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参考人(
宮川睦男君) 私は、
三池炭鉱労働組合の
組合長をしております
宮川睦男でございます。
一昨年の十一月九日にこの
三池炭鉱の
三川鉱において大
爆発が起こりまして、一瞬にして四百五十八名のとうとい命を奪い、八百四十名にのぼる
一酸化炭素中毒の
患者を出しました。その後一年九カ月を経過いたしましたが、私
たちは、あの大
爆発を契機に、あのようなことは私
たちだけでけっこうである、今後再びあのような
事故が起こらないように念願いたしておりました。しかし、今年に入って、二月には北海道の
夕張炭鉱で起こり、四月には長崎の
伊王島炭鉱で起こり、六月には
山野炭鉱で起こる。このような一カ月のうちに大
爆発が起こっております。このように
爆発が起こるという問題については、その
たびごとに私
たちは
ほんとうに胸を締めつけられる
思いであります。このような
爆発が起こるという問題について、何とかこれを防止してもらいたいということで、常日ごろ、関係各
政府機関や、あるいは
経営者側に要求しておりますけれども、現在の
石炭政策が遂行される限り、やはりこういう
事故が再び起きないとも限らないということを
心配しております。
それはどういうことかといいますと、
有沢調査団の第一次
答申案、第二次
答申案に盛られておるように、ビルド・アンド・スクラップ、こういう
基準をつくって、一定の
能率の上がらないような
炭鉱はつぶしてしまう。ぎりぎりの線のところ、おまえのところはこれ以上
上げないとつぶすぞというおどかしを受けるわけですから、勢い
生産のほうに重点がかかって
保安がおろそかになる、こういう結果がこういう
事故を起こす
原因になっている一番大きな
基本だと
思います。そうしてこの
基本に立って
政策が遂行されている限り、
経営者は、何としてもよその山よりも
能率を
上げようとする、そうして人員に応じた
切羽をつくって、
石炭を出すことではなく、
切羽をたくさんつくりますから、
間接夫をどんどん直接夫に回しますので、非常に
間接夫の手が不足しまして、
三川のあの
爆発した際にも、東洋一といわれるあの
三川鉱の大
斜坑の入口からわずかのところで
爆発が起きている。通常ではあんなところに
炭じんがたまっているということは考えられないところに
炭じんがたくさんたまっているということであります。しかも、
昭和三十四年までには千八百メートルもの坑道のところに十二台
コンベアがあるわけですが、それに一人一台の
コンベアの当番、掃除をする人がついておったのが、
爆発したときはたった二名になっている。そういう非常に
間接夫を切り詰めるというようなところからあのような重要な
災害を引き起こした、こういう事実の上に立って、いまの実行されておる
石炭政策を根本的にやはり変えてもらわなければ、再びこのようなことが起こらないとも限らない、こういうことをまず第一番に申し
上げておきたいと
思います。
その問題について二、三申し
上げてみたいと
思いますが、人命を尊重するという
政府の政治の方針であるなら、
保安を確保してから
生産をするという
基本をやっぱり確保してもらいたいということが第一点であります。そのためには、
保安行政指導の面において欠けているところがあるのではないか。たとえば
ガスの問題がこのように頻発しているのに、
一酸化炭素の場合にかぶる
マスクの問題
一つとってみましても、三十分しか
マスクはもたないといっております。しかも、その三十分の
マスクは、
一酸化炭素が一%になった場合は
温度が八十度にも上がる。この八十度にも上がる
温度の中に管をくわえて三十分しかもたないというようなことで、実際に
爆発が起こったときには用をなさないのではないか。この
マスクの問題
一つとってみても、やはり根本的に考え直してもらいたい。
二番目には、
ガス警報機というのができておりますが、これがやっぱり
政府の
行政指導として、
予算面からもいろいろあるでしょうが、各
炭鉱にやっぱり完全に備えつけるようにしてもらいたい。
それから、次は、
坑内組夫というのがたくさん入っております。
組夫というのは、
一般坑内労働者の
賃金の七割か八割で働かされて、一切の
福利条件がないわけです。そういう人を日々ふやしているということは、実際に今度の
爆発でもわかりましたように、
山野の場合でも六十何歳、七十歳という人がおるわけです。しかも、戸籍を調べてみたら、十六歳未満の人が
坑内に入っている、あるいはどこの人か偽名を使って、
弔慰金を送ろうとしてもやり先がないという人さえ出てきておる。こういうような人をどこからか集めてきて
坑内で働かせるということは、
保安に対して十分な教育もなされないし、それらの人のちょっとした不注意で
事故が起こった場合には全員に及ぶと、こういうことがありますので、これらの
組夫というものは
