお手元に私どもいただきました資料が行っておるので、そこにその建設省の調査が出ておりますから、それをごらんいただけばわかると思いますけれども、つまり住宅にしても、店舗、工場等にしても、借地権によって社会生活あるいは経済生活活動を行なっている率がきわめて高いということであります。このことは、一面では大都市への人口集中があるが、これに対する住宅政策が十分ではない、そのために宅地不足、住宅不足ができてくる。これが一向に改善されないために、具体的には、自分の家がない、あるいは自分土地がないという事態を生じているものであろうというふうに考えます。しかも土地価格が戦後著しく上昇し、しかも土地がかっこうの投機の目的とされてしまったために、実質で見ますと、一般勤労者が土地所有権を入手してそこに家を建てるということがきわめて困難な状況に置かれているということも反映しているだろうと思います。このように、借地、借家にいわゆる住の基礎を築いている状態から見まして、つまり借地人、借家人の人たちに対してこれらの法律がすべて適用されるわけでありますから、こういういわば社会の屋台をなしておるような人たちの利益を無視することは、きわめて重大な問題ではないかというふうに考えます。今度の改正で出てきております財産上の給付というような問題、これはその実質は、借地権利金あるいは借家権利金を実質的に認める、こういう内容であろうというふうに思います。しかも現行はそういうようないわゆる権利金が法律権利として認められていない。そういうものを法制上の権利として設定し、これを合法化することによって、借地人、借家人の側に大きな負担をしいるという結果を生ずるのではないか。したがって、現行の借地法、借家法以上に所有権者を保護する結果を生むことは明らかであるというふうに考えます。  私は本来土地あるいは建物が投機の対象となり、これを放任することには反対でありまして、政策の上でむしろそういう土地所有あるいは家屋所有に制限を加えて、憲法二十九条の精神からいっても、あるいは現在政府がいっております福祉国家の理論からいきましても、一般に国の政策によってそういう土地一般勤労者に開放すべきであるというふうに考えております。賃借権のいわゆる物権化ということがよくいわれておりまして、従来裁判所あるいは実務家、学名の中でも、この方向で民法借地法、借家法等の解釈が下されてきております。具体的に、たとえば個人から個人、会社への転貸や譲渡の場合にこれを認めるということになりますと、これは個人的な債権関係を離れて、一定の物権化的な傾向を示しておるわけでありますけれども、こういう解釈が現実に下されてきておる。そういう観点から見て、今度の改正では、この方向ではある程度の前進はあるわけでありますが、国家経済あるいは都市経済活動の中で重要な役割りを占めております賃借に対してはまだ不十分である、これらの人たちが安心していろいろな活動を自分の居住地を中心にして行なうということにはまだ不十分であるというふうに考えます。  そこで、以下改正案につき、私が問題として提起したい若干の点を逐条別に指摘したいと思います。  まず結論的に、どの方向に改正すべきかという点から申し述べたいと思います。まあこれがこの法案に対する私ども借地借家同盟考え方でありまして、この法案に部分的には賛成であり、部分的には反対であるという理由につながってくるだろうと思います。結論的に、今度の改正案では、八条ノ二、あるいは九条ノ二、九条ノ三、九条ノ四、あるいは十四条以下に規定されております。借地条件変更等に関する一連の規定があるわけでありますが、このうちで借地条件変更について、先ほど布井参考人も言われましたように、非訟事件手続法によってこの問題の処理を行なっていくということであります。この制度の新設であります。これらの規定は、羅災都市借地借家臨時処理法あるいは接収不動産に関する借地借家臨時処理法、それから今度の法案では廃止いたします防火地域関係法といったものの制度を参考にしてとられたものというふうに考えられますが、第八条ノ第一項の堅固の建物以外の建物から堅固の建物への変更の場合、まずこの点について、私どもとしては、この場合にはこの八条ノ二の一項の適用は、たとえば都市計画法、建築基準法あるいは耐火建築促進法などによって、一般的に木造家屋が禁止されておる以外の場合に限るべきではないかというふうに考えます。つまり都市計画法等によって防火地域指定されている、こういう場合にはこれはまさに憲法にいう公共の福祉のために、社会全体の利益のためにそういうことが行なわれるわけでありまして、こういう指定を受けた場合には、やはり地主としてもそれに甘んじるべきではないか。それがいわゆる国家社会の一員としての義務ではないかというふうに考えます。したがって、この八条の二の一項が適用される場合は、そういういわば公共の福祉の観点から見た以外の、たとえばその近隣が土地利用上からいって鉄筋コンクリートの耐火、あるいは高層建築化したほうがいいというような場合についてだけ当てはめるのが適切ではないかというふうに考えます。その場合に、財産上の給付と引きかえに一定の許可を与えるということが妥当ではないかというふうに考えるものであります。  次に、借地権譲渡、転貸、これは九条の二に規定されておるわけでありますけれども、こういう場合に、いわゆる非訟事件手続によって裁判所判断にまかせることは必ずしも妥当ではないのじゃないかというふうに考えます。やはり借地権譲渡、転貸という問題の中で、建物増改築というのは、土地利用という本来の賃貸借契約内容から見まして、必ずしも契約内容の本質的な部分と言うことはできないのではないか。そのために従来の判例や学説でも、増改築の場合には、かりにこれを禁止する特約があっても、これが借地法十一条違反であるというふうにしている例が非常に多いわけであります。したがって、むしろ原則的には増改築については自由とすべきではないかということであります。すなわち、この点に関する従来の紛争を防止する上で、増改築の禁止に関する特約がはっきり無効であるという規定を新設するのが望ましいというふうに私は考えます。賃貸人の権利期間到来によるいわゆる更新拒絶の権利が現行法上保障されているわけでありますから、これらの一般原則によって処理することで十分ではないかということであります。これは賃借権譲渡、転貸、それから公売、競売等の場合にも同様に考えるべきではないかというふうに思います。  もともと土地の賃貸借契約というのは、地主に対して地代の徴収権限を貸し主として与えるということが契約の本来的な内容であります以上、原則として土地利用は自由にすべき方向に改正すべきではないかというふうに考えます。現に民法の中でも債権譲渡というのは原則的には自由になっております。したがって、賃借権についても、たとえば債権譲渡と同じような方法で行なうことは、必ずしもその信頼関係を破壊するというようなことは言えないんではないか。もしそういう事態が生ずれば、これは民法一般原則である権利乱用、こういう法理で解決していけばいいのであって、むしろ借地人の保護も、そういう本来の借地法、借家法から見れば、譲渡、転貸も原則的には自由にすべきではないかというふうに考えます。そのほかの、たとえば期限の問題、そういったことで借地法一般原則を適用していけば、貸し主は十分に保護を受けるのじゃないかというふうに思います。しかもこれは賃借権物権化という傾向から見れば、この方向は必ずしも不合理ではないというふうに思います。  なお、この改正案で、この問題について賃貸人の優先買い取りというようなものを認めておりますが、これも本来土地の合理的な利用という観点からいった場合には、必ずしも適切な規定ではないというふうに考えます。これと似たような規定は現在の借地法の中にもあるわけでありまして、これをさらに一歩進めるような形の改正をすべきではないかというふうに考えます。  それから二番目に、この借地法について、いま申し述べました非起事件手続によって行なわれるということであります。これはいま申し上げました改正に対する私どもの意見の基礎になるわけでありますけれども、本来非訟事件手続というのは、すでに御承知のように、原則的には非公開で行なわれております。裁判所の職権探知によって手続が進められるということになっております。これは先ほど加藤参考人も言われましたように、法理論の上で一定の権利を形成するということから現在の民事訴訟法の規定と必ずしも相いれないということがその理論的基礎になっておるようでありますけれども、少なくともこれによって一定の権利義務が発生する、形成されるということであるとするならば、やはりその裁判が公正に行なわれるということの保証がなければならない。この保証の原則が裁判の公開ということ、これは憲法上の要請でもあるわけでありますけれども、そういうことが非訟事件手続によりますと行なわれない。この点はたいへん問題ではないかというふうに思います。それからまた、こういういわば職権主義的な要素によって裁判が行なわれるということになりますと、現実法律実務家、法律に熟達した弁護士等を代理人として選定する資力のない人たち、こういう人たちについては、勢いそういう法技術的な無知から自分たちに対して不利益な裁判を受けるおそれがあるんではないかというふうに考えます。民事訴訟あるいは私ども家事審判なんかの実務から見ましても、そういう懸念はやはりあるわけであります。したがって、これが非訟事件手続によって行なわれるということについては反対せざるを得ないというふうに考えます。しかもこの手続によって財産上の給付が命じられる。これは先ほど申し上げました権利金になるわけでありますけれども、こういう場合に、はたしてその権利金の額が正当と評価されるだけの保証が現状からいって一体あるのだろうかということもたいへん問題であります。ことに土地の価格というのは、現在の東京都の場合を見ても、鑑定士相互の間に、たとえば土地に対して一定の鑑定をした場合に、私の経験からいきましても、十倍くらいの開きが出てくる。一坪二十三万円と鑑定をした人と二百三十万円と鑑定をした人がある。こういう状況の中で、はたして裁判所が公正に、しかも職権的な調査によって判断ができるであろうか。また鑑定委員会が具体的にどういう機構になるかということは私はわかりませんけれども、そういう人たちがはたしてほんとうに公正客観的な鑑定ができるかどうかということ。こういう点もたいへん問題があるわけでありまして、単に結果的にそういったものを設けておけば何とかうまくいくんではないかというような、どっちかというと便宜的なふうにもとれるわけでありまして、そういう観点から見てもこの改正案のこの部分についてはたいへん問題があるというふうに考えるわけであります。  それから時間の関係ではしょりますけれども、これの改正案の中で第十二条の三項が追加されております。これは賃料の増減に関するものでありますが、主として私の述べたいのは、賃貸人の増額請求の意思表示がその時点から形成的効果を発生するにしても、その請求額の不払いが直ちに解除原因を構成しないという現行法の改正案に対しては、原則的には賛成であるというふうに考えます。ただ同条項中裁判が確定するまでは「相当ト認ムル地代又ハ借賃ヲ支払フヲ以テ足ル」というふうに規定されておりまして、この額は一応賃借人の意思にかかわっているということは言えるわけでありますけれども、かりに賃貸人の請求がきわめて不当であったというふうに認められる場合に、従来の私ども借地借家同盟の中で扱っている例で見ますと、地代の値上げ傾向がある。どうしてもそれに近い、あるいはその請求額に似通ったような額にある程度上ければそれを地主が拒否をする、その額を供託するということになるわけであります。そうしないと実際には権利を解消するということを言っておるわけでありますから、これからはやはりそういう事態が続くであろう。もしこの借地法改正案の規定であればそういうことが続くであろうと考える。そうなりますと、実際に訴訟手続の中で、それによって得られた賃借人の相当であるというふうに認めた額が、実際にはその裁判の基礎にされてしまう。その額に近い額が裁判所によって認定される可能性が出てくる、こういう危険性があるわけであります。したがって、むしろこの改正案のこの部分については、「相当ト認ムル」という部分を、現行の「地代又ハ借賃」というふうに改めるべきではないかというふうに考えます。そうすることによって、そういう不合理は是正されるのではないか。これもやはり私どもが調査したところでは、東京の江東区では、同じ道路の部分でありますけれども、一方では坪当り五十五円の地代がある、一方では二百八十円の地代がある。また中央区のある場所では、一般的には七十五円の地代である。ところが同じ場所で四百五十円の地代が一方で行なわれている。こういう非常にアンバランスがあるわけであります。しかも鑑定等にかけますと、同じような鑑定が出てくる。五十五円の鑑定もあれば、二百八十円の鑑定もある。七十五円の鑑定もあれば四百五十円の鑑定も出てくる。こういうことになるわけでありまして、こういう非常にアンバランスな点を裁判所に持っていっても、裁判所もほんとうに公正な判断ができるかどうかということはたいへん疑問に思うわけであります。したがって、この借地法のこの部分に対する改正については、いま言った現行の「地代又ハ借賃」という部分を、従来ございます地代家賃統制令に似たような一定の地代の基準になるような額を法律によって明記する必要があるのではないか。そうしない限り、こういう不合理はこの法案改正によっても決して解決されないであろうというふうに考えます。  以上が私の意見であります。
  21. 大久保武雄

