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秋山参考人 私、ただいま御
紹介を賜わりました
秋山龍でございます。
私は、三、四十年前の古い
郵便経験者でございますので、多少時勢の食い違いがあるかもしれませんが、この際
意見を申し述べさせていただくことはたいへん光栄と存ずるところでございます。
私、
郵便の
経験をいたしました当時を顧みますと、大体
三つの事柄が非常に強く印象に残っておるのでございます。
第一は、
郵便事業が
電信電話事業と違いまして、完全な非
資本的事業である。設備の投資をもって
事業の
改善をするということができませんで、人の
労力を
中心とする
事業であるということでございます。
第二には、
郵便事業を構成する骨子であります
種別の問題でございますが、これはその当時は
通信の
送達、その
独占、
通信の秘密の確保という大体
三つの柱があったように思うのでございまして、その
中心として第一種というものがあったのでございます。第一種は筆書ということと、それから封緘ということと、この
二つが要件になっておったのでございますが、この
送達が
独占になっておりまして、これに最高の
料金を課しまして、このうち封緘という要件を制約する、つまり
内容を知らしめるということが条件に無
封書状、第二種
はがき以下第五種の
農産物種子、
小包郵便といったような
種別に分かれまして、それにおのおの政策的に安い
料金が課せられている、こういう形であったと思います。
第三には、
郵便料金は
サービスの対価であるにかかわりませず、
会計上は
収入と支出が分離されておりまして、
経費は
一般行政費として
一般会計から計上される、つまり
経営上必要な
経費は幾らでも
一般財源から出すというたてまえであったのでございまして、
郵便料金のほうには郵税というような呼び方さえあったのでございますが、実際はこのありがたいたてまえと反しまして国は
郵便収入の約四割近くをもうけていたようでございます。したがって、この不公正をなくするための多大の
労力が払われまして、
通信特別会計制度ができたのでございます。
以上
三つの古い知識でございますが、その前に、
郵便事業の本質、これはいつの世でも変わらないと思うのでございますけれ
ども、
送達の
迅速性と
信頼性、この
二つが
郵便の大きな足でございまして、これが達成されなければ
郵便事業の
国家独占ということの意味は全くなくなる、かように考えておるのでございます。
今回の
改正を拝見いたしますと、
郵便種別につきまして私
どもの考えから見ますと、まことに革命的というべき変化が行なわれようとしております。
料金は約三〇%
程度の引き上げが考えられておられるようでございます。もし
郵便の速度の向上あるいは
信頼性の回復の
確立ということのために十分な配意がなされまして、そういう
裏づけがあって、それに対して、最近の
経済情勢に照らしてこの
程度の
値上げがやむを得ないものであるということがわかれば、
利用者といたしましてはこれを是認するほかはないのではなかろうかというふうに考えるものでございます。
そこで、この
考え方に立ちまして現在の
郵便というものを考えてみました場合に、私は、
郵便の
信頼性の
確立ということをいたしますためには、大体六つの項目が必要であるかと考えるのでございます。
まず第一は、
郵便取り扱いの
機械化ということ。第二には
逓送施設の強化ということ。第三には
取り扱い量の
でこぼこをなるべくなくするということ。それから第四には、
取り扱いの技能をなるべく公開的なものにしてこれを平準的なものにするということ。それから第五には、
労働環境の
整備改善ということ。第六には、これと
うらはらをなしまして
事業精神の
高揚確立、大体この六項目が必要のように考えるのでございます。
第一の
郵便取り扱いの
機械化につきましては、世の中の
科学技術の発達をできるだけ取り入れまして、そして人力を
機械力または
電気力に置きかえるということであると思うのでございますが、取り集めとか
配達とかいう面におきましては、従来からモーターサイクル、スクーター、トラックその他を用いまして非常に弾力的に実情に応じたいろいろな施策が行なわれておるようでございまして、今後もますますその
方向に進められるそうでございます。これにつきましては、その
整備の速度につきましていろいろ議論はあると思いますけれ
ども、大体において妥当な
計画であると存じております。
一番の問題は
区分という作業の
機械化でございますが、これは四十年も前から実は
内外郵便関係者の
一つの夢でございまして、何とかこれを達成したいということは当時の私
どもも十分に考えておったところでございます。その場合に一番障害になりますこと、つまり第一の前提と考えられますことは
郵便物の
画一性ということでございます。
その次には、あて名の
機械による
読み取りということでございます。この実現はなかなかむずかしいのでございまして、特にこの後者が難物でございます。この
機械による
読み取りということが
