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赤城宗徳君 私は、自由民主党を代表して、内閣
総理大臣及び
関係大臣に対し、主として
日韓条約及び経済、財政問題につき、若干の
質問を行なうものであります。(
拍手)
戦後十四年にわたって難航を就けた日
韓国交正常化の
交渉が妥結し、去る六月に、正式調印を見ましたことは、
日韓両国相互の繁栄はもとより、流動を続けるアジアの安定、ひいては世界平和の確保のため、きわめて重要な意義を持つものであります。(
拍手)それを
佐藤内閣の大きな成果として国内の世論が支持しているだけでなく、世界の自由諸国も高く評価しているのであります。(
拍手)
正式調印の際の国内有力新聞の社説等を見ましても、たとえば毎日新聞は、「戦後
日本外交の重要懸案の
一つがここに解決を見たことは
佐藤内閣の功績でもあるが、歴代内閣のなみなみならぬ努力のあったことを忘れてはならない。」と述べ、また朝日新聞は、「一衣帯水の
関係にある
日韓両国間に国交が開かれていないことは、何としても不自然なことであり、両国間に正常な国交
関係をもたらすのは、両国にとってきわめて自然な姿であるといってよかろう。」と、さらには「一たん妥結した以上は、国際信義を重んずるたてまえから、両国間の
協定を尊重し、
日韓両国の親善と提携に役立てるべきである。」と論評しているのであります。(
拍手)
このように健全な
国民の常識と、世界の大多数の国々が、きわめて自然なこととして日
韓国交正常化を評価しているにかかわらず、
社会党、共産党その他の左翼勢力が、あらゆる手段を弄して、日
韓国交正常化に
反対しているのは、まことに不可解というほかはありません。(
拍手)しかも、安保闘争の例にならって、
国会外の組織を動員して、
国会の正常な審議に圧力を加え、
条約の
批准阻止をはからんとするならば、それは、
わが国議会政治の破壊にも通ずるものであります。(
拍手)私は、このような
行動によって、
わが国の安全にかかわる外交政策につき国論の分裂を来たすことを最も憂え、かつ悲しく
考えるものであります。私は、このような左翼勢力の
反対によって重大な外交政策の推進が断じて阻害されてはならないと信ずるものであります。(
拍手)
今回の
日韓条約の
批准については、尽くすべき審議は十分に尽くし、また、
国民に対する広報活動にも最善を尽くして、その利害の理解を深めるとともに、いわれのない
反対や反議会的
行動は断固として排撃し、できるだけすみやかに
批准を完了すべきであると思うのであります。(
拍手)この間に処して、
総理大臣の
決意のほどを伺いたいのであります。(
拍手)
次に、私は、
日韓諸
条約について論点となっているおもなる事項につき、
国民の正しい理解に資するため、若干の
質問をしたいと存じます。
第一に伺いたいことは、日
韓国交正常化が、南
北朝鮮の統一を阻害するとか、東北アジアの
軍事同盟の結成を目的としているとか、あるいは経済協力が
韓国の経済的
支配をねらうものであるなどとの無責任なデマ宣伝についてであります。(
拍手)
南北統一ができないのは、先ほど山本君が指摘しましたように、東西間の冷戦の強い影響であり、それはそのとおりであります。しかし、現実的には、
北鮮が
国連方式による全
朝鮮の自由
選挙に
反対し、
韓国等を仮想敵国とする中ソとの
軍事同盟を結んでいることにあるのであります。(
拍手)常北の統一は理想ではありますが、当分その実現の可能性はありません。その現実の上に立って、
北朝鮮及び
韓国はそれぞれ国際的に国交を結んでおるのであります。すでに七十ヵ国と国交を結んでおる
韓国が、さらに
日本と国交を結ぶことが、どうして南北の分断となり、その固定化となるのでしょうか。(
拍手)われわれはその理解に苦しむのであります。したがって、
日韓正常化を南北統一まで延期せよとの
反対論は、
日韓正常化をすべからずということにほかならないのであります。あえて
反対論者に反問したいと思うのでありますが、もしも
日韓条約を締結しなければ、南北統一が達成されるとでも
考えておられるのでしょうか。(
拍手)
また、
日本の平和と安全は、外交的には、日米安全保障
条約によって確保されております。あえて
韓国と
軍事同盟を結ぶ必要は毛頭ないのみならず、
わが国の憲法の規定からもできるはずのものではありません。
韓国の首脳者も、
軍事同盟の意図のないことを表明いたしております。
日韓条約は
東北アジア軍事同盟だといい、あるいはまたべトナム
戦争に対する極東
軍事同盟だということは、全くわれわれの夢想だにしないことであって、これらは常に
国民をかって不安と思想の分裂を誘致せんとする共産党、
社会党の常套的戦術であります。(
拍手)
反対論者はまた、
日本の経済協力が
日本の
韓国への経済侵略だと批判しておりますが、どこにその実態がありましょうか。野党の
諸君も知ってのとおり、
日本は東南アジア諸国に対して賠償及び経済協力を行なってきましたが、世界じゅう、これを
日本の経済侵略だといっておるものは一国もありません。(
拍手)しかるに、
