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1966-03-30 第51回国会 衆議院 文教委員会 第14号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十一年三月三十日(水曜日)     午前十時三十一分開議  出席委員    委員長 八田 貞義君    理事 上村千一郎君 理事 小澤佐重喜君    理事 谷川 和穗君 理事 南  好雄君    理事 八木 徹雄君 理事 川崎 寛治君    理事 二宮 武夫君 理事 長谷川正三君       大石 八治君    熊谷 義雄君       床次 徳二君    中村庸一郎君       落合 寛茂君    河野  密君       高橋 重信君    松原喜之次君       鈴木  一君  出席国務大臣         文 部 大 臣 中村 梅吉君  出席政府委員         文部事務官         (大臣官房長) 安嶋  彌君         文部事務官         (管理局長)  天城  勲君         文部事務官         (文化財保護委         員会事務局長) 村山 松雄君  委員外出席者         文部事務官   波多江 明君         専  門  員 田中  彰君     ————————————— 三月二十六日  なぎなたを中学校以上の女子に正課として採用  に関する請願外九件(逢澤寛君紹介)(第二〇  八〇号)  同外四件(奥野誠亮紹介)(第二〇八一号)  同外三十三件(木村武雄紹介)(第二〇八二  号)  同外一件(小島徹三紹介)(第二〇八三号)  同(壽原正一紹介)(第二〇八四号)  同(高瀬傳紹介)(第二〇八五号)  同外四件(地崎宇三郎紹介)(第二〇八六  号)  同外二件(永田亮一紹介)(第二〇八七号)  同(藤尾正行紹介)(第二〇八八号)  同外二件(篠田弘作紹介)(第二一五三号)  同(壽原正一紹介)(第二一五四号)  同外二件(永山忠則紹介)(第二一五五号)  同外四件(星島二郎紹介)(第二一五六号)  同(八木徹雄紹介)(第二一五七号)  同外五件(山崎始男紹介)(第二一五八号)  同(湯山勇紹介)(第二一五九号)  同外一件(佐々木良作紹介)(第二一九四  号)  同(壽原正一紹介)(第二一九五号)  同(關谷勝利紹介)(第二一九六号)  同(田川誠一紹介)(第二一九七号)  同外十八件(田村元紹介)(第二一九八号)  同外四件(永末英一紹介)(第二一九九号)  同外五件(橋本龍太郎紹介)(第二二〇〇  号)  同(山口丈太郎紹介)(第二二〇一号)  同外六件(奥野誠亮紹介)(第二二四三号)  同外九件(小枝一雄紹介)(第二二四四号)  同(佐々木良作紹介)(第二二四五号)  同(壽原正一紹介)(第二二四六号)  同外三件(地崎宇三郎紹介)(第二二四七  号)  同外四件(堀昌雄紹介)(第二二四八号)  同外三件(吉田賢一紹介)(第二二四九号)  同(菅野和太郎紹介)(第二二七八号)  同(壽原正一紹介)(第二二七九号)  同(中村時雄紹介)(第二二八〇号)  同外二件(帆足計紹介)(第二二八一号)  私立学校に対する一般公費助成の増額及び補助  制度確立に関する請願谷口善太郎紹介)(  第二一五二号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  国立劇場法案内閣提出第五七号)  文教行政基本施策に関する件(多摩美術大学  に関する問題)      ————◇—————
  2. 八田貞義

    八田委員長 これより会議を開きます。  国立劇場法案を議題といたします。  質疑の通告がありますので、これを許します。落合寛茂君。
  3. 落合寛茂

    落合委員 去る二月十八日の文教委員会におきまして、中村文部大臣は、文教行政基本施策に関し、その所信を述べられた中の一節に、「文化行政は、歴史伝統を尊重しつつ、その創造を援助し、さらにその普及をはかることが本来の仕事であると存じます。」「文部省といたしましては文化局を設け、また特殊法人国立劇場を新設いたしますのも、このような趣旨に基づくものであります。」「申すまでもないことでありますが、文教施策の推進は、ひとり文教行政当局だけでよくなし得るものではなく、国民全体の理解と協力にまつところがきわめて大きいものと考えます。したがいまして皆さまの一そうの御協力をこの機会に切にお願いを申し上げる次第であります。」と、懇切な御説明がありました。そこで、私は、国立劇場の設置については、久しい以前から熱望しておりました一人としまして、これに対する各般にわたる質問をいたし、わが国国立劇場が真に世界のどこへ出しても恥ずかしくないりっぱな外観、内容を具備したものの実現をはかりたいと思うのであります。  ところで、すでに開場が目前に迫っているのに、劇場という建物だけは着々とでき上がっておるようでありますが、開場に伴う内容がいまだはっきりと分明されていないうらみがあります。周知のごとく、国立劇場設立の議が起きてすでに相当長い年月がたちまして、その間いろいろな論議がかわされてまいった記録がありますが、それらの点につき、もっと内容説明があっていいと思うのでありますが、形式的には国立劇場といううたい出しがありますが、その内容精神等につきまして、どうもたいへん欠けるところがあるように考えられるのであります。国民全体がこれに対しまして考え機会を与えられましたのは、今回が初めてだと考えられるのでありますが、国立劇場は、大いにその内容について議論の対象となることは当然のことと考えられます。  そこでまず最初にお尋ねしたいことは、新たに提出されました国立劇場法の第一章総則の目的に、「国立劇場は、わが国古来伝統的な芸能公開伝承者養成調査研究等を行ない、その保存及び振興を図り、もって文化の向上に寄与することを目的とする。」とありますが、そういたしますと、いわゆる古来伝統的な芸能以外、ここではかりに新劇といっておきましょうが、その新劇は一体どういう取り扱いを受けるようになるのでありましょうか。もちろんこれに対する逃げ道と言うと、極端でありますが、逃げ道はちゃんとできているようであります。すなわち第四章、業務の項の第二項に「国立劇場は、前項業務を行なうほか、第一条の目的の達成に支障のない限り、前項第一号の劇場施設一般利用に供することができる。」としてあるのであります。伝統古典芸能をやらないときがあったならば、劇場はあいておりますから、そのときは劇場は貸してもいい。いわばここにおいては新劇芸能として同列に認められていないような印象をわれわれに与え、また世間にこれを与えるのであります。  この点について、特に伝統芸術としての芸能と称する古典新劇との解釈及びその区別に対する政府の見解を聞かしていただきたい。これが最初質問であります。
  4. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 御承知のとおり、国立劇場を建設しようという議は、古くから起こって今日に至ったのでありますが、その当座の目標としましては、伝統芸能というものが、何か保存措置を講じなければ、だんだん滅びてしまうのではないか。どういう方法かでこれを保存し、また伝承者養成する道を講ずる必要があるというようなことから出発しまして、国立劇場の議が起こり、一時は国立劇場という以上は、伝統芸能だけでなく、近代劇あるいはオペラなどの施設も必要ではないかというような議論もあったようでありますが、スペース関係で、そういう二色の施設をつくるということはとうてい不可能であるということから、結局は伝統芸能保存及び伝承者養成、こういうことに落ちついた経過に基づきまして、その建設が着手され、着々工事が進行いたしまして、近く完成をする運びに相なってまいったわけであります。そこでこの施設を運用いたしまするために、国立劇場法を制定する必要が起こりましたので、今国会に提案をいたしまして、御審議を願っておる次第でございます。  したがって自主公演としてこの法律によってつくられまする国立劇場が行ないます業務は、伝統芸能ということになっておりますが、しかし、全部をそういうことに使用することもどうか、あるいは日数の余剰等も生ずることも予想されますので、さような場合には、近代劇でありましても、そういういわゆる場所待ちと申しますか、施設を貸与してそのような演劇を行なうことに利用させたらどうか、こういうことで、それを含めた立法措置に相なっておるような次第でございます。こまかいことは、文化財保護委員会の所管になっておりますので、村山事務局長から御説明をさせたいと思いますが、考え方としましてはそういうことでこの法案の制定を行ないたいということで提案、御審議を願うことに相なった次第でございます。
  5. 落合寛茂

    落合委員 ただいまのなには運営その他の上からごらんになった御説明のようでありますが、私がお聞きしたいと思っておりますのは、もう少し形而上的な、基礎的な問題でありまして、この議案にもうたってありますが、芸能芸術伝統芸能芸術というその解釈をお聞きしたい。
  6. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 これはやや専門的になりますから、村山局長からお答えをさせたいと思います。
  7. 村山松雄

    村山政府委員 伝統芸能ということば法律に書きますからには、その定義は明確でなければならぬということはそのとおりであります。そこで、関係者といたしましていろいろ識者の意見も聞き、検討いたしましたが、結局、万人が認める、科学的な厳密な定義といったようなものは事柄の性質上困難であろう。しかし、大体の範囲はこうだという線は出しまして、そういう趣旨でこの法律運営してまいりたいと思っております。それは、大体わが国におきまして、古来江戸時代末期ないしは明治時代のごく初期ぐらいまでにわが国で発生し、もしくは外部から渡来したものでありましても、わが国で消化、吸収せられ、おのずから一定の様式が確立した芸能というぐあいにとらえようということにいたしております。これを具体的に例示しますと、能楽文楽雅楽歌舞伎、それから邦楽、邦舞、それからある種の民族芸能、これらが含まれるということに相なろうかと思います。したがいまして、伝統芸能以外の芸能ということになりますと、明治に入りましてから以後に発生ないしは渡来した芸能、たとえば洋楽ですとかオペラですとか、そういうものが含まれる、こういうことに相なります。そういう趣旨運営してまいりたいと思っております。  そこで、伝統芸能とそれからそれ以外の芸能国立劇場における取り扱いでありますが、大臣の御説明にもありましたように、国立劇場計画のある段階では、その両者を含めた施設計画されたのでありますが、主として敷地の関係で、両者を含めた施設を一挙につくることが困難であるという結論に達しまして、国立劇場企画をされました国立劇場設立準備協議会において、まず伝統芸能を主として国立劇場設立運営すべきであるということが決定されまして、その線でやってまいっておるわけであります。したがいまして、いま企画しております国立劇場におきましては、いろいろな事業をやるわけでありますが、法案にもありますように主たる事業自主公開とそれから調査研究伝承者養成、それから施設を同種の目的を持つものに対して利用に供する、それからさらに、差しつかえがない場合にはいろいろな公的な催し利用に供するということをうたっておるわけでありますが、法案関係で申しますと、十九条の業務の中で、一項の中でも四号の同じ目的を有する事業の用に供するという意味におきましては、現代芸能にも施設利用をしていただく予定にしております。そういう意味におきまして国立劇場は沿革的な理由並びに具体的なスペースその他の関係伝統芸能を主とはいたしますが、現代芸能をも排除するようなつもりはないわけでございます。
  8. 落合寛茂

