○堀坂
参考人 私、
産炭地域振興事業の実施を担当さしていただいております者といたしまして、今回の
法案の
改正並びに
産炭地域振興政策一般についての所見をまず述べさしていただきたいと存じます。
日本では、
地域開発、
地域対策の問題としてはいろいろな
制度がございます。新産都市、低
開発地帯
対策、首都圏
整備あるいは離島
対策等あるのでございますが、この
産炭地域振興事業はやはり
地域対策の一環であると思うのでございます。この点につきましては、私は、現在の
立場から見ておりまして、
政府におかれましても、あるいは
国会におかれましても、
地域対策としては、他の
地域対策よりも相当手厚い、そしてきめのこまかい
対策を打っていただいておると思うのであります。しかるにかかわらず、現地のほうでは、悲痛な、涙の流れるようなお話しか出てこないのであります。このような手厚いと思われるような
対策を打たれながら、なおかつ現地がそういうふうになっておるという
実情、この矛盾はどのようなことであろうかというふうに私
どもは
考えざるを得ないのであります。およそ、
産炭地問題ということになりますと、
地域対策といたしまして暗い
産炭地ということばに表現をされるように思うのであります。したがいまして、
産炭地へ
企業に来てくださいということを
お願いいたしましたときに、暗い
産炭地に出ていくのだというような
企業家の印象が非常に強いのであります。また、私
どもが
企業誘致やその他いろいろなことで業界の方に
お願いにあがり、あるいはまた
政府関係のいろいろな方面にあれしてまいりました場合において、非常な御同情はいただいておりますが、その中において、
産炭地対策というのは不
経済な
対策ではないかという感じがあるということを、表面立ってはなかなかおっしゃらないのでございますが、そういうことを思っておられるなというふうに私
どもは感じるのであります。そういうふうな環境の中で、はたして
産炭地対策というのはどういうふうに持っていったらいいのであろうかということで、実は私
ども平素悩んでおるのであります。
そこで、先ほど多
賀谷先生より、私が欧州を見てきたので、欧州の
実情等も加えて話をするようにというお話でございましたが、私
ども欧州に参りまして痛感をいたしましたのは、それぞれの国によって事情も違い、また
制度も違いますので、実際にやっておる
制度はまちまちでございますが、共通に流れている問題は何かということを
考えてみますと、およそ、この二十世紀の中期を特色づけますところの技術革新及びエネルギー革命と申しますか、エネルギー事情の変革、こうしたことによりまして、
産業の様相が非常に変わり、あるいは
産業の立地が非常に変わってきておるということであります。そのことが、結局は、大消費地でありますとか、あるいは
政府の存在いたしますところの首都でありますとか、あるいは臨海
工業地帯でありますとかいうような特殊な地帯に
産業が集まっていく、そして、片一方に、十九世紀の技術革新以来発達をしてきたところの
炭鉱地帯、機業地あるいはその他の古い伝統的な機械
工業の地帯は、この技術革新の波を受けまして衰退を余儀なくされる、構造的不況地帯になるという問題がまず第一にあるのであります。第二には、低
開発地帯の問題でございまして、特にEECの中において非常に問題とされております問題は、イタリアの南部
開発でございますとか、フランスの農村地帯、あるいは英国のスコットランドというような方面が非常に問題になっておるのであります。第三は、今日なお
かなりの繁栄はしておるけれ
ども、構造的に将来不況になるというふうに見られている地帯に対する
対策、第四といたしまして、特殊な
地域としての国境地帯というような問題があるように思うのであります。
このような事態に対しますところの
対策が最も計画的に、そして伝統を持って行なわれておるのは英国であると思うのでありますが、この英国をはじめといたしまして、フランス等におきましても、過密都市に対するところの防止という問題と、構造的不況地帯に対するところの
対策、これが
地域対策であるというふうに申し上げていいのでありまして、その第二のほうの、問題のある
地域に対するところの
地域対策の焦点というのは、構造的不況
地域になりかかっておるところの
地域対策であるというように申し上げたほうがより正確であるかと思いますが、そういう
実情にあると私は思っております。この点につきましては、
国会図書館の御報告でございますところの「欧州における
工業立地の
現状と
対策」の中におきまして、「イギリスの
地域政策は、
一つは過密
地域の
人口圧力を減ずること、並びに
一つは構造的に衰退化少数
工業への依存による不況
地域から選定された多数の
開発地域の
経済活動の復活を図る、」という二つの目的にしぼられておるのだ、こういうふうにうたっておられますし、また、同じ報告の中におきまして、一九五五年におきますところのフランスの各種の立地政策の中の焦点はやはりそこにしぼられておるということが書かれておるのであります。