可能性があるならば、
郵便の
画一性を求めることは妥当だと思うのでございますが、もしそうでなければ、これは
利用者の自由の不当な制限になるかと考えるのでございます。私は最近、アメリカにおきまして、紙幣を
読み取りまして、これを硬貨に自動的に変える
機械というものを実際に目で見てまいりました。
郵政当局の御説明によりますと、
わが国におきましても、最近数年この方面の研究が非常に進んだということでございまして、漢字を読み取るということは困難であるということでございますが、もしこれを
番号に置きかえて
数字によりまするならば、相当に
可能性が見えてきたということでございます。もしそれが可能になれば、
区分の仕事を自動化するということができるわけでございます。
今回の
種別改正におきましては、第一種
郵便物を
信書性——そのものが信書であるか否かということによりませんで、外形の
物的性質からこれを定形のものと
否定形のものに分けまして、そして定形のものには優遇した
料金を設定しようとしているようでございます。したがって、これは冒頭に述べました
考え方から申しますと、きわめて革命的な変化であるというふうに考えるのでございます。しかしながら、いま申し上げましたような
区分の
機械化ということが、たとえ
番号という方法によるといたしましても、
可能性があるということでございますれば、その画一的なものに対しまして優遇するということは了解できることでございます。将来はあて先を
番号で書いたものは普通の漢字で書いたものよりも優遇するというような
考え方も当然導入せられるのではないかというふうに考えられるのでございます。これに関連いたしまして
省令案のほうを見ますと、
簡易書簡のほうでは、十グラムまでの異物の封入というものを認めるということでございますが、私はいままで考えてきました大きな
一つの流れから見ますと、多少逆行であるというふうに考えられますので、この点は御
当局の御再考をわずらわしたいと思うのでございます。
それから第二に、
逓送強化ということでございますが、
郵便事業は長く
逓送、すなわち局と局との間の運送は他の
交通機関に依存するということを主義といたしておったのでございます。特に運送途中の時間を
利用いたしまして、
郵便物の
区分取り扱いのできる
鉄道郵便というものは、
逓送の花形という地位を占めておったのでございます。しかるに鉄道は、飛行機のようなより高速な
交通機関が
競争者として立ちあらわれましてから、
郵便に対しまして十分な配慮をするという余地がなくなったのでございます。私はこの際、
郵便は他の
輸送機関の
便乗的部分的利用ということではなくして、輸送の一単位をまるまる
利用できる、たとえば
自動車でありますとか、あるいは
航空機でありますとかいうものの
利用を積極化すべきだという考えを持っておったのでございますが、今回の
料金改正を機会に、
高等信の全部を
専用航空機に搭載して東京及び大阪から出るものは全国ほとんど一〇〇%に近いものを翌日
配達にするというふうな御
計画だそうでございます。この点は御
当局の御勇断に対しましてまことに敬意を表する次第でございます。
自動車のほうを見ますと、
わが国にもようやく
自動車専用道路網という時代が来たのでございまして、
道路網計画も国会において法律として御決定になろうというような次第でございます。
郵政当局は、
逓送の
専用自動車化についてますます御研さんを怠らないように希望いたす次第でございます。この点につきまして、諸外国では
郵政で
郵便物の
逓送を
中心にバスを
経営されまして、そしてこれに旅客を便乗させるというような
制度もあることをこの際御指摘申し上げたいと思うのでございます。
次に第三の
取り扱い量の
でこぼこをなくするという問題でございますが、
郵便の
速達性、あるいは
信頼性という点から考えますというと、あらゆる
取り扱いの節々がみな最大のキャパシティー、容量を持っているということが望ましいのでございますけれ
ども、これは
経済的にとうていできないことでございます。しかるに一方、差し出し人が、
経済の発達や大規模な
企業ができました
関係上、一時に大量に出されるというような現象が非常に顕著でありますが、その場合には、ちょうどヘビがカワズをのみましたようなぐあいに、
郵便取り扱い量の頭のほうの
部分に大きなこぶができまして、これが
局部的障害となり、あるいは
一般郵便物の不消化を起こしまして
送達の遅延になるという現象は、しばしば
経験されるところであります。したがって、こういう一時大量差し出しの
相手方に対して
局内事務、つまり差し立て
区分の
援助協力を得て全体の
料金を幾ぶんか割り引くという
制度が導入されようとしておるのでございますが、これは全く時宜を得たものとして賛成でございます。ただ、その割引の
程度が省令にまかされようとしておるのでありますが、従来の官庁のこの
種割引に対する態度を見ますと、きわめて消極的でありまして、十分に
相手方の納得を得ないきらいがあるのでございます。この点今回は思い切った手を打っていただきたいということを希望いたす次第でございます。
