○肥後
参考人 成蹊大学の肥後でございます。
昭和四十年度における
財政処理の
特別措置に関する
法律案に関する
参考意見として私に特に求められましたものは、
昭和四十年度の
税収不足に対処するために、
財政法第四条とは別個に単独の法律を制定して
一般会計の歳入補てん
公債を
発行することに関して、学究として自由な
意見を述べよということであります。そこで私の卑見を主として
予算における
経済的な観点につきまして申し述べ、あわせて若干政治的な側面について所見を述べてみたいと思います。
ます第一に、当初見積もりに比べまして
税収が大幅に減少した理由は何であったかという点でございますが、
昭和四十年度の当初
予算における租税及び印紙収入額三兆二千八百七十七億円は三千八百二十四億円の増収を三十九年度の当初
予算に対して一応見込んでいたのでございまして、増加率は一二・二%になります。これは実際に四十年度の
予算の編成にあたりましては、三十九年度補正1号後の二兆九千六百九十三億円に比べましてどうかということが問題になると思うのでありますが、これは三千百八十四億円の増加、一〇・七%の増加率になります。かりに
昭和四十年度における初年度減税八百十三億円がなく、前年度どおりの税法が適用されたものといたしますと、
昭和四十年度の租税及び印紙収入は三兆三千六百九十億円、前年度に比べまして一四%の増加率になります。
予算編成の
前提となりました「
昭和四十年度の
経済見通しと
経済運営の基本態度」における予想では、GNPの名目
成長率は一二・九%
程度と述べられておりました。そこで、私は特に
税収の所得弾性値といったようなものを中心にして今後の
税収予想の問題を述べてみたいと思うのでございますけれども、GNPの
成長率に対します
税収増加率の割合、すなわち
税収の所得弾性値は、大体名目
成長率が
予算編成当初一二・九%と予想されていたということになりますと、一・〇七になります。高度
成長期を含みます大体二十九年度から三十八年度の十年の平均の所得弾性値は、大体一・五近くであるというふうに一応試算をされておりますので、四十年度の当初における
税収の見積もりにつきましては、過去の所得弾性値の趨勢値に比べまして、かなり控え目な
税収見積をしていたということになるかと思います。
ところで、
昭和四十年度における租
税収入の減少を、今度の
政府当局の見積もりに従いまして、二千五百九十億円といたしますと、本年度の当初
予算に比べまして、
税収は七・六%減収になっております。三十九年度の補正後の
税収に対する増加率は八・六%でございますが、これを最近のGNP
成長率の大かたの
見通しは、四十年度で名目で七、八%であろうという
意見が大半のようでございます。あるいはもっと低目に見る向きもありますけれども、一応七、八%といたしますと、
税収の所得弾性値は八%に対する八・六%でございますから、大体一・〇七になりまして、
税収の所得弾性値に関しましては、ほぼ当初
予算の所得弾性値と一致することになります。主税局の
税収見積もりは、大体各税目ごとに積み上げ方式をとっていられるように理解していますが、一応これと別個に
税収の一応の
見通しを得るために、所得弾性値を利用するといたしますと、来年度何%
税収が増加するだろうかという点は、
経済成長率に
税収の所得弾性値を掛ければよろしいということになるわけでございます。
ややこみいってまいりましたが、このような論理の立て方で
考えてみますと、四十年度の
税収の見積もりに大幅な差が出ましたのは、むしろ
税収の所得弾性値が過大な見積もりであったというよりも、
経済成長率が当初の予想よりも著しく低くなった点にあるかと思われます。
昭和三十九年度の後半から
経済の基調が従来の
需要超過型から供給超過型に変わったという戦後の
日本経済史上画期的な転換がありまして、このような転換期にぶつかったことが、
税収の
見通しに誤差を生ぜしめた根本原因であろうかと
考えるわけであります。
〔天野(公)
委員長代理退席、
委員長着席〕
このような
税収の減に当面しました際の
財政政策はどうあるべきかという点でありますが、私は、これは個々の冗費を節約して財源を浮かす努力は必要でありますが、支出の絶対水準を
税収の減少に合わせて削減して
予算の均衡をはかろうとする方式は適当でないと
考えます。もちろん
一般会計だけでなく、特別会計、
政府関係機関、公団等及び地方
財政を含めまして、ひとつ
政府財貨、サービス購入といったようなもので
考えるべきであるのでありますが、この伸び率を適正な
経済成長率を維持するに足る適正な水準で維持しなければならない。したがって、一種のビルトイン・スタビライザーの発動でありますけれども、
経済成長率が低下しまして、
税収に不足を生じました際には、これはやはり何らか
公債収入を計上することによって補てんすべきだ。これが
財政政策としましては一応常道的な
考え方ではないかと思います。
一般会計に
国債収入を計上いたしますことは、
昭和二十二年度以来十九年間やってこなかったことでありますが、今後数年の
経済情勢を
考えてみますと、これまで
経済成長をリードしてまいりました
