○
淡谷悠藏君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま上程されました
衆議院副
議長田中伊三次君
不信任決議案の
趣旨説明を行ないたいと思います。(
拍手)
まず、案文を朗読いたします。
衆議院副
議長田中伊三次君
不信任決議案
本院は、
衆議院副
議長田中伊三次君を信任せず。
右決議する。
〔
拍手〕
以下、順を追うてその理由を申し述べます。
理由の第一は、
田中副
議長が、去る十一月十二日未明、本院において、
議長船田君と共謀し、
議会史上かつて見ざる
悪逆無道の手段を用いて、
日韓条約批准案件の通過をはかったことであります。
もともとこの
条約は、
アメリカ政府の
アジア侵略、
極東戦略の
至上命令により、その手先になった
わが国独占資本家の要請のもとに、これにこたえて、一億
国民をつんぼさじきに置いて進められた
日米両国の陰謀であって、全く
条約の体をなさざる不完全にしてもうろうあいまいなものであり、
ベトナム戦争への介入を結果する危険きわまるものであることは言うをまちません。(
拍手)そのために、今
国会に上程する以前、すでに
国民各層のきびしい批判と激しい反対を呼んでいたものであります。
日韓条約特別委員会の審議が進むにつれて、この本質と実体が次第に
国民の前に明らかになりました。わが党の質問に対し、
管轄権の問題、
請求権の問題、
在日朝鮮人の
法的地位の
問題等、何一つ
政府は満足に答えられなかったではありませんか。答弁はしどろもどろで
首尾一貫を欠き、あしたに答えたこともタベにはこれを取り消し、食い違いやら立ち往生やら、見るも
むざんな醜態を
国民の前にさらけ出したことは、
田中副
議長、まんざらこれを知らぬとは申せないでしょう。(
拍手)
知っていたればこそ、あの暴挙の前、ひそかに
船田議長からその企てを打ち明けられたとき、君は進んでこれに同調しているのであります。
船田議長が用意したあのときのメモを、君は二十六秒ないし二十七秒で読んでみせているのであります。あの暴挙には一分以上の時間をかけることは許されない、一分以上かかったらたいへんなことになると、君自身で言っておるのである。
船田議長は、ろれつが回らないから四十五秒かかる、四十五秒ならまあまあできそうだから、まずこれならいけると思って君自身はこれに承諾を与えたと言っている。
それまでの
政府答弁のおぼつかなさ、あぶなかしさに不安を感じ、さらにわが党が用意した軍事問題をはじめ
竹島領有権、
漁業権、
李ラインの問題、さらに
文化協定の
問題等、次々と放たれる質問に
政府がますます醜態を暴露することを知っていたればこそ、
船田議長の提案に君は同調したのであります。あたかも質問は深い疑惑に包まれた
韓国ノリの輸入にまつわる
政府有力者の黒いうわさ、利権の追及に進もうとしていた。それをおそれてあわてふためいた君の
心情たるや、まことにあわれむべきものがあるのであります。(
拍手)あわれむべきものはあるが、共謀は歴然であります。いや、そこには共謀以上のものがある。
君は生来、事あるごとに得々と
法学博士の肩書きをひけらかして人にいばり散らす悪癖があります。悪らつではあるが憶病な
船田議長がおどおどとメモを示したときも、この悪癖むらむらと発して、
議長がなさんとする行動は、憲法、法律、規則、先例に照らしいささかも違背するところはないと、
議長を扇動している。やるなら失敗してはならぬ、失敗したら
大ごとになると、持ち前のはったりと脅迫で
議長に悪知恵をつけ、自信を持たせ、決行の腹をきめさせた行為は、共謀というよりはまさに首謀の実質を備えているのであります。(
拍手)われわれは、今回の暴挙の
元凶田中副
議長を信任することができないのであります。
第二の理由は、公平であり、
不偏不党であるべき副
議長が、完全に
自由民主党の走狗となり、
議長、副
議長の職責を忘れて、本来いかにあるべきかというその形を完全に失墜しておる。
議長、副
議長の職責は本来いかにあるべきものか。
議長、副
議長には
