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萩原参考人 ああいう
松代地震のような
地震の
頻発ということは、これまでしばしば
日本では起こったことでございます。特に
昭和の初めに伊豆の
伊東で起こりました
頻発地震が非常に有名でございますが、そういうたくさんの
頻発地震を私
ども経験しておりますけれ
ども、
松代のようにああいう非常に長
期間にわたって
地震があれだけ
頻発したという
経験を私
どもは持っておらないのでございまして、まことに初めての
事態にぶつかったわけでございまして、いままでの
経験からいろいろ割り出して判断をしていく
資料に欠けているのでございます。
最初は、この
松代地震が、かつての
伊東の
頻発地震のように大体三カ月くらいで終わるのではないかというようなことを考えておったのでありますが、それがなかなか終息いたしませんで今日に至っておるわけでございます。そういうわけで、まことに初めての
事態、これは
日本で見ましても非常に珍しい
現象であり、もちろん世界的に見ても非常に珍しい
現象であって、
学問的にも非常に興味のあることでありますので、私
どもは全力をあげましてこの
観測、
測量、
測定等を行なっておるわけでございます。
しかし、
何分にもこの
地震の
現象ということは、
研究の上から見て非常にむずかしい問題でございまして、まず
地震がどうして起こるかという
地震の
原因論がございますが、これも今日、学界におきまして
幾つかの説があるような次第であって、私
どもはそういう地表における各種の
観測、
測定によってこれを明らかにしようと
努力しておるわけでございまして、
松代の場合もこういうことで
地震が起こっているのだということを端的に申し上げる
段階ではないのでございます。実際いままでに行なわれました
観測などを照らし合わせてみましても、あるものはいわゆる
構造地震であるというようなことを裏書きするような
資料も出ております。また一方、いわゆる
溶岩説と申しますか、
マグマ説と申しますか、そういうものを裏書きするような
資料も
幾つか出ておるというような次第で、いま
専門家の間でも毎日議論が行なわれているようなわけで、はっきりどちらということをいま言える
段階ではないのでございます。
松代地震は
衰退期に入ったということがいわれておりましたが、最近、この三月八日及び十日に
震度四の
地震がございました。ちょうどそのころから再び
地震回数が増してまいりまして、今日の
状態を見ますと、昨年の十一月二十二日、二十三日に非常に
地震回数が多く、そうして
震度四という
地震が
幾つか続けて起こった時期がありますが、それが
最盛期というふうにいわれておりましたが、昨日あたりまでの
地震の起こり方を見ますと、はるかにそれをしのぐような
状態になっておりまして、まだ終息どころか、非常に勢力が大きくなっている。ただいまのところは
地震回数だけがふえておりまして、非常に大きい
地震、マグニチュードの大きい
地震がまだ起こっておりませんが、これも大きいのが起こるのではないかというようなことを思わせるような
回数の増し方をいたしております。こういうような
状態でございまして、私
どもできるだけのそういう
観測、
測定ということを行なっておりますが、これは今日そう簡単に
結論を、つまり
原因論に対して
結論を出すということはできない
状態であります。これは
松代の
観測をこの半年くらい行なったからといって、そういったいろいろな
発震機構の問題、いわゆる
地震原因論というものがそう簡単に片づくとは思っておりませんが、こういう
地震の
原因といったような問題は非常に長
期間、何年にも何十年にもわたった非常に粘り強いそうした
観測の結果はっきりしてくるものだと思っております。そういうわけで、今日早急にそういう問題が解決するとは思っておりませんが、しかし非常に浅いところでああいう
地震が起こっているということは、とにかく
原因が浅いのでありますから、それだけ
調査しやすいことで、これは
地震学の
研究にとりましてはまたとない機会だとわれわれ思っておりまして、できるだけの
調査研究をいたしたいと思っております。
なお
豊野町の
隆起の問題でございますが、これは御承知のように、昨年の
国土地理院の
測量によりましてはっきりしてまいったのでございまして、最近の八年間に、過去に比べて非常に
隆起の速度が高まったということでございます。これは
地震の前にそういう
地殻の変動の異常があるということは考えられることでありまして、そういうことから
測量をひんぱんに繰り返せば
地震の
予知に役立つであろうということを私
ども主張してまいったのでございますが、こういう
国土地理院の
測量は、元来は
日本の正確な
地図をつくるということが目的でございまして、そうひんぱんに
測量の
繰り返しをやる必要はないのでありまして、いままでは三十年に一回の割合で行なわれていたような次第であります。
地震の
予知ということが重要視されまして、
地震予知計画というようなものができましてから、
国土地理院ではその
間隔をできるだけ短くするように
努力を続けられてきたのでありますが、それとてもごく最近のことでありまして、われわれは非常にひんぱんな
測量の
繰り返しによって
——地殻がどういうふうに動いているかというこまかいことに対する
知識がまだ不足しておるわけであります。そういうわけで、
豊野にああいう
隆起が起こったからといって、これは確かに異常であるが、こういう短い
間隔で
日本じゅういままで何回もやられて、
日本全体のそういう短い
期間の動きというものがもっとはっきり知れておれば、もう少しはっきりした
結論を申し上げることができると思うのでありますが、
何分にもそういう
資料にまだ乏しい
状態であります。こういうような次第でございまして、今後こういうふうに
測量がひんぱんに行なわれますれば、こういうことに対する
学問は急速に発達していくことと思うのでございます。
こういう次第でありまして、まだ残念ながら非常に不明な点、もうろうとした点が非常に多いのでございます。このためにいろいろの
報道関係、それから
現地の
方々、そういう人から御
質問を受けたときに申し上げる答えが、何か奥歯にもののはさまったような、非常になまぬるい
表現になってしまうのだと思います。そのためにそういうなまぬるい
表現が
現地の
方々の不安のもとになるのではないかと察するのでありますが、そういうただいまの
学問の現状といたしまして、そういう
地震の
予知の
研究計画がまだスタートしたばかりでありまして、その
計画によりますと、そういう
計画が全部スタートして今日から全部行なわれたとしても、十年そういう
観測なり
測定が続けられて、そこで初めて
地震予知にこれがどういう形で実用化できるか、そういうことに対してはっきりとした
見通しができるということを申しておるのでありまして、今日
地震予知というものがまだ実用の
段階にはるかに遠いところにある
状態におきまして、われわれの世間に発表する
ことばがどうしても非常にはっきりとした
表現を欠くということになるのだと思います。