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横山委員 私は商法の審議の課程におきまして、先般請願書を一通受け取りました。この請願言は、まあ
国会にも真摯な請願書が来るのでありますが、しかし特に私はこの請願書を見まして、この請願者中島君の真摯なる努力、そして精密きわまる検討に実は一驚を喫したわけであります。この請願書は、先般私が問題にいたしました商法改正案二百八十条ノ二の二を中心にいたしまして、中島君が体験をいたしました歴史的事実並びに論理を実に精密に展開をいたしておるのであります。そこで私は、煩をいとわず、長時間かかるかもしれませんけれども、この真摯な努力をくんで、請願書を朗読しつつ、質問を続けたいと思います。
請願の
趣旨
政府が今
国会に提出した商法の一部を改正する
法律案中
一 第二八〇条の二第一項に第八号を加える。「株主以外ノ者ニシテ之ニ対シ得ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行スベキモノ並ニ之ニ対シ発行スル株式ノ額面無額面ノ別、種類及発行価額」
二 第二八〇条ノ二第二項中「新株ノ引受権ヲ与フル」を「対シ特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行スル」に、「与フルコトヲ得ベキ引受権ノ
目的タル」を「其ノ者ニ対シ発行スルコトヲ得ベキ」に改める。
右一、二の
法律案は、之を否決するとの御議決を仰ぐ。
請願の
理由
一 請願人は、三〇年改正商法(現行商法)が第二八〇条の二第一項に第五号を追加し、取締役会の権限の拡大を図ったこと、及び同条に新たに第二項を設け、株主以外の者に新株の引受権を付与する場合株主の利益保護のために取締役会の権限乱用の防止の二つの規定が、どのように運用されるかについては常に重大な関心を有しつつ見守ってきた。それは右二つの規定が立法
理由に則って、即ち、資本調達の機動性を発起し、かつ、株主の利益が完全に保護されつつ、資本調達市場が公正明朗化されつつ繁栄するか否かにあった。ところが実際面上は前者の取締役会の権限は飛躍的に拡大されたものの、後者の株主利益保護のための取締役会の権限乱用防止の規定は全く等閑に付せられたばかりか、該規定を潜脱違反することが公然の如く盛んに行われるに至り、遂に第二八〇条の二第二項の株主保護の厳重なる規定は全くの空念仏に期してしまった。そしてその事実は、たんに実際界ばかりでなく、法務、大蔵両当局も、又、それと共通の方向にあった。
即ち、
昭和三五、六年頃俄かに買取り引受け方法なるものがクローズアップし、新株発行の一部(公募分と称して)を株主以外の者である証券業者に一括して新株の引受権付与、新株発行が行われた。勿論、第二八〇条の二第二項の手続きを履践することなく専ら第二八〇条の二第一項第五号の規定に基づき取締役会の決議のみで行われた。面してこのような買取り引受け方法による新株発行は上場会社の殆んどに及んだ。請願人は、法治国家の
国民として以上のような法令に違反の新株発行に対してはどうしても黙視することができず、
昭和三六年、東京芝浦電機株式会社外六会社に対し新株発行無効確認請求の訴を提起し、証券会社に対する一括買取り引受け方法に対する判断を求めたところ、左記の判決を受けた。即ち、該判決こそが本請願の
趣旨記載の如き商法の一部を改正する
法律案提出の直接の原因となった。
註 請願人が左記の如く、敢て、多数の訴を提起した所以のものは、買取り引受け方法による証券会社に一括して新株を引受けさせることの意義の極めて重大なることを痛感したからである。即ち、多数の発行会社(
相手方)と会社法に精通する在野法曹界(
相手方代理人)の訴訟上の、いわゆる、攻撃防禦用兵作戦の妙が展開され、又、その上に多数の裁判官の一致した判断こそより正しいもので、最も信をおけるものと思料したからである。
左 記
(イ) 横浜地裁
昭和三六年(ワ)第八七三号
(37・12・17判決言渡)
(ロ) 東京地裁八
昭和三六年(ワ)第一一二号
王子支部 (38・8・30判決言渡)
(ハ) 東京高裁
昭和三八年(ネ)第三五八号
(39・5・6判決言渡)
(ニ)同 同 (ネ)第三六〇号
(39・5・6判決言渡)
(ホ)大阪高裁
昭和三八年(ネ)第六三〇号
(39・6・11判決言渡)
(ヘ)同 同 (ネ)第六三一号
(40・8・6判決言渡)
(ト)最高裁
昭和三九年(オ)第九五四号