    落合委員 先ほど私が、国立劇場は何かしら形式建物だけで内容がきわめてぼうばくとしておるということを申し上げたのも、実はただいまの御説明関係しているようなことでありますが、かりにも国立劇場という名前を与えて開館、開業した以上は、私としての考えからいいますと、ほかにたくさんな芸能的ななにがある。しかもただいま徳川末期というようなお話がありましたが、個々の演劇歴史等を見てみますと、そこに線を画してはっきりと区別できないものがたくさんあるのであります。だから、国家として国立としての劇場設立でありますから、もっと幅を広くしまして、そして一般新劇と申しますか、新しいものもそこに取り入れていってもらいたいという希望を私は持っておるのであります。  ことに明治になりましてからも坪内逍遥あるいは眞山青果とか、その他岡本綺堂とか、少なくとも考え方によって、見方によっては歌舞伎以上に出ているいわゆる伝統的な古典的な精神を持ったものもたくさんあるように考えられるのであります。先ほど別に差別的ななにはしないということをお話しになりましたが、私が内容とかあるいは形而上的な点が欠けておると申し上げましたのは、国立劇場を中心にして発展していきます演芸、文化というものをもっと高度に解釈をして、これを国民思想の善導に利用する、ただいまのような時代的に非行少年その他のなにを考えましても、そういう方面に、国家として国立劇場である以上、これを利用していくのがほんとうではないか、こういうふうに私は考えておるのでありますが、そういう点につきましてはどういうお考えをお持ちですか。
  9. 村山松雄

    村山政府委員 私からまず技術的な御説明を申し上げます。  芸能はそれぞれの性質に応じまして特定上演形式がありますし、それから特定舞台形式舞台設備を必要とするわけであります。一つ舞台劇場であらゆる種類芸能に適するようにつくるということはきわめて困難な技術的な性格を持ちます。伝統芸能には伝統芸能に必要な舞台形式がございます。たとえて申しますと歌舞伎でありますと回し舞台ですとか、セリですとか、花道ですとか、そういうものが必須になります。それから舞台の間口も近代芸能に比べてあまり広いのは適当でない。それから音響効果につきましても、邦楽洋楽に比べますと反響時間を非常に短くする必要などがございます。そういう見地からいたしますと、伝統芸能上演するからには、それに向く舞台装置なり舞台機構のくふうが必要になってまいります。したがいまして理想を申しますと、伝統芸能のための劇場、これも厳密に言えば、歌舞伎に向くものと文楽に向くものとは違うわけでありますし、また能楽などになりますとまた特有の舞台を必要といたします。したがって、その性質に応じた劇場をそれぞれつくれば理想的であります。しかし、それも困難でありますので、ある程度妥協は必要でございますが、伝統芸能とそれから洋楽両方うまくやるというようなことは技術的に非常に困難でありまして、それをやりますと両者にとって不満足な結果に相なるわけであります。そこで、国立劇場計画が、伝統芸能それから近代芸能両者に向く多くの劇場を含む施設が不可能であるということが判明した以降においては、伝統芸能に向く劇場をまずつくるという方針で進めてまいったわけでありまして、近代芸能のための国立劇場と申しますか、そういうものは次の段階で検討すべき課題というぐあいにどもは認識しておるわけであります。
  10. 落合寛茂

    落合委員 私は、その点が議論の分かれるところだと思うのですが、今度この問額でちょっと調査をしてみますと、東京劇場が九つ、名古屋に二つ、京都一つ大阪に五つ、それから宝塚に一つ、福岡に一つ、それは代表的な、だれでも知っているような大きな劇場なんです。そのほか小さな町のいろいろな劇場を合わせてみると六百九十七劇場あって、そして一九六三年の調べによりますと、この調査は税金のなにですからかたい押え方なんですが、五億九千万からの観衆というものを引き受けているわけなんです。これだけの大きな、いわゆる種類は違いますが、芸能文化というものが広がっておるわけであります。ですから、すべての点に影響するところが非常に大きいのであります。だから、私は、国立劇場という名前がついていなければかまいません。昔のちょうど築地小劇場みたいに、ああいうふうな小ぢんまりしたものならともかくとして、あの膨大な施設をして、しかも国家から非常な予算をなにしまして、いわば国営的なものでありますが、そこまでなにするのでありますから、もう少しそれを生かした面に使っていけないものか、こう考えるのでありますが、この点、先ほどのお話によりますと、それは次善のものだ、この次の機会につくる考えであるというお話ですが、その点ひとつはっきりとどういう計画を持っておいでになるか、御説明を願いたい。
  11. 村山松雄

    村山政府委員 わが国相当の大劇場があることは御指摘のとおりであります。しかし、現状を見ますと、それらの劇場、特に伝統芸能のためにつくられた東京における歌舞伎座新橋演舞場、それから名古屋の御園座、京都の南座、大阪の新歌舞伎座等につきましても、伝統芸能上演は逐年減少いたしてまいっておりますし、それから上演のしかたも伝統芸能上演としてはくずれる一途をたどっておりまして、これは何とかしなければならぬというのが国立劇場をつくる主たる動機であったと私どもは承知しております。これに反しまして、新しい芸能につきましては、それが望ましい形で上演されておるかどうかにつきましてはいろいろ意見が分かれようかと思いますけれども劇場も多数ありますし、それから伝統芸能に比べればこれは何らか手を加えなければ保存ができないという声は必ずしも高くないわけであります。そこで、国立劇場としてあらゆる手が打てないとすれば、まずもって打つべき手は伝統芸能保存ということで、今度の国立劇場計画した次第であります。  しからば、次の段階では国として何をやるべきかということは、これはたまたま国立劇場伝統芸能保存ということで文化財保護委員会の所掌として計画されましたので、文化財保護委員会といたしましては、新しい芸能についての具体的な考えは実は持っておらないわけでありますが、文部省全体といたしましては、今後さらに文化行政を発展させることになることは当然でありますので、そういう文化行政発展とにらみ合わせて検討される課題というぐあいにどもは承知しております。
  12. 落合寛茂

    落合委員 私の考えを一歩退かせまして、いまのあなたの言うことをそのまま受け入れることにしまして、それならば、かりに今日のまさに開場されんとする国立劇場としての、今度は一つの形の上の内容ですが、それには当然あの膨大な舞台を埋めて公演するためには非常ないろいろな用意が要ると思うのです。たとえば俳優その他の問題、大道具、小道具の問題、その他すべての問題非常にいろいろな問題がそこに起きてくると思うのですが、それなら演劇に対して一番大切な俳優というものに対する配慮はどういうふうになっておりますか。
  13. 村山松雄

    村山政府委員 国立劇場諸般事業計画は、形式的に申しますと、この法律案が成立いたしまして特殊法人国立劇場組織が発足し、役職員が任命されて、そこにおいて決定して必要な契約等を結んで実施するということに相なるわけであります。しかし、それでは今秋に開場考えておる仕事に間に合いませんので、文化財保護委員会におきまして準備室を設けまして諸般準備を進めております。したがいまして、諸般準備は事実上は相当進行しております。形式的に申しますと、国立劇場特殊法人が発足して、文化財保護委員会事務局準備室準備したものを継承し、必要があればそれに修正を加えて決定するということに相なるわけでありますが、実際問題としては、準備事務はかなり進捗しております。  そこで、お尋ねの俳優をどうするかでありますが、これも国立劇場をつくるからには専属俳優を持たなければ意味がないではないかという御意見があることも十分承知しております。しかし、わが国の実情から申し上げますと、国立劇場ができれば、自主公開のかなり大きな分は歌舞伎上演でやる予定にしております。その歌舞伎俳優は大体三分の二から四分の三近くが松竹の一これは厳密に申しますと専属契約は結んでおらないようでありますが、事実上松竹支配下といいますか、世間から見れば松竹俳優というような形で運営されておりますし、残りの三分の一ないし四分の一が東宝の、これは専属契約を結んだ専属俳優という形になっております。国立劇場が発足いたしましても伝承者養成はもちろんやる予定でありますが、それには長い年月がかかり、専属俳優をいま直ちに持つとすれば、松竹東宝両方から俗にいう俳優の引き抜きでもやらなければ持ち得ないわけであります。国立劇場趣旨からいきまして、そういう非常手段をとることは不穏当だと考えております。そこで松竹東宝が押えていると申しますか、一部専属契約を結んでおる俳優を、国立劇場両社了解を得て、また本人の了解も得て、出演契約によって必要な演目出演する俳優を確保いたしたい、こういうぐあいに考えておりまして、実はもうすでに昨年のころから松竹東宝両社とは話し合いをやっております。大体国立劇場設立の議につきましては、松竹東宝両社とも、何と申しますか、商売がたきができて困るというふうな感じではなくて、ほっておけばなかなか進行しない伝統芸能保存振興のために有力な施設ができたという認識で、大いに協力を惜しまないという態度で接しておられます。俳優出演の交渉につきましても非常に好意的で、お互いの演目、それから出演俳優の割当を繰り合わせながら、必要な俳優を三者ともに確保すべく現在折衝中でございます。演目国立劇場特殊法人の発足との関連でなかなかきまりませんものですから、どういう演目でだれが出るということをこの席でまだ申し上げることはできないわけでありますが、ほぼ順調に進んでおるということは申し上げてよろしいと存じます。  なお、歌舞伎以外の演目につきましては、歌舞伎ほどずっと前からきめておかなければならぬというほどのこともございませんし、たとえば文楽などあげますと、これはほとんど文楽協会という、文化財保護委員会やそれから大阪府市補助をして運営をしておる団体が唯一の公演団体でありますので、ここらにつきましては、国立劇場が発足してからでも出演の話を進めることは決しておそきに失しないと考えております。その他雅楽などは、これはもう全体が宮内庁の組織ということになっておりますので、これまた国立劇場が発足してからでも出演の話を進めることはおそきに失しない、かように考えておりまして、大体十一月にこけら落とし興行をするほか、少なくとも四十一年度の上演計画は、国立劇場が発足すれば順調に埋められるというぐあいに考えております。
  14. 落合寛茂

    落合委員 私は、実はあなたのいま御説明になるようなことは伺わなくてもいいのでありまして、最初に申し上げましたように、少なくとも国祭のたいへんな高額なものを使って、しかも日本の文化歴史とすれば初めての催しであり、国立劇場というりっぱなものができるという上から見まして、もう少し何とか国民全体にしみ込むような芸能的な企画と申しますか、内容を含んだ主張があっていいと思うのです。たとえてみれば、今度できる大劇場の隣に小劇場が設備される、そういうところまで配慮されておるのでありますが、ことに先日私の多少関係しております演劇団体に会っていろいろ話を聞いたんですが、非常に不平なんですね。その人たちは、いやなことばですが、またこれも官僚統制か、官僚の手によって何されるという心配があるというふうななにがありますし、またここにはいろいろな問題がありますけれども、少なくともただいまの俳優の問題につきましても、ただいまのお話ではみな喜んでいるというようなことをおっしゃっておりますけれども、やはり半分はそっぽを向いているというふうな傾向が今日出ておりますし、それに、純粋な営利興行をしておる松竹とか大映とか東映とかいうふうなものと手を握っていくという、すでにそこに一段階がつくのでありまして、そういうことではどうも心もとないのでありまして、国としてもう少し大きな、何か一本筋の通った文化的なことを考えていただきたい、こう思うのであります。  それで、何でございますか。付属の俳優学校というものをおつくりになる御意思はあるのでございますか、どうですか。
  15. 村山松雄

    村山政府委員 国立劇場目的が、自主公開と研究調査伝承者養成でありますので、伝承者養成という意味で、俳優養成所はつくる計画を持っております。ただ四十一年度はとてもそこまで手が回りませんので、四十二年度以降に、義務教育を終わった程度以上の者を対象といたしまして、若いうちから伝統芸能の技術を訓練をするという趣旨の、小規模の養成所を計画しております。そのための施設は、建物の中にすでに用意してございます。
  16. 落合寛茂

