○
説明員(恩田博君) 厚生省でございます。岩手県の炭疽につきましていま御
質問がございましたので、まだ結論が全部出ておらないのでございますが、いままでにわかりましたことにつきまして御報告申し上げます。
私のほうで炭疽の発生がわかりましたのは八月の二十五日でございます。どうしてわかったかと申しますと、二十四日の夜の十一時半ごろでございますが、岩手県の西根町の開業をしておられるお医者さんから連絡が岩手保健所にあったのでございます。そこで、どうも同じようなけがをしたのがおるが、フレグモーネでもないしどうもおかしい、三人ほど続けてそういう人間が来たのだが、どうもおかしいから、本を見たらどうも炭疽のような気配がある。そこで、どうも心配だからということで岩手保健所のほうへ届け出があったのでございます。そこで、たまたまその宿直をしておりました係員が家畜検査員をしておりましたので、これは炭疽らしいということで直ちに県の厚生部長に報告をいたしまして、厚生部長は夜明けの五時と言っておりますが、夜明けに担当
課長を連れまして現場に行った、そのあとに報告があったのでございます。そこで私のほうは、畜産局長から御説明がありましたが、岩手県はあまりいままで炭疽というものがなかった、私どもはまあ処女地だと、こう思っておったのでございますので、何か見落しでもあったのではないかと、こう思いまして、部長に対しまして、人間のほうへかかってくる、そういうことになりますと、これはだいぶ前から何か原因、があるのではないか
——きのう炭疽の牛にさわって急にきょう出てくるというものでもございませんので、人間には家畜ほど早くまいりませんので、その状況をこまかく調べろということを
指示をいたしたのでございます。なおかつ、その期間が潜伏期その他から考えまして、その間に指からの
——皮膚炭疽でございますので、指を使う食品につきましては一応警戒をしなけりゃならないということで、食品の、いわゆる牛乳あるいは肉というものについての取り扱いについて十分注意をするように、あるいは消毒はこういうふうにするようにという
指示をいたしたのでございますが、それが二十五日でございます。そこで、今度は部長が行って調べましたところが、八月の十一日にすでに牛が一頭死んでおった。それからその処理をどうしたかということであったのでございます。それはホルスタインの牛でございます。その牛を開業獣医に見せましたところが埋めろと、こういうことであったそうでございます。それをかつぎましてどこか
——大体私のほうで実は二十七日から三十日まで係官を派遣しまして
調査したのでございますが、部落としましては相当離れたところまでかついでいきまして、そこで皮をむき、五人の人が肉をさばいてそれを食ったと、こういう事実が実はわかったのでございます。そこで、それはそこで食ったのか、かついで帰ったのかということを調べましたところが、かついで帰ったと、こういうことがございましたので、一頭の牛を八人で食い終えることは絶対にないので、ほかにも食った者がおるはずだ。これはその犯罪をさがすという
意味ではなくて、人間への感染を防ぐ
意味において非常に緻密にこの
調査を命じたのでございます。ところが、いや八人で食ったということで、みんなものを言わないということでございます。そこで、これを食ったら死んじまうぞというようなことを私どもが言いましたところが、いや実は私も食べました、私も食べましたということで、私のほうから二十七日に出しました担当官が行きましたときには、住所、氏名がわかったのはたしか百六十名余りであったのでございます。そこで、大体勘定しますと、肉の量と牛の目方とが合わないわけでございます。そこで、これはたいへんなことだということで、もっとこれはさがさなければ危ないということで非常な心配をまだ続けておるわけでございます。
そこで、今度はちょっと話が変わりましたが、十一日に一頭死にましたのは食っちまったということでございます。その次に二十三日に第二号が出まして、これは二十三日に死んでおります。その二十三日の午後は前の日まで、これはジャージィでございますが、前の日の夕方まで乳をしぼっておる、その翌朝死んだということが大体あとでわかったのでございます。そこで、十一日から二十三日までの間に日数が大体かれこれ二週間足らずあるわけでございますので、これはその場で感染した典型的なものではないかという判断のもとでいろいろ