(40・10・8判決言渡)
(チ)同 同 (オ)第九五五号
(40・10・8判決言渡)
(1) 右(イ)乃至(ヘ)の判決中には全部次の(A)(B)(C)の
趣旨の判断がなされている。
(A) 買取り引受け方法による新株発行の場合の証券会社の地位は、第二八〇条の二第二に定められてある株主以外の者である。従って証券会社は、発行会社の新株発行上の株式募集の代行者でもなく、又、委託募集の引受け人でもない。
(B) 証券会社に公募分を一括して買取り引受けさせる場合、第二八〇条の二第二項の手続きを履践することなく買取り引受け契約による新株の引受権付与は商法に違反するものである。
(C) 買取り引受け方法は、増資の方法に関する商慣習を形成しているから、これについて株主総会の特別決議の必要がないと
主張するが、仮に慣習が存在するとしても、それは商法第二八〇条の二第二項の規定に違反すること明らかであって、慣習法としての効力を認められない。
(2) 右(ハ)乃至(ヘ)の高裁判決には右に(A)(B)(C)にプラス次の
趣旨の判断がなされてある。「商法第二八〇条の二第二項の注意は新株発行価額の公正を保証するものであるから、公正な発行価額で売り出される場合には同条の適用がないのでないかという疑問もあるが、同条は右のほか、第三者に優先的に新株の引受権を有しない従前の株主の利益を侵害する(当該新株の発行を受けることから排除される)結果を生ずるのでこれを保証することも
目的せとするものであるから売出し価額が公正であるか否によってただちに同条の適用がないものとすることはできない。」
(3) 右(1)の(ト)(チ)の最高裁の判断は「新株引受権を株主以外の者に付与することについて株主総会の特別決議を要するのである。」
(4) 第二二
国会衆議院法務
委員会議録第七号抜萃
「株主に新株引受権を与える場合には、取締役会の決議によるものといたしましても、少しも弊害はないのでありますが、株主以外の者に新株引受権を与える場合には、これを取締役会の決議によるものといたしますと、取締役会がその権限を乱用して不当に新株引受権を縁故者等に付与し、その結果、株主の利益を害するおそれがあります。「中略する」この
法律案におきましては、株主以外の者に新株引受権を与えるについては、取締役会の決議によるのみならず、株主総会の特別決議をもって、その新株引受権の
目的となる株式の額面無額面の別、種類、数及び最低発行価額を定めなければならないものとしたのであります。」
註 以上が商法第二八〇条の二第二項の立法
理由となった。
この点は間違いないか、あとで伺います。
〔大竹
委員長代理退席、
委員長着席〕
二 本請願の
趣旨記載の商法の一部を改正する
法律案が今
国会に提出に至るまでの経緯
(1) 一の(イ)の横浜地裁の判決は、とくに経済界、証券界にとっては、いわゆる晴天の霹靂に比する一大衝激であった。なぜならば、彼等は新株発行に際し新株の一部を証券会社に一括買取り引受けさせる
行為は合法的であるという満々たる自信を有し、かつ、それを社会に豪語していたからであった。即ち、一(1)(A)(B)(C)の如き判断が下されることは夢想だにしていなかったからである。とくに経団連、日本商工
会議所、日本証券業協会は、周章狼狽し、その対策を樹立した。即ち、政府にいわゆる
圧力をかけ、請願の
趣旨記載の商法の一部を改正する
法律案を
国会に提出するよう強く要望した。
(2) 政府は、財界の要望に動き
昭和三七年末頃から商法第二八〇条の二第二項の改正に着手した。即ち、法制審議会(会長、賀屋法相)の簡法部会(部会長、鈴木竹雄東大教授)で現行商法の
問題点を検討し、改正を必要とする点のあるとの結論に達しせめた。即ち、商法第二八〇条の二第二項にいう株主総会の特別決議は、買取り引受けの場合は不要である旨の規定を設けようというものであった。
(3) ところが、
昭和三九年一月二五日開かれた商法部会において、まとめた商法改正案要項中には「買取り引受け」の規定の新設はもりこまれなかった。その
理由は、横浜地裁の判決は誤りで最高裁判決を待つべきであるなど商法改正に対する慎重意見もみられ遂に一票の差で改正は見送りとなった。
(4) 経団連を中心とする財界は、商法部会において「買取り引受け」の新設が見送られたことに大きな不満を表現した。即ち、
昭和三九年二月一七日、一八日にわたって開かれた法制審議会総会の席上で植村経団連副会長、桜田
委員が「買取り引受け」の新設を要望したが、その
