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1965-12-01 第50回国会 参議院 日韓条約等特別委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十年十二月一日(水曜日)    午前十時三十三分開会     —————————————    委員の異動  十二月一日     辞任         補欠選任      高橋雄之助君     八田 一朗君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         寺尾  豊君     理 事                 大谷藤之助君                 久保 勘一君                 草葉 隆圓君                 長谷川 仁君                 松野 孝一君                 亀田 得治君                 藤田  進君                 森 元治郎君                 二宮 文造君     委 員                 井川 伊平君                 植木 光教君                 梶原 茂嘉君                 木内 四郎君                 黒木 利克君                 近藤英一郎君                 笹森 順造君                 杉原 荒太君                 園田 清充君                 田村 賢作君                 中村喜四郎君                 八田 一朗君                 日高 広為君                 廣瀬 久忠君                 柳田桃太郎君                 和田 鶴一君                 伊藤 顕道君                 稲葉 誠一君                 岡田 宗司君                 小林  武君                 佐多 忠隆君                 中村 英男君                 羽生 三七君                 横川 正市君                 渡辺 勘吉君                 黒柳  明君                 曾祢  益君                 岩間 正男君                 市川 房枝君    政府委員        法務政務次官   山本 利壽君        外務省条約局長  藤崎 萬里君    事務局側        常任委員会専門        員        増本 甲吉君        常任委員会専門        員        結城司郎次君        常任委員会専門        員        坂入長太郎君        常任委員会専門        員        渡辺  猛君        常任委員会専門        員        宮出 秀雄君    公述人        評  論  家  藤島 宇内君        一橋大学教授   大平 善梧君        東京外国語大学        教授       曾村 保信君        評  論  家  久住 忠男君                 平野 佐八君        評  論  家  中保 与作君        東京大学教授   高野 雄一君        会 社 役 員  宮崎 喜義君     —————————————   本日の会議に付した案件日本国大韓民国との間の基本関係に関する条  約等の締結について承認を求めるの件(内閣提  出、衆議院送付) ○日本国大韓民国との間の漁業に関する協定の  実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域  の設定に関する法律案内閣提出衆議院送付) ○財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済  協力に関する日本国大韓民国との間の協定第  二条の実施に伴う大韓民国等財産権に対する  措置に関する法律案内閣提出衆議院送付) ○日本国に居住する大韓民国国民法的地位及び  待遇に関する日本国大韓民国との間の協定の  実施に伴う出入国管理特別法案内閣提出、衆  議院送付)     —————————————
  2. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) ただいまから日韓条約等特別委員会公聴会を開会いたします。  本日は、日本国大韓民国との間の基本関係に関する条約等締結について承認を求めるの件、日本国大韓民国との間の漁業に関する協定実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域設定に関する法律案財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等財産権に対する措置に関する法律案日本国に居住する大韓民国国民法的地位及び待遇に関する日本国大韓民国との間の協定実施に伴う出入国管理特別法案  以上四案件につきまして、八名の公述人方々から御意見を伺います。  この際、委員長といたしまして公述人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  公述人方々には、お忙しい場合にもかかわりませず御出席くださいまして、ありがとうございました。当特別委員会におきましては、目下、先ほど申し上げました日韓基本関係条約等承認を求める案件及び関係国内法案の四案件の審査中でございますが、その参考に資するため各位の御出席をお願いいたし、御意見を拝聴いたすこととなった次第でございます。公述にあたりましては、皆さま方の忌憚のない御意見を承りたいと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。  これより公述人方々に順次御意見をお述べ願うのでありますが、議事の進行上お一人大体二十分程度でお述べを願い、公述人方々の御意見の開陳が全部終わりました後、委員の質疑を行なうことといたしますので、御了承お願い申し上げます。  なお、高野雄一公述人につきましては、御都合により午後御出席されることになっておりますので、その点御了承を願いたいと思います。  それでは、まず藤島宇内公述人にお願いいたします。
  3. 藤島宇内

    公述人藤島宇内君) 私は問題を二つの点に限って公述をしたいと思います。第一の点は、日韓基本条約の持っている軍事的な性格がまだ十分に討論されていないのではないかという点、第二の点は、政府日韓友好基礎であると言っているその態度が、まだ十分に友好と言い得るほど完成されていない、また今後の態度としても十分に友好的な態度がとられていないんではないかというこの二点です。  まず第一の点については、十月の十日の「朝日ジャーナル」に、私がこの日韓基本条約一つ側面である軍事的な側面、これについて問題を提起したことがあります。で、これについて衆議院日韓特別委員会、十月二十七日の会議で、佐藤首相それから小坂外相藤崎条約局長、このお三方が反論をされたわけです。私としては、この「朝日ジャーナル」に書きましたように、政府の十分な反論、つまり私の言っているところを十分に論破していただきたいというふうな希望を持っているわけです。ところが、この佐藤首相小坂外相藤崎条約局長反論がたいへん不十分である。この反論が不十分であるということは何を意味するかといいますと、もし万一将来緊急な事態が起こった場合に、政府が十分な論理をもってその危険性を防いでいくというふうなことができないのではないかというおそれがあるからです。で、そのためにいま一度ここで問題を提起してその反論の不備な点を指摘して、さらにこれを参議院で御検討いただきたいというふうに思うわけです。その佐藤首相小坂外相のおやりになった反論  ですが、それの第一の点です。その第一の点は、この日韓基本条約日本政府アメリカ政府の言うような国連第一主義に基づいている。それによる協力を前文と第四条で誓っているという点です。で、これはどういう意味かと申しますと、佐藤首相国会での答弁によりますと、これは「いわゆる国連中心主義、御都合のいいところだけつまみ食いするような考え方ではなくて、全面的に私どもは、国連中心主義国連決議をどこまでも尊重していく、こういう立場であるのであります」というふうにお答えになっているわけです。それから判断しまして、私は朝鮮問題関係国連決議、これによる日韓両国協力が行なわれた場合には、これが軍事協力になり得るのではないかということを言っているわけです。佐藤首相小坂外相は、それに対してこういう反論をなさっているわけです。それは、佐藤首相のことばを読みますと、「いわゆる国連中心主義の、いわゆる国連憲章の第五十一条、このほうの規定の適用があるのではないかという御心配でございますが、ただいまおあげになりましたように、もしもそういうような御心配があるならば、日本締結しました日ソ協定でも、また日本ポーランドでも、日本チェコ、それらの国々においても同じような条文を設けているので、これまた軍事同盟だといわざるを得ない。私は、そうではなくて、国連の平和的な条項経済的な条項、そういうものでお互いに仲よくしていく、その国交を増進する、こういう規定を私どもが引用した、かように御理解をいただいて、」というふうに佐藤首相はおっしゃっているのです。ところが、この反論問題点というのは、ソ連ポーランドチェコ、これと日本との間の共同宣言なり議定書なり、これで言っております国連中心主義というのは、ちょっと意味が違うのです。なぜ違うかといいますと、ソ連ポーランドチェコは、国連において朝鮮問題決議には反対している国であるということです。ですから、正反対な意味を持っているわけです。それからソ連ポーランドチェコ日本との間の条項によりますと、この国連憲章原則による協力というのは、国連憲章第二条の中でも特に第三項、第四項をあげて、その協力であるということを明記しているわけです。ところが、この日韓基本条約とか、あるいは日華平和条約、これは第二条の七項目全部を含むものと見なければならないと思うのです。そういう限定がありませんから。そうだとしますと、第五条の、国連強制措置を行なっている国に対するいかなる援助をも慎むようにというふうな点は、将来中国とか、あるいは北朝鮮とかの貿易関係の延べ払い、こういったものまでも封ずるような内容をもちろん持ってくるわけだと思いますし、それから国連憲章の第二条の第七項では、内政不干渉原則というものを言っておりますけれども、その一番最後に、強制措置を許すような条項が入っているわけです。この強制措置というのは第七章になってくるわけですが、朝鮮に対してはすでに在韓国連軍という強制措置が行なわれているということです。この在韓国連軍というもの、この強制措置に対して、日本は一九六三年十二月十三日の第十八回国連総会賛成をしているわけです。そうしますと、この十八回総会国連決議というものを全面的に検討してみる必要があるわけですが、それがまだ国会では十分に検討されていないと思う。この十八回総会朝鮮問題決議の中には、今度の日韓基本条約の一番基礎になりました一九四八年十二月十二日の国連決議、それから、それと重なり合う関係にある、つまり四八年の決議をもう一ぺん繰り返して、その上にさらに、三十八度線を突破することを認めた一九五〇年十月七日の第五回総会決議、そういったものが再確認されているわけです。日本政府もこれに対して賛成意見を表明しているということです。この国連決議といいますのは、これはもちろん勧告決議ですから、必ずしもそれに完全に従わなければならぬということはないと思います、あくまで勧告ですから。これは国連憲章の第四十三条の安保理事会特別協定によって派遣されている国連軍でありません。ですから、勧告にすぎないんですけれども、しかし、その勧告を全面的に尊重するということになっている。また今度の日韓基本条約でも、両国がその尊重を誓うということになりますと、これは単に在韓国連軍に対する吉田アチソン交換公文とか、あるいは在日国連軍地位に関する協定とか、あるいは安保条約第六条とか、こういったものによる施設とか役務とかの協力、それ以外に、それを越えて、今度は韓国政府日本政府との間のそういう国連決議による協力というものが行なわれる可能性が開かれているのではないかというふうに見るわけです。で、そういった点について、十分な反論が、佐藤首相小坂外相あるいは藤崎条約局長からは行なわれていないということです。  それからその次に、小坂外相が私の所説を批判した一つに、ことしの三月十七日に、在韓国連軍から韓国領空権韓国政府に返還されたというニュースがあるのです。で、これはロイター電が当時出したニュースですが、三月十八日付の産経新聞に載っているものです。〔ソウル十七日ロイター共同韓国政府と在韓国連軍司令部は十七日、朝鮮戦争突発いらい軍事作戦上の理由から国連軍司令部に移されていた韓国領空権を、韓国に返還する協定に調印した。」ということ。で、これについては、私がこれは韓国軍韓国空軍が、停戦協定違反しない形で軍事境界線を越えて北朝鮮に侵入できる、そういう措置をとった——そういう形式にしたのではないかというふうな疑問を呈した。これに対して藤崎条約局長は、こういうふうに言っているわけです。「いずれにいたしましても、飛行機であろうが何であろうが、北に向かって武力行動をとるということはこれは休戦協定違反でございまして、」というふうに言っているのですが、しかし、ここで問題なのは、韓国軍司令官休戦協定には調印していない。この問題の危険性ということは、現在韓国でも国際法学者の中では危険な問題として指摘されているように、私聞いております。もしそれでは休戦協定違反でもない、また在韓国連軍統制下でもないという形でそういう行動がとられた場合どうなるかといいますと、在韓国連軍はそういう場合に韓国政府を守る義務がある。それは朝鮮問題関係国連決議とまた米韓相互防衛条約によって規定されているわけです。その場合の行動範囲というのは、一九五 ○年十月七日の三十八度線突破決議というのは生きておりますから、これに基づいて北朝鮮全体を含むことができる。  それからさらに、衆議院石橋政嗣議員最後質問されたわけですが、一九五三年七月二十七日に、国連軍政策宣言というのが出ている。それによりますと、もしそういった事態が起こる場合には、国連軍は今度は中国を直ちに戦場にするという声明を出しております。椎名外相は、その声明石橋議員が指摘されたときに、それは当然のことでありましょうというふうな答弁をなさっているわけです。そうしてみますと、在韓米軍がそういうふうに、在韓国連軍がそういうふうに動くということになれば、在日米軍はやはり韓国へ行きまして、国連軍として活動することができます。これは米軍軍事行政上の問題ですけれども在日米軍日本にいるときは米軍ですが、韓国に行けば国連軍になるのです。そうして国連軍指揮下に入るわけです。で、この場合は、当然そういう国連決議に基づいて行動する国連軍ということになりますから、日本事前協議というものは、これはもうなきにひとしいものになります。なぜならば、日本はすでにそういう国連決議には賛成しているからです。で、そういうふうにして、安保条約第六条あるいは吉田アチソン交換公文などに基づいて在日米軍が出動しますと、では日本立場はどうなるか。この場合には安保条約第五条が発動される。これは安保国会のときに林法制局長官も明快に御答弁されているところで、自衛権が発動されるわけです。つまり、日本報復攻撃を受ける危険が出てきますから、当然日本自衛権を発動できる。この場合は憲法第九条違反ではないということは、鳩山内閣以来歴代の政府が明確に述べてきたところです。それから、その場合の自衛権の発動の範囲ですけれども、これがどういうふうになるか、これについても安保国会のときに林法制局長官は、国連決議国連軍というようなことになるならば、自衛隊が敵国の領土、領海あるいは領空、そういうところまで行って敵基地をたたくことも、これは海外派兵ではないという意味答弁をしているわけです。これについては衆議院特別委員会石橋政嗣議員が、一番最後のところで追及されたわけですが、これに対して佐藤首相はこういうふうにお答えになっております。「あなた、法律的な議論をお聞きになりましても、これじゃ、なかなか満足されぬのか知りませんが、それよりも、私ども、実際問題としていかにこういう場合に処理するかということが政治家として一番大事なことなんです。」というふうにおっしゃっているわけです。そうしますと、問題は単なる政治家態度というものに解消されてしまいますわけで、永久性あるいは恒久性を持った歯どめ措置にはならないのではないかというふうに思うわけです。もしこういった問題点十分政府反論できないという場合には、当然これに対して国会は歯どめになるような措置を講ずるべきであるというふうに私は思います。すでに福岡県で、博多埠頭米軍専用埠頭にしてほしいという申し入れが最近在日米軍からあったそうですが、それに対して福岡市議会超党派反対決議をしています。なぜならば、博多港はすでに朝鮮戦争以来今日に至るまで韓国軍需物資を送っている港だからです。そういう切実な問題が目の前にあるときには、日本国民は、あるいは政党は、超党派で歯どめの措置を講ずることができるわけです。もしいまあげましたような問題点が、十分に討論して究明反論し切れないならば、これに対してどうか歯どめの措置を講じていただきたい、それが国会国民に対する義務ではないかというふうに思います。  それから第二点ですが、第二点は、基本条約第二条にかかわる問題です。これは衆議院では石橋政嗣議員参議院では公明党の黒柳明議員が今回それぞれ質問されたわけですが、この旧条約というものが、日本軍事的脅迫というふうなもので締結されたものではないかという質問に対して、佐藤首相は繰り返し、これは対等な立場で自由な意思で締結されたんだということをおっしゃっているのです。しかし、外務省に保管されている、あるいは国会図書館に保管されている歴史文書によりますと、伊藤博文韓国皇帝に対する面談の報告書あるいは韓国の閣僚に対する糾明の報告書、こういったものを見ましても、明らかにこれは脅迫によって結ばれている。それから朝鮮を植民地化しましたあとも、全国にわたって独立運動が起こっています。これに対して日本は軍隊をもって弾圧を加えて非常にたくさんの人を殺しているわけです。それから、その独立運動に対してもこれを治安維持法などにひっかけまして非常にたくさんの人を逮捕している。どれくらいの人が命を捨てたかはかり知れないようなものがある。そうしますと、これは決して対等に自由に結ばれたものとは言いがたい。文部大臣黒柳委員質問に答えられて、国連植民地解放宣言に照らして朝鮮民族独立運動は正当であったというふうな答弁をなさいました。これは非常に正しい見解だというふうに思う。ところが、実際にそれでは文部省あたりで考えられている朝鮮民族独立運動に対する考え方はどうかといいますと、これがどうも反日的なものだというふうな扱い方をしている。それではその文部大臣の正当な見解と相反することを文部省がやっているということになります。これは日本の次の時代を背負う国民の思想の問題であり、またそういう植民地解放宣言にせっかく日本賛成投票している。この場合アメリカ賛成投票しておりません。にもかかわらず、日本賛成投票しているという日本立場正当性というものをみずから侵害してしまうことになるんじゃないか。もし佐藤首相がそういうふうに対等な立場で自由に締結されたということをずっと主張されていくということになりますと、これがやはりこの請求権問題にもかかわってまいります。社会党の横路節雄議員が、衆議院質問できなかった問題を「朝日ジャーナル」の十一月二十八日号に、「封じられたわたしの日韓質問」というので出しておられますけれども、その中に「対日請求項目」というのが出ております。その請求権項目の中の第5項の3、4、この中に、第二次大戦中の「被徴用韓国人未収金」というのがあります。これは軍人軍属を含むわけです。それから、「戦争による被徴用者の被害に対する補償」、つまり戦争中に強制連行されてきた六十万余りの在日朝鮮人、この人たちに対する補償という問題が含まれております。この請求権に対するこういう補償問題というものは、韓国政府資料をそろえられないからというふうに政府はおっしゃっておりますけれども、こういう軍人軍属の問題とか、あるいは強制連行されてきてそうして日本の炭鉱やら土建工事で奴隷労働させられた人たちに対する補償というのは韓国には資料がない。これは、日本政府みずからの責任で明らかにし、提出しなければならない資料であります。それから、文部大臣朝鮮民族独立運動が正当であるとおっしゃったわけですけれども、それならば、日本の教科書などもそういうようなことがちゃんと出るようなふうに編さんをしていただきたいし、また、在日朝鮮人が教育を行なっておりますが、これをその中に民族独立運動が書いてあるから反日的だというようなことを言うような文部官僚、こういったものの考え方を正していただかなければならないというふうに思います。そういったような請求権の問題、あるいは思想的な問題、こういったものがすべてなおざりになって、ほとんどまともに討論が行なわれていない。また答弁を行なわれていないということでは、将来の日韓友好日本民族朝鮮民族との末長い友好ということを考えた場合には、非常にそこから複雑な、また深刻な問題が発生するのではないかというふうに思われるわけです。その点で十分な反省が行なわれるような決議なりなんなり、そういったものをやはり国会できちんとやっていただく。そうしなければ、この日韓条約というものが持っている危険性というものがやはり防げないのではないかというふうに思うわけです。  以上二つ問題点で終わります。(拍手)
  4. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) ありがとうございました。     —————————————
  5. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) 次に、大平善梧公述人にお願い申し上げます。
  6. 大平善梧

    公述人大平善梧君) ただいま批准同意を求めるために国会の審議にかかっておりまする日韓条約というものは、終戦以来のいろいろな国際関係のワクがあります。さらに十四年間の長い交渉の積み重ねがあるばかりでなく、特異な韓国事情が反映しているものでございまして、これらの事実上の国際要因を抜きにいたしましては、簡単にこの条約法的性格を理解することができないということを申し上けておきたいのであります。条約条文複雑多岐にわたっているといわれておりまするが、この条約を製作せしめる要因を考えてみますると、それが複雑微妙でありまして、これらの事情を照らし合わせますると、実は条約に若干の不合理な欠点がないとは言えないのでありますが、しかし、それは事実関係の反映であると思うのです。したがって、この段階におきまして、日韓国交正常化を行なおとするならば、まずこの辺の条件で折り合ったものだと考えるのが適当ではないかと考えるのであります。したがって、日韓条約はこのままの姿において批准同意が与えられてよかろうと考えるものであります。また、かりに条約締結の時期をおくらせましても、しかし、そのために韓国事情、特に心理的な異常な過熱状態が簡単に変更するとは考えられないのでございまして、今後かなりの期間を置きまして交渉をしたとしても、現在の条文と大きな趣を異にするような協定ができるとは考えられないのであります。はっきりした協定がほしいということはもちろんけっこうでございますが、早急にはそこまで煮詰めることができないというならば、むしろこの際日韓の新しい時代をつくるために国交の窓を開き、広く文化、経済の交流を盛んにするというほうがより両国のためによろしいではないかと考えられます。単にすっきりしただけで動きのとれないような条約であってよいかどうか、この点も問題であります。よくしさいに吟味いたしますと、条約そのものは、私は日韓関係の本をつくりまして、条文を校正してよく読んだのでありますが、それほど悪いものではない。いろいろ条約を批判される向きがありますが、それはむしろ条約そのものの欠点ではない面があって、この条約を取り巻くところの一種のムード、あるいは政治的な環境がそうさしていると思うのであります。今後運営によりまして十分気をつけて行動をするならばそれでよろしいのであって、条約それ自体というものはむしろそのままの姿でよろしいと言ってもよいと思います。潮どきというもの、踏み切りというものが何でも大切でございます。国会はすみやかに条約批准され、関係法案を成立さしていただきたいと考えるものであります。  そもそも条約締結にあたりましては、国家の意思は二段階に発表をされるのであります。第一は条約の調印のときであり、第二は条約批准のときでございます。で、最初の条約の調印にあたりましては、外交権を有するところの政府当局が詳細に条約条文を吟味いたしましてそれを作成し、妥結しました内容を調印によって確定するわけであります。あとの批准の場合には、調印によって内容が確定しましたその条約に対しまして、もちろんこの条約の個々の条文の検討はするでありましょうが、そのときは国家の考え方というものは大局的な政治的判断を行なうわけでありまして、条約を全体として見て成立せしめるべきかいなかを決定するのであります。したがって、この際におきましては、条約条項の微視的な考察ももちろん大切でありまするけれども、それ以上にナショナル・インタレストの立場からこの条約批准すべきかいなかを決断すべきものでありまして、巨視的な政治的判断が必要であると考えるものであります。二国間の条約批准の場合には、この条約事情の変更もしくは内容の重大なる瑕疵が発見され、相当な理由があるとされるのでない限りは、批准を拒否するということは国際信義に反するものであります。日韓条約という相手があるのでありまして、いろいろな前に申したような行きがかりがあり、いろんな背景がからみ合っておるのであります。私は条約そのものがそれほど悪いとは申しませんが、また完全であるとも考えられないのであります。次善の条約としてりっぱなものである。二国間の条約は双方利害が対立するものでありまして、このような場合におきましては、最善なる条約を願うということはかえってしばしば悪い結果を生むのではないだろうか。まあ戦争に勝ったというような場合の条約とは全く趣を異にするのであり、過去の関係を清算すると、終戦処理というような意味が多分に入っているところの条約でございます。したがって、英語の格言で、ザ・ベスト・イズ・ズィ・エネミー・オブ・ザ・グッド、最善を願えばそれは善の敵となる。そういう格言がございますが、次善を選ぶということは、条約批准の場合にわれわれがとるべき態度ではないかと思うのであります。で、今日日韓条約を批判する人は、やや観念的、ムード的な完全主義者ではないか、あるいはまた偏向したイデオロギストではないかとさえ私は考えるものであります。一方で観念的な理想像を描いておりまして、これに合わなければ条約は間違っていると考えておるような人があるようでありいます。さらに他方では、どこかの国の声明をそのままオウム返しにして、北鮮を敵視する条約であるというような立場でものを言っておる人もあるように思います。戦争と侵略の条約は反対である、まあそういうふうに言っておるようであります。しかし、条約批准をするかしないかという論理は、現実的に国際関係を直視し、わが国のナショナル・インタレストを基準にいたしまして、他国の発言によりまして右顧左眄するようなことなく、わが国の利益とする道を断固として選択する、そういうことが好ましいと考えるものであります。  私は、条約問題点三つ、反対論がこれに対してあるわけでありますが、まあこの反対論に対する批判を含めまして、これから内容を検討したいのであります。  第一は、朝鮮の分裂国家の点を取り上げます。南北統一まで交渉を延期せよ、今日の条約では統一を阻害し、分裂を固定化する欠点がある、こういう非難があるわけであります。しかし、南北統一ははたしていつ実現するであろうか、この統一があすにでもできるというならば、それまで日韓条約締結を延ばすということも意味がありますが、そういうことはないと思います。分裂されたところの朝鮮の現状は、分裂した世界のシンボルでありまして、日本人やまた朝鮮人だけの力でこの問題を解決することができるようなことではございません。これはきびしい世界的な現実でございます。確かに統一ということは朝鮮人にとり、また世界の平和にとって望ましい理想でありましょうが、この悲願も実は現地に、韓国に参りましていろいろ事情を聞きますと、とてもそれはできそうもない。実現不可能である。心の違った人とは一緒に手をとることができないというような話も聞いてまいっております。そこで、南北の両政府を同時に承認するというようなことも考えられるわけでありますが、これは法律的にも政治的にも不可能である。そうすると、現存するところの二つ政府というもののうちから一つを選ぶということになるのであります。これが自然の道でございます。で、南鮮は歴史的にも地理的にもわが国と密接な関係がある。現在貿易も南と北では南のほうが密接である。また、南と交渉するならば懸案も大かた解決する、こういうふうに考えますと、私は南鮮を選択したという政府態度はそれでよかろうと思うのであります。そこで、これを唯一合法の政府基本条約の第三条がうたっているわけでありますが、しかし、この唯一合法の政府と考えるということは、国連決議にもあるとおりでございますが、一体、承認というものは、事実関係を確認する、その確認した上におきまして承認という法律的な効果を発生せしめるところのものでございます。したがって、事実関係というものをまず最初に認識する、これが管轄権の問題でありまして、第三条のような日本立場というものは、事実関係、すなわち、有効に三十八度線、まあ休戦協定線以南を支配しているという事実を認識しておる、その上に立ったところの日本承認でございます。これは政府承認でございますが、それは、私は、条約論、承認論の立場から見まして、政府の解釈というものは正しいと思うものでございます。ただし、韓国側におきましては、憲法第三条によりまして朝鮮半島全体に対する支配権を要求しておる、そういう立場をとっておりまするので、日本がそれを認めたかどうかという点が問題でございますが、私は、承認というものは単独行為というものが本質でございまするから、日本政府の意思を優先的に考えるべきだと思います。したがって、全体のそういう管轄権を向こうが要求しているということを日本が認め、たというふうにはならないし、それをするためには、向こうがもっと明白なる条文を用意すべきであったと、こう考えるものでございます。考えてみますと、国会の審議というものは、先ほど申しましたように、大局的な政治的判断をするところでございまして、国際法上の学説や学理を決定するところではないのでございます。したがって、こまかいところの議論を展開することによってむしろ日本国家の外交的な不利益さえ招くのではないか。むしろ、韓国の実情というものをわれわれは頭に置いて、不要のせんさくをする必要はないんではないかと、こういうふうに私は考えておるのでございます。ただし、北に対しましては、法律上の承認を行なうことができないにいたしましても、事実上の承認というような線で今後貿易その他の交際を続けるということは、国際法上できるばかりでなく、政治的にも十分努力をすべきであろうと考えます。  第二には、軍事的な面でございます。これは、直接的な軍事協力が漸次に進められまして北東アジア条約体制——NEATOというようなものがその内容を一そう充実するであろうというような議論が展開されているのであります。しかし、私は、これは条約論といたしましては荒唐無稽の推測論である、日韓条約軍事同盟ではないとはっきり申し上げます。何となれば、軍事同盟条約というものは、軍事的な援助義務が具体的に約束されており、その援助義務の発生要件を定めるところの条項を含まなければならないからであります。そういうような軍事的な援助義務を負っているようなそういう条項は、この日韓条約のどこにもございません。逆に、合意されましたるところの議事録の中には、日本が供与するところの生産物は武器及び弾薬を含まないものであるというふうに意見の一致を見ておりますし、また、請求権協定第一条におきましては、「供与及び貸付けは、大韓民国経済の発展に役立つものでなければならない。」、こういうふうに規定しておるのであります。この点は、日本側が十分に注意して、条文を作成した当局の苦心も出ておるところと私は拝見しておるのであります。基本条約の前文及び第四条にあるところの国連条項というものを抜き出しまして、これが軍事的なにおいがするというふうに考える向きもあるわけであります。しかしながら、日本は、国連軍となったところのアメリカ軍について軍事協力をする義務は負っておるけれども国連軍になったところの韓国にあるところの韓国軍に軍事的な義務を負う、そういうことはないのであります。国連決議が生きているから、その決議に従って日本韓国軍に対して軍事的な援助をしなければならないというような、そういう議論がありまするが、それは全く国際法からいいますれば可能性のない、いわば条約論になっていないものであります。総会決議というものは単なる勧告であり、日本韓国軍を法律的に援助する義務というものはないし、これは全く一種の飾り文句でありまして、日ソ共同宣言にも出ているようなそういう条文でございます。  第三に、日韓条約はその条文の意義があいまいである、したがって、国家の意思がない、あってもその基礎は脆弱だというような議論があるのであります。しかしながら、条約意味がいろいろ解釈されるというのは、これは間々あることであります。今度の場合には、先ほど申しましたように実際上の関係というものがありまして、それを反映してあいまいさが少し多いような点もありまするけれども、しかし、関係国の外務当局が条約であると考えて作成しましたところの文書は条約である。しかも、その間に意思の合致というものがはっきりと出ておる。よく条文を読むならば、それほどのあいまいさはないと私は考えるものでございます。国民に対する説明が食い違っているから国民の間に理解がないだろう、こういうような批判もあるのですが、私はよくいろいろな人の意見を聞きますると、日韓の間は善隣友好を増したい、仲よくしたい、これが日本人の一般の国民の真情でございます。そういう考えを基礎にして今度の日韓条約ができていると私は考える。したがって、国民を抜いたところの外交と条約、そういうものではない、そう考えるものでございます。  最後に、私は、日韓条約の積極的な面、それは、李ラインを事実上眠らせまして安全操業ができるようになった、これが第一。第二には、善隣友好関係を確立して、アジア開発外交の第一歩をここにつくるモデルケースになるものであり、日本民族のやるべき使命として十分これに値し、また、これをやり抜かなければならない、これが第二点。第三点は、何と申しましても、歴史上古い、仲のよい関係にありましたところの日韓の間に、文化、経済的な交流を盛んにして、よりよき隣人となって今後アジアの安定に資したいと考えるものであります。  最後に、隣が騒かしいということは、決して日本の平和には貢献しないのであります。朝鮮の安定をはかり、日韓友好をアジア平和の基礎にしたいと考えるものであります。(拍手)
  7. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) ありがとうございました。     —————————————
  8. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) 次に、曾村保信公述人にお願いいたします。
  9. 曾村保信

