○宇佐美参考人 ただいま御紹介をいただきました日本
銀行総裁の宇佐美でございます。
それでは、最近の
金融、経済情勢に関し、少しく所見を述べまして御参考に供したいと存じます。
わが国経済は、このところ停滞を続けていたのでありますが、最近、景気回復のきざしがようやく顕著になるに至っておるのであります。昨年中一進一退の動きを続けてきました鉱工業生産は、年明け後回復基調に転じたものと思われます。また、出荷についても、これはすでに昨年の第三四半期から持ち直してきておりますが、本年に入ってから一そうその
傾向が強まってきております。特に、これまで問題でありました商品市況もようやく底が固まってまいったような感じがいたしておりまして、しかも、これが従来はもっぱら生産調整という供給面の制限のみに依存していたのでありますが、最近に至りまして、このほかに官公需を中心とする需要の持ち直しという要因もようやく出てまいったように思われるのであります。
以上、要するに、景気は大勢的に見まして、昨年末から本年初めにかけまして底入れをいたし、その後は漸次回復に向かいつつあるものと判断をいたしております。このように、経済実態面における回復の動きが次第に広まるにつけまして、
企業のマインドも明るさが見え始めてまいりました。他面、引き続き生産調整であるとか、投資抑制による一そうの需給バランスの改善をはかる必要も残っておりますけれ
ども、また、設備投資あるいは在庫投資にもまだ格別の回復が見られておりませんけれ
ども、当面景気の回復が始まっておると判断いたしておりますが、そのテンポはかなりゆるやかなものだろうと考えております。
この間、国際収支の動向を見ますると、買切収支が輸出の好調にささえられまして依然相当の黒字を続けておりまして、貿易外収支、資本収支は赤字でございますが、その国際収支の動向全体を見ますると、まずまず順調にあり、心強く思っておるのであります。
今後についてでございますが、海外情勢の推移いかんというところが大きいのでございますが、現在の見通しでは、輸入が、国内景気の回復に伴いまして多少
増加するとは考えられますけれ
ども、国際収支の基調では格別の問題は生じないものだろうと当面考えておるのであります。
次に、
金融情勢でございますが、
金融市場は引き続き全般的に緩和基調でございます。コールレートも低い水準で推移いたしており、本年に入ってからも格別の変化は認められません。
金融機関の貸し出しについては、
企業投資の停滞から資金需要そのものが落ちついているため、貸し出しの増勢が目立って高まるという
状態ではございません。貸し出し金利につきましても引き続き低下をたどっており、すでにその低下の度合いは、三十九年の引き締め期間中の上げ幅を上回っているのであります。日本
銀行といたしましては、諸般の情勢を勘案いたしまして、当面この緩和基調を持続する方針で
金融政策を運用してまいっており、市場相場による政府保証債の買いオペレーション、政府短期
証券の売買及び短資業者、
銀行に対する貸し出しなどのいろいろの手段を適宜組み合わせまして、
金融調節に遺憾のないことを期しておる次第でございます。
なお、本年一月以降、四十年度の税収不足を補うための国債が発行され、さらに四月以降は財政面から経済を振興するために本格的な国債発行がなされることになっているのでありますが、以上のような
金融情勢を背景にいたしまして、現在までのところ、発行された国債の消化はきわめて順調でございまして、そのため特に
金融が逼迫するといったような事態は生じておりません。日本
銀行といたしましては、
大蔵省とシンジケート側との間の十分なる打ち合わせに協力いたしまして、全体の資金需給を考慮しながら毎月の国債発行額をきめておるような
状態でございまして、今後ともこうした努力を続けていくつもりでございます。
以上のごとく、最近の
金融情勢は落ちついた推移をたどっておりますが、他面、国際面に目を転じますると、最近米国では景気が過熱の様相を呈し、このために先般来市中金利の引き上げが行なわれており、また、西ドイツをはじめ、欧州方面でも金利の上昇
傾向が見られております。そのため、従来いわれておりました国際金利水準と
わが国金利水準との格差は全般的に縮小しており、それはそれとして日本の金利水準が国際水準に近づいたことはけっこうな面もございますけれ
ども、他面、内外金利の格差がここまで縮小してまいりますと、今後の金利政策の運営にあたっては、この事実を十分加味して考えてまいる必要が起こっておるわけでございます。
なお、一部に、この内外金利差の縮小によりまして、輸入
金融につきまして、従来外貨
金融から円
金融へシフトを生じまして、これにより外貨準備が減ることを懸念する声も聞くのでありますけれ
ども、現在までのところ特に目立ったシフトの事態は生じておらないのであります。
最後に、
証券界の問題について若干触れてみたいと思いますが、最近は相場も相当回復してきており、また出来高もふえてきております。このために
証券会社の内容も若干改善されてはきていますが、このような
証券界の活況は、ひとり
証券界だけではなく、一般国民にとっても経済の前途に明るさが見えてきたという
意味においては歓迎しておるようであります。ただ、現在の
証券界に対しましては、御承知のとおり、さまざまな形で日本
銀行の信用供与が行なわれているわけでございます。現在の相場がこのような異例の
措置によりましてささえられているという面も見のがすことはできないと思うのでありまして、日本
銀行といたしましては、
証券市場の立ち直りに伴いましてこうした特別の処置は漸次撤廃していきたいと考えておりますが、
証券会社としても、このような事情を十分認識して、この際体質の改善に努力し、再び過去のごとき事態を生じさせないようにぜひとも努力してもらいたいと、指導を続けてまいるつもりでございます。
以上、はなはだ簡単ではございますが、当面の
金融経済情勢に関し、思うところを申し上げた次第でございます。
—————————————