目的は水泡に帰した。
(5)
昭和三九年一二月九日開かれた商法部会において遂に「新株発行の場合、株主総会の
決定を経なくとも、公募分を証券会社などに一括買取り引受けさせることができるようにする。」という結論を見、
昭和四〇年一月早々開かれた法制審議会総会にはかって答申をした。
(6) 法務省は右(5)の答申に基づいて今
国会に請願の
趣旨記載の商法の一部を改正する
法律案を提出するに及んだものである。
(7) 請願人は、
昭和三九年一月一六日、及び、
昭和三九年一〇月一八日の二回に渉り商法部会に対し商法第二八〇条の二第二項の改正は、いわゆる改悪であるから「買取り引受け」の新設は之をとどめべきであるという
趣旨の上申書を提出した。
(8) 以上の事由を敢て申し述べた所以のものは、否決の議決を仰がんとする
法律案を提出するについては経団連を中心とする財界の強力なる要望によって政府が敢て動いたこと及び、一般株主の利益を完全に無視したものであることの二つの御確認を御願いしたいからである。
三 以下否決の議決を仰がんとする
法律案に対し順を追って反駁の矢を放ち、もって請願の
理由とする。
(1) 請願の
趣旨一の追加条項第八号に対して反駁する。
(イ) 追加法案によれば「株主以外ノ者ニシテ之ニ特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行スベキモノ」及びその新株発行の
目的となる諸条件は取締役会が之を決することになる。
(ロ) この事実は、現行商法(二八〇ノ二ノ一ノ五)に定められてある取締役会の権限を超飛躍的に拡大せしめんとするものである。この超飛躍的権限拡大の及ぼすところは不当に株主の利益を害する取締役会の権限乱用を大幅に是認することになる。もっとも、本法案の提出原因が前二各号に示した如く経団連を中心とする財界の強い要望を全幅に取り入れたものであることから考えれば、やむを得なかったといえるかも知れない。けだし、財界の意に支配されるような立法思想は、いわゆる
政治腐敗の兆を表わしたものといえるべく極めて憂慮すべきことで、引いては挽回不可能な事態を招来する原因にならないとも保し難い。勿論財界のわがまま、かつ、高慢な方向は絶対的に排除しなければならないが、他方、財界の強要に支配されて法案を作成するような
責任者は神聖かつ厳正でなければならない法治国家の立法部の座に存在させておくことは許されない。
(ハ) 法案中「株主以外ノ者ニシテ之ニ対シ」と、ことさらに、ひねくった語字を使用しているが、その法意は現行商法「株主以外ノ者」と解される。だが、その語字を使用したことには特別の意が含有せしめてあるというのであれば格別、この点は反駁しない。
(ニ) それならば「株主以外ノ者ニシテ」とは、だれを対象として立案したか、いやしくも
法律案は推理小説であってはならない。勿論、架空、仮想は許さるべきでない。しからば「株主以外ノ者ニシテ」とは、一体だれを対象としていたか、このことは本法案中の重要な一点をなすものであるから、少くとも提案
理由中には之を明らかにしなければならない。勿論、読んで字の如く「株主以外の者だ」といえば、一応はお茶をにごせるかもしれない。だが、本案の場合はそんな漠然たる
説明では
国民は絶対に満足しない。なぜならば、本案提出の原因は前二の各号に示してあるが如く経団連を中心とする財界の強い要望によったものである。故に「株主以外ノ者ニシテ」に、かぶせてあるベールを取り除けば、そこには当然「証券会社による一括買取り引受けは、株主総会の特別決議を不要とし取締役会の決議」によって罷り通れると大見えを切って証券会社が、桃から生れた桃太郎の如く飛び出す。勿論、他にも取締役会と通じて会社支配権獲得を意図する株主以外の者及び会社に貢献した役員、社員、従業員等、又は特種の技術、特許権等を有する者が株主になれば、会社にそれ等を提供する場合等である。しかし、そのような者は、いわゆる雀の涙に比する極めて少数に限られている。他方理論上は株主以外の者を特定人に断定することは誤りであるという説を解くものがあろうが、
本件の場合は上述の通りで、そのような説をさしはさむ
余地はない請願人の以上の合理的反駁に対し他に納得できる反論が成立するとすれば、失礼な申し上げ方であるが、西からお
てんとうさまを出してごらんに入れる。要するに本法案こそは、経団連を中心とする財界の
圧力に屈し、ぺ
てん的、八百長的苦策を敢て採用したものと反駁する。