    落合委員 その中に研究ということがありますが、その劇場の中に研究所を置くという意味なんですか、その点どうなのでございますか。
  17. 村山松雄

    村山政府委員 特殊法人国立劇場組織におきまして、総務、経理、それから芸能事業といったような部のほかに、研究調査部、それから研修所といったような組織を設けるつもりであります。付属研究所ではなくて、国立劇場組織そのものの中に研究調査の部門、それから養成の部門を置こう、こういう計画であります。
  18. 落合寛茂

    落合委員 ちょっと前にさかのぼりまして、新劇というものは今度の国立劇場に対するなにとして、ただあいた場合に小屋を貸すというふうな程度のもので、別に大きな影響力というものはないのでございますが、新劇に対して国としての取り扱い方はその程度のものなんですか。何かこの際国立劇場開場に対して別なお考えをお持ちではないですか。
  19. 村山松雄

    村山政府委員 新劇に対する取り扱いは、大体御質問のような程度に目下のところ考えております。重複いたしますが、申し上げますと、新劇関係の公演に対しましては、劇場の貸与をいたします。そのほか特段の助成ですとか、それから国立劇場自体の自主公演ですとか、そういうことは現在のところ考えておりません。
  20. 落合寛茂

    落合委員 大臣にちょっと御意見を伺いたいと思いますが、大臣は非常にいろいろな問題につきまして革新的な、新しいお考えをお持ちのようでありますが、さいぜんから私申し上げておるような、私の考えておる国立劇場開場に伴う経常的な問題ですが、そういう総括的な問題をどういうふうにお考えになっておるか、ひとつ御所見を伺いたい。
  21. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 先ほども申し上げましたように、大体国立劇場をつくろうという事の起こりが、伝統芸能保存し、またこれをいろいろ時代に応じて研究をし、同時に伝承者養成しようということが事の起こりでございますから、国立劇場がみずから行ないます事業としましては、いま申し上げたような点を中心に自主公演等はやっていくわけでありますが、その間、劇にもいろいろな変化がございまして、同じ日本劇でも、近代劇というものがいろいろ生まれてきておるわけでありますから、こういうものも芸能としてはけっこうなことでありますので、国立劇場自体の自主公演はいたしませんが、それらのものの発達についてはわれわれとしてはやはり協力をしていってしかるべきではないだろうか、そういう意味で、第四章ですかに掲げておりまするように、できるだけ予定を組みまして、そしてそういう近代劇等にも場所を提供して、そういう演劇の行ない得るようにしてまいりたい、かように考えておるわけでございます。ただ、音響とか、あるいはオーケストラなどの場所もありませんし、劇場の、伝統芸能演劇する場所の設備と、近代的なオーケストラなどを使いまする設備とは、設備が違いますし、音響の施設も違いますから、施設にはまらないようなものは使用不可能でありますが、施設にはまりまする近代芸能についてはこれが育成されるようには考えてまいりたい、こういうふうに思っています。
  22. 落合寛茂

    落合委員 ついでにお聞きしておきたいのですが、役員の問題です。当然近く役員の発表もあると思いますが、これはやはりいままでのように官僚的な——官僚的と申すとおかしいのですが、国のほうでそういう方面の方たちを御任命するような御意向でありますか。実は、週刊誌にこういうことが書いてあったのです。「国立劇場の館長や支配人に役人の天下りは絶対に禁物で、政府文部省が芸術に口出しをすることのないような組織運営をいまから深く考えておく必要がある。」こう書いておりますが、この当否は別問題としまして、どうもいままでのいろいろな人事を見てきますと、そういうそしりが多少あるように考えられる場合があるのでありますが、ことに芸術方面の問題は別問題でありますので、フランスその他の国においても、御承知のように、実際に芸術家の中の有能な人を抜てきして、そして演芸文化の中心に置いていろいろ計画させたりしておる実例がたくさんあるのですが、われわれ考えますと、やっぱりもちはもち屋にまかせておけでありまして、どうかひとつ人事の場合に、大臣はそういうことを念頭に置いていただいて、あなたのなにで任命がきまるのですから、ぜひひとつ新しい出発の日本の芸能文化のために、そうしたお考えの上で人事を取り運んでいただきたいと私切に考えておるわけでございます。  実はもっとたくさんお聞きしたいことがあるのですが、これはまたあとの機会に譲ることにいたしまして、もう一つだけお尋ねがしたいのですが、こういう問題のいろいろな運営につきましては、有能な人がもちろん携わっておると思いますが、芸能方面の人たちがやはり参加しておるのでございますか、どうなんでございますか。
  23. 村山松雄

    村山政府委員 国立劇場に関します種々の企画計画の状況だけを先に申し上げます。  先ほど御説明申し上げましたけれども、現在の国立劇場計画につきましては、昭和三十一年に閣議決定によりまして国立劇場設立準備協議会というものができまして、ここで、なくなられた久保田万太郎、それからいま御病気でありますが小宮豊隆、それから高橋誠一郎、それから途中から文化財保護委員になられました河竹繁俊といったような演劇関係の長老級の人をはじめといたしまして、相当数の方々に御参画願って、企画にいたしましても、建物計画にいたしましても、万事御指導いただいて計画を進めておるわけであります。そういたしまして、現在は設立準備協議会は自然的に解消いたしまして、設立準備協議会のメンバーの中のおもだった方と申しますか、高橋誠一郎氏を議長として懇談会をお願いいたしまして、いろいろな事柄を相談しております。  それから、文化財保護委員会事務局の中に昨年の四月から設立準備事務室を設けて、そこで諸先生方と御相談しつつ事柄を進めております。  なお、国立劇場が発足いたしますと、法案にもありますように、評議員、専門委員という方々、これはおそらく設立準備協議会の委員にお願いした方々と同じような趣旨、範囲からお願いするようなことになるのではないかと思いますが、評議員二十名、それから必要に応じて相当数の専門委員というのをお願いいたしまして、基本的な企画あるいは専門委員においては具体的な企画について相談しながらやっていくつもりであります。  なお、現在の準備段階におきましても、これは、事柄の性質上、法案とか予算とかがある程度きまりませんと、実際問題として、政府仕事でやっておりますと、外部の方に相談するということはむずかしい関係がございますので、そこら辺の呼吸をはかりながらやっておったわけでありますが、去る二月に予算もきまり、法案も閣議決定をして、国会に提出したという段階で、芸能関係の諸団体、それから芸能関係の報道機関の担当者の方々を数回に分けてことごとくお招きいたしまして、説明をして、御意見を聞くというような措置をとって、芸能関係の専門家、有識者の意見はできるだけ拝聴するようにつとめておるつもりでございます。
  24. 落合寛茂

    落合委員 ただいまのお話を承りましてたいへんけっこうだと思いますが、さらに私一つ希望があるのです。これは大臣にお聞き願いたいのですが、考えてみますと事まことに大きな問題でありますし、しかも芸能界にいろいろなうわさも飛んでおりますししすから、この際、歌舞伎その他の伝統芸術方面から一人、それから新劇と称するいわゆる新しい演劇界の代表的な人物を一人、それから装置その他舞台に対する実際の関係の代表者を一人、三人ぐらいの芸能界のキャップを参考人としてひとつ理事会にお願いしてお呼びしますから、その際は御協力願いたいと思います。  私の質問を終わります。
  25. 八田貞義

    八田委員長 ただいまの落合委員の参考人の問題については、追って理事会を開いて協議いたします。      ————◇—————
  26. 八田貞義

    八田委員長 次に、文教行政基本施策に関する件について調査を進めます。  質疑の通告がありますのでこれを許します。河野密君。
  27. 河野密

    ○河野(密)委員 私は文教の基本的な問題、特に最近頻発しております私学の問題を中心にして、少しくお尋ねしたいと思っております。  最近私学の紛争事件が相次いで起こっておりますが、これについてどうお考えになっておるか。早稲田大学の騒動を頂点として、私学の紛争事件は、あるいは学生運動の形において、あるいは学内対立の形において至るところに火を吹いておるような状態であります。これはたいへん遺憾なことだと思うのでありますが、文部当局はこれをどう認識して、どうお考えになっておるか、この点をまず伺いたいと思います。
  28. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 お話しのとおり最近学園騒動というものがあちらこちらに起こりまして、私どももその所管として非常に苦慮をいたしておるわけでございます。これにはいろいろな要素や原因があると思われますので、一がいには言えませんが、主として問題の起こっておるのは学生会館とかあるいは寮とかいうものができますと、学生の間にそういう寮なり会館の管理は学生の自治にまかせるべきである、こういう雰囲気が一部にあるようです。しかし管理者の立場から言えば、国立学校でいえば国費でやり、あるいは私立学校にしましても、その私立大学を支持しておる人たちの寄付金とかあるいは学校の経費の一部で建設をするわけでありますし、学校というものは学問研究の府であると同時に教育の府でありますから、いかに学生の自治とはいっても、学生に一切をまかせるわけにはいかない、やはり管理の中心責任者は学校当局にあるべきである、こういう考え方との衝突が事の起こりになっておるものが多いようであります。まあ早稲田大学の場合は授業料値上げという特別の事情、それから学生会館、こういうものが混合いたしまして起こったわけでありますが、いずれにしましても学園は学問研究の府であると同時に教育の場所でありますから、できるだけ管理体制を充実して、そうしてまた学生にも誤解や不満のないようにもっと努力をして、学園紛争の起こらないように、これは関係者全体が十分に配慮をしていくべきものであろうと思うのであります。  現在文部省としましてはいろいろ制度上の問題もありますし、あるいは慣習上の問題等もありまして、あまり官僚がそういうものに深入りをしないようにしたほうがよかろうというたてまえをとっておりますが、この問題の解決については私学振興との関係もありましょうし、なかなか原因や要素が単純でありませんから、今後の対処策につきましては私学振興の問題とあわせて十分に研究をし、善処をしてまいりたいと思っております。
  29. 河野密