    公述人(曾村保信君) まず、冒頭に申し上げますが、私は、本日は、条約の内容について特に批判をいたそうとは思いません。むしろ、外交評論家としての立場から政府の外交姿勢というものに中心を置いて批判をしてまいりたいと思います。  私は、衆議院の本会議が始まります以前の時期におきましては、日韓条約はむしろ早期に批准すべきであるという見解をとっておったのであります。これは、私なりの、日本を取り囲む国際情勢の判断からしてそう考えておったわけであります。ところが、衆議院会議の冒頭の椎名外務大臣の外交演説を聞きまして、そのとき非常な私の心配にとらわれたことでありますが、それを率直に申し上げますと、私は、あたかもその際にかつての大東亜戦争の開戦の前夜のような錯覚に一時とらわれたのであります。語感を通じて得た印象というものはこれは消しがたいものでありまして、いかにしてそのような実感がきたのか。これは、当時からすでに日本の外交というものが主体性を失っておりまして大東亜戦争の前夜においては陸軍の横車というものにいやいや外交が追随しておったということだろうと思います。ところが、現在、そういう陸軍のような圧力団体が存在しない現状においては、何ゆえにそういう横車のような実感が起こるのだろうか、この点は非常に考えるべき問題であると思っておる次第であります。  冒頭に申し上げましたように、私は、日韓国交の樹立ということに基本的に決して反対するものではございません。しかしながら、問題は、日本の国益上これが絶対に必要であるという政府の強い自信の態度が私の期待しておったほど見受けられないという点に非常に失望を感じたわけであります。国際信義ということばを首相は常々口に申されますが、国益を抜いた国際信義というものは存在し得るかということであります。結局、われわれの国家なくして国連も存在しないわけでありまして、国連中心主義もけっこうでありますが、われわれはなにも国連と心中するために国連に入っておるのではない。国連は平和維持の機構である限りにおいてわれわれがそれをささえておるのであると、そういう強い自信がなくて国連中心主義を言うということは、これはいわばひいきの引き倒しであるということになると思います。その他、すべて、椎名外務大臣の答弁を含めまして、政府側の答弁にはひいきの引き倒し的な点があまりにも多過ぎて、私のように極力政府立場に立って考えようというぎりぎりの努力をしておる者にすらやや失望をさせるということがあまりにも今回多かったわけであります。  それで、おそらくは、私をも含めまして、きょう出席せられた公述人の皆さんの大多数は、このような状況で日韓条約が成立した場合に、一体、その後はどうなるであろうか、その後に予想されるトラブルを次々と政府は手ぎわよくさばいていくことができるであろうか、そういう点に非常な心配を内心持っておられるのではないか。私もまさにその一人でありまして、椎名外務大臣の演説の中には、あまりにも社会党と劣らない程度の公式論があるわけです。いずれもまされり劣れりと言えないようなまさに公式主義と受け取られるわけです。たとえば、外務大臣のベトナム問題に対する見解などにしましても、私は特にそのいずれの側を支持するものではありませんけれども、しかしながら、現在日本は北ベトナムと何も交戦しておるわけではないのです。したがって、その紛争の解決を論じながら、ただ単に先方にばかり罪をなすりつけるという論法は、これは決して穏当ではないというふうに考えるわけでありまして、何ゆえにわれわれはそれまでアメリカを支持しなくてはならないかということに疑念を抱くわけであります。もちろん私も対米協調が日本の国益の立場からしてこれは絶対に不可欠のものであるということはかたく信じております。これを否定する人は、まあ否定する人があるとすれば、これは常識人としてはとうてい考えられないわけです。ところが、現在の自民党の態度の中には、むしろこの必要な対米協調までも破壊しているのではないかというそういう疑念を感ぜしめるものがあるわけです。もちろん、それに対して、対米協調だけではない、ほかの国ともすべて協調していくのだとおっしゃるかもしれませんが、その点は、全体の演説の内容等を見て、あまりにアメリカ弁護の向きが強いということは、これはだれしもお感じになるところではないかと思います。  で、今回のこの条約の目的は、はなはだけっこうであります。しかしながら、外交というものは一種の技術である。技術のいかんによっては、いたずらに国民を遠ざけてしまうということもあり得るわけです。方針はいかにりっぱであっても、技術が拙劣であれば、本末転倒の結果を生みやすいということであります。  もともと、私は、対韓外交交渉というものは決して容易なものだとは思ってはおりません。歴史に徴しまして、朝鮮半島というところは非常にナショナリズムの強いところであります。これに対してわれわれとしてわれわれの日本国民の立場からして万全の対策を講ずるということは非常に困難であります。多少歴史的な先例を引用いたしますと、小村壽太郎外相が日露戦争の外交でさんざん苦労されたあげく、日韓併合という段取りになったときに、内心非常に心配で、むしろ反対の気持ちが強かったということを私は小村さんの遺族の方からお聞きしておりますが、まあ周囲の情勢に押されてやむを得ず外務大臣としての職責上、併合の方向に行ったということでありますが、当時、外交評論家の間では、非常に日韓併合に対する警戒論が強かったわけです。理由は、私が先ほど述べたようなことであります。今回のは、むろん併合ではないわけでございますが、善隣友好あるいは平等の立場でということは、たとえ外交辞令の上では申しましても、事実として、日本韓国では非常な国力の落差があるわけです。それを単なる押しつけでないというだけの説明では、少なくとも日本議会の討議としてはこれは納得のできかねる点があるかと存じます。  私は、この日韓条約がかりにもし成立しました暁に、次々とあとに生じ得べき外交案件というものをいまから予想しているわけでありますが、おそらくは、やや時期をおいて台湾問題が日程に登場してくると思います。その際、一体現在の政府与党は、これをどう取り扱われる御予定であるか。日韓条約に対する一般の信頼感がとかく自然にわき上がらないということは、これはあまりにも交渉の経過に利権臭ふんぷんたるものがあるからでありまして、もし、台湾問題の場合にまた過去の情実にとらわれて、ほんとうに台湾島人並びに日本国民の利益というものを顧みない外交が行なわれた場合は、これはほんとうに今度こそわれわれの命取りになりかねない。私は、しばしば台湾人まあ本島人諸君から、一体日本はかつて台湾を統治して、いいこともしたけれども、われわれを兵隊にも使った、そういう過去の責任に対して、一体われわれをどうしてくれるのかという詰問をしばしば受けております。一体、韓国々々といって騒いでいるけれども、まず日本人の援助を積極的に希望しておる台湾のめんどうを見てくれたっていいじゃないか。これは現在の政府与党の立場からしますと、おそらくは、国民政府というものとの義理関係でなかなか率直にものが言えないだろうとは思いますが、しかしながら、そういう気持ちがあるということは、これはくんでやらなければなりません。また、韓国以外でも、われわれ日本人の積極的な協力を期待しているところがほかにもあるわけであります。たとえばインドネシアがそうであります。私は、韓国の情勢の安定が決して悪いとは申しません。しかしながら、自信のない場所に介入もしくは介入のきみがあるとすれば、政治的介入を試みるよりは、むしろわれわれの援助を期待しているところを優先すべきであるというように考える次第であります。たとえ、今回の条約が野党の反対のうちに成立したとしましても、その履行に当たるのは、これは野党を含めた全国民であります。で私が非難いたしますのは、これが社会党あたりの反対論とは全然趣旨が違いまして、要するに、政府の積極的にリードする姿勢が足りないということであります。つまりいたずらに野党に対する弁明にきゅうきゅうとして、これを完全に説得するだけの熱意が足りないということであります。これは官僚外交の弊害と申しますか、官僚行政の弊害と申しますか、官僚主義にもいいところがありますが、現在の日本というものはとにかくそれではやっていけない面が出てきている。国民をむしろ積極的にリードしていく、自然に盛り上がる力で外交を行なっていくというようにならなければ、われわれの日本の前途というものはお先まっ暗であるというように思います。これは同時に、野党に対する批判、社会党に対する批判にもなるわけでありまして、一体いまの点をどうお考えなのかということであります。一体日韓条約が成立したら、あとの履行をどうお考えなのかということであります。要するに、日韓条約批准をめぐる論争によってわれわれの国内に大きな混乱を招くということは、われわれの期待するところではないわけであります。それだけに政府の責任というものはきわめて重いわけでありまして、われわれがほんとうに進もうと思うとき、ほんとうに前進しようと思うときは、むしろ一歩退いて身を守るという姿勢が大切であると思います。たとえば軍事同盟云々の野党側の追及に対しても、政府は一体いまわれわれは日本の万全の国防の体制をとっておるということをなぜ事実によって示すことができないかという点であります。どうしてそういう自信が持てないかという点を追及したいと思うわけであります。その点さえ納得がいけば、国民は十分についていけるものと思います。  以上、私が申しましたところがはたして反対論になっているかどうかということは、これは各位の御了察にまかせます。では、終わります。(拍手)
  10. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) ありがとうございました。     —————————————
  11. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) 次に、久住忠男公述人にお願いいたします。
  12. 久住忠男

    公述人(久住忠男君) 拝見をいたしておりますというと、この特別委員会の審議が、この空気がきわめて真剣であり、慎重審議をされるというかまえを示しておられることを拝見しまして、国民の一人として感激を新たにするものでございます。また、この機会に公述をする機会を得ましたことを光栄に存ずるものでございます。  私は、日韓条約と安全保障の問題を中心にして、意見を述べたいと思っております。  現実の外交というものはナショナル・インタレストすなわち国益によってその基礎を固むべきものであるということは申し上げるまでもないと思います。また、そのナショナル・インタレストというものの最も中心をなすものが安全保障である——中心をなす一つが安全保障という問題でなければならないということも、ここで申す必要のないほど重要な問題でございます。外国と条約を結ぶような場合には、それがその国の安全にどんな影響を及ぼすかということを慎重に審議しなければならないことは申すまでもございません。今回の日韓条約の審議にあたりましても、この問題が重要な論議の焦点になっていることはむしろ当然と言えるでしょう。また、もしこの条約の審議にあたりまして、これが国家並びに国民の安全にプラスになるのか、マイナスになるのかを検討もしないで済ませるようなことになったといたしますと、それこそそれを十分に審議したとは言えないのではないかと愚考するものでございます。  そこで、本日は、日韓条約をめぐる安全保障問題を中心にして、主として二つの面から公述いたしたいと存じます。  第一は、韓国をめぐる最近の軍事情勢でございます。世上説をなす人がおりまして、日韓条約締結によって日本朝鮮半島の軍事的紛争に巻き込まれるおそれがあるとか、あるいはこの条約がやがてはいわゆるNEATO、東北アジアの防衛機構と申しておりますが、それに発展する可能性があるとかを憂慮される向きがございます。こうした憂慮が事実存在するのかどうかという点につきましては、すでにいろいろ論議が重ねられておることは承知しておりますが、その客観情勢の論議というものが比較的少なかったのではないかと存じます。あまりにも仮定的、憶測的な議論が多かったのではないかと思うのであります。この条約に何らの軍事条項を含んでいないということは事実でございましょう、また、この条約をめぐる両国政府間の話し合いの長い期間に、軍事問題については一回も話し合ったことがなかったという政府側の説明もうそではないと存じます。しかし、私はここでそうした現実面を少し離れまして、朝鮮半島の軍事情勢とか、これに関連した最近の世界情勢を客観的にながめてみたいと思うのであります。  ここで、まず問題になりますのは、朝鮮半島で将来再び大規模な軍事紛争が発生する可能性があるかないかという問題です。朝鮮戦争が終わりましてからすでに十二年を経過いたしましたが、幸いにこの方面の軍事情勢はきわめて安定した状態にあります。ごく最近イギリスにあります戦略研究所から発行されました権威ある資料によりますと、韓国軍は現在合計六十万四千名となっております。うち陸軍が五十四万名、休戦ラインに沿って配置されている第一軍の兵力は十八個師団をもって編成されており、予備の第二軍は十個師団となっております。もちろんこれらの部隊はアメリカ型の新装備を持っております。このほか韓国には、国連軍といたしましてアメリカ陸軍第二、第七歩兵師団の二個師団が駐留いたしております。これに対しまして、北朝鮮側は総兵力三十五万三千人を持っていることになっておりまして、陸軍は三十二万五千人、十八個師団でありまして、そのほかに機動予備五個旅団が第一線に配置されております。これまたソ連型の近代装備を持っております。これらの兵力が休戦ラインを間にさしはさみまして、対峙しているわけでございますが、双方ともきわめて堅固な要塞を構築しており、どちら側からも簡単に攻撃に出るようなことはできない状態にあります。また、アメリカ陸軍の二個師団はいわゆるロード編成でありまして、戦術核装備をいたしております。もし共産側が大挙進攻するようなことはなりますと、その防御のためその戦術核兵器が使われる可能性があるわけであります。こうした対峙の状況は、東西両ドイツの国境線とよく似た関係にあります。もはやこの方面ではどちら側からも攻撃はしかけられない状態にあり、戦術核兵器が使われるような大規模な局地戦争を覚悟しない限り、ここらで進攻作戦を始めることはできません。こうした状況から見まして、現在朝鮮の休戦ラインはもはやどちら側からも攻撃をしかけられない安定した状況にあるということができるのでございます。したがって、ここで戦争が始まったらどうなるかという仮定をもとにした議論というものがそのスタートにおいてすでに現実性を失っていると申し上げることができると思うのであります。  もう一つ問題点は、この方面の軍事情勢に関係いたしまして、日本が軍事的な協力あるいは軍事同盟に入ることを求められはしないかということです。この点に関しましては、次の客観条件から申しまして、その可能性は全くないと申すことができます。  第一の客観条件は、最近の国際情勢におきまして、軍事同盟を新しく設定するような考え方はなくなっているということでございます。戦後この問題につきましては、冷戦の進展に伴いまして三つの段階を経て変化してまいりました。その第一期は、ベルリン封鎖、朝鮮戦争の影響を受けまして、世界的に集団防衛体制を固めなければならないという機運が高まった時期でございます。現在の地域的集団防衛体制は東西両陣営とも大体においてこの時期に結成されたものでございます。第二期は、一九五四年ごろから一九六二年のいわゆるキューバ事件のころまででございます。この期間はこの集団防衛体制がますます強化され、これが国際間の大変動を抑制するために大きな貢献をした時代でございます。ところが、キューバ事件以後の第三期に入りますと、集団防衛体制は東西両陣営とも内部的に再検討を迫られる時期になってまいりました。この傾向はNATOにも、SEATOにも、CENTOにもあるいはワルシャワ条約機構等にも存在しているわけでございます。極東地域では、二国間の相互防衛条約はいろいろの形でつくられまして、戦後の第二期の冷戦時代のころを中心といたしまして、自由陣営諸国間におきましても、また、共産陣営諸国間におきましても結成されましたが、この地域におきましては、それ以上の多角的な防衛条約には発展しなかったのであります。このように状況から見まして、今後極東地域で集団防衛体制を新しく設定するような情勢ではございません。要するに情勢は刻々変わっているわけでございます。国際間の安全保障は核均衡状態の固定化、各国通常軍備の充実などのため、現実的には安定の方向に向かいつつあるわけでございます。今後もし新しい軍事的な措置をとる必要が国際間にあるといたしますと、これは国連等において行なわれる常設国連平和軍の設置とかあるいは核拡散防止条約をつくるとかいった軍備管理、軍縮といった方向に向かうのが国際的な国際間の努力の方向でございます。すなわち、いまから新しく軍事同盟をふやすような、そういったようなことは世界情勢に逆行することになるわけでございまして、現実性はきわめて少ないと言わなければなりません。さらに朝鮮の休戦ラインの状況を見ますと、日本から自衛隊が支援するために派遣されるような必要性はまずないと申し上げることができます。この休戦ラインの長さは二百キロ余りでございますが、ドイツの国境線はその約二倍、四百五十キロでございます。この長さのところへNATO側は、西ドイツの十二個師団を中心といたしまして、合計二十七個師団を配置いたしております。それに比べまして、韓国側は、前にも申しましたように、韓国陸軍十八個師団と、アメリカ陸軍二個師団、合計二十個師団を第一線に配置しているのでございます。すなわち朝鮮の休戦ラインは、ドイツの国境線に比べましてはるかに濃密な兵力配備になっております。客観的に見まして、その他の兵力をここに投入しなければならないような状態ではないと申し上げることができます。  また、極東の各地域の戦略的条件を比較検討してみますと、日本列島をなす四つの島、これは朝鮮半島とか台湾などよりははるかに大きな戦略的価値を持っておることがわかるのでございます。ここで申します戦略的価値と申しますのは、政治的、経済的、産業的な価値をも含めたものでございます。いまかりに、何かの事態でわが国の自衛隊を朝鮮半島のような海外に派兵をする必要があったといたしますと、そのような事態のときには、当然のことながら、わが国の領土にも同じような軍事的脅威が加わる可能性があります。西太平洋で最も重要な戦略要点をなす日本の防衛をなげうち、無理をしてまで朝鮮や台湾に派兵する必要は全然ないと申し上げることもできます。これらの地域は現在ひとしく自由圏に属しております。これを総合的に戦略的に判断しますと、わが国の防衛を十分にすることが、その周辺のいかなる地域に派兵するよりも緊急なものであるということがわかるわけであります。現行の日米安保条約におきましても、アメリカ側が前例を破りまして、共同防衛における日本側の責任を日本領土に限定いたしましたのも、いま申しましたような戦略的顧慮があったからではなかったかと考えるものでございます。  以上が第一の問題、すなわち韓国をめぐる軍事情勢でございまして、繰り返して申しますと、日韓条約を結んだからといって戦争に巻き込まれる心配はないと言えるし、また、この条約がいわゆるNEATOなどに通ずるといった考え方は、進展する現在の国際情勢から申しますと、もはや旧式な考え方基礎にした憶測と申し上げることもできるのでございます。  次は第二の問題に移ります。やはり安全保障に関連した問題でございますが、最近のベトナム情勢などに関連いたしまして、現在が日韓条約を結ぶような国際環境にはないといった見方についての所見でございます。ベトナム戦争はすでに予想外の進展を見せておりまして、戦局は、静かではございますが拡大の一途をたどっております。これがもしさらに大きな国際戦争に発展し、いわゆる米中戦争にでもエスカレートいたしましたならばたいへんではないか、そんなおそれのあるときに日韓条約を結ぶのは危険ではないかと憂慮する向きが一部にあるようでごいざます。しかし、私はここで、次の諸理由によりまして、ベトナム戦争が米中戦争にまで発展する可能性はないと判断するものでございます。  その第一の理由は、アメリカの意図が限定されたものであることがすでに明らかにされていることでございます。ジョンソン・アメリカ大統領などもしばしば声明しておりますように、アメリカの軍事行動の目的は、南ベトナムにおけるベトコンの行動を押え、北ベトナムから行なわれている軍事行動を中止させることにあるとしております。北爆も、その本来のねらいは、南への軍事行動を中止させることにあるとされております。したがって、アメリカの地上軍が今後北ベトナム領土内に侵入するようなことにはならないと考えるものでございます。  第二の理由は、中共軍の北ベトナムに対する軍事支援行動にも限界があると見られていることでございます。北ベトナム政権は、いまだに中共軍の直接支援を要請する態勢を示しておりません。同国の実情から見まして、おそらくアメリカ軍の同国上陸でもない限り、中共軍の直接介入を要請しないのではないかと考えられます。もちろん一部の戦闘機や、高射砲部隊ぐらいの援助は行なわれることはあり得るわけでございますが、朝鮮戦争のときのような陸軍の大部隊を派遣するようなことはなかろうというものでございます。同じことがソビエトに対してもいえるわけでございます。  第三の理由は、現状において米中両国の軍事力を比較しますと、どちら側からも相手に戦争をしかけられるような態勢にはないということでございます。核兵器や、海空軍戦力において、アメリカ側が中共に対し、圧側的優位にあることは、ここで説明する必要はないと思います。また、その他上軍におきましては、アメリカ軍の威力の及びますのは、現在の十七度線とラオス北部の安南山脈を結ぶ線以南にありまして、それから以北、中国の領土に近づきますと大陸戦の様相に変わりますので、いわゆる第一ラウンドではとにかくといたしまして、長期戦になりますと、中共軍の力が優越することになります。いずれにしましても、それぞれの戦力にははっきりした限界があると思うのでありまして、ここで戦争に訴えるようなことにはならないと考えられるわけでございます。中共の首脳部は、最近もいろいろと強硬な発言をいたしておりますが、その本心は、これから少なくとも三十年は平和がほしいということではないかと私は読み取っているわけでございます。朝鮮半島で戦争が発生する心配はないと同じように、ベトナム戦争が発展いたしまして、米中戦争になるような心配もいまの段階ではまず絶対にあるまいと申し上げることができるのでごいざます。そういうことになりますと、日韓条約締結することによりまして、わが国が、戦争に巻き込まれるとか、軍事同盟に引きずり込まれる心配はないと言えるわけでございます。したがって、それを理由に条約批准に反対することは、客観的に見ましてその根拠が薄いと申し上げることができるのでございます。  また、一方におきまして、この条約を結ぶことによって、これがわが国並びにわが国民の安全に寄与することがあるとすれば、この条約批准には進んで賛成しなければならないと考えるものでございます。きわめて卑近な例を申しますと、よく言われますが、この条約が効力を持つようになりますと、わが漁船がいわゆる李ラインを越えまして広い水域で新たに操業することができるのでございます。従来のように拿捕される心配はなくなるわけでございます。過去において李ライン付近で拿捕されました漁船が四千隻にも達したという事実から考えますと、この条約締結が、関係漁民の安全に大きく貢献することを知るわけでございます。また、原則的に申しまして、隣合っている国が相互に正式の国交を持たないということが、双方の安全だけではなくて、いろいろな国家的利益を害することは言うまでもございません。世界平和といったような問題も、結局は隣合った国がそれぞれ善隣関係を結んでいき、それを世界的に発展させるということによりまして達成されるのではないかと考えるものでございます。隣の国が国交のないままでいつまでもいるということに比べまして、その二つの国が政治的、経済的に互いに侵し合わないといったような理解のもとに国交を結ぶということのほうが、その当事国にとってはるかに安全感を高め得るものでございます。  これを要しますのに、大局的に見ましてナショナル・インタレスト、特にその中の安全保障という点から申しまして、日韓条約批准は、わが国に大きな利益をもたらす可能性を持ったものであることを指摘いたしまして、私の公述を終わります。(拍手)
  13. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) ありがとうございました。  午前の御意見拝聴はこの程度といたし、午後一時から再開をいたしたいと思います。  休憩いたします。    午前十一時五十八分休憩      —————・—————    午後一時七分開会
  14. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) これより公聴会を再開いたします。  休憩前に引き続き、公述人の方から御意見を伺います。  平野佐八公述人にお願いを申し上げます。
  15. 平野佐八

    公述人(平野佐八君) 私は、今回の日韓条約につきましては、はなはだ遺憾ながら、全面的に反対をするものであります。  特に、基本条約第二条第二項(a)(b)の措置については、直接私たちに関係のある事柄で、とうてい納得できないものであります。日本政府は、さきに一九五一年九月八日、サンフランシスコ平和条約において、韓国にある日本人の財産は、米軍司令官の行なった行為に同意する旨調印をいたしました。しかし、戦いに敗れたりといえども、個人の私有財産は、国際法上もこれを認めるところであるにもかかわらず、今回、日韓基本条約第二条二項の(a)(b)の措置は、これにとどめを刺さんとするもので、私たちかの地に私有財産を有する者は、極度にこの権利を侵害されるものでとうてい黙視することはできません。ここに所信を表明いたし、公述いたす次第でございます。  以下私の経歴、引き揚げまでの大要と、反対をするゆえんを明らかにしたいと思います。  私は明治三十四年、佐賀県藤津郡久間村に生まれました。父は治三郎、母はケサという。父は片いなかで三反百姓をやっておりました。同郷の田中円太郎という人と相はかりまして、新天地にて農業を経営すべく、わずかばかりの土地や家屋を売り払いまして、両家の家財一切を、農機具、世帯道具など一切を一隻の和船に積みまして、玄海を越えて渡鮮いたしたのであります。そして、第一種移住民として、全羅南道康津郡梨旨面中堂里という僻地に移住いたしました。当時は、日韓併合以来日なお浅く、対日感情は悪く、加うるに交通は不便にして、気候風土、言語、風俗習慣全く異なるまことに悪条件重なり、生活は容易ではありません。これより先二十五年の義務年限を果たすには、いかがすべきかと全くとほうにくれたのであります。しかし、何とかして所期の目的を達しようとふるい立ち、農事に専念しましたけれども、土地は極度にやせ、疲れ切ったる土地は容易に回復せず、肥料を施せども全く土地に吸収されて、土地つくりのみにて十年あまりくらいは収支償わなかったのであります。入植当時は、かの地の生活は、非常に向こうの人はゆったりとしておりました。貨幣は、葉銭といって一文銭のようなものを、なわやひも等に通してロバやチゲで運んでおった次第でございます。戸籍等も、番地なんていうものはなくて、何統何戸、税金などは、何負何束といっておったのであります。土地の単位は斗落と呼びまして、一斗落は、種もみを苗しろに苗を仕立てまして一斗植えつける面積を表現していい、一斗三升落というものは、やはり一斗三升の植えつけをする場所でおります。そうして農業をやっているうちに、大正五年の春、私の父の治三郎は、重病にて長わずらいをいたしまして、僻地なれば近所には医師もありませんで、いたしかたがなく四里半くらい離れました霊岩というところの内山医院に足を運びまして、朝は一番鳥ごろに起きて、まっ暗な道を月出山という険難な道を越えまして、十六歳の少年が一人で往復九里半の道を通っておったのであります。そうしてそれは五日ごとに通いまして半年もやったのですが、父はかの地で大正五年の十一月十九日になくなったのであります。この父のあとを引き継ぎまして、そして農事に専念して、向こうの人と一緒になりまして、あるときは山に、あるときは野らに、農繁期などはお互いに手間がえをいたしまして互いに助け合い、かたわら農事を一生懸命に励み、農事改良を着々と進めたのであります。品種の改良、深耕、正条植え、適期の刈り取り、むしろ干し、脱穀調製、農機具の改良または堆肥の増産等に力を尽くし、また、先覚者山崎延吉先生あたりの講演会にも出席し、道郡主催の農事講習会にはつとめて出席しまして、見聞を広め、これが普及をはかり、内鮮融和につとめたのであります。私たちは、朝鮮の農業に大いに貢献いたしたものと存ずるのでありますが、朝鮮の農事改良に東拓移住民の果たした功績は実に大きなものがあると思います。これはかの地の農業及びその関係者の方々はよく存じておられることと思います。  かくのごとくにして、私は二十五年間の長年月のうちに、父母や妻子、兄弟、幾多の肉親を失いまして大いなる犠牲を払い、汗と涙で二十五年間の義務年限を果たし、年賦償還金を完納してあがない取った命よりも大切な不動産の所有権であります。私は、これらの財産を取得するにあたりまして、家事に協力しながら志半ばにしてなくなった肉親の霊を弔い、供養するために、この所有権の一部をやきまして、この墓のために、かの地に将来の供養にするように、その年々の収入によってその方法をお願いするというようなつもりでおったのでございまするが、今回のような条約ができ上がりますると、私の希望しておる計画は全くできないことになってしまいます。かような見地から、私は自分の長年かかってあがなった土地を、そういうふうにして使いたいと思いますので、こういう条約には反対でございます。  続きまして、この長年朝鮮におりました関係上、韓国の方の心理状態もよくわかっておりますが、今回の条約は、対日請求権問題、管轄権の問題、漁業水域の問題、在日朝鮮人法的地位の問題、竹島の問題等、ことごとく韓国側の一方的な外交に押しまくられた感があるのであります。韓主日従屈辱外交にて、私はとうてい満足することはできません。  私のお願いは、はなはだぶちこわし的でおそれ入りますが、一たんこの協定は御破算にしてもらいまして、互譲平等の精神に立って再び交渉を持っていただきまして、円満なる条約締結することを希望いたします。  これにて私の公述を終わりまするが、本会場に私が出席して意見を述べるように御取り計らいいただきました関係者皆さまに厚く御礼を申し上げるとともに、将来ますます健全な国家建設のために御努力いただかんことをお願いいたして、私の話を終わります。(拍手)
  16. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) ありがとうございました。     —————————————
  17. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) 次に、中保与作公述人にお願いいたします。
  18. 中保与作

