○赤羽
説明員 ただいま、事業別予算制度につきまして、その後どういうぐあいに検討をやっておるかというお尋ねでございます。御
指摘のとおり、事業別予算は一九四九年、アメリカにおきまして、いわゆる行政改革のための委員会、フーバーがやっておりました委員会が、大々的に発足をいたしまして、その中の予算会計部門といたしまして、大きく取り上げられた事項でございます。わが国におきましては、一昨年の臨調において、特にこの採用を強く勧告をされておるわけでございます。私
たちといたしましては、フーバー委員会の勧告が出ましてから、
事務的にはいろいろと調査をしておった段階であったわけでございますが、いよいよ正式に臨時行政調査会から勧告が出たということで、本格的に検討を開始しつつある段階でございます。
この事業別予算制度につきまして、どう考えるか、あるいは今後どういうぐあいに考えて検討するか、あるいはまた世界各国はもう大体やっておるじゃないかというふうなお話がございましたのですが、そういった点につきまして簡単に申し上げますと、事業別予算制度、これは
一体どういうものであるかという概念規定が第一問題であったわけであります。一応、これはアメリカのフーバー委員会が勧告をいたしましたときは、何と申しますか、事業計画を
基礎として、その実現を重視するところの予算会計システム、予算編成、執行、決算と一貫したシステムである、こういううらな定義を一応なされておるわけでございます。そこでまず第一次着手といたしまして、事業別予算制度の思想というものは何を要求するかということでございますが、いまの予算書の予算科目の立て方、科目の再編成をしろ、こういうことを要求としてあげたわけでございます。どういうところにポイントがあるかと申しますと、それまでの、アメリカを含めまして、各国大体同じ、共通のような問題でございますけれども、人件費とか物件費とかいう区別が第一のポイントになっていたのであります。いかなる使途に用いるか、ということよりも、いかなる行政目的に用いるかということをあまり考えていない制度である。したがいまして、予算科目を再編成をするにあたりましては、人件費とか物件費とかいうようなことでなくて、具体的な、行政目的を如実に示すような科目に直すべきであるということを言ったわけであります。具体的に申し上げますと、どういうことでございますかといいますと、まず予算をファンクションとプログラムとアクティビティーの三つに分ける、こういうことをいっておるのであります。ファンクションというのは、日本の現在の予算制度に対応いたしますと、重要事項別経費と申しまして、予算書それ自体には載っていないわけでありますが、
説明資料として予算書に添付をいたします、あの重要事項別に当たるわけでございます。それから、プログラムというのは、日本で申しますと項に当たるわけでございます。それから、アクティビティーあるいはプロジェクトというのは、日本でいう目に当たるわけでございます。こういう
かっこうになってくるわけでありますが、フーバー委員会が提唱いたしました事業別予算制度は、大体その方向で、もう日本の予算書の分け方は同じようなものであると言って過言ではないと思います。特に
公共事業費の分け方は、アメリカの予算書と比べまして、ほとんど大差がございません。若干違いますのは、アメリカのほうは、わりあいと地域の名前をはっきりと出す場合が多うございます。コロラド峡谷ダム計画でございますとか、地域の
場所を出す場合が多いわけでございます。そういう点、若干違いますが、行政目的——空港整備事業費であるとか、農業構造改善事業費であるとかいうような行政目的を指示するという
意味においては、アメリカの予算書と比較しまして何ら遜色はない、こういうぐあいに考えておるわけでございます。特に、
あとで申し上げますが、事業別予算制度の最大の難点と申しますのは、コストと成果の相関
関係が数量的に把握できないような分野、産業
関係の予算については、これは比較的容易なわけでございますが、司法でございますとか、警察でございますとか、教育、こういった分野につきましては、そういった事業別予算制度の全面的な採用ということは非常にむずかしいのではないかということが言われておるわけでございます。そういった分野におきますところの科目の分け方というものを見てまいりましても、日本のほらがアメリカよりもよく、むしろじみちにやっておるのではないかと思われるような節もございます。ただ、事業別予算制度を採用したと言われておりますアメリカにおきまず予算書と日本と比較いたしまして、この点はやはりアメリカのほうがいい、こういうふうなお話の点は、たとえば、人件費が、アメリカの予算書では分かれております。各事業別に分かれておるというところまでは参りませんが、たとえば厚生省なら厚生省の予算の人件費が、企画部門の人件費が
幾らでございますとか、あるいはエバリュエーションの人件費が
幾らでございますとか、そういうのが、大づかみでございまするが、三グループぐらいに分かれておるといった点が一つ、そういう点が、日本ではやってないわけでございます。それからもら一つは、項の、先ほど申し上げましたプログラムの段階におきまして、いろいろこまかく分かれておるのでありますが、日本の予算書を見てまいりますと、各省の予算書の劈頭に、予定経費要求書の劈頭のところに、たとえば(項)農林
本省でございますとか、(項)厚生
本省というような項が、必ず、これは総括的な
一般的な項として、具体的に行政目的を指示できないやつを、全部一括してそういう形でまとめておるわけでございます。まとめておりますが、そのまとめた項の中を、いわゆる小事項という事項に分けて、こまかにまた
説明しているという段階がございます。この段階が、アメリカでは、それが独立の項になっておる、こういうような点。この制度を申し上げますと、大体その二点あたりが、今後日本の予算についていろいろ改善をしていくという点で、検討していかなければならぬ点ではないか、かように考えております。