    ○河野(密)委員 残念ながらただいまの御答弁は、私は必ずしも及第点を上げることはできないと思うのです。そういう考え方が私は私学の問題を非常に混迷させておると思いますが、私学の今日の紛争というものは、私学の経営の中に何か不合理なものがあるのじゃないか、文部当局の私学監督について、文部行政のあり方に対して、何らかの欠陥があるのではないか、こういうことが感ぜられるわけであります。第一、現在早稲田大学が授業料値上げの問題であれだけの紛争を続けておりますが、おそらく文部当局をはじめとして、われわれもそうでありますが、授業料の値上げが妥当であるのか妥当でないのか、判定すべき何らの材料がないわけです。学校当局が授業料を上げなければやっていけないということを言うから、なるほどそうだろうかと思うだけであって、文部当局もおそらく御存じないと思う。何によって授業料の値上げが妥当であるか妥当でないかという判断を下すのか、判断を下すべき材料が一つもないじゃありませんか。そういう状態に学校を置いておいて、一方においては私学振興の名において低利資金を学校の要求に応じて貸し与えていく、こういうことではたして私学の運営がよろしいのかどうか、私はこの問題について文部当局はどう考えておるか、これに回答を与えない限りは回答にならぬと思いますが、いかがですか。
  30. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 確かに御指摘のとおりであると思います。現在の制度として、私立学校を許可いたしまするときには許可基準というものがあり、また大学については大学設置審議会というものがあって、それぞれの審議会に付議して条件の整備はいたしますが、認可後になりますと、授業料についても経理についても、監督をするとかあるいは許可をするとかいう制度になっておりませんので、授業料を上げなければならないと当局者は言いますが、その上げなければならない理由がどこにあるのか、あるいは理由があるとしても、そのよってきたる原因はどこにあるのか、それは施設を過度に膨張させたのか、あるいは借金をし過ぎたのか、あるいは人員がどうなっておるのかというようなことにつきましては、現在の制度として関与する余地のないような制度でございます。したがいまして、われわれとしましても、いま河野さんから御指摘ありましたように、ほんとうに授業料を上げねばならない要素がどういう理由であるのか、あるいはそうならなければならない経過はどうなっておるのかというような実態の把握というものがわれわれ自身もないわけでありまして、こういう点は今日ほど学園がマンモス化してきておりまする時代においてはどうすべきか、根本的に考え直してみる時期が来ておるように私も思うのであります。  それともう一つは、私立学校というものが、学校法人の制度がありますけれども、この学校法人の制度が生徒三百人しかいない学校の学校法人も、生徒何万人にもなったマンモス学校、大学等の学校法人も同じ制度であるわけであります。ここらにも問題があって、規模が一定規模以上になった場合には、その学校法人のあり方というものなどもこの辺でもう一ぺん再検討されて、規模の小さいものと非常に大きいものとは組織運営の上においても差があってしかるべきではないかという感じを私自身持っておりますが、現状としてはそういう制度になっておりますので、これらについても、現在私学振興方策調査会で私学の振興方策について御検討をいただいておりますが、ただ援助すればよろしいというものじゃありませんので、援助するからにはどういう姿であるべきものかというようなことまでもあわせて御研究をいただきまして、われわれとしても、この段階で新しい知識を集め、あるいは知識をしぼって考え直す時期が来ておるのじゃないか、こう思っておるわけでございます。
  31. 河野密

    ○河野(密)委員 どういうふうにすべきかというお知恵を拝借してということの前に、文部当局としてどうすべきかという考え方が当然あるべきだと思うのでありますが、これに対してはどうなんですか。どういう方向でもってこの問題を扱おうとしておるのでしょうか。
  32. 天城勲

    ○天城政府委員 ただいま大臣から申し上げましたように、現在の私立大学の運営のあり方につきまして、私学法人と私立大学と両方関係がございますけれども、現在の私立学校法を中心にいたします考え方は、戦前の私学に対する監督規制に対する一つのリアクションということもあったと思いますけれども、私学の自主性ということを中心に制定されておりまして、特に私立学校法人につきましては、理事者の構成その他についてきわめて公共性を持たせるという考え方を中心にいたしまして、国からの監督規定が原則としてない形になっております。これは私学の良識あるいは自由にまつことによって私学がりっぱに成長できるのだ、こういう前提に立っておるものですから、現在の法制においては私学の経営そのものにわれわれが関与する立場でないわけでございます。  ただ、御指摘のように、私学にいわゆる学園紛争がいろいろございますが、その中で一般の大学の問題のほかに、この私学の法人のあり方として見た場合に、経理上の問題あるいは理事者の間の紛争等いろいろございます。これらにつきまして、私たち現在権限をもってこれを調停するとか、あるいは規制をするということはございませんが、特に私学の財政的な問題が今日非常に大きな問題になってまいりまして、民間からの有志の寄付を集める面も非常に多くなってまいっておりますし、また、一面いろいろな角度からの国庫助成の声も高くなってきておりますので、こういうことを考えてまいりますと、やはり適正な公のサポートが出てまいります以上は、それにこたえるだけの私学の法人の健全で、合理的運営が、同時に何らかの形で担保されていかなければならないのではないかということは考えております。ただ、具体的にどうするかということにつきましては、せっかく調査会で御審議いただいておりますので、私たちも最終的な結論をいま申し上げる段階でございませんけれども、いま申し上げたような点については、われわれも改善すべき一つの問題点だろうということは感じております。
  33. 河野密

    ○河野(密)委員 私は、いまの御答弁で満足はいたしませすが、今日の大学がどういう運営をされておるかという具体的な例証を上げてひとつお尋ねをしたいと思うのですが、現在多摩美術大学においていろいろな紛争が起こっておりますが、当局は御存じでございますか。
  34. 天城勲

    ○天城政府委員 御指摘の多摩美術大学の問題につきましては、昭和四十年の六月、美術大学の卒業生四名の方が文部省においでになりまして、大学の現在の理事者の選任のいきさつ、あるいはその学校経営のやり方、あるいは特に会計経理のあり方等についていろいろ問題があるという実情の陳情がございました。したがいまして、そういう状況で問題があるということは学校の卒業生からのお話で伺ったわけでございます。それで卒業生からのお話でございますので、学校側の御意見も聞かなければならぬということで、数日して学校の理事者側からもいろいろ事情は伺っておりますが、この問題は、現在民事訴訟とそれから刑事訴訟として事件が係争中になっているわけでございます。
  35. 河野密

    ○河野(密)委員 いまお話しのとおりに学内紛争の問題が民事係争事件と刑事事件と、いわゆる告訴事件に発展しているわけでありますが、私の知り得たところを申し上げて、文部省当局のお調べになったところとひとつ照らし合わせてお答えが願いたいと思うのですが、私の調べたところによりますと、現在の多摩美術大学の理事長の村田理事長が成規の手続によらずして理事長に就任し、理事長の選任書を偽造して、不当にその地位を得た、かように言われておるのでありますが、この点はどうでありますか。前理事長の杉浦非水、本名杉浦朝武、それから理事の逸見梅栄の両氏から、現理事長村田晴彦氏を文書偽造、業務横領の容疑をもって告訴しているということでありますが、この点はいかがでありましょうか。
  36. 天城勲

    ○天城政府委員 昨年の大学の卒業生からのお話によりますと、そのお話一つ出ております。現在理事長が文書偽造をして理事長に就任をしたのだ、こういうお話でございます。これについて、学校側のお話を聞きますと、理事長の交代については、他の理事と相談の上杉浦理事長の了解を得て交代したのだ、それで変更届を行なったものであるというふうに言っておられるわけでございまして、このことが現在の村田理事長の業務執行停止、解職の申請となって東京地裁で係争中でございますので、そういう係争事件があることは存じております。
  37. 河野密

    ○河野(密)委員 大学の理事長というものは、どんなに大きな学校の理事長でも、何らか法人の資格を必要としないのですか。
  38. 天城勲

    ○天城政府委員 法令上は、特に理事長の資格の規定はございません。
  39. 河野密

    ○河野(密)委員 そこで大臣に伺いますが、学校法人が、いま私学振興とかあるいは国家の助成とかいわれているが、膨大な十万の学徒を要する学校であっても、理事長は何らの資格を要しない、監督官庁からはこの理事長が適当であるか適当でないかという批判も加えることができない、これでよろしいか、どうですか。
  40. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 その辺のところはいろいろ問題があると思います。現在の制度では、学校法人に、寄付行為、いわゆる定款がございまして、その寄付行為によって、その学校ではどういう組織で評議員なら評議員をつくる、その評議員が理事を選挙する、あるいは理事の中から互選をして理事長をつくる、こういうような寄付行為上の定めがありまして、寄付行為をつくるときに、文部省としては、この形の寄付行為で是か否かという判断をする権能がありますだけで、寄付行為を、妥当な寄付行為の規定であるということに認定をして許可いたしますと、それから先は、一切学校法人の自主的な運営にまかされておりますので、文部省としては、おそらくどういう人が理事長になったから、それはよろしくないとか、あるとかいうようなことは言えない仕組みになっておる。これは要するに私立学校制度というものが、できるだけ自主的に運営され、自治を認めた上で、良識のある運営がされるもの、こういう信頼の上に制度ができておると思うのであります。  これがこのままで一体永遠にいいのかどうか、こういう点につきましては、いま河野委員が疑問を持たれるように、私どもも疑問がありますが、こういう制度ができた起こりは、いやしくも学校をやる者は良識があり、そして自主的に、円満な自治が行なわれるもの、こういう信頼のもとに行なわれておると思うのでありまして、いまの制度では、どうもこの理事長はよろしくないからというわけにはまいらないと思うのです。もっとも何か事務当局でないとわかりませんが、刑事上の処罰を受けた前科があるとかなんとかいう場合には、欠格条項があるのかもしれませんが、とにかく普通人であれば、その人のよしあしというものを、監督官庁である文部省がかれこれいうすべではないということになっておるのが現状であります。
  41. 河野密

    ○河野(密)委員 事務当局から何か補足することがありますか。
  42. 天城勲

    ○天城政府委員 いま大臣の御説明したとおりで、特に欠格条項というようなものはございませんで、法律の規定に従った、いわば自己組織の権限を学校法人に認めておりますので、この法律の範囲内で自由に選ばれるということだけでございます。
  43. 河野密

    ○河野(密)委員 私はこういうところに法の盲点があると思います。なお先に進んであらためてまた伺います。  いま申し上げました告訴状の中には、経理の問題について数項目があげてあります。詳しいことは申し上げませんが、一つは昭和三十七年三月、四月の間に、新入生三百二十三名から四千九百九十七万円の寄付を受けたにかかわらず、文部省には三千四百三十六万円の寄付と届け出て、差額の千五百六十一万円の使途は不明である。昭和三十八年三、四月ごろに、同じく新入生の父兄三百十八名から四千七百八十五万円の寄付を受けながら、文部省には三千五百万円と報告して、差額千二百八十五万円は行くえがわからない。三十九年の三月、四月ごろ、新入生の父兄三百十一名から五千十万円の寄付を受領しながら、三千四百万円と文部省に届け出て、千六百十万円は行くえがわからない、こういうことが書いてあるのであります。それに対してこの説明を聞きますと、その説明は、文部省に対しては定員を少なく報告してあるから、定員外に生徒を入れておるので、それをそのまま文部省に届けることはできないから、これは文部省に少なく報告してある、こういう説明であります。  これで一つお伺いを申し上げたいのは、文部省は、定員を少なく報告しようと多くしようと、それらの問題については何ら関知しない、ただ報告を受領しつばなしである。こう見てよろしいのでありますか。
  44. 天城勲

    ○天城政府委員 いまのいろいろなお話の中で、学校設置から拡充の過程によりまして、いろいろな段階があるのでございますけれども、全体の考え方といたしまして、学校法人の経理の問題につきましては、国に対する報告義務は、現在私立学校法では負っておらないのでございますから、学校経理の内容につきまして、私たちが直接調査をするということは法律上はできないわけでございます。  ただ、学校法人につきましては、従前の民法の財団法人と違いまして、監事の指揮下にいたしておりまして、監事は、理事または学校法人の職員でない者から選任して、監事が学校の経理を監査するという自主監査の規定が私立学校法にございまして、それを前提に健全な運営をするという形になっております。国が直接学校経理を監督したり調査するということになっておらないものでございますから、私たちいろいうお話を伺いましても、実際に数字にわたってこの学校の経理がどうであるかということをお答えすることが現在のところできないのでございます。  それから定員の問題でございますけれども、定員につきましては、御指摘のように、これは設置認可のときに、学校の基準として学校の定員を認可いたします。またその後学校の増設その他の段階においても認可いたしますが、ただ学生数をふやすというのは組織上の変更ではなく、学生数をふやす場合には届け出で済んでおるわけでございます。これも実際に学校が学生をこれだけふやすということをきめられるわけでございまして、これは特に認可という形をとっておりませんので、それ以上の、実態を監査したり、調査をしたりする権限もないシステムになっております。
  45. 河野密