坑内では規制してもらいたい、
坑内は
組夫は使用できないというふうにしてもらいたい、こういうふうに考えます。
次には、
日本の
炭鉱の
労働者の
労働条件はあまりに低い。世界各国調べていただいてもけっこうですが、どこの国でも最高の
賃金が払われております。しかし、いまの
日本の場合は、今年のベースアップ七十円が七%といわれるように、一日
平均が千円です。
大手の
炭鉱全部合わせて一日
平均千円。
坑内の悪いところで一カ月二十二日ぐらいしか
平均働いておりません。これは二万二千円なんです、
平均しまして。
日本の産業の
重化半工業と比べて、あまりに低
賃金であるということを、この際、理解していただいて、
労働条件をやっぱり
上げて、
炭鉱労働者が安心して働ける
職場をつくっていただきたい。
さらに
一つ申し
上げますと、
保安帝法規の罰則の強化を願いたい。たくさんの人がなくなったりいろいろしても、いまだかつて
刑事事件になり罪を問われた人はほとんどないわけです。
交通法規では、ちょっと踏み切りで一
たん停車を怠ったということでも何千円の罰金を取られる、免許を取り
上げられるということがあるわけですが、毎日のように
炭鉱では何十人かの人がけがをしたり死んだりしているわけです。しかし、それらの人が
法規を守らなかったり不正がたくさんあるのに、だれ一人とがめられた人がないわけです。私は罰することが目的だとは言いませんが、あまりにそういう点がゆるやか過ぎることによって、
保安を無視して
生産を強行する
原因がそこにあるのではないか、こういうふうに考えます。
次に、
三池における
爆発にあってなくなられた方の
遺族の
方々のその後の状況を簡単に申し
上げます。現在、大
爆発によってなくなられた
方々の
遺族の方は四百五十八名でありますが、
皆さま方のお
手元に
資料としておあげしております三ページの表にもありますように、直接
子弟が採用された者、あるいは
アソニット、
三池縫製の
町工場に雇用された者、あるいは帰郷された人、その他合わせてこういう数字になっておりますが、この
遺族の
方々が非常にいま
生活に苦労されておるということを特に訴えたいと
思います。
その
一つは、両
工場は
政府のほうも非常に力を入れていただきまして、
政策的に
二つの
工場を
大牟田と荒尾に誘致していただきました。そこに働いておられる
方々は全部
未亡人であります。その
方々の
賃金は、
縫製工場のほうは
固定給で三百五十円で、
アソニット工場のほうは
全額請負で約三百五十円の
平均になっておりますが、二百五、六十円という人が非常に多いということであります。一家の
生計を保つために、主婦として、支柱を失っておりますから、
子供のため、
子供が
病気をしたとか、あるいは
子供の入学であるとか、親が
病気をしたということで休む日にちは普通の人より多い。二十二日くらいしか働いておりませんから、大体六千円前後です。六千円前後で五天あるいは六人の
家族をかかえてほんとに食っていかれるかどうか。あまりにも
遺族に便乗した
工場の低
賃金のやり方ではないだろうか。
アソニット工場では朝の八時から晩の五時まで、昼めしの時間四十五分間だけで、その間全然休憩なしでこまかい毛糸を
機械にかけて編むわけです。
平均年齢三十九歳ですから目がかすんでしまうわけです。そういうところで一カ月働いて手取り六千円ないし七千円。そういう
労働条件ですから、
政策的にも、やっぱり
政府も誘致されたわけですから、もっとこの
労働条件を
上げていただくように
政府のほうでも御協力願いたい。ちょうど
大牟田市の
生活保護の
基準が大体一人四千円ですから、六人
家族ならば二万四千円です。結局二万四千円になる人はほとんどないわけですから、
生活保護を受けたほうがよほどましなんですけれども、
生活保護を受けるためには、何といっても、わずかながら
労災で一時金をもらっておりますから、その適用はできない。で、毎月二万円ないし二万円を、
労災でもらった少ない金の中から貯金をおろしてきておる。実際の
遺族の方が言われるのは、
自分の主人のからだを食っておるような気がする、
ほんとうに身を切られるようにつらい、こういうふうに言われます。せめて
子供の学費にと思っておるけれども、なかなかそういかない。この表の中にもありますように、もらった金も、
平均私
たちの
組合員の
遺族では八十万円です。そういう安い、
平均八十万円しかもらっておりません。こういう金がそう長続きするわけではございません。もう
一つ遺族の
方々が言われるのは、保険に入っていないものですから、
子供さんが盲腸で入院するとか、
家族の
病気の際にも、非常に多額のお金を出さなければならない。せめて
医療保護なりと受けられないものか、こういう訴えもございます。
それから、もう
一つ遺族の
方々が言われるのですが、一昨年のちょうど
爆発をした前に、
三井鉱山は六%
賃金たな
上げということをやっておるわけです。それから、
