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田牧参考人 田牧でございます。
私は自治労を代表して次の点について
意見を申し上げます。
第一点は、
内閣提出の法
改正案が公営病院
事業にどのような影響を及ぼすかの点であります。第二点は、今回の
法律改正の重要な問題の一つである
地方公営企業の
財政再建の問題についてであります。
まず第一点の
内閣提出の法
改正案が公営病院
事業にいかなる影響を及ぼすかという点について若干の
意見を申し述べたいと思います。
内閣提出の法
改正案は、法適用
事業の範囲拡大により、病院
事業は新たに財務規定の全面適用と、
赤字を免じた
事業においては、
地方公営企業法により
財政再建の適用を受けることになったのであります。その結果、
現行法では百人以上を常時雇用する病院
事業についてのみ適用されていた財務規定が、今後は百人以下の小病院あるいは診療所などにも適用が広がり、
現行法では他の
地方公営企業より比較的に
企業性をゆるめられていた病院
事業が、
公共性と同等に
企業採算を追求しなければならない位置に置かれたことになり、病院
事業経営をきびしい現実に直面させるに至りました。
次に、具体的な問題点に触れたいと思います。第一の問題点は次のとおりであります。
私
どもは、この法案の閣議決定の前後に、
鈴木厚生大臣にいろいろ陳情したのでありますが、その際大臣は、厚生省としては法
改正の決定に際し、
一般会計と
企業会計との
負担区分の明確化をこの
改正法案の第十七条の二に規定し得たので満足であるとの見解を述べられました。なるほど、
内閣提出の
改正案には政令で定むるものについては
一般会計と
企業会計との
負担区分を明確にすることが抽象的でありますが規定されております。また、聞くところによれば、厚生省と自治省との間に、法案決定に際し
負担区分についての政令事項、あるいは
改正法案第十七条の三、
一般会計からの
補助の解釈について何らかの話し合いが行なわれているということを聞いております。
法律そのものの文章を文字どおりとるならば、
現行法は、病院
事業は
独立採算になじまないとして
原則的に
独立採算制度を適用しない立場をとっており、
改正案は全面的に
企業会計方式を導入しております。したがって、
現行法と
内閣改正案との間には大きな病院
事業に対する質的変化が見受けられ、今後の病院
事業が一挙に
企業会計でまかなわれるという点について私
どもはたいへんな心配をしております。政府は、これを
一般会計と
企業会計との
負担区分の明確化が行なわれるから心配はないという
考え方であろうと存じますが、今日のごとく
一般会計そのものが、四十一年度地方
財政計画で二千三百三億円の
赤字が見積もりをされ、
地方債では普通会計の現債高が三十九年度現在で一兆七千億円に達しているときに、しかも今後の地方
財政の動向を見ても、容易に
赤字の解消が困難視されるときに、いわば
一般会計の持ち出しを増大せしめる
負担区分の明確化がはたして円滑に運用できるかどうか、私はたいへん問題が多いと存じます。
また、このままでいくならば、これをめぐって
一般会計と
企業会計間にいたずらな争いが起こる危険がなしとはいたしません。結局、個々の
自治体財政の混乱と一そうの
赤字要因の増加がむしろあらわれるのではないかと心配するのであります。したがって、この問題は、
制度調査会答申も指摘しているように、国の
財政補助がどの
程度行なわれるかがかぎであると存じます。しかるに
内閣の
改正法案第十七条の二は、
地方公共団体の
一般会計及び特別会計にその
負担を求め、国の
負担については全く触れられていないことは全く遺憾であります。これでは
負担区分制度そのものが、結局は地方
財政そのものを真綿で首を締める逆な作用を演ずるのではないかと考えます。この点、社会党の
改正法案は、国の
負担責任を明確にしており、
調査会答申に沿っておるものと存じます。
もう一つの問題点は次の点であります。病院
事業の
合理化問題であります。永山自治大臣は、この法案の趣旨説明において、この法案は、
地方公営企業制度調査会の
答申の趣旨に基づいて、所要の
改正を加えたと述べられております。その
意味で、この法案と
制度調査会の
答申はうらはらの
関係にあることは明らかであります。
では、一体
制度調査会の
答申では、病院
事業の
合理化についていかなる見解を示しているのでありましょうか。これは次の各項目に要約されるのであります。
第一に、
人件費は少数精鋭主義を徹底して節減すること。第二に、合理的根拠のない手当の