    ○河野(密)委員 いまの御答弁ははなはだ私は理解に苦しむものでありますが、私立学校法の第六条に「所轄庁は、私立学校に対して、教育の調査、統計その他に関し必要な報告書の提出を求めることができる。」こう書いてありますが、これは空文ですか。
  46. 天城勲

    ○天城政府委員 御指摘のとおり、私立学校法六条の規定はございます。これは教育上の調査、統計、たとえば学校基本調査とか、もろもろの学校教育関係調査をいたしております。
  47. 河野密

    ○河野(密)委員 定員は教育の問題と違うんですか。
  48. 天城勲

    ○天城政府委員 これは調査はできます。御回答をいただくことはできるのでございますが、先ほど申した法令上の立場で申しますと、許認可という関係では、定員は認可事項ではございません。
  49. 河野密

    ○河野(密)委員 認可事項でなくとも教育の問題について報告を求めることができるのなら、定員に対して調査報告を求めることはできるじゃないですか。
  50. 天城勲

    ○天城政府委員 これは毎年指定統計でも、学生の数というのは学校に調査を依頼して調査をいたして集めております。
  51. 河野密

    ○河野(密)委員 父兄から寄付金を徴収することについてはあとからお尋ねしますが、父兄から寄付金を徴収したその寄付金と文部省に対する報告の額と非常な差がある。それを追及した場合において、これは定員を文部省には少なく報告しているから、寄付金をよけい出すことはできないから定員の額だけにとどめてあるのだ、そういう言いわけなんです。それに対して定員を少なくするか多くするかということは学校の恣意、学校の考え一つでできるのかできないのか、文部当局はそれらの問題については何らの調査もしないのか、それを伺っているのです。
  52. 天城勲

    ○天城政府委員 定員は届け出事項でございますから、現在の自分の学校の定員は何名ということは届け出されているわけでございます。  それから実数につきましてはこの六条を根拠にし、あるいは指定統計上毎年学校の学生の実員というものは調べてあります。ただその定員がどうであるかということをつき詰めて、それ以上調べる権根は私たちにはございません。  それから寄付金が文部省の報告云々ということがございましたけれども、ちょっと私その辺が十分理解しかねるのでございますけれども、寄付金を集めた場合に文部省に報告しなければならないという規定も現在ございませんので、いろんな大学がいろんな寄付を集められますけれども、私どものほうで、一々それを承知するようなすべは持っておらないのでございます。
  53. 河野密

    ○河野(密)委員 そうするとこれは、私立学校の実態について寄付を幾らとろうと、定員が幾ら、生徒の実数が幾らになろうと文部省は関知するところじゃない、こういうことなんですか。
  54. 天城勲

    ○天城政府委員 いろいろお話がございますけれども、現在の私立学校法がとにかく私学の公共性と自主性を尊重するという前提でもって、これは法律立法のいきさつがございますけれども、極力国の、あるいは監督庁の介入を排除するという形でできておりまして、いわば私学を全面的に信頼してやるという制度がたてまえでございますものですから、疑いを持っていろんな点を調査するという構想になっておりません。ただ日本の教育上非常に重要な使命を持っております私学でございますから、私たちも個々の私学のあり方についてとやかく申すわけじゃございませんけれども、ただいまのお話のように学生の数、これらにつきましては、少なくとも実員がどうであるかということは最大の関心事でございまして、別の指定統計に基づきます学校基本調査でもって学生数は調べております。
  55. 河野密

    ○河野(密)委員 実員、実数をお調べになった結果はどうなんですか。
  56. 天城勲

    ○天城政府委員 個々の学校については覚えておりませんが、おおざっぱに申しまして、われわれに届け出されております実数は大体、正確には覚えておりませんけれども、定員を五割ほどオーバーしていると思います。
  57. 河野密

    ○河野(密)委員 この問題が新聞に発表されましたときに、文部省の事務官が新聞に意見を述べて、これは私学にありがちのことである、事情を調べて発表するという意見を述べておりますが、私、要求しておりましたが、その調べに行った事務官の方からひとつ御説明を願いたいと思います。
  58. 天城勲

    ○天城政府委員 実は、そういうお話でございましたので、その当時のことを調べたのでございますけれども、当時実地監査云々ということは、文部省の担当の事務官も言っておりませんし、また事実法律上会計経理について立ち入りして検査するという権限もございませんし、それから当時そういうことを言われたということが新聞に報ぜられたということでございますけれども、そういう事実はないわけでございます。
  59. 河野密

    ○河野(密)委員 私は波多江事務官の出席を要求しておりまして、この前ちょうど時間の都合で私が質問できなかったときに来ておられたということを聞いておりますが、波多江事務官にひとつ答弁させてください。
  60. 天城勲

    ○天城政府委員 波多江事務官が来ておりますから……。
  61. 波多江明

    ○波多江説明員 ただいま河野委員からの御質問でございますが、昭和四十年の六月二日に多摩美術の卒業生の四名の方が私のところにおいでになりまして、先ほど河野委員から御説明がございました趣旨のことの陳情がございました。私は、その陳情を承りまして、これは学校当局のほうからもその事情をお尋ねしなければ真偽のほどはわかりませんから、学校のほうの責任者に来ていただいて事情を聞いてみますと答えたわけでございまして、実地について監査をしますということを申し上げたことはございません。四、五日たちまして、学校のほうへ連絡をとりまして、村田理事長に来ていただきました。そうして公文書偽造云々の点につきましては、杉浦理事長が当時高齢でございまして、すでに病床にあるために、他の理事と相談の上、理事長に対しては理事長の養女の方を通じて理事長交代の件の了解お話していただいて、三十六年の二月二十五日に交代をしたということでございまして、その間四年の間何らその間のことについては異論もなく今日に至っておるし、確かに杉浦理事長個人に対して理事長交代の御意思はいただけなかったけれども、他の理事の方も、それは了解の上で村田理事長に交代をしたという事情の御説明がるるございました。  それから学校の会計の横領の問題につきましても、これは学校側の御説明によりますと、卒業生の四人の方が申し出られたことと理事長の御説明になったこととは相反しておりまして、学校の経理の着服といったような事情は何らないので、学校としては経理は明確にし、そうして学校のほうで会計その他の帳簿はきれいに整理をいたしております。四人の方が言ってくる背後にはいろいろな事情があるのだということで、その背後関係のことにつきましても若干の説明がございました。その後八月の十七日に先ほどの卒業生のうち三人の方がまた見えまして、学校当局のほうの意見を聞かれるということになっていたがどのようになっておりますかということをお尋ねになりましたので、村田理事長から事情を聞きましたことを先ほどの卒業生の万に本省において御説明をいたしました。そうすると、それはうそです。私どもはいろいろ証拠を持っております。それでは私ども文部省はそれ以上のことを立ち入って御調査できなければ裁判に訴えて背任横領、公文書偽造で争います、こう言ってお帰りになって、その後今日まで何ら連絡はございません。  以上のような事情でございます。
  62. 河野密

    ○河野(密)委員 あなたは新聞に、こういうことは私学には珍しくないことだ、こういうふうに発表になったと新聞の記事に載っておるのですが、そういう私学には珍しくないこういうことというのは、どういうことなんですか。
  63. 波多江明

    ○波多江説明員 私学には珍しくないことだと言った記憶はございませんが、そのようなことを申し出られましたことで、あるいはそういう内部事情が学校の中で紛争にされるような問題は幾らも——幾らもではありませんが、間々聞きますので、そういう趣旨で、内部で意見の対立がある学校は幾らか聞いておりますので、そういう趣旨であるいは申し上げたかと思います。
  64. 河野密

    ○河野(密)委員 私が承りたいのはその点でなくて、その金の食い違いは、説明として内部に対しては、これは文部省に定員を定員どおりに報告してあるから、定員をオーバーした額を報告するわけにいかないから、実質は定員より生徒の数はオーバーしておる、はるかにふえておるのだけれども、それを報告するわけにはいかないから、少なく出してあるのです、こういう説明をしておるが、あなたに対しては全然そういうことは報告してないとすれば、そうすれば、あなたは一体そういう事実についてどう判定されたのか、何を調査されたのか承りたいのです。
  65. 波多江明

    ○波多江説明員 四人の方がお見えになりましたときには、その寄付金について何千万の横領があるというふうな具体的な数字は……。
  66. 河野密

    ○河野(密)委員 横領とかなんとか言っているのではないのですよ。食い違いがあるから、その食い違いは文部省にはこういうふうに報告しておる、こう言っておるが、文部省はそれをどう考えておるのだ、これを聞いているのです。横領か横領でないかなどということは、裁判所が判定すべきことであります。
  67. 波多江明

    ○波多江説明員 当時四名の卒業生の方が見えましたときには、文部省のほうへ報告してある書類に間違いがあるといった具体的な指摘ではございませんで、村田理事長は非常に専断であって、理事会を開かないでいろいろなことを独断的にやる、そういう専断的な行為によって、職員の人も何名かの人が首を切られておりますとかいったようなことでございまして、文部省に提出されているものの中にうそがあるから調べてほしいといった陳情ではございませんでした。
  68. 河野密

    ○河野(密)委員 あとでも一ぺん尋ねますが、それでは私は主として文部当局にお尋ねしますが、そういう最中に三十八年十一月に多摩美術大学は大学院の設置認可申請書を文部省に出しております。これは許可になっております。美術大学の大学院設置ということは、私は相当の検討を要する問題だと思うが、その最中においてこれを許可しております。この申請書の中に虚偽の記載があったらどうしますか。文部省はどういう責任をおとりになりますか。
  69. 天城勲

    ○天城政府委員 一般に設置認可、新しい学部ないしは大学院の設置が行なわれます場合には、設置基準に基づきました認可申請書が出てまいりまして、大学設置審議会で、いまの大学院のケースでございますが、書類審査をいたしますし、また学校に参りまして、この申請の事情と実態とがどう違っているかあるいは合っているかという実地審査をいたしまして、その結果に基づきましてこの設置審議会が可否を文部大臣に答申する手続を踏んでおります。したがいまして、当時のことで私もいまよくわかりませんけれども、同じプロセスでもって設置審議会からの答申に基づいて文部大臣が認可したことと思うのでございます。  それに関連しまして虚偽の申請ということがあったらどうなるかということでございますけれども、一応いままでのケースで見ましても、申請書と実態が食い違っておったりあるいは申請書に記載されておる事項がまだ実現されていないというような事態が間々あるわけでございますけれども、そういう問題につきましては、すべて現地調査の過程を経て学校側に訂正をさせまして、実態に即したまた実現可能な状態を前提として可否を決定するような手続をとっております。それ以上については、現在の法令上処罰規定とかあるいはこれを強制する規定はございませんので、そのプロセスをそのとおりに、かつ私学側を信頼して大学院の設置を許可するというたてまえでございます。
  70. 河野密

    ○河野(密)委員 それでは具体的に。この多摩美術大学院設置を許可するについて、そういう実地に調査した経過をひとつ説明してください。
  71. 天城勲

    ○天城政府委員 たいへん恐縮でございますけれども、当時私も所管しておりませんし、それから手元に資料がございませんので、ただいまそのいきさつについて御説明する用意がございません。   〔委員長退席、八木(徹)委員長代理着席〕
  72. 二宮武夫

