○
坂本参考人 国鉄の
運賃の
値上げに基本的に賛成いたします
理由は
三つございます。第一は、
事故の防止という点でございます。それに
運賃の
値上げが少しでも役に立てばたいへんけっこうだ。第二の
理由は、
住宅難及び
地価の
高騰を防止する
一つのきめ手が
鉄道の
建設だという点であります。それに
運賃の
値上げが役立てば、これまたたいへん喜ばしい。第三には、
日本経済の景気を本格的に引き上げる次の
主導産業部門として、われわれは
鉄道と
住宅と都市の再開発を
考えておりますが、そういう
産業については
抑制措置をとってはいけない。この
産業を促進するようないろいろな手をとってい
ただきたい。
運賃値上げに反対することは、事実上、そういうことを抑制することになりますので、われわれはそういう
態度をとっていない。この
三つの点でございます。
三つの
理由の中で多少強弱がございます。あるいはタイミングがございます。第一に申し上げましたのは比較的緊急の
理由でございます。第三に申し上げましたのは、少し中期的、長期的な観点に立っての
理由でございます。
まず第一に、
東京都の
世論調査によりますと、
東京という町が持っております不愉快さ、それの第一位は、昨年までは
物価高でございました。
東京はいろいろ便利だけれ
ども値が高い。しかしことしになりまして
調査をいたしますと、
交通事故の危険というのが、
東京が持っておる不愉快の第一位になってきております。多くの
方々もばく然とではありますけれ
ども、このままでは非常に大きな
事故が起こるのではないだろうか、
人命の殺傷が起こるのじゃないかという御心配が
世論調査に出ておるわけであります。われわれはそのことを何とかして防ぎたい。値は安いにこしたことはありませんけれ
ども、
人命ほど高いものはないということを御注意
願いたいわけであります。人がなくなってから涙を流してもしようがないので、なくならない前にあらゆる手を打つべきだ。その手の内には直接
規制もございます。たとえば
乗車効率が二〇〇%か二五〇%をこえれば、どんな
理由があっても乗せない、こういう直接
規制もございます。もう
一つの
方法は、
運賃を上げることによって
需要供給を調整する。そして
供給力をなるべく早く
増強する、そういう案でございます。われわれ、
経済学者でございますから、どちらかといえばお金に訴えてそういう問題を解決するほうに傾きがちであります。それ以外の
方々は、それ以外の
方法、たとえば
時差通勤とか、いろいろな
方法があると思います。しかし率直に言えば、
安全性を金で買うべきだ、そういう
態度を失ってはいけないそれが第一の
理由でございます。
第二の
理由は、現在、これまた大都会においてたいへん深刻な
一つの問題は、
住宅難あるいは
地価の
高騰でございます。多くの
方々が長期的に働く
勤労意欲の根源は、自分の住むべき家を持って、家族仲よく暮らしたい、そのために普通の能力のサラリーマンは一生懸命働くわけであります。それが現在かなり絶望的な
状態に近づいております。ところが宅地の
材料、つまり農地でありますが、それは
東京の
周辺に限りましても非常にたくさんございます。たとえば
東京の
周辺で申しますと、
東京の
東北地区の部分でありますが、この辺ですと三十キロ参りますと坪三、四万円でございます。
東京の西南地区でございますと、四十ないし五十キロ参りますと坪三、四万円でございます。ところがわれわれは幸いに、新幹線というものすごい技術を持っております。その技術をもし都市近郊の
通勤用に導入いたしますと、一時間五十キロから百キロ行くのは決して不可能ではありません。そういう技術を持っておる。その技術をどうして導入しないのか。これを妨げておるのは公共料金全体に対する
抑制措置であります。現在農地は非常に上がっている。その上に一時間ないし一時間半で通える
鉄道が導入されれば、そこは
住宅用地になる可能性があるわけであります。そういう
鉄道の導入が
地価というものを、
住宅難というものを克服する非常に大きなきめ手でございます。そういう意味で、われわれは都市の
通勤鉄道にもっともっと多くの
投資が行なわれるように、そういう方向を
皆さんで
考えてい
ただきたいと思うわけであります。われわれは
通勤定期については比較的安いので得をいたします。しかしそのために現在四、五十キロ圏内で
土地を探さなければいけない。そうしますと、ずいぶん高い
土地を買っておるわけであります。一方では得をしたつもりでありますけれ
ども、他方では非常に大きな損をしておる。
通勤定期が、たとえば月千円から二千円に上がれば千円損であります。しかしわれわれは家賃を月々四千円から五千円も払う。もっと払っておる人が一ぱいありますが、そういう損を何とかして減少したい。そのきめ手の
一つが
鉄道、なかんずく都市高速
鉄道の導入であります。
日本経済がそういうことを怠ってはいけない。以前、
鉄道は三回抑制されております。
一つは戦時中であります。もし戦争がなければ昭和の初めにかけて
鉄道の大復旧があったろうと思います。二番目には戦後の復興でございます。農業及びエネルギー
産業を伸ばさないといかぬということがございましたから、都市のほうの
鉄道は少しおくれがちになりました。その次は重化学工業であります。昭和三十年代は重化学工業のところに重点を置きました。これがためにまた大都会の
鉄道体系を改善するというチャンスをあと回しにしたわけであります。現在公共料金を押えることによって、
物価対策の一環としようという議論が起こってまいりますと、ここでまた
鉄道の発展が妨げられるわけであります。そのことが、なるほど
物価という点からいえば、若干の効果があるかもわかりません。しかしそれによって失うものは非常に多いと言わなければなりません。
第三の
理由、これが