    大久保委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。鍛冶良作君。
  22. 鍛冶良作

    鍛冶委員 布井さんに一点だけ伺いたいと思いますが、手続のことです。  第一は、いま雪入さんからお話しになりましたが、また先ほど加藤参考人からも出ましたように、事実当事者で争ったものを決定するのではなくて、今後法律関係、こうあればよろしいという形成というような問題、それだから非訟事件でいいのだ、こういう硬論ですが、これは考え方でして、そういう場合はなおさらどうも慎重にやってもらわなければならぬので、非訟事件ではいかぬのではないか。これが第一の疑問でございます。  第二の疑問は、これは雪入さんの言われていたことと全然反対にわれわれはとっておりますのは、この改正案に対して所々からいろいろな意見が出てまいりました。主として反対意見でございます。ところが、われわれが見ましても、あなたもおっしゃるとおり、この法律はいままでいろいろ難点とされておったものをとにかく解決することを見出したことで、われわれは常識上非常にいい改正だと考えております。しかるに、実際面に当たっておる地主側のほうから非常に反対を言うてきておりますが、その言うてこられるその一番は、いままでどうも裁判所は、何かといえば、借地人、借家人ばかりを保護して、貸し家人及び地主なんというものはてんで眼中に置かれなかったのだ、そこへもってきて、またこういう解釈を出してやられたら、もうこの上はどこまでわれわれはいじめられるかしれぬということが一番の申し立てのように考えられる。またそういう面もあったのです。そういうふうにみんな考えておるところへ、職権主義でやる、非訟手続でやるということは、これではますますこの不安に対して拍車をかけるものだと思いますが、これらの点に対して、あなた方のほうで議論がなかったか、また、きょう私からこれだけのことを申し上げたが、どのようにしたらいいかをひとつあなたの御意見を伺っておきたい。
  23. 布井要一

    布井参考人 ほかならぬ鍛冶先生、すでに十分御研究の上のいまの御質問で、むしろ私が生徒としてテストを受けておるような感じがいたすのでございますが、御承知のように非訟手続ということについては、私が大学の法科の勉強をしておった時分にはこういう講義は受けていなかった。それから最近でもおそらく非訟手続だけ別講座でお取り扱いになっておる大学というものは少ないのではないかと思います。それから私、今度の審議にあたりまして、試験勉強的にいろいろ資料を集めたのでございますが、いま研修所長をなさっておる鈴木先生の論文集、これは非常に御労作でけっこうなんでございます。それから神大、阪大教授をなさっておる山木戸教授の論文集に一部書いてございます。それから三ケ月東大教授がこの問題、直接には当たっておられませんけれども、ほかの論文の中でこれに触れておる。それから各種の座談会という程度のものであって、しかも鈴木先生の何を見ましても――それからもう一つ言い忘れましたが、最高裁のこういうものに関する判例が二、三ございます。これも権利義務関係の確定に関するものは民訴でやるんだ、権利義務の設定、変更、消滅というようなものは非訟だというように、これは最高裁の判例の中にも、大体そういうように書いてございますし、それから鈴木先生の御論文の中に、ドイツでもいろいろ――これはドイツが一番発達しておる。ドイツでも分け方がいろいろ説がある。ですから三ケ月教授は立法政策の問題だとはっきり割り切られておるのが私記憶に残っております。  鍛冶先生のいまの御質問ですが、実は私自身がいろいろ読んでみましたが、全く浅学のためにはっきりした結論を見出すことができない。ただ、こういうことはいえるんじゃないかと思います。いままでの民訴でやっておりますと、先生承知のように、たとえば家賃を幾ら幾らにしろという家賃等の増減請求、これは相変わらず民訴でやることになっておりますが、これだと、原告の請求より以上の金額が裁判所で妥当だと思っても、原告の金幾ら幾らというものにとどめなければならぬ。申し立てと、それから裁判との間が、非常に申し立てのほうに制限を受けるわけです。こういうような事件、もろもろの場合に、借地条件変更なんかをきめる場合にも、申し立て人のほうでもわからないというような場合もありますし、何かいいかげんなことをいうと、それ以下になってしまうおそれがある。ですからその面からいいますと、民訴でやるとすれば、民訴自身がもっと融通無碍なものにかえられる必要が生じてくる。私、これに関連して勉強した中に九大の吉村徳重助教授が、アメリカの民訴のこのごろの改正の動きを書いておられます。ニューヨークの民訴規則では非常にそういう幅を持たすような改正が行なわれた。民訴と別の非訟の面ではなくて、民訴の中でそういう改正の動きがアメリカではある。ですから民訴じゃ、非訟じゃといっておりますけれども、民訴の中でそういう特別、たとえば手形訴訟先生たちのお力によってあれは別個の法律になりました。ああいうように何か一つの問題ごとに特別な民訴形式ができ得るのであれば、民訴じゃ、非訟じゃとやかましくいう必要はない。ですから、私はその意味におきまして今度のこの立法においてはそういう民訴の改正事業がいまのこの時点でちょっと間に合いかねる。ですから、現在ございます非訟を一応借りてきて、非訟の中でいけないものだけ排除して、民訴的にする。できるだけ民訴的にしようというのがわれわれの主張なんです。ですから、今度の何は法制審議会の答申と変わりまして、非常に民訴方式をおとりになって、審問に立ち会わすとか、いま私が申し上げたように、当事者の申し出による証拠調べもできる、そういう道を開いておられますから、なお民訴方式を十分とったというところまではいっておりません。しかしながらやや満足すべき状況じゃないかと私は思います。  それから、いま先生と私と全く同感な点は一つございます。私、実は借地人なんです。大阪の郊外でちっぽけな家を持っておりますが、借地人でございます。この審理中に、地主の側が非常にこういう立法は地主に不利だ不利だとおっしゃっておられましたが、私が個人的に考えてみますと、先ほど申し上げましたように、私が今度建物を何かの原因で売ろうというような場合には、この法律が施行されますと、権利金を、いわゆる名義書きかえ料というものは徴取されることになる。東京付近であれば、これは当然のことでございますけれども、大阪の場合は、大阪郊外におきましてはまだ名義書きかえ料という制度があるところと――私なんか、これはもう十何年前でございますけれども、半建ての建物を買った場合に、書きかえ料は出しておりません。そのかわりに地主のところまではお盆と暮れには、何かこうミカンでも届けるという対人関係が非常に濃厚な面がまだ残っております。東京の例を聞きますと、そんなことはないそうでございます。ですから、その面からいきますと、少なくとも地方の借地人は、経済的には私は現在よりも不利な立場になる。  それからまた、法律手続の面におきましても、雪入先生いま御引用になりましたけれども、各地の判例を見てみますと、たとえばこの中の資料の鳥取の判例でございます。ここは防火地域指定はございますけれども、防火地域の処理法は施行されていないし施行されているのは東京と横浜だけだ。施行されてない場合には、指定がありまし  ても、地主に交渉したけれども、建物改築、堅固な建物にすることを承知しない。だから、やむを得ずやっちまったという場合には、地主の解除権は認めていないわけでございますね。ところが、こういうものが施行されているところですと、東京地方の判例を見ておりますと、大体地主に有利に解除権を認めております。ですから、全国一般にこういう法律が施行された場合には、ある意味においては借地人に不利な面も出てくる。ですから、したがって、地主借地人との利害関係の調整ができ、その目的も達せられる。そればかりじゃございませんけれども、そういう感じもしております。  長時間にわたりまして、まことに恐縮でございます。
  24. 大久保武雄