韓国に対する経済協力のみがどうして経済侵略であるというのか、不見識な批判であり、全く価値なき議論であります。(
拍手)
私は、素朴な
国民の一部がこのようなイデオロギーからの謀略的宣伝に惑わされることのないよう、
政府においても十分な広報活動を行なうべきであると思うのであります。
総理も言われるように、
日韓条約の調印は両国の親善友好
関係の第一歩であります。その実効をあげるには、
国民の深い理解の上に今後善意と努力を積み重ねていくことが肝要であります。この意味におきましても、今回の
日韓諸
条約の意義をさらに一そう積極的に
国民に理解させる献身の努力が必要と思うのであります。
総理大臣の
所信を承りたいのであります。(
拍手)
第二は、日
韓国交正常化が
わが国にどのような国益をもたらし、また、世界の平和にどのように貢献するかということを具体的に明らかにされたいのであります。
日
韓国交正常化が自然のことであり、望ましいことであるとしても、
わが国が
交渉妥結を急ぐのあまり、譲歩し過ぎたのではないかという批判も一部にはあります。たとえば、
韓国に対する無償供与三億ドル、長期低利貸し付け二億ドル、民間信用供与三億ドル以上という経済協力は多きに過ぎるのではないかという疑問を持つ向きもあるようであります。そもそも、アジア諸国に対する経済協力は、
わが国の国際的使命であり、これによってアジアの繁栄と安定、ひいては将来の
わが国の発展に貢献することは、わが党及び
政府の重要政策であります。(
拍手)日
韓国交正常化に際し、最も近い隣国の繁栄のため、このような経済協力を約束したのであって、決して譲り過ぎではありません。いわんや、同時に、
日韓間の請求権に閲する問題までも一切解決したこととなり、
日韓新
関係のスタートにおける最大のしこりを除去することとなるのであります。しかし、このような
わが国の協力と、日
韓国交正常化によって、具体的にはどのような利益が
わが国にもたらされるであろうかということを知りたいのは多くの
国民の気持ちであろうと察するのであります。この機会に、できるだけ具体的な説明を
総理よりお聞きしたいのであります。(
拍手)
第三は、
条約の解釈に関する問題であります。
反対論者は、
日韓条約や
協定について、
日韓両国の解釈に大きな
食い違いがあるから、
条約としての調印の効力がないではないかと
主張するのであります。その例として、
韓国の
領土管轄権、
李ラインの存廃、
竹島の帰属の問題等をあげているのであります。これは
韓国における
国会論議の中のごく一部の片言隻句の発言を引用して、全体を律するがごとき独断を下したものでありまして、また
条約の効力に関する国際法上の常識を理解し得ない議論であります。(
拍手)
そもそも、
条約締結の
交渉においては、政治的、技術的な折衝を重ね、用語や表現のしかたについて最終的に意見が一致した上で、初めて
条約案文が確定するわけでありまして、それに双方の当事国の全権
委員が署名調印されると、それで当然調印の効力を生じ、その解釈は主観を離れて客観的になるのであります。(
拍手)かりにその解釈についての意見の
食い違いがあっても、それは
条約の効力には影響がなく、
条約の解釈の
食い違いから当事国間に現実に利害の衝突が起こった場合には、
条約の解釈及び実施から生ずる紛争として解決していくのが国際的な通例であります。(
拍手)
反対論者の
条約無効論は、このように何らの根拠のないものでありますが、
国民の一部にはこれに惑わされている者がないとは限りません。外務大臣の責任ある
見解を明らかにされたいのであります。(
拍手)
第四は、
韓国政府の
領土管轄権の問題であります。
この点については
総理からも
答弁がありましたが、
基本条約第三条において「大韓民国
政府は、国際連合
総会決議第百九十五号(III)に明らかに示されているとおりの
朝鮮にある唯一の合法的な
政府であることが確認される。」と述べられており、その国際連合
総会の決議は、大韓民国
政府の有効な
支配と
管轄権を及ぼす地域として「国際連合臨時
朝鮮委員会が観察し、且つ、協議することができたところの、全
朝鮮の人民の大多数が居住している
朝鮮の部分」と規定しています。したがって、今回の
日韓条約や諸
協定が
北鮮については白紙であることは明らかであります。しかるに、
反対論者は、この点につきましての、
韓国政府と
わが国政府との解釈が完全に対立し、この
条約のため、今後
わが国が
北鮮と外交
関係を持つ場合の障害になると
主張しておるのであります。このような
主張の
理由のないことは言うまでもありませんが、
国民にいささかの疑惑をも持たせてはなりませんので、外務大臣の責任ある
見解を明らかにされたいのであります。(
拍手)
第五は、
李ラインの存廃についてであります。
日韓漁業協定において従来紛争の、種となっていた
李ラインが実質的に撤廃され、公海自由の
原則が確立されたことは、
わが国漁業の安全操業確保という意味から非常に大きな成果というべきであります。(
拍手)しかるに、
反対論者は、
李ライン撤廃の保証がどこにもないとか、
韓国側が撤廃の約束をしなければ
協定にはならないなどと
主張して
国民を惑わしているのであります。また、本