以上の点が、事業別予算制度の第一次着手として要求いたしておりますところの、予算科目の立て方についての大体の概要でございます。
それからさらに、これが一番大事な点であるかと思いますけれども、決算の段階におきまして、事業別予算制度というのは、事業別にその達成実績を、できるだけ数量的に把握し、実際の成果を確定し、事業能率を測定する一助とする、こういうようなことをいっておるわけでございます。この段階につきましては、特に決算書並びに決算の
説明書というたようなもののつくり方が問題になるわけでございますが、現在の決算の、法律的な
意味におきます決算の立て方というのは、予算の科目別に計数的に執行実績を指示するにすぎないわけであります。それだけでは、なかなか見ただけではわからぬというお話でございまして、ここ数年来、いわゆる決算の
説明というのを添付いたして御審議に供しているわけでございますが、この決算の
説明も、臨調でも言っているわけでございますけれども、十分でない。と申しますのは、この決算の
説明を見てまいりますと、たとえば先ほど申しましたファンクション別の、生活保護費でございますとか防衛
関係費といったような重要経費分類につきまして、それぞれの項目について、事業量を含んだ実績を示しております。しかしながら、予算によって計画されたところの計画内容と実績の対比がどういうことになるのかとか、あるいは費用
計算によって、コストがどのくらいに相なったかというような点にはまだ至っておらないわけでございます。事業別予算制度は、そういった点について決算は充実しろ、こういう思想に立っているかと存じます。かような点について、どの
程度までこの事業別予算制度というものが実現可能なものであるかにつきまして、十分検討を、今後、財政制度審議会の中の法制部会——財政会計法規全般を扱う部会がございますが、そこを中心にして、検討を続けてまいりたいと存ずる次第でございます。
一方、この事業別予算制度の最初に、扱われ方でございますけれども、アメリカにおきましてこれが出ましてからしばらくは、全般的な世界情勢の次第もございまして、あまり関心を引かなかったわけでございます。最近四、五
年間前より、ようやく国連におきまして、あるいはまた、国際行政学会というような、行政学者と財政学者とそれから予算の実務者とがつくっております国際機関がございますが、そういったところを中心にして、事業別予算制度というものに対する関心と研究がにわかに高まってきているわけでございます。国連におきましては、三年ほど前並びに二年ほど前に、それぞれ研究
会議を持っております。それから、国際行政学会におきましても、それぞれ研究
会議を持っておりまして、かなりの国がこれに参加をいたしまして、日本でも、行政
管理庁、
大蔵省、
関係省がこれに参加をして、いろいろ勉強をいたしておるわけでございますが、非常に大まかに申し上げますと、なかなか批判、問題点が多く出されております。たとえば、事業別予算制度というのは、ただいまもちょっと申し上げましたとおり、教育とか治安とか国防、警察方面には全然適用ができないではないかということでございますとか、それから、国会の予算統制というものを弱める結果にならぬかとか、あるいは、予算書を事業別だけに限って編成してしまいますと、支出官庁の責任といったものが非常につかまえにくくなるのではないかとか、それから、ヨーロッパの地方都市で、昔こういうような思想のもとにやったことがあるけれども失敗に終わったというような、いろいろな批判が実は出ているわけでございます。この国会の予算統制を弱めるとか、あるいは支出官庁の責任がはっきりせぬとかというような問題点は、実はこの事業別予算制度を突き詰めていきますと、当然そこになる問題でございまして、と申しますのは、事業別予算制度というのは、非常に誇大な表現を使いますと、いままでの予算の
考え方というのが、事業に対する予算統制というものを非常に重視しているわけでございます。しかるに、この事業別予算制度というのは、事業のために予算があるんだ、こういう思想につながってきております。それで、いま予算書の科目の問題でございますとか、あるいは決算書の様式を問題にしている限りは、そういった問題が起きないわけでございますが、この思想をさらに突き詰めてまいりますと、結局、現在の日本の予算制度がとっておりますところの単年度予算制度、会計年度独立の
原則、こういったものとまっこうから衝突していく。もちろん臨時行政調査会におきましても、事業別予算制度の思想の一環としてではなく、事業の長期性に合わしましたところの予算制度を考えて、予算執行の弾力性というものを確保しろということを言っておりますけれども、そういったところとぶつかってまいります。ヨーロッパとかアメリカの各国におきまして、事業別予算制度の、そういった問題があるということが
指摘されておりませんのは、アメリカだとかヨーロッパは、日本と違いまして、会計年度独立の
原則というものがさほど強くございません。繰り越しなどというものは、日本と比べてかなり自由でございます。それから、債務負担行為と継続費というものについても、日本よりかなりフリーにできるようなたてまえになっております。アメリカだとかヨーロッパの国におきましては、そういった面ではあまり問題は出ておりませんけれども、先ほど申し上げましたような技術論といたしまして、国防、教育、治安といったようなものはなかなかむずかしいのではないかというような問題もございます。そういった点、いろいろと批判が寄せられておるわけでございます。もちろん、全部が全部反対というような
意味ではございませんので、賛成しておる国ももちろんあります。たとえば、オランダという国は、非常にこれに対しまして積極的な関心を持って、検討を進めたいというようなことを言っております。
大体以上のような
状況でございます。