    公述人(中保与作君) 忌憚なくものを言えという委員長のおことばに甘えまして、率直に所見を申し上げさしていただきたいと存じます。  私の日韓条約及び諸協定批准承認問題に対する所見は、一国会における審議ぶりに関するものと、条約協定の内容に関するものと、その今後に及ぼす影響に関するものとに分けて申し上げさしていただきたいと存じます。  申し上げるまでもなく、われわれ国民は、国会については、議決への過程における審議に深い関心を抱くのでありますが、初めから絶対反対あるいは無条件で賛成というようなことをきめてかかるなら、議員の数をかぞえるだけで事が済むと思います。三年前の一月十三日社会党使節団が、北京で張爰若外交学会会長との共同声明の中で、日韓会談粉砕運動支持の約束を取りつけられましたが、もしも、この約束のゆえに、日韓条約絶対反対の態度をとっているのであるならば、さらに問題でありましょう。日韓案件特別委員会を開くのに二十日も延び、牛歩戦術はおろか、演壇に立ちふさがって、あとの人の投票を妨げるというようなことは、はたして正しい国会のあり方と言えるでございましょうか。しかし、それだからといって一、二分の間で採決してしまうということも反省の余地がありはしないかと思います。その後二十日間も空白状態を続けるということも、また、審議権を放棄しているのではないかと疑われますが、われわれは国会不信の声が起こるのを特に心配せずにおれません。元来、日韓交渉が始められて十四年にもなり、条約及び諸協定の正式調印が終えてからもう五カ月をこえるのに、いまなお論争を続けること自体、賛否双方にとうてい越えることのできぬ溝が横たわっていることを感じさせずにはおきません。  二年前の六月二十三日、中共の劉少奇と北朝鮮の崔傭健委員長はその共同声明の中で、「アメリカ帝国主義者は、日本軍国主義勢力をアジア侵略の突撃隊に押し立てる目的のもとに、韓日会談を一日も早く妥結させ、侵略的な東北アジア軍事同盟の結成を完成させるために狂奔している」とこのように申しました。さらに、「これに便乗して自己の侵略的な対外膨張の野望を実現しようとたくらむ日本軍国主義者は、日本の核武装を急ぐ一方、海外派兵計画を公然持ち出し、とりわけ、南朝鮮に対する再侵略の企図を実現しようと血眼になっている」などと言いましたが、日韓条約反対論者のうちには、このようなことをそのまま受け売りしている者が少なくありません。事実を論拠とせず、根も葉もないつくりごとを振りかざされては話し合いの余地もないでありましょう。日韓国交正常化のあとに東北アジア軍事同盟が用意されているということで日韓会談反対を唱えるなぞ、人を欺きおれのを偽るもはなはだしい。一体、日本のだれがそんなことを主張し、だれがそんな計画を用意しているのでありましょうか。条約に軍事条項がないのがかえってあやしいという者もありますが、猜疑心もここに至っては、まさに度すべからざるものがあると言わなければならぬ。日本の憲法からも、自衛隊法からも、そんな軍事同盟は絶対にできないが、韓国の季東元外務部長官も、日本との交渉中、軍事めいた話は少しも出なかったと言っているのであります。丁一権国務総理も、はっきりと、日本に憲法第九条がある限り絶対に海外派兵などはできない、ということを認めているのでございます。  また、条約第四条に「両締約国は、相互の関係において、国際連合憲章の原則を指針とするものとする。」、(b)「両締約国は、その相互の福祉及び共通の利益を増進するに当たって、国際連合憲章の原則に適合して協力するものとする。」と書いてあるのでございます。つまり相互の関係についての指針とするものでございまして、この点は非常な曲解が行なわれていると言わなくちゃなりません。  また、日韓条約は南北統一を妨げるとか、なぜ北朝鮮交渉を持たないのかという議論も、実はもう批判し飽きましたが、朝鮮半島の南北統一は、少なくともその背後にあるアメリカと中共とが和解しない限り、とうてい実現しないのであります。南と北とは互いに相手をかいらい政権と呼んでおりまするが、北は南を共産勢力圏に、南は北を自由陣営内に入れようとしておるのでありますから、そこに少しも妥協の余地がございません。民主主義原則によるならば、韓国側の言うように、自由な選挙を行ない、人口に比例して代表を選び、これによって新国会を構成し、かくして統一政府を樹立するのが一番妥当であると信じまするが、北朝鮮側があくまでこれに反対しておるのでございます。民族の統一は、われわれ日本人としても願わしいことではございまするが、しかし、現在の情勢では、はたしていつの日にそれが具体化するか全く見当もつかないのであります。したがって、統一の日までお隣りとの国交を開くことを差し控えろというような、見当のつかない先まで待てと言うのは、まさしくこれは暴論と言わざるを得ない。日本は今度の条約でも、またこれまでも、北朝鮮にオーソリテイがあることを認めておりまするが、しかし、北朝鮮の憲法では、日本人または親日分子の所有をすべて全人民、すなわち国家の所有として、いわば没収したり、親日分子を精神病者と同じく選挙権及び被選挙権を持つことができないような規定を設けておるのでございます。憲法上このような反日的な規定を掲げておる国は世界のどこにもありません。北朝鮮は、また中共との軍事同盟を結ぶにあたり、この条約は、マルクス・レーニン主義とプロレタリア国際主義原則に基づいて締結したと言っておるのでございまするが、先方が日本を敵視しておるのでございます。  驚くべきことは、日本人でありながら、韓国に対する援助を経済的帝国主義の侵略だと言っておる者があることでございましょう。現在、日本にはいかなる形にせよ、他国に帝国主義的侵略を加えようと企てる者は一人もないはずでございます。しかし、韓国には、日本から経済協力を受ける結果、韓国経済がやがて日本経済に隷属することになりはしないかと気づかう向きがあることは事実でございます。ところが、朴正煕大統領はこれに対してしばしば言っております。韓国民にして主体性を持つ限り、韓国経済が他国の経済に隷属したり、他国から経済侵略を受けるようなことがないと言っておるのでございます。そうして、劣等感を捨てよ、被害意識を拭い去れ、主体性を持てと説いておるのでございます。また、ある一説には、アメリカ経済協力が効果がなかったから、日本経済協力も無意義だろうと言う向きもありますが、問題は協力のしかたと協力の受け入れ方にあります。日本経済協力は、すべて日本の生産品及び日本人の役務で供与することになっておるのでございます。しかも、その向け先については、韓国でも各界の人々を網羅する特別委員会を設けてガラス張りの中できめることにしておりますし、日本委員会と合同委員会を開くことにもしておるのでございます。アメリカ経済協力の二の舞いを演ずるという意見は、このようなことを知らない、あまりにも独断過ぎるものだと言わざるを得ないのでございます。日本側として、くれぐれも戒むべきことは、韓国側をして日本経済韓国経済を支配するような心配を抱かせないよう、細心の注意を払うことでありましょう。それがために、西ドイツ、アメリカ、フランス、イタリアなどによるコンソーシアム方式をも考えるべきだと思いまするが、さしあたり、日本側が過当競争をしたり、暗い陰の工作などを絶対にしないよう、つつしんでもらいたいものと思います。といっても、窓口を一本にせよという議論には反対でございます。そのようなやり方は、統制経済の構想であり、不正腐敗はそのようなところに起こりがちだからでございます。  ともあれ、日本経済協力は、韓国経済の発展に役立たせることであるという純真無雑な方針をどこまでも一貫させてほしい。これによって韓国二千八百万の人々の生活の安定をはかり、その水準を引き上げることに何ほどか寄与したいものと念願するのでございます。韓国民現在の生活水準はたいへん低く、一人当たり年間平均所得九十ドルをこえないのでございます。日本の一人当たりの平均所得は五百八十ドルといわれまするが、不景気風が吹いても、とにかく互いにレジャーを楽しんでおります。お隣りの人々——かつて兄弟として暮らしたお隣りの人々が、自分たちの六分の一にもならぬ低い所得の生活をしていることを知っては、できるだけの協力をするのが隣人としての情誼ではないかと考えるのでございます。  ことに、韓国には現在失業者が二百五十万ないし三百万人もいるといわれております。日本が供与するであろう原料、第一次加工原料、中小企業工場の補修材料、漁船、漁具、鉄道、港湾施設材料、あるいはダム建設資材などによってこれらの失業者に仕事が与えられることになるわけでございます。しかも、供与するもののすべてが日本の製品である以上、輸出がそれだけ増加することを意味することにもなるでありましょう。日本の中小企業もいま苦しい立場にあるといわれまするが、そうであればあるほど、この輸出が中小企業に何ほどかの影響をもたらすことを見のがすことができません。しかも、このようにして韓国民二千八百万の人々の生活水準が引き上げられ、その結果として購買力が高まるならば、日本の対韓輸出がもっと増加することは申すまでもございません。韓国は一昨年一億二千万ドル、昨年は五千万ドル、本年は十月末ですでに一億ドル以上、より多く日本品を買っているのでございます。国交がいまだ正常化せず、経済協力実施されない現在でもこのような状態でございまするから、経済協力が始まった後の日本経済に対するはね返りは相当予期してよいものと存じます。これがすなわち互恵平等の原則による相互の福祉と繁栄をはかる道でありましょう。しかるに、これに反対するのは、韓国をできるだけ弱体化し、二千八百万の人々を貧乏にあえがせておこうとするものでございます。これこそ共圏勢力の浸透を容易ならしめようとする策謀でなくて何でございましょう。われわれは、かかる非人道的なる策謀を排する意味でも、日韓案件のすみやかなる可決を実現せられんことを切に希望せざるを得ないのでございます。(拍手)
  19. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) ありがとうございました。     —————————————
  20. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) 次に、高野雄一公述人にお願いいたします。
  21. 高野雄一

    公述人高野雄一君) 私は、日韓条約に関してお呼び出しを受けまして、ほぼ三つの点に分けながら意見を申し述べさせていただきたいと思います。  一つは、日韓条約全体の問題、それから、その中で私が特に問題が一つ集中して含まれていると思われる基本条約の問題、それから第三に、この日韓条約、特に基本条約の置かれている背景、その基本条約をそれとともに考えなければならない背景というものをあわせて考えなくちゃならない。そういう点で、この条約の審議ということが、必ずしもその点に関して私の目から見て十分ではなかったように思われますので、その点に関して意見を申し述べさせていただきたいと思います。  日韓条約——基本条約並びに四つの協定あるいは交換公文がついておりますが、これらは漁業あるいは韓国人の法的地位、そういう問題についてある程度その実態の背景をなす一般的な条約とか、国際法とか、あるいは海洋法条約とか、あるいは一般に国際法上外国人の地位といわれるものとしてあるわけでございますが、日韓漁業条約あるいは法的地位その他こういう協定で、日本としてはそういう一般協定あるいは一般国際法よりはある程度譲っているところがあるということは、これは否定できないと思いますし、なおその間にあって、両方においてその解釈が不明確なところなどが多々残っているように思います。ただ、この条約性格を考えますと、その点二つ考えられると思います。  一つは、植民地として長く支配していた国家が、そこから解放されて独立した国家と結ぶ条約である。確かにこれは戦勝国と戦敗国との間の条約ではないが、とにかく植民地支配をしていた国家が、解放されて独立を獲得した国家と結ぶ条約である。それが世界で植民地が解放されていくという大きな大勢の中で、日本としてもその植民地支配から独立する国家に対して、国家としても、それから税を納める国民としても、ある程度譲らなくてはならない、譲ってもしかるべきだという考え方は十分成り立つと思うのでございます。その点は、この条約のもう一つの基本的な性格、分裂国家との間に結ばれた条約であるかどうかにかかわらず、とにかく日本としてはかつて外地、植民地として支配したところを、それを世界の大勢に従って独立させる。それにあたって相当程度に譲るところもあったということは、その点においては根拠も考えられると思います。  ただ、もう一つの点、いま申しました、これは何と申しても現実の問題として分裂国家である、元来は朝鮮として日本は解放し、独立を認めるたてまえであったのが、そのとおりにはいかないで、現実に存在するのはきびしくそれが二つに分かれている。その分裂した一つの国家としての韓国というものが相手になって結ぶ条約である。そうしてそれは、南北の朝鮮にしましても、その南北朝鮮を含むところの世界の力の対立にしましても、とにかく力で対決している、そういう状態に置かれている国家、軍事的に対立する二つの世界、その中核が米ソであるか米中であるか、その動きはありますが、アジアにおいてその先端に立つ形になっている国家であり、その一方の国家との間の条約であるという性格を持つこともこれは否定できないと思います。その際、そしてこの条約がそういう国家との間に、分裂した国家との間に、実務的な必要を満たすために結ぶ条約、それを南朝鮮と結ぶ、あるいはそれを南並びに北と結ぶというような場合と違いまして、その韓国との間に政治的に基本的に結合関係を持つ、そういう条約性格を片方で持って、第二の性格はそうだということが否定できないと思います。したがって、この条約、いろいろな協定にある問題も、国際法を背景として植民地から独立する国家ということにして、それが肯定される場合においても、他方においてそこからいろいろ出てくる問題は、この条約はそういう分裂国家との間に結ばれているということから、法的地位の問題にしても、あるいは漁業とか請求権の問題にしても、単なる独立した国家ともとの国家が結ぶ以外の要素を持った問題がそこに伏在している。それがある意味で集中的に含まれているのが今度の条約の中では基本条約だということが言えると思います。そうして、これによってともかく日本としては世界の政治的、軍事的な対立関係に一歩深く問題を持つという一面も、これは正直に見て否定できないだろうと思うのであります。それで、それだけにこの条約について、それが日韓両国の間に、隣国との間に非常な特殊な関係があり、そうして非常な接触があり、そうしてまた紛争も起きやすい。その国との関係において国交正常化し、友好関係を樹立するという意味は確かに持っておりますが、しかしそのような性格条約であるということは今日の現実のもとで否定できないだけに、そこでこの条約をどういうふうに対処するかということについて、日本としては、政府としても、あるいは与党、野党としても、この際、日本の政治、外交の基本的なあり方、あるいは世界平和、人類福祉に対してどのように自覚し、責任をとるかということをあらためてはっきりさせ、しっかりしたものをつかまないと、このような条約を結ぶということから、将来不可避的に何か危険なものに日本もあるいは世界もそのほうに進んでいくことになるおそれがないとは言い切れないということを、このような条約性格から一方においてはやはり伴っていると思うのであります。  この条約がそういう状況のもとで非常な苦心の末結ばれた条約であるということは、これはその条約としては、隣国との間に国交正常化し、それから友好関係を樹立するという点とともに評価しなくてはなりませんが、いまのような問題点がこの条約にはまつわっているということが否定できない。それに対して、その点を少し突っ込んで考えながら、私どもとしてまあ考え得るべき点を少し突っ込んでみたいと思います。  それで第二に、基本条約に問題を集中しまして、基本条約に集中された問題の一つは管轄権の問題であろうかと思いますが、もう一つは、それが国連原則に基づいて平和と安全、あるいは国連原則を指針として両国協力するということになっておる点、これが第二だと思います。たとえば、かつて結んだ条約が無効になるというようなこともだいぶ問題になったようでありますが、それはこの条約のむしろもう一つ性格、植民地支配国と植民地から独立した国との間に結ばれた条約であるということに関連して生ずる問題だと思いますが、より基本的に分裂国家との間に政治的な結合関係を実現するという点においては、いまの管轄権の問題と、これから主としてその点を少し立ち入ってみようと思います。  国連原則によって日韓両国協力するという点が二つの問題だと思います。ところで、その国連原則によって協力するということは、これは最近の二国間の地域的な協定に多く見られるのであります。必ずしも自由主義国家の間だけの問題ではない。ですから、その意味においては、もとよりこれが軍事的なものは全然ないわけであります。ただそれが関連している点において、この条約を考えるにあたって、どうしても日本として、あるいは日本人として考えておかなければならない、そうして覚悟しなければならない点があると思いますので、その点を少し触れてみたいと思います。と申しますのは、そのような政治的結合関係における日本並びに韓国がそれぞれ国連との間にどういう関係に置かれているか。それは韓国との関係に関して申しますと、御承知のごとく、南北に分裂した。それがともかくも国連決議を背景として韓国のほうが国連承認を受けた形になった。ところが、そのあと朝鮮戦争が起こり、そこに国連軍が派遣されて戦った。そうしてその侵略をとにかく撃退した。その後にしかし、必ずしも十分目的を達したというわけではなくて、国連軍朝鮮において休戦関係に入った。この休戦関係というのは、国連において承認された。しかし、一方韓国はこの休戦を承認しないと、そして北方にいるのは反乱軍であるという立場を堅持している。同時に、その年に日本安保条約と同じような条約アメリカとの間に結んだ。そうして北鮮との政治的、軍事的な対立を続けている。そうしてまた最近においては、ベトナムの戦争が激化する中で、ベトナムに軍隊を派遣する。それについて、国会の審議にもありましたが、国連軍の了解を得ているとかなんとかいうような、そういうこともあるようであります。そういうような形で一方の韓国国連というものと関係している。日本国連との関係と申しますと、これはサンフランシスコ条約で独立を得た後に、サンフランシスコ条約と同時に日米安保条約が結ばれ、サンフランシスコの条約が自由主義連合国とだけの条約であったのでありますが、その後日ソ間には共同宣言ができましたが、中共との問題が今日なお未解決の問題として大きく残されている。同時に、サンフランシスコ条約と同時に結ばれた安保条約、これはもとのと新しいのとありますが、その特徴として、これはすべてのこういう安全保障の条約に共通ではありませんが、日本の場合の安保条約は、外国軍の基地を認め、その駐留を認めるという形で、そういう条約はほかにもありますが、そうでない昔の日英同盟条約のようなのもあるのでありますが、ともかくもこれは外国軍の基地駐留を認める。その外国軍が十余年、あるいは戦後から数えれば二十年日本に駐留し、基地を持っているわけでありますが、そこにその条約一つの特徴があり、またそこから問題が出てくる面も無視できない。それから、この条約には、御承知のように、吉田アチソン交換公文というのがありまして、先ほど朝鮮で戦い、その後休戦したという朝鮮国連軍に軍事基地を通じて日本協力するということを約して、そしてそれが今日も生きているわけであります。  それから第二に、この条約については、これはほかのこの種の条約には見られないものでありますけれども日本の安全と同時に、極東の平和に関して米軍日本の基地を使用して行動——もちろん戦闘行動も含むわけでありますが、行動することができるというのが含まれている。これは旧条約にもあり、新条約にもそのままあります。新条約では、それに協議条項が交換公文で付せられた。こういう性格、内容を持った、特徴を持った安保条約があり、それを通じて日本国連国連軍——朝鮮で戦った国連軍と現在なお関係を持っている。なお、その間日本としては、そういう関係において、新条約でも憲法の範囲内で協力するということを言っておりますが、その新安保条約の中では、その憲法そのものについて九条などをめぐって考え方はいろいろあるようでありますが、ともかく警察予備隊、あるいは保安隊、自衛隊というふうに、その運用というか、解釈が動いてきた。そういう状況のもとで、日韓両国が先ほどのように政治的に結合し、そして国連原前によって協力する。これはやはり、ほかの条約国連原則によって協力するというのと、その背景との関係において違うものを考えておかなきゃならない。日韓特有の、あるいはアジア特有の問題というものを考えておかなきゃならないと思います。   第三に、そこで、いまの中に出てまいりました日米安保条約の中にある極東の平和条項並びに朝鮮国連軍というものについてもう少しその点を分析してみたいと思います。御承知のように、旧条約の第一条あるいは新安保条約の第六条に、日本並びに極東の平和と安全を維持するために、米軍日本の基地を使用し得る。そのために、もちろん戦闘行動を含む必要な行動をとれる 日本はそれに軍事基地を提供して、軍事基地による協力をする義務を負うているわけであります。元来、基地という問題、外国軍が長くいますと、ある程度それになれてしまいますけれども、実は国際法から申しますと、これはなかなかいざという場合には問題があるわけでございまして、従来の国際法で言えば、その基地を持ってる国が第三国と戦いが生じたというような場合には、その基地を貸している国が、自分も第三国と宣戦布告して戦うという政治決定をするならば別でありますけれども、自分がその戦争には参加しないという場合には、その基地をその国が使用できないようにしておく義務が国際法上ある。あるいは基地を撤退してもらうとか、基地があってもいいが、それを使用できないようにその力の範囲内でする義務があるというのが、国際法の基本的な従来の原則でありますが、この点は、国連の秩序ができてからは、必ずしも従来のような戦争と中立という考え方と違いますが、しかし、国際連合ができた後に基本的にどういう点が変わったかといえば、これは世界の、あるいは極東のでもよろしいと思いますが、平和と安全を維持するために加盟国として行動をとる場合には、これはいわゆる集団保障とか警察行動などと言われますけれども、ともかくもこれは国連の意思、国連決議安保理事会ないしは総会の意思に基づいて集団的処置として行動をとるんである。そして、国連決議を必ずしもまたないで、加盟国自体としては、武力攻撃に脅かされたという場合に、個別的あるいは集団的な自衛の行動、これは国連決議をまたずともできるんだ、そういう体制になる。先ほどのような、今度自分は軍隊を海外には出さないんであるけれども、しかし戦闘行動を含む第三国の行動について、軍事基地による軍事協力をするという場合に、今度は宣戦布告するかどうかの決定は必ずしも必要ないけれども、しかし国連決議をまたずに、基地協力にせよ、そのような軍事協力をするということは、これはその国として、基地を持ってる日本として、個別的ないし集団的自衛という状態に置かれているときに、その軍事的行動、軍事基地協力ということが国連憲章上適法化される、そういうことに基本的になってるということを考え、この日本安保条約にだけある極東平和条項について考えておかなくてはならないと思うんです。その点については確かに、新安保条約の交換公文で協議条項というものがつくられまして、両方は、特に戦闘行動に使う場合には、事前に協議をする。ただ、これは確かに一歩前進、改善であります。が、ただその本体は変わってない。旧安保条約と新安保条約で、極東の平和のために米軍は戦闘行動を含むところの行動をとる非常に強い権能を持っている。日本はそれに対応して軍事基地協力という形での軍事協力をする義務を負うている。これもずいぶんひどい義務だと思います。したがって、その点について事前協議ということがついたことは前進でありますけれども、しかし国連憲章上は、この事前協議ということが、交換公文で手続的なものとして、これが実際にどこまで働かせ得るかという、そういう技術的な問題に多分に依存し、基本的にその極東平和条項というのがいまのような状況で残っておる。これは先ほどの点からもわかりますように、国連決議をまたなくては、たとえば自衛の場合でなくて、世界の、あるいは極東の平和と安全のために何か警察的な意味行動しようというときは、いかに日米の協議が円満に整っても、これは国連憲章上、国連尊重の立場から言うならば、日米の協議が整っても、これはそれに基づく安保条約上の行動はできないわけであります。これは国連憲章百三条という原則がありますが、そういうわけにはいかない。ですから、ここはやはり問題は、その協議ということだけでは片づかない。やはりその基本になるこの日米安保条約特有の極東平和条項ということについて、しっかりした運用なり扱いというものを日本の政治、外交の上に考えていかなきゃならないというふうに考えます。まあそれが日本国連との関連につながる問題でありますから、その点が一つであります。  それからもう一つ、第二に朝鮮国連軍の問題でありますが、これは一九五〇年、その当時、世界の対立がこの朝鮮戦争でピークに達し、その当時できた、米軍を主体とする——そのできたときにも、ソ連とかの棄権というような特殊事態が入って安保理事会決議が成立しました。で、その国連軍が、ともかくも朝鮮で侵略を撃退することに成功し、しかし、三年後に休戦を結んで、それが国連でも承認されたし、この朝鮮国連軍というものは、その当時は世界がまっ二つに分かれたような状態で、国連の活動も東と西というふうに固定的に分かれた。その実態は、結果としてはアメリカ軍を中心とする同盟軍のような形になり、そしてその後、スエズとか、コンゴとか、キプロスとか、国連に、必ずしも東西の勢力だけに固定的に分かれない多数の国家が出てきて、政治も多局化する。それで、米ソとか米中という対決じゃなくて、国連の中に流動性、柔軟性が生じてくる。そこで、前の国連軍とは違うような意味で、ある意味でより国連的な警察軍とか平和軍が動かせるようになったという、当時の状況の国連軍とはだいぶ性格が違うわけであります。  ところで、その国連軍が休戦を結んだ後には、その後においても朝鮮国連軍がなおあるというたてまえに立っているのでありますが、しかし、これは考え方としましては、休戦が成立した後には、国連としてはそれは曲がりなりにも軍事行動が行なわれたわけですが、国連としてのいわゆる憲章第七章の行動というものはそのときをもって終わって、それからあとはまた一九五〇年以前の平和的解決の課題として、朝鮮問題が国連にかかっていると見なければならないと思うのであります。けれども、そういう戦う国連米軍を中心として戦った国連軍がなお生きているというたてまえを引き続き認めるというたてまえに立っているわけでありますが、これはその十数年前の実態が、割れた世界を、相当問題となる決議を中心に同盟軍的な要素で戦い、ともかくもその役割りを果たしたのでありますが、まあ休戦後においては、国連としては平和的な国際調停的な活動をしなきゃならないときに、朝鮮問題に関しては、国連というものが、そのような国連軍というものとして存在することによって、非常に対立した力と結びついた形で存在する。国連というものが、そういう性格国連軍を離れて、その後の相当柔軟性を持った国連として、平和的活動に、あるいはその平和の確立に進む、そういう機能を十分にアジアでは、朝鮮では発揮できない状態になっているというふうに見られるのであります。そして問題は、その後ベトナムという問題が起こり、これについても国連は出る幕を押えられているようなかっこうになっている。それが、先ほど申しました、片方において安保条約の特有な極東条項というのがありまして、極東の平和のために一応その米軍は戦闘行動を組んでいつでも出られる。一方において朝鮮国連軍との決議はなお生きているんだ。これが生きているということに、これからの日韓両国国連に基づく外交をやる場合に、国連がほんとうにこの国連主義、平和主義というもので極東において、朝鮮において活動する点について障害になる可能性も持っている、十分な国連の力を発掘できないおそれを持っているという点に関連しまして、安保条約がその極東の平和、あるいは極東ということですから、朝鮮だけならば、あるいはその決議が生きているということに従えば、いざという場合、朝鮮で問題が起これば、日本が軍事基地協力をするということは考えられる。しかし、極東と言っている。あるいはそうするとそれはベトナムも含むのではないか、そういう点について明確なあれがないわけであります。現実のベトナム戦争朝鮮軍の派遣その他から、そういうことがはっきりどこでけじめがつくかということは、どうもまだ国会のあれを聞いてもはっきりしていないように思う。  そこで、結びといたしまして、九条を中心とする憲法の運用解釈、第二に、日米安保条約第六条の極東条項というものに関しての運用解釈、それから朝鮮問題に関して国連の活動、そういうことについて日本の政治並びに日本の外交としてどのように平和主義を貫き、あるいは真の国連主義を貫くかということについて、ひとつここで具体的なプログラムを含み、一つの背骨を貫いたことが国会政府、与党、野党を通じて相当明確にされることによって、先ほどの隣国との間に国交正常化し、それから友好関係を樹立するという条約がその名目どおりに生きてくるととが可能だと思いますけれども、そういうことがあいまいである、あるいはその行き方が必ずしもそういう立場に立っていない、やはり力を築いていけばいずれはこっちの主張に相手が屈服していくというようなもしあれが残っているとすれば、この条約の基盤にあるところの、ただいま申しましたような問題点が、非常に危険なほうに日韓協力というものを巻き込んでいくという可能性が考えられる。そうしますと、やはりそういう点をひとつ政府あるいは与党、野党を通じてしっかりしたものを出していただきたいということが、自民党的、あるいは社会党その他を支持される国民以外に、そういう点について自分はわからない、少し不安だと考えているけれどもどうもわからないという国民に向かって、主としてそういう国民に向かって、ひとつその点をなお一歩しっかりとはっきりさせていただきたい。そういうふうになればこの日韓条約が生きてくるのじゃないか、しかしそうでなければ、この日韓条約というものが相当やはり警戒していかなきゃならない要素を含む、そういうふうに考えなくてはならないのではないか、そういうふうに私は考えております。(拍手)
  22. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) ありがとうございました。     —————————————
  23. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) 次に、宮崎喜義公述人にお願いいたします。
  24. 宮崎喜義