不偏不党性が強く要請されております。特定の党派に所属しているといなとにかかわらず、常に公正であるべきことこそが
議長、副
議長の絶対の資格であります。
ヨーロッパ大陸の
議会政治の理論に大きな影響を与えたベンサムは、
議事手続の遂行における
議長の
役割りを
審判者として規定しております。
議長の
不偏不党性を
議事規則で要請しているものもあります。西ドイツの
連邦議会の
議事規則は、「
議長は
連邦議会の尊厳と権利を保持し、
連邦議会の任務を促進し、
議事を公正かつ
不偏不党的に指揮する。」としている。
ワイマール憲法下の
ライヒ議会の
議事規則十九条一項にも、ほぼ同文の規定がありました。日本の
国会法や両議院の
議事規則にはこの種の規定はないが、同様な要請の存することは否定できない、むしろ規定以前の常識であるからであります。
しかるに、
田中副
議長の今回の行動はどうであったか。強行の直前、わが党の
成田書記長、
山本国会対策委員長が、事態の緊迫を知って、
議長職権による本
会議開催はなすべきではないと申し入れたとき、
船田議長は、強行はしないと、白々しいうそをついている。そのとき、
議長室で謀議をこらしていた
田中副
議長は、わが
党両君の入るのを見ると、出もしないおしっこが出ると、早々に部屋を出て行くえをくらまし、
船田議長がこの決行に失敗した場合を考え、あとに備えて、
自由民主党の
幹事長室にひそんでいたのであります。わしも
船田議長も
自由民主党の党員だ、あのときうそをつかなかったら、
反対党であり、対決をしている
社会党を利することになる。これは
利敵行為に当たると、平然とふんぞり返る
田中副
議長には、いまや
自由民主党の党利党略あって
議会なく、
国民がないのであります。(
拍手)どこに
不偏不党の原則が貫かれていたでしょうか。どこに公平厳正な態度があったでしょうか。
このような考え方から、
国会の
衛視諸君を
自民党の
議長、副
議長の私兵のようにこき使い、鉄かぶと、装甲車で完全武装した
警察機動隊を悪鬼のように
国民に襲いかからせ、
国会構内に千に余る警官を配置し、野党に強圧を与えようとする狂暴な仕打ちが生まれてきたのであります。
自由民主党政府には、いまや
反対党は敵である、反対する
国民ことごとくが敵である、これはまさしく一
党独裁であり、
民主主義の虐殺であります。その独裁の走狗となって、職権を乱用することを平然と肯定し、かつこれを誇るような副
議長田中伊三次君をわれわれは断じて信任することはできないのであります。(
拍手)
議会政治は言論を尊重して初めて存在の意義があります。言論は
田中伊三次君におけるがごとく、いたずらにべらべらとしゃべり散らすことが能ではありません。しゃべり散らし、しゃべりまくることは大道に本を売る
テキヤもよくこれをなす。しかも
テキヤの弁、これを尊重する者はない。
テキヤの弁を尊重する者のないのは言論に信がないからであります。
副
議長田中伊三次君は、好んで
議長、副
議長の
オーソリティーを口にするが、敵を欺き、味方を欺き、さらに
議事運営の円滑をはかるために常に
議長のかたわらにあって補佐する
事務総長をもあえて欺いて、
事務総長が差し出した正規の原稿を無視し、ひそかに隠し持ったおのれの原稿を、電光石火、間髪を入れず四十五秒で読み上げて国家の大事を決しようとした
議長、これを、してやったりと誇る副
議長が、何で
一体オーソリティーに値するでございましょうか。(
拍手)
要するに、これは悪質な
知能犯にすぎません。
知能犯とは、知能を要する犯罪、詐欺、横領のたぐいであります。言論に信なく、欺き去って得たりとしているのが
議会だというならば、いまや日本の
議会は犯罪の
競技場と化し去っているのであります。
副
議長田中伊三次君は、
不偏不党の鉄則を侵し、公平厳正なるべき副
議長の態度を捨て去って、あの暴挙の遂行に狂奔したのであります。得得としてそれを誇っているのであります。その結果、
国会運営は全く行き詰まり、
議会の品位は著しくそこなわれました。
田中副
議長は、