炭労の闘争でベースアップした五十五円という金額をたな
上げして、これは
平均二千六百円くらいになりますが、このたな
上げしておった際にちょうど
爆発したものですから、十一月以前の三カ月の
平均といいますと、十月と九月と八月になるわけです。これはちょうど二千六百円くらいたな
上げされておったことになる。たな
上げされた分を除いた額で
平均賃金を出されて
遺族補償の千日分が計算されておる、こういうことですから、この問題は、やっぱり
賃金の
台帳に載っておる六%分は幾らだからといってたな
上げの
賃金計算がされておるわけですから、これはせめて
遺族補償の
平均賃金に加えるべきじゃなかろうか。われわれはどう考えてもそうやることが正しいのじゃないかということで、
会社にも一
労働省にもお願いしておるのですが、いまだに解決していないのです。少なくとも、
賃金の
台帳に載っておる工賃として計算された中から五十五円分と六%をたな
上げしておるわけですから、この分をひとつ
平均賃金の
基礎に算定してもらいたい、こういうことを考えております。
次は、いろいろ申し
上げたいことはありますけれども、同じような
爆発が
北炭の
夕張で起こった際にどういう取り扱いをされておるかといいますと、
北炭のほうは、
労災退職金のほかに、
弔慰金として百万円支出されておりますが、
三井鉱山は五十万円であります。同じ
炭鉱経営者であり、同じ
大手炭鉱の中でこうも差がついていいものだろうかという問題もございます。この点もひとつ
参考にしていただきたいと
思います。
次は、
一酸化炭素中毒患者の
実情ですが、現在入院されている人が二百九十八名、萬田に
回復訓練所がございますが、ここに
訓練に毎日通っている方が百七十八名、
訓練所にも入院しないで、休業しながら
病院に通っておられる方が百名ございます。このような
方々が現在どういう実態にあるかということは
患者の
家族の代表の方が申し
上げますから、私は大綱的に申し
上げます。特にひどい方を申し
上げますと、一症度八名の方のうちの一名の例を申し
上げます。
写真集の上のほうに張ってある
宮嶋さんという方ですが、一年九カ月になるけれども、いまだ
意識が返っておらない。そこで、みずから
食事もとることもできないので、鼻から管を通して、
流動物で
食事をさしている。ときどきけいれんを起こすということで、
両親が熊本の
大学病院に一年半ほどずっと
つきっきりです。これらの
人たちに対して
両親が
つきっきりで、
両親が家に帰ったときは、かわりに親戚の人がついていなければならぬ。二人ついていないとあぶない。しかも、ほかの
付き添い婦に渡されないという、
実情にある。こういう
人たちに対して、何とかもう少し二人の
付き添い料というものについて、現在の
労災法上から見ていろいろあるでしょうが、配慮してもらいたい。
なお、このような
宮嶋さんよりややいい人も若干そこにおりますけれども、ともかく頭が痛い、
意識が全然ないというような人から、いろいろ千差万別であります。その結果、
家庭的にも非常にいろいろな問題が持ち上がっております。一体この
病気がなおるのであろうかどうであろうかという御
心配が
家族にもあります。このままの
状態でどうなるだろうかという
心配があります。治療上の問題にしましても、何か栄養剤、
アリナミンでも飲ましたり、頭が痛いというので
鎮静剤でも飲ましたり
アリナミンを飲ましたりするというようなことで、一体なおるだろうか、こういう
心配がございまして、
医療対策上からもいろいろな
問題点が起きております。
このような
一酸化炭素中毒患者に対して、いよいよ来年は三年になるわけですが、現在の
労災法ではどうしてもこの問題は解決できないのではないか。たとえば全然生涯
労働不能になった者をどうしてもらえるだろうか、あるいは、
労働は多少できるけれども、
もとの
職場に帰れない
人たちはどうなるか、そういうようなことは、現在の
労災法からいいましても、
認定基準が十四級までありますけれども、その
認定基準の
基礎に
一酸化炭素中毒患者が入っておらないということで、いまその
審議会が設けられたということを聞いておりますが、そういう
認定基準の問題をここで明らかにしてもらいたいということが
一つと、今後の将来の問題について、三年たてば
会社が解雇であるとか、あるいは
仕事は、
もとの
職場に帰れないけれども、
炭鉱で働けるというような
状態になった場合の
補償の問題、あるいは
宮嶋さんその他の
人たちに対する
特別看護の問題、三つ合わせた問題を中心に、どうしても私
たちは
特別立法をつくっていただきたい、この前の
労災法の一部改正の際に
附帯決議を参議院でされた、こういうことで、
皆さん方の御
努力でなさっていただきましたあれを足がかりに、ひとつ
一酸化炭素中毒患者の
特別立法を是が非でも早急に成立さしていただきたいということをお願い申し
上げまして、私の
陳述を終わります。