    公述人(宮崎喜義君) 日韓条約等に関する意見を申し述べます。  日韓両国は、御承知のとおり、地理的にも、歴史的にも、また文化的にも、きわめて近いお隣の国であります。かようなえにしの深い両国の間に善隣友好の親善関係を樹立することは、自然であり、当然のことだと思うのであります。しかも、わが国は、平和条約締結され、今日世界の多数の国々と国交を回復し、共存共栄の成果を築いております。にもかかわらず、日韓両国国交正常化されていないということは、日韓両国民にとってまことに不幸な状態と言わねばなりません。したがって、両国のこのような不自然な国交状態を正常化する日韓条約は、両国民族の切なる願いであると思うのであります。本条約両国の平和と繁栄を目的とするものであることは、今日までの交渉の過程で言い尽くされていると考えます。したがって、第三国の干渉とか、両国親善関係以外の特別な要因があろうとは思われません。しかも、世界外交史上まれに見る十四年の長きにわたって交渉されております。両国の代表は互いに言うべきことを言い尽くし、尽くすべきを尽くし、いまや妥協のチャンスではないか。本条約のすみやかな締結を望むものであります。  経済協力について。  この条約両国間の請求権並びに経済協力の問題が解決される道を開いた意義はきわめて大きいと思うのであります。有償、無償、さらに民間ベースによる信用供与への期待、これらは単に請求権問題の最終的な解決のみならず、経済協力によって韓国経済発展と民生の安定に貢献するとともに、日韓両国の連帯的な産業、経済、文化協力の基盤をつくる積極的な意義を認識しなければならないと思うのであります。しかしながら、一部反対論者の中には、この経済協力韓国に対する経済侵略に通ずると非難しております。しかし、日本が東南アジア諸国に対して賠償を行ない、経済協力をすでに実施してまいりました。世界各国ともに称賛と期待こそすれ、経済侵略などという批判はありません。なぜ韓国に供与する経済協力のみが経済侵略になるのか、私どもの了解に苦しむところであります。むしろわれわれは、日本国民は過去の朝鮮統治時代のことを深く反省して、韓国経済自立と民生の安定に真に協力の熱意を示すならば、韓国国民も、やがてわが国の経済成長の実績を積極的に活用して、韓国経済的基盤の確立に挺身するならば、やがて両国経済協力と分業関係が推進され、韓国の社会文化の向上、民生の安定をもたらし、両国の繁栄に大きな貢献をするものと信じて疑いません。  次に、李ラインと日本の安全保障について。  漁業協定の成立によって、特に李ラインの撤廃の意義を強調しなければならないと思うのであります。本協定は、交渉開始とともに、両国間にとってきわめて重要な問題であったと思うのであります。日本側は、公海自由の原則に立って、李ラインの不当、違法性とその撤廃を強調しました。一方韓国は、百二十余万の漁民の生活権の保護を主張する。この対立は、協定成立の最大の障害であったと思うのであります。しかるに成立を見た、この漁業協定は一九六〇年のジュネーブ世界海洋法会議以後の国際通念に即して、両国の沿岸の基線より十二海里までの水域を専管水域と定め、韓国側の専管水域の外側に日韓共同規制水域を設け、この水域における漁業規制の方法においても、公海自由の原則に基づき、いわゆる旗国主義が採用され、停船、臨検等の取り締まり、また裁判管轄権が漁船の属する国家によってのみ行使されることになっております。  また、韓国側は、李ラインについて、国防上の李ラインの健在であるかのごとき発言をしております。しかしながら、友好関係を回復した際、両国の間に国防上の李ラインが存在するとは考えられないと思うのであります。  また、李ラインを合法化している韓国の国内法は、条約等のごとき国家間の取りきめと国内法に相違がある場合、批准と同時に国内法は改正、あるいは廃止措置がとられなければならないと思うのであります。いずれにいたしましても、国内法が漁業協定に矛盾する限り、国際法優先の原則からして、協定の相手国たる日本に対して効力を持たないことは、明らかであると言わなければなりません。  かような観点から見て、この漁業協定は、日韓双方の客観的妥当性の所産であって、いささか譲歩し過ぎた感もなくはございません。要するにこの協定の成立によって、日本漁船の韓国近海における安全操業が確保されたことは、本協定の積極的な意義と言わなければならないと思うのであります。  南北朝鮮の平和共存。日韓条約の反対を唱える人々の中に、日韓条約は南北朝鮮の分割を固定化し、南北の統一を半永久的にすると非難しております。そもそも世界いずれの国を問わず、一民族単一国家の形態は、いずれの民族にも普遍的な共通の国家理念であることに異論はございません。  しかしながら、南北朝鮮の現実は、終戦当時の処理として、米ソ両国の分割占領によって三十八度線を境とし分断されております。この二分化は戦後の米ソの冷戦により、なお一そう固定化を余儀なくされているのが今日の現状であります。ことに朝鮮戦争によって、南北は仇敵の状態に立って、同一民族でありながら、相反目するきわめて悲惨な状態が今日の現状であります。朝鮮の統一は、朝鮮民族の悲願であり、私ども国民におきましても、統一成立の一日も早からんことを念願するものであります。けれども、これはすなわち、東西の冷戦が解消しない限り、その達成はきわめて困難である現実を、何人も認めざるを得ないのであります。  したがって、日韓条約を南北統一まで待つべきだと主張する反対意見は、いみじくも百年河清を待つにひとしく、日韓友好条約すべからずという以外の何ものでもないと言わなければなりません。  しかもまた、反対論者の中には日韓条約のごとき非軍事条約締結が南北統一を阻害すると反対しながら、北朝鮮がすでに締結しているソ連中国との軍事同盟がなぜ南北統一を阻害すると言わないのか。けだし矛盾もはなはだしいと言わなければなりません。  要するに南北朝鮮が今日の冷戦的な拘束から離脱する現実的にして最も合理的な方法は、南北朝鮮は同根同祖の民族であるという民族的誇りの自覚によって、平等な共存連帯感をみずからが樹立することで、すなわち具体的には一方の韓国自体が慢性的な経済危機を克服して民生の安定を企図することであると思うのであります。また他方北朝鮮もその態度を是正し、南北統一問題の持つ国際性に意義を見出すべきであると思うのであります。しかしながら結局は米ソ中、この三国間の国際的合意の存在しない限り、いまの二分化を認めながら平和維持をする以外にないと思われるのであります。  したがって私ども隣国の希望するところのゆえんのものは、日韓条約によって韓国経済建設、民生安定の急務にこたえることによって、究極的には南北統一の実現に貢献することと確信する次第でございます。  要するに今日わが国がアジアにおいて積極的に平和外国を展開することは、国民一般の要望であるのみならず、国際的客観情勢の自然的要請でもあるとするならば、ここに至ってちゅうちょなく日韓条約締結をはかるべきだと念願する次第であります。  以上、私の意見といたします。(拍手)
  25. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) ありがとうございました。  以上で公述人各位の御意見御開陳は終わりました。     —————————————
  26. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) これより公述人に対する質疑に入ります。御質疑のおありの方は、順次御発言願います。
  27. 藤田進

    ○藤田進君 非常に貴重な御意見を賛否それぞれお寄せいただきましたが、私は若干の点についてお尋ねをいたしまして、討論議論になるべくわたらないようにいたしたいと思います。つきましては、各会派委員方々も、同じ問題でもし関連というか御質疑があれば、議事進行上御発言願えればと私は希望いたします。  そこで第一にお伺いをいたしたいのは藤島さんについてでございますが、いずれの公述人方々も時間がないので言い足りない点もあったかと思いますが、なかんずく藤島さんの御公述を承ってみますと、かなり綿密にこの内容なりいろいろな面で調査されて、それぞれの時期あるいは数字を明らかにしての御開陳でございましたが、中でも政府答弁等については非常に詳しく速記録等をお調べになっていることがわかりましたが、多くありました中で数点にしぼってお伺いをいたしたいと思います。  それの第一は、条約局長の国会答弁につきましてでございます。私ども国会審議にあたりましては、実情をそのまま政府も率直に述べて、ほんとうに審議に実をならせたいという態度でございますが、先ほどのお触れになりました御意見によりますと、もっと条約局長は客観的に答弁をし、事態の解明をすべきだと思うのですが、お説によりますと、どうもその点に疑点を持っておられるように思われます。その点についてお答えをいただきたいと思います。  さらに、二問ずつまいりたいと思いますが、佐藤総理のこの姿勢の問題についてであります。旧条約が対等であり、かつ自由な意思を持ってというふうに答えられているというふうに御指摘になりましたが、その事実あるいはその間違いというか、あるいはその結果生じるところの諸問題等についても、もっと詳しく御指摘をいただきたいと思います。まず二点につきまして……。
  28. 藤島宇内

    公述人藤島宇内君) 先ほど藤崎条約局長国会で話された答弁の中に疑問点があるということを申しましたが、これは先ほどあげた問題点以外にもあります。それはことしの八月の十一日の参議院の予算委員会ですが、社会党の稲葉誠一議員が在韓国連軍問題について質問されたのに対して、藤崎条約局長は、在韓国連軍の指揮、監督権は国連にある、だから、これは国連が統制しているからだいじょうぶだというふうなことをおっしゃったんです。しかしこれは完全な間違いです。なぜならば在韓国連軍の指揮、監督権は一九五〇年の七月七日の安保理事会決議によってアメリカ軍指令官にあるからです。国連には指揮、監督権がないと思います。もし国連に指揮、監督権があるとおっしゃるならば、その証拠を出していただきたいというふうに思います。  それからもう一つは、さっきも言いました点ですが、韓国軍が独自に国連軍から離れて韓国軍行動に入った場合には、これは休戦協定違反にならないんだということを私が申したのに対して、藤崎条約局長国会答弁の中で、これは休戦協定違反になるんだということをおっしゃったのです。しかしこれも間違いだと思います。なぜならば、さっき言いましたように、韓国軍司令官朝鮮戦争停戦協定に調印していません。そうしてそれが独自な権限を持つという場合には、これは停戦協定違反でなく、行動できると思います。  それからもう一つ。これは条約局長の御答弁とちょっとまた違うのですが、小坂議員のお話になった中にもう一つ誤りが発見できます。それは第五回の国連総会決議で、これは一九五〇年十月七日の決議というのですけれども、これによって在韓国連軍が北進する場合には、国連はこれを無条件に認めている。だからあぶないのだというふうに私が言ったのに対して、小坂委員は、そういう危険性はないのだというふうにおっしゃった。ところが、これの危険性を指摘しておられるのは、私ではないのです。これは自民党の鹿島守之助議員のお訳しになったシャノン・マッキューンの「アメリカ朝鮮」という論文の中にちゃんと書いてあるのです。それから外務省で出しました「朝鮮事変の経緯」という本の中にもちゃんと書いてあります。それから外務省の外郭団体である日本国際問題研究所から出されておる田中直吉博士の「南北朝鮮の国際的地位」解説篇という解説書の中にも、三十八度線突破決議というふうにちゃんと明記してあるわけです。ですから私が言っておることは、これはむしろ政府側あるいはアメリカ側の資料に基づいて言っておるのであって、それを反駁なさるつもりならば、そういう政府あるいはアメリカ見解を反駁しなければならないということなんです。こういう点に非常にあやふやな答弁がありましたということを重ねて申し上げるわけです。  それから佐藤総理の姿勢の件ですが、衆議院参議院の特別委会、二回にわたって佐藤首相は旧条約つまり朝鮮を植民地化した数十件の条約協定あるいは条約議定書、そういったものは対等の立場で、自由な意思で締結されたということを繰り返しおっしゃっておるわけです。しかし、これは外務省あるいは国会図書館にある資料によりますと、これは公明党あるいは社会党からも現在理事会で請求されておるようでありますが、外務省はこれをまだ特別委員会に出していないようであります。これをぜひ出していただいて、その実物について、はたしてほんとうに対等に自由な意思で締結されたかどうかということを確かめていただきたいと思います。その実物なしに断定することは、これはよくないからです。そういう断定から何が生まれるかといいますと、これはいろいろな問題がありますが、たとえば植民地支配が自由な意思で対等な条件で結ばれたということになりますと、この植民地支配というものに対して朝鮮民族が抵抗したということがどうも不当であるというふうな考え方がそこから出てきます。この考え方がこの日韓交渉の間では、日韓政府の間で非常に問題になったというふうに聞いております。韓国政府の韓日会談白書によりますと、この点が国民感情に一番引っかかるのであるということを言っております。ですから、この点をはっきりいたしませんと、日韓友好の思想的基礎というものが確立されないのです。そういうところから出てくる結果としまして、たとえば一九一九年の三・一独立運動のために昔植民地時代に投獄された朝鮮民族というのは、これは何十万にも達するほどです。たとえば一九二〇年代初めの間島省虐殺事件というのがあります。これも総督府の資料ではっきり出ておるはずです。さらに関東大震災の虐殺という問題もあります。また戦争中の朝鮮人強制連行という問題もあります。こういったものは、すべて日本政府資料として出せるはずのものです。そういうものが出されないということは、つまりそういう問題についての請求権というものを全部ほおかぶりしてしまうということになるわけで、結局それは韓国国民日本に対して持っておる請求権というものを放棄させておいて、その上に経済協力というものをつくり上げる。で、この経済協力は、はたして韓国国民に実際に渡るのかどうかということになりますと、これは非常に疑問があるわけです。政府答弁にもありますように、この日韓経済協力というものは韓国国民個々に渡るのではなくて、そういう個々の犠牲者に渡るのではなくて、資材及び役務で提供されるということになるわけです。それによって一部の特定の日本の企業というものは確かにもうかるかもしれません。これはこの不況の現在非常にうれしいことかもしれませんけれども、そういうことでは、日韓友好の本質的な姿勢というものは確立されないのではないかというふうに考えるわけです。で、そういう点を具体的な資料によって確かめていただきたいというふうに思うのであります。
  29. 藤田進

    ○藤田進君 さらに恐縮ですが、二点お伺いしたいのですが、藤島さんの御指摘によりますと、日本政府答弁というものが、ソ連ポーランドあるいはチェコスロバキアこういう間の条約日韓基本条約は同じだ、こういう政府答弁に対しては、これは事実上間違いだということを御指摘になりました。その間違いという点について、もう少し掘り下げて聞かせていただきたいと同時に、しからばその間違いというものを、この上に立ってどうすべきかという御所見を伺いたいと思うのであります。  さらに第二の点は、横浜その他の例をあげられ、あるいは博多における港湾関係とかということで、いわゆる軍事同盟といったようなことに関連して、その歯どめを国会でつけてもらいたいという要望があったかと思います。この歯どめ等について、具体的にはどういうことが適当であるのか、お伺いをいたします。
  30. 藤島宇内

    公述人藤島宇内君) 衆議院特別委員会における小坂自民党議員の質問、それから佐藤首相の御答弁、こういうものによりますと、この日韓基本条約というものは、ソ連ポーランドチェコと結んでいるような共同宣言とか、あるいは議定書と性質が同じものであるというふうにおっしゃっておられたわけですが、これは具体的に調べてみると、明らかに違うと思います。それはさっき言いましたが、二つの点で違っています。第一の点は、ソ連ポーランドチェコとの共同宣言議定書の場合には、国連憲章原則といっても、第二条の中から第三項、第四項を特に選び出して、そこで平和的な協力だというふうに、はっきり明文化しているわけです。ところが、この日韓基本条約の場合は、日華平和条約の場合と同じく、国連憲章第二条の七項目全部を含んでいるということです。ですから、もしも、その点でソ連ポーランドチェコとの関係と同じにしたいというふうにおっしゃるのでしたら、やはりソ連ポーランドチェコ関係と同じく、国連憲章第二条第三項、第四項に限るべきだ。そうすれば、ほんとうにこれは平和的なものだというふうに言えると思います。  それから次に、このソ連ポーランドチェコ国連対策というものが、アメリカ日本とたいへん違います。それはどういう点で違うかと言いますと、具体的には、朝鮮問題決議ソ連ポーランドチェコは反対しているということです。ですから、同じ国連憲章原則による協力と言いましても、これは正反対の協力になる。そういう点で、これは同じではないんです。しかし、それを同じだというふうに繰り返しておっしゃっているわけですから、それならば、同じにするために、日本もそういう朝鮮問題国連決議に、ソ連ポーランドチェコと同じような政策をおとりになるかどうか。そうすれば同じになります。もし、そういうことをするならば、これが軍事的協力に対する一つの歯どめになると思います。たとえば、これは本来ならば、国連総会国連代表がやらなければいけない問題なんですけれども、しかし、その前提として、国会がそういう点での超党派決議でもおやりになるならば、これはなるほど政府の言うとおりでありますというふうに私も賛成いたします。これが一つの歯どめになると思います。  それからもう一つの歯どめとしては、先ほど、憲法第九条が自衛権という関係で破られている、つまり、日本報復攻撃を受けるという危険の場合には自衛権が発動できるわけですから、その報復攻撃可能性というのは、在日米軍事前協議というようなものは無視して飛んで行った場合にそういうことになってしまうわけで、日本国民の意思とかかわりないわけです。ですから、自衛権範囲について限定をするということが一つ考えられます。それは、安保国会のときに林法制局長官が言われたように、国連決議あるいは国連軍という形ならば、自衛権が相手方の領土、領海、領空まで入ってもかまわないような答弁があったわけです。そういうことにならないために、そういうことを許すようなやはり国連決議——先ほど言いました朝鮮問題の国連決議、これに対するやっぱり日本態度というものを変更すべきであるというふうに思います。そういうふうにすれば、これがそういう場合の歯どめとして役に立つのではないかというふうに思います。  それから憲法第九条の改正問題というのがありますが、憲法第九条はそういう自衛権によって破られますけれども、なお、たとえば徴兵制の問題とか、その他核兵器の持ち込みの問題とか、いろいろな面で有効な働きをしているというふうに見られるわけです。これをどういう点でそういうふうな危険性を防ぐか。憲法第九条についてのはっきりした超党派のやはり見解というものをここで確立すべきであるというふうに思います。現在のままですと、佐藤首相は憲法第九条があるからだいじょうぶだというふうにおっしゃいましたけれども、しかし、自民党の綱領としては、これは憲法改正ということにきまっておるわけです。ですから、やはりこの点での国民的な立場からのはっきりした態度というものが確立される必要があるというふうに思います。  以上でございます。
  31. 藤田進

    ○藤田進君 ちょっと委員長に議場のことでお願いしたいのですが。公述の皆さんはそれぞれそうやじになれておられる方でもないので、やじというようなことはつつしんで、賛否それぞれの所論にかかわらず冷静に承って、そして、ほんとうに発言が十分していただけるように、私、質問いたします立場から見ても、最も見苦しいことで、どうしてもやめられなければ、適当な措置をおとりになるとか、お願いをしたいと思うのです。  大平さんにお伺いをいたしたいのでございますが、国会の審議の場における態度等についてもお触れいただいたわけでございます。なるほど国際関係、二国間あるいは多数国間における条約等では、与野党を通じて十分つつしむべきものもあろうかと思いますけれども、今度の日韓条約ないし協定の場合は、御承知のように、非常に韓国政府並びに日本政府の間における解釈というよりも、基本的問題で、たとえば領土竹島については、韓国議事録を見ますと、丁一権総理あるいは李東元外務部長官の速記を読んでみますと、あれは椎名さんも触れたんだ、佐藤さんに総理官邸で会って、佐藤さんが参議院選挙で国民に、実はまだ解決していない、あれは日本の領土だ、一括解決をするんだということをおれも言ったので、おれの顔を立ててくれと言ったけれども、内外記者の大ぜいいるところで状況描写されて、韓国国会では詳しく答弁されて、紛争でも何でもない、これはもう解決したのだ、だから交換公文にもこれは触れていないといったような、一々申し上げなくても御研究のようでございますが、いわば本質的な問題についてかなり大きな開きがあるということを、私どもも多年条約等を審議いたしまして初めて遭遇する事態なのであります。それだけに、お互いに親善協力をこの条約によってスタートするという提案者側の意図から見ても、非常に遺憾な点である。したがって、これらの点は、国際的にも、あるいはわが国民の前にも明らかにしていかなければ、双方ともに、現在の政権がそう十年も三十年も続くとも考え得られません。あすにも倒れるかもしれないという両国の実態でもあります。したがって、相当掘り下げて韓国もやっているが、私ども日本国としてもまあやっていかなければならないと思うのであります。しかし、それは不利益だとおっしゃることは大きな意味を持つわけで、われわれの国会の審議権というか、かた苦しいことはよしましても、かなりやはり突っ込んで審議しろというのが一般の世論であるように私ども心得まして審議を重ねていこう、空白を持たないようにしていこうということですが、この点について、もっと掘り下げた御意見を承りたい。  それから、二問ずつまいりたいと思いますが、第二の点につきましては、御賛成立場ではあるけれども、不合理、欠陥のあることは認めるとおっしゃっておられるように思います。その不合理、欠陥というものが、大平先生の御認識では、具体的に内容としてはどういう点を不合理、欠陥と考えておいでになりますか。  まず、二点お伺いをいたしたいと思います。
  32. 大平善梧

    公述人大平善梧君) 非常にむずかしい問題であるわけでございますが、第一の点は、条約というものが双方ともほんとうに理解し合って、正しい明確な合意があるということが望ましいことは、これはだれしも疑う余地がないわけでございます。しかし、その双方が背後に持っているいろいろな事情というものがあるために、特に韓国の管轄権というふうな問題を取り上げますと、その事実関係と、支配をしているという、そういう主張というものが食い違いがあるわけですね。そういうような問題を特に審議して、相手のメンツを傷つけるような、そういう議論は好ましくないということを申し上げたのでございまして、審議それ自身がこまかく不審のある点を国民の前に明確にするということは、これは望ましいことだと私も考えておるわけです。  で、竹島の問題につきましては、これを国際裁判にかけるならば、これは明治以来日本の近代化が進んで、国際法の知識を取り入れておりますから、当時の外務省がとりました日本の明治三十八年の春のあの島根県編入というものは、私はりっぱなものだったと思うのであります。したがって、従来から竹島の領土権を日本が持っておったという事実はあるが、それを国際法的な立場において日本がそれを編入したという、その手続を完了したということは、これは非常に私としては日本は有利だと思うのでありますが、しかし、そういう日比谷公園ぐらいの岩山、まあ小さな島があります。大きなやつが二つ、男島、女島というようなものがあるようであります。そういう島で、全然木もはえていない、水もない、そういうので、アシカがわずかにとれるというようなところで、この大きな日韓国交正常化という問題を、その岩山のために延ばすということは、これは好ましいことではないんじゃないかというふうに私はだんだん考えてまいります。特に韓国に参りまして、そういう独島の問題を取り上げて話し合いをしたときに、いかに感情的に激するか、まあ岩山のためにこれまで感情が激するならば、日本態度として、しばらく様子を見たほうがいい。まあ解決のめどをつけたというふうに政府当局が言われるほど確実に解決するかどうかは、これからやってみないとわかりません。しかし、向こうが承諾して解決するようになる機会がないとも言えない。私は、竹島の問題はたな上げにされた、しかし、日本は領土権を放棄しているものではなく、まあ解決する可能性を残したという形において今度の日韓正常化条約ができたのだと、これをもし解決するまで延ばすというならば、とうていできなかったのじゃないか。つまり、相手方の気持ち、相手方の国民の気持ちというものを考えれば、この岩山を犠牲にしてもやむを得ないのじゃないかというふうに考えたわけでございます。  したがって、私は、二つの問題を一緒にしてお答えするような結果になりましたが、国会が審議をされるというのにも、おのずからにジェントルマンシップのルールがあるのじゃなかろうか、それはやはり日本のナショナル・インタレストを害するようなこと、特に露骨なことばにおいて審議をするということよりも、もっと優雅なことばでやったほうがいいのじゃなかろうか、こういうふうに私は感ずるのであります。  お答えになっておりませんければ、あらためてまたお答えいたします。(拍手)
  33. 藤田進

    ○藤田進君 前段第二問の不合理と欠陥のある点を認める、これを、どういう点が不合理であり、どういう点が欠陥であるかということを御指摘いただきたいと思います。
  34. 大平善梧

    公述人大平善梧君) 欠陥があるのは、一つ基本条約には英文がついておりますが、他の分には英文がついておりません。これは解釈がもし食い違った場合に、日本側は日本文により、向こうは朝鮮文によるわけでございます。しかし、そいつをことばの上から申しますと、英語でやるというふうに、第三のはっきりしたものがあれば、よほどその解釈がまとまりやすいのです。ところが、この英文にするということは、これは容易ならぬことでありまして、おそらく日本だけが翻訳するのならば、これは一カ月ぐらいでできるかもしれませんが、向こうと共同作業になりまして、訳の点について論議が沸騰いたしますれば、さらに一年ないし二年を要するのではなかろうか。こういうようなことになりますれば、この点は欠陥であろうと思います。幾つも私は欠陥はございますが、一つだけ申し上げます。
  35. 藤田進

    ○藤田進君 まあ賛成論の立場で欠陥、不合理を多く追及しますことはエチケットでないかと思いますから、次に移りますが、韓国軍に対しては、これは協力義務はないという意味の御発言でございましたが、在韓米軍を含めていわゆる国連軍という指揮下に入っており、韓国軍またしかりでございます。日本としては、御承知のように、一貫して政府国連軍行動その他については協力するという立場に立っているものであります。こう考えてまいりますと、韓国軍はすでに国連軍指揮下にあるという状態から、これを見ますと、これは当然に日本政府はこれに協力をするということに帰結するのではないかと私は思うわけでございますが、これは、協力をする関係はないという点についての、もっと詳しい御説明を承りたいと思います。  それから第二の点でございますが、韓国に対して武器あるいは弾薬等、軍需物資と申しますか、こういうものについては、条文にもないし、その協力の必要もないような趣旨でございましたが、まあ私どもの調査によりますと、いろいろ形は変わりまして、あるいは、かつては米軍日本における特需であるとか、あるいは合弁会社といったような形であるとかということで、現在もなおそういった面のかなり大幅な援助といいますか、交流というものが行なわれているわけであります。この条約によってそれを断ち切るということにはなっておりませんしいたしますれば、御意見のようなことについては、若干私ども危惧を持つわけでございますので、これらの点についてお伺いをいたしたいと思います。
  36. 大平善梧