    ○二宮委員 関連して。大学院設置について、これは私も同様の問題を持っておりますので金曜日に質問いたしますが、文部省の中に私立大学審議会という文部大臣が任命をする機関がある。その私立大学審議会の皆さん方が、こういう私立学校法第五条に基づく大学院設置に対する基準、そのほかの審議をされるわけなんです。そこでいま管理局長は、これに対して文部省は何ら責任もなければ調査の権限もないというようなことを言われますけれども、文部大臣が任命をされたところの大学設置審議会の諸君がこの大学院の設置についての審議をするのですから、当然私は任命をした文部大臣に責任があると思う。そういう逃げ方をして、全く野放し的な私立大学の教育の実施というようなことを所轄庁として見のがしておるということは私は許せぬと思う。なお先ほど、学校法人の理事長そのほかについては、これも私のほうでは何ら規制することはないと言いますけれども、学校法人の認可については、これも申請書に基づいて文部大臣が認可をしておる、その認可の項目の中には、私立学校法人の役員があるいは会計、資産、目的そのほかについて、すべてを全部内容として出して、その内容を検討の上で大臣が認可しておるじゃないですか。認可事項であり、諮問機関をつくっており、そういうものがきちんとある以上、この学校法人がどういう役員を選ぶかというようなことについては、私のほうではそういうものに対して何ら規制がございませんとかあるいは私のほうではこれに対しては関与いたしませんとか、そういうような言い方で私立大学というものは——私はいい意味において私立大学を援助するという方向については、これは了解するのですけれども、いま言ったような野放し的な、法文で明確に調査権がないとかあるいはいろいろなものが明瞭に書いてないとか言うが、そういう中間機関を通して大臣が責任を持っておりながら、認可をし、任命をしておりながら、そういう人々に全部の責任をおっかぶせておいて、文部省は知らぬ顔をしておるという、そういう態度は許せぬと思う。大臣も当然責任があると思う。したがって所轄の管理局長にも、それは責任があるはずです。いま河野委員から質問のあったことに対していまのような管理局長の答弁であれば、これは日本国の大学なのかどうかわからぬじゃないですか。あなたが当時おられなかったということは承知しておるけれども、おるおらぬの問題じゃない。自分の所管をしておるところの管理局の仕事あるいは文部省の所轄庁としての仕事、そういう仕事内容というものを御存じなければ管理局長というものはやめなさい。意味ないじゃないですか。大臣管理局長もその点については直接法文にないから云々というようなことではなくて、いまいったような中間機関をもって審査し、あるいは認可をする。その認可のときには綿密に資産そのほかについては項目として出させるようになっておるだから、それらについて少しも責任のないような言いのがれをするということは、私は許せる問題ではないと思うのです。河野委員がせっかくまじめに真剣に質問していることに対して、一体どこをとらえてあなたは逃げるのです。そのような明文がなければ、私のほうには責任がないというのですか。もう少し私立学校法の内容を読んで、第五条の委託をされたところの権限については、その内容について私立大学審議会にまかしておる。その大学の審議会の委員は大臣が任命をしておる、明瞭にあるじゃありませんか。学校法人についても認可制があるじゃないですか。認可についてはこうこうというものが目的の中に明瞭に書いてあるじゃないですか。責任がないとは言わせない。
  73. 天城勲

    ○天城政府委員 御指摘のとおり、設置認可のときに、先ほどもそのことは申しておりますが、設置基準がございまして、設置基準に基づいて綿密に認可申請を検討いたしまして、同時に現場についても審査をいたします。この設置審議会は御指摘のとおり法令上の機関でございまして、文部大臣が任命する機関でございますし、最終は文部大臣が認可いたしますので、この点について私たち何も否定をいたしておりませんし、おことばでございますけれども、逃げたような意味を申し上げたことは毛頭ございません。  そのときに先ほどのお話で、認可があったときに、この理事はこれは不適当だからだめだというような、そういう規定はございませんということを申しておるわけでありまして、また設置認可をいたしますときには、大学にいたしますれば四年間の学年進行でできてまいりますので、これは従来からいろいろいきさつがございますけれども、本来ならば四年間の全体の構成が現実にできてみなければ大学として必要な施設や経費というものはわからないわけでございますけれども、それでは非常に過重な負担になるということで学年進行制度を認めておりますものですから、最初の認可のときには、第一学年の発足に必要な施設とか教員数というものを現実に押える。なお、学年進行についての四年間の計画、これは教員の充実も施設の整備も全部計画としてとりまして、それに必要な経費はどういうところから入ってくるかということを全部出して検討いたします。その財源の取得について非常に疑問があれば、これは確実に入るか、あるいは財産があるというならばその財産はどういう財産だということまで全部審査をいたすわけでございまして、その点では、先ほど来おことばでございますけれども、決して何も責任がないとか権限がないということを申し上げているわけではございません。そうやって一応設置基準に合ったものについて認可をいたしました以上は、あとは私学の良識によって、その計画に従って実施していただいて、その後の問題については一々干渉しないという現在の私学に対する法のたてまえであるということを申し上げているわけでございまして、私たち法律上規定されております権限につきましては、十全にやっているつもりでございます。  ただ、全体といたしまして、たとえば先ほど御指摘のございました六条の調査の問題にいたしましても、必要な場合には調査いたします。しかし、調査協力していただかなければそれではどうやるんだという次の法律上の疑問もございます。調査が強行できるかというような問題も出てくるのでございますけれども、現在の法律はそういうたてまえになっておらないのでありまして、できるだけ御協力を得ながら必要な報告もいただきたい、調査にも応じていただきたいという形でこの私学行政をやるような仕組みになっているものですから、いわゆる行政上の権限として最後にどこまで押えができるかという点で申しますと、私たち私学の協力、私学の良識的な運営と、それからわれわれの許されております行政上の任務については御協力を得てやっていただかなければできないんだということを申し上げているわけでございます。
  74. 河野密

    ○河野(密)委員 いま責任がないようにおっしゃいますから、私は具体的なことを聞きますが、多摩美術大学の大学院設置の請書はここにございます。もう一つここにその多摩美術大学からの報告書がある。この報告書と申請書とは、課なり局が違うか私は存じませんが、同時に出されたのであります。並行して文部省に提出されたものであります。この大学院設置申請書に記載していることと報告書に記載していることは全然違っておる。一体文部省はこういうことに対してどういう態度をおとりになりますか。これは申請書は申請書として調べるので、報告書は報告書でかってに出したんだ。課が違えばそんなものは横の連絡はないんだ、こういう大学行政なんですか。その具体的な事実は、大学院の先生——大学院の審査をするときには教授その他の顔ぶれをずっと並べなければなりません。それで、あなた方のほうは十分御調査になるわけでありますが、それに対して俸給が載っております。現実に報告書に載っておる俸給表と、それから申請書に載っておる俸給表とは全然別個で、現実の報告書に載っておるものは半分であります。これは同時に文部省に出されたもので、これだけの食い違いがあって、文部省はこれに対して何も調査もしなければ、めくら判で許可するとかしないとかいうことをなさっておるのですが、これは一体どういうのですか。同じ文部省に同時刻に並行して提出されたものに、両方にそれだけの食い違いがあっても、文部省は知らぬ顔して許可をするべきものは許可する、そういう大学の管理をなさっていて、一体文部省の役目がつとまるのでしょうか。大臣、どうです。
  75. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 その申請書と報告書の食い違いがあるということでございますが、もし事実であるとすれば、幾ら所管の部局が違いましても粗漏であったと思いますが、申請書が大学院の設置等について出ますと、この申請書が、まず書面で見まして大学の設置基準に合致しているかどうかを審査をし、そして審議会は御承知のとおり大学設置審議会と私立大学審議会と二つございまして、この二つの審議会に諮問をいたします。審議会の委員は、私ども学識経験等から見て、また情熱から見て十分な人であると思いまして審議会の委員を人選して、この審議会の方々に役所の官僚的な立場でなしに、その申請と取り組んで審査をしていただくわけであります。現状を見ておりますと、この二つの審議会はそれぞれ財政の面とかあるいは設備の面とかあるいは大学の教授陣営の実情、あるいは履歴——最近では特に大学が方々に急増されますので、ひとつ人が二重籍で申請に使われたりいたしますから、そういう二重があるかないか、こういうことにまでわたりましてかなり慎重に審査をし、しかも最近では審議会の委員は二、三人ずつ組をつくりまして、わざわざ現地に出かけまして、設備は申請どおりであるかどうか。それから経理状態なりその大学院を設置するにふさわしいだけの経済状況になっておるかどうか、そういうことも現地で調査をし、あらゆる角度からそういう調査をされて、そしてこの二つの審議会が慎重審議をした結果、この申請は許可すべきものである、こういう答申が大臣に出ますと、大臣はこれを一々自分でさらに目を通すわけにはいきませんので、大体審議会の答申どおり拒否を決定しておる。したがって、今年あたりもずいぶんたくさん新設やあるいは大学院申請等がございましたが、かなり不合格で、予定よりもかなり不合格が多かった。これはこの二つの大学設置審議会及び私立大学審議会の両審議会が実情調査をされました結果、申請書では一応規格に合うように整っておるけれども、実態が合致していない。したがってこれは不許可にすべきであるというような不許可答申もございまして、許可しなかったものも相当出ておるというようなぐあいで、かなり実際には慎重審議をやっておるのでありますが、人間でありますから、相手がごまかすつもりでやられますとひっかかる場合もあり得ると思いますが、できるだけそういうことのないように、二つの審議会の委員の方々も、みなそれぞれの職務を持って忙しい人たちですが、忙しい中をさいて、それぞれ現地調査を最近はやっていただいておるようなわけでございますので、それでも欠陥が絶無とはいえないかもしれませんが、われわれとしましては、慎重を期して事を運んでおるような次第でございます。
  76. 河野密

    ○河野(密)委員 私は、いまの中村さんの答弁では、それは言いわけになるかもしれないけれども、問題の解決には一つもならないと思います。  もうだいぶ時間が経過しましたから、私は最後に一つお尋ねいたしますが、私立大学振興法というのができて、いろいろ私立大学に対する助成措置等がとられておりますが、これは助成すべきものは助成してもいいと思います。思いますが、その実態に対して何らかの規制がなされなければ、これはますます悪を助長するような結果になるのじゃないか。先ほど私は寄付金の問題を申しましたが、寄付金の問題について、私はこの学校だとは申しませんが、現在寄付金で最高どのくらい取られておりますか。学問を金で買うという弊害が露骨に出ていると思うのですが、文部省でもおそらくそういう点はお調べになっていると思うのですが、最高はどのくらい取られるのですか。入学ができるかできないかということは全く寄付金の額によってきまるというような実態をどうお考えになりますか。そういうことは野放しである。しかも学校の経営というものは、いまお話しのように、監督があるようでないようで、学校経理については会計検査院の検査はないのでしょう。学校に寄付したということによって免税になる、これも野放しじゃありませんか。そういうように特権を付与しておきながら、その運営については、いま私がほんとうの片鱗をお尋ねしたのですが、それによっても文部省は何にもわかってはおらないじゃありませんか。私のところへ多摩美術の問題を、これは正義の立場から、私はこれはどちらでも、理事長派でもなければほかの反対派でもない、公平な中立の立場ですがといって——あえて名前をあげてもいい。絵かきの郷倉さんが見えまして話をするのに、私は疑いを持ったのは、美術大学であれば美術を教えるために設備をどれだけふやすとかいうことを考えれば私は満足しますけれども、美術大学が土地ばかりを方々に買いあさって、土地を買うことに狂奔をしている、これはおかしいじゃないかというのが私のこれに対する第一の疑いですと、率直に言っておる。私はその直観を信じるわけです。私は今日のすべての大学がそうだとは申しませんが、多くの大学が、あるいは先ほど冒頭に学生寮の話が出ましたが、学生寮という名前によって、あるいはレクリェーションのセンターをつくるという名前によって、各地に土地を求め、あるいは建物をつくり、そういうところにばく大な金を費しておる。それをみんな少しも怪しまない。学問のために大学があるのではなくて、レクリェーションだとかそういうことのために施設をすることが学校の仕事であるかのような、そういう態度がとられておって、文部省はこれに対して何の監督もしなければ、何にもしておらぬじゃないですか。これで一体いいのか。きゅうきゅうとして責任をのがれることにこれつとめておる。そんなばかな話はないと私は思うのであります。これで私学に問題が起こらない、多くの学校に騒動が起こらなければ、起こらないほうがふしぎだと思います。こういうあり方について根本的に考え直さねばならぬのじゃないか。問題はまだありますから、他日また伺うことにいたしまして、これに対する大臣、当局の責任ある御答弁を願って、私の質問を終わりたいと思います。
  77. 中村梅吉