    大久保委員長 参考人と質問者にお願いいたしますが、時間の関係上、できるだけ簡潔にお願いいたします。
  25. 鍛冶良作

    鍛冶委員 いまあなたが言われた、何か当事者関係する規定を入れられたというのは、ちょっと私、わからないのですが、最高裁判所が規則を設けることができるというのは、そういう解釈ができるというのかぎか。あなたは当事者が関与することができるというように、こうおっしゃった。  ついでに一ぺんに言っておきますが、これで見ますと「非訟事件手続法第一編ノ規定ヲ準用ス但シ同法第六条、第七条、第十五条及第三十二条ノ規定ハ此ノ限二在ラズ」、これは準用せぬということですね。そうなるとあなたの言われることとだいぶ違うように思われるのですが、第六条は代理人を定めることができるというのが、排除するのだから、定められないことになるのではないですか。それだけ御返答願いたい。第六条、七条、十五条、三十二条は排斥されておりますが、別に差しつかえありませんか。
  26. 大久保武雄

    大久保委員長 時間の関係がございますので、できるだけ簡潔にお願いいたしたいと思います。
  27. 布井要一

    布井参考人 一点だけ、たとえばで申します。六条でありますが、これは代理人規定でございまして、これは民訴並みにやることに規則のほうでなさるのじゃないか。その余地を残しております。そういう意味で、たとえば検察官関与の問題もこの条文に入っておりますから……。そういうことでございます。
  28. 大久保武雄

    大久保委員長 横山利秋君。
  29. 横山利秋

    ○横山委員 先ほどの雪入さんの御意見の中で、私も体験したことがございますので、布井先生にお伺いしたいのです。都市計画でどうしても道路から少し下がらなければならぬ場合があります。借家人、借地人にとってはいやだけれどもしようがないという場合があります。こういう場合の増改築は、裁判の判例でも増改築禁止特約は無効であるという判例が出ております。かりに争いがあって、この八条ノ二で裁判所に移った場合、裁判所は双方の「当事者間ノ利益ノ均衡ヲ図ル為必要アルトキハ他ノ借地条件変更シ」ということになりそうですね。値段が高くなりそうですね。こういうことは従来の判例からいっても少しふぐあいじゃないかと思われるのですが、どうですか。
  30. 布井要一

    布井参考人 従来の判例からいきますと、たとえば契約解除ということで取り上げて明け渡すということの非常にきゅうくつな裁判しかできない。今度の場合は、何か借地人の言い分は通すけれども、そのかわりにたとえばいまの権利金あるいは名義書きかえ料その他の一時的な財産給付あるいは期間が長くなったりいたしますから、賃料の値上げと一緒に、同時に裁判の内容に盛り込もうとなさる意図ですが、私の申し上げたいのは、なかなか裁判所は御苦心なさりはしないかという心配をしております。そういう裁判はなかなかむずかしいのじゃないかということを申し上げておるのであります。
  31. 横山利秋

    ○横山委員 私の意味がちょっとおわかりにならないようですが、本来借地人、借家人の必要でない、自分がそう必要としない、国家並びに公共団体の都合によって、増改築せざるを得ない場合がある。そういう場合に、従来の判例からいうならば、それで家主、地主が文句を言ったって無効だとなるのだけれども、今度の改正でいけば、裁判所借地条件変更をして、あなたのおっしゃるように少し家賃を上げよう、地代を上げよう、証拠金を出せ、こういうことになりはせぬかという心配があるということです。
  32. 布井要一

    布井参考人 ちょっと私まだはっきりつかみかねておるのでございますけれども、結局従来の判例だと、お説のように借地人に有利なような判決がおりる見込みが十分でございますね、この場合は。ただそれだと、従来の裁判判例から見ますと、そこで事前借地条件変更してくれという裁判は、従来のままであれば申し立てばできないのじゃないでしょうか。何か地主承諾しないままにやってしまった、だから地主のほうから明け渡しというような請求の裁判が出てくる。ですから、こういうものがなければこうしたいのだがどうだという裁判申し立ては、私寡聞にして――ちょっとそういう申し立てができないんじゃないかという気がするのでありまするが、どうでございましょうか。
  33. 横山利秋

    ○横山委員 当人さんは私の質問の意味がわかりますか。あなたはどう思いますか。
  34. 雪入益見

    ○雪入参考人 私が懸念しておるのは、いまおっしゃられたような点でございます。ことにこういう場合に、やはり都市計画法によって一定の区画ができる。それによってその場所を立ちのく、あるいは増改築が余儀なくされる、こういう場合に、今度の改正でいきますと、この場合にもその増改築について、もちろん増改築禁止特約があった場合でございますけれども、その場合にはいずれにしても裁判所許可を得なければならない。そうなると裁判所によっていわゆる変更を命ぜられる場合がある。あるいはそのほか地代等の条件が変わる場合がある。こうなりますと、結局借地人の、末端の意図にかかわらず、借地人は本来欲していないにもかかわらず、そういう不合理な結果が裁判によって生じてしまうということがあり得るだろうと思う。そういう点を今度の改正案では明瞭にしておりません。したがって、御指摘になったような御懸念はやはり今度の改正案が通りましても起こってくるのではないかというふうに思います。
  35. 横山利秋

    ○横山委員 雪入さんと山本さんにお伺いしたいのですが、抽象的な聞き方で恐縮なんですが、多くの都市の盛り場でございますね、盛り場が一こう発展しない。案外発展しない。つまりお寺を中心にした盛り場ですね、そういうところが案外発展しない。時代に伴って衰微をしていく。衰微していく原因の一つは、この昔ながらの盛り場は、お寺並びにお宮さんの地所がたくさんある場合がある。またそうでない場合もあるのですが、そういう昔ながらの盛り場を、もちろん防火地域帯になっているのですけれども、そこのところに堅固な建物を建てる場合に、お寺さんやお宮さんとなかなか話がうまくいかない。お寺さんやお宮さんが本来の宗教関係以外のお仕事に最近非常に手を出されるものですから、それで法外な、と言っては恐縮だけれども、金を要求される。盛り場の店屋にはとてもそんな金が出ないというわけで、都市発展がいままでお寺、お宮を中心にして発展をしておったのが、そこが衰微してしまって、別なところが発展してくるという傾向が非常に強いと思うのですが、この法案はそれに一つ解決点を与えてはいるようだけれども、結局いま布井さんのおっしゃるように、両方とも顔を立てて、多少こっちも出せ。おまえのほうも少し頭を下げろというようなことになって、結局借地人も借家人もこの法律では解決できないような方向になってしまうのではないか。これは実は雪入さんの理屈に全く同感なんですけれども、さりとて都市状況からいって、その盛り場を発展させるにはどうあるべきかという点がもう一つの私の疑問なんですが。ちょっと抽象的でございますが、その辺について、それぞれもし御意見がありましたら御意見を伺いたい。簡単でけっこうです。
  36. 山本利壽

    ○山本参考人 いまの御質疑の点は、この法案との関連性についてのと思われるのでございますが、それぞれ土地状況によりまして、かつて盛んだったところが落ちていっているが、この法案とどういう関連があるかというお話のように承りますが、御承知のとおりいろいろ世の中が変化し、発展し、東京においても部分的に都市ができますようにいろいろ変化しておりますし、昔のよな考え方で町を経営しても、いまの若い方たちには合わないために自然的にこらした場合があると思います。先ほどお客さんが固い頭で、と解釈してよろしいのですか、なかなか発展ができないというお話でございますが、その点につきましては、大地主さんの中にはそういう点がなきにしもあらず、なおまた発展過程において、非常に努力して、道路等をこしらえてやっていくお寺さんもなきにしもあらずと思いますので、一がいにはこの法律との関連性について申し上げかねると私は思います。
  37. 布井要一

    布井参考人 都心における寺院、あるいはお社の寺有地、社有地の問題、まことにお説のような事案を私、個人としても経験しておりますが、私の場合は、大阪でございますが、地主さんは原則として先ほど申し上げたように貸したがらない。やはり売りたい。しかしながら、寺有地、社有地でございますから、これは制限を受けまして、そう簡単に売れない。ですから、大阪の場合は、いまお説にございましたように、私たちから見ましてもいかがかと思われるような建築を社寺自身がしております。一番極端な場合は、御承知の京都の本能寺なんかは修学旅行目当ての旅館営業をやっております。ですから、関西のほうでは、この法案と関連しまして、つまり借地問題として考えられるような事案は現在少のうございます。将来も起こる可能性が少ないのではないかと思うのでございます。
  38. 雪入益見

    ○雪入参考人 東京の場合ですと、確かに寺を中心借地借家同盟発展するという場合が非常に多いわけです。これは一つは寺が古くからたくさん地所を持っておって、その付近が寺の領地になるというために、一定の経済的、社会的活躍の中心になるという事情があったから、そういうことが出てきたのではないかと思うのですけれども、そういう実態の中で今度の改正案で、最初に問題になるのは、いま出ております借地条件変更の問題、あるいは譲渡、あるいは転貸の問題等だろうと思いますけれども、確かに、私、江東区に住んでおりますが、江東区のあるお宮、あるいは寺の付近でも、その辺の建物だけが非常に古いものになっておる。よく調べてみますと、借地条件に、建物増改築の場合には地主承諾が必要であるということが書いてあって、そのことがガンになっておるのですね。そういう点から見て、私、先ほどこの改正案に対する意見提案したわけですが、特にこれからその付近の状況が変化している、こういう場合に、かりにお寺の付近の地域が、防火地域指定を受けていない場合、この八条ノ二、「附近ノ土地利用状況ノ変化其ノ他ノ事情変更ニ因リ現ニ借地権ヲ設定スルニ於テハ」――この場合には、たとえば一定の行政的な措置、防火地域指定であるとか、都市計画とか、そういったものでなくて、やはり、その土地利用によって一定の収益を受けるわけですから、そういう場合には、やはり、この八条ノ二の規定をそのまま生かしていいのじゃないかというふうに考えます。お答えになるかどうかわかりませんが、一般的にはそんなところではないかと思います。
  39. 横山利秋