民間投資の伸びは、四十年度はほぼマイナスであろう、それから四十一年度はほぼ横ばい
程度を大きく出ないであろう、四十二年度以降かなり回復するのではなかろうかというのが、現在大かたの予想ではないかと思うのでございまして、このような
経済基調で、たとえばこの適正
成長率が何%であるかということは、これははっきりしたことは申し上げられないのでございますが、一応現在実質で七、八%維持することが必要であるといたしますと、
民間投資が大幅に減少している現状では、
政府財貨、サービス購入が
経済成長率よりもかなり上回まった水準で維持されなければならないということになるのは、一種の算術的な計算でございます。他方、
税収の増加率は、
税収の所得弾性値が当分はかなり低目に推移すると
考えられますことから、結局
一般会計でも当分
国債を
発行せざるを得ない
情勢であるというふうに
考えられる次第でございます。
一般会計に
国債を
発行しなくてもいい時期がいつ来るかということは、これも
見通しの問題でございますけれども、かりにそういう時期が来るとすれば、それは
民間投資が著しく回復し、これに並行いたしまして、この
民間投資を
資金的に裏づけますために、
日銀の
民間に対する信用供与が大幅に増加する時期でありましょうが、この時期が近づくにつれて、
税収の自然増加が生じ、それにつれて
公債の漸減政策をとることも可能になると思われるのでございまして、このような時期が到来するまでは、法人
税収の伸び悩み、個人所得
税収の高額所得層の伸び悩み等のために、
税収の所得弾性値はかなり低くなるのではないか。しかしながら
政府支出の伸び率はかなり
経済成長率よりも高くならなければならない。
税収の伸び率は
経済成長率と同じか、場合によってはそれよりも下がることも理論的には
考え得ると思うのでございまして、そうなりますと、やはりその差額は
税収以外の財源、
公債で埋めざるを得ない論理になるかと
考える次第でございます。四十年度はこのように
経済基調の転換期に当面いたしましたために、予期しない
税収の不足を生じたのでありますから、
一般会計の歳入不足を補てんするために
国債を
発行せざるを得ない段階であろうかと
考えます。
四十年度
一般会計における歳入補てんの方法は三通り
考えられると思います。第一は、
財政法第四条に基づく方法、第二は、現在
審議の御対象にしていられます特例法による方法、第三は、
日銀の借り入れによる方法でありますが、このうち第三の方法は問題になりませんから、第一と第二が問題になります。
第一の、
財政法第四条による
発行もこれは可能であると思います。その場合には公共事業費、出
資金、貸し付け金の財源として
発行するしかないわけでありますから、
税収減に
相当する二千五百九十億円の
予算の減額修正を行ない、あらためて二千五百九十億円のいわゆる
建設公債を
発行する方法でありまして、私自身の一応学究的な私見によりますと、この方法のほうが、
財政法をそのままにして適用するという、あるいは
財政の姿勢を正すという意味では、あるいは常道ではないかと
考えるのでございます。しかしながら第二の、特例法による歳入補てん
公債という形式で
発行がとられるとすれば、その理由は
不況の深刻化しつつある現状において、
政府支出のおくれが好ましくない、
政府支出のおくれをそのままにしておきますと、
不況はさらに一そう深刻になる、
不況の深刻化しつつある現状におきまして、なるべく短期間にこの二千五百九十億円の減額修正を行なうということは、これはおそらく技術的に不可能ではないか、このような実際問題としての困難性という理由が、おそらくこの第二の特例法による方法をとられた理由ではなかろうかと私は
考える次第でございます。とすれば、現段階において
税収減に伴う歳入補てん
公債の
発行はやむを得ないとするにいたしましても、これはあくまでも四十年度一回限りにとどまることを切望するものでございます。
歴史を振り返ってみますと、
日本財政史上で
一般会計に歳入補てん
公債が計上されましたのは、
昭和七年度
予算からであります。井上デフレで有名な井上準之助蔵相の奮闘かいなく、経費の節減の努力を重ねましたあげく、世界
不況に勝てずに
昭和六年度からついに
一般会計に赤字が出るようになったのでありますが、
昭和六年度につきましては、震災善後
公債法による
公債発行で震災復興費をまかない、それで浮いた余裕財源で
税収減による歳入補てんを行なったのでありますけれども、
昭和七年度については井上蔵相も歳入補てん
公債の
発行を覚悟しなければならなかったのでありますが、政権の交代で
高橋是清蔵相によって
昭和七年の六月の第六十二国会で歳入補てん
公債の起債が認められた、そしてさらにその七年の秋に
日銀引き受け
発行方式が始められまして、それから
昭和二十一年度
予算に至るまで、すなわち
昭和二十二年の
財政法が制定されるまで
一般会計に
赤字公債が計上されるようになった、そういう
経緯があります。いわゆる高橋
財政は
日本経済の世界
不況からの脱出を容易にしたのではありますけれども、
昭和六年度末六十一億円の
国債が七年度以降、当時
一般会計が二十億円前後でございますが、年々七億、八億ずつふえまして、
