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大山参考人 東京大学の
大山でございます。いま
丹羽さんの
お話にもございましたように、私は主として
調査団の中で
高速増殖炉関係を見てまいりましたので、
新型転換炉につきましては
あとの
参考人の方がいらっしゃいますから、増殖炉関係について、なるべく短い時間に、見てきたこと、それからそれに対する感想を申し上げたいと思います。
高速増殖炉と申しますのは、もうよく御
承知のとおり、
原子炉の中で
燃料を燃やしております間に、新しい
燃料であります
プルトニウムを生産していく、しかも、その生産量のほうが消費量よりも上回ることができる、そういう
タイプをいっておるわけでございますから、非常に技術的に新しい点が多々あるために、
研究開発は相当時間がかかってはおりますが、
各国とも将来のために相当力を入れているということかと存じます。
一つの大きな関心としては、
各国が、
各国と申しますのは米、英、ソ、それから
フランス、西
ドイツその他でございますが、そういう国が
高速増殖炉に相当力を入れているのは一体どういう
理由に基づくかということが
一つの関心事でございましたけれども、回ってみまして、やはり大きな原因は
二つある。
一つは、将来の
自分のエネルギー問題として、
理想的な発電設備と予想されております
高速増殖炉をなるべく早くものにしまして、エネルギー問題をかなり長期にわたって解決したいという気持ちはどこでも持っていると思います。
しかしその第一だけではございませんで、第二番目といたしましては、
高速増殖炉のような、非常に総合的な技術、非常に広い科学技術の範囲にわたりますものを総合した技術としましては、これを大きく取上げて
研究していく、
開発していくということによって、全般的な工業技術のレベルを向上させることができる。よくビッグサイエンスということがいわれておりますが、宇宙とともに
原子力がビッグサイエンスの
一つとして、全体のレベルアップに非常に貢献するという考えが根底にあるように思われました。先ほど御指摘のように、将来の大きな
輸出産業であるというような考え方も幾つかの国ではっきり聞いておるような気がいたします。
わが国のことに引き比べてみますと、エネルギー問題という点では、工業国の中でも、非常に深刻な状態にあります
わが国でございますし、それから工業技術の将来の発展ということによって国の富をふやし、国民所得を上げていかなければならないという点からみても、また、
日本は非常に資源が少なくて、優秀な人間がいるという環境からして、この科学技術
開発について全体のレベルを上げるという点から見ましても、
各国でいっておりますエネルギー問題と、広い範囲の科学技術のレベルアップというのは、いずれも
わが国ではますます重要なことではないかというふうに、いまさらながら思った次第であります。
回りました
各国の
高速増殖炉の
開発状況をごくかいつまんで申し上げたいと思うのでございますが、
高速増殖炉というのは、
原子炉、
動力炉の
一つの
理想の形であるということは非常に昔からわかっておりまして
——昔と申しましても、
原子力のことですから二十年とかそういう
程度でございますが、二十年前からわかっておりまして、
原子力の先進国では非常に早くこのことを考え出しております。現に、
アメリカの例をとりますと、一九五二年に
最初の
高速増殖炉をつくっておりまして、五三年になりますと、非常にわずか、百五十キロワットでございますが、
最初の発電をやっている。
原子力発電というのを
最初に行なった
原子炉は高速炉であるというような歴史がございます。
そんなに
最初から考えられていたものが、どうして
軽水炉その他に比べて
実用化が非常におくれているかということを考えてみますと、これはやはり
一つには、
高速増殖炉というものが
プルトニウムの原子核的な性質に基づいて増殖をやる。その
プルトニウムというものが天然にはなくて、たくさん
原子炉ができて、そこからだんだん生産されてくるものであるということのために、
プルトニウムの蓄積があって初めて
高速増殖炉の
実用化時代を迎えるという点が
一つでございます。
それから、二番目の問題は、やはり
高速増殖炉というのは非常に進んだ高級な
タイプであるために、それに伴う幾つかの技術的な難問題、
研究開発を相当しないといけないような問題が横たわっているという
二つの点で、非常に初期から考えられながらも、現在まだ
実用期を迎えていないということかと存じます。
歴史的に申しますと、ごく大ざっぱにいって、一九五〇年代というのは、
アメリカのさっき申しました
世界最初の