(ホ) 「特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行スベキモノ」とある。この「特ニ有利ナル発行価額」とは、一体その限度を那辺に求めいるのか、法案は作文だけであってはならない。とくに本案は、株主の権利を株主以外の証券会社が奪うことを許し、かつ、有利に奪わしめるという法条上の「有利」である。けだし、株主としては「有利」の限度を明らかにされなければ不安至極である。もしも提案
理由中に「有利」の限度を明らかにしなければ一般株主は不安に堪えかね、遂には証券市場から手を引くようになる。政府は自然の水は低きに流れるという天則を無視して法案を作成している傾向が強い。それで本法案
理由にかかげてあるが如き株式会社の
資金調達が容易に達成されると思っているか、そうだとすれば余りに視界のせまい、因果
関係を知らない、いわゆるざる法案であると反駁する。
他方、環のはしを指示しているが如き不定見な本法案が不幸にして成立するとすれば、実際界には当然的に水かけ論的問題が発生する。その
意味においても「有利」の限度を提案
理由中に明らかにしておくことこそ問題解決に有効な役割を果す親切さがある。
もしも政府が敢て提案
理由中に「有利」の限度を明らかにしないとすれば、それは経団連を中心とする財界の要望に完全に支配されている実証である。
そもそも彼等が政府をして、本改正案の提出に至らしめた
一つは、彼等は証券会社に一括買取り引受け方法上に現われている買取り引受け価額が時価(上場会社の場合は証券取引所に現われた価額)より一〇%ないし二〇%引は慣習法が形成しているという自論を固執していた。ところが、一(イ)ないし(ヘ)の判決は、それを認めなかった。そこで該判決に対する
一つのコンブレーションで、即ち、商法を改正し、法の裏づけによって慣習法が形成していると同様の
目的を達成しようとした魂胆であった。して入れば「特ニ有利ナル発行価額」にかけてあるべールを取り除けば、証券会社に対し時価より一〇%ないし二〇%引の有利な発行価額で発行できるという生態が現われてくる。まさに本法案こそは株主の利益をふみにじった甚しい限りといわざるを得ないとともに、
国民を徹底的に軽視、蔑視した法案であると切歯して反駁する。
(2) 請願の
趣旨二の改正法案について反駁する。
(イ) 現行商法第二八〇条の二第二項は「株主以外ノ者ニ新株ノ引受権ヲ与フルニハ定款ニ之ニ関スル定メアルトキト雖モ与フルコトヲ得ベキ引受権ノ
目的タル株式ノ額面無額面ノ別、種類、数及最低発行価額ニ付第三百四十三条〔特別決議〕ニ足ムル決議アルコトヲ要ス。(以下略す)
(ロ) 改正法案第二八〇条ノ二第二項「株主以外ノ者二対ジ特二有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行スルニハ定款二之ニ関スル定メアルトキト雖モ其ノ者ニ対シ発行スルコトヲ得ベキ引受権ノ
目的タル(以下現行法と同じであるから省略する)
(ハ)右の〇印を付した
部分が改正される点である。
(ニ) 会社は、いわゆる利益社会である。そして、株式会社は、株主である個人が、その営利
目的を遂げるために便宜上設立したものである。だから会社は、営利の一手段の実体を有するものであることは之を認めないわけにはいかない。この
意味からして、会社法は株主の営利
目的を遂行するための
内外のルールを定めたものと解し得られる。
そして株主は会社を通じ営利
目的を遂行する手段として右のルールに則って取締役を
選任し業務執行の権限を委任している。ここに取締役は、職務執行上会社を通じ株主に対して忠実義務(商法第二五四ノ二)を負わなければならない根本事由が発生している。
他方、取締役は商法第二六六条によって、会社に対する損害賠償の責及び、同法二六六条の三によって、第三者に対して会社と連帯して損害賠償の責のあることが規定されている。更に又、商法第四八六条によって、取締役が
自己芳しくは第三者を利し又会社を害せんことを図りて其の任務に背き会社に財産上の損害を加えたるときは七年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処せらる。(特別背任罪)
(ホ) 請願の