    中村(梅)国務大臣 実際、河野さんのように正義感に燃えてものを考えますと、いまの私学についてはいろいろ問題があると思います。私ども決して責任のがれを言っておるわけではございませんが、事実責任が持てないような制度になっておるわけであります。従来は私学振興会を通しまして融資の道を講じておりましたわけで、融資の段階ならば、あるいはまだ従来どおりの制度でよろしいのかもしれませんが、さらにこれを融資以外の税金の金を使って援助をするということになれば、私はどうしても私学のあり方というものについては何か新しい制度を考えなければならぬのじゃないかというような気もするのでありますが、とにかく従来は私学の制度は良識に待つというたてまえできておりますから、文部省としては最初の認可をいたしますときの権限はございますが、認可をしてから先については、先ほど管理局長がお答えを申し上げましたように、実際その報告を求めるにいたしましても、六条の規定があるだけで、これは統計をとったりするための資料の収集でありまして、この資料といえども、うそを書かれたらしからばどうするか、出さないものがあったらどうするかというような問題まで突き詰めてまいりますと、実際処置がないというのが現状でございますから、いま河野委員のお話のような点については、あまり文部省が差し出がましくまいりますと、いまの時世でございますから、いろいろまた非難を受ける面があろうか思いますが、世論の動向ともにらみ合わせまして、私どもとしましては私学問題は今後十分に慎重に検討いたしたい、こう思っておる次第でございます。      ————◇—————
  78. 八木徹雄

    八木(徹)委員長代理 次に、国立劇場法案についての質疑を続行いたします。上村千一郎君。
  79. 上村千一郎

    ○上村委員 時間も差し迫っておりますので、基本的な点について二、三点お尋ねをいたしたいと思います。  国立劇場法案につきましての質疑でございまするが、この法案目的は、伝統芸術振興という点が一つ目的になっております。この伝統芸術振興という点につきまして、少しく具体的な問題についてお尋ねをいたしておきたいと思います。  今回の国立劇場法案によりますると、第十九条の第一項第一号に「劇場施設を設置し、伝統芸能公開を行なう」ということがございます。この劇場施設につきましては、別表に、東京都千代田区隼町十三番の一所在の宅地並びに同建物というのが一の劇場施設であることは間違いないわけでございましょうが、関西方面でも国立劇場としての施設を将来お考えになっているかどうか、この点をお尋ねいたしておきたいと思います。
  80. 村山松雄

    村山政府委員 目下のところ、東京の隼町の施設をつくることで手一ぱいでありまして、他の地域にもう一つということは、具体的な計画はございません。
  81. 上村千一郎

    ○上村委員 少しくこの法案の具体的な御意図、現在の段階のお考えということをまずもってお尋ねをいたしていくわけでございますが、伝統芸能振興ということばがございます。「その保存及び振興」と書いてある。ですから、保存の点はわかりまするが、「振興」とここに書いてある以上、今後積極的に——この「振興」とございますが——この伝統芸能を科学的に定義つけるということはきわめてむずかしい問題もございましょう。   〔八木(徹)委員長代理退席、委員長着席〕 ですから、先ほどの御答弁の中を拝見いたしておりましても、雅楽能楽文楽歌舞伎邦楽、それからある種の民族芸能というふうに例示されまして、その他、要するに、等ということばを使われておる。まあおおよその概念というものはわかりまするが、この「振興」ということば考える場合、第一条の目的が、終局的には「文化の向上に寄与する」ことを目的といたしておるのでございますれば、この「振興」という中には、ただいまの例示いたしましたものを基調としまして、今後新しい形式芸能をも含むものかどうか、要するに、おおよそ江戸末期までに形づくられたところのわが古来伝統的な芸能というものに、それを精神として新しい一つの形態として発展するような芸能をも含むものかどうか、そういうものをも振興政策の一環として推進をしていくというお考えなのかどうか、要するに第一条の目的からいいますれば、終局において「文化の向上」ということを目標とするならば、このわが国古来伝統的な芸能伝統芸能というものについての振興策というものはもっと弾力的に幅広いものであってしかるべきものであろう、こういう意味から、どういうお考えを持っておられるか、お尋ねをしておきたいと思います。
  82. 村山松雄

    村山政府委員 振興ということばは簡単でありますが、その意味するところはきわめて複雑多岐に及ぶのではないかと思います。国立劇場ができますれば、伝統芸能保存はもちろんでありますが、振興とは何を意味するのか、いかなることをやれば振興されるのかということを大きな課題として検討し、その検討の結果に沿うてやっていくことが、国立劇場の大きな使命でありまして、一口に振興とは何ぞやということを断定することは困難かと思います。しかし私なりの見解を申し上げますと、まあ振興とは、たいへん簡単に申し上げますと、多くの国民が喜んで鑑賞し、それによって稗益される状態をつくり出すことというぐあいに考えております。伝統芸能保存いたしましても、見る人も少なく、たいして関心も呼ばず、細々と文字どおり生き長らえるということでは困る。正しい姿の伝統芸能保存し、それが多くの国民によって喜んで鑑賞され、生活のかてになる状態を現出すること、そのことがとりもなおさず直接的な振興意味ではないかと思います。  そこでさらに、その保存された伝統芸能の発展的な形態を開拓することも振興ということば意味に含まれるかどうかということでありますが、これは率直に申しまして、私個人の見解としては含まれると考えます。しかしその発展形態のどういうものを考えていくかによりまして、一面無制限に発展を許すことは、保存という命題と矛盾を来たす場合も想定されるわけであります。そこで私ども考えておりますところは、伝統芸能保存と申しましても、ある一つの型で固定して、一切のその変化を許さないというほど窮屈に考える必要はなかろうかと思います。芸能というのはその演技者を通じて具現される芸術でありますので、演技者が良心的であり、芸術的であればあるほど、従来の型を破るということも必然的な発展形態としてはあり得るわけであります。最小限度良心的、芸術的研さんの結果出てくる従来の型を破る発展というものは、振興意味に含まれると解しますが、ことさらに新奇をてらって新しい形を生み出すところまでは、現在振興の中に含ましたくない、かように考えております。
  83. 上村千一郎

    ○上村委員 いまのに関連いたしまして、たとえば歌舞伎などに関連し、明治以後の作家である坪内先生とかその他の作品も自主公演でやることにするのか、それともいわゆる古典だけに限定して考えるのか、この点についてお尋ねいたします。
  84. 村山松雄

    村山政府委員 歌舞伎に関しまして具体的な作者の例をあげての御質問でありますが、まあ率直に申し上げまして、具体的な作者の名前をあげて、これを入れるか入れないか、シラミつぶしに明快にお答えすることはむずかしい面があろうと思います。しかし歌舞伎は長い伝統を持ち、明治以後もいろいろな形をとって発展してきました伝統芸能でありまして、御指摘のように、明治の初期には国劇改良運動などがありまして、新作の脚本が坪内逍遥等によりましてつくられておりますし、それ以後におきましても、岡本綺堂とか眞山青果とか、そういうすぐれた芸術家によりまして、新しい脚本が伝統歌舞伎の様式を使いまして、一部新しい考えを加えつつつくられ、上演されております。これらにつきましては一がいに断定することは困難でありますが、伝統の形を踏襲しながら新しい創意を加え、くふうをこらし、芸術的な高さを持つものは差しつかえなかろうと思っておりますし、これにも具体的には国立劇場ができた上で評議員なり専門委員の意見を聞き、あるいは国民の批判を承りつつ取り上げていく問題になろうかと思いますが、私の今日の段階における率直なお答えとしては、正しい姿で発展させたものにつきましては加えてもよろしかろう、かように考えております。
  85. 上村千一郎

    ○上村委員 ちょっと角度を変えてお尋ねをするわけですが、この国立劇場の将来地方公演またはラジオ、テレビの中継による一般国民への振興策ですね、劇場施設に観客を吸収しまして、そして伝統芸能保存、あるいは振興というようなところはもちろんこの法案でわかるのですが、一歩進んでその伝統芸能振興とかいうような意味において、地方公開あるいはラジオ、テレビの中継をするというような方策というようなものもお考えになっておるのかどうか、お尋ねしておきたい。
  86. 村山松雄

    村山政府委員 ラジオ、テレビによる中継につきましては、実はまだ具体的なプランまでは考えておりませんが、中継放送をなし得る設備は整えることになっております。おそらくやることになろうかと思います。  地方公演の問題につきましては、これは現在具体的な計画がございません。国立劇場発足後に検討、決定すべき問題でありますが、私の考えといたしましては、発足当初国立劇場施設の中で行なう自主公開にいたしましても、これを予定どおりこなしていくことは相当努力を要する事業でありまして、地方公開までは乗り出せないのではないか、かように考えております。
  87. 上村千一郎

    ○上村委員 要するに、日本の伝統芸能振興というような点から考えますれば、海外の劇場に対して公開をするという考え方も出てくるんだが、そういうような点もお考えになっておるのかどうか、お尋ねしておきます。
  88. 村山松雄

    村山政府委員 将来の理想としては、そういうことをやるべきであるという御意見も承っておりますし、やりたいという気持ちは持っているわけでありますが、ただいま国内における地方公開すらなかなか直ちにはできないという段階でありますので、海外公開などは将来の課題として研究すべき筋のものと心得ております。
  89. 上村千一郎