議会をこのように堕落させ、混乱させた張本人であります。重ねて言う。われわれは、かかる
田中伊三次君を副
議長として絶対に信任することはできないのであります。(
拍手)
第三の理由は、副
議長田中伊三次君は、おのれが犯した罪に対していささかの反省もないことであります。行なったことの
重大性について、一片の自覚もないことであります。
国会が機能を失い、完全に
麻痺状態を呈してすでに二十三日、これは
議長職権を乱用して審議に圧迫を加え、議員の言論を制圧したことに直接の原因があるのであります。もとより、自由に論議を尽くせば、どこもかしこも
傷だらけで、
国民もその醜状に目をそむけざるを得ないような
日韓条約の批准を、しゃにむに押し通そうとした
政府・
自民党の非望に根本的な悪のあったことは言うまでもありません。だが、その悪をかついで、職権をかさに先頭に立って走り回った
議長、副
議長の責任は、特に重大であることは明らかであり、この事態の混乱と渋滞については、追及を待たずして深刻に反省すべきが良識というものであります。俊敏で小猿のごとく小才のきくのを
自他ともに許している
田中伊三次君にして、これくらいの道理のわからぬことはない。良識だって持ち合わせていないはずはないのであります。
すでに君も言っているように、この
国会ほど乱暴に議員の言論に制圧を加えたことはない。いかにことしは演説と女性のスカートは短いのがはやるといっても、この重大な
条約、
国民が深い関心と不安を持ってながめ、しかも長い間
国民に真相があかされなかった
条約の審議に、わずか十分あるいは五分より時間を与えないというのは、一体これは何事ですか。多数の力で動議を強行し、質疑、討論が終わろうと終わるまいと、あるいは結論が自の前に見えておるのに、うるさく
議長、副
議長が降壇を促し、果ては多数の衛視を繰り出して、発言中の議員を演壇から引きずりおろさすという暴状を、一体副
議長は何と見たのですか。君自身、言論は議員の命だと言っておる。言論の自由のないところに
議会政治はないと言っている。(
拍手)知らないでこの非を行なっている愚かしさは、あわれむべきものであります。知っていて、あえて行なっている罪は憎むべきものがあります。君は、この憎むべき罪を犯して、少しも反省の色をあらわしていないのであります。
議長のとった行動についても、副
議長は当然だと強弁する。
田中伊三次君、少しは落ちついてものを考えてみなさい。
国会周辺のデモを心配したの、
議事の進まぬことを憂えたのと言ってはいるが、なぜ激しい怒りを込めたデモが
国会を取り巻くのか、なぜ
議事が進まないのか。みんな
議長、副
議長が
政府・
自民党の言いなりになって、
国会のルールを乱したことにある。この原因については、少しの反省の色も示してはいない。
多数の衛視の壁に囲まれ、与党暴勇のさむらいどもにささえられて、顔面蒼白に興奮した
船田議長が、四十五秒で読み上げたメモで二つの動議が採決され、
日韓条約のすべてが承認されたというのでは、副
議長田中伊三次君の
法学博士的うぬぼれ理論では、無理ではあったが有効だなどとごまかせたかもしれない。しかし、それは副
議長自体が、あなた自身をごまかすだけであって、あのときテレビで実際の状況を見ていた
国民の素朴な常識はごまかせるものではございません。(
拍手)速記録のどこが悪い、ちゃんと規則にかなっているではないかと君は開き直るが、まあ速記録を君も、もう一度読んでごらんなさい。そしてあのときの状況をもう一度胸に手を置いて思い浮かべてごらんなさい。
長い休憩のあと、十一月十二日午前零時十八分会議が開かれ、衛視に囲まれた
船田議長が入場してきて、「これより会議を開きます。」と宣言し、続いて「日程第一はあと回しに」ここで速記録は「(離席する者多し)」とカッコに入れて書いています。ここで与党の議員諸君が、脱兎のごとく演壇にかけ上がって
議長を取り囲んだのであります。前列の政務次官らも一緒にかけ上がったのであります。
議長は続けて「賛成の方の起立を求めます。」速記録は円
賛成者起立〕」と書いているが、