趣旨記載の一は既に申し述べた通り、「株主以外ノ者ニシテ之ニ対シ特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行スベキ」権限を取締役会に与えることの規定を新設せんとするにある。(ヘ) この事実は、取締役は右(ニ)の如く会社を通じ株主の利益保護を図ることこそ絶対的使命であるに対し、改正法案は株主以外の者である証券会社に、とくに有利な発行価額で新株を発行することを決する権限を取締役会に与えようとするにある。そしてこの
法律案の裏をかえせば、株主に特別大きな損を与え証券会社にそれに
相当する特別の利益を与え新株を発行するという結論に達する。まさに、会社法の根本原則を真向うから、ふみにじって株主に公然と損を与えようとすることを敢て立法化せんとする暴挙に外ならない。いかに経団連を中心とする
圧力に屈したといえ、立法当局の真摯の程を著しく疑わざるを得ない。かてて加えて(ニ)の会社に対する
責任の規定、第三者に対する
責任の規定、特別背任に関する規定等をして、いよいよ複雑混迷に追込むものである。不幸にしてこの法案が成立するとすれば、わが司法史上に一大汚点を残すこと火を見るより明らかである。即ち、否決を仰がんとする一大
理由が以上にある。
(ト) 請願の
趣旨記載の一の追加法案では、「株主以外ノ者ニシテ之ニ対シ特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行」する場合は、株主総会の特別決議を不要とし、取締役会の決議だけで新株発行ができる。
(チ) 請願の
趣旨二記載の改正法案では「株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行スル」場合は、現行商法をそのまま維持し、株主総会の特別決議及び取締役の
理由開示を要求してある。
(リ) 元より、右(ト)(チ)は、関連し表裏一体をなすものである。そして(チ)ば(ト)の取締役会の権限拡大から生ずることの恐れある取締役会の権限乱用を防止して、もって株主の利益保護のために万全の措置を規定してある現行商法を尊重維持し敢て改正すべきでない。ところが改正法案は、現行第二八〇条の二第二項を政て改正し、同法をして完全に骨抜きとしようと意図している。ここに改正法案は、おとぼけ的とか、マジック的であるという批難を湧出せしめる泉を敢て作っている。されば、右の
国民の轟々たる批難及び将来に至っての疑義等を解消せしむる等の
意味においても、本改正法案提案
理由において右の(ト)(チ)の場合の「株主以外ノ者」及び「特三有利ナル発行価額」を定義づけなければならない。
(ヌ) 而して、(ト)の「株主以外ノ者」の正体は、三(1)(ニ)で詳述してあるが如く、証券会社を主体とするものである。又(ト)の「特ニ有利ナル発行価額」とは三(1)(ホ)に詳述した如く、いわゆる闇慣習に由来した証券会社に一括買取り引受けさせる場合の、時価より一〇%〜二〇%低い発行価額である。
(ル) してみれば、(チ)の場合の「株主以外ノ者」及び「特ニ有利ナル発行価額」とは、右じ(ヌ)の「株主以外ノ者」及び「特ニ有利ナル発行価額」を除いた以外のものであると断定せざるを得ない。果してそうだとすれば一体そのような「株主以外ノ者」が
法律上は兎角、実在しているかである。勿論
本件に関する限り実在しない。果してそうだとすれば、(チ)の「株主以外ノ者」は、いわゆる亡者であるといえるべく、即ち、改正法案は亡者を対象として立案したことになる。まさに
言語道断の最たるものといえる。又、「有利ナル発行価額」は前述の如く、時価より一〇%〜二〇%以上高い価額を指摘しているものといえる。著しく株主の利益を侵害する改正法案であるといわざるを得ない。なぜならば改正法案の裏をかえせば時価より二〇%まで株主に損害を与えても、法はこれを是認するという結論に到達するからである。又、一(2)の高裁判決は、「商法第二八〇条の二第二項の法意は、新株発行の公正を保証するものであるとともに当該新株の発行を受けることから排除されることによって蒙る株主の損害をも保証する
趣旨の判断をなされている」。要するに本改正法案は、判例の法源をも完全に無視して立案して提出した暴挙という外はない。かてて加えて取締役をして商法第四八六条の特別背任を暗に助長する結果を招来している。本改正法案こそは、まさに改悪の二字に尽きると反駁する。
四 立法
理由中「株式会社の
資金調達を容易にし、その方法を適正にするため」と誇示しているが、誓願人は、しからずと否定し、その
理由を次の如く明らかにする。
(1)証券会社に一括買取り引受け方法は極めて非なるものである。
(イ) 先づ、左記の立法