    公述人大平善梧君) 国連軍協力するという具体的な義務朝鮮事変当時あったわけでありまして、それは吉田・アチソン公文というものによって示されているところでございます。すなわち、日本は当時国連に入っておりませんが、アメリカ軍が日本を占領して占領軍として朝鮮に出動した。それが国連軍という名前をもらった。そして国連軍としていろいろ日本協力させたいというふうな立場におきまして、吉田・アチソン公文という形ができた。それに基づきまして日本国連軍協力する、しかし、この協力というのは、日本の支配する領域内において協力するという意味でございまして、韓国の軍隊が日本に入るというようなことは、今日考えられませんし、結局、韓国にいる韓国軍日本協力する、そして援助する、こういうような義務吉田・アチソン公文からは出ておらぬと思います。そこで私は、国連条項が今度の日韓基本条約にも、前文及び本文にあるわけでございますが、これは先ほどから議論になっておりますように、日ソ共同宣言、それから、前文だけではございますが、インド、ビルマ、そういうふうな国との国交調整の条約にもあるわけでございまして、これは一種の飾り文句だということを私申しましたが、国連の——日本は当時国連に加盟しておりません。まあそういう意味もありますが、とにかく、新しい国際政治のあり方、それは国連憲章に従り、そういうような基本的な原則を示したものであって、具体的な協力義務というものは、個々の国連決議のしかた、その事態というようなことできまるのであります。したがって、特別協定がまだ成立しておりませんので、安保理事会決議をするというような場合に、これに拘束されるというような事態は具体的に出てこないと思いますが、結局、総会決議というものは、これは勧告でございまするから、そのときそのときに応じまして、日本はその決議に従っていけばいいんである、今日、そういう原則をきめたから、国連協力するというたてまえだから、日本は軍事的な義務があらかじめ約束されているんだというふうに解釈するのは間違いである、一般的な包括的な国連協力義務はある、そして、そういうような具体的な事情日韓関係にあるということは認めるけれども、その微妙な事態に処するには、ここに日本国民があり、ここに日本国会があり、責任ある政府があるならば、決してそういうことにはならないんではないか、まあこういうふうに考えるのであります。  それから国連軍が、一九五〇年代の国連軍が、悪かった、今度の六〇年代の国連軍は非常にけっこうだ、こういうような考え方は私はとらないものであります。したがって、朝鮮にある国連軍が悪いといまごろになって言うけれども、あの当時は、あの侵略を阻止したのはすばらしかったと言って日本は称賛したのであります。したがって、私は事態を歴史的に見、その社会関係国際関係において見るべきであって、今日、スエズのごとき、平和調停軍すら、財政不如意のためにできない。結局、各国は金を自分が出して自分の軍隊を出す、そういうような形のサイプラスヘの派兵というような形が出ているのであります。したがって、私は、観念論的な意味において国連軍性格をきめつける、そういう態度をとりたくないのであります。  それから武器弾薬の輸出の点がございますが、これは密貿易もありましょうし、これはわかりません。今後わからぬ。ただ、政府といたしましては、条約によってそういうことのないようにする。特に今度の有償無償の経済協力というものは、純粋に経済的な協力にする、そういう方針で政府がやる、また、これは当然国民として政府を監視し鞭撻して、そういう方向に向かわせるよりほかない。しかし、将来どうなるかということは、しかも、やみ取引がどうなるかというようなことは、私としてはここでお答えすることはできません。
  37. 藤田進

    ○藤田進君 議論になりますから、お伺いを続けたいと思いますが、御承知のように、いまココムの協定とか、あるいはチンコムとかが問題になって、若干くずれつつありますが、必ずしも武器弾薬だけが兵力に入るとも言えません時期ですから、私どもとしては、この条約締結の暁におけるそれらの問題についての心配があるわけであります。なお、日米韓合同演習であるとか、あるいは日本における韓国軍の訓練であるとかいったような直接的な問題もすでに起きております。こういう点については、いかがお考えでございましょうか。
  38. 大平善梧

    公述人大平善梧君) その点は、私は若干普通の人と違った見解を持っております。私は、日本の大学において軍事学の講義がないということに対して不安を持っているものであります。したがって、今後国防の必要は日本にある。国民はやはり国の安全について関心を持つべきである。しかし、その国防は、シビリアン・シュープレマシー、民主主義的なルールによって、国会を最高にして、十分これを把握すべきである。そういう慣行と、そういう空気のもとに、りっぱに世界の平和に寄与すべきであると考えるのであります。したがって、戸締まりが必要であり、戸締まりのために、あるいは番犬が必要でありましょう。番犬はほえなければならない。ただし、お客さんにほえるような犬にしては困るのであります。そのシビリアン・シュープレマシーというのはそういうことである。したがって、かまざる犬にしておくか、それとも、役に立つ犬にしておくか、そのためには、ある程度研究が必要である。ただし、その研究をシビリアンが知らないというような状態では困ると私は考えるのであります。(拍手)
  39. 藤田進

    ○藤田進君 直接のお答えではございませんが、他の委員も非常にお伺いしたいことが多いようでございますから……。ただ、竹島についてのお答えの中で、少し心配な点があるので、賛成論の代表的な御意見としてお伺いしたいのですが、領土というものは、御承知のように、昔から寸土も領土を譲ることは大きな国の問題であることは御承知のとおりであります。お述べになりました、単なる日比谷公園の面積にたとえ、かつ岩山、ロックであるということですが、いまの条約を見ますと、御承知のように、私どもは、国際司法裁判所に応訴するといったところで、まあ日本の領土であるというはっきりしたものがとれないとしても、せめて、国際司法裁判所の判決にまつといったくらいのところにはいくのではないだろうか。政府も、かつてしばしば岸内閣、池田内閣以来、国際司法裁判所説を唱えて交渉していると思いますし、その裏づけとしての一括解決ということであったわけですが、今度の条約を見ますと、結局、話し合う。しかし、交換公文には竹島——独島という形は出ていない。そうして韓国の議会答弁が御承知のようにある。で、かりに日本政府のやることがそうだとすれば、第三者の調停も、これに一方が応じなければ調停のレールに乗ってこないわけです。かりに調停に乗ったとしても、これはどうも日本のものだわいということになるとすれば——これは当然ならなければなりますまいが、一方が、これは拘束力がございませんから、のまないということになれば、これは幾ら、私どもの見通しでは、親日内閣が韓国にできたとしても、そこまでなかなか、歴史的経過から見て、これは徳川幕府以来の紛争だとも政府は言われているわけですが、なかなか解決しないのではないか。この見通しのもとに立つならば、つまり、いつの日か解決するかもしれない、ないかもしれないという御推定のようですが、とすれば、竹島というものは、これをかりに韓国に事実上とられても、いま一方的に占領してここに韓国の保安隊といいますか、乗り込んで、ちゃんと韓国領土の石碑を建てているのだそうですが、われわれ調査に行くということで話し合っておりますが、なかなか近寄れない、これはもちろん領海、領空も含むんでしょうが、これはそういった事情をよく見ると、結局これを投げても日韓の妥結はすべきだというそういった思い詰めたお気持なのかどうか。もしそうでないとすれば、この上に立って条約締結批准のあかつきに、どういう手だてが日本としてあるのだろうか。韓国国会答弁は一応おくとしまして、これはもう解決しているというのですから問題ないわけですが、日本政府答弁からすれば、いやいや紛争だという、その紛争であるという認識に立って、いまの条約のプロセスに沿ってやった場合にどうなるだろうという点についての御意見を承りたい。
  40. 大平善梧

    公述人大平善梧君) 竹島が編入されるとき、アシカを取りたい、当時、日露戦争の前でございまして、非常に靴の皮が高くなりまして、アシカを取りたいというために、あそこで独占権を持ちたいというために出願して編入願を出したわけです。その当時、これはどこのものだかよくわからぬという、本人が考えておったようなところもございまして、いわばアシカの皮の値段によって竹島が編入されたのである。おそらく、日本国民はアシカの皮の値段というものほどこの竹島に関心を持っているかどうかということは疑問でございますが、しかし、私は島根県に参りまして、島根県では非常にこれに関心を持っており、かつ、竹島の研究をやっている特殊な課がありまして、そのパンフレット、非常にりっぱな研究書も送ってきております。そういうようなことでありまして、日本人はいろいろな意味におきまして、これは一つの先例にもなることでございますので、私は権利を放棄するということは、政府は言っておらないのでありますし、またできないと思います。結局は、これは係争として長く残るだろう。時が解決するが、解決することができない間は、係争として残るだろう。したがって、先ほど条約に不合理な点がある、欠陥があるとすれば何だ、それは竹島についての紛争ということを日本政府は言いたかった。ところがそう書けなかったというところ、これも日本側から言えばやはり欠点だと思うのです。しかし、やはりああいうことに結局除きましたが、除くということはどういうことかわからないのですが、しかし、やはり竹島の問題のために日本政府が特にああいう文書を残したわけでございます。私は日本は権利を放棄していない。したがって、将来解決の道を残している。しかし、それはいつの日かハオ・ホア・プー・チャン・カイ(好花不常開)。
  41. 中村英男

    中村英男君 竹島問題に関連してお伺いしたいのですが、私も島根県ですからちょっと関心があるわけですが、この竹島のいま公述人も申し述べられましたが、島根県では田村という人が非常に研究している。どうもこの交渉を見ると、いまの鬱陵島と竹島を朝鮮のほうで取り違えて、すりかえてどうも主張しておる懸念があります。こういう点に対する政府のやはり追及といいますか、話し合いがらされていないように思うんですね。  それからもう一つは、外務大臣の答弁の中で、竹島を占領しておると、実力でこれを占領を解くというつもりはない、こういう御意見で、私どもそのとおりに思うのです。思いますが、やはりこれは十数回に近い日本は口上書で抗議をしておるんですね。これは当然しなきゃいかぬです。しかし、すでに交渉を十数回、数回、韓国日本交渉しておるんですから、こういう公式的な口上書でなくて、話し合いの場で、やはりそういう過去における歴史的な問題を取り上げて、間違いは間違い、正しいことは正しいとしてただすべきことは当然です。私一番不満に思うのは、占領したまま、もちろん実力ではこれはまあのけるわけにはいかぬでしょう、しかし、占領したまま調停に持ち込むというこの態度は、将来やはり竹島の処理について非常に不利な結果を招来しやしないかということを私は心配しておるんです。もう一つは、あなたも申し述べられましたが、国民の中にはやはり非常に小さい島だから価値がないんじゃないか、こういうまあ一つの腹の中であるんですね。これは私は非常に間違いだと思うんです。何もあそこにはアシカやアワビやサザエやコンブだけではないんですね。これはまき網をですよ、アジやサバの非常に棲魚地なんです。非常に漁場的な価値があるんですね。今度の漁業協定で十五万トンというワクをはめられましたが、あそこで四月から八月までそういう操業をしたら、二十統のまき網で操業したら大体三万二千トンぐらいとれるんです。ですから、それを総計してみると十万トンの魚がとれるではないかということを類推できるんです。そういう意味からいっても、あの漁場的な価値というものは非常に高いんですね。そういう漁場的な価値が高いのをわからないんですね、政府は。私は農林大臣の迫及はこの点をしようと思うんですが、そういう点がありますから、大平さんはこの竹島問題について政府が——もちろん韓国人の感情もありますから、これは非常にむずかしい問題です。むずかしい問題ですが、話し合いの場面があるんですから、占領したままこれを次の紛糾の場面に持ち込むということは、非常に日本が損になるということはお考えになるかどうかということを一点お伺いしたいと思うんです。
  42. 大平善梧

    公述人大平善梧君) 御意見まことにもっともでございます。これが私の返事でございます。
  43. 藤田進

    ○藤田進君 久住さんにお伺いしたいのでございますが、御意見を承りますと、私の聞き間違いかもわかりませんからふえんしていただきたいのですが、いわゆる休戦ラインを、対峙するところの状態の軍事力の対比その他御指摘になりまして、日本のいわゆる自衛隊なり、あるいは日本が被害を受けるといったことに論及されまして、われわれ安心していいように結ばれたと思うのであります。また別に、いまの段階は漸次変貌してきて、御表現は違いますが、軍事同盟という状態は、これはNATOにおいても私どもかなり内部的にくずれを見せていることは承知いたしておりますが、しからばといって、軍事同盟というその防衛方式という、あるいは安全保障という方式が、これが全然影をひそめつつ別の形に置きかわらんとするということにつきましてはいささか疑問を持つわけであります。具体的にみますと、たったこの間でございますが、十一月に南ベトナムのグエンカオ・キ氏は韓国を訪れ、そして丁一権総理等の間に完全な意見の一致を見た、それはアジア軍事同盟についてであります。あるいはまあ佐藤総理も核問題についてはイギリス等に提案もいたしております。また、昨日の外電その他聞きますと、季東元外務部長官はアメリカに行きまして、日米韓といったようなことの会談を持ちたい、外務省は否定的だといったようなことも伝えられておりますが、これらの点等から見て、必ずしもそういう状態ではないだろうかという点が一つであります。  第二の点は、しからばこのいまの三十八度線ないし休戦ラインをめぐる問題、あるいはベトナムのエスカレートといったような認識がわれわれと若干違うように思うのですが、こういった軍事情勢全般を、特にアジアの軍事情勢を見るときに、御意見をふえんいたしますと、わが国のいわゆる防衛力の漸増といいますか、三次防等いま御承知のように問題になっているときであります。これらの関連から見て、日本の、いま自由民主党内閣におけるいわゆる国防、あるいはこれに付随する予算、あるいは計画といったようなことについてどうお考えでございましょうか。
  44. 久住忠男

    公述人(久住忠男君) ただいま二つの問題について御質問がございましたが、最初はこの軍事同盟というのが漸次改まりつつあるという最近の国際的な傾向についていろいろ別の例をおあげになりまして、たいへん微妙なところをおつきになっておるわけであります。ただ、この問題につきましては、私はたとえば北東アジア防衛機構とか、あるいは東南アジア防衛機構といったような種類の軍事同盟というのがすでに旧式化しておりまして、現状においてはすでに内部的に再調整をしなければならない状態にあるということで、同種のものをいまここで論議するということは時代に逆行するものである、こういう意味のことを申し上げたのでありますが、国際情勢は時間とともに、あるいはまた空間とともに非常に複雑でございまして、いわゆる段階がいろいろな状況にあります。また地域的においてその情勢は千差万別でございます。現在のベトナム情勢がこうだから東南アジアの情勢がこうだというふうにすぐにこれを類推するということは、現状において現実的な国際情勢の分析とは申し上げることができないわけでございます。この地域的な差があるということ、あるいはまた別の例をもってあげますと、この核の「カサ」、核の安全保障の問題は集団的に行なうことが個別的に核兵器を持つよりも有利であるから、したがって、これは軍事同盟ということがなくなりつつあるという証拠にはならないじゃないかという議論がありますけれども、これはまた先ほど言いましたような情勢の違いでもなし、通常軍備をもってする軍事同盟ということと核軍備をもってする集団安全保障というものは、現在の段階においては別種に考えるべきものではないかと考えるものであります。なぜかと申しますと、通常軍備は各国が持っておりまするが、今度はそれと同じように各国が自分で核兵器を持つことによって集団防衛にかわる独自の防衛をするということになりますと、これは世界はたいへんなことになる。いつ、どこでまた核兵器の投げ合いが行なわれるかもわからない。したがって、核兵器に関しましては全く別種の顧慮が払われなければ将来の人類は救われない。こういう段階になっておるのでありまして、核兵器保有国拡散防止というものは、現在の国際情勢、国際問題の中で最も緊急を要し、緊急措置しなければならない問題といわれているわけであります。これは先ほど御指摘のように、軍事同盟はすでに旧式になったという概念とは矛盾したものでございますけれど、核兵器が通常兵器と違っておるために、全く性格を異にするためにかような矛盾がここに現存しておるわけでございます。いずれにいたしましても、この集団防衛といったような問題、あるいは軍事同盟といったような問題は、従来はある仮想敵国を設けまして、これに対しまして対抗するというために考えられた。私をして言わしめますと、これは十九世紀的な戦略であったのであります。ところが、第二次大戦以後、世界の各国の国防政策はその情勢を改めまして、すべて戦争を抑制する、戦争を起こさないようにする、そのための軍事同盟でありそのための国防政策である、あるいはそのための核戦略である、かように情勢が変わってきておりますので、この戦争抑制という基本的な防衛理論、あるいは哲学的な考え方を無視いたしましては、現在の非常に複雑にして地域的に段階の差のある最近の国防政策を論ずることがむずかしくなるのではないかと、かように考えるわけであります。この戦争抑制力という考え方をまず最初にする必要があると考えるのであります。  第二の御質問のアジアの軍事情勢ということでございましたが、なるほど現在アジアではベトナム戦争という朝鮮戦争に次ぐ大戦争が起こっております。これが日本の国内に大きないろんな問題を投げかけているということも事実でございますが、この問題と、これが大戦争になる可能性がないから日韓条約を結んでもだいじょうぶだということを申し上げましたが、それならば日本の防衛力、第三次防なんて増強する必要がないのじゃないかといったような意味の御質問であったと思いますが、これまた防衛と申しますもの、あるいは攻撃とか防御というものは、いわゆる哲学的と申しますか、あるいは矛盾論の展開と申しますか、非常に複雑なる心理でありまして、戦争がないから防衛をする必要はない、戦争がある見通しが少なくなったから防衛に対する努力をすぐやめてよろしい、こういったような簡単な問題ではないと考えるものであります。戦争というものがいつ何どき情勢の変化によって起こるかもわからない。しかも国防計画などというのは一年や二年ですぐ達成するものではございません。少なくとも五年、十年といった長期計画であります。五年先、十年先の情勢と現在の情勢が必ずしも同じである、こうすればこうなるといったような簡単な結論が出てくるかどうかということについては、私は多分に疑問を持つものでございまして、やはり可能性のある問題については将来長期的な計画というものは着実に進める必要がある、これが現実の政治でなければならない、かように考えるわけでございまして、現在の情勢がどうであるから簡単にその必要がないということはいえないのではないか、かように考えるわけでございます。
  45. 藤田進

    ○藤田進君 なかなか複雑な御答弁のようにも思うのでございますが、古来、刀から弓に移りいろいろいたしましたが、根本的に流れているものは、その相手方を制圧するだけの備えを持つということになり、兵器もだんだんと追いつき追い越すということになってきたし、いまも変わりはないように思われます。とするならば、わが国の防衛に、これを例にとってみる場合、自衛力強化、質の向上といったようなことのほかに、三自衛隊の中にもいろいろ議論があり、国会でもその秘密文書が提供されたりして問題にもなったわけですが、私がお尋ねしたいのは、どういう国が日本を侵略するかもしれない、したがって、その国の兵力あるいは兵器等を十分探究しながら、これに対応する兵器であり作戦であり用兵であるということになるのではないだろうか。三矢計画その他問題にもなりまして、漸次、表現はどうあろうとも、かなりはっきりしてきているとは思いますが、久住さんの専門家の立場から見て、日本の場合には、一体対応する——まあ仮想敵国とは申し上げませんが、対応するものをどこに考えて国内の防備というものを整備する気であるかといったような点について、まあ五年もすれば軍事情勢は急転変化もあるとおっしゃいましたが、それはそれとして、しかし一つの計画のもとに防衛力を増強するということであれば、アメリカが攻めてくるかもしれないといったような考えでいくといったことも、どうも現実から見て、私どもしろうとから見て——しかし、とはいっても、一つの相手方というか、ものを考えつつということになれば、どういうふうに対応する相手方を考えたらいいか、一連の軍事情勢、国際情勢の中から、ひとつ結論だけでもよろしゅうございます、お伺いしたい。
  46. 久住忠男

    公述人(久住忠男君) 軍備あるいは国防政策というもののものさし、どの度程軍備をしたらいいかという問題につきましては、数年前、当参議院の予算委員会におきまして公述をしたことがございます。そのときに申し上げましたのは、いろいろこれも考え方が変化してきております。従来は、いわゆる仮想敵国といったような考え方から、隣の国あるいは仮想敵国と考えられる国がこれだけの軍備を持っておるから、これに対抗するためにはこうした軍備をしなければならない、こういったような考え方が支配的でありましたが、その結果が幾たびかの大戦争につながり、悲劇的な結果に終わったことは、歴史をひもとけば随所にその例があるわけでございます。したがって、戦後、先ほど申しましたように、この軍備に対する、国防政策に対する考え方が各国とも変わってまいりまして、いわゆる戦争抑制力として、戦争が絶対にその国に起きないように、その国が戦争の原因をつくらないように軍備あるいは自衛力といったようなものを持つということが、世界のどの国でもほとんど支配的な考え方に変わってきたのであります。また、そんなことではわからないということで、あるいは国民の所得に対する何%といったようなものさしを持ち出す場合もございますけれども、これは時と場合によって違うのでありますが、そういったようなものさしを出す場合におきましても、これを仮想敵国を目標に出しまして、軍備がどれだけなければならないと、こういう考え方ではなくて、わが国に対して、あるいは当該国に対して、よその国から戦争をしかけてくることができないように、それが大戦争の原因にならないようにするのには、その国は自分の国の責任においてどれだけの軍備を持たなければならないかということは、専門的に分析いたしますとほぼ明らかになってくるわけであります。過度の軍事力を持つ必要はない。軍拡競争ではないのでありますから、自主的に自分の国の防衛力の限界というものを算定することが可能になります。  しかし、その間考慮しなければならないのは科学技術の進歩であります、軍事技術の進歩でございますので、ただいま藤田委員からも御指摘のとおり、だんだんにいろいろなものが、新しい兵器が出てくる、際限なく新しい兵器を装備しなければならないので、軍備の負担というものはふえるじゃないか、こういうこともありますけれども、これに対する考え方も、やはりこの戦争抑制力という考え方から、あまり旧式なものを幾らたくさん持っておっても戦争抑制力にはなりません。早い話が、自衛力に対する国民の信頼度がなくなる、あるいはこれに携わる隊員の自負心もなくなる、こういうことでは、その軍備に対する外国からの評価というものも低下するということでございまして、戦争抑制力という考え方からすると、当然近代化された能率のいい軍備というものが必要になってくるわけでございまして、そういった点を判定するのは、これは防衛庁当局もさることながら、国民全体あるいはシビリアン・コントロールとしてこの軍備をコントロールされる国会議員の皆さん、こういったところがこれがどの程度戦争抑制力として妥当な自衛力であるかということを判定されるわけでございまして、ここに先ほど御指摘の外国からの挑戦といったようなものとは無関係に考えられるわけでありまして、いま直ちに仮想敵国をつくる必要はない、こういうこともここで言い得るわけであります。(拍手)
  47. 藤田進

    ○藤田進君 仮想敵国とは申し上げませんと言ったわけで、目標なしに、まあとにかく多いほどいいというわけにもまいりません。軍事費の問題もございましょうしいたしますわけですが、まあこれはこれ以上……。  ほかの委員も非常に御質問も多いようでありますから、次に移りますが、平野さんは多くの応募者の中から協議の上で御苦労願ったわけでありますが、その後承りますと、長年韓国北朝鮮か御在住になって、いろいろ経過を、お気の毒な事情を承ったわけですが、あなたのような境遇の方はいま日本にも非常に数が多い。必ずしも朝鮮半島に限らず、あるいは台湾に、あるいはその他の地域にあるわけでありまして、その意味では代表して貴重な御意見をお述べいただいたことだと承るわけでございます。で、要するに、今度の日韓条約では、李ラインと称する国際法上の不当なものにひっかかって多くの漁船を拿捕されあるいは抑留されといったような被害は、この条約とともに日本政府が、いな日本国民がこれに補償をするということに説明がついております。このようなことからいえば、当然引き揚げ者の団体等でも、大会を開き決議されているごとく、日本国として当然補償すべきだという御意見ももっともだと思うのでありますが、さらにお伺いをいたしたいのは、長年おられ、心の中ではふるさとのお気持ちだと思いますが、なおあえてこの日韓の妥結という点について御反対になっております点がもしお聞かせいただけますれば、お触れになりませんでした点について、簡単でよろしゅうございますから、お伺いいたしたいと思います。
  48. 平野佐八

    公述人(平野佐八君) 私が全面的に反対をいたすということは、やはり新しく誕生した国がある程度経済的に恵まれていないということはわかりますから、ある程度の援助はやむを得ないといたしましても、まず管轄権について申し上げますれば、まあ朝鮮半島唯一の政府であるということが私には納得いかない。北には北のやはり政府があるし、南には南の政府がある。私としましては、やはり同一民族同一国家を形成するということが望ましいのであります。それを阻害するという観点から反対するのであります。  それから、対日請求権につきましては、初め韓国側は八億を主張しました。日本大平外務大臣は一億五千万ドルを主張して、お互いに対立をしておりましたのですが、何回かの会合の結果、全面的に韓国側の言い分が通ったような感じがいたします。これもあまりに譲り過ぎたやり方ではないかと私は思うのであります。  それから、漁業水域の問題でございますが、この公海の原則としまして十二海里ということは、私の考えでは少し譲り過ぎじゃないだろうか。公海は六海里とかいうようなふうに解釈しておりますが、十二海里ということは少し譲り過ぎじゃなかろうかと思うのでございます。  それから、在日朝鮮人法的地位の問題でございますが、これは朝鮮人といえども朝鮮人に韓国系の人と朝鮮系の人と二ついまあるような状態でございます。これがある一方の人は、たとえば長男と次男とおりまする場合に、長男のほうはこれを優遇される、次男のほうはその恩典に浴せないという、同一民族にそういうふうな悲劇をもたらすということは私たちの本意とするところではありません。この点、私は実に残念に思っております。  それから、竹島問題でございますが、竹島問題は、自民党政府におかれてはいつも一括解決をするのだと、まあそうがたがた言うな、一括解決をするんだから、というように承っておりましたのですが、結局これも一括解決ということには至りませんで、永久に解決ができないのじゃないかという感じすらするのでございます。  そういう観点から、私は全面的にこれは出直していただいて、そして両方が謙虚な立場で、謙虚な気持ちで、平等な公平な条約を結んでいただきたいというのが私の願望でございます。以上でございます。
  49. 藤田進

    ○藤田進君 最後に、他の委員の御質疑にお譲りするとして、中保さんにお伺いをいたしたいのでありますが、野党に対してずいぶんおしかりの部分も多かったと思うんですが、その中身についてつまびらかに承ることができませんでしたが、ただ一点、お考えの点をお尋ねをいたしたいのは、要するに人情論というか、感情論というか、非常に生活に困ってるんだからという点に賛成の重点があったように承るわけであります。そう聞いておりますと、国際社会主義者だろうかといった気もするわけで、まあそれはそれとして、そういうお考えということであれば、わが日本が今日置かれている国際的な環境ないし条約等についてお伺いをしてみたくなるわけであります。  わが国は、戦後、国民の努力によって相当復興もいたしました。お説のように、物価は上がったけれども、実質的な生活程度については、ある者は非常に上がり、ある者は依然として置き去りになるという、非常な格差もついてまいりました。しかし、これを世界、ことに最も所得の高いアメリカ等を考えてみますと、まだまだ低いわけであります。さらに、同様敗戦国のドイツやイタリアのそれに比べても、まだまだ追っつけない状態であります。で、簡単に申し上げる意味で、対米関係について、しからば日韓のそういった同情論なりあるいはその他の見地からこれを論究されるとするならば、どうお考えだろうか。すなわち、国会でも問題に常になっておりますように、対米条約その他通商ですね、御承知のように、通商条約において、あるいは通商航海条約の改定期においてしかり、あるいは航空協定において、国内法である利子平衡税であるとか、あるいは輸入制限阻止の立法であるとかですね、あるいはまた大きな片貿易であるとかいったような点についてこれを見るならば、もっとアメリカ政府日本に対して考え直すべきだということが当然導き出されると思う。ところが、まあ今度の日韓条約について見ますと、いろいろ議論がありますけれどもアメリカの強い、まあ表現はいろいろございますが、圧力というかのもとに多年の交渉が急転直下ここに——平野さんも指摘されたような長年かかったものが、これほどあいまいもことして、しかもじりじりと押されてという、その裏には強いオーソリティーの作用があったといわれているが、そういったような関連から考えてみると、アメリカ自身も日本アメリカとの関係においてもっと考えてみるべきじゃないかという点が容易にあなたの主張としては出るのじゃないだろうかとも思う。これは推定にすぎません。お伺いいたしまして、終わりたいと思います。
  50. 中保与作