賛成者も反対者も、そんなものはもうない。事の意外に議場総立ちになって、騒然となって、
議長の発言も聞き取れなかったのが実際であったのであります。それにもかかわらず、
船田議長は「起立多数。さよう決定。」と宣している。続いて、
日程第二 日本国と大韓民国との間の基本関係に関する
条約等の締結について承認を求めるの件
日程第三 日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案(内閣
提出)
日程第四 財産及び
請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案(内閣
提出)
日程第五 日本国に居住する大韓民国
国民の
法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案(内閣
提出)
議長(船
田中君) 日程第二ないし第五を一括議題といたします。
議長(船
田中君) 委員長の報告を省略するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔
賛成者起立〕
議長(船
田中君)起立多数。
議長(船
田中君) 質疑、討論の通告はありません。
日程第二は承認するに賛成の方の起立を求めます。
〔
賛成者起立〕
議長(船
田中君)起立多数。さよう決定。
日程第三ないし第五は可決に賛成の方の起立を求めます。
〔
賛成者起立〕
議長(船
田中君) 起立多数。さよう決定。
議長(船
田中君) これにて散会いたします。
これが速記録であります。なるほど形式的には整っています。整ってはいるでしょう。だが、これがたった四十五秒で読み上げられた。そのときの実情を見ていた者には、その間
議長は、初めから終わりまで
議長席のテーブルにかじりついたまま、場内を見回すことはおろか、顔を上げることもできなかったではありませんか。(
拍手)そのままで起立多数も何もない、初めから起立多数と書いておいて読んだだけのことであったのであります。(
拍手)質疑、討論の通告はありませんなどとは一体言えますか。質疑、討論の通告はありませんと言ったところで、一言も質疑、討論の通告を求めた事実はないじゃありませんか。(
拍手)わが党からは、終始、この暴状に憤って、自席から手をあげて、口頭で質疑、討論を要求した。それにもかかわらず、耳に入れるゆとりも持たず、これも初めから書いておいて読んだだけのことにすぎないではありませんか。
田中副
議長は、速記録に欠点はない、形式に欠けたところはない、あったら言ってみろと大みえを切るが、この速記録の最大の欠点は、事実と全然合わないということであります。(
拍手)あらかじめ書いておいたものが、事実に合うはずはなく、これでは人間の足を切って寝台の寸法に合わせるようなばかばかしさを感ずるだけであります。速記録は、
議長の頭でひねり出したメモの写しであっただけで、きびしい現実との間には大きな断層があります。これをもって、間髪を入れずだの、電光石火だの、神速果敢だの、よくやったのとほめたたえて喜んでいる
田中副
議長の神経を、あらためて疑わざるを得ないのであります。(
拍手)
さらに、
田中副
議長は、今回の
議長職権による強行は、憲法、法律、規則、先例、いずれに照らしても全然合法的であり、欠陥はないと強弁する。そのため、
衆議院規則第百十二条は、君が好んで引用するところであるが、そこにはこう書いてある。「
議長が必要と認めたとき又は議員の動議があったときは、
議長は、討論を用いないで議院に諮り、
議事日程の順序を変更し、又は他の案件を
議事日程に追加することができる。」ここで問題になるのは、「議院に諮り」というところであります。なるほど速記録ではばかったことになっているが、実際には、何らはかった体をなしていず、はかるだけの時間もなく、
議長にはかる意思も全然なかったことは明瞭であります。四十五秒にそんな順序をちゃんと踏めたら、
議長は、
