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藤田進君 私に、
日本社会党を代表いたしまして、
昭和四十年度
一般会計補正予算(第1号)に対し反対の討論を行なうものであります。
第一の
理由は、この補正
予算自体は、一見きわめて事務的、手続的なもののように思われるのでありますが、しかし、このたびの国際通貨基金の増資は、基本的には、現在国際経済が当面する最も重大な問題であるところの国際通貨機構問題の一環であるということを銘記する必要があるのであります。この認識を欠除して、今回の補正
予算を、ただ国際通貨基金の増資に伴う事務的、手続的な
予算措置にすぎないとして簡単に片づけることは断じてできないのであります。
現在の国際通貨機構については、大別して、現状維持論と改革論の二つがあり、改革論については、各国からさまざまの提案がなされておりますが、この問題をめぐっての最も顕著な対立が米仏の意見の相違にあることは周知のとおりであります。現在の国際通貨機構、すなわちIMF体制は、
アメリカの国内通貨であるドルを国際通貨に擬制し、そのドルによって国際流動性を供給するという制度でありますが、この制度は、国際流動性の増加が
アメリカの国際収支の赤字によってのみ供給されなければならず、さればといって、
アメリカの国際収支の赤字が続けば、今度はドル自体の信用が脅かされ、結局、ドルを機軸とするIMF体制そのものの動揺が避けられないという致命的な欠陥を持っているのであります。かつてドル不足に悩まされた世界経済は、次にはドル不安に脅かされ、いまや
アメリカはドル防衛に必死となっているのであります。今回のIMFの増資もまた、ドル防御の一環と言えるでありましょう。もし、このドル防衛が成功して、
アメリカの国際収支が急速に改善されていくということになりますと、今度は再びドル不足となって、国際流動性に対して強いデフレ効果を及ぼさざるを得ないのでありまして、ここに、現在のIMF体制の救いがたいジレンマが存在するのであります。
今回のIMFの増資は、要するに、現在の国際通貨制度に変更を加えることなしに、IMF体制の強化によって国際流動性の増強をはかろうとするものであって、
アメリカの主唱する現状維持、IMF強化、ドル体制強化の方向に沿うたものであります。このように、この問題の本質は、あくまでも国際通貨機構をどのような方向に持っていくかという大きな問題の一環であるということを忘れてはなりません。
しかるに、
政府には、この国際通貨機構の改革問題について、何らの定見もなければ具体案もないのでありまして、わが国経済に重大な
関係のあるこの根本的な問題について、わが国独自の明確な見解なしに、ただ漫然と無定見、無方針に、国際通貨基金の増資に同調し、ただ事務的、手続的にそのための
予算措置を行なうという
政府のやり方は、不見識もはなはだしいと言わなければなりません。このような不見識なやり方に対しては、わが党は断じて賛成するわけにはまいらないのであります。
次に、反対の題二の
理由は、国際通貨基金の機能に関連したものであります。国際通貨基金は、国際収支の一時的不均衡を是正するために必要な対外決済手段を供与することによって、国際通貨制度の安定と世界貿易の拡大をねらったものであり、同時に加盟国は、これによって、国内均衡を破壊することなしに国際収支の均衡を回復し得るという便宜と、そしてまた安心感とを与えられているのであります。わが国は、過去において四回もIMFから資金の融通を受けておるのでありますが、いずれも、景気過熱のため国際収支の危機を招き、応急措置として国際通貨基金の便宜を利用したのであります。国際収支の危機に際して、国際通貨基金の融資を受けてその危機を切り抜けるということは、そのこと自体についての論議は別として、ただ、国際収支が悪化しても、国際通貨基金を利用すれば、いつでも危機を切り抜けられるという安心感のもとに放漫な財政金融政策をとるがごときことは、もとより言語道断と言わなければならないのであります。わが国
内閣の高度成長政策によってもたらされた国際収支の危機に備えて、常に国際通貨基金が利用されたという事実は否定すべくもないのであります。かくて、国際通貨基金の援護を頼みとしつつ、野方図な高度成長政策を続けた結果が、設備投資の累増による供給力の過度の増大をもたらし、ついに今日の惨たんたる経済不況を招来するに至ったのであります。
政府は、不況対策として、すでに歳出や財政投融資の繰り上げ支出、歳出留保の解除、財政投融資計画の追加、
政府関係中小企業向け金融機関の金利の引き下げ等のほか、長期対策として公債の発行と大幅減税を行なうとの方針を決定したのでありますが、特にこの際公債発行に踏み切ったことは、わが国財政政策の注目すべき大転換であります。
政府は、経済が異常に落ち込んでいる現在の時点で公債を発行し、そのしりが日銀に回って、日銀の追加信用が若干出てもインフレにはならないと言い、また、将来の長期政策としての公債発行については、企業や家計の蓄積にたよるようにするとの方針を明らかにしているが、公債発行についてのこの
