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檜山参考人 私はもともと魚の学者でございまして、ビキニのマグロの事件からこういう問題を研究するようになりまして、自来十数
年間、主として
環境の放射能汚染、ことに海洋について研究をいたしてまいりましたものでございます。
今日、われわれ人類の
環境はずいぶん放射能によって汚染をされております。その程度については、後ほど図表をもってお目にかけますが、その原因は主として
核実験によるフィッションプロダクト、降下物によったものであったのでございます。しかし
アメリカとソ連が、この傾向では人類の公衆衛生に将来
影響を及ぼすのではないかという事態を察知いたしましたので、
地下実験に切りかえたために、その傾向はだいぶ弱まってまいりました。しかし
中共、フランスその他の国がまだ
実験をやっているということによって、多少の降下物の増加というものが見られるのは残念なことでありますけれ
ども、それよりも、
平和利用による
環境汚染というものが急速に問題化しているのが現状でございます。これは御承知のとおり
原子炉から出ます、小さいものと申しますと冷却水でございますが、大きなものはそこから出ます廃棄物であり、ことにわが国の
原子炉においても将来問題か——もう将来ではございません。かなり近い将来に解決しなくちゃならない燃料の再処理の問題がございます。
こういう放射性物質をばらまくのに、人類の公衆衛生に非常にぐあいを悪くするのは、まず第一に、空に広い
範囲にところかまわずばらまいてしまうやり方、これが一番大きなぐあいが悪いことでありますが、海洋に投棄しなくてはならない条件がたとえありましても、海洋もかなりの早さで循環をいたしましてミクシングをいたしますので、陸地にものを置きますのとはずいぶん違うわけであります。したがって、
環境への放出というのは、空、海、陸という順に悪さが減ってまいります。
影響の度合いが減ってまいります。
人類にどういう
影響を及ぼすかということは、私がここで申し上げることもないと思いますけれ
ども、もう一度
あとでいろいろ、
中共の
核実験の
影響とか、あるいは動子力
潜水艦の問題、あるいはこれからの燃料再処理の問題などを考える上に一応ここで申し上げておきたいことは、このラジェーションハザード、放射線による
影響というものを、
環境汚染によって起こされたものとして見る場合に、外部照射と内部照射、つまりガンマ線を出すようなものが外から
人体を照射する場合、それから食べものに入る、あるいは空気にそれが入りまして、
人体の内部からからだを照射する、
二つに分けてわれわれは考えておりますが、
環境汚染の場合、ごく特別な場合、たとえばビキニの環礁における
実験によって第五福竜丸の乗り組み員が照射を受けたというのは、主として外部照射でありまして、内部照射は死体あるいはその他のものを分析しましても、その量はたいしたものでございません。その障害はほとんど外部照射によって起こったものに違いございませんが、これはごく特別な例でございまして、それ以外にわれわれが将来の
原子力の利用その他にかんがみて見なくてはならないのは、やはり空気及びことに食物によってからだの中に取り入れられて、たとえばストロンチウム九〇はからだの骨に入ってずっと長くその組織を照射することによって、白血病その他ガン類似の病気を起こすというふうなことが問題になるのでございます。御承知のようにそういう
影響はすぐ出てまいりません。急性の
影響というものと、慢性の
影響というよりは後発性の
影響と、
両方ございます。急性の
影響は、たとえばビキニのときの久保山さんがなくなったように、
新聞その他で非常に盛んに注目されますけれ
ども、後発性の障害というのは、今日いまだ広島、長崎の被爆者に白血病が出ているように、ずっと時間が
あとになってまいりますので、今日までの
核実験によって内部照射の量がふえて、だれがそれによって死んでいるという確認ができません。したがいまして、これはジャーナリズムあたりのフットライトを浴びるということはございませんが、今日世界じゅうに死ななくてもいい非常にたくさんの人がおそらく
核実験の
影響で死んでいる人があるはずでございます。これはだれがどうということはないもので、非常に行政その他もおやりになりにくいし、一般の理解が少ないので、いろいろぐあいの悪いことがございましょうと思います。
もう
一つは、さらにわれわれの将来、遺伝にこの放射線が
影響するので、将来の人間像というものへの
影響をわれわれは今日の時点において考えなければなりません。この三つ、急性と後発性のもの、慢性、それから第三は遺伝、この三つを考えてみないと、われわれはほんとうに国民あるいは人類のためのことを考えることができないのでございます。