理由に逆行している。「以上の如く、株主以外の者に対し、新株の引受権の付与に関する規定(註、二八〇条の三第二項)を厳正に定めた所以のものは、
法律上当然には株主は、新株引受権か有しなくなった代償としての株主保証の措置で、又、株主以外の者に新株の引受桁を付与する場合を極力牽制し、かつ、包括的(註、一折買取り引受け)に新株引受権を与えるようになるおそれを除こうという
趣旨で、会社の真の利益のために特別に必要である者に限って、株主以外の岩に新株の引受権を与えることとした。即ち、節二八〇条の二第二項中に取締役が、株主総会における
理由開示を要するの
趣旨も、又、実に以上にある。」
(ロ) 「親引け」をする機会を与える。「親引け」とは、新株発行に当り、発行会社と証券会社間に買取り引受け契約を締結する際の裏の密約の
一つである。例えば株主以外の分、三〇〇万株を証券会社に対し時価より一〇%〜二〇%、低い発行価額で買取り引受けさせる、そして、そのうちの一〇〇万株につき時価と買取り引受け価額の差額(一〇%〜二〇%)を発行会社の取締役にリベートする
内容ののである。そして、この密約は現在の株式譲渡方法では絶対という字を使用してもよい程露見しない。そして、その金は勿論、脱税の対象物である。そしてその金は、或いは、取締役の旧株式の払込金に充当されることもあろうし、他に、贅沢な生活費の財源をもまかなわれよう。更に又、闇の政党献金等に提供する等の、いわゆる悪事のできる温床を与えることになる。
註 経団連を中心とする財界が、敢て確定判決に挑戦し、執拗に商法を改正して買取り引受けの立法化を意図するところは、或いは、買取り引受けの妙味を、なお続けたいという所存であるとも憶測できる。
(ハ) 一般株主は買取り引受けを甚だしく敬遠している。即ち、
(A) 日本経済新聞(36・6・14)投資相談中に、「ただ、大量公募したり株主の不利益になるようなことを堂々とやっている会社だと、会社の成長性とは別に、株価のうえでは、あまり大きな値上りに期待することはむづかしい。」
(B) ビール三会社のうち、キリンビールは買取り引受けを行ったことは、かつてない。専ら株主額面割当の方法てある、他の三社は買取り引受けを行った。この事実は価額の上で次の如く開きをつけているしこの事史は、買取り引受けを一般株主は敬遠している実証である。
キリンビール 三四八円
朝日ビール 二〇二円
サッポロビール 二一〇円
昭和四一年三月三一日東京証券取引所に現れた価額
(C) 株式の需給のアンバランスを招来し株価の暴落の因を作る。即ち、大衆証券投資家の快具合を無視して取締役会の決議のみで行うことができるため、厖大なる過剰新株の発行となり、それが原因して株価の暴落を引き起し、遂に共同証券等を設立し、株式のたなあげ措置を講じ、かつは増資新株発行を制限する等をして、かろうじて経済危機を救った事例は生々としている。立法
理由は、この事実を正視しないで「株式会社の
資金調達を容易にし」とは、人を喰った弁にも程があると反駁する。
(ニ) 買取り引受け方法は、株価の好況のとき、即ち、証券会社か買取り引受ければ必ず儲かるという見透しのついたときだけに行われるもので、株価の低調な場合の増資新株発行の場合は発行会社の直接募集に委せ、高見の見物をしている。この事実は、買取り引受けは、証券会社の利益
目的のために考えた、日本独特の新株発行の方法である。だから株主にとっては百害あっても利なしというのである。
(ホ) 一般株主が、買取り引受け方法を敬遠る根本
理由
日本軍国主義円発の根源を除去する一手段として占領軍は日本
国民の生活水準を連合国軍の最下位であるインドの下に置こうとし、財閥解体等極めて不自然な政策を強行し、満々としてその実行か進められた。ところかその後米ソの対立はいよいよ表面化し、遂に日本を直接占領していた米国は当初の占領政策(ポツダム宣言)を、いわゆる百八十度転換し、アジヤにおける強力な、
協力国たらしめんとして、日本経済の復興促進を計画した。即ち、経済界、産業界は、機到来と奮起した。けれども人の血液にも比する
資金は財閥解体等によって皆滅し、
一つに大衆の保有する
資金を資本市場に導入する以外になかった。これが資本調達市場が大変化した始まりである。