そういう観点から見ました場合におきまして、日本の各種の立地政策の中で、
産炭地域振興に対しますところの
政府の
施策は、先ほど申し上げましたように、非常にきめがこまかく、いろいろな方面に御
配慮をいただいておるのでありますが、なおかつ非常にアンバランスなところがあるということを率直に申し上げなければならないと思うのであります。
たとえば、ただいま問題になっておりますところの土地の価格が高いという問題でございます。そういう問題につきまして、いま、
産炭地域あるいはその他の
地域においても同様でございますが、住宅公団が
住宅用地を確保する場合、あるいは住宅公団が首都圏
整備関係等におきまして
工業用地を造成されようといたします場合には、その用地の取得について土地収用法の規定があるのであります。私は単に権力の問題を言うのではないのでありまして、この土地収用法の規定があるということはどのようになっておるかと申しますと、もしそういう
公共事業者に土地を売りました場合におきましては、その売った地主は所得の半分に課税をされるという形になるわけであります。したがいまして、今度はそれにつきましてまた一そうの
改正が行なわれるように閣議決定になっているそうでございます。
産炭地域振興事業団が取得いたします土地はすべてネゴシエーションのもとにおいて取得いたしておるのでありますが、このボタ山をかりに処理いたしまして、これを
鉱害地等に埋めまして、両方を
工業用地にするという場合等におきまして、
事業団に売った地主に対してはそのような
恩典がありませんので、非常に売ることを欲しないのであります。自分が伝統的につくっておった農地を手離して、普通の業界に売ったのと同じような税金をとられるというようなことは、これは
産炭地振興のためにあなたは犠牲になってくださいというような形に実はなっておるのであります。あるいは、低
開発地域に
事業が行きました場合においては、
事業税の
減免がございます。
産炭地に参りましたときには、これは
事業税の
減免がございませんことは、先ほどるるお話があったとおりでございます。あるいは、
中小企業金融公庫からお金を借りれば登録税は要らないんだが、
産炭地域振興事業団から金を借りた場合においては登録税が必要である、払わなければならぬ。
このようなことになっておるのでありまして、今日、
地域対策あるいは弱い
中小企業に対するところのいろいろな保護
制度がある。その中において、
産炭地域に
企業を
誘致するということは今日のいわゆる崩壊しつつあるこのコミュニティーの救済という意味で取り上げられておるわけでありますが、この
産炭地域振興事業については適用が行なわれていないのであります。このような環境の中で、地価を安くしあるいは
企業に
ほんとうに魅力を持たせる状態に十分なっているかどうか。いろいろな
優遇措置というものがあるけれ
ども、はたしていま
企業家が、この発展しつつあるところの
工業大都市あるいは新産都市あるいは臨海
工業地帯に工場をつくるよりも、何とか
産炭地に行って
産炭地の人々に働いてもらおう、このような気分に実はなり得るかどうかというところに
一つの問題があるのでございます。
したがいまして、
産炭地振興の問題は明るい将来の
産炭地にするために、
ほんとうに
事業に来てもらわなければいけない。
事業は、これは
産炭地域振興事業団が興すものでも何でもなくて、むしろ
企業家の方にやってもらわなければならぬ。したがって、
企業家の方々が
産炭地をまずまっ先に選択し得るような
条件というものを、いま現在ある
制度の中においてでも、これを御
配慮願うことによって、
産炭地へもっと
企業を引き得るような方策というものが
考えられるべきであるというふうに、私はまず第一点として思うわけであります。
それから、第二の問題といたしまして、環境
整備の問題であります。
産炭地につきましては、先ほどからお話のございましたように、当初この
事業が始まりましたときから、
産炭地にはたして
企業が行くであろうかという疑問がたくさんの人からわれわれ浴びせられたのであります。今日約三百に近い
企業というものが
事業団の
融資対象にもなっておるのでございまして、
生産額といたしましては
かなりの
生産額をあげるようになっておるのでありますが、そこに入って見ていろいろ問題があるということを先ほ
ども御指摘になったのでございます。
ほんとうに
産炭地の人々にまず希望を持っていただけるような環境づくりというものが必要である。環境づくり、立地
条件の
整備という問題については、これは前々から言われていることでありますが、この
地元の人に、
ほんとうにこのようにわれわれの
地域がなっていくんだという具体的な絵が描かれていない。
地域の人々は、そういう
企業が来ても、われわれの
地域は将来よくなっていくんだという夢を持てないというところに今日の
一つの問題がありはしないかというふうに思うのであります。
私が英国のスコットランドのファイフという
産炭地に参りましたときに、これはつぶれたばかりのところでございますが、そこでは、まずきたないものは全部取っ払えということをやった。