    ○横山委員 最後に、布井参考人一つだけお伺いしますが、この法案一つ中心になるのは、鑑定人の鑑定価格だと思います。先ほどどなたかお話ございましたように、鑑定価格が非常に違う場合があり得る。先般九州へ参りまして、鑑定人の鑑定価格に非常に不服な人がおって、それは安過ぎるという不服ですから、ある意味では逆ですけれども、どういう人が鑑定人になっておるかといいましたら、村の助役さんだ、あんなよぼよぼの助役さんは何も世の中のことはわかりはせぬと言っておこっておった。本法案の一番中心をなします鑑定人の選考だとか、報酬だとか、裁判長の使い方といいますか、その鑑定に対する不服処理の問題だとか、鑑定人に対してどうあるべきか、今日までの経験から何か御意見が伺えれば幸いだと思います。
  40. 布井要一

    布井参考人 ただいまの点が、実は私先ほども多少触れましたけれども、本案運用上の一番ポイントじゃないかと思います。ですから鑑定委員会がいまの家事審判の参与員的なものであるのか、あるいは先生いまおっしゃる鑑定人そのものに近いものにするのか、鑑定人と鑑定委員会とどういうように違うのだといいますと、法律上いろいろ問題がございますけれども、はっきり申し上げて、鑑定委員会と申して鑑定人としての力量をお持ちの方が三人以上ということだと思うのでございますが、三人以上お集めになるということではなさそうでございますね。一人は鑑定の専門家を当然お入れになる、あとのお二人をどういうように構成なさるか。過去の例を見ますと、罹災都市の鑑定委員会の例――私神戸地方裁判所で伺ってまいったのでございますけれども、大体鑑定委員におなりになる方の名簿がちゃんと裁判所にあらかじめございまして、その名簿の中の人たちは不動産業務に側人として従事しておられる方、それから会社として、たとえば何々信託というところの社員の方、それから弁護士さんあるいは調停委員として深い御経験のおありになる方というような名簿がございますから、おそらく今度もそういうような同種のお取り扱いをなさることになると思います。そのときに、私の先ほど疑問を提出しておきましたのは、いまの不動産鑑定士というような専門家の方がお一人で、あとの二人が違うんだということであれば、これは鑑定人だといいながら、鑑定人的性格からは多少後退するのじゃないか。といってこれが参与員あるいはドイツの参審的なものでもない、非常に中途はんぱなものでありますから、この運用の点につきましては十分お考えいただきたい。日弁連といたしましては鑑定人的性格を濃厚に出して、なるべくお三人は第三者が見まして信用の置ける方、いま先ほどから、鑑定人によりましていろいろ価格が違うというのが実情でございますから、国民の側から見まして、あの方ならだいじょうぶだというような方をその中にお入れいただく、こういうように願いたいと思います。
  41. 横山利秋

    ○横山委員 終わります。
  42. 大久保武雄

    大久保委員長 大竹太郎君。
  43. 大竹太郎

    ○大竹委員 時間もございませんから、各参考人の方々に一点だけ簡単にお聞きしたいと思います。  まず、布井参考人にお聞きしたいのでありますが、先ほど御意見をお述べくださいました中に、借地権物権化には弁護士会としては非常に反対をしておった。しかし今度の案を見ると相当これから見て後退をしておるので大体賛成をしたのだというお話でございます。それで最後に御自分の御意見としてお述べになったんだろうと思うわけでありますが、しかし大体借地借家関係の問題は、今後やはり東京地方で行なわれているように、権利金その他を中心として物権化の方向へ、当然社会情勢としてもそういくだろうし、そうあるべきだと自分は思っておる。こうおっしゃっておるのでありまして、そういたしますと最初の御意見弁護士会の御意見、あとのほうは個人の御意見かもしれません。多少矛盾しておるように思うわけでございますが、その点もう一度はっきり伺いたいと思います。
  44. 布井要一

    布井参考人 まさに最も痛い点をおつきになって、私きょうここへ参りますまでは、連合会の意見をそままお出しして、なるべくそういう努力をしようというつもりで来たのです。しかし先ほど申し上げましたように、私、根が地主でなくて個人として借地人でございます。どうも平常から、私、東大出身でございますが、東大法学部の講義は、先生方は賃借権物権化ということで頭にしみ込んでおります。ですから、つい地金が出ましたが、連合会の調整はいまのこの面で調整いたしました。お説のように私は物権化論者でございます。
  45. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に、山木参考人にお聞きしたいのでございますが、参考人は横浜にお住まいであり、横浜を中心とした借地借家のことがよくおわかりになるだろうと思うのでありますが、先ほどの御意見によりますと、横浜地方においても借地信家は非常に対人関係が重んじられておるという御意見であったと思うのであります。ただ私どもが聞いております範囲におきましては、東京近辺、もちろん横浜も入るだろうと思いますが、この地方はもちろん対人関係のものも相当あるでしょうが、大部分はやはり権利金を取り、そして転貸その他比較的自由な契約が多く、関西方面はむしろ東京付近と反対対人関係のほうが非常に多いというふうに聞いておるのでございますが、横浜は東京近辺の事情とは違っておるのでしょうか、その点をちょっと……。
  46. 山本利壽

    ○山本参考人 お答えいたします。  横浜の事情というお話でございますが、御承知のとおりに接収された期間が非常に長うございまして、その間賃貸ケースもできなかったという状態でございます。重要なところ、六〇%も、長い間十年以上使われておった。それではその後賃貸関係があったかといいますと、地主はこういう借地条件、いろいろな制限を受けましたので、貸すのを非常にきらっております。したがいまして売買ケースが多くて、実は地代の賃料の鑑定といいますか、比較をするのに非常に苦心するほど、市の中央部においては賃貸関係が少ないのであります。ということは結局安心して貸せない状態にあるからだということに尽きると思います。それで従来残っておったのは対人関係でお貸しになっている会社が貸しているのだけがほとんどの状態だ、こういうことになります。簡単でございますが……。
  47. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に、雪入参考人にお聞きしたいのでありますが、先ほど借地権はやはり債権の一種だからいわゆる債権譲渡と同じものの考え方考えていいのではないかという御意見だったと思いますが、これは申し上げるまでもなく一極の債権であることは間違いないのでありまして、いわゆる権利の面を譲渡するのはいいのでありますが、借地権には当然債務を伴うわけでありますが、いまの債権譲渡、ほかの債権譲渡と同じものの考え方に立たれた場合に、債務の譲渡も同時に認められるのですか。債務の譲渡は最初の借地人に残り、そして債権の部分だけを自由に譲渡されるというお考えに立つのですか。
  48. 雪入益見

    ○雪入参考人 私先ほど債権譲渡と申し上げましたのは、一つの方向としてそういう形もあり得るのでありまして、つまり借地権といういわば一種の債権譲渡することによって個人の信頼関係を必ずしも阻害されることはないのじゃないかということを申し上げたかったからであります。と申しますのは、土地の賃貸借契約というのは確かに債権関係ではございますけれども、地主側からしてみればやはり地代の徴収権ということになるわけでございます。したがいまして、地代の徴収権というのは、これはもちろん譲渡できるわけでありますけれども、一種の、借地人側に立ってみても実質的に地主地代の徴収権がそこなわれるというような特殊な事態、こういうことは多くの場合民法一般原則によって、権利乱用の禁止、あるいは信義則の法理によって解決できるのじゃないか。したがって、借地権譲渡もそういう債権譲渡的な考え方からいって、一般的には自由にしていいんじゃないかというふうに考えておるわけであります。  なお、借地権譲渡が債務も一緒についていくのかどうかという点でありますが、これはたとえば地代債務でございますが、こういったものはやはりそのときに発生したものでありまして、これまで一緒についていくということになれば、その限りで債権者である地主のほうに不利益になるであろうというふうに考えます。ただこの場合でも地代の不払いによって契約を解除できる。そういう権限が地主のほうに留保されるわけでありますから、その債務も一緒にやるかどうかというのは、そう重要な問題ではないのではないか。それによって地主権利が不当に制限を受けるということはないのではないかというふうに考えておるわけでございます。
  49. 大竹太郎

    ○大竹委員 終わります。
  50. 大久保武雄

    大久保委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には御多用中のところ長時間にわたり、貴重な御意見をいただき、本案の審査に御協力くださいましてまことにありがとうございました。委員会を代表し、ここに厚く御礼申し上げます。  どうぞ御退席ください。  本会議散会後委員会を再開することとし、この際、暫時休憩いたします。    午後一時三分休憩      ――――◇―――――    午後四時六分開議
  51. 田村良平

    ○田村(良)委員長代理 それでは、休憩前に引き続き会議を開きます。  借地法等の一部を改正する法律案に対する質疑を続行いたします。大竹太郎君。
  52. 大竹太郎

