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国務大臣(椎名悦三郎君) 最近の国際情勢を概観しつつ、
わが国が当面している主要な外交問題について、所信を申し述べたいと存じます。
今日、世界の情勢は、全体としては概して安定していると申せますが、この中にあって、ベトナム紛争をかかえるアジアのみが、遺憾ながらきわめて不安定な状態にあります。今日のアジアは、いわば東西両勢力の接点に当たっているばかりでなく、地域内には開発途上にある多数の国を擁しているので、東西関係といわゆる南北問題とが相錯綜して、きわめて複雑かつ流動的な様相を呈しております。
世界の平和と繁栄の中に
わが国の安全と繁栄を求めんとする
わが国外交の第一歩は、アジアの平和と繁栄を追求することでなければなりません。アジアの緊張緩和と平和的建設のために、
わが国の増大した国力と向上した国際的
地位にふさわしい寄与を行なうことは、アジアに国をなすわれわれの
使命であり、
責任であります。
ベトナムの紛争が今日のように深刻化したのは、東西対立を背景とする国際
政治上の複雑な原因があり、また、南ベトナムにおける社会的
事情にもよるところがあることは否定し得ませんが、直接的には、南ベトナムに対する北からの浸透とこれに伴う南ベトナム内での組織的破壊活動が行なわれていること、及び、一九五四年のジュネーブ協定が不完全であり、特に休戦保障制度が不備であったことが原因であると考えられます。
今日、米国のとっている行動は、インドシナの再植民地化を企図するような意図にいずるものでないことは明らかであります。したがって、米国の軍事行動の現在の局面のみに目を奪われ、これのみを問題にすることは、公正な
態度ではないというべきであります。
問題の平和的解決をはかるには、関係者が話し合いによって紛争を解決する
態度に踏み切ることが不可欠であり、しかも国際的約束を守るという保障を得ることが必要であります。これまで、何らの前提条件なしの交渉開始を求めた非同盟諸国の呼びかけも、また、米国による無条件討議の提案も、共産側の応ずるところとならず、さらに、話し合いの端緒をつかむことを目的とした英連邦使節団の派遣毛、同様、共産側の拒否にあっております。話し合いによる問題解決のためのこれらの試みがいずれも実を結ぶに至っていないことを、政府は深く遺憾とするものであります。関係者による話し合い開始を可能にする環境が早急に醸成され、ベトナムの平和回復への道が開かれることを望んでやみません。政府としても、そのためにできるだけの
努力をいたす覚悟であります。共産側も、ただいま佐藤総理大臣が所信表明
演説の中で行われた呼びかけに対し、虚心たんかいに耳を傾けることを希望せざるを得ません。
このように不安なアジアの中にあって 今回日韓間の国交
正常化を望む両
国民多数の希望が結実して、十数年の長きにわたった日韓交渉がついに妥結するに至ったことは、まことに喜ばしい次第であります。(
拍手)地理的に最も近接し、
歴史的、文化的にもきわめて密接な関係にある日韓両国が国交を
正常化することはまことに当然のことでありますが、両国の
歴史的関係にかんがみ、今般の調印は実に画期的な意義を有するものと確信する次第であります。
過去の日韓関係には遺憾ながら不幸な時代があり、この時代について韓
国民が心に深い傷あとを持っていますことは、日韓間の新しい関係を展開していくにあたってわれわれが銘記しておかなければならないことであります。われわれといたしましては、今般調印された諸条約が相互に尊重、順守され、これを基盤として、韓
国民と誠意をもって協力し、その繁栄のために応分の寄与をすることによって、このような韓
国民の心の傷あとが次第にいやされていくことを祈念し、また、かかる目標に向かって、真摯な、かつ、たゆみなき
努力を積み重ねていくよう心がけなければなりません。
わが国のアジア外交推進にあたって重要なことは、アジア諸国の経済開発に対し、
わが国が積極的に協力しなければならないということであります。アジアに安定した平和と繁栄をもたらすためには、まずアジア諸国自身が国内の
政治的反目や思想上の対立闘争を踏み越えて、貧困、疾病、文盲等を追放し、
国民の福祉の向上につとめるというかたい決意をもって、真剣に経済開発に取り組むことが必要であります。さらに、このようだ各国の開発
努力は、各国が相互に協力し補完し合う方向で行なわれて、初めて総体的な開発の効果が高められるのであります。
この意味において、
わが国としては、経済開発に
責任を有する、東南アジア諸国の閣僚が一堂に会し、将来の経済的建設のため、それぞれの
政治的
立場や社会的思想を離れて腹蔵のない意見を交換する場ができれば、この地域諸国の連帯関係を強化し、先進諸国の善意の協力のもとに経済開発の着実な促進をはかる上に大きく貢献し得るものと考えております。関係諸国の賛同が得られるならば、かかる
会議を適当な時期に東京において開催いたしたいと考えております。
わが国としては、国内に農業、中小企業等の問題をかかえ、また、社会開発のために多額の資本投下を必要としているので、援助の強化拡大を一挙にはかることは困難でありますが、政府としては、国連貿易開発
会議や経済協力開発機構の開発援助委員会等における援助強化の国際的要請をも十分勘案いたし、
国民所得の一%を援助目標としつつ、国力の許す限り、アジアを中心とした開発途上にある諸国に対する資金協力及び技術協力の一そうの拡充をはかり、南北問題の解決のために建設的な役割を果たしたい考えであります。
先般六月末よりアルジェリアにおいて開催を予定されていた第二回アジア・アフリカ
会議は、
会議開催直前に現地において政変が勃発したこともありまして、結局本年秋まで延期されることとなりました。私は、来たるべき
会議は、アジア・アフリカの大多数の諸国の参加を得て、名実ともにアジア・アフリカ
会議たるにふさわしい穏健かつ建設的な
会議にならなければならないと思っております。
以上、私は、今後ますます積極化すべきアジア外交を中心に申し述べましたが、アジア以外におきましても、増大した国力と向上した国際的
地位にふさわしい強力な外交を推進してまいる覚悟でございます。
わが国外交の基調の一つは、国際連合の強化でありますが、今日ほど国連の強化が必要とされるときはないのであります。これが実現は、一に、国連憲章の目的と原則を順守せんとする加盟国の熱意いかんにかかっておると思います。
わが国は、あくまでも国連をもり立て、これが有力なる世界平和機構となるようあらゆる
努力を惜しまない所存であります。
わが国が今秋の国連総会における安保理事会理事国
選挙に立候補いたしましたのは、
わが国のかかる積極的熱意のあらわれでございます。
ILO結社の自由及び団結権保護条約、いわゆる第八十七号条約につきましては、政府は、去る六月十四日批准書の寄託を完了し、多年の懸案を解決いたしましたが、今後とも、ILOの諸活動に対しましては、
わが国の実情を考慮しつつ、できる限り協力してまいる所存であります。
戦後一貫して
わが国経済外交の重要な柱の一つであった「先進国としての国際的
地位の確立」、これは昨年四月のIMF八条国への移行、OECDへの正式加盟により、名実ともに実現いたし、
わが国は世界における有数の先進工業国として、低開発国問題等、世界経済が直面している諸問題に関し、一そう重い責務をになうことになったのであります。特に、
わが国は、先進工業国の中で、低開発国に対する貿易依存度の最も高い国でありますが、これら諸国は、
わが国に片貿易の是正を強く要求する一方、最近
わが国に対し輸入制限を強化する動きを顕著に示しております。
わが国としては、今後とも、低開発国問題に関する種々の国際
会議に積極的に参加し、低開発国貿易の拡大のための国際的協調を行なうとともに、二国間におきましても、問題解決のため種々対策を講じてゆく所存であります。
ひるがえって、先進国との経済関係を見ますに、
わが国は自由無差別の原則に基づく世界経済の発展をはからんとするケネディ・ラウンドの意義を高く評価しつつ、これに積極的に参加貢献しております。
わが国としては、今後とも、二国間定期協議、ガット、OECD等の多数国間
会議の場を積極的に活用し、対日差別の撤廃など、
わが国輸出環境の改善をはかりつつ、国際協調の中に
わが国経済の繁栄を求める所存であります。
共産圏諸国との貿易につきましては、もとより
わが国は自由陣営の一員としての
責任を十分認識し、共産圏貿易は、自由諸国との協調をくずさない範囲において、
わが国の資金力や国際情勢等を十分勘案しつつ拡大してゆく所存であります。中共貿易につきましても、この点、例外ではございません。
わが国の国力が増大し、国際的
地位が向上するに伴い、アジアの安定、ひいては世界の、平和に貢献するための
わが国の役割りに対する
期待はますます強まっております。私は、
国民各位が政府の外交方針及び施策に対し、十分の理解と協力を示されるよう切に
期待するものであります。(
拍手)
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