原子力発電を行なったという高速炉、それからソ連も非常に小さい、たった五千キロでございますが、高速炉を動かし出したというようなことで、高速炉というものがともかくちゃんと安定に長期にわたって運転できるものであるということを実証するような時代だったと言ってもいいかと思っております。
六〇年代になりまして、そういう基本的なことがわかりましたので、今度は
実用的な
動力炉を目ざしての
研究が
各国で行なわれるようになったかと思うわけでございます。
最初アメリカのことを申しましたから
アメリカから申しますと、
アメリカはその後、先ほど申しました
最初の高速炉というのはEBR1と申しますが、その次に、EBR2というのを続けてつくっております。これになりますと、電気で二万キロという、
実用規模から見ればかなり小さいのでございますけれども、かなり大きなものになってきております。これが一九六三年ぐらいから動き出して、現在
研究開発に大いに利用されております。一方、主として民間が中心になりましてデトロイトのそばのエンリコ・フェルミ
原子力発電所というのを非常に早い時期に計画いたしまして、これも同じころ、一九六三年に臨界になり、
各種の試験をやって、徐々に現在出力を増しているという状態でございます。
その
あとの計画でございますが、
アメリカで
一つ非常に認識されましたことは、高速炉用の
燃料の
開発が非常に大事だということ、それから安全技術の関係が非常に大事だということ、それらが認識されまして、その両方を目的に数万キロ
程度の
実験炉が現在
二つ計画が進んでおります。
一つはすでに建設が始まり、もう
一つはこれから建設が始まるという状態でございます。これらはいずれも相当大きくはなってまいりましたけれども、実験的な性格が強い。つまり将来の
実用の高速炉発電所のモデル、プロト
タイプ、
原型炉とはいいにくいものでございます。そういうような実験的な性格の強いもので
各種の
研究開発を行ないまして、いま
アメリカのいっておりますところでは、一九六九年ごろに電気出力三十五万キロ、これはもうかなり
実用規模かと思いますが、その
原型炉の建設を早めるというふうにいっております。
いよいよ高速炉の
実用化時代というときがきますと、
一つの発電所の出力がざっと電気出力百万キロぐらいで、その時期は一九八〇年代の初期ではないかという予想をしているようでございます。
ここ数年、年々高速炉の
アメリカの
原子力委員会における比重は徐々に高まっているように見受けられますが、現在千数百名ぐらいの科学者、
研究者、技術者が従事しておるようでございます。
予算のことは、これは先ほども
お話がございましたが、
ほんとうに高速炉に使っている予算だけを取り上げて計算するということは、実はなかなか困難でございまして、よくわからないというのが正直なところなんでございますが、完全に高速炉だけに使っているらしいと思われるものが、一年間にざっと二百億ないし三百億ぐらい今年度で使っているようであります。それで、予想としては今後十年間に三千億円ぐらいのものが純粋に高速炉という形で使われるということのようでございます。
次は、
イギリスに参りますが、
イギリスは今度行って非常に感じましたのですが、事高速炉に関してはたいへん自信を持っておりまして、
アメリカよりも
自分たちのほうが進んでいるのだということを何度も聞かされました。実際やっていることはどういうことかと申しますと、スコットランドの北端にドーンレーの
研究所というのがございますが、そこに数万キロの熱出力を持っております
実験炉を建設し、これは一九五九年の末に臨界になっておりますが、やはり
最初の仕事だけにいろいろな苦労があって、計画出力になりましたのはそれから二、三年たってからということなんですが、現在の時点ですでにまる三年ぐらい出力運転をして、特に
燃料の試験というようなことをやり、その
データをかなり持っている。その非常に貴重な
データを持っているということが
イギリスが非常に自信を持った原因かと見えるわけでございます。その経験に基づきまして、今年または明年といっておりましたが、これは予算が通るかどうかというような問題かと思いますが、今年、つまり六六年または六七年から電気出力にして二十五万キロの
原型炉の建設を始めるといっております。その経済性についてもかなり自信を持っておりまして、プロト
タイプは当然商業的に太刀打ちできるものではないけれども、そう大きな電力原価にはならない、その超過する部分ぐらいは当然
研究開発費としてジャスティファイされるだろうということをいっております。
その次に今度は大型の
実用規模のものをいよいよつくるわけで、これは楽観論としてはできれば一九七五年に大型の発電所を動かし出したいというふうにいっております。