そしてパチンコ、競輪、競馬等のいわゆる賭事を嗜好する大衆を株式投資出湯に導入する方向を考え、それが成功した。即ち、株主に額面価額と時価の差益金(プレミアム)獲得の妙味を味わせつつ、資本調達市場に導入した。これが、又、日本の資本調達市場が投機の場として発展するようになった。勿論これが事実たる慣習となって厳存するに至った。けだし現在の株価構成原因は右のプレミアムに由来するようになった。故に株主にとっては新株引受権は、日とも取りかえてもよい程貴重な存在である。即ち、この新株引受権を株主以外の者に持っていかれることは投資の
目的を真向うから裏切るもので、株主にとっては堪えがたい苦痛である。即ち買取り引受け方法を敬遠する原因は実にここにある。
五 買取り引受けに、はるかに勝る阪田方法がある。
(イ) 阪田方法とは、大阪の、インキ製造会社阪田商会が
昭和三六年中に行った新株発行の
一つの方法である。即ち、株式割当以外の分の中の六〇万株を一株一五〇円(額面価額五〇円)で株主平等割当(二八〇ノ四)を行ったもので、買取り引受方法の場合に一証券会社に時価より一〇%〜二〇%儲けさせる分を直接株主に与える方法である。
(A) 右に対し鈴木竹雄教授はジュリスト第二三三号、株式公募の
問題点で
「鈴木 この前の共同研究のときに、いろいろな形の公募が出つつある
情勢を見て、私どもの大体の考え方としては、株主に割当る場合必ず額面で発行する必要はない。むしろ若干のプレミアムをつけた発行価額で、株主に割当てる方向にいくのが
法律的にも、疑義がないし、また実際の取り扱いの上でも簡単で費用も要らないから、あらゆる
意味で妥当じゃないかと考えたのでしたが、それに一番近い形が今最後にいわれた阪田商会のやり方だろうと思います。というのは、証券業者に引き受けをさせるという段階を省略して、引受権を株主に直接与えるという形なので、そこにはほかのものと非常な違いがあるわけです。これについて証券業界にいろいろ批判かあるということをただいまおっしゃいましたが、証券会社では、どのような批判をしているのですか。
竹中 現状では時期尚早というわけです。ちょっと
法律論からはずれるかと思うのですけれども。
三戸岡 阪田方式のときは、証券会社に相談する
余地はなかったというので、証券会社は非難するということですか。
竹中 非難というと強く聞こえ過ぎるのですけれども、やや、時期尚早ではないかという批判をいいますが。
三戸岡 額面価額を超える発行価額によって株式を、株主に引受け権を与えて割当てる方式がどうして時期尚早なのか判らない。」
(以上のうちに「竹中」とあるは、山一証券の社員、「三戸岡」とあるは、当時の日魯漁業総務部次長のこと。)
(B) 右竹中氏の
発言から見ても、証券会社が阪田方式を批判する
理由は、阪田方式にされてしまえば、発行価額と時価の差額一〇%〜二〇%及び高率の手数料(横河の場合は一株につき九円)の獲得の原因を失うからである。この事実こそ買取り引受け方法は証券会社の利益追求の手段であることがはっきりしている。
(C) 米国でも時価発行の場合阪田方式に等しい株主割当を採用している。一九五二年中に行ったアメリカン・カン社の増資新株発行の場合は、発行済株式九八九、五九九株に対して一〇%の新株発行を行った。そして時価より一五・三%低い発行価額で株主割当をした(日本の商法第二八〇条の四)
註 アメリカン・カン社の場合の、特価より一五・三%低い発行価額を見て、 ややもすれば日本の場合の買取り引受け方法上、特価より一五・三%低いことが恰も合理的発行価額のように錯覚を招くこともある。けれども日本の買取り引受けの場合は、株主以外の者の証券会社が一五・三%利することで、換言すれば、株主は一五・三%の損を蒙ることになる。ここに問題がある。アメリカン・カン礼の場合は、株主割当であるから、株主が一五・三%時価より低い発行価額で株式を取得し、株式上の直接の利益を得ようが、時価に
相当する払込みをし、株式分割上の利益を得ようが五十歩百歩で、このような場合は、会社と株主の利害は原則として対立しないからである。
六 結 論
(1) 請願の
趣旨記載の商法の一部を改正する
法律案は、経団連を中心とする財界の強い要望により、いわゆる政府に
圧力をかけ政府を動かし、面して、提出に至った
事情は既に申し述べた通りである。
(2) 請願人は、経団連を中心とする財界であろうとも、名もない一
国民であろうとも、要望する事案が誓って公共の利益にあてはまるものであれば、堂々と政府に要望し、時には
圧力をかけて政府を動かすことも、むしろこのようなことは、民生々義
政治の常道であると思料する。この
意味からして経団連を中心とする財界が政府に
圧力をかけたそれ自体に批難攻撃をするものでない。