    公述人(中保与作君) 私は日韓問題だけに限局して申し上げたから、まあ御質問のような問題が起こるわけですが、アメリカに対する問題はあるいは当然お説のような主張をしていいかと思います。韓国に対して申し上げたのは、私は単なる感情論、同情論ではなくて、その韓国側の生活水準が引き上げられるならば、当然日本に対するまたいろいろな貿易上の注文も出てきて、中小企業がずっと困ったりしている、その面に相当はね返りもあるということを、貿易上の数字でも申し上げたつもりでございまして、これがつまり互恵平等の原則、相互の福利繁栄をはかる一つの方法でもあるという見地から申し上げた次第でございます。アメリカに対する問題はこの席では別問題のように思いますが、私は、お説のようにアメリカに対してはやはり片貿易の是正を主張すべきだということで、日米貿易経済懇談会もこれまで開かれてきておるんじゃないかと思います。  それから、これは私に対する御質問ではございませんでしたが、一言私見を申し添えさしていただきたいことは、竹島の問題でございます。先ほど、韓国国会で、これはあくまで韓国のものであると主張した者がいることは事実でございますが、それは季東元外務部長官です。そのことばだけをあなたはお取り上げになっていらっしゃいまするけれども、そのあとで丁一権国務総理がはっきりと、話し合いをする場合は、わが国のものであるという前提のもとに話し合いをいたします、という答弁をしておる。ですから、話し合いに乗ることはあらかじめ向こうでも一応考えて、紛争の対象とすべきことは当然予期しているんだと思います。しかしながら、容易に解決しないことは、先ほど来皆さんおっしゃったとおり。これはちょうど歯舞、色丹、あるいは択捉、国後なぞをそのままにして、共同宣言によって日ソ両国国交を開いたという、ああいう例もございまして、大きな両国の大局的な問題のために、これから話し合いに付するということで残したのも、私は政治的な考慮の一つではないかと考えておるのでございます。  なお、先ほど国連軍韓国軍のお話がございましたが、韓国軍国連軍指揮下にあることは事実でございますけれども国連軍を構成しているのではございません。しかも、これは国連軍韓国政府との間の協定であって、日本はこれに何らの拘束も受ける事由はないと思うのでございます。その点はまあ補充的に申し上げておきます。
  51. 藤田進

    ○藤田進君 中保さんに、いまの丁一権国務総理が議会で、言ったというのは、ここで速記を——おとといでしたか、岡田宗司委員が指摘して、ずいぶん議論したところなんです。あなたの御解釈とは全然違う。日本が、簡単にいえば、あれはもう紛争だといって持ってくるかもしらぬ。持ってくるかもしらぬけれども、その問題についてはもうはっきりしているのだという趣旨のことで、それが話し合いに応ずるということを言い切っているのではありません。また、国連軍その他についてのことは議論になりますから、関連を聞いた上で……。
  52. 羽生三七

    ○羽生三七君 関連。たまたまいま韓国経済のお話がありましたが、それに関連して一点だけお尋ねをいたします。私の質問は、日韓条約賛成とか反対とかいうことに全然関係のない質問です、どういう立場の人でもということ。それからもう一つは、韓国経済の実情を承るのですが、その結果として、だから韓国を援助しなければいかぬという結論を、それと関係なしに全く純客観的な韓国経済の評価をどなたかから承りたいのです。というのは、韓国に対してアメリカがマーシャルプランを上回る膨大な援助をいたしました。その前にもいろいろ援助がありました。しかし、韓国経済の実情は御承知のとおりであります。しかもその上に、先ほどもお話がありましたように、六十万以上の軍隊がおる。そういうことの結果からして、どなたかからも先ほど御指摘がありましたように、日本国民経済国民生活の何分の一の生活しかできない、そういう状態がある。さらにまた相当な設備を、韓国経済があまり発展しておらないということもあるんでしょうが、しかし、それにもかかわらず相当な設備を持っている。しかし、現実にはこれが稼働しておらない部分が相当あります。したがって、このような膨大な今日までのアメリカ援助にもかかわらず、なおかつ韓国経済がこのようにある場合、はたしていまの六十万の軍隊を勘案をし、いまの日本国民経済に比べて何分の一というような低い生活水準、この韓国経済が今後一体はたして立ち直れるのかどうか、こういう非常な大きな疑問を持っているわけです。だから、これは賛成とか反対とかいうことでなしに、純客観的な韓国経済の評価として承りたいわけで、これは中保先生いかがでございますか。
  53. 中保与作

    公述人(中保与作君) 非常に大きな問題をお与えくださいまして、これは短時間に御回答申し上げるのはちょっと無理かと思いますが、アメリカの援助は戦後約四十億ドルにのぼるといわれております。それがほとんど効果がなかったとまで極言されますゆえんは、主として消費物資を供給したからでございます。その点に一つのあやまちがあったわけであります。今度、日本が今度の協定によりまして供与するのは日本の生産品及び日本人の役務となっております。お金で供与したり消費物資で供与したりするのではなくて、さっきもちょっと申し上げましたが、いろいろな物資で供与するのでございます。お説のとおり、中小企業は非常にいま苦しんでおります。半分ぐらいは稼働していないといわれておりまするが、その原因は原料が不足している、機械類が老朽化している、また工場が腐朽しているというふうな諸原因が一緒になって中小企業が稼働しておりませんが、そういう点から今度の経済協力はやはり原料、あるいは第一次加工原料、機械類、工場の腐朽を補修する材料とか、そういう面に私は向けられるように聞いております。むろん、これは最終的な決定を経ておりません。韓国側でもいまのところ試案を出しているだけでありますから、いずれ日本との話し合いによって最終的な決定を見ることと信じますけれども、そういう点から申しまして、アメリカ経済協力日本経済協力とはやり方が違い、また受け入れ方が違うのです。したがって、アメリカ経済協力が効果を奏しなかったから日本経済協力も効果を奏するかどうかというふうな議論は少し論理として飛躍しているように思われるのでございます。  韓国側の困っている事情は、これを申し上げると非常に長くなりますが、見通しとしまして、来年度で第一次五カ年計画を終わりまして、一九六七年から第二次経済開発五カ年計画というものを樹立いたします。日本経済協力は主としてその方面に向けられるようでございまするが、韓国側としてはできるだけ外国からの援助を受けない、自立自営のところまでまずこぎつけようということで鋭意努力しているように見受けるのでございます。政府当局もそのように言っておるのでございます。まあ、この程度でひとつお許し願います。
  54. 羽生三七

    ○羽生三七君 これ以上は議論になりそうですから……。
  55. 亀田得治

    ○亀田得治君 関連、一点だけ。では、一つだけ。あらためてお聞きしますとたいへんかえって時間をとると思いますので、お聞きしたいと思います。  先ほど旧条約というものが平等の立場で結ばれたものではないという立場で、藤島公述人意見を表明されました。それに対して佐藤総理はじめ平等の立場で普通の状態でやられた、こういう趣旨の意見表明を今日までされておることは周知のとおり。このことは、私は非常に大事な点ではないかと考えるのです。佐藤総理もせんだって、その点について再度この場所で委員から質問のあった場合に、あまり古い過去のことについてはさわらないほうがいいのじゃないか、そういう意味のことも言われました。しかし、これは、こちらがさわらないようにいたしましても、この点は朝鮮民族にとっては簡単に消え去る問題ではないわけであります。私は、こういう点をほんとうに日本朝鮮とのきちんとした関係をつくるというのであれば、やはりはっきりとさせるのがほんとうの友好立場につながっていくものではないかというふうな考え方をしておるわけであります。それは、単にそういう原則を確認するかどうかということにとどまらないわけでありまして、そういう点をはっきり認識するかどうかによって、いろいろな具体的な日本朝鮮との間の関係ですね。——ちょっと大平さん。あなたにもちょっとこの点お聞きしたいので。まあ日韓賛成の方にむしろこの点お聞き願いたいわけです。私が申し上げておる旧条約というものが、そういう不平等な立場で結ばれたということを認めないとか、あるいはあいまいにしていくとか、そういう考え方はやはりよくない、こう考えておるわけです。大平さん並びに賛成の方の久住さん、中保さん、賛成論者はどうもこういう大事な点をぼやかしておるのじゃないかと私は思うのです、これは。だから、そういうことは二重の意味で三十六年間朝鮮民族に対して、何といってもこれは相当むごたらしいことをしてきた。さらに、この際に非常に民族に対する一つの不親切な行動を重ねることにはならないでしょうか、あいまいにして通すことは。そういう考え方をもっておるわけです。で、なぜそういうことを申し上げるかといいますと、私も若干朝鮮の南北の方々にお会いします。しかし、この点はもう賛成反対を問わず、非常な強い御意見であります。先ほど私、急に呼ばれましたのも、東京におられる方で、朴権煕というお医者さんでございますが、どうも新聞で拝見していると、佐藤さんはこういうことをおっしゃっておられるようだ、われわれ朝鮮人として、ともかく腹にすえかねる、こういうことを言われております。私は、日本民族がそういう点についてのほんとうに真剣な反省をする。その上に立って友好関係を結ぶようにしてもらいたいと考えておる。賛成論者はどうもそういうことを素通りされる。腹の中で思っていてもなるべくさわらないようにする。これは、私はいかんと思う。これは原則を私が申し上げているだけじゃなしに、そういう考え方から、たとえば法的地位の問題一つをとりましてもあらわれてくる。南北いずれも同じ朝鮮人、日本におる六十万の方々日本におられるようになった原因というものは同一でございます。それが日本の政治的な立場で大きな差別扱いをされると、これはもう人道的な問題だと思う。そういう人道的な問題を越えていくと、政治的な立場から越えていくというふうに私たちは感ずる。そういう態度をとらす根本は、朝鮮民族全体に対する三十六年間の日本の支配に対するわれわれのほんとうの基礎というものができておらぬところに、そういうことがあらわれておる根拠があると思う。南北たまたま国籍なり出身が異なるということによって、今度の条約協定ができますと、非常に大きな差別扱いが発生するわけですね。国内における各種の社会保障、この点がまず一つの大きな問題でしょう。第二に、なかんずく問題になっておるのは、母国との往来の問題です。韓国籍を取得すれば、再入国の許可を出すことについて、法務大臣は積極的に考慮していくと、こういうことがこの条約に付加して意思表示をされておる、あるいは、こちらに永住許可される方々の親戚が朝鮮半島におられ、こちらに会いに来る、これも積極的に考えましょうと、しかし、同じ立場にありながら、北朝鮮に対しては、それを許しません。まあ、そういうこまかい点についての質疑は、まだこの委員会では、そこまでいってはおりませんが、しかし、全体の政府のかまえとしては、総論段階においてそういう態度がすでに出ているわけであります。そういう問題につながってくるわけであります。ほんとうにこの旧条約に対するわれわれの考え方が不明確であるところに、そういう非人道的なことが私は出てくると思う。そういう意味でこの根本問題に対する三人の方々の、賛成者の方々の基本的な考えを、そういうものはさわらぬほうがいいというんじゃなしに、はっきりお答えを、この際御参考までにお聞きしたいと思っているわけであります。  どうぞ大平さんから、順番にひとつお願いします。
  56. 大平善梧

    公述人大平善梧君) 国際法の立場から基本条約第二条の点に触れてお答えいたします。  私は、日韓条約というものは過去の清算であるという面がありまして、いま御質問になりました心理的、道義的な点の御注意はもっともだと思います。しかし、この条約論に相なりますれば、もしその当時の強迫による条約だったと、だから初めから無効であるということになりますと、これは併合という歴史的な事実さえなくなってしまうわけでございます。国際法におきましては、個人的な人身に対する強迫というようなものがあって調印するというようなことであるならば、それは無効でございまするけれども国際関係の大小の力関係、いろんな事情を考えて、やはりそれは事実上対等ではないと、一種の圧迫があったという条約でも、それは国際法上有効なんでございます。したがって、有効な条約であるから、第二条のように、もはや無効であることが確認されると、こう言ってるんであります。やはり初めに有効であったということは、無効も認めざるを得ないわけであります。それでいつから無効であるかというようなことをいまさら論議する必要は、私はないと思うのでありまして、結局は、日本がいつ韓国の独立を承認したかというときでありまして、まあ、政府はおそらく平和条約の効力の発生のときをもって独立を承認したというふうになっておりまするから……。
  57. 亀田得治

    ○亀田得治君 そういうこまかいことをお聞きしているわけじゃないのです。(「道義的な問題だ」と呼ぶ者あり)そう、道義的な問題といいますか、当初の併合条約の結び方が圧迫によってやられたのではないかと、この点を認めるかどうかということを、」その点だけをお尋ねしておる。
  58. 大平善梧

    公述人大平善梧君) 私はその点は知りません。お答えいたします。
  59. 亀田得治

    ○亀田得治君 じゃお三人。
  60. 久住忠男

    公述人(久住忠男君) 毛沢東のことばに、調査せざる者は発言すべからず、こういう有名なことばがございます。私も旧条約等についての知識は不十分でありますし、調査もいたしたことはございませんので、ここで発言する資格があるかどうかを疑うものでございますが、せっかくの御質問でございましたので、全くの愚見を申し上げてお答えいたしたいと思います。  いまの道義的責任という問題につきましては、これは、承るところによりますと、椎名外務大臣は韓国においでになって、これに対して遺憾の意を——これかどれか知りませんが、遺憾の意を表明されたということで、日本国民の意思というものは、意向というものは、この責任のある大臣の発言によって表明されているのではないかと、かように私はしろうとながら考えているわけであります。また、旧条約ということになりますと、それならば、その前はどうか、その前の前はどうか、こういうことになってまいりますと、神功皇后の三韓征伐、任那あるいは元寇の役、豊臣秀吉、こういうことになりまして、あのときはどうだったかと——井上靖の書きました「風濤」という有名な歴史小説がございますが、これあたりに日本朝鮮半島の諸国とその背後を圧迫しておりました元軍の軍事的圧力、こういったものがことこまかく描写されているわけでございまして、歴史はどこまでさかのぼるかということになってまいりますと、非常に問題がありますので、この道議的責任というのは、先ほど言いましたような椎名さんの役割りあたりで十分に果たされているのではないかと、かように国民の一人として考えているものでございます。(拍手)
  61. 中保与作

    公述人(中保与作君) 久住さんのお話で大体尽きていると思いますが、小坂元外務大臣がおいでになったときも、遺憾の意を表明しておられます。今度、椎名外務大臣が行かれて、一そう強い表現で、過去三十六年における不幸なる事態に対して反省をする遺憾の意を表しておられまして、これはやはり、国民全体の意向を表明せられたものと、われわれ国民はそう解しているのでございます。その有効か無効かという話は、この点については、すでに大平さんが話されたように、もはや無効であるというのは、つまり今後のことをさしたわけでございまして、当時においては有効であったから、もはや無効であるということばも出たわけでございます。そのことば自体には、特別、反省の文字はありませんけれども、一国の外務大臣が二度も行って、相次いで遺憾の意を表明しておるのでございまするから、その点ひとつ御了承を願いたいものだと思います。(拍手)
  62. 亀田得治

    ○亀田得治君 委員長、もう一点だけ。ここは政府と討論をする場所じゃありませんから、これで控えますが……。
  63. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) 亀田君、亀田君、あとが非常に、あなたもおっしゃったようにつかえておりますが、一点というので私はお許ししたんですが……。
  64. 亀田得治

    ○亀田得治君 そうです。だけど、お答えに関して申し上げる……。
  65. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) それだったらあなた、きりがない。もう譲りなさい、一応。またあとでやればいいわけです。
  66. 亀田得治

    ○亀田得治君 もう一分です。そういう場所じゃございませんから、私はこの討論はいたしませんが、ただ、大平さんは、併合条約の事実関係についてはお調べになっておらぬとおっしゃる。それから、ほかのお二人の方は、外務大臣のことばを引用されまして、私の問いたいとしたところに直接お答えになったのかならぬのか、どうも明確ではないわけでありまして、はなはだ私は、このお三方の答弁には不満であります。私はこの問題は、単なる区々たる基本条約の有効、無効とか、そういったようなことをここでお尋ねしているわけじゃございませんので、根本的な問題について、皆さんがどの程度踏まえて、そうして論理を展開されておるのか。その点を確かめたかったわけでありまするが、答弁はどうも不明確でありまして、はなはだ遺憾であるということだけを申し上げまして、関連質問を終わります。
  67. 長谷川仁

    ○長谷川仁君 諸先生、きょうは朝早くからありがとうございます。時間もだいぶ経過しておりますので、なるべく簡単に私質問さしていただきますが、まず、最初に平野さんにお伺いいたしたいのでございますが、平野さんは朝鮮に三十五年おられて、そして引き揚げられたそうですが、三十五年おられまして、そしてこちらへ引き揚げられた、私も中国から引き揚げてまいりまして、引き揚げ者というものがどんなにつらいものかということはよくわかります。あなたの補償の問題につきましては、これはまた別といたしまして、おそらくあなたが三十五年間朝鮮におられたらば、いまでも心の中には、朝鮮は第二のふるさとだという愛情が私は満ち満ちているだろうと思う。そのあなたが、私ちょっとお伺いしたいのは、私はもちろんあなたとさっきお話いたしまして、あなたのおことばの中から感ぜられるものは、いわゆる悪いことをされたということはもう露ほども感じません。しかし、先ほど亀田委員がおっしゃいましたが、三十六年ということ、この三十六年というものは、日本の外交の中に、やはり相当大きな罪であったこと、これは事実です。そこで、私お伺いいたしますことは、あなた三十五年もおられて、朝鮮の実態というものをよく御存じです。ここであなたがさっきお話になったことは、八億ドルは多過ぎるじゃないか、こうおっしゃったのですけれども、しかし、私も最近韓国へ参りまして、韓国方々に伺いますと、日本じゃ八億ドルは多いというけれども、この中で無償はたった三億ドルだ、しかも、この三億の中で——よろしゅうございますか、焦げつき債務、あるいは利子というもの、これを差し引きますと一億五千万ドルにしかならないのだ、あとはみんな借金なんだ、そうすると、三十六年間われわれがいろいろと鮮血も流し、いろいろな犠牲もあったのに一億五千万ドルじゃ少な過ぎるじゃないかという話もあるわけです。そこで、私はあなたにお伺いいたしたいことは、第二のふるさとの朝鮮に対して、現在の韓国に対して愛情を持っているあなたが全面的に反対だということは、私はどうも納得できないのでございますが、その点をひとつ御説明願いたいと思います。討論じゃございませんから、あなたの思ったことを率直におっしゃっていただければけっこうでございます。
  68. 平野佐八

    公述人(平野佐八君) 御答弁いたします。いま長谷川委員からお尋ねがありましたとおり、私も三十数年間、子供のときから向こうにおりまして、向こうにたくさんの友だちもおるのでございます。向こうの経済状態もよくわかっております。しかし、日本の現状から見ましても、いまの自民党政府のやっておられることは、比較的金持ちのほうには何とか目鼻をつけておるわけでございますが、中小企業というものや貧乏人には、おまえたちは何にもならない、たよりにならないというようなやり方は、いかにも私たちは残念でありますが、今度は韓国に対しては、おまえたちは貧乏だから困るだろう、貧乏で困るだろうから経済援助をしてやらなければ立っていくまい、まことに血の通ったようなあたたかいお気持ちでありますが、私たちから言わせれば、しからば朝鮮人の、韓国人の政治か日本人の政治かと、あまりにも極端なようでありますけれども、そうとりたいのです。それで、私たちの目からしますれば、無償三億ドルということは少ないとおっしゃるようですけれども、それは無償であると、それぞれやはり韓国の旧債は焦げつき債権であると私は承知しております。韓国政府日本から借りた金を、借金をそのまま戻さない。それを差し引くというような意味に私は解しておりますのですが、かれこれいろいろから考えてみて、もう少し日本政府であるならば、中小企業、いまばたばたと倒産しつつある中小企業にも実質的に効力のあるような手を打っていただきたい。口先だけでなくて、実質的に効力のあるような手を打っていただきたいと念願するものでありまして、こういうふうな点から、そういう日本人の中小企業者に対するのには冷たいのに比較して、韓国には非常にあたたかいということなのでございます。
  69. 長谷川仁

    ○長谷川仁君 平野さんの御意見を拝聴いたしまして、私もまたお伺いしたい点もございますが、討論会じゃございませんので、次には、数年前まで私と同じ立場におりました藤島さんにお伺いいたしたいのでございますが、(発言する者多し)どうぞひとつお静かに。藤島さんのこの国際評論、これはあなたの角度といいますか、あなたの立場におきましては、私はまことに価値のある、しかし、きょう私があなたの取り上げたこの朝日ジャーナルの「日韓基本条約法的性格」の中に、何度も読みましたけれども、まことに失礼なことをお伺いいたしますけれども、あなたのいままで書いているいろいろの国際評論というものは非常にヒューマニスティックなものが多い。アジアの民族というものはほんとうに手を結ばなきゃならぬのだというようなことが必ずどこかに入っている。この藤島論文の中にも、「日韓友好」ということばが三カ所入っている。しかも、あなたは軍事介入というような点を重点にいたしまして先ほどお話をされておりましたが、かりにこの軍事問題というものの疑問が解け、そうして、あなたがさっきおっしゃいましたような思想的な基礎の確立というものが行なわれたとしたならば、あなたはこの条約賛成されるのかどうかということを、まことに失礼でございますけれども、私はお伺いしたいと思います。  それから、この内容について、時間もございませんから私申し上げたいと思います。あなたのこのお書きになっている論文の中の四十九ページ、「韓国領空権を、韓国に返還する協定に調印した」これは私がおりました新聞社でございますが、これは誤報でございます。これは私の調べたところによりますると、まさに事実無根でございまして、韓国の航空部が国連から返還を受けたのは、航空機の発着のいわゆるコントロール・タワー、この管制するところの権利にすぎないわけなんです。この点はあなたのほうのこの論文の中で間違っているのじゃないかというふうに私は考えます。  それから、韓国軍休戦協定に調印していないと、こう書かれている。しかし、韓国軍国連軍司令官の指揮下にあって、休戦協定に調停していないということは事実でございます。これは当然です。たといこれが調印していなくても休戦協定に拘束されると、こう考えるのは、これはもう国際法上当然だと思いますし、もしもあなたが、この韓国軍休戦協定に拘束されないという立場をとっているというならば、何か証拠があるのか、その点をひとつお伺いしたいと思う。  それから、同じくこの食い違う国連憲章の解釈の点でございますが、「「国連憲章原則」といっても国により解釈に違いがある。」と、こう書いてある。そうすると、具体的に私お伺いしたいのは、どういう国がどのように違った解釈をしているか、これまあ長くお答え願うのはたいへんでございますから、簡単でけっこうでございますが、この点をまずお答え願いたいと思う。それから、「具体的にはその政府国連憲章をどう解釈し、どんな国連決議賛成しているかが問題なのだ。」と、こうおっしゃっているのでございますが、この点は、私は、あなたが国連憲章原則と、それから諸協定、あるいは総会や、あるいは安保理事会決議を何か一緒くたにしているような感じを受けるわけでございますが、ひとまずこの点についてお答え願いたい。
  70. 藤島宇内

    公述人藤島宇内君) 私の指摘したような点が是正されるならば賛成かというふうにおっしゃいました。私は、その場合には、今度の条約そのものが根本的な、何といいますか、改革を、つまり条文のさまざまな点で訂正を受けなければならぬと思うのです。そのことはさっき指摘しております。たとえば佐藤首相小坂外相は、これはソ連ポーランドチェコとの条約国連憲章原則による協力と同じものだとおっしゃいましたけれども、しかし実物を比べてみますと明らかに違うのです。ですから、同じだとおっしゃるならば同じように変えていだたきたい。そうなってきますと話は違います。つまり賛成できるような内容が出てくるわけです。たとえばさっき言いましたように、それは二つの点がありますが、国連憲章原則による協力というのは、ソ連ポーランドチェコとの間では、国連憲章第二条第三項、第四項をちゃんとあげているのです。それから、ソ連ポーランドチェコ国連において朝鮮問題決議に反対しているわけです。アメリカ側の賛成諸国の提出する朝鮮問題決議に反対しているわけです。だから、日本政府はそういう態度をとれますか。それならば、ソ連ポーランドチェコの場合と同じようになるでしょう、そういうふうに申し上げたのです。  それから、誤報の点ですが、その点は私存じませんでした。しかし、この発着の管制の権利、それを譲ったのだというふうにおっしゃっております。私の聞いたところによりますと、なるほどこの発着の管制の権利というものは韓国側に譲った。それで、一方では、アメリカはもう一つ歯どめを考えております。実際には。たとえば実際に原爆を積むとか、あるいは武器弾薬の点ですね、それをどういうふうに統制するかという点では、やはりアメリカは統制を持っておると思います。そういう点をアメリカはやはり考えておりますが、しかし、いざという緊急の場合には、これを放すということになりますと、かってにやってしまうということが起こり得るのではないか、そういう点の危険性を言っております。  それから、その次に、韓国軍休戦協定に調印していない。で、これは確かなことだというふうに長谷川議員おっしゃいました。しかし、韓国軍国連軍指揮下にあるから、これは統制されているというふうにおっしゃったのですが、そういうことからはずれた一つの実例としては、一九六一年五月十六日のクーデター、韓国の。このときは韓国軍の一部が国連軍の統制からはずれたのです。そのために、アメリカとしては、国連軍がそのクーデターをやらせた、こういう責任をのがれることが一応できたのですが、あとでその統帥権問題でアメリカ軍との間で相当もんちゃくが起こったという実例はあります。ですから、実際にはそういうはずれた場合が韓国軍としてあるわけなんです、実例として。そういう点があるということを注意していただきたい。  それから、国連憲章原則国連決議について具体的にどう違うか、各国によってですね、こういうふうにおっしゃいましたが、たとえば、これもさっきあげた例ですが、植民地独立賦与に関する宣言、植民地解放宣言、これには日本政府賛成しております。しかし、アメリカ政府は棄権している。これは国によって違う例です。あのときたしか五、六カ国が棄権していますが、大体ほかの国は全部賛成して、日本賛成しているわけです。それが現在、今日沖繩問題で非常に問題になっておるわけです。つまり日本政府植民地解放宣言賛成しているのに、なぜ日本の領土の一部である沖繩問題を国連に訴えないかというようなことが、沖繩の日本国民百万人の要求に現在なっておるわけです。それから、また、その一つ態度の違いの例ですが、さっきこれも初めの点でお答えしましたが、ソ連ポーランドチェコは、この朝鮮問題決議に対する態度日本政府と正反対です。こういう点もやはり国によって違うということの一つの例です。しかし、政府としてはそれを同じであるかのように衆議院ではおっしゃっています。こういう点をきょう繰り返し指摘したわけ、であります。  以上でございます。   〔委員長退席、理事草葉隆圓君着席〕
  71. 長谷川仁

    ○長谷川仁君 あなたのいまおっしゃったことに対しまして、また私も反発する材料もありますけれども、先ほど申したとおりに、討論じゃございませんのであれしたいのですが、はっきり申しまして、あなたのこのいわゆる藤島論文というものは、日韓条約反対論の一つの私は重要なデータになっておると思いますので、きょうはこの論文を取り上げてあなたにお伺いするし、私も、実はこの間の特別委員会で、あなたのこの国連決議による体系づけ——私、ここにメモしておりますが、この体系づけによって、すなわち、あなたのおっしゃっていることは、この決議はそれだけで孤立・完結しているのじゃないのだと、国連における朝鮮問題決議の全論理体系の基礎となっている、こういうところからあなたお説きになっておるわけです。私は、その前文のところをひとつあなたにお伺いしたいわけなんですが……。
  72. 草葉隆圓