人数は、これまた非常に捕捉しがたいのでございますけれども、まあ一千名ぐらいの科学者、
研究者、技術者が参加しておるのじゃないか。
予算といたしましては、今日の時点で、年間百億円ぐらい純粋に高速炉に使っている。これは将来
原型炉をつくるというようなことになりますと、当然増加の傾向といっておりました。
それからその次はソ連でございますが、ソ連は今度の旅行では行ってまいりませんでしたので、
調査団の
報告ではございませんけれども、ソ連は非常に独自のやり方をしておりまして、熱出力五千キロというようなかなり小さい高速炉を五年前から運転しておりまして、もう六年になっておりますが、それが非常に順調に運転が続いておる。ですから、そこで得られました
燃料の照射その他の
データは非常にソ連の財産に現在なっているというふうに考えられます。その後少しずつ大きいプラントについての、もうすぐつくらんばかりの詳細な
設計を何度かやったようでございますが、詳細
設計の段階でおしまいにしまして、つまりもうつくってみなくてもいい、さらにもう少し大きいものに進もうということだと思いますが、結局つくり出しましたのは、電気出力三十五万キロの海水脱塩と発電の二重目的の高速炉プラントをすでに昨年から建設を始めております。
それから次は
フランスでございますが、
フランスは米・英・ソに比べますと、だいぶんおくれて
出発したわけでございますが、そのおくれたことの利点をある
程度生かしている形と思われます。と申しますのは、初期の高速炉というのは金属を使っておりましたのですが、最近は
各国とも一致してセラミック、酸化物の
燃料を使うのが本筋であるというふうになってきておりますが、
フランスは初めから酸化物の
燃料というのをやる。それから
冷却材としましては、先ほど
お話しの液体ナトリウムというのに大体一本にしぼっている。ですから、現在、将来の大型炉としてイメージされているものを
最初からイメージに持って
出発することができたという点では非常に有利な点を持っております。それで、やっておりますことは、
実験炉としましてラプソディーという名前のものを現在建設中でございまして、今年一ぱいぐらいに完成というつもりでいるようでございます。その次のステップが
原型炉でございますが、
原型炉につきましては、すでにかなり詳しい
設計研究を何回もやっておりまして、第一回の
設計研究をAとし、その次をBとしというので、確か十ぐらいの
設計研究が発表されております。それで、ここ二、三年のうちに決心いたしまして、六八、九年ぐらいから建設を始める、そうして一九七二年には
原型炉の建設を終わるというふうにいっております。
組織としては、政府関係の
機関であるCEAという
原子力開発の
機関と、それから電力の
機関と民間の
産業界とが
原型炉の段階では非常に密接に協力していかなければならないということが現在の非常な問題だというふうにいっておりました。
人数も、これはなかなか把握できませんでしたけれども、やはり千名ぐらいはやっているのではあるまいかというふうに推定されます。
予算の点では、現在までに純粋高速炉に消費されましたのが約三百億円で、今後は増加の傾向ということのようでございます。
それから西
ドイツでございますが、これは
日本と同様に非常におくれて
原子力というものの
研究を始めたというのではありますけれども、
高速増殖炉の将来の価値ということをかなり初期に目ざめておりまして、一九六〇年から
ドイツにおける
高速増殖炉の
研究開発の第一期というのを
出発さしております。
ドイツの考えは第一期、第二期、第三期というふうに分けまして進めていっているやり方でございまして、第一期が一九六七年、来年で終わるということになっております。この間にやりますことはどういうことかと申しますと、かなり基礎的な技術
開発、冷却系の技術とか安全性の検討とかいうような問題、それと同時に、第二期につくろうと思っております
原型炉の
設計研究、
設計してはまた問題点を拾って技術
開発して、また次の
設計をやるというようなことをやっております。その第一期が終わりますと、再来年、一九六八年からいよいよ
原型炉の建設にかかる、こういうふうにいっております。
原型炉の建設について、やはり電気出力が二十五万キロといっておりますが、
ドイツでちょっと特色がありますのは
冷却材として必ずしもナトリウムにこだわらないで、スチームの冷却あるいはガスの冷却も同時にかなり力を入れて
研究している。現在の
意見としては、ナトリウムとスチームとは一長一短があって、将来の高速炉
実用時代に両立し得る
可能性がある。もし予算的な面が許すならば
原型炉を