調査しましたところが、この第二号の牛の持ち主は、第一号を一緒にかついでいって一緒に切り、何か八貫目ずつぐらいを持って帰ってきた者の中の一人であったのでございます。そこで、このときまではよくわからないで、西根町の肉屋の小僧が、何かいいものがあるからこないかということで行ったというのでございますが、どうも様子がおかしいので、自分では持ってこなかったということなのでございます。そこで、それを適当にばらして埋めたと申しますが、埋めたあとがないようございますので、これも何かよくわからない。ここまではわが方に直接連絡が入っておらない分でございます。
そうしますと、その次に、また一頭が二十四日に死んだのでございます。そこで、今度はいよいよ家畜衛生試験場のほうに連絡がございまして、おそらく岩手県保健所からも出たわけでございますが、これはどうもおかしいというので、七戸に家畜衛生試験場の支場があるそうでございますが、そこで炭疽と決定した。そうしまして、その翌日、この三号の牛と同じところで、同じ持ち主の牛でございますが、また四号が二十六日に死んだのでございます。ですから、一号から二号は大体行方がわからない
——まあ一応はわかっておるわけでございますが、幾らか人間が食べたのではないか、こういうふうな疑念がありますし、また食べたのは事実のようでございます。三号と四号の分は防疫ができておりますので、この分は法に基づいて処置をされたのでございます。
そこで、私どものほうといたしましては、連絡を受けまして直ちに
農林省のほうへ御連絡を申し上げたのでございます。と申しますのは、お医者さんから連絡があって、わが方にまいりましたので、あるいはまだ
農林省のほうへ通知がいっていないのではないか、それでは困る。私のほうでは常に畜産局のほうとは緊密な連絡をとっておりますので、そういうことがないようにこれつとめておるわけでございますが、直ちに連絡をいたしたような次第でございます。そこで、私のほうといたしましては、実は様子を見たのでございますが、人間が食べた事実があるということと、この牛の皮をむいたときに、ささくれがあったそうでございますが、そこが皮膚炭疽になっておる。その次に上膊部でございますが、ひじから先のほうでございますからひじの根っ子のところに皮膚炭疽の典型的なものができておる。人間に対する炭疽は、県としては初めてでございますので、県の衛生
当局も非常に驚きまして、いかなる方法をもって治療するかということでだいぶ心配はしたそうでございますが、抗生物質を一応適用しましたが、どうしてもリンパ腺のはれがなおらないというようなことでございます。大体鶏の卵ぐらいのリンパ腺がはれておったそうでございます。そこで、中央からの
指示もいたしましたりいたしまして様子を見たのでございます。
ところが、この第一号を運搬したり、あるいは第二号を食ったりしたような人たちの人のほうへ次々と出てまいりますので、これはたいへんなことである。こういうようなことで、家畜のほうは畜産局のほうへ連絡をとりながらやってくださっておりますが、私どものほうは、人に対しては今後これを早急にとめなければいかぬということで、実は三人ぐらいで終わりだと思って、何とか処置をとらなければいかぬと思っておりましたところが、いろいろ保健所その他が呼びかけましたところ、食べた人が心配になりまして、その開業をしているお医者さんのところに、みんな心配だから何とはなしに見てもらいに行った、こういうことでございます。そこで、お医者さんのほうへ、第一日目は百人来たとか、二日目には何人来たというようなことでありまして、大体来た者は食ったのではないかというふうなことで、いろいろ調べておりました、そういった
調査をいたしておりましたところが、その中で食べた者がぼつぼつ今度は炭疽にかかったという報告が実はまいったのでございます。炭疽菌がついたものを食べてかかったという例はおそらく
日本にはまだなかったと思うのでございます。実験的には動物実験でやってみたことがあったのでございますが、なかなかこれはうまくいかなかったのでございます。炭疽の