    ○理事(草葉隆圓君) 長谷川君、なるべく発言の内容についての御質問にしてください。
  73. 長谷川仁

    ○長谷川仁君 せんじ詰めれば、前文は、国連憲章原則に従って緊密に協力することが国際の平和、安全のために重要であるという意味に言っておるわけです。ところが、藤島先生は、平和、安全のために協力するのだと、こう言っておるわけなんですよ。この解釈は、何ですか、あなたが、この文章の中で見ますると、この前文のかぎカッコを巧みにあなたの論理の方向へ持っていっておるような気がしてならないわけなんでございますが、この点についてひとつあなたの御見解をお伺いしたいと同時に、それに関連しまして、この事前協議、これに関連して事前協議もできれば協力もできると、こういっているのでありますが、この事前協議にいたしましても、これはもうすでに御案内のとおりに、岸・ハーター交換公文第三項によって、これは事前協議することになっている。ところが、あなたは事前協議することは必要ないのだと、こういうふうにおっしゃる。   〔理事草葉降圓君退席、理事松野孝一君着席〕 それから、もう一つは、これもやっぱり私お伺いいたしたいことは、この協力ということについてあなたは何か束縛を受けるというようにおっしゃっておるのでございますが、この点について私はお伺いいたしたいと思います。
  74. 藤島宇内

    公述人藤島宇内君) この前文をおあげになっておりましたが、前文にあがっておりますこういうふうな原則というものは、いろいろなやはり国際条約に出てまいります。それは、たとえばソ連北朝鮮と結んでおるのにも出てまいりますし、それから、日本アメリカと結んでいる安全保章条約にも出てまいります。ただ、日米安保条約なんかと違う点は、この日韓基本条約があからさまには軍事条項——集団的、個別的自衛権条項ですね、これを書いていないという点が違うと思います。ただ、その場合に、これを書いてはおりませんけれども、しかし、それに抜け道が与えられておるというふうに私は思います。それは、この国連憲章原則による協力というものは、外務省考え方によりますと、日華平和条約と同じく国連憲章の第二条。で、この第二条というものを、ソ連ポーランドチェコなどの場合のように限定してありますと話はわかるのですけれども日華平和条約や今度の日韓基本条約には、その限定がないように思うのです。そうしますと、この第二条の第五項にこういうことがあります。「すべての加盟国は、国際連合がこの憲章に従ってとるいかなる行動についても国際連合にあらゆる援助を与え、且つ、国際連合の防止行動又は強制行動の対象となっているいかなる国に対しても援助の供与を慎まなければならない。」ということがあります。そうしますと、たとえばこの国連の強制行動、防止行動朝鮮に対するそういう行動日本賛成しておるわけですから、そうしますと、この在韓国連軍というものは、在韓国連軍あるいは在日米軍韓国に移った場合もそうなりますけれども、これは国連軍地位に関する協定にも明らかにされているように、朝鮮戦争が始まったときの一九五〇年の六月二十五日、六月二十七日、七月七日の、つまり北朝鮮を平和の破壊者と規定した決議、それから、今度の第二十回国連総会で問題となっております中国を侵略国として規定した決議、これに対しての対抗関係によってつくられているということがはっきり明記されております。そうしますと、そういう強制行動に対する協力と、それから、相手になっている国に対して援助の供与をつつしまなければならないということになりますと、これを根拠にして、たとえばあの吉田書簡のような問題も出てくると思いますし、それから、最近、まあ北朝鮮との貿易で業界が非常に要望しているのはやっぱり延べ払いの問題ですが、住友銀行をはじめ、積極的な銀行も多いわけですが、しかし、この延べ払いも、対韓援助で延べ払い援助といわれておりますように、やはり援助ということで封じられるというふうなことも当然起こってくる。それから第七項に、「この憲章のいかなる規定も、本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国際連合に与えるものではなく、また、その事項をこの憲章に基く解決に付託することを加盟国に要求するものでもない。」というふうに、内政不干渉原則というものはここにありますけれども、その次に、「但し、この原則は、第七章に基く強制措置の適用を妨げるものではない。」という抜け道が入っているわけです。で、強制措置とは何かといいますと、朝鮮に対しては在韓国連によって強制措置がとられているわけです。それに対する、それをささえている朝鮮問題決議日本賛成しているということがあるわけです。ですから、それに拘束されることになるのではないかというふうに申し上げておる。  それから、事前協議の点ですが、この事前協議というものがどういう意味を持つかということは、ここに上村伸一さんという外交官の方が、安保国会のときの政府答弁基礎にして本を書いておられます。これは時事通信社発行の「相互協力安全保障条約の解説」という本ですが、この中に事前協議意味をこういうふうに書いております。「そこで、わが国が国連加盟国として、国連憲章第二条第五項にある国連行動に対する援助義務を負っていることが、事前協議の際に出て来る国連軍たる米軍行動に対し、いかに影響するのであろうかという問題が出て来る。この憲章第二条の義務は、一般的な義務であって、具体的に個々の場合にどうするかということが必然的に直ちに出て来るわけではないが、国連決議行動に対して援助を与えるとの一般的立ち場に立たなければならないことはいうまでもない。しかし、国連決議は、現在のところ総会勧告によって行なわれると考えれば、加盟国としては、その勧告の提案に対し賛否のいずれをとるか、また、成立した勧告に対して従うかどうかを自ら決定する自由を持つわけであり、日本としては常に国連に対する援助という基盤に立ちつつ、具体的な措置国連との話し合いによって個々に決定していくことになる。  その場合に日本国連の要請を一切承諾しなければならないということはないのであり、日本は自己の自主的判断により、国連憲章の立ち場と日本の安全という立ち場その他の諸事情を勘案して決定するわけである。」こういうふうに書いてあります。私は、この上村さんが書いているように、国連の要請を一切承諾しなければならないということはないと思います、これは勧告決議ですから、朝鮮に対する強制措置は。ところが、これに対して日本はすでに賛成をしておりますし、それから、佐藤首相は、この間の十月二十七日の小坂外相との討論の中で、こういうふうにおっしゃっているのです。「この点では、いわゆる国連中心主義、御都合のいいところだけつまみ食いするような考え方ではなくて、全面的に私どもは、国連中心主義国連決議をどこまでも尊重していく、こういう立場であるのであります。」というふうになっております。そうしますと、一九四八年決議だけをとり出して、それだけなんだというふうな理屈はなかなか通らないのではないか。現実にこの一九四八年の決議というのは、一九五〇年の十月七日総会決議、第五回総会ですが、この中でそのとおり繰り返されているわけです。どういうふうに繰り返されているかというと、初めのところをちょっと読みますと、「国際連合臨時朝鮮委員会が観察し、且つ、協議することができたところの、朝鮮人民の大多数が居住している朝鮮の部分に、有効な支配と管轄権を及ぼす合法な政府大韓民国政府)が樹立されたこと、この政府が、朝鮮の前記の部分の選挙民の自由意志の有効な表明であったし、また、臨時委員会の観察した選挙に基くものであることと、この政府朝鮮における唯一のこの種の政府である旨の千九百四十八年十二月十二日の総会の宣言を想起し、  国際連合の兵力が現在、国際連合加盟国は、武力攻撃を撃退し、且つ、その地域に国際の平和及び安全を回復するに必要な援助を大韓民国に提供するという千九百五十年六月二十五日の安全保障理事会の決議に続く千九百五十年六月二十七日の安全保障理事会の勧告に従って、朝鮮において作戦していることに留意し」、その次に、「前記の総会決議の主要目的が朝鮮の統一された独立の民主的政府の樹立にあったということを想起し、1 次のとおり勧告する。  (a) 全朝鮮にわたって、安定した状態を確保するためにすべての適当な措置をとること。」というふうにあるわけです。こういう点で二つ決議は密接に結びついているわけです。この決議をいわゆる三十八度線突破決議というわけですが、この一九六三年十二月十三日の第十八回総会では、日本政府は積極的に賛成討論に立っているわけです。  それから、なお、そういう問題について関連したことを少し申し上げますと、十月十七日、十八日にイギリスのスチュアート外相韓国へ行かれたのですが、このときに韓国の李東元外相と話をして、朝鮮問題決議を今度の第二十回総会ではたな上げする相談をしたということが韓国側の報道として出てくるわけです。そのときのソウルからの報道によりますと、これは毎日新聞ですが、これはつまり国連で非常にあやふやになってきているということなんです。この決議は、そのために今度もし第二十回総会にこれが上程された場合には、韓国軍のベトナム派兵という問題が新興諸国の反感も買っているということもあるので、得票率は非常に減るかもしれない。六十三年の第十八回総会では得票率は五九%ですが、それが非常に激減するかもしれない。そうすると、これまで韓国政府が言ってきた、あるいはアメリカ政府が言ってきた国連方式による統一ということもたいへんあぶなくなってくる。もし現在国連方式の統一をやっても、どうも韓国としては困るというふうな点からそのたな上げに賛成したというふうな報道が出てきている。で、日本としてはそういう問題に対してこれをどういうふうな立場で処理するのか。つまりこれは強制措置ですから、いつまでもそのままでいいということではない。必ず将来も国連でずっと問題になってくる。それに対して日本政府がただアメリカ賛成しているだけで、たとえばアメリカ中国との仲介というふうな労をとるという意味国連でもう少しアメリカと違った線を出すというようなことはできないものだろうか。それがまたさっき言いましたように、ソ連ポーランドチェコと同じだとおっしゃったその間違いをただしていく道にもなるというふうに考えております。  以上でございます。
  75. 長谷川仁

    ○長谷川仁君 藤島先生、反対論の論拠をいろいろ聞かしていただきまして、また、私どももこれを検討してみたいと思います。まだ質問もございますが、あとまだ質問者がたくさんおられるようでございますから、私の質問を終わります。
  76. 森元治郎

    ○森元治郎君 高野先生にお願いします。これからお伺いするのは、国会で問題になって、どうもはっきりしなくて今日まで残ってきた問題です。  一つは、日本がこれから条約批准していこうという韓国というのは一体どんな国なんだろうと国民が聞いた場合、それは朝鮮の半島にあって、人口がどのくらいで、面積がどのくらいだと、国境は鴨緑江で、南は済州島をはさんだあの海であると、玄海灘のところまでだ、こういう説明を、そういうことを聞きたいのです。ということは、そこに条約局長も来ておりますが、われわれは国際法学者じゃないので、衆議院で戸叶君も、領域というのはどこでございましょうと聞くと、この条約は領域には関係しておりません。いくら聞いても御返事がないのです。私は学者じゃありませんから、ひとつ先生からその間のことを伺いたいのです。いわゆる常識的に、韓半島全部が韓国のテリトリーであって、休戦ライン以南がエーリアに相当するのかどうか、そういうことを伺いたいのです。  第二点は、この条約は、もうどなたもご存じのように、盛んに解釈の食い違いもある、不満足な点もあるといわれておる。しかし、これは合意された条約だから、わからなければ条文で判断をするのだ、これが政府答弁であります。しかし、このようにたいへんなかけ違いがあったならば、何らかの問題について合意のメモといいますか、討議の記録というか、形式は存じませんが、そういうものがあってしかるべきじゃないか。いや、合意したのだからそんなもの要らないかもしれませんが、私は何らかのものがあるのじゃないか、あってしかるべきじゃないか、これが第二点であります。これは形式論であります。  第三点は、条約は効力がもはやなくなったという第二条の問題であります。たいへん大きな問題でもないとおっしゃる方もあるかもしらぬが、私の質問はこういうことです。韓国だけに失効したんだというのでは、残る北に対してはどういう関係になるんだというと、はっきりしないんです。そして政府側のこれに対する答弁は、昭和二十三年八月十五日の独立をした日、これが併合条約の効力がなくなった日であります。私たちは、分離されたんですから、日本から引きちぎられた日、あるいは引き離した日、すなわち、昭和二十年の終戦の年、その日付はポツダム宣言受諾を申し入れた九月八日という日もあろうし、九月二日のミズリー号上の降伏文書にサインした日もあるでしょうし、あの日のほうが穏当ではないかというんです。その理由は、政府でも皆さんでも、三十六年間の朝鮮との不幸な関係といいますと、数えてみると、どうも一九四五年で終わっているようなんですね、自然に。一九一〇年併合条約があったとするならば、三十六年というと、くしくも終戦の年に合うんじゃないか。  また、もう一つ先生に伺いたいのは、こういう分離国家との話し合いの場合の相手に何かこちらから言うことが通ずるような機関、すなわち、政府ができなければ失効ということは通達できないのか、通達する相手がなければ失効しないで残るのか。私はしろうと考えからいけば、分離した日に、もう空中に向かって、朝鮮に向かって失効したで済むんではないか、そのほうが全朝鮮民族に与える感じはよろしいんじゃないか。政府のほうでは、いや、韓国政府が樹立されたという事実と、失効条約——合併条約があるということは矛盾をいたしますので、八月十五日をもって失効の日とした、こういう説明であります。御理解くださったかどうか、むずかしいから。  その次は、例の国連決議の百九十五号(III)を引用した第三条の問題であります。どうもあれは非常に問題になったが、とうとううやむやのうちに今日まできてしまったのですが、国連決議をほんとうに引用するならば、やはり決議の内容——私は数えたんで、外務省の翻訳によれば百七十一字ぐらいでその決議の内容を書いているんですね。それをそっくり入れたらもっとはっきりするんじゃないか。そうすればあとのほうに「合法」、「唯一」なんという変なつけたりはとらないで済むんじゃないか。決議に示されたような政府であるということで済むんじゃないか。もちろん韓国側がそれで聞かなかったでしょうが、決議という以上は、それだけ全部書かなければ決議じゃない。日本のは決議を書かないで、示されたようにというだけで、管轄権が南である、南だけの合法政府であるということをごまかして、全朝鮮の代表であるかのごとく、日本から見れば南だけですよという念を押して——そんなようなふうに利用した形跡があると思うんですが、これは全文を掲載すべきである。「合法」、「唯一」なんという字は、そんなものはないんですから、決議には。別の場所に書いてあるんですから、くっつけるべきではない。もしこのままとするならば、三条というものは私は効力がない、こんなふうな感じがいたします。その点について御返事をいただきます。たとえば参考のために申し上げますが、北朝鮮の人口は、一九六二年韓国年鑑なんか見ますと、北側は、休戦ラインの北には一千百四十万、南が二百六十二万であります。面積は、北が十二万平方キロ、南が九万平方キロ、これだけを御参考までにつけ加えます。
  77. 高野雄一

    公述人高野雄一君) なかなか法律的にもむずかしい点で、それから、また、いまの御質問の趣旨が私正確に記憶し、とらえているかどうかわかりませんから、もしあれでしたらまた御注意いただきたいと思います。  最初は、今度の条約の相手方としての韓国というのはどういうふうにとらえられるだろうか。これは一番普通の場合ならば、朝鮮の独立を承認すると、独立させる、それを日本がポツダム宣言で受諾して、そして普通常識的に考えているあの朝鮮全体が一つの国というのが当然でありますが、その日本がまだ講和条約を結ぶ前に二つが分裂し、独立し、そうしてその後にサンフランシスコの条約朝鮮を放棄し、その独立を認めるということになったわけです。そこで、日本としては、正式にはそこで独立を認めたことになるわけで、その独立を認めた政府との間に、その後代表部などの事実的な関係を通じて、今回正常な国交を樹立する条約を結んだ。これを分離国家とのあれでありますから、なかなかむずかしい点でありますけれども、大体その相手国としてどういうものを国家として承認し、それと条約を結ぶかという場合に、政府とかそれの支配区域とかいうものが確立していなければ、それは相手とすることはできないということがございます。ですから、その朝鮮の全体が日本から分離し、独立するということを日本承認したわけでございますけれども、じゃ日本が国家として承認し、それと今回条約を結んだ相手方の韓国は一体何だということになりますと、それはその朝鮮全体に支配権を確立しているのでもない。あるいは、また、独立を認める朝鮮がそれが二つの形で割れた、その両者を承認するわけでもない。片方が国連決議を受けて、そうしてまあ南半分に現実の支配権を確立している。それに基づいて、その国との今度の基本条約前に、韓国代表部等を通ずる事実上の関係が生じ、正式には今度の基本条約でそれとの正式の関係を樹立したという意味において、やはり今度の条約の相手側はその支配権を確立している、それが国連によっても認められた、それが今度の韓国である、条約の相手方である。したがって、問題は、北の問題については残されている。朝鮮が全体として日本から分離し、独立することは認めたのだけれども、今度の条約の相手方としてその独立を承認し、国交を結ぶというのは、問題を北については残している。そうして支配権を南半分について確立しているそれを相手として結んだというふうに解するのが最も妥当だろうと、こう考えます。  それから、第二の御質問は、ちょっと私も正確につかんでないかもしれませんが、今度の協定についていろいろ見解の、解釈の違いがある。これは私ども国会の討論なんかを通じて、非常に両国会での説明が違うわけでありますけれども、こういう際に何か解釈の合意というものが当然あるべきではないか、そういう御質問だったと思いますが……。
  78. 森元治郎

    ○森元治郎君 そうです。
  79. 高野雄一

    公述人高野雄一君) これは四つの協定や何かについて、ある程度は附属書とか交換公文というのがついていて、それがその役割りを果たしていると思います。けれども、今度の場合の条約のように、調印された後にその解釈が違うというのは、まあそうざらにあるものではないと思います。ただ、条約を結んだ後に、それが当事国がそれぞれ解釈権を持つものでありまして、その点である差異が出る。その差異が一切払拭されるような意味での合意が別に何か取りつけられていなくてはならない、これはまあ条約としては一般にはそうは申せないと思います。ただ、非常にはっきり合意ができていない部分が多いという意味においては、条約として非常に妥当な条約、非常によい条約とは決して言えない、こういうふうに申すべきであろうと思います。   〔理事松野孝一君退席、理事草葉隆圓君着席〕  それから、第三点、旧条約に関する御質問だったと思いますが、これは旧条約がいつから失効したか、これは一〇〇%どこで失効するという問題は、場合によると非常にむずかしい場合もありますが、今度の場合についていえば、敗戦の際にその旧条約の内容と客観的に矛盾する状態が生じたということは、旧条約の効力が実質的に失われた、旧条約というものが適用されない状態になったということは申せると思うのでありますが、これが現実に失効するというのは、やはりそこに国家の独立が認められ、特に日本との間においては、それが承認される最初の段階においては事実上の承認、それから今度の基本条約による正式の国交回復という段階を踏んでいると思います。確かにその最初の段階においてその条約の効力が実質的に失われるというのは、それと矛盾する状態が事実上日本の降服によって確定したというときにその実質的な効力が失われる、ただし、正式には、それが後に独立により、さらに国交回復により、今度の条約に確認される、そういう段階をやはり踏むとみるのが適当ではないかと考えます。  それから、いまの点について、なお北との関係がどうかという点でありますが、これはやはり北との関係は、この問題についても形式的には問題が残る、北について将来それが南に吸収されるのか、あるいは北にもう一つ政権ができて、それが国という関係を持つに至るのか、あるいは、また、北に国ができて、それが南にとってかわるのか、可能性としてはそれはいろいろ考えられますが、北については、結局その旧条約の失効ということをまた同じような形でやるのかもしれませんけれども、失効については北との問題はどういう形で失効させるかという問題はやはり残っている問題があると思います。もちろんその条約の失効と申しますことは、二国間で失効させればその条約は一般的に失効したという効力を持つわけでありますけれども、特に第三国関係においてはそうでありますけれども、この北の場合は、その条約を失効させるについての相手方となるかもしれないという意味で、事実的に残されている部分があるものでありますから、その意味においてはやはり残されているものがあるというふうに考うべきものだと思います。  それから第三条の点でありますが、第三条の点の引用のしかたでありますが、これはまあ実際両者の取り引きの問題だったと思います。これは日本立場からいえば、あの前文が引用されていることが、よりよい日本立場を貫く条約になったと思うのです。ただ、不完全でありますが、とにかくそういう形で、カッコに入れた形で引用したということは、なおそれを基礎に、日本が考えるようなことを主張する法的な基礎としては引用し得ると思います。
  80. 森元治郎

    ○森元治郎君 ちょっとこっちの人から、公述人方々がだいぶ疲れているのでよろしくというから、一つだけ。  これがわからないんですよ。韓国というのは一体どういう国か。これが教科書にでも書いたり、年鑑にでも書いたりするときに、そんなごてごて長いことを書くんですか。かりに年鑑がありますね、新聞社の年鑑。面積が幾らでどうだと書くときに、いまお話しになったようにえんえんと書いたら、これは国際法学者でなければわからないですわな。そこで領域というものは必要がないのか、韓国には。領域、領土というものは、そういう名前は要らないのか、ないのか。国境というものはないのか、一体人口が幾らなのか、これはどういうふうに——私はくにに帰って、韓国について説明してくれといわれたら困るんですがね。
  81. 高野雄一

    公述人高野雄一君) それは韓国の説明を五十字でやれ、あるいは二百字の原稿で書けということで、多少違ってまいりますけれども、最も簡単に申せば、やはり現在の時点において南半分を管轄——これは実質的に領土と申してよろしいと思います。
  82. 森元治郎

    ○森元治郎君 それは領域は英語で、この場合はエリアですか、テリトリーですか。
  83. 高野雄一

    公述人高野雄一君) テリトリーと申して実質的にかまわないと思います。これは、結局国連決議を背景にしておりますから、将来それがふえるとか減るとかいう問題が、同様に国連決議で認められれば、それに従うわけでありますが、現時点にいる限り、現在支配権を握っているところが実質的に領域である、国家であると、簡単に説明するなら申すのが一等妥当だと思います。
  84. 二宮文造

    ○二宮文造君 公述人方々にたいへん長時間貴重な御意見を伺ってきたわけですが、なお、若干の点についてお伺いしたいと思います。  主要な論点につきましては、ただいままでにほぼ浮き彫りにされてまいりました。ただ、問題は、いまこの日韓案件が十一日の自然成立というのを前にしまして、その直前にあって、ここ十日間、一週間の国会の審議あるいは国民の世論というものが非常に貴重になってまいりました。そういう時点を踏まえまして、私は、賛成意見を述べられた、主としてお三方になお簡単に御意見をお伺いしたいと思うんですが、まず、最初に大平先生にお伺いしたいことは、結局大平先生が冒頭に述べられましたことは、この条約といい、あるいは協定というものは不合理な欠陥を含んでいる。だけれども、これまでの日韓両国の事実関係というものを見て、この辺の条件で折り合ったほうがいいではないか、こういう冒頭に御意見がありました。さらにそれを受けて、はたしてこの批准をおくらしてみても、韓国国民感情の過熱というか、日本に対する反感というもの、あるいは日本に対する感情というものは除くことはできない。おくらしてみても同じだ。だから今時点において批准をすべきではないか、こういうふうな御意見のように私は承ったわけです。  そこで、私お伺いしたいんですが、いまるる指摘をされましたように、この条約には、両国政府条約あるいは協定に対する解釈の食い違いというものがあります。幾ら日韓両国民の友好をはかろうとしても、この締結の当事者である、権威を持つ両国政府見解が食い違ったままで、はたして言うところの日韓友好が進むかどうか、むしろ、いまも高野先生から御意見があったんですが、全般的に合意に達するということはむずかしいとしても、いま両国政府でなすべきことは、この食い違いについて調整をすべきではないか、それがこの条約を通して日韓両国民の友好を進める一つの力になる、こういう意見があるのですが、この点について大平先生の意見を伺いたいこと。といいますのは、もしこのままでいくと、必ず両国政府の解釈の食い違いからネックが出てくる、かえって悪化してくる、こういう心配が出るわけです。  さらに、第二段の問題として、韓国国民の感情の過熱というものを、これ以上おくらしても、それをやわらげることはできないという御意見に対しましては、今度は逆に、ならば、このまま進めても、言うところの日韓両国民の友好というものは進まぬのじゃないか、むしろ対北鮮の関係あるいはアジア全体の問題として多くの問題点を含んでいるこの条約批准というのをおくらして、事実関係の上から両国民友好というものを開いていく道をとったほうがより妥当ではないか、こういう意見があります。この二点について、大平先生の御意見を承りたいと思います。
  85. 大平善梧

    公述人大平善梧君) 私は、欠陥があると言いましたが、重大な欠陥はないと思うのであります。したがって、批准を促進すべきである、そういうふうに考えているわけでございます。ただし、その食い違いが、解釈の相違、特に両当事国の政府国民に対して説明をする、そういうことが違っている面がある。実はそこが食い違いを生じたゆえんじゃないでしょうか。したがって、国民に対する関係においては、両方ともいい顔をしている面がある。しかし、私は、いい顔ということを除いてみますと、私、それほど大きな食い違いは実はないのじゃないか。たとえば、事実上支配している管轄と、こういうものは、それは何だといえば、向こうだって三十八度線、休戦協定ラインの南であるということは認めざるを得ない。しかし、それを、その事実、そのセクションを使って将来、いな現在も北まで支配している、全韓国半島を支配しているというその旗じるしはおろすわけにいかないというところだと思うのです。したがって、いまさらその管轄権の問題は、現に支配し、将来支配するであろうような地域に限るというようなことをのませるということは、外交技術として、私は決して賢明ではないだろう。外交は一つのテクニックでありますから、私は、そういうことを言って、もう一度おくらせる必要はなかろう、こういうふうに考えておるのであります。したがって、今後そういう問題が起こるかもしれない、ネックになるかもしれない。しかし、これはやはり双方の態度いかんによるのでありまして、日本は、大国的な立場というと、少し大げさになりますが、おおようにかまえながら、現実に着々とやっていく道もないわけでもあるまい、こういうふうに考えておりまして、今後の外務当局の御苦労をいまから察する次第であります。  それから、第二段でありますが、感情の過熱の点、この点につきまして、私は、韓国国民性の中に感情の振幅性がある、幅がある。だから、非常に急に爆発すると思うと、非常に静かになるという面があるのじゃないか。これは私は半島性ということばで考えておるのでありますが、大きな勢力に対して自分の力だけで最後まで独立して反抗するということは、いままでの歴史から見てないのであります。それはできないんです。中国大陸という大きな勢力に対しては、反抗はしながら、独立を主張しながら、大勢順応というようになってくる面がどうも歴史的にある。   〔理事草葉隆圓君退席、委員長着席〕  そういたしますると、私は、もうすでに日本に対して韓国民は顔を向けつつある。特に経済協力関係ある面のほうにおきましては、団体として、条約賛成というふうに、いろいろ声明も出しますし、広告もしておる。で、そういう人たちの期待、もうすでにこちらのほうに顔を向けている人たちの期待をやはり考えてみるならば、私は、この辺でやはり批准をして、窓を開くべきである。窓を開かないのに、心の結びつき、感情の融和ということはできない。  私は、個人的でございまするが、二月に韓国に参りまして、ある学生を世話する約束をいたしました。ところがビザがおくれまして、その学生は試験の前三日に日本に来たのです。しかしそれを仮引き受けまして、仮受験をさせました。その結果、その学生は、一橋大学のことでございまするが、胸が悪いということがわかり、さらに心臓が悪いということが学校の診断によってわかり、それが来月の七日にある病院で手術をすることになったのです。これによってこの青年が健康を回復するということになれば、これこそはほんとうに人間的な接触ができるわけであります。そういうような、私は、窓を開いて、人間的な交流をし、文化的に経済的にやっていく必要がある。結びつきはそういう具体的な人間関係からできるのではないか。国交をやはり調整するということが、そういう関係を密接にする可能性ができるということを申します。(拍手)
  86. 二宮文造

    ○二宮文造君 いまの大平先生の御意見に対して、さらにもう一つ折り返してお伺いしたいのですが、両国政府の解釈に食い違いがある、それは、それぞれ両国民に対していい顔をしているからであると、したがっていい顔をしている面を取り除けばたいした食い違いはないと、しかしいま日本の国内で、われわれ新聞を読み、あるいは雑誌をとらえて判断をし、かつまた議論もいたします。そういう場合に、いま日本国民としては、両国政府の解釈の食い違いというものが、この条約批准することによって得られる効果に対しても非常に疑問を持っております。そこで重大な食い違いはない。しかし、それぞれいい顔をしているから食い違いがあるように見える。さて、その食い違いについて、今後の友好関係を促進するためには、お互いが調整したほうがよろしいと思いますか、現時点において、その必要はないと、こういうお考えをお持ちですか。その点だけ簡明にお伺いしておきたいと思います。
  87. 大平善梧