    ○大竹委員 せんだっての質疑では、基本的な問題について若干お尋ねをいたしたわけでありますが、時間がございませんでしたので、途中でやめてしまったわけでありまして、基本的な問題について、いま一、二点御質問申し上げたいと思います。  それで、今度の改正案でやはり問題になるのは、たとえば第八条ノ二の第一項のように、いわゆる協議が整わなかった、すなわち変更契約ができなかった場合に、貸し主の承諾にかわる裁判をするということになるわけでございまして、そういうようなこと、それからいま一つは、先ほども問題になりました、訴訟手続でやらぬで非訟手続で公開の裁判でなくやる、この二つの点につきまして、一つはいわゆる契約自由の原則に対する問題、いま一つは公開の裁判を受けるという権利、いずれも憲法に規定されておる基本的な人権との関係において今度の改正案は多少疑問の点があるのじゃないかという意見もあるわけでありますが、その点についてひとつ御説明をいただきたいと思います。
  53. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 第八条ノ二の二項におきまして、増改築を制限する旨の借地制限がございます場合、これは特約として当事者の間の合意があるわけでありまして、本来その合意に従うのが契約の原則上当然のことであります。ただ、このような借地条件がございます場合に、地主のほうで増改築承諾いたしませんと借り主のほうで土地利用上非常に困るという場合があるわけであります。このような場合に、どうしても地主承諾が得られませんために、借り主としてはあえてその契約に反してまで増改築を敢行するというふうな結果が往々にしてあるわけであります。このことは契約のたてまえから申しましても困ることでございますし、貸し主の地主側にしてみればたいへん迷惑な話でございます。さりとて、ただ貸し主の単なる恣意によって合理的な理由があるにかかわらず増改築を認めないというふうに、貸し主のただ意思のみによってこれが左右されるということになりますと、土地合理的利用という観点からいたしまして非常に不都合な結果にもなるわけであります。契約契約といたしましてもちろん尊重すべきではありますけれども、そのような双方の立場、それぞれの事情がございます。また個々の案件によりましていろいろな差異もございましょうけれども、当事者間にまかしておいたのではかえって紛争の原因になりますし、狭い国土の合理的な利用ということにも支障が生ずるわけでございます。そういう意味合いにおきまして、借地関係を合理的にする。何人が見てもこれならば増改築は認められるべきものであるというふうな相当の理由があります場合には、これは個々の増改築につきまして地主承諾しない場合に裁判所が関与いたしまして、慎重に審理が行なわれました後に、そのような承諾にかわる許可を与えて双方の利害を調整する。これがむしろ大きな立場から申しまして借地関係というものを合理化していく上に必要なことであろうと思うわけであります。したがいまして、契約の自由の一原則ということはむろんございますけれども、これは借地関係のみに限りません。公共の福祉のために、あるいはその他のいろいろの理由によりまして当事名聞の法律関係を適正に規正し、合理的な法律関係に是正していくという裁判所の公権的な立場からこういうものに関与していくわけでございまして、これはあえて不都合な問題であるというふうには考えられないわけでございます。  それから、この手続を非訟事件によって、まあ非公開の場で審理をするということは、はなはだ不都合ではないかというふうな御意見もあるようでございます。訴訟にするか非訟事件にするかという根本的な問題があることはもう御承知のとおりでございます。この八条ノ二に掲げてございます場合と申しますのは、契約がございまして、その契約を破ってしまってどちらかが契約に違反した行為に出たために賃貸借契約というものが解除されるということまでいく前の段階の問題でございます。もしも、これが借り主のほうで無断増改築をあえて行なったということになりますと、これは契約条項に違反いたしますので、地主といたしましてはこの条項違反を理由といたしまして契約の解除ができるわけであります。解除いたしましたときには、貸し主は、賃貸借はすでにもう存在しないという主張をいたしますし、捕り主は借り主側のそれぞれの事情に基づきましてその解除は有効でないという主張をするだろうと思います。そういたしますと、契約が解除されたかされないか、さらに言いかえれば、賃貸借関係というものが現に存在するかしないかということが争い中心になるわけでありまして、これこそまさに法律関係の存否に関する争いでございます。これはその判決によって確定するほかはないわけでございますので、当然民事訴訟の形によってこの法律関係の存否を確定しなければならない筋合いでございます。今回の法律改正は、そういった場合にあえて非訟事件でこれを処理しようという趣旨ではございません。ただいま申し上げたような場合にはもちろん民事訴訟の成規の手続によりまして法律関係の存否を確定すべき筋合いのものでございます。ここに規定しようといたしております点は、そのような法律上の紛争に至ります前の段階で、一応当事者の間で協議が行なわれます。協議が行なわれても、なおかつその協議が整わない場合に、さらに裁判所に公権的に関与してもらいまして、適正な法律関係を構成し、土地の合理的な利用ができるかできないかということを判断してもらう趣旨でございます。そういう意味合いにおきまして、将来に向かって賃貸借関係内容変更し訂正していくということでございますので、裁判所は既存の法律関係の存否の確定ではなくて、いろいろの事情を考慮しながら合目的的に公権的な見地からこの法律関係の是正をやろう、こういうことでございます。これは非訟事件として処理するのがもちろん適当であろう、こういうことになるわけであります。  ただ、これが非公開で行なわれたのでは、裁判所でどういう過程を経て結論を出されたかということが当事者の間にもわからない、公正な判断が行なわれるかどうかということが保証できないじゃないかということが、確かに御意見としては出るだろうと思うのでございます。従来の非訟事件でございますと、その点は非公開でございますので、確かにそういうふうに言われるのもやむを得ないと思うのでございます。しかしこの借地借家関係の問題は、非常に当事者の間の利害の対立というものも深刻なものでございます。一方の主張のみを聞いて他方の主張を聞かないで審理し判断するということは、これは適当じゃないわけでございます。したがいまして、今回特に非訟事件手続法によるということにはいたしましたけれども、なお当事者双方の陳述も十分に聞き得るようにして、なお事実を認定いたしますにつきましても、従来の原則的な職権調査主義によりますほか、当事者の申し立てによって民事訴訟法の規定によって証拠調べも行ない得るということにいたしまして、これらの審問期日に当事者が立ち会ってまた発言もできるというふうな機会を与えて、さらに一般公開ではございませんけれども、当事者あるいは利害関係者に対しまして記録を公開するということにいたしまして、従来どのような資料が提出され、裁判がどのような審理の過程をとっておるかということも、そういう人たちに十分理解できるような措置を講じたわけでございます。したがいまして、非訟事件なるがゆえに非公開であり、この借地関係法律関係を定めるについて不都合があるというふうなことは、これは言えないだろうというふうに考えておるわけでございます。   〔田村(良)委員長代理退席、委員長着席〕
  54. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に、これは先ほどの参考人の御意見の中にもいろいろあったのでありますが、昭和三十四年に借地借家法改正準備八会から公表されました借地借家法改正要綱試案というのがあるのでありますが、これは申し上げるまでもなく借地権のいわゆる物権化というものを法務省としてはお考えになった一つの案だと思うのでありますが、それは先ほど弁護士会の代表の方もおっしゃいましたように、この借地権物権化ということには、弁護士会としても大多数が反対だ、しかし今度の案から見ると、何といいますか、非常に後退しておる。だから大体弁護士会においても賛成の意見にまとまったというような御意見があったわけでありますが、しかしこの案にしろ、地主とか家主の団体その他の中には、これはやはり何といいますか、物権化をはかるための第一歩を踏み出したんだ、これで徐々に物権化のほうへ持っていくんだ、前に発表した要綱試案の方向へ持っていくんだという反対理由一つにもなっている意見もあるわけでありますが、それらの関係についてやはりこの委員会として明らかにしておいたほうがいいのではないかと思いますので、それに対して御答弁を願います。
  55. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 借地法の問題につきましては、すでに十年ばかり前から検討が始められたわけであります。昭和三十二年にこの借地法借家法関係改正準備会というふうなものを民事局の内部というよりは、むしろ法制審議会の一部の方、さらに役所関係の方々が集まりまして、これは公式の機関ではございませんけれども、一応研究する必要があるということからそういった準備会を設けまして研究に着手いたしたわけでございます。これが昭和三十二年、あるいは三十四年に借地法借家法改正の問題点とか、あるいは改正要綱試案という形で公にされたわけでございますけれども、これは先ほど申し上げましたような経緯によってできたものでございまして、法務省としてはもちろんのこと、法務省民事局の案というべき段階のものでもございません。単にその準備会において検討した結果を世に問うて広く意見を求めた上で、この問題と正式に取り組んでいくべきである、こういう考えのもとにただいまの要綱試案というものも一般に公にされた、こういう経緯であるわけでございます。したがいまして、この要綱試案にはただいまお話しのように借地権を一元化する――現在の借地権と申しますものは、地上権という物権と、民法上の賃貸借契約である債権と、この二本立てであるわけでございます。これを一元化する、言いかえればこれが物権化ということになるわけでありますが、その基本構想に立ちまして要綱試案なるものが一応できたわけでございます。しかしこれにつきましては、現在の大多数の借地権が賃貸借契約であるという現実考え、またわが国のいろいろの事情考えました場合に、はたしてこの物権化というものが単なる一片の法律改正によってなし遂げられるものかどうか、またそれが妥当な措置であるかどうかということにつきましては、法務省としても深く考えたわけでございます。ただいまの要綱試案というものは法務省の公式の案ではございません。研究段階においてできたものでございまして、いろいろの情勢を考えながら法務省としては物権化に踏み切るべきでないという結論になりましたために、従来の要綱試案というようなものから後退したというふうに言われるかもしれませんけれども、別の観点、言いかえますならば現行法のたてまえをそのまま生かしまして、その間に生ずる不都合な点だけを最小限度改正することを研究をしたらどうであろうかということから今回のこの具体的な改正に着手したわけでございます。今回の改正も、借地条件変更、あるいは借地権譲渡、転貸の規定、こういう規定を設けてございます。しかし、これはこの法律案をごらんになればすぐおわかりだと思いますけれども、あくまでも債権契約であるということを前提にいたしましてこの法律はできております。債権契約でございますれば当然当事者の意思に従うというのが原則でございますけれども、しかし借地借家関係という特殊な法律関係につきましてそれだけにまかしていいかどうか。また現在そのためにいろいろ紛争も起き、また解釈もいろいろ異なっております。この点を統一する意味から申しましても何らかの手当てが必要である、こういう観点から今回の改正考えたわけでございます。したがいまして、この改正案は、かつて公にされました借地権物権化一つのあらわれであるとか、あるいはそちらに進む一つの段階であるとかいうことは、政府としては全然考えていないわけなのであります。ただいま申し上げましたように完全に現行の制度を前提といたしまして、当事者利害の調整をはかりながら、紛争を防止し、しかも合理的に利用できるということを考えたわけでありまして、どの点が物権化だとおっしゃるのか、われわれは実は理解に苦しむところなのでございます。重ねて申し上げますが、非常に重要なことでございますが、政府といたしまして、この法律案によって物権化考えておるというふうなことは毛頭ないわけでございます。
  56. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に、お尋ねいたしたいことは、これは先ほどの参考人の御意見でもある程度はっきりしたわけでございますが、借地借家契約は、主として関東地方においては権利金その他のやりとりがあって、ある程度物権化されているということばで言いあらわしていいかどうかわかりませんが、そういう方向へ行っているので、この点、転借というようなことも比較的自由にできるけれども、関西方面においてはほんとうに対人関係の貸借であり、したがって権利金というふうなもののやりとりもない、こういうふうに非常に実情が違っておる。ことに借地借家なんかは地方によってもそういう事情もあるでありましょうが、個々を考えても非常に多種多様の形式があるというようなことからいたしまして、これはそういうことになりますと、借地借家法そのものも問題になるわけでありますけれども、今度の改正なんかにいたしましても、こういう非常に変わっているものを取り扱う場合に、もちろん鑑定委員会というものでそれぞれのその土地事情、また契約の特質というものも相当加味されるとは思いますけれども、これを一つ改正案で取り扱うというところに相当の疑義があるという面も言われておるわけでございますが、その点についてのお考えを伺いたい。
  57. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 現在各地におきまする借地借家関係の慣行が非常にさまざまな形をとっておるということは、これは当然言えることであろうと思うわけでございます。関東方面におきましては、借地権を設定いたします場合に権利金の授受が行なわれておるけれども、関西方面においてはそういった慣行がなく、したがって権利金も授受されていない、それを同列に考え一つ法律で規制するのはおかしいではないか、こういう意見が非常に強い御意見としてあるように伺っております。しかし、ただいまの慣行が違うという点でございますが、実は私ども全く反対考えております。  お手元に差し上げてあります法律案関係資料二五一ページから二五二ページにかけまして、昭和三十八年度の建設省でつくりました「宅地調査結果報告書」これの抜粋が資料として載せてございます。この中に権利金の有無等につきまして調査いたしました建設省の資料が載せてございますが、これによりますと、東京と大阪の二つの例をここにあげてございます。東京のほうから申し上げますと、東京におきましては三千七百七十三件調査いたしたようでございますが、そのうちの三百六十九件が権利金の授受がつく、こういう結果になっております。これは一番左の計の欄に載っております。パーセンテージで申しますと九・八%が権利金の授受がある。それから大阪におきましては千九十二件のうちの二百十五件が権利金の授受がありまして、その下の欄に一九・七%ということになっておるわけであります。これは大正年間あるいはそれ以前のものから昭和三十七年に至りますまでの調査の結果の集計でございます。したがいまして、ごく全体的に申し上げまして、東京におきましては九・八%について権利金の授受があるのに、大阪市におきましては一九・七%について権利金の授受がある、こういう結果が出ているわけであります。すでに大正時代からこの権利金の授受の実態がこの表によって明らかにされておるわけでございますが、一番新しいところは昭和三十七年になっております。三十七年の例を見ますと、東京におきましては二〇%権利金の授受が行なわれておるのに対しまして、大阪におきましては二八・九%権利金の授受が行なわれている、こういう結果が出ておるわけでございます。これは建設省の正式の調査に基づくものでございますので、私どももこの調査の結果をそのまま信頼してよろしいと思うのでございます。こういたしますと、関西方面でいわれておりますように、関西においては権利金の授受がないというのではなくて、むしろ東京よりはこの結果としては多く行なわれているということがあるわけであります。むろんその権利金があるかないかは、東京のみではございません、各地によってそれぞれある場所もございましょうし、ない場所もございましょうし、それぞれそのケース、ケースによって態様を異にしておる点があるかと思うわけであります。そこで、関西で強く主張されておりますように、関西においては権利金がないのであるからこの法律を適用するのは不都合であるということは、私どもにはどうしても理解できないわけでございます。かりに権利金がない場合がございましても、この法律案におきましては、借地条件変更とか、あるいは増改築についての地主承諾にかわる許可を与えるに際しまして、借地権の残存期間がどの程度あるか、あるいは土地状況がどのようになっておるのか、あるいはまた借地に関する従前の経緯がどうなっておるのかという、具体的な経過、さらにそのほかの一切の事情を考慮してこの裁判をする、こういうふうにいたしておるわけであります。これはそういった慣行の違い、あるいは事実上の取り扱いの違い、それぞれの賃貸借のケースごとに違いがございますので、その点をきめこまかく裁判所によって見てもらいますために、このような規定を置いたわけでございます。したがいまして、単に一律に関西のほうではこれは適当ではないということも言えません。関西においても妥当する場合がございますし、関東においても妥当しない場合があるかもしれないのでございます。なお、念のために、私聞いたところによりますと、権利金の授受がない場合におきましても、賃借権無断の転貸譲渡が行なわれておるということで、現にこれは関西の裁判所にもそういう訴訟がだんだん出ているわけであります。そういたしますと、権利金の授受がないのに賃借権無断の転貸譲渡が行なわれているということになると、貸し主のほうは結局泣き寝入りになってしまうわけであります。今回の改正によれば、そういう場合にも一切の事情を考慮して、双方の利益の衡平をはかるための付随的な裁判が行なえるようにいたしたのでございます。たとえそのような場合におきましても貸し主の側には不利益にならないように、十分裁判所としても考慮できるような措置を講じてあるわけであります。したがいまして、慣行が違うからこの法律を一律に施行するのは適当でないという考え方に対しましては、私どもは全然違う考え方を持っておる、こういうふうに申し上げるわけであります。
  58. 上村千一郎

