○林
委員 私は、日本共産党を代表して、ただいま議題となっている
入会林野等に係る
権利関係の
近代化の
助長に関する
法律案に対する反対の討論をいたします。
言うまでもなく、本法によって、徳川時代から二百数十年間、働く農民が営々として苦しい戦いによって築き上げてきた
全国二百三万ヘクタールに及ぶ入り会い権を消滅させる道が開かれるのであります。
このことは、農民、ことに現実に入り会い権によって山林を営農のため利用している多くの中貧農にとっては、事はすこぶる重大であります。
政府の説明するところによれば、本法は入り会い林野または旧慣使用林野の土地の農林業上の利用を増進するため、これらの土地にかかる
権利関係の
近代化を
助長して農林業
経営の発展に資する、そのために、入り会い権を私権化することによって消滅させる、こうあります。しかし、本法の真のねらいは、次のごとく、決して農民、特に中貧農農民の利益にならないばかりか、かえってこれに反するものであると考えます。
すなわち、第一に、本法案によって、結局は経済力の弱い中貧農から入り会い権を取り上げることになり、ひいては離農の促進を早めることになります。すなわち、中貧農は、今日なお現実に行なわれておる、直接入り会い地を利用する種々複雑にして多面的な入り会い権の行使が、この法案によってできなくなる道が開かれます。すなわち、権利の私権化の名のもとに、単なる抽象的、名目的権利となり、入り会い権が変質いたしまして、しかもその権利や持ち分は、林業の
近代化、農林業
経営発展の名のもとに、重い経済負担を背負うことになります。結局それに耐えられない者はこれを手放すことになるのであります。すなわち、整備
計画の樹立の際の費用の負担、あるいは利潤追求の資本主義的な大林業
経営は、重い資金を必ず負担し、導入することになります。そして苦しい
農業経営の現状のもとでは、中貧農は結局この経済的負担に耐えかねて、自分の抽象的な私権を持ちこたえることができず、遂にこれを手放すことになり、その結果は離農を早めることになります。
第二に、
政府が今日考えておる市町村の統合、合併、すなわち、
政府の言いなりになる
政府の末端機関となり、しかも安上がりの地方自治を実現するための市町村合併の障害を取り除くことが、この法案の目的の
一つとなっております。すなわち、市町村合併の抵抗となる市町村有地や財産区有地における地域住民の権利を事実上取り上げてしまうのであります。そうして、それによって市町村合併の円滑化をはかろうとしております。
本法第三章に
規定されております旧慣使用林野整備は、このための立法であり、しかもこれを当該市町村の議
会議決によって行ない得るようにしてあります。
第三には、パルプ独占資本をはじめとする大木材消費資本の要求に応じようとするものであります。すなわち、入り会い林野の高度利用とか
近代化の名のもとに、未利用地の利用化と称して、現在薪炭材あるいは下草、その他農民の営農に必要な資源の供給源となっておる入り会い林野を、国の補助金等を投入して、パルプ原木その他大木材消費資本の利益に奉仕する林野に変えていくことをねらっておるのであります。
第四に、入り会い権を私権化した上、都道府県等の権力を介入さすことによって、これを富農に集中する、それによって大山林地主の企業的林業
経営、資本家的、富農的林業
経営の育成をはかって、
政府のいわゆる農林業構造改善事業への道を整えようとしておるのであります。これによってゆらぎつつある自民党の農山村の支配力を再編、強化しようとする、そのてこに利用しようとしております。
第五には、一部の者に権利の集中化が行なわれるという問題であります。なるほど、本法第六条には、一応一部の者に対し権利の集中その他の不当な利益をもたらすことのないように整備
計画を決定するとあります。しかし、それを保障する裏づけとなる方途が何ら示されておりません。結局、時日の経過と林業
経営の資本主義的大企業化の
過程において、権利の変動とその集中化が行なわれることは明らかであります。それは資本主義経済の法則であり、必然の道であります。これを防ぐことのできないことは明らかです。このことは、われわれの現地調査の中でも問題となって提起されておりました。
第六に、権利の集中化に伴って、本法第二十六条には、権利者たる農民はその権利行使については、「当該権利の目的たる土地の農林業上の利用を効率的に行なうように努めなければならない。」とあります。これは明らかに半ば強制的にその権利を大規模林業
経営への出資を義務づけておるのであります。そして、従来中貧農が自己の営農上に利用しておった入り会い地に対する現実の利用権は取り上げられることになるのであります。しかもこれに対する
農業委員会の役割りは、単なる都道府県知事や市町村長の
計画樹立の際の
意見聴取の機関にすぎず、農民の
立場に立って土地使用の権利を擁護する役割りを果たすことはできないようになっております。これは第六条の三項にございます。これは入り会い権を営農上現実に利用しておる農民に対しては、営農自体を破壊されることになるのであります。
以上が私の反対のおもなる
理由であります。
しからば、入り会い問題について真の農民的な道は何か。それは次の道であることをわが党は主張いたします。
第一に、国有入り会い地については、直ちに入り会い権を確認して、農民にとってきわめて不利な共用林野契約、
部分林契約を改めて、地元民の権利を確立し、これらの林野の所有権を現に利用している農民に無償で引き渡してやること。第二に、公有入り会い地については、即時入り会い権を確認し、入り会い地の管理処分権を全面的に農民に帰属せしめて、これらの林野の所有権を現に利用している者に無償で引き渡すよう地方自治法を改めること。第三に、私有入り会い地については、私有入り会いの利用と処分について農民の自主的な意思をもって決定し、
生産農民の利益のために運営されるよう、国は全面的にこれを無償で援助してやること。小繋に見られるような一部の地主、ボスによる入り会い権の取り上げは、一切これを認めず、これらの土地が他人の所有名義になっておる入り会い林野所有権は、これを現実に利用している農民に返還させてやることであります。第四に、部落有林野の管理運営は、これを徹底的に民主化し、それを部落が共同で利用するか、または分割して個人所有とするかは、入り会い権者たる農民の民主的な決定にまかせることであります。
以上が真に農民のための入り会い林野問題の解決の道であります。農山村農民にとって入り会い林野が今日依然としていかに大切なものであるかは、小繋事件を戦っておる小繋部落の農民たちがはっきりこれを示しております。これらの農民は、入り会い権を奪うのは農民に死ねということだと叫んで、絶対に入り会い権を手放すことを拒否しているのであります。林野を全く持たない貧農や、またきわめて零細な林野しか持たない中農層にとっては、
家畜の草を刈り、放牧をし、下枝を刈り、自家用の燃料を取り、また屋根ぶきや雪囲いのカヤを刈るために、今日なお入り会い林野は絶対に営農上必要なのであります。
生産農民であればあるほど、入り会い林野の実際の利用は必要となっておるのであります。しかるに、本法は、これを私権化し、林業
経営の健全な発展の名のもとに、個々の農民の権利を私権化の名のもとに抽象化し、観念化し、農民の現実の利用権を取り上げる一方、これを高度利用の名のもとに、一部富農とパルプ大資本や大木材資本の利益のために提供させようとしているものであります。三党の修正案もこの法案の本質を変えるものではございません。したがって、わが党は絶対にこれに反対するものであります。