ここにいま持ってまいりました図表は、これと同じことは
科学技術庁原子力局でもやっておりますが、これは文部省のほうが例のビキニのときから始めて非常に古くからやっておりますので、歴史的につながるのにぐあいがいいので、文部省のほうの科学研究費によるもので私が責任者としてやっている値を持ってまいりましたが、科学
技術庁ではそれよりおくれて始めましたが、結果は非常によく似ております。
〔図表について説明〕
ここで申し上げたいことは、あのビキニのマグロ事件の騒ぎのときに、あれはまさに騒ぎが非常に大きかったのでありまして、実際は地表に降ってきました、
あとまで残って——半減期が二十何年という、
あとまで残って白血病を起こすであろうというストロンチウム九〇の量はほとんどゼロであったのです。ところが、あのくらいの騒ぎをするなら、今日ジャーナリズムはよほど書き立てなくてはいけないくらいに地表における蓄積量もふえておりますし、また、食べものの中の放射性物質の量、これはストロンチウム九〇で代表しておりますが、それが非常にふえているのでございます。この下に縦に書いておりますのは、一カ月に上から降ってきた量でございます。これは気象研究所の地球化学研究部で出したデータでありますが、毎月落ちてきたもの、主として大部分が米ソのものでございまして、その他の国ではこれの中にはごくわずかしか含まれておりません。こういうふうに集中的に
核実験をいたしますと、これが非常にたくさん落ちてきます。
ところが
日本人の食べものというのは、国連科学
委員会の報告その他では、
アメリカではこういうものが降ってまいりますと、ほとんど牧場の草に落ちまして、それを牛が食べまして、乳になって、人間のからだへ入るという形になりますので、非常に新しいのでございますが、
日本は主として一
年間に一回しか収穫できないような米というものを食べておりましたり、そのほかに保存して食べる食品が非常に多いために、この山が約半年おくれる。ここにピークが出ますとここにたくさんピークが出る、つまり
核実験がたくさんありますとここにピークが出る。こういう現象が起こりますので、さっき申し上げましたような急性の病気を起こすような短寿命の核種による障害、たとえばヨード一三一とかそういったようなものがほとんど
日本においては、欧米では心配されますが、心配しなくていいという特殊な食習慣を
日本が持っておる。これは欧米のデータによってわれわれの国民の健康を考えることはできないいい
一つの資料だと思っております。
これで見ますならば、
中共の
核実験がこの間ございましても、実際にストロンチウム九〇の降下量がふえてきたり、それが食物になってくるのはずっと
あとでございまして今日まだ
影響は出ておりませんけれ
ども、こういうことをいたしますのに、どうも分析に時間がかかりますので、科学
技術庁のほうも文部省のほうもまだ資料が出ておりません。
この蓄積量はこういうふうにふえておりますが、これは東京でございますが、秋田とか山形はこれの三倍ぐらいな量にふえております。あの量がふえますと、食べものの量がふえるのでございますが、さっきのデータにもございますように、わりあいとこのごろは上が平らになってまいりました。平らになったということは、少しは土から流れて出て、蓄積量の一割ぐらいが外へ出ておるというふうにわれわれは思っております。
これがその食べものの中の内訳でございまして、こっちがストロンチウム九〇で、こっちがセシウム一三七でございますが、これは六五年、昨年の十月の東京の例を持ってきたのでございますが、どれを見ましても大体の傾向は同じでございます。
食べもののほうをこういうふうに分類してみますと、ストロンチウム九〇にしても、セシウム一三七にしても、海産物による——これは海藻でございます。これは魚介類でございますが、海産物で、この赤いほうがパーセンテージでございますから、これをごらんいただきますと、海産物が人間のからだへこういうものを持ってくる場合は非常に少ない。と申しますのは、海に落ちた分はみなダイリューションをされますが、陸に降ったのはこれがないということでございます。一番たくさん入っているのがストロンチウムについてはやはり穀類、主として米でございます。それから
あと豆とか野菜の類から入ってくるのが非常に多い。セシウムの場合には肉類から入る。これは牛や何かが草を食っております。その草を食っているのがからだの肉の中へ入ってくるのであります。ストロンチウム九〇のほうから申しますと肉は少のうございまして、一番大きいのが葉っぱを食べる野菜、つまり小松菜とかホウレンソウとか、ああいうものから入ってくるのでございますが、穀類から入ってくるのが非常に多いのでございます。これがある程度になったら人間の健康によくないことは御承知のとおりで、
