○高田
委員 私は、日本社会党を代表して、ただいま上提されております
昭和四十年度補正
予算案(第1号)につきまして、反対の討論を行なわんとするものであります。
反対の理由の第一は、本
予算案は、
政府の財政金融
政策の無責任きわまる運営と、その破綻を最も端的に表明しているものであり、みずからの失政を反省することなく、その日暮らしの場当たり的財政・経済の運営を続けることは、これ以上許されないと考えるのであります。
御
承知のとおり、日本経済はいま深刻な危機に直面し、不況のあらしは、中小企業、農業、勤労者の
生活はもちろん、日本経済の屋台骨をゆるがす構造的な不況に突入していると申すべきであります。株式市場の事実上の崩壊、企業の倒産、売れ行き不振と在庫の増加、財政の歳入欠陥、雇用情勢の悪化などの不況現象は、
政府、日銀の金融緩和、救済融資にもかかわらず、ますます悪化しており、加うるに、本年の冷害凶作の不安と食糧危機につながり、また、アメリカのドル防衛の強化による国際収支の行き詰まりの不安とも結びついて、あらゆる面から国民
生活を重大な危機におとしいれているのであります。
この年頭には、
佐藤総理が、
記者会見で、「経済界にも春が来る」などとのんきな放言を行なっていましたが、わずか半年後の今日、経済の実態そのものがそのごまかしをはっきり裏書きしているのであります。これらの実態を反映して、一そう深刻化する財源難の問題にいたしましても、
田中前蔵相は、ついこの間の通常
国会におきましては、わが党の激しい追及に対して何ら誠意ある真剣な態度を示さなかったのであります。これらは単に総理の放言や、大蔵大臣の見込み違いでは済されない重大な
政治責任であります。
しかるに、
政府はこうした事態を打開する方策を見失い、何らその能力を持ち合わせないため、今回の補正を単に本年九月二十五日が払い込み期限となっておるIMF及び世銀の増資に要する資金だけに限り、国民の要望しておる他の補正要因、たとえば医療費値上げに伴う国庫負担、国保の赤字対策、水道料金問題など、
国会で約束した懸案事項などをはじめ、食管会計への繰り入れ、
公務員のベースアップ、災害復旧などはもとより、当面する不況打開のための緊急対策など、他の補正要因はすべて見送り、財源難を理由に一般会計の赤字補てんのための公債発行を行なおうとしておるのであります。低
賃金と高
物価政策によって、国民
生活の犠牲の上に高度
成長を推し進めてきた
政府は、その矛盾のしわ寄せをさらに国民
生活に押しつけることによって居すわりを策そうとしているのであります。こうした態度は、総理が参議院選挙にあたって、国民に公約した
政治の責任体制などとはおよそ縁遠いものといわなければなりません。
次に、反対理由の第二の点は、本補正
予算案の
内容についてであります。
本補正
予算案の財源は、四十年度の経常歳入によることなく、日銀の保有している金の再評価による日銀特別納付金、及び外国為替資金特別会計のインベントリー・ファイナンスの取りくずしにより調達され、これに伴って外為会計の資金繰りが窮屈になったときは、外国為替資金証券を発行することによってやり繰りしようとしていることであります。補正財源は当然に経常歳入によって支弁することが、これまで
政府の約束してきた健全均衡財政の
基本であると思うのであります。ところが、みずからの失政によって招いた財源難を理由に、日銀の金再評価とともに、イベントリー・ファイナンスを取りくずさなければならないところに追い込まれたことは、その財政金融
政策運営の姿勢そのものが第一に追及されなければならないとともに、インフレを誘発する危険が十分あることを指摘しなければなりません。
インベントリー取りくずしは、外為会計インベントリー千二百五十億円のうち、インドネシアに対するオープン勘定焦げつき債権の放棄による六百三十七億円を差し引いた六百十三億円の中から百六十一億円を支出することとしておりますが、これは財政法の精神を逸脱するものであり、特別会計の健全均衡原則を突きくずすやり方であり、財源難を糊塗する窮余の策としても最悪の方法であります。
この結果、残される外為会計資金額は千四百七十六億円と減少するのでありますから、今後の外為会計の推移によっては、さらに外為証券を増発しなければならなくなることが当然予想されるのであります。この外為会計運転資金が外為証券の増発によってまかなわれることは、通貨の増発を招き、インフレを引き起こす心配が十分にあります。
このような安易な無計画、無責任な財政運営は、最近の
政府の施策に一貫している危険きわまりない方策でありまして、さきの