    公述人大平善梧君) 私は、今後ネックになる問題があるとすれば、日本北朝鮮に対してどういう目を向けるか、色目を向けるかという外交政策によると思うのです。この政策をどういうふうに日本がとるか、今後の問題でございまして、たとえば日華条約ですね、台湾との。国府との条約の中に交換公文で、現に支配し及び将来支配する地域ということに効力を限定しまして、あれだけ明確にして、なるべく日本としては本土との接触を密にしたいと言いながらも、あれだけの公文をとっておきながらも、やはり中国日本が接触する場合にはいろんな摩擦が起こってくる。そういう摩擦は私はやはり起こるだろう。これはむしろ条約論ではなくして、今後の日本の外交政策であり、かつ、北との間の接触は、私はなるべく現状維持以上に進めたいという考えを持っておりまするが、こういうことについて、ネックはそこにあるのではないか、こういうふうに考えております。したがって、いまの段階におきまして調停——いろいろ話し合いを再びして、はっきりとその点の証文を出せといっても、向こうは出しませんと私は思います。また出させたとしても、それだけの効果はないだろう。これは大きな政治的な力量、政策が必要だと思います。(拍手)
  88. 二宮文造

    ○二宮文造君 その問題を受けて、次に久住先生にお伺いしたいと思うのですが、先生の御意見としましては、主として軍事的な面をとらえまして、まず第二の朝鮮戦争は起こらない、さらに米中戦争は起こらない。したがって、この条約あるいは協定においても、そういう軍事的な側面というものは含まれてないのだから、したがって日韓条約批准してよろしい、こういうふうな御意見のように承ったわけです。で、私ども日本国民としますと、それは確かに朝鮮の南北の対立の問題、あるいはベトナムの問題というのも大事な問題でございます、アジアの平和ですから。しかし、いま私ども日韓案件を日の前にして問題にしておりますことは、それとからんで、日本は北鮮とどうすべきか、あるいは中国とどうすべきかというものが、国民の中に疑問となって出てまいります。その点について、補足説明のようなかっこうになると思うのですが、久住先生のお考えがあったら承りたい。現在の政府答弁を頭の中に描きながらひとつ御意見を聞かしていただければなお幸いです。
  89. 久住忠男

    公述人(久住忠男君) 先ほども申しましたように、善隣外交という原則から申しまして、いかなる国とも善隣友好関係を樹立するということは、わが国の安全、繁栄、あるいは将来の発展のためにまことに必要なことであると考えるものでございます。  そこで、今回の日韓条約に次いで、次に北鮮あるいは中共とどうするかという問題でございますが、相互的な関係もございます。あるいはいろいろな関係もございましょうけれども原則的には、政治的に経済的にわが国に対して脅威を加える、あるいは軍事的な脅威を加えるといったようなことがなくって、これがわが国の国家的利益、ナショナル・インタレストに合致するということになれば、当然これは友好関係を増進する努力をする必要があると思うのであります。ただ現在のところ、政治的に経済的にこれらの国と日本の国との友好関係を結ぶということが、わが国の利益になるかどうかということにつきましては、国民の大部分に相当疑問を持つ向きがあるのではないかと思うのであります。そういう意味で、急速にそういう問題が展開するとは私は考えておりません。  また、これについて申し上げなければならないのは、いわゆる国連の平和機構とか、あるいは集団的な安全保障機構とか、そういう問題の関係もこれにからんでくるわけでございますが、これは直接の両国の取引とは関係ない問題もあります。そういう点から申しまして、原則と現実というものの勘案というものが、この段階においてわれわれとしてはやはり必要ではないか、かように考えるわけであります。
  90. 二宮文造

    ○二宮文造君 時間がございませんから、次に中保さんにお伺いしたいと思いますが、冒頭にたいへん国会に対するきびしい御批判がございました。条約案件を審議するにあたって、当初から絶対阻止とか、あるいは賛成とかという路線に向かって進むのであれば、最後は数が決定する問題だ、もう議論する必要がないではないかというふうな御意見でございましたけれども、確かに各政党には政策がありまして、その政策に向かって進む一つの党の戦い方というのもあるということは私も承知しております。ただ、私いま問題にしたいことは、そういう国会の審議を通して、国民がいま日韓案件についてどういう理解をしようとしているか、国会はそれをさせるべきではないか、その認識をする材料を国民に与え、政治意識を高揚させるということが国会の仕事であり、かつ、こういう重大な問題に取っ組んだ政府の姿勢でもあると思うのです。私そういう面で非常に、この参議院における経験を申し上げるわけですが、政府は、韓国政府と、それから日本政府との間にこういう解釈があるじゃないかと言いますと、日本政府を信用しなさい、この一本やりです。そうして韓国国会議事録、これはすでに入手しているにもかかわらず、権威のある資料として提出しません。あるいは野党のほうから非常に貴重な資料を求めても、資料も提供しません。あるいは今度は経済協力の問題は、これは日韓の今後の友好というものを進めていくのに非常に大事な問題です。これが成功するか、あるいはアメリカのように失敗に終わるかということは、私どもこの案件を審議するときに常に想起しなきゃならない問題です。その経済協力がはたしてどういうふうに進んでいるか、現に無償供与の三億ドルを対象として数件のいわゆる借款が成立しつつある。あるいは民間信用のものについても借款が成立しつつある。その部分についての政府が現時点においてつかんでいる資料、これを提出願いたいと言っても出ない、出さない。こういうふうな政府の姿勢で、国会答弁が、一つのきまったレコードを回すにすぎないような答弁で、これで国民日韓案件の真実の姿というものを知らせることはできない、私どもはそう思うのです。したがって、そういう政府の姿勢に対して、まあきょうは公述人としての立場で来られた中保さんに、政府国会の審議に対してこうあるべきではないかというふうな御意見があれば、あわせてお伺いしたいと思います。
  91. 中保与作

    公述人(中保与作君) 最初はなはだひどいことを申し上げたようですが、要するに御意見は私と同じで、審議の過程において、国民に議題の中身を十分に知らせるという意味から申し上げたわけですが、私にまずお尋ねくださる点は、日韓両国が、韓国の管轄権について意見の相違がある、解釈の相違があるということに対してどう思うかという意味だろうと思います。それについて少し私は、政府側の説明と私の考え方は違うので、できるなら政府はこう説明すべきではないかということを、この機会に言いたいのです。  というのは、条約においては、はっきりと国連決議百九十五の(III)に示されたとおりと書いてある。つまり朝鮮人民の多数居住しているこの種の地域における唯一の合法政府であるという意味のことを書いておる。しかるに韓国では、韓国憲法のたてまえから言っているのでございます。御承知のとおり、韓国憲法は、大韓民国は韓半島及び付属島嶼に及ぶと書いてある。ところが北朝鮮の憲法にも、朝鮮半島全体をわが領土としておるだけでなく、ソウルを首都としておる。そうして自分たちの現在根拠を置いておる平壌を仮首都としておるような積極的な態度をとっております。したがって、韓国政府としては、自分の国会内ではやはり韓国憲法のたてまえを主張せざるを得ない。そこに私は韓国政府の苦衷があると思うのです。しかしそれを日本に押しつけようとしているのではないのでございまして、日本韓国関係においては、あの正式に調印された条文に従って解釈していくよりほかにない。向こうはそれを日本に押しつけているわけでもないから、その辺のことは私は問題はないじゃないかと思う。韓国政府立場も考えて日本はおおらかな態度で話をしていくべきじゃないかと、こう考える次第でございます。——さようでございましたかね。
  92. 二宮文造

    ○二宮文造君 私の質問お答えが違うのですが、最初に国会の審議のあり方について公述人の中保さんから御意見が述べられた。しかし、政府のとっている国会に対する、ということは国民に対する、この日韓案件を教えていくといいますか、知らしめていくといいますか、そういう努力がなされていないじゃないか。たとえば資料の提出の問題につきましても、経済協力だとか、あるいは韓国政府はこう解釈しているとか、非常に重要な条約の内容に至る資料についても政府は提出しない。こういうふうな政府の、国民に対する、国会に対する姿勢というものについて、中保さんの御意見があれば承りたい、こういうことなんです。
  93. 中保与作

    公述人(中保与作君) どうも、御趣旨はよくわかりましたが、政府がいかなる腹がまえであのような態度をとっているか、私は政府の人間ではないから何とも申し上げかねるのでございまするけれども、でき得るならば、なるべく率直に皆さま国会でもあるがままに話されたほうがいいのではないかと思います。いまの憲法上の解釈なんかでも、韓国ではこう言っているのは間違いない、そのとおり言っているけれども、事実はこうだというふうに私は話されたほうがいいのじゃないかということで先ほど申し上げたわけです。  それから経済協力の問題ですが、無償経済協力を前提としてすでに幾つかの話し合いができているというふうなお話でございます。私もうわさとしては聞いておりますが、実際にはたして調印ができたかどうかも知りません。しかし、あの経済協力は、最終的にはたしか合同委員会によってきまるのでございます。それまでは最終決定を見るに至らないんじゃないかと思います。そういう過程にあると私は見ておるのでございます。
  94. 二宮文造

    ○二宮文造君 どうもありがとうございました。
  95. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) 伊藤顕道君。——これは私ちょっとお断わりするんですが、公述人の皆さん方もたいへん長時間にわたっておりまして、もう時間も相当過ぎておりますから、簡単にひとつお願いします。
  96. 伊藤顕道

    伊藤顕道君 時間の関係もございますから、要約してお伺いいたします。  まず、藤島さんにお伺いしたいと思いますが、先ほどあなたの発言の中に博多港に関連した御発言があったと思います。それは、米軍から、博多港の埠頭を専用したい、二つには武器、弾薬を陸揚げするためにもっと自由に使わしてほしい、こういう要求がなされたけれども、市当局は超党派で反対しておると、こういう意味の御指摘があったと思いますが、そこで、まずお伺いしたいのは、一体米軍は最近このような要求を何のために出しておるかという点、それから次の点は、このような問題に関連した問題ですが、特に北九州に地域を限定して考えて、他にも米軍がこのような類似の要求を出しておるものがあるかどうか、もしありとすれば何のためのどのような要求であるのか、おそらくあると思いますが、それと、第三点としては、これら一連の米軍の新しい要求は一体何を意味するのか、この点について要点だけをお教えいただきたいと思います。
  97. 藤島宇内

    公述人藤島宇内君) 博多港の問題ですが、それは、私のさっき言いましたことは、八月十二日の毎日新聞に基づいています。毎日新聞の福岡発の記事なんですが、これによりますと、こういうふうにあります。「米軍福岡市に対してこのほど博多湾で武器弾薬を揚陸したいと申し入れ、市当局は拒否した」。これとは別に、「博多港の一部岸壁の”専用ふ頭”化の申し入れもあり、革新政党は「福岡市をベトナム戦争の軍事基地に仕上げるもの」として十一日の市議会本会議で緊急質問を行なった」。「市議会で明らかにされたところによると、七月中旬、在日米陸軍輸送部隊南部日本地区輸送事務所司令官レイモンド・ライト少佐が、福岡防衛施設局で田代福岡市港湾局長と会談「いま門司に揚げている武器弾薬を福岡市近郊のプレディ基地に揚陸したい」という意向を示した。これに対して市は「博多湾内は船舶が多く、危険だ。市民感情を刺激する」などを理由に直ちにことわった。ところが、米軍側は八月四日にもライト少佐らが再度来訪して、軍用船の係留できる地点を教えてほしいと要請したが」、市当局は武器弾薬用船舶を係留する目的ならば教えられないと拒絶した。  「これとは別に、米軍から「博多湾中央ふ頭の一部をいまより自由に使わせてほしい」との文書が十一日運輸省港湾局を通じ市に届いた。中央ふ頭の一部は戦後、米軍が接収、朝鮮戦争当時は大いに利用されていた。いまもLSTのほか、月間数隻の軍用船が接岸、食糧、雑貨、機械類を揚陸し、朝鮮に送っている。市当局は「いまより自由な使用」が、なにを意味するものか首をかしげている。阿部市長は”専用使用”を要求するものならば拒否する、と議会で答弁した。」「このあと、同日午後十時前から開いた本会議の冒頭、六会派(自民党、明政会、清風会=以上保守、社会、共産、公明三党=以上革新)がそろって共同提案した「米軍の博多港施設の一部専用および米軍用船の寄港に反対する」決議案を全員一致で可決、早速政府米軍にこれを送り、地元の強い反対を訴えることになった。」その内容は、板付基地にC130輸送機が飛来して問題になったやさき、今度の米軍申し入れば市民にさらに脅威と不安を与える。博多港に市が巨額の市費を投入したのは貿易港にするためだ。市民の平和を守るため、米軍の専用と戦略物資積載船の寄港に絶対反対するという、こういう記事です。  それから、これに類するものとしましては、やはり九月十六日の毎日新聞ですが、山口県の岩国発で、「米空母バリー・フォージ号(三八、〇〇〇トン)は米本国からF4Bファントム戦闘機隊一個中隊、A4Cスカイホーク攻撃機隊一個中隊=合計三十五機、乗員など四百五十人=を乗せて十五日午後三時ごろ、米海兵隊岩国基地沖に入港、夕方から乗員の上陸と航空機の陸揚げを開始した。同基地から関係方面に何の通告もなかったため「覆面入港ではないか」と市民がさわぎはじめ、同夜岩国基地報道部に問い合わせたところ、午後十時、艦名、トン数、乗組員とともに移送してきた飛行機台数、乗員数などを発表した。同基地には本年七月すでにF4Bファントム一個中隊と兵員三百人が到着しており、これでF4B二個中隊、A4Cスカイホーク一個中隊となり、同基地にいたF8Eクルーセーダー戦闘機隊一個中隊、地上整備中隊などを合わせ約千人となり、第十三飛行大隊を編成して同基地に常駐、これまで輸送、偵察などを主としていた岩国基地の性格は戦闘攻撃基地に一変するものとみられている。これまで艦船が入港する場合、二十四時間前に日本関係方面に通告するルールを守っていただけに、こんどの空母入港は市民にショックを与えている。」と、こういう記事です。  それから、これは中国側なんかで非常に気にしているらしいのですが、この九月の初めに阿蘇山と高千穂の峰を結ぶ山岳地帯で自衛隊西部方面隊が大規模な山岳演習を行なっているわけです。それから五月の三十日でしたか、海上自衛隊が対馬で敵前上陸演習を行なった。これはみんな普通の新聞記事に出ているわけです。こういう事態に対して、これは日本の新聞に全部出ている記事だもんですから、それを相手方が気にすることは当然なんで、これに対して、中国側が北京放送で、そういう措置は結局、朝鮮中国を、日本アメリカに支えられて戦場に想定しているのであるというふうな非難をしているということなんです。そういう問題があるということを申し添えておきたいと思います。  なお、この前、七月の下旬に、沖縄からB52が南ベトナムへ飛び立ちまして、これは日本でも大騒ぎになって、国会でも政府が遺憾であるというふうなことを言われたわけですけれども、現在板付空港ではB52の滑走路を建設中だそうです。ですから、いずれ、今度は九州板付からも飛び立つようなことが起こるのではないかというふうに考えます。そういう背景にあるものとしては、七月の末、在日国民政府の大使館発行ですね、「中華週報」というのがありますが、これの七月二十六日号によりますと、ニューヨークの「ウォール・ストリート・デイリー」紙七月十三日付報道として「アメリカ国防総省が現に注意を向けているのは、中共軍との地上交戦ならびにアジアに別のいくつかの前線における戦争が発生するか否かの問題」であると、もしも、東南アジアの戦争がかなり急速に拡大した場合、第三戦線あるいは第二戦線がひらかれるかもしれず、一部軍事設計員は、三個師と若干の支援空軍で韓国再統一のこころみを準備していると伝えられる」——これが在日国府大使館の週刊紙に報道されていた記事です。こういう考え方は、韓国の朴正煕韓国大統領が五月十六日にアメリカを訪問しましてジョンソン大統領と会談したおりにも、AP通信の電報として、アメリカからも同種の報道が入っているということを付け加えておきます。
  98. 伊藤顕道

    伊藤顕道君 次に、一点だけお伺いしたいと思いますが、これは大平さんと高野さんお二方にお伺いしたいと思います。  申し上げるまでもなく、朝鮮に南北二つ政府が存在しておるという現状のもとでは、両政府と公平に接触することが望ましい、そして、経済なり文化、人事、こういうものの交流をはかることがきわめて適当ではなかろうかと私は考えるわけです。  なおまた、二点としては、このような両政府は、休戦協定によって一応停戦しておるとはいえ、交戦状態にある。この交戦状態にある一方の国とだけ条約を結ぶことは適切ではないと考えられるわけです。また、考えようによっては、きわめて危険であるとも考えられる。こういう考え方を私は持っておるわけでございますが、高野さんと大平さん、それぞれの立場からの御意見をお聞かせいただきたい。
  99. 大平善梧

    公述人大平善梧君) 現在、朝鮮二つの政権がある。それが両方とも全朝鮮を支配する権能を持っている政府であるというふうに考えている、いわゆる分裂国家の状態であるわけでございますが、その一方だけを承認し、それと外交関係を結ぶということが不合理であり、あるいは場合によっては危険だと考えられるかどうかという点だろうと思うのであります。南北が統一して、その上で国交を結ぶということが自然であるということは、これは言うまでもないのであります。しかし、現実にその日を待っておれば、半永久的にそういう日は来ないだろうというふうに考えるとすれば、日本のナショナルインタレスト、いままでの密接な関係もあり、いろいろな関係からいたしまして、懸案も相当大部分解決すると、こういうところから私は日韓国交正常化賛成するわけであります。したがって、その両者の関係は、ちょうど正統なる政府に反乱しているような事実上の地方的な政権があるような形に私はなると思うのであります。したがって、唯一合法の政府として日本承認した韓国との間の外交関係ができるということであります。  そこで、危険であるかどうかということは、私は、その外交関係をつくったからだけ危険になるというふうに考えるよりも、世界の情勢、冷戦のこれからの行き方、特にアジアにおける力関係というものが、危険にするかしないかということであります。その点につきまして私見もございますが、大体におきまして先ほど久住さんがおっしゃったような関係が出てきて、それほど危険でないかもしれないというふうに考えるものであります。
  100. 高野雄一

    公述人高野雄一君) 朝鮮に南北両国家ができて、そして日本が南の韓国国交を樹立するわけでありますが、これは、先ほど私がちょっと申し述べましたことと関係しまして、二つの対立、あるいはその全体を包む世界の対立の中に日本としては一歩踏み込むこと、これは否定できないと思うのです。したがって、その二つの世界の対立ということをほうっておけば、あるいは共産主義あるいは反共主義というその国の体制は、それぞれの国の体制でよろしいと思うのでございますけれども、その行き方は、やはりそれぞれの国家主義あるいは軍国主義というものに、つながりやすいということ、これは過去の経験からしても考えておかなくてはならないことだろうと思う。  そこで、そういうような意味を持つ条約を、現在、統一を待ってからというのでは、いつになるかわからない。だから、結ぶにあたっては、その後の日本の外交の基本方針、それを、世界の政治、あるいは国連の中で、どのように貫いていくかということの、はっきりした考え方、覚悟というものを、この際国会を通じて、内外なり、国民に特に、まあ中間的な国民に、親切に説得できるような行き方でやることを条件としてのみ、この条約というものが一つのプラス——プラスというのは、それ自体として、隣国との国交正常化し、友好関係を確立するということが、そのままプラスの面を持っておる思います。  その条件と申すことに関しては、第二の点でありますが、先ほど申しましたことにも関連して、たとえば北に対して、これを拒否するというのではなくて、必要に応じて実際的な関係を持っていくということがそれでありますけれども、問題は、世界全体、特に国連というものに関するところ、また、国連について日韓両国協力すると申しておりますが、その国連におけるやり方の問題が一つの当面の問題だと思う。それに関して、たとえば、現在国連は、朝鮮休戦後ずっと、とにかく朝鮮問題を扱っておりますが、そこでも、南朝鮮だけではなく、北朝鮮も招いてやれという決議案が出て、いままで北朝鮮を招くについては否決されている。しかし一方、南朝鮮だけを招く、それは国連の線に沿っているから……。しかし、それもだんだん十年の間に動いているのでありまして、その最も片方の急進的なアメリカでも、北朝鮮を招請して、南とともに素見を聞いてこの問題を考えていこうという、最近は、そういう決議アメリカでも出している。ただし、現在の朝鮮における国連の目的を認めるということを条件として北朝鮮にも来てもらって話を聞こう——しかしまだ、それが通ることにはなっておりませんが、そういうように動いている。  もう一つは、先ほど申しました一九五〇年にできた国連軍、一九五三年に休戦した国連軍というものは、その当時においては、北鮮からの進撃を食いとめたということで役割りを果たしたことは私も十分に認めます。しかしながら、それ以上に、その後十年、十五年の間に、やはり歴史的に、国連も国際政治も動いていっている。当時、北と南に、東と西に固く分かれた国連というものが、その後国際政治においても流動化してきておることは、これはもう否定できない。私が見ますところで、いろいろな国連決議なんかを追及してみますと、まあ、アメリカなり、あるいはソ連なりあるいは国際政治の場においていうならば中共なり、それが、何か一つ非常に対立的、権力的な線を強く出して問題をまとめようとすると、それについていかない、独自の立場を維持しようという国がふえてくる。それをある程度緩和することによって、より多数の国の支持を得られるという現象が、ここ十年くらいの国にたびたび見られます。  それから朝鮮問題に関する、朝鮮国連軍をつくり、南朝鮮にのみ即してやっていく形の国連方式というものについては、いまでも国連の毎年の総会で、なおそれは維持されておりますけれども、中共問題ほどまでは、まだいっておりませんけれども、その線のアメリカ考え方国連に対するアプローチのしかたに対して、それに対して反対をする国、なかんずく棄権をする国は非常にふえてきておる。そして共産圏の国の反対ということとはまた独自に、アジア非同盟系の国のみならず、なかんずくカナダの国連総会における朝鮮問題のアプローチ、あるいは英連邦の国、カナダを中心とする動きなんかを見ましても、一九五〇年代の国連軍あるいはそのときの国連決議そのままで南北問題の打開をはかるということは、必ずしも唯一の朝鮮問題の解決の方式ではない。それについては、なお柔軟な方法を考える余地があるのだということは、何回かの国連総会でカナダの発言からも見られます。  そのように、一九五〇年代当時において役割りを果たした国連というものと、その後の国連というものは、やはり歴史的に動きがある。それで、そういう南朝鮮で戦った国連軍ということだけに基づかないで、その動きをとらえて、日本としても、またアメリカとともに、あるいは自由諸国の国にも働きかけて、国連における外交あるいは日本の平和外交というものに、もう少し独自の線が出し得るのではないか。それを相当はっきり打ち立てるということが、——この韓国との間の友好関係の樹立、その点に関する限り、これはけっこうに違いないんですけれども、同時に、そのことが、南北の対立、それを組み入れているところの世界の二つの対立というものに関して、その基盤の上で持つ不安な点、危険な点というものを、そういうような行き方が初めて克服する意味を持つ。そういう条件のもとにおいてのみ、初めて日韓条約は受け入れてもいいというところに到達するのではないか。そのような条件が、日本の現在の政権のもとにおける政治及び外交の中に、必ずしも十分に国会の討論を通じて、汲み取れないように、なお不十分であったように、私は印象を持っております。私の考え方はそういうことです。(拍手)
  101. 中村英男

    中村英男君 公述人の方が非常にお疲れでございますから、ごく簡単に二点ほどお伺いしたいと思います。  きょうの公述の中で、直接国民に、あすの日から、批准されたら関係のある漁業問題が出てこなかったのは非常に残念でしたが、これは宮崎公述人にお伺いしたいのですが、御承知のように、韓国のほうは農水産業が主で、工業化されておりません。ことに、電気も地下資源も不足しておる。戦後の状態を見ましても、経済の再建、工業の再建というものが非常にむずかしい。かりに五カ年計画が成功いたしましても、できるものは基幹産業ではなくして、まあ雑貨ではないかと、こう私ども思っております。そうすると、向こうの賃金は安い、コストも低い、その製品が日本に逆輸入される、こうなると、日本の中小企業に大きな影響を及ぼさないかどうか、私ども心配しております。  もう一つは、日本経済援助をしますると、水産と農業、ことに農業では、米の生産は高まるでしょう。従来の自民党の政府の政策では、米をばかにした政策をやっておるものですから、去年からことしあたり端境期に非常に困っておるのですがね。米の増産をすると、買ってやらぬと韓国は困るでしょう。買うと、日本の農民は困るのです。こういう競合が起こる。水産なんかは非常に顕著な例ですが、キロ六百円のスルメが三百円になる、ブリはキロ二百円が百三十円になる、その他の大衆魚にしても、少なくとも、生産が増強されましたら、こちらに輸入されることは当然です。これは鮮魚だけじゃなくして、かん詰めなんかもそうでしょう。そうすると、日本の漁民と中小企業者との競合が起こるのです。あるいは、お話の中には、それは流通機構を整備したらいいじゃないかという御意見があるかもわからぬが、ノリの例を考えてみると、日本がノリの生産を指導をして、食うことを教えなかったから、日本が買わんかったら因るのが現状なんです。毎年もめているんですね。一枚一円ぐらいのやつを、思惑買いをして——これはノリ業者じゃないんです。一枚一円ぐらいのを思惑買いをして日本に持ってきて、それを幾らで買うか、八円ぐらいで買ってくれ——そうすると、日本の生産者は困るわけですね。こういう一つの事例を見ても、流通機構を整備すればよろしいじゃないかという前提がなかなか確立しないものです、日本の政治の姿では。こういう事情ですから、漁民も、農民も、中小企業者も、貿易の競合によって非常に困る事態が予想されるが、そういう点は御心配はありませんかどうかということを開きたい。ごく簡単でけっこうです。
  102. 宮崎喜義

    公述人(宮崎喜義君) お答えします。  もう私も疲れましたので……。私が先刻申し述べました意見を申し上げましたことは、一市民としての意見でございまして、あなたの御質問に対しまして、私は政治家でもございませんし、このことは申しわけないのでございますが、国会審議のグランドで自民党の方々にお聞きしていただきたいと思います。
  103. 中村英男

    中村英男君 もう一点。  これは私も、うっかりして、どなたの公述か、ちょっと忘れましたが、国内法があるが、国際法が優先するから李ラインの安全操業はだいじょうぶだという手放しの楽観論でしたが、しかし、漁民の中には、必ずしもそれを楽観してないというようなことがありますから一言お伺いしますが、これはまあ御承知のように、漁業の後進国は、これは魚族の保護主義、それから先進国は略奪主義なんですね。今度の交渉なり、条約の経過を見てみると、そういう略奪主義と保護主義との調和といいますか、そういうようなのが十分とれてないのです。ことばをかえて言うてみると、魚族の保護というものが講ぜられていないのですね。そうすると、当然にこれは乱獲という問題が出てくるのです。話のように、李ラインが、かりに国際法が優先するから、なくなったといたしましても、おそらく韓国は、漁業については後進国ですから、魚族の保護法は改正しないでしょう。そうすると、日本の漁船が入ってくるですね。旗国主義ですから、向こうは、いままでみたいに拿捕して、かってに釜山にぶち込むということはないでしょうけれども、非常な紛糾が起きて、やっかいになるということは事実だ。そういう点で、手放しで喜んでいいかどうかという点について御説明願いたい。——公述人の中で、国内法よりは国際法が優先するから李ラインは安全であるという御意見を開陳いただきました公述の方なんですが、ちょっと忘れましたが……。久住さんでしたかな、大平さんだったか、だれだったか、そういう意見があったわけだ。どなたか、そういう御意見がありましたから聞いたので、なかったら、けっこうです。
  104. 中保与作

    公述人(中保与作君) いまのお話の、国際法が国内法に優先するという話は、私は申し上げませんでしたけれども
  105. 中村英男

    中村英男君 いやいや、あなたではない。どなたか……。
  106. 中保与作

    公述人(中保与作君) まあ、日韓両国の漁船が入り得るのは共同規制水域でございまするが、その中では、魚族保護の立場から、ちゃんと魚獲量を明示しておるのでございまして、乱獲の危険は絶対にございません。それに対して違反するものがあれば、当然、お話の旗国主義に基づいて、その船の属する国が裁判管轄権を持っていることも御承知のとおりでございます。
  107. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) 公述人に対する質疑は、この程度にいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  108. 寺尾豊

    委員長寺尾豊君) 御異議ないと認めます。  ごあいさつ申し上げます。  公述人各位に、一言、委員会を代表いたしまして、お礼を申し上げたいと存じます。  本日は、長時間にわたり、きわめて貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。  これをもって公聴会を終了いたします。(拍手)    午後五時四十二分散会