国会議員などやめて、魔術師なり手品師なり、むしろぺてん師になったほうがよろしい。形式を整えることよりは実費を備えなければならぬこと、これが大事であります。これが正しい審議の絶対条件であります。このことを副
議長は正しく知らなければならない。慣例に至っては、これほど乱暴で、これほどむちゃな先例が一体どこにありますか。どこをさがしたって見つかるものではない。
田中副
議長もこのことは認めている。認めていながら、
議長職権によってなした行為は運営の新しい慣例となるのだ言う。新しい慣例になるのだ、ここがはなはだおそろしい。このような慣例をどんどんつくっていくならば、
議長のやることは何でも正しいというのでしょう。どんなことをやっても新しい慣例になるのだという見解であります。まるで
議長の権限は無限であり、万能である。それでは
オーソリティーではなく、まさにオールマイティであります。
議長は法なりといったような専制暴君の態度は、
議会制
民主主義にとって許すことのできない考え方であります。(
拍手)うぬぼれと思い上がりも、ここまでくればまさに狂気のさたであります。
さらに、
田中副
議長は、無理を有効とした理由について、
日韓条約は国家の利益になると信じ、この批准をする決意を固め、それによってあの行動に出たと言う。
日韓条約が国家にとって利益となるか、国家を毒する有害なものであるかは、あくまでも
国会の審議をまって定むべきことであります。一言半句も本会議では審議もせず、一方的にこれを承認するなどは、許すべからざるものであり、
国会の審議もまたずに
議長が裁定することは、全く権限の超脱であり、不遜な思い上がりであります。しかも、それに対していささかの反省もなく、いたずらにこれをよしと強調する副
議長は、公正なるべき
審判者の
役割りをわきまえざるもはなはだしい。あまりに常識的なことも困ることがあります。しかし、常識を失ったものはなおさら手がつけられない。素朴な
国民の常識は、
法学博士のひとりよがりの脆弁よりは絶対に正しいことを、君もやがて知る日が来るでしょう。
あんな無謀なやり方が、無理ではあったが有効だなどというめちゃくちゃな論理がまかり通るならば、海外出兵でも、核武装でも、小選挙区制でも、憲法改正の発議でも、四十五秒の棒読みでみんなまかり通ることになる。これは問答無用のやり方であり、切り捨てごめんの根性であります。問答無用は
議会政治の否定であり、切り捨てごめんは封建的専制政治の思想であります。一
党独裁のファッショ政治がいかに
国民を不幸におとしいれたかは、かの戦争時代の体験を通してまだ
国民の胸にまざまざと残っています。
田中副
議長のものの考え方とその行動は明らかに
議会制
民主主義を破壊してファシズムに道を開くものであることを君は気がつかないのか。(
拍手)私は、君が心から反省して、その非を改めることについて、強くこれを求めるものであります。これは、ひとり君のためばかりではなく、わが国の将来を誤らぬために、あえて言うのであります。
あるいはまた、副
議長田中伊三次君は、ほんとうのところ、これは困ったことになったと思っているのではないか、神崎与五郎に無礼を働いた馬食らいの丑五郎でも、泉岳寺のなき神崎の墓前に涙を流してわびたことは、浪花節の好きな
田中幹事長がすでに知っている。まして
法学博士で
衆議院の副
議長である
田中伊三次君にこれくらいの良心がないはずはないのであります。
ただ、反省するには、
田中副
議長はあまりにも雄弁であります。自分ながら自分の雄弁に酔っているものだから、雄弁が詭弁となり、はったりになり、からいばりになり、自己陶酔になることに気がつかない。雄弁のあまり、しゃべり出したらとどまるところを知らない。お調子に乗ってはひとり喜んでいるばかりか、人を人とも思わず、傍若無人、野卑粗暴、何ともたとえようのない言語のろうぜきを働いている。(
拍手)それは万人がひとしく認めるところであります。たとえば、人を呼ぶあなたは何と言うか。おまえ、きさま、こいつら、あほう、てめえらと言う。これが一体
衆議院の副
議長が公式の席上
国会議員に対し言うことばかどうか。その分別もあなたはつかないのか。(