    上村委員 一点だけ関連の質問を申し上げたいと思います。  いま局長の引用されましたところの権利金有無の建設省の報告資料でございますが、実は東京方面と東京以外の大阪、名古屋、神戸あるいは横浜というような方面とは、この法案に対しますところの意見というものが違っておる。なお在野法曹としても、東京の弁磁土の方と地方の弁護士の方と意見が相違しているということは、きょうの日弁連の代表の方がいわゆる内輪話と言われて発表されている一端からもわかる。それでこの権利金の有無という形式的なものでなくて、実はわれわれがその慣例というものを耳にいたしておりますのは、権利金の額、比例の点であります。要するに東京方面の権利金の場合は、その地価にほぼ相当する程度の多額の権利金が授受されており、他の地方としましてはその権利金といいましても、それはいわゆる契約の一種の保証的な意味権利金というような意味で、その額がその土地の価格に相当する権利金ということになりますれば、実体的には借地人のほうへほとんど権利が移ってきた、移ってもやむを得ないというような状態のもとにおける権利金である、こういうような実情を耳にするわけです。ですからいま引用されましたところの建設省の権利金の有無の資料というものは、要するに額、比例というようなところまでの資料がお手元にあるのかどうかという点につきまして、ひとつお尋ねしておきたいと思います。
  59. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 建設省の資料といたしまして、その額による細分があるかどうか、これは調査いたしてみます。ただいま建設省の資料というものを持ち合わせておりません。ただ私は、この法律案を勉強いたしました過程におきまして目についた資料から個人的にピックアップしたものがございます。これは三井不動炭のほうで調べた大体の慣行でございますが、これによりますと、借地権の価格が、一等商業地といいますか、これは一番上位の商業地というふうに理解してよろしいのでありますが、ここにおきましては、東京、大阪等の大都市におきましては、さら地の価格の八五%ないし九〇%、さらに普通の商業地におきましては八〇%ないし八五%、一般の住宅地におきましては七〇%ないし七五%が普通である、こういうふうな資料が出ております。地方都市にまいりますと、さらにそれよりも一〇%あるいは一五%くらい下がっております。そのような差異はございますが、おおむね東京、大阪等の大都市におきましては、そのようなパーセンテージのものが借地権の価格として実際に行なわれておるのではないかと思われます。もちろんこれは個々のケースによって違いがあることは当然でございますが、権利金の授受が行なわれない例さえあるわけでありますから、一律にこのようになっておるということを申し上げるわけにはいきませんけれども、大体のところはこういうところが慣習になっておるというふうに承知をいたしております。
  60. 上村千一郎

    上村委員 実はきょうの参考人の御意見などを拝聴いたしましても、東京都を中心とする方々と、その他の地方の方々とは、専門家の立場における人も、地域的にある程度特色を持っておるという片りんがわかるわけです。そうしてきょうの弁護士布井参考人の御意見からは、結論的に東京的なものが、要するに全地域に広がってくるほうがむしろ好ましいのではないかというようなことを言われておりますが、しかしながら、私ども各方面からのいろいろな事情を承りますと、相当慣行が違っておるであろう、日本全体のことでございまするから、次第に近代化されていくというようなことにつきましては、これは少なくとも時の経過によりまして落ちついていくかと思いますけれども、それまでの経過としましては、そういういろいろな慣行というようなものもしんしゃくをしていくことが相当ではなかろうか、この点につきましてはきょう東大教授の加藤参考人も、そういうような点も一つ裁判所におけるところの判断の資料に相なるであろう、しかしながら、それがどのくらいの割合の資料になるかどうかは諸般の事情であろうが、資料となることは確かであろうというような趣旨の御意見もございましたけれども、その点についてはどんなお考えお尋ねをしておきたいと思います。
  61. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 各地の慣行にもそれぞれ差異がございますし、またそれぞれの賃貸借ごとに差異も当然あるわけでございます。ただいま申し上げました東京、大阪その他の大都市借地権の価格が大体こうなっておるというのもこれは一つの資料でございまして、ごく一般的にいえばこうなっておるというふうに理解すべきものでございます。したがいまして、個々の案件についてこれがそのまま適用されるという趣旨では毛頭ございません。それぞれの賃貸借の特殊性を十分勘案してきめるべき筋合いのものでございます。ことに権利金の授受があるかないか、またその額がどうなっておるかということのほかに、さらに大切なことは賃貸借における対人関係という問題でございます。これももちろん無視することはできないわけでございまして、そういったもろもろの要素を十分考慮に入れて具体的に妥当な裁判をしていただくということがこの法律のねらいでございます。ただ抽象的に一律の基準に従って裁判をするという趣旨は毛頭ございません。具体的、妥当性ということが何よりも重要なことでございます。個々の案件に即したもろもろの事情を、十分考慮に入れて裁判が行なわれることを政府としては期待しておるわけでございます。
  62. 大竹太郎