原子力局で前に、私がそれの
委員長を仰せつかったのでございますが、こういうものがどのくらいになったらどういうアクションをとらなければならないかという暫定指標というものがございますが、それがだんだん上へ上がってきて、それに近くなってきて、何かアクションをとらなければならないようにそのうちなるかもしれませんが、もしそういうふうになりましたとしても、今日までわれわれの力によってこれをどうしたら防げるかという研究ができてきております。しかし
技術的にはそういう研究か
開発され——たとえは牛乳が乳幼児に対して非常に大きな
影響を及ぼしますので、もし牛乳の中のストロンチウム九〇、これはおとなでございますから牛乳が少ないのですが、乳幼児でありますとこれが一〇〇%になる。乳幼児のからだの骨の中へどんどんストロンチウム九〇が入ってくるのを防ごうとする必要がもしございますならば、今日では
技術的にストロンチウム九〇だけをきれいに落とす
方法ができておる。それからまた牛の中へ入れないように、牛の食べものの中へカルシウムを入れてやる、そういう
方法もできております。それからまた、米の中へストロンチウム九〇が入ってくるのを防ぐためには、酸性土壌に石灰をまけばいいということも
結論が出ております。これはわれわれがやりました
技術の
開発によってできている。いつでも
政府のほうがやれとおっしゃったらその
技術は応用できるのでございますが、問題はたいへん多額の費用がかかるわけでございますから、国民の税金をこういうのにこのくらいかけていいかどうかというのは、その度合いがどのくらい国民に障害を与える状況になっているかということと見合わせて御判断になって適当な施策をなさるのがよろしいのではないかと私は考えます。
これは東京でございますが、地方、秋田とか青森、そういうところは非常に大きなものであります。
次に、海の魚はどうなっておるかということをお目にかけますと、ビキニの
実験がありましたのは五四年だったと思いますが、ビキニの
実験がありましてから、ビキニの環礁の付近がたいへんに汚染をされたわけであります。それが黒潮に乗ってまいりまして、
日本近海の魚をはかってみますと、これはストロンチウム九〇というのを出したのでございますが、単位がちょっとむずかしいので説明を略させていただきますが、この黒まるは海の表面に泳いでいる魚、白まるが中層に泳いでいる魚で、三角が海の底にいる魚でございます。それを見てみますと、ビキニの当時は表面のがたくさんございまして、まん中が少なくて、底が一番少ない。つまり上側にずっと落ちたということがよくわかるわけでございます。これはこちらは対数で書いてございますからたいへんな違いでございます。軸は対数でございます。それがだんだんこっちへ薄まってきて、広がってきて、数年の間に上と下との
関係がほとんどなくなる。つまり底の魚がこんなに上へ上がったり、それから表面の魚がこんなに下がったり、よくまざったということがこれでよくわかります。ところがこれはビキニのときの
核実験の
影響でございますので、ここからこう上がるのでございます。この上がるのは、そんなに
核実験はやっておりませんし、上から陸地に降っている量と同じ量が海に降るとすれば、こういう計算が出てくる。それにしてはばかに上がり過ぎるということになってくるのです。もうすでに御承知のように、何十隻という
原子力潜水艦が方々走り回っているわけでございますが、そういったものからの廃棄物、ウェーストというものがこれから海洋汚染に対してもかなり
影響してくるかもしれません。しかし必ずしもこれが
原子力潜水艦によって上がってきているのだとは私は申しません。もちろん上からの降下物プラスそれでございます。ですが、将来は船からの廃棄物あるいは海洋投棄を、廃棄物の再処理をやることによって海洋の汚染度もだんだんふえてきて、むしろ問題は先ほどお目にかけたように、今日は非常に海からのものが少のうございますが、問題は、将来の問題がかなり大きくあるということでございます。
これに比べますと、淡水の汚染は非常にひどいようです。これはいまの単位の約十倍にとってございます単位でここに書いてあります。つまり降下物というものだけを主として考えるとすれば、海に落ちたのは薄まる。けれ
ども、湖水や川に落ちたのは薄まらない。ことに湖水のごときは、上から降ってきて蒸発して濃くなっていくことさえあるくらいでございますので、これはいろいろ霞ケ浦とか千曲川とかその他の淡水魚でございますが、海の魚に比べますと、安定性のストロンチウムの排出量が約十倍ございます。これはちょうど計算でもうまく合うことでございます。