拍手)これは、おそらく、分別のいとまもなく思わず口をついて出るという、長い間身について離れない副
議長田中伊三次君の体臭であり、本性であります。(
拍手)そのくせ、本人は、
国会の品位を保ての、
議長の権威を認めろのと、しゃあしゃあと言いまくる。身のほど知らずもここに至ってはまさにきわまれりといわざるを得ないのであります。
君の最大の欠点は、かくも雄弁であることであります。君は、今回の
政府・
自民党の暴状を黙って見守っている
国民の正しい批判のあることを忘れてはならない。実はそれも知っているのでしょう。だから、この混乱に対し
国民の正しい批判を求める
国会解散をおそれているのとは違いますか。それをすなおにそうと言えないところに、
田中副
議長の弱さがある。その弱さを隠すために、はったりと、からいばりがある。
君は、いまの
政府には解散する腹はないと言う。経済政策に失敗し、物価の値上がりは押えきれず、外交政策はまずく、労働者や農民や中小企業者には恨まれ、あいそをつかされ、これで一体解散ができますかと、君自身が言っている。それはそれなりで正しい。だが、それで君が提案した議員総辞職論とは一体何か。君の言うところに従えば、今回の
国会の混乱を招いたことについて、牛歩戦術をとった
社会党も悪いが、
議長が幾ら
投票を促しても、かまぼこみたいに自席にへばりついて離れようとしなかった
自民党の諸君も悪いと言っている。両方悪いのだから、両方やめてしまえというのが君の論理であります。
これは、日本を敗戦にたたき込んだ戦争責任者がその罪を一億総ざんげでごまかそうとした、その事実にまことによく似ているではありませんか。その言い分は、あの当時の敗戦責任者のことばによく似ておる。しかも、辞表を出した議員は次の一回だけは立候補しないことというのであります。一体、こんなことを大まじめな顔をして、しかも
議長応接室で
社会党の代表との公式の会見に報道陣を立ち会わせて言う副
議長の精神状態を、私はまことに興味を持ってながめております。議員総辞職とはいっても、総理大臣佐藤栄作君をはじめ並みいる閣僚諸君、あわよくば次期政権をとろうという
自民党の幹事長
田中角榮君に至るまで、あっさり辞表を出して、次の選挙には黙って指をくわえて待っておられますか。それをいかにもまじめくさって言い出して、
社会党が辞表を出したらおれが受理してやる、佐藤でも
田中でもおれが辞表をとってやると、胸を張ってみせるようなのが、
自民党の諸君、これがあなた方の選んだ副
議長であります。けさも何と言った。われわれ代表に向かって、
議長、副
議長などは総理になるための道くさにすぎないと言っている。道くさのつもりで神聖なる
国会の副
議長をやっているのであります。何というこれは横着な男でございましょうか。解散さえやれぬ
自民党政府とその与党が、次一回立候補を辞退するという条件で議員総辞職をするものかしないものか、百も承知の上で、しゃあしゃあとまじめくさってこんなことを言っているのは、実に人を食った態度であります。
君は、選挙演説に何と言う。どうだ諸君、ひとつこの
田中伊三次を総理大臣にしてみる気はないか、諸君にその気があればわしは総理大臣になって見せると、大みえを切って喜ばせることをもって得意としているというのは、何という人を食った話でございましょう。ずるいのか人がいいのか、ともかくこうした人物を
衆議院の副
議長に据えて置くことだけは、国家のため百害あって一利はない。
聞くところによれば、
船田議長は、
日韓条約批准の強行でどろをかぶせた
政府とその与党のために、いまは病気で寝ておられる。そのどろを今度は副
議長にかぶせておいて、いっそことのついでに補正予算もしゃにむに通してしまえ、毒食わばさらまで、今度は
田中副
議長にどろをかぶせ、またやってしまえということだという。
船田議長は、毒を食って血圧高進、労作性狭心症になっている。今度は
田中副
議長に残った毒ざらのさらを食わせて、あなた方は何の病気にするつもりなのか。もし、ねらいが別にあって、