昭和十一年度にはついに百億円を突破し、そうしてインフレーションの進行を阻止するために強硬に
公債漸減政策への
方向転換をはかろうといたしまして、この大蔵相は時流の前に立ちはだかったのでありますが、彼の力をもってしてもついに時の勢いをはばむことができなかったという、そのようなわれわれは過去の経験を持っているわけでございます。それで、
昭和八年の衆議院本
会議で高橋蔵相は次のような
予算演説をしております。「
政府ハ」「多額ノ
公債発行ヲ豫定シテ居ルが為メ、ソレハ軈テ通貨ノ増発トナリ、」「必要以上二物償ヲ騰貴セシメテ、社會上由々シキ結果ヲモ招来スルニアラズヤトノ疑念ヲ抱ク者ナキニアラザルヤウ感ゼラルゝノデアリマスガ」、「
日本銀行ヲシテ、一面二於テ産業上二必要ナル通貨ノ供給二遺憾ナキコトヲ期セシムルト同時二、他面所謂「インフレーション」ノ弊ヲ防止セシメントシタノデアリマス、故二
日本銀行ハ其
市場政策二依リ、手持
公債ヲバ
金融界ノ状勢ヲ洞察シテ、或ハ之ヲ
市場二賣放チ、或ハ之ヲ回収シテ、緩急宜シキヲ制スルニ於テハ、通貨ノ流通ハ自ラ
調節セラレテ、極端ナル「インフレーション」ノ弊二陥ルが如キコトハ、有り得ベカラザルコト・信ジマス」このような大蔵相の演説にもかかわらず、ついにやはり
財政の暴走を招きましたことは、われわれは歴史上の苦い経験として覚えております。こういうことでありますので、このような過去の苦い経験にかんがみまして、やはり
昭和四十一年度
予算以降は
財政法第四条の歯どめを残して、
公債の
発行はいわゆる
建設公債に限定し、かつ
財政法第五条の歯どめをも残して
国債の
日銀引き受けを禁じ、公募方式を堅持すべきではないかと思います。もちろん、
財政の適正な
規模を維持するために必要な
公債は、
一般会計の
国債に限定する必要はなく、政保債及び地方債をあわせて
考えるべきでありまして、これらを合わせますと、四十年度でもほとんど一兆円になります。四十一年度には、これはおそらく、私自身の腰だめの計算でございますが、一兆五千億円くらいにはなる。純増ベースでもおそらく市中で一兆二千億円くらいの公募をしなければならないのではないか、このような事態でございますので、将来に禍根を残さないよう、国会の
予算審議におかれましては十分に御賢明な御配慮を望みたいと存じますし、また、
政府、
日銀当局におかれましても緊密な連絡を保ち合って、慎重な
運用をされるよう希望したいと存じます。特にこれはこれまでの
昭和二十九年度から
昭和三十八年度、三十九年度あたりまでの
財政と
日銀との
関係と違いまして、この場合には
金融のほうでオーバーローンがありまして、
財政のほうにはビルトイン・スタビライザーがきいたのでございますが、これからは
財政当局も
日銀当局も、かなり
経済予測に基づいて最良政策を行なわなければならない。そのようなことで、しかもその
経済予測というものは、私どもの過去の経験からいたしまして、非常に当たらないことが多い、誤差が大きいわけでございます。このような点からいたしましても、慎重な一応
運営を望みたいと思います。
次に、これは柄にもございませんし、蛇足になるかもしれませんが、
財政政策の政治的側面といったようなものについて、私の痛感しているところをつけ加えさしていただきます。一般に
政府のサービスは、
国民の負担を離れて国庫の財源から捻出されるような錯覚を持つ向きもないではありませんが、結局いずれにしろ、これは
国民の負担になるということでございます。したがいまして、もっと
政府のサービスを望むなら、当然にその負担はいまよりももっと
国民にかかってくると
考えなければなりません。もしそのような自覚があるならば、これが
財政の暴走への最良の歯どめではないかと
考える次第でございます。今後
民間投資が当分横ばいになるであろう、あるいは途中でまた活況を呈することもあるかと思いますが、ここ二、三年についてはかなり低水準で推移することが予想される。それに、すでに過剰生産でございますから、新しい
需要を振起するためには、道路あるいは住宅といったような、あるいは都市の再開発、上下水道の整備、このようないわゆる
財政基盤の拡大が必要でございまして、ちょうど
民間投資がほぼ鎮静している時期に、このような社会的間接資本の拡充をやはり心がけるべきではないか。ただし慎重に行なってほしいのでございます。
もう
一つは、公共投資を行ないます場合に、単に金額の問題だけじゃなくて、土地問題に十分な御配慮をなさらないと、結局地価の騰貴に食われまして、意図として望ましかったはずの
財政政策があしき所得分配におちいることはないか。結局
財政民主主義と申しますものは、その
財政の
機能が十分に
経済の発展とともに
国民の福祉に貢献するという
国民の信頼がなければならないわけでございまして、この際やはり社会保障あるいは住宅等について一大進展を御配慮になられまして、
国民大衆に将来への夢を与えていただきたいと思うのでございます。夢が与えられますならば、やはり不
調整についても
国民は必要に応じてあるいは耐乏に協力するのではないか、そのように感じる次第でございます。
簡単でございますが、これで終わります。
—————————————