海に放射性物質がございましたら、それが海産生物にどういうふうに入っていくかということをちょっと簡単に図で御説明申し上げますと、これがある放射性物質を——この赤いのを先に御説明いたしますと、何か放射性物質を口に入れて食べた、つまりえさから入った、これは
実験的には注射しても同じであります。そうしますと、きゅうっと上がりますが、しばらく水の中に入れておきますと、こういうふうになくなってまいります。この落ち方がいわゆるバイオロジカルディケイと申しますが、生物及びそのニュークライド、核種によってもずいぶん違うわけです。これを非常にいろいろなことの計算に使います。どういうふうにふえるか。その次に黒い線でございますが、これはある放射性物質をある濃度で持っているところに魚を放しますと、主としてエラでございますが、何にも物を食わせなくても放射性物質がからだの中に入っていく。この入っていきますのは、時間とともにこういうふうになりまして、ある期間については、ここで平らになるところがございます。これを、われわれは底にあります海の水の中の濃度との比、濃縮係数といっております。これがニュークライド核種によりまして違いまして非常に多いものもございますし、少ないものもございます。そういうふうにして汚染された魚を、今度は放射能がない海水の中へ入れてやりますと、これと同じような形で下がってまいりまして、放射能はなくなるのでございますが、今度は海水のほうはたいていの場合、どこかへアイソトープとかあるいは放射能を入れますと、それが外に行くたびに薄まってまいります。これは薄まっていくところを見ますと、薄まっていくのに従ってどういうふうになっていくかというと、体内の濃度も減ってまいりますが、これだけ幾らかの時間がずれている。この時間が、ものによりますと一時間、あるいは数日、これはものによってといいますか、魚の種類、それから核種の種類とのコンビネーションが非常にたくさんできますが、これは実は科学
技術庁から補助金をいただいて、みんな大ぜいで研究をしているところでございます。こういうことをやりますと、
あと実際に海の中に放射性物質が出ましたときに、魚がどういうふうに汚染されるかということを理論的に計算することができるのでございます。
先ほ
ども申しましたように、将来の問題といたしましては、燃料再処理の問題が海洋汚染としてはわれわれ一番問題だと思っております。
日本とか英国とか、そういう国では、海をある程度までこういうものの捨て場にどうしても使わざるを得ないのはいたしかたございませんが、何とかして
原子力産業と、また
日本人は魚を食べますので、水産業と両立していく道を科学
技術的に見つけなければならないと私
たちは思っておりますが、今日までわれわれが考えておりますところでは
二つの
方法がある。
一つは、薄いものをある量だけはわりあいと海岸に近いところから放出してしまう、しかし多量のもの、それから濃いものはそれをパックしまして、海水に溶けて出ないような形にしてなるべく深い、海の底か何かにそっと沈める、この
二つの
方法以外にございませんで、多量のものを沿岸から出すということはできるわけではございません。何とかして公衆に
影響のないような
方法、しかもこれから
原子炉が方々できますと、それから燃えかすがどうしても出ますから、それを始末する
方法を見つけなければなりません。その
二つの
方法を考える以外にないと思っております。
そこで、まだ問題点がいろいろございます。それはビキニのマグロの事件のときに、あの捨てたマグロは、実はみな食べられたマグロでございます。つまり騒ぎが先に出まして、
新聞があれだけ騒ぎますと、食べものなんていうものはいやになるもので、いやになると食べません。それでむしろそういったような神経的に放射能がきらわれたという現象であったわけでございます。今日どう計算してみても、それは許容量の百分の一よりもっと下のものでございます。しかしあれがもし食べられなければ、今日の食品は何
一つ食べられるものはございません。しかし食品を食べないと人間は死ぬにきまっております。また食品を
生産している多くの国民がたいへんなことになるわけでございます。ここら辺のところをどう調整していくかというのが最もむずかしい点でありまして、私は単なる東大におります学者でございますが、また各方面の行政機関の御相談にも乗っておりますが、これに
関係のあるお役所、たとえば厚生省、農林省、それからもちろん科学
技術庁の
原子力局、これらのお役所が繩ばり根性を捨てて、よく話し合われて、そして最も賢い道を見つけられるように、私
どもはそこにどういう考え方をしていくかというプリンシプルについては、幾らでも提供いたしますから……。そういたしませんと、将来の問題は非常に心配になる点が非常に多うございます。
大体私の申し上げることは以上でございます。