工業用地等において、きたない
炭鉱の
施設の基礎というようなものをまず取っ払う。それから、湛水をしているようなところはボタ等を埋めて昔の自然の土地のような形にして、なおかつ、まだ沈下のおそれがあるようなところは牧草を植えて緑の地帯にした。そうして、落盤と申しますか、地盤沈下のないようなところに
工業用地をつくって、その落ちついたところでこの牧草地等も
工業用地として売るようにした。
道路のでこぼこは、舗装する前にまず直した。自動車が活発に走れるように直した。このようなことを六カ月のうちにした。
地域住民は、なるほどわれわれの
地域というものは変わりつつあるなということを感じた。そこで、マスタープランというものをつくった。マスタープランというものは、将来の二十年先のことを
考えたマスタープランで、それをつくって、その中で、さしあたりの二年なり三年の間にはこれとこれをやるのだということをきめて、
企業家の人々に来てもらって、われわれの
炭鉱地帯というのはこういうふうに変わりつつあります、
皆さま方のお
立場からここに
企業を持ってくるためにはどういうふうにお
考えになられますかということを伺って、それでその案というものを修正して今日の
地域対策というものができているという話を伺ったのでありますが、これは、
地元と申しますか、日本で申しますと県ということでございますか、その
地元の県なりあるいは
市町村連合体が
一つの夢を持って、そうして、その夢を実現するために、自分らの
経済力というものはこういうふうに足りないから、これとこれとこれについて国の資金というものを
援助してほしいというふうに、
かなり具体的に問題が提起されたということを聞いたわけでございまして、そのやり方が非常に実際的であることに私は感銘を受けたのでございます。
そういう意味において、この環境の
整備ということが必要だと
考えるのであります。英国の場合におきましては、たとえば、ボタ山を切りくずすとか、あるいは
鉱害地というような見捨てられた土地、これの社会的価値を復帰するために要するところの経費については、八五%国が負担をしてやっておるということであります。いま日本の場合におきましては、このボタ山が崩壊をして土地をこわし、人を殺したり傷けた記録があるということは御高承のとおりでございますが、そのボタ山を使って
工業用地をつくるという工事をやっておりますが、これは、先ほどからお話しのように、いわゆる原価主義という問題でやっておるのでございまして、こういう環境の中で、私
どもが荒れた
炭鉱地帯で
工業用地を造成して何とか環境をよくしたいと思いましても、ここでやり得る限界が
一つあるというように思うのであります。
第三の点につきましては、
企業家がそこに
企業を興すための魅力をもう少し集中的にやるという問題と、それから、早くその魅力を感じさせるような方策というものを立てなければいかぬというふうに私は思っておるのであります。
およそ、
産炭地域振興事業団というような生まれて間もない、そうしてもともと
金融機関でもないような機関が
運転資金を
融資するというようなところまで
政府のほうで予算を認めていただき、あるいは
国会で御
審議いただくということは、当初申し上げましたように、私は全く異例な
措置であると思います。しかしながら、ここで
現実の問題といたしましては、もしある
企業が自分の工場を名古屋の周辺につくらずに
産炭地に持っていくという問題を
考えました場合において、もしその辺でやりますならば、
中小企業金融公庫なりあるいは
開発銀行から八分四里の金が借りられるのであります。最近金利は引き下がりましたが、八分四厘の金が借りられるわけであります。それに対しまして、
産炭地に行きました場合においては、これはその
設備資金の四〇%が六分五厘で借りることができるということであります。この金利あるいは
融資条件は、日本におきますところのこの種の
融資条件としては最も有利なものであります。しかしながら、その周囲に
関連の原料を確保する工場あるいは下請工場というようなものを持っている
地域から、この
筑豊なりあるいは長崎県なり
佐賀県の
産炭地に行こうといたしました場合において、その
程度の差ではたして
企業の意欲が起こるであろうかどうかという問題になりますと、こういったような点については直さなければならないということになるのであります。
そこで、私は、英国の例を申し上げてみたいと思うのであります。英国は、御高承のように、一九三七年以来この立地政策を進めてきているのでありますが、一九六〇年に今日の地方
雇用法というのを制定いたしました。さらに六三年に
改正をいたしまして、ことしの一月十七日にさらに新しい政策というものを展開をいたしておるわけであります。この英国の去年の暮れまでの状態でいきまするならば、まず、そこに入ってくる
企業に対してどのような
援助があるかと申しますと、
工業用建物にうきましては、いわゆる
開発地域、この
開発地域というのは、非常に
疲弊しつつある
産炭地はみな
開発地域に当然含まれておりますが、それ以外のごく少数の低