程度の態度、方針では、とうてい公債発行の有効な歯どめとなり得ないことは明らかであって、現
内閣のもとでは、当面はともかく、やがて、とめどのない公債発行からインフレを引き起こす公算がきわめて大きいと断ぜざるを得ないのであります。
今回の国際通貨基金の増資によって、わが国の同基金からの借り入れ能力も大幅に増加することが、すでに述べましたように、過去において高度成長政策のしりぬぐいを、国際通貨基金から借り入れてやったように、今後わが国外貨の第二線準備の充実を頼んで、放漫な財政政策、野方図な公債政策をとるようなことがあれば、取り返しのつかない事態になることは必至であります。
現在の時点で、わが国の国際収支は一応安定しておるので、ありますが、すでに輸出の伸びの鈍化傾向や、資本収支悪化の徴候が見られており、手放しの楽観は許されないのであります。もし、国際通貨基金からの借り入れ能力の増大をよいことにいたしまして、放漫な財政政策を続け、国際収支の危機に見舞われた場合には、現在の深刻な構造的不況のため、さらに引き締め政策をとることも不可能となって、進退両難のデッドロックにおちいらざるを得ないわけであります。高度成長政策に関する過去の経験は、このような懸念が必ずしも杞憂に終わらない危険性のきわめて強いことを教えているのであります。
第三の
理由は、今日必要欠くことのできない緊急な
予算措置を講じていないということであります。御
承知のように、今回の補正
予算は、国際通貨基金と国際復興開発銀行の増資に伴う
予算措置を行なっているばかりでありますが、そのほかにも、当面緊急に
予算措置を必要とする要因は、きわめて多いのであります。
第一には、すでに三十九年度補正
予算で当然措置すべきであった三十九年度の義務的経費の補てんが、いまだになされていないのであります。たとえば、
義務教育費国庫負担金、国民健康保険助成費、失業保険費負担金、生活保護費、その他各種の
社会保障等の義務的経費の未補てん分が、今日に至るも未措置のままに放置されて、地方財政の重大な負担となっており、その額は少なくとも三、四百億の多きにのぼるはずであります。当面直ちに
予算措置を必要とするものは、単にそれのみではありません。
政府は、本月二日、第五回経済政策会議において当面の物価対策をきめ、そのために必要な
予算措置を講ずる方針を明らかにしておりますが、そもそも物価問題につきましては、昨年十一月、現
内閣成立以来、最重要使命であるといたしまして、
佐藤総理は最も真剣にこの問題に取り組むことをしばしば国会で言明したばかりでなく、本年一月の閣議でも、物価安定のための総合対策を決定したことは、なお記憶に新しいところであります。にもかかわらず、その後の物価問題に対して何
一つ有効な手を打つことをせず、消費者物価は上がりほうだい、最近における消費者物価の上昇率というものは前年同期に比べまして。四月は九・六%、五月は七・四%というように、ものすごい上昇を続けている現状であります。このため、総理府統計局の五月の家計
調査の結果によりましても、都市勤労者世帯の実収入は、物価の上昇が大きく響き、実質では、前年同月に比べて三・六%も低下し、また、消費支出も前年同月を二・六%下回っておりまして、
政府発表の統計
数字そのものが、国民の生活
水準の低下というゆゆしい事態を最もあからさまに示しているところであります。もし
政府に、真剣な物価問題に取り組む熱意があるならば、当然、一月に閣議決定した物価安定のための総合対策に基づき、具体的な諸施策を立案した上で、今度の補正
予算の中に必要な諸経費を計上していなければならないのであります。いかに
政府が物価対策に無誠意であるかということを最も雄弁に物語っているといわなければなりません。
補正
予算の編成については、もとより財源の問題があることは当然であります。しかしながら、今日の財源難は、昨年十一月における三十九年度補正
予算編成当時からすでに予想されていたところであり、また、当時すでに池田
内閣による同度成長政策の反動期に入り、わが国経済が需要超過の高圧経済から供給力過剰の低圧経済に変形し、戦後いまだかってない構造的大不況に見舞われつつあったことも明らかであったのであります。
政府としては、当然、いち早く財源対策並びに不況対策を確立し、補正
予算を編成すべき時期には、もっと、まともな補正
予算を編成すべきであって、今回の補正
予算のごとき、ただIMFと世界銀行増資問題のみを処理すればこと足れりとして、当初
予算作成後に生じた事由に基、つき特に緊急となった経費を計上することを全然怠っているのであります。これは、今日最も緊急を要する重大な国内問題の処理を全くないがしろにしたものであって、このような片手落ちで不備ずさんな補正
予算に対しては、とうてい賛成するわけにはまいらないのであります。
以上三つの
理由をあげて、ここに反対いたすものであります。終わります。(拍手)