廃止。欠員が出ても補充をしない。配置転換などによる
給与費の節減をすること。第三に、
職員の年齢構成については、定年制が法制化されるまでの間、実質上の定年制を確立すること。第四に、労働組合との団体交渉は、統一交渉という形で
地方公共団体の長が交渉する
方式は廃除して、
企業管理者の
責任と権限で当たるべきこと。第五に、薬品など
企業に要する資材の購入は共同購入につとめること。第六に、事務処理の機械化、集中化により、事務の簡素化、
能率化をはかること。第七に、病院の清掃、洗たく、給食の作業について、民間委託、共同処理などにより
費用の節減をすること。第八に、差額徴収ベッドの設置など、
収入の増額をはかることなどであります。
この
内容は、若干の部分を除いては、大部分が
職員と住民である患者の犠牲によって病院
事業の
合理化をはかろうとする構想であると言わざるを得ないのであります。自治省では、この
調査会の
答申の
考え方を具体的に進めるために、すでに
全国自治体病院協
議会研修用の手引きの中で、
参考書として「
公営企業会計入門」をすすめ、その
参考書中の第三部、病院
事業の
経営分析のしかたとポイントの様式を示し、積極的に病院
事業の
企業的利潤を高めるための
経営のあり方を奨励しているのであります。そればかりではありません。この
制度調査会の
答申がある以前から、病院の新築、増改築など起債を認める条件として、自治省の意向であると称し、各地の病院で労働条件の切り下げ、人員整理の示唆、欠員不補充が行なわれております。また、今日各地で病院の統廃合が行なわれておりますが、その中で清掃、洗たく、給食等の、いわゆる間接業務の民間委託あるいは縮小による末端医療行政の
責任体制がくずれつつあります。さらに加えて、差額徴収ベッドの設置、あるいは特別室
料金の設定などによって病院の
公共性が著しくそこなわれようとしていることを指摘しなければなりません。もちろん、このような事実が、この法案に具体的に明記されているのではありませんが、
制度調査会の
答申に沿ったこの法
改正が、病院
事業を
企業会計に全面的に位置づけたという政策意図から見るならば、
独立採算を適用しない
現行法における以上に、
企業利潤を追求するための行政指導が一そう強化されることは明らかであると言わなければなりません。
わが国における社会保障
制度の重要な一環をになう公営病院
事業について、政府がほんとうに国民の立場に立とうとするならば、利用者の代表あるいは直接医療行政の一線に活躍する
職員、技術者の代表も参加しないで、結果的にはその両者にたいへんな影響を及ぼす一方的な
答申に基づく法
改正を行なうのではなく、これらの代表も加えた民主的な
制度調査会を再度構成して、慎重かつ公正に
審議し、その結論を待って抜本的法
改正をしていただきたいと考えます。この方途がとられるならば、
内閣提出の法
改正も、国民に信頼され、
職員、技術者に納得のいく法
改正になるものと私は確信するものであります。
以上で病院
事業についての
意見を終わって、次は第二点の
地方公営企業の
財政再建の問題について
意見を申し述べます。
今般国会に、
内閣提出と社会党
提出による
地方公営企業法の一部を
改正する
法律案及び
関係法の
改正案が
提出され、現在この会期末において重要法案として
審議されているのでありますが、その根底には、政府、与野党ともに、現状の
地方公営企業に対する危機感が存在するものと考えるのであります。すなわち
地方公営企業の
財政実態は、その
累積赤字額では、法適用
事業分で三十八年度が三百七十六億円、三十九年度では一挙に六百五十五億円、それが四十年度
決算見込みでは約一千億円に達しようという激増ぶりであります。
企業債については、同じ法適用
事業分について、昭和三十九年度
決算で、現債額は実に約九千七百八十七億円にのぼり、そのうち利率六分六厘をこえる、いわゆる高利による
企業債の借り入れは四千四百六十六億円の多きになっております。これをさらに借り入れ先別で見まするならば、政府
資金及び
公営企業金融公庫によってまかなわれている額は五千五百七十五億円であります。これを要するに、
地方公営企業の
財政実態は、まれに見る危機に直面していると言わなければなりません。
したがって、
内閣及び社会党が昭和三十年に施行された地方
財政再建促進特別
措置法による
財政再建方式をそれぞれ想定して、この国会にそれぞれ
改正案を
提出したことは、状況としては十分根拠のあるところであります。しかし、ここで私
どもが指摘したいのはその
内容であります。
内閣及び社会党がそれぞれ考えている
地方公営企業の