協定は
日韓いずれかの国が終了通告をしない限り何年も続くわけでありますが、一応発効後五年後には一年間の予告をもって終了せしめ得ることになっているので、六年後には再び
李ラインが復活するというような説をなす者もおります。このような解釈は誤りでありまして、本
協定が終了した場合は相互の共同規制等がなくなって、一般の国際法に基づく公海自由の
原則に戻る、ものであります。(
拍手)
李ラインの問題は、
わが国の利害と最も深い
関係を持つものでありますから、漁業
協定の意義や解釈を外務大臣から重ねて明確にされたいのであります。(
拍手)
なお、漁業
協定に関連して伺いたいことは、拿捕漁船や船員に対する国内的処理の問題であります。
従来、拿捕漁船につきましては、
韓国側に賠償を請求する立場をとってきたのでありますが、今回の
協定によって賠償請求をしないこととなったのであります。したがって、これに対しては
わが国政府において適切な
措置を講ずべきことは当然のことと信ずるのであります。この問題の処理については、いろいろ議論はあると
思いますが、日
韓国交正常化という大国策に付随する問題であり、政治的に考慮して、すみやかにできるだけ手厚い
措置を講ずる必要があると思うのでありますが、
総理より具体的な方針を承りたいと思うのであります。(
拍手)
日
韓国交正常化について最後にお尋ねしたいと思ったのは
竹島問題であります。
この問題につきましては、紛争の解決に関する交換公文によって、今後外交上のルートを通じて平和的に解決する道を開いておるのでありますが、
反対論者はいろいろと言いがかりをつけておりますので、この機会にあらためて外務大臣の
見解を明らかにされたいのであります。
次にお尋ねしたい問題は、当面の財政経済に関する諸問題であります。
政府が、当面の
不況克服のため、六月以来とってこられました景気
対策は、輸出の好調をはじめ、一部の商品市況や株式市場の立ち直りを見せ、深刻な
不況ムードが著しく緩和されたことは喜びにたえないのであります。しかしながら、本格的な景気の回復にはなお強い
対策の推進を要するものと思われます。特に中小
企業の
不況克服には、徹底した、しかも行き届いた、きめのこまかい施策が必要と信ずるのであります。景気の本格的な回復は、輸出の増進と国内有効構、要の喚起によらなければならないことは、論ずるまでもないところであります。生産調整による価格の維持等は、あくまでも一時的な応急手段でありまして、このような
措置はできるだけすみやかにやめることが望ましいのであります。現在のような
不況下において有効需要を喚起するには、まず財政がその役割りをになうべきことも当然のことであります。
この意味において、私は、本
年度の財政運営はもとより、四十一
年度以降の財政運営についても、画期的な転換が必要と思うのであります。すなわち、財政の健全性をそこなわない
限度において、
公債政策をできるだけ積極的に取り入れ、社会資本の充実等を促進するとともに、有効需要を喚起し、他面、大幅減税を
計画的に断行して、民間資本の蓄積と民力の涵養をはかるべきであると思うのであります。一部の論者は、
公債政策が直ちに不健全財政とインフレにつながるかのような議論をしておりますが、国力に応じた適度の
公債発行が、決して財政の健全性をそこなうものではなく、またインフレを誘発するものでもないことは、世界各国の実例が証明しているところであります。
政府においても、
公債発行と大幅減税の準備を着々進めているようでありますが、具体的にはどのような構想を持たれているのか、特に
公債発行に必要な諸条件の整備と、減税の
基本的
考え方等につき、
総理及び大蔵大臣の
所信をお伺いしたいのであります。(
拍手)
さらに、国の
財政政策と不可分に取り上げなければならない
課題は、地方財政の問題及び国、地方を通ずる行政費の徹底した節減であります。
地方財政は、国の財政よりもはるかに深刻であり、もし
財源措置を講ずることなく
公務員の給与を
引き上げますならば、本
年度の地方財政も行き詰まることが明らかであります。四十一
年度以降においては、国税の減税による地方交付税の減少と、公共事業の増加等による地方財政の負担増によって、困窮は一そう加重されるのであります。いまや、地方財政は根本的な再建を要する段階にきていると
考えるのであります。
さらにまた、国が
公債政策に踏み切る場合、その前提として、行政事務の合理化並びに効率化により、行政費等の徹底的な節減をはかり、また、年々大幅に膨脹する人件費等については、勇断を持ってこれを抑制することが必要と信ずるのであります。
これらの問題につき、
総理大臣の
所信を伺いたいと思うのであります。
いまや、内外の諸情勢ははなはだ重大であり、
政府及び
与党の責任もきわめて重いのであります。私は、
政府が従来の情勢にとらわれることなく、強い勇気を持って庶政を刷新し、万難を排して当面緊急な政策を遂行することが、この重大時局を乗り切る絶対の条件であると信ずるのであります。
総理及び閣僚
諸君の一そうの御
決意と御努力を切に期待して、私の
質問を終わるものであります。(
拍手)
〔内閣
総理大臣佐藤榮作君登壇〕