国会で強引に成立させた財政法第六条の改正による減債制度の特例規定、さらに、年度末に行なわれた年度区分に関する政令の改正による四月分税収の前年度分への繰り入れ、大蔵省証券の無原則的発行などにもあらわれているものであります。
政府は、これ以上無原則的な場当たり的な
予算編成を続けることは、財政支出の硬直化の現状の中で傷口を拡大する
ばかりであります。いまこそ、勇断を持って、健全財政を貫く財政
政策の根本的改革こそが重要であると考えるものであります。
次に、反対理由の第三点は、IMF体制に対する
政府の態度であります。
政府は、今回のIMF増資が国際金融協力強化という方向で実現したことを高く評価しているようであります。しかし、今回の増資は、単に五年目ごとに再検討される定期的なものではなく、ますます深刻化するドル危機の中で国際通貨体制の危機を背景としているという点が重大であります。
アメリカの一九五八年以来のドル不安は、現在兌換可能な金六十億ドルに対し、対外債務は外国中央銀行に百五十億ドル、民間に百億ドルと推定されており、そのドルの信用失墜のしりぬぐいを国際協調の名のもとに全世界に押しつけるという、まさにアメリカの利益が先行したものにほかならないのであります。これまで、アメリカは、ドル危機を乗り切るため、軍事支出の増大を日本などへの援助肩がわりによって補おうとしてきたのでありますが、今回の処置も、ベトナム戦争の拡大を契機として、アメリカの戦争
政策と無
関係であるとはいえないのであります。わが国の新しい出資割り当て額が七億二千五百万ドルにふえたことによって、IMFから無条件で借りられるワクが拡大したなどと手放しでは喜んでおられないのであります。
さきに開かれたIMF東京総会においても見られたように、今回の増資をめぐって、米英とEECの間に鋭い対立があり、特に、金払い込み問題は、国際流動性問題に対する米英とEECの認識の違いを浮き彫りさせたことは御
承知のとおりであります。このことは、増資に必要な金十二億五千万ドルのうち五億ドルは、IMF保有の金の二重計算や、たらい回しにたよらなければならなかったことが、ドルを主軸とするIMF体制に対するフランスの批判を裏書きしているのであります。
このように、ドル不安と国際的な金選好の高まりの中で、金準備の少ないわが国が今後IMF体制への依存だけで乗り切れるかどうか、はなはだ疑問といわなければなりません。
当面の輸出の好調にもかかわらず、アメリカのドル防衛
政策の強化によってわが国の国際収支の前途は楽観を許さない
事情にあります。すでに総合収支は三カ月赤字を続けております。ますます増加する貿易外収支の赤字と長期資本収支の赤字、及び約三十億ドルの短期外資の流出傾向は、脆弱な外貨準備の
基礎をゆるがしているのであります。今後さらに凶作によって食糧輸入が増加すれば、農畜産物輸入を低く押えて経済
成長の支柱としてきた日本経済が、本年後半に食糧危機と外貨危機に相次いで見舞われるおそれが増大しているのであります。
国際資本の支配を強く受けつつある日本では、輸出の障害も増大し、開放体制下で輸入の
制限はいよいよ困難になってまいっております。こうした国際収支危機を前に、しかも国際的な金選好の高まりの中で、今度の出資にあたっても、わが国は、主要十カ国の中で唯一のアメリカから金を買ってIMFへ納めた国であります。ポンド危機に悩む英国が、その救済を求めるためにアメリカの戦争
政策に同調せざるを得ないと同様に、外貨危機と経済不況による混乱がわが国の経済自立を弱め、ひいては外交の自主性を制約して、アメリカの戦争
政策に巻き込まれる危険を一そう増大させる結果となるのであります。
われわれは、このようなIMF
——ドル体制の危機を前にして、ドルを中心とする国際通貨体制そのものを再検討する時期に来ていることを強く指摘するとともに、日本の
立場から国際通貨制度のあり方について姿勢を明らかにしなければならないと考えるものであります。
以上、私は三点にわたって反対の理由を申し上げました。
最後に、私は、特に一言強調いたしたいのでありますが、今日の経済の混乱によって最大の被害を受けるのは、申すまでもなく中小企業、農民、勤労者であります。その
生活を守るため、経済財政
政策の失敗を反省し、その責任をとることが
政治家のとるべき道であります。
佐藤内閣は、今日の危機を招いた責任を反省し、独占資本中心、対米依存の経済財政
政策を抜本的に転換し、本年度
予算の全面的な組みかえを含む具体策をすみやかに
国会に提出すべきであるということをここに強く要請して、私の討論を終わります。(拍手)