財政再建が、現実としていかに
地方公営企業の
再建の実態に即しているか。そしてまた理念的にはいかに日本国憲法に定められた地方自治の本旨に沿っているかという視点であります。その
意味では、
内閣提出の法
改正案は、その
財政再建の条項において、地財
再建法とほとんど変わりはありません。それに比べて社会党
提出のものは、基本的には地財
再建法の本質は否定しつつも、現実的には
地方公営企業の
累積赤字を配慮して、方法としては
再建計画の策定、
財政再建債の起債、これに対する
利子補給の
方式を採用し、この
再建が政府の権力作用を誘導し、結果として地方自治の本旨を侵害しないように歯どめを行なっている考えに立つと見ることができましょう。この二つの
考え方に立つそれぞれの法
改正案について、主権者である国民、
自治体の当局あるいは
自治体に勤務する
職員は、そのいずれに賛意を表し、そのいずれを選択すべきでありましょうか。それは以下の
意見によって明らかにいたしたいのであります。
私
ども自治労は、昭和三十年に施行された地方
財政再建特別
措置法には実に苦い経験と思い出を持っております。おそらくこれは自治労だけではありますまい。この法の適用をよぎなくされた多くの
自治体の
理事者あるいは地方
議会議員においても、その政治的立場を越えて、この地財
再建法には苦々しい記憶を持っていることと存じます。当時、この
法律の
審議に際し、国会では、この
法律を一方では毒まんじゅうであると言い、他の一方ではカンフル注射であるという
議論が行なわれました。しかし、結局は多数で通過したこの
法律は、各
自治体に多くの混乱を与えたのであります。地域住民には、生活環境に深い
関係のあるサービス
事業の切り捨てにより、行政水準の低下がもたらされました。
自治体職員には定期昇給のストップ、諸手当の削減、追い打ちをかけるごとく大量の人員整理が波状的に加えられたのであります。もちろん当時
地方自治体当局あるいは
議会がこれを率先し、喜び勇んでやったのではありません。多くの住民や自治
体労働組合の激しい抵抗があり、中には一たん議決した条例
内容が自治省の承認を得られず、再議に付し、修正をされるという自治権の侵害も公然と行なわれたのであります。しかし結局は、政府の
再建債に対する
利子補給というささやかな魅力は、
自治体の主人公である住民の反対もむなしくついえ去って、どろまみれの
自治体の
財政再建が進行していったのであります。自治労もこの戦いで多くの組合員を失業させ、多額の定期昇給、諸手当を損失したのであります。それ以上に、私は、この地財
再建法によって地域住民に、
自治体は税金は取り上げるが、身近な仕事はちっともやってくれないという不信感を植えつけていったことを忘れることができないのであります。
のど元過ぎれば熱さを忘れるということわざがありますが、私は、いま一たんのど元を過ぎた熱さを再びのどにする思いがしてなりません。それは、この
内閣提案の法
改正案の
財政再建の条項に、かつての地財
再建法の暗い影を見るからであります。
しかもなお、次の点において法
改正案は地財
再建法より一そうきびしくかつ権力的であるということを言いたいのであります。第一に、地財
再建法による
一般会計の
赤字解消は、一面では住民と
自治体職員の犠牲によってその効果をあげましたが、別な
意味では、未曾有の好景気による国税、地方税の自然増によって、実際には
赤字を解消したと言えましょう。しかし、今日は事情がたいへん異なります。
赤字を持つ
企業会計そのものが融通のきかない、流動性に乏しい会計であり、支出要因はふえても
収入原資はさっぱりという状況であります。しかも、現に一千億円に近い
赤字を解消しなければなりません。一兆円に達する
企業債を償還しなければなりません。これはたいへんなことです。かつての
一般会計のように自然増収など思いもよらないのであります。たよりに思う
一般会計も、それ自身膨大な借金のやりくりをしておるのですから、これまた頼みにならないのであります。では、そのしわ寄せは一体どうなるでありましょう。遺憾ながらそれは住民
負担と
企業体
職員に求められることは必至であります。この法
改正案は、その点では地財
再建法のときより過酷な
再建計画を要求することになりましょう。
第二に、
再建計画の償還期間の問題であります。地財
再建法では、
赤字額に応じ、当初八年ぐらいから長いので二十年近いものもあったのであります。ところが
内閣提出のものは、その第四十三条において、わずか五カ年間と定めているにすぎません。償還期限は、一見、短いほうがよいと考えられますが、実際には長期のほど計画に無理が生じないわけですから、長期のほうが