(3) しかしながら、経団連を中心とする財界、いわゆる彼等が政府を通して商法の一部を改正する
法律案を提出せしめた根本は、彼等が永年に渉って強行してきた買取り引受け方法は慣習法が形成されているのだから、商法第二八〇条の二第二項の手続きを履践する必要はないと
主張するにあった。ところが、既に詳述した如く、判決は彼等の
主張をしりぞけ、即ち、第二八〇条の二第二項の手続き履践しない買取り引受け方法は商法に違反するものであると判断された。
(4) 一体法治国家の
国民、とくに経団連を中心とする財界の方々こそは、総てにおいて
国民の師表たるべき位置にある。その者が、四つの高裁、しかも同一
趣旨の判決に対し、一応は服し、かつ、反省すべきである。
(5) ところが彼等は、彼等の
主張を誤りであるが如く解せられる
法律は、直ちに改正してしまえ、即ち、
法律を改正して、彼等の
主張を合理化せんとする意図のもとに要望したことか、本改正法案提出の、そもそもである。
(6) それならば、経団連を中心とする財界が商法の一部を改正するの一要望自体、誓ってて公共の利益に叶っているものか、否否それは既に詳述した如く、証券会社たる株主以外の者に特に有利な発行価額で新株の発行を認め、株主に大きな不利を蒙らしめるうえに、発行会社の取締役に「親引け」の機会を与えることになる。
(7) 又、一般株主が買取り引受け方法をいかに敬遠しているかは、既に詳述した如くで、その事実は株価の低落によって実証されるもので、この点極めて重視すべきことである。
(8) 立案
理由「株式会社の
資金の調達を容易にし、」とあるが、株主の犠牲において、かつ、証券会社の利益と、発行会社の取締役の、いわゆる私利を満すことを前提として株式会社の資本の調達を期せんとするが如きは、前述株式会社の設立の本義からして到底許されるものでない。
(9) 現行商業を現有し、即ち、買取り引受け方法によらなくても、前述阪田方式を採用すれば、株主の満足する株式会社の資本調達が極めて容易、しかも明朗化されつつ資本市場は繁栄する。政府はこの際すべからく阪田方式を奨励するよう行政指導をすべきである。
(10) 阪田方式の利点
マルイ商法第二八〇条の二第二項の手続きを要しない。マルロ証券会社に有利な価額で発行する分を株主に与える。マルハ証券会社に支払うべき高額の手数料を支払う必要はない。マルニ手続きも極めて簡素化される。即ち、株主額面割当の分の株式申込証と、プレミアム分(公募)の株式申込証とを同封して株主に送付する。マルホ株主は、発行価額に
相当する申込
証拠金を、申込証提出と同町に取扱金融機関に支払う。この事実は、申込期日(支払期日前)に事実上増資は成立する。マル買取り引受け方法の場合は、買取り契約成立と払込期日までの間が大体三週間ある。そして買取り引受け契約上は申込
証拠金を条件としない。また払込期日までの間に不可抗力の事態が発生すれば、買取り引受け契約は破棄してもよい条件か付されてある。このことは証券会社が現実に払込を済すまでは心配なことで、万一そのような事態か発生した場合は、増資は一頓挫を招く。即ち、以上が買取り引受けの欠点の
一つである。
(11) 請願人は、声なき大衆株主の意を敢て買ってでて、買取り引受け方法の排除のために、前述の如く、
昭和三六年から現在に至るまで実に足かけ六年、裁判所に提出した正副書類実に五十万字、又口頭弁論に立会うこと百五十回に及ばんとしております。どうか請願人が今回の商法の一部改正案に思いつきの如き簡単な考えで本請願に及んだものでないことを御了察下されまして、充分な御審議を賜り、請願の越皆の如き御議決を仰がんとするものである。
時間がかかってはいかぬと思いまして早口で言いまして、諸兄には十分に御了察願わなかったかしれませんけれども、私はこの請願書を再三熟読玩味したわけであります。もちろん、てにをは足らざるところ、多少自分の体験上感情的ではないかと思われるところなきにしもあらず、しかし全文を一貫いたします点は、はからずも私がこの請願書を見る前に本
委員会で政府にただした二百八十条ノ二第二項の欠陥を余すことなく摘出をいたしておるわけであります。こういうことを考えますと、私は先般も申し上げましたが、政府からいただきました商法の一部改正案についての政府に対して要望のあった団体、株主の意見、この種の人たちの意見というものは、だれかどういうところでくみ取られたのか、判断に苦しんでおる次第であります。まず最初に政務次官に、この中島徹君の真摯なる請願に対しまして所見を伺いたいのであります。