措置でございますので、あと始末が非常に困難でございますので、かってやったことがあったようでございますが、いい結果は出なかった。今回は炭疽にかかっておるとあとではっきり診断がつきました牛を先に食ってしまったものでございますから、はっきりと炭疽の症状が消化器系統に出ておる、こういうことで、これはやはり消化器系から炭疽が感染するということは事実だということで、私のほうはたいへん驚きまして、これは重大なことである。それで実はきのうの話しでまことに恐縮でございますが、きのう調べましたところが三百六十人ほど食ったということに実は出てきたのでございます。そこで、先ほどこれはまだ終わっていないと申し上げましたのは、あるいはまだ出てくるかもしれぬ、その人が出てくるかもしれぬということで、全部終わったとは申し上げておらないのでございますが、現在までに出ております患者は二十名でございます。そのうち十六名が西根町で、あとの四名は盛岡でございます。ところが、人に対してどんどん出てまいりますので、私のほうといたしましては、まあこの程度なら県で何とか、こちらから行けば何とか処置できると、こう思っておったのでございますが、これでは、百六十人が二百人になり、二百五十人になり、三百人になりと、連絡のたびに人がふえてくる、こういうことでございますので、私のほうでは炭疽の発生についてもっと県はしっかりせよということの通牒を急遽九月二日に実は出したのでございます。
内容は別にかれこれというめずらしいことではないのでございますが、屠場の検査をしっかりせいとか、あるいは斃獣処理場というのがございますが、死んだ動物をほごして肥料にしたり、えさにしたりする所でございますが、そういうところの監督をもっとしっかりしなければならない。あるいは屠場の中に消毒薬を十分に準備しておくように、これは
全国でございますので岩手県ももちろん入るわけでございますが、特に斃獣を、死んだ動物を食べるという習慣が、習慣と申しますか、何かあるということは非常に危険でございますので、そういうことがないように、いま文字としては非常に書きにくいわけでございますが、屠場
関係者でございますとか、あるいは家畜
関係におる者とか、あるいはもし余力があれば
一般の人方にも非常に衛生教育をしっかりやるようにということを、急遽この最近の炭疽の発生状況あるいは人におきまして発生した状況等の資料等もつけながら発送したのでございます。そこで、一応私のほうとしましては、先ほど畜産局長から
お話がございましたが、肉でございますとか、あるいは乳というものが直接この対象になるわけでございます。死にました家畜が全部乳牛でございますので、十一日から二十四日、すなわち家畜保健衛生所の方が、その三番目に死んだ牛を見るまでの間にかれこれ二週間のゆとりがあるわけでございますので、十一日から第一号が死にましてからは三番目まではかれこれ二週間ほどのゆとりがあるわけでございます、そこで、そのあとの分はこれはもう防疫体制がとられておるわけでございますので非常に安心しているわけでございますが、しかもかついでいった人がしぼった、飼育している牛がちょうど十日ちょっと過ぎまして炭疽にかかったとか、それが死んだとかいうことで、むしろ第一号の牛によって相当これが汚染しておる、その
一つの部落のあたりが汚染しておるのではないかということで、非常にこまかく実は検索といいますか、あるいは
調査等をいたしておるわけでございます。そこで、その間は無防備と申しますか、いわゆる防疫が全然なされないで、乳をしぼっておった指先は皮膚炭疽にかかっておる。あるいはおそらく使用しておる道具であるバケツ、あるいはふきん、ろ過布あるいは牛乳かん、乳ぶさ等も汚染しておったのではないかということで、実はその間に使用しましたこれら品物につきましてはもうしばらく様子を見るように、もちろん菌の検査もやっておりますし、あるいは菌の検査のほかに、その菌を運搬して歩く、あるいは汚染するというものについての処置等もございますので、これほど人間に出た例もございませんので、一応この西根町につきましては製品が全部動かないということで、人に対する処置は、一応食った人以外については今後はなかろう、こういうふうなことでいるわけでございます。いずれにしましても、西根町につきましては、食べた人方が次から次からと申し出てきてくれますので、おそらく三百六十三人かと思いましたが、これはきのうでございますが、あとふえましてもそうはふえないのではなかろうかと考えます。