    ○大竹委員 それでは時間もございませんから、各条について順次御質問いたしたいと思うわけであります。  まず第一に、この八条ノ二の第一項でございまして、非堅固の建物を堅固の建物にする場合の条項でございますが、この逐条説明を拝見いたしますと、「防火地域指定され又は商業地域となる等の事情変更が生じ、」云々と、こうなっておるわけであります。これはこういうように簡単に書いてあるわけでありますが、防火地域のことは行政上の処置でよろしいのでありますが、「商業地域となる等」という、ここに先ほど来いろいろ問題が出ているのであります。ここに出ております「商業地域」ということも、一つの例示としては必ずしも私は適当じゃないと思う。ただ、商業地域になる場合には、いつでも堅固の建物変更することができるのかどうかということに拘泥するわけであります。そうかといって、この防火地域のようにはっきりしているものを、そんならほかにもちゃんと条文に書くということもなかなかめんどうになると私は思うのでありますけれども、こういう争いがここを中心として起こるにきまっているというような問題は、やはりもう少し具体的に実例をあげることができないものかどうか、そういうことをお考えになったかどうか、その点をちょっと……。
  63. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 「防火地域指定、付近ノ土地利用状況ノ変化其ノ他ノ事情変更ニ因リ」というように、ごく一般的に表現されておりますので、はたしていかなる場合にこれが適用になるのか、ことに商業地域になった場合に、はたして入るのかどうか、またその基準はどういうことになるかというふうな問題であります。これはこの防火地域も具体的な一つの事例でございます。そのほかにもいろいろ現在考えられる事例を列挙すればできないこともむろんないわけでございますけれども、列挙主義をとりました場合に、今後この法律が長く運用されるといたしました場合、社会事情の変化あるいは法律制度の変化によりまして、それだけではまかない切れない場合もあるいは出てくるような可能性があるわけでございます。非常にむずかしいわけでございまして、あらゆるものを漏れなく列挙するということも非常に困難なわけであります。そこでこのようなごく一般的な表現にいたしたわけでございますけれども、商業地域というふうなことのほかにどのようなものがあるかという御趣旨の御質問でもあったように存じますので申し上げますが、現在宅地の造成に関するいろいろの法律がございます。さらにそのほかに、宅地造成といいますよりは、むしろ宅地の改良といった面に主眼を置かれた法律もあるわけでございます。一例をあげますと、住宅地区改良法という法律がございます。これは不良住宅を除去いたしまして、そこにそうでない一般の住宅を建設するためのかなり強い規制措置をとった法律でございます。それから防災建築街区造成法というのがございまして、これは防災建築物の敷地を整備いたしまして、防災建築物の建設の促進をはかろう、こういう趣旨の法律もあるわけでございます。そういったいろいろの法律によりまして、土地利用状況が変化してまいる場合も考えられるわけなんであります。  また「其ノ他ノ事情変更ニ困リ」とこの法律でうたっておりますように、客観的にその地域の事情が変わったということがこの要件でございます。したがいまして、単なる個人の恣意のみによってこれを変更するというふうなことを考えておるわけではございません。商業地域になりまして、その地帯一帯に鉄筋のりっぱな建物が並んだというふうな場合に、ただひとり特定の建物のみが旧態依然たる木造建物で残っておるというのも、いろいろの面から見まして歓迎すべきことでもございません。そういう場合に、この法律の八条ノ二が働くわけでございます。単なる個人の恣意のみによって動くというものではございません。表現といたしましてはきわめて抽象的に書いてございますけれども、申し上げたいことは事情変更ということが申し上げたいわけであります。事情変更といえば、むろん客観的な事情変更でございます。それには法律上の措置によって変更する場合もございましょうし、また、その地区の自然の情勢によって発展してまいりました結果、従前建物の様式では困るというふうな場合もございましょう。要するにそういうふうな客観的な事情変更が起きました場合に、それに即応するように土地利用できる道を開こうというのがこのねらいでございます。確かに列挙主義も一つ考え方ではございますけれども、それではとうていこの変動の激しい社会情勢に対応していくことも困難ではなかろうかと考えまして、このようなことにいたした次第でございます。
  64. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に、二項でございますが、増改築の制限のある場合、増改築をすることに協議が整わない場合でありますが、この改築の中に非堅固の建物を堅固の建物改築するという場合が含まれるのでございましょうが、そういたしますと、その部分についてはこの第一項と重複することになると思うのでありますが、その点はいかがですか。
  65. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 第二項にございます「増改築ヲ制限スル旨ノ借地条件」、これは一律には申し上げられないと思いますけれども、単に増改築と申しました場合には、非堅固の建物を堅固の建物にする場合も含む場合もありますし、含まない場合もございます。もしも、非堅固の建物を堅固の建物に直そうという場合には、第二項だけでは足りないのでありまして、一項の規定が当然適用になるわけであります。したがいまして、非堅固の建物を堅固の建物に建て直したあと、さらに増改築する場合には二項の許可をとらなければならない、こういうふうに考えております。
  66. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に、この項の中に「土地通常利用上相当トスベキ」ということばがございますが、これもさきの「其ノ他ノ事情変更ニ因リ」ということで非常に争いになる点だと思うのでありますが、これもやはり「通常利用上」ということばは、いわゆる恣意に基づくものでなくて、客観的に見て「利用上相当トスベキ」というふうに解釈するのが、さきのあれからいいましても妥当だと思うのでありますが、その点についてはいかがですか。
  67. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 お説のとおりに考えております。具体的に申し上げますと、たとえば住宅地区の中に建物を増築いたしまして、パチンコ屋をつくろう、あるいはボーリング場をつくろう、その他の遊戯場をつくるというふうなことが、はたしてその地区の土地利用上相当であるかどうかということは当然問題になるわけでございまして、そういったものまでも含めて、ただ、土地利用者が何でも利用上こういうことが必要だという場合に、これを認めようという趣旨ではございません。客観的に考えまして、当該土地利用する上において、これならば相当であるというふうに認められるような場合を言うのでございます。個人の恣意のみによってこれが動くという性質のものではないと考えます。
  68. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に三項でありますが、三項の「財産上ノ給付ヲ命ジ其ノ他相当ノ処分ヲ為スコト」という点でありますが、これは、先ほど来いろいろ問題に出ておったのでありまして、抽象的に書いてございますが、これを実際に適用することになりますと、いわゆる権利金のいままでなかった場合に、権利金を出させて承諾にかわる裁判をする、またいままで地代家賃統制令で、それこそ客観的に見て非常に安い地代家賃で押えられていたものを、相当の額に引き上げてやるというようなことが考えられるわけであります。しかし、この地代家賃統制令は御承知のようにまだ廃止になっているわけではないというようなわけでありまして、それらの関係はどうなるのでありましょうか。
  69. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 第八条ノ二第三項のこの規定は、借地条件変更いたしましたり、あるいは増改築を認めるということになりました場合に、借り主は、それによって非常に益するところがあるわけでございます。逆に貸したほうの立場からしますれば、それだけ不利益が生ずる場合もあるわけであります。それをカバーいたしますために、従前借地条件変更したり、財産上の給付を命じて、その双方の利益の均衡をはかるということをねらったわけであります。ここで申します「借地条件変更」と申しますのは、地代を改めたり、あるいは存続期間について変更したりすることが代表的な例だと思います。また「財産上ノ給付」と申しますのは、金銭の給付を命じまして、貸し主の不利益をこれによって補うということを考えたわけでございます。地代あるいは権利金については、現在の地代家賃統制令によりまして、あるものにつきましては禁止されております。しかし、その禁止されたものにつきましても、裁判あるいは裁判所の和解によりまして地代が定められますときには、これが認可統制額になりまして、地代家賃統制令の例外と申しますか、これが認められる結果になるわけでございます。したがいまして、これによって変更いたしますことも、地代家賃統制令の適用上何らの支障はないものと考えております。また、権利金を授受することを禁止されておる規定が、統制令にございます。ただ、ここで「財産上ノ給付ヲ命ジ」といいますのは、この新しい借地法の八条ノ二第三項の規定によって特別に給付を命ぜられる金銭でございます。これは先ほど参考人の方々も権利金を授受するのではないかという御発言がございましたが、私どもはそうは考えていないのでありまして、この三項の規定によって特別に給付を命ぜられる金銭である、こういうふうに理解すべきものと考えておるわけであります。したがいまして、地代家賃統制令との関係で矛盾はない、このように考えております。
  70. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に、この第三項の一番あとに「其ノ他一切ノ事情ヲ考慮スル」、その前には「借地権ノ残存期間土地状況借地二関スル従前経過」ということが書いてございますが、もちろん、この中に私はほんとうから言うとやはり書いていただきたいと思うのですが、借地人の経済的信用度というものは、この中には書いてないのでありますが、これは当然この中へ入っておるものと解釈してよろしいのでございますか。
  71. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 借地人の信用度、あるいは先ほど問題になりました地方の慣習、あるいは当該の賃貸借契約について、権利金が授受されておるかどうか、その額がどうかというふうなことも、一切この中に含まれておる規定であります。
  72. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に、あとの規定もそうでありますが、いずれも、争いを起こさないためにこういう手続で処理するということになっておる趣旨からいたしましても、これらの問題で両者の間に協議が整わなかった、整わぬままに、非堅固のものを堅固のものにしたり、増改築をしたという場合には、当然いわゆる契約違反として、契約解除請求が家主、地主はできるということにしなければ、これらの規定をつくった意味が半減してしまうのではないかと思うのですが、その点はいかがでありますか。
  73. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 契約違反いたしまして、かってに増改築をするとか、あるいは非堅固の建物を堅固な建物にかってに直してしまったというような場合には、明らかに契約違反になるわけでございます。その場合に、貸し主側に契約の解除権が発生するのは当然でございます。各地から出ました御要望の中にも、その趣旨を明確に書けというような御意見も一部あったように承知しております。これはすべての契約違反の場合、契約解除というのは、民法の原則上当然でございます。その場合にのみこれを明確にしましても、それは法律上には意味がないと思います。意味がないと申しますよりは当然の原則です。その契約の解除権が発動するわけでございまして、わざわざこの規定に入れる必要はない、このように考えたわけでございます。お説のような場合には、地主のほうは契約を解除いたしまして明け渡しを求めることになります。もしもさらに争いが起きますれば、これは一般の民事訴訟によって解決する、このように考えております。
  74. 大竹太郎