自治体にとってプラスであり、したがって地方の混乱はより少ないと言えるのであります。結局この
改正案では、第一に述べた地方
財政一般の窮乏化からくるきびしさに、この償還期限の極端な圧縮からくるきびしさが付加されて、
再建計画はたいへん困難なものになることが予想されます。
第三に
利子補給の問題であります。地財
再建法の場合は、三分五厘をこえて
利子補給がありました。
内閣の
改正案は、その第四十七条で、六分五厘をこえて一分五厘を
限度とするとあります。
公共性の高い、住民に最も身近な
公営企業に対し、なぜ政府
事業債よりも分の悪い、ましてや地財
再建法による
利子補給よりも分の悪い
利子補給の
限度にとどめるのでしょうか、政府の口にする
地方公営企業の
公共性はどうなっているのでしょうか、全く理解に苦しむものと言わざるを得ません。聞くところによれば、自治省は、法案作成に際し、せめて地財
再建法の
利子補給率までと大いに健闘してくださったそうでありますが、残念ながら泣く子と大蔵省には勝てず、国会で修正してくださいと言っておるやに聞いておるのであります。昨年末、私
どもが
地方公営企業金融公庫の
理事各位に陳情した際、
理事の各位は口をそろえて、
企業債そのものを政府
事業債並みの利率に下げるべきだと述べておりましたが、この一事は、政府みずから地方自治あるいは
地方公営企業の
公共性を軽視している重大な事実であると言わざるを得ないのであります。そればかりではありません。地財
再建法で一番悪名の高かった
利子補給停止などの強権
措置が、
内閣提案の
改正法案第五十一条に、地財
再建法の準用規定として、自治大臣の
再建計画の執行停止権、計画変更の権限、そして
利子補給の停止など一連の強権発動がそのまま存在しているのであります。
第四に、地財
再建法では、
財政再建を起こさないで行なう
財政の
再建という条項があり、いわゆる自主
再建による
再建の道が講じられていたのであります。しかるに、この法
改正では、その第五十条に、政令で定める年度以降において、政令で定める
赤字の
企業については、この
法律による
財政再建を行なう場合でなければ
企業債を起こすことができない旨を規定しています。これでは自主
再建による
再建方式をある時期に否定するのではないかという強い危惧を抱かざるを得ないと思います。
以上四点にわたって、
内閣提出の
改正案について、これがかつての毒まんじゅうといわれた地財
再建法より問題の多い法
改正であることの見解を述べたのであります。
では、社会党
提出の法案についての見解を簡単に申し述べます。
まず
社会党案は、
財政再建については、これを
地方公営企業の本来的な
性格と機能をきめる基本法と、
財政再建の特別
措置という
法律を明確に
区分して
提出していること、
再建債の償還期限を十五年以内としていること、
利子補給については三分五厘をこえて四分五厘を
限度として行なうこと、自主
再建による
企業債を認めていること、
再建企業に対し、
企業債の償還の繰り述べ、借りかえその他の
財政再建措置について配慮していること、また、政府と
企業体との
関係については、地方自治を尊重し、その
自主性を侵害しないたてまえにおいて、自治大臣の助言、勧告、計画変更の権限行使を認めたことなどの、私
どもが
内閣の法
改正案に持っておる批判点を取り入れておることや、事実
社会党案のほうが今日の
地方公営企業の実情により近い
財政再建案であるということにおいて、私
どもはこれを支持するものであります。おそらく
自治体の
理事者、あるいは
企業の
管理者、地方
議会議員においても、国会における政治的な力
関係への思惑を別にするならば、だれしも
社会党案による
地方公営企業の
再建を悲願するに違いないと確信いたします。
社会党案は、十分今日の政府の立場をも考えつつ、
財政状態をも一面考慮しつつ、実行可能な対案を
提出したと私
どもは観測するものであります。要は、政府及び与党
関係委員各位の寛容な決断にかかるものと信じます。私
どもも
自治体及び
地方公営企業に勤務する
職員の組織体であります。時により、賃金、労働条件の問題で当局と対立し、争うこともあります。しかし、だれが
企業が崩壊し、あるいは
企業が慢性的
赤字状態でよいなどと考えましょうか。真に
地方公営企業を民主的に
再建し、住民の利便に役立たせるためにはどうするかという課題は、私
どもの日夜思いをいたしている課題に共通するのであります。
何とぞ
委員各位の格別の御検討をお願いいたしまして、私の
意見の開陳を終わることにいたします。