    ○上村委員 なぜ私がこういう一連の質問をいたしているかということでございます。と申しますのは、国立劇場設置の経過を見ますと、昭和三十年二月七日に芸能施設調査研究協議会が設置され、昭和三十一年四月十七日に国立劇場設立準備協議会の設置が閣議で決定されておる。そして実はただいまの段階はそれから約十年経過しておる。そして、昭和三十二年の七月十日には、衆議院の文教委員会において国立劇場の早期実現を期することの決議が行なわれている。こういうような点から考えますと、要するに、日本の古来伝統的な芸能、こういうものの公開とかあるいは伝承者養成とか、あるいは調査研究というようなものについての保存振興をはかる、文化の向上に寄与するというようなものの考え方というものは、すでに相当以前から、しかも公的な場において論議をされてきておる。しかもやっと実は具体的な状態になってから十年も経過しておる。真にこういう芸能振興について熱意を持って積極的に取り組んでいく腹があるのかないのかという意味において、私はお尋ねをしておるわけです。どうしていままでおくれておるのか。考え方においては、国立劇場は一九六四年のオリンピックまでに設立をして、そうして事業を開始できるようにすべきであったと思われるわけであります。この前のオリンピックまでにつくっておいてしかるべきものだというふうに考えられておる。しかも文教の当委員会においては、昭和三十二年の当時において決議がされておるというような諸般の実情を考えますれば、どうして遅延したのであろうか。真に熱意があったのであろうか。こういうような点に関連しまして一連の御質問をしておるわけです。簡単でけっこうですが、今日まで遅延しておりました理由につきましてお尋ねをしておきたい。
  90. 村山松雄

    村山政府委員 一口に申し上げれば、私ども担当した者が誠心誠意やりましたにもかかわらず、結果的には遅延したと仰せられるならば努力の不足と申し上げるほかないわけでありますが、あえて若干の例を申し上げますと、一つは、敷地問題がなかなか難航したことがあげられるのではないかと思います。お手元に設立経過概要資料を差し上げてございますが、敷地につきましていろいろな案がありまして、比較的具体的な案としては、最終的にきまりました隼町の案と、大宮御所のあとの案がありまして、それが行きつ戻りつして三十三年にやっときまった。これが一つの遅延理由だと思います。  それからその次は、敷地がきまって具体的なプランを立てる段階で、思わざる障害が出てきて計画が難航したことがあげられると思います。具体的に申しますと、建築基準法の関係、建蔽率の問題があって、あまり大きい建物は建てられないということがわかりました。それから隼町の敷地の一角の地下を高速道路がよぎるために、建築計画がかなり制約を受けるというようなことが判明いたしました。敷地とそれから建物の具体的なプランが難航したというのが、かなり大きな遅延理由だと思います。  あとは、一般的に申しまして、これだけ巨額の予算を必要とする政府事業一般の問題といたしまして、理想としては一刻も早くやるべき課題であっても、予算の措置が右から左には行なわれなかったというような事情もあろうかと思います。そういった事情が十年かかった理由に相なろうかと思います。
  91. 上村千一郎

    ○上村委員 次に、この国立劇場の管理、運営についてお尋ねをするわけですが、国の直営としなくて特殊法人の形態でやっていこうということに相なった。私は、芸術文化の向上をめざす目的を持ったかかる種類仕事は、国の直営よりも特殊法人でやって、そうして国がこれをバックアップしていくほうがよかろうという考えは持っておる者ではございますが、とにかく国立劇場でございますので、文部大臣の監督下に置くことは、これもけっこうであります。そして文化財保護委員会がいわば文部大臣の権限のうちで政令で定めるものを施行していく、こういうたてまえになっておる、これもけっこうかと思うわけでございますが、この政令の範囲内というものは具体的にもう検討されておるのかどうか。もしされておるとすれば承りたいと思うわけです。
  92. 村山松雄

    村山政府委員 国立劇場運営は、広い意味で申しまして、無形文化財であるところの伝統芸能保存でありますので、文化財保護委員会の所掌と考えたのでありますが、特殊法人の監督は政府の方針として所管大臣である文部大臣が行なう、必要に応じて部局に委任するという方針がとられた関係がありまして、法律のたてまえは御指摘のようなことに相なっております。  そこで文化財保護委員会に政令によって委任する範囲いかんということでありますが、そういう趣旨でありますので、役員及び評議員の任命、それから文部省で規定すべき一般規則の制定、この二点を除きまして、一般的な業務運営、監督に属することは、全部政令によりまして、文化財保護委員会に委任するということに、文部省との部内の話は相なっております。
  93. 上村千一郎

    ○上村委員 次に、多少こまかい点ではありますが、この伝統芸能伝承者養成、これが目的の中に入っております。これは大学に所要の学部、学科というようなものも設けて実施されるということも一つ考え方である。この点については政府はどういうお考えを持っておられるのか。  次に面とか首あるいはかつら、衣装、小道具、大道具、それから楽器等の製作及び修理技術者の養成も、これは当然必要になる、これを計画に行なわなければならないと考えられるが、その対策というものはできておるのかどうか、この点につきましてお尋ねをしておきます。
  94. 村山松雄

    村山政府委員 大学において芸術学部あるいは演劇学科というようなものは必ずしも多くはございませんが、少しずつ設置されておる実情でございます。それに対して文部省は、特にみずから設置したりあるいはその設置を特別に助成したりということは、現段階では考えておりません。法律でいう伝承者養成は、国立劇場の内部組織といたしまして小規模に、義務教育終了程度の者を対象として養成措置をはかっていき、実績により追々拡大していきたい、かような考えでございます。
  95. 上村千一郎

    ○上村委員 この俳優養成する養成所というものを昭和四十二年度から考えておる、こういう御答弁であります。また将来この専属芸能人を——現段階においてはとうていそれまで手が回っていないという先ほどの御答弁ではありましたが、将来専属芸能人というものを持っていかれるとお考えになっておられるのかどうか。もしそれを持っていくという場合においては、その専属芸能人の身分というものはこの法案の職員になるのか。この点についてもし御検討が進んでおればお答えを賜わりたい。
  96. 村山松雄

    村山政府委員 専属芸能人の問題は、持つべきである、国立劇場としても持ちたいという希望を持っております。しかし持つということになれば、先ほど落合委員の御質問に対してお答え申し上げましたような実情もございますし、ただいまお尋ねの身分などをどうするかというかなりむずかしい問題に直面いたしますので、かなり遠い将来の課題として、そういう問題点を解明しながら持つ方向に持っていきたいと思っております。  なお、先ほどお答えに漏れまして恐縮でありますが、道具方その他につきましては、国立劇場はさしあたり業者と契約してやっていくつもりでありまして、みずから専属のそういう道具方を持ち、あるいはそれを養成していくということは計画しておりません。
  97. 上村千一郎

    ○上村委員 国立劇場の入場料といいますか観覧料といいますか、その点についてお尋ねしておきたいと思います。諸外国などの国立劇場を見ますと、民間の劇場よりもきわめて低料金によってこれを公開しておる。だから国立としての大きな一つ目的もあるわけです。わが国においては民間劇場における料金とこの国立劇場における料金について何か基本的なものの考え方があるのかどうか。安いに越したことはないと思いますが、いろいろな理由があるならばどういうものを参考にしながら検討をしておるか。とにかくこの法案が成立しますれば、予定としますれば十一月には公開をするというような御予定でございましょうから、そういう問題は当然もう御検討をされておってしかるべきかと思うわけでございますが、お尋ねをしておきたいと思います。
  98. 村山松雄

    村山政府委員 国立劇場のたてまえからいたしまして、入場料はなるべく低廉にいたしたいという気持ちは持っております。それから国立劇場運営は入場料だけをあてにした独立採算ということは考えておりません。が、実際問題といたしまして、やはり相当程度を入場料に依存するという考え方計画がされております。具体的に申し上げますと、民間の同種の劇場に比べましてやや低廉にいたしたいと思っておりますが、著しく低廉ということには相なっておりませんので、最終的には国立劇場発足後に情勢を見て決定いたしたいと思っております。
  99. 上村千一郎

    ○上村委員 これをもって最後にいたしたいと思いますが、条文の十九条二項を拝見いたしますと、「国立劇場は、前項業務を行なうほか、第一条の目的の達成に支障のない限り、前項第一号の劇場施設一般利用に供することができる。」という規定がございます。これは先ほどの御答弁などを考え、また落合委員の御質問に対する御答弁などから見まして、要するに他の、たとえば具体的には出ていないでしょうが、新派だとか新国劇だとかいろいろな問題もあるでしょうし、その他いろいろな劇団などの問題も起きてくるかと思いまするが、「第一条の目的の達成に支障のない限り」という条件をつけまして一般利用に供する。あわせてこの点は第一条の目的の「文化の向上に寄与する」ということの関連に相なるかと思うのでございますが、その際におきまして利用者の範囲はどれくらいの範囲を考えておられるか。要するにだれが申し込んでも第一条の目的達成に支障がないという場合においては大体非常な広範な利用者の範囲を考えておるか、あるいはどの程度の利用者を当面考えておるのか、それから賃貸料というようなものはどういうふうになっておるか、また、いずれ貸与規程というようなものもおつくりになられると思うのでございますが、その配慮はできておるのか、現在の段階でこの点についてお尋ねをしておきたいと思います。
  100. 村山松雄

    村山政府委員 十九条の第二項で劇場施設利用に供する場合貸与の規程は設けるつもりにしております。そこでいかなる範囲のものに貸すかということは、第一条の目的なり、第十九条一項の考え方の延長線でものごとを考えたいと思っております。具体的に申し上げますと、やっぱり演劇活動などを中心といたしまして、芸術的にもすぐれたものにできるだけお貸ししたい。しかしそれにとどまらず、あいている場合には、演劇に関する講演会とか、そういうもののみならず、公的の会合、儀式などにも利用に供したいと思っておりますし、個人の申し込みも一がいに排除する必要もないのではないか。要するに目的がこういう公的な施設利用目的に沿うものであれば、個人の申し込みであっても、差しつかえないのではなかろうか、かように思っております。  それから料金の問題でありますが、これも入場料と同じく、できるだけ低廉にいたしたいとは思いますけれども、一面、相当の収入も確保する必要がございますので、大体国内にあります劇場型のところ、たとえば歌舞伎座ですとか、明治座ですとか、日生劇場とか、こういうところと、それからいわゆるホール的なところ、産経ホールですとか、そういうホール型のところ等の実情を調べまして、ほぼその中間ぐらいの料金を基礎といたしまして、きめたいと思っております。  さらに有料で公開する場合、それから非公開の勉強会のような場合、それから演劇以外の儀式等の場合、そういう段階に分けまして、前者より後者のほうを段々安くするという形で、貸与規程をつくりたいと思います。
  101. 上村千一郎

    ○上村委員 この程度で私の質問は終わります。
  102. 落合寛茂

    落合委員 ちょっと関連質問。  いまの御答弁で、個人に貸すということですが、いま御承知のように芸能界といいますか、女優とか歌うたいとか、ああいう連中が裕福になりまして、金をどっさり持っているから、借り切るくらいのことは朝めし前のことだと思うのです。そうすると、名前を言っては悪いけれども、美空ひばりというような者が申し込んできた場合に、その程度のものにも貸すようなお考えですか。
  103. 村山松雄

    村山政府委員 固有名詞をあげて、貸すか、貸さぬかということになりますと……。
  104. 落合寛茂

    落合委員 気違いのようにぎゃあぎゃあ、きゃあきゃあ言っている、ああいうものを対象に考えるんですか。
  105. 村山松雄

    村山政府委員 これは具体的には貸与規程の表現の問題、それから規程ができまして、いざ具体的なケースで貸すか貸さないかという場合には、必要に応じて、先ほど来申し上げておる評議員あるいは専門委員等にもお願いするわけでありますので、もし劇場の職員だけで可否を判断して、不適当な場合には、そういう国立劇場の公的な、顧問的な組織も活用して、また可否の判断をいたしたいと思っております。
  106. 八田貞義

    八田委員長 次会は、明後四月一日、金曜日、午前十時より理事会、午前十時三十分より委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後一時四分散会