開発地域に相当する部分も
開発地域に指定されておりまして、その
開発地域に行きました場合については、
工業用建物について二五%の補助があったのであります。それから、
施設及び機械については一〇%の補助があったのであります。そのほかに、割り増し償却及び超過償却という
制度、さらに、フリーデプリシエーションという
制度がありました。そして、これは英国の
政府が出しました「エキスパンディング・インダストリー」というパンフレットでありますが、それに、もしあなたが
産業を拡張したいと思うならば
開発地域においでなさい、そこにおいでになれば補助金と
貸し付け金を得られますというふうに書いてあるわけでございますが、その中の説明資料で実際の具体例を見ましても、三年たった後にはその投資額の約六〇%というものが回収される、他の
地域においては普通の償却をしておっても三〇%
程度しか回収されない、したがって、同じ設備で
開発地域に行った場合には、他の
地域に投資したよりも三、四年後には四、五〇%少なくなる、したがって、その
地域的なデメリットと申しますか、これは十分カバーできる状態にあるのですよ、こういうように言っておるのであります。したがいまして、
開発地域に行くことは非常に有利なようにできておったのでございますが、ことしの一月十七日からは、特別償却あるいは超過償却というようなものは、
企業家を
開発地域に行かせることの直接の動機になるのにはやや回り遠いということと、それから、その受益する者が
企業の性格あるいは収益
状況によって非常に片寄っているということにかんがみまして、これを補助金の
制度に全部改めまして、なお、御
承知のように、英国はポンド危機で非常に悩んだところでありますので、いままで立ちおくれた英国の
経済成長を取り戻し、そして進んだ他の国を追い越そうという意味において投資奨励策をとったのでありますが、一般の
地域につきましては機械及び装置につきまして二〇%の補助金を出すのですけれ
ども、
開発地域につきましては、これを四〇%の補助金を機械及び装置について出すのでございまして、そのほかに、この
地域の
工業用建物については、他の
地域にはない二五%ないし三五%の補助金を出すことにいたしておるのであります。そのほかに、
設備資金及び
運転資金等の
融資、それから、先ほどお話のありましたいわゆるアドバンス・ファクトリー、なかなか工場が来にくいと思われるところの
地域に
工業団地等をつくりました場合においては、その
工業団地の上にアドバンス・ファクトリーというのをつくりまして、そこには
企業家が人と材料を持ってくればすぐ
事業ができる、このような
制度をいたしておるのであります。したがいまして、
企業家はそういうところに投資をすることが自分にとって非常に有利であるということがわかりやすいように改めたという資料を先般英国の大使館からいただいたわけでございますが、このようになっておるのであります。
こういうような
施策について、英国におきましても欧州においても、やはりこれは非常に不
経済な、あるいは特定の
企業だけに利益を与えることではないかという議論というものがあるのでございますが、これにつきまして、
経済開発審議会あるいはフランスの立法理由等の中には、いわゆる過大都市になりつつあるところに
人口を集中させることによって生ずるところの支出というものは全く消費的支出になるおそれがあり、かつまた、大気汚染あるいは
工業用水の不足、あるいは交通の渋帯、地盤沈下、こういった問題についての
解決は行政的にも非常にむずかしい問題であるということ、あるいは、
失業者を不況地帯に残しておくことによるところの
財政負担、また、そういう既存の
工業地帯に対するところの過去の投資がむだになるということから
考えると、むしろこの
開発地域に
産業を持ってくるということは
経済成長政策に完全につながるものであるという認識に立っておるのでございまして、これはひとり英国だけではないのであります。
このような
施策が講ぜられておるのでございますが、これをそのまま日本に適用するかどうかという問題につきましては、
制度なりその他も非常に異なっておりますので、私は、そういったようなものをすぐ
産炭地域振興事業団の
事業としてやらしてくださいというようなことを申し上げるものではございません。根本的に私が申し上げたい問題は、いろいろな
地域対策の問題がございますが、この
産炭地問題は、欧州のどこに行っても、こういう
産炭地対策の
法律はないけれ
ども、それがこの
地域開発対策の焦点に立つものであり、また、
経済成長政策に完全につながる合理的なものであるという認識のもとにいろいろな政策というものが集中されておるということにかんがみまして、現在この
地域開発政策の中で講ぜられておるいろいろな
制度というものを、もう少しこの
産炭地対策に集中的に活用できるようにしていただきたいということを
お願いいたしまして、一応の陳述を終わります。
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