日本経済全体の次の主導部門を探さなければならぬ、そういう
理由に関連してまいります。ごく大まかに申しますと、二十年代の主導
産業は農業とかエネルギー
産業でございます。
国民に最低限度のおなかをふくらましてもらう、
国民の発展の基礎であるエネルギー
産業を大いに伸ばしていく、
政策の重点がそこに置かれました。昭和三十年代になると自由化と重化学工業を推し進め、
日本経済全体の雇用力を高める関連効果を持っておる戦略
産業、鉄鋼、石油、石油化学、機械を十分に伸ばしていこう、ここでかなりわれわれは成功いたしました。昭和四十年代のリーディング・セクター、主導
産業として、われわれは都市に関連する
鉄道、
住宅、都市の生活環境や都市の再開発全体、こんなものを
考えております。
皆さんにお
願いしたいことは、特に国
会議員の先生にお
願いしたいことは、われわれ農業に対してどういう手を打ってきたかということをお
考え願いたいと思います。
事業税はわりあいにまけております。固定資産税は現在わりあいに低く取っております。減税をやっております。一方農地改革のためにはいろいろの直接、間接の補助金を出しております。しかもそれが、つくった品物については二重価格で、なかんずく米についてはやっております。同じことを次の主導
産業である
鉄道や
住宅についてやってい
ただきたい。
鉄道や
住宅については、たとえば減税措置を、たとえば
一般的な意味での補助金を、そして二重価格を、こういうセンスでやってい
ただきますと、
日本経済全体の現在の不況、これはたいへん深刻でありますが、それをもう一度大きく伸び上がらせるための新しい主導の部門、
住宅はある意味で総合
産業でありますから、われわれは多くの人の望んでおる
住宅を与え、その上快適な生活環境をつくる。このことは目の前の消費者
物価の上昇という苦痛に比べて、潜在的に支払っておるいろいろな大きな苦痛を取り除く。われわれ
経済学者は、
国民の
方々が短期的に目をお向けになって、短期的な意味で公共料金引き上げに反対になる気持ちはわかりますけれ
ども、しかし長期的、社会的、全体的な観点に立って、そういう大きな利益があるのに、それを獲得できないでいるという状況を改善してい
ただきたい。こんなふうに思うわけであります。それが基本的に
鉄道というものの
運賃の
値上げに賛成する
理由でございます。
ただ、いま
国鉄がやっておりますすべての事柄にわれわれ賛成というわけではございません。いろいろな点で改善してい
ただきたい点が一ぱいございます。まず第一には公共サービスでありますが、独占性を一部持っております。独占的な力を持つものは、それだけほかの
産業に比べて、より多く
経営能率の改善に
努力する義務があるわけであります。特権は義務を伴うと申します。そういう意味で
経営能率の改善については、いままでよりも一そうきびしい
態度で、
皆さんがいろいろな勧告なりあるいは批判なりをしてい
ただきたい。そういうものが要る。それと公共料金全体の
値上げとの
関係をもっともっと前向きにしてお
考えをい
ただきたい。これが第一の提案であります。
第二の提案は、非常にダイナミックに変わっております社会にわれわれ住んでおりますが、そういうダイナミックな社会の中では、たとえば公共サービスの料金全体についてスライディング制を御検討
願いたいという点であります。ほかのいろいろなものの値段は、たとえばわれわれの賃金で申し上げますと、年一〇%前後上がります。いろいろな消費者
物価についてもかなり上がるものがございます。ところが公共サービスは議員の先生方の月給をはじめとして全部絶対額できめるという習慣があります。これは戦前
国民所得が平均四%伸びて、民衆の生活水準が平均二%ぐらいしか伸びない、そういう場合にはふさわしい
方法であります。現在のように激しく変わりつつある時代においては、スライディング制というものを公共セクター全体について御検討願わなければならぬのではないか、そんなふうに思っております。
三番目には、
国鉄が現在持っておりますいろいろな資産をもっとじょうずに
利用するという
方法、たとえばわれわれは前から時間別
運賃ということを御検討
願いたいというふうに御提案しております。比較的すいているときには安く乗せる。込むときには高く乗せる。そういう時間別に
運賃を区別することによって、現在持っておる資産を生かして
運賃を上げ下げして混雑を緩和する、乗客のからだの疲れを少なくするとか、そういう
経営のくふうが要るのではないかと思っております。
さらに全体として、われわれは長期の展望をした上で、
日本経済全体の動向というものを
考えなければならない。公共料金の引き上げは
一つの
方法でありますが、それ以外に、たとえばさっき申しましたように
政府の施策の重点を変えてい
ただくこと、あるいは公債
——建設公債でありますが、
国鉄を
利用する人に公債を買うてもらう、そういう
方法、いろいろな
方法で現在は消費者
物価を上げるように作用しているお金を公共セクターのほろに誘導してくる。同じお金が現在は需要の側に回って消費者
物価を上げております。その同じエネルギーを供給側に持ってくる
方法、いろいろな
方法があります。それには公債を買うてもらうのも
一つの
方法ですし、公共料金を上げるのも
一つの
方法ですが、そういうようなことについて積極的な提案があったら、公共料金の引き上げについてはもっと小幅で済むかもしれません。あるいはどういう
方法でもかまわないと思います。しかし
日本経済全体の基本的な方向が都市に向かってきております。都市についてのいろいろな施設の改善に積極的に取り組む、その
一つとして、われわれは公共料金の
値上げに現在賛成をしておる。私の気持ちはそういうものでございます。(
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