社会党がこの補正予算に抵抗したら、補正予算を流した責任を
社会党に押しつけて、
社会党にもどろをかぶせようとするのであるならば、これほどたちが悪く、これほどあさはかな謀略はありません。
社会党は、この
国会の劈頭、不完全で危険な
日韓条約をあわてて持ち出すよりも、災害、物価、給与についての補正予算をまず審議すべしと強く主張したはずであります。いかにもの覚えの悪い
自民党の諸君でも、それくらいは知っておられるでしょう。それには耳を傾けずに、いまになって、選びに選んで、みずからつくり出した
国会の混乱と渋滞のさなかに、のめのめと予算案を持ち出して、
田中副
議長にどろをかぶせ、毒ざらのさらを食わせてまでも押し通そうとは、副
議長田中伊三次君、君は一体知っているのか。知っていてあえて引き受けようとするのか。知らないとせば、口ほどにもなく頭の回転が鈍く、知っていて
自民党と黒い腹を合わせて一緒にこれをやろうとするならば、ずうずうしさはこの上もございません。
もとより、私どもは、補正予算を通すことを重要だと思っていることは、いまも変わりません。災害に対する諸施策はもとより、中小企業の歳末を控えての金融措置、公務員給与の
問題等々、
国民生活の上に重要な影響を持つものと思えばこそ、早くこれを審議すべきことをあなた方に主張したではありませんか。それをいたずらに今日まで放置しておきながら、
日韓条約で無理をしたあと始末をつけるためのてこにこれを使おうとするふまじめな態度の審議では、おそらく、補正予算といっても、とうてい
国民に満足を与えるような審議結果とはならないことをわれわれは信ぜざるを得ないのであります。しかも、その審議を口実に、これまでの
国会混乱の責任をうやむやにし、あるいは
田中副
議長をおだて上げて、再び
日韓条約審議の強引なやり方を繰り返すことは、断じて承服しがたいことであります。
田中副
議長がいかに厚顔無恥であったとしても、よもやそんなばかげたまねはしまいとは思いますが、これまでの無反省で強引な態度を考えると、あるいは再び三たびその愚を繰り返すこと、これをやりかねないのが
田中伊三次君の性格であります。
何よりも緊急なのは、危殆に瀕した日本の
議会政治を正常な姿に返すことであります。
国会正常化に名をかりて政治責任を回避しようとするところに、断じて民主政治はありません。審議を正常にしようと思うならば、まず、当面の責任者として
船田議長、
田中副
議長の首をさげて出直しなさい。(
拍手)病気静養中と称して
国会に出てもこない
船田議長は、あるいは断罪を待たずにみずから処理することを考えているのかもしれないが、その留守をわがもの顔にふるまって、口にまかせてだぼらを吹き、できもしない放言でいやが上にも
国会を冒涜し、はったりとばり雑言をわめき散らしていい気になっている副
議長は、すみやかに引っ込むとぎが来ているのであります。
議員総辞職を言い出して、みずからはてんとして辞表を出しもしない、このずうずうしく無責任な態度、副
議長という地位に酔うて、子供が竹馬に乗ったみたいにいい気になって背伸びをしている副
議長をこのままにしておいたのでは、何をしでかすか知れたものではない。
国会にたぐいまれな悪例を残し、いささかも反省の色はなく、かえってまた新しい悪例をつくろうとする
田中副
議長は、全くの恥知らずであります。恥を知らぬ者は、これを破廉恥という。われわれは破廉恥漢を副
議長として信任するわけには絶対にいかないのであります。(
拍手)
自民党の諸君、さきには
船田議長を殺し、いままた
田中副
議長を恥に死なしめる、この残忍非道な
自民党のやり方に、心ひそかに憤りと憂いを抱く若干の良識の人が
自民党にもなお残っていることを私は信じます。
議会政治、
議会民主政治をファッショ転落の危機から救うために、ここに副
議長田中伊三次君
不信任決議案の趣旨を述べて、御賛同を請うものであります。よろしく御賛同あらんことを心からお願い申し上げます。(
拍手)
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