次に、
取り扱い技能の
公開化の問題でありますが、これは差し立て
関係は
区分の
自動扱いにより、
配達関係は
住居表示制度の推進によって、着々と手が打たれておるようでありますので、この点は多くを申し上げません。ますますこの方面に対する御
努力をお願いするだけでございます。
最後に、
労働環境の
整備と
事業精神の
高揚確立でございますが、この
二つは
うらはらの
関係でありまして、どちらを欠いても
人力中心の
郵便サービスの
信頼性の
確立はできないと思うのでございます。
環境整備の第一は局舎の
改善でございます。これは
郵便の長い歴史で一番不十分な点であったのでございますが、今回の御
計画でも相当思い切った数が
計画されておるということでございますけれ
ども、
特定局まで入れて考えました場合にはまだまだたいへんな問題でございます。今後一段と御
当局のごくふうと御
努力を希望する次第でございます。
環境の
整備改善という中には、被服の
改善とかあるいは進んでは給与の
問題等も含んでおると思うのでございます。優秀な人材が喜んで入ってくるような
環境を
整備してつくり出しつつ、反面において
専業精神の
高揚確立に
努力をしていただくのが筋であろうと思います。私
どもが若い時分には、便と便とをつなぐことを結束という妙なことばで言いますが、これを失敗すること、すなわち不結束という事態は、
郵便の
計画上の運行にそごを来たすことでございまして、
郵便人としては最大の恥辱であったのでございます。したがって、これを起こしました
責任者には厳罰をもって臨まれた次第でございます。
以上、分析的に
事業改善の
方向を見てまいりましたが、多少の注文はありますが、大体の
方向はけっこうであろうと考えるのでございます。
そこで
値上げについて考えてみたいと思うのでございます。
値上げの主要因は
事業の
改善費ではなく、
一般的な
人件費、
物件費の高騰でありまして、十年間据え置かれました一種、二種の
料金のもとでは、将来三年または五年を
予想しますと、
独立会計としての収支の合わないというところにあるようでございます。まず
人件費の値上がりの
予想といたしましては、最初三カ年は年々七%、次の二カ年は五%と見ておられるようでございます。
一般企業の
人件費増加率は、
世帯主勤労収入調べの過去五カ年間の実績によりますと、一〇%を少し上回っております。これは主として
政府におきまして
経済の
高度成長の音頭をとられました
所得倍増計画下の
数字でございます。いまでは
政府は、
経済の
安定成長を唱えておられますから、この
数字は多少低下するかもしれませんが、将来五カ年間にわたって御
当局の
予想される
程度で済むかどうか若干の疑問なきを得ないのでございます。
物件費のほうは年率三・五%の
増加ということのようでございます。これは
消費者物価指数を見ますと、過去五カ年間の実績は六%でございます。しかし
郵便事業のような国営の大
企業でございますから、大量に調達される物資があると見た場合には、
卸売り物価指数のほうが反映するのではないかと考えられますので、彼此考え合わせますと三・五%というような
程度がまずまず妥当なところと思われます。
事業増進率は五%と見ておるようでございまして、これは今後の
景気変動と
関係があるので的確な
予想はむずかしいと思いますけれ
ども、何となくちょっと内輪ではないかというような
感じがいたします。しかしその
予想がかりにはずれました場合には、それだけ全体の
労力といいますか仕組みに余力があるようでございまするので、それだけを吸収をいたしまして、それが
経費のほうの
見積もりの不安と相殺するかに見えるのでございます。
以上見てまいりますと、
サービスの
改善の
方向が妥当であり、全体の
収支見積もりもまあまあであるといたしますと、
利用者といたしましては
料金は安ければ安いほどよいと申しましても、全体として、すなわち
総括原価といたしましては、この
程度の
値上げはやむを得ないのではないかというふうに考えざるを得ないのでございます。
これに対しまして、一部には
一般財源から繰り入れて補助してはどうかという
考え方もあるようでございますが、私は冒頭述べました
郵便事業を
特別会計といたしました経緯から見まして、
独立経理の線をくずすということは重大な問題でございまして、非常に事理が不明確になるという
感じがいたしまして、賛成いたしかねるのでございます。
その他
郵便料金の今回の
値上げの結果と他の
公共料金の
値上げといったようなものを考え合わせてみますと、
郵便が出過ぎたという時代はないように考えます。
また、
生計費に関する
郵便料金の
負担を見ましても、きわめて微々たるもののようでございますので、やはり国家の
神経系統の一部であります
郵便事業の
信頼性を
確立するような業態の
改善を
裏づけにして
値上げをされるということは、これは納得せざるを得ないかと思われます。
私は以上総合いたしまして、若干の
希望意見を申し述べながら、原案に賛成するものでございます。(拍手)