二つつくって、片一方はナトリウム、片一方はスチームというようなことをいっておりました。しかし、これは、
ドイツは経済力があるといってもなかなかたいへんなことじゃないかとわれわれは思ったわけであります。その
原型炉の建設が終わって運転してみるという期間が一九七三年まででございまして、一九七四年からが第三期というふうに称しております。ここで大型の
実用的な高速炉発電所をつくろうということのようであります。
携わっております人数は、定義のしようでどうにでもなると思いますけれども、主として高速炉を
研究しておりますカールスルーエの
研究所の職員が約二千名でございます。しかし、この中には
研究者や技術者ではない、もう少し簡単な作業をしておる人も多数含まれております。それから高速炉以外のことをやっておる人もいると思いますので、これよりはかなり人数は少ない。
予算面で申しますと、来年までの第一期に一応の予算が二百二十五億円というふうに組んでございまして、現在すでに半分以上を使ってしまっておるということでございます。将来
原型炉を
二つつくるということになると、非常なお金が要ると思いますけれども、今後十年間に
動力炉開発全体として年間八百億円ぐらい使えるといいんだがなということをいっておりましたが、これはやっている担当者のほうの話でございますので、それだけ使えるかどうかははっきりしておりません。
各国の高速炉
開発の現況は大体以上のようでございます。
それで
調査団としまして、こういうのをいろいろ見たり聞いたりして、
わが国でも高速炉
開発はぜひ取り上げたいという気持ちを強く持ったわけでございますが、その際に、今後慎重にやっていかなければならない問題点はどういうことだろうかということを
議論いたしましたけれども、
一つは、これだけの大きな仕事でございますから、当然
国際協力という面が入ってくる。なるべく広く
国際協力がやりたい。しかし、何といっても
日本人はまだ
国際協力、一緒に仕事をするというのにふなれでございますから、相当しっかりやらなければならぬなということ、それから先ほどの
お話と重複いたしますが、
世界の
情勢はどんどん動いておりますので、情報を早くキャッチして、もうちょっと前に言ってくれれば協力できたのにということを言われないように、即応性がなければいかぬ。それから、高速炉といえども、そう先の先の話ではございませんので、
わが国で何から何まで
研究開発するということは不経済でもあるし、困難でもある。だから、将来の一流工業国としてぜひ持っていなければならないような技術に重点を置いてやるべきじゃないか。そういう技術は何かと申しますと、特に
日本では国土も狭いし、安全に関係する技術の
開発と、それから
燃料の製造というのはやはり
原子炉のキーポイントでございますので、
燃料の製造及びその再処理の技術、それから高速炉は、液体金属などを使うように冷却系統として画期的にむずかしいものでございますので、その冷却系統の技術、そんな三点に特に重点を置いて
開発する
実験炉、
原型炉と、できるだけ早く進んでいきたいものだ、こういうふうに感ずる次第でございます。
それに関連しまして、重点をしぼるということはどこまでも
開発でございまして、
研究開発と一口に申しますが、
開発というのは品目をきめてそれに向かって邁進していくものである。一方、
研究というのは、あることを
研究したらそれを一般化する。一般の法則にするということを常に考えることかと思いますので、これは
研究である、これは
開発であるということを、ある
程度筋を通してやっていく必要がある。そういう基礎
研究というものは、十年以上の
あと、二十年くらいたって高速炉が本格的な時代に、非常に
日本の力になるのじゃないかというふうに考えております。
それから、
研究開発用に
プルトニウムが必要なわけでございますが、現在
日本はほとんど持っておりませんので、これを少なくとも初期においては
外国に依存せざるを得ない。これは政府間の折衝になると思うのでございますが、これをかなり熱心にやっていただかないわけにはいかない。それから、同時に、
日本の発電所から出てきました
プルトニウムの再処理、回収ということはぜひ進めておかなければならぬと思っております。
最後に、こういう大きな
開発の仕事というのは、われわれとしてはあまり経験がない。新幹線その他例はございましょうけれども、あまり経験がございませんので、特に政府関係の
研究機関、それから基礎のほうでは大学、それから
産業技術のほうでは民間の力というものを、非常によく結集させるための組織なり、ことばは適当でないかもしれませんが、参謀本部的な活動ということが非常に大事になってくるのじゃないかということを思って帰ってきた次第でございます。