    ○大竹委員 私は、もちろんその御趣旨だと思うのでありますが、私の申し上げたいのは、内容のいかんを問わずこの手続にかけなかったというだけの理由でやはり契約解除をしなければ、その実態を今度訴訟で争うのだということではこの規定をつくった意味がないと思うのであります。その点を御説明ください。
  75. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 今回のこの改正規定は、法律上の紛争に至ります前に妥当な裁判によって法律関係を合理的に運営しようというのがねらいでございます。この道を開きました以上は、もしもこういった手順を踏まないでかってに契約違反をやったという場合には、これは当然契約解除効力を認められるべきものであろうと思います。現に裁判によりましても防火地域借地権処理法の適用のある地域につきまして、その手順を踏まないで無断で堅固の建物建築いたしました場合に、これは事前にそういう道が開かれているにかかわらずそれをやらないで無断建築をやるのは、これは当然契約を解除されるべきものであるという判例も数件ございます。同じようなことであろうと思います。
  76. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に、鑑定委員会の問題でございますが、これは先ほど布井弁護士さんからもいろいろ御意見お話がございましたが、これはやはり今度の改正においては一番大事な委員会といいますか、これがうまく運営されるかどうかということが一番大事なことだと思うのでありますが、この委員会の構成、あるいは人選、そういうことについて具体的に御説明をいただきたいと思います。
  77. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 今回の改正案の第十四条の五におきまして、鑑定委員会の構成につきまして、規定を設けてございます。その趣旨は現在ございます罹災都市借地借家臨時処理法の鑑定委員会と同じような性格のものでございます。あらかじめ地方裁判所におきまして、この種の事件について特別の知識経験を持っておる人たちと、その他適当な人々の中からあらかじめ選任いたしまして名簿をつくっておくわけでございます。その名簿の中から、事件のつど裁判所指定いたすわけでありまして、鑑定委員会を構成いたしますのは、この名簿に記載されております人たち三人以上をもってこれを組織するわけでございます。「特別ノ知識経験アル者」と申しますのは、鑑定人のような方ももちろん含まれましょう。またその地方のこういった土地建物の賃貸借等について事情の詳しい人たちも含まれましょうし、学識経験者も含まれようと思います。「其ノ他適当ナル者」という表現の中には、法律的な知識がある弁護士さん、そういった人たちが選ばれる、こういうわけでございます。なお、当事者が特に合意によって選定いたします場合には、これはこういった人たちに鑑定委員会を構成していただいてよろしいわけであります。この場合には合意に基づいて選任された者が鑑定委員会を構成する、このように考えております。
  78. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に、九条ノ二の規定でございますが、ここにも問題になる個所があるのでありまして、「賃貸人二不利トナル虞ナキニ拘ラズ」、こうなっておるわけでありまして、これは非常に問題が多いと思うのであります。先ほどの参考人意見の中にもちょっとそういう意見がございまして、お聞きになったと思うのでありますが、賃借権はいわゆる普通の債権譲渡と同じことで、一つ債権なんだから、だれにやっても賃貸人に特別に不利になるということはないじゃないかというような意見すら出ておるわけであります。こういうような理論だと、むしろこんなことを書く必要はないというようなことにすらなるわけでございまして、これは非常に問題であろうと思うのですが、この点についてひとつ……。
  79. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 先ほど参考人の方が言われました賃借権譲渡は自由にすべきであるという御意見でございますが、これはあの参考人は、は物権化すべきものであるという前提に立って考えておられるように私どもは伺ったのであります。そういたしますれば、賃貸人に不利益になるのかどうかということはむろん問題になりません。それは立場の相違でございまして、物権化するのが相当であるという前提に立ちます限りは、この法律案自体がだめなわけでございまして、私どもはそんなことをいま考えておるわけではございません。土地の賃貸料につきましては、一般債権であるとはいいましても、これは対人関係、相手方の信用というものが非常に大きなウエートを占めるわけでありまして、これを無視してかってに賃借権譲渡、転貸されるということは、これはなすべきものでないと思っておるわけです。賃貸人に不利になると申しますのは、相手方が、経済的に非常に困窮しておるということのために、地代支払いも満足にいかないというふうな事情によって、財産的に不利益をこうむる場合もございますし、また一般社会的な信用その他を考えて、そういう人にこれを貸すのは困るというふうな対人的な信用の問題、こういった問題を含めまして、賃貸人に不利になるかならないかということを判断すべきものであって、現在の賃借権をそのまま前提にいたしまして考えます限りは、ただいま申し上げたようなことを念頭に置いて判断いたしませんと行き過ぎがあるというふうなことになると思います。あくまでもこれは財産的に不利益になるかどうかということのほかに、対人的な信用関係に立っておりますので、その点を十分に考慮に入れなければならないことは申すまでもないのでございます。
  80. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に、ここでちょっとお聞きしておきたいのでありますが、これはもちろん借地権者の申し立てによるとはっきり書いてあるのでありますけれども、これはやはり賃借人あるいは建物の買い受け人というようなものからも申し立てができるようにしておいたほうが便利なんじゃないでしょうか。
  81. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 建物を買い受けようとするものから、そういう申し立て権を認めたほうが便利なように一応考えられるわけであります。しかし、これはあくまで先ほど申し上げましたように、人的な信頼関係の上に立っておる賃貸借を前提に考えております。民法六百十二条も借り主が貸し主の承諾を得なければならないというふうに、民法のたてまえはできておるわけでございますから、そのたてまえは私どもとしてはくずすことは考えておりません。したがいまして、あくまで対人的な信頼関係の上に立っておる貸し主と借り主の立場において、借り主側からそういう申し出がある場合でなければこれは認めない、こういう考えでございます。
  82. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に、これは先の条項でも問題になると思うのでありますが、これは、この条文による申し立てもけっこうでありまするが、調停のこれについてたとえば申し立てをするということも私は可能だろうと思うのですが、これはどちらをやってもいいのですか、どうなんですか。
  83. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 これは全般の問題になると思いますけれども、当事者の合意によってこの問題が解決いたしますれば、それはたいへんけっこうなことでございます。双方の合意に基づいて新しい法律関係が形成されるということになりますれば、これは非常にけっこうなことだと思うわけであります。調停も、当事者の互譲によってその合意ができませんと調停は成立いたしません。すべてこの法律の規定に乗っからなければこういう措置がとれないというものではございません。民事調停法の規定によって調停を行なうとか、あるいは裁判上の和解を行なうということももちろん可能でございまして、これのみが唯一の方法であるという趣旨ではございません。
  84. 大竹太郎

    ○大竹委員 次にお聞きしたいのでありますが、これはもちろんこの前と同じことで、この手続によらずに転貸、譲渡をすれば契約解除になることは当然なことと考えてよろしいのですか。
  85. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 そのとおりに考えております。
  86. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に、これは第何条でありますか、五ページの一番最初のところで「裁判所が定ムル期間内ニ賃貸人が自ラ建物譲渡賃借権譲渡又ハ転貸ヲ受クベキ旨ノ申立」云々となっておるのでありますが、裁判所が定める期間というのは、これはいまどの程度期間をお考えになっておられるか。
  87. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 それは各事案によりましてそれぞれ事情が違ってくるのじゃないかと思いますけれども、一律にどの程度が適当かということは、一般的にはちょっと申し上げにくいわけでございまして、裁判所がそれぞれの事案に即して、個別的にその事案ごとに期間を定めるわけでございます。どの程度がよろしいということをここで申し上げるのはちょっと差し控えさせていただきたいと思います。
  88. 大竹太郎

    ○大竹委員 それでは時間でございますので、いま一点最後にお聞きしておきたいのでございますが、この条項によりますといわゆる自己借地権を認めるということになるのじゃないかと思いますけれども、そう考えてよろしいでしょうか。
  89. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 当初問題になりました借地借家法改正要綱試案によりますと、自己借地権を認める案になっておりました。しかし今回のは自己借地権を認めるものではございません。九条ノ二の第三項により賃貸人が賃借権を取得した場合は、これは混同によって当然消滅いたします。したがいまして、前の要綱試案にございましたような意味での自己借地権というものは起きないものと考えます。
  90. 大竹太郎

    ○大竹委員 次に一枚まくりまして、ここに「裁判所ハ特ニ必要ナシト認ムル場合ヲ除ク」というのでございますが、これは、相当紛争が出てなかなかうまくいかぬという問題がここに出るのでございますから、鑑定委員会にかけないでいい、裁判所が必要なしと認める場合というようなことは、こんな条文はないほうがいいと思うのでございますが、いかがなものでしょうか。
  91. 新谷正夫

    ○新谷政府委員 全部の事案につきましてすべて鑑定委員会意見を聞くということにいたしますると、かえってまた場合によりますとむだをしなければならないというふうなことも考えられるわけでございます。もちろん、借地条件変更いたしましたり、増改築を認めようという場合には、それぞれの事情がございますし、貸し主と借り主の間の利益の衡平をはかりますためにどうしたらいいかということも当然問題になるわけでございまして、一般の場合に鑑定委員会意見を聞かなくてもいいという場合はおそくら考えられないわけでございます。しかし、非常に限られた場合に、明らかにそこまでやらなくても明々白々というような場合もあるいはあるかもしれません。そういう場合には鑑定委員会意見を聞くまでもなくやってよろしいのではないか、こういう趣旨でございまして、できるだけ鑑定委員会意見を聞いて妥当な裁判が行なわれることをわれわれとしては期待しておるわけでございます。
  92. 大竹太郎

    ○大竹委員 もう時間でございますから、またあらためて時間をいただくことにして、きょうはこれでやめておきます。
  93. 大久保武雄

    大久保委員長 本日の議事はこの程度にとどめます。  次会は、来たる五月六日委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後五時二十分散会