次の第二でございますが、滝沢村というところがございます。これは盛岡の隣村に国分農場というのがあるそうでございますが、そこでジャージーが病死した、それを盛岡の食肉業者が、これは卸をやっているそうでございますが、兄弟が四人いるわけでございますが、そのうちの三人が解体したと、こういうことでございます。そこで肉と内臓は埋めたと、こう言っておりまして、皮は盛岡の屠場の皮置き場に置いたと、こういうことでございます。それでその日は休みであったので、花巻の屠場へ作業に行ったと、こういうことでございます。そこでそういう
申し入れがあったわけでございます。これはあとから調べたわけでございますが、たまたまその牛は二十三日、すなわち西根町の第二号の二十三日と同じ日に実は死んでおるのでございます。そこでこの三人が、西根町の事件が大きくなりまして、どうも食ったやつが手がはれたり死んでしまうぞと言われたりしたものだから、ちょっと驚きまして、自分は実は国分農場に行って病死した牛を解体したわけでございますので、どういうわけか
しりませんが、東北大学に行きまして見てもらったところが、知り合いのお医者さんがおられたそうでございます。あとで聞きますとそういうことを言っておりますが、そこで見ましたところが、これは真性の炭疽であるということが東北大学の病院できまったのでございます。初め兄弟二人が行ったのでございますが、その二人はともにそのまま入院になったわけでございます。そこで、その次の弟がおれも実は手伝ったからということで行ってみましたところが、おまえも炭疽だということで入院したと、こういうことでございます。ところが、その四人おります兄弟の最後か何か、これは年もわかっておりますが、その皮むきに手伝いをしないでうちにおったというのが、おれも心配だというので、これは実は岩手医大へ行って診断を受けたところが、おまえも炭疽だということで、これはまだ入院しているそうでございます。そこで入院しました四人は全部真性の皮膚炭疽でございます。いずれも二十代のものでございますので、死ぬようなことはなかろうとは考えておりますが、そのために急に人間の数がふえまして現在二十名の発生になっておるということでございます。
いずれにしましても、炭疽菌は非常に抵抗力が強い菌でございますので、これに汚染しますとなかなかこれがとれない。常在地となってしまいまして、あとあとの防疲にたいへんに迷惑をするということは、畜産局でかねがね心配をしておられるわけでございます。私のほうといたしましても非常に抵抗力の強い、しかも人間にこういうふうにかかってまいりますと、事実が、今回非常に幸か不幸か、学問的にはいい例であったのでございますが、人間の消化器による感染が出るということになりますと、非常にたいへんなことでございますので、先ほど
渡辺先生からも申されましたとおり、県
当局といたしましても、その人間が接触しました、かついで回った肉、あるいはその店の肉屋の小僧が炭疽の肉を切ったそのほうちょうを洗わないでそのまま屠場で使ったそうでございますから、そのほうちょうで切った肉その他全部一応つかまえましてとめてある、あるいは焼却をしておるというふうな
状態でございます。非常におそくはなったんでございますが、その肉あるいは牛乳等がまだ市販される前に全部手を打つことができたということでございまして、現在以上に人に対する感染はなかろうということで、まだ様子を見ておるわけでございます。
なお、大体の様子がわかり、県の衛生
当局が手がすきましたならばこちらへもちろん呼びまして、いろいろな状況を
調査したいと考えております。
以上でございまして、県が非常にあわてたということ
——初めてでございますので県の
当局か非常にあわてたということ、あるいは開業しておる獣医の人も、まさか炭疽ではなかろうというように思われたこと等も考えまして、この問題が大きくなったのだろうと考えるわけでございます。一応厚生
当局といたしましては、今後は人に対する問題、すなわちあとあと食べた人がどのくらい出てくるかということによりましてこの問題はいずれ終止符を打